説明

油圧ポンプのインバータ駆動制御方法

【課題】可変容量形ピストンポンプのインバータ駆動における自励振動を防止する。
【解決手段】コントロールピストン17の圧力室18内の検出圧力に基づいてインバータ装置30への回転数指令を計算し、計算した回転数が現在指令している回転数よりある値d以上に大きい場合は、計算した値よりある値dを引いた値をインバータ装置30への回転数指令とし、計算した回転数が現在指令している回転数よりある値d以上に小さい場合は、計算した値よりある値dをたした値をインバータ装置30への回転数指令とし、計算した回転数と現在指令している回転数の差の絶対値がある値d以下の場合には、インバータ装置30への回転数指令値を変化させないバックラッシュ演算をしてインバータ装置30への回転数指令とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ポンプのインバータ駆動制御方法に関し、さらに詳細には油圧ポンプの回転数を低下させることで消費電力を低減させる油圧ポンプのインバータ駆動制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の可変容量形ポンプのインバータ駆動制御方法としては、特許文献1に示すように油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動する可変速モータと、前記可変速モータを駆動するインバータ装置と、前記インバータ装置に回転数指令を与える制御装置と、圧力センサーとを、備え、吐出圧力が予め設定された圧力に以上になった場合に、可変速モータの回転数を低下させることで消費電力を低下させている。この特許文献1では、より好ましくは、カットオフ開始圧力からフルカットオフ圧力までの間の可変速モータの回転数条件を圧力制御系によって吐出圧力が上昇するのに伴って、その吐出圧力を安定して維持するだけの最低回転数になるように段階的または無段階に回転数を減少させるような特性に設定するのがよいとしている。そして、可変容量形ポンプがフルカットオフ状態であり作動油の吐出量を要求していない場合には、インバータ装置を使用してポンプの回転数を低下させることで、フルカットオフ時の消費電力を低下させている。さらに、ポンプがカットオフ付近にあることを検出するためにポンプの吐出口の圧力を検出している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−172302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に示されている方法では、図4に示すようなシャープカットオフ特性の吐出圧力―流量特性を持つポンプ、例えば,コンペンセータ付きの可変容量形ポンプの場合、吐出流量が低下を始めるカットオフ点1と吐出流量が零になるフルカットオフ点2の圧力差が小さいため、カットオフ点1からフルカットオフ点2までの圧力変化により回転数を低下させて、フルカットオフ時に可変速モータを最低回転数にするために製品出荷時にフルカットオフ時の圧力をコントローラに記憶させても、コンペンセータのスプリング荷重などの圧力設定要素の特性変化によりカットオフ圧力やフルカットオフ圧力が少し変化しただけで回転数制御範囲から外れてしまう可能性がある。
さらに、コンペンセータのスプリング荷重などの圧力設定要素に変化があっても、ポンプのカットオフ点やフルカットオフ点を検出する方法として、コンペンセータの負荷ポートの圧力、つまり、コントロールピストン室内の圧力を検出する方法が考えられる。
コンペンセータの負荷ポートの圧力と吐出流量の関係を見ると、図5のようにポンプの吐出圧力―流量特性のカットオフ点からフルカットオフ点までの領域の圧力変化を拡大したような曲線を描く。このため、吐出圧力―流量特性のヒステリシスが小さいポンプでは、コンペンセータの負荷ポートの圧力、つまりコントロールピストン室内の圧力に比例させて回転数を低下させることで、フルカットオフ時に最低回転数にして消費電力を低下させることができる。この方法は、2圧2流量などのポンプにもそのまま適用できるという利点もある。
【0004】
