説明

水素発生装置および水素発生方法

水素化合物を含む液体を入れる容器と、前記液体中に気泡を発生させる気泡発生手段と、前記液体に電磁波を照射する電磁波発生装置と、水素回収手段を備え、液中にプラズマを発生させて水素化合物を分解し、発生した水素を回収する水素発生装置によって、液中で高エネルギーのプラズマを発生させて、反応速度とエネルギー効率が高い水素発生を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、水素化合物を分解して水素発生させる装置および方法に関するものである。
【背景技術】
水素は還元剤として化学工業で使用される需要の多い物質である。また、クリーンエネルギーとして燃料電池にも便用される。従来の水素発生方法として水の電気分解法があるが、コストが高く実用的ではない。また、最も実用的な実用的な水素発生方法として水蒸気改質法がある。これは、メタン等の化石燃料ガスに水蒸気を混合し、高温で化学反応させて水素と一酸化炭素を得る方法である。この水蒸気改質法はコストが低いという利点がある反面、一酸化炭素や二酸化炭素を大量に発生する。また、特許第2711368号公報、特許第2867182号公報等にはメタンや天然ガスをプラズマで分解して水素とカーボンブラックを製造することが記載されている。
水の電気分解法はコストが高く実用的でないことは述べた。一方、水蒸気改質法ではコストは低いが、一酸化炭素や二酸化炭素を大量に発生する。これらのガスは地球温暖化の原因となるものである。特許第2711368号公報、特許第2867182号公報等の発明による方法は炭化水素のほとんど100%の炭素及び水素の収量を与えること、また、反応工程におけるそれらの生成物のいずれもその工程によってほとんど汚染されていないことが見出されたと記載されている(たとえば、特許第2711368号公報第3頁右欄10行)。特許第2711368号公報、特許第2867182号公報等の発明は、メタンガス等の気体中の電極間でプラズマを発生させる気相プラズマによるものであり、プラズマのエネルギー密度を上げることは困難であり、反応速度に限界がある。また、プラズマは高温状態で発生するために取り扱いが不便であり、メタンガス等を高温で反応させるために安全を維持することは困難である。この発明は、局所的には高エネルギーでありながらも巨視的には低温かつ低圧であり、安全かつ取り扱いやすい液中プラズマによる効果的な水素発生装置および水素発生方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
前述の課題を解決するため、この発明の水素発生装置は、水素化合物を含む液体を入れる容器と、前記液体中に気泡を発生させる気泡発生手段と、前記液体に電磁波を照射する電磁波発生装置と、水素回収手段を備え、液中にプラズマを発生させて水素化合物を分解し、発生した水素を回収するものである。さらに、炭素回収手段を備えてもよい。あるいは、前記容器に連続的に液体を供給する供給手段と、容器から連続的に液体を排出する排出手段を有するものでもよい。気泡発生手段を、前記液体中に超音波を照射して気泡を発生させる超音波発生装置とすることもできる。
さらに、前述の課題を解決するため水素発生方法は、水素と炭素を含む化合物を含む液体を容器に入れ、容器内の液体に気泡を発生させるとともに電磁波を照射して液中でプラズマを発生させ、前記化合物を分解して水素を発生させるとともに炭素化合物を合成し、発生した水素および炭素化合物を回収することを特徴とするものである。液体中に分解反応を促進させる触媒を混合してもよい。また、液体中でカーボンナノチューブを合成し、発生した水素をカーボンナノチューブに吸着させて回収するものであってもよい。なお、本発明において炭素化合物の合成とは、炭素と他の元素よりなる物質を合成することのほかに、ダイヤモンドやフラーレン、カーボンナノチューブ等炭素のみからなる物質を合成することも含む。
【発明の効果】
この発明の水素発生装置および水素発生方法は、液中でプラズマを発生させることにより、効率的に水素を発生させることができるという効果を有する。このプラズマは高温・高圧であるが液中で発生するために巨視的には低温かつ低圧であり、取り扱いやすく安全なものである。また、地球温暖化の原因となる一酸化炭素や二酸化炭素を大量に発生することもなく、クリーンエネルギーとしての要請にも合致するものである。原料液として炭化水素を使用し、水素を発生させるとともにフラーレンやカーボンナノチューブ等のニューカーボンなど炭素化合物を同時に合成すると、コスト的にもさらに有利になる。原料液の炭化水素として使用済みの食用油やエンジンオイルなどの廃棄物も使用でき、廃棄物を有価なものに変換再利用できるので、水素製造と同時に廃棄物処理を行うという面からもコスト的に有利である。また、本発明を用いれば二次廃棄物も少ないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
