洗浄装置
【課題】洗浄効率の向上を図ることにより環境負荷となる洗浄水自体の使用量を低減し、洗浄後の洗浄水の処理に要するコストを低減する。
【解決手段】洗浄水が自由に流入出可能な構造を有すると共に複数の被洗浄体を収容する洗浄用籠、上記洗浄用籠を設置する洗浄槽、上記洗浄用籠を回転させる回転装置、上記洗浄用籠内の上記被洗浄体が集合する受噴射籠面に向けて洗浄水と気体との気液混合物を噴射する少なくとも2個の互いに分散設置されたインゼクター、上記洗浄槽の上方から流出する洗浄済み水を回収すると共に重量差を利用して上記洗浄済み水を汚れ成分と洗浄水とに分離する回収分離槽、上記回収分離槽において分離された上記洗浄水を上記各インゼクターに再供給する洗浄水再供給装置を備え、上記各インゼクターは、洗浄時間の後半では噴射を停止、あるいは弱めるように構成した。
【解決手段】洗浄水が自由に流入出可能な構造を有すると共に複数の被洗浄体を収容する洗浄用籠、上記洗浄用籠を設置する洗浄槽、上記洗浄用籠を回転させる回転装置、上記洗浄用籠内の上記被洗浄体が集合する受噴射籠面に向けて洗浄水と気体との気液混合物を噴射する少なくとも2個の互いに分散設置されたインゼクター、上記洗浄槽の上方から流出する洗浄済み水を回収すると共に重量差を利用して上記洗浄済み水を汚れ成分と洗浄水とに分離する回収分離槽、上記回収分離槽において分離された上記洗浄水を上記各インゼクターに再供給する洗浄水再供給装置を備え、上記各インゼクターは、洗浄時間の後半では噴射を停止、あるいは弱めるように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄装置に関し、詳しくは洗浄水と気体との気液混合物をインゼクターから噴射する構造を有し、多数の小型機械部品の洗浄に好適な洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フロン系溶剤、石油系溶剤、低級有機溶剤などの有機系洗浄剤は、油脂の汚れに対して洗浄効果が高いので、従来から工業的洗浄の分野において多用されてきた。しかしその結果、洗浄後のそれら有機系溶剤の自然界への廃棄により、オゾン層の破壊、地下水、河川、海洋などの水系を汚染する環境問題を惹起することが明らかになった。このために環境負荷低減の目的から、これら有機系洗浄剤に換えて、水または水を主体とした洗浄液による洗浄技術の開発が目下の焦眉となっている。
【0003】
例えば洗浄液として油分を溶解するアルカリ洗浄液を使用した洗浄では、安定した洗浄力を得る為には、洗浄槽の下部に設けた超音波振動子による微細振動の定常的な発生と、洗浄液の油分溶解能力の低下にあわせた定期的な液交換を必要とした。特に後者は、被洗浄物に付着した油分をアルカリ洗浄液に溶け込ませるようにして除去するので、洗浄液の油分濃度が上昇するに従い徐々に洗浄力が低下する問題があった。また、アルカリ洗浄液自体が劇物であり、取り扱いの問題や洗浄後の廃液処理の問題があり、環境負荷を増大させることになっていた。
【0004】
一方、後記の特許文献1には、水を主体とした洗浄水による洗浄において、微細な気泡を被洗浄物に吹付けて高速気泡の衝突によってキャビテーションを生起させ、洗浄効率を向上させる洗浄方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、水中で超音波を発生させて水中に発生した気泡の振動や気泡の崩壊時に発生する衝撃波により洗浄効率を向上させる方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、エジェクタから少量の有機溶媒を含む洗浄水と気体との気液混合物を噴射する洗浄技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−138796号公報(第2〜3頁、図1−4)
【特許文献2】特開平4−66177号公報(第2〜3頁、第1−3図)
