説明

水素ガスセンサ

【課題】従来よりも高い感度を有する水素ガスセンサを提供すること。
【解決手段】本発明の水素ガスセンサ100は、多孔形状熱電材料からなる熱電材料部2、熱電材料部2上に設けられた一対の電極4a、4b、及び熱電材料部2上に一対の電極4a、4bのうちの一方の電極4a側に偏在して設けられ、水素による反応を触媒する触媒部6を有するセンサ部10と、一対の電極4a、4b間に発生した電圧を測定する電圧測定部20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスセンサ、より詳しくは、熱電式水素ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
雰囲気中の水素を検出する水素ガスセンサとして、熱電式水素ガスセンサは、消費電力が小さく、しかも安価であることから、例えば、燃料電池等の発電システム等に効率よく適用することができると期待されている。この熱電式水素ガスセンサは、熱電素子の一部分で水素による発熱反応を生じさせ、発熱反応が生じなかった部分との温度差に基づく起電力を発生させることによって水素の検出を行うものである。
【0003】
このような熱電式水素ガスセンサとしては、例えば、被検出ガスと接触して触媒反応を起こす触媒(触媒成分)と、この反応による局部的な温度差を電圧信号に変換する熱電変換材料膜を含む構成を有するものが知られている(特許文献1、2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−156461号公報
【特許文献2】特開2006−201100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した構成を有する従来の熱電式水素ガスセンサでは、触媒における反応による発熱を利用して熱電変換材料膜に温度差を発生させ、これにより起電力(電圧)を生じさせることが動作原理となる。したがって、熱電変換材料膜に発生する温度差が大きいほど、熱電変換材料膜に生じる起電力が大きくなり、結果として水素ガスセンサの感度も高くなる。
【0006】
ところが、上記特許文献1、2に記載された熱電式水素ガスセンサでは、期待されるほどの感度が得られないことが少なくなかった。これは、熱電変換材料膜に発生する温度差を十分に大きくできないことが一因であると考えられる。
【0007】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも高い感度を有する水素ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の発明の水素ガスセンサは、多孔形状熱電材料からなる熱電材料部、熱電材料部上に設けられた一対の電極、及び熱電材料部上に一対の電極のうちの一方の電極側に偏在して設けられ、水素による反応を触媒する触媒部を有するセンサ部と、一対の電極間に発生した電圧を測定する電圧測定部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
なお、第1の発明における多孔形状熱電材料とは、微細な空孔を多数有する熱電材料(多孔質の熱電材料)を意味する。また、多孔形状熱電材料が有する空孔の孔径は、0.1〜20μm程度である。
【0010】
上記第1の発明の水素ガスセンサは、触媒部において水素の触媒反応を生じさせて熱を発生させることで、熱電材料部において触媒部に接触している部分とこれ以外の部分との温度差に基づく起電力を発生させ、この起電力(電圧)を電圧測定部で測定することによって水素ガスを検出する熱電式水素ガスセンサである。
【0011】
上記第1の発明の水素ガスセンサが備える熱電材料部は、従来水素ガスセンサに用いられてきた緻密な熱電材料よりも熱を伝導し難い多孔形状熱電材料からなるため、触媒部で発生した熱が、熱電材料部において触媒部に接触している部分から、これ以外の部分へ伝導し難くなる。その結果、上記第1の発明では、熱電材料部において触媒部が偏在して設けられた側の電極が配置された部分と、別の電極が配置された部分との間の温度差が大きくなり、両電極間に発生する起電力が大きくなるため、水素ガスセンサの感度を従来よりも向上させることが可能となる。
【0012】
