説明

水溶解性ゲル

【課題】
吸液性のポリマーおよびその組成物であって、吸液して一旦ゲル状になったポリマーが経時的に溶解する性質を有し、かつ高い生体適合性と生分解性を併せ持つポリマーを提供する。
【解決手段】
液体を吸収しゲル化後、経時的液状化可能なポリマーであり、該経時的液状化が、経時的に粘度が低下して溶液になることを特徴とする前記ポリマー、である。
好適には、前記ポリマーがアルコキシシラン誘導体を含有するものであり、さらには生体適合性に優れたアミノ酸を原料とした特定の構造単位を有するポリアミノ酸誘導体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸液性のポリマーおよびその組成物であって、吸液して一旦ゲル状になったポリマーが経時的に溶解する性質を有し、かつ高い生体適合性と生分解性を併せ持つポリアミノ酸誘導体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸液性ゲルは一旦吸液したあとはその形状を保持するものである。例えば化粧品や外用剤などに適用した場合、ジェルやパック剤に適用される。これは長時間肌上で効果を持続させるのに有効である。しかしながら、形状は変化しないため、使用後は洗浄するか、擦り落とすかする必要がある。一方、溶液状の化粧水などは直接肌上に塗布でき、除去する必要は無いが、効果を長時間持続させるには不向きで、塗布時に垂れてきたり感触に不快感があるなどの問題がある。これまでの化粧品や外用剤の基剤では上記2種の性質を用途と使用場面によって使い分けるしかなく、両者の欠点を同時に解決できなかった。
【0003】
一方、防災用途に使用した場合、火事や流出事故で使用され膨潤したゲルは後に除去作業を行う必要があり、手間と労力が必要であった。また、医療用材料、特にDDS材料では薬物放出に伴う材料の形状変化が必須であるが、吸液ゲルを適用した場合、一旦形成したゲルはそのまま残留するため、使用が困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年種々の分野で常に新しい材料が求められている。従来の吸液性ゲルは一旦吸液したあとはその形状を保持するため、使用後は除去作業が必要となる。例えば、化粧品や外用剤分野では、吸液性ゲルはジェル剤やパック剤に適用される。これは長時間肌上で有効成分を放出し効果を持続させるのに有効であるが、使用後は洗浄するか、擦り落とすかして除去する必要がある。一方、溶液状の化粧水などは直接肌上に塗布でき、除去する必要は無いが、効果を長時間持続できない。また、塗布時に液垂れや感触の不快感があるなどの問題がある。両者の欠点を解決する課題としては、肌上への塗布時に任意の時間滞留し、その後残留しない性質が考えられる。
【0005】
別の例としては吸液ゲルを防災用途に使用した場合、火事や流出事故で使用され吸液して膨潤したゲルは後に除去作業を行う必要があり、膨大な手間と労力が必要である。この欠点を解決する課題としては、ゲルとしての機能を発揮後、環境に残留しないことが考えられる。
【0006】
また、医療用材料、特にDDS材料では薬物放出に伴う材料の形状変化が必須であるが、ゲルを導入した場合その状態が変化しないため、DDS目的では使用が制限される。この問題を解決するには一旦形成したゲルを、目的に応じて変化させる必要がある。更にこれらの分野では生体適合性や生分解性も求められ、より安全で環境に配慮した材料を使用できることは重要な課題である。
【0007】
これらの課題は、吸液したゲルが一定時間その形態を保持し、その後溶液になるか又は無くなってしまう機能を付与することで解決できる。
【0008】
以上のことから、即ち、本発明は、吸液性のポリマーおよびその組成物であって、吸液して一旦ゲル状になったポリマーが経時的に溶解する性質を有し、かつ高い生体適合性と生分解性を併せ持つポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
アルコキシシラン化合物はシランカップリング剤として一般的によく知られている。そして、アルコキシ部は水の存在下で容易に加水分解しシラノールになることも一般的によく知られている。本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリマーにアルコキシシラン誘導体残基をグラフトさせることで、水を迅速に吸水してゲルとなり、吸水して一旦ゲル状になったポリマーが経時的に溶解するポリマーを作製し本発明を完成した。
【0010】
