説明

油圧駆動装置

【課題】緊急用圧油の主油圧ポンプ方向への流れを阻止する逆止弁を、流量制御弁の形状を大きくすることなくこの流量制御弁内に配置することができる油圧駆動装置の提供。
【解決手段】主油圧ポンプ1と、この主油圧ポンプ1から吐出される圧油を、主管路2及び補助管路3の少なくとも一方に選択的に供給させると共に、主管路2に優先的に供給させるプライオリティバルブ4と、主管路2及び補助管路3への圧油供給機能低下時に緊急用圧油を主管路2に供給可能な緊急用油圧ポンプ27と、緊急用圧油の主油圧ポンプ1方向への流れを阻止する逆止弁33とを備え、プライオリティバルブ4のスプール6の内部に、主管路2に連通する通路46を形成し、この通路46上に位置するスプール6の内部を通るように逆止弁33を配置し、この逆止弁33の下流に位置する所定部位50に、緊急用油圧ポンプ27からの緊急用圧油を供給可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダ等の建設機械や産業用機械などに備えられ、主油圧ポンプの圧油を主管路及び補助管路の少なくとも一方に選択的に供給させると共に、主管路に優先的に供給させる流量制御弁を含む油圧駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術として、特許文献1に示されるものがある。この従来技術は、パワーステアリング機構に備えられ、主油圧ポンプと、この主油圧ポンプから吐出される圧油を、主管路及び補助管路の少なくとも一方に選択的に供給させると共に、主管路に優先的に供給させる流量制御弁と、上述の主管路の圧油が導かれ、ハンドルによって回転可能な可動弁部材を内蔵した操向制御弁と、この操向制御弁から供給される圧油によって作動し、タイヤの向きを制御する操向シリンダとを備えている。
【0003】
この従来技術は、ハンドル操作時には流量制御弁、主管路を介して操向シリンダに優先的に主油圧ポンプから吐出される圧油を供給し、余剰流量を補助管路を介して作業機を駆動するアクチュエータ側に供給し、ハンドル非操作時には流量制御弁を介して補助管路に主油圧ポンプから吐出される圧油を供給し、作業機の駆動を可能にさせるようになっている。
【0004】
ところで、上述したような技術において、主油圧ポンプを駆動するエンジンの故障とか、主油圧ポンプの故障が生じた場合などのように、主管路及び補助管路への圧油供給機能の低下時に、緊急用圧油を主管路に供給可能な緊急用油圧ポンプと、この緊急用油圧ポンプから吐出される緊急用圧油の主油圧ポンプ方向への流れを阻止する逆止弁とを備えたものが従来から知られている。
【0005】
上述した従来の逆止弁は、流量制御弁と操向制御弁との間に、これらの流量制御弁等とは別体の独立構造体として配置されており、上述した緊急用油圧ポンプからの緊急用圧油は、逆止弁の下流に与えられるようになっている。
【0006】
このように緊急用油圧ポンプを備えた従来技術では、エンジンや主油圧ポンプの故障などによって主管路及び補助管路への圧油供給機能が低下する事態を生じたときでも、緊急用油圧ポンプから吐出される緊急用圧油によって操向シリンダを駆動させることができ、安全性の点で優れている。
【特許文献1】特公平8−15867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように主油圧ポンプから吐出される圧油を、主管路及び補助管路の少なくとも一方に選択的に供給させると共に、主管路に優先的に供給させる流量制御弁いわゆるプライオリティバルブを備え、しかも緊急用油圧ポンプを備えた従来技術では、逆止弁に関係する不具合がある。
【0008】
すなわち、逆止弁が流量制御弁等とは別体の独立構造体となっており、この逆止弁の他にこの逆止弁を流量制御弁等の外部の所定個所に固定する固定具、及び逆止弁を流量制御弁等に接続する配管等が必要になり、これらによって全体の部品数が多くなる。また、逆止弁を所定個所に設置する設置作業、及び流量制御弁等に接続する配管作業が必要となる。これらのことから製作費が高くなりやすい。
【0009】
このような不具合を解決するために、逆止弁を流量制御弁を形成するハウジング内に、例えばハウジング内のスプールの近傍位置に配置することが考えられる。このように逆止弁をハウジング内に設置すれば、流量制御弁に逆止弁が含まれ、この逆止弁を流量制御弁等の外部の所定個所に固定する固定具や、逆止弁を流量制御弁等に接続する配管等が不要になって全体の部品数を少なくすることができる。また、逆止弁の設置作業、配管作業が不要となることから製作費を安くすることができる。
