説明

波長変換素子の製造方法、製造装置及び波長変換素子。

【課題】 分極反転領域(2)を周期的に形成させた擬似位相整合型波長変換素子(40)を簡易な構成で且つ生産性を高くする製造装置を提供する。
【解決手段】 波長変換素子の製造装置(100)は、水晶基板(1)を載置する載置台(31)と、水晶基板(1)の表面に所定範囲の光線を照射させ所定範囲を所定温度まで加熱させる光源装置(20)と、光源装置(20)の光線と水晶基板(1)とを相対的に移動させる第1移動部(32,33,34)と、冷媒を所定範囲に噴出することにより所定範囲を所定温度以下に冷却する冷却部(13)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換素子を形成する材料に水晶を用いた波長変換素子の製造方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信関連の分野では、物質と光との相互作用により、入射光とは異なった波長の光を出射光として得る波長変換技術が用いられている。このような波長変換技術に於いて、波長変換後の光を材料内部から外部に効率よく取り出す方法として、結晶材料の複屈折を利用して、特定の角度に光を伝播させることにより波長変換前後の波長の位相整合を取る方法、及び周期分極反転領域を光の伝播経路上に形成して、波長変換前後の波長の位相の差を擬似的に無くす擬似位相整合と呼ばれる方法などがある。
【0003】
擬似位相整合と呼ばれる方法は、動作波長や入射角度の許容幅が広く、また、波長変換前後の光が異なる方向に出射されるウオークオフと呼ばれる現象が生じないなど、多くの利点を持っている。特許文献1によれば、気相成長法で層形成用基板上に水晶膜を積層にエピタキシャル成長させる製造装置を用いて水晶結晶を作成している。すなわちこの製造装置内の結晶層形成室内に配置した層形成用基板上に第1のバッファ層を形成し、この第1のバッファ層の上に所望の極性の第1の水晶層を所望の厚みでエピタキシャル成長させる。そして、第1の水晶層の上に第2のバッファ層を形成し、この第2のバッファ層の上に第1の水晶層とは極性の異なる第2の水晶層を所望の厚みでエピタキシャル成長させる。このようにバッファ層と水晶層の形成を交互に繰り返し極性の異なる水晶層を積層し、所望の段数の相転移型双晶による水晶層積層体を形成する。その後、水晶薄膜積層体を薄膜の積層方向に対し直角に切断し、切断して得た複数個の水晶基板を更に所望の外形形状に加工している。
【特許文献1】特開2006−154501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1による方法は、気相エピタキシャル成長でバッファ層と水晶層の形成を交互に繰り返し、極性の異なる水晶層交互に行うために大掛かりな装置が必要になるとともに、波長変換素子を製造する時間もかかるなども問題がある。
【0005】
そこで本発明の目的は、分極反転領域を周期的に形成させた擬似位相整合型波長変換素子を簡易な構成で且つ生産性を高くする製造方法及び製造方法を提供する。また生産性が挙がるため波長変換素子が安価に提供されることになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の観点の波長変換素子の製造方法は、水晶基板中に相転移型双晶を周期的に形成することで、光波長変換を行う波長変換素子の製造を行う。この製造方法は、水晶基板の表面に所定範囲の光線を照射させ、この光線と水晶基板とを相対的に第1方向に移動させながら所定範囲を所定温度まで加熱させる加熱工程と、この加熱工程後に所定範囲を所定温度以下に冷却する冷却工程と、を備える。
この製造方法は、水晶基板の所定範囲を光線で所定温度まで加熱させることで相転移型双晶を形成し、その相転移型双晶が所定範囲以上に広がってしまわないように冷却することで、相転移型双晶を所定範囲内で形成することができる。
【0007】
第2の観点の波長変換素子の製造方法の加熱工程は、第1方向と交差する第2方向に光線と水晶基板とを相対的に移動させることにより、相転移型双晶を周期的に形成する。
第1方向と第2方向とに交互に光線と水晶基板とを移動させることにより、相転移型双晶を周期的に形成することができる。
【0008】
第3の観点の波長変換素子の製造方法の加熱工程は、光線の出力又は光線と水晶基板との移動速度により、相転移型双晶の深さを変更する。
水晶基板の単位面積当たりに与えるエネルギーを、光線の出力又は光線と水晶基板との移動速度を代えることにより相転移型双晶の深さを変更することができる。すなわち、波長変換素子としてコア領域とクラッド領域との大きさを決めることができる。
