説明

水素ガス検知素子

【課題】安全に、水素ガスの存在を検知し得るようにする。
【解決手段】水素ガス検知素子101は、所定のインピーダンスを有する等価回路を構成する回路素子の一部である櫛型電極112が、水素解離能を有した貴金属触媒を担持した酸化タングステンによって被覆され、酸化タングステンの導電性が、水素原子が解離吸着されることにより変化し、等価回路のインピーダンスが、酸化タングステンの導電性の変化に応じて変化する構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス検知素子に関し、水素解離能を有した貴金属触媒を担持した金属酸化物を備えることにより、常温下で、水素を検知することができるようにした水素ガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、二酸化炭素をはじめとする温暖化ガスを排出しないクリーンなエネルギー源として近年脚光を浴びているが、爆発危険性を有する物質であり、その利用にあっては信頼性のある漏洩検知が必要となる。
【0003】
ところで酸化タングステンは、還元反応によりタングステンブロンズを形成し、電気的又は光学的特性が大きく変化することから、水素感応材料として用いられている。
【0004】
酸化タングステンは、例えば、式(1)に示すように、電気化学的還元に伴うプロトンやアルカリ金属イオンの注入により、タングステンブロンズが生成される。式(1)中、Aは、水素(H)、リチウム(Li)、又はナトリウム(Na)等の元素を表し、xは、0<x<1の範囲の数値である。
WO+xA+xe ⇔ AxWO3 ・・・(1)
【0005】
また酸化タングステンは、透明に近い薄黄緑色を呈するが、タングステンブロンズは、その多くが濃青色を呈する。酸化タングステンの光の吸収は、式(2)に示すように、5価のタングステンと6価のタングステンとの間を遷移する電子による原子価間移動によって行われる。即ち受光によって、W6+が電子を受け取りW5+となり、そこに局在化した電子がカラーセンサーとして光の吸収に寄与するためと考えられる。式(2)中、AとBは、電子の位置を示している。
5+(A)+W6+(B) → W6+(A)+W5+(B)・・・(2)
【0006】
なおNaxWO3は、xの値によって呈する色が異なり、x=0.9で黄金色、x=0.6で橙赤色、x=0.3で暗青色となることが知られている。
【0007】
例えばこのように酸化タングステンの還元反応が行われるが、これらの反応は、酸化タングステンが、電気化学反応又は光化学反応の助けを借りて常温下で還元されるというものである。
【0008】
即ちこれらの還元反応に基づいて酸化タングステンを水素感応材料として利用する場合、例えば電気的又は光学的構成が別途必要となる。電極間に電圧を印加するための機器が必要となる水素ガスについては、特許文献1に開示されている。
【0009】
そこで、例えば電気的又は光学的構成が不要な、水素の化学的な還元力による還元反応に基づいて酸化タングステンを水素感応材料として用いることも考えられる。
【0010】
【特許文献1】特開2002−328108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、水素の化学的な還元力による酸化タングステンの還元反応は、通常、高温下でのみ確認されている。
【0012】
即ち水素の化学的な還元力による還元反応に基づいて酸化タングステンを水素感応材料として用いる場合、素子を加熱する必要があり、例えば引火性ガスである水素ガスの着火源となる等の課題があった。
【0013】
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、常温下における水素の化学的な還元力による酸化タングステンの還元反応を可能とし、安全で、かつ簡単な構成で、水素の存在を検知し得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一側面は、所定の電気的特性を有する回路素子と、水素解離能を有した貴金属触媒を担持した金属酸化物とを備える水素ガス検知素子において、前記回路素子の少なくとも一部が、前記金属酸化物によって被覆され、前記金属酸化物の導電性は、前記金属酸化物に水素原子が解離吸着されることにより変化し、前記回路素子の電気的特性は、前記金属酸化物の導電性の変化に応じて変化することを特徴とする水素ガス検知素子である。