【0010】
しかし、このように逆止弁を単にハウジング内に設置する場合には、ハウジング内のスプールの外部に逆止弁を設置する領域を確保しなければならず、流量制御弁の形状が大きくなってしまう別の問題を生じる。この種の油圧駆動装置では一般に、油圧機器を含む各種機器の設置スペースに制限を受けており、上述した流量制御弁にあっても形状が大きくなることは、各種機器のレイアウトが制約されるという問題や流量制御弁の据付け作業の煩雑さを招くことになる。
【0011】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、緊急用圧油の主油圧ポンプ方向への流れを阻止する逆止弁を、流量制御弁の形状を大きくすることなくこの流量制御弁内に配置することができる油圧駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、主油圧ポンプと、この主油圧ポンプから吐出される圧油を、主管路及び補助管路の少なくとも一方に選択的に供給させると共に、上記主管路に優先的に供給させる流量制御弁と、上記主管路及び上記補助管路への圧油供給機能低下時に緊急用圧油を上記主管路に供給可能な緊急用油圧ポンプと、上記緊急用圧油の上記主油圧ポンプ方向への流れを阻止する逆止弁とを備えた油圧駆動装置において、上記流量制御弁のスプールの内部に、上記主管路に連通する通路を形成し、この通路上に位置する上記スプールの内部に上記逆止弁を配置し、この逆止弁の下流に位置する所定部位に、上記緊急用油圧ポンプから吐出される上記緊急用圧油を供給可能にしたことを特徴としている。
【0013】
このように構成した本発明は、流量制御弁のスプールの内部に逆止弁を設けるようにしたので、独立構造体としての逆止弁、この逆止弁を流量制御弁等の外部の所定個所に設置する固定具、及び逆止弁を流量制御弁等に接続する配管等が不要になり、これらによって全体の部品数を少なくすることができる。また、逆止弁を流量制御弁等の外部の所定個所に設置する設置作業、及び流量制御弁等に接続する配管作業を不要とすることができる。さらに、上述したように流量制御弁のスプールの内部に逆止弁を配置したことから、流量制御弁のスプールの外部に位置するこの流量制御弁のハウジング部分に、逆止弁を設置するための領域を要することがなく、この流量制御弁の形状を大きくしないで済む。
【0014】
また本発明は、上記発明において、上記所定部位を、上記流量制御弁の上記スプールを摺動自在に収納するハウジング内に設けたことを特徴としている。
【0015】
また本発明は、上記発明において、上記流量制御弁の上記スプールを摺動自在に収納するハウジングが、上記主油圧ポンプに接続されるポンプポートに連通する室を有し、上記スプールが、上記室に臨ませた小径部と、この小径部の一端に形成され、上記主管路に供給される圧油の流れを制御する主管路側制御エッジを有する第1大径部と、上記小径部の他端に形成され、上記補助管路に供給される圧油の流れを制御する補助管路側制御エッジを有する第2大径部とを備え、上記第1大径部の内部を通るように上記通路を設け、この通路の途中に上記逆止弁を配置したことを特徴としている。
【0016】
このように構成した本発明は、流量制御弁を介して主管路に圧油を導くときには、流量制御弁のポンプポートから室に導かれた主油圧ポンプの圧油は小径部の外周に沿いながら第1大径部方向へ流れ、この第1大径部に形成した通路を経て逆止弁を押し開き、主管路へと導かれる。緊急用油圧ポンプから緊急用圧油が供給されたときには、逆止弁が第1大径部の通路を閉じるように作用するので、この緊急用圧油の主油圧ポンプ方向への流れが逆止弁によって阻止される。
【0017】
また本発明は、上記発明において、上記流量制御弁の上記スプールを摺動自在に収納するハウジングが、上記主油圧ポンプに接続されるポンプポートに連通する室を有し、上記スプールが、上記室に臨ませた大径部を有し、この大径部の外周に、上記主管路に供給される圧油の流れを制御する主管路側制御エッジと、上記補助管路に供給される圧油の流れを制御する補助管路側制御エッジとを形成し、上記大径部の内部を通るように上記通路を設け、この通路の途中に上記逆止弁を配置したことを特徴としている。
