説明

油を含有する電気的装置における過熱点の温度を測定するための方法及び装置

本発明は、変圧器などの、油を含有する電気的装置における過熱点の実際の温度を測定するための方法に関する。電気的装置は、予め決められた変更可能な運転条件において運転する。この方法は、油中に存在し溶解可能である一又はそれより多い化学的化合物又はトレーサーを使用することを含む。各トレーサーは、溶解性気体などの残留物を形成するために、所与の温度において転化することが可能である。油中の残留物の存在のために、運転者は、いずれの予め決められた運転条件において過熱点に到達するかを決定し、そこから所与の条件について過熱点を誘導することができる。使用する異なる化合物としては、ジアゾ化合物、カルボニル金属、染料、顔料、液晶、又はアルブミンが挙げられる。また、この方法は、市販の装置の品質を確認し、その寿命を見積もるために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的装置の分野に関し、より特定的には、しかし限定するものではないが、変圧器などの、油を含有する電気的装置に関する。
本発明は、予め決められかつ変更可能な運転条件下で運転される電気的装置における過熱点の温度を測定するための方法及び装置に関する。また、この方法は、市販されている特定の装置の品質を確認すること、またその寿命を見積もることを可能とする。
【背景技術】
【0002】
油を含む槽中に電磁的アセンブリを含む電気的装置の温度の変動は、幾つかの因子に依存する。第一に、この変動は、電磁的アセンブリの銅コイルにおける熱損失IR(Iは、コイルに対して送られる電流の負荷、又は強度であり、Rは、コイルの抵抗である)、ならびに鉄金属片内部の損失によるものである。これゆえに、温度は、装置が必要とする電流の負荷又は強度の関数として変動する。第二に、この変動は、槽の空気流入及びファンの閉止による場合がある。最後に、槽の内部の温度は、装置の地理的位置(加熱された建物の内部又は屋外)などの外部条件や気象条件(外部温度、風、日中/夜間)の関数として変動する可能性がある。
【0003】
しかし、温度は、槽の内部にわたって均一ではない。装置の槽の上部に存在する油は、一般的には底部にあるものより暖かい。これは、コイルを通過することにより油が加熱され、次いで対流の自然力により層の上部に上昇するという事実によるものである。
【0004】
過熱点は、変圧器の作動の間に最も高い温度に到達する槽内におけるスポットである。この温度は、約120℃〜約160℃の間に含まれる最大値を超えてはならず、これは、油中における気泡の形成、及び/又は、絶縁体として使用する紙の時期尚早の老化を防止するためである。この最大値は、使用する紙のタイプとその水分に依存する。
【0005】
槽の内部の過熱点は、一般的には、おおよそ電磁的アセンブリの上部2/3でコイルの1/3において見られるが、その正確な位置とその大きさは、特に過負荷条件下での(すなわち、見かけ上の負荷より高い負荷)製造業者の設計に依存して、装置ごとにかなり変動し得る。
【0006】
過熱点のおよその温度は、ソフトウェア及び、電流、槽の上部及び底部における油の温度、コイルに使用する銅の平均温度、外部温度などの一定の運転パラメータの知識を使用することにより、計算することができる。しかし、この計算は、特にその詳細な概念がよく知られていない変圧器に関して不正確で信頼できない場合が多い。過熱点の「計算温度」は、一定のタイプの装置又は運転条件については、過熱点の「真の温度」とは有意に異なる場合がある。
【0007】
今日まで、過熱点の真の温度を決定するためには以下の他の手法が用いられている:
1)ガルバニ関連問題につながる熱電対の使用;
2)過熱点の局在化と絶縁対力に関する問題につながる光ファイバーの使用;及び
3)油中に分散された、所与の温度より高い温度で気泡を形成する化学的トレーサーの使用。
【0008】
上述の手法1)及び2)に関する主要な制限のひとつは、過熱点の正確な位置を事前に知らなければならず、予想外の位置に見つかった場合には過熱点が検出されない可能性があることである。別の不都合は、これらの手法は測定プローブの使用を伴い、当該プローブの据え付けは、変圧器の製造の間又はその主要な分解修理の間に行わなければならないことである。また、当該プローブは、変圧器の絶縁対力特性に影響を与え得る。測定プローブの例は、米国特許第4,140,999号(特許文献1)に説明されている。
【0009】
上述の3)における化学的トレーサーの使用は、IEEE Transactions on Electrical Insulation, Vol. EI-17, No. 5, October 1982(非特許文献1)におけるM. DUVALらによる科学文献中に記載されている。
【0010】
M. DUVALらは、2,2’−アゾビス(イソ−ブチロニトリル)、アゾビスシクロヘキサン、p−トルエンスルホニルヒドラジン、4,4’−オキシビス(ベンゼン)スルホニルヒドラジン、又はジフェニルスルホンー3,3’−ジスルホヒドラジンなどの有機発泡剤を含む化学的トレーサーの電気出力変圧器における使用を記載している。
【0011】