【特許文献3】特開2004−283683号公報(段落番号0013〜0017、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1〜3に開示された技術では、洗浄効果や洗浄安定性を高めるために概して大量の洗浄水を必要とし、この結果、大量の洗浄水を安定供給するための設備や装置が必要となるほか、水と雖も洗浄後の汚物を含む洗浄水の無害化処理が必要となる場合があるので、可及的少量の洗浄水の使用下で、しかも洗浄効果を高めることが大きな課題となっている。
【0009】
本発明は、上記した斯界の要求に応えるために、洗浄効率の向上を図ることにより環境負荷となる洗浄水自体の使用量を低減し、しかも洗浄後の洗浄水の処理に要するコストを低減することを目的とするものである。
【0010】
この目的を達成するため、本発明の発明者らは、水を主体とした洗浄水中に微細な気泡を発生させ、その洗浄効率を改善することによって、従来と比較して少量の洗浄水でありながら酸やアルカリ系の溶剤を用いた洗浄技術に匹敵する洗浄度が得られ、且つ長期間安定した洗浄能力を維持する洗浄技術を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る洗浄装置は、洗浄水が自由に流入出可能な構造を有すると共に複数の被洗浄体を収容する洗浄用籠、上記洗浄用籠を設置する洗浄槽、上記洗浄用籠を回転させる回転装置、上記洗浄用籠内の上記被洗浄体が集合する受噴射籠面に向けて洗浄水と気体との気液混合物を噴射する少なくとも2個の互いに分散設置されたインゼクター、上記洗浄槽の上方から流出する洗浄済み水を回収すると共に重量差を利用して上記洗浄済み水を汚れ成分と洗浄水とに分離する回収分離槽、上記回収分離槽において分離された上記洗浄水を上記各インゼクターに再供給する洗浄水再供給装置を備え、上記各インゼクターは、洗浄時間の後半では噴射を停止、あるいは弱めるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の洗浄装置は、上記した通りの構成により少量の上記気液混合物の使用にて被洗浄物を効果的に洗浄可能であり、しかも上記気液混合物の使用量を少量とすることができるので、その後処理のための装置並びに運転に要する費用も軽減する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1の全体を示す概略図である。
【図2】図1の1部の拡大斜視図である。
【図3】実施の形態1における洗浄水再供給装置の説明図である。
【図4】図1の1部の拡大正面図である。
【図5】実施の形態4における気液混合物の噴射量と残留油分量との関係を示すグラフである。
【図6】実施の形態5における各インゼクターの噴出口から洗浄用籠の受噴射籠面までの距離と受噴射籠面B2に衝突した時の流速との関係を示すグラフである。
【図7】実施の形態5における各インゼクターの噴出口から洗浄用籠の受噴射籠面までの距離とインゼクターの個数との関係を示すグラフである。
【図8】実施の形態5におけるインゼクター噴出口から受噴射籠面までの距離と総流量の関係を示すグラフである。
【図9】実施の形態5におけるインゼクター個数と総流量の関係を示すグラフである。
【図10】実施の形態6における洗浄装置の概略的な正面図である。
【図11】実施の形態7における洗浄装置の概略的な正面図である。
【図12】図11の問題を説明する説明図である。
【図13】実施の形態7における他の洗浄装置の概略的な正面図である。
【図14】実施の形態8における洗浄装置の説明図である。
【図15】実施の形態8における洗浄装置の他の説明図である。
【図16】実施の形態9における洗浄装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1〜図4は本発明の実施の形態1を説明するものであって、図1は実施の形態1の洗浄装置の全体を示す概略図であり、図2は図1の1部の拡大斜視図であり、図3は洗浄水再供給装置の説明図であり、図4は図1の1部の拡大正面図である。