しかし、可変容量形ポンプの中には、斜板の支持機構の摺動抵抗、コントロールピストンの摺動抵抗等により予期しないで発生するヒステリシスと斜板の傾転角を安定させ吐出圧力の脈動を抑えるために意図的に入れられたヒステリシスにより、図6のように吐出圧力―流量特性のヒステリシスが大きく、コントロールピストン室内の圧力と吐出流量の関係も図7のように大きなヒステリシスを持つことになる。特許文献1の目的は、ポンプの回転数で圧力を制御することでなく、フルカットオフ時に可変速モータの回転数を低下させて消費電力を低下させることであるが、可変速モータとして誘導電動機を使用した場合には、回転数の制御により吐出圧力を制御するだけの応答性は期待できないのでやはり、ポンプの状態の変化に合わせて回転数を変えていくことになる。また、ヒステリシスの幅の中では斜板が反応しないために、見かけ上は定吐出ポンプとなり可変容量形ポンプ本来の制御性能を利用できない範囲となる。吐出側の負荷(絞り)が一定の場合に、この状態でコントロールピストン室内の圧力に対応した回転数に制御しようとしたとき、回転数を上げると吐出流量が増加し吐出圧力が上昇するとともにコントロールピストン室内の圧力も上昇する。また、回転数を下げると吐出流量が減少し吐出圧力が下降するとともにコントロールピストン室内の圧力も下降する。通常は、インバータ装置が必要とする加減速時間の影響や、インバータ装置のサンプリング時間によるむだ時間、三相誘導電動機の慣性力による応答遅れなどにより定吐出ポンプの回転数制御で吐出圧力の制御をできるだけの性能を得ることはできず、自励振動(リミットサイクル)に入ってしまうという問題がある。
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、インバータ装置が必要とする加減速時間の影響や、インバータ装置のサンプリング時間によるむだ時間、三相誘導電動機の慣性力による応答遅れなどがあっても自励振動(リミットサイクル)に入って回転数変化を繰り返すことのない油圧ポンプのインバータ駆動制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決するために請求項1記載の発明は、可変容量形ポンプのインバータ駆動において、コンペンセータの負荷ポートと斜板の傾転角を制御するコントロールピストンの圧力室間に圧力検出ポートを有する圧力センサーを設け、前記コントロールピストンの圧力室内の圧力を検出し、該コントロールピストンの圧力室内の検出圧力に基づいてインバータ装置への回転数指令を計算するとともに、計算した回転数と現在指令している回転数を比較し、計算した回転数が現在指令している回転数よりある値d以上に大きい場合は、計算した値よりある値dを減算した値をインバータ装置への回転数指令とし、計算した回転数が現在指令している回転数よりある値d以上に小さい場合は、計算した値よりある値dを加算した値をインバータ装置への回転数指令とし、計算した回転数と現在指令している回転数の差の絶対値がある値d以下の場合には、インバータ装置への回転数指令値を変化させないバックラッシュ演算をしてインバータ装置への回転数指令とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は可変ポンプにおいて、コンペンセータの負荷ポートと斜板の傾転角を制御するコントロールピストンの圧力室間に圧力検出ポートを有する圧力センサーを設けることで、コントロールピストン室内の圧力を検出するとともに、コントロールピストン室内の検出圧力に基づいてインバータへの回転数指令を計算することで、コンペンセータのスプリング荷重の変化などでカットオフ圧力やフルカットオフ圧力が少し変化しても確実に回転数制御できるようになり、また、バックラッシュ演算を設けることで、ポンプの吐出圧力―吐出流量カーブのヒステリシスが大きいポンプの制御においても、インバータ装置の遅れ時間を許容し、かつインバータ装置が必要とする加減速機能を用いても電動機の回転数が自励振動状態になることもなくフルカットオフ時に最低回転数に保持できるようになったので、コンペンセータ付きのシャープカットオフの可変ポンプの場合でもインバータによる回転数制御のない場合の圧力―流量特性を保ちながらインバータによる回転数制御によるフルカットオフ時の消費電力の低減が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の油圧ポンプのインバータ駆動制御方法につき好適な実施の形態を挙げ図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る可変容量形ピストンポンプ10の概略構造を示す縦断面図である。図1において、吐出ポート11に吐出された圧油は、コンペンセータ12の圧力室13に導かれ、スプール14の一方の端面に作用する。この場合、前記スプール14の他方の端面には、ばね部材15(第1のばね部材)の弾発力が付勢されている。
【0008】
前記コンペンセータ12の負荷ポート16は、コントロールピストン17の圧力室18に接続されている。また、前記コントロールピストン17の露出部の端部19は、斜板20の端に接触している。前記斜板20には、コントロールピストン17を圧力室18側に押し込める方向に作用するばね部材21(第2のスプリング)が装着されている。
吐出ポート11が全開して吐出圧力が小さいときは、コンペンセータ12のスプール14は、ばね部材15の弾発力により圧力室13側に押圧されている。このため、負荷ポート16は、図示しないドレン回路の圧力と同になり、コントロールピストン17の圧力室18の圧力も図示しないドレン回路の圧力と同じである。
