説明

油性ゲル状組成物および乳化組成物の調製方法

【課題】糖脂質型のバイオサーファクタントを含む油性ゲル状組成物および乳化組成物の調製方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る油性ゲル状組成物は、界面活性剤として糖脂質構造を有するバイオサーファクタントを含み、水および多価アルコールの少なくとも一方、ならびに油性成分を含むことを特徴とする。また、本発明にかかる乳化組成物の調製方法は、上記油性ゲル状組成物に水を混合することを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤として糖脂質構造を有するバイオサーファクタントを含む油性ゲル状組成物および上記油性ゲル状組成物を用いた乳化組成物の調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油性のゲル状組成物は、化粧品の添加剤として広く用いられている。油性ゲル状組成物を得る方法としては、液状油性成分に無水ケイ酸を配合する方法、金属石鹸を配合する方法、デキストリン脂肪酸エステルを配合する方法、ならびに、多価アルコールおよび非イオン性界面活性剤を配合する方法が知られている。さらに、特許文献1には、ソルビタン脂肪酸エステル、およびグリセリン脂肪酸エステルなどの糖脂質型の非イオン界面活性剤を含むゲル状エマルションが開示されている。
【0003】
また、陰イオン性界面活性剤を原料として用いた化粧品も広く使用されている。たとえば、陰イオン性界面活性剤を用いた油性軟膏基剤が、特許文献2に開示されている。特許文献2に記載の油性軟膏基剤は、HLB(Hydrophilic Lipophilic Balance)9以上の親水性ポリグリセリン高級脂肪酸エステル、陰イオン性界面活性剤、水、および油相成分からなる安定な油性軟膏基剤であり、配合した薬物の放出性に優れている。
【0004】
一方、新規な化粧品添加剤として用い得る有望な素材の一つに、バイオサーファクタントがあり、その研究が進んでいる。バイオサーファクタントは微生物が作りだす機能性物質であり、疎水性部分と親水性部分とを有する両親媒性物質である。バイオサーファクタントとしては、たとえば、リポペプチド構造を有するサーファクチン、および糖脂質型であるサクシノイルトレハロース脂質(STL:Succinoyl Trehalose Lipid)などが知られている。
【0005】
バイオサーファクタントを用いた化粧料として、たとえば、特許文献3において、サーファクチンを界面活性剤として含む油性増粘ゲル状組成物が開示されている。
【特許文献1】特開昭59−46123号公報(昭和59年3月15日公開)
【特許文献2】特開昭61−257916号公報(昭和61年11月15日公開)
【特許文献3】特開2003−176211号公報(平成15年6月24日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バイオサーファクタントの中でも糖脂質型のバイオサーファクタントは、優れた生分解性を示す天然の界面活性剤として注目されている。しかしながら、ゲル状組成物および乳化組成物を形成し得る糖脂質型のバイオサーファクタントについては未だ知られておらず、糖脂質型のバイオサーファクタントを用いたゲル状組成物の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、糖脂質型のバイオサーファクタントを界面活性剤として含有する油性ゲル状組成物を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、上記油性ゲル状組成物を用いた乳化組成物の調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討をおこなった結果、界面活性剤として、糖脂質構造を有するバイオサーファクタントを含有し、水および多価アルコールの一方、ならびに油性成分を含む油性ゲル状組成物が調製できることを見出した。さらに、本発明にかかる油性ゲル状組成物を用いて、乳化組成物を形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る油性ゲル状組成物は、界面活性剤として糖脂質構造を有するバイオサーファクタントを含有し、水および多価アルコールの少なくとも一方、ならびに油性成分を含むことを特徴としている。
【0010】
本発明に係る油性ゲル状組成物は、糖脂質構造を有するバイオサーファクタントを0.01質量%〜50質量%含むことが好ましい。なお、上記のバイオサーファクタントの濃度は、油性ゲル状組成物に対する濃度である。
【0011】
さらに本発明に係る油性ゲル状組成物は、水と多価アルコールとを合わせて1質量%〜89.9質量%含むことが好ましい。また、多価アルコールとしては、グリセリンおよびエチレングリコールの少なくとも一方を含むことが好ましい。なお、上記の水と多価アルコールとを合わせたものの濃度は、油性ゲル状組成物に対する濃度である。
【0012】
さらに本発明に係る油性ゲル状組成物は、油性成分を10質量%〜98.9質量%含むことが好ましい。また、油性成分としては、スクアラン、流動パラフィンおよびシリコーン油の少なくとも一種を含むことが好ましい。なお、上記の油性成分の濃度は、油性ゲル状組成物に対する濃度である。
【0013】
さらに本発明に係る油性ゲル状組成物において、糖脂質構造を有するバイオサーファクタントは、サクシノイルトレハロース脂質であることが好ましい。サクシノイルトレハロース脂質は、微生物を培養した培養液から大量に抽出することができる。
【0014】
さらに本発明に係る油性ゲル状組成物において、サクシノイルトレハロース脂質は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方との塩であることが好ましい。この中でもナトリウムとの塩であることが好ましい。サクシノイルトレハロース脂質としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩を用いることにより、サクシノイルトレハロース脂質を水およびアルコールなどの水性媒体に良好に溶解することができる。
【0015】
