説明

水溶性高分子結晶化用ゲルおよび該ゲルが固定されたマイクロアレイ、ならびにそれらを用いた水溶性高分子の結晶化方法。

【課題】本発明は、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸などの水溶性高分子の結晶化を促す結晶化剤を種々保持することができる水溶性高分子結晶化用ゲル、およびそれを用いたマイクロアレイ等を提供する。
【解決手段】糖誘導体モノマーを結晶化剤を含む水性媒体中で重合することにより、種々の結晶化剤を保持した透明なゲル状物を形成することができる。得られたゲルは、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸などの水溶性高分子を含む試料と接触させることにより、微量の試料で、多くの結晶化条件を探索することができる結晶化剤として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸、その他の水溶性高分子を含有する試料から各水溶性高分子の結晶を析出させることができる水溶性高分子結晶化用ゲルに関する。また、本発明は、該ゲルが固定されたマイクロアレイおよびその使用方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蛋白質の構造を網羅的に解析し、それに基づいて生命現象の仕組みを探索しようとするいわゆる構造ゲノム科学と呼ばれる動きが活発化している。ここで、蛋白質の構造を解析するためには、その良好な結晶が必要であるので、結晶化条件の最適化は重要な技術である。また、アミノ酸またはペプチドの合成の精製工程おいても、純度のよい製品を得るためには、高純度の結晶を得ることが必要であり、そのための結晶化条件の最適化は重要となっている。蛋白質の場合、蒸気拡散法を始めとして様々な結晶化方法が考案されているが、実験操作が煩雑であるうえ、微量の試料では検討ができないなどの問題が残されている。
【0003】
これら従来法の複雑な工程の負担軽減と必要試料の微量化のために、新しい結晶化方法や装置の開発が行われており、結晶化装置の全自動化も盛んに研究が進められている。しかしながら、装置の高性能化に伴い、装置価格も上昇し、これらの装置を用いた結晶化検討は、資金に余裕のある極一部の研究所に限られた技術となっているのが現状である。
【0004】
こうした中で、ゲルを用いた結晶化技術として、結晶化剤および蛋白質をそれぞれゲル中に含有させ、これらを積層させることにより、溶液中でみられる対流を抑えてゲル中で結晶を成長させる方法が提案されている(特許文献1:特開平6−321700号公報)。しかしながら、この方法はゲル中に蛋白質を保持させるのが難しいため実用的な手法ではなかった。
【0005】
近年、ゲル中に結晶化剤を保持させ、ゲルを試料と接触させることで、ゲル中の結晶化剤成分を試料中へ徐々に放出させ、蛋白質の溶解度をゆっくり低下させて結晶化を促す技術(特許文献2:国際公開第03/053998号パンフレット)、およびそのアレイ化デバイス(特許文献3:特開2005−58889号公報)が開発され、これにより、微量の試料で簡便に結晶化条件を探索することが可能になった。さらに、ゲル中に複数種類の結晶化剤を保持させる技術(特許文献4:特開2005−60284号公報)が開発されるに至り、一般の研究者が低価格で、しかも微量の試料で、多くの結晶化条件を簡便な方法で探索することが可能になった。
【0006】
上記特許文献4(特開2005−60284号公報)では、結晶化剤を保持した状態でモノマーのゲル化反応を行うことができる条件として、(1)塩化ナトリウム等では、アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリルジメチルアミノエチルメチルクロライド塩の群から選択される少なくとも1種のモノマーを含むゲル状物;(2)2−メチル−2,4−ペンタンジオール等では、ジメチルアクリルアミドを含むゲル状物;(3)リン酸Na/K等では、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を含むゲル状物;(4)AmSO4等では、メタクリルジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を含むゲル状物;(5)マロン酸ナトリウム等では、アクリルアミドを含むゲル状物;(6)PEG6000では、ポリオキシエチレンモノアクリレートを含むゲル状物が適していることを見出し、これにより、ゲル中に結晶化剤を保持させることが可能となった。しかしながら、結晶化剤の種類によって選択しうるゲルの種類が異なるため、アレイ化においては試薬の混合で複雑な製造工程が必要となっていた。
【0007】
一方で、水溶性ゲルとしては、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニールアルコールなどの合成高分子、でんぷん、ゼラチン、アルギン酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、あるいは糖の天然高分子または天然高分子誘導体を利用した含水ゲル、さらには油性ゴム等の疎水性ポリマーに含水された含水ゲル等が、保冷材、芳香材、創傷保護材、治療パット等の各種用途に用いられてきた。さらに、皮膚への低刺激性ゲルとして、高密度の糖残基を含む糖誘導体モノマーの使用が知られていた(特許文献5:特開平5−194652号公報、特許文献6:特開平6−49227号公報、特許文献7:特開平6−206935号公報)。
【特許文献1】特開平6−321700
【特許文献2】国際公開第03/053998号パンフレット
【特許文献3】特開2005−58889号公報
【特許文献4】特開2005−60284号公報
【特許文献5】特開平5−194652号公報
【特許文献6】特開平6−49227号公報
