説明

水系バインダー用ポリマー組成物

【課題】低粘度であるとともにフィラーの分散性が良好であり、かつ、フィラーの結着性を向上させて耐擦性及び耐水性に優れた塗膜を形成可能な水系インク等のフィラー分散液を調製することのできる水系バインダー用ポリマー組成物を提供する。
【解決手段】(1)(a)乳化剤の存在下、(b)分子内に一のエチレン性不飽和結合を有する第一のモノマー、及び(c)分子内に二以上のエチレン性不飽和結合を有する第二のモノマー、を乳化重合させて得られる重合体と、(2)ワックスと、を含有する水系バインダー用ポリマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インク等に添加して用いられる水系バインダー用ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機質又は無機質のフィラーをプラスチックやゴム等の高分子成分と混合し、各種製品に幅広く応用することが検討されている。フィラーは、高分子成分の力学的性質や熱的性質を改良したり、高分子成分に対して磁気的特性、電気的特性、光学的特性、制振性、遮音性、吸湿性、吸油性、放射線吸収性等の種々の機能を付与したりする等の優れた特徴を有するものである。但し、フィラー単独では、フィルム化、シート化等の加工性や成形性、或いは耐擦性等の諸特性が必ずしも良好ではないため、高分子系のバインダー樹脂と混合して使用されるのが一般的である。
【0003】
このような高分子系のバインダー樹脂は、磁性塗料、導電性樹脂、光拡散フィルム、摩擦材、摺動材、研摩物品、抗菌性樹脂、塗料、インク等の材料に広く利用されている。このような用途で用いられるバインダー樹脂に要求される基本性能としては、フィラーの分散性を維持又は向上すること、フィラーの結着性を向上させて耐擦性を付与すること、基材に対するフィラーの密着性を向上させること、フィラーと混合しても得られる混合物(分散液)の粘度を低く維持すること等を一般的に挙げることができる。
【0004】
なお、具体的に用いられているバインダー樹脂としては、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル、ポリスチレン、ポリエステルアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ジエン系ポリマー等が知られている。また、同様の用途に用いられる水系のバインダー樹脂としては、例えば、スチレン−ブタジエン系ゴムエマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン(例えば、特許文献1参照)等の乳化重合により得られるエマルジョン;ポリウレタン、ポリエステル等のエマルジョン;ビニルアルコール系樹脂エマルジョン(例えば、特許文献2参照);ジエン系ポリマーのスルホン化物エマルジョン(例えば、特許文献3参照)等のバインダー樹脂エマルジョンが一般的に知られている。しかしながら、これらのバインダー樹脂エマルジョンは、前述の基本性能を必ずしも備えたものではないため、更なる特性の向上が求められている。
【0005】
関連する従来技術として、エチレン性不飽和結合を有するモノマーを反応性乳化剤の存在下で乳化重合して得られる水系インクジェットインク用のエマルジョンが開示されている(例えば、特許文献4参照)。このエマルジョンを用いれば、水系インクジェットインクで印字した印字物の耐擦性や光沢性等が向上するものとされている。
【0006】
【特許文献1】特許第3467831号明細書
【特許文献2】特開2000−63728号公報
【特許文献3】特開平10−298206号公報
【特許文献4】国際公開第2006/073149号パンフレット
【特許文献5】特開2003−261805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4で開示されたエマルジョンを用いても、印字物の耐擦性等の向上効果は必ずしも十分に発揮されない場合がある等の問題があった。耐擦性の更なる向上を図るべく、バインダー樹脂エマルジョンに対してワックスのエマルジョンを添加すると(例えば、特許文献5参照)、印字物等の耐擦性が向上する一方で、得られるエマルジョン組成物の粘度が上昇して保存安定性が低下してしまうといった問題がある。また、印字物等の耐水性も低下してしまう場合があるため、これらの問題を解消する必要があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、低粘度であるとともにフィラーの分散性が良好であり、かつ、フィラーの結着性を向上させて耐擦性及び耐水性に優れた塗膜を形成可能な水系インク等のフィラー分散液を調製することのできる水系バインダー用ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定のモノマーを乳化剤の存在下で乳化重合して得られる重合体と、ワックスとを配合することによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下に示す水系バインダー用ポリマー組成物が提供される。
【0011】