この手法は、主として、過熱点の実温度を計算ソフトウェアにより与えられるものに対して比較して見積もるために調査ツールとして開発された。しかし、変圧器を検討するのに適用するには実用的ではない。実際に、従来技術(M. DUVALらによる文献の図4を参照)から図1に示すように、変圧器(1)は、安全槽(5)と変圧器コア(7)の間に取り付けられた測定シリンダー(3)が提供されなければならず、これは、油中に形成される気体を化学的トレーサーにより獲得するためであり、また、過熱点を評価するために、生成される量を測定する。そのうえ、これは間違いなくその主要な欠陥であるが、使用される化学的トレーサーは、細かい粉末の形態で油中に分散する。加熱試験後に濾過によりすぐに取り除かれない場合は、時間とともに変圧器の絶縁部分上に沈降する可能性があり、その誘電強度特性に影響する。
【0012】
アーク放電及びコロナ放電などの異常な負荷欠陥とは別に、温度上昇は、紙の絶縁体の老化を助長することから、変圧器の寿命の短縮に寄与する因子のひとつである。
変圧器をその限界の近辺で安全を保ったまま運転するためには、過熱点の真の温度を知ることが必要である。そのうえ、この知見により、不適合な変圧器を識別することが可能となり、また、それらのおよその寿命を見積もることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,140,999号
【非特許文献1】M. DUVALら, IEEE Transactions on Electrical Insulation, Vol. EI-17, No. 5, October 1982
【発明の概要】
【0014】
本発明は、異なる運転条件の装置にしたがって、電気的装置に含有される油の過熱点温度TPCを確立するための方法に関する。この方法は:
a)該油の温度Tを上昇させるために、少なくともひとつの予め決められた運転条件にしたがって電気的装置を運転する工程、該油は、該油中に溶解性の少なくともひとつの化合物を含み、各化合物は、残留物遷移温度Tにて該油中に溶解性の残留物を形成する;
b)工程a)の間又は工程a)の後に、油温度Tを測定しながら少なくともひとつの油のサンプルを採取する工程;
c)残留物が存在するか否かを測定するために、工程b)において採取した該少なくともひとつのサンプルの分析を行う工程;
d)工程c)の分析から、該サンプル中に前記少なくともひとつの残留物の存在を可能とする少なくともひとつの予め決められた運転条件下で過熱点温度TPを前記少なくともひとつの残留物の残留物遷移温度Tに等しいものとして評価する工程;
e)少なくともひとつの予め決められた運転条件での過熱点温度TPCと油温度Tとの差ΔTを計算する工程;及び
f)該装置の任意の他の運転条件にしたがった過熱点温度TPCを、以下の式:
PC=T+ΔT
(Tは、前記他の運転条件下での油の温度である)
にしたがって得る工程、を含む。
【0015】
本発明の好ましい側面にしたがえば、この方法は、ひとつのみの化合物を用いて、温度平衡条件下で実施する。より特定的には、
工程a)は、油中に溶解するひとつのみの化合物を用いることにより実施し;
工程b)は、工程a)の後に実施し;
更に工程c)に続いて、工程d)を以下の通りに実施する。
【0016】
すなわち、残留物が存在する場合は、
d1)該油中に存在する残留物を除去し;
d2)該油温度Tを低減させるために、該装置を新しい運転条件にしたがって運転し;そして、
d3)工程c)において得られるサンプル中に残留物が存在しなくなるまで工程b)、c)、d1)、及びd2)を繰り返し、
残留物が存在しない場合は、
d4)該サンプル中に残留物が存在するまで工程a)、b)、及びc)を繰り返し、
そして、該過熱点温度TPCが該残留物の遷移温度Tに等しい運転条件を確立する。
【0017】
本発明の第二の好ましい側面にしたがえば、ひとつのみの化合物を使用することにより、かつ温度平衡の外側で、本方法を実施する。より特定的には、
工程a)は、該油中に溶解性のひとつのみの化合物を用いることにより実施し;
工程b)は、該油温度Tを測定しながら少なくともふたつの油サンプルを異なる時間において採取することにより工程a)の間に実施し;
工程c)は、該油中に存在する残留物濃度を測定するために、工程b)において採取されたサンプルの各々について実施し;
工程d)は、工程c)において測定された濃度、残留物が形成され始める時間t、残留物の形成温度Tに等しい時間tにおける過熱点温度TPCに基づいて、外挿により測定することにより実施する。
【0018】
本発明の第三の好ましい側面にしたがえば、本方法は、温度平衡条件下で少なくともふたつの化合物を用いることにより実施する。より特定的には、
工程a)は、該油中に溶解性である少なくともふたつの異なる化合物を用いることにより実施し、各々の化合物が残留物遷移温度Tにて該油中に溶解性の残留物を形成し、各残留物についての遷移温度Tは互いに異なり;
工程b)は、工程a)の後に実施し;
工程c)は、以下の通りに実施する。すなわち、
残留物が存在しない場合は、
d1)前記溶解性残留物のうち少なくともひとつが、採取されるサンプル中に存在するまで、工程a)〜c)を繰り返し;
すべての残留物が存在する場合は、
e2)該油中に存在する残留物を排除し;そして、
e3)前記溶解性残留物のうち少なくともひとつが、採取されるサンプル中に存在しなくなるまで工程a)〜c)を繰り返し;
過熱点温度TPCestが、残留物を生成する化合物の当該残留物の遷移温度Tと存在しない化合物の残留物の遷移温度TR2との間である運転条件を確立し;そして、
工程e)において、TPCest−Tに等しいΔTを計算する、ここでTは工程a)の最後の繰り返しの間に測定される油の温度である。
【0019】
また、本発明は、電気的装置中に含有される油の過熱点温度TPCを該装置の異なる運転条件にしたがって確立するための装置に関する。該油は、当該油中に溶解性の少なくともひとつの化合物を含み、各々の化合物は、残留物の遷移温度Tにて該油中に溶解性の残留物を形成し、該装置は、