【0009】
第4の観点の波長変換素子の製造方法の冷却工程は、冷媒を所定範囲に噴出することにより、所定範囲を所定温度以下に冷却する。
冷媒を所定範囲に噴出することで所定範囲を急速冷却することができる。所定範囲が急速冷却されることで、相転移型双晶が所定範囲以上に広がることない。従って本方法は周期的な相転移型双晶を製造することができる。
【0010】
第5の観点の波長変換素子の製造装置は、水晶基板を載置する載置台と、水晶基板の表面に所定範囲の光線を照射させ、所定範囲を所定温度まで加熱させる光源装置と、光源装置の光線と水晶基板とを相対的に移動させる第1移動部と、所定範囲を所定温度以下に冷却する冷却部と、を備える。
この構成により製造装置は、水晶基板の所定範囲を光線で所定温度まで加熱させることで相転移型双晶を形成し、その相転移型双晶が所定範囲以上に広がってしまわないように冷却部によって冷却される。この製造装置によって製造される相転移型双晶を所定範囲内で形成することができる。
【0011】
第6の観点の波長変換素子の製造装置は、第5の観点において、加熱された所定範囲を所定温度以下に冷却することができるように、冷却部を移動させる第2移動部を備える。
光源装置の光線と水晶基板とを相対的に移動させる際に、第2移動部は所定範囲を急速冷却するために光線の後追いとなるように冷却部を移動させることができる。所定範囲が急速冷却されることで相転移型双晶が所定範囲以上に広がることない。
【0012】
第7の観点の波長変換素子の製造装置の冷却部は、冷媒を所定範囲に噴出することにより、所定範囲を所定温度以下に冷却する。
冷媒を所定範囲に噴出することで所定範囲を急速冷却することができる。
【0013】
第8の観点の波長変換素子は、水晶基板の一端から入射した光を、複数の結晶軸反転領域中を通過させることによって波長変換を行う波長変換素子であり、上記第1から第4の観点の製造方法により製造される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、結晶軸反転領域を簡易な方法で且つ容易に製造できる波長変換素子の製造方法及び製造装置を提供することができる。またこの製造方法によってできた波長変換素子は安価に提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
≪擬似位相整合型波長変換素子の製造≫
以下、本発明の実施形態にについて図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる擬似位相整合型波長変換素子40の製造装置100の概要を示す模式図である。
図1(a)は、擬似位相整合型波長変換素子40の製造装置100の構成を示す側面図であり、図1(b)は、レーザ装置及び冷却装置を除く(a)の平面図である。
【0016】
図1(a)、(b)に示すように、擬似位相整合型波長変換素子40の製造装置100は、大きく分けてレーザ装置20、位置決め装置30及び冷却装置13から成る。製造装置100がチャンバー内に配置される場合には、チャンバー内温度を20°C以下に設定することが望ましい。
【0017】
レーザ装置20は、レーザ発振機21、反射ミラー22及び集光レンズ23を備えている。レーザ発振機21は高熱を発生するものであればどのような種類でも良い。レーザ光の種類として、固体レーザ(Nd:YAGレーザ)又はガスレーザ(Coガスレーザ、Arガスレーザ)などが挙げられる。集光レンズ23には固定ミラー25が取り付けられている。
【0018】
位置決め装置30は、載置台31、X軸移動部32、Y軸移動部33及びZ軸移動部34を備える。載置台31は水晶基板1を真空吸着チャックなどで固定する。X軸移動部32、Y軸移動部33及びZ軸移動部34は不図示のサーボモータ及びボールネジなどでLMガイドに移動する。また載置台31には移動ミラー26が取り付けられている。XY干渉計27は固定ミラー25と移動ミラー26にヘリウムネオンレーザを照射することにより、載置台31の位置を高精度に測定することができる。なお、図1(a)ではY方向の固定ミラー25しか描かれていない。
【0019】
擬似位相整合型波長変換素子40の製造装置100は、水晶基板1が載置台31に載置されると、XY干渉計27からの座標信号に基づいて水晶基板1と集光レンズ23とを相対的に位置決めする位置決めすることができる。また、製造装置100は、水晶基板1の厚み方向(Z軸方向)の位置を検出し、レーザ光の集光点50の位置を水晶基板1の表層部に調節することができる。
【0020】
