油圧作業機のポンプ傾転制御装置
【課題】ポンプ傾転を精度良く目標ポンプ傾転に制御できる傾転制御装置を提供する。
【解決手段】油圧アクチュエータ5に駆動圧を供給する可変容量型の油圧ポンプ2と、ポンプ傾転制御用の制御圧を発生する油圧切換弁13と、油圧切換弁13の駆動に応じて油圧ポンプ2のポンプ容量を変更する傾転制御用ピストン12と、油圧切換弁13を駆動するための指令圧P0を出力する比例電磁弁14と、指令圧P0に対抗して油圧切換弁13に作用する背圧Pdを演算するドレン圧演算回路36と、ドレン圧演算回路36により演算された背圧に応じて指令圧P0を補正するコントローラ20とを備える。
【解決手段】油圧アクチュエータ5に駆動圧を供給する可変容量型の油圧ポンプ2と、ポンプ傾転制御用の制御圧を発生する油圧切換弁13と、油圧切換弁13の駆動に応じて油圧ポンプ2のポンプ容量を変更する傾転制御用ピストン12と、油圧切換弁13を駆動するための指令圧P0を出力する比例電磁弁14と、指令圧P0に対抗して油圧切換弁13に作用する背圧Pdを演算するドレン圧演算回路36と、ドレン圧演算回路36により演算された背圧に応じて指令圧P0を補正するコントローラ20とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の油圧作業機のポンプ傾転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、操作レバーの操作量に応じた傾転制御信号によりポンプ傾転を制御するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、操作レバーの操作量に応じた傾転制御信号を出力して比例電磁弁を駆動し、この比例電磁弁の駆動によって切換弁に作用するパイロット圧を調整し、切換弁の駆動によりポンプ傾転を目標ポンプ傾転に制御するようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−302755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、切換弁にパイロット圧に対抗したケーシング内の圧力が作用する。このため、ケーシング内の圧力が上昇した場合には、指令値通りに切換弁が駆動されず、ポンプ傾転を精度よく目標ポンプ傾転に制御できないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による油圧作業機のポンプ傾転制御装置は、油圧アクチュエータに駆動圧を供給する可変容量型の油圧ポンプと、ポンプ傾転制御用の制御圧を発生する弁手段と、弁手段の駆動に応じて油圧ポンプのポンプ容量を変更する容量変更手段と、弁手段を駆動するための指令圧を出力する指令圧出力手段と、指令圧に対抗して弁手段に作用する背圧を取得する背圧取得手段と、背圧取得手段により取得した背圧に応じて指令圧を補正する補正手段とを備えることを特徴とする。
指令圧出力手段は、パイロット圧発生用のパイロット油圧ポンプと、目標ポンプ傾転を入力する入力手段と、目標ポンプ傾転に応じてパイロット油圧ポンプからのパイロット圧を減圧する減圧手段とにより構成することができる。
背圧取得手段が、油圧ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出手段と、予めポンプ吐出圧と背圧との関係を記憶する記憶手段と、吐出圧検出手段により検出された吐出圧と記憶されたポンプ吐出圧と背圧との関係に基づき、背圧を演算する背圧演算手段とを備えることもできる。
背圧取得手段が、背圧を検出する背圧検出手段を有するものとしてもよい。
弁手段に作用する指令圧を検出する指令圧検出手段と、指令圧検出手段により検出された指令圧が補正手段により補正された指令圧となるように指令圧出力手段を制御する制御手段とをさらに有するものとしてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポンプ傾転制御用の弁手段への指令圧に対抗して作用する背圧に応じて指令圧を補正するようにしたので、背圧の影響を考慮してポンプ傾転を精度よく目標ポンプ傾転に制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図1〜図14を参照して本発明による油圧作業機のポンプ傾転制御装置の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係るポンプ傾転制御装置が適用される油圧作業機の一例である油圧ショベルの外観側面図である。油圧ショベルは、走行体101と、旋回可能な旋回体102と、旋回体102に回動可能に軸支されたブームBM,アームAM,バケットBKからなる作業装置103とを有する。ブームBM,アームAM,バケットBKは、それぞれブームシリンダ103a、アームシリンダ103b、バケットシリンダ103cにより駆動される。
【0008】
図2(a)は、本実施の形態に係るポンプ傾転制御装置の構成を示す図である。エンジン1の出力軸には可変容量型のメインポンプ2とサブポンプ3の入力軸が連結され、エンジン1の駆動によりこれら油圧ポンプ2,3から圧油が吐出される。メインポンプ2からの圧油は、方向制御弁4を介して油圧シリンダ(ブームシリンダなど)や油圧モータ(旋回モータなど)等の油圧アクチュエータ5に供給される。
【0009】
方向制御弁4にはパイロット弁7を介してサブポンプ3からのパイロット圧が供給される。パイロット弁7は操作レバー6の操作により駆動され、操作レバー6の操作量に応じて油圧アクチュエータ5への圧油の流れが制御される。なお、図示は省略するが、メインポンプ2とコントロールバルブ4の間には、ポンプ吐出圧の上限をリリーフ圧Prに制限するリリーフ弁が設けられている。
【0010】
パイロット弁7とサブポンプ3との間にはロックバルブ9が設けられている。ロックバルブ9は、運転席の入口に設けられたゲートロックレバー(不図示)のロック操作によりロック位置に切り換わり、アンロック操作によりアンロック位置に切り換わる。ロックバルブ9がロック位置に切り換わると、パイロット弁7への圧油の流れが禁止される。この状態では、操作レバー6の操作に拘わらず方向制御弁4へパイロット圧は供給されず、方向制御弁4は中立位置に保持され、油圧アクチュエータ5への圧油の流れが阻止される。ロックバルブ9がアンロック位置に切り換わると、パイロット弁7への圧油の流れが許容される。
【0011】
メインポンプ2の傾転はポンプレギュレータにより変更される。ポンプレギュレータは傾転制御用ピストン12と油圧切換弁13と比例電磁弁14とを備える。傾転制御用ピストン12の小径側油室12aにはメインポンプ2の吐出圧Ppが作用し、大径側油室12bには油圧切換弁13を介してメインポンプ2とサブポンプ3の吐出圧が作用する。各油室12a,12bに作用する油圧力に応じてピストン12が駆動され、メインポンプ2の傾転が変更される。
【0012】
油圧切換弁13には、比例電磁弁14を介したサブポンプ3からのパイロット圧(二次圧Pa)が作用し、二次圧Paに応じて油圧切換弁13が切り換わる。すなわち比例電磁弁14の二次圧Paが増加すると油圧切換弁13は位置イ側に切り換わる。これにより油室12bに作用する油圧力が増加し、ポンプ傾転が増加する。一方、二次圧Paが減少すると油圧切換弁13は位置ロ側に切り換わる。これにより油室12bに作用する油圧力が減少し、ポンプ傾転が減少する。このようにポンプ傾転が増減すると、ポンプ吐出量は最小流量Qmin〜最大流量Qmaxの間で変化する。
【0013】
メインポンプ2とレギュレータはポンプブロック10により一体に構成され、ブロック10の内部はポンプ2からの漏れ油で満たされている。このため図2(b)に示すように油圧切換弁13のスプールには二次圧Paに対抗してブロック内の圧力(ケーシング圧Pb)が背圧となって作用する。なお、ポンプブロック内の油はドレンポート、フィルタを介してタンクに排出されるため、このドレンポート〜タンクへの排出経路の圧力損失(圧損)や作動油の粘度の影響によってドレンポート圧(ドレン圧Pd)が増加するとケーシング圧Pd(ポンプブロック内の内部圧力)も増加する。以下、ケーシング圧Pbとドレン圧Pdが同等なものとして説明する。
【0014】
図3は、ポンプ吐出圧Ppとドレン圧Pdとの関係を示す図である。図3に示すようにポンプ吐出圧Ppが増加するとメインポンプ2からの油の漏れ量が増加し、ドレン圧Pdが比例的に増加する。ポンプ吐出圧Ppが最大Pp1(リリーフ圧Pr)のとき、ドレン圧も最大Pd1となる。
【0015】
図4は、二次圧Paとポンプ吐出量Qとの関係である傾転制御特性を示す図である。図の特性aは、ドレン圧Pdが0のときの基準特性であり、特性bはドレン圧Pdが最大Pd1のときの特性である。特性aに示すように、ドレン圧Pdが0の場合には、二次圧が所定値Pa1でポンプ吐出量はQ1となる。
【0016】