残留物が存在するかを測定するために油サンプルの分析を実施するための手段;
該サンプルに前記少なくともひとつの残留物の存在を可能とする予め決められた運転条件下で、過熱点温度TPCを、前記少なくともひとつの残留物の遷移温度Tに等しいものとして見積もるための手段;
該油の温度Tを測定するための手段;
予め決められた運転条件下で過熱点温度TPCと油温度Tとの差ΔTを計算するための手段;及び
以下の等式:
PC=T+ΔT
にしたがって、任意の他の運転条件下での装置の過熱点温度TPCを確立するための手段(Tは前記他の運転条件下での油の温度である)、を含む。
【0020】
本発明は、特に、油中において気泡を形成し、かつ、温度により変化する少なくともひとつの特性を有する分子を含む、変圧器の油中に溶解性の化学的トレーサーを使用することに基づく点において、従来技術と比較して新規な異なる方法を提案する。
【0021】
好ましくは、電気的装置は電源変圧器である。しかし、本発明は、変圧器に適用されるだけでなく、油を含む槽の内部に電磁気的装置を含む任意の種類の装置にも適用されることは重要である。
【0022】
本発明及びその利点は、添付する図面を参照しながら以下の非限定的な説明を読めば、より充分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の好ましい態様にしたがった装置を含む油変圧器の概略図である。
【図2】図2は、変圧器の運転時間の関数としての過熱点温度の進展の例と、A、B、C、D、E、F、及びGと名付けられた化学物質トレーサーの遷移温度の例を示す図である。
【図3】図3は、実施例3について得られた結果を示すグラフであり、過熱点の測定と、装置内の温度及び油中に溶解されている気体の濃度についての時間の関数としての進展とを示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の好ましい態様にしたがえば、本発明は、電気的装置内の過熱点の真の温度を見積もるための方法という目的を有する。この方法は、装置の油中に化学的化合物を導入することにより行う。この化合物は、本明細書中において以後、「化学的トレーサー」又は単に「トレーサー」と呼ぶ。
【0025】
これゆえにまた、本発明は、装置の所与の操作条件にしたがって、該装置中に油が含有される電気的装置の過熱点の温度TPCを確立するための装置に関し、該油は、該油中に溶解性の少なくともひとつの化合物を含み、各化合物は、残留物形成の遷移温度Tにて該油中の溶解性である残留物を形成する。
【0026】
本装置は、少なくとも残留物が存在するか否かを測定するための油サンプル分析を実施するための手段を含む。このましくは、これらの手段は、比色分析、溶解ガス分析、質量分析、核磁気共鳴、ガス又は液体クロマトグラフィー、赤外分光分析、紫外分光分析、及びX線蛍光分析を使用する。
【0027】
また、本装置は、油の温度Tを測定するための手段を含む。好ましくは、これらの手段は、温度計、熱電対、温度測定プローブ、又は、温度を測定するための当業者に知られている任意の他の手段を含む。
【0028】
本装置は、また、
該サンプル中に前記少なくともひとつの残留物の存在を可能とする予め決められた運転条件下で、前記少なくともひとつの残留物の遷移温度Tと等しいものとして、過熱点の温度を見積もるための手段;
予め決められた運転条件下で過熱点温度TPCと油温度Tとの差ΔTを計算するための手段;及び、
以下の等式:
PC=T+ΔT
にしたがって、任意の他の運転条件下での装置の過熱点温度TPCを確立するための手段(Tは前記他の運転条件下での油の温度である)、を含む。
【0029】
好ましくは、分析を実施するため、計算するため、及び過熱点温度TPCを確立するためのこれらの手段は、ソフトウェアが提供され、キーボードとスクリーンに連結されたコンピュータにより実施してもよい。
【0030】
図1は、本発明にしたがった電気的装置(1)を概略的に説明している。
装置(1)は、その中央内部に、コア(5)及びコイル(7)により形成される電磁的アセンブリを含んでいる槽(3)を含む。
【0031】
本装置は、また、装置の内部温度を制御することができる換気システム(9)が提供されていてもよい。
筐体又は槽(3)は、鉱油などの油(11)が充填される。
【0032】
本装置は、また、油の温度を絶えず読むことができる温度測定プローブ(13)が提供される。
また、槽(3)の底部には、油の採取又は装置から油を排出することを可能とする開放システム(15)が提供される。
【0033】
また、装置(1)は、油中における化合物の存在を連続的に検出することができる別のプローブ(17)を含んでいてもよい。
異なるプローブ(13,17)は、測定したデータを記録し、過熱点の測定を可能とする計算を行うために、コンピュータに連結することができる。
【0034】
本発明の幾つかの好ましい態様にしたがえば、本方法は、所与の運転条件下での変圧器の過熱点の温度を測定するために実施する一連の工程を含む。変圧器は新しくても使用しているものでもよい。
【0035】
工程a):
本発明にしたがった方法の工程a)は、少なくともひとつの予め決められた運転条件にしたがって、油の温度Tを上昇させるように電気的装置を運転することにある。
【0036】
油は、油中に溶解性である少なくともひとつの化合物を含み、これは、残留物の遷移温度Tにて油中に溶解性である残留物を形成するために選択される。