【0018】
このように構成した本発明は、流量制御弁を介して主管路に圧油を導くときには、流量制御弁のポンプポートから室に導かれた主油圧ポンプの圧油は大径部の外周に沿いながらこの大径部に形成した通路を経て逆止弁を押し開き、主管路へと導かれる。緊急用油圧ポンプから緊急用圧油が供給されたときには、逆止弁が大径部の通路を閉じるように作用するので、この緊急用圧油の主油圧ポンプ方向への流れが逆止弁によって阻止される。
【0019】
また特に本発明は、主管路側制御エッジと補助管路側制御エッジとを流量制御弁のスプールに形成される大径部に含ませてあり、この大径部をポンプポートに連通する室に臨ませてあるので、スプールの長さ寸法を短く設定することができる。これによりこのスプールの長さ方向に対応する流量制御弁のハウジングの寸法を小さく設定することができる。
【0020】
また本発明は、上記発明において、上記主管路の圧油が導かれ、ハンドルによって回転可能な可動弁部材を有する操向制御弁と、この操向制御弁から供給される圧油によって作動し、タイヤの向きを制御する操向シリンダとを有するパワーステアリング機構に備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、流量制御弁のスプールの内部に逆止弁を配置したことから、全体の部品数を従来よりも少なくすることができ、また逆止弁の設置作業及び配管作業が不要となり、これらのことから従来に比べて製作費を安くすることができる。さらに、流量制御弁のスプールの外部に位置するハウジング部分に逆止弁を配置するための領域を設定しないで済み、この流量制御弁を、独立構造体としての逆止弁を備えた従来の流量制御弁と同等の大きさにすることができる。したがって、この流量制御弁の所定個所への据付け作業を簡単に行なうことができ、また、各種機器を自由にレイアウトできるようになる。
【0022】
また、ポンプポートに連通する室に臨ませた大径部に、主管路側制御エッジと補助管路側制御エッジを形成した構成にすれば、スプールの長さ寸法を短く設定できる。これによりスプールの長さ方向に対応するハウジングの寸法を小さく設定でき、流量制御弁のコンパクト化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下,本発明に係る油圧駆動装置を実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。
【0024】
図1は本発明の油圧駆動装置の第1実施形態の全体構成を示す油圧回路図である。この図1に示す本発明の第1実施形態は、例えばホイールローダのステアリング機構に備えられるもので、図1に示すように、主油圧ポンプ1と、この主油圧ポンプ1から吐出される圧油を、主管路2及び補助管路3の少なくとも一方に選択的に供給させると共に、主管路2に優先的に供給させる流量制御弁、すなわちプライオリティバルブ4とを備えている。このプライオリティバルブ4は、本体を形成するハウジング5内に摺動自在なスプール6を備えている。スプール6の一端には、このスプール6を付勢するばね7が配置される制御室8を備え、他端には、ばね7の力と制御室8に与えられる圧油の圧力による力との和に対抗する力を与える圧油が導かれる制御室9を備えている。
【0025】
また、主管路2の圧油が導かれ、ロッド12に連結される図示しないハンドルによって軸心を中心に回転可能な可動弁部材13を有する操向制御弁11と、この操向制御弁11から供給される圧油によって作動し、図示しないタイヤの向きを制御する操向シリンダ10とを備えている。操向制御弁11の可動弁部材13と操向シリンダ10の室Aとは管路14で接続させてあり、可動弁部材13と操向シリンダ10の室Bとは管路15で接続させてある。
【0026】
上述した主管路2と、プライオリティバルブ4のスプール6の一端に形成される制御室8とは流路16で接続してあり、この流路16中に絞り17を設けてある。また上述した主管路2と、プライオリティバルブ4のスプール6の他端に形成される制御室9とは油路18で接続してあり、この油路18中に絞り19を設けてある。操向制御弁11の可動弁部材13に導かれる操向シリンダ10の負荷圧は、検出管路20で検出される。この検出管路20中にも絞り21を設けてある。