[1](1)(a)乳化剤の存在下、(b)分子内に一のエチレン性不飽和結合を有する第一のモノマー、及び(c)分子内に二以上のエチレン性不飽和結合を有する第二のモノマー、を乳化重合させて得られる重合体と、(2)ワックスと、を含有する水系バインダー用ポリマー組成物。
【0012】
[2]前記(a)乳化剤が、反応性乳化剤である前記[1]に記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【0013】
[3]前記(a)乳化剤が、アニオン性官能基を有するものである前記[1]又は[2]に記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【0014】
[4]前記(b)第一のモノマーが、(メタ)アクリル系モノマーである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【0015】
[5]前記(1)重合体が、数平均粒子径が10〜100nmの粒子状に分散した水系エマルジョンの状態で含有される前記[1]〜[4]のいずれかに記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【0016】
[6]前記(1)重合体の重量平均分子量が、30000〜200000である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【0017】
[7]前記(1)重合体が、(d)連鎖移動剤の存在下で乳化重合させて得られたものである前記[1]〜[6]のいずれかに記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【0018】
[8]水系インクに添加して使用される前記[1]〜[7]のいずれかに記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水系バインダー用ポリマー組成物は、低粘度であるとともにフィラーの分散性が良好であり、かつ、フィラーの結着性を向上させて耐擦性及び耐水性に優れた塗膜を形成可能な水系インク等のフィラー分散液を調製することができるといった効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0021】
本発明の水系バインダー用ポリマー組成物は、(1)(a)乳化剤の存在下、(b)分子内に一のエチレン性不飽和結合を有する第一のモノマー(以下、「(b)モノマー」ともいう)、及び(c)分子内に二以上のエチレン性不飽和結合を有する第二のモノマー(以下、「(c)モノマー」ともいう)、を乳化重合させて得られる重合体(以下、「成分(1)」ともいう)と、(2)ワックス(以下、「成分(2)」ともいう)と、を含有するものである。以下、その詳細について説明する。
【0022】
((a)乳化剤)
乳化剤は、その分子中に親水基、疎水基、及びラジカル反応性基を有する化合物であり、好適な乳化剤としては、反応性を有する反応性乳化剤を挙げることができる。親水基の具体例としては、硫酸エステル基、カルボン酸基、ポリオキシエチレン基等を挙げることができる。これらの親水基のなかでも、硫酸エステル基、ポリオキシエチレン基が好ましい。また、硫酸エステル基とポリオキシエチレン基の両方を一分子中に有するものが特に好ましい。
【0023】
疎水基の具体例としては、炭素数が5〜20の脂肪族アルキル基又は芳香族基を挙げることができる。なかでも、炭素数が8〜15の脂肪族アルキル基が好ましい。また、ラジカル反応性基の具体例としては、アクリル基、メタアクリル基、アリルオキシ基、メタアリルオキシ基、プロペニル基等のエチレン性不飽和基を挙げることができる。なかでも、アリルオキシ基、プロペニル基が好ましい。なお、好適に用いることのできる反応性乳化剤の具体例としては、下記一般式(1)〜(6)で表される構造を有する化合物を挙げることができる。
【0024】
【化1】

【0025】
前記一般式(1)〜(6)中、Rは炭素数5〜20の炭化水素基を示し、nは5〜40の整数を示す。なお、Rで表される炭素数5〜20の炭化水素基には、脂肪族アルキル基と芳香族基のいずれもが含まれる。
【0026】
なお、親水基には、アニオン性官能基、カチオン性官能基、及び非イオン性官能基のものがあり、いずれの官能基も好ましい。アニオン性官能基を有する市販の反応性乳化剤としては、商品名「ラテムルS−180A」(花王社製)、商品名「エレミノールJS−2」(三洋化成社製)、商品名「アクアロンKH−10」、商品名「アクアロンHS−10」、商品名「アクアロンBC−10」(以上、第一工業製薬社製)、商品名「アデカリアソープSE−10N」(旭電化工業社製)等を好適に使用することができる。また、非イオン性官能基を有する市販の反応性乳化剤としては、商品名「アクアロンRS−20」(第一工業製薬社製)、商品名「アデカリアソープER−20」(旭電化工業社製)等を好適に使用することができる。なお、カチオン性官能基を有する反応性乳化剤も好適に使用することができる。これらの反応性乳化剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
