説明

油膜厚さ測定方法

【課題】長時間の運転によるリング外周の摩耗の影響を受けることのない油膜厚さの測定方法を提供する。
【解決手段】シリンダ壁(4)を摺動するピストンリング(12)の外周に二段の溝(13)を形成すると共に、ピストンリング(12)が、シリンダ壁(4)に臨ませている光ファイバー先端(31a)近傍を通過するときに、この光ファイバー先端(31a)よりレーザーの発生する励起光を光ファイバー先端(31a)とピストンリング(12)外周の第1、第2の溝との間に存在する潤滑油に向けて照射する手順と、この照射を受けて、光ファイバー先端(31a)とピストンリング外周の第1、第2の溝との間に存在する潤滑油中の蛍光剤により発する第1、第2の光の強さを測定する手順と、これら測定された第1と第2の光の強さの差に基づいてピストンリング(12)とシリンダ壁(4)との間に形成される油膜厚さを測定する手順とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油膜厚さ検定方法、特にレーザー誘起蛍光法(LIF法)を用いてピストンリングとシリンダ壁との間に形成される油膜厚さを動的に測定するものに関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量法によりピストンリングとシリンダ壁との間に形成される油膜厚さを測定するものがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−169600公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記の静電容量法は、シリンダライナの内壁面を電極の相手側電極として、これらの電極とその間に満たされている潤滑油とで機関内にコンデンサを形成し、電極間の静電容量変化から油膜厚さを測定するものである。この静電容量法では、図5(a)に示されているように、深さaが4μmである溝と深さbが8μmである溝とが連続している検定溝42がシリンダライナ41のスラスト側(機関のクランクプーリ側からみて機関が時計回り方向に回転する場合の向かって左側)の内壁面41aに設けられ、1200rpm、無負荷の条件でこの検定溝42上をトップリング43が通過するときの油膜厚さの変化から測定感度(油膜厚さの変化量に対する静電容量増幅器から出力される電圧の変化量)を読みとっている。つまり、検定溝42上をトップリング43が通過すると、油膜厚さの波形は図5(b)中の階段Aの形になるので、この階段Aの段差量から、検定溝42上をトップリング43が通過した時点の測定感度を確認することができる。
【0004】
しかしながら、こうした静電容量法ではシリンダライナ41の内壁面41aの限定された範囲にのみ検定溝42が設けられているため、シリンダライナ41の内壁面41aやピストンリングに偏摩耗が生じる可能性がある。
【0005】
また、静電容量法によれば基本的に油膜厚さが厚くなったり薄くなったりする傾向がわかるだけで、油膜の絶対厚さを測定することはできない。
【0006】
一方、ピストンリングとシリンダ壁との間に形成される油膜の絶対厚さを測定する方法として、レーザー誘起蛍光法が開発されている。これは、図6(A)、図6(B)に示したように、第2番リング12の下端部の全周に所定深さhの一段の溝51を形成し、あるいは図7(A)、図7(B)に示したように、第2番リング12の外周の一部にリング下面12aからリング上面12bにかけて斜めに所定深さhの一段の溝51’を形成すると共に、シリンダ壁4に臨ませて光ファイバー(図示しない)を設け、第2番リング12が、シリンダ壁4の臨んでいる光ファイバー先端近傍を通過するときに、光ファイバー先端よりHe−Cdレーザーの発生する励起光を光ファイバー先端と第2番リング12外周の溝51、51’との間に存在する潤滑油55に向けて照射し、この照射を受けて、光ファイバー先端と第2番リング12外周の溝51、51’との間に存在する潤滑油55中の蛍光剤により発する光の強さを測定し、この測定された光の強さに基づいて第2番リング12とシリンダ壁4との間に形成される油膜厚さを測定するものである。
【0007】
ここで、図6(A)、図7(A)はレーザー誘起蛍光法を用いた従来の第1、第2の油膜厚さ測定方法における第2番リング12の一部拡大断面図、図6(B)、図7(B)は図6(A)、図7(A)の第2番リング12の一部側面図である。
【0008】
しかしながら、レーザー誘起蛍光法を用いた従来の油膜厚さ測定方法では一段の溝51、51’の形成される第2番リング12の外周の摩耗が、油膜厚さの測定結果に大きく影響してしまう。これについて説明すると、図2はレーザー誘起蛍光法により、シリンダ壁4と第2番リング12の間の油膜厚さを測定したときの油膜厚さと光の強さの関係を示しており、第2番リング12が新品のときには実線の特性であったものが、長時間の運転で第2番リング12の外周が摩耗した後には直線の傾きが一点鎖線へと小さくなってゆく。つまり、長時間の運転を行うと第2番リング12外周の摩耗により徐々に油膜厚さの測定値が変化していくわけで、長時間の運転を行う場合にこれでは正確に油膜厚さを測定することができない。