第2の発明の水素ガスセンサは、多孔形状熱電材料からなる熱電材料部、熱電材料部上に設けられた一対の電極、及び一対の電極のうちの一方の電極側に偏在して設けられ、水素による反応を触媒する触媒成分が多孔形状熱電材料の有する空孔に担持されることによって形成された触媒部を有するセンサ部と、一対の電極間に発生した電圧を測定する電圧測定部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
上記第2の発明の水素ガスセンサは、上記第1の発明と同様に、触媒部において水素の触媒反応を生じさせて熱を発生させることで、熱電材料部において触媒部に接触している部分とこれ以外の部分との温度差に基づく起電力を発生させ、この起電力(電圧)を電圧測定部で測定することによって水素ガスを検出する熱電式水素ガスセンサである。
【0014】
上記第2の発明の水素ガスセンサが備える熱電材料部は、上記第1の発明と同様に、従来水素ガスセンサに用いられてきた緻密な熱電材料よりも熱を伝導し難い多孔形状熱電材料からなるため、触媒部で発生した反応熱が、熱電材料部において触媒部が形成された部分から、これ以外の部分へ伝導し難くなる。その結果、上記第2の発明の水素ガスセンサでは、熱電材料部において触媒部が偏在して設けられた側の電極が配置された部分と、別の電極が配置された部分との間の温度差が大きくなり、両電極間に発生する起電力が大きくなるため、水素ガスセンサの感度を従来よりも向上させることが可能となる。
【0015】
また、第2の発明の水素ガスセンサでは、触媒成分が多孔形状熱電材料の有する空孔に担持されることによって触媒部が形成されているため、従来のように触媒部が熱電材料部の外表面のみに設置される場合に比べて、触媒成分と熱電材料との接触面積を大きくできる。したがって、触媒部で発生した反応熱が熱電材料部へ伝導し易くなり、特に熱電材料部において触媒部が偏在して設けられた側が加熱され易くなる。その結果、上記第2の発明では、熱電材料部において触媒部が偏在して設けられた側の電極が配置された部分と、別の電極が配置された部分との間の温度差が大きくなり、両電極間に発生する起電力が大きくなるため、水素ガスセンサの感度を従来よりも向上させることが可能となる。
【0016】
さらに、上記第2の発明の水素ガスセンサでは、触媒成分が多孔形状熱電材料の有する空孔の内壁に担持されているため、触媒成分が熱電材料部の表面(一対の電極が設けられた面)に配置されている場合に比べて、触媒部の活性表面積が大きくなり、触媒部全体としての触媒活性能が向上する。そのため、上記第2の発明では、水素ガスセンサの感度を向上させることが可能となる。
【0017】
さらにまた、上記第2の発明の水素ガスセンサでは、熱電材料部の内部に多数存在する空孔内に触媒成分が担持されているため、水素の触媒反応が熱電材料部の内部においても進行する。そのため、上記第2の発明の水素ガスセンサでは、従来のように触媒部が熱電材料部の外表面のみに設置される場合に比べて、触媒部で発生した反応熱が外気へ逃げ難く、反応熱を効率的に熱電材料部へ伝導させることができるため、水素ガスセンサの感度を向上させることが可能となる。
【0018】
上記第1及び第2の発明においては、多孔形状熱電材料の空隙率が30〜80%であることが好ましい。
【0019】
多孔形状熱電材料の空隙率を上記の好適範囲内とすることによって、水素ガスセンサの感度を更に向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば従来よりも高い感度を有する水素ガスセンサを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明については省略することとする。また、図面中に示す寸法及び位置関係は図示されたものに限定されない。
【0022】
(第1実施形態)
<水素ガスセンサ100>
図1は、本発明の第1実施形態に係る水素ガスセンサの構成を示す概略図である。図1に示すように、第1実施形態の水素ガスセンサ100は、センサ部10と、電圧測定部20とから構成される。
【0023】
図1は、センサ部10の断面構成を模式的に示している。また、図2は、センサ部10を上方からみた平面図である。図1、2に示すように、センサ部10は、熱電材料部2と、熱電材料部2上に設けられた一対の電極4a、4bと、熱電材料部2上に一対の電極4a、4bのうちの一方の電極4a側に偏在して設けられ、水素による反応を触媒する触媒部6と、を有する。このようなセンサ部10は、例えば、長さ10mm程度、幅7mm程度、厚さ0.2mm程度の大きさを有する。