反応性乳化剤の使用量は、重合体(成分(1))が粒子状に分散した水系エマルジョンの状態で含有される場合における、重合体粒子の数平均粒子径にもよるが、(b)モノマー100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部が更に好ましい。0.5質量部未満であると、乳化が不十分となる場合があり、また、重合反応が不安定となる傾向にある。一方、10質量部超であると、得られる成分(1)の水系エマルジョンの泡立ちが問題となる傾向にある。
【0028】
(非反応性乳化剤)
乳化剤として反応性乳化剤を用いる場合において、その反応性乳化剤とともに、陰イオン性乳化剤、非イオン性乳化剤、陽イオン性乳化剤、両性イオン乳化剤、水溶性ポリマー等の非反応性乳化剤を用いることができる。陰イオン性乳化剤の具体例としては、高級アルコール硫酸エステルのアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸のアルカリ金属塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアルカリ金属塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのリン酸エステル塩等を挙げることができる。
【0029】
非イオン性乳化剤の具体例としては、リオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、糖鎖を親水基とするアルキルエーテル等を挙げることができる。陽イオン性乳化剤の具体例としては、アルキルピリジニルクロライド、アルキルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。また、両性イオン乳化剤の具体例としては、ラウリルベタイン等を挙げることができる。
【0030】
非反応性乳化剤の使用量は、(b)モノマー100質量部に対して、通常、5質量部以下である。これらの非反応性乳化剤は、一括、回分的、又は連続的、又はこれらを組み合わせた方法で重合反応系に添加すればよい。
【0031】
((b)モノマー)
(b)モノマーは、分子内に一のエチレン性不飽和結合を有するモノマーであれば、それ以外の分子構造に特に制限はない。(b)モノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ジビニルスチレン等の芳香族モノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヘチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸i−ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;イタコン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸;(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミド類;酢酸ビニル、プロピロン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;エチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物、モノアルキルエステル、モノアミド類;アミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ブチルアミノエチルアクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸のアミノアルキルエステル;アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミノアルキルアミド;(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系化合物;グリシジル(メタ)アクリレート等の不飽和脂肪族グリシジルエステル;アルコキシシラン基、水酸基、又はポリエチレンオキサイド基を官能基として含む官能基含有モノマー等を挙げることができる。
【0032】
前記官能基含有モノマーのうち、官能基としてアルコキシシラン基を含むアルコキシシラン基含有モノマーの具体例としては、γ−メタクリロキシトリエトキシシランを挙げることができる。官能基として水酸基を含む水酸基含有モノマーの具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルエチルを挙げることができる。また、官能基としてポリエチレンオキサイド基を含むポリエチレンオキサイド基含有モノマーの具体例としては、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名「ブレンマーPE200」(日本油脂社製))等を挙げることができる。
【0033】
(b)モノマーとしては、スチレン、(メタ)アクリル系モノマー、及び(メタ)アクリロニトリルが好ましい。なお、(メタ)アクリル系モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを挙げることができる。これらのうち、(b)モノマーとしては、(メタ)アクリル系モノマーが更に好ましい。なお、これらの(b)成分は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