一方、特性bに示すように、ドレン圧PdがPd1の場合には、ケーシング圧(ドレン圧Pd1)が二次圧Paの抗力として作用するため、油圧切換弁13に作用する二次圧Paは実質ドレン圧Pd1の分だけ減少する。このため、傾転制御特性は右側にシフトし、ポンプ吐出量はQ1よりも少くなる。このようにドレン圧Pdが上昇した場合に基準特性aに基づいて比例電磁弁14を制御したのでは、所望のポンプ吐出量Qが得られないおそれがある。とくに油圧切換弁13は、メインポンプ2よりも低圧のサブポンプ3からのパイロット圧により切り換えるので、ケーシング圧による影響が大きい。そこで、本実施の形態では、以下に述べるように予め図3に示すようなポンプ吐出圧Ppとドレン圧Pdとの関係(ドレン圧特性)を定め、この関係に基づきポンプ傾転を制御する。
【0017】
ドレン圧特性は次のようにして求める。まず、ドレン圧Pdを検出するための圧力センサ25をポンプブロック10のドレンポートに取り付けて、信号線をコントローラ20に接続する。次いで、作動油の温度Tが所定範囲内になるまで油圧作業機をウォーミングアップさせる。すなわち、油温Tによって油の粘性が変化し、ドレン圧Pdが影響を受ける点を考慮して、油温Tが通常作業時の油温(例えば50〜60℃)になるまで油圧作業機をウォーミングアップさせる。また、ポンプ吐出量Qはエンジン回転数Nが大きいほど増加するため、エンジン回転数Nを定格回転数Naに設定する。
【0018】
さらに、ブーム起伏用の操作レバー6を上げ操作してブームBMを最大に起立させ、リリーフ弁からメインポンプ2の吐出油をリリーフさせる。すなわちドレン圧Pdの最大値を取得する。この状態で、ポンプ吐出圧Pp(=Pp1)とドレン圧Pd(=Pd1)をそれぞれ圧力センサ23,25で検出し、これと原点とを結んだ直線をドレン圧特性とする。
【0019】
図2に示すコントローラ20は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ20には、エンジン1の回転数Nを検出する回転数センサ21と、操作レバー6の操作量に応じた操作圧Pn(ポジコン圧)を検出する圧力センサ22と、メインポンプ2の吐出圧Ppを検出する圧力センサ23と、比例電磁弁14に作用する二次圧Paを検出する圧力センサ24と、ドレン圧Pdを検出する圧力センサ25と、作動油温度Tを検出する温度センサ26と、ドレン圧特性を自動で算出するための処理(自動調整)を指令する指令スイッチ27と、学習モードと通常モードのいずれかを選択するモードスイッチ28と、ゲートロックレバーのロック操作を検出するリミットスイッチ29が接続されている。コントローラ20は、これらセンサ21〜26とスイッチ27〜29からの信号に基づき以下のような処理を実行する。
【0020】
(1)自動調整
図5は、コントローラ20で実行される自動調整の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、指令スイッチ27がオン操作されると開始される。なお、自動調整を行う場合には、予めコントローラ20にドレン圧力センサ25を接続する。ドレン圧力センサ25は自動調整が終了すると、取り外される。
【0021】
ステップS1では、温度センサ26により検出された作動油温度Tが所定範囲内(50〜60℃)にあるか否かを判定する。ステップS2では、回転数センサ21により検出されたエンジン回転数Nが定格回転数Naであるか否かを判定する。ステップS3では、圧力センサ22によりブームBMの上げ操作が検出されたか否かを判定する。ステップS4ではメインポンプの吐出圧がリリーフ圧以上になっているか否かを判定する。ステップS1〜ステップS4の全てが肯定されるとステップS5に進み、いずれか1つでも否定されるとステップS10に進む。
【0022】
ステップS5では、ドレン圧検出用の圧力センサ25の検出値Pdが正常範囲内にあるか否かを判定する。ステップS5が肯定されるとステップS6に進み、圧力センサ25の検出値Pd(=Pd1)を読み取り、メモリに記憶する。ステップS7では、ポンプ吐出圧検出用の圧力センサ23の検出値Ppが正常範囲内にあるか否かを判定する。ステップS7が肯定されるとステップS8に進み、圧力センサ23の検出値Pp(=Pp1)を読み取り、メモリに記憶する。
【0023】
次いで、ステップS9で、例えば表示モニタに信号を出力し、自動調整が正常終了した旨を作業員に報知する。ステップS1〜ステップS5またはステップS7のいずれかが否定されるとステップS10に進み、自動調整が異常終了した旨を作業員に報知する。以上の処理により図3のドレン圧特性が得られる。このドレン圧特性は図12のドレン圧演算回路36に記憶され、後述するようにポンプ傾転が制御される。
【0024】
本実施の形態では、比例電磁弁14の個体差による特性のばらつきを考慮したポンプ傾転制御を併せて行う。以下、この点について説明する。図6は、比例電磁弁14の入出力特性の一例を示す図であり、図7は、二次圧Paとポンプ傾転θの関係を示す図である。
【0025】
図6において、特性A0は基準特性であり、比例電磁弁14への駆動電流iの増加に伴い、二次圧Paは増加する。このような比例電磁弁14の特性には個体差があるため、基準特性A0に対して許容公差±Δα内で特性がばらつき、実際の特性Aは基準特性A0に対してずれる。このため、例えば二次圧Pa1を発生させようとして基準特性A0に基づき比例電磁弁14に駆動電流i1を出力すると実際の二次圧はPa1’となり、目標値Pa1と乖離する。
【0026】
その結果、図7に示すように実際のポンプ傾転θ1’が目標ポンプ傾転θ1から乖離し、操作レバー6の操作に応じた良好な作業を行うことができなくなる。この点を考慮し、本実施の形態では、予め比例電磁弁14のばらつきを考慮した補正特性を設定し(学習制御)、学習制御によって得られた補正特性に基づきポンプ傾転θを制御する(通常制御)。
【0027】
(2)学習制御
図8は、学習制御の処理の一例を示すフローチャートである。コントローラ10には予め図9に示すような比例電磁弁14の基準特性F0(設計値)が記憶され、この特性上の3点、すなわちポンプ最小傾転θminに対応する駆動電流(基準制御信号iAmin)、ポンプ最大傾転θmaxに対応する駆動電流(基準制御信号iAmax)、およびθminとθmaxの中間である中間傾転θmeaに対応する駆動電流(基準制御信号iAmea)が基準値として記憶されている。また、θmin,θmea,θmaxにそれぞれ対応する設計上の二次圧(基準制御圧)Pmin,Pmea,Pmaxも基準値として記憶されている。
【0028】
図8の処理は、モードスイッチ28の操作により学習モードが選択されると開始される。ステップS11では、温度センサ27により検出された作動油温度Tが所定範囲内(50〜60℃)にあるか否かを判定する。ステップS12では、回転数センサ21により検出されたエンジン回転数Nが定格回転数Naであるか否かを判定する。ステップS11,ステップS12は、実際の作業条件に合わせて学習制御を行うための処理であり、ステップS11,ステップS12がともに肯定されるとステップS13に進み、いずれかが否定されるとステップS11に戻る。
【0029】
ステップS13では、リミットスイッチ29からの信号によりゲートロックレバーがロック操作されているか否かを判定する。これは、学習制御の際に機械が誤作動しないようにするための処理であり、方向制御弁4へのパイロット圧の供給が断たれた状態でのみ学習制御を行うようにする。ステップS13が肯定されるとステップS14に進み、否定されるとステップS11に戻る。
【0030】
ステップS14では、図9の基準特性F0によりポンプ最小傾転θminもしくはその近傍の傾転θに対応した駆動電流i11(例えばiAmin)を演算し、この駆動電流i11を比例電磁弁14に出力する。ステップS15では、二次圧データが安定するまで所定時間(例えば5秒)をカウントし、所定時間の経過後に二次圧Paを読み込み、実測二次圧P11としてメモリに記憶する。
【0031】
ステップS16では、図9の基準特性F0によりポンプ最大傾転θmaxもしくはその近傍の傾転θに対応した駆動電流i12(例えばiAmax)を演算し、この駆動電流i12を比例電磁弁14に出力する。ステップS17では、二次圧データが安定するまで所定時間(例えば5秒)をカウントし、所定時間の経過後に二次圧Paを読み込み、実測二次圧P12としてメモリに記憶する。
【0032】
ステップS18では、図9の基準特性F0により中間傾転θmeaもしくはその近傍の傾転θに対応した駆動電流i13(例えばiAmea)を演算し、この駆動電流i13を比例電磁弁14に出力する。ステップS19では、二次圧データが安定するまで所定時間(例えば5秒)をカウントし、所定時間の経過後に二次圧Paを読み込み、実測二次圧P13としてメモリに記憶する。以上により求めた二次圧データP11,P12,P13を図10に示すように直線で結ぶことにより、二次圧と制御信号(電流)との関係が得られる。
【0033】
ステップS20では、図10の関係を用いて、予め定めた基準制御圧Pmin,Pmea,Pmaxに対応する駆動電流imin,imea,imaxをそれぞれ次式(I)により演算する。