【0024】
熱電材料部2は、10〜500μm程度の厚みを有し、平面形状が長方形状である板状の部材である。この熱電材料部2は、局所的な温度差が生じるとゼーベック効果によって起電力が発生する性質(熱電変換能)を有し、且つ微細な空孔を多数有する多孔形状熱電材料から構成される。多孔形状熱電材料が有する空孔の孔径は、0.1〜20μm程度である。多孔形状熱電材料としては、このような性質を十分に有しており、しかも、ガス等による抵抗や起電力の変化が少ないものが好ましく、例えば、CaCo、NaCoO(xは例えば0<x<1.0を満たす任意の実数)等から成る熱電材料が挙げられる。これらの中でも、多孔形状熱電材料としては、CaCoからなる多孔形状熱電材料が好ましい。CaCoからなる多孔形状熱電材料を用いることによって、本発明の効果を得やすくなる。
【0025】
CaCoは、結晶異方性の大きい物質であり、その結晶粒子は、結晶軸のc軸に垂直な面方向に長い板状の形状を有する。CaCoの抵抗率は10−5Ω・m程度、熱起電力は0.12mV・K−1程度、熱伝導率は2W・m−1・K−1程度であり、特にc軸に垂直な面方向において、CaCoの抵抗率が小さく、熱起電力が大きい。CaCoからなる多孔形状熱電材料は、後述するように、例えば、CaCoの結晶粒子を、その結晶軸のc軸方向に多数積層し、プレスした後、焼成することによって得ることができる。
【0026】
CaCoからなる多孔形状熱電材料から構成した熱電材料部2では、CaCoの結晶粒子の結晶軸のc軸に垂直な面方向と、一対の電極4a、4bが対向する方向とが、略平行であることが好ましい。こうすれば、CaCoは結晶軸のc軸に垂直な面方向において、熱起電力が大きくなるので、電極4a、4b間での温度差及び起電力が大きくなり易くなり、その結果、水素ガスセンサ100の感度を更に向上させることができる。
【0027】
CaCoからなる多孔形状熱電材料から構成した熱電材料部2のSEM画像の一例を図6(a)及び図6(b)に示す。図6(a)は、触媒部6が設けられた側の熱電材料部2の表面を、その表面に垂直な方向から撮影したSEM画像であり、図6(b)は、触媒部6が設けられた側の熱電材料部2の表面に垂直な方向(CaCoの結晶粒子が、その結晶軸のc軸方向に沿って多数積層された方向)で熱電材料部2を切断した断面のSEM画像である。また、図6(a)及び図6(b)において、コントラストが白い部分が、多孔形状熱電材料を構成するCaCoの結晶粒子であり、コントラストの黒い部分が、多孔形状熱電材料が有する空孔を示している。図6(a)及び図6(b)に示すように、個々のCaCoの結晶粒子は、結晶軸のc軸に垂直な面方向に長い板状であり、c軸方向に沿って多数積層した状態となっている。また、多孔形状熱電材料内には、CaCoの結晶粒子のc軸に垂直な面方向に沿って空孔が多数形成されている。
【0028】
多孔形状熱電材料は、その空隙率が30〜80%であることが好ましい。なお、多孔形状熱電材料の空隙率は、水銀圧入式細孔分布測定装置(ポロシメーター)によって測定することができる。
【0029】
多孔形状熱電材料の空隙率を上記の好適範囲内とすることによって、水素ガスセンサ100の感度を更に向上させることが可能となる。なお、空隙率が小さいほど、熱電材料部2中を熱が伝導し易くなって本発明の効果が小さくなる傾向があり、空隙率が大きいほど、熱電材料部2の機械的強度が低下して脆くなる傾向があるが、多孔形状熱電材料の空隙率を上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0030】
一対の電極4a、4bは、熱電材料部2の一面上に、互いに離間するように設けられており、具体的には、熱電材料部2の両端の辺に沿ってそれぞれ形成されている。これらの電極4a、4bは、熱電材料部2と外部回路等との接続を行う端子としての機能を有しており、金属等の導電性を有する材料によって構成される。
【0031】