【0009】
そこで本発明は、レーザー誘起蛍光法を用いて油膜厚さを測定する場合に、長時間の運転によるピストンリング外周の摩耗の影響を受けることのない油膜厚さの測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シリンダ壁を摺動するピストンリングの外周に所定深さの第1の溝と、その深さより浅い所定深さの第2の溝とからなる二段の溝を形成すると共に、シリンダ壁に臨ませて光ファイバーを設けている。この場合に、本発明は、前記ピストンリングが、シリンダ壁に臨ませているこの光ファイバー先端近傍を通過するときに、この光ファイバー先端よりレーザーの発生する励起光を光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第1の溝との間に存在する潤滑油に向けて照射する第1照射手順と、この照射を受けて、前記光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第1の溝との間に存在する潤滑油中の蛍光剤により発する第1の光の強さを測定する第1光の強さ測定手順と、同じく前記ピストンリングが、シリンダ壁に臨ませているこの光ファイバー先端近傍を通過するときに、この光ファイバー先端よりレーザーの発生する励起光を光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第2の溝との間に存在する潤滑油に向けて照射する第2照射手順と、この照射を受けて、前記光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第2の溝との間に存在する潤滑油中の蛍光剤により発する第2の光の強さを測定する第1光の強さ測定手順と、これら測定された第1と第2の光の強さの差に基づいて前記ピストンリングとシリンダ壁との間に形成される油膜厚さを測定する油膜厚さ測定手順とを含んでいる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリンダ壁を摺動するピストンリングの外周に所定深さの第1の溝と、その深さより浅い所定深さの第2の溝とからなる二段の溝を形成すると共に、シリンダ壁に臨ませて光ファイバーを設け、前記ピストンリングが、シリンダ壁に臨ませているこの光ファイバー先端近傍を通過するときに、この光ファイバー先端よりレーザーの発生する励起光を光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第1の溝との間に存在する潤滑油に向けて照射し、この照射を受けて、前記光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第1の溝との間に存在する潤滑油中の蛍光剤により発する第1の光の強さを測定し、同じく前記ピストンリングが、シリンダ壁に臨ませているこの光ファイバー先端近傍を通過するときに、この光ファイバー先端よりレーザーの発生する励起光を光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第2の溝との間に存在する潤滑油に向けて照射し、この照射を受けて、前記光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第2の溝との間に存在する潤滑油中の蛍光剤により発する第2の光の強さを測定し、これら測定された第1と第2の光の強さの差に基づいて前記ピストンリングとシリンダ壁との間に形成される油膜厚さを測定するので、エンジンの長時間の運転によりピストンリングの外周に摩耗が生じても、この摩耗の影響を受けて第1と第2の光の強さの差が変化することがなくなり、ピストンリングとシリンダ壁との間に形成される油膜厚さを精度よく測定することができ、かつ長時間の動的測定が可能になる。
【0012】
また、長時間の動的測定が可能になることにより、従来は不可能であったエンジン実働時のオイル性状(オイル劣化、ガソリン希釈等)による油膜厚さ測定値への影響の確認が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1はレーザー誘起蛍光法を用いた本発明の油膜厚さ測定方法に用いる装置の概略構成図を示している。
【0015】
クランクピン軸受(図示しない)から投げ出され、あるいはピストンオイルジェット(図示しない)により飛ばされた潤滑油は、ピストン2の裏側やシリンダライナ3に付着し、シリンダライナ3に付着した潤滑油はピストン2の外周やピストンリング11、12、21の潤滑を行う。この場合に、ピストン冠面2aに最も近いトップリング11は燃焼室内の気密を保つためのもので、トップリング11の下方に位置する第2番リング12やオイルリング21がシリンダ壁4(シリンダライナ3の内周壁)に付着した潤滑油を、一部を残してかき落とす。こうした第2番リング12やオイルリング21の働きによって、シリンダ壁4に常時、所定厚さの油膜が形成されている。
