説明

汎用エンジンの制御装置

【課題】潤滑油の温度に代わるパラメータを用いることで、エンジンの暖機状態に応じた適切な燃料噴射量を算出するようにした汎用エンジンの制御装置を提供する。
【解決手段】汎用エンジンのスロットル開度(スロットル開度指令値)THとエンジン回転数NEとに基づいて基本噴射量を算出すると共に、算出された基本噴射量をスロットル開度THに基づいて補正して暖機時の燃料噴射量を算出してインジェクタから噴射させる暖機制御を実行する(S16,S18)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は汎用エンジンの制御装置に関し、より詳しくは汎用エンジンの暖機運転を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンの制御装置において、暖機時に、潤滑油(オイル)の温度に基づいて算出された暖機補正係数で燃料噴射量を増量補正するようにした技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−285834号公報(段落0042〜0046、図6など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、暖機運転によるエンジンの温度上昇が潤滑油に伝達されるまでにはある程度の時間を要するため、上記の如く潤滑油の温度を用いて燃料噴射量を増量補正するように構成した場合、エンジンの暖機状態が増量補正に直ちに反映されず、そのため暖機状態に適した燃料噴射量が算出されず、結果として暖機運転が必要以上に長く行われて燃料消費量が増大するなどの不具合が発生するおそれがあった。
【0005】
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、潤滑油の温度に代わるパラメータを用いることで、エンジンの暖機状態に応じた適切な燃料噴射量を算出するようにした汎用エンジンの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、作業機の動力源として使用可能な汎用エンジンの吸気管に配置されたスロットルバルブのスロットル開度とエンジン回転数とに基づいて基本噴射量を算出する基本噴射量算出手段と、前記算出された基本噴射量を前記スロットル開度に基づいて補正して暖機時の燃料噴射量を算出してインジェクタから噴射させる暖機制御を実行する暖機制御実行手段とを備える如く構成した。
【0007】
請求項2に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、前記暖機制御実行手段は、前記スロットル開度に基づいて暖機補正係数を算出すると共に、前記汎用エンジンの始動が完了した後に前記算出された暖機補正係数で前記基本噴射量を補正して前記暖機時の燃料噴射量を算出する如く構成した。
【0008】
請求項3に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、前記暖機補正係数は、初期値から前記スロットル開度に基づいて算出される所定値ずつ減少するように算出される如く構成した。
【0009】
請求項4に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、前記暖機補正係数は、前記汎用エンジンが所定数回転する度または所定時間が経過する度に算出される如く構成した。
【0010】
請求項5に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、前記暖機補正係数が1.0以上の乗算項からなり、前記汎用エンジンが所定数回転する度または所定時間が経過する度に1.0に向けて前記所定値ずつ減少するように算出されると共に、前記暖機制御実行手段は、前記暖機補正係数が1.0になるまで前記暖機制御を実行する如く構成した。
【0011】
請求項6に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、前記汎用エンジンは、前記エンジン回転数が操作者によって設定された目標回転数となるように前記スロットルバルブを開閉するアクチュエータを備えてなる如く構成した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、汎用エンジンのスロットル開度とエンジン回転数とに基づいて基本噴射量を算出すると共に、算出された基本噴射量をスロットル開度に基づいて補正して暖機時の燃料噴射量を算出してインジェクタから噴射させる暖機制御を実行するように構成、即ち、潤滑油の温度に代えて、エンジンの暖機状態に影響を及ぼすスロットル開度を用いて暖機時の燃料噴射量を算出するように構成したので、エンジンの暖機状態(具体的には暖機の進捗状態)に応じた適切な燃料噴射量を算出でき、よって暖機運転時間を短縮することが可能になると共に、燃料消費量を低減させることができる。
