説明

油ゲル

本発明は、油増粘剤、特に油ゲルの分野に関する。本発明の実施形態は、例えば、油分散性乳化剤とタンパク質繊維とを含む少なくとも1種の複合体を含む油組成物及びこのような油組成物を含む調製物、このような複合体の油増粘剤としての使用、並びに複合体の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油増粘剤、特に油ゲルの分野に関する。本発明の実施形態は、例えば、油分散性乳化剤とタンパク質繊維とを含む少なくとも1種の複合体を含む油組成物及びこのような油組成物を含む調製物、このような複合体の油増粘剤としての使用、並びに複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリン及びスプレッドは、当技術分野において周知のものであり、かなりの商業的成功を享受してきた。基本的に、これらは油中水型エマルジョンである。油相は、液油と通常の周囲温度(20℃)では固体である脂肪とのブレンドである。ハードストックと呼ばれることが多い固体脂は、構造化剤として機能し、分散体を安定化する。
【0003】
構造化剤として実際に使用することができる脂肪の選択は、かなり制限される。構造化剤の融点が高すぎる場合、口中における溶融特性は満足できるものではない。融点が低すぎる場合、エマルジョンの安定性に悪影響を与えることになる。
【0004】
理想的には、構造化剤は、口中温度で融解又は溶解すべきである。そうでなければ、製品は、重く蝋のような口当たりとなるであろう。従来のスプレッドの別の制限は、堅いテクスチャーを生じるために通常使用される、比較的高量の飽和脂肪酸(SFA)と関係している。
【0005】
SFAは、血中コレステロール値の上昇を引き起こすことが公知であり、したがって心血管疾患のリスクが高いことと関連している。飽和脂肪の代わりに高度不飽和油を使用することによって、これら慢性疾患のリスクを低減できることが、臨床試験により立証されたので、食品工業は、有害な飽和脂肪酸(すなわち、動物脂及びトロピカルオイル)を組み込むことなく室温で固体である油ベースの製品の探求を開始した。
【0006】
油構造化の研究経路に関する最新の包括的概要は、Pernetti,M.;van Malsen,K.F.;Floter,E.;Bot,A.、Current Opinion in colloid & Interface Science、2007年、12巻、221〜231頁に見い出すことができる。
【0007】
現在、飽和脂肪酸に代わる食品グレードのものは、モノアシル及びジアシルグリセロール、ワックス、ワックスエステル、並びにソルビタンエステルのような脂肪アルコール及び脂肪酸誘導体である。脂肪酸及び脂肪アルコール又はレシチン及びソルビタントリステアラートのような構造化剤のいくつかの組合せは、相乗効果を示す。すなわち、それらは一緒に使用すると、より有効である。油構造化について現在と未来の両方の多種多様な用途の概要が、いくつかの総説に記されている(Hughes,N.E.;Marangoni,A.G.;Wright,A.J.;Rogers,M.A.;Rush,J.W.E.、Trends in Food Science & Technology 2009年、1〜11頁。Vintiloiu,A.;Leroux,J.−C.、Journal of Controlled Released、2008年、125巻、179〜192頁。Abdallah,D.J.;Weiss,R.G.、Advanced Materials、2000年、12巻、1237〜1247頁。Terech,P.,Weiss,R.G.、Chemical Reviews 1997年、97巻、3133〜3159頁)。
【0008】
食品工業において、健全な新規スプレッドを提供する様々な試みが行われた。
【0009】
米国特許出願公開第2008/0268130号では、飽和脂肪に代えて、植物ステロールが用いられた。この開示は、食用油5〜85重量%及び伸長結晶の形をした植物ステロール0.1〜20重量%を含む食用油連続スプレッド(シトステロールとオリザノールの混合物)に関する。
【0010】