【0015】
前記金属酸化物は、水素解離能を有した貴金属触媒を担持した酸化タングステンであり、前記酸化タングステンに解離吸着された水素原子による還元力によりタングステンブロンズが生成されることによって、前記酸化タングステンの導電性が変化するようにすることもできる。
【0016】
前記回路素子は、所定のインピーダンスを有する等価回路で表され、前記インピーダンス又は位相は、前記金属酸化物の導電性の変化に応じて変化するようにすることもできる。
【0017】
前記等価回路は、所定の共振周波数を有し、前記等価回路の共振周波数は、前記金属酸化物の導電性の変化に応じた前記インピーダンスの変化に応じて変化するようにすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、常温下において、水素の化学的な還元力による酸化タングステンの還元反応を可能とし、簡易な構成で、水素の存在を検知し得るようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明を適用した水素ガス検知素子1の外観構成例の上面図であり、図2は、その下面図である。また、図3は、図1のA−A’線による断面図である。
【0020】
基板11は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどの誘電材料を、板状に成形した部材である。
【0021】
基板11の上面には(図1)、そのほぼ中央の矩形状領域11Aに薄膜電極13が設けられている。またアンテナコイル12が、薄膜電極13の周りに、矩形を5重に巻回した形状をなして配置されている。アンテナコイル12の最外周の端は、上下方向に貫かれたスルーホール14と繋がっており、最内周の端は、薄膜電極13と電気的に接続されている。
【0022】
基板11の下面には(図2)、薄膜電極15が、上面の薄膜電極13に対向する位置に配置されている。またリード線16が、スルーホール14の下面の側から薄膜電極15に向かって延在している。
【0023】
なおアンテナコイル12、薄膜電極13,15は、約1000Åのチタン(Ti)の下地に白金(Pt)(約3000Å)の膜が積層されて基板11上に形成されている。またアンテナコイル12を構成する矩形間の間隔は、例えば500μm以下となっている。
【0024】
このように薄膜電極13,15が、基板11の上下両面にそれぞれ配置されていることから、電気的には、コンデンサが形成される。従って、水素ガス検知素子1は、電気的には、LC共振回路と等価となる。
【0025】
図4は、水素ガス検知素子1の等価回路を示している。図4に示すように、水素ガス検知素子1は、電気的には、アンテナコイル12、及び基板11と薄膜電極13,15からなるコンデンサ31を並列接続したものとして表現される。
【0026】
なおコイル及びコンデンサからなる等価回路の共振周波数は、コイルのインダクタンス及びコンデンサの静電容量と、式(3)に示す関係がある。
【0027】
【数1】

【0028】
式(3)において、Fは、LC共振回路の共振周波数である。Lは、コイルのインダクタンスである。Cは、コンデンサの静電容量である。
【0029】
図3に戻り基板11の上面は(即ちアンテナコイル12及び薄膜電極13は)、樹脂材21により覆われている。この樹脂材21には、金属酸化物(この例の場合、酸化タングステン)が混入されており、この酸化タングステンには、白金(Pt)又はパラジウム(Pd)といった水素分子を水素原子に解離させる水素解離能を有する貴金属媒体が担持されている。
【0030】
なお樹脂材21の成膜は、例えばゾルゲル法のディップコーティングにより行われる。ゾルゲル法とは、例えば金属アルコキシドからなるゾルを、加水分解・重縮合反応により、流動性を失ったゲルとし、このゲルを加熱して酸化物を得る方法である。またディップコーティングとは、金属カチオンを含む溶液を調製し、それに基板を浸し、引き上げた後に乾燥、熱処理することにより薄膜を形成する方法である。
【0031】
水素解離能を有する貴金属媒体が坦持されている酸化タングステンに水素ガスが接触すると、後述するように、水素の還元力が有効に引き出されることによって反応が促進されるため、常温下において酸化タングステンの還元が行われ、タングステンブロンズが生成される。その結果、樹脂材21が導電化されてアンテナコイル12が短絡するので、水素ガス検知素子1の等価回路のインダクタンスLが変化し、これにより、式(3)に示した、LC共振回路の共振周波数自体が変化する。
