説明

水素分離装置及び燃料電池

【課題】水素透過膜を支持し、かつ高温環境下においても水素透過膜の剥れ、膨れ又は孔等が生じるのを防ぐことのできる多孔質支持体を備えて成る水素分離装置を提供すること。
【解決手段】両端若しくは一端を開口する筒形状を有し、又は板形状を有する多孔質支持体と、前記多孔質支持体の表面を被覆し、かつ水素が選択的に透過することのできる水素透過膜とを備え、前記多孔質支持体の前記水素透過膜が被覆する表面に存在する、角部を有する凹部を研削して円滑凹部を形成することを特徴とする水素分離装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素分離装置及び燃料電池に関し、特に詳しくは、水素透過膜を支持する多孔質支持体が高温環境下等によってもガス漏出の原因となるピンホール等を生ずることがない水素分離装置及び前記水素分離装置で分離した水素を燃料として電力を取り出すことのできる燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「多孔質セラミック層に、無電解パラジウムめっきを施して電気伝導性付与した後、その上に、電解パラジウムめっきにより、表面を完全に被覆する電解パラジウム又はパラジウム合金めっき膜の被覆を形成することを特徴とするガス分離薄膜の製造方法」(特許文献1の請求項1参照。)が記載されており、また、実施例(特許文献1の第2頁右欄〜第3頁参照。)では、この製造方法を用いて得られるガス分離膜も記載されている。
【0003】
特許文献2には、「金属多孔体表面にPd水素分離膜を形成する方法において、先ず金属多孔体表面に電気Niめっきを行い、次に同Niめっき層上に電気Pdめっきを行った後、上記金属多孔体の裏面から真空吸引しつつ、上記電気Pdめっき層上に無電解Pdめっきを行うことを特徴とする水素分離膜の製造方法」(特許文献2の請求項1参照。)が記載されており、更に、実施例(特許文献2の[0016]〜[0024]欄参照。)では、この製造方法を用いて得られる分離膜も記載されている。
【0004】
特許文献3には、「水素含有ガスから水素を選択的に透過分離する無機水素分離膜の製造方法において、多孔質担体の表面にパラジウム若しくはパラジウムを主体とした合金の薄膜を形成させたのち、薄膜のピンホ−ルを探査し、探査したピンホ−ル部にパラジウムを主体とした合金若しくはパラジウムと合金化する金属を被着し、被着した金属がパラジウムと合金化する温度で加熱処理してパラジウム系水素分離膜を製造する無機水素分離膜の製造方法」(特許文献3の請求項1参照。)が記載されており、実施例(特許文献3の[0015]〜[0018欄参照。)として、この製造方法を用いて得られる無機水素分離膜も記載されている。
【0005】
ところで、水素透過膜の使用条件、例えば高温環境下での使用等によっては水素透過膜に剥れ、膨れ又は孔等が生じることがあり、この水素透過膜の剥れ、膨れ又は孔等は、水素透過膜が被覆する多孔質体に原因があることが多かった。しかし、特許文献1〜3に記載の製造方法においては、水素透過膜の形成方法についての記載がなされているが、多孔質体に関する記載がない。仮に、多孔質体が高温環境下等に曝された場合にも、水素透過膜に剥れ、膨れ又は孔等を生じさせることのない多孔質体を備えた水素分離装置が望まれていた。更に、前記水素分離装置で分離される水素を燃料として電力を取り出すことのできる燃料電池も望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特公平5−53527号公報
【特許文献2】特開平5−123548号公報
【特許文献3】特開2002−119834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明が解決しようとする課題は、水素透過膜を支持し、かつ高温環境下においても水素透過膜の剥れ、膨れ又は孔等が生じるのを防ぐことのできる多孔質支持体を備えて成る水素分離装置を提供することである。
【0008】
また、この発明が解決しようとする別の課題は、前記水素分離装置で分離した水素を燃料として電力を取り出すことのできる燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、両端若しくは一端を開口する筒形状を有し、又は板形状を有する多孔質支持体と、
前記多孔質支持体の表面を被覆し、かつ水素が選択的に透過することのできる水素透過膜とを備え、
前記多孔質支持体の前記水素透過膜が被覆する表面に存在する、角部を有する凹部を研削して円滑凹部を形成することを特徴とする水素分離装置の製造方法であり、
請求項2は、両端若しくは一端を開口する筒形状を有し、又は板形状を有する多孔質支持体と、
前記多孔質支持体の表面を被覆し、かつ水素が選択的に透過することのできる水素透過膜とを備え、
前記多孔質支持体の前記水素透過膜が被覆する表面に存在する、角部を有する凸部を研削により除去することを特徴とする水素分離装置の製造方法であり、
請求項3は、前記多孔質支持体の表面をバリア層が被覆し、かつ前記バリア層の表面を水素透過膜が被覆することを特徴とする前記請求項1又は2に記載の水素分離装置の製造方法であり、
請求項4は、前記多孔質支持体は、供給されるガスを改質することにより水素ガスを生成する改質触媒を含有することを特徴とする前記請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素分離装置の製造方法であり、
請求項5は、前記水素透過膜は、その一部又は全部がパラジウム又はパラジウムを含有する合金であることを特徴とする前記請求項1〜4のいずれか一項に記載の水素分離装置の製造方法であり、