【0027】
図1に示すように上述した絞り17,19,21は、プライオリティバルブ4内に形成させてある。また、このプライオリティバルブ4内には操向シリンダ10の負荷圧が一定圧以上にならないように制御する安全弁、すなわちリリーフ弁22と、このリリーフ弁22を通過させる圧油を清浄に保つフィルタ23とを配置してある。
【0028】
操向制御弁11とタンク24とは戻り管路25で接続してあり、この戻り管路25中にも、タンク24に戻る油を清浄に保つフィルタ26を配置してある。
【0029】
さらに、この第1実施形態は、主油圧ポンプ1を駆動する図示しないエンジンの故障時とか、主油圧ポンプ1の故障時などの主管路2及び補助管路3への圧油供給機能低下時に、緊急用圧油を管路28を介して主管路2に供給可能な緊急用油圧ポンプ27を備えている。また、この緊急用油圧ポンプ27を駆動するモータ29と、このモータ29の駆動を制御するスイッチ30と、主ポンプ1の吐出圧(ポンプポート40の圧力)を検出する圧力センサ31と、この圧力センサ31で検出される圧力に応じてスイッチ30のオン、オフを制御するコントローラ32とを備えている。
【0030】
なお、主油圧ポンプ1の吐出圧は主リリーフ弁34によって規定される。また、上述した補助管路3によって方向制御弁などを経由して図示しない作業機を駆動するアクチュエータに圧油が導かれるようになっている。
【0031】
図2は図1に示す第1実施形態に備えられるプライオリティバルブの要部構成を示す断面図である。この図2において、図1に示したものと同等のものは同一符号で示してある。図2に示すように、この第1実施形態は特に、プライオリティバルブ4のスプール6の内部に、上述した主管路2に連通する通路46を形成し、この通路46上に位置するスプール6の内部に、上述した緊急用圧油の主油圧ポンプ1方向への流れを阻止する逆止弁33を配置してある。緊急用油圧ポンプ27から吐出された緊急用圧油を導く管路28は、例えばプライオリティバルブ4のハウジング5内の所定部位50に接続させてある。
【0032】
プライオリティバルブ4のスプール6を摺動自在に収納するハウジング5は、主油圧ポンプ1に接続されるポンプポート40と、主管路2に接続される主管路供給ポートCFと、補助管路3に接続される補助管路供給ポートEFと、上述した検出管路20によって導かれる負荷圧が与えられる負荷圧ポートLSとを備えている。
【0033】
図2に示すように、プライオリティバルブ4のハウジング5内には、ポンプポート40に連通する中央室41と、この中央室41に連通可能な室45と、この室45に連通可能であると共に、主管路供給ポートCFに連通する室48と、中央室41に連通可能であると共に、補助管路供給ポートEFに連通する室53とを備えている。上述した主管路供給ポートCFに連通する室48は、上述した所定部位50に連通させてある。
【0034】
ハウジング5内に摺動自在に配置されるスプール6は、中央室41に臨ませた小径部42と、この小径部42の一端に形成され、主管路2に供給される圧油の流れを制御する主管路側制御エッジ43を有する第1大径部44と、小径部42の他端に形成され、補助管路3に供給される圧油の流れを制御する補助管路側制御エッジ51を有する第2大径部52とを備えている。第1大径部44の内部を通るように上述した通路46を設けてあり、この通路46の途中に逆止弁33を配置してある。また、この逆止弁33を付勢するばね47を備えると共に、室48と、ばね47が配置されるばね室とを連通させる油路49を設けてある。
【0035】
上述したスプール6の第1大径部44は、中央室41に連通可能な上述の室45に臨ませてあり、逆止弁33は、第1大径部44の通路46を介して室45に連通可能な上述の室48部分に設けてある。スプール6の第2大径部52は、中央室41に連通可能な上述の室53に臨ませてある。
【0036】
このように構成した第1実施形態は、図示しないハンドルが操作されず、図1に示すように操向制御弁11の可動弁部材13が中立位置に保持されているときには、検出管路20は可動弁部材13を介してタンク24に接続される戻り管路25に連通する。すなわち、プライオリティバルブ4のスプール6のばね7が配置される制御室8は低圧となり、その低圧が流路16,18を介して制御室9にも与えられる。したがって、ばね7の力によってスプール6は同図1に示される状態に保たれる。この状態において主油圧ポンプ1から圧油Pが吐出されると、適宜に設定した絞り17と絞り19の関係から同図1に示す油路18、絞り19を介してプライオリティバルブ4のスプール6の他端の制御室9に圧油が導かれ、この制御室9の圧力が所定圧以上になったときにスプール6はばね7の力に抗して図1の右位置に切換えられる。