((c)モノマー)
(c)モノマーは、分子内に二以上のエチレン性不飽和結合を有するモノマーである。(c)モノマーの具体例としては、ジビニルベンゼン、多官能(メタ)アクリレート類を挙げることができる。また、多官能(メタ)アクリレート類の具体例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリプロピレンジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;メチレンビスアクリルアミド等を挙げることができる。なかでも、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、メチレンビスアクリルアミドが好ましい。
【0035】
(c)モノマーの使用量は、(b)モノマー100質量部に対して、通常、1〜30質量部、好ましくは2〜20質量部、更に好ましくは3〜15質量部%である。(c)モノマーの使用量が、(b)モノマー100質量部に対して1質量部未満であると、フィラーの分散性が低下し易く、また、フィラーと混合して得られるインク等の粘度が高くなる傾向にある。一方、30質量部超であると、耐擦性が低下する傾向にある。
【0036】
((1)重合体)
本発明の水系バインダー用ポリマー組成物に含有される成分(1)((1)重合体)は、(a)乳化剤の存在下、(b)モノマー及び(c)モノマーを乳化重合させることで、例えば水系エマルジョンの状態で得ることができる。この乳化重合は、常法に従って行うことができる。なお、乳化重合に際しては、通常、ラジカル重合開始剤を用いる。用いることのできるラジカル重合開始剤の具体例としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機ハイドロパーオキサイド類からなる酸化剤と、還元剤との組み合わせであるレドックス系開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2−カルバモイルアザイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物等を挙げることができる。なかでも、有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0037】
これらのラジカル重合開始剤の使用量は、(b)モノマー100質量部に対して、通常、0.05〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0038】
乳化重合に際しては、(b)モノマー100質量部に対して、例えば、(a)乳化剤0.5〜5質量部、水100〜5000質量部、及びラジカル重合開始剤、並びに必要に応じて非反応性乳化剤等のその他の乳化剤や有機溶剤等を使用する。重合温度は、通常、5〜100℃、好ましくは30〜90℃である。また、重合時間は、通常、0.1〜10時間、好ましくは2〜5時間である。(b)モノマー及び(c)モノマーの添加方法は特に制限されるものではなく、一括添加法、連続添加法、又は分割添加法等の任意の方法が採用される。
【0039】
なお、上記の乳化重合は、(d)連鎖移動剤の存在下で行うことが好ましい。用いることのできる連鎖移動剤の具体例としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲンジスルフィド類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素類;ペンタフェニルエタン、1,1−ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマー等の炭化水素類の他;アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン等を挙げることができる。なかでも、メルカプタン類、キサントゲンジスルフィド類、チウラムジスルフィド類、四塩化炭素、1,1−ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマー、2−エチルヘキシルチオグリコレートが好ましい。これらの連鎖移動剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
連鎖移動剤の使用量は、(b)モノマー100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部、好ましくは0.2〜7質量部、更に好ましくは0.2〜5質量部、特に好ましくは0.3〜3質量部である。連鎖移動剤の使用量が、(b)モノマー100質量部に対して0.1質量部未満であると、十分な耐擦性が得られない場合がある。一方、10質量部超であると、フィラーの分散性が低下し易く、光沢や分散性が低下する場合がある。なお、連鎖移動剤の併用作用は明らかではないが、成分(1)に含まれるポリマーの末端に結合することにより成分(2)((2)ワックス)との相溶性が変化し、インク等に使用した場合に、成分(2)が塗膜の表面に出易くなる等の効果が発揮されるものと推測される。
