説明

注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法

【課題】重合性ラクタム液の重合過程の特性を十分に考慮することにより、上部層に気泡のような空洞欠陥部や深い窪み及び流れ模様のない注型ポリアミドの製造方法を提供する。
【解決手段】ω−ラクタムに少なくともアニオン重合触媒とアニオン重合用開始剤とからなる重合性ラクタム液を金型5内でアニオン重合する注型ポリアミドの成形方法において、金型5内に注型した重合性ラクタム液の表面に内蓋10を浮かべ、更に不活性ガスにより加圧することによって重合性ラクタムを大気から遮断した状態で重合を進行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法に係り、詳しくは上部層に重合不良や気泡のような空洞欠陥のない注型ポリアミドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
注型ポリアミド樹脂からなる成形体の製造方法は、筒状体の金型を熱風炉もしくは熱媒油、蒸気等で所定温度になるまで加熱しておき、この金型内に重合性ラクタム液を注入し、ラクタムを重合していた。
【0003】
得られた注型ポリアミド樹脂成形体は最も代表的なエンジニアリングプラスチックであり、機械的強さ、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性に優れ、しかも加工性も良いため、ギア、ロール、摺動板などの多くの機械部品として使用されている。
【0004】
しかし、この方法によると、金型に注入した重合性ラクタム液が大気に接しているため、内部層と上部層との温度差による重合収縮の差、大気中の水分による重合障害、あるいは重合性ラクタム液の酸化劣化が発生することにより成形体上部に空洞部や深い窪み、流れ模様が多発し、やむを得ず成形体上部を所定長さ切断し、製品として出荷していた。
【0005】
このため、従来では金型に注入した重合性ラクタム液に接する大気層を加熱した窒素で置換するなどの方法が採られていた。
【0006】
更に特許文献1では金型内に注型した重合性ラクタム液の表面に流動パラフィンを流し込んで膜を形成することによって大気や大気中の水分を遮断して、成形体上部の空洞部や流れ模様が発生するのを防止する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には金型内に注型した重合性ラクタム液の表面にフロート体を浮かべることによって重合性ラクタム液を大気から遮断した状態で重合を進行させることによって、成形体上部における空洞欠陥や流れ模様の発生を防止するといった技術が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平10−67023号公報
【特許文献2】特開2000−71261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、重合性ラクタム液はその重合過程において体積が変化するため金型の蓋を密閉してしまうことができない。そのため、大気が流入することを避けられず窒素置換の十分な効果が得られなかった。
【0010】
また、重合過程中、継続して金型中に加熱窒素を送り続けるという方法も提案されたが、設備費用が高くなり、経済性の点で問題があった。
【0011】
重合性ラクタム液表面に流動パラフィンを流し込む方法は流動パラフィンを十分に加熱乾燥しないと逆に内部欠陥を発生させてしまうという問題があった。
【0012】
また、重合性ラクタム液表面にフロート体を浮かべる方法は、成形体表面のヒケや流れ模様の防止に対してある程度の効果を期待できるものの、まだ不十分であり、更なる改善が求められている。
【0013】
本発明はこのような問題点を改善するものであり、重合性ラクタム液の重合過程の特性を十分に考慮することにより、上部層に気泡のような空洞欠陥部や深い窪み及び流れ模様のない注型ポリアミドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上のような目的を達成するために本発明の請求項1においては実質上無水のω−ラクタムに少なくともアニオン重合触媒とアニオン重合用開始剤とからなる重合性ラクタム液を金型内でアニオン重合する注型ポリアミドの成形方法において、金型内に注型した重合性ラクタム液の表面に内蓋を浮かべ、更に不活性ガスにより加圧することによって重合性ラクタムを大気中の水分から遮断した状態で重合を進行させることを特徴とする。
【0015】
請求項2では、内蓋は、重合性ラクタム液の重合収縮に対して追随できる可撓性を有しているとしている。
【0016】