Nestleの欧州特許出願公開第06111524号には、興味深い油構造化手法が記載されている。安定剤が乳タンパク質である水中油型エマルジョンを調製する。このタンパク質は、熱処理により液滴界面で架橋される。乾燥すると、連続油相中にタンパク質ラメラの「フォーム」が存在する透明なゲルが得られる。
【0011】
可塑性脂肪の特性を有する健全な食品材料を生み出す試みの大部分は、モノグリセリドゲルの使用に焦点が置かれている。米国特許第6,156,369号には、(食用油約85重量%〜約98重量%)及びモノグリセリド(約15重量%〜約2重量%)を含む食品スプレッドが開示されている。
【0012】
米国特許第6,569,478号には、水−モノグリセリド中間相ゲルを含み、含水量が80%より高い低脂肪食用スプレッドが開示されている。
【0013】
国際公開第2005/107489号パンフレットには、水50%、モノグリセリド4%〜7%の間、アニオン界面活性剤約0.2%〜0.35%、及び油を100%になるまで含む食品スプレッド及び/又はトッピング用ホイップクリームが開示されている。油相は、壁がモノグリセリドベースの多重ラメラ構造を有する細胞状の固体マトリックスに捕捉されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、当技術分野において、連続脂肪食用スプレッドとして使用することができ、又は油ベースの食品に組み込んで、食品の硬さを増大させることができる食品組成物を提供することが依然として求められている。
【0015】
本発明者らは、このような必要性に取り組んできた。
【0016】
したがって、本発明の目的は、技術水準を向上させ、展延可能な脂肪の調製及び/又は油の粘度の増加を実施するのに使用することができる組成物を当技術分野にもたらすことであった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、この目的を独立請求項の主題により実現できることがわかって驚嘆した。従属請求項は、本発明をさらに展開するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1a】図1a及び図1bは、粘度プロファイルを示す。図1aは、4重量%のBLG長繊維、30%のホスファチジルコリン、及び66%のヒマワリ油を含有する試料について、100s−1において5℃/分で70〜5℃への冷却、10s−1において5℃/分で70℃への加熱、及び100s−1において5℃/分で70〜5℃への2回目の冷却時の粘度プロファイルを示す。
【図1b】図1a及び図1bは、粘度プロファイルを示す。図1bは、2重量%のBLG長繊維、30%のホスファチジルコリン、及び68%のヒマワリ油を含有する試料について、100s−1において5℃/分で80〜5℃への冷却、10s−1において5℃/分で80℃への加熱、及び100s−1において5℃/分で80〜5℃への2回目の冷却時の粘度プロファイルを示す。
【図2a】図2a〜図2cは、いくつかの油ゲル試料について、貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)を温度の関数として示す。図2aは、高量のBLG繊維(8重量%)及び30重量%のPCを含有する油ゲル試料について、貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)を温度の関数として示す。
【図2b】図2a〜図2cは、いくつかの油ゲル試料について、貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)を温度の関数として示す。図2bは、中間量のBLG繊維(4重量%)及び30重量%のPCを含有する油ゲル試料について、貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)を温度の関数として示す。
【図2c】図2a〜図2cは、いくつかの油ゲル試料について、貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)を温度の関数として示す。図2cは、中間量のBLG繊維(4重量%)及び20重量%のPC(低量のPC)を含有する油ゲル試料について、貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)を温度の関数として示す。