更に、ポリマー部位にアミノ酸を原料とした特定の構造単位を有するポリアミノ酸誘導体を適用することで、生体適合性と生分解性に優れる材料を提供できる。
【0011】
本発明は、吸液性のポリマーおよびその組成物であって、吸液して一旦ゲル状になったポリマーが経時的に溶解する性質を有し、かつ高い生体適合性と生分解性を併せ持つポリマー及びその組成物である。
【0012】
即ち、本発明は、
〔1〕 液体を吸収しゲル化後、経時的液状化可能なポリマー。
〔2〕 経時的液状化が、経時的に粘度が低下して溶液になることを特徴とする〔1〕記載のポリマー。
〔3〕 前記液体が水であり、溶液が水溶液である〔1〕又は〔2〕記載のポリマー。
〔4〕 ケイ素原子を含有する〔1〕〜〔3〕の何れかに記載のポリマー。
〔5〕 前記ポリマーが、アルコキシシラン誘導体を含有することを特徴とする〔1〕〜〔4〕の何れかに記載のポリマー。
〔6〕 前記ポリマーの骨格が、ポリアミド骨格であることを特徴とする〔1〕〜〔5〕の何れかに記載のポリマー。
〔7〕 前記ポリマーが、ポリアミノ酸誘導体であることを特徴とする〔6〕記載のポリマー。
〔8〕 ポリアミノ酸誘導体が、ポリグルタミン酸誘導体またはポリアスパラギン酸誘導体であることを特徴とする〔7〕記載のポリマー。
〔9〕 下記一般式(I)乃至(II)
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Rはケイ素原子を含む炭素原子数1〜18のシラン誘導体残基を示し、XおよびYはそれぞれ独立にOおよび/またはNHを示し、Mは水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mは1〜2の整数を示す。)
で表されるα型、β型、またはγ型ポリアミノ酸単量体単位の少なくとも1種類の単量体単位を含む〔6〕〜〔8〕の何れかに記載のポリマー。
〔10〕 前記一般式(I)におけるRが、トリメトキシシラン、ジメトキシシラン、モノメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジエトキシシラン、モノエトキシシラン、トリプロピオキシシラン、ジプロピオキシシラン、モノプロピオキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシエチルシラン、ジメチルメトキシシラン、ジエチルエトキシシラン、トリメチルシラン、トリエチルシランまたはトリプロピルシラン基を含む誘導体残基からなる群から選択される少なくとも1種類を含む〔9〕に記載のポリマー。
〔11〕 〔1〕〜〔10〕の何れかに記載のポリマーを含有する組成物。
〔12〕 ポリマーを含有する組成物がゲル状態または溶液である〔11〕に記載のポリマー組成物。
〔13〕 〔11〕又は〔12〕記載の組成物を含有することを特徴とする化粧料。
〔14〕 〔11〕又は〔12〕記載の組成物を含有することを特徴とする外用剤。
〔15〕 〔11〕又は〔12〕記載の組成物を含有することを特徴とする医療用材料。
〔16〕 〔11〕又は〔12〕記載の組成物を含有することを特徴とする防災用材料。
〔17〕 〔1〕〜〔10〕の何れかに記載のポリマー並びに〔11〕又は〔12〕に記載のポリマー組成物を含んでなる水溶解性ゲル。
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、吸液性のポリマーおよびその組成物であって、吸液して一旦ゲル状になったポリマーが経時的に溶解する性質を有し、かつ高い生体適合性と生分解性を併せ持つポリマーを提供することができる。 本発明によれば、吸液性のポリマーおよびその組成物であって、吸液して一旦ゲル状になったポリマーが経時的に溶解する性質を有するこれまでに無かった現象を利用できる。また、高い生体適合性と生分解性を併せ持つポリマーを適用することで、化粧品、外用剤、医療用材料から防災用途材料まで幅広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、吸液性のポリマーおよびその組成物であって、吸液して一旦ゲル状になったポリマーが経時的に溶解し溶液状になる性質を有し、更に、高い生体適合性と生分解性を併せ持つ機能を付加し得るポリマー及びその組成物に関するものである。
【0019】
本発明とは、液体を吸収しゲル化後、経時的液状化可能な(溶解性)ポリマーであり、より具体的には、経時的液状化が、経時的に粘度が低下して溶液になることを特徴とする前記ポリマー、である。
【0020】