【0016】
シリンダ壁4に付着しているこの油膜、つまり、ピストンリングとシリンダ壁4との間に形成される油膜の厚さを測定するためにレーザー誘起蛍光法が用いられる。このレーザー誘起蛍光法を用いた油膜厚さの測定方法そのものは公知である(瀧口、他2名、「光ファイバとLIFによるピストンリングの多点油膜測定法」、自動車技術会論文集、1998年4月、第29巻、第2号、p.71〜76参照)。
【0017】
レーザー誘起蛍光法を用いたこの公知の油膜厚さの測定方法について簡単に説明すると、油膜厚さ測定点としてシリンダ壁4に臨んで光ファイバー31の一端が取り付けられ、他端にはHe−Cdレーザ32が接続されている。また、光ファイバー31の途中に設けられた光ファイバーカップラー33より分岐する光ファイバー34に光学フィルタ35を介してフォトマルチプライヤー(光電子増倍管)36が接続されている。
【0018】
He−Cdレーザ32より発した励起光は、光ファイバ31によりシリンダ壁(ピストンリングとの摺動面)4に臨ませている光ファイバー先端31aまで直接に導かれ、光ファイバー先端31aよりそのままシリンダ壁4に付着している油膜38に向けて照射される。潤滑油に添加している蛍光剤(トレーサー)により発した蛍光は、励起光と同一の経路(光ファイバー31)を通り、光ファイバーカプラー33により分岐されてフォトマルチプライヤー36に入る。フォトマルチプライヤー36は、蛍光による光の強さを電圧値に変換するためのもので、このようにして光ファイバー先端31aと第2番リング12外周の溝との間に存在する潤滑油38中の蛍光剤により発する光の強さが測定される。
【0019】
実際にはシリンダ壁4に複数の油膜厚さ測定点が設けられ、複数点の油膜厚さが同時に測定される。光の強さと油膜厚さとの間には比例関係があるので、複数点の測定結果を、横軸を油膜厚さ、縦軸を光の強さに採ったグラフにプロット(図2で×で示す)し、そのプロットした点を結ぶと、図2実線に示したように油膜厚さに対する光の強さの特性が線形の関係として得られる。
【0020】
さて、レーザー誘起蛍光法を用いた公知の油膜厚さ測定方法では、図6(A)、図6(B)に示したように、第2番リング12の下端の全周に所定深さhの一段の溝51を設けるかあるいは図7(A)、図7(B)に示したように第2番リング12の外周の一部に所定深さhの一段の溝51’を斜めに設けるかしておき、この一段の溝51、51’が、シリンダ壁側の光ファイバー先端31aである油膜厚さ測定点を通過するタイミングを測定タイミングとして、第2番リング12とシリンダ壁4との間に形成される油膜厚さを測定しているのであるが、こうしたレーザー誘起蛍光法を用いた公知の油膜厚さ測定方法だと、第2番リング12の外周の摩耗に伴って油膜厚さに対する光の強さの特性が変化してしまう。これは、図6(A)、図7(A)において、第2番リング12の新品時には所定深さhの溝に存在する油膜中の蛍光による光の強さを測定していたところ、長時間の運転を行って所定量Xの摩耗が第2番リング12の外周に生じた後には一段の溝51、51’の深さがh−Xとなり、この深さ(h−X)の溝に存在する油膜中の蛍光による光の強さを測定することになるため、摩耗した分だけ第2番リング12の新品時より光の強さが弱まり、この結果、図2一点鎖線で示したように油膜厚さに対する光の強さの特性、つまり直線の傾きが小さくなってしまうためである。このように、長時間の運転を行うと、第2番リング12外周の摩耗により徐々に油膜厚さの測定値が変化していくわけで、長時間の運転を行う場合にこれでは正確に油膜厚さを測定することができない。
【0021】
これに対処するため、本実施形態では、レーザー誘起蛍光法を用いた第1の油膜厚さ測定方法(第1実施形態)として図3(A)、図(B)に示したように、第2番リング12の下端部の全周に二段の溝13を設けるかあるいはレーザー誘起蛍光法を用いた第2の油膜厚さ測定方法(第2実施形態)として図4(A)、図4(B)に示したように、第2番リング12の外周の一部にリング下面12aからリング上面12bにかけて斜めに二段の溝13’を設ける。
【0022】
ここで、図3(A)、図4(A)はレーザー誘起蛍光法を用いた本発明の第1、第2の油膜厚さ測定方法における第2番リング12の一部拡大断面図、図6(B)、図7(B)は図3(A)、図4(A)の第2番リング12の一部側面図である。これらの図において、上方がピストン冠面の側、下方がピストンスカートの側である。
【0023】