【0037】
すなわち、図2に示すプライオリティバルブ4の制御室9に与えられる圧油の圧力により、同図2に示すスプール6が同図2に示す状態から左方向に摺動し、中央室41と室53とが連通する。したがって、矢印54で示すようにプライオリティバルブ4のポンプポート40に導かれた圧油Pは、中央室41に配置された小径部42の外周に沿うように流れて、中央室41から室53へと導かれ、矢印56で示すように、補助管路供給ポートEFから図1に示す補助管路3に供給される。これによって、図示しない作業機の駆動が可能となる。
【0038】
また、図1に示すように操向制御弁11の可動弁部材13が中立位置に保持され、プライオリティバルブ4のスプール6の切換え位置が同図1に示す左位置に保持されている状態にあって、図示しないハンドルが所定の一方向に操作され、図1に示す操向制御弁11の可動弁部材13が例えば同図1に示す中立位置から右位置に切換えられると、この可動弁部材13を介して主管路2が管路15に連通し、この管路15の負荷圧が検出管路20で検出され、プライオリティバルブ4の負荷ポートLSを介してばね7が配置される制御室8に与えられる。したがって、プライオリティバルブ4のスプール6は、ばね7の力と制御室8に与えられる圧油の圧力による力の和と、制御室9に与えられる圧油の圧力による力との大小関係に応じて適宜に摺動する。
【0039】
すなわち、ハンドル操作に伴って、プライオリティバルブ4のスプール6が図2に示す状態に保持され、主油圧ポンプ1から吐出される圧油Pが矢印54で示すようにポンプポート40から中央室41に導かれ、小径部42の外周に沿うように流れて中央室41から室45に導かれ、第1大径部44の通路46を経て逆止弁33を押し開き、室48から主管路供給ポートCFを介して矢印55で示すように主管路2に供給される。主管路2に供給された圧油Pは、操向制御弁11の可動弁部材13の右位置から管路15に導かれ、操向シリンダ10の室Bに供給される。操向シリンダ10から管路14に流出した圧油は、操向制御弁11の可動弁部材13の右位置、戻り管路25を介してタンク24に戻される。これにより操向シリンダ10が作動する。この操向シリンダ10の作動により図示しないタイヤが、それまでの進行方向に対して傾くように一方向に動かされる。
【0040】
その後、プライオリティバルブ4の油路18を介して制御室9に導かれる圧油の圧力による力が、制御室8側の力に比べて大きくなると、プライオリティバルブ4のスプール6が図2の左方向に移動し、中央室41が室53に連通する状態となる。これにより、上述のようにして供給される主油圧ポンプ1の圧油Pのうちの余剰流量が中央室41から室53に導かれ、この室53から補助管路供給ポートEFを経て矢印56で示すように図1の補助管路3に供給される。これにより、上述したように作業機の駆動が可能となる。
【0041】
なお、このような動作の間、操向制御弁11の上流圧が油路18を介してプライオリティバルブ4のスプール6の制御室9に導かれ、操向制御弁11の下流圧が検出管路20、プライオリティバルブ4の負荷圧ポートLSを介して制御室8に導かれるので、プライオリティバルブ4のスプール6は、操向制御弁11の上流圧と下流圧との差圧に応じて摺動する。すなわち、このプライオリティバルブ4は圧力補償弁として機能する。したがって、このプライオリティバルブ4の圧力補償機能により操向シリンダ10の負荷圧の変動にかかわらず、操向制御弁11の可動弁部材13の回転量、すなわちハンドルの操作量に応じた流量を操向シリンダ10に供給することができる。
【0042】
図示しないハンドルが上述とは逆方向に操作されたときには、図1に示す操向制御弁11の可動弁部材13が同図1に示す中立位置から左位置に切換えられ、主油圧ポンプ1の圧油Pが管路14を介して優先的に操向シリンダ10の室Aに供給され、操向シリンダ10が作動して図示しないタイヤが上述とは逆方向に傾くように動かされる。このような動作が行なわれる間のプライオリティバルブ4の動作は、上述とほぼ同じである。