“電気的装置を運転する”とは、運転者が装置内部の温度を上昇又は低減させるように一般的なやり方で電流負荷を適用すると理解しなければならない。温度上昇の速度は、一般的には、分又は時間あたりの℃で表される。
【0037】
運転者は、また、油の強制循環の適用又は非適用、ラジエータを用いる油の冷却又は非冷却などの他の運転を行ってもよい。これらの運転は、ひとつ又は幾つかの“予め決められた条件”として規定する。
【0038】
時間の関数としての油の温度の上昇の例を図2に示す。
図2は、また、検討する変圧器の固有のパラメータ(寸法、kVA又はMVAの能力、油の強制循環の有無、など)又は外部パラメータ(外部温度、風の速度、など)を考慮する計算ソフトウェアにより得られたものなどの、過熱点の計算された温度に関する運転時間の関数としての漸進的変化の曲線を示している。過熱点の真の温度の漸進的変化の曲線は、掲載された温度の曲線の上か又は下であることができる。
【0039】
“運転条件”とは、装置の槽の内部の温度変化(上昇又は低減)をもたらす任意の作用又は外部要素と理解される。
予め決めることができ、また、運転者により制御されることができる運転条件は、好ましくは、装置が要求する電気的負荷又は電流強度の値を含む。これまでに説明したように、温度の変化は、主として銅コイル内における熱損失IR(I=電流密度、R=コイルの抵抗)による。
【0040】
運転条件は、また、槽内部の通気を可能とする空気入口の開放の程度やファンの速度を含む。ファンの速度がより遅いほど、空気入口の開放はより小さく、内部の温度はより低減又は上昇することになり、また逆も然りであることがひとつの理解である。
【0041】
測定するための運転条件は、また、地理的位置(暑い建物の外部又は内部)や、装置が建物の外にある場合の気象条件(外部温度、風の速度と方向、光の存在(昼/夜))など、必ずしも運転者が制御可能ではない外部因子も含む。
【0042】
工程a)では、本発明は、ひとつ、ふたつ、又は幾つかの異なるタイプの化合物又はトレーサーを用いて実施することができる。
選択するために、トレーサーは、運転者によく知られた一定の数の物理的及び/又は化学的特性を有していなければならない。
【0043】
トレーサーは、本明細書中以下において“化学的トレーサーの残留物”又は単に“残留物”を呼ぶものになるために、化学反応又は状態変化により変態する既知の反応温度、又は遷移温度を有していなければならない。また、残留物は油中に溶解性でなければならない。
【0044】
トレーサーの反応又は遷移の温度は、変圧器内部で許容される最高温度より低くなければならない。
“許容される最高温度”とは、変圧器、特に絶縁体として使用される紙が損傷を受けない温度であると理解される。この温度は、一般的には、変圧器において使用される紙の質及び使用中の湿度に依存して、130〜160℃である。使用するトレーサーは、油中に溶解性である分子を含む。
【0045】
より好ましくは、トレーサーは、所与の温度において油中に溶解性の気体を形成する化合物であってもよい。
これらの化合物の第一の例は、化学的に修飾されたジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホヒドラジン又は4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニル)−ヒドラジンなどの、油中に溶解性である窒素(N)を分解により形成するジアゾ分子である。化学的修飾は、好ましくは12〜18個の炭素原子を有する、炭化水素長鎖などの、別の疎水性分子を分子上にグラフトすることにある。ジアゾ分子のこの疎水性セグメントの存在により、分子が完全に油中に溶解可能となる。
【0046】
その場合、残留物は窒素で油中に溶解性であり、本発明にしたがった方法の準備工程を任意であるが行ってもよく、準備工程は、油からその空気の一部、したがってこの空気中に含有される窒素を除去することにあり、これは、気体残留物の油中への溶解を改良するためである。油中に溶解される空気の窒素の存在は、トレーサーの残留物への変形に由来する窒素濃度の測定に誤差を与え得る。
【0047】
油中に溶解性であり、かつ、一酸化炭素又はアンモニアなどの油中に溶解性の気体を遊離する他の分子も使用することができる。例えば、油中に溶解性とするのに充分に長い少なくともひとつの炭化水素側鎖を有するカルボニル金属は、油中に溶解性である一酸化炭素を生成させることができる。
【0048】
化合物又はトレーサーは、また、着色料又は顔料などの、所与の温度にて非可逆的なやり方で色が変化する分子であってもよい。
化学的トレーサーは、また、液晶などの、所与の温度において非可逆的なやり方で相が変化する化合物又は分子であってもよい。
【0049】
化学的トレーサーは、また、アルブミンなどの、所与の温度にて非可逆的なやり方で化学構造が変化する化合物又は分子であってもよい。
本出願に説明する本発明の発明的側面は、上述の化学的トレーサーに限定されない。
【0050】
好ましくは、適する量の化合物(単数又は複数)を、装置を製造する際に、又は、本発明にしたがった方法を適用する前に、油中に導入してもよい。もちろん、この“適する量”は以下の因子に依存することは理解しなければならない:
装置中に存在する油の体積;
使用する油の質(鉱物性又は非鉱物性);
使用するトレーサーの性質;
形成することができる残留物の量;及び
利用可能な以下に説明する工程c)において使用する分析手法。
【0051】