【図3】図3は、ホスファチジルコリンとβ−ラクトグロブリン繊維によって形成された複合体の構造(複合ラメラLα(a)、複合逆六方晶HII(b)、及び複合ミセル六方晶H(c))を示す。
【図4a】図4aは、偏光顕微鏡画像、特に20℃において、交差偏光子間における系PC/βlg長繊維/ヒマワリ油のラメラ状のオイリーストリークテクスチャーを示す(27重量%のPC:8重量%のβlg長繊維:65重量%のヒマワリ油)。ヒマワリ油又はダイズ油中、βlg長繊維の濃度4〜8重量%の間及びPC濃度20〜30重量%の間で調製された試料は、曇った固体様外観をしており、ラメラ相に典型的なオイリーストリークテクスチャーで複屈折を示すものである。
【図4b】図4bは、PC/βlg繊維/ヒマワリ油系のSAXSデータを示す。データから、高q値におけるラメラ構造の存在及び低q散乱値におけるラメラ液晶粒子の凝集が示唆される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
したがって、本発明者らは、例えば、天然供給源由来のタンパク質繊維、例えばβ−ラクトグロブリン(BLG)繊維と、ホスファチジルコリン(PC)と、油とを含む製剤がオルガノゲルを形成するものであることを明らかにすることができた。
【0020】
例えば、輪郭長が1〜10μmの間のタンパク質長繊維及び/又は平均輪郭長が100〜300nmの間のタンパク質短繊維を使用することができる。
【0021】
タンパク質繊維の長さは、図4bに示されている通り、q値に影響を及ぼす。長繊維の場合、スペクトルは、最大のq値に唯一のピークが見られ、より低いq値にショルダーをもつ。このピークは、繰返し距離d=4.473nmのラメラ相の存在を示唆するものである。この値は、PCの長さ2.2nm及び試料の低水和と完全に一致する。βlg繊維によって媒介されて、ラメラ液晶が集合してより大きな凝集体を構築することが、低いq値における散乱強度の増加により示唆される。乳清タンパク質、純粋なβ−ラクトグロブリン(BLG)、市販の乳清タンパク質単離調製物(WPI)などの球状食品タンパク質、大豆、エンドウマメ、ルピナス、コムギ、米、ジャガイモ、若しくはカノーラタンパク質などの植物性タンパク質、及び/又は卵白タンパク質、例えばオバルブミンを、例えば本発明のタンパク質として使用することができる。
【0022】
以下の方法を用いて、球状タンパク質からタンパク質繊維を調製することができる。
【0023】
タンパク質を、pH約2及び低イオン強度およそI=0.01Mでタンパク質の変性温度を超える温度に加熱する。タンパク質が集合してフィブリルを構築することになるが、そのフィブリルは、凝集機構、輪郭長、及び堅さが大幅に異なることがある。高変換率を確実にし、その後の徐冷後にフィブリル崩壊を回避するのに、加熱を長時間(5〜10時間の間)実施することができる。乳清タンパク質単離物(WPI)の場合、顆粒状凝集体の形態のより小さいフィブリル(輪郭長1〜6μmの間)が得られ、モノマーの長いストリング(輪郭長1〜10μmの間)は、純粋なβ−ラクトグロブリン(BLG)に対応する。オバルブミンの場合は、平均輪郭長は、タンパク質濃度とともに2重量%における50nm〜7重量%における200nmまで増加する。大豆グリシニン及び大豆タンパク質単離物(SPI)は、輪郭長0.1〜4μmの間の分枝状のフィブリルを形成する。SPIから形成されたフィブリルは、大豆グリシニンのフィブリルより分岐しているものであった。
【0024】
典型的には、本発明のタンパク質繊維は、インサートアスペクト比(insert aspect ratio)が25〜5000の範囲、好ましくは50〜2500の範囲である。
【0025】
天然供給源由来のタンパク質繊維、例えばβ−ラクトグロブリン(BLG)繊維と、ホスファチジルコリン(PC)などの油分散性乳化剤とを含む組成物を、油固化の古典的解決策である飽和脂肪酸ハードストックに代えて使用することができる。