本発明にかかる乳化組成物の調製方法は、本発明にかかる油性ゲル状組成物に水を混合することを特徴とする。また、本発明にかかる乳化組成物の調製方法において、前記油性ゲル状組成物の全質量に対して50質量%以上かつ100000質量%以下の水を混合することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、糖脂質構造を有するバイオサーファクタントを界面活性剤として含む、新規な油性ゲル状組成物を提供することができる。また、本発明にかかる乳化組成物の調製方法によれば、水性成分と油性成分とが均一に分散した状態を長期にわたって維持することができ、安定性の高い乳化組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔油性ゲル状組成物〕
本発明の油性ゲル状組成物は、糖脂質構造を有するバイオサーファクタントと、水および多価アルコールの少なくとも一方と、油性成分とを含んでいる。以下、本発明の一実施形態について、糖脂質構造を有するバイオサーファクタントとしてサクシノイルトレハロース脂質を用いた油性ゲル状組成物について説明する。
【0018】
〔サクシノイルトレハロース脂質〕
まず、本発明において界面活性剤として用いられるサクシノイルトレハロース脂質およびその製造方法について説明する。
【0019】
本発明の油性ゲル状組成物に用いるサクシノイルトレハロース脂質(以下、STLと記載する)は、炭素源を含む培地中で微生物を培養して得られたものを使用している。
【0020】
炭素源を含む培地中で微生物を培養して得られるサクシノイルトレハロース脂質は、糖部分がトレハロースであり、トレハロース1モル当りコハク酸および脂肪酸がそれぞれ1〜2モルエステル結合した糖脂質である。この糖脂質の脂肪酸部分は、培養基質である炭素源を変えることによって、それぞれ異なった脂肪酸が結合している。
【0021】
なお、本明細書において、「微生物」は、STLを生産し得る微生物であることが意図される。このような微生物は、特に限定されないが、ロドコッカス属に属する微生物であることが好ましく、ロドコッカス・エリスロポリス SD−74株、ロドコッカス・エスピー TB−42株、またはロドコッカス・バイコヌレンシス NBRC 100611株であることが好ましい。
【0022】
本明細書において、「炭素源」とは、上記微生物が培養中に吸収利用する炭素化合物であることが意図される。このような炭素源としては、天然油脂、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、または高級アルコールであることが好ましい。ここで、炭素化合物は、炭素と水素、窒素などとの化合物が意図される。サクシノイルトレハロース脂質の製造方法において用いられる炭素源は天然油脂であり得、動物油脂であっても植物油脂であってもよいが、入手がより容易であるため、植物油脂であることが好ましい。上記製造方法において用いられる植物油脂は、たとえばパーム油、ヤシ油、大豆油、オリーブ油、サフラワー油、菜種油、トウモロコシ油、綿実油、およびトール油などであることが好ましいが、これに限定されない。
【0023】
また、炭素源として用いる炭化水素としては、n−デカン、n−ウンデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン、n−ペンタデカン、n−ヘキサデカン、n−ヘプタデカン、n−オクタデカン、n−ノナデカンなどのノルマルアルカン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、および1−オクタデセンなどのノルマルアルケン、などを好適に使用することが可能である。
【0024】
炭素源として用いる脂肪酸としては、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、およびオレイン酸などを好適に使用することが可能である。また、脂肪酸エステル、ウンデシルアルコール、およびドデシルアルコール(ラウリルアルコール)などの高級アルコールを炭素源として用いてもよい。
【0025】
STL組成物は、炭素源を含む培地中で微生物を培養する培養工程と、上記培養工程によって得られた生成物を析出させる析出工程と、上記析出工程によって得られた析出物からSTL組成物を抽出する抽出工程と、上記抽出工程によって得られた抽出物から脂溶性物質を取り除く脂溶性物質除去工程と、を包含する製造方法により製造され得る。なお、STL組成物とは、STLを一成分とする組成物が意図される。本実施形態においてSTLは、STL組成物に50質量%以上含まれていればよく、80質量%以上含まれていることが好ましく、90質量%以上含まれていることがより好ましい。以下、STLの製造方法について詳細に説明する。
【0026】
炭素源を含む培地中で微生物を培養する培養工程は慣用的な方法に従っておこなわれ、炭素源を添加した培地に、必要に応じて窒素源、および無機塩などの栄養分を添加してもよい。培地中に添加される炭素源としては、上述した各炭素源が好適に用いられ、培地中の炭素源の添加濃度は、5〜20%であることが好ましく、10%であればより好ましい。培地中に添加される窒素源としては、微生物の培養に際して通常使用される窒素含有の有機物または無機物が用いられ、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸水素カリウム、およびリン酸二水素カリウムなどを使用可能である。上述した他に、微生物の生育に必要であれば、酵母エキス、およびペプトンなどの栄養素を培地に添加してもよい。
【0027】
培養は、振とう攪拌による好気的条件下でおこなわれ、培養温度は、20〜35℃であることが好ましく、30℃であることがより好ましい。培養pHは、5.5〜9.5であることが好ましい。また、培養期間は、15〜50g/lの濃度のSTL混合物が生成されるまで培養することが好ましく、後述する実施例においては、培養5日後にSTL濃度が15g/lに達していることから、5〜12日間培養することが好ましい。
【0028】
炭素源を含む培地中で微生物を培養する工程においては、当該微生物を本培養する前にシード培養してもよい。微生物をシード培養することによって、最適な条件に微生物を調整することが可能であり、その結果効率よくSTLを製造することができる。
【0029】
次に、析出工程において、上記培養工程において微生物によって産生された生成物(STL)を析出させる。つまり、微生物が培地中に生成するSTLを含む培地あるいは培養液に対して析出をおこなう。このとき、析出の対象となる当該培地あるいは当該培養液は、微生物を培養した培養液を遠心分離し、培養液中から菌体および残存基質を取り除いたものであってもよい。ここで、「析出させる」とは、培地中に溶解した物質を、固体として取り出すことが意図される。すなわち、析出工程においては、培養工程において微生物が培地中に生成した糖脂質を、培地中から固形物として取り出すことができる。