請求項3においては内蓋の全投影面積が金型内径の面積の70%〜85%を占める内蓋としている。
【0017】
請求項4においては内蓋の形状が凹状で、底面積が内蓋の全投影面積の50%以上を占める内蓋としている。
【0018】
請求項5においては内蓋の厚みが0.01〜0.20mmである内蓋を浮かべるようにしている。
【0019】
請求項6ではあ、内蓋がアルミニウム製薄膜からなる注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法としている。
【発明の効果】
【0020】
以上の請求項1のような方法を採ることによって、ラクタム液面に浮かべた内蓋で上部の深い窪みの発生を防止することができ、更に窒素ガス等の不活性ガスで加圧することで大気の遮断をより確実に行うことができ、重合不良をほぼ完全に防ぐことができる。また、不活性ガスによる加圧は、ラクタム液の重合・結晶化に伴う収縮に追随して加圧されるため金型が減圧状態とならず、成形体への欠陥発生も防ぐことができる。
【0021】
請求項2では、内蓋が可撓性を有しているために、重合性ラクタム液の重合収縮に対して表面に密着したまま追随でき、成形体上部おけるヒケを少なくした成形体を得ることができる。
【0022】
請求項3では、重合性ラクタム液の表面に浮かべた内蓋は金型の代わりを果たし、金型内径の面積より小さい面積であるため、成形体外表面にくびれのない成形体を得ることができる。
【0023】
請求項4においては、この凹形状によってラクタム液の重合・結晶化に伴う収縮に追随して内蓋が成形体に添い変形するため、上部に深い窪みがない成形体を得ることができる。
【0024】
請求項5では、この厚みにすることによって内蓋が更に成形体に添いやすくなり、上部に深い窪みがない成形体を得るために好ましい厚みである。
【0025】
請求項6では、内蓋の素材をアルミニウム製薄膜としていることから、熱伝導性に優れているとともに重合性ラクタム液に対して重合を阻害するような影響を与えることもなく、また、可撓性にも優れているので重合収縮が発生しても、密着して十分に追随することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は本発明に係る注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法に使用する重合装置の概略図である。
【0027】
この装置1では、溶融ラクタムにアニオン重合触媒を入れた貯蔵タンク2と、溶融ラクタムにアニオン重合開始剤を入れた貯蔵タンク3とに分かれ、貯蔵タンク2、3とミキシング4の間には、それぞれバルブ6を装着した管7が接続されている。各貯蔵タンク2、3から流出した溶融ラクタムは、ミキシング部4で混合攪拌された後に、150℃〜180℃に加熱されたアルミニウム、鉄などの熱伝導率の比較的高い金型5に注型される。
【0028】
各貯蔵タンク2、3には、不活性ガスとして窒素を供給する管8とこれを排出する管9が設けられ、タンク内の圧力を常時一定にしている。尚、各貯蔵タンク2、3に設けたバルブ6の下側の計量ポンプ(図示しない)を設置することができる。
【0029】
金型5内に重合性ラクタム液を注型した直後に、図2に示すように金型5の蓋を開け、内蓋10を重合性ラクタム液の表面に浮かせるように置き、金型の蓋をして窒素加圧をおこない、この金型5を130〜180℃に調節し、重合を進行させる。
【0030】
本発明で使用する内蓋10は、金型内5の重合性ラクタム液に浮かべて重合反応を速やかに進行させる金型の代わりとなるもので、重合性ラクタム液に浮くもので熱伝導性の良いもので、且つ重合時の収縮に対してラクタムに密着したまま追随できる可撓性を有するものなくてはならない。具体的には、金属製や合成樹脂製の薄膜からなる皿形状の内蓋を挙げることができ、熱伝導性、可撓性も良好であり、重合収縮に追随しやすい点でアルミニウム製が優れているが、アルミニウムに限るものではなくその他の素材でもよい。熱伝導性の面で言うと、金属製の素材からなるものが好ましい。可撓性が不足し、重合収縮に十分追随できないと成形体上部のヒケが大きくなってしまうので好ましくない。
【0031】
また内蓋10は、その内蓋の全投影面積が金型内径の面積の70%〜85%を占める程度の広さを有すること好ましい。
【0032】
内蓋の全投影面積が金型内径の面積の85%越えると成形体外表面にくびれが発生し、棒状成形体の場合、外径が不足したり楕円となったりする場合がある。これは内蓋が閉ざされた金型の代わりとなることで、重合性ラクタム液が接する金型全面から同時に重合反応が開始されるため、ラクタム液の重合・結晶化に伴う収縮により、外周部にもくびれが発生すると考えられる。
【0033】