【0026】
β−ラクトグロブリンは、本発明の枠組みにおいて使用することができるタンパク質の一例である。
【0027】
β−ラクトグロブリン(BLG)は、チーズ製造の廃棄物、すなわち乳清から大量に利用可能である主要なウシ乳清タンパク質である。β−ラクトグロブリン(BLG)は健康上の利益を多数有するものであり、天然の化合物である。
【0028】
油分散性乳化剤としては、脂肪酸及びグリセロール脂肪酸エステル、モノグリセリド、ジグリセリド及びそれらの誘導体、長鎖アルコール、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、プロピレングリコールモノエステル若しくはプロピレングリコールジエステル、ホスファチジルコリン若しくはホスファチジルエタノールアミン(セファリン)などのリン脂質、植物由来の極性脂質、燕麦脂質、グリコール−スフィンゴ脂質(セレブロシド、ガングリオシド)などの糖脂質、スルファチド、ステロール、糖/スクロースエステル、及びポリグリセロールエステルが挙げられる。
【0029】
ウシβ−ラクトグロブリンは、162残基からなる、分子量18.4kDaの比較的小さいタンパク質である。β−ラクトグロブリン繊維は、低pH及び低イオン強度で長期加熱下にβ−ラクトグロブリンモノマー又はダイマーから形成することができる(Bromley,E.H.C.ら、2005年、Faraday Discussions 128巻:13〜27頁)。
【0030】
ホスファチジルコリンも、健康上の利益をいくつか有する天然化合物のクラスである。ホスファチジルコリンは、同化的な脂質代謝及び異化的な脂質代謝において役割を果たす。
【0031】
したがって、本発明によって提供される、脂肪を固化するための代替法には、飽和脂肪酸に代えて健全で天然の代替物を使用するという利点がある。
【0032】
β−ラクトグロブリンは、乳、例えばウシ乳、ヒツジ乳、ヤギ乳、ウマ乳、ラクダ乳、又は豆乳から得ることができる。ウシ乳が好ましい。
【0033】
本発明において、本発明者らは、BLG繊維とホスファチジルコリン(PC)の間の複合体形成物を、飽和脂肪酸ハードストックに代えて使用できることを明らかにする。
【0034】
したがって、本発明の一実施形態は、油分散性乳化剤とタンパク質繊維とを含む少なくとも1種の複合体を含有する油組成物である。
【0035】
「複合体」という用語は、少なくとも1種のタンパク質繊維、例えばβ−ラクトグロブリン繊維と少なくとも1種の油分散性乳化剤、例えばホスファチジルコリンとの会合(association)の任意の形を意味する。
【0036】
「油分散性」という用語は、乳化剤の無極性部分の疎水性が、油中で沈澱せず、油中で不溶性凝集体を生じないほどであることを意味する。
【0037】
本発明に記載される複合体は、少なくとも部分的に又は主として疎水的相互作用によって形成された複合体とすることができる。
【0038】
主として疎水的相互作用による複合体形成は、自然界において、例えば膜、ミセルの形成時、及び疎水性コアを形成するトリプトファン残基でフォールディングが開始する場合が多いタンパク質フォールディング時に広く生ずる。
【0039】
疎水的相互作用は、疎水性分子が水性媒体中に挿入されると生ずる。水分子は疎水性分子の周りに集合し、疎水性表面の周りにおける水分子の水素結合を最大限にする。疎水性分子同士が集まる場合、疎水性表面で互いに会合するようになる。これらの疎水性表面に付着していた水分子は、好ましいエントロピーを生じるバルク溶媒中への分布に戻される。
【0040】
相互作用の他の形、例えば静電的相互作用も同様に、複合体形成に寄与することができる。
【0041】
本発明の複合体は、タンパク質繊維及び例えばホスファチジルコリンを、メタノールと混合するだけで調製することができる。次いで、混合物からメタノールを除去することができる。本発明の複合体を含む油組成物の調製では、油と複合体を組み合わせることができる。
【0042】
本発明の複合体は、例えば乳タンパク質及び/又は乳清タンパク質などのタンパク質をさらに含有することができる。乳清タンパク質は、好ましくはウシ由来の、例えばスイート乳清タンパク質又は酸乳清タンパク質とすることができる。