使用する各トレーサーの量は、重量パーセント又はモル濃度で表すことができる。好ましくは、各トレーサーに関して、この濃度は、既知の重量の油中に含有される重量に相当し、これゆえに重量濃度又は重量パーセントで表わされる。使用するトレーサーのタイプにしたがって、油中の化合物の重量で約0.01%〜0.1%の最終濃度が、本発明にしたがった方法を適用するのに典型的である。
【0052】
工程b):
本方法の工程b)は、油の温度Tを測定しながら工程a)の間又は工程a)の後に油の少なくともひとつのサンプルを採取することにある。
【0053】
変圧器に関する通常の油サンプリングの方法を使用することができる(シリンジ、ボトル、又はチューブ)。
また、例えば、溶解ガス用のプローブ又は比色計などの、油サンプルを採取する必要が無く各化学的トレーサーの残留物を連続的に測定することを可能とする装置も使用することができる。
【0054】
上述のように、電気的装置の槽中の油の温度は、対流のために均一ではない。本方法を適用する間、好ましくは槽中の同じ場所で油温度Tの測定を行わなければならない。しかし、Tの測定は、実用的な理由を別にすれば、槽中のどこでも行うことができるが、槽の上方部分にて行うことが好ましい。温度計、プローブ、又は既知の温度を測定するための手段を、THを測定するために使用することができる。
【0055】
工程c):
本方法の工程c)は、残留物が存在するか否かを測定するために、工程b)で採取したサンプルの分析を実施することにある。
【0056】
本発明の好ましい態様のひとつにしたがえば、この分析は、残留物(単数又は複数)の濃度を測定することにある。残留物の濃度が検出できないということはサンプル中に残留物が存在しないことに等しいことは言うまでもない。
【0057】
化合物の存在ならびにその濃度を測定することを可能とする当技術分野において知られているすべての分析手法を、本発明にしたがった方法を適用するために使用することができる。
【0058】
使用する手法は、本方法の工程a)において選択される化合物による。
その場で実施される比色分析又は溶解ガス分析(DGA)などの一部の手法は、サンプルを採取する間にその場で直接使用することができる。
【0059】
例えば、質量分析(MS)、核磁気共鳴(NMR)、気体又は液体クロマトグラフィー(GC、LC、又はHPLC)、赤外分光分析(IR)又は紫外(UV)分光分析、あるいはX−線蛍光などの、より複雑な装置を必要とする他の手法は、実験室において使用することができる。
【0060】
使用することができる手法は、上述の例に限定されない。
工程d):
工程c)の分析から、工程d)は、過熱点の温度が、残留物(単数又は複数)の遷移温度Tに対して、等しい、高い、又は低いか否かを見積もることにある。
【0061】
予期される残留物(単数又は複数)が油から存在しない場合は、運転者は、過熱点の真の温度が、使用するトレーサー(単数又は複数)の遷移温度より低いと推定する。結果として、運転者は、工程a)から本方法を再開することができる。
【0062】
残留物が存在する場合は、運転者は、過熱点温度は少なくとも化学的トレーサーの遷移温度に等しいと推定し、このことは、本明細書中以下に詳細に説明する異なる好ましい態様にしたがう。
【0063】
ひとつのみのトレーサーを平衡状態で使用する場合
この運転モード下においては、ひとつのみのトレーサーを使用し、工程a)から得られる油温度THの平衡に到達するまで待ち(図2を参照)、残留物が存在するか存在しないかを測定するために、工程c)に説明される分析を実施する。
【0064】
残留物が存在する場合、工程d)は次いで以下のとおりに実施することができる:
d1)油中に存在する残留物を取り除き、
d2)平衡状態にて到達する油温度Tを低減するように新しい運転条件にしたがって装置を運転し、そして、
d3)工程c)において採取するサンプル中に存在する残留物がなくなるまで、これまでに定義した工程b)、c)、d1)、及びd2)を繰り返す。
【0065】
残留物(単数又は複数)が油中に溶解される気体の形態である場合は、工程d1)は油を脱気することにある。
残留物が存在しない場合は、
d4)平衡状態にて到達する油の温度Tを上昇させるように、新しい運転条件にしたがって装置を運転し、そして、
d5)工程c)において採取したダンプル中に剤遺留物が存在するまで工程a)、b)、及びc)を繰り返す。
【0066】
どちらの場合も、過熱点温度TPCが残留物の遷移温度Tに等しい運転条件を確立する。
ひとつのみのトレーサーを平衡状態ではない状態で使用する場合
この運転モードにおいては、ひとつのみのトレーサーを使用するが、温度が平衡に到達するときではなく、図2の温度の上昇の間に残留物の濃度を測定する。次いで、残留物が時間tにて過熱点温度TPCを形成し始める時間tを外挿により決定し、これゆえに、残留物の遷移温度Tに等しい。
【0067】
少なくともふたつのトレーサーを平衡状態にて使用する場合
少なくともふたつのトレーサーが油中に存在する場合、工程d)は、以下の二つの場合にしたがって以下の通りに実施する。
【0068】
残留物が存在しない場合、少なくともひとつの前記溶解性残留物が採取したサンプル中に存在するまで、工程a)〜c)を繰り返す。
すべての残留物が存在する場合、油中に存在する残留物を排除し、工程a)〜c)のうち少なくともひとつを、少なくともひとつの前記残留物が採取したサンプルにおいて消失するまで繰り返す。
【0069】
過熱点温度TPCestが残留物を生成する化合物の残留物の遷移温度TR1と、残留物を生成しない化合物の残留物の遷移温度TR2との間である運転条件を確立する。
工程e):