請求項6は、前記請求項1〜5のいずれか一項に記載の水素分離装置の製造方法から得られる水素分離装置と、水素を燃料として電力を取り出すことのできる電力発生部とが一体的に設けられて成る燃料電池であり、
請求項7は、前記請求項1〜5のいずれか一項に記載の水素分離装置の製造方法から得られる水素分離装置と、水素を燃料として電力を取り出すことのできる電力発生部とが別体的に設けられて成る燃料電池である。
【発明の効果】
【0010】
この発明の水素分離装置の製造方法は、多孔質支持体が高温環境下等に曝されることよってピンホール等になり得る、角部を有する凹部又は凸部を研削して角部を除去するので、該多孔質支持体を被覆する水素透過膜の剥れ、膨れ及び孔等が生じることがなく、水素ガス以外のガスの漏出を防ぐことができる。
【0011】
また、この発明の燃料電池は、前記水素分離装置の製造方法で得られる水素分離装置で分離した水素を燃料として電力を取り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の水素製造装置の製造方法は、多孔質支持体と水素透過膜とを備え、前記多孔質支持体の表面の角部を有する凹部又は凸部を研削する。
【0013】
前記多孔質支持体は、両端若しくは一端を開口する筒形状を有し、又は板形状を有する。
【0014】
前記多孔質支持体は、多孔質であり、気体が多孔質支持体を通過することのできる気体流通性、後述の水素透過膜を支持することのできる膜支持性、及びこの発明の水素分離装置の製造方法で得られる水素分離装置(以下、「この発明の水素分離装置」と略称することがある。)に供給されるガス(以下、「原料ガス」と称することがある。)と反応しない非反応性を有している。前記多孔質支持体は、気体流通性、膜支持性及び非反応性を有する限り、種々の材料で形成される。例えば、前記材料として、無機酸化物、カーボン、無機窒化物等が挙げられる。前記材料の内、無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、シリカ、シリカ−アルミナ、ムライト、コージェライト、ジルコニア、安定化ジルコニア、多孔質ガラス等が挙げられる。更に、前記材料を単一で用いることもでき、混合し、又は複合して用いることもできる。
【0015】
前記多孔質支持体は、例えば造孔剤として用いることのできる黒鉛粉又はコーンスターチ等と前記材料とを混合して得られる混合物を板状体又は筒状体に成形し、この板状体又は筒状体を焼結することにより得ることができる。
【0016】
ここで、前記原料ガスとしては、水素を含有した混合ガスであってもよく、改質されて水素ガスを生成するガスであってもよい。原料ガスとしては、例えば水素ガスに炭酸ガス、メタン及び水蒸気等を混合した混合ガス、又は水蒸気を反応させて水素ガスを生成することのできる炭化水素ガス等を挙げることができる。
【0017】
前記原料ガスとして、改質されて水素ガスを主成分としたガスが生成するようなガスを用いる場合には、多孔質支持体は、原料ガスが反応し、分解され又は水蒸気改質によって水素を生成する機能(以下、「触媒機能」と称することがある。)を備えて成るのが、好ましい。多孔質支持体が筒状に形成される場合において、多孔質支持体の内部に前記原料ガスを供給することにより多孔質支持体の外部に水素ガスを取り出し、又は、多孔質支持体の外部に前記原料ガスを供給することにより多孔質支持体の内部に水素ガスを取り出すようにするには、触媒機能を有していない多孔質支持体の内表面又は外表面に前記触媒機能を有する膜を設けて多層構造と成る態様、又は触媒機能を有する金属粒子を多孔質支持体に担持させる態様等を採用し得るが、該態様はこの発明の水素分離装置の製作工程及び構造を複雑にするので、そのような態様を採用することのない、触媒機能を有する多孔質支持体が構造的にも単純化することができる。
【0018】
触媒機能を有する多孔質支持体は、上述の多孔質支持体を形成するに必要な材料と触媒機能を有する材料とを混合し、又は複合して形成されることができる。触媒機能を有する多孔質支持体としては、例えば、炭化水素の水蒸気改質に利用されるニッケルを付加した多孔質支持体、具体例として、ニッケルとイットリア安定化ジルコニアとの混合物を主成分とする多孔質焼結体(「Ni−YSZサーメット」と称することがある)、ニッケルを付加した多孔質セラミックス、又はニッケルを付加した多孔質ガラス等を挙げることができる。原料ガスとして合成ガス又は水性ガスを用いる場合には、多孔質支持体に鉄及び/又はクロム成分等を含有させて触媒機能を発現させることもできる。多孔質支持体に触媒機能を付与するための成分は、原料ガスの種類等によって適宜選択することができる。
【0019】
更に、多孔質支持体の気孔率及び気孔径を制御することにより、それらの強度及び気体透過性等を調節することもできる。
【0020】
多孔質支持体の気孔率は、10〜85%であることが好ましい。気孔率が10%未満であると、多孔質支持体中を原料ガスが速やかに流れず、圧力損失が大きくなることがあり、特に炭化水素の水蒸気改質をすることのできる触媒機能を備えた多孔質支持体を用いる場合には、炭化水素を十分に改質して必要な水素ガスを充分に生成させることができないことがある。一方、気孔率が85%を超えると、多孔質支持体の強度が低下することがある。この発明の水素分離装置における多孔質支持体の気孔率は、アルキメデス法によって測定した値である。多孔質支持体の気孔率は、部材の強度、原料ガスが与える多孔質支持体に対しての圧力等に基づいて適宜に決定される。
【0021】