【0043】
複合体は、食品グレードであるという利点を有するものであり得る。材料は、食用又は飼料用に認可された化合物からなる場合に食品グレードである。
【0044】
本発明の複合体は、いくつかの形、例えば溶液、ゲル、又は乾燥粉末の形で提供することができる。
【0045】
本発明の複合体は、いくつかの構造を有することができる。繊維様構造と同様にミセル構造は、1つの可能性である。
【0046】
ホスファチジルコリンとβ−ラクトグロブリン繊維によって形成された典型的な複合体は、図3に示される構造を有することができる。例えば、複合体は、複合ラメラ配列(Lα)、複合逆六方晶配列(HII)、複合ミセル六方晶配列(H)、又はそれらの組合せとして存在することができる。
【0047】
ラメラ配列は、例えば得られた組成物が面内で移動可能であり、これが最終生成物の展延性にプラスの効果を及ぼすという利点を有している。
【0048】
油中に分散されると、純粋なPCは、逆ミセルを形成する。ミセルは、水及び小さい極性分子の存在に極めて高い感受性を示す。臨界量の水(PC1モル当たり水1〜2モル)を、デカン、iso−オクタン、又はヘキサンのような鉱油中のPC溶液に添加すると、逆ミセルの柔軟円筒への一軸成長が起こる。その後、円筒が絡み合って、一過性の網状構造になることによって、溶液がオルガノゲルに変形される。2006年、S.R.Raghavanらは、胆汁酸塩が特異な面両親媒性構造のため、水の役割と類似している、非極性有機液体中でPC逆ミセルの縦方向凝集を促進する役割を果たし得ることを示した(Tung,S.;Huang Y.;Raghavan,S.R.、J.Am.Chem.Soc.、2006年、128巻、5751頁)。どちらの場合も、極性分子のPCヘッド基への結合は、脂質のヘッド基領域を増大させることになり、テイル領域は同じままになる。この幾何形状の変化は、長い円柱状の逆ミセルへの移行の原因となると考えられる。水をさらに添加すると、系の応答は、脂質濃度に依存する。PC<25重量%で、系はゲル相及び純粋なイソオクタンになり、PC>25重量%で、ゲル及びラメラ相が形成される。
【0049】
PCは鉱油と比べると、トリグリセリドに可溶でない(CMC=高オレイン酸ヒマワリ油中0.1重量%及びCMC=デカン中7.5重量%)。PCの溶解性の低下によって、トリグリセリド油における逆ミセルの自己集合のパターンが異なるものとなる。水の濃度が低い場合(例えば、ダイズ油中の8重量%のPC溶液中に、2重量%の水が存在する)、PCは、個々の剛性の二分子層として存在し、針状粒子に凝集する(Lei,L.;Ma,Y.;Kodali,R.;Liang,J.;Davis,H.D.、JAOCS 2003年、80巻、4号、383頁)。水の濃度が若干より高い場合(8重量%のPC溶液中に、4重量%の水)、逆ベシクル(「タマネギ様構造」)が形成される。水の濃度がさらに増加するにつれて(8重量%のPC溶液中、5.3重量%の水)、逆ベシクルが凝集し始める。添加された水が吸着飽和点を超えると(8重量%のPC溶液中、8重量%の水)、凝集体が沈降し、油相に加えて遊離水相が形成する。
【0050】
一実施形態において、本発明の複合体は、β−ラクトグロブリン繊維間に挟まれたホスファチジルコリンを含む。
【0051】
複合体は、油分散性乳化剤、例えばホスファチジルコリンとタンパク質繊維、例えばβ−ラクトグロブリン繊維を、約1:1〜10:1、好ましくは約2:1〜5:1、より好ましくは約3:1の重量比で含むことができる。
【0052】
典型的には、タンパク質繊維、例えばβ−ラクトグロブリン繊維と油分散性乳化剤、例えばホスファチジルコリンは、約20:1〜1:20の範囲の重量比、好ましくは約10:1〜1:1の範囲のモル比、最も好ましくは約5:1〜1:1の範囲のモル比で複合体として存在する。
【0053】
本発明の複合体中の油分散性乳化剤、例えばホスファチジルコリンとタンパク質、例えばβ−ラクトグロブリンの重量比は、約4:1〜15:1、例えば約5:1〜12:1までとすることができる。
【0054】