内蓋が金型内径の面積の85%以下であれば重合性ラクタム液が露出する表面積が増え、これにより内蓋付近の重合反応がやや遅れることにより、ラクタム液の重合・結晶化に伴う収縮がこの上部の内蓋部分に集中し、外周部のくびれを防止することができる。
【0034】
内蓋が金型内径の面積の70%以下となると重合性ラクタム液に接する内蓋の面積が減るため、上部の重合反応が遅くなりすぎ、その結果上部に深い窪みの発生や、重合反応のムラに伴う流れ模様などの不具合が生じるため好ましくない。
【0035】
更に内蓋10の形状は凹形状で、平坦な底面を有するとともにその周囲に上方への傾斜面を有する皿形状であり、底面積が内蓋の全投影面積の50%以上を占める内蓋を浮かべるようにしている。この凹形状によってラクタム液に浮かべやすく、重合・結晶化に伴う収縮に追随して内蓋が成形体に添い変形するため、上部に深い窪みがない成形体を得ることができる。
【0036】
内蓋10の底面積が内蓋の全投影面積の50%未満であると、ラクタム上に浮かべる際、傾いてしまい、ラクタム液の重合・結晶化に伴う収縮に追随して内蓋が成形体に添いにくくなるばかりでなく、重合性ラクタム液に接する内蓋の面積が減るため、上部の重合反応が遅くなりすぎ、その結果上部に深い窪みの発生や、重合反応のムラに伴う流れ模様などの不具合が生じるため好ましくない。
【0037】
更に内蓋10の厚みは0.01〜0.20mmの範囲内であることが好ましい。0.01mm未満であると、破れやすいので取り扱い上好ましくない。また厚みが0.20mmを超えると剛性が増し、たとえ内蓋10の形状が凹状であっても剛性が増すため、ラクタム液の重合・結晶化に伴う収縮に追随して内蓋が成形体に添いにくくなるため好ましくない。
【0038】
本発明で使用する重合性ラクタムであるω−ラクタムはα−ピペリドン、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、あるいはこれらの2種以上の混合物であり、工業的に有利なラクタムはε−カプロラクタムとω−ラウロラクタムである。
【0039】
また、本発明で使用されるアニオン重合触媒は、水素化ナトリウム、水素化リチウム、ナトリウム、カリウムなどの公知のω−ラクタムの重合触媒を使用することができ、その添加量はω−ラクタムに対して、0.1〜0.02モル%である。
【0040】
そして、アニオン重合用開始剤としては、例えばN−アセチル−ε−カプロラクタム、イソシアネート、ジイソシアネート。尿素誘導体、ウレタン、イソシアヌレート誘導体が使用でき、その添加量はω−ラクタムに対して0.05〜0.1モル%の範囲が好ましい。
【0041】
上記製造方法では、アニオン重合触媒はω−ラクタムに添加し溶解した後、アニオン重合用開始剤を注型時または注型後に添加混合する方法、またはアニオン重合触媒を含むω−ラクタムとアニオン重合用開始剤を含むω−ラクタムとを注型時または注型後に添加混合する方法によって調整する。
【0042】
また、ω−ラクタムの重合温度は100〜210℃の温度で実施可能であるが、好ましくは130〜180℃の範囲である。
【0043】
尚、本発明を実施するに際して、上記成分以外に重合を阻害しない油類、ワックス、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどの滑剤や、カーボン繊維、ウォラスナイトなどの補強材、ポリビニリデンクロライドなどの着色剤を添加することも可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果を確認した。
【0045】
(実施例1)
実質上無水のε−カプロラクタム14.2kgを100°Cまで加熱溶融し、これに水素化ナトリウム(63%油性)28.5gを添加して反応溶解させた。このラクタム液を125°Cまで昇温し、トリスフェニルイソシアヌレート12.5gをすばやく混合した後、これを予め140°Cまで加熱した内寸法φ120、深さ1000mmの円筒状の金型に流し込んだ。この後、外径φ103(金型内径の面積の80%)、底面積径φ75(全投影面積の73%)、深さ10mm、厚み0.06mmのアルミニウム製薄膜の内蓋を重合性ラクタム液面上に浮かべ、金型の蓋をした後、窒素にて加圧し、金型を160℃に調節し、重合させた。
【0046】
上記金型表面に貼付けた温度センサーにより、金型表面温度が反応熱により上昇し終えた後、1°C降下した時に、成形体を金型に入れたままで50°Cに金型を調節した。30分後に成形体を金型から取り出した。成形体を充分に冷却させた後、成形体の上部を観察した結果を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