【特許文献7】特開平6−206935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ゲルを用いた結晶化技術により、膨大なピペット操作の削減、必要な試料の微量化、および装置のコンパクト化による低価格と省スペースに成功した。しかしながら、結晶化剤の種類によって選択するゲルの種類が異なり、アレイの製造工程においては、試薬の混合が複雑となっていた。これらの負荷低減のためには、多くの種類の結晶化剤を保持できるモノマーを探索する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、糖誘導体モノマーを用いることにより、種々の結晶化剤を保持した状態でゲル化し、しかも、白濁等を生じない透明なゲル状物を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下に示すとおりの水溶性高分子結晶化用ゲルおよびそれを用いたマイクロアレイ、ならびに結晶化方法等に関する。
【0011】
(1)糖誘導体モノマーから誘導される繰り返し単位を含むゲル状物に結晶化剤が保持されている水溶性高分子結晶化用ゲル。
(2)糖誘導体モノマーは、下記式:
【化2】

[式中、Aは−O−、−NH−または−NCH3−を示し、Bは−CH2−、−CH2 CH2−、−CH(CH3) CH2−、−CH2CH(CH3)−または−CH2 CH2 CH2−を示し、R1およびR2は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。Gは糖残基を示す。]で表されるものである(1)記載のゲル。
(3)糖誘導体モノマーは、グリコシルエチルメタクリレートである(1)または(2)記載のゲル。
(4)糖誘導体モノマーを含むモノマー成分を、結晶化剤を含む水性媒体中で重合してなる水溶性高分子結晶化用ゲル。
【0012】
(5)(1)から(4)までのいずれか記載のゲルが固定されたマイクロアレイ。
(6)(1)から(4)までのいずれか記載のゲルと、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸、およびその他の水溶性高分子からなる群から選択される少なくとも1種を含有する試料とを接触させ、水溶性高分子の結晶を析出させる結晶化方法。
(7)(5)記載のマイクロアレイを用いて、マイクロアレイに固定されたゲルと、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸、およびその他の水溶性高分子からなる群から選択される少なくとも1種を含有する試料とを接触させ、水溶性高分子の結晶を析出させる結晶化方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多くの種類の結晶化剤を保持することができる水溶性高分子結晶化用ゲルを提供することができる。本発明のゲルを用いることにより、結晶化剤の種類によってゲル組成を選択する必要がないので、アレイ化において複雑な工程が必要とされない。本発明のゲルをマイクロアレイに固定することにより、より簡便な方法で、低価格で、しかも微量の試料で、多くの結晶化実験あるいは結晶化条件の探索を迅速かつ経済的に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をより具体的に説明する。本発明は、水溶性高分子結晶化用ゲル、該ゲルが固定されたマイクロアレイ、およびそれらの使用方法等にかかるものである。
【0015】
本発明の水溶性高分子結晶化用ゲル(以下、本発明のゲルという)は、糖誘導体モノマーから誘導される繰り返し単位を含むゲル状物に結晶化剤が保持されたものである。本発明のゲルは、糖誘導体モノマーから誘導される繰り返し単位を含むことにより、種々の結晶化剤を保持することができる。本発明のゲルを用いることにより、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸、その他の水溶性高分子を含有する試料から各水溶性高分子の結晶を析出させることができる。
【0016】
本発明において、糖誘導体モノマーから誘導される繰り返し単位を含むゲル状物は、糖誘導体モノマーを含むモノマー成分を水性媒体中で重合することにより製造することができる。本発明に用いられる糖誘導体モノマーは、糖残基を有し、水性媒体中で重合することによりゲル形成が可能なものであれば特に制限されない。
【0017】
本発明に用いられる好ましい糖誘導体モノマーとしては、下記式:
【化3】

で表されるモノマーが挙げられる。
【0018】
式中、Aは−O−、−NH−、または−NCH3−を示し、Bは−CH2−、−CH2 CH2−、−CH(CH3) CH2−、−CH2CH(CH3)−、または−CH2 CH2 CH2−を示す。R1、およびR2は同一または異なって、水素原子、または炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。
【0019】
ここで、炭素数1〜4の低級アルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基などの直鎖または、分岐を有する炭素数1〜4の低級アルキル基である。
【0020】
Gは糖残基を示す。Gで表される糖残基は、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、グリコサミン、マンノサミン、ガラクトサミン、アラビノース、キシロース、リボース等の5炭糖または6炭糖からなる単糖類、マルトース、イソマルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオース、マンノビオース等の2糖類、マルトトリオース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、タキオース、ラフィノース、デキストリン等の多糖類およびそれらの誘導体、ならびにそれらの水酸基の一部または全部を硫酸エステルとする化合物を示す。
【0021】