【0013】
また、汎用エンジンが外気温によって暖機状態(具体的には暖機の進捗状態)が変化し易い空冷式の汎用エンジンからなる場合であっても、上記の如く構成することで、暖機状態に応じた適切な燃料噴射量を算出することが可能となる。
【0014】
請求項2に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、暖機制御実行手段は、スロットル開度に基づいて暖機補正係数を算出すると共に、汎用エンジンの始動が完了した後に暖機補正係数で基本噴射量を補正して暖機時の燃料噴射量を算出するように構成したので、上記した効果に加え、エンジンの暖機状態に応じた暖機補正係数から適切な燃料噴射量を算出でき、よって暖機運転時間をより短縮することが可能になると共に、燃料消費量をより一層低減させることができる。
【0015】
請求項3に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、暖機補正係数は、初期値からスロットル開度に基づいて算出される所定値ずつ減少するように算出される如く構成したので、請求項2で述べた効果に加え、エンジンの暖機が進むにつれて暖機補正係数を徐々に(段階的に)減少させることができ、よってエンジンの暖機状態に応じた適切な燃料噴射量を算出することができる。
【0016】
請求項4に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、暖機補正係数は、汎用エンジンが所定数回転する度または所定時間が経過する度に算出されるように構成したので、請求項2,3で述べた効果に加え、時間の経過に伴って、換言すれば、エンジンの暖機が進むにつれて暖機補正係数を確実に減少させることができ、よってエンジンの暖機状態により適した燃料噴射量を算出することができる。
【0017】
請求項5に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、暖機補正係数が1.0以上の乗算項からなり、汎用エンジンが所定数回転する度または所定時間が経過する度に1.0に向けて所定値ずつ減少するように算出される如く構成したので、請求項3,4で述べた効果に加え、エンジンの暖機が進むにつれて暖機補正係数を1.0に向けて徐々に減少させることができ、よってエンジンの暖機状態により一層適した燃料噴射量を算出することができる。
【0018】
また、暖機制御実行手段は、暖機補正係数が1.0になるまで暖機制御を実行するように構成したので、エンジンの暖機が完了する適切な時期まで暖機制御を実行(継続)することが可能となる。
【0019】
請求項6に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、汎用エンジンは、エンジン回転数が操作者によって設定された目標回転数となるようにスロットルバルブを開閉するアクチュエータを備えてなるように構成、具体的には、電子ガバナを備えるように構成したので、上記した効果に加え、アクチュエータを駆動させる指令値に基づいてスロットル開度を算出(検出)できるため、スロットル開度センサを不要にでき、簡素な構成でエンジンの暖機状態に適した燃料噴射量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施例に係る汎用エンジンの制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す電子制御ユニット(ECU)の構成を中心に示すブロック図である。
【図3】図1に示す制御装置の燃料噴射量の暖機補正処理を示すフロー・チャートである。
【図4】図3フロー・チャートの処理で使用されるマップを示す説明図である。
【図5】図3フロー・チャートの処理で使用されるマップを示す説明図である。
【図6】図3フロー・チャートの処理で使用されるマップを示すグラフである。
【図7】図3フロー・チャートの処理を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に即してこの発明に係る汎用エンジンの制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0022】
図1はこの発明の実施例に係る汎用エンジンの制御装置を全体的に示す概略図である。
【0023】
図1において、符号10は汎用エンジン(汎用内燃機関)を示す。エンジン10は空冷式の4サイクル単気筒OHV型でガソリンを燃料とし、例えば400cc程度の排気量を有し、農業、建設などの産業用小型作業機の動力源として使用(接続)可能な汎用内燃機関からなる。