【0041】
このようにして得られる成分(1)を含有する水系エマルジョンに分散した重合体粒子の数平均粒子径は、好ましくは10〜100nm、更に好ましくは30〜70nmである。なお、本明細書にいう数平均粒子径とは、動的光散乱法によって測定された値をいう。重合体粒子の数平均粒子径が100nm超であると、貯蔵安定性が不足し易く、また、融着により薄く均一な塗膜を形成することが困難となり、耐擦性が低下する傾向にある。一方、10nm未満であると、重合安定性が著しく低下する場合がある。なお、重合体粒子の数平均粒子径は、成分(1)の分子量や、乳化剤の使用量等によって適宜調整することができる。
【0042】
成分(1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5000〜30万、更に好ましくは1万〜25万、特に好ましくは3万〜20万である。なお、成分(1)の重量平均分子量(Mw)は、重合ラジカル開始剤の量と種類の選択、連鎖移動剤の使用等によって適宜調整することができる。
【0043】
((2)ワックス)
本発明の水系バインダー用ポリマー組成物に含有される成分(2)は、ワックスである。成分(2)の具体例としては、カルナバワツクス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物又は動物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレン系ワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;カーボンワックス、へキストワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類;α−オレフイン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョン;配合ワックス等を挙げることができる。なかでも、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックスが好ましく、ポリエチレンワックスが更に好ましい。これらのワックスは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらワックスを、常法により水に乳化することによって水系エマルジョンの状態で用いることが好ましい。
【0044】
ワックスの水系エマルジョンの具体例うち、市販品としては、商品名「AQUACER498」、商品名「AQUACER535」、商品名「AQUACER840」、商品名「AQUACER585」(以上、ビックケミージャパン社製)、商品名「ハイテックE2215」、商品名「ハイテックE2213」、商品名「ハイテックE9460」、商品名「ハイテックE9015」、商品名「ハイテックP9018」、商品名「ハイテックP5060P」(以上、東邦化学社製)等を挙げることができる。
【0045】
(水系バインダー用ポリマー組成物)
本発明の水系バインダー用ポリマー組成物に含有される成分(2)の量は、成分(1)の固形分100質量部に対して、固形分換算で、通常、5〜200質量部、好ましくは10〜150質量部、更に好ましくは15〜100質量部である。成分(2)の含有量が、成分(1)の固形分100質量部に対して、固形分換算で5質量部未満であると、形成される塗膜の耐擦性が不十分となる傾向にある。一方、200質量部超であると、形成される塗膜の耐水性が低下する傾向にある。
【0046】
本発明の水系バインダー用ポリマー組成物は、各種有機質又は無機質のフィラー等と混合し、これらを分散させて、バインダー組成物として使用することができる。フィラーとしては、インク、塗料等の有色性を付与するもの;剛性、引張強さ、耐衝撃性、靭性、摺動性等の力学的性質を付与するもの;耐熱性、熱膨張性、熱線放射性等の熱的性質を付与するもの;導電性、絶縁性、圧電性、焦電性、誘電性、半導体性、磁性、電磁波吸収性、電磁波反射性等の電気、磁気的特性を付与するもの;光透過性、遮光性、光散乱性、光吸収性、フォトクロミック性、紫外線吸収性、赤外線吸収性、耐光性、抗菌性等の光学的性質を付与するもの;制振性、遮音性、吸湿性、吸ガス性、吸油性、放射線吸収性等を付与するものを使用することができる。
【0047】
フィラーの具体例としては、有機顔料、カーボンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、木炭粉、炭素繊維、鉄、銀、銅、鉛、ニッケル、炭化ケイ素、酸化スズ、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化アンチモンフェライト、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸、ジルコン酸鉛、ホウ酸亜鉛、炭酸亜鉛、マイカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))粉、タルク、アスベスト、シリカビーズ、ガラス粉、ハイドロタルサイト、鉄フタロシアニン、シリカゲル、ゼオライト、セピオライト、ゾノトライト、活性白土、ポリマービーズ等を挙げることができる。