触媒部6は、熱電材料部2の電極4a、4bと同じ側の面上に、一対の電極4a、4bのうちの一方の電極4a側に偏在して設けられている。この触媒部6は、水素ガスと空気中の酸素との反応を生じさせる触媒能を有する。触媒部6としては、例えば、触媒担持体に上記触媒能を有する触媒成分を担持させた構成を有するものが挙げられる。具体的には、触媒担持体が多孔質のアルミナからなり、これに触媒成分として白金を担持させたものが好適である。白金は、水素ガスによる反応を選択的に生じさせることができ、これが表面積の大きい多孔質の触媒担持体に担持されることで、触媒部6の表面上で効率よく反応が生じるようになる。
【0032】
触媒部6は、上述のように一方の電極4a側に偏在して設けられているが、触媒部6が形成されていない側の電極4bからはできるだけ離れていることが好ましい。触媒部6が、電極4bから離れているほど、後述するような熱電材料部2における温度勾配を大きくすることができ、より大きな起電力が得られる。ただし、触媒部6の発熱量との兼ね合いの観点から、触媒部6における反応を効率よく生じさせ、熱電材料部6に十分な温度差を与えることを可能とするために必要となる触媒部6の面積を確保した上で、触媒部6をできるだけ電極4a側に偏在させることが好ましい。
【0033】
触媒部6は、これが設けられている側の電極4aと接していてもよく、また接していなくてもよい。例えば、触媒部6を電極4aと接するように設けることで、触媒部6と電極4aとが接しない場合に比べて、触媒部6と電極4bとの距離を大きくとることができ、熱電材料部2に生じる温度勾配をより大きくし、電極4a、4b間で大きな起電力を得ることが可能となる。なお、触媒部6を電極4aと接触させるか否かは、所望とする水素ガスセンサの特性に応じて適宜選択すればよい。
【0034】
触媒部6は、電極4aを被覆しないように形成されていてもよく、電極4aを被覆するように形成されていてもよい。特に、触媒部6が電極4aを被覆しないように形成されていると、触媒部6での発熱が電極4aを介しないで熱電材料部2に直接伝わるため、後述するような熱電材料部2における温度勾配をより大きく生じさせることができる。
【0035】
電圧測定部20は、センサ部10が有している一対の電極4a、4bに接続されており、電極4a、4b間の電圧を測定することができる。この電圧測定部20としては、検出される電圧に応じた公知の電圧計を適用することができる。
【0036】
上記構成を有する水素ガスセンサ100による水素ガスの検出は、以下のような動作原理によって行なわれる。すなわち、まず、センサ部10において、触媒部6に水素ガスが接触すると、触媒部6上で水素ガスと空気中の酸素との反応が発生する。この反応では、水素と酸素との反応によって水が生成するとともに熱が発生する。この熱により、熱電材料部2のうち触媒部6と接している部分が加熱される。一方、触媒部6が設けられていない部分は、上記反応が生じても加熱され難いため、反応前の温度を維持したままとなり易い。その結果、触媒部6で水素ガスの反応が生じると、熱電材料部2に温度勾配が生じることになる。熱電材料部2は、熱電変換能を有していることから、このような温度勾配によって熱電材料部2に起電力が生じる。
【0037】
熱電材料部2に生じた起電力は、熱電材料部2の両端に設けられた一対の電極4a、4b間に電圧を発生させる。電極4a、4bには、電圧測定部20が接続されているため、電圧測定部20によって電極4a、4b間の電圧が測定される。得られた電圧の値に基づいて、雰囲気中の水素ガスを検出し、更には雰囲気中の水素ガスの濃度等を定量することができる。
【0038】
上記第1実施形態では、熱電材料部2が、従来水素ガスセンサに用いられてきた緻密な熱電材料よりも熱を伝導し難い多孔形状熱電材料からなるため、触媒部6で発生した熱を、熱電材料部2において触媒部6に接触している部分から、電極4bが設けられた部分へ伝導させ難くすることが可能となる。その結果、第1実施形態の水素ガスセンサ100では、熱電材料部2において触媒部6が偏在して設けられた側の電極4aが配置された部分と、別の電極4bが配置された部分との間の温度差が大きくなり、両電極4a、4b間に発生する電圧が大きくなるため、水素ガスセンサ100の感度を従来よりも向上させることが可能となる。
【0039】
<水素ガスセンサ100の製造方法>
次に、第1実施形態の水素ガスセンサ100の製造方法について説明する。以下では、CaCoからなる多孔形状熱電材料を用いて熱電材料部2を形成する場合について説明する。
【0040】