多孔質支持体の平均気孔径は0.05〜30μmであることが好ましい。平均気孔径が0.05μm未満であると、多孔質支持体中を原料ガスが速やかに流れず、圧力損失が大きくなることがある。特に炭化水素の水蒸気改質をすることのできる触媒機能を備えた多孔質支持体を用いる場合には、原料ガスを十分に改質して必要な水素ガスを充分に生成させることができないことがある。一方、平均気孔径が30μmを超えると、多孔質支持体の十分な強度が保たれない恐れがある。また、多孔質支持体により支持される水素透過膜に空隙等の欠陥が生じることがあり、水素透過膜の水素の透過能が低下することもある。この発明の水素分離装置における多孔質支持体の平均気孔径は、その表面を電子顕微鏡、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)等で観察して、気孔の開口を円に近似して求められる開口径を、算術平均して算出することができる。
【0022】
多孔質支持体の気孔率及び平均気孔径を前記範囲に制御するには、形成する材料として用いられる粉末の粒径、粒径分布及び/又は焼成温度を適宜調整すればよい。
【0023】
この発明の水素分離装置の製造方法においては、上述のように気孔径等を調整された多孔質支持体における後述の水素透過膜が被覆される表面に、例えば多孔質支持体が高温環境下等に曝されることによりピンホールが生じる、又は水素透過膜が均一に被覆されない等の不都合が生じ得る角部を有する凹部(以下、単に「凹部」と称することがある。)又は凸部(以下、単に「凸部」と称することがある。)が存在していることが多く、前記不都合が生じることにより該多孔質支持体を被覆する水素透過膜の剥れ、膨れ又は孔等を生じることがあるので、多孔質支持体に水素透過膜を被覆する前に前記凹部又は凸部を予め除去しておくのが好ましい。この発明の水素分離装置の多孔質支持体は、角部を有する凹部又は凸部を研削により除去して成るので、多孔質支持体を被覆する水素透過膜の剥れ、膨れ又は孔等が生じ難い。
【0024】
ここで、凹部又は凸部が有する角部とは、その表面に水素透過膜を被覆すると、その角部を起点として、水素透過膜に剥れ又は亀裂等が生じる場合がある部位を示す。角部としては、例えば多孔質支持体表面における凹部の開口尖鋭部分、又は多孔質支持体表面の凹部における内部表面の突出部分等を例示することができる。また角部は、多孔質支持体を微視的に見ると丸みを帯びているが、水素透過膜に剥れ等の不都合を生じさせることのある部位も含む。
【0025】
ここで、多孔質支持体の凹部又は凸部は次のようにして発見することができる。先ず、上述の材料等で筒体又は板体として多孔質支持体を形成する。次に、該多孔質支持体の水素透過膜が被覆する表面に光を照射することにより、該表面の凹凸に起因して生じる影を観察して影が生じている箇所を除去する凹部又は凸部と判別する。多孔質支持体の表面に照射する光は、該表面を観察する際に眼球等に悪影響を与えない光が好ましく、例えば照明光等を用いることができる。更に、多孔質支持体の表面に照射される光を複数方向から照射することにより、該表面の凹部又は凸部の影が複数方向に生じるので、凹部又は凸部の位置を判別及び発見し易くなる。また、光を照射した多孔質支持体の表面は、該表面の凹凸を発見することのできる観察手段を用いる限り特に限定されず、例えば顕微鏡又はルーペ等で観察することができる。
【0026】
発見された凹部又は凸部は、研削されて除去される。発見される凹部又は凸部の研削には多孔質支持体の表面を削ることのできる部材、例えば超硬合金、ダイヤモンド等を研削材及び研磨材として備える研削機等を用いるのが好ましい。
【0027】
以下に、図面を用いて多孔質支持体の凹部又は凸部を説明する。図1(A)〜(D)並びに図2(A)及び(B)では、それぞれの下側に多孔質支持体が設けられ、かつその上側表面を水素透過膜が被覆している状態を示している。
【0028】
図1(A)〜(D)には、表面に水素透過膜が被覆されて成り、かつ凹部を有する多孔質支持体が示されている。
【0029】
図1(A)には、角部を有する凹部の表面に水素透過膜が被覆された状態が示されている。図1(A)に示されるように、水素透過膜はその厚みが均一ではなく、多孔質支持体の凹部における凸状の部位は水素透過膜の厚みが小さくなっているので、水素透過膜の強度が低下することとなり、水素透過膜にクラックが生じ易く、結果として水素ガス以外のガス漏出の原因となり得ると考えられる。
【0030】
図1(B)には、傾斜勾配が偏った凹部の表面に水素透過膜が被覆された状態が示されている。図1(B)に示されるように、水素透過膜が被覆されていない箇所が生じているので、水素透過膜の被覆されていない箇所からガス漏出が生じると考えられる。
【0031】
図1(C)には、開口径より大きい内部径を有する凹部の表面に水素透過膜が被覆された状態が示されている。図1(C)に示されるように、水素透過膜が均一の厚みで被覆されておらず、水素透過膜の厚みが薄い部位と厚い部位との水素透過性能に差異が生じる、又は水素透過膜の厚みが薄い部位に膨れ、剥れ又は孔等が生じると考えられる。図1(C)に示される凹部は、微視的に見ると尖鋭な箇所は無く丸みを帯びているが、上述のように水素透過膜を被覆した場合に、水素透過膜の膨れ又は剥れ等が生じることがあるので、角部を有する凹部に含まれる。
【0032】
図1(D)には、穴状である凹部の表面に水素透過膜が被覆された状態が示されている。図1(D)に示されるように、水素透過膜は凹部の内部にまで被覆しておらず、凹部内部が空洞であるので、凹部内部のガスが水素透過膜を外側に向って押圧することとなり、水素透過膜に膨れが生じ得ると考えられる。
【0033】
更に、図2(A)及び(B)には、表面に水素透過膜が被覆されて成り、かつ凸部を有する多孔質支持体が示されている。
【0034】
図2(A)には、その頂部に角部を有する凸部の表面に水素透過膜が被覆された状態が示されている。図2(A)に示されるように、水素透過膜はその厚みが均一ではなく、多孔質支持体の凸部の頂部は水素透過膜の厚みが小さくなっているので、水素透過膜の強度が低下することとなり、水素透過膜にクラックが生じ易く、結果として水素ガス以外のガス漏出の原因となり得ると考えられる。
