説明

水稲病害虫被害予防方法

【課題】本発明は、水稲の病害虫に対して防除効果を有する農薬活性成分の溶出性を制御し、育苗箱における一回の薬剤処理で水稲栽培期間を通じて主要な病害虫被害、特にカメムシの斑点米の予防が可能な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】(RS)−1−メチル−2−ニトロ−3−(3−テトラヒドロフリルメチル)グアニジン(一般名ジノテフラン)、或いは3−(2−クロロ−1,3−チアゾール−5−イルメチル)−5−メチル−1,3,5−オキサジアジナン−4−イリデン(ニトロ)アミン(一般名チアメトキサム)を有効成分とし、水に難溶性の熱可塑性材料を含有する芯剤造粒物の周囲を、水に難溶性の熱可塑性材料で被覆した徐放性粒剤を、水稲育苗箱に適用することを特徴とする、播種時から収穫時に到る水稲病害及び/または害虫被害を予防する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物に害を与える害虫及び病気からの農作物の保護を図ることのできる薬剤を含有する農薬製剤を用いた防除方法に関するものであり、さらに詳しくは、有効成分の溶出性を制御し、播種時から田植え時の処理にもかかわらず播種時から収穫時期までの病害虫被害の予防が可能な徐放性農薬製剤を用いた水稲病害虫被害予防方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、稲作の低コスト化を指向して急速に水田の大規模化や機械化が進められている。それに対応するように農薬の散布方法に関する技術革新が進み、各種省力型製剤及び散布方法が検討されるようになっている。その一方、近年、農業従事者の減少或いは高齢化の問題から、農薬散布の省力化が求められている。そのような状況下で、病害虫防除の分野では育苗箱処理に代表される田植え時以前の処理に対応した薬剤が数多く開発されており、その結果、多大な労力を必要とする本田散布が求められる場面は以前に比べて減少している。しかし、最近、生育期後半時に、出穂時期前後のカメムシ類、ウンカ類等の吸汁性害虫の多発生やフタオビコヤガ等の鱗翅目害虫が全国的に問題となっている。これら害虫は、市販製剤による田植え前処理では十分防除できないことから、田植え前の薬剤処理を行った水田においても適当な薬剤の生育後期の本田散布による防除が余儀なくされているのが実状である。また、2006年7月にポジティブリスト制度が施行され、農薬散布による農薬成分のドリフトが問題視されている。以上のことから、育苗箱における一度の薬剤処理で収穫時期まで病害虫被害を予防する、つまり途中の薬剤防除が省かれる方法が強く要望されている。
【0003】
このような背景から、特開2004−043436号公報には農薬活性成分を含有する芯材を水不溶性或いは水難溶性の膜で被覆して得られる徐放化被覆製剤を用いて、出穂期に発生するカメムシ類を防除する方法が提案されている。しかしながら、当該明細書中には芯剤に関する内容の記載が全くなく、図中に「芯剤(農薬活性成分、担体、界面活性剤など)」とだけ記載されているに過ぎない。また、当該明細書中には芯剤の担体、界面活性剤などに関する記載は一切ない。特にカメムシによる斑点米被害はわずかな発生であっても米の等級に影響を与えることが知られており、農林水産省における着色米の判定基準によれば、斑点米率0.1%以下で一等米、0.3%以下で二等米、0.7%以下で三等米となり、0.7%を超える場合は等級外となる。当該明細書の試験例1及4におけるカメムシに対する試験は、斑点米率0.7%であり、三等米に相当する。従って、無処理に対しては優位であるが、十分な斑点米抑制効果と言えるものではない。また、当該結果は、育苗箱に処理した後、ポット試験を実施している試験であり、より過酷な圃場試験において十分な効果があることを明示するものではない。また、農薬活性成分を含有する芯材を水不溶性或いは水難溶性の膜で被覆して得られる徐放化被覆製剤は既に公知であると同時に、実施例で示されているイネミズゾウムシ、セジロウンカの試験期間における防除効果は予想される範囲のものであり、出穂後までに発生する水稲病害虫の防除に有効とはいえない。
【0004】
また、当該の製剤処方、調製法に関わる特許である特開2002−179504号公報及び特開2002−179505号公報には病害虫防除効果について特に記載されていない。
【特許文献1】特開2004−043436号公報
【特許文献2】特開2002−179504号公報