【0048】
本発明の水系バインダー用ポリマー組成物と上記のフィラーを混合する際には、溶媒として水を使用することが好ましい。但し、少量の有機溶剤を必要に応じて添加してもよい。添加することのできる有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤等を挙げることができる。これらの有機溶剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
本発明の水系バインダー用ポリマー組成物とフィラーを混合する方法は、特に制限はなく、撹拌機、サンドミル、ペイントコンディショナー、ボールミル等を用いる公知の方法を採用することができる。得られた混合液(フィラー分散液、バインダー組成物)を、ディップコート、スピンコート、バーコート等の公知の方法により、目的とする基材上に塗布し、必要に応じて、適当な温度で水等の溶媒を蒸発させれば塗膜を形成することができる。
【0050】
本発明の水系バインダー用ポリマー組成物とフィラーの混合割合は、得られるフィラー分散液の用途によってことなるため一概に定義することができないが、一例を挙げると、水系バインダー用ポリマー組成物の量は、フィラー100質量部に対して、通常、固形分換算で0.3〜200質量部、好ましくは0.5〜100質量部である。
【0051】
なお、フィラー分散液には、本発明の水系バインダー用ポリマー組成物以外の「その他のバインダー樹脂」を含有させることもできる。含有させることのできる「その他のバインダー樹脂」の具体例としては、ポリエステル系樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、セルロース系樹脂、ポリオルガノシロキサン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂等の水系エマルジョン樹脂等を挙げることができる。
【0052】
また、上記のフィラー分散液には、公知の難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定化剤、離型剤、可塑剤、着色剤、滑剤、発泡剤等を任意の添加剤として添加することもできる。本発明の水系バインダー用ポリマー組成物とフィラーの混合液(フィラー分散液、バインダー組成物)は、通常、ある種の基材に塗布されて使用される。なお、基材の材質については特に制限はない。基材の材質の具体例としては、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリブチレンテレフタレート等の高分子材料;アルミニウム、銅、ジュラルミン等の非鉄金属;ステンレス、鉄等の鋼板;織布、不織布等の多孔質材料の他;ガラス、木材、紙、石膏、アルミナ、無機質硬化体等を挙げることができる。
【0053】
本発明の水系バインダー用ポリマー組成物とフィラーを組み合わせることにより、種々用途に好適なフィラー分散液を提供することができる。本発明の水系バインダー用ポリマー組成物を用いて得られるフィラー分散液は、具体的には、(水系)インク、一般塗料、回路基板用塗料、導電性材料、電池材料、電池電極材料、電磁波シールド材料、帯電防止塗料、面状発熱体、電気化学的反応電極板、電気接点材料、摩擦材、抗菌材料、摺動材、研磨材料、磁気記録媒体、感熱記録材料、エレクトロクロミック材料、光拡散フィルム、通信ケーブル用遮水材、遮光フィルム、遮音シート、プラスチック磁石、X線増感スクリーン、農薬粒剤、電子写真トナー等の用途に好適である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0055】
[数平均粒子径(Dn)]:レーザー粒径解析システム(商品名「LPA3100」、大塚電子社製)を使用し、常法に従って測定した。
【0056】
[重量平均分子量(Mw)]:商品名「SC8010」(GPC、東ソー社製)を使用し、標準ポリスチレンを検量線として以下に示す条件で重量平均分子量(Mw)を測定した。
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム:商品名「G4000HXL」(東ソー社製)
流速:1,000μl/分
カラム温度:40℃
【0057】
[粘度]:調製したインクの粘度を、E型粘度計を使用して25℃で測定した。
【0058】
[分散性]:調製したインクに含まれるフィラー(酸化チタン)の数平均粒子径を、合成したポリマーエマルジョンを添加する前後で測定し、添加前のフィラーの数平均粒子径を「P」、添加後のフィラーの数平均粒子径を「P」とした。「P/P」の値を算出し、以下の基準に従って分散性を評価した。なお、インクに含まれるフィラーの数平均粒子径は、レーザー粒径解析システム(商品名「LPA3100」、大塚電子社製)を使用し、常法に従って測定した。
○:「P/P」<1.1
△:1.1≦「P/P」≦1.3
×:「P/P」>1.3
【0059】