【0035】
図2(B)には、その傾斜勾配が偏った凸部の表面に水素透過膜が被覆された状態が示されている。図2(B)に示されるように、水素透過膜は厚みが均一ではなく、多孔質支持体の凸部の縁辺部は水素透過膜の厚みが小さくなっているので、水素透過膜の強度が低下することとなり、水素透過膜にクラックが生じ易く、結果として水素ガス以外のガス漏出の原因となり得ると考えられる。
【0036】
図1及び2に示される凹部及び凸部を研削で除去した状態の多孔質支持体を図3及び4に示す。詳しくは、図1(A)〜(D)に示される凹部を除去した多孔質支持体を、図3(A)〜(D)に示し、図2(A)及び(B)に示される凸部を除去した多孔質支持体を、図4(A)及び(B)に示す。また、図3及び4に示される破線は、研削する前の多孔質支持体の状態、すなわち図1及び2の多孔質支持体の表面を示している。
【0037】
図3(A)〜(D)には、多孔質支持体が円滑に研削されてなる円滑凹部が示され、また、図4(A)及び(B)には、凸部が形成されていた箇所が僅かに凹状に成るように研削された多孔質支持体が示されている。図2(A)及び(B)に示される凸部は、平滑に研削されてもよい。
【0038】
多孔質支持体の凹部及び凸部を図3(A)〜(D)並びに図4(A)及び(B)に示されるように、角部を除去するように研削することにより、多孔質支持体の表面に水素透過膜を均一に被覆することができ、水素透過膜に剥れ、膨れ及び孔等を生じるのを防ぐことができる。
【0039】
前記水素透過膜は、前記多孔質支持体の表面を被覆し、かつ水素を選択的に透過させることができる。
【0040】
この発明の水素分離装置に採用することのできる水素透過膜の材料としては、気体中の水素ガスを選択的に透過する膜であればよく、例えばパラジウム、パラジウム合金、「無機化学命名法 IUPAC 1990年勧告」(1993年3月26日発行 訳・著者 山崎一雄)に記載の周期律表第5族元素、又はこの元素を含む合金等の金属が用いられる。前記第5族元素としては、例えば、V、Nb、Ta等が挙げられる。パラジウム合金及び前記第5族元素を含む合金に含まれるパラジウム及び前記第5族元素以外の金属としては、例えば、「無機化学命名法 IUPAC 1990年勧告」(1993年3月26日発行 訳・著者 山崎一雄)に記載の周期律表第3族元素(ランタノイド元素を含む。)、第8族元素、第9族元素、第10族元素、第11族元素又はこれらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。周期律表第3族元素としてはY等を挙げることができ、ランタノイド元素としてはCe、Sm、Gd、Dy、Ho、Er、Yb等を挙げることができ、第8族元素としてはRu等、第9族元素としてはRh、Ir等が挙げられ、第10族元素としてはPt等を挙げることができ、更に第11族元素としてはCu、Ag、Au等を挙げることができる。前記水素透過膜は、例えば、真空蒸着法、無電解めっき法、スパッタリング法等によって形成される。水素透過膜の厚さは、要求される水素分離性能、例えば水素ガスの透過速度及びガスの選択性並びに水素透過膜の機械的強度等によって決定され、例えば1〜30μmに調整することが好ましい。前記水素透過膜の厚さを調整することにより、例えばガスが水素透過膜及び多孔質支持体を透過する際に生じる圧力に耐えることができる。また、水素透過膜全体が同一成分で形成されることが、この発明の水素分離装置を製造する工程数削減等の検知から望ましい。
【0041】
前記多孔質支持体は、その一方の表面から他方の表面へと気体を透過させる必要のある多孔質支持体の領域におけるその表面全体が水素透過膜で被覆される。なぜならば、該領域の表面が水素透過膜で十分に被覆されずに多孔質支持体に露出部分が存在すると、その露出部分から水素ガス以外の成分が漏出し、水素ガスとして収集した気体中の水素純度が結果的に下がるからである。
【0042】
前記触媒機能を有する金属を多孔質支持体が含有している場合には、この発明の水素分離装置の使用環境によって、多孔質支持体に含有されている前記金属が水素透過膜中に浸入することにより水素透過膜における水素透過能を低下させてしまう状態、又は逆に水素透過膜を形成している金属、例えばパラジウムが多孔質支持体中の金属たとえばニッケルに固溶しながら多孔質支持体中に拡散してしまい、水素透過膜の水素の透過能を低下させてしまう状態を生じることが考えられる。こうした状態を生じる可能性のある環境下で、又はそのような環境下ではなくても多孔質支持体中に含まれる金属と水素透過膜中の金属との不測の相互作用を防止する必要のある状況下で、この発明の水素分離装置を用いるときは、多孔質支持体と水素透過膜との間に多孔質のバリア層を設けることにより、前記相互作用の発生を防ぐことができる。
【0043】
前記バリア層は、多孔質支持体を形成する材料の金属成分と水素透過膜を形成する材料の金属成分との相互拡散を防ぎ、かつ、気体が流通することのできる多孔質材料で形成されていればよく、例えば、無機酸化物等によって形成される。無機酸化物としては、例えば、ジルコニア、安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニア、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ランタンカルシウム、ランタンクロマイト、ランタンストロンチウム又はこれらの混合物若しくは化合物等が挙げられる。また、このバリア層は、多孔質支持体と同じ材質で形成されていてもよい。バリア層は、この発明の水素分離装置の使用時に多孔質状態であればよく、必ずしもバリア層の形成時に多孔質状態でなくてもよい。
【0044】