本発明に用いられる好ましい糖誘導体モノマーの具体例としては、例えば、ポリグリコシルエチルメタクリレート(以下、GEMAと表記する)などが挙げられる。
【0022】
本発明に用いられる糖誘導体モノマーは、1種単独で使用してもよく、また2種類以上を併用してもよい。
【0023】
本発明においては、モノマー成分として、糖誘導体モノマーを単独で使用することもできるし、該糖誘導体モノマーと共重合可能なその他のモノマーを併用することもできる。
【0024】
本発明に用いられる糖誘導体モノマーと共重合可能なその他のモノマーとしては、水性媒体中で重合することによりゲル形成可能なものであれば特に制限されない。その他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド系モノマーや(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。
【0025】
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等のN,N−ジアルキルアミノ(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドメタンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の(メタ)アクリルアミドアルキルスルホン酸、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドメチルクロライド塩、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドメチルエチルクロライド塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドメチルクロライド塩等のジアルキルアミノ(メタ)アクリルアミド4級アンモニウム塩が好適に用いられる。
【0026】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド塩、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートのエチルクロライド塩等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの4級アンモニウム塩が好適に用いられる。
【0027】
その他のモノマーの添加量は、糖誘導体モノマーの使用量に対し、好ましくは0.01〜0.5質量部であり、より好ましくは0.01〜0.02質量部である。
【0028】
また、必要に応じて、上記モノマーと共重合可能な架橋性モノマーを使用することもできる。このような架橋性モノマーとしては、2官能以上のラジカル重合性基を有するものであれば特に制限されない。例えば、N,N'−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、N,N'−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。架橋性モノマーの添加量は、糖誘導体モノマーの使用量に対し、好ましくは0.001〜0.2質量部であり、より好ましくは0.01〜0.2質量部である。
【0029】
本発明において、糖誘導体モノマーを含むモノマー成分の濃度は、結晶化剤溶液100質量%に対し、1〜50質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。例えば、蛋白質結晶化用ゲルの場合、糖誘導体モノマーを含むモノマー成分の濃度は、結晶化剤溶液100質量%に対し、0.1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。ここで「結晶化剤」とは、沈殿剤を含み、場合により塩及び/又は緩衝剤を含むものをいう。
【0030】
本発明に用いられる沈殿剤は、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸、その他の水溶性高分子の溶解度を低下させるものであれば特に制限されない。例えば、蛋白質の場合であれば、蛋白質溶液中の蛋白質の溶解度を下げることができるものであれば特に限定はない。
【0031】
沈殿剤としては、例えば、金属塩、アンモニウム塩、アルコール類、燐酸塩、ポリエチレングリコール類およびその誘導体、およびその他の水溶性有機化合物が挙げられる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を併用することもできる。
【0032】
金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム6水和物、酢酸亜鉛2水和物、硫化リチウム1水和物、または塩化ニッケル5水和物などが挙げられる。
【0033】
アンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、または硫化アンモニウムなどが挙げられる。
【0034】
アルコール類としては、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、イソプロパノール、1,6−ヘキサンジオール、テトラブタノール、エタノール、イミダゾール、グリセロール、またはエチレングリコール、メタノール、n−プロパノールなどが挙げられる。
【0035】
燐酸塩としては、リン酸ナトリウム、またはリン酸カリウムなどが挙げられる。
【0036】