冷却装置13は霧状の純水を冷媒としてから噴霧することができる。冷媒は純水だけでなくアルコール類、冷却気体などを使用してもよい。冷却装置13はレーザ光の熱が他の水晶領域まで広がらないよう冷却能力が高い冷媒が好ましい。純水であれば0°Cから20°C程度が好ましい。また、窒素などの冷却気体を噴出する場合にはマイナス20°Cから20°C程度が好ましい。
【0021】
冷却装置13はX方向移動部14で支えられており、X方向に数cm移動可能である。レーザ発振機21からのレーザ光の集光点50では水晶基板1をそのα―β相転移温度である573°C以上にする。冷却装置13は加熱された水晶基板1を数秒以内に573°C以下にするため、冷媒の噴霧位置をレーザ光の後追いにしなければならない。このため冷却装置13はX方向移動部14でX方向に移動可能となっている。レーザ光による水晶基板の加熱をすなわち、載置台31がプラスX方向に移動する際には、レーザ光を後追いするように冷却装置13がマイナスX方向にX方向移動部14によって移動させられる。また載置台31がマイナスX方向に移動する際には、レーザ光を後追いするように冷却装置13がプラスX方向にX方向移動部14によって移動させられる。
【0022】
水晶基板1の位置決めが完了すると、製造装置100は、レーザ装置20に結晶軸反転領域2の照射予定線5に沿ってレーザ光を照射させる。レーザ装置20は、水晶基板1の表層部を水晶のα―β相転移温度である573°C以上になるように加熱し、水晶基板1に双晶を発生させる。そして、レーザ光の熱により結晶軸反転領域2が拡大してしまわないように、がX軸移動部32及びY軸移動部33は、順次、照射予定線5に沿って載置台31を移動させ、水晶基板1中に複数の結晶軸反転領域2(又は分極反転領域2という)を周期的に形成させ、擬似位相整合型波長変換素子40を製造する。
【0023】
結晶軸反転領域2を形成するために必要なレーザ光の照射領域、別言すれば集光点50は、例えば1μmから2.5μmであり、隣り合う結晶軸反転領域2の間隔3は、1.5μmから3.0μmである。水晶基板中に形成された結晶軸反転領域2が拡散して、既に形成された結晶軸反転領域2に接合するのを防止するため、言い換えれば、レーザの熱が他の水晶領域まで広がらないよう、レーザ照射直後に霧状の純水を冷媒として冷却装置13から噴霧する。水晶基板1と同質の結晶領域の間隔3が保たれる。これにより、安定して水晶基板1中にα相領域とβ相領域とを交互に有する擬似位相整合型波長変換素子40が形成される。
【0024】
図2は、水晶基板中に複数の結晶軸反転領域2を周期的に形成させ、擬似位相整合型波長変換素子40を製造するフローチャートである。各図フローチャートの右側に、水晶基板1の断面又は平面図を示す。
【0025】
図2のステップS102では、所定の寸法に加工された水晶基板1を用意して、図1に示した擬似位相整合型波長変換素子40の製造装置100の載置台31に載置する。次に製造装置100は水晶基板1と集光レンズ23とを相対的に位置決めする。また製造装置100は、水晶基板1の厚み方向(Z軸方向)の位置を検出し、Z軸移動部34を使って載置台31を上下させることによって、レーザ光の集光点50の位置を水晶基板1の表層部に調節する。
【0026】
製造装置100は、XY干渉計27を使って位置決めする際に、レーザ発振機21のレーザ光の光軸が水晶基板1のレーザ光の照射予定線5の線上に位置するように、X軸移動部32及びY軸移動部33が、不図示の移動制御部の制御信号に基づいてX軸移動部32及びY軸移動部33が駆動される。載置台31の座標位置は、XY干渉計27によって計測され、水晶基板1と集光レンズ23とが相対的に位置決めされる。図2(a)はこの状態を示す水晶基板1の断面図である。
【0027】
ステップS104では、レーザ照射及び載置台31の走査が行われる。レーザ装置20は、水晶基板1のレーザ光の照射予定線5に沿って、例えば1kWのCoレーザ光を数秒間照射し、レーザ光の照射タイミングに同期して水晶基板1が集光レンズ23に対して相対移動する。水晶基板1の表層部には、レーザ照射によって水晶の転移温度573°C以上に加熱されて結晶軸反転領域2が形成される。レーザ光の熱が他の水晶領域まで広がらないよう、レーザ照射直後に霧状の純水が冷媒として冷却装置13から結晶軸反転領域2に向けて噴霧される。図2(b)はこの状態を示す水晶基板1の断面図である。
【0028】