本発明における液体及びその液状化状態として、特に制限されるものではないが、前記液体が水であり、前記液状化状態が水溶液であることが好ましい。
【0021】
本発明のポリマーは、上記の性質を有するポリマーであればよく、特に限定されるものではないが、中でもケイ素原子を含有するポリマーが好ましく、当該ポリマーが、アルコキシシラン誘導体を含有するポリマーがさらに好ましい。
【0022】
本発明においては、特に限定されるものではないが、アルコキシシラン誘導体を含有するポリマーの具体的例としては、当該ポリマーにアルコキシシラン誘導体残基をグラフトさせたポリマーが、好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0023】
本発明において、シラン誘導体残基とは、ケイ素原子を有する基で、ポリシラン構造を有するものも包含する。アルコキシシラン誘導体残基はアルコキシ基が結合したシラン化合物の誘導体残基で、具体的には下記一般式(III)
【0024】
【化3】

【0025】
(式中、Rは水素及び/または炭素原子数1〜8の炭化水素基を示し、Zはヘテロ原子を含んでも構わない炭素原子数1〜20の炭化水素鎖を示し、A,B,Cはそれぞれ酸素原子または炭素原子を示す。)で表される基を表す。
【0026】
一般式(III)中、Rはそれぞれ独立に水素または炭素原子数1〜8の炭化水素基を示し、同一でもいいが、それぞれ異なる基であっても良い。具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基を表すが、表記以外の分岐した炭化水素基でも構わない。Zはヘテロ原子を含んでも構わない炭素原子数1〜20の炭化水素鎖を示し、より具体的にはヘテロ原子を含んでも構わないアルキル鎖を表すが、ヘテロ原子は窒素、酸素、イオウ原子から選択されることが好ましい。
【0027】
本発明において、ポリマーとは前述のシラン誘導体残基が結合できるポリマー全般を表し、具体的にはビニル系ポリマーであり、より詳しくはポリアクリル酸誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、ポリスチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアセトアミド誘導体、ポリ塩化ビニル誘導体、等が挙げられる。またはアミノ酸系ポリマーであり、より詳しくはポリアスパラギン酸誘導体、ポリグルタミン酸誘導体、ポリリジン誘導体等が挙げられる。その他エステル系ポリマーや、多糖類、たんぱく質等も挙げられる。
【0028】
本発明のポリマーとしては、当該ポリマーの骨格が、ポリアミド骨格であることが好ましい態様として挙げられ、さらに当該ポリマーが、ポリアミノ酸誘導体であることが好ましい態様として挙げられる。
【0029】
特に本発明において、ポリアミノ酸とは、アミノ酸がペプチド縮重合した重合体をも包含する。また本発明において、重合体及びポリマーは相互に等価な意味である。重合体(ポリマー)を構成する単量体単位の配列の様式は、共重合体(コポリマー)である場合はランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体の何れでもよい。また、重合体(ポリマー)の分子鎖は、線状、大環状、分岐状、星状、三次元網目状のいずれでも良い。本発明において、炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状の何れでもよく、原子団の中に、N、O、S等のCやH以外の原子が含まれていてもよい。
【0030】
本発明のポリアミノ酸誘導体は、その基本骨格がアミノ酸誘導体の単量体単位から成るものであればよく、特に制限はないが、特に、ポリグルタミン酸誘導体またはポリアスパラギン酸誘導体であることが好ましい。具体的には、下記一般式(I)又は(II)
【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
(式中、Rはケイ素原子を含む炭素原子数1〜18のシラン誘導体残基を示し、XおよびYはそれぞれ独立にOおよび/またはNHを示し、Mは水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mは1〜2の整数を示す。)
で表されるα型、β型、またはγ型ポリアミノ酸単量体単位の少なくとも1種類の単量体単位を含むポリアミノ酸誘導体が好ましい。
【0034】
一般式(I)の単量体単位において、Rはケイ素原子を含む炭素原子数1〜18のシラン誘導体残基を示す。
【0035】