[耐擦性]:調製したインクを厚さ0.5mmのアルミ板上にバーコータ(#10)を使用して塗布した後、100℃で1分間乾燥して、塗工層(塗膜)を有する評価用サンプルを作製した。作製した評価用サンプルを直径11cmの円形に切り抜き、商品名「ROTARY ABRATION TESTER」(東洋精機社製)の本体の回転盤に固定した。摩耗輪を取り付けた回転盤によって250gの加重を負荷した後、この回転盤を60rpmの速度で1分間回転させた後、評価用サンプルの塗膜の傷付き具合等を観察し、以下の基準に従って耐擦性を評価した。
○:塗膜に傷及び剥離がほとんどなし
△:塗膜に一部傷又は剥離あり
×:塗膜に大きな傷又は剥離あり
【0060】
[耐水性]:調製したインクを厚さ0.5mmのアルミ板上にバーコータ(#10)を使用して塗布した後、100℃で1分間乾燥して、塗工層(塗膜)を有する評価用サンプルを作製した。作製した評価用サンプルを25℃の水に30分間浸漬した後、塗膜の表面を観察し、以下の基準に従って耐水性を評価した。
○:塗膜に剥離、脱落が全くない
△:塗膜に、塗膜全体の面積に対する割合で10%以下の面積の剥離があった
×:塗膜に、塗膜全体の面積に対する割合で10%超の面積の剥離があった
【0061】
(参考例1)
500mLビーカーに、水200g、アクリル酸3g、硫酸エステル系反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH−10」、第一工業製薬社製)1g、スチレン80g、ブチルアクリレート20g、メチレンビスアクリルアミド10g、及び2−エチルヘキシルチオグリコレート2gを仕込み、100rpmで10分間撹拌してモノマー乳化液を調製した。1Lセパラブルフラスコに、水200g、及び硫酸エステル系の反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH−10」、第一工業製薬社製)1gを仕込み、180rpmで撹拌した後に60℃に昇温し、過硫酸アンモニウム2gを添加して70℃に昇温した。重合温度を75℃に保持した状態で3時間かけて調製したモノマー乳化液を逐次添加して重合を行った。80℃に昇温して1時間熟成させ、冷却後、室温時のpHが7.0となるように10%アンモニア水溶液を添加して中和した。固形分濃度が15%となるように水で希釈してポリマーエマルジョン(参考例1)を調製した。調製したポリマーエマルジョンに含有される重合体粒子の数平均粒子径(Dn)は50nm、であった。また、ポリマーエマルジョンに含有される重合体の重量平均分子量(Mw)は100000であった。
【0062】
(参考例2〜11)
表1に示す配合処方としたこと以外は、前述の参考例1の場合と同様にして、ポリマーエマルジョン(参考例2〜11)を調製した。調製したポリマーエマルジョンに含有される重合体粒子の数平均粒子径(Dn)、及び重合体の重量平均分子量(Mw)を表2に示す。なお、表1中の略号の意味を以下に示す。
【0063】
a−1:商品名「アクアロンKH−10」(硫酸エステル系反応性乳化剤、第一工業製薬社製)
a−2:商品名「アクアロンRS−20」(非イオン系反応性乳化剤、第一工業製薬社製)
a−3:ドデシルベンゼンスルホン酸Na(非反応性乳化剤)
ST:スチレン
MMA:メチルメタクリレート
BA:ブチルアクリレート
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
c−1:メチレンビスアクリルアミド
c−2:トリメチロールプロパントリアクリレート
c−3:DVB−570(日鐵化学社製、ジビニルベンゼン含有量57%)
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
(酸化チタン水系スラリーの調製)
1L容量のポリマー製のビンに、スチレン/アクリル酸共重合体(質量比:50/50、分子量:10000)10g、水300g、酸化チタン(商品名「JR600A」、テイカ社製、一次粒子径:0.25μm)90g、及び直径4mmのSUSボール30gを入れ、ペイントコンディショナーを使用して30分間混合した。ナイロンメッシュを用いてSUSボールを除去した後、その固形分濃度が10%となるように水を添加して希釈し、酸化チタン水系スラリーを得た。得られた酸化チタン水系スラリー中に分散した酸化チタンの粒子径(分散粒子径)は0.3μmであった。
【0067】
(実施例1)
参考例1で調製したポリマーエマルジョン(固形分濃度:15%)2gと、ポリプロピレン系ワックスエマルジョン(商品名「ハイテックP5060P」、東邦化学社製、固形分濃度:32%)を混合して水系バインダー用ポリマー組成物(実施例1)を調製した。調製した水系バインダー用ポリマー組成物(実施例1)に酸化チタン水系スラリー10g、水7g、及びイソプロピルアルコール0.5gを添加し、マグネチックスターラーを使用して30分間撹拌して、酸化チタンを含む白色のインクを調製した。調製したインクの粘度は4.0mPa・sであり、分散性の評価結果は「○」であった。また、調製したインクを用いて作製した評価サンプルの塗膜の耐擦性の評価結果は「○」、耐水性の評価結果は「○」であった。
【0068】
(実施例2〜11、比較例1)