imin=i11−(P11−Pmin)×(i13−i11)/(P13−P11)
imea=i13−(P13−Pmea)×(i13−i11)/(P13−P11);P13>Pmeaのとき
imea=i13+(Pmea−P13)×(i12−i13)/(P12−P13);P13<Pmeaのとき)
imax=i12+(Pmax−P12)×(i12−i13)/(P12−P13) ・・・(I)
【0034】
ここで求めたimin,imea,imaxは、それぞれ比例電磁弁14の最小傾転θmin,中間傾転θmea,最大傾転θmaxに対応する駆動電流を意味する。すなわち比例電磁弁14に電流imin,imea,imaxを出力すると、二次圧はそれぞれPmin,Pmea,Pmaxとなり、実ポンプ傾転はそれぞれθmin,θmea,θmaxとなる。
【0035】
ステップS21では、駆動電流imin,imea,imaxから予め定めた駆動電流iAmin,iAmea,iAmaxをそれぞれ減算して電流補正値Δimin,Δimea,Δimaxを演算し、メモリに記憶する。これにより図11に示すように比例電磁弁14に固有の補正特性f1が求められ、この特性がコントローラ20のメモリに記憶される。以上により学習制御を終了する。なお、学習制御の終了時に例えば運転席のランプなどを点灯させ、学習制御が終了した旨を作業員に報知するようにしてもよい。
【0036】
(3)通常制御
図12は、コントローラ内における通常制御の処理を示すブロック図である。学習制御の終了後、モードスイッチ28の操作により通常モードが選択されると、通常制御が開始される。回転数センサ21からの信号はトルク演算回路31に入力される。トルク演算回路31には、予め図示のようにエンジン回転数Nと出力トルクTrとの関係が記憶されている。トルク演算回路31では、この関係に基づきエンジン回転数Nに対応した出力トルクTrを演算し、容量演算回路32に出力する。
【0037】
容量演算回路32には、圧力センサ23により検出されたポンプ吐出圧Ppが入力される。容量演算回路32には、ポンプ吸収トルクがエンジン出力トルクTrを超えないようにするため、予め図示のようにエンジン出力トルクTrが一定の馬力特性が設定されている。容量演算回路32では、この特性に基づきポンプ吐出圧Ppに対応した目標ポンプ傾転θ1を演算する。
【0038】
容量演算回路33には、圧力センサ22により検出されたポジコン圧Pnが入力される。容量演算回路33には、予め図示のように操作レバー6の操作によるポジコン圧Pnと目標ポンプ傾転θ2との関係、すなわちポジコン圧Pnの増加に伴い目標ポンプ傾転θ2が増加するような関係が記憶されている。容量演算回路33では、この特性に基づきポジコン圧Pnに対応した目標ポンプ傾転θ2を演算する。
【0039】
容量演算回路32,33により演算された目標ポンプ傾転θ1,θ2はそれぞれ選択回路34に入力される。選択回路34では、目標ポンプ傾転θ1,θ2のうちいずれか小さい方の値を目標ポンプ傾転θとして選択し、目標ポンプ傾転θを指令圧演算回路35に出力する。
【0040】
指令圧演算回路35には、予め図示のような指令圧P0の基準特性、すなわち目標ポンプ傾転θが増加するほど指令圧P0が増加するような特性が記憶されている。指令圧演算回路35では、この特性に基づき目標ポンプ傾転θに対応した目標指令圧P0(二次圧Paの指令値)を演算する。
【0041】
ドレン圧演算回路36には、圧力センサ23により検出されたポンプ吐出圧Ppが入力される。ドレン圧演算回路36には、予め自動調整制御により求めたポンプ吐出圧Ppとドレン圧Pdとの関係(図3)が記憶されている。ドレン圧演算回路36では、この特性に基づきポンプ吐出圧Ppに対応したドレン圧Pdを演算する。加算回路37では、目標指令圧P0にドレン圧Pdを加算し、目標指令圧P0を補正する。
【0042】
フィードバック制御回路40では、目標指令圧P0をフィードバック制御して指令圧Pxを出力する。すなわち減算回路41で、目標指令圧P0から圧力センサ24で検出した二次圧Paを減算し、圧力偏差ΔP(=P0−Pa)を演算する。ゲイン回路42で、この偏差ΔPにフィードバックゲインKを乗じ、偏差ΔPKを演算する。加算回路43で、目標指令圧P0に偏差ΔPKを加算し、指令圧Pxを出力する。これによりフィードバック制御回路40は、圧力センサ24で検出した二次圧Paが目標指令圧P0と等しくなるようにフィードバック指令圧Pxを出力する。
【0043】
指令圧Pxは、基準演算回路44と補正演算回路45にそれぞれ出力される。基準演算回路44には予め図示のような比例電磁弁14の指令圧Pxと駆動電流I0との関係(設計値)が記憶されている。基準演算回路44は、この駆動電流の基準特性f0に基づき指令圧Pxに対応した目標駆動電流I0を演算する。
【0044】
補正演算回路45には、予め学習モードにおいて定めた指令圧Pxと補正電流ΔI0との関係(図11)が記憶されている。補正演算回路45は、この駆動電流の補正特性に基づき指令圧Pxに対応した補正電流ΔI0を演算する。加算回路46は、目標駆動電流I0と補正電流ΔI0を加算して補正後の目標駆動電流Iを演算し、比例電磁弁14に出力する。以上の通常制御の処理は作業時に繰り返し行われる。
【0045】
本実施の形態に係る動作をまとめると次のようになる。まず、学習モードにおいて、コントローラ20で図8の処理を行い、比例電磁弁14に固有の補正特性f1を求める。この場合、モードスイッチ28を学習モードに切り換え操作し、かつ、作動油温Tを所定範囲内に保ち、かつ、エンジン回転数Nを定格回転数Naに制御し、かつ、ゲートロックレバーをロック操作する(ステップS11〜ステップS13)。
【0046】
以上の条件が成立すると、コントローラ20は比例電磁弁14に所定の駆動電流i11,i12,i13を出力するとともに、二次圧P11,P12,P13を検出し、二次圧Paと電流iとの関係(図10)を求める。この関係から基準制御圧Pmin,Pmea,Pmaxに対応した駆動電流imin,imea,imaxを演算する(ステップS20)。この駆動電流imin,imea,imaxから基準の駆動電流iAmin,iAmea,iAmaxをそれぞれ減算し、電流補正値Δimin,Δimea,Δimaxをメモリに記憶する(ステップS21)。
【0047】
次に、図5に示す自動調整の処理を行い、ドレン圧特性(図3)を求める。この場合、ドレン圧検出用の圧力センサ25をコントローラ20に接続するとともに、指令スイッチ27を操作し、かつ、作動油温Tを所定範囲内に保ち、かつ、エンジン回転数Nを定格回転数Naに制御し、かつ、ブームBMを上げ操作し、メインポンプ2の吐出圧をリリーフさせる(ステップS1〜ステップS4)。
【0048】
以上の条件が成立すると、コントローラ20はドレン圧Pdとポンプ吐出圧Ppを検出し、メモリに記憶する(ステップS6,ステップS8)。その後、作業員はコントローラ20から圧力センサ25を取り外す。なお、学習制御と自動調整は、通常制御で用いる補正特性とドレン圧特性を設定するために行うものであり、通常、工場出荷時にメーカによって行われる。
【0049】
通常の作業時には、モードスイッチ28を通常モードに切り換え操作する。通常モードでは、コントローラ20は圧力センサ24で検出した二次圧Paが操作レバー6の操作量に応じた目標指令圧P0と等しくなるように比例電磁弁14に目標駆動電流Iを出力する。すなわち、圧力センサ24で検出した二次圧Paが目標指令圧P0と等しくなるようにフィードバック制御により指令圧Pxを出力するとともに、この指令圧Pxに対応した目標駆動電流I0を、学習モードによって定めた補正電流ΔI0の特性f1により補正し、補正後の目標駆動電流I(=I0+ΔI0)を比例電磁弁14に出力する。
【0050】
この際、コントローラ20はドレン圧特性に基づきドレン圧Pdを演算し、目標指令圧P0にドレン圧Pdを加算して目標指令圧P0を補正する。このため、油圧切換弁13に作用する二次圧Paが背圧相当分のドレン圧Pdの分だけ増加することとなり、油圧切換弁13に作用するケーシング圧(ドレン圧Pd)がキャンセルされる。その結果、図4に示す基準特性aに沿ってポンプ吐出量Qを変化させることができ、所望のポンプ吐出量Qが得られる。
【0051】
この場合のメインポンプ2の吐出圧Pと吐出量Qの関係を図13に示す。図の特性aは、ドレン圧Pdが0のときのPQ特性(基準特性)であり、さらに、ドレン圧PdがPd1で、指令圧P0をドレン圧Pd1で補正した場合のPQ特性である。特性bは、ドレン圧PdがPd1で、指令圧P0を補正しない場合のPQ特性である。
【0052】
指令圧P0を補正しない場合には、油圧切換弁13に作用する二次圧Paがドレン圧Pdの分だけ不足する。このため、実ポンプ傾転は目標ポンプ傾転θとならず、ポンプ吐出量Qはドレン圧Pdが0のとき、すなわち目標値よりもΔQだけ減少する。一方、本実施の形態のように指令圧P0を補正する場合には、油圧切換弁13にドレン圧Pdを上乗せした二次圧Paが作用する。このため、実ポンプ傾転は目標ポンプ傾転θとなり、ポンプ吐出量Qを精度よく目標値に制御できる。