上記Rとしては、ケイ素原子を含む炭素原子数1〜18のシラン誘導体残基から選択されるものであればよく、特に制限されない。
【0036】
上記において、アルコキシシラン誘導体残基が好ましく、より具体的には、トリメトキシシラン、ジメトキシシラン、モノメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジエトキシシラン、モノエトキシシラン、トリプロピオキシシラン、ジプロピオキシシラン、モノプロピオキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシエチルシラン、ジメチルメトキシシラン、ジエチルエトキシシラン、トリメチルシラン、トリエチルシランまたはトリプロピルシラン基を含む誘導体残基等が挙げられるが、中でもトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロピオキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシエチルシラン、トリメチルシランまたはトリエチルシラン基を含む誘導体残基等がより好ましい。
【0037】
上記一般式において、XおよびYはそれぞれ独立にOおよび/またはNHを示す。Mは水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択される少なくとも1種以上の元素を示す。
【0038】
また、mは1〜2の整数を示す。
【0039】
より具体的には、Yは水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択でき、特にリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属から選択されることが好ましい。
【0040】
本発明のポリアミノ酸誘導体において、α−アミド型単量体単位、β−アミド型単量体単位及びγ−アミド型単量体単位は、何れが存在していてもよく、二者、或いは三者が併存していてもよい。併存している場合、α−アミド型単量体単位とβ−アミド型単量体単位及びγ−アミド型単量体単位の比率は特に限定されない。
【0041】
本発明で用いられるポリアミノ酸誘導体は、例えば、ポリこはく酸イミドを原料として製造できる。
【0042】
ポリこはく酸イミドは、従来より知られる各種の方法で製造でき、例えば、J.Am.Chem.Soc.,80,3361(1985) には、アスパラギン酸を200℃で2〜3時間加熱縮合させることにより、ポリこはく酸イミドを製造する方法が開示されている。特公昭48−20638号公報には、85%のリン酸を触媒としてロータリーエバポレーターを使用して薄膜状でアスパラギン酸の反応を行うことにより、高分子量のポリこはく酸イミドを得る方法が開示されている。米国特許第5057597号には、工業的にポリこはく酸イミドを得る方法として、流動床によりポリアスパラギン酸を加熱縮合させる方法が開示されている。また。さらに高分子量のポリこはく酸イミドを必要とする場合には、上記の方法で得られたポリこはく酸イミドを、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの縮合剤で処理することにより連結することもできる。
【0043】
本発明のポリアミノ酸誘導体を製造する為に使用するポリこはく酸イミドの分子量は、所望の特性を有する生成物が実質的に得られれば特に制限されない。一般的には、ポリこはく酸イミドの分子量は、2000〜500000程度が好ましく、10000〜400000程度がより好ましく、15000〜200000程度が特に好ましい。この分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで、N,N−ジメチルホルムアミド溶液中、45℃で測定し、ポリスチレン標準で求めた値である。使用するポリこはく酸イミドの分子量が低ければ、得られるポリアミノ酸誘導体の分子量も低くなり、ポリこはく酸イミドの分子量が高ければ、得られるポリアミノ酸誘導体の分子量も高くなる。
【0044】
本発明のポリこはく酸イミドからポリアミノ酸誘導体を製造する際の方法は、特に制限されず、例えば、以下の製造方法が挙げられる。先ず、ポリこはく酸イミドを適当な溶媒に溶解する。この溶媒としては、ポリこはく酸イミドが溶解し、アミン類との反応で副反応を起こさなければ特に限定されない。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が用いられる。