【0015】
図1において、実施の形態1の洗浄装置は、主要部として洗浄槽W、濯ぎ槽R、乾燥槽D、および移動装置Tからなる。上記槽W、槽R、槽D各上蓋は開閉式であって、各槽W、R、Dの各内部には洗浄用籠Bを回転可能の状態で保持する枠体Fが設置されており、各槽の上蓋の上には、洗浄用籠Bを図2および図4に示す矢印Aの方向に回転させるモータMが固定されている。洗浄槽Wの底壁には、図1では簡略に示し、図2〜図4に詳細に示す複数のインゼクターW1が設けられており、濯ぎ槽Rの底壁には簡略に示す洗浄水噴射装置R1が設けられており、乾燥槽Dの底壁には簡略に示す、熱風や温風などの風噴射装置D1が設けられている。また、洗浄槽Wには、図3に示す洗浄水再供給装置が隣接設置されており、当該洗浄水再供給装置は、オーバーフロー部W2、前記回収分離槽の一例としてのオーバーフロー槽W3、循環ポンプW4、水分岐用マニホールド部W5、空気導入部W6、および空気分岐用マニホールドW7から構成されている。
【0016】
洗浄用籠Bは、図2に示すように、その6面の全部は洗浄水および気液混合物が自由に流入出可能なようにステンレス線製網にて形成されており、その天井面の外部には移動装置T(図1参照)による移動のための、長横孔を有する一対の取っ手板B1が固定されていて、取っ手板B1は当該天井面と共に洗浄用籠Bの4側面に対して着脱可能となっている。洗浄用籠Bは、枠体F内に挿脱着が可能な状態で納められる。
なお、図1では、洗浄用籠Bは、移動装置Tによる枠体F内への挿着前は実線で示し、枠体F内への挿着後は点線で示す。
【0017】
枠体Fは、図2および図4に示すように、底面F1と4部材F2〜F5とからなるが、洗浄用籠Bの挿脱着のために天井面は省かれている。上記4部材うちの部材F3およびF5は柱状体であり、部材F2およびF4は細幅の補強ビームを有する構造であって、したがって、枠体Fは洗浄水の通過を容易にする形状を有する。
なお、F2およびF4には、枠体Fの全体を矢印A(図2、図4参照)の方向またはその逆方向に回転させる回転軸M1が固定されており、回転軸M1の各他端は、洗浄槽Wの側壁に固定された軸受け(図示省略)に回転可能に保持されている。また、回転軸M1は、ベルトM2を介してモータMにより矢印Aの方向に枠体Fを内部に洗浄用籠Bを収容した状態で、回転せしめる。図1、図2および図4に示す点線の円は、枠体Fが回転軸M1の回りに回転した時の軌跡を表す。
【0018】
枠体Fは、洗浄用籠Bの挿脱着が容易ではあるが、その内寸法は洗浄用籠Bの挿着後および回転時において洗浄用籠Bのガタつきが実質的に生じない大きさとされており、また部材F2およびF4のいずれもは、洗浄用籠B内への洗浄水および気液混合物の自由流入出を妨害しない材料、例えばステンレス線製網、ステンレス製孔明き板などで形成されている。2部材F3およびF5は、ステンレスの角材で形成されている。
【0019】
濯ぎ槽Rおよび乾燥槽Dは、洗浄槽Wと実質的に同構造であって、それぞれに洗浄用籠Bを回転可能に保持する枠体Fが設置されている。但し、濯ぎ槽Rには洗浄槽Wで洗浄が終了した洗浄用籠Bおよびその内容物(被洗浄体)を濯ぎ洗いするための濯ぎ水噴射装置R1が設けられており、乾燥槽Dには濯ぎ槽Rにおいて濯ぎ洗いされた洗浄用籠Bおよびその内容物を乾燥するための温風あるいは熱風を噴射する風噴射装置D1が設けられている。上記濯ぎ水噴射装置R1および風噴射装置D1は、いずれも従来技術と同じであってよい。
【0020】