具体的には、レーザー誘起蛍光法を用いた第1の油膜厚さ測定方法としては、図3(A)においてリング12下端部に、リング12の径方向に所定深さh1の第1の溝14をリング12の摺動方向に所定高さH1で設け、さらにその上部にリング12の径方向に前記深さh1より浅い所定深さh2の第2の溝15をリング12の摺動方向に所定高さH2(H2<H1)で連続して設け、第1と第2の2つの溝14、15の間はリング下面12aと平行な面16でつなぐ。第2番リング12の全周下端部に二段の溝13を設けるのは、第2番リング12の全周で均等に摩耗することを期待するからである。
【0024】
そして、第2番リング12とシリンダ壁4との間に形成される油膜厚さを測定するに際しては、第1、第2の2つの各溝14、15が油膜厚さ測定点を通過するタイミングで、シリンダ壁4に臨んでいる光ファイバー先端31aと第1、第2の各溝14、15との間に存在する潤滑油中の蛍光剤により発する光の強さをフォトマルチプライヤー36により測定し、2つの測定値の差分をとる。
【0025】
次に、レーザー誘起蛍光法を用いた第2の油膜厚さ測定方法としては、図4(B)において、リング下面12a側にリング12の径方向に所定深さh3の第3の溝17をリング12の摺動方向に所定高さH3で設け、さらにその上部にリング12の径方向に前記深さh3より浅い所定深さh4の第4の溝18をリング12の摺動方向に所定高さH4(H4<H3)で連続して設け、第3と第4の2つの溝17、18の間は平行な面19でつなぐ。
【0026】
そして、第2番リング12とシリンダ壁4との間に形成される油膜厚さを測定するに際しては、第3、第4の2つの各溝17、18が油膜厚さ測定点を通過するタイミングで、シリンダ壁4に臨んでいる光ファイバー先端31aと第3、第4の各溝17、18との間に存在する潤滑油中の蛍光剤により発する光の強さをフォトマルチプライヤー36により測定し、2つの測定値の差分をとる。
【0027】
なお、第1の油膜厚さ測定方法と第2の油膜厚さ測定方法における二段の溝の形成方法の違いを示すため、第3、第4の溝17、18としたが、第1、第2の溝17、18としてもかまわない。
【0028】
上記のレーザー誘起蛍光法を用いた第1の油膜厚さ測定方法の長所と短所は次の通りである。
【0029】
長所:二段の溝13を第2番リング12の全周に渡って形成することが可能であるため、シリンダ壁4に臨んでいる光ファイバー先端31aに対して、第2番リング12が挙動等によってリング12の周方向にずれても、第2番リング12の合口以外の場所であれば油膜厚さを測定することが可能である。
【0030】
短所:溝13の二段加工に精度を要する。第2番リング12の摺動方向幅が薄くなるほど加工が困難となる。
【0031】
レーザー誘起蛍光法を用いた第2の油膜厚さ測定方法の長所と短所は次の通りである。
【0032】
長所:第2番リング12の外周に斜めに二段の溝13’を形成すると溝13’内の潤滑油に流れが生じ、溝13’内へ潤沢に油が供給され溝13’(油膜厚さ)の測定がしやすくなる。
【0033】
短所:溝13’を斜めかつ二段に加工するのに精度を要する。
【0034】
なお、二段の溝13、13’としては、図8、図9のように、第2番リング12の下部に浅いほうの溝である第2の溝15、第4の溝18を、これに対して上部に深いほうの溝である第1の溝14、第3の溝17を形成することも考えられるが、この場合には潤滑油が上部の深い方の溝である第1の溝14、第3の溝17によどむので、図3(A)、図4(A)に示した二段の溝13、13’とするほうが好ましい。
【0035】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0036】
今、図3(A)、図4(A)に示したように第2番リング12の外周が、エンジンの長時間の運転により所定量Xだけ摩耗したと仮定する。このとき、レーザー誘起蛍光法を用いた第1の油膜厚さ測定方法において、第1の溝14の深さはh1−X、第2の溝15の深さはh2−Xへと変化する。このとき、第1と第2の2つの溝14、15の深さの差を計算してみると次のようになる。
【0037】
2つの溝14、15の深さの差=(h1−X)−(h2−X)
=h1−h2…(1)
同様にして、レーザー誘起蛍光法を用いた第2の油膜厚さ測定方法において、所定量Xの摩耗により第3の溝17の深さはh3−X、第4の溝18の深さはh4−Xへと変化する。このとき、第3と第4の2つの溝17、18の深さの差を計算してみると次のようになる。
【0038】
2つの溝17、18の深さの差=(h3−X)−(h4−X)
=h3−h4…(2)
(1)式、(2)式にはいずれも摩耗量Xが含まれないので、レーザー誘起蛍光法を用いた第1の油膜厚さ測定方法において第1の溝14と第2の溝15の深さの差(つまり第1、第2の溝14、15の深さに対応する光の強さの差)をとることによって、あるいはレーザー誘起蛍光法を用いた第2の油膜厚さ測定方法において第3の溝17と第4の溝18の深さの差(つまり第3、第4の溝14、15の深さに対応する光の強さの差)をとることによって、油膜厚さ測定時に第2番リング12の外周に摩耗が生じていても、その摩耗の影響をキャンセルできることがわかる。