工程e)は、
いずれかの好ましい態様を選択し、工程d)から得られる過熱点温度T
予め決められた運転条件下での油温度T
の間の差ΔTを計算することにある。
【0070】
工程f):
最後に、工程f)は、確立することにある。装置の任意の他の所与の運転条件にしたがった過熱点温度TPC*を、以下の等式:
PC*=TH*+ΔT
(TH*は、所与の運転条件下での油の温度である)
にしたがって得ることを確立することにある。
【0071】
本方法の工程a)〜e)にしたがうことにより、一度、差ΔTを測定したら、運転者は、任意の他の運転条件に関する過熱点温度TPCを低減させることができる。TPCの値を知ることにより、これらの条件下での過熱点がこの温度限界に対してより低い限りにおいて、装置の油において許容される温度限界を通過する恐れなく、またこれゆえに、装置を損傷する恐れなく、運転者は油温度を変化させることが可能となる。
【実施例】
【0072】
実施例1 ひとつのみのトレーサーの理論的使用
本発明のこの他の好ましい態様にしたがった方法、すなわち、変圧器の油中におけるひとつのみの化学的トレーサーの使用は、以下のやり方で予測することができる:
a)トレーサーを選択し;
b)適する量のトレーサーを変圧器の油中に導入し;
c)トレーサーの遷移温度よりわずかに低い平衡状態で計算された過熱点温度に到達させるために、変圧器を運転;
d)変圧器から油の一サンプルを採取し;
e)残留物が存在しないことを実証するために分析し;
f)トレーサーの遷移温度よりわずかに高い、平衡状態で計算された過熱点温度に到達させるように、変圧器を再び運転し;
g)油の第二のサンプルを、残留物の存在、不存在を測定するために分析する変圧器から採取し;そして、
h1)残留物が存在する場合は、真の過熱点温度に到達したと推定し;
h2)残留物が存在しない場合は、平衡状態での真の過熱点温度に到達していないと推定し、更に過熱点温度を上昇させるように、変圧器を運転し;又は
h3)残留物が遷移温度にて検出可能であるために充分な量で形成されておらず、検出可能であるためにこの遷移温度を超える必要がある場合、又は、動的なモードでトレーサーを使用することが好ましい場合は;
i)計算された過熱点温度を遷移温度よりも15〜30℃高くするように変圧器を運転し;
ii)残留物含量の増加を測定するために規則的に油サンプルを採取し;
iii)どの時点で遷移の反応が開始されるか、これゆえにこの時点での真の過熱点温度を外挿により測定し;そして、
iv)場合により、過熱点測定に関してより良好な正確性を得るために最適なやり方で変圧器を運転することにより再び本方法を開始する。
実施例2 幾つかのトレーサーの理論的使用
本方法は、変圧器の油に少なくともふたつの化学的トレーサーを添加することを含み、各々は、他の選択される化学的トレーサーの遷移温度とは異なり、周囲の室温と変圧器内部の許容可能な最高温度との間にある遷移温度を有する。
【0073】
本方法は、これゆえに、以下の工程を含む:
a)幾つかの異なる化学的トレーサーを選択し;
b)化学的トレーサーを油中に導入し;
c)所望の計算された過熱点温度(トレーサーの遷移温度より高い温度又は低い温度)に到達させるために、予め決められた時間の間、変圧器を運転し;
d)前記決められた時間の間に変圧器から油サンプルを採取し;そして、
e)いくつかの残留物の存在又は不存在を測定するためにサンプルを分析する。
【0074】
工程e)において行う分析から、真の過熱点温度は、残留物を生成するトレーサーのひとつの遷移温度閾値と残留物を生成しないトレーサーのひとつの遷移温度閾値との間であると推定される。場合により、測定の不確実性を低減するために、工程c)〜e)を異なる温度で再び実施する。
【0075】
本発明のこの側面は、また、変圧器の運転の時間の関数として真の又は計算された過熱点温度の漸進的変化の例、ならびに、A、B、C、D、E、F、及びGと名付けられた幾つかの化学的トレーサーの遷移温度の例を示している図2により説明することができる。
【0076】
図2に示す例にしたがえば、曲線が真の過熱点温度を示す場合、変圧器の油の分析は、トレーサーA、B、C、及びDの残留物の存在を示さなければならないが、トレーサーE、F、及びGについては残留物の不存在を示す。
【0077】
この方法により、変圧器の運転を中止することなく、変圧器において直接測定を行うことが可能となる。
本発明にしたがった方法は、また、より良好及び/又は完全なトレーサーから誘導される残留物の溶解を可能とするために、残留物が気体である場合に油を脱気する予備的かつ任意の工程を含んでもよい。例えば、残留物がNガスである場合、空気は既知の量のNを含むことから油中に溶解される空気は除去されなければならない。油中に溶解される空気中の窒素の存在は、トレーサーの残留物への変形に由来する濃度の測定に誤差を与え得る。
【0078】
実施例3−5
同じ変圧器、すなわち35ガロンの絶縁性鉱油Voltesso 35(登録商標)を含有する100キロボルト−アンペア(KVA)、14.4kV〜120VのFederal Pioneer(登録商標)において三つの以下の例を行った。見かけの電流負荷を実施例1及び3について6時間、実施例2について8時間適用した。
【0079】
試験の最後における変圧器の槽の頂部における油温度は、それぞれ、120℃及び135℃であった。
実施例3