次に、実施の形態1の洗浄装置の動作について説明する。先ず、洗浄用籠Bに洗浄対象とされる物品(以下、被洗浄体)を投入する。被洗浄体としては、例えば銅系のプレス加工品や切削加工品、鉄系のプレス加工品や切削加工品などである。それらには、加工時に使用されたプレス油、切削加工油、更には加工時に生じた加工粉が付着しており、本発明はそれら付着物を除去するのに好適である。その際の被洗浄体の洗浄用籠Bへの投入量は特に制限はないが、投入量が過大であると洗浄用籠Bの回転によっても被洗浄体の洗浄用籠B内での移動量が乏しく、洗浄用籠B内の中央辺りに位置する被洗浄体は気液混合物と接触するチャンスが乏しくて洗浄の程度が低下する問題がある。一方、投入量が過小であると、洗浄用籠Bの有効利用率が低下する。よって被洗浄体の投入量は、洗浄用籠Bの総容積の10%〜80%、特に20%〜50%とすることが好ましい。
【0021】
図1において、洗浄用籠Bは、その内部に被洗浄体が投入されると、その天井面が4側面に固定され、取っ手板B1を介して移動装置Tにより洗浄槽Wの上に移動される。次いで、洗浄槽Wの上蓋が開き、洗浄用籠Bは、洗浄槽W内の枠体F内に挿入固定されて洗浄槽の上蓋が所定位置に固定され、次いで、モータMにより矢印Aあるいはその反対方向に枠体Fごと回転せしめられる。
【0022】
洗浄用籠B内の被洗浄体は、洗浄用籠Bの回転により洗浄用籠B内を移動し、洗浄用籠Bが図2や図4に示す状態、即ち洗浄用籠Bの一面が洗浄槽Wの底面と平行状態またはそれに近い状態となった時には、被洗浄体の多くは当該一面上に集合する。また、上記洗浄用籠Bの上記一面(以下、当該一面を受噴射籠面B2と称する。)に向けて気液混合物を噴射するように2個以上のインゼクターW1が分散配置される。例えば、図2では、6個のインゼクターW1が3個、2列の状態で分散配置されている。なお、本発明において、各インゼクターW1からの気液混合物の噴射は、受噴射籠面B2の位置に関係なく連続的であってもよく、間歇的であってもよい。
【0023】
本発明において、上記受噴射籠面B2の形状並びに面積に関しては特に制限はないが、実用上の観点から、当該形状は、正方形、長方形、台形、三角形などであり、当該面積は被洗浄体の大きさおよび一回の洗浄個数にも依存するが、通常のプレス加工品や切削加工品を例に採ると、100cm2〜5000cm2である。その場合におけるの洗浄用籠Bの高さは、10cm〜300cmである。
【0024】
次ぎに、上記受噴射籠面B2の種々の形状に対して複数のインゼクターW1を分散配置する一般的な方法について説明する。理想的には、複数個のインゼクターW1から噴射された気液混合物は、上記受噴射籠面B2の全面に過不足なく均一に衝突することが好ましいのは当然ではあるが、インゼクターW1からの噴射の形状は多くの場合、円錐形状またはそれに近い形状であるので実際にはそれは不可能あるいは困難であって、上記受噴射籠面B2の或る個所は複数個のインゼクターW1からの噴射物が重畳し、他の或る個所は無噴射状態となることもある。
【0025】
しかしながら、本発明では、かかる噴射の不均一があっても洗浄用籠Bの回転により被洗浄体は洗浄用籠B内を自由に移動するので、個々の被洗浄体の受噴射の程度、しかして、洗浄の程度は経時的に実質的に均一化して行く。なお、この実質的均一化の程度は、被洗浄体に要求された洗浄達成度、洗浄用籠B内における被洗浄体の移動度、インゼクターW1からの噴射量、あるいはその他の要因により変化するが、それらの要因が固定されれば、試行錯誤的に実質的均一化の程度を得るための洗浄条件を設定することができる。よって、本発明においては、複数のインゼクターW1は上記受噴射籠面B2に概ね行き渡る程度の分散配置でよい。洗浄用籠Bの回転速度および回転数は、被洗浄体に付着した汚れ成分の洗浄難易度、洗浄用籠B内の被洗浄体の量、インゼクターW1からの気液混合物の噴射量などによって異なるが、一般的には回転速度は3rpm〜6rpmが適当であり、洗浄終了までの総回転数は10回〜20回が適当である。
【0026】