本発明の複合体は、油増粘剤として使用することができる。したがって、複合体を連続脂肪食用スプレッドの調製に使用することができ、又は油ベースの食品に組み込んで、食品の硬さを増加させることができる。
【0055】
本発明は、本発明に記載される少なくとも1種の複合体を含む油組成物に関する。
【0056】
本発明の複合体を含む油組成物は、任意のpHを有することができる。しかし、典型的には、本発明の組成物は、約2〜9の範囲、好ましくは約3〜7の範囲のpHを有する。
【0057】
本発明の油組成物中の油分散性乳化剤、例えばホスファチジルコリンとタンパク質、例えばβ−ラクトグロブリンの重量比は、約4:1〜15:1、例えば約5:1〜12:1まであり得る。
【0058】
油分散性乳化剤、例えばホスファチジルコリン、及びタンパク質繊維は、油組成物中において構造化剤として機能することができる。
【0059】
油組成物は、いずれの種類の油を含んでもよい。食品用途では、油は食品グレードの油とするべきである。本発明の枠組みにおいて使用することができる典型的な食品グレードの油は、例えばヒマワリ油、ダイズ油、菜種油、ゴマ油、トウモロコシ油、又はオリーブ油である。
【0060】
非食品用途では、デカンなどの鉱油も使用することができる。
【0061】
本発明に記載される複合体を含む油組成物は、オルガノゲルを形成することもできる。
【0062】
オルガノゲルは、三次元に架橋された網状構造に捕捉された有機液相から構成される、非晶質非ガラス質の熱可逆性(熱可塑性)固体材料である。
【0063】
本発明のオルガノゲルは、熱可逆性及びせん断感受性であるという利点を有する。したがって、提案された油組成物は飽和脂肪の挙動を模倣する。低温では、固体が形成され、高温では、ゲルが液体になり、冷却後再固化する。
【0064】
最終のオルガノゲル中における構造化剤の全量は、例えば15重量%〜34重量%までとすることができ、食用油の全量の66重量%〜85重量%に相当する。
【0065】
一実施形態において、油組成物は、少なくとも70重量%の油を含む。
【0066】
本発明の油組成物の含水量は、約1重量%未満とすることができ、約0.1〜1重量%の間、例えば約0.36〜0.46重量%の間まであり得る。
【0067】
したがって、本発明の油組成物は、約50〜85重量%の油、約5〜15重量%のタンパク質繊維、例えばβ−ラクトグロブリン繊維、及び約10〜40重量%の油分散性乳化剤、例えばホスファチジルコリンを含んでもよい。
【0068】
本発明の油組成物は、特にオルガノゲルとして存在する場合、25℃の温度で約25〜40Paの範囲の貯蔵弾性率G’及び50〜70Paの範囲の損失弾性率G”を有することができる。一実施形態において、25℃における貯蔵及び損失弾性率(G’及びG”)は、それぞれ約34Pa及び60Paである。
【0069】
本発明の主題は、本発明の油組成物を含む調製物に及ぶ。
【0070】
このような調製物は、例えば食品、栄養補助食品、食品添加物、医薬品、又は局所適用用のクリーム剤とすることができる。
【0071】
本発明の複合体を含む組成物及び/又は製品は、好ましくはデザート、フローズンデザート、乳製品、ペットフード、料理用製品、臨床栄養食品などから選択される。特に、これらとしては、ソース、スープ、マヨネーズ、サラダドレッシング、クリーム、アイスクリーム、チョコレート、ムース、及び/又はミルクを挙げることができる。
【0072】
典型的な食品は、フィリング、ディップ、ソース、マヨネーズ、スプレッド、トッピング、乳製品ベースの製品、ミルク及び/又はクリームベースのフォーム及び/又はエマルジョン、サラダドレッシング、スープ、飲料、又は経口栄養補助食品からなる群から選択することもできる。
【0073】
本発明の複合体又は組成物は、クリーム、フォーム、ムース、ゲル、シャンプー、エマルジョンなどの化粧品で使用することもできる。
【0074】
本発明の複合体を添加することができる医薬製品としては、錠剤、カプセル、又はゲルが挙げられる。
【0075】
当業者は、本明細書に記載される本発明のすべての特徴を、開示される本発明の範囲から逸脱することなく自由に組み合わせできることを理解するであろう。