【0024】
エンジン10のシリンダブロック10aの内部に形成されたシリンダ(気筒)12には、ピストン14が往復動自在に収容される。シリンダブロック10aにはシリンダヘッド10bが取り付けられ、ピストン14の頂部との間に燃焼室16が形成される。
【0025】
燃焼室16には吸気管20が接続される。吸気管20にはスロットルバルブ22が配置されると共に、その下流の吸気ポートの付近にはインジェクタ24が配置される。インジェクタ24は燃料供給管26を介して燃料タンク30に接続される。
【0026】
より具体的には、インジェクタ24は第1の燃料供給管26aを介してサブ燃料タンク32に接続されると共に、サブ燃料タンク32は第2の燃料供給管26bを介して燃料タンク30に接続される。
【0027】
第2の燃料供給管26bには低圧ポンプ34が介挿され、燃料タンク30に貯留された燃料(ガソリン)を汲み上げてサブ燃料タンク32に圧送する。サブ燃料タンク32には燃料ポンプ(高圧ポンプ)36が配置される。
【0028】
燃料ポンプ36は圧送されてフィルタ32aで濾過された燃料を高圧に加圧し、レギュレータ32bで調圧しつつ、燃料供給管26aを介してインジェクタ24に圧送する。サブ燃料タンク32の燃料の一部は戻し管26cを介して燃料タンク30に戻される。
【0029】
エアクリーナ(図示せず)から吸入された吸気は吸気管20を流れ、スロットルバルブ22で流量を調整されて吸気ポートに至り、インジェクタ24から噴射された燃料と混合して混合気を形成する。
【0030】
混合気は吸気バルブ40が開かれるとき、燃焼室16に流入し、点火プラグ42で点火されて燃焼してピストン14を駆動する。燃焼によって生じた排ガスは排気バルブ44が開かれるとき、排気管46を流れて外部に放出される。
【0031】
シリンダブロック10aにはシリンダヘッド10bと対向する側においてクランクケース(図示せず)が取り付けられ、その内部にはクランクシャフト50が回転自在に収容される。クランクシャフト50はピストン14にコンロッド14aを介して連結され、ピストン14の駆動に応じて回転する。
【0032】
クランクケースにはクランクシャフト50と平行してカムシャフト(図示せず)が回転自在に収容され、ギヤ機構(図示せず)を介してクランクシャフト50に連結されて駆動される。カムシャフトは吸気側カムと排気側カムを備え、図示しないプッシュロッドとロッカーアームを介して吸気バルブ40と排気バルブ44を開閉する。
【0033】
クランクシャフト50の他端にはフライホイール52が取り付けられる。フライホイール52の外側位置においてクランクケースにはパルサコイル(クランク角センサ)54が取り付けられ、フライホイール52の表面側に取り付けられた1個のマグネット(永久磁石片。図示せず)と相対回転してその磁束と交錯することで、上死点付近の所定のクランク角度でクランクシャフト50の1回転当たり(360度当たり)1個の出力を生じる。
【0034】
また、クランクケースの内側位置にはパワーコイル(発電コイル)56が取り付けられ、フライホイール52の裏面側に取り付けられた8個のマグネット(永久磁石片。図示せず)との相対回転に伴ってマグネットの磁束と交錯して起電力を生じるACG(交流発電機)として機能する。生じた起電力は整流された後、バッテリ(図示せず)に供給され、バッテリを充電する。
【0035】
クランクシャフト50の一端には作業機などの負荷60が接続される。ここで負荷60は「原動機から出るエネルギ(出力)を消費する機械設備またはその機械設備が消費する動力(仕事率)の大きさ」を意味する。
【0036】
エンジン10のハウジング(図示せず)上の適宜位置には操作者(ユーザ)に操作自在なアクセルレバー62が配置される。アクセルレバー62は、操作者の指でつままれて所定の最小エンジン回転数から最大エンジン回転数に至る範囲を回転して操作者の意図する目標回転数Ndを指示可能なツマミからなる。
【0037】
スロットルバルブ22は電動モータ(アクチュエータ。より具体的にはステッピングモータ)64が連結される。電動モータ64は、操作者のアクセルレバー62の操作と独立に、スロットルバルブ22を開閉するように構成される。即ち、スロットルバルブ22はDrive By Wire型に構成される。
【0038】
吸気管20においてスロットルバルブ22の配置位置の上流にはサーミスタなどからなる吸気温度センサ70が配置され、その部位を流れる吸気の温度を示す出力を生じる。また、シリンダブロック10aにおいてシリンダヘッド10bの近傍位置には同様にサーミスタなどからなるエンジン温度センサ72が配置され、その部位の温度、即ち、エンジン10の温度(エンジン温度。正確にはシリンダヘッド10bの温度)Tを示す出力を生じる。
【0039】