【0045】
この溶媒中で、ポリこはく酸イミドのイミド環に対して、アルコキシシランを有するアミン類を反応させる。ポリこはく酸イミドのイミド環のモル数に対して、アミン類を1倍モル添加し反応を行うと、アミン類はイミド環を開環させて付加し、側鎖のグラフト構造を形成する。導入する割合は任意に選択できるが、原料のポリこはく酸イミドに対し、0.1〜99モル%が好ましく、1〜60モル%が更に好ましい。これより導入率が小さければ初期ゲルの形成能力が無くなり、これより導入率が大きければゲル形成後の水溶性が無くなる。
【0046】
次いで、残った未反応のイミド環をアルカリで開環する。使用するアルカリは水溶液中でpH7以上のアルカリ性を示せば良いが、無機塩基、または水溶性アミン誘導体から選択することが好ましい。特に、塩基性ナトリウム塩、塩基性カリウム塩、塩基性カルシウム塩、塩基性マグネシウム塩から選択することが好ましい。アルカリ以外の開環は困難であり、また経済的にも適当でない。
【0047】
次いで、得られた反応混合物を、貧溶媒中に排出する。この貧溶媒としては、ポリアミノ酸誘導体が沈殿し、その後濾過乾燥した際に、ポリアミノ酸誘導体の結晶中に残存しないような溶媒であれば特に限定されない。例えば、アセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、酢酸エチル、ヘキサン等、或いはそれらの混合溶媒が用いられる。上述のようにして得た沈殿を濾取し、貧溶媒で洗浄し、乾燥することにより、目的のポリアミノ酸誘導体が得られる。
【0048】
本発明のポリマー組成物は、前記ポリマーを少なくとも1種以上含有するものであり、通常は、これらを適当な溶媒に溶解した溶液の形態が好ましい。本発明の組成物としては、他のポリマー成分を含んでも構わない。さらに、上記の他、必要に応じて、香料、防腐剤、安定剤、ミネラル成分、着色料、洗浄剤等の補助成分(添加剤)を含んでいても良い。
【0049】
本発明のポリマー組成物を構成する溶媒としては、特に限定されないが、例えば、以下の無機、有機溶媒が挙げられる。より具体的には例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、植物抽出水、植物エキス、植物性オイル等の植物由来液、シリコン系オイル等が挙げられる。中でも好ましいものとして水、エタノールが挙げられる。
【0050】
本発明の組成物において、ポリマーと溶媒の混合比に特に制限はなく、どのような混合割合であっても構わない。通常、ポリマー濃度で0.1ppm〜60重量%、好ましくは、1ppm〜30重量%である。また場合によっては、ポリマーのみであっても構わない。
【0051】
本発明のポリマー組成物としては、ゲル状態または溶液であることが好ましい態様である。
【0052】
また、本発明は、前記ポリマーまたはポリマー組成物を含んでなる水溶解性ゲル、である。
【0053】
本発明の水溶解性ゲルにおいて、溶解性ゲルの吸液率は特に限定しないが、最終的に溶液になるポリマー濃度であればよく、重量で1倍以上、好ましくは2倍以上、更に好ましくは5倍以上である。これ以上吸液率が低い場合はポリマー濃度が高く溶解性自体が悪くなる。
【0054】
本発明の水溶解性ゲルは、ポリマーが吸液したときにゲル状態になり、そのゲルが経時的に溶液性を増し、次いで溶液になることを特徴とする。この物理現象を捉えるのに粘度測定の手法がある。粘度測定の具体的な方法は次の通りである。まず、ポリマーに水又はその他の溶媒を吸液させ、吸液ゲルを調製しサンプルとする。このサンプルをレオメーターにて一定温度で粘度測定を行う。結果は、初期に高粘度を示していたサンプルが経時的に粘度低下する現象で得られる。
【0055】
本発明のポリマー即ち(水)溶解性ゲルにおいて、ポリマーが液体を吸収してゲル状態になったのち、そのゲルが経時的に液状化して溶液になるが、その溶液即ち液状化状態を通常の所謂(水)溶液の状態、又は流動性を備えた状態、即ちある特定の粘度以下になった状態として定義することも可能である。本発明においては、ゲル状態とは、流動性の無い状態を示し、高粘度液状物を含む。簡易的には容器を逆さにして組成物が落ちない程度のものを示す。また、通常の(水)溶液の状態とは、即ち流動性があればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは粘度として5Pa・s以下である。
【0056】
また、そのゲル化状態の保持時間並びに経時的な液状化に要する時間については、用いられるポリマー及びその用途により適宜調整可能であり、特に限定されるものではない。