【0030】
析出工程では、培養液中からSTLを固形物として分離することができる方法であれば特に限定されず、慣用的な方法を用いることができる。たとえば、上記培養工程において微生物を培養した培地を酸性にし、培地中の酸性物質を析出させることによって酸性の糖脂質であるSTLを析出させることができる(酸析)。具体的には、培養液中のpHを低下させることにより析出させる。培養液のpHを低下させるためには、酸性物質、たとえば、HClを添加すればよい。その後、たとえば、遠心処理をおこない析出物を取り出す。以下、析出工程を経て得られた生成物を、「析出生成物」と称する。
【0031】
次に、抽出工程において、析出生成物からSTL組成物を抽出する。抽出工程では、析出生成物に、水と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒を添加することによって、析出生成物中に含まれるSTLを溶媒層に溶解させる。ついで、STLが溶解した溶媒層を分離することによって、水溶性物質を除去したSTL組成物を得ることができる。なお、「水溶性物質」は、水に対して可溶な物質であり、培地中から析出させた固形物状の析出物が水と共に包含している塩等の水溶性の不純物であるといえる。ここで、「塩」とは酸の水素原子を金属または他の金属性基で置き換えた化合物である。
【0032】
微生物を培養した培地から析出させた上述の析出生成物は、含水しており水溶性の不純物を多く含んでいる。このような析出生成物は、さらに脂溶性の不純物を含んでおり、固形物状であるため、これを水で洗浄しても析出物内部に含まれる水溶性物質を十分に取り除くことは困難であったが、水と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒を用いた抽出工程により、水溶性物質を除去したSTL組成物を得ることができる。
【0033】
抽出工程においては、溶媒を添加して抽出する対象物である析出物から完全に水溶性物質を取り除く必要はなく、抽出処理の前後において、析出物中の水溶性物質の量が減少していればよい。これにより、不純物の含有量が低下したSTL組成物を得ることが可能である。
【0034】
ここで、析出物に添加する溶媒としては、水溶性物質を溶解しえる他の溶媒(たとえば水)と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒を用いることができる。そのような溶媒としては、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、または炭化水素系溶媒が挙げられ、具体的には、たとえば酢酸エチル、1−ブタノール、およびキシレンなどが挙げられる。析出物に添加する溶媒の量は、析出物量に対して0.1〜10倍重量であることが好ましく、析出物量と同等であることがより好ましい。
【0035】
抽出工程について、溶媒として酢酸エチルを用いた場合を例にして説明する。まず、培養液から培養生成物を析出させ、析出した析出物に酢酸エチルを添加し十分に攪拌し、酢酸エチル層および水層の2層に分離させる。ついで、上層に形成された酢酸エチル層を分液漏斗等によって分離する。酢酸エチル層には水溶性物質は溶解せず、STLが溶解しているため、酢酸エチル層を分離することによって糖脂質から水溶性物質を除去することが可能である。ついで、たとえばエヴァポレーター等を用いて、酢酸エチル層から酢酸エチルを除去することによって、水溶性物質が除去された固体状のSTL組成物を得ることができる。
【0036】
なお、上述の説明では、析出工程と抽出工程とを順次おこなう場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。たとえば、培養生成物を培地または培養液中から析出させずに、生成物が溶解した培地または培養液に溶媒を添加し溶媒層を分離することによって、水溶性物質を取り除いたSTL組成物を得ることも可能である。このとき、微生物を培養した培養液から、遠心分離などによって、菌体および残存基質を取り除いたものを、溶媒を用いて水溶性物質を除去する対象としてもよい。すなわち、抽出工程において、溶媒を用いて水溶性物質を除去する対象となる物質は、培養中の微生物が培地中に生成するSTLを含む培地あるいは培養液、または、反応系から分離された固体状のSTL混合物であってもよい。
【0037】
この抽出工程までを経て得られた生成物を「抽出生成物」と称する。
【0038】
次に、脂溶性物質除去工程において、抽出工程によって得られた抽出生成物から、脂溶性物質を取り除く。ここで「脂溶性物質」とは、脂に対して可溶な物質であることが意図される。
【0039】
水溶性物質が取り除かれた固形物状のSTL組成物から脂溶性物質を取り除く方法は、STLと脂溶性物質とを分離させることが可能な方法であれば特に限定されず、慣用的な方法を用いることができる。たとえば、まず、抽出生成物から溶媒を留去し、ついで、溶媒を留去して得られた固形物に糖脂質と脂溶性物質とを分離させることが可能な溶媒を添加し、当該溶媒層を除去することによって、脂溶性物質が除去された糖脂質を得ることができる。これにより、糖脂質から効率よく脂溶性の不純物を取り除くことができる。
【0040】
ここで、糖脂質と脂溶性物質とを分離させることが可能な溶媒とは、糖脂質が難溶または不溶であり、脂溶性物質が可溶な溶媒である。このような溶媒として、たとえばヘキサンを用いた場合には、培養液から析出した生成物から、溶媒を用いて水溶性物質を除去した後、この溶媒を留去して得られる固形物をヘキサンに懸濁し、ろ過または遠心分離してヘキサンを除去する。これにより、STL組成物から効率よく脂溶性の不純物を取り除くことができ、本発明において界面活性剤として用いられるSTLを得ることができる。
【0041】
上述の製造方法により得られたSTLは、白色固形物である。具体的には、メタノールに5質量%溶解させたときの溶液の吸光度が、波長400nm〜700nmの領域にわたって0.05以下を示すことが好ましい。また、このSTLは、水に少なくとも1質量%溶解しえ、特に、水に5質量%溶解しえるSTLである。
【0042】