【0053】
本実施の形態によれば、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)ドレン圧演算部36に設定したドレン圧特性によりドレン圧Pdを演算し、目標ポンプ傾転θに対応した指令圧P0をドレン圧Pdの分だけ加算して出力するようにした。これにより油圧切換弁13にケーシング圧(ドレン圧Pd)が作用することによる油圧切換弁13の切換量の低下が抑えられ、ポンプ傾転を精度良く目標ポンプ傾転θに制御できる。
(2)自動調節の際にドレン圧検出用の油圧センサ25を取り付けてドレン圧Pdを検出した後、通常制御においてはドレン圧特性によりドレン圧Pdを演算するので、工場出荷後の作業機に油圧センサ25を設ける必要がなく、コストを抑えることができる。
(3)メインポンプ2からの圧油ではなく、サブポンプ3からの低圧のパイロット圧を比例電磁弁14で減圧して油圧切換弁13に付与し、油圧切換弁13を切り換えるようにした。これにより比例電磁弁14と油圧切換弁13の耐圧性をそれほど高める必要がなく、安価に構成できる。
(4)作動油温Tが所定範囲内、かつ、エンジン回転数Nが定格回転数Na、かつ、ブーム上げリリーフの状態のときに、自動調整を行うようにした。すなわち実際の作業条件に合わせて自動調整を行うようにしたので、ドレン圧特性を精度よく求めることができる。
【0054】
(5)学習制御において、圧力センサ24の検出値Paを用いてポンプ傾転制御用の補正特性f1を求め、通常制御において、圧力センサ24の検出値Paを用いてフィードバック制御により駆動電流Iを補正するとともに、補正特性f1に基づき駆動電流Iを補正するようにした。これにより傾転角センサを用いることなく傾転制御を行うので、傾転制御装置を安価に構成することができる。また、圧力センサ24は傾転角センサに比べて温度特性がよいので、高温条件下で作業した場合であってもポンプ傾転を精度良く補正することができる。
(6)指令圧Pxをフィードバック制御により出力して駆動電流Iを補正するので、操作レバー6の操作により目標ポンプ傾転θが変化した場合に、実ポンプ傾転を応答性よく目標ポンプ傾転θに制御できる。
(7)予め定めた比例電磁弁14の固有の補正特性f1に基づき傾転制御するので、個々の製品間の動的特性のばらつきが少なく、均一の動作特性が得られる。
(8)補正特性f1を求めるために基準制御圧を3点(Pmin,Pmea,Pmax)設定するので、補正特性f1が比例電磁弁14の特性に良好に対応し、駆動電流Iを精度良く補正することができる。
【0055】
以上では、通常制御時にコントローラ20からドレン圧検出用の圧力センサ25を取り外し、ドレン圧Pdを演算によって求めるようにしたが、通常制御時において、圧力センサ25によりドレン圧Pdを直接検出するようにしてもよい。すなわちドレン圧特性を求めるための自動調整の処理を省略してもよい。その場合のコントローラ20における処理の一例を図14に示す。
【0056】
図14では、ドレン圧演算部36は設けられておらず、加算回路37に圧力センサ25により検出されたドレン圧Pdが入力される。これによりポンプ吐出圧Ppとドレン圧Pdの関係が図3の特性からずれている場合であっても、指令圧P0をドレン圧Pdによって精度よく補正することができ、ポンプ傾転を精度よく制御することができる。このような構成では、自動調整が不要であるため、即座に指令圧P0を補正することができる。
【0057】
なお、上記実施の形態では、比例電磁弁14からの二次圧Paにより油圧切換弁13を切り換えてピストン12への制御圧を発生するようにしたが、二次圧Paに対抗した背圧が作用するように構成されているのであれば、制御圧を発生する弁手段としての油圧切換弁13はいかなるものでもよい。油圧切換弁13の切換に応じて傾転制御用ピストン12を駆動することで、ポンプ傾転(ポンプ容量)を変更するようにしたが、容量変更手段はこれに限らない。サブポンプ3からの圧油を比例電磁弁14で減圧して油圧切換弁13に二次圧Pa(指令圧P0)を出力するようにしたが、指令圧出力手段はこれに限らない。例えばメインポンプ2からの圧油により弁手段を切り換えるようにしてもよい。
【0058】
吐出圧検出手段としての圧力センサ23によりポンプ吐出圧Ppを検出するとともに、記憶手段としてのメモリに予めポンプ吐出圧Ppとドレン圧Pdとの関係を記憶し、この関係に基づいて、ポンプ吐出圧Ppに対応したドレン圧Pdをドレン圧演算回路36(背圧演算手段)により演算するようにしたが、背圧取得手段はこれに限らない。図14に示したように背圧検出手段としての圧力センサ25によりドレン圧Pdを検出し、背圧を取得するようにしてもよい。油圧切換弁13に作用する背圧に応じて指令圧P0を補正するのであれば、補正手段としてのコントローラ20の構成はいかなるものでもよい。
【0059】
操作レバー6の操作によりポジコン圧Pnを発生させて目標ポンプ傾転を入力するようにしたが、他の入力手段を用いてもよい。サブポンプ3からのパイロット圧を比例電磁弁14で減圧するようにしたが、減圧手段はこれに限らない。指令圧検出手段としての圧力センサ24により二次圧Pa(指令圧)を検出するとともに、検出された二次圧Paが補正後の指令圧P0となるように比例電磁弁14を制御するようにしたが、制御手段としてのコントローラ20の構成はいかなるものでもよい。
【0060】
以上では、傾転制御装置を油圧ショベルに適用する例を説明したが、可変容量型のポンプを有する他の油圧作業機にも本発明を同様に適用可能である。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の油圧作業機のポンプ傾転制御装置に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施の形態に係るポンプ傾転制御装置が適用される油圧ショベルの外観側面図。
【図2】本実施の形態に係るポンプ傾転制御装置の構成を示す図。
【図3】油圧ポンプの吐出圧とドレン圧との関係を示す図。
【図4】油圧切換弁のパイロットポートに作用する二次圧とポンプ吐出量との関係を示す図。
【図5】コントローラでの自動調整の処理の一例を示すフローチャート。
【図6】比例電磁弁に作用する駆動電流と二次圧の関係を示す図。
【図7】二次圧とポンプ傾転との関係を示す図。
【図8】コントローラでの学習制御の一例を示すフローチャート。
【図9】学習制御における目標傾転と電流の関係を示す図。
【図10】学習制御における二次圧と電流の関係を示す図。
【図11】比例電磁弁の補正特性を示す図。
【図12】コントローラでの通常制御の一例を示すブロック図。
【図13】本実施の形態の動作を表すPQ線図。
【図14】図12の変形例を示す図。
【符号の説明】
【0062】
2 メインポンプ
3 サブポンプ
6 操作レバー
12 傾転制御用ピストン
14 比例電磁弁
20 コントローラ
23〜25 圧力センサ
36 ドレン圧演算回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の油圧作業機のポンプ傾転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、操作レバーの操作量に応じた傾転制御信号によりポンプ傾転を制御するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、操作レバーの操作量に応じた傾転制御信号を出力して比例電磁弁を駆動し、この比例電磁弁の駆動によって切換弁に作用するパイロット圧を調整し、切換弁の駆動によりポンプ傾転を目標ポンプ傾転に制御するようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−302755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、切換弁にパイロット圧に対抗したケーシング内の圧力が作用する。このため、ケーシング内の圧力が上昇した場合には、指令値通りに切換弁が駆動されず、ポンプ傾転を精度よく目標ポンプ傾転に制御できないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による油圧作業機のポンプ傾転制御装置は、油圧アクチュエータに駆動圧を供給する可変容量型の油圧ポンプと、ポンプ傾転制御用の制御圧を発生する弁手段と、弁手段の駆動に応じて油圧ポンプのポンプ容量を変更する容量変更手段と、弁手段を駆動するための指令圧を出力する指令圧出力手段と、指令圧に対抗して弁手段に作用する背圧を取得する背圧取得手段と、背圧取得手段により取得した背圧に応じて指令圧を補正する補正手段とを備えることを特徴とする。
指令圧出力手段は、パイロット圧発生用のパイロット油圧ポンプと、目標ポンプ傾転を入力する入力手段と、目標ポンプ傾転に応じてパイロット油圧ポンプからのパイロット圧を減圧する減圧手段とにより構成することができる。