選択されるトレーサーは、鉱油中に溶解性とするために化学的に修飾されたジフェニレンスルホン−3,3’−ジスルホヒドラジンの分子である(分子D)。そうするために、炭化水素飽和側鎖、18個の炭素原子を含有する鎖、を分子上にグラフトする。かかる修飾された分子は、Uniroyal社への特別な注文により商業的に入手可能である。反応温度又は遷移温度は130℃であり、その温度にてこの分子はNを形成する。
【0080】
はじめに、分子Dの分解により形成される窒素が気泡を形成しないで油中に溶解するように、通常は溶解される空気の大部分を排除するため、油中の空気含量が約2%となるまで、変圧器の油を典型的には脱気する。
【0081】
変圧器の油中に導入される分子Dの量は、その最終濃度が油中のトレーサーの約0.1重量%であるように計算される。
結果を図3に報告し、示される曲線は、
a)槽の底部における油温度;
b)槽の頂部の油温度;
c)屈曲部から出てくる油チャンネルにおける熱変換;
d)油中に溶解される窒素Nの濃度(ppm);
e)真の過熱点温度
を示す。
【0082】
油温度を上昇させるために電流負荷を変圧器に与える(図3の曲線a及びb)。
運転の間に油サンプルを採取し、図3の実験曲線(曲線d)に沿った分子Dの分解による窒素の形成のピークが検出される。使用される手法は、実験室での溶解ガス分析(DGA)である。
【0083】
残留物の出現の時点で(曲線d)、槽の油中における最も高い温度は、残留物の遷移温度、すなわち130℃に等しいと推定される。図3の曲線(e)は、時間の関数としての真の過熱点温度の漸進的変化を示す。
【0084】
実施例4
選択されたトレーサーは、鉱油中に溶解性とするために化学的に修飾された4,4’オキシビス(ベンゼンスルホニル)ヒドラジンの分子である(分子F)。そうするために、典型的には18個の炭素原子を含有する、炭化水素飽和側鎖を分子上にグラフトする。かかる修飾された分子は、Uniroyal社への特別な注文により商業的に入手可能である。反応温度又は遷移温度は150℃であり、その温度にてこの分子はNを形成する。
【0085】
はじめに、分子Fの分解により形成される窒素が気泡を形成しないで油中に溶解するように、通常は溶解される空気の大部分を排除するため、油中の空気含量が約2%となるまで、変圧器の油を典型的には脱気する。変圧器の油中に導入される分子Fの量は、その最終濃度が油中のトレーサーの約0.1重量%であるように計算される。
【0086】
図3に示すものと同様のガス形成が得られたが、より高い温度である。
実施例5
選択したトレーサーは、炭化水素化された側鎖を有するカルボニル金属の分子(分子G)である。
【0087】
その反応又は遷移温度は100℃であり、その温度にてこの分子は、油中に完全に溶解性の一酸化炭素(CO)を形成する。
変圧器の油中に導入される分子Gの量は、その最終濃度が油中のトレーサーの約0.01重量%であるように計算される。
【0088】
図3に示すものと同様の気体形成の結果が得られるが、より低い温度にてである。
本発明を、図面を参照しながらその好ましい態様によりこれまで説明してきた。これらの好ましい態様に対する本発明の範囲内の任意の修飾は、本発明の性質又は範囲を変更するものとはみなされないことに注目すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる運転条件の装置にしたがって、電気的装置に含有される油の過熱点温度TPCを確立するための方法であって:
a)該油の温度Tを上昇させるために、少なくともひとつの予め決められた運転条件にしたがって電気的装置を運転する工程、該油は、該油中に溶解性の少なくともひとつの化合物を含み、各化合物は、残留物遷移温度Tにて該油中に溶解性の残留物を形成する;
b)工程a)の間又は工程a)の後に、油温度Tを測定しながら少なくともひとつの油のサンプルを採取する工程;
c)残留物が存在するか否かを測定するために、工程b)において採取した該少なくともひとつのサンプルの分析を行う工程;
d)工程c)の分析から、該サンプル中に前記少なくともひとつの残留物の存在を可能とする少なくともひとつの予め決められた運転条件下で過熱点温度TPを前記少なくともひとつの残留物の残留物遷移温度Tに等しいものとして評価する工程;
e)少なくともひとつの予め決められた運転条件での過熱点温度TPCと油温度Tとの差ΔTを計算する工程;及び
f)該装置の任意の他の運転条件にしたがった過熱点温度TPCを、以下の式:
PC=T+ΔT
(Tは、前記他の運転条件下での油の温度である)
にしたがって得る工程、を含む前記方法。
【請求項2】
工程a)は、油中に溶解するひとつのみの化合物を用いることにより実施し;
工程b)は、工程a)の後に実施し;
更に工程c)に続いて、工程d)を以下の通りに実施し、
すなわち、残留物が存在する場合は、
d1)該油中に存在する残留物を除去し;
d2)該油温度Tを低減させるために、該装置を新しい運転条件にしたがって運転し;そして、
d3)工程c)において得られるサンプル中に残留物が存在しなくなるまで工程b)、c)、d1)、及びd2)を繰り返し、
残留物が存在しない場合は、
d4)該サンプル中に残留物が存在するまで工程a)、b)、及びc)を繰り返し、
そして、該過熱点温度TPCが該残留物の遷移温度Tに等しい運転条件を確立する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)は、該油中に溶解性のひとつのみの化合物を用いることにより実施し;
工程b)は、該油温度Tを測定しながら少なくともふたつの油サンプルを異なる時間において採取することにより工程a)の間に実施し;
工程c)は、該油中に存在する残留物濃度を測定するために、工程b)において採取されたサンプルの各々について実施し;