また、アクセルレバー62には可変抵抗器(ポテンショメータ)74が接続され、操作者によるアクセルレバー62の操作によって設定された目標回転数Ndを示す出力を生じると共に、エンジン10のハウジング上の適宜位置には操作者(ユーザ)に操作自在な操作スイッチ76が配置される。
【0040】
操作スイッチ76は、操作者によってオン位置に操作される(オンされる)とき運転指示を示す出力を生じる一方、オフ位置に操作される(オフされる)とき停止指示を示す出力を生じる。
【0041】
これらセンサ70,72,74とスイッチ76と前記したパルサコイル54ならびにパワーコイル56の出力は、ECU(Electronic Control Unit。電子制御ユニット)80に送られる。ECU80はその出力に基づいてインジェクタ24、点火プラグ42および電動モータ64などの動作を制御する。
【0042】
図2はECU80の構成を中心に示すブロック図である。ECU80はエンジン回転数検出ブロック80a、ガバナ制御ブロック80b、燃料噴射量算出ブロック80cおよび点火時期算出ブロック80dを備える。
【0043】
エンジン回転数検出ブロック80aは、パルサコイル54の出力をカウントしてエンジン回転数NEを検出する。尚、エンジン回転数NEはパワーコイル56の出力から検出しても良い。
【0044】
ガバナ制御ブロック80bは、アクセルレバー62の操作に応じた可変抵抗器74の出力からエンジン10の目標回転数Ndを決定し、エンジン回転数検出ブロック80aから入力されるエンジン回転数NEが目標回転数Ndとなるように(一致するように)電動モータ64を介してスロットルバルブ22を開閉させ、スロットル開度を調整する。
【0045】
具体的には、検出されたエンジン回転数NEが目標回転数Ndより小さい場合、現在のスロットル開度指令値THより所定開度だけ増大させたスロットル開度指令値THを出力する。逆に、エンジン回転数NEが目標回転数Ndより大きい場合、現在出力しているスロットル開度指令値THより所定開度だけ減少させたスロットル開度指令値THを出力する。出力されたスロットル開度指令値THは電動モータ64に送信され、電動モータ64によってスロットル開度が調整される。即ち、この実施例に係るエンジン10は、電動モータ64,ECU80などから構成される機構からなる電子ガバナを備える。
【0046】
このようにECU80は電動モータ64の回転量を指令することから、スロットル開度センサを必要とすることなく、自らの指令値THからスロットルバルブ22の開度(スロットル開度)を算出(検出)する。スロットル開度は全閉位置付近を0、全開位置付近を100としたときの%で算出される。
【0047】
燃料噴射量算出ブロック80cは、エンジン回転数検出ブロック80aで検出されたエンジン回転数NEとガバナ制御ブロック80bから入力されたスロットル開度指令値THに基づいて予め設定された燃料噴射量マップ(特性)に従って基本噴射量を算出、即ち、スロットルスピード方式といわれる手法で算出する。
【0048】
さらに、燃料噴射量算出ブロック80cは、暖機時においてエンジン温度センサ72の出力からエンジン温度Tを検出すると共に、検出されたエンジン温度Tとスロットル開度(正確にはスロットル開度指令値TH)に基づいて暖機補正係数を算出する。
【0049】
具体的には、エンジン温度Tに基づき、予め設定された暖機補正係数初期値マップ(特性)と暖機補正係数減算量マップ(特性)を検索して暖機補正係数初期値(初期値)と暖機補正係数減算量を算出すると共に、スロットル開度に基づいて予め設定されたスロットル開度補正係数マップ(特性)を検索してスロットル開度補正係数を算出する。
【0050】
これら暖機補正係数初期値、暖機補正係数減算量およびスロットル開度補正係数から暖機補正係数を求め、前記した基本噴射量に暖機補正係数を乗算することで暖機時の燃料噴射量を算出し、それを最終燃料噴射量指令値Qfとしてインジェクタ24に送信する。インジェクタ24は、送信された指令値Qfに応じた開弁時間だけ開弁して燃料を噴射する。この暖機時の燃料噴射量の算出については後に詳説する。
【0051】
点火時期算出ブロック80dは、パルサコイル54の出力などから点火時期を算出し、点火コイルなどの点火装置82を介して点火プラグ42の点火動作を制御する。尚、燃料噴射時期と点火時期はパルサコイル54の出力に合わせて実行される。
【0052】
図3は、ECU80によって実行される処理のうち、操作スイッチ76がオンされてからエンジン10の暖機運転が終了するまでの燃料噴射量の暖機補正処理を示すフロー・チャートである。
【0053】