【0039】
第1の油膜厚さ測定法についてさらに述べると、二段の溝13を形成した一つの第2番リング12を用いることによって、h1−h2の溝(つまり第1の油膜厚さ)に対応する光の強さのデータが1つ得られる。次に、h1、h2を相違させた別の第2番リングを用いることによって、h1−h2の溝(つまり第2の油膜厚さ)に対応する光の強さのデータがもう1つ得られる。後は同様である。このようにして(第1の油膜厚さ、そのときの光の強さ)、(第2の油膜厚さ、そのときの光の強さ)、…のデータを集め、これらのデータを、横軸を油膜厚さ、縦軸を光の強さとするグラフにプロットすれば、図2破線に示した特性が得られる。
【0040】
この場合に、第1の油膜厚さ測定法によって得られる油膜厚さに対する光の強さの特性は、長時間の運転によって第2番リング12の外周が間もした後も変わらない。つまり、本実施形態によれば、油膜厚さに対する光の強さの特性が、第2番リング12の外周が摩耗した状態でも、図2破線に示したように、第2番リング12が新品のときと同じ特性を得ることができる。
【0041】
このように、本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、シリンダ壁4を摺動する第2番リング12(ピストンリング)の外周に所定深さh1の第1の溝14と、その深さより浅い所定深さh2の第2の溝15とからなる二段の溝13を形成すると共に、シリンダ壁4に臨ませて光ファイバー31を設け、第2番リング12が、シリンダ壁4に臨ませている光ファイバーの先端31a近傍を通過するときに、光ファイバー先端31aよりHe−Cdレーザー32の発生する励起光を光ファイバー先端31aと第2番リング12外周の第1の溝14との間に存在する潤滑油38に向けて照射し、この照射を受けて、光ファイバー先端31aと第2番リング12外周の第1の溝14との間に存在する潤滑油38中の蛍光剤により発する第1の光の強さを測定し、同じく第2番リング12が、シリンダ壁4に臨ませている光ファイバー先端31a近傍を通過するときに、光ファイバー先端31aよりHe−Cdレーザー22の発生する励起光を光ファイバー先端31aと第2番リング12外周の第2の溝15との間に存在する潤滑油38に向けて照射し、この照射を受けて、光ファイバー先端31aと第2番リング12外周の第2の溝15との間に存在する潤滑油38中の蛍光剤により発する第2の光の強さを測定し、これら測定された第1と第2の光の強さの差に基づいて第2番リング12とシリンダ壁4との間に形成される油膜厚さを測定するので、長時間の運転により第2番リング12の外周に摩耗が生じても、この摩耗の影響を受けて第1と第2の光の強さの差が変化することがなくなり、第2番リング12とシリンダ壁4との間に形成される油膜厚さを精度よく測定することでき、かつ長時間の動的な測定が可能になる。
【0042】
また、長時間の動的な測定が可能になることにより、従来は不可能であったエンジン実働時のオイル性状(オイル劣化、ガソリン希釈等)による油膜厚さ測定値への影響の確認が可能になる。
【0043】
深さの浅い側の溝である第2、第4の溝15、18のほうを第2番リング12の下端部に形成したのではこの深さの浅い側の溝である第2、第4の溝15、18が囲いとなり、潤滑油が深さの深い側の溝である第1、第3の溝14、17によどむのであるが、本実施形態(請求項3に記載の発明)によれば深さの深い側の溝である第1の溝14のほうを第2番リング12の下端部に形成し、また本実施形態(請求項5に記載の発明)によれば、深さの深い側の溝である第3の溝17のほうを第2番リング12の下面側に形成するので、こうした潤滑油のよどみを避けることができる。
【0044】
実施形態では、二段の溝を第2番リングの外周に形成する場合で説明したが、トップリング、オイルリングの外周に設けてもかまわない。さらに、ピストンリングの外周に代えて、ピストンの円筒状の外周に二段の溝を形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】レーザー誘起蛍光法を用いた本発明の油膜厚さ測定方法に用いる装置の概略構成図。
【図2】油膜厚さに対する光の強さの特性図。
【図3(A)】レーザー誘起蛍光法を用いた本発明の第1の油膜厚さ測定方法おける第2番リングの一部拡大断面図。
【図3(B)】図3(A)の第2番リングの一部側面図。
【図4(A)】レーザー誘起蛍光法を用いた本発明の第2の油膜厚さ測定方法における第2番リングの一部拡大断面図。
【図4(B)】図4(A)の第2番リングの一部側面図。
【図5(A)】静電容量法による油膜厚さ測定方法を示す概略構成図。
【図5(B)】静電容量法による油膜厚さの特性図。
【図6(A)】レーザー誘起蛍光法を用いた従来の第1の油膜厚さ測定方法における第2番リングの一部拡大断面図。