【0043】
そして、主油圧ポンプ1を駆動する図示しないエンジンが故障したときとか、主油圧ポンプ1が故障したときなどのように主管路2及び補助管路3への圧油供給機能が低下した場合には、主ポンプ1の吐出圧(ポンプポート40の圧力)を検出する図1に示す圧力センサ31から出力される信号によってコントローラ32がスイッチ30をオンにする制御を行なう。これによりモータ29が駆動し、このモータ29によって緊急用油圧ポンプ27が駆動し、この緊急用油圧ポンプ27から管路28を介して緊急用圧油が供給される。すなわち、図2に示すプライオリティバルブ4のハウジング5に形成された所定部位50に緊急用圧油が供給され、この緊急用圧油が室48を経て主油圧ポンプ1の圧油Pに合流して、あるいは主油圧ポンプ1の圧油Pの代りに主管路供給ポートCFから矢印55に示すように図1の主管路2に供給される。これにより、図示しないハンドルの操作に応じて操向シリンダ10を作動させ、タイヤを動かすことができる。この間、プライオリティバルブ4の室45の圧力に比べて室48の圧力が高くなったときには、ばね47の力と、逆止弁33の油路49を経てばね47が配置されるばね室に導かれる室48の圧力による力とによって、逆止弁33は通路46を閉じるように保持される。したがって、上述した緊急用圧油の主油圧ポンプ1方向への流れは逆止弁33によって阻止される。
【0044】
以上のように構成した第1実施形態によれば、プライオリティバルブ4のスプール6内に逆止弁33を設けるようにしたので、プライオリティバルブ4等とは別体に設けられる独立構造体としての逆止弁、このような逆止弁をプライオリティバルブ4等の外部の所定個所に設置する固定具、及び逆止弁をプライオリティバルブ4等に接続する配管等が不要になる。これらによって全体の部品数を少なくすることができる。また、逆止弁33をプライオリティバルブ4等の外部の所定個所に配置する設置作業、及びプライオリティバルブ4等に接続する配管作業を不要にできる。さらに、上述したようにプライオリティバルブ4のスプール6の外部に位置するこのプライオリティバルブ4のハウジング5部分に、逆止弁33を設置するための領域を要することがなく、このプライオリティバルブ4の形状を大きくしないで済む。すなわち、プライオリティバルブ4を、独立構造体としての逆止弁を備えた従来のプライオリティバルブと同等の大きさとすることができ、このプライオリティバルブ4の所定個所への据付け作業を簡単に行なうことができる。
【0045】
図3は本発明の第2実施形態に備えられるプライオリティバルブの要部構成を示す断面図である。この第2実施形態は、プライオリティバルブ4のみが上述した第1実施形態におけるものと異なっている。すなわち、この第2実施形態は、同図3に示すように、プライオリティバルブ4のスプール6が、ポンプポート40に連通する中央室41に臨ませた大径部57を有し、この大径部57の外周の一端に主管路2に供給される圧油の流れを制御する主管路側制御エッジ58を形成し、大径部57の外周の他端に補助管路3に供給される圧油の流れを制御する補助管路側制御エッジ59を形成してある。この大径部57の内部を通るように、主管路2に連通する通路46を形成し、この通路46上に位置するスプール6の内部に、緊急用圧油の主油圧ポンプ1方向への流れを阻止する逆止弁33を配置してある。緊急用油圧ポンプ27から吐出された緊急用圧油を導く管路28は、例えばプライオリティバルブ4のハウジング5内の所定部位50に接続させてある。
【0046】
プライオリティバルブ4のスプール6を摺動自在に収納するハウジング5は、中央室41に連通可能な室48を備え、この室48に連通するように上述の所定部位50を形成させてある。また、室48に主管路供給ポートCFを連通させてある。さらに、中央室41に連通可能な室53を備え、この室53に補助管路供給ポートEFを連通させてある。その他の構成は、前述した第1実施形態における構成と同等である。
【0047】