以下説明すると、先ずS10において、エンジン温度Tに基づいて算出される始動噴射量をインジェクタ24から噴射させる始動時制御を実行し、燃料噴射量を増量する。具体的には、始動開始時のエンジン温度Tから図4に示す始動噴射量マップを検索して始動噴射量を算出し、算出された始動噴射量をインジェクタ24から噴射させる。始動噴射量は、エンジン10の始動動作に必要な燃料噴射量とされると共に、図示の如く、エンジン温度Tが上昇するにつれて段階的に減少するように設定される。
【0054】
次いでS12に進み、エンジン10の始動が完了したか否か判断、具体的には、エンジン回転数NEが完爆回転数(例えば1000rpm)に達したか否か判断し、否定されるときはS10の処理に戻る一方、肯定されるときはS14以降に進む。S14からS20までの処理は、燃料噴射量を増量してエンジン10を暖機する暖機制御を示す。
【0055】
暖機制御においては、先ずS14でエンジン温度Tから図5に示す暖機補正係数初期値マップを検索して暖機補正係数初期値(初期値)を決定する。図示の如く、暖機補正係数初期値は、1.0以上の乗算項からなり、エンジン温度Tが上昇するにつれて徐々に減少するように設定される。
【0056】
次いでS16に進み、スロットル開度指令値THからスロットル開度を算出(検出)する。次いでS18に進み、スロットル開度などに基づいて基本噴射量と暖機補正係数を算出すると共に、算出された暖機補正係数で基本噴射量を補正して暖機時の燃料噴射量を算出してインジェクタ24から噴射させる。
【0057】
具体的に暖機時の燃料噴射量は以下の式に従って算出する。
暖機時の燃料噴射量=基本噴射量×暖機補正係数 ・・・式(1)
上記で暖機補正係数は、下記の式(2)(3)を用いて算出する。
暖機補正係数=暖機補正係数初期値−最終暖機補正係数減算量 ・・・式(2)
最終暖機補正係数減算量=暖機補正係数減算量×スロットル開度補正係数
・・・式(3)
【0058】
式(1)の基本噴射量は、スロットル開度(正確にはスロットル開度指令値TH)とエンジン回転数NEとに基づいて燃料噴射量マップを検索して算出する。
【0059】
暖機補正係数は、1.0以上の乗算項からなり、エンジン10が所定数(例えば1回)回転する度に暖機補正係数初期値から1.0に向けて最終暖機補正係数減算量(所定値)ずつ減少するように算出する。即ち、エンジン10が所定数回転する度に式(2)(3)の計算を行って暖機補正係数を算出する。尚、暖機補正係数の2回目以降の計算のとき、式(2)の暖機補正係数初期値は「(前回算出された)暖機補正係数」とする。また、暖機補正係数は、エンジン10の回転に代え、所定時間が経過する度に最終暖機補正係数減算量ずつ減少するように算出しても良い。
【0060】
最終暖機補正係数減算量は、式(3)に示す如く、暖機補正係数減算量にスロットル開度補正係数を乗算して求める。暖機補正係数減算量は、エンジン温度Tから図5に示す暖機補正係数減算量マップを検索して算出する。暖機補正係数減算量は、エンジン温度Tの上昇に比例して徐々に増加し、エンジン温度Tが暖機が終了したと推定できる値(例えば100℃)のときは0とされる。
【0061】
スロットル開度補正係数は、1.0以上の乗算項からなると共に、S16で算出されたスロットル開度に基づいて図6に示すスロットル開度補正係数マップを検索して算出する。図示の如く、スロットル開度補正係数は、スロットル開度が比較的小さいとき(具体的には、スロットル全閉付近に設定されたアイドル開度の近傍(より具体的には0から値aまでの間)にあるとき)は1.0とされると共に、スロットル開度が値a以上のとき(換言すれば、スロットル開度が比較的大きいとき)、スロットル開度が増大するにつれて徐々に増加するように設定される。また、スロットル開度補正係数は、スロットル開度が前記した値aに比して開弁側に設定された大きい値b以上であるとき、上限値(例えば1.75)となるように設定される。
【0062】
これにより、スロットル開度が比較的大きいときは、スロットル開度補正係数は増加し、式(3)で求められる最終暖機補正係数減算量は増加する。最終暖機補正係数減算量の増加により、式(2)で暖機補正係数が減少し、結果として式(1)の暖機時の燃料噴射量は減少することとなる。
【0063】
このスロットル開度が比較的大きいときに暖機時の燃料噴射量を減少させる理由について説明すると、スロットル開度とエンジン10に接続される負荷とは相関する関係にあり、具体的には負荷が増加側に変動した場合、エンジン回転数NEを目標回転数Ndで一定に保持するため、スロットル開度は電子ガバナによって開弁側に大きくなるように調整される。逆に、負荷が減少した場合、スロットル開度は閉弁側に小さくなるように調整される。
【0064】
換言すれば、高負荷でスロットル開度が比較的大きいときは、燃焼室16での爆発によって生じる熱エネルギも比較的高くなる一方、低負荷でスロットル開度が比較的小さいときは、前記した爆発による熱エネルギも比較的低くなる。