また、STLの塩を、上述の方法により得られたSTLから、以下の手法により得ることができる。1質量%の水溶液となるように水と混合し、スターラーを用いて攪拌しながら、任意のアルカリを加えて水溶液を中和し、STLを溶解させる。pHが7になった水溶液を凍結乾燥させることにより、STLの塩を得ることができる。
【0043】
本発明に係る油性ゲル状組成物に用いるSTLは、ナトリウム、カリウムおよびリチウムなどのアルカリ金属、または、カルシウム、マグネシウムおよびベリリウムなどのアルカリ土類金属の塩として用いることが好ましい。STLを、アルカリ金属との塩またはアルカリ土類金属との塩として用いた場合には、STLを水または多価アルコールなどの溶媒に良好に溶解することができる。
【0044】
これらの中でもナトリウム、カリウムが好ましく、特にナトリウムが好ましい。STLのナトリウム塩は、水溶性が高く、溶媒に対する溶解度がさらに向上するという利点がある。
【0045】
本発明の油性ゲル状組成物におけるSTLの含有量は、油性ゲル状組成物全量の0.01質量%〜50質量%であることが好ましく、0.1質量%〜20質量%であることがより好ましく、0.5質量%〜10質量%であることがさらに好ましい。STLの量が0.01質量%未満では十分にゲル化せず、また50質量%を超えて用いると粘度が高くなり過ぎるため、好ましくない。なお油性ゲル状組成物全量とは、STL、水、アルコール、および油性成分の総量をいう。
【0046】
〔水、多価アルコール〕
本発明に係る油性ゲル状組成物は、水および多価アルコールの少なくとも一方を含む。
【0047】
本発明の油性ゲル状組成物において用いる多価アルコールは、通常化粧料において用いられるもので、油性ゲル状組成物を調製できるものであれば、特に制限はなく用いることができる。
【0048】
このような多価アルコールとしては、たとえば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、グルコース、サッカロース、マルトース、キシロース、トレハロースを用いることができる。
【0049】
これらを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
これらのうち好ましいのは、グリセリン、ソルビトール、およびプロピレングリコールであり、特に好ましいのはグリセリンである。グリセリンは、グリセリン自体に保湿性があり、さらに安全性が高いので、化粧品の材料として適しているという利点がある。
【0051】
本発明の油性ゲル状組成物に水を含む場合には、油性ゲル状組成物の粘度が低下する。そのため、油性ゲル状組成物に含める水の含有量を調整することにより、油性ゲル状組成物の粘度を調整することができる。したがって、油性ゲル状組成物の使用目的に合わせて、水の含有量を変化させることが好ましい。
【0052】
本発明の油性ゲル状組成物における水と多価アルコールとを合わせた含有量は、油性ゲル状組成物全量の1質量%〜89.9質量%であることが好ましく、5質量%〜80質量%であることがより好ましく、10質量%〜70質量%であることがさらに好ましい。水と多価アルコールとを合わせた含有量が1質量%〜89.9質量%である場合には、安定して油性ゲル状組成物を形成できるという利点がある。
【0053】
〔油性成分〕
本発明に係る油性ゲル状組成物は、油性成分を含む。
【0054】
油性成分としては、1気圧25℃において液状またはペースト状のものが好ましく、特に液状油が好ましい。
【0055】
このような液状油としては、たとえば、炭化水素類、高級アルコールエステル類、高級脂肪酸エステル類、トリグリセリド類、シリコーン油類、高級アルコール類、高級脂肪酸類、動植物油類、コレステロール脂肪酸エステル類、ステロール類、ステロールエステル類、ポリフェノール類が挙げられ、好ましいものとしては、ミネラル油、流動パラフィン、スクアラン、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソオクチル、ミリスチン酸イソトリデシル、ミリスチン酸オクタデシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリルコレステリルエステル、2−エチルヘキサン酸トリグリセリド、2−エチルヘキサン酸セチル、ヒマワリ油、オリーブ油、ホホバ油、ツバキ油、グレープシード油、アボカド油、マカダミアナッツ油、アーモンド油、米胚芽油、丁字油、オレンジ油、トウヒ油、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、メチルポリシロキサン、高重合メチルポリシロキサンなどのジメチルシリコーン油;オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロサン、メチルシクロポリシロキサン、メチルポリシクロシロキサンなどの環状シリコーン油;ポリエーテル変性シリコーン油、メチルフェニルポリシロキサンなどのメチルフェニルシリコーン油などが挙げられる。
【0056】
これらを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
本発明の油性ゲル状組成物における油性成分の含有量は、油性ゲル状組成物全量の10〜98.9質量%であることが好ましく、20〜95質量%であることがより好ましく、30質量%〜90質量%であることがさらに好ましい。油性成分が上記の範囲にある場合には、安定して油性ゲル状組成物を形成できるという利点がある。
【0058】
なお、本発明の油性ゲル状組成物は、その組成を調整することにより外観を透明にすることができる。
【0059】
〔その他の添加物〕
本発明の油性ゲル状組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、紫外線吸収剤が配合されていてもよい。紫外線吸収剤とは、通常サンスクリーン化粧品などに用いられ、紫外線A波あるいは紫外線B波、またはその両方を低減させ、皮膚に対する紫外線の有害作用を低減させることのできる物質のことをいう。
【0060】