【特許文献3】特開2002−179505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水稲の病害虫に対して防除効果を有する農薬活性成分の溶出性を制御し、育苗箱における一回の薬剤処理で水稲栽培期間を通じて主要な病害虫被害、特にカメムシの斑点米の予防が可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究・検討を進めたところ、(RS)−1−メチル−2−ニトロ−3−(3−テトラヒドロフリルメチル)グアニジン(一般名ジノテフラン)、或いは3−(2−クロロ−1,3−チアゾール−5−イルメチル)−5−メチル−1,3,5−オキサジアジナン−4−イリデン(ニトロ)アミン(一般名チアメトキサム)を有効成分とし、水に難溶性の熱可塑性材料を含有する芯剤造粒物の周囲を、水に難溶性の熱可塑性材料で被覆した徐放性粒剤を、水稲育苗箱に適用することにより、出穂後期のカメムシ斑点米被害を含む、播種時から収穫時に到る水稲病虫害を予防できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、ジノテフラン、或いはチアメトキサムを有効成分とし、水に難溶性の熱可塑性材料を含有する芯剤造粒物の周囲を、水に難溶性の熱可塑性材料で被覆した徐放性粒剤を、水稲育苗箱に適用することを特徴とする、播種時から収穫時に到る水稲病害及び/または害虫被害を予防する方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の予防方法によれば、水稲育苗箱に適用することにより、既存の市販製剤では困難である出穂後期のカメムシ斑点米被害、ウンカ類、その他鱗翅目害虫を含む、播種時から収穫時に到る水稲病虫害を予防できる。また、育苗箱における1回の薬剤処理により水稲栽培期間を通じて主要な病害虫の被害が予防可能であるため、大いに省力化をはかることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に使用される徐放性粒剤とは、芯剤には少なくともジノテフラン、或いはチアメトキサムを含有し、水に難溶性の熱可塑性材料を含有する芯剤造粒物の周囲を、水に難溶性の熱可塑性材料で被覆した徐放性粒剤を指す。芯剤造粒物に使用される水に難溶性の熱可塑性材料とは、含有する粉体状のジノテフランと無機系希釈担体の混合物を一体化とジノテフランの徐放化に寄与する材料である。
【0010】
当該の熱可塑性材料とは、20℃における水溶解度が0.5%未満の、常温で固体状の有機物であり、融点が70〜110℃、好ましくは72〜100℃、より好ましくは74〜98℃の範囲のものを指す。具体的には、キャンデリラワックス、シュガーケンワックス、ライスワックスなどの植物系ワックス、モンタン酸ワックス、オゾケライト、セレシンなどの鉱物系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムなどの石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの合成炭化水素、モンタン酸ワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体などの変性ワックス、硬化ヒマシ油、硬化ヒマシ油誘導体の水素化ワックス、12−ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸アミド、無水フタル酸イミド、さらには塩素化炭化水素基を有する脂肪酸、酸アミド、エステル、ケトン等が挙げられる。中でも、ASTMD1386 に規定される試験法に従い、アルカリを用いた滴定により求められる酸価として、酸価が10mgKOH/g以上のものが好ましい。例えば、シュガーケンワックス(融点;75℃、酸価;約21mgKOH/g)やモンタン酸ワックス(BASF社製、商品名Luwax S、融点;75〜85℃、酸価;135〜160mgKOH/g)、モンタン酸エステルワックス(BASF社製、商品名Luwax E、融点;75〜85℃、酸価;10〜25mgKOH/g)などが特に好適である。
【0011】
なお、これらのワックス、熱可塑性材料は、一種のみを用いる他、二種以上を混合して使用してもよい。熱可塑性材料合計の使用量は、徐放性農薬粒剤を構成する芯剤造粒物の全重量に対して、通常5質量%以上、好ましくは、10質量%以上に選択するが、添加されるジノテフラン、或いはチアメトキサムの量、無機系希釈担体の物性とその量を考慮して、適宜決めることができる。好ましくは、経済的な観点から、熱可塑性材料の添加量の上限は、20質量%に選択するとよい。