アルミニウム製薄膜内蓋の全投影面積が金型内径の面積とほぼ同等の内蓋を浮かべて成形した以外は実施例1と同様に丸棒状ポリアミド樹脂成形体を成形した。成形体の上部層を観察した結果を表1に示す。
【0048】
(実施例3)
内蓋の形状が凹状で外径はφ103で同じだが、底面積径φ30(全投影面積の29%)、深さ10mmの内蓋を浮かべて成形した以外は実施例1と同様に丸棒状ポリアミド樹脂成形体を成形した。成形体の上部層を観察した結果を表1に示す。
【0049】
(実施例4)
アルミニウム製薄膜内蓋の厚みが0.25mmを用い成形した。それ以外は実施例1と同じ条件にして、丸棒状ポリアミド樹脂成形体を得た。成形体の上部層を観察した結果を表1に示す。
【0050】
(比較例)
重合性ラクタム液を注型後に内蓋は用いず、成形した。それ以外は実施例1と同じ条件にして、丸棒状ポリアミド樹脂成形体を得た。成形体の上部層を観察した結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
以上の表1に示す結果からわかるように、比較例では窒素で加圧して大気と遮蔽をしているにもかかわらず成形体上部には深い窪みと重合むらに伴う流れ模様が発生していることがわかる。そして実施例2では成形体上部に重合むらはないが、外周部にくびれが発生している。更に実施例3では内蓋を用いているにもかかわらずその底面積が内蓋の全投影面積の50%に満たないことからラクタム上に浮かべる際、傾いてしまい、ラクタム液の重合・結晶化に伴う収縮に追随して内蓋が成形体に添いにくくなり、その結果、深い窪みが形成されてしまっており、また重合反応のムラに伴う流れ模様も生じてしまっていることがわかる。また実施例4では、内蓋の剛性のため内蓋が成形体に添いにくくなり、実施例3と同様な結果となった。実施例2〜4は、本発明の範囲ではあるものの実施例1と比較すると劣る結果となっている。
【産業上の利用可能性】
【0053】
重合性ラクタム液を金型内で重合させて板状成形体を製造するモノマーキャスティングナイロンの製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法に使用する重合装置の概略図である。
【図2】金型内に重合性ラクタム液を注型した後、内蓋を浮かべ、窒素で加圧しているところの状態を示す断面図である。
【図3】金型内に重合性ラクタム液を注型した後、ラクタム液の重合・結晶化に伴う収縮に追随して内蓋が成形体に添い変形しているところの状態を示す重合性ラクタム液表面部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 重合装置
2 貯蔵タンク
3 貯蔵タンク
4 ミキシング
5 金型
6 バルブ
10 内蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質上無水のω−ラクタムに少なくともアニオン重合触媒とアニオン重合用開始剤とからなる重合性ラクタム液を金型内でアニオン重合する注型ポリアミドの成形方法において、金型内に注型した重合性ラクタム液の表面に内蓋を浮かべ、更に不活性ガスにより加圧することによって重合性ラクタムを大気から遮断した状態で重合を進行させることを特徴とする注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
内蓋は、重合性ラクタム液の重合収縮に対して追随できる可撓性を有してなる請求項1記載の注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
内蓋の全投影面積が金型内径の面積の70%〜85%を占める内蓋とした請求項1〜2のいずれかに記載の注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
内蓋の形状が凹状で、底面積が内蓋の全投影面積の50%以上を占める内蓋とした請求項1〜3のいずれかに記載の注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
内蓋の厚みが0.01〜0.20mmである請求項1〜4のいずれかに記載の注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
内蓋がアルミニウム製薄膜からなる請求項1〜5のいずれかに記載の注型ポリアミド樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−255293(P2009−255293A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91759(P2008−91759)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】