ポリエチレングリコール類およびその誘導体は、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレンイミン等が含まれる。例えば、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール1000、ポリエチレングリコール1500、ポリエチレングリコール8000、ポリエチレングリコール20000、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル550、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル5000、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル20000、およびオルト−(2−アミノプロピル)−オルト−(2−メトキシエチル)ポリプロピレングリコール500などが挙げられる。尚、本明細書において、「ポリエチレングリコール類」とは、一般式HO(CH2CH2O)nH(nは任意の整数)で表される化合物及びその誘導体をいう。
【0037】
その他の水溶性の有機化合物としては、水溶性高分子を含む試料と接触した際に、該水溶性高分子の結晶化剤として作用しうるものであれば特に制限されない。例えば、ジオキサン、酒石酸エステル3水和物、カコジル酸ナトリウム、リチウムクロライド、マロン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸リチウム、硝酸ナトリウム、硫酸カドミウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0038】
これらの沈殿剤は、1種単独で、または2種類以上の組み合わせで使用することができる。これらの中で、特に、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、リン酸カリウムナトリウム、リチウムクロライド、マロン酸ナトリウム、MPD(2−メチル−2,4−ペンタンジオール)、PEG(ポリエチレングリコール)が好適である。また、本発明においては、市販品を用いることもできる。例えば、Emerald BioStructures社製「WIZARD I・II」、Hampton Research社製「Crystal screen」、「Crystal screen II」「Grid Screen Ammonium Sulfate」「Grid Screen PEG600」「Grid Screen MPD」「Grid Screen PEG/LiCl」「Grid Screen NaCl」「Quik Screen」「Salt RX」「MembFac」「Natrix」等と同じ結晶化剤成分を保持させることもできる。
沈殿剤の使用濃度は、金属塩、アンモニウム塩または燐酸塩などの塩類では水性媒体中0.1〜5.0mol/Lが好ましく、アルコール類、pH緩衝剤などの有機溶媒では水性媒体中1〜80体積%が好ましく、ポリエチレングリコール類およびその誘導体、またはその他の水溶性高分子化合物では水性媒体中1〜50重量%が好ましい。
【0039】
上記沈殿剤による結晶化は、特定のpH領域で行うことが好ましく、結晶化剤には緩衝剤を含むことが好ましい。緩衝剤としては、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール Tris(ハイドロキシメチル)アミノメタン、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール Tris塩酸塩、2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸、2−モルフォリオエタンスルホン酸1水和物、またはN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン、クエン酸、などが挙げられる。
これらは1種単独で使用することもでき、2種類以上を併用することもできる。緩衝剤は、必要に応じて酸あるいはアルカリなどで中和し所定のpHに調整して使用する。pHは、3.0〜10.0の範囲が好ましく、4.0〜9.0の範囲がより好ましい。緩衝剤の使用量は、本発明に用いられるモノマー成分、結晶化剤水性媒体、および必要に応じて他の成分を含む水溶液中のpHで調整される。
【0040】
また、結晶化剤には塩を含む場合もある。塩としては、金属塩、アンモニウム塩、燐酸塩などが例示できる。
【0041】
本発明において、結晶化剤の濃度は用途によっても異なり特に限定されない。
【0042】
本発明の水溶性高分子結晶化用ゲルは、透明ゲルとして得ることができる。ゲルが透明であると、生成した蛋白質結晶の観測が極めて容易となり、光学的検出系による自動化もより容易となるため好ましい。
【0043】
本発明のゲルは、少なくとも糖誘導体モノマーを含むモノマー成分、結晶化剤、水性媒体、必要に応じて緩衝液を含有してなる水溶液を熱重合させるか、あるいは、熱および/または光ラジカル重合開始剤存在下に重合させ、ゲル化させることにより製造することができる。この方法によれば、結晶化剤をゲル中に均一に保持させることができる。この際、ラジカル重合開始剤の存在下に重合を行うことが好ましい。
本発明において、ゲル形成の際に用いられる水性媒体としては、水、または水と水性有機溶剤との混合液が挙げられる。ここで水性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、が挙げられる。水と水性有機溶剤の混合液を使用する場合は、混合液中に質量換算で60%以上の水を含有していることが好ましい。本発明に用いられる好ましい水性媒体は水である。
【0044】
水溶液中において好適に使用されるラジカル重合開始剤としては、例えば、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過酸化物、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノブタン)2塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]2塩酸塩等のアゾ系重合開始剤が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、1種単独で、もしくは2種類以上の混合物として使用することができる。
【0045】