【0057】
本発明のポリマー及び(水)溶解性ゲルにおいては、通常、例えば化粧料・外用剤用途では、ゲル化状態保持時間が数秒〜数時間の後液状化に至れば良く、例えば化粧水であれば1〜10秒程度、添付剤であれば1〜60分など、用途に応じて保持時間を適宜設定することが可能である。また医療用材料用途では、ゲル化状態保持時間が数分〜数日の後液状化に至れば良く、例えば薬剤の徐放剤であれば1分〜1日、添付剤であれば1〜60分など、これも用途に応じて保持時間を適宜設定することが可能である。また防災用材料用途では、ゲル化状態保持時間が数時間〜数ヶ月、例えば火災では1〜60分、流出事故等は1時間〜数日が想定され、これも用途に応じて保持時間を適宜設定することが可能である。本発明では上記の通り、用途に応じて適宜設定することができるが、これらに特に限定されるものではない。
【0058】
本発明のポリマー組成物を含有することによって得られる水溶解性ゲルは、必要に応じて、色素、香料、アルコール、防腐剤、顔料、抗酸化剤、流動パラフィン、界面活性剤、水溶性高分子、塩類、ミネラル成分、pH調節剤などを本発明のポリマーの機能を損なわない範囲内で添加してもよく、これらが添加された組成物も本発明に含まれる。組成物の形態は、特に限定されるものではなく、また製造については従来知られている方法を採用することができる。本発明のポリマー組成物は、化粧料や外用剤に配合したり、増粘性、起泡増泡性を必要とする剤等に添加して用いられるものである.
【0059】
本発明の水溶解性ゲルを形成するポリマー組成物の配合先は、化粧料一般、具体的にはパック剤、洗顔剤、洗浄剤、保湿剤、クレンジング剤、マッサージ剤、シェービングケア剤、日焼け止め剤、ヘアケア剤、芳香剤、整髪剤、染髪剤などが挙げられる。
【0060】
本発明の外用剤は外用医薬品に配合するもの全般が挙げられ、湿布剤、鎮痛剤、冷却剤、除熱剤、保温剤、消毒殺菌剤、角質軟化剤、抗真菌剤、日焼防止剤、皮膚漂白剤、皮膚着色剤、肉芽発生剤、表皮形成剤、養毛発毛剤、防臭剤、発汗抑制剤、ビタミン剤などが挙げられる。
【0061】
本発明の医療用材料としては、医療に関連して、ゲルを利用するもの全般が挙げられ、徐放性薬基材、再生医療材料、外科用接着剤、止血剤、創傷被覆材、人工臓器等癒着防止材などが挙げられる。
【0062】
本発明の防災用材料は、災害に関連してこれを防ぐ、または緩衝するもの全般が挙げられ、洪水の緩衝、水害の緩和、オイルの回収、土のう代替、消火、延焼防止、各種設備の液漏れ緊急対応などの機能を持つものが挙げられる。
【0063】
本発明の化粧料、外用剤、医療用材料または防災用材料における上記ポリマー組成物の配合量としては、ポリマーの含有量0.5質量%以上が好ましく、更に好ましくは1質量%以上である。これよりも少ない含有量であれば充分なゲルが得られない可能性がある。
【0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等限定されるものではない。
【0065】
本実施例において、原料のポリこはく酸イミド(以下PSIと略記する)としては、重量平均分子量(以下Mwと略記する)が97000のものを用いた。このMwは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMFと略記する)溶液中、45℃で測定し、ポリスチレン標準で求めた値である。また、反応容器としては、攪拌機、ヒーター、温度計及び窒素ラインを備えたセパラブル・フラスコを使用し、反応中は反応系を充分に攪拌しながら実施した。
【実施例1】
【0066】
本実施例において、原料のポリこはく酸イミド(以下PSIと略記する)としては、重量平均分子量(以下Mwと略記する)が95000のものを用いた。このMwは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMFと略記する)溶液中、45℃で測定し、ポリスチレン標準で求めた値である。また、反応容器としては、攪拌機、ヒーター、温度計及び窒素ラインを備えたセパラブル・フラスコを使用し、反応中は反応系を充分に攪拌しながら実施した。
【0067】