バリア層は、上述のジルコニア等の材料を用いて、多孔質支持体の表面上に、例えば、ディップコート法、スプレー吹き付け法、印刷法等によって形成されることができる。また、触媒機能を有する多孔質支持体における水素透過膜を形成しようとするその多孔質支持体の表面から所定の深さまでの領域に存在するとともに触媒機能を有する金属を溶解除去法によって除去することにより、つまりバリア層形成処理をすることにより、バリア層を形成してもよい。このようなバリア層形成処理をする際の触媒金属の溶解除去法として、例えば多孔質支持体のバリア層の形成予定部分から触媒機能を有する多孔質支持体中に含まれる触媒機能保持の金属を溶媒又は反応剤を用いて溶出させる方法等を挙げることができる。このとき用いられる溶媒や反応剤としては、金属を溶出できれば、特に限定されない。例えば、触媒機能を有する金属を含有する多孔質支持体が前記Ni−YSZサーメットで形成されている場合には、多孔質支持体の表面近傍に存在するNiを硫酸や塩酸等の酸を用いて溶出させることができる。バリア層は、多孔質支持体中に存在する触媒としての金属と水素透過膜中に存在する金属とを形成する材料成分が相互に拡散しない程度であれば、その層厚は特に限定されず、例えば、5〜100μmに調整される。バリア層の層厚が5μm未満であると、多孔質支持体と水素透過膜とを形成する材料成分の相互拡散を防ぐことができないことがあり、一方、100μmを越えると、水素透過部材のスムーズな水素透過を妨げ、多孔質支持体の水素製造機能を低下させることがある。
【0045】
前記バリア層は、触媒機能を有する多孔質支持体と水素透過膜とを隔絶するように、前記多孔質支持体の表面を被覆し、該バリア層の表面を水素透過膜が被覆する。
【0046】
更に、前記バリア層の表面状態を改善することにより、高い水素透過性能を維持した膜厚の薄い水素透過膜を形成することもできる。このバリア層の表面状態を改善する方法として、前記多孔質支持体とバリア層との間にコーティング層を設ける方法が挙げられる。
【0047】
前記コーティング層を形成する材料としては、前記触媒機能を有する多孔質支持体を形成する材料を用いることができ、例えば、ニッケルとイットリア安定化ジルコニアの混合物を主成分とする焼結体(Ni−YSZサーメット等)、多孔質セラミックス、多孔質サーメット等が挙げられる。コーティング層がこれらの材料で形成されていると、多孔質支持体が触媒機能を有していなくても、このコーティング層で原料ガスを改質することができる。これらの材料の中でも、触媒機能を有する多孔質支持体の材料と同一の材料が好ましい。そうすることにより、コーティング層にも改質触媒機能を持たせることができるので、コーティング層を厚めに形成しても、水素製造装置の性能を維持することができる。
【0048】
コーティング層は、バリア層の表面状態を改善することができれば、その層厚は特に限定されない。その層厚は、例えば、0.1μm以上に調整される。コーティング層の層厚が、0.1μm未満であると、バリア層の表面状態を効果的に改善することができない場合がある。一方、コーティング層の膜厚の上限は特に限定されない。その膜厚は、例えば、100μmに調整することができる。
【0049】
前記コーティング層の表面には、前記多孔質支持体の表面における気孔の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する気孔が形成されているのがよい。コーティング層の表面に形成された気孔の平均気孔径は、前記多孔質支持体の表面における気孔の平均気孔径よりも小さければ特に限定されないが、前記多孔質支持体の表面における気孔の平均気孔径よりも小さく、かつ、前記バリア層の表面における気孔の平均気孔径よりも大きいのがよい。
【0050】
コーティング層の表面に形成され、このような関係を有する気孔の平均気孔径は0.05〜10μmであるのがよい。平均気孔径が0.05μm未満であると、炭化水素ガスの透過を妨げることがあり、一方、10μmを超えると、コーティング層上に形成されるバリア層の表面状態を効果的に改善できないことがある。コーティング層の表面における気孔の平均気孔径は、0.05〜8μmであるのがより好ましく、0.05〜7μmであるのがさらに好ましい。
【0051】
ここで、コーティング層の表面に存在する気孔の平均気孔径は、前記多孔質支持体の表面における気孔の平均気孔径と同様にして算出した値として定義される。つまり、その平均気孔径は、コーティング層の表面を電子顕微鏡例えば走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察して、気孔の開口を円に近似して求められる開口径を、算術平均して算出することができる。
【0052】
また、コーティング層の表面には、前記多孔質支持体の表面における気孔の個数よりも多くなるように、気孔が形成されているのが好ましい。コーティング層の表面に形成される気孔の個数は、前記多孔質支持体の表面における気孔の個数よりも多ければ、特に限定されない。具体的な気孔の個数は、前記多孔質支持体が有する単位時間当たりのガス透過量とほぼ同程度のガス透過量となるように調整されるのがよい。このようにコーティング層の表面における気孔の個数が調整されると、ガス透過量を維持することができる。特に、触媒機能を有する多孔質支持体を用いる場合には、多孔質支持体の触媒機能を阻害することもなく、水素分離装置のガス透過量を維持することができる。
【0053】
ここで、コーティング層の表面に存在する気孔の個数は、前記平均気孔径の算出と同様にして、その表面を観察し、単位面積当たりの気孔の開口部を数えて求めることができる。
【0054】
コーティング層の表面に、前記多孔質支持体の表面における気孔の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する気孔が、前記多孔質支持体の表面における気孔の個数よりも多くなるように形成されていると、前記バリア層の表面状態をより一層効果的に改善することができる。