まず、熱電材料部2の作製方法について説明する。熱電材料部2の作製では、原料であるCaCO粉末及びCo粉末を、Ca原子とCo原子とのモル比が、3:4程度になる様にそれぞれ秤量し、これらをボールミル等で混合した後、得られた混合物を、空気中で、700〜900℃程度に加熱して仮焼することにより、仮焼体を得る。仮焼体を解砕して、ボールミル等で更に細かく粉砕することによって、CaCoの粉砕粉末を得る。
【0041】
CaCoの粉砕粉末、バインダ樹脂、及び溶剤等を混合してスラリーを調製する。次に、シート工法等を用いてスラリーからシートを形成する。シート工法によれば、シートの厚さ方向において、CaCoの結晶粒子が、その結晶軸のc軸方向に沿って多数積層し、シートの面方向において、CaCoの結晶粒子が、c軸に垂直な面方向に沿って多数配列した構造を有するシートを得易くなる。
【0042】
次に、シートを所定の寸法に打ち抜き、打ち抜かれたシートを複数積層して積層体を形成し、積層体の積層方向において、積層体を40〜150℃程度で熱プレスする。熱プレス後の積層体を、800〜920℃に加熱して焼成することにより、熱電材料部2が得られる。
【0043】
次に、熱電材料部2の所定の位置に、電極4a、4bを形成するための電極形成用ペーストを塗布する。電極形成用ペーストとしては、金属等の導電性を有する材料、バインダ樹脂、及び溶剤等を混合したものを用いることができる。熱電材料部2に塗布された電極形成用ペーストを、300〜800℃で熱電材料部2に焼付けることによって、電極4a、4bを形成する。
【0044】
それから、電極4a、4bが形成された熱電材料部2に触媒部6を形成して、センサ部10が得られる。なお、触媒部6の形成方法としては、別途単独で形成した触媒部6を、電極4a、4bが形成された熱電材料部2に接着する方法を用いてもよく、上述の触媒成分及び触媒担持体を含むペーストを、熱電材料部2の所定の位置に塗布し、これを乾燥することにより、触媒部6を形成する方法を用いてもよい。なお、第1実施形態では、触媒成分及び触媒担持体を含むペーストは、熱電材料部2上に塗布し易い粘度に調製される。
【0045】
そして、センサ部10が備える一対の電極4a、4bに、電圧測定部20を接続することにより、水素ガスセンサ100が完成する。
【0046】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る水素ガスセンサについて説明する。なお、以下では、上述した第1実施形態と第2実施形態とで共通する事項については説明を適宜省略する。
【0047】
第2実施形態の水素ガスセンサ100は、図3に示すように、多孔形状熱電材料からなる熱電材料部2、熱電材料部2上に設けられた一対の電極4a、4b、及び一対の電極4a、4bのうちの一方の電極4a側に偏在して設けられ、水素による反応を触媒する触媒成分が多孔形状熱電材料の有する空孔に担持されることによって形成されている触媒部6を有するセンサ部10と、一対の電極4a、4b間に発生した電圧を測定する電圧測定部20と、を備えることを特徴とする。なお、図3において触媒部6と示された部分は、熱電材料部2の一部を示すものであり、熱電材料部2を構成する多孔形状熱電材料が有する空孔に触媒成分が担持されている部分である。
【0048】
このように、第2実施形態の水素ガスセンサ100は、水素による反応を触媒する触媒成分が多孔形状熱電材料の有する空孔に担持されることによって触媒部6が形成されている点で、触媒部6が熱電材料部2の面上に設けられている第1実施形態とは相違する。すなわち、第2実施形態では、図中の触媒部6の部分が、熱電材料部2と触媒部6とが一体化したような構成となっている。
【0049】
第2実施形態の水素ガスセンサ100における触媒部6では、例えば、図6に示すような多孔形状構造の熱電材料部2における空孔内に、触媒成分が担持されている。このような触媒部6においては、空孔内に触媒成分が充填されている態様や、空孔の内壁に触媒成分が付着したような態様が考えられ、そのどちらであってもよい。この触媒部6では、熱電材料と触媒成分の両方がそれぞれ機能することができる。つまり、図中の触媒部6の部分は、熱電材料部2と触媒部6との機能を兼ねることができる。
【0050】
触媒部6においては、熱電材料部2を構成する多孔形状熱電材料が有する空孔が、外部との通気が可能となっていることが好ましい。これにより、空孔の内壁に担持された触媒成分と、外部の水素ガス及び酸素とが接触し易くなり、触媒成分による水素の触媒反応の進行が有利となる。
