説明

水素ガス充填設備での水素ガス充填方法

【課題】いつ車両が来ても所定温度以下の水素ガスを充填できるものでありながら、エネルギーロスを極力抑制することのできる水素ガス充填設備での水素ガス充填方法を提供する。
【解決手段】被充填タンク2よりも高圧に設定されている蓄圧容器1と被充填タンクとを水素ガス充填路3で連通接続し、蓄圧容器の内圧と被充填タンクの内圧との差圧で水素ガスを移送・充填するに当たり、水素ガス充填路に音速ノズル6を配置する。この音速ノズルに臨界圧力比以上の一次圧で水素ガスを供給し、この音速ノズルの一次側と二次側とをバイパス路8で接続し、バイパス路分岐部分よりも下流側の一次側水素ガス充填路に圧力調整弁5を配置するとともに、バイパス路に流量調整弁9を配置し、前記圧力調整弁と流量調整弁とをバイパス路合流部分より下流側での水素ガス充填路内の温度・圧力に基づき開閉制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス供給源に貯蔵されている高圧水素ガスを受入容器等の被充填タンクに移送充填する高圧ガス充填設備での水素ガス充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、燃料電池車等においては、燃料としての水素ガスは、受入容器である水素タンクに高圧で貯蔵され、水素タンクの水素貯蔵量が低下した場合には、水素ステーションにおいて水素ガス貯蔵源より水素ガスが移送充填される。
【0003】
受入容器である水素タンクに水素ガスを急速に充填する場合、水素タンク内の温度が上昇するため、水素を冷却して、充填を行う方法(プレクール充填)が提供されている。従来、水素ガスをプレクール充填する場合、冷凍機や液体窒素を冷却源とした熱交換器によって冷却して充填する方式が知られている。
【0004】
一般に、燃料電池車等の車両に水素を燃料として充填する場合、その充填時間は、3〜5分程度に抑えることが求められている。これにあわせた冷凍能力の冷凍機や熱交換器を設置すると設備コストや設置スペースを要するという問題点がある。
【0005】
そこで、図2に示すように、ブラインタンクで冷熱を貯蔵しておく冷却方式も提案されている。
図中符号(51)は高圧水素ガスが充填されている蓄圧器であり、この蓄圧器(51)と燃料電池自動車に装備されている燃料タンク(52)とを、流量計(53)、流量調節弁(54)、熱交換器(55)、ディスペンサー(56)を介装した水素ガス充填路(57)で連通接続し、熱交換器(55)に供給する冷却源として、冷凍機(58)、ブラインタンク(59)、ブラインポンプ(60)、熱交換器(55)、ブラインタンク(59)、冷凍機(58)の順に循環するブラインを用いた冷却系で充填する水素ガスを冷却するようにしている。
【0006】
そしてこの場合冷却系は、流量計(53)、流量調節弁(54)、熱交換器(55)、ディスペンサー(56)、圧力センサー(61)及び温度センサー(62)を収容している充填設備機器(63)とは、別に設置されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の冷却能力に見合う冷凍機を設置するよりも、能力の小さな冷凍機とブラインタンクを組み合わせ、充填前にブラインタンクに冷熱を貯蔵するほうが設備的コストを抑えることができる。しかし、この場合ではブラインタンクへの入熱をなくすことができないために、いつ車両が来てもプレクール充填できるように常に冷凍機を運転し、冷熱を貯蔵しておく必要があり、必要以上のエネルギーを消費するという問題がある。液体窒素を冷熱源とする場合でも、充填待機中の液体窒素タンクからのボイルオフがあり、効率的ではない。
【0008】
このような問題に鑑み、本発明は、いつ車両が来ても所定温度以下の水素ガスを充填できるものでありながら、エネルギーロスを極力抑制することのできる水素ガス充填設備での水素ガス充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、請求項1に記載の本発明は、充填タンクよりも高圧に設定されている蓄圧容器と被充填タンクとを水素ガス充填路で連通接続し、蓄圧容器の内圧と被充填タンクの内圧との差圧で水素ガスを移送・充填するに当たり、水素ガス充填路に音速ノズルを配置し、この音速ノズルに臨界圧力比以上の一次圧で水素ガスを供給し、前記音速ノズルの一次側と二次側とをバイパス路で接続し、バイパス路分岐部分よりも下流側の一次側水素ガス充填路に圧力調整弁を配置するとともに、バイパス路に流量調整弁を配置し、前記圧力調整弁と流量調整弁とをバイパス路合流部分より下流側での水素ガス充填路内の温度・圧力に基づき開閉制御するようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、水素ガス充填路に配置した音速ノズルに対して、臨界圧力比以上の圧力で水素ガスを供給するようにしているので、音速ノズルの二次側では、等エントロピー膨張により、水素ガス温度が下がることになり、冷凍機や熱交換器を用いずにプレクール充填を行うことができるようになる。
【0011】
また、充填が進むにつれ、音速ノズルの二次側圧力は上昇して行くため、音速ノズルの二次側温度を一定に制御するには、音速ノズルの一次側圧力を制御する必要があるが、音速ノズルの一次側圧力が変化すると音速ノズルを通過する水素ガスの流量が変化することになる。
このため、充填においては、水素ガス温度と流量とを同時に制御する必要があるが、本発明では、音速ノズルをバイパスするバイパス路を設け、音速ノズルの下流側での水素ガス充填路内の温度・圧力に基づき音速ノズルを流れる水素ガス量とバイパイ路を流れる水素ガス量とを制御するようにしていることから、音速ノズルからの水素ガスと音速ノズルを通過しない常温の水素ガスとを混合することで、水素ガス温度と流量を最適に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施に使用する水素ガス充填設備の一例を示す流れ図である。