表3に示す配合処方としたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様にして、水系バインダー用ポリマー組成物(実施例2〜11、比較例1)を調製した。また、前述の実施例1の場合と同様にして、酸化チタンを含む白色のインクを調製した。なお、実施例10の水系バインダー用ポリマー組成物を調製するのに用いた商品名「ハイテックE9015」は、東邦化学社製のポリエチレン系ワックスエマルジョン(固形分濃度:40%)である。調製したインクの粘度の測定結果、分散性の評価結果を表3に示す。また、調製したインクを用いて作製した評価サンプルの塗膜の耐擦性及び耐水性の評価結果を表3に示す。
【0069】
(比較例2)
ポリプロピレン系ワックスエマルジョン(商品名「ハイテックP5060P」、東邦化学社製、固形分濃度:32%)1.0g、酸化チタン水系スラリー10g、水7g、及びイソプロピルアルコール0.5gを添加し、マグネチックスターラーを使用して30分間撹拌して、酸化チタンを含む白色のインクを調製した。調製したインクの粘度の測定結果、分散性の評価結果を表3に示す。また、調製したインクを用いて作製した評価サンプルの塗膜の耐擦性及び耐水性の評価結果を表3に示す。
【0070】
(比較例3)
参考例3で調製したポリマーエマルジョン(固形分濃度:15%)2g、酸化チタン水系スラリー10g、水7g、及びイソプロピルアルコール0.5gを添加し、マグネチックスターラーを使用して30分間撹拌して、酸化チタンを含む白色のインクを調製した。調製したインクの粘度の測定結果、分散性の評価結果を表3に示す。また、調製したインクを用いて作製した評価サンプルの塗膜の耐擦性及び耐水性の評価結果を表3に示す。
【0071】
(比較例4)
ポリマー成分を使用せず、酸化チタン水系スラリー10g、水7g、及びイソプロピルアルコール0.5gのみを混合し、マグネチックスターラーを使用して30分間撹拌して、酸化チタンを含む白色のインクを調製した。調製したインクの粘度の測定結果、分散性の評価結果を表3に示す。また、調製したインクを用いて作製した評価サンプルの塗膜の耐擦性及び耐水性の評価結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3に示す結果から、実施例1〜11の水系バインダー用ポリマー組成物を用いて調製したインクは、低粘度であるとともに酸化チタン(フィラー)の分散性が良好であり、かつ、耐擦性及び耐水性に優れた塗膜を形成可能であることが明らかである。一方、比較例1〜4で得られたインクは、低粘度化、分散性、耐擦性、及び耐水性のうちの少なくとも一つが良好ではないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の水系バインダー用ポリマー組成物は、低粘度であるとともにフィラーの分散性が良好であり、かつ、フィラーの結着性を向上させて耐擦性及び耐水性に優れた塗膜を形成可能なフィラー分散液を調製することができるものである。このため、本発明の水系バインダー用ポリマー組成物は、水系インクに添加してその機能を向上させるためのバインダーとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(a)乳化剤の存在下、(b)分子内に一のエチレン性不飽和結合を有する第一のモノマー、及び(c)分子内に二以上のエチレン性不飽和結合を有する第二のモノマー、を乳化重合させて得られる重合体と、
(2)ワックスと、
を含有する水系バインダー用ポリマー組成物。
【請求項2】
前記(a)乳化剤が、反応性乳化剤である請求項1に記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【請求項3】
前記(a)乳化剤が、アニオン性官能基を有するものである請求項1又は2に記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【請求項4】
前記(b)第一のモノマーが、(メタ)アクリル系モノマーである請求項1〜3のいずれか一項に記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【請求項5】
前記(1)重合体が、数平均粒子径が10〜100nmの粒子状に分散した水系エマルジョンの状態で含有される請求項1〜4のいずれか一項に記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【請求項6】
前記(1)重合体の重量平均分子量が、30000〜200000である請求項1〜5のいずれか一項に記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【請求項7】
前記(1)重合体が、(d)連鎖移動剤の存在下で乳化重合させて得られたものである請求項1〜6のいずれか一項に記載の水系バインダー用ポリマー組成物。
【請求項8】
水系インクに添加して使用される請求項1〜7のいずれか一項に記載の水系バインダー用ポリマー組成物。

【公開番号】特開2009−242481(P2009−242481A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88280(P2008−88280)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】