【0051】
また、触媒部6では、この部分の多孔形状熱電材料が有する全ての空孔に対する触媒成分の総充填量が多いほど、触媒成分と熱電材料との接触面積が大きくなり、触媒部6で発生した反応熱を熱電材料部2へ伝導させ易くなる。一方、触媒部6の多孔形状熱電材料が有する全ての空孔に対する触媒成分の総充填量が少ないほど、熱電材料部2の内部に位置する空孔と熱電材料部2の外部とを通気させ易く、熱電材料部2の空孔に担持された触媒成分によって水素の触媒反応を進行させ易くなる。
【0052】
多孔形状熱電材料は、その空隙率が30〜80%であることが好ましい。なお、多孔形状熱電材料の空隙率は、第1実施形態の場合と同様の方法で測定することができる。
【0053】
多孔形状熱電材料の空隙率を上記の好適範囲内とすることによって、水素ガスセンサ100の感度を更に向上させることが可能となる。なお、空隙率が30%未満の場合、多孔形状熱電材料が有する空孔内に触媒成分が担持され難い傾向があり、空隙率が80%を超える場合、熱電材料部2において電極4aが設けられた側のみに偏在するように触媒成分を担持することが困難となり、また熱電材料部2の機械的強度が低下して脆くなる傾向があるが、多孔形状熱電材料の空隙率を上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0054】
このような第2実施形態の水素ガスセンサ100が備える熱電材料部2は、上記第1実施形態と同様に、従来水素ガスセンサに用いられてきた緻密な熱電材料よりも熱を伝導し難い多孔形状熱電材料からなるため、触媒部6で発生した反応熱が、熱電材料部2において触媒部6が形成された部分から、これ以外の部分へ伝導し難くなる。その結果、熱電材料部2において触媒部6が偏在して設けられた側の電極4aが配置された部分と、別の電極4bが配置された部分との間の温度差が大きくなり、両電極4a、4b間に発生する起電力が大きくなるため、水素ガスセンサ100の感度を従来よりも向上させることが可能となる。
【0055】
また、第2実施形態の水素ガスセンサ100では、触媒成分が多孔形状熱電材料の有する空孔の内壁に担持されることによって触媒部6が形成されているため、従来のように触媒部が熱電材料部の外表面のみに設置される場合に比べて、触媒部6と熱電材料部2との接触面積が大きくなる。したがって、触媒部6で発生した反応熱が熱電材料部2へ伝導し易くなり、特に熱電材料部2において触媒部6が偏在して設けられた側が加熱され易くなる。その結果、熱電材料部2において触媒部6が偏在して設けられた側の電極4aが配置された部分と、別の電極4bが配置された部分との間の温度差が大きくなり、両電極4a、4b間に発生する起電力が大きくなるため、水素ガスセンサ100の感度を従来よりも向上させることが可能となる。
【0056】
さらに、第2実施形態の水素ガスセンサ100では、触媒成分が多孔形状熱電材料の有する空孔の内壁に担持されているため、触媒成分が熱電材料部2の表面(一対の電極4a、4bが設けられた面)に配置されている場合に比べて、触媒部6の活性表面積が大きくなり、触媒部6全体としての触媒活性能が向上する。そのため、水素ガスセンサ100の感度を向上させることが可能となる。
【0057】
さらにまた、第2実施形態の水素ガスセンサ100では、熱電材料部2の内部に多数存在する空孔に触媒成分が担持されている。すなわち、触媒部6が熱電材料部2の内部にも位置するため、水素の触媒反応が熱電材料部2の内部においても進行する。そのため、第2実施形態の水素ガスセンサ100では、従来のように触媒部6が熱電材料部2の外表面のみに設置される場合に比べて、触媒部6で発生した反応熱が外気へ逃れ難く、反応熱を効率的に熱電材料部2へ伝導させることができ、水素ガスセンサ100の感度を向上させることが可能となる。
【0058】
第2実施形態の水素ガスセンサ100は、触媒部6の形成方法が異なるほかは、第1実施形態と同様の方法で熱電材料部2、電極4a、4b、及び電圧測定部20を形成することにより製造することができる。第2実施形態の水素ガスセンサ100における触媒部6は、例えば、次のようにして製造することが好ましい。すなわち、図4に示すように、触媒成分を含むペースト6aを、熱電材料部2上の所定の位置に塗布した後、ペースト6aを熱電材料部2内に染み込ませる。すなわち、熱電材料部2内の空孔にペースト6aを侵入させる。次に、ペースト6aを乾燥することにより、触媒成分が熱電材料部2の有する空孔に担持された構造を有する触媒部6を形成することができる。