【0012】
芯剤造粒物用の無機系希釈担体は、少なくともほとんど水溶性を示さない限り、特に限定されるものではなく、例えば、クレー、珪石、タルク、ベントナイト、炭酸カルシウム、軽石、ケイソウ土、バーミキュライト、パーライト、アタパルジャイトおよび非晶質含水珪酸、通称ホワイトカーボンなどが挙げられ、通常農薬粉剤や粒剤に利用される、いわゆる増量剤や担体が一種またはそれ以上を併用できる。
【0013】
また、芯剤造粒物には、前記無機系希釈担体以外に、本発明の目的と効果を損なわない範囲で、酸化防止剤や紫外線吸収剤、帯電防止剤などの各種添加剤をも添加することもできる。例えば、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤や、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、ビタミンE系酸化防止剤などが挙げられる。また、紫外線吸収剤としては、二酸化チタンなどの無機化合物系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾールやベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエート、サリシレートなどの有機化合物系紫外線吸収剤などが挙げられる。その際、これら酸化防止剤や紫外線吸収剤は、必要に応じて添加すればよく、その効果が認められる量を配合すればよい。
【0014】
さらに、帯電防止剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの無機化合物、リン酸カルシウム系化合物などが挙げられる。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルなどのリン酸エステル系界面活性剤も、帯電防止剤として使用することができる。なお、帯電防止剤は必要に応じて使用すればよく、その配合量も本発明の目的と効果を損なわない範囲で、帯電防止効果が認められる量とすればよい。
また、本発明に使用される徐放性粒剤において、被覆される熱可塑性材料には殺虫剤または殺菌剤を添加または無添加で使用できる。
【0015】
添加できる殺虫剤としては、イソキサチオン、クロルピリホスメチル、ジメチルビンホス、ダイアジノン、ピリダフェンチオン、プロパホス、マラソン、EPN、DEP、PAP、MIPC、MPP、MEP、カルボスルファン、チオジカルブ、ベンフラカルブ、XMC、カルボフラン、BPC、NAC、シクロプロトリン、シラフルオフェン、エトフェンプロックス、カルタップ、チオシクラム、ベンスルタップ、ジノテフラン、イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、ニテンピラム、クロマフェノジド、テブフェノジド、メトキシフェノジド、フィプロニル、エチプロール、硫酸ニコチン、スピノサド、ピメトロジン、フロニカミド、ブプロフェジン、また、一般式(A)(化1)
【0016】
【化1】

【0017】
[式中、R11はメチル基またはクロル基を表し、R12はメチル基、クロル基、ブロモ基またはシアノ基を表し、R13はクロル基、ブロモ基、トリフルオロメチル基またはシアノメトキシ基を表し、R14はメチル基またはイソプロピル基を表す。]で表される化合物(この化合物はWO2003315519に記載されており、殺虫活性並びに製造法が記載されている。)、並びに、一般式(B)(化2)
【0018】
【化2】



【0019】
で表される化合物(この化合物は特開2001−342186に記載されており、殺虫活性並びに製造法が記載されている。)が挙げられる。
【0020】
添加できる殺虫剤として好ましくは、カルボスルファン、ベンフラカルブ、カルタップ、ベンスルタップ、イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、フィプロニル、エチプロール、スピノサド、ピメトロジンまた、一般式(A)(化3)
【0021】
【化3】

【0022】
[式中、R11はメチル基またはクロル基を表し、R12はメチル基、クロル基、ブロモ基またはシアノ基を表し、R13はクロル基、ブロモ基、トリフルオロメチル基またはシアノメトキシ基を表し、R14はメチル基またはイソプロピル基を表す。]で表される化合物(この化合物はWO2003315519に記載されており、殺虫活性並びに製造法が記載されている。)、並びに、一般式(B)(化4)
【0023】
【化4】



【0024】