【0055】
コーティング層の表面に存在する気孔の平均気孔径、更には、その個数を所定の範囲に調整するには、例えば、前記多孔質材料に配合する造孔剤の種類、大きさ、配合量等を適宜調整すればよく、又は、コーティング層を形成する材料として用いられる粉末の粒径及び/又は焼成温度を適宜調整すればよい。
【0056】
以下に、この発明の水素分離装置の製造方法で得られる水素分離装置の一例を示す。
【0057】
図5に示された水素分離装置1の一実施例では、水素分離装置1は水素分離部2と取付部3とを備えている。水素分離部2は、一端が開口して成り、かつ凹部又は凸部を除去して成る多孔質支持体4とその外表面に形成された水素透過膜5とを備えて成る。図5に示される多孔質支持体4は、多孔質であるので、気体が多孔質支持体4の例えば内側から外側に流通することができ、かつ水素透過膜5を支持している。また、取付部3は、図5に示される水素分離部2が取り付けられる部材であり、ガスを透過しない部材を用いるのが好ましい。更に、図5に示される水素分離装置1では、水素分離部2は取付部3にシール部材6を介して取り付けられている。このシール部材6は、水素分離部2を所定の位置に固定することができる。
【0058】
ここで、この発明の水素分離装置の製造方法で得られる水素分離装置に用いることのできるシール部材には、ある程度変形することのできる材料から成る部材を用いるのが好ましく、該シール部材を介して多孔質支持体及び水素透過膜が固定されていることにより、熱等で多孔質支持体、水素透過膜及びシール部材が体積変化を起しても、シール部材の変形等で、多孔質支持体の接合部にかかる負荷から生じる水素分離部の破壊を防ぐことができる。
【0059】
前記水素分離部2の内部には、原料ガスを水素分離部2に供給することができるように原料ガス導入部7が挿入されている。また、図5に示される水素分離装置1には、適宜に設けられる部材として、分離した水素ガスを導出する水素ガス導出部8(図6には図示せず。)及び原料ガスから水素ガスを分離した後のガスを導出する残留ガス導出部9(図6には図示せず。)を設けている。
【0060】
図6に示される水素分離装置1は、多孔質支持体4が両端を開口する円筒形状を有して成る点が、図5に示される水素分離装置1との相違点であり、この相違点以外は図5と同様の実施態様である。図6に示されるように多孔質支持体4が両端を開口する円筒形状を有して成ることにより、図5で原料ガス導入部7として示される部材を設ける必要がなく、多孔質支持体4自体が原料ガスの導入部材となる。
【0061】
更に、多孔質支持体4が板状に形成される態様を図7に示す。図7においては、水素分離部2が板状に形成されており、かつ水素透過膜5が多孔質支持体4の表面に形成されている。多孔質支持体4側の多孔質支持体4の縁辺部にシール部材6が設けられている。更に、水素分離部2の外側に一対の枠体10が設けられ、該枠体10において、多孔質支持体4に面している側に原料ガス導入部7、及び水素透過膜5に面している側に水素ガス導出部8が設けられている。枠体10は、適宜の方法、例えば圧着、接着又は螺接等により一体となっている。図7に示される水素分離装置1では、枠体10と水素透過膜5との間にシール部材6が配設されている。シール部材6を用いることにより、枠体10をシール部材6に押し付けると、図7にされるようにその断面が台形である場合は、縦方向及び横方向にシール部材6を押し付ける力が作用することとなり、枠体10が密着していない場合にもシール部材6がガスの漏出を防ぐことのできる水素分離装置1が得られる。この発明の水素分離装置の製造方法で得られる水素分離装置が備える多孔質支持体が板形状を有している場合に、該多孔質支持体は例えば円板状であってもよく、矩形板状であってもよい。また、多孔質支持体の形状に合わせてシール部材の形状を変更して、多孔質支持体の縁辺部に沿うようにシール部材を設けることにより、ガスの漏出を防ぐことができるので好ましい。
【0062】
この発明の水素分離装置の製造装置で得られる水素分離装置を用いる装置の一つとして、この発明の燃料電池を挙げることができる。この発明の燃料電池は、前記水素分離装置で分離される水素を燃料として電力を取り出すことができる。
【0063】
この発明の前記燃料電池の好適例は、前記水素分離装置と電力発生装置とが一体に形成されて成り、前記水素分離装置に加えて、アノード層、電解質層及びカソード層を有する電力発生部とを有して成る。このような燃料電池を一体型燃料電池と称することができる。水素分離装置と電力発生装置とが一体となった装置構成においては、上述の水素透過膜を電力発生装置におけるアノードとするのが、部品点数削減の見地から、好ましい。一体型燃料電池の多孔質支持体が、筒状に形成される一態様を図8に示し、また板状に形成される一態様を図9に示す。
【0064】
図8及び9に示される燃料電池11としては、上述の水素透過膜5が燃料電池11のアノードとしての機能を有するように形成されるのが好ましい。なお、水素透過膜を形成するのに用いることができる上述した金属は、アノード層としての機能も有する水素透過膜を形成することができる。
【0065】
次に、水素透過膜の表面に電解質層が設けられる。この電解質層は水素透過膜のアノードとしての機能によりイオン化した水素イオンを伝導し、通過させることができる。電解質層を形成することのできる材料は、水素イオンを通過させることができる限り制限はないが、例えばBa、Sr、Ca、Ce及びZrより成る群から選ばれる少なくとも1種を含有するペロブスカイト型の化合物を挙げることができる。電解質層は、前記ペロブスカイト型の化合物をバインダ及び分散剤と共に溶媒に添加してスラリーとし、水素透過膜の表面にスクリーン印刷等により塗布した後、熱処理して形成することができる。