このような紫外線吸収剤としては、p−アミノ安息香酸、グリセリル−p−アミノ安息香酸、アミル−p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸、2−エチルヘキシル−p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸などのp−アミノ安息香酸誘導体;2,4−ジイソプロピルケイ皮酸メチル、2,4−ジイソプロピルケイ皮酸エチル、p−メトキシケイ皮酸カリウム、p−メトキシケイ皮酸ナトリウム、p−メトキシケイ皮酸イソプロピル、p−メトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、p−メトキシケイ皮酸2−エトキシエチル、p−エトキシケイ皮酸エチルなどのケイ皮酸誘導体;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノンナトリウム、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−スルホベンゾフェノンナトリウムなどのベンゾフェノン誘導体;サリチル酸−2−エチルヘキシル、サリチル酸フェニル、サリチル酸−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルなどのサリチル酸誘導体;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、4−tert−ブチル−4’−メトキシベンゾイルメタンなどが挙げられる。
【0061】
これらのうち、常温で固体のものは液状油に溶解または分散させて用いることができる。常温で液状またはペースト状のものは、それ自身液状油として用いることもできるし、他の液状油と混合して用いることもできる。それ自身液状油として用いることができるもののうち好ましいのは、p−メトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、または4−tert−ブチル−4’−メトキシベンゾイルメタンのp−メトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル溶液である。
【0062】
また、本発明の油性ゲル状組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、抗酸化剤および香料を配合することもできる。これらは常温で固体のものは液状油に溶解または分散して用いることができる。常温で液状またはペースト状のものは、それ自身液状油として用いることもできるし、他の液状油と混合して用いることもできる。用いることのできる抗酸化剤としては、たとえば、トコフェロール、酢酸トコフェロール、およびビタミンA類(たとえば、レチノイン酸、レチノイン酸エステル、レチノール、レチノイドなど)が挙げられる。
【0063】
本発明の油性ゲル状組成物の用途としては、好ましくは化粧品が挙げられ、たとえばクリーム、ローション、クレンジングジェル、クレンジングクリームなどの基礎化粧料;ファンデーション、アイシャドウ、リップカラー、リップグロスなどのメーキャップ化粧料;ヘアクリーム、スタイリングジェル、ヘアワックスなどの頭髪用化粧料;シャンプー、リンス、ハンドソープ、ボディーソープ、洗顔フォームなどの洗浄料などに好適に用いることができる。
【0064】
油性ゲル状組成物を化粧料の用途に使用する場合には、化粧料に通常用いられる任意の成分を、本発明の効果を損なわない範囲において、配合することができる。
【0065】
このような成分としては、たとえば、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類;ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピルなどのエステル類、トリイソオクタン酸グリセリル、オリーブ油などのトリグリセライド類;メチルフェニルポリシロキサン、メチルポリシロキサンなどのシリコーン油類;セタノール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール類、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸類;グリセリン、1,3−ブタンジオール、プロピレングリコールなどの多価アルコール類;エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール類;非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、増粘剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、エモリエント剤、乳化剤、可溶化剤、抗炎症剤、保湿剤、防腐剤、pH調整剤、色素、香料、粉体類、水などが挙げられる。
【0066】
油性ゲル状組成物を化粧料の用途に使用する場合に添加する好ましい任意成分としては、非イオン界面活性剤類、高級脂肪酸類、および高級アルコール類である。中でもステアリン酸、ベヘニルアルコールが好ましい。これらの好ましい含有量は、化粧料全量に対して0.01質量%〜10質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%〜5質量%である。このようにして得られる化粧料は、皮膚刺激が少なく、クレンジング剤、保湿剤、クリーム、およびローションとしてきわめて優れている。
【0067】
〔油性ゲル状組成物の調製方法〕
本発明の油性ゲル状組成物は、たとえば、以下の方法により調製することができる。まず、多価アルコールまたは水にSTLのナトリウム塩を溶解し、攪拌しながら油性成分を少量ずつ添加していくことにより調製することができる。多価アルコールと水を併用する場合には、水は油性成分を添加した後に添加してもよい。
【0068】
油性成分は、所定量ずつ添加(分割添加)しても、連続的に添加(連続添加)してもよい。分割添加の場合には、すでに添加されている多価アルコールと水との総量に対して30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下の量を一度に添加して、攪拌して均一にする。それを繰り返すことにより必要量を添加する。
【0069】
連続添加の場合には、添加した油性成分が分離せず均一に混ざる量であれば、単位時間当たりに添加する量に、特に制限はない。
【0070】
また、他の成分を添加する場合には、油性成分を添加する前に添加しても、油性成分に溶解または分散させて添加しても、油性成分を全量添加した後に添加しても、油性成分を添加している途中で添加しても何れの方法でもかまわない。多価アルコールおよび水は、最初に全量を添加しても、添加量の一部を最初に使用して残りを後から添加してもよい。
【0071】