工程d)は、工程c)において測定された濃度、残留物が形成され始める時間t、残留物の形成温度Tに等しい時間tにおける過熱点温度TPCに基づいて、外挿により測定することにより実施する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程a)は、該油中に溶解性である少なくともふたつの異なる化合物を用いることにより実施し、各々の化合物が残留物遷移温度Tにて該油中に溶解性の残留物を形成し、各残留物についての遷移温度Tは互いに異なり;
工程b)は、工程a)の後に実施し;
工程c)は、以下の通りに実施し、すなわち、
残留物が存在しない場合は、
d1)前記溶解性残留物のうち少なくともひとつが、採取されるサンプル中に存在するまで、工程a)〜c)を繰り返し;
すべての残留物が存在する場合は、
e2)該油中に存在する残留物を排除し;そして、
e3)前記溶解性残留物のうち少なくともひとつが、採取されるサンプル中に存在しなくなるまで工程a)〜c)を繰り返し;
過熱点温度TPCestが、残留物を生成する化合物の当該残留物の遷移温度Tと存在しない化合物の残留物の遷移温度TR2との間である運転条件を確立し;そして、
工程e)において、TPCest−Tに等しいΔTを計算し、ここでTは工程a)の最後の繰り返しの間に測定される油の温度である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
電気的装置が電力変圧器である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくともひとつの化合物が、所与の温度で、
油中に溶解性のガスを形成する化合物であり;
非可逆的なやり方で色が変化する化合物であり;
非可逆的なやり方で相変化をする化合物であり;又は
非可逆的なやり方で化学構造を変更する化合物である、
請求項1記載の方法。
【請求項7】
少なくともひとつの化合物が、ジアゾ化合物、カルボニル金属、着色性化合物、顔料、液晶、又はアルブミンである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
少なくともひとつの化合物がジアゾ化合物であり、次いで形成される残留物が油中に溶解性の窒素であり、次いで該方法が、油を脱気して溶解された空気を該油から排除する、工程a)に対する準備工程を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
少なくともひとつの化合物が、油中に溶解性であるために化学的に修飾された、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホヒロダジン、又は、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニル)ヒドラジンである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
電気的装置中に含有される油の過熱点温度TPCを該装置の異なる運転条件にしたがって確立するための装置であって、該油は、当該油中に溶解性の少なくともひとつの化合物を含み、各々の化合物は、残留物の遷移温度Tにて該油中に溶解性の残留物を形成し、該装置は、
残留物が存在するかを測定するために油サンプルの分析を実施するための手段;
該サンプルに前記少なくともひとつの残留物の存在を可能とする予め決められた運転条件下で、過熱点温度TPCを、前記少なくともひとつの残留物の遷移温度Tに等しいものとして見積もるための手段;
該油の温度Tを測定するための手段;
予め決められた運転条件下で過熱点温度TPCと油温度Tとの差ΔTを計算するための手段;及び
以下の等式:
PC=T+ΔT
にしたがって、任意の他の運転条件下での装置の過熱点温度TPCを確立するための手段(Tは前記他の運転条件下での油の温度である)、を含む前記装置。
【請求項11】
油サンプルの分析を実施するための前記手段が、油中に存在する各残留物の濃度を測定するための手段である請求項10記載の装置。
【請求項12】
油サンプルの分析を実施するための前記手段が、比色分析、溶解ガス分析、質量分析、核磁気共鳴、ガス又は液体クロマトグラフィー、赤外分光分析、紫外分光分析、又はX線蛍光分析を使用する、請求項10記載の装置。
【請求項13】
油の温度を測定するための前記手段が、温度計、熱電対、又は温度測定プローブである、請求項10記載の装置。
【請求項14】
分析を行うための前記手段、見積もるための前記手段、計算するための前記手段、及び過熱点温度TPC*を確立するための前記手段が、ソフトウェアが提供されかつキーボードとスクリーンに連結されたコンピュータにより実施される、請求項13記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−515654(P2011−515654A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545337(P2010−545337)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000137
【国際公開番号】WO2009/097684
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(597164909)イドロ−ケベック (30)
【氏名又は名称原語表記】Hydro−Quebec
【Fターム(参考)】