また、前記過酸化物に第三級アミン、亜硫酸塩、第1鉄塩等の還元剤を組み合わせたレドックス系重合開始剤、さらには、レドックス系重合開始剤とアゾ系重合開始剤を組み合わせた併用重合開始剤を使用してもよい。
【0046】
また、本発明においては、特定波長の光を与える光源下で、光ラジカル重合開始剤を用いて重合を行うこともできる。その際、使用される光ラジカル重合開始剤は、特定波長の範囲内の光照射により分解し、ラジカルを発生するものであれば特に限定はない。好適に利用できるものとして、例えば、アシルホスフィンオキサイド、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、アントラキノン等の通常光重合に使用される開始剤、その他に、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)ナトリウム塩、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等のアゾ系重合開始剤が挙げられる。これらの中から、利用する光波長に応じて、任意のもの1種類以上を選択して使用することができる。
【0047】
前記の特定波長とは、反応液中に含有される単量体自身による光吸収、ラジカル生成に利用される光量子エネルギーの二つの点を考慮すると、波長が200〜650nmの領域の光を用いることが望ましい。波長が200〜650nmの領域の光照射に利用可能な光源の代表例としては、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、蛍光ケミカルランプ、蛍光青色ランプ等が挙げられる。
【0048】
また、本発明には、糖誘導体モノマーを含むモノマー成分を、結晶化剤を含む水性媒体中で重合してなる水溶性高分子結晶化用ゲルが含まれる。糖誘導体モノマーを含むモノマー成分、結晶化剤、水性媒体の種類および使用量については、前述のとおりであり、ここでは説明を繰り返さない。
【0049】
本発明のゲルは、上述したとおり、種々の結晶化剤を保持することができるので、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸、その他の水溶性高分子からなる群から選択される少なくとも1種を含有する試料と接触させることにより、これら水溶性高分子の結晶を析出させることができる。
【0050】
本発明のゲルは、例えばマイクロアレイに固定されて用いることができる。本発明のゲルを用いることにより、従来のように結晶化剤の種類によってゲル組成を選択する必要がなく、アレイ化において複雑な製造工程が必要とされないといった利点がある。こうして得られる本発明のマイクロアレイは、種々の結晶化剤を保持することができるゲルが固定されたものであるので、微量の試料でも、水溶性高分子の結晶化実験あるいは結晶化条件の探索を迅速かつ経済的に実施することができる。
【0051】
本発明のマイクロアレイは、本発明のゲルが固定されたものであれば特に制限されないが、該水溶性高分子結晶化用ゲルを保持するためのゲル保持部を有していることが好ましい。また、本発明のマイクロアレイは、水溶性高分子含有試料を充填させるための結晶化区画を有していることが好ましい。この結晶化区画に充填された水溶性高分子を含有する試料が、ゲル保持部に保持された本発明のゲルと接触した際に、ゲル中に保持されている結晶化剤が結晶化区画へ移動し、水溶性高分子の結晶化を促すことができる。本発明においては、結晶化剤がゲル中に保持されているので、水溶性高分子含有試料への結晶化剤の移動が適度に緩やかな速度に制御され、結晶化を安定して行うことができる。
【0052】
本発明において、マイクロアレイの材料、形状等は、水溶性高分子結晶析出の観察を妨げないものであれば、特に制限されない。マイクロアレイの材料としては、例えば、ガラス、樹脂、金属等が挙げられ、また、これらの材料を組み合わせて作製した複合体を用いてもよい。但し、蛋白質結晶の析出の有無を容易に確認するために、光透過性の高い材料を用いることが好ましい。また、マイクロアレイの形状としては、例えば、円形、正方形、長方形などの形状が挙げられる。また、その厚みについては、結晶化の効率の向上や、結晶析出の観察の容易化および迅速化を考慮して任意に選択できるが、例えば0.1〜5mm、好ましくは0.2〜2mmとすることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。なお、実施例および比較例に用いたモノマーおよび架橋剤は以下のとおり表記する。
N,N'-メチレンビスアクリルアミド:MBAAm
ポリエチレングリコールジアクリレート:NKester
ジメチルアクリルアミド:DMAAm
アクリルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド:APTAC
2−メチル−2,4−ペンタンジオール:MPD
【0054】
ゲル化検討結果を実施例1から実施例16、および比較例1から比較例28に示し、表1から表3にまとめた。また、作製したゲルを用いた結晶化実験結果を実施例17から実施例18に示した。
【0055】
<実施例1>
0.1M Tris塩酸と2M硫酸アンモニウムとを溶解した水溶液100μL(Hampton Resarch社製)をサンプルチューブに分取した(混合液A)。
また、Sucraph-GEMA水溶液(50%w/w、38mg、日本精化(株)社製)、MBAAm 1mgに超純水1mgを加え混合した(混合液B)。混合液B(16μL)と、水溶性重合開始剤である2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(和光純薬工業(株)社製、VA-044)の10%w/w水溶液 1μLを混合し、さらに混合液A(83μL)を加え十分に撹拌した(混合液C)。混合液Cを窒素雰囲気下55℃温浴中にて3時間加熱した。その結果、透明なハイドロゲルを得た。
【0056】
<実施例2>