【図6(B)】図6(A)の第2番リングの一部側面図。
【図7(A)】レーザー誘起蛍光法を用いた従来の第2の油膜厚さ測定方法における第2番リングの一部拡大断面図。
【図7(B)】図7(A)の第2番リングの一部側面図。
【図8】レーザー誘起蛍光法を用いた本発明の第1の油膜厚さ測定方法おける他の第2番リングの一部拡大断面図。
【図9】レーザー誘起蛍光法を用いた本発明の第2の油膜厚さ測定方法おける他の第2番リングの一部拡大断面図。
【符号の説明】
【0046】
12 第2番リング(ピストンリング)
13 二段の溝
13’ 二段の溝
14 第1の溝
15 第2の溝
17 第3の溝
18 第4の溝
31 光ファイバー
31a 光ファイバー先端
32 Hd−Cdレーザー
33 光ファイバーカップラー
36 フォトマルチプライヤー
38 潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ壁を摺動するピストンリングの外周に所定深さの第1の溝と、その深さより浅い所定深さの第2の溝とからなる二段の溝を形成すると共に、シリンダ壁に臨ませて光ファイバーを設け、
前記ピストンリングが、シリンダ壁に臨ませているこの光ファイバー先端近傍を通過するときに、この光ファイバー先端よりレーザーの発生する励起光を光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第1の溝との間に存在する潤滑油に向けて照射する第1照射手順と、
この照射を受けて、前記光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第1の溝との間に存在する潤滑油中の蛍光剤により発する第1の光の強さを測定する第1光の強さ測定手順と、
同じく前記ピストンリングが、シリンダ壁に臨ませているこの光ファイバー先端近傍を通過するときに、この光ファイバー先端よりレーザーの発生する励起光を光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第2の溝との間に存在する潤滑油に向けて照射する第2照射手順と、
この照射を受けて、前記光ファイバー先端と前記ピストンリング外周の第2の溝との間に存在する潤滑油中の蛍光剤により発する第2の光の強さを測定する第2光の強さ測定手順と、
これら測定された第1と第2の光の強さの差に基づいて前記ピストンリングとシリンダ壁との間に形成される油膜厚さを測定する油膜厚さ測定手順と
を含むことを特徴とする油膜厚さ測定方法。
【請求項2】
前記二段の溝を前記ピストンリング下端部の全周に形成することを特徴とする請求項1に記載の油膜厚さ測定方法。
【請求項3】
前記第1の溝のほうを前記ピストンリングの下端部に形成することを特徴とする請求項2に記載の油膜厚さ測定方法。
【請求項4】
前記二段の溝を前記ピストンリングの外周の一部にピストンリング下面から上面にかけて斜めに形成することを特徴とする請求項1に記載の油膜厚さ測定方法。
【請求項5】
前記第1の溝のほうを前記ピストンリングの下面側に形成することを特徴とする請求項4に記載の油膜厚さ測定方法。
【請求項6】
前記二段の溝を、前記ピストンリングの外周に代えて、ピストンの円筒状の外周に形成することを特徴とする請求項1に記載の油膜厚さ測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【図4(A)】
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【図4(B)】
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【図5(A)】
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【図5(B)】
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【図6(A)】
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【図6(B)】
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【図7(A)】
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【図7(B)】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−337179(P2006−337179A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−162420(P2005−162420)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】