で表される化合物(この化合物は特開2001−342186に記載されており、殺虫活性並びに製造法が記載されている。)である。
【0025】
添加できる殺菌剤としては、チフルザミド、フルトラニル、メプロニル、ペンシクロン、カルプロパミド、ジクロシメット、トリシクラゾール、ピロキロン、フェノキサニル、フサライド、アゾキシストロビン、メトミノストロビン、オリサストロビン、カスガマイシン、バリダマイシン、テクロフタラム、オキシテトラサイクリン、ストレプトマイシン、フェリムゾン、シメコナゾール、フラメトピル、銅、チオファネートメチル、EDDP、IBP、メタラキシル、イプロジオン、ヒドロキシイソキサゾール、オキソリニック酸、プロヘキサジオンカルシウム塩、(RS)−N−[2−(1,3−ジメチルブチル)チオフェン−3−イル]−1−メチル−3−トリフルオロメチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド(一般名申請中:ペンチオピラド)、ジクロメジン、イミノクタジン酢酸塩、イソプロチオラン、チアジニル、プロベナゾール、アシベンゾラルSメチルである。
【0026】
本発明に使用される徐放性粒剤において、被覆される熱可塑性材料とは、前記芯剤造粒物に用いられる熱可塑性材料と同様の材料であるが、作業性の観点からその融点は芯剤造粒物に用いられる熱可塑剤材料よりも低い方が好ましい。具体的な融点は40〜70℃、好ましくは50〜69℃、より好ましくは60〜68℃の範囲に選択することが望ましい。また、被覆される熱可塑性材料は、作業性の観点から溶融粘度が低いものが好ましい。かかる熱可塑性材料の具体例として、キャンデリラワックス、木ロウ等の植物系ワックス、蜜蝋、ラノリン、鯨ロウ、牛脂等の動物系ワックス、パラフィンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス等の合成炭化水素、パラフィンワックス誘導体等の変性ワックスなどが挙げられる。この中でも、特にパラフィンワックスがより好ましく、日本精蝋(株)製、商品名パラフィンワックス140、融点;61℃や商品名SP−0145、融点;63℃、商品名パラフィンワックス150、融点;66℃などが例示できる。
【0027】
本発明に使用される徐放性粒剤において、被覆される熱可塑性材料には、本発明の目的と効果を損なわない範囲で、界面活性剤及び/または水溶性高分子を添加してもよい。加えて、界面活性剤や水溶性高分子以外にも、補助剤ならびに無機系希釈担体を含有させることもできる。
【0028】
本発明の徐放性粒剤において、被覆される熱可塑性材料に添加可能な界面活性剤としては、農薬製剤に通常使用される非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。例えば、アルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポチオキシエチレンソルビタンアルキレート、ポリオキシエチレンフェニルエーテルポリマー、ポリオキシエチレンアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等の非イオン性界面活性剤、リグニンスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルサルフェート、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェート等の陰イオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アミンオキサイド等の陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤を添加する際には、一種でもよいが、同種のものあるいは異種のものを併用してもよい。
【0029】
本発明に使用される徐放性粒剤において、被覆される熱可塑性材料に添加可能な水溶性高分子としては、例えば、アクリル系高分子、ビニル系高分子、ポリオキシアルキレンなどの合成高分子、セルロース誘導体、加工デンプン、リグニン誘導体などの半合成高分子、天然高分子等が挙げられる。より具体的には、アクリル系高分子としては、ポリアクリル酸ソーダ、ポリメタクリル酸ソーダなど、ビニル系高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル共重合体など、また、ポリオキシアルキレンとしては、ポリオキシエチレンやポリオキシプロピレンなどが挙げられる。