【0009】
前記斜板20は、ばね部材21の弾発力により押圧されて傾転角が最も大きい状態になっており、吐出流量も大きい状態である。ポンプ(図示しない)の吐出口を全開状態から除々に絞ると、吐出口の圧力が上昇してくる。よって、吐出圧力つまりコンペンセータ12の圧力室13の圧力とスプール14の断面積との積がばね部材15の弾発力より大きくなると、スプール14は、該ばね部材15側に動き出す。そして、それ以上に吐出圧力が上昇するとコンペンセータ12の負荷ポート16とドレンポート22との連通は閉じられ、コンペンセータ12の負荷ポート16は供給ポート23に連通する。
【0010】
コンペンセータ12の負荷ポート16がドレンポート22に全開している状態から供給ポート23側に開いていく過程で斜板20が略垂直になって吐出しなくなるフルカットオフ点に達するが、このときのコンペンセータ12の負荷ポート16の圧力は、コントロールピストン17の断面積と該コントロールピストン17の圧力室18の圧力との積とばね部材21の弾発力のバランスで決まるが、通常は、コントロールピストン17の圧力室18の圧力が吐出圧力の30〜50%でフルカットオフ状態になる。このため、コンペンセータ12の負荷ポート16、つまりコントロールピストン17の圧力室18を圧力センサー25で検出することでカットオフ点とフルカットオフ点の検出が可能であるが、ヒステリシスなどの特性は、斜板20とすべり軸受24との摺動抵抗や、コントロールピストン17の摺動抵抗、該コントロールピストン17の圧力室18からの内部漏れ量、ばね部材21の弾発力及びばね定数などにより変わってくる。このため、ポンプの構造により、図4及び図5のような特性場合もあるが、図6及び図7のようになる場合もある。
【0011】
図2は、ヒステリシスの大きい場合に回転数制御をした時の吐出流量と回転数、コントロールピストン17の圧力室18内の圧力の変化を示す概略図である。コンペンセータ12の負荷ポート16がドレンポート22に全開している状態ではA点である。
そこで、吐出圧力が上昇すると、コントロールピストン17の圧力室18内の圧力も上昇しB点になるが、ヒステリシスのため斜板の角度の変化はなく、吐出流量の変化もない。
ヒステリシス曲線の中央に描いた実線を目標回転数とすると、B点は目標回転数より高いので、回転数を下げるように操作することになる。斜板20の角度が固定で回転数を下げると吐出流量も低下するので、C点の方向へ向かうようになる。C点では、回転数を下げ過ぎたのでD点に向けて修正する操作をする。このようにして、F点に落ち着けば良いが、通常は、インバータ装置が必要とする加減速時間の影響や、インバータ装置のサンプリング時間によるむだ時間、三相誘導電動機の慣性力による応答遅れなどにより定吐出ポンプの回転数制御で吐出圧力の制御をできるだけの性能を得ることはできず、自励振動(リミットサイクル)に入ってしまい、実線の前後を往復動運動してしまう。
【0012】
そこで、点線の範囲に入ればインバータへの回転数指令を変化させないようにすることで、自励振動(リミットサイクル)に入らないようにすれば良い。もし、B点からC点に向かう際に、C’点まで行ってしまうような場合は、ヒステリシスの範囲外の変化があったことになるので、ポンプの斜板の角度が変化しポンプの状態も変化し別の状態になっているのでゲイン調整など別の対策が必要である。
【0013】
図3は、本発明の油圧ポンプのインバータ駆動制御方法に関する制御装置のブロック図である。図3中、図1の構成要素と同一の構成要素については同一符号を示す。図3において、参照符号27は三相誘導電動機を示し、可変容量形ピストンポンプ10を駆動している。図3に示すように、圧力センサー25で検出された検出信号は指令値計算部28に送信され、指定値計算部28により演算された値がバックラッシュ要素部29に送られ、さらにバックラッシュ要素部29により演算された値がインバータ装置30に入力され、該インバータ装置30により検出された信号が三相誘導電動機27に送られる。
コンペンセータ12の負荷ポート16に圧力センサー25を取り付けて可変容量形ピストンポンプ10のコントロールピストン17の圧力室18の圧力を検出する。指令値計算部28では、圧力センサー25の出力に基づきドレン背圧の瞬時最大値である1MPa程度から回転数を下げていき、フルカットオフ時の圧力の0.5〜0.8倍程度で最低回転数になるようなコントロールピストン17の圧力室18の圧力−回転数を計算する。
【0014】