【0032】
以上のように水素ガス検知素子1は構成されている。即ちこの水素ガス検知素子1は、所定の共振周波数を有するLC共振回路を構成する回路素子の一部であるアンテナコイル12が、水素解離能を有した貴金属触媒を担持した酸化タングステンによって被覆され、酸化タングステンの導電性が、水素原子が解離吸着されることにより変化し、LC共振回路の共振周波数が、酸化タングステンの導電性の変化に応じて変化する構成となっている。
【0033】
図5は、水素ガス検知素子1の利用例を示す図である。
【0034】
電波発信機51と電波受信機52は、検知対象となる検知空間を挟んで対向するように設置される。水素ガス検知素子1は、その検知空間に置かれるものとする。
【0035】
電波発信機51は、水素ガス検知素子1の共振周波数に相当する周波数の無線信号を検知空間内に向けて発信し、電波受信機52は、検知空間内を通って自らに到達した無線信号の強度を測定する。
【0036】
検知空間内に水素が存在していない場合、水素ガス検知素子1のLC共振回路が共振して交流電流が誘起されるため、電波受信機52まで到達する無線信号の強度が低下する。一方、検知空間内に水素が存在している場合、水素ガス検知素子1のLC共振回路の共振周波数自体が変化するため共振は起こらず、電波受信機52に到達する無線信号の強度は低下しない。
【0037】
即ち図5の例では、電波受信機52に到達する無線信号の強度の変化によって、検知空間内における水素の存在の有無を検知することができる。
【0038】
このようにして水素ガス検知素子1を利用し、水素の存在の有無を検知することができる。
【0039】
次に、樹脂材21における酸化タングステンの還元反応について説明する。
【0040】
上述したように、酸化タングステンには、白金(Pt)又はパラジウム(Pd)といった水素解離能を有する貴金属媒体が担持されている。
【0041】
白金(Pt)やパラジウム(Pd)といった貴金属触媒は、水素分子を水素原子に解離して吸着する。例えば白金触媒を用いた場合、式(4)に示すように、水素原子の解離吸着が行われる。なお式(4)中、Had-Ptは、白金触媒表面に解離吸着した水素原子を表している。
+2Pt ⇔2Had-Pt・・・(4)
【0042】
また白金触媒上に解離吸着した水素原子(Had-Pt)は、式(5)に示すように、スピルオーバー効果(所謂分子状水素から解離した原子状水素の溢れ出し)によって表面拡散し、酸化タングステンにも到達する。なお式(5)中、Had-WO3は、酸化タングステンに表面拡散した解離吸着した水素原子を表している。
Had-Pt ⇔ Had-WO3・・・(5)
【0043】
そしてこのように水素原子が酸化タングステンに到達すると、水素原子は、分子状水素に比べ高い還元能を有することから、解離吸着した水素原子(Had-WO3)と酸化タングステンの間において、式(6)に示すような反応が起こり、タングステンブロンズが生成される。
WO+ xHad-WO3 ⇔ HxWO3 ・・・(6)
【0044】
このようにして樹脂材21に含まれている酸化タングステンは還元される。即ちこの酸化タングステンの還元反応は、所謂電気化学反応及び光化学反応の助けが必要ない、化学的な還元力によるものとなっている。
【0045】
換言するとこの反応は、酸化過程において、吸着水素(Had)が、式(7)に示すように、最終的にプロトンとなり、放出された電子とともに酸化タングステン中に注入されることによるものとも考えられる。
Had ⇔ H+e・・・(7)
【0046】
酸化タングステンに注入されたプロトンは、WO中の最近接のO2−イオンと結合し、また酸化タングステンに注入された電子は、中心のW6+イオンに捕獲され、W6+が部分的にW5+まで還元される。その結果として式(8)に示すようにタングステンブロンズ(HWO)が形成される。
WO+xH+xe ⇔ HxWO3 (0<x<1)・・・(8)
【0047】
この式は、A=Hの場合の式(1)と同じとなる。即ち樹脂材21における化学的な還元力による酸化タングステンの還元反応は、電気化学反応の助けを借りて行われる酸化タングステンの還元反応と同様な形式で行われる。
【0048】