【0066】
次いで、電解質層の表面にカソード層を形成する。このカソード層は燃料電池のカソードとしての機能を有する。カソード層を形成することのできる材料は、Ag、Pt、Ph又はA1−XCO(Aは希土類元素であり、BはBa、Sr及びCaの少なくとも1種を含む元素であり、CはCo、Fe及びMnの少なくとも1種を含む元素である)等を採用することができる。カソード層は、電解質層と同様に、材料を含むスラリーを調整して、電解質層の表面にスクリーン印刷等により塗布した後、熱処理して形成することができる。
【0067】
なお、電解質層及びカソード層はゾルゲル法又は蒸着法によっても形成することができる。
【0068】
このようにして形成された、アノードとしての機能を有する水素透過膜、電解質層及びカソード層から成る積層体において、図8及び9に示されるようにアノード層としての機能を有する水素透過膜5とカソード層13との間に閉回路を設けて負荷をかけることにより電力を取り出す燃料電池11を形成することができる。更に、図8及び9に示されるように、燃料電池11のアノードとしての機能を有する水素透過膜5には、端子を接続し易いように接続端子14が設けられている。
【0069】
この発明の燃料電池が筒状に形成される場合、図8に示されるような、筒の内側に多孔質支持体4を配置し、かつ外側に向って適宜に設けられるバリア層(図示せず)、水素透過膜5、電解質層12及びカソード層13の順に配置され、多孔質支持体4の内側に原料ガスを流通させると共に、カソード層13の外側に例えば空気等のカソードガスを流通させることにより、電気を取り出すことができる。更に、配置する層の順を逆にして、多孔質支持体4の外側に原料ガスを流通させ、かつカソード層13の内側にカソードガスを流通させることもできる。
【0070】
また、この発明の燃料電池が板状に形成される場合、筐体(図示せず。)を図9に示される燃料電池11で隔絶し、水素分離部2における多孔質支持体4側に原料ガスを供給し、かつ水素透過膜5側に空気等のカソードガスを供給するように実施するのが好ましい。
【0071】
この発明に係る燃料電池は、前記一体型燃料電池に限らず、例えばこの発明に係る水素分離装置と、この水素分離装置とは別体に形成されたところの、アノード層、電解質層及びカソード層を積層して成る積層体を具えた電力発生部と、前記水素分離装置により取り出された水素ガスを前記電力発生部に供給するガス供給ラインとを有してなる別体型燃料電池をも含む。該別体型燃料電池の一例が図10に示されている。図10では、図5に示される水素分離装置1と同様の水素分離装置から水素ガス導出部8が延在して、電力発生部15に接続され、かつカソードガスを導入するカソードガス導入部16も電力発生部15に接続され、該電力発生部15には水素ガス及びカソードガスから電力を取り出すことのできるアノード層17、電解質層12及びカソード層13を備えて成る。図10では、多孔質支持体4及び水素透過膜5が取付部3にシール部材6を介して取り付けられている。電力発生部は、図10に示されるような筐体をアノード層、電解質層及びカソード層で隔絶する態様であってもよく、筐体の替わりに筒体を設けて、アノード層、電解質層及びカソード層で隔絶する態様であってもよい。図10に示される燃料電池11は、次のように作用する。先ず、水素分離部2で分離された水素ガスが、通風機等を適宜に備えて成る水素ガス導出部8により電力発生部15のアノード層13側に供給される。次いで、カソードガス導入部16では、例えば空気等のカソードガスが電力発生部15のカソード層17側に供給される。次に、水素ガス及びカソードガスが供給された電力発生部15は、接続された回路で電力を取り出すことができる。
【実施例】
【0072】
この発明の水素分離装置の製造方法で得られる水素分離装置において、ガスリーク試験を行った。そのガスリーク試験の実施例及び比較例を以下に示す。
【0073】
(実施例)
酸化ニッケル60質量部と、イットリア8モル%を固溶させたジルコニア(以下、イットリアを固溶させたジルコニアを「YSZ」、8モル%固溶させた場合は「8YSZ」と称することがある)40質量部とを混合した。更に造孔剤として黒鉛粉を混合して混合物を得た。この混合物を押出成形によって、有底円筒管(多孔質支持体と称されることになる)を成形した。有底円筒管が充分に乾燥した後に、脱脂処理を行い、1400℃で1時間焼成してNiO−YSZサーメットで形成された多孔質支持体を得た。
【0074】
得られた多孔質支持体の表面をアズワン株式会社製の実体顕微鏡(倍率4倍)でくまなく観察した。観察の結果、多孔質支持体の表面に認められる凹部又は凸部の発見箇所に印を付し、印を付した箇所をミニモ株式会社製のミニタ(研磨材はダイヤモンドを使用した。)で研削した。研削後に、再度多孔質支持体の表面を前記実体顕微鏡でくまなく観察し、凹部又は凸部の除去完了を確認した。研削した多孔質支持体をエタノール中で超音波洗浄し、更に、120℃で3時間乾燥させた。
【0075】
8YSZとバインダとをエタノールに添加して、スラリーを調整した。このスラリーに研削済みの多孔質支持体の外表面をディップコート法により、バリア層を被覆させた。その後、加熱処理してバリア層の焼付けを行った。バリア層の層厚は20μmあった。
【0076】
次いで、バリア層を覆うように水素透過膜を無電解めっき法により形成した。この際、多孔質支持体の開口部は栓で封止してめっきを施した。ここで行った無電解めっき法は、先ずバリア層を被覆した多孔質支持体を塩化錫二水和物の塩酸水溶液に1分間浸漬し、洗浄した後、塩化パラジウムの塩酸水溶液に1分間浸漬し、洗浄する操作を3回繰り返した。その後、多孔質支持体をアンモニア水及びヒドラジン水溶液を含む50℃のめっき液に、常圧下で浸漬して水素透過膜3を1.5μmとなるまで形成させた。その後、同じめっき液に多孔質支持体の内部を減圧して、水素透過膜3を更に13.5μm厚くした。