図1はこの発明の水素発生装置を示す説明図である。図2はプラズマの発光スペクトルを示すグラフである。図3はこの発明の水素発生装置の実施例を示す説明図である。図4はこの発明の別の水素発生装置の実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
この発明をより詳細に示すために、以下、この発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は水素発生装置を示す説明図である。水素発生装置1は、液体3を入れる容器2を有する。この液体3は水素を含む化合物を含むものである。そして、液体中に気泡を発生させる気泡発生手段を有するが、図1の例では超音波発生装置4が気泡発生手段である。さらに、液体3に電磁波を照射する電磁波発生装置5を備えている。容器としては、処理すべき対象物質の種類や処理量にあわせて適宜選択でき、少量を処理するためのフラスコ程度の大きさのものであってもよく、大量に処理するための大型処理槽であってもよく、あるいは高速で連続的に処理するために液体が処理に必要な時間だけの通過時間を有する配管であってもよい。
この超音波照射により液中では微小な気泡6が多数発生する。そして、この気泡6が発生している箇所に電磁波を照射するように、電磁波発生装置5が設けられている。気泡発生手段としては、超音波発生装置以外に、真空ポンプなどの減圧手段によって容器内を減圧して気泡を発生させる手段や、液体中に加熱手段を設けて気泡を発生させる手段を用いることもできる。
超音波発生装置4は、この容器2内の液体3に超音波を照射するものであるが、この超音波によって液体中に多数の気泡6が雲状に発生する。気泡6の中には容器2中の液体3に起因する物質が気相で入っているが、気泡6内部の気体は超音波によって急速に拡大収縮を繰り返す。収縮時にはほぼ断熱圧縮となり、気泡6内では超高圧高温となりプラズマが発生しやすい状態となる。本発明に係る水素発生装置には電磁波発生装置5が設けられており、液体の中の気泡6が発生する位置に電磁波を照射するようになっている。電磁波としては、発生させようとするプラズマの種類や強度等によって周波数や出力を選択すればよいが、主に2GHz程度かそれ以上のマイクロ波が用いられる。超音波により高温高圧になっているところに電磁波を重畳することによって気泡中に高エネルギーのプラズマが発生する。
以上のようにして、液体中で高密度の高エネルギープラズマを発生させることができる。プラズマは既に気泡中に封じ込まれており、プラズマ技術における大きな課題である発生したプラズマの封じ込めは本発明においては問題にならない。局所的には高温高圧のプラズマが発生しているが、熱容量の大きな液体中に閉じ込められており巨視的にみれば低温である。したがって装置の外部や装置に接触するものを加熱することがない。このようにして発生したプラズマは高温高圧であってエネルギー密度が高く、しかも取り扱いが容易である。音響キャビテーションによる気泡として単気泡(シングルバブル)と多気泡(マルチバブル)があり、本発明は両者に適用できる。単気泡では全体のエネルギーは小さくなるが、気泡内において超音波照射だけでも5000K〜100000Kという高エネルギー状態が得られる。一方、多気泡ではやや低温になり超音波照射のみで5000K程度であるが、全体のエネルギー量は大きく、工業的利用に有利である。本発明に係る水素発生装置は簡易であるとともに小型であり、机上に置けるほどの大きさに作ることができる一方、超音波発生装置や電磁波発生装置に高出力のものを用いて大規模なものとすることもできる。
図1に示す水素発生装置1による水素発生の例について説明する。液体としては、炭化水素の一種であるドデカン(C1226)を使用した。電磁波は2.45GHzのマイクロ波であり、50Wを液体中に照射した(入力200W、反射150W)。超音波は45KHzを50Wの出力で照射した。
容器2の上部には排気管7が設けられており、ロータリーポンプ8により容器2内の気体を吸引する。ロータリーポンプ8を通過した気体は排気管端部9より回収される。また、水素発生装置1には不活性ガス供給手段10が設けられており、ここではアルゴンガス供給手段10aと窒素ガス供給手段10bが設けられている。不活性ガス供給手段10から不活性ガス供給管11により不活性ガスは容器2内へ供給される。不活性ガス供給管11には流量計12と制御弁13a,bが設けられており、流量計12により流量を確認しながら制御弁13a,bを調整して、適量の不活性ガスを容器2内に供給する。
初めにロータリーポンプ8を作動させて容器2内を500Paまで減圧し、超音波と電磁波を液中に照射して液中でプラズマを発生させた。減圧することにより、大気圧下よりもプラズマが発生しやすくなる。
図2はこのプラズマの発光スペクトルを示すグラフである。Cが大量に発生していることを示しているピークが観察されることより、フラーレン、カーボンナノチューブなどのニューカーボンが発生していることがわかる。また、水素が発生していることを示すピークも存在しており、本例の水素発生装置および水素発生方法により水素が発生していることが確認できる。