このように構成した第2実施形態は、上述した図1に示すように、操向制御弁11の可動弁部材13が中立位置に保持されている状態で、主油圧ポンプ1から圧油Pが吐出されると、図3に示す適宜に設定した絞り17と絞り19の関係から同図3に示す絞り19を介してプライオリティバルブ4のスプール6の他端の制御室9に圧油が導かれ、スプール6はばね7の力に抗して同図3の左方向に摺動する。すなわち、図1の右位置に切換えられる。したがって、図3の矢印54で示すようにプライオリティバルブ4のポンプポート40に導かれた圧油Pは、中央室41に配置されたスプール6の大径部57の外周から中央室41と室53の間に位置するスプール6の小径部に沿うように流れて、中央室41から室53へと導かれ、矢印56で示すように、補助管路供給ポートEFから図1に示す補助管路3に供給される。これによって図示しない作業機の駆動が可能となる。
【0048】
また、ハンドル非操作状態からハンドルが操作されると、プライオリティバルブ4のスプール6は、ばね7の力と制御室8に与えられる圧油の圧力による力の和と、制御室9に与えられる圧油の圧力による力との大小関係に応じて摺動する。
【0049】
すなわち、ハンドル操作に伴って、プライオリティバルブ4のスプール6が図3に示す状態に保持され、主油圧ポンプ1から吐出される圧油Pが矢印54で示すようにポンプポート40から中央室41に導かれ、大径部57の外周に沿うように流れて、大径部57の通路46に導かれ、逆止弁33を押し開き、室48から主管路供給ポートCFを介して矢印55で示すように図1の主管路2に供給される。これにより上述したように、図1に示す操向制御弁11を介して操向シリンダ10に圧油Pが供給され、操向シリンダ10を駆動して図示しないタイヤを動かすことができる。
【0050】
その後、プライオリティバルブ4の制御室9に導かれる圧油の圧力による力が制御室8側の力に比べて大きくなると、プライオリティバルブ4のスプール6が図3の左方向に摺動し、中央室41が室53に連通する状態となる。これにより、上述のようにして供給される主油圧ポンプ1の圧油Pの余剰流量が中央室41から室53に導かれ、この室53から補助管路供給ポートEFを経て矢印56に示すように補助管路3に供給される。これにより上述したように作業機の駆動が可能となる。
【0051】
なお、このような動作の間、操向制御弁11の上流圧がプライオリティバルブ4のスプール6の制御室9に導かれ、操向制御弁11の下流圧がスプール6の負荷圧ポートLSを介して制御室8に導かれるので、プライオリティバルブ4のスプール6は、操向制御弁11の上流圧と下流圧との差圧に応じて摺動する。すなわち、このプライオリティバルブ4は圧力補償弁として機能する。したがって、このプライオリティバルブ4の圧力補償機能により、操向シリンダ10の負荷圧の変動にかかわらず、図1に示す操向制御弁11の可動弁部材13の回転量、すなわちハンドル操作量に応じた流量を操向シリンダ10に供給できる。
【0052】
そして、主油圧ポンプ1を駆動する図示しないエンジンが故障したときとか、主油圧ポンプ1が故障したときなどのように主管路及び補助管路3への圧油供給機能が低下し、緊急用油圧ポンプ27から管路28を介して緊急用圧油が供給されると、図3に示すプライオリティバルブ4のハウジング5に形成された所定部位50に緊急用圧油が与えられる。この緊急用圧油が室48を経て主油圧ポンプ1の圧油Pに合流して、あるいは主油圧ポンプ1の圧油Pの代りに主管路供給ポートCFから矢印55で示すように主管路2に供給される。これにより、タイヤをハンドルの操作に応じて動かすことができる。この間、プライオリティバルブ4の中央室41の圧力に比べて室48の圧力が高くなったときには、ばね47の力と、逆止弁33の流路49を経てばね47が配置されるばね室に導かれる室48の圧力による力とによって、逆止弁33は通路46を閉じるように保持される。したがって、上述した緊急用圧油の主油圧ポンプ1方向への流れは、逆止弁33によって阻止される。
【0053】
このように構成した第2実施形態も、プライオリティバルブ4のスプール6の内部に、緊急用油圧ポンプ27から吐出される緊急用圧油の主油圧ポンプ1方向への流れを阻止する逆止弁33を備えたことから、上述した第1実施形態と同等の効果が得られる。
【0054】
また特に、この第2実施形態によれば、主管路側制御エッジ58と補助管路側制御エッジ59とをプライオリティバルブ4のスプール6に形成される大径部57に含ませてあり、この大径部57をポンプポート40に連通する中央室41に臨ませてあるので、スプール6の長さ寸法を短く設定することができる。これにより、このスプール6の長さ方向に対応するプライオリティバルブ4のハウジング5の寸法を小さく設定でき、このプライオリティバルブ4のコンパクト化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の油圧駆動装置の第1実施形態の全体構成を示す油圧回路図である。