背圧取得手段が、油圧ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出手段と、予めポンプ吐出圧と背圧との関係を記憶する記憶手段と、吐出圧検出手段により検出された吐出圧と記憶されたポンプ吐出圧と背圧との関係に基づき、背圧を演算する背圧演算手段とを備えることもできる。
背圧取得手段が、背圧を検出する背圧検出手段を有するものとしてもよい。
弁手段に作用する指令圧を検出する指令圧検出手段と、指令圧検出手段により検出された指令圧が補正手段により補正された指令圧となるように指令圧出力手段を制御する制御手段とをさらに有するものとしてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポンプ傾転制御用の弁手段への指令圧に対抗して作用する背圧に応じて指令圧を補正するようにしたので、背圧の影響を考慮してポンプ傾転を精度よく目標ポンプ傾転に制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図1〜図14を参照して本発明による油圧作業機のポンプ傾転制御装置の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係るポンプ傾転制御装置が適用される油圧作業機の一例である油圧ショベルの外観側面図である。油圧ショベルは、走行体101と、旋回可能な旋回体102と、旋回体102に回動可能に軸支されたブームBM,アームAM,バケットBKからなる作業装置103とを有する。ブームBM,アームAM,バケットBKは、それぞれブームシリンダ103a、アームシリンダ103b、バケットシリンダ103cにより駆動される。
【0008】
図2(a)は、本実施の形態に係るポンプ傾転制御装置の構成を示す図である。エンジン1の出力軸には可変容量型のメインポンプ2とサブポンプ3の入力軸が連結され、エンジン1の駆動によりこれら油圧ポンプ2,3から圧油が吐出される。メインポンプ2からの圧油は、方向制御弁4を介して油圧シリンダ(ブームシリンダなど)や油圧モータ(旋回モータなど)等の油圧アクチュエータ5に供給される。
【0009】
方向制御弁4にはパイロット弁7を介してサブポンプ3からのパイロット圧が供給される。パイロット弁7は操作レバー6の操作により駆動され、操作レバー6の操作量に応じて油圧アクチュエータ5への圧油の流れが制御される。なお、図示は省略するが、メインポンプ2とコントロールバルブ4の間には、ポンプ吐出圧の上限をリリーフ圧Prに制限するリリーフ弁が設けられている。
【0010】
パイロット弁7とサブポンプ3との間にはロックバルブ9が設けられている。ロックバルブ9は、運転席の入口に設けられたゲートロックレバー(不図示)のロック操作によりロック位置に切り換わり、アンロック操作によりアンロック位置に切り換わる。ロックバルブ9がロック位置に切り換わると、パイロット弁7への圧油の流れが禁止される。この状態では、操作レバー6の操作に拘わらず方向制御弁4へパイロット圧は供給されず、方向制御弁4は中立位置に保持され、油圧アクチュエータ5への圧油の流れが阻止される。ロックバルブ9がアンロック位置に切り換わると、パイロット弁7への圧油の流れが許容される。
【0011】
メインポンプ2の傾転はポンプレギュレータにより変更される。ポンプレギュレータは傾転制御用ピストン12と油圧切換弁13と比例電磁弁14とを備える。傾転制御用ピストン12の小径側油室12aにはメインポンプ2の吐出圧Ppが作用し、大径側油室12bには油圧切換弁13を介してメインポンプ2とサブポンプ3の吐出圧が作用する。各油室12a,12bに作用する油圧力に応じてピストン12が駆動され、メインポンプ2の傾転が変更される。
【0012】
油圧切換弁13には、比例電磁弁14を介したサブポンプ3からのパイロット圧(二次圧Pa)が作用し、二次圧Paに応じて油圧切換弁13が切り換わる。すなわち比例電磁弁14の二次圧Paが増加すると油圧切換弁13は位置イ側に切り換わる。これにより油室12bに作用する油圧力が増加し、ポンプ傾転が増加する。一方、二次圧Paが減少すると油圧切換弁13は位置ロ側に切り換わる。これにより油室12bに作用する油圧力が減少し、ポンプ傾転が減少する。このようにポンプ傾転が増減すると、ポンプ吐出量は最小流量Qmin〜最大流量Qmaxの間で変化する。
【0013】
メインポンプ2とレギュレータはポンプブロック10により一体に構成され、ブロック10の内部はポンプ2からの漏れ油で満たされている。このため図2(b)に示すように油圧切換弁13のスプールには二次圧Paに対抗してブロック内の圧力(ケーシング圧Pb)が背圧となって作用する。なお、ポンプブロック内の油はドレンポート、フィルタを介してタンクに排出されるため、このドレンポート〜タンクへの排出経路の圧力損失(圧損)や作動油の粘度の影響によってドレンポート圧(ドレン圧Pd)が増加するとケーシング圧Pd(ポンプブロック内の内部圧力)も増加する。以下、ケーシング圧Pbとドレン圧Pdが同等なものとして説明する。
【0014】
図3は、ポンプ吐出圧Ppとドレン圧Pdとの関係を示す図である。図3に示すようにポンプ吐出圧Ppが増加するとメインポンプ2からの油の漏れ量が増加し、ドレン圧Pdが比例的に増加する。ポンプ吐出圧Ppが最大Pp1(リリーフ圧Pr)のとき、ドレン圧も最大Pd1となる。
【0015】
図4は、二次圧Paとポンプ吐出量Qとの関係である傾転制御特性を示す図である。図の特性aは、ドレン圧Pdが0のときの基準特性であり、特性bはドレン圧Pdが最大Pd1のときの特性である。特性aに示すように、ドレン圧Pdが0の場合には、二次圧が所定値Pa1でポンプ吐出量はQ1となる。
【0016】
一方、特性bに示すように、ドレン圧PdがPd1の場合には、ケーシング圧(ドレン圧Pd1)が二次圧Paの抗力として作用するため、油圧切換弁13に作用する二次圧Paは実質ドレン圧Pd1の分だけ減少する。このため、傾転制御特性は右側にシフトし、ポンプ吐出量はQ1よりも少くなる。このようにドレン圧Pdが上昇した場合に基準特性aに基づいて比例電磁弁14を制御したのでは、所望のポンプ吐出量Qが得られないおそれがある。とくに油圧切換弁13は、メインポンプ2よりも低圧のサブポンプ3からのパイロット圧により切り換えるので、ケーシング圧による影響が大きい。そこで、本実施の形態では、以下に述べるように予め図3に示すようなポンプ吐出圧Ppとドレン圧Pdとの関係(ドレン圧特性)を定め、この関係に基づきポンプ傾転を制御する。
【0017】
ドレン圧特性は次のようにして求める。まず、ドレン圧Pdを検出するための圧力センサ25をポンプブロック10のドレンポートに取り付けて、信号線をコントローラ20に接続する。次いで、作動油の温度Tが所定範囲内になるまで油圧作業機をウォーミングアップさせる。すなわち、油温Tによって油の粘性が変化し、ドレン圧Pdが影響を受ける点を考慮して、油温Tが通常作業時の油温(例えば50〜60℃)になるまで油圧作業機をウォーミングアップさせる。また、ポンプ吐出量Qはエンジン回転数Nが大きいほど増加するため、エンジン回転数Nを定格回転数Naに設定する。
【0018】
さらに、ブーム起伏用の操作レバー6を上げ操作してブームBMを最大に起立させ、リリーフ弁からメインポンプ2の吐出油をリリーフさせる。すなわちドレン圧Pdの最大値を取得する。この状態で、ポンプ吐出圧Pp(=Pp1)とドレン圧Pd(=Pd1)をそれぞれ圧力センサ23,25で検出し、これと原点とを結んだ直線をドレン圧特性とする。
【0019】
図2に示すコントローラ20は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ20には、エンジン1の回転数Nを検出する回転数センサ21と、操作レバー6の操作量に応じた操作圧Pn(ポジコン圧)を検出する圧力センサ22と、メインポンプ2の吐出圧Ppを検出する圧力センサ23と、比例電磁弁14に作用する二次圧Paを検出する圧力センサ24と、ドレン圧Pdを検出する圧力センサ25と、作動油温度Tを検出する温度センサ26と、ドレン圧特性を自動で算出するための処理(自動調整)を指令する指令スイッチ27と、学習モードと通常モードのいずれかを選択するモードスイッチ28と、ゲートロックレバーのロック操作を検出するリミットスイッチ29が接続されている。コントローラ20は、これらセンサ21〜26とスイッチ27〜29からの信号に基づき以下のような処理を実行する。
【0020】
(1)自動調整
図5は、コントローラ20で実行される自動調整の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、指令スイッチ27がオン操作されると開始される。なお、自動調整を行う場合には、予めコントローラ20にドレン圧力センサ25を接続する。ドレン圧力センサ25は自動調整が終了すると、取り外される。
【0021】