さらに、セルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストリン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどを挙げられ、加工デンプンとしては、変性デンプン、カルボキシメチルデンプン、可溶性デンプンなど、また、リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸ナトリウムなどを挙げることができる。一方、天然高分子としては、アラビアガム、キサンタンガム、トラガントガム、グアーガム、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸ソーダなどの多糖類や、カゼイン、ゼラチン、コラーゲンなどのタンパク質類を、代表的な例として挙げることができる。以上に例示する水溶性高分子の中でも、特に、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガムを用いることが好ましく、その分子量は、通常5000〜5000000、好ましくは10000〜3000000の範囲となるものを選択することがより好ましい。
【0030】
本発明に使用される徐放性粒剤においては、被覆される熱可塑性材料に添加可能な無機系希釈担体は、特に限定されるものではなく、例えば、クレー、珪石、タルク、ベントナイト、炭酸カルシウム、軽石、ケイソウ土、バーミキュライト、パーライト、アタパルジャイトおよび非晶質含水珪酸、通称ホワイトカーボンなどが挙げられ、通常、農薬粉剤に利用される、いわゆる増量剤や希釈担体が1種またはそれ以上を併用できる。
また、本発明の徐放性粒剤における被覆される熱可塑性材料にも、補助剤として、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、さらには、芳香族カルボン酸、多価カルボン酸、糖誘導型カルボン酸等の固体状の有機酸などを添加することもできる。この酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤に関しては、先に造粒物中に添加可能なものとして例示したものを利用することが可能である。一方、補助剤として利用可能な有機酸の具体例としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等の二塩基酸、あるいはリンゴ酸、酒石酸等のヒドロキシ置換二塩基酸、アスコルビン酸、クエン酸等の糖誘導型カルボン酸が挙げられる。
【0031】
被覆される熱可塑性材料に添加される成分となる界面活性剤、水溶性高分子、無機系希釈担体及び補助剤の添加量は、その合計量は、徐放性粒剤の全重量に対して、通常、0.01質量%〜70質量%、好ましくは0.01質量%〜60質量%、より好ましくは0.01質量%〜40質量%、より好ましくは0.01質量%〜20質量%、より好ましくは0.01質量%〜10質量%の範囲から選択する。
【0032】
本発明の方法により、イネミズゾウムシ、イネゾウムシ、イネドロオイムシなどの甲虫目害虫、イネヒメハモグリバエ、イネハモグリバエ、イネキモグリバエイネクキミギワバエなどの双翅目害虫、ツマグロヨコバイ、イナズマヨコバイ、セジロウンカ、ヒメトビウンカ、トビイロウンカ、イネクロカメムシなどの半翅目害虫、コブノメイガ、ニカメイチュウ、サンカメイチュウ、イネツトムシ、フタオビオヤガ、イネヨトウ、アワヨトウ、イネキンウワバなどの鱗翅目害虫、イネアザミウマなどのアザミウマ目害虫、コバネイナゴ、ハネナガイナゴなどの直翅目害虫の被害が予防できる。特に、出穂期以降に問題となる斑点米カメムシとしては、ナカグロカスミカメ、ブチヒゲクロカスミカメ、ハナグロミドリカスミカメ、マダラカスミカメ、マキバカスミカメ、アカスジカスミカメ、ムギカスミカメ、アカミャクカスミカメ、ナカムギカスミカメ、アカヒゲホソミドリカスミカメなどのカスミカメムシ科、メダカナガカメムシなどのメダカナガカメムシ科、ヒメヒラタナガカメムシ、モンシロナガカメムシ、ウスグロシロヘリナガカメムシ、シロヘリナガカメムシ、アムールシロヘリナガカメムシ、チャイロナガカメムシ、ヒメナガカメムシ、ミナミホソナガカメムシ、クロアシホソナガカメムシ、キベリヒョウタンナガカメムシ、ヒラタヒョウタンナガカメムシ、サビヒョウタンナガカメムシ、ヒゲナガカメムシ、ヨツボシヒョウタンナガカメムシ、マダラナガカメムシ、コバネヒョウタンナガカメムシなどのナガカメムシ科、フタモンホシカメムシなどのホシカメムシ科、アズキヘリカメムシ、ヒメハリカメムシ、ハリカメムシ、ホソハリカメムシ、ホシハラビロヘリカメムシなどのヘリカメムシ科、ヒメクモヘリカメムシ、クモヘリカメムシ、タイワンクモヘリカメムシ、ホソヘリカメムシなどのホソヘリカメムシ科、アカヒメヘリカメムシ、ブチヒゲヘリカメムシなどのヒメヘリカメムシ科、チャイロカメムシなどのキンカメムシ科、エビイロカメムシ、ウズラカメムシ、トゲカメムシ、ムラサキカメムシ、ブチヒゲカメムシ、ハナダカカメムシ、ムラサキシラホシカメムシ、マルシラホシカメムシ、オオトゲシラホシカメムシ、トゲシラホシカメムシ、シラホシカメムシ、クサギカメムシ、イネカメムシ、ツマジロカメムシ、アオクサカメムシ、ミナミアオカメムシ、エゾアオカメムシ、イチモンジカメムシ、チャバネアオカメムシ、アカカメムシ、イネクロカメムシなどの被害が予防できる。
【0033】
必要により殺虫剤及び/または殺菌剤を被覆される熱可塑性材料に添加することにより、上記に加え、スクミリンゴガイなどの水田初期から中期に発生する害虫、いもち病、紋枯病、ごま葉枯れ病、白葉枯病などの水稲病害を防除することができる。
【0034】
本発明の方法における育苗箱への適用方法は、育苗培土混和処理、播種時処理、緑化期処理、移植3日前から当日処理のいずれも可能である。これら各処理法における徐放化粒剤の処理量に特に制限はないが、通常のイネ育苗箱(約30cm×約60cm)あたり20g〜150g程度が好ましい。本発明の方法は、育苗培土の種類、イネの品種及びそのイネが遺伝子組み替えであるか否かに関係なく使用することができ、籾伝染性病害および育苗培土から感染する病害を防除するための種籾処理あるいは育苗期処理、他製剤による本田処理や生物的防除、あるいは物理的防除などの他の方法による防除と組み合わせてもよい。また、水稲栽培において一般的に行われる除草剤による雑草防除や施肥を組み合わせることなど、通常の水稲栽培において本発明を使用することに何ら問題はない。
【実施例】
【0035】
次に実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。これらの実施例は、本発明における最良の実施の形態の一例ではあるものの、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。下記する具体例では、水稲用の育苗箱用粒剤に適用する事例、その調製方法を挙げるが、得られる製剤処方は何ら限定されるものではない。なお、下記する実施例などの具体例で示す配合割合はすべて質量%とする。
【0036】
製剤例1
ジノテフラン 12質量%、モンタン酸エステルワックス(BASF社製、商品名Luwax E) 18質量%、タルク 10質量%、炭酸カルシウム 58質量%、ホワイトカーボン 2質量%を一括して加熱装置を装着したフローティングミキサーに入れ、83℃まで加熱し混合した。この混合物を加熱装置により90℃に保持した横型押し出し造粒機(目開き0.8mm)を用いて押し出し造粒した後解砕、篩別し、造粒物(芯剤)を得た。
得られた造粒物(芯剤) 67質量%を、加熱装置を装着したフローティングミキサーの中に入れ70℃まで加温しながら混合し、外層部の原料粉末としてパラフィンワックス(日本精鑞(株)製、商品名パラフィンワックス150) 4質量%、クレー 7質量%、炭酸カルシウム 22質量%を混合した粉末を定量的に添加し、芯剤に外層部を被覆したジノテフランを8%含有する粒剤(製剤1)を得た。
【0037】
製剤例2
ジノテフラン 15質量%、モンタン酸エステルワックス(BASF社製、商品名Luwax E) 18質量%、タルク 10質量%、炭酸カルシウム 55質量%、ホワイトカーボン 2質量%を一括して加熱装置を装着したフローティングミキサーに入れ、83℃まで加熱し混合した。この混合物を加熱装置により90℃に保持した横型押し出し造粒機(目開き0.8mm)を用いて押し出し造粒した後解砕、篩別し、造粒物(芯剤)を得た。
得られた造粒物(芯剤) 67質量%を、加熱装置を装着したフローティングミキサーの中に入れ70℃まで加温しながら混合し、外層部の原料粉末としてパラフィンワックス(日本精鑞(株)製、商品名パラフィンワックス150) 4質量%、クレー 7質量%、炭酸カルシウム 22質量%を混合した粉末を定量的に添加し、芯剤に外層部を被覆したジノテフランを10%含有する粒剤(製剤2)を得た。
【0038】
製剤例3
ジノテフラン 18質量%、モンタン酸エステルワックス(BASF社製、商品名Luwax E) 18質量%、タルク 10質量%、炭酸カルシウム 52質量%、ホワイトカーボン 2質量%を一括して加熱装置を装着したフローティングミキサーに入れ、83℃まで加熱し混合した。この混合物を加熱装置により90℃に保持した横型押し出し造粒機(目開き0.8mm)を用いて押し出し造粒した後解砕、篩別し、造粒物(芯剤)を得た。