【0076】
本発明の別の利点及び特徴は、以下の実施例及び図面から明らかである。
【実施例】
【0077】
油ゲル(オルガノゲル)は、食用油中、70℃でBLG繊維とPCの混合物を溶融することによって調製される。室温で冷却後、固体様材料は、PC:BLG繊維の構造化剤組成比4:1(4%のBLG繊維、30%のPC、及び66%の油に対応する)で形成される。
【0078】
油増粘化が、長繊維PC:BLG比約15(すなわち、2%のBLG長繊維、31.4%のPC、及び66%の油)ですでに観察された。
【0079】
レオロジー
レオロジーを使用して、ゲルの機械的諸特性及び熱安定性を調べた。
【0080】
測定は、コーン/プレート型ジオメトリー(角度2°及び直径25mm)を装備したAnton Paarレオメータ(MCR500)を使用して行った。
【0081】
ゲルの熱安定性を調べるために、機器をフローモードで操作し、温度を5〜70℃の間で変えた。試料を70℃に加熱した。次いで、これらを5℃/分で5℃に冷却した。冷却時に、粘度を一定のせん断速度(100s−1)で測定した。次いで、一定のせん断速度(10s−1)において、試料を5℃/分で70℃に再び加熱した。一定のせん断速度(100s−1)において、試料を5℃/分で5℃に再び冷却して、熱可逆性を評価した。図1a及び図1bは、固体様及び液体様挙動を示す2つの代表的試料について、温度の関数として粘度を示す。2重量%のBLG長いロッド及び30重量%のPCの場合、構造化剤は、植物油に完全に可溶である。粘性のある透明溶液が得られる(ηヒマワリ油=0.081 Pa・s(T=25℃)と比べて、η溶液=0.380Pa・s(T=25℃及びせん断速度100s−1)、η溶液=0.588Pa・s(T=25℃及びせん断速度10s−1))。
【0082】
最初の冷却曲線は、どちらの場合も粘度の急増を示している。試料を加熱すると、同じ粘度プロファイルが得られ、構造の崩壊を示している。すなわち、構造は、PCの融点(T溶融PC=65℃)付近で完全に溶融される。冷却後の粘度プロファイルは両方とも、非常によく一致しており、オルガノゲルの典型的な特徴である熱可逆性を示している。
【0083】
油ゲルの機械的諸特性は、振動レオロジーにより調べた。異なる構造化剤組成の貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)の温度依存性を、図2a、図2b、及び図2cに示す。
【0084】
すべての構造化剤/油混合物は、温度の上昇につれてG’及びG”の急減を示す。
【0085】
実際の油構造化は、8又は4重量%のBLGの長いロッド及び30%のPCで起こり、この固体様挙動は、約50℃まで持続する。一方、4重量%のBLGの長いロッド及び20%のPCでは、試料にはやはり粘性があるが、液体様挙動を示す。
PC/βlg繊維/植物油系における複合体構造:
【0086】
偏光顕微鏡法は、様々なタイプの中間相の特徴的テクスチャーを識別するのによく使用される。試料が異方性であり、強い複屈折を示す場合、交差偏光子を通して観察されるテクスチャーは、明るい領域を生じる。暗い領域は、複屈折がない(等方性の構造)、又は複屈折がかなり弱いことを意味する。ヒマワリ油又はダイズ油中、βlg長繊維の濃度4〜8重量%の間及びPC濃度20〜30重量%の間で調製された試料は、曇った固体様外観をしており、ラメラ相に典型的なオイリーストリークテクスチャーで複屈折を示すものである(図4a)。
【0087】
系PC/βlg長繊維/ヒマワリ油(27重量%のPC:8重量%のβlg長繊維:65重量%のヒマワリ油)のSAXSスペクトル(図4b)は、最大q値に唯一のピークが見られ、より低いq値にショルダーをもつ。このピークは、繰返し距離d=4.473nmのラメラ相の存在を示唆するものである。この値は、PCの長さ2.2nm及び試料の低水和と完全に一致するが、ラメラ相内にタンパク質繊維が存在していることを切り捨てている。おそらくβlg繊維によって媒介されて、ラメラ液晶が集合してより大きな凝集体を構築することが、低いq値における散乱強度の増加により示唆される(図4b)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分散性乳化剤とタンパク質繊維とを含む少なくとも1種の複合体を含有する油組成物であって、油組成物がオルガノゲルとして存在する、油組成物。