本発明によれば、糖脂質型のバイオサーファクタントであるサクシノイルトレハロース脂質を界面活性剤として含む、新規な油性ゲル状組成物を提供することができる。本発明の油性ゲル状組成物においては、水の含有量を調整することにより、油性ゲル状組成物の粘度を調整することができる。そのため様々な用途への適用が可能である。また、本発明の油性ゲル状組成物は耐硬水性に優れている。すなわち、たとえば本発明の油性ゲル状組成物を化粧料として用いて、化粧料を肌から除去する際に、硬度の高い水を用いても油性成分が分離せず、析出物の発生を防ぐことができる。具体的には、硬度が50ppm以上の水を用いても油性成分が分離し得ない油性ゲル状組成物を提供する。
【0072】
〔乳化組成物、および乳化組成物の調製方法〕
本発明にかかる乳化組成物の調製方法は、上記油性ゲル状組成物に水を混合する工程を含む。油性ゲル状組成物としては、上述した油性ゲル状組成物を用いることが好ましい。これにより、界面活性剤として上述したバイオサーファクタントと、水性成分と、油性成分とを含む、液状の乳化組成物を得ることができる。なお、本明細書にて、乳化組成物とは、乳化によって得られる組成物が意図され、エマルションと称されることもある。
【0073】
また、本発明にかかる調製方法により得られる乳化組成物は、液晶を形成しているバイオサーファクタントと、油性成分と、水性成分とを含む。具体的には、バイオサーファクタントの液晶構造中に、油性成分および水性成分とが分散している。または、バイオサーファクタントの液晶構造中に、油性成分の粒子および水性成分の粒子を捕捉しているということもできる。これは、本発明にかかる調製方法は、バイオサーファクタントが液晶を形成している油性ゲル状組成物を使用していることによる。
【0074】
そのため、本発明にかかる調製方法によれば、水性成分と油性成分との分離が抑制され、長期にわたって安定した乳化組成物を提供することができる。
【0075】
また、本発明にかかる調製方法によれば、油性ゲルの状態を経由せずに調製する方法、すなわち、油性成分とバイオサーファクタントの水溶液とをホモジナイザーを用いて機械的に攪拌して調製する方法に比べて、水性成分と油性成分との分離が抑制された、より安定な乳化組成物を提供することができる。
【0076】
水を混合する工程は、水を油性ゲル状組成物に添加し、攪拌することを含む。水の混合量は、油性ゲル状組成物の全質量に対して、50質量%〜100000質量%であることが好ましく、75質量%〜80000質量%であることがより好ましく、100質量%〜60000%であることがさらに好ましい。水の混合量が、50質量%より小さい場合には、粘度が高く、乳化組成物を得ることができない、つまり、ゲル状態のままである。
【0077】
水は、混合すべき全量を、一度に添加(一括添加)しても、複数に分割して添加(分割添加)しても、連続的に添加(連続添加)してもよい。分割添加の場合には、一回の添加量が、添加する水の全質量に対して100質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは10質量%以下の量を一度に添加して、攪拌して均一にする。それを繰り返すことにより必要量を添加する。ついで、混合溶液が均一になるまで攪拌を繰り返す。以上の方法により、本実施形態にかかる乳化組成物を得ることができる。
【0078】
本発明にかかる乳化組成物の調製方法によれば、水性成分と油性成分とが均一に分散した状態を長期にわたって維持することができ、安定性の高い乳化組成物を得ることができる。また、本発明の調製方法によれば、油性ゲル状組成物に添加する水として、硬度が大きい水を用いた場合であっても、安定性の高い乳化組成物を提供することができる。
【0079】
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0081】
〔STLの生産〕
ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) SD−74株を以下の条件でシード培養した。本実施例において用いたロドコッカス・エリスロポリス SD−74株は、植物油脂資化性菌として分離され、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、「受託番号:FERM AP−21299」として寄託されている。
【0082】
500ml容坂口フラスコ中のFPY培地100ml(フルクトース2%、ポリペプトン0.5%、酵母エキス0.5%、NaNO0.1%、KHPO0.1%、MgSO−7HO0.02%)に、プレート上に形成された菌体コロニーを植菌し、30℃で38時間振とう培養をおこなった。
【0083】
改変MedD培地(1L当たり、KHPO5.44g、KHPO10.45g、KNO3g、MgSO−7HO0.1g、KSO35g、酵母エキス3g、パーム油100mlを含む溶液を、水道水で1Lにメスアップ)6000mlに、シード培養後の培養液全量を接種し、以下の条件で本培養を開始した。10Lジャー培養槽を用いて、培養温度30℃で、500rpmで攪拌させながら培養した。培地のpHを7.0に設定し、5NのKOHを自動添加することによって培地のpHを維持した。
【0084】
上記本培養中の培地から、2日に1回程度サンプリングをおこない、培養液中のSTL濃度を以下に示すように定量した。
【0085】
サンプリングした培養液を15000rpmで10分間遠心分離し、上層の油成分が混入しないように注意して水層を抜き出した。抜き出した液体を適宜希釈した後、以下に示すアンスロン硫酸法によってトレハロース濃度を定量した。まず、希釈した試料1mlにアンスロン試薬(75%硫酸に0.2%の濃度でアンスロンを溶解させることによって、測定時に調整)5mlを添加し攪拌した。攪拌後の溶液を沸騰水中で10分間反応させ、5分間氷冷することによって反応を停止させた後、室温で20分間放置した。
【0086】
得られた反応液に対して波長620nmの吸光度を測定した。スタンダードとして4mMトレハロースを20倍希釈したものを用いた。STLは1分子のトレハロースを含んでいるため、トレハロース濃度としてSTL濃度を定量した。STLの分子量を840としてSTLの質量濃度を算出した。培養開始120時間後にパーム油600mlを追加し、200時間後にパーム油300mlをさらに追加した。培養285時間後に培養液のSTL濃度が37g/Lになった。
【0087】
培養285時間後の培養液860mlを、6000rpmで30分間遠心分離し、液中の菌体および残存基質を除去した後、6NのHClを40ml添加し、溶液のpHを2.98にした。それにより、溶液中に白色のゲル状析出物が析出した。この溶液を6000rpmで30分間遠心分離することによって、液層を除去した結果、湿重量182gの析出物が得られた。