得られた造粒物(芯剤) 67質量%を、加熱装置を装着したフローティングミキサーの中に入れ70℃まで加温しながら混合し、外層部の原料粉末としてパラフィンワックス(日本精鑞(株)製、商品名パラフィンワックス150) 4質量%、クレー 7質量%、炭酸カルシウム 22質量%を混合した粉末を定量的に添加し、芯剤に外層部を被覆したジノテフランを12%含有する粒剤(製剤3)を得た。
【0039】
製剤例4
ジノテフラン 15質量%、モンタン酸エステルワックス(BASF社製、商品名Luwax E) 18質量%、タルク 10質量%、炭酸カルシウム 55質量%、ホワイトカーボン 2質量%を一括して加熱装置を装着したフローティングミキサーに入れ、83℃まで加熱し混合した。この混合物を加熱装置により90℃に保持した横型押し出し造粒機(目開き0.8mm)を用いて押し出し造粒した後解砕、篩別し、造粒物(芯剤)を得た。
得られた造粒物(芯剤) 67質量%を、加熱装置を装着したフローティングミキサーの中に入れ70℃まで加温しながら混合し、外層部の原料粉末としてプロペナゾール 24質量%、パラフィンワックス(日本精鑞(株)製、商品名パラフィンワックス150) 4質量%、炭酸カルシウム 5質量%を混合した粉末を定量的に添加し、芯剤にジノテフランを10%、外層部にプロペナゾール 24質量%含有する粒剤(製剤4)を得た。
【0040】
試験例1
圃場での育苗箱処理におけるカメムシ類に対する防除効果
発生害虫:アカスジカスミカメ、アカヒゲホソミドリカスミカメ、マキバカスミカメ
区制:1区3a(10m×30m)1反復制
試験方法:育苗箱のイネ(ひとめぼれ)2.4葉期苗の株元土壌表面に上記製剤1で調製した粒剤を育苗箱辺り50g散布し、田植え機を用いて移植した。出穂7日後から約1週間おきに掬い取り(20回振り:区内2箇所)を行った。対照剤としてダントツH粉剤DL、スタークル粉剤DLを用い、出穂7日後にパイプダスターを用いて所定量を散布した。定植(処理)137日後(収穫時)に区内からランダムに100〜150穂(2反復)抜き取りを行い、斑点米を調査した。
表1に記載のように出穂29日後までは各種のカメムシの飛込みが観察された。その一方で、表2に示したように、製剤1は出穂7日後に散布した比較対照の粉剤と同等もしくはそれ以上に斑点米の発生を抑制した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
試験例2
圃場での育苗箱処理における水稲害虫に対する防除効果
発生害虫:イネミズゾウムシ、イネドロオイムシ、イネハモグリバエ
アカヒゲホソミドリカスミカメ(網掛け放飼)
区制 :1区1a(5m×20m)1反復制
試験方法:育苗箱のイネ(あきたこまち)2.3葉期苗の株元土壌表面に上記製剤1、2、3で調製した粒剤を育苗箱辺り50g散布し、田植え機を用いて移植した。
調査方法:
○イネミズゾウムシ、イネドロオイムシ
定植(処理)11日後から畦畔沿いの100株に寄生する成幼虫数を調査した。同時に、葉の食害程度を調査した。処理60日後に区あたり10株掘り起し、根部に寄生する幼虫、繭数を計数した。
○アカヒゲホソミドリカスミカメ
試験区内に10株を覆うように網室を設置(3室/区)し、出穂6、及び13日後にアカヒゲホソミドリカスミカメ♀成虫10頭を放飼した。収穫時に網室内の穂を全て回収し、斑点米を調査した。
表3に記載のように調査期間中の移植62日後まで、無処理に比べイネミズゾウムシ、イネドロオイムシに対して防除効果を示した。また、表4に記載のように株の掘り起こしによるイネミズゾウムシ幼虫の密度を調査したところ、殆ど幼虫が認められず、無処理に対して高い防除効果を示した。
さらに、表5に記載のように製剤1〜3は、出穂6及び13日後のアカヒゲホソミドリカスミカメ放飼試験で無処理に対して高い斑点米抑制効果を確認した。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(RS)−1−メチル−2−ニトロ−3−(3−テトラヒドロフリルメチル)グアニジン(一般名ジノテフラン)或いは3−(2−クロロ−1,3−チアゾール−5−イルメチル)−5−メチル−1,3,5−オキサジアジナン−4−イリデン(ニトロ)アミン(一般名チアメトキサム)を有効成分とし、水に難溶性の熱可塑性材料を含有する芯剤造粒物の周囲を、水に難溶性の熱可塑性材料で被覆した徐放性粒剤を、水稲育苗箱に適用することを特徴とする、播種時から収穫時に到る水稲病害及び/または害虫被害を予防する方法。