まず100ml反応容器内にPSI(9.40g)とDMF(34.00g)を入れ、70℃加熱下で完全に溶解させた。次いで、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(1.04g;こはく酸イミド単位に対して5モル%)を添加し、反応容器内の温度を50℃に保ちながら1時間反応させると溶液がゲル化した。次いでゲルを粉砕し、pHメーターを付帯した300ml反応容器に移し、メタノール(100ml)と水(100ml)を添加した。室温で攪拌しながら、20質量%水酸化ナトリウム水溶液を徐々に滴下した。pH12を越えない様に添加速度を制御しながら、水酸化ナトリウム水溶液(21.24g、0.1mmol)を添加した。この時点でpHは下がらなくなり、ゲルは溶解した。その後、反応液をアセトニトリル(1.5L)中に攪拌しながら排出することにより反応物を沈澱させ、適時静置を経て上澄み液をデカンテーションにより除いた。次いで、メタノール(1L)を加えて固形分をスラッジングし、濾過により回収し、減圧乾燥を経て白色のポリアスパラギン酸誘導体(10.4g、収率72%)を得た。
【0068】
得られたポリアスパラギン酸誘導体は水を添加すると吸水倍率20〜100でゲルになり、このゲルを室温下で3時間放置すると溶液となった。ポリマー濃度5%で調製したゲルが溶液となった状態で粘度を測定したところ3.6mPa・sだった。
【実施例2】
【0069】
実施例1で合成したポリマーの1%水溶液を調製し粘度測定を行った結果、1.9kPa・sの粘度を得た。この溶液を室温下で3時間放置し、粘度を測定したところ3.2mPa・sだった。
【実施例3】
【0070】
100ml反応容器内にPSI(9.4g)とDMF(40g)を入れ、完全に溶解させた。次いで、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(1.11g;こはく酸イミド単位に対して5モル%)を添加し、室温下、5時間反応させると粘度が上昇した。次いでアセトン(600ml)を装入したビーカー中に得られた反応液を滴下し再沈した。次に濾過し、アセトン(100ml)で洗浄した後乾燥した。得られた粉体(10.1g)を水(50ml)を挿入した10ml反応容器中に添加し分散した。室温で攪拌しながら、20質量%水酸化ナトリウム水溶液を徐々に滴下した。pH12を越えない様に添加速度を制御しながら、水酸化ナトリウム水溶液(16.9g)を添加した。この時点でpHは下がらなくなり、ゲルは溶解した。その後、反応液をメタノール(150ml)、アセトン(600ml)混合溶媒中に排出、再沈した。濾過し、得られた残渣をメタノールで洗浄し、再度濾過、乾燥して淡黄色のポリアスパラギン酸誘導体(3.5g、収率24%)を得た。
【0071】
このポリアスパラギン酸誘導体の3%水溶液を調製し、レオメーターによる粘度測定を温度20℃、応力1Paで行った結果、初期値20kPa・sの粘度があったゲルが、30分後には40Pa・sに低下し、流動性のある液体に変化した。(図1参照)
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、吸液性のポリマーおよびその組成物であって、吸液して一旦ゲル状になったポリマーが経時的に溶解する性質を有し、かつ高い生体適合性と生分解性を併せ持つポリマーを提供することができる。
【0073】
本発明によれば、吸液性のポリマーおよびその組成物であって、吸液して一旦ゲル状になったポリマーが経時的に溶解する性質を有するこれまでに無かった現象を利用でき、また、高い生体適合性と生分解性を併せ持つポリマーを適用することで、化粧品、外用剤、医療用材料から防災用途材料まで幅広く使用することができる。
【0074】
即ち、本発明のポリマー組成物は、化粧品分野を初めとして生活用品、衛生用品、医療用品、防災材料等、人に身近な製品の材料において、生体に影響を与えない生体適合材料や、環境に大きな影響を与える場面で、生体適合性や生分解性を必要とされる材料分野においても好適に配合、適用することが可能である。
【0075】
従って、本発明の組成物の配合例としては、例えば、化粧料としては、化粧水、保湿液、洗顔オイル、クレンジングオイル、クレンジングミルク、クレンジングローション、マッサージオイル、モイスチャータリーム、シェービングオイル、シェービングローション、シェームース、日焼け止めローション、日焼け用オイル、ボディーローション、ボディーシャンプー、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアートリートメント、養毛オイル、ヘアオイル、ヘアムース、香油、ヘアリキッド、セットローション、ヘアスプレー、ヘアブリーチ、カラーリンス、カラースプレー、パーマネントウェーブ液、ハンドローション等が挙げられ、外用剤としては、湿布剤、鎮痛剤、冷却剤、除熱剤、保温剤、消毒殺菌剤、角質軟化剤、抗真菌剤、日焼防止剤、皮膚漂白剤、皮膚着色剤、肉芽発生剤、表皮形成剤、養毛発毛剤、防臭剤、発汗抑制剤、ビタミン剤等の外用医薬品に配合するもの全般が挙げられる。