【図2】図1に示す第1実施形態に備えられるプライオリティバルブの要部構成を示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に備えられるプライオリティバルブの要部構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 主油圧ポンプ
2 主管路
3 補助管路
4 プライオリティバルブ(流量制御弁)
5 ハウジング
6 スプール
7 ばね
8 制御室
9 制御室
10 操向シリンダ
11 操向制御弁
13 可動弁部材
18 油路
20 検出管路
27 緊急用油圧ポンプ
28 管路
33 逆止弁
40 ポンプポート
41 中央室
42 小径部
43 主管路側制御エッジ
44 第1大径部
45 室
46 通路
48 室
50 所定部位
51 補助管路側制御エッジ
52 第2大径部
53 室
57 大径部
58 主管路側制御エッジ
59 補助管路側制御エッジ
CF 主管路供給ポート
EF 補助管路供給ポート
LS 負荷圧ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主油圧ポンプと、この主油圧ポンプから吐出される圧油を、主管路及び補助管路の少なくとも一方に選択的に供給させると共に、上記主管路に優先的に供給させる流量制御弁と、上記主管路及び上記補助管路への圧油供給機能低下時に緊急用圧油を上記主管路に供給可能な緊急用油圧ポンプと、上記緊急用圧油の上記主油圧ポンプ方向への流れを阻止する逆止弁とを備えた油圧駆動装置において、
上記流量制御弁のスプールの内部に、上記主管路に連通する通路を形成し、この通路上に位置する上記スプールの内部に上記逆止弁を配置し、この逆止弁の下流に位置する所定部位に、上記緊急用油圧ポンプから吐出される上記緊急用圧油を供給可能にしたことを特徴とする油圧駆動装置。
【請求項2】
上記請求項1記載の発明において、
上記所定部位を、上記流量制御弁の上記スプールを摺動自在に収納するハウジング内に設けたことを特徴とする油圧駆動装置。
【請求項3】
上記請求項1記載の発明において、
上記流量制御弁の上記スプールを摺動自在に収納するハウジングが、上記主油圧ポンプに接続されるポンプポートに連通する室を有し、
上記スプールが、
上記室に臨ませた小径部と、この小径部の一端に形成され、上記主管路に供給される圧油の流れを制御する主管路側制御エッジを有する第1大径部と、上記小径部の他端に形成され、上記補助管路に供給される圧油の流れを制御する補助管路側制御エッジを有する第2大径部とを備え、
上記第1大径部の内部を通るように上記通路を設け、この通路の途中に上記逆止弁を配置したことを特徴とする油圧駆動装置。
【請求項4】
上記請求項1記載の発明において、
上記流量制御弁の上記スプールを摺動自在に収納するハウジングが、上記主油圧ポンプに接続されるポンプポートに連通する室を有し、
上記スプールが、
上記室に臨ませた大径部を有し、この大径部の外周に、上記主管路に供給される圧油の流れを制御する主管路側制御エッジと、上記補助管路に供給される圧油の流れを制御する補助管路側制御エッジとを形成し、
上記大径部の内部を通るように上記通路を設け、この通路の途中に上記逆止弁を配置したことを特徴とする油圧駆動装置。
【請求項5】
上記請求項1〜4のいずれか1項記載の発明において、
上記主管路の圧油が導かれ、ハンドルによって回転可能な可動弁部材を有する操向制御弁と、この操向制御弁から供給される圧油によって作動し、タイヤの向きを制御する操向シリンダとを有するパワーステアリング機構に備えたことを特徴とする油圧駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−29392(P2006−29392A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206121(P2004−206121)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】