以上の事情を考慮して、例えば、正方形の上記受噴射籠面B2に対して2個のインゼクターW1を分散配置する場合は、正方形の対角線上に等間隔をおいて設置する。インゼクターW1が3個の場合、正方形の中心の周りに等間隔を置いて3角形を描くように設置する。インゼクターW1が6個の場合、図2に示すように3個×3個の2列配置とし、インゼクターW1が7個の場合、図2における2列配置の内のいずれかの列を4個とする。上記受噴射籠面B2が長方形であって、インゼクターW1が3個の場合、長方形の対角線上に等間隔をおいて設置する。上記受噴射籠面B2が長方形であってインゼクターW1が7個の場合、前記正方形の場合と同様に3個列と4個列とを設ける。受噴射籠面B2が正方形や長方形以外の形状の場合も、正方形や長方形の場合と同様の感覚で可及的均一となるように配置してよい。
【0027】
図2の状態における上記受噴射籠面B2と各インゼクターW1の噴出口との間の距離は、一般的には10mm〜150mmであり、好ましくは後記の実施の形態において言及するように60mm〜130mmである。その際、上記受噴射籠面B2に対する各インゼクターW1の噴出口の高さを揃える必要はなく多少の不揃いがあっても良いが、不揃いの程度は5mm以下、特に2mm以下とすることが好ましい。
【0028】
かかる複数個のインゼクターW1のそれぞれから気液混合物が洗浄用籠Bに向けて噴射され、この噴射により洗浄用籠Bの受噴射籠面B2とその上に位置する被洗浄体が上記気液混合物により洗浄される。この洗浄の様子を図4に示す。図4において、白丸は気液混合物に含まれた気泡を示し、それらは受噴射籠面B2に衝突する迄は、通常、無色透明であるが、洗浄用籠B内を通過する間にしだいに着色不透明化していく。その際、洗浄用籠Bが回転することにより被洗浄体が洗浄用籠B内を移動するので、この移動により洗浄用籠B内の全ての被洗浄体が均一に洗浄される。
【0029】
インゼクターW1から洗浄槽W内に噴射された気液混合物は、洗浄槽W内を上昇し、その間に気泡部分は漸次融合し、洗浄槽W内の表面層には、汚染物を多量に含む洗浄水が存在し、それらは図3に示すように、オーバーフロー部W2を経由してオーバーフロー槽W3に移される。そこでは、比重差により汚染物と洗浄水とが分離して、表面には汚染物を一層多量に含む洗浄水層が形成され、その下には汚染物を含まない、あるいは汚染物の含有量が少ない洗浄水が位置し、これは下記のようにして再利用される。
【0030】
図3において、空気導入部W6から取り込まれた空気は、空気分岐用マニホールドW7を経由してインゼクターW1に送られ、一方、オーバーフロー槽W3内で分離された洗浄体水は、循環ポンプW4および水分岐用マニホールド部W5を経由してインゼクターW1に送られ、かくしてインゼクターW1から空気と洗浄水とからなる気液混合物が洗浄槽W内に噴射される。空気は、常に新しいものが導入使用されるが、洗浄水は循環使用される。かかる洗浄水の循環使用により、従来技術において必要であった洗浄水の再生浄化が不要となるか、あるいは一定期間は循環使用し、その後に再生処理を施すとしても、その再生処理の頻度を大幅に軽減できる効果がある。
【0031】
本発明において、上記気液混合物中の気体としては、空気、窒素、酸素、水素、炭酸ガス、アルゴン、あるいはその他の化学的に安定なものであって良い。それらの気体は、オゾンを0.01〜10容量%含有するものであってもよい。洗浄水としては、オーバーフロー槽W3内から上記した方法で回収した分離水のほか、上水道水、雨水、清浄な河川水、蒸留水、イオン交換水などが用いられるが、これらに少量の水溶性有機化合物を含有したものであってもよい。当該水溶性有機化合物を含有することにより、気液混合物中における気泡同士の融合が阻止され易くなって、インゼクターW1からの噴射により微細な気泡粒が良好に分散した気液混合物を形成し易くなる効果がある。上記水溶性有機化合物としては、水溶性であれば特に制限はないが、就中、アルコール類、有機酸類、エステル類、ケトン類が好ましく、またそれらの2種以上の併用であってもよい。
【0032】