液中プラズマによりドデカンを分解して水素を発生させることにより、容器2の中の圧力は5KPaまで上昇した。容器2に設けられた気体採集口14より注射器で容器2内に溜まった気体を100ml採集した(大気圧下では5ml)。採集した気体を24時間後にガスクロマトグラフィー分析した結果、40%以上の高濃度の水素が検出された。分析を行うまでに相当量の水素が流失したことを考慮すると、高純度の水素が発生していることがわかる。液体中に水素を発生させる反応を促進するための触媒を混ぜて水素を発生させたが、触媒なしでもやはり水素を発生させることができた。
以上、この発明の水素発生装置は液中で発生した高エネルギーのプラズマにより水素化合物の分解を行う。水素の原料材料は液体であるためにメタン等の気体に比べて物質の密度がはるかに高く、反応効率が高い。また、プラズマは局所的には高エネルギーであっても液中で発生しているため巨視的には低温かつ低圧であり、極めて取り扱いやすく、安全である。水素と炭素を含む化合物を含む液体を用いることにより、水素を発生させるとともにニューカーボン等の炭素化合物を同時に得ることができるので、水素のみを発生させるよりもさらにコスト上も有利である。
プラズマを発生させるための電磁波発生装置および気泡発生装置は制御器により電気的に自由に制御することができ、電磁波の周波数や電磁波・超音波の出力・照射時間等を選択できるので汎用性が高く、各種の原料液や使用目的に対応できる。水素とともに発生させるニューカーボンの種類を選択する場合にも広く対応できるものである。
図1に示す水素発生装置を使用して水素を発生させる別の例について説明する。原料液としてドデカンの他に、ベンゼン(C12)、市販されている食用油及びエンジンオイル(表1ではそれぞれ「原油」と表示)、さらに食用油及びエンジンオイルをそれぞれの一般的な用途で使用した後に回収した廃油を用いた。各液体とも100mlを容器2へ入れた。電磁波は2.45GHzのマイクロ波であり、30Wを液体中に照射した(入力300W、反射270W)。超音波を照射した場合と照射しない場合の両方の条件で実施した。使用した超音波は58KHzを5Wの出力で照射したものである。ロータリーポンプ8を作動させて容器2内を減圧した。
水素発生装置1によって水素発生を行った結果を表1に示す。各液体より得られた気体中の水素濃度が表されている。この例においては、どの原料液においても、60%以上の高純度の水素が得られており、条件によっては80%程度の純度も得られた。また、食用油及びエンジンオイルの廃油を使用しても高純度の水素が得られているが、この場合、水素発生とともにこれら廃油の処理が同時に行われるという利点がある。食用油は石油を原料とせず、農業的に生産できるものであり、これを水素の原料として使用できるということは、バイオマスの活用という意義も有する。

さらに、この例による水素発生方法のエネルギー効率を、従来の水素発生方法と比較したデータを表2に示す。表2の数値は、それぞれの従来技術のエネルギー消費に対するこの発明の水素発生方法の例のエネルギー消費の比を示している。例えば、ドデカンの場合のデータで見るとと、従来技術の中で最もエネルギー効率がよいとされる化石燃料燃焼システムと比較して1.10倍のエネルギーを消費していることを示していて、ほぼ同等である。それ以外でもこの発明の水素発生方法のエネルギー効率は、従来技術うち多くのものと同等又は上回る結果となっている。化石燃料燃焼システムを使用すれば二酸化炭素等の炭酸ガスを大量に発生することを考慮すると、炭酸ガスを発生させない本発明の水素発生方法が優れていることが明らかになる。

次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。図3は水素発生装置の実施例を示す説明図である。この実施例では液体3を入れる容器の上流に予混合室15が設けられている。予混合室15は原料液供給口16と触媒供給口17を有し、外部より原料液および触媒を予混合室15へ供給できるようになっている。原料としては水素化合物と含む液体、特に、炭化水素等の炭素と水素を含む液体を使用する。触媒は原材料を分解して水素を発生させる反応を促進するためのもので、たとえばパラジウムなどを用いる。予混合室15へ供給された原料液と触媒は、撹拌手段18によって撹拌され、十分に混合される。また、容器2内においても超音波の照射によりさらに撹拌されて、原料液と触媒はより良好に混合される。
予混合室15と容器2は配管19によって接続されている。配管19には制御弁20が設けられており、配管19中の液体の流れを調整するようになっている。一定の流量の液体が連続的に供給されるように制御弁20を制御して、水素発生処理を連続的に行うことができる。また、容器2に一定量の液体を供給した後に制御弁20を閉じて供給を中断し、水素発生処理を行い、処理後の液体を容器2から排出した後に、再度制御弁20を開いて液体を供給する、という手順を繰り返して逐次処理を行うこともできる。