【0088】
得られた析出物に186gの酢酸エチルを添加し、十分に攪拌した。水層と酢酸エチル層とに分離した溶液を、分液漏斗を用いて分離し上層の酢酸エチル層を回収した。回収した酢酸エチル溶液から、エヴァポレーターを用いて酢酸エチルを除去した。酢酸エチルを除去して得られた固形物を等量のヘキサンで懸濁した後、懸濁液を遠心分離してヘキサンを除去する工程を3回繰り返した。ヘキサンを除去して得られた液体をエヴァポレーターで乾固し、白色のSTL固形物12.6gを得た。
【0089】
上述の製造方法により得られたSTLをメタノールに溶解させ、濃度が5質量%のSTL溶液を調製した。STL溶液の可視光領域での吸収スペクトルを分光光度計(UV−2550、島津製作所)を用いて測定した。その結果、STL溶液は、波長400nm〜700nmの領域にわたって0.05を超えることはなかった。
【0090】
得られたSTLを1質量%の水溶液となるように、水と混合し、スターラーで攪拌しながら水酸化ナトリウムを加えて中和し、STLを溶解させた。最終的にpHを7とした水溶液を凍結乾燥させて、STLのナトリウム塩を調製した。
【0091】
〔油性ゲル状組成物〕
上述した方法により精製したSTLのナトリウム塩(以下、STLナトリウムと記載する)を用いて実施例1〜6に示す油性ゲル状組成物を調製した。なお、調製はすべて室温でおこなった。以下の実施例において、%は質量%のことである。
【0092】
(実施例1:グリセリン−スクアランゲル)
実施例1では、各成分の濃度が、スクアラン79%、グリセリン20%、およびSTLナトリウム1%である油性ゲル状組成物を調製した。まず、STLナトリウムをグリセリンに溶解し、スクアランを、すでに添加したグリセリンの10質量%ずつ、攪拌しながら分割添加して、均一になるまで攪拌し、油性ゲル状組成物を調製した。
【0093】
得られた油性ゲル状組成物は半透明であった。
【0094】
(実施例2:グリセリン−流動パラフィンゲル)
実施例2では、各成分の濃度が、流動パラフィン79%、グリセリン20%、およびSTLナトリウム1%である油性ゲル状組成物を調製した。まず、STLナトリウムをグリセリンに溶解し、流動パラフィンを、すでに添加したグリセリンの10質量%ずつ、攪拌しながら分割添加して、均一になるまで攪拌し、油性ゲル状組成物を調製した。
【0095】
得られた油性ゲル状組成物は透明であった。
【0096】
(実施例3:エチレングリコール−スクアランゲル)
実施例3では、各成分の濃度が、スクアラン67%、エチレングリコール32%、およびSTLナトリウム1%である油性ゲル状組成物を調製した。まず、STLナトリウムをエチレングリコールに溶解し、スクアランを、すでに添加したエチレングリコールの10質量%ずつ、攪拌しながら分割添加して、均一になるまで攪拌し、油性ゲル状組成物を調製した。
【0097】
得られた油性ゲル状組成物は半透明であった。
【0098】
(実施例4:グリセリン−シリコーン油ゲル)
実施例4では、各成分の濃度が、シリコーン油(KF−968、信越シリコーン社)79%、グリセリン20%、およびSTLナトリウム1%である油性ゲル状組成物を調製した。まず、STLナトリウムをグリセリンに溶解し、シリコーン油を、すでに添加したグリセリンの10質量%ずつ、攪拌しながら分割添加して、均一になるまで攪拌し、油性ゲル状組成物を調製した。
【0099】
得られた油性ゲル状組成物は白色であった。
【0100】
(実施例5:グリセリン−水−スクアランゲル)
実施例5では、各成分の濃度が、スクアラン77%、グリセリン19%、水3%、およびSTLナトリウム1%である油性ゲル状組成物を調製した。まず、STLナトリウムをグリセリンに溶解し、スクアランを、すでに添加したグリセリンの10質量%ずつ、攪拌しながら分割添加して、均一になるまで攪拌し、さらに水を添加して均一になるまで攪拌し、油性ゲル状組成物を調製した。
【0101】
得られた油性ゲル状組成物は透明であった。
【0102】
(実施例6:水−スクアランゲル)
実施例6では、各成分の濃度が、スクアラン75%、水20%、およびSTLナトリウム5%である油性ゲル状組成物を調製した。まず、STLナトリウムを水に溶解し、スクアランを、すでに添加した水の10質量%ずつ、攪拌しながら分割添加して、均一になるまで攪拌し、油性ゲル状組成物を調製した。
【0103】
得られた油性ゲル状組成物は半透明であった。
【0104】
(実施例7:グリセリン−水−シリコーン油ゲル)
実施例7では、各成分の濃度が、シリコーン油(KF−968、信越シリコーン社)65.3%、グリセリン16.5%、水17.4%、およびSTLナトリウム0.8%である油性ゲル状組成物を調製した。まず、STLナトリウムをグリセリンに溶解し、シリコーン油を、すでに添加したグリセリンの10質量%ずつ、攪拌しながら分割添加して、均一になるまで攪拌し、さらに水を添加して均一になるまで攪拌し、油性ゲル状組成物を調製した。
【0105】
得られた油性ゲル状組成物は透明であった。
【0106】
〔油性ゲル状組成物の粘度〕
上記実施例1および実施例4の油性ゲル状組成物の粘度を、RDAII(Rheometric社)を用いて測定した。測定条件として、せん断速度は30(1/s)である。
【0107】
上記の条件において、実施例1の油性ゲル状組成物の粘度は、19.3(Pa・s)であり、実施例4の油性ゲル状組成物の粘度は、66.0(Pa・s)であった。
【0108】
〔乳化組成物の調製方法〕
次に、実施例4における油性ゲル状組成物を用いて、乳化組成物を調製した。具体的には、実施例4にかかる油性ゲル状組成物の全重量と等重量の水を添加した。水の添加は、油性ゲル状組成物を攪拌しつつ、添加する水の全量を10質量%ずつに分割して添加した。このようにして、調製された乳化組成物(エマルション)は、乳白色であり、均一なエマルションであった。なお、エマルションの均一性の評価は目視したときに、油性成分と、水性成分の分離が観測されるか否かを基準に行なった。
【0109】
〔油性ゲル状組成物の耐硬水性および乳化組成物の安定性〕
ついで、上記実施例1における油性ゲル状組成物を用いて、油性ゲル状組成物の耐硬水性および乳化組成物の安定性の試験を以下の方法によりおこなった。なお、本実験において、乳化組成物の安定性とは、一旦エマルションを形成した後に、均一に分散した状態を保持できる能力のことをいう。
【0110】