マイナスX方向の照射予定線5の範囲をすべてレーザ光が照射すると、Y軸移動部33が水晶基板1を間隔3分だけプラスY方向に移動させる。Y軸移動部33により載置台31がY方向に移動する際にはレーザ光は発振を停止する。水晶基板1が間隔3だけプラスY方向に移動したらプラスX方向にX軸移動部32によって載置台31が移動される。このプラスX方向の載置台31の移動の際に、冷却装置13がレーザ光の後追いでレーザ光の照射後を573°C以下に冷却するため、冷却装置13はX方向移動部14によりレーザ光の後追い位置に移動する。
【0029】
ステップS106では、製造装置100は、X軸移動部32及びY軸移動部33により水晶基板1のレーザ光の照射予定線5に沿って順次水晶基板を移動させ、また冷却装置13をレーザ光の後追い位置に移動させることで、周期的な結晶軸反転領域2を形成する。水晶基板1に複数の結晶軸反転領域2を周期的に形成させ、擬似位相整合型波長変換素子40を形成する。
【0030】
図2(c)は複数の結晶軸反転領域2が周期的に形成された状態を示す図であり、図2(d)の水晶基板1のA−A断面図である。結晶軸反転領域2の深さDは、Coレーザ光の出力を可変したり載置台31の走査速度を変えたりすることで調整することができる。
ステップS108では、完成された擬似位相整合型波長変換素子40を示す。
【0031】
なお、上記説明では、X軸移動部32及びY軸移動部33が載置台31を走査していたが、レーザ装置20を走査させるようにしてもよい。また、載置台31はZ軸移動部34によってZ方向(上下方向)に移動したが、レーザ装置20の集光レンズ23にフォーカス機構を設けても良い。
【0032】
≪リッジ型波長変換素子の形成≫
結晶軸反転領域2を形成された擬似位相整合型波長変換素子40を用い、リッジ型波長変換素子45を形成する方法について説明する。
【0033】
図3Aに擬似位相整合型波長変換素子40及びリッジ型波長変換素子45の概略図を示す。図3A(a)は、擬似位相整合型波長変換素子40の平面図であり、(b)は(a)のB−B断面図であり、(c)は(a)のC−C断面図であり、(d)はリッジ型波長変換素子45の断面図である。
【0034】
図3A(a)、(b)及び(c)に示すように、擬似位相整合型波長変換素子40は水晶基板1に複数の結晶軸反転領域2及び水晶基板1と同質の結晶領域の間隔3を備える。(b)は、結晶軸反転領域2が水晶基板1内部まで成長し、結晶反転部分を形成されていることを示す。(c)は、結晶軸反転領域2が水晶基板1の両端まで形成されていることを示す。
【0035】
図3A(d)に示すように、リッジ型波長変換素子45は、擬似位相整合型波長変換素子40の中央部に、互いに並行した溝7を設け、凸部8を形成した形状を備える。
リッジ型波長変換素子45は、擬似位相整合型波長変換素子40にリソグラフィ技術又はダイシング加工により溝7を形成することによりリッジ型光導波路が形成される。リッジ型波長変換素子45は、高い波長変換効率を得ることができる。
【0036】
図3Bは、平面型光導波路の説明図である。図3B(a)はスラブ型光導波路、(b)はメサ型光導波路、(c)は埋め込み型光導波路、(d)はリッジ型光導波路と呼ばれている。リッジ型光導波路とは、平面型光導波路の形状の一つで、リッジ(山型)となる材料の表面にリッジ部分を設けることによってリッジ部分が他の部分に比べて等価屈折率が大きくなることを利用して、横方向の光を閉じ込め導波させる構造をしている。このときリッジとなる材料の屈折率に対して、クラッドは空気であり、屈折率差は通常の導波路に比べて大きい。
【0037】
図3B(e)は、リッジ型光導波路の基本構造の説明図である。リッジ型光導波路は、リッジ内部のコア9と呼ばれる光を閉じ込め導波する部分と、クラッドと呼ばれる屈折率がコア9より低い部分とで構成されている。通常コアの屈折率n1は、クラッドの屈折率n2よりも約1%前後大きくなっている。端面からの入射光Lは光導波路のコア9とクラッドとの境界で全反射され、コア9内に閉じ込められ伝播する。
【0038】
光導波路には、1つのモードのみを伝播するシングルモード導波路と、2つ以上のモードを伝播するマルチモード導波路とがある。一般的にシングルモード導波路の屈折率差は0.3%で、コアの幅wは10μm、高さhは10μm程度である。マルチモード導波路の屈折率差は1%で、コアの幅wは50μm、高さhは10μmから15μm程度である。
≪リッジ型波長変換素子の形成≫
【0039】
図4は、第1実施例の擬似位相整合型波長変換素子40からリッジ型波長変換素子45をリソグラフィ技術により形成するためのフローチャートであり、各図フローチャートの右側に、擬似位相整合型波長変換素子40の断面図を示す。
【0040】