ステップS1では、温度センサ26により検出された作動油温度Tが所定範囲内(50〜60℃)にあるか否かを判定する。ステップS2では、回転数センサ21により検出されたエンジン回転数Nが定格回転数Naであるか否かを判定する。ステップS3では、圧力センサ22によりブームBMの上げ操作が検出されたか否かを判定する。ステップS4ではメインポンプの吐出圧がリリーフ圧以上になっているか否かを判定する。ステップS1〜ステップS4の全てが肯定されるとステップS5に進み、いずれか1つでも否定されるとステップS10に進む。
【0022】
ステップS5では、ドレン圧検出用の圧力センサ25の検出値Pdが正常範囲内にあるか否かを判定する。ステップS5が肯定されるとステップS6に進み、圧力センサ25の検出値Pd(=Pd1)を読み取り、メモリに記憶する。ステップS7では、ポンプ吐出圧検出用の圧力センサ23の検出値Ppが正常範囲内にあるか否かを判定する。ステップS7が肯定されるとステップS8に進み、圧力センサ23の検出値Pp(=Pp1)を読み取り、メモリに記憶する。
【0023】
次いで、ステップS9で、例えば表示モニタに信号を出力し、自動調整が正常終了した旨を作業員に報知する。ステップS1〜ステップS5またはステップS7のいずれかが否定されるとステップS10に進み、自動調整が異常終了した旨を作業員に報知する。以上の処理により図3のドレン圧特性が得られる。このドレン圧特性は図12のドレン圧演算回路36に記憶され、後述するようにポンプ傾転が制御される。
【0024】
本実施の形態では、比例電磁弁14の個体差による特性のばらつきを考慮したポンプ傾転制御を併せて行う。以下、この点について説明する。図6は、比例電磁弁14の入出力特性の一例を示す図であり、図7は、二次圧Paとポンプ傾転θの関係を示す図である。
【0025】
図6において、特性A0は基準特性であり、比例電磁弁14への駆動電流iの増加に伴い、二次圧Paは増加する。このような比例電磁弁14の特性には個体差があるため、基準特性A0に対して許容公差±Δα内で特性がばらつき、実際の特性Aは基準特性A0に対してずれる。このため、例えば二次圧Pa1を発生させようとして基準特性A0に基づき比例電磁弁14に駆動電流i1を出力すると実際の二次圧はPa1’となり、目標値Pa1と乖離する。
【0026】
その結果、図7に示すように実際のポンプ傾転θ1’が目標ポンプ傾転θ1から乖離し、操作レバー6の操作に応じた良好な作業を行うことができなくなる。この点を考慮し、本実施の形態では、予め比例電磁弁14のばらつきを考慮した補正特性を設定し(学習制御)、学習制御によって得られた補正特性に基づきポンプ傾転θを制御する(通常制御)。
【0027】
(2)学習制御
図8は、学習制御の処理の一例を示すフローチャートである。コントローラ10には予め図9に示すような比例電磁弁14の基準特性F0(設計値)が記憶され、この特性上の3点、すなわちポンプ最小傾転θminに対応する駆動電流(基準制御信号iAmin)、ポンプ最大傾転θmaxに対応する駆動電流(基準制御信号iAmax)、およびθminとθmaxの中間である中間傾転θmeaに対応する駆動電流(基準制御信号iAmea)が基準値として記憶されている。また、θmin,θmea,θmaxにそれぞれ対応する設計上の二次圧(基準制御圧)Pmin,Pmea,Pmaxも基準値として記憶されている。
【0028】
図8の処理は、モードスイッチ28の操作により学習モードが選択されると開始される。ステップS11では、温度センサ27により検出された作動油温度Tが所定範囲内(50〜60℃)にあるか否かを判定する。ステップS12では、回転数センサ21により検出されたエンジン回転数Nが定格回転数Naであるか否かを判定する。ステップS11,ステップS12は、実際の作業条件に合わせて学習制御を行うための処理であり、ステップS11,ステップS12がともに肯定されるとステップS13に進み、いずれかが否定されるとステップS11に戻る。
【0029】
ステップS13では、リミットスイッチ29からの信号によりゲートロックレバーがロック操作されているか否かを判定する。これは、学習制御の際に機械が誤作動しないようにするための処理であり、方向制御弁4へのパイロット圧の供給が断たれた状態でのみ学習制御を行うようにする。ステップS13が肯定されるとステップS14に進み、否定されるとステップS11に戻る。
【0030】
ステップS14では、図9の基準特性F0によりポンプ最小傾転θminもしくはその近傍の傾転θに対応した駆動電流i11(例えばiAmin)を演算し、この駆動電流i11を比例電磁弁14に出力する。ステップS15では、二次圧データが安定するまで所定時間(例えば5秒)をカウントし、所定時間の経過後に二次圧Paを読み込み、実測二次圧P11としてメモリに記憶する。
【0031】
ステップS16では、図9の基準特性F0によりポンプ最大傾転θmaxもしくはその近傍の傾転θに対応した駆動電流i12(例えばiAmax)を演算し、この駆動電流i12を比例電磁弁14に出力する。ステップS17では、二次圧データが安定するまで所定時間(例えば5秒)をカウントし、所定時間の経過後に二次圧Paを読み込み、実測二次圧P12としてメモリに記憶する。
【0032】
ステップS18では、図9の基準特性F0により中間傾転θmeaもしくはその近傍の傾転θに対応した駆動電流i13(例えばiAmea)を演算し、この駆動電流i13を比例電磁弁14に出力する。ステップS19では、二次圧データが安定するまで所定時間(例えば5秒)をカウントし、所定時間の経過後に二次圧Paを読み込み、実測二次圧P13としてメモリに記憶する。以上により求めた二次圧データP11,P12,P13を図10に示すように直線で結ぶことにより、二次圧と制御信号(電流)との関係が得られる。
【0033】
ステップS20では、図10の関係を用いて、予め定めた基準制御圧Pmin,Pmea,Pmaxに対応する駆動電流imin,imea,imaxをそれぞれ次式(I)により演算する。
imin=i11−(P11−Pmin)×(i13−i11)/(P13−P11)
imea=i13−(P13−Pmea)×(i13−i11)/(P13−P11);P13>Pmeaのとき
imea=i13+(Pmea−P13)×(i12−i13)/(P12−P13);P13<Pmeaのとき)
imax=i12+(Pmax−P12)×(i12−i13)/(P12−P13) ・・・(I)
【0034】
ここで求めたimin,imea,imaxは、それぞれ比例電磁弁14の最小傾転θmin,中間傾転θmea,最大傾転θmaxに対応する駆動電流を意味する。すなわち比例電磁弁14に電流imin,imea,imaxを出力すると、二次圧はそれぞれPmin,Pmea,Pmaxとなり、実ポンプ傾転はそれぞれθmin,θmea,θmaxとなる。
【0035】
ステップS21では、駆動電流imin,imea,imaxから予め定めた駆動電流iAmin,iAmea,iAmaxをそれぞれ減算して電流補正値Δimin,Δimea,Δimaxを演算し、メモリに記憶する。これにより図11に示すように比例電磁弁14に固有の補正特性f1が求められ、この特性がコントローラ20のメモリに記憶される。以上により学習制御を終了する。なお、学習制御の終了時に例えば運転席のランプなどを点灯させ、学習制御が終了した旨を作業員に報知するようにしてもよい。
【0036】
(3)通常制御
図12は、コントローラ内における通常制御の処理を示すブロック図である。学習制御の終了後、モードスイッチ28の操作により通常モードが選択されると、通常制御が開始される。回転数センサ21からの信号はトルク演算回路31に入力される。トルク演算回路31には、予め図示のようにエンジン回転数Nと出力トルクTrとの関係が記憶されている。トルク演算回路31では、この関係に基づきエンジン回転数Nに対応した出力トルクTrを演算し、容量演算回路32に出力する。
【0037】
容量演算回路32には、圧力センサ23により検出されたポンプ吐出圧Ppが入力される。容量演算回路32には、ポンプ吸収トルクがエンジン出力トルクTrを超えないようにするため、予め図示のようにエンジン出力トルクTrが一定の馬力特性が設定されている。容量演算回路32では、この特性に基づきポンプ吐出圧Ppに対応した目標ポンプ傾転θ1を演算する。
【0038】
容量演算回路33には、圧力センサ22により検出されたポジコン圧Pnが入力される。容量演算回路33には、予め図示のように操作レバー6の操作によるポジコン圧Pnと目標ポンプ傾転θ2との関係、すなわちポジコン圧Pnの増加に伴い目標ポンプ傾転θ2が増加するような関係が記憶されている。容量演算回路33では、この特性に基づきポジコン圧Pnに対応した目標ポンプ傾転θ2を演算する。
【0039】
容量演算回路32,33により演算された目標ポンプ傾転θ1,θ2はそれぞれ選択回路34に入力される。選択回路34では、目標ポンプ傾転θ1,θ2のうちいずれか小さい方の値を目標ポンプ傾転θとして選択し、目標ポンプ傾転θを指令圧演算回路35に出力する。
【0040】