混合液Aの内容物を0.2Mクエン酸3ナトリウム2水和物、0.1M HEPESナトリウム、MPD 30wt%を溶解した水溶液100μL(Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0057】
<実施例3>
混合液Aの内容物を0.2M塩化マグネシウム5水和物、0.1MHEPESナトリウム、イソプロパノール30vol%を溶解した水溶液100μL(Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0058】
<実施例4>
混合液Aの内容物を0.2M酢酸アンモニウム、0.2M Tris塩酸、30vol%のイソプロパノールを溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0059】
<実施例5>
混合液Aの内容物を0.2Mクエン酸3ナトリウム2水和物、0.1M HEPESナトリウム、20vol %のイソプロパノールを溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0060】
<実施例6>
混合液Aの内容物を、2M硫酸アンモニウムを溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0061】
<実施例7>
混合液Aの内容物を4M蟻酸ナトリウムを溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0062】
<実施例8>
混合液Aの内容物を0.1M酢酸ナトリウム3水和、2M蟻酸ナトリウムを溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0063】
<実施例9>
混合液Aの内容物を0.1Mクエン酸3ナトリウム2水和物、20vol%のイソプロパノール、20wt%のポリエチレングリコール4000を溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0064】
<実施例10>
混合液Aの内容物を0.1M Tris塩酸、0.1Mリン酸2水素アンモニウムを溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0065】
<実施例11>
混合液Aの内容物を2M硫酸アンモニウム、5vol%のイソプロパノールを溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0066】
<実施例12>
混合液Aの内容物を0.5M硫酸アンモニウム、0.1Mクエン酸3ナトリウム2水和物、1M硫酸リチウム1水和物を溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0067】
<実施例13>
混合液Aの内容物を0.5M塩化ナトリウム、0.1Mクエン酸3ナトリウム2水和物、2vol%のエチレンイミンポリマーを溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0068】
<実施例14>
混合液Aの内容物を0.5M硫酸アンモニウム0.1MHEPES緩衝液、MPD 30μLを溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0069】
<実施例15>
混合液Aの内容物を0.1M HEPES、30%volのMPDを溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0070】
<実施例16>
混合液Aの内容物を0.1M HEPES、8vol%のエチレングリコール、20wt%のポリエチレングリコール10000を溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は実施例1と同様の手順で、透明なハイドロゲルを得た。
【0071】
<実施例17>
実施例1から実施例16で得られたハイドロゲルを形成したサンプルチューブに、40mg/mlのリゾチーム水溶液1mlを加え、20℃で24時間インキュベートした。その結果、実施例7および実施例8のゲルにおいて、リゾチーム水溶液中にリゾチーム結晶が析出した。なお、結晶生成は肉眼および実体顕微鏡で確認した。
【0072】
<実施例18>
実施例1から実施例16で得られたハイドロゲル各50nlずつを充填したマイクロアレイを作製し、40mg/mlのリゾチーム水溶50nlと接触させ、20℃で24時間インキュベートした。その結果、実施例7および実施例8のゲルにおいて、リゾチーム水溶液中にリゾチーム結晶が析出した。なお、結晶生成は肉眼および実体顕微鏡で確認した。
【0073】
<比較例1>
0.1M Tris・塩酸と2M硫酸アンモニウムとが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)をサンプルチューブに分取した(混合液A)。
また、DMAAm 19mg (和光純薬工業(株)製)、純水19mg、ポリエチレングリコールジアクリレート(以下NK-esterA200と示す、新中村化学工業(株)製)1mgに超純水1mgを加え混合した(混合液B)。混合液B(16μL)と水溶性重合開始剤である2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(和光純薬工業(株)製、VA-044)の10%w/w水溶液 1μLを混合し、さらに混合液A(83μL)を加え十分に撹
拌した(混合液C)。混合液Cを窒素雰囲気下55℃温浴中にて3時間加熱した。その結果、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0074】
<比較例2>
混合液Aの内容物を0.2Mクエン酸3ナトリウム2水和物、0.1M HEPESナトリウム、30wt%のMPDが溶解した水溶液100μL(Hampton Research社製)とした以外は、比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0075】
<比較例3>