【0077】
水素透過膜を被覆した多孔質支持体を水素雰囲気下600℃で3時間還元処理を施すことにより、水素分離部を得た。次いで、得られた水素分離部にシール部材として膨張黒鉛を含むフェルールを介して、取付金具(スウェージロック株式会社製のユニオン金具)を取り付けて、水素分離装置を得た。
【0078】
得られた水素分離装置について、先ず多孔質支持体の内部圧力を0.1MPa、外部圧力を0MPa、600℃の条件で97時間連続して水素を透過させた後にガスリーク試験を行った。ガスリーク試験はヘリウムガスを0.3MPaの圧力で水素分離装置の内側に供給し、水素分離部の外部に接続された株式会社堀場エステック製の石鹸流量計でガスのリーク量を測定した。
【0079】
(比較例)
多孔質支持体の表面の凹部又は凸部を除去せずにバリア層を被覆した以外は、実施例と同様に水素分離装置を作製し、ガスリーク試験を行った。
【0080】
実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
実施例においては、再現性を確認するために、実施例と同条件で作製した水素分離装置を実施してガスリーク試験を行ったが、ガスリーク量は0cc/minであった。
【0083】
よって、この発明の水素分離装置の製造方法で得られる水素分離装置は、水素透過膜を被覆する前に予め凹部又は凸部を除去していることにより、水素透過膜の剥れ、膨れ又は孔等が生じることが無く、水素ガス以外のガス漏出を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、多孔質支持体の凹部及び水素透過膜を示す断面図である。
【図2】図2は、多孔質支持体の凸部及び水素透過膜を示す断面図である。
【図3】図3は、多孔質支持体の凹部を研削した状態を示す断面図である。
【図4】図4は、多孔質支持体の凸部を研削した状態を示す断面図である。
【図5】図5は、この発明の水素分離装置の製造方法で得られる水素分離装置の一実施例を示す断面図である。
【図6】図6は、この発明の水素分離装置の製造方法で得られる水素分離装置の他の実施例を示す断面図である。
【図7】図7は、この発明の水素分離装置の製造方法で得られる水素分離装置の他の実施例を示す断面図である。
【図8】図8は、この発明の水素分離装置を備えた燃料電池の一実施例を示す断面図である。
【図9】図9は、この発明の水素分離装置を備えた燃料電池の他の実施例を示す断面図である。
【図10】図10は、この発明の水素分離装置を備えた燃料電池の他の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 水素分離装置
2 水素分離部
3 取り付け部
4 多孔質支持体
5 水素透過膜
6 シール部材
7 原料ガス導入部
8 水素ガス導出部
9 残留ガス導出部
10 枠体
11 燃料電池
12 電解質層
13 カソード層
14 接続端子
15 電力発生部
16 カソードガス導入部
17 アノード層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端若しくは一端を開口する筒形状を有し、又は板形状を有する多孔質支持体と、
前記多孔質支持体の表面を被覆し、かつ水素が選択的に透過することのできる水素透過膜とを備え、
前記多孔質支持体の前記水素透過膜が被覆する表面に存在する、角部を有する凹部を研削して円滑凹部を形成することを特徴とする水素分離装置の製造方法。
【請求項2】
両端若しくは一端を開口する筒形状を有し、又は板形状を有する多孔質支持体と、
前記多孔質支持体の表面を被覆し、かつ水素が選択的に透過することのできる水素透過膜とを備え、
前記多孔質支持体の前記水素透過膜が被覆する表面に存在する、角部を有する凸部を研削により除去することを特徴とする水素分離装置の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質支持体の表面をバリア層が被覆し、かつ前記バリア層の表面を水素透過膜が被覆することを特徴とする前記請求項1又は2に記載の水素分離装置の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質支持体は、供給されるガスを改質することにより水素ガスを生成する改質触媒を含有することを特徴とする前記請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素分離装置の製造方法。
【請求項5】
前記水素透過膜は、その一部又は全部がパラジウム又はパラジウムを含有する合金であることを特徴とする前記請求項1〜4のいずれか一項に記載の水素分離装置の製造方法。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか一項に記載の水素分離装置の製造方法から得られる水素分離装置と、水素を燃料として電力を取り出すことのできる電力発生部とが一体的に設けられて成る燃料電池。
【請求項7】
前記請求項1〜5のいずれか一項に記載の水素分離装置の製造方法から得られる水素分離装置と、水素を燃料として電力を取り出すことのできる電力発生部とが別体的に設けられて成る燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−246317(P2008−246317A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88672(P2007−88672)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】