指令圧演算回路35には、予め図示のような指令圧P0の基準特性、すなわち目標ポンプ傾転θが増加するほど指令圧P0が増加するような特性が記憶されている。指令圧演算回路35では、この特性に基づき目標ポンプ傾転θに対応した目標指令圧P0(二次圧Paの指令値)を演算する。
【0041】
ドレン圧演算回路36には、圧力センサ23により検出されたポンプ吐出圧Ppが入力される。ドレン圧演算回路36には、予め自動調整制御により求めたポンプ吐出圧Ppとドレン圧Pdとの関係(図3)が記憶されている。ドレン圧演算回路36では、この特性に基づきポンプ吐出圧Ppに対応したドレン圧Pdを演算する。加算回路37では、目標指令圧P0にドレン圧Pdを加算し、目標指令圧P0を補正する。
【0042】
フィードバック制御回路40では、目標指令圧P0をフィードバック制御して指令圧Pxを出力する。すなわち減算回路41で、目標指令圧P0から圧力センサ24で検出した二次圧Paを減算し、圧力偏差ΔP(=P0−Pa)を演算する。ゲイン回路42で、この偏差ΔPにフィードバックゲインKを乗じ、偏差ΔPKを演算する。加算回路43で、目標指令圧P0に偏差ΔPKを加算し、指令圧Pxを出力する。これによりフィードバック制御回路40は、圧力センサ24で検出した二次圧Paが目標指令圧P0と等しくなるようにフィードバック指令圧Pxを出力する。
【0043】
指令圧Pxは、基準演算回路44と補正演算回路45にそれぞれ出力される。基準演算回路44には予め図示のような比例電磁弁14の指令圧Pxと駆動電流I0との関係(設計値)が記憶されている。基準演算回路44は、この駆動電流の基準特性f0に基づき指令圧Pxに対応した目標駆動電流I0を演算する。
【0044】
補正演算回路45には、予め学習モードにおいて定めた指令圧Pxと補正電流ΔI0との関係(図11)が記憶されている。補正演算回路45は、この駆動電流の補正特性に基づき指令圧Pxに対応した補正電流ΔI0を演算する。加算回路46は、目標駆動電流I0と補正電流ΔI0を加算して補正後の目標駆動電流Iを演算し、比例電磁弁14に出力する。以上の通常制御の処理は作業時に繰り返し行われる。
【0045】
本実施の形態に係る動作をまとめると次のようになる。まず、学習モードにおいて、コントローラ20で図8の処理を行い、比例電磁弁14に固有の補正特性f1を求める。この場合、モードスイッチ28を学習モードに切り換え操作し、かつ、作動油温Tを所定範囲内に保ち、かつ、エンジン回転数Nを定格回転数Naに制御し、かつ、ゲートロックレバーをロック操作する(ステップS11〜ステップS13)。
【0046】
以上の条件が成立すると、コントローラ20は比例電磁弁14に所定の駆動電流i11,i12,i13を出力するとともに、二次圧P11,P12,P13を検出し、二次圧Paと電流iとの関係(図10)を求める。この関係から基準制御圧Pmin,Pmea,Pmaxに対応した駆動電流imin,imea,imaxを演算する(ステップS20)。この駆動電流imin,imea,imaxから基準の駆動電流iAmin,iAmea,iAmaxをそれぞれ減算し、電流補正値Δimin,Δimea,Δimaxをメモリに記憶する(ステップS21)。
【0047】
次に、図5に示す自動調整の処理を行い、ドレン圧特性(図3)を求める。この場合、ドレン圧検出用の圧力センサ25をコントローラ20に接続するとともに、指令スイッチ27を操作し、かつ、作動油温Tを所定範囲内に保ち、かつ、エンジン回転数Nを定格回転数Naに制御し、かつ、ブームBMを上げ操作し、メインポンプ2の吐出圧をリリーフさせる(ステップS1〜ステップS4)。
【0048】
以上の条件が成立すると、コントローラ20はドレン圧Pdとポンプ吐出圧Ppを検出し、メモリに記憶する(ステップS6,ステップS8)。その後、作業員はコントローラ20から圧力センサ25を取り外す。なお、学習制御と自動調整は、通常制御で用いる補正特性とドレン圧特性を設定するために行うものであり、通常、工場出荷時にメーカによって行われる。
【0049】
通常の作業時には、モードスイッチ28を通常モードに切り換え操作する。通常モードでは、コントローラ20は圧力センサ24で検出した二次圧Paが操作レバー6の操作量に応じた目標指令圧P0と等しくなるように比例電磁弁14に目標駆動電流Iを出力する。すなわち、圧力センサ24で検出した二次圧Paが目標指令圧P0と等しくなるようにフィードバック制御により指令圧Pxを出力するとともに、この指令圧Pxに対応した目標駆動電流I0を、学習モードによって定めた補正電流ΔI0の特性f1により補正し、補正後の目標駆動電流I(=I0+ΔI0)を比例電磁弁14に出力する。
【0050】
この際、コントローラ20はドレン圧特性に基づきドレン圧Pdを演算し、目標指令圧P0にドレン圧Pdを加算して目標指令圧P0を補正する。このため、油圧切換弁13に作用する二次圧Paが背圧相当分のドレン圧Pdの分だけ増加することとなり、油圧切換弁13に作用するケーシング圧(ドレン圧Pd)がキャンセルされる。その結果、図4に示す基準特性aに沿ってポンプ吐出量Qを変化させることができ、所望のポンプ吐出量Qが得られる。
【0051】
この場合のメインポンプ2の吐出圧Pと吐出量Qの関係を図13に示す。図の特性aは、ドレン圧Pdが0のときのPQ特性(基準特性)であり、さらに、ドレン圧PdがPd1で、指令圧P0をドレン圧Pd1で補正した場合のPQ特性である。特性bは、ドレン圧PdがPd1で、指令圧P0を補正しない場合のPQ特性である。
【0052】
指令圧P0を補正しない場合には、油圧切換弁13に作用する二次圧Paがドレン圧Pdの分だけ不足する。このため、実ポンプ傾転は目標ポンプ傾転θとならず、ポンプ吐出量Qはドレン圧Pdが0のとき、すなわち目標値よりもΔQだけ減少する。一方、本実施の形態のように指令圧P0を補正する場合には、油圧切換弁13にドレン圧Pdを上乗せした二次圧Paが作用する。このため、実ポンプ傾転は目標ポンプ傾転θとなり、ポンプ吐出量Qを精度よく目標値に制御できる。
【0053】
本実施の形態によれば、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)ドレン圧演算部36に設定したドレン圧特性によりドレン圧Pdを演算し、目標ポンプ傾転θに対応した指令圧P0をドレン圧Pdの分だけ加算して出力するようにした。これにより油圧切換弁13にケーシング圧(ドレン圧Pd)が作用することによる油圧切換弁13の切換量の低下が抑えられ、ポンプ傾転を精度良く目標ポンプ傾転θに制御できる。
(2)自動調節の際にドレン圧検出用の油圧センサ25を取り付けてドレン圧Pdを検出した後、通常制御においてはドレン圧特性によりドレン圧Pdを演算するので、工場出荷後の作業機に油圧センサ25を設ける必要がなく、コストを抑えることができる。
(3)メインポンプ2からの圧油ではなく、サブポンプ3からの低圧のパイロット圧を比例電磁弁14で減圧して油圧切換弁13に付与し、油圧切換弁13を切り換えるようにした。これにより比例電磁弁14と油圧切換弁13の耐圧性をそれほど高める必要がなく、安価に構成できる。
(4)作動油温Tが所定範囲内、かつ、エンジン回転数Nが定格回転数Na、かつ、ブーム上げリリーフの状態のときに、自動調整を行うようにした。すなわち実際の作業条件に合わせて自動調整を行うようにしたので、ドレン圧特性を精度よく求めることができる。
【0054】
(5)学習制御において、圧力センサ24の検出値Paを用いてポンプ傾転制御用の補正特性f1を求め、通常制御において、圧力センサ24の検出値Paを用いてフィードバック制御により駆動電流Iを補正するとともに、補正特性f1に基づき駆動電流Iを補正するようにした。これにより傾転角センサを用いることなく傾転制御を行うので、傾転制御装置を安価に構成することができる。また、圧力センサ24は傾転角センサに比べて温度特性がよいので、高温条件下で作業した場合であってもポンプ傾転を精度良く補正することができる。
(6)指令圧Pxをフィードバック制御により出力して駆動電流Iを補正するので、操作レバー6の操作により目標ポンプ傾転θが変化した場合に、実ポンプ傾転を応答性よく目標ポンプ傾転θに制御できる。
(7)予め定めた比例電磁弁14の固有の補正特性f1に基づき傾転制御するので、個々の製品間の動的特性のばらつきが少なく、均一の動作特性が得られる。
(8)補正特性f1を求めるために基準制御圧を3点(Pmin,Pmea,Pmax)設定するので、補正特性f1が比例電磁弁14の特性に良好に対応し、駆動電流Iを精度良く補正することができる。
【0055】
以上では、通常制御時にコントローラ20からドレン圧検出用の圧力センサ25を取り外し、ドレン圧Pdを演算によって求めるようにしたが、通常制御時において、圧力センサ25によりドレン圧Pdを直接検出するようにしてもよい。すなわちドレン圧特性を求めるための自動調整の処理を省略してもよい。その場合のコントローラ20における処理の一例を図14に示す。
【0056】