バックラッシュ要素部29におけるバックラッシュ演算の概要について説明する。図3に示すバックラッシュ要素部29の二点鎖線は、バックラッシュ演算をしないときの計算された回転数指令とインバータ装置への回転数指令の関係を表し、比例的に1対1に対応している。本来は、X軸とY軸(図示しない)の交点から伸びる直線とすべきであるが、インバータ装置への回転数指令がマイナス回転の指令になることを避けるために、X軸プラス側にdの幅だけオフセットしている。実際の最低回転数は、バックラッシュ幅2dよりも大きいので、わざと演算でオフセットを付加する必要はない。
回転数(計算値)は、dの幅だけオフセットしているので2点鎖線とX軸との交点から出発する。回転数(計算値)が除々に増加して2点鎖線よりdの幅だけ大きくなると、インバータ装置へ回転数指令が出される。インバータ装置へ回転数指令は、回転数(計算値)よりdだけ小さいので、右側の実線に沿って上昇する。インバータ装置へ回転数指令は、着目している点からX軸に平行線を引いたときにY軸と交わる点の回転数である。ここで、回転数(計算値)が減少しても、二点鎖線から左側にd幅以上に小さくなるまで、インバータ装置へ回転数指令を変えず、またd幅以上に小さくなると、d幅分を加算してインバータ装置へ回転数指令とするので、図で示したようなヒステシシスを持ち、バックラッシュ要素とすることができる。
【0015】
次に、バックラッシュ要素部29で現在、インバータ装置30に与えている回転数指令と計算した回転数からバックラッシュを持たせる演算をしてインバータ装置30への指令電圧としている。インバータ装置30では、加減速パラメータに従った加減速時間で指令電圧に合わせた周波数の三相交流電圧に変えて三相誘導電動機27に与えている。
この制御の特徴は、ある吐出量での可変容量形ピストンポンプ10の回転数は定まっていなく、フルカットオフ点で最低回転数にすることだけを目的としていて、制御はなるべくポンプの自律性にまかせていることである。例えば、最低回転数が最高回転数の1/4であるならば、吐出流量が1/4のときは、可変容量形ピストンポンプ10が吐出量最大の状態で回転数が1/4である場合もあるし、回転数が最高回転数で可変容量ポンプの容量が1/4になっている場合も許容することにある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る可変容量形ピストンポンプの概略構造を示す縦断面図である。
【図2】ヒステリシスの大きい場合に回転数制御をした時の吐出流量と回転数、コントロールピストンの圧力室内の圧力の変化を示す概略図である。
【図3】本発明の油圧ポンプのインバータ駆動制御方法に関する制御装置のブロック図である。
【図4】ヒステリシスの小さい可変容量ポンプの吐出圧力―吐出流量特性線図である。
【図5】図4のポンプの本発明に関する吐出流量―コントロールピストンの圧力室内の圧力特性である。
【図6】ヒステリシスの大きい可変容量ポンプの吐出圧力―吐出流量特性線図である。
【図7】図6のポンプの本発明に関する吐出流量―コントロールピストンの圧力室内の圧力特性である。
【符号の説明】
【0017】
1 カットオフ点 2 フルカットオフ点
10 可変容量形ピストンポンプ 11 吐出ポート
12 コンペンセータ 13、18 圧力室
14 スプール 15、21 ばね部材
16 負荷ポート 17 コントロールピストン
20 斜板 22 ドレーンポート
23 供給ポート 25 圧力センサー
28 指令値計算部 29 バックラッシュ要素部
30 インバータ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変容量形ポンプのインバータ駆動において、コンペンセータの負荷ポートと斜板の傾転角を制御するコントロールピストンの圧力室間に圧力検出ポートを有する圧力センサーを設け、前記コントロールピストンの圧力室内の圧力を検出し、該コントロールピストンの圧力室内の検出圧力に基づいてインバータ装置への回転数指令を計算するとともに、計算した回転数と現在指令している回転数を比較し、計算した回転数が現在指令している回転数よりある値d以上に大きい場合は、計算した値よりある値dを減算した値をインバータ装置への回転数指令とし、計算した回転数が現在指令している回転数よりある値d以上に小さい場合は、計算した値よりある値dを加算した値をインバータ装置への回転数指令とし、計算した回転数と現在指令している回転数の差の絶対値がある値d以下の場合には、インバータ装置への回転数指令値を変化させないバックラッシュ演算をしてインバータ装置への回転数指令とすることを特徴とする油圧ポンプのインバータ駆動制御方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−7975(P2009−7975A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168501(P2007−168501)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】