容器2の上部には排気管7が設けられており、容器2の内部で発生した気体を容器2の外へ排出する。一方、容器2の下部には液体排出管21が設けられており、容器2内の液体を外部へ排出するようになっている。
排気管7には気体中から水素のみを選択して透過させる分離膜22が接続されている。分離幕を透過した水素は水素ガスとして回収される。分離膜22を透過しない気体はそのまま排気される。
液体排出管21には沈殿槽23が接続されている。容器2から排出された液体中に含まれるカーボンナノチューブ等のニューカーボンや触媒が沈殿物として回収される。それ以外の液体は廃棄される。回収された触媒は再度予混合室15に投入されて再利用される。すなわち、本実施例においては沈殿槽23は炭素回収手段として機能する。
本発明の別の実施例について説明する。図4は水素発生装置の別の実施例を示す説明図である。この実施例においても予混合室15が設けられており、原料液と触媒が予め十分に混合されてから容器2へ供給されるようになっている。そしてこの実施例においては、排気管は設けられておらず、液体排出管21のみが設けられている。
この実施例の水素発生装置による水素発生方法として、2種類の方法がある。第一の方法は、触媒として水素を吸着する物質を使用するものである。容器2の液中で発生したプラズマにより水素化合物が分解されて水素が発生するが、この水素を触媒に吸着させる。水素を吸着した触媒は液体に含まれた状態で液体排出管21より容器2の外に排出され、加熱槽24へ運ばれる。
第二の方法は、原料液として炭化水素を含む液体を使用するものであり、容器2の液中で発生したプラズマにより炭化水素させて水素を発生させるとともにカーボンナノチューブ等のニューカーボンを合成するものである。そして発生した水素をこのニューカーボンに吸着させる。水素を吸着したニューカーボンは液体排出管21を通って加熱槽24へ運ばれる。
加熱槽24には加熱槽内を加熱するためのヒーター25が設けられている。ヒーター25により加熱槽24へ運ばれた液体は加熱され、触媒またはニューカーボンに吸着されていた水素は分離し気体として回収される。加熱槽24内に残ったニューカーボンも回収される。すなわち、本実施例においては加熱槽24は炭素回収手段として機能する。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、液中でプラズマを発生させて水素を発生させるので、反応速度とエネルギー効率が高い水素発生技術として利用できる。水素製造と同時に炭素化合物も生成できるので、水素製造と炭素化合物製造を兼ねた装置としても利用できる。炭酸ガスを発生させることなく水素が得られるので、無公害のエネルギー技術として利用できるものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化合物を含む液体を入れる容器と、前記液体中に気泡を発生させる気泡発生手段と、前記液体に電磁波を照射する電磁波発生装置と、水素回収手段を備え、液中にプラズマを発生させて水素化合物を分解し、発生した水素を回収する水素発生装置。
【請求項2】
炭素回収手段を有する請求項1に記載の水素発生装置。
【請求項3】
前記容器に連続的に液体を供給する供給手段と、容器から連続的に液体を排出する排出手段を有する請求項1または請求項2に記載の水素発生装置。
【請求項4】
気泡発生手段が前記液体中に超音波を照射して気泡を発生させる超音波発生装置である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の水素発生装置。
【請求項5】
水素と炭素を含む化合物を含む液体を容器に入れ、容器内の液体に気泡を発生させるとともに電磁波を照射して液中でプラズマを発生させ、前記化合物を分解して水素を発生させるとともに炭素化合物を合成し、発生した水素および炭素化合物を回収することを特徴とする水素発生方法。
【請求項6】
液体中に触媒を混合する請求項5に記載の水素発生方法。
【請求項7】
液体中でカーボンナノチューブを合成し、発生した水素をカーボンナノチューブに吸着させて回収する請求項5または請求項6に記載の水素発生方法。

【国際公開番号】WO2004/094306
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505772(P2005−505772)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005748
【国際出願日】平成16年4月21日(2004.4.21)
【出願人】(501103000)株式会社テクノネットワーク四国 (5)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【Fターム(参考)】