【0065】
このことから、エンジン10のスロットル開度に基づき、負荷の多寡および前記した爆発による熱エネルギの大きさを推定することができる。従って、例えばスロットル開度が大きく、高負荷で前記熱エネルギが大きいと推定される場合、その熱エネルギが生じる分だけエンジン10の暖機が促進される(進んでいる)ため、暖機時の燃料噴射量を最初に算出した値よりも少なくすることが可能となる。
【0066】
以上から、S18の処理においては、スロットル開度が比較的大きい場合、暖機が進んでいることから、その進捗状態に応じて上記の如くスロットル開度補正係数を増加させて最終暖機補正係数減算量を増やし、式(1)で算出される暖機時の燃料噴射量を減少させるようにした。
【0067】
図3フロー・チャートにおいては、次いでS20に進み、現在の暖機補正係数が1.0より大きいか否か判定する。S20で肯定されるときはS16に戻る一方、否定されるとき、即ち、暖機補正係数が式(2)によって減少して1.0以下になったときはS22に進んで暖機制御を終了し、プログラムを終了する。別言すれば、暖機補正係数が1.0になるまで暖機制御を実行する。尚、暖機終了後は通常の燃料噴射制御が行われるが、それは本願の要旨と直接の関係を有しないので説明を省略する。
【0068】
図7は上記した処理を説明するグラフである。図において、横軸はエンジン10が回転した回数である。
【0069】
以下説明すると、エンジン10が停止した状態で操作スイッチ76がオンされると、先ず始動噴射量をインジェクタ24から噴射させる始動時制御を実行する(S10)。次いでエンジン10が例えばr1回回転してエンジン10の始動が完了すると(S12)、スロットル開度に基づいて算出された暖機補正係数で基本噴射量を補正して算出した暖機時の燃料噴射量をインジェクタ24から噴射させる暖機制御を開始する(S16,S18)。
【0070】
暖機補正係数はエンジン10が所定数回転する度に、暖機補正係数初期値から最終暖機補正係数減算量ずつ減少するように算出されるため、暖機時の燃料噴射量も徐々に減少する。
【0071】
また、例えばエンジン10がr2回あるいはr3回回転したときにスロットル開度が変わった場合、換言すれば、負荷が変動してエンジン10の暖機状態(具体的には進捗状態)が変化した場合、それに応じてスロットル開度補正係数を増減させることで、最終暖機補正係数減算量が増減し、よってエンジン10の暖機状態に応じた適切な暖機時の燃料噴射量が算出されてインジェクタ24から噴射される。
【0072】
そして、エンジン10がr4回回転し、暖機補正係数が1.0になって暖機時の燃料噴射量が基本噴射量と同じ値になったとき、暖機制御を終了する、逆に言えば、暖機補正係数が1.0になるまで暖機制御を実行する(S20,S22)。
【0073】
以上の如く、この発明の実施例にあっては、作業機(負荷60)の動力源として使用可能な汎用エンジン10の吸気管20に配置されたスロットルバルブ22のスロットル開度(スロットル開度指令値)THとエンジン回転数NEとに基づいて基本噴射量を算出する基本噴射量算出手段と(ECU80。S18)、前記算出された基本噴射量を前記スロットル開度THに基づいて補正して暖機時の燃料噴射量を算出してインジェクタ24から噴射させる暖機制御を実行する暖機制御実行手段と(ECU80。S18)を備える如く構成した。
【0074】
このように、潤滑油の温度に代えて、エンジン10の暖機状態に影響を及ぼすスロットル開度THを用いて暖機時の燃料噴射量を算出するように構成したので、エンジン10の暖機状態(具体的には暖機の進捗状態)に応じた適切な燃料噴射量を算出でき、よって暖機運転時間を短縮することが可能になると共に、燃料消費量を低減させることができる。
【0075】
また、汎用エンジン10が外気温によって暖機状態(具体的には暖機の進捗状態)が変化し易い空冷式の汎用エンジンからなる場合であっても、上記の如く構成することで、暖機状態に応じた適切な燃料噴射量を算出することが可能となる。
【0076】
また、前記暖機制御実行手段は、前記スロットル開度THに基づいて暖機補正係数を算出すると共に、前記汎用エンジン10の始動が完了した後に前記算出された暖機補正係数で前記基本噴射量を補正して前記暖機時の燃料噴射量を算出するように構成したので(S18)、エンジン10の暖機状態に応じた暖機補正係数から適切な燃料噴射量を算出でき、よって暖機運転時間をより短縮することが可能になると共に、燃料消費量をより一層低減させることができる。
【0077】
また、前記暖機補正係数は、初期値(暖機補正係数初期値)から前記スロットル開度THに基づいて算出される所定値(最終暖機補正係数減算量)ずつ減少するように算出される如く構成したので(S18)、エンジン10の暖機が進むにつれて暖機補正係数を徐々に(段階的に)減少させることができ、よってエンジン10の暖機状態に応じた適切な燃料噴射量を算出することができる。