【請求項2】
タンパク質が、β−ラクトグロブリン(BLG)、乳清タンパク質単離物(WPI)などの球状タンパク質、大豆、エンドウマメ、ルピナス、コムギ、米、ジャガイモ、若しくはカノーラタンパク質などの植物性タンパク質、及び/又は卵白タンパク質、例えばオバルブミンである、請求項1に記載の油組成物。
【請求項3】
油分散性乳化剤が、脂肪酸及びグリセロール脂肪酸エステル、モノグリセリド、ジグリセリド及びそれらの誘導体、長鎖アルコール、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、プロピレングリコールモノエステル若しくはプロピレングリコールジエステル、ホスファチジルコリン若しくはホスファチジルエタノールアミン(セファリン)などのリン脂質、植物由来の極性脂質、燕麦脂質、グリコール−スフィンゴ脂質(セレブロシド、ガングリオシド)などの糖脂質、スルファチド、ステロール、糖/スクロースエステル、及びポリグリセロールエステルのうちの1つであり得る、請求項1に記載の油組成物。
【請求項4】
複合体が、タンパク質繊維間に挟まれたホスファチジルコリンなどの油分散性乳化剤を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の油組成物。
【請求項5】
複合体が少なくとも部分的に、複合ラメラ配列(Lα)として存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の油組成物。
【請求項6】
複合体が、ホスファチジルコリンなどの油分散性乳化剤とタンパク質繊維とを、約1:1〜10:1、好ましくは2:1〜5:1、より好ましくは約3:1の重量比で含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の油組成物。
【請求項7】
約50〜85重量%の油、約5〜15重量%のタンパク質繊維、及び約10〜40重量%のホスファチジルコリンなどの油分散性乳化剤を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の油組成物。
【請求項8】
含水量が、1重量%未満である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の油組成物。
【請求項9】
少なくとも約70重量%の油を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の油組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の油組成物を含む食品調製物。
【請求項11】
組成物が、食品、栄養補助食品、食品添加物、医薬品、及び局所適用用クリーム剤からなる群から選択される、請求項10に記載の調製物。
【請求項12】
タンパク質繊維及びホスファチジルコリンをメタノールと混合するステップと、混合物からメタノールを除去するステップと、乾燥した混合物に油を添加するステップとを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の油組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合体の油増粘剤としての使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2013−516995(P2013−516995A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549352(P2012−549352)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050722
【国際公開番号】WO2011/089171
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】