【図2】従来の水素ガス充填設備を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施に使用する水素ガス充填設備は、高圧水素ガスを貯蔵している蓄圧容器(1)と、燃料電池自動車等に搭載装備されている燃料タンク(被充填タンク)(2)とを水素ガス充填路(3)で連通接続し、この水素ガス充填路(3)に上流側から、流量計(4)、圧力調節弁(5)、音速ノズル(6)、ディスペンサー(7)が順に装着してある。
【0014】
圧力調節弁(5)の上流側部分と音速ノズル(6)の下流側部分(二次側)との間にバイパス路(8)を形成し、このバイパス路(8)に流量調節弁(9)が装着してある。
【0015】
また水素ガス充填路(3)には、バイパス路(8)の分岐部よりも下流側に音速ノズル(6)に流入する水素ガス流の一次側圧力を検出する一次側圧力センサー(10)を配置するとともに、バイパス路(8)との合流部分よりも下流側に水素ガス充填路(3)の圧力を検出する二次側圧力センサー(11)及び水素ガス充填路(3)での水素ガス温度を検出する温度センサー(12)が配置してある。
【0016】
一次側圧力センサー(10)、二次側圧力センサー(11)、温度センサー(12)での各検出結果は制御装置(13)に入力され、この制御装置(13)からの指令に基づき前述の圧力調整弁(5)および流量調節弁(9)の開弁量が制御される。
【0017】
上述の水素ガス充填設備を用いて、蓄圧容器(1)から燃料電池自動車等に搭載装備されている燃料タンク(2)に水素ガスを充填供給する場合、当初、バイパス路(8)に装着した流量調節弁(9)を閉弁した状態で、水素ガス充填路(3)に装着した圧力調節弁(5)を適当な開度に開弁し、蓄圧容器(1)内に貯留されている水素ガスのガス圧と、供給を受ける燃料タンク(2)の内圧との差圧で水素ガスを移送充填することになる。このとき、水素ガス充填路(3)には音速ノズル(6)が装着されていることから、音速ノズル(6)の一次側圧力と二次側圧力とを圧力センサー(10)・(11)で監視し、音速ノズル(6)の一次側の圧力が臨界圧力比以上となるように圧力調整弁(5)の開弁量を制御する。音速ノズル(6)の一次側の圧力を臨界圧力比以上に維持すると、二次側では等エントロピー膨張により、水素ガスのガス温度が低下することになる。
【0018】
充填が進行するにつれて、音速ノズル(6)の二次側圧力は上昇していくことになる。この圧力上昇に伴い水素ガス温度も上昇することになるから、この二次側の温度を制御するためには、音速ノズル(6)に送り込む水素ガスの圧力(一次圧)を制御する必要がある。そして、音速ノズル(6)の一次側圧力が変化すると、音速ノズル(6)を通貨する水素ガスの流量が変化する。このため、燃料タンク(2)に水素ガスを充填する際には、水素ガスの温度と、流量とを同時に制御する必要があり、二次側の圧力とガス温度とを二次側圧力センサー(11)および温度センサー(12)で検出し、この検出結果に基づき、水素ガス充填路(3)に装着した圧力調節弁(5)の開弁量と、バイパス路(8)に装着した流量調節弁(9)の開弁量とを制御し、その二次側で音速ノズル(6)を通過しない常温の水素ガスを混合することで、水素ガスの温度と流量の制御をおこなう。
【0019】
本発明方法では、蓄圧容器(1)の内圧と被充填タンク(2)の内圧との差圧で水素ガスを移送・充填するに当たり、水素ガス供給路(3)に一次側の圧力が臨界圧力比以上となるよう制御された音速ノズル(6)を配置するとともに、音速ノズル(6)の二次側の圧力および温度を監視し、検出圧力および温度に基づきバイパス路から常温の高圧(蓄圧容器内圧)の水素ガスを二次側で混合させるようにしていることから、冷凍機や熱交換器などの冷却設備を必要とせず、設備コスト、メンテナンスコスト、設置スペースの低減を図ることができる。
【0020】
さらに、水素ガス供給路(3)を利用して水素ガスを移送・充填させるだけで、瞬時に充填水素ガスの温度を低下させることができるから、熱交換器によるプレクールに比べ、充填対象車両が途切れた充填待機中でのエネルギーロスをなくすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、燃料電池車等の水素ガスを燃料として使用する車両への水素ガス充填に利用することができる。
【符号の説明】
【0022】
1…蓄圧容器、2…充填タンク、3…水素ガス充填路、5…圧力調整弁、6…音速ノズル、8…バイパス路、9…流量調整弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被充填タンク(2)の内圧よりも高圧に設定されている蓄圧容器(1)と被充填タンク(2)とを水素ガス充填路(3)で連通接続し、蓄圧容器(1)の内圧と被充填タンク(2)の内圧との差圧で水素ガスを移送・充填するに当たり、水素ガス充填路(3)に音速ノズル(6)を配置し、この音速ノズル(6)に臨界圧力比以上の一次圧で水素ガスを供給し、この音速ノズル(6)の一次側と二次側とをバイパス路(8)で接続し、バイパス路分岐部分よりも下流側の一次側水素ガス充填路(3)に圧力調整弁(5)を配置するとともに、バイパス路(8)に流量調整弁(9)を配置し、前記圧力調整弁(5)と流量調整弁(9)とをバイパス路合流部分より下流側での水素ガス充填路(3)内の温度・圧力に基づき開閉制御するようにしたことを特徴とする水素ガス充填設備での水素ガス充填方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−174528(P2011−174528A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38537(P2010−38537)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【Fターム(参考)】