また、医療用材料としては、ゲルを利用するもの全般が挙げられ、徐放性薬基材、再生医療材料、外科用接着剤、止血剤、創傷被覆材、人工臓器等癒着防止材などが挙げられる。さらに、防災用材料としては、災害に関連してこれを防ぐ、または緩衝するもの全般が挙げられ、洪水の緩衝、水害の緩和、オイルの回収、土のう代替、消火、延焼防止、各種設備の液漏れ緊急対応などの機能を持つものが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本願のポリマー組成物における粘度の経時変化について説明した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吸収しゲル化後、経時的液状化可能なポリマー。
【請求項2】
経時的液状化が、経時的に粘度が低下して溶液になることを特徴とする請求項1記載のポリマー。
【請求項3】
前記液体が水であり、溶液が水溶液である請求項1又は2記載のポリマー。
【請求項4】
ケイ素原子を含有する請求項1〜3の何れかに記載のポリマー。
【請求項5】
前記ポリマーが、アルコキシシラン誘導体を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のポリマー。
【請求項6】
前記ポリマーの骨格が、ポリアミド骨格であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のポリマー。
【請求項7】
前記ポリマーが、ポリアミノ酸誘導体であることを特徴とする請求項6記載のポリマー。
【請求項8】
ポリアミノ酸誘導体が、ポリグルタミン酸誘導体またはポリアスパラギン酸誘導体であることを特徴とする請求項7記載のポリマー。
【請求項9】
下記一般式(I)乃至(II)
【化1】

【化2】

(式中、Rはケイ素原子を含む炭素原子数1〜18のシラン誘導体残基を示し、XおよびYはそれぞれ独立にOおよび/またはNHを示し、Mは水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mは1〜2の整数を示す。)
で表されるα型、β型、またはγ型ポリアミノ酸単量体単位の少なくとも1種類の単量体単位を含む請求項6〜8の何れかに記載のポリマー。
【請求項10】
前記一般式(I)におけるRが、トリメトキシシラン、ジメトキシシラン、モノメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジエトキシシラン、モノエトキシシラン、トリプロピオキシシラン、ジプロピオキシシラン、モノプロピオキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシエチルシラン、ジメチルメトキシシラン、ジエチルエトキシシラン、トリメチルシラン、トリエチルシランまたはトリプロピルシラン基を含む誘導体残基からなる群から選択される少なくとも1種類を含む請求項9に記載のポリマー。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載のポリマーを含有する組成物。
【請求項12】
ポリマーを含有する組成物がゲル状態または溶液である請求項11に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
請求項11又は12記載の組成物を含有することを特徴とする化粧料。
【請求項14】
請求項11又は12記載の組成物を含有することを特徴とする外用剤。
【請求項15】
請求項11又は12記載の組成物を含有することを特徴とする医療用材料。
【請求項16】
請求項11又は12記載の組成物を含有することを特徴とする防災用材料。
【請求項17】
請求項1〜10の何れかに記載のポリマー並びに請求項11又は12に記載のポリマー組成物を含んでなる水溶解性ゲル。

【図1】
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【公開番号】特開2007−320975(P2007−320975A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149274(P2006−149274)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】