以上のように、水素解離能を有する貴金属触媒を担持して反応系に導入することによって水素のスピルオーバー効果が生じ、酸化タングステンの水素による還元反応が起こる。このスピルオーバー効果による還元反応は、水素の還元力が有効に引き出され、反応が促進されるので、常温下でも起こる。即ち樹脂材21における水素の化学的な還元力による酸化タングステンの還元反応が、常温下で可能となり、その結果常温下での水素検知が可能となる。即ち、水素ガス検知素子1を、安全で、かつ簡単な構成とすることができる。
【0049】
次に、本発明を適用した水素ガス検知素子の水素感応特性について説明する。
【0050】
図6は、水素ガス検知素子の水素感応特性評価のための実験例を示している。
【0051】
この実験では、水素ガス検知素子101がチャンバー102内に置かれ、チャンバー102に水素ガスが導入され、水素ガス導入前と導入後(即ち水素曝露前と後)の水素ガス検知素子101の電気的特性が測定される。
【0052】
チャンバー102の蓋部分には水素ガスを導入するためのチューブ131Aと、チャンバー102内のガスを排気するためのチューブ131Bが引き込まれている。この実験では、チューブ131Aから、N:H=90%:10%の水素、及び空気ガスがチャンバー102内に導入される。
【0053】
水素ガス検知素子101には、リード121A,121Bが電気的に接続されている。リード121A,121Bは、チャンバー102の蓋部分から引き出されて、図示せぬLCRメータにそれぞれ接続されている。水素ガス検知素子101には、LCRメータにより、リード121を介して所定の周波数(100Hz,200Hz,500Hz,700Hz,1000Hz,2000Hz,5000Hz,7000Hz,10000Hz,20000Hz,50000Hz,70000Hz,100000Hz,200000Hz)の交流電圧が印加され、その周波数毎に、水素ガス検知素子101の後述する回路素子のインピーダンスと位相が測定される。
【0054】
図7は、水素ガス検知素子101の構成例を示している。水素ガス検知素子101は、石英基板(以下、単に、基板と称する)111、櫛の歯状部分を有する2個の櫛型電極112A及び112B、及び被膜113から構成されている。
【0055】
2個の櫛型電極112A及び112B(以下、個々に区別する必要がない場合、単に櫛型電極112と称する。他のものにおいても同様である)は、櫛の歯状部分が一定間隔離れるようにして組み合わされている。櫛型電極112は、金又は白金をスパッタリングすることにより形成されている。
【0056】
また櫛型電極112には、白金触媒を担持した酸化タングステン(Pt/WO3)である被膜113が、歯状部分を覆うように、ディップコーディングにより形成されている。
【0057】
このように櫛型電極112が、櫛の歯状部分が一定間隔離れるようにして組み合わされ、その部分が被膜113で被覆されているので、歯状部分の間に被膜113の絶縁層が挟まれたコンデンサが形成される。従って水素ガス検知素子101は、電気的には、図8に示すように、抵抗とコンデンサとが並列に接続された回路と等価となる。
【0058】
この白金触媒が坦持されている酸化タングステンに水素ガスが接触すると、上述したように、常温下において、酸化タングステンからタングステンブロンズが生成され、被膜113が導電化する。その結果、櫛型電極112の歯状部分の間に被膜113の絶縁層が挟まれたコンデンサの静電容量が変化するので、等価回路のインピーダンスが変化する。
【0059】
即ち水素ガス検知素子101は、基本的には水素ガス検知素子1と同様に、所定のインピーダンスを有する等価回路を構成する回路素子の一部である櫛型電極112が、水素解離能を有した貴金属触媒を担持した酸化タングステンによって被覆され、酸化タングステンの導電性が、水素原子が解離吸着されることにより変化し、等価回路のインピーダンスが、酸化タングステンの導電性の変化に応じて変化する構成となっている。
【0060】
図9乃至図14には、水素ガス導入と導入後(即ち水素曝露前と後)の水素ガス検知素子101のインピーダンスの絶対値と位相の測定値が示されている。なおここでは、櫛型電極112を、金で形成した場合と白金で形成した場合のそれぞれにおいて測定が行われた。
【0061】
図9乃至図11は、櫛型電極112が金で形成されている場合の測定結果を示している。