【0078】
また、前記暖機補正係数は、前記汎用エンジン10が所定数回転する度または所定時間が経過する度に算出されるように構成したので(S18)、時間の経過に伴って、換言すれば、エンジン10の暖機が進むにつれて暖機補正係数を確実に減少させることができ、よってエンジン10の暖機状態により適した燃料噴射量を算出することができる。
【0079】
また、前記暖機補正係数が1.0以上の乗算項からなり、前記汎用エンジン10が所定数回転する度または所定時間が経過する度に1.0に向けて前記所定値ずつ減少するように算出されると共に(S18)、前記暖機制御実行手段は、前記暖機補正係数が1.0になるまで前記暖機制御を実行するように構成したので(S20,S22)、エンジン10の暖機が進むにつれて暖機補正係数を1.0に向けて徐々に減少させることができ、よってエンジン10の暖機状態により一層適した燃料噴射量を算出することができる。また、暖機補正係数が1.0になるまで暖機制御を実行するように構成したので、エンジン10の暖機が完了する適切な時期まで暖機制御を実行(継続)することが可能となる。
【0080】
また、前記汎用エンジン10は、前記エンジン回転数NEが操作者によって設定された目標回転数Ndとなるように前記スロットルバルブ22を開閉するアクチュエータ(電動モータ)64を備えてなるように構成、具体的には、電子ガバナを備えるように構成したので、電動モータ64を駆動させる指令値(スロットル開度指令値TH)に基づいてスロットル開度を算出(検出)できるため、スロットル開度センサを不要にでき、簡素な構成でエンジン10の暖機状態に適した燃料噴射量を算出することができる。
【0081】
尚、上記において、暖機補正係数、暖機補正係数初期値およびスロットル開度補正係数を乗算項としたが、加算項であっても良い。また、スロットル開度補正係数や暖機補正係数初期値、暖機補正係数減算量などを具体的な値で示したが、それらは例示であって限定されるものではない。
【符号の説明】
【0082】
10 エンジン(汎用エンジン)、20 吸気管、22 スロットルバルブ、24 インジェクタ、60 負荷(作業機)、64 電動モータ(アクチュエータ)、80 ECU(電子制御ユニット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機の動力源として使用可能な汎用エンジンの吸気管に配置されたスロットルバルブのスロットル開度とエンジン回転数とに基づいて基本噴射量を算出する基本噴射量算出手段と、前記算出された基本噴射量を前記スロットル開度に基づいて補正して暖機時の燃料噴射量を算出してインジェクタから噴射させる暖機制御を実行する暖機制御実行手段とを備えたことを特徴とする汎用エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記暖機制御実行手段は、前記スロットル開度に基づいて暖機補正係数を算出すると共に、前記汎用エンジンの始動が完了した後に前記算出された暖機補正係数で前記基本噴射量を補正して前記暖機時の燃料噴射量を算出することを特徴とする請求項1記載の汎用エンジンの制御装置。
【請求項3】
前記暖機補正係数は、初期値から前記スロットル開度に基づいて算出される所定値ずつ減少するように算出されることを特徴とする請求項2記載の汎用エンジンの制御装置。
【請求項4】
前記暖機補正係数は、前記汎用エンジンが所定数回転する度または所定時間が経過する度に算出されることを特徴とする請求項2または3記載の汎用エンジンの制御装置。
【請求項5】
前記暖機補正係数が1.0以上の乗算項からなり、前記汎用エンジンが所定数回転する度または所定時間が経過する度に1.0に向けて前記所定値ずつ減少するように算出されると共に、前記暖機制御実行手段は、前記暖機補正係数が1.0になるまで前記暖機制御を実行することを特徴とする請求項3または4記載の汎用エンジンの制御装置。
【請求項6】
前記汎用エンジンは、前記エンジン回転数が操作者によって設定された目標回転数となるように前記スロットルバルブを開閉するアクチュエータを備えてなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の汎用エンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−57541(P2012−57541A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201473(P2010−201473)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】