混合液Aの内容物を0.2M塩化マグネシウム5水和物、0.1M HEPESナトリウム、30%volのイソプロパノールが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で、加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0076】
<比較例4>
混合液Aの内容物を0.2M酢酸アンモニウム、0.2M Tris塩酸、30vol%イソプロパノールが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化しなかった。
【0077】
<比較例5>
混合液Aの内容物を0.2Mクエン酸3ナトリウム2水和物、0.1M HEPESナトリウム20%イソプロパノールが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で、加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0078】
<比較例6>
混合液Aの内容物を2M硫酸アンモニウムが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0079】
<比較例7>
混合液Aの内容物を4M蟻酸ナトリウムが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0080】
<比較例8>
混合液Aの内容物を0.1M酢酸ナトリウム3水和物、2M蟻酸ナトリウムが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化しなかった。
【0081】
<比較例9>
混合液Aの内容物を0.1Mクエン酸3ナトリウム2水和物、20vol%のイソプロパノール、、20wt%のポリエチレングリコール4000が溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化しなかった。
【0082】
<比較例10>
混合液Aの内容物を0.1M Tris塩酸、2Mリン酸水素アンモニウムが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0083】
<比較例11>
混合液Aの内容物を2M硫酸アンモニウム、5vol%のイソプロパノールが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0084】
<比較例12>
混合液Aの内容物を0.5M硫酸アンモニウム、0.1Mクエン酸3ナトリウム2水和物、1M硫酸リチウム1水和物が溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0085】
<比較例13>
混合液Aの内容物を0.5M塩化ナトリウム、0.1Mクエン酸3ナトリウム2水和物、2vol%のエチレンイミンポリマーが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0086】
<比較例14>
混合液Aの内容物を2.5M硫酸アンモニウム20μLに0.2M HEPES緩衝液(pH7.5)50μL、MPD 30μLが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製、混合液A)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0087】
<比較例15>
混合液Aの内容物を0.1M HEPES、2M 蟻酸アンモニウムが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化しなかった。
【0088】
<比較例16>
混合液Aの内容物を0.1M HEPES、8vol%のエチレングリコール、20wt%のポリエチレングリコール10000が溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例1と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0089】
<比較例17>
0.2Mクエン酸3ナトリウム2水和物、0.1M HEPESナトリウム、30wt%のMPDを溶解した水溶液100μL(Hampton Research社製)をマイクロチューブに分取した(混合液A)。
またAPTAC 19mg (ARDRICH(株)製)、純水19mg、ポリエチレングリコールジアクリレート(以下NK-esterA200と示す、新中村化学工業(株))1mgに超純水1mgを加え混合した(混合液B)。
混合液B(16μL)と水溶性重合開始剤である2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(和光純薬工業(株)製、VA-044)の10%w/w水溶液 1μLを混合し、さらに混合液A(83μL)を加え十分に撹拌した(混合液C)。混合液Cを窒素雰囲気下55℃温浴中にて3時間加熱した。その結果、透明なハイドロゲルを得た。
【0090】
<比較例18>
混合液Aの内容物を0.2M塩化マグネシウム5水和物、0.1M HEPESナトリウム、30%volのイソプロパノールが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例17と同様の手順で加熱後、加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0091】
<比較例19>
混合液Aの内容物を0.2M酢酸アンモニウム、0.2M Tris塩酸、30vol%のイソプロパノールが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例17と同様の手順で加熱後、ゲル化しなかった。
【0092】
<比較例20>
混合液Aの内容物を0.2Mクエン酸3ナトリウム2水和物、0.1M HEPESナトリウム、20vol%のイソプロパノール(Hampton Research社製)とした以外は比較例17と同様の手順で加熱後、ゲル化しなかった。