図14では、ドレン圧演算部36は設けられておらず、加算回路37に圧力センサ25により検出されたドレン圧Pdが入力される。これによりポンプ吐出圧Ppとドレン圧Pdの関係が図3の特性からずれている場合であっても、指令圧P0をドレン圧Pdによって精度よく補正することができ、ポンプ傾転を精度よく制御することができる。このような構成では、自動調整が不要であるため、即座に指令圧P0を補正することができる。
【0057】
なお、上記実施の形態では、比例電磁弁14からの二次圧Paにより油圧切換弁13を切り換えてピストン12への制御圧を発生するようにしたが、二次圧Paに対抗した背圧が作用するように構成されているのであれば、制御圧を発生する弁手段としての油圧切換弁13はいかなるものでもよい。油圧切換弁13の切換に応じて傾転制御用ピストン12を駆動することで、ポンプ傾転(ポンプ容量)を変更するようにしたが、容量変更手段はこれに限らない。サブポンプ3からの圧油を比例電磁弁14で減圧して油圧切換弁13に二次圧Pa(指令圧P0)を出力するようにしたが、指令圧出力手段はこれに限らない。例えばメインポンプ2からの圧油により弁手段を切り換えるようにしてもよい。
【0058】
吐出圧検出手段としての圧力センサ23によりポンプ吐出圧Ppを検出するとともに、記憶手段としてのメモリに予めポンプ吐出圧Ppとドレン圧Pdとの関係を記憶し、この関係に基づいて、ポンプ吐出圧Ppに対応したドレン圧Pdをドレン圧演算回路36(背圧演算手段)により演算するようにしたが、背圧取得手段はこれに限らない。図14に示したように背圧検出手段としての圧力センサ25によりドレン圧Pdを検出し、背圧を取得するようにしてもよい。油圧切換弁13に作用する背圧に応じて指令圧P0を補正するのであれば、補正手段としてのコントローラ20の構成はいかなるものでもよい。
【0059】
操作レバー6の操作によりポジコン圧Pnを発生させて目標ポンプ傾転を入力するようにしたが、他の入力手段を用いてもよい。サブポンプ3からのパイロット圧を比例電磁弁14で減圧するようにしたが、減圧手段はこれに限らない。指令圧検出手段としての圧力センサ24により二次圧Pa(指令圧)を検出するとともに、検出された二次圧Paが補正後の指令圧P0となるように比例電磁弁14を制御するようにしたが、制御手段としてのコントローラ20の構成はいかなるものでもよい。
【0060】
以上では、傾転制御装置を油圧ショベルに適用する例を説明したが、可変容量型のポンプを有する他の油圧作業機にも本発明を同様に適用可能である。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の油圧作業機のポンプ傾転制御装置に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施の形態に係るポンプ傾転制御装置が適用される油圧ショベルの外観側面図。
【図2】本実施の形態に係るポンプ傾転制御装置の構成を示す図。
【図3】油圧ポンプの吐出圧とドレン圧との関係を示す図。
【図4】油圧切換弁のパイロットポートに作用する二次圧とポンプ吐出量との関係を示す図。
【図5】コントローラでの自動調整の処理の一例を示すフローチャート。
【図6】比例電磁弁に作用する駆動電流と二次圧の関係を示す図。
【図7】二次圧とポンプ傾転との関係を示す図。
【図8】コントローラでの学習制御の一例を示すフローチャート。
【図9】学習制御における目標傾転と電流の関係を示す図。
【図10】学習制御における二次圧と電流の関係を示す図。
【図11】比例電磁弁の補正特性を示す図。
【図12】コントローラでの通常制御の一例を示すブロック図。
【図13】本実施の形態の動作を表すPQ線図。
【図14】図12の変形例を示す図。
【符号の説明】
【0062】
2 メインポンプ
3 サブポンプ
6 操作レバー
12 傾転制御用ピストン
14 比例電磁弁
20 コントローラ
23〜25 圧力センサ
36 ドレン圧演算回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧アクチュエータに駆動圧を供給する可変容量型の油圧ポンプと、
ポンプ傾転制御用の制御圧を発生する弁手段と、
前記弁手段の駆動に応じて前記油圧ポンプのポンプ容量を変更する容量変更手段と、
前記弁手段を駆動するための指令圧を出力する指令圧出力手段と、
前記指令圧に対抗して前記弁手段に作用する背圧を取得する背圧取得手段と、
前記背圧取得手段により取得した背圧に応じて前記指令圧を補正する補正手段とを備えることを特徴とする油圧作業機械のポンプ傾転制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧作業機のポンプ傾転制御装置において、
前記指令圧出力手段は、
パイロット圧発生用のパイロット油圧ポンプと、
目標ポンプ傾転を入力する入力手段と、
目標ポンプ傾転に応じて前記パイロット油圧ポンプからのパイロット圧を減圧する減圧手段とを有することを特徴とする油圧作業機のポンプ傾転制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の油圧作業機のポンプ傾転制御装置において、
前記背圧取得手段は、
前記油圧ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出手段と、
予めポンプ吐出圧と背圧との関係を記憶する記憶手段と、
前記吐出圧検出手段により検出された吐出圧と前記記憶されたポンプ吐出圧と背圧との関係に基づき、背圧を演算する背圧演算手段とを備えることを特徴とする油圧作業機のポンプ傾転制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の油圧作業機のポンプ傾転制御装置において、
前記背圧取得手段は、背圧を検出する背圧検出手段を有することを特徴とする油圧作業機のポンプ傾転制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の油圧作業機のポンプ傾転制御装置において、
前記弁手段に作用する指令圧を検出する指令圧検出手段と、
前記指令圧検出手段により検出された指令圧が前記補正手段により補正された指令圧となるように前記指令圧出力手段を制御する制御手段とをさらに有することを特徴とする油圧作業機のポンプ傾転制御装置。
【請求項1】
油圧アクチュエータに駆動圧を供給する可変容量型の油圧ポンプと、
ポンプ傾転制御用の制御圧を発生する弁手段と、
前記弁手段の駆動に応じて前記油圧ポンプのポンプ容量を変更する容量変更手段と、
前記弁手段を駆動するための指令圧を出力する指令圧出力手段と、
前記指令圧に対抗して前記弁手段に作用する背圧を取得する背圧取得手段と、
前記背圧取得手段により取得した背圧に応じて前記指令圧を補正する補正手段とを備えることを特徴とする油圧作業機械のポンプ傾転制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧作業機のポンプ傾転制御装置において、
前記指令圧出力手段は、
パイロット圧発生用のパイロット油圧ポンプと、
目標ポンプ傾転を入力する入力手段と、
目標ポンプ傾転に応じて前記パイロット油圧ポンプからのパイロット圧を減圧する減圧手段とを有することを特徴とする油圧作業機のポンプ傾転制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の油圧作業機のポンプ傾転制御装置において、
前記背圧取得手段は、
前記油圧ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出手段と、
予めポンプ吐出圧と背圧との関係を記憶する記憶手段と、
前記吐出圧検出手段により検出された吐出圧と前記記憶されたポンプ吐出圧と背圧との関係に基づき、背圧を演算する背圧演算手段とを備えることを特徴とする油圧作業機のポンプ傾転制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の油圧作業機のポンプ傾転制御装置において、
前記背圧取得手段は、背圧を検出する背圧検出手段を有することを特徴とする油圧作業機のポンプ傾転制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の油圧作業機のポンプ傾転制御装置において、
前記弁手段に作用する指令圧を検出する指令圧検出手段と、
前記指令圧検出手段により検出された指令圧が前記補正手段により補正された指令圧となるように前記指令圧出力手段を制御する制御手段とをさらに有することを特徴とする油圧作業機のポンプ傾転制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−191770(P2009−191770A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34341(P2008−34341)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
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