【請求項2】
芯剤造粒物に含まれる熱可塑性材料がモンタン酸ワックス及び/またはモンタン酸エステルワックスである請求項1記載の方法。
【請求項3】
芯剤造粒物を被覆する熱可塑性材料に殺虫剤及び/または殺菌剤を含有させた請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
殺虫剤が、イソキサチオン、クロルピリホスメチル、ジメチルビンホス、ダイアジノン、ピリダフェンチオン、プロパホス、マラソン、EPN、DEP、PAP、MIPC、MPP、MEP、カルボスルファン、チオジカルブ、ベンフラカルブ、XMC、カルボフラン、BPC、NAC、シクロプロトリン、シラフルオフェン、エトフェンプロックス、カルタップ、チオシクラム、ベンスルタップ、ジノテフラン、イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、ニテンピラム、クロマフェノジド、テブフェノジド、メトキシフェノジド、フィプロニル、エチプロール、硫酸ニコチン、スピノサド、ピメトロジン、フロニカミド、ブプロフェジン、また、一般式(A)(化1)
【化1】


[式中、R11はメチル基またはクロル基を表し、R12はメチル基、クロル基、ブロモ基またはシアノ基を表し、R13はクロル基、ブロモ基、トリフルオロメチル基またはシアノメトキシ基を表し、R14はメチル基またはイソプロピル基を表す。]で表される化合物、並びに、一般式(B)(化2)
【化2】



で表される化合物からなる群より選ばれ、
殺菌剤が、チフルザミド、フルトラニル、メプロニル、ペンシクロン、カルプロパミド、ジクロシメット、トリシクラゾール、ピロキロン、フェノキサニル、フサライド、アゾキシストロビン、メトミノストロビン、オリサストロビン、カスガマイシン、バリダマイシン、テクロフタラム、オキシテトラサイクリン、ストレプトマイシン、フェリムゾン、シメコナゾール、フラメトピル、銅、チオファネートメチル、EDDP、IBP、メタラキシル、イプロジオン、ヒドロキシイソキサゾール、オキソリニック酸、プロヘキサジオンカルシウム塩、(RS)−N-[2−(1,3−ジメチルブチル)チオフェン−3−イル]−1−メチル−3−トリフルオロメチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド(一般名申請中:ペンチオピラド)、ジクロメジン、イミノクタジン酢酸塩、イソプロチオラン、チアジニル、プロベナゾール、アシベンゾラルSメチルからなる群より選ばれる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
殺虫剤が、カルボスルファン、ベンフラカルブ、カルタップ、ベンスルタップ、イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、フィプロニル、エチプロール、スピノサド、ピメトロジン、また、一般式(A)(化3)
【化3】


[式中、R11はメチル基またはクロル基を表し、R12はメチル基、クロル基、ブロモ基またはシアノ基を表し、R13はクロル基、ブロモ基、トリフルオロメチル基またはシアノメトキシ基を表し、R14はメチル基またはイソプロピル基を表す。]で表される化合物、並びに、一般式(B)(化4)
【化4】



で表される化合物からなる群より選ばれ、
殺菌剤が、チフルザミド、カルプロパミド、ジクロシメット、トリシクラゾール、ピロキロン、アゾキシストロビン、オリサストロビン、フラメトピル、イソプロチオラン、チアジニル、プロベナゾール、アシベンゾラルSメチルからなる群より選ばれる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
育苗箱への適用方法が、育苗培土混和処理、播種時処理、緑化期処理、移植3日前から当日処理である請求項1から5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
害虫被害がカメムシによる斑点米被害である請求項1から6のいずれか一項記載の方法。

【公開番号】特開2008−143809(P2008−143809A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330704(P2006−330704)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】