【0093】
<比較例21>
混合液Aの内容物を4M 蟻酸ナトリウムが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例17と同様の手順で加熱後、ゲル化しなかった。
【0094】
<比較例22>
混合液Aの内容物を0.1M酢酸ナトリウム3水和物、2M蟻酸ナトリウムが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例17と同様の手順で加熱後、ゲル化しなかった。
【0095】
<比較例23>
混合液Aの内容物を0.1Mクエン酸3ナトリウム2水和物20vol%のイソプロパノール、20wt%のポリエチレングリコール4000が溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例17と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0096】
<比較例24>
混合液Aの内容物を25wt%のエチレングリコールが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例17と同様の手順で加熱後、ゲル化しなかった。
【0097】
<比較例25>
混合液Aの内容物を0.5M塩化ナトリウム、0.1Mクエン酸3ナトリウム2水和物、2vol%のエチレンイミンポリマーが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例17と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0098】
<比較例26>
混合液Aの内容物を2.5M硫酸アンモニウム20μLに0.2M HEPES緩衝液(pH7.5)50μL、MPD 30μLが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例17と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0099】
<比較例27>
混合液Aの内容物を0.1M HEPES、2M 蟻酸アンモニウムが溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例17と同様の手順で加熱後、ゲル化しなかった。
【0100】
<比較例28>
混合液Aの内容物を0.1M HEPES、8vol%のエチレングリコール、20wt%のポリエチレングリコール10000が溶解した水溶液100μL (Hampton Research社製)とした以外は比較例17と同様の手順で加熱後、ゲル化はしたが、白濁したため、透明ゲルにならなかった。
【0101】
結果を表1〜3に示す。
【表1】

【表2】

【表3】

【0102】
これらの結果から、本発明の糖誘導体モノマーを用いた場合は、各種結晶化剤を保持しながら透明なゲルを形成できるのに対し、糖誘導体モノマーを用いない場合は、結晶化剤の種類によってはゲル化しないものや、ゲル化したとしても白濁化してしまうものがあり、結晶化剤を保持しながら透明なゲルを形成できないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、多くの種類の結晶化剤を保持することができる水溶性高分子結晶化用ゲルを提供することができる。本発明のゲルは、多くの種類の結晶化剤を保持することができ、複雑な工程を必要とすることなくアレイ化が可能であるので、より簡便な方法で、低価格で、しかも微量の試料で、多くの結晶化実験あるいは結晶化条件を探索することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖誘導体モノマーから誘導される繰り返し単位を含むゲル状物に結晶化剤が保持されている水溶性高分子結晶化用ゲル。
【請求項2】
糖誘導体モノマーは、下記式:
【化1】

[式中、Aは−O−、−NH−または−NCH3−を示し、Bは−CH2−、−CH2 CH2−、−CH(CH3) CH2−、−CH2CH(CH3)−または−CH2 CH2 CH2−を示し、R1およびR2は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。Gは糖残基を示す。]で表されるものである請求項1記載のゲル。
【請求項3】
糖誘導体モノマーは、グリコシルエチルメタクリレートである請求項1または2記載のゲル。
【請求項4】
糖誘導体モノマーを含むモノマー成分を、結晶化剤を含む水性媒体中で重合してなる水溶性高分子結晶化用ゲル。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか記載のゲルが固定されたマイクロアレイ。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか記載のゲルと、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸、およびその他の水溶性高分子からなる群から選択される少なくとも1種を含有する試料とを接触させ、水溶性高分子の結晶を析出させる結晶化方法。
【請求項7】
請求項5記載のマイクロアレイを用いて、マイクロアレイに固定されたゲルと、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸、およびその他の水溶性高分子からなる群から選択される少なくとも1種を含有する試料とを接触させ、水溶性高分子の結晶を析出させる結晶化方法。

【公開番号】特開2008−74977(P2008−74977A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256321(P2006−256321)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】