サンプル瓶に実施例1にかかる油性ゲル状組成物50mgを注入し、さらに、硬度が10ppm、50ppm、100ppm、250ppm、または500ppmである水をそれぞれ4950mg加え、試験管ミキサー(HM−10、iuchi社)を用いて1分間混和した。混和した後、液体の様子を目視により観察し、乳化組成物(エマルション)の均一性および析出物の有無について評価をおこなった。各硬度の水としては、CaCl−2HOを純水に溶解し、CaCO換算において、10ppm、50ppm、100ppm、250ppm、500ppmとなるように調製した水溶液を用いた。
【0111】
なお、界面活性剤としてサーファクチンのナトリウム塩(以下、サーファクチンナトリウムと記載)を含む油性ゲル状組成物を調製し(比較例1)、比較例1にかかる油性ゲル状組成物についても、耐硬水性の試験を行なった。比較例1の油性ゲル状組成物は、各成分の濃度が、スクアラン79%、グリセリン20%、およびサーファクチンナトリウム1%となるように、サーファクチンナトリウムをグリセリンに溶解し、スクアランを、すでに添加したグリセリンの10質量%ずつ、攪拌しながら分割添加して、均一になるまで攪拌し、調製をおこなった。
【0112】
表1に、実施例1および比較例1におけるそれぞれの結果を示す。
【0113】
【表1】

【0114】
表1に示すように、実施例1の油性ゲル状組成物を用いることにより、500ppmの硬度の水においても均一な乳化組成物(エマルション)となり、油が分離することはなく、また析出物もみられなかった。つまり、本実施例によれば、硬度が高い場合であっても、安定性に優れた乳化組成物を提供することができた。これに対して比較例1における油性ゲル状組成物を用いたは、50ppmの硬度の水において油性成分が分離し、なおかつサーファクチンのカルシウム塩と思われる析出物が現れた。油性成分と析出物は絡み合ってスカムを形成していた。
【0115】
サーファクチンは耐硬水性が低く、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンなどの2価の金属イオンを10ppm程度の濃度で含むと、不溶性の塩を形成することが知られている。したがって、サーファクチンを含有する油性増粘ゲル状組成物を用いた化粧品は、表1の結果からも予想されるように、硬度の高い水とともに用いると不溶性の塩が析出してしまうという問題が生じ得る。
【0116】
日本の水道水の硬度は地域により異なるが、0ppm〜180ppmの間であり、平均すると50ppm〜60ppmである。さらに、ヨーロッパの水は硬度の高いものが多く、300ppm以上の地域も存在する。したがって、多くの地域において上記問題が発生し得る。
【0117】
油性ゲル状組成物を用いたクレンジングジェルを、水で洗い流す際に、本発明の油性ゲル状組成物用いた場合には、水で洗い流すだけでベタつくことなく肌から除去することができる。しかしながら、比較例1の油性ゲル状組成物を用いた場合には、水で洗い流す際に、ゲルから油性成分が分離してしまい、肌からの除去が困難になるおそれがある。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、白色、半透明、または透明であり、油性成分を多量に含有できるので、クレンジング化粧料、保湿化粧料、および乳化剤などの化粧品に好適な油性ゲル状組成物を提供する。また、本発明は、クリーム、ローション等の化粧料に好適な乳化組成物を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤として糖脂質構造を有するバイオサーファクタントを含有し、水および多価アルコールの少なくとも一方、ならびに油性成分を含むことを特徴とする油性ゲル状組成物。
【請求項2】
前記糖脂質構造を有するバイオサーファクタントを0.01質量%〜50質量%含むことを特徴とする請求項1に記載の油性ゲル状組成物。
【請求項3】
前記水と前記多価アルコールとを合わせて1質量%〜89.9質量%含むことを特徴とする請求項1または2に記載の油性ゲル状組成物。
【請求項4】
前記油性成分を10質量%〜98.9質量%含むことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の油性ゲル状組成物。
【請求項5】
前記多価アルコールは、グリセリンおよびエチレングリコールの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の油性ゲル状組成物。
【請求項6】
前記油性成分は、スクアラン、流動パラフィン、およびシリコーン油の少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の油性ゲル状組成物。
【請求項7】
前記糖脂質構造を有するバイオサーファクタントは、サクシノイルトレハロース脂質であることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の油性ゲル状組成物。
【請求項8】
前記サクシノイルトレハロース脂質は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方との塩であることを特徴とする請求項7に記載の油性ゲル状組成物。
【請求項9】
前記サクシノイルトレハロース脂質は、ナトリウム塩であることを特徴とする請求項7または8に記載の油性ゲル状組成物。
【請求項10】
前記バイオサーファクタントは、液晶を形成していることを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の油性ゲル状組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の油性ゲル状組成物に水を混合することを特徴とする乳化組成物の調製方法。
【請求項12】
前記油性ゲル状組成物の全質量に対して、50質量%以上かつ100000質量%以下の水を混合することを特徴とする請求項11に記載の乳化組成物の調製方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の調製方法により得られる乳化組成物。

【公開番号】特開2009−79030(P2009−79030A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40610(P2008−40610)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】