【0062】
図9には、印加された交流電圧の周波数毎に、水素ガス導入前(即ち水素曝露前)のインピーダンスの絶対値と位相の測定結果、並びに水素ガス導入後(即ち水素曝露後)のインピーダンスの絶対値と位相の測定結果が、それぞれ示されている。
【0063】
図10は、図9に示すインピーダンスの測定結果を周波数毎にプロットした図である。図10中、曲線Aは、水素ガス導入前のインピーダンスの測定結果を表し、曲線Bは、水素ガス導入後のインピーダンスの測定結果を表している。図11は、図9に示す位相の測定結果を周波数毎にプロットした図である。図11中、曲線Aは、水素ガス導入前の位相の測定結果を表し、曲線Bは、水素ガス導入後の位相の測定結果を表している。
【0064】
図12乃至図14は、櫛型電極112が白金で形成されている場合の測定結果を示している。
【0065】
図12には、印加された交流電圧の周波数毎に、水素ガス導入前(即ち水素曝露前)のインピーダンスの絶対値と位相の測定結果、並びに水素ガス導入後(即ち水素曝露後)のインピーダンスの絶対値と位相の測定結果が、それぞれ示されている。
【0066】
図13は、図12に示すインピーダンスの測定結果を周波数毎にプロットした図である。図13中、曲線Aは、水素ガス導入前のインピーダンスの測定結果を表し、曲線Bは、水素ガス導入後のインピーダンスの測定結果を表している。図14は、図12に示す位相の測定結果を周波数毎にプロットした図である。図14中、曲線Aは、水素ガス導入前の位相の測定結果を表し、曲線Bは、水素ガス導入後の位相の測定結果を表している。
【0067】
以上のように、図9乃至図14において、水素ガス導入前の測定結果を表す曲線Aと、水素ガス導入後の測定結果を表す曲線Bは、大きく離れている。即ち、櫛型電極112が金で形成されている場合及び白金で形成されている場合のいずれの場合においても、広範な周波数領域において、水素曝露によりインピーダンス及び位相が大きく変化している。従って水素解離能を有する貴金属媒体を担持した酸化タングステンによって被覆されている回路素子の電気特性は、水素曝露により大きく変化する。
【0068】
図15乃至図22は、水素曝露によるインピーダンス及び位相の経時変化を示している。この例の場合、周波数は200kHzに固定されている。
【0069】
図15は、櫛型電極112が金で形成されている場合における、水素曝露によるインピーダンスの経時変化を示している。図15中矢印は、水素ガスが導入されたタイミングを示している。後述する図16乃至図22に示す矢印についても同様である。
【0070】
図16は、図15における0s乃至350sの範囲を拡大したものである。
【0071】
図17は、櫛型電極112が金で形成されている場合における、水素曝露による位相の経時変化を示している。図18は、図17における0s乃至120sの範囲を拡大したものである。
【0072】
図19は、櫛型電極112が白金で形成されている場合における、水素曝露によるインピーダンスの経時変化を示している。図20は、図19における50s乃至150sの範囲を拡大したものである。
【0073】
図21は、櫛型電極112が白金で形成されている場合における、水素曝露による位相の経時変化を示している。図22は、図21における60s乃至75sの範囲を拡大したものである。
【0074】
以上のように、櫛型電極112が金で形成されている場合及び白金で形成されている場合においても、水素ガスの導入とほぼ同時に、インピーダンス及び位相の変化が開始される。従って水素解離能を有する貴金属媒体を担持した酸化タングステンによって被覆されている回路素子の電気特性は、水素曝露により迅速に変化する。
【0075】
なお櫛型電極112が金で形成されている場合と白金で形成されている場合との比較においては、白金で形成されている場合の方が、応答速度が速く、下地金属によって応答速度が異なっている。
【0076】
以上のように、水素原子を解離吸着する貴金属媒体を担持した酸化タングステンによって被覆されている回路素子の電気特性は、水素曝露により大きくかつ迅速に変化するので、水素ガス検知素子101(水素ガス検知素子1も同様)を利用すれば、精度よく、かつ迅速に水素ガスを検知することができる。
【0077】
なお以上においては、酸化タングステンを例として説明したが、他の金属酸化物を利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明を適用した水素ガス検知素子の構成例を示す上面図である。