【0059】
この場合、触媒成分を含むペーストとしては、触媒成分、触媒担持体、バインダ樹脂、及び溶剤等を混合したものであり、熱電材料部2の内部へ染み込み易いように粘度が調製されたものを用いることができる。なお、第2実施形態では、多孔形状熱電材料からなる熱電材料部2が触媒担持体としても機能するため、触媒成分を多孔質のアルミナのような担持体に担持させたものを触媒部6として使用しなくてもよい。
【0060】
また、第2実施形態では、触媒部6は、図5に示すように、熱電材料部2の一部を、槽内に満たされた触媒成分の溶液6bに浸漬し、熱電材料部2の一部に溶液6bを染み込ませた後、熱電材料部2に染み込んだ溶液6bを乾燥することによって形成することもできる。こうすれば、触媒成分の浸透がより有利となる傾向にある。
【0061】
以上、第1及び第2実施形態の各水素ガスセンサについて説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0062】
例えば、第1実施形態の水素ガスセンサ100では、熱電材料部2上に触媒部6が設けられていたが、この触媒部6の一部は、熱電材料部2に染み込んでいてもよい。
【0063】
また、第2実施形態における触媒部6の形成位置は、上述のものに限定されない。例えば、触媒部6を構成する触媒成分が、電極4aの直下に位置する熱電材料部2の空孔に更に担持されていてもよい。また、熱電材料部2の面上において電極4aに隣接する位置に触媒部6の一部が更に形成されていてもよい。
【0064】
さらに、第1及び第2実施形態において、水素ガスセンサ100における熱電材料部2は板状の形状を有するものとしたが、一対の電極4a、4b及び触媒部6を表面に配置できるものであれば、板状以外の形状を有していてもよい。また、電極4a、4bや触媒部6は、全てが熱電材料部2における同一面上に設けられていたが、例えば電極4a、4bのうち一方の電極のみが他の面に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1実施形態に係る水素ガスセンサの構成を示す概略断面図である。
【図2】図1に示すセンサ部10を上方からみた平面図である。
【図3】第2実施形態に係る水素ガスセンサの構成を示す概略断面図である。
【図4】第2実施形態に係る水素ガスセンサが備える触媒部の形成方法の一例を示す図である。
【図5】第2実施形態に係る水素ガスセンサが備える触媒部の形成方法の一例を示す図である。
【図6】CaCoからなる多孔形状熱電材料の構造の一例を示すSEM画像である。
【符号の説明】
【0066】
2・・・熱電材料部、4a、4b・・・電極、6・・・触媒部、10・・・センサ部、20・・・電圧測定部、100・・・水素ガスセンサ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔形状熱電材料からなる熱電材料部、前記熱電材料部上に設けられた一対の電極、及び前記熱電材料部上に前記一対の電極のうちの一方の電極側に偏在して設けられ、水素による反応を触媒する触媒部を有するセンサ部と、
前記一対の電極間に発生した電圧を測定する電圧測定部と、
を備える水素ガスセンサ。
【請求項2】
多孔形状熱電材料からなる熱電材料部、前記熱電材料部上に設けられた一対の電極、及び前記一対の電極のうちの一方の電極側に偏在して設けられ、水素による反応を触媒する触媒成分が前記多孔形状熱電材料の有する空孔に担持されることによって形成された触媒部を有するセンサ部と、
前記一対の電極間に発生した電圧を測定する電圧測定部と、
を備える水素ガスセンサ。
【請求項3】
前記多孔形状熱電材料の空隙率が30〜80%である、請求項1または2に記載の水素ガスセンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−133636(P2009−133636A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307774(P2007−307774)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】