図4のステップS202では、擬似位相整合型波長変換素子40の全面に耐蝕膜として、金属膜25をスパッタリングもしくは蒸着などの手法により形成する。擬似位相整合型波長変換素子40は単結晶水晶より成るため、金属膜25としてクロム(Cr)、ニッケル(Ni)又はチタン(Ti)等を使用する。たとえば、金属膜25の厚みはクロム層とし、500オングストローム(Å)から1500Åである。図4(a)はこの状態の擬似位相整合型波長変換素子40を示した断面図である。
【0041】
ステップS204では、金属膜25が形成された擬似位相整合型波長変換素子40に、フォトレジスト層36を全面にスピンコートなどの手法で均一に塗布する。フォトレジスト層36としては、たとえば、ノボラック樹脂によるポジフォトレジストを使用できる。図4(b)はこの状態の擬似位相整合型波長変換素子40を示した断面図である。
【0042】
次に、ステップS206では、不図示の露光装置を用いて、フォトマスクに描かれたリッジ型波長変換素子45のパターンをフォトレジスト層36が塗布された擬似位相整合型波長変換素子40に露光する。図4(c)は露光されたフォトレジスト42を有する擬似位相整合型波長変換素子40を示した断面図である。
【0043】
ステップS208では、擬似位相整合型波長変換素子40のフォトレジスト層36を現像して、感光したフォトレジスト層42を除去する。さらに、露出した金属膜25を、たとえばクロム層に対して硝酸第2セリウムアンモニウムと酢酸との水溶液でエッチングする。水溶液の濃度、温度及び水溶液に浸している時間を調整して余分な箇所が侵食されないようにする。これで金属膜25を除去することができる。こうすることで、図4(d)に示すように、リッジ型波長変換素子45のパターンが現われる。
【0044】
ステップS210では、リッジ型波長変換素子45パターンを形成するために水晶のウェットエッチングを行う。すなわち、フッ酸(HF)又は重フッ化アンモン(NH4F・HF)をエッチング液として、フォトレジスト層36及び金属膜25から露出した擬似位相整合型波長変換素子40を、リッジ型波長変換素子45になるようにウェットエッチングを行う。あるいは、CF4+H2系のガスを打ち込みドライエッチングを行うこともできる。図4(e)はエッチングされたリッジ型波長変換素子45であり、図3A(d)で示したように溝7及び凸部8が形成された状態である。
【0045】
ステップS212では、残ったフォトレジスト36及び金属膜25が除去される。これによりリッジ型波長変換素子45が完成する。
【0046】
第1実施例のフォトレジスト方法によってリッジ型波長変換素子45を形成する方法は、一度に大量の水晶基板1に溝7を形成することができるため、コストが低減されたリッジ型波長変換素子45が提供される。
【0047】
図5は、第2実施例の擬似位相整合型波長変換素子40からダイシング加工により、リッジ型波長変換素子45を形成する説明図である。図5(a)はリッジ型波長変換素子45の平面図であり、(b)は、(a)のA−A断面図であり、(c)は、(a)のB−B断面図である。
【0048】
図5(a)に示すように、リッジ型波長変換素子45に、端面からの入射光Lの通過する方向に沿ってダイシング加工を行い、互いに並行な2本の溝7を加工し、リッジ型波長変換素子45を形成する。
【0049】
図5(b)は、結晶軸反転領域2の断面図であり、溝7及び凸部8を備える。模擬的にコア9を表示する。(c)は、水晶基板1と同質の結晶領域の間隔3の断面図であり、溝7及び凸部8を備える。模擬的にコア9を表示している。
【0050】
図5(b)及び(c)に示すように、図中上面側に、2本の溝7で挟まれた凸部8が形成される。これにより、コア9と呼ばれる光を閉じ込め導波する部分とクラッドと呼ばれる屈折率がコアより低い部分とが形成され、このコア9に光を通すことにより、入射された光は、光導波路のコア9とクラッドとの境界で全反射され、コア9即ち、リッジ型光導波路内に閉じ込められた状態で、結晶軸反転領域2を伝播し、同様に、水晶基板1と同質の結晶領域の間隔3のリッジ型光導波路内に閉じ込められた状態で間隔3を伝播する。周期的に伝播することによって、波長変換素子内での光の強度を高い状態にすることができ、高い波長変換効率を得ることができる。
【0051】
第2実施例のダイシング加工によってリッジ型波長変換素子45を形成する方法は、簡易に行うことができ、コストが低減されたリッジ型波長変換素子45が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(a)は、擬似位相整合型波長変換素子の製造装置100の構成を示す側面図である。(b)は、レーザ装置及び冷却装置を除く(a)の平面図である。
【図2】水晶基板1中に複数の結晶軸反転領域2を周期的に形成させ、擬似位相整合型波長変換素子40を製造するフローチャートである。