【図2】本発明を適用した水素ガス検知素子の構成例を示す下面図である。
【図3】図1に示す水素ガス検知素子の、A−A’線の断面図である。
【図4】図1に示す水素ガス検知素子の等価回路を示す図である。
【図5】図1に示す水素ガス検知素子の利用例を示す図である。
【図6】水素ガス検知素子の水素感応特性評価のための実験例を示す図である。
【図7】図6に示す水素ガス検知素子の構成例を示す図である。
【図8】図7に示す水素ガス検知素子の等価回路を示す図である。
【図9】図7に示す水素ガス検知素子の櫛型電極が金で形成されている場合のインピーダンスと位相の測定結果を示す図である。
【図10】図9に示すインピーダンスの測定結果を周波数毎に示した図である。
【図11】図9に示す位相の測定結果を周波数毎に示した図である。
【図12】図7に示す水素ガス検知素子の櫛型電極が白金で形成されている場合のインピーダンスと位相の測定結果を示す図である。
【図13】図12に示すインピーダンスの測定結果を周波数毎に示した図である。
【図14】図12に示す位相の測定結果を周波数毎に示した図である。
【図15】図7に示す水素ガス検知素子の櫛型電極が金で形成されている場合における、水素曝露によるインピーダンスの経時変化を示す図である。
【図16】図15における所定の範囲の拡大図である。
【図17】図7に示す水素ガス検知素子の櫛型電極が金で形成されている場合における、水素曝露による位相の経時変化を示す図である。
【図18】図17における所定の範囲の拡大図である。
【図19】図7に示す水素ガス検知素子の櫛型電極が白金で形成されている場合における、水素曝露によるインピーダンスの経時変化を示す図である。
【図20】図19における所定の範囲の拡大図である。
【図21】図7に示す水素ガス検知素子の櫛型電極が白金で形成されている場合における、水素曝露による位相の推移を示す図である。
【図22】図21における所定の範囲の拡大図である。
【符号の説明】
【0079】
1 水素ガス検知素子, 11 基板, 12 アンテナコイル, 13 薄膜電極, 14 スルーホール, 15 薄膜電極, 16 リード線, 21 樹脂材, 51 電波発信機, 52 電波受信機, 101 水素ガス検知素子, 111 基板, 112 櫛型電極, 113 被膜, 121 リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の電気的特性を有する回路素子と、
水素解離能を有した貴金属触媒を担持した金属酸化物と
を備える水素ガス検知素子において、
前記回路素子の少なくとも一部が、前記金属酸化物によって被覆され、
前記金属酸化物の導電性は、前記金属酸化物に水素原子が解離吸着されることにより変化し、
前記回路素子の電気的特性は、前記金属酸化物の導電性の変化に応じて変化する
ことを特徴とする水素ガス検知素子。
【請求項2】
前記金属酸化物は、水素解離能を有した貴金属触媒を担持した酸化タングステンであり、
前記酸化タングステンに解離吸着された水素原子による還元力によりタングステンブロンズが生成されることによって、前記酸化タングステンの導電性が変化する
請求項1に記載の水素ガス検知素子。
【請求項3】
前記回路素子は、所定のインピーダンスを有する等価回路で表され、
前記インピーダンス又は位相は、前記金属酸化物の導電性の変化に応じて変化する
請求項1に記載の水素ガス検知素子。
【請求項4】
前記等価回路は、所定の共振周波数を有し、
前記等価回路の共振周波数は、前記金属酸化物の導電性の変化に応じた前記インピーダンスの変化に応じて変化する
請求項3に記載の水素ガス検知素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−229369(P2009−229369A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77480(P2008−77480)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(506118836)デジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社 (28)
【Fターム(参考)】