【図3A】(a)は、擬似位相整合型波長変換素子40の平面図である。(b)は、(a)のB−B断面図である。(c)は、(a)のC−C断面図である。(d)は、リッジ型波長変換素子45の断面図である。
【図3B】(a)は、スラブ型光導波路平面型光導波路の説明図である。(b)はメサ型光導波路、(c)は埋め込み型光導波路、(d)はリッジ型光導波路である。 (e)は、リッジ型光導波路の基本構造の説明図である。
【図4】第1実施例の擬似位相整合型波長変換素子40からリッジ型波長変換素子45をリソグラフィ技術により形成するためのフローチャートである。
【図5】(a)は、第2実施例のリッジ型波長変換素子45の平面図である。(b)は、(a)のB−B断面図である。(c)は、(a)のC−C断面図である。
【符号の説明】
【0053】
n1 …… コアの屈折率
n2 …… クラッドの屈折率
L …… 入射光
1 …… 水晶基板
2 …… 結晶反転領域
3 …… 間隔
5 …… 照射予定線
7 …… 溝
8 …… 凸部
9 …… コア
10 …… レーザ発振機
11 …… 反射ミラー
12 …… 集光レンズ
13 …… 冷却装置
20 …… レーザ装置
25 …… 金属膜
30 …… 位置決め装置
31 …… 載置台
32 …… X軸移動部
33 …… Y軸移動部
34 …… Z軸移動部
36 …… フォトレジスト膜
40 …… 擬似位相整合型波長変換素子
42 …… 露光されたフォトレジスト膜
45 …… リッジ型波長変換素子
50 …… 集光点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶基板中に相転移型双晶を周期的に形成することで、光波長変換を行う波長変換素子の製造方法において、
前記水晶基板の表面に所定範囲の光線を照射させ、この光線と前記水晶基板とを相対的に第1方向に移動させながら前記所定範囲を所定温度まで加熱させる加熱工程と、
この加熱工程後に前記所定範囲を前記所定温度以下に冷却する冷却工程と、
を備えたことを特徴とする波長変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程は、前記第1方向と交差する第2方向に前記光線と前記水晶基板とを相対的に移動させることにより、前記相転移型双晶を周期的に形成することを特徴とする請求項1に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、前記光線の出力、又は前記光線と前記水晶基板との移動速度により、前記相転移型双晶の深さを変更することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記冷却工程は、冷媒を前記所定範囲に噴出することにより、前記所定範囲を前記所定温度以下に冷却することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項5】
光波長変換を行う波長変換素子の製造装置において、
水晶基板を載置する載置台と、
前記水晶基板の表面に所定範囲の光線を照射させ、前記所定範囲を所定温度まで加熱させる光源装置と、
前記光源装置の光線と前記水晶基板とを相対的に移動させる第1移動部と、
前記所定範囲を前記所定温度以下に冷却する冷却部と、
を備えたことを特徴とする波長変換素子の製造装置。
【請求項6】
加熱された所定範囲を所定温度以下に冷却することができるように、前記冷却部を移動させる第2移動部を備えることを特徴とする請求項5に記載の波長変換素子の製造装置。
【請求項7】
前記冷却部は、冷媒を前記所定範囲に噴出することにより、前記所定範囲を前記所定温度以下に冷却することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の波長変換素子の製造装置。
【請求項8】
水晶基板の一端から入射した光を、複数の結晶軸反転領域中を通過させることによって波長変換を行う波長変換素子であって、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法により製造された波長変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−265452(P2009−265452A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116541(P2008−116541)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】