インゼクターW1から洗浄槽W内に噴射される気液混合物において、気体の含有量が過小であると、生成するマイクロバブルの量が少なく、大量な油分が含まれる場合に短時間で油分を分離できなくなる問題があり、含有量が過大であると、油分に含まれる界面活性剤の影響により大量の泡を発生させる問題がある。よって、上記気液混合物中における気体の含有量は、上記洗浄水の容積1に対して上記気体の20℃、1気圧下での容積にして0.2〜2、好ましくは0.4〜1.8、特に0.5〜1.5である。インゼクターW1から噴射された気液混合物が被洗浄体に衝突する際の気泡の大きさが過小であると、気泡の浮力が低下する為、表面に付着させた油分を速やかに水面に上昇させ分離する能力が低下する問題があり、過大であると、被洗浄物表面に凹凸や穴部がある場合に気泡が到達できなくなる問題がある。よって、気泡の上記大きさは、高倍率のカメラ撮影の映像から気泡径を実測する方法で測定した平均値で5μm〜1000μm、好ましくは50μm〜500μmであって、かかる気泡の大きさはインゼクターW1の気液混合部径とインゼクターW1に供給する気液混合物の量を調節することにより試行錯誤的に決定することができる。
【0033】
実施の形態1では、洗浄槽Wの下部に空気と循環使用する洗浄水とを混合して微小気泡を発生させるインゼクターW1を配置したが、一般的には、洗浄槽Wの容量、洗浄槽W内の洗浄液水あるいは気液混合物の量、洗浄槽W内を回転する洗浄用籠Bの容量)、インゼクターW1の噴出口から洗浄用籠Bの受噴射籠面B2までの距離、インゼクターW1の設置個数とその配置ピッチ、インゼクターW1に供給する気液混合物の量、当該気液混合物中における洗浄水と気体との量比などには、それぞれ適正な関係があり、それらを適正関係の範囲内に設定することにより、少ない気液混合物で良好な洗浄状態を得、以下に説明するように、例えば、洗浄前における付着油分量が100μg/cm3〜1000μg/cm3程度の被洗浄体を対象に洗浄を実施し、実施の形態1の洗浄装置にて洗浄することで、10μg/cm3〜50μg/cm3あるいはそれ以下となるまで減少せしめ得ることを確認した。そこで、次に、本発明においてインゼクターW1を少なくとも2個使用することの効果を実施の形態2および比較例により一層詳細に説明する。
【0034】
実施の形態2.
前記した図1〜図4に示す洗浄装置を用いた。但し、洗浄用籠Bは、受噴射籠面B2が220mm×250mmの長方形、高さが200mmの立方体であり、インゼクターW1を2個使用した。2個のインゼクターW1は、洗浄槽Wの底面に、且つ、上記洗浄用籠Bの受噴射籠面B2の対角線を三等分する2点の各真下にあたる位置に設置した。被洗浄体として、40℃における動粘度が約45mm2/秒の鉱油系プレス加工油が付着している鉄系プレス加工品(平均厚さ:約2mm、平均長さ:約5cm:平均全表面積:約17.6cm2、洗浄前の平均油付着量:150μg/cm2)を被洗浄体とした。洗浄前の上記油付着量は、実験室において試薬特級のトルエンを脱油剤として用い、脱油処理して得られた油量と被洗浄体の上記平均全表面積から算出した。以下において、洗浄後においても未だ除去されず被洗浄体に残留する付着油量を被洗浄体の総表面で除した値を残留油分量(μg/cm2)と称する。
【0035】
上記プレス加工品を洗浄用籠Bの内容積の20容量%となる量を投入し、上記2個のインゼクターW1のそれぞれから上水道水を洗浄水とし、上記洗浄水の容積1に対して20℃、1気圧下に換算した空気の容積が1である気液混合物を上記受噴射籠面B2との衝突時の流速が平均30mm/秒となるように噴射した。その際に洗浄用籠Bは、3rpmの回転速度で回転させた。かかる洗浄を4分間継続した後、洗浄用籠Bの回転およびインゼクターW1からの噴射を停止し、洗浄用籠Bを通常の条件で濯ぎ洗いし、乾燥し、かくして清浄化された鉄系プレス加工品(残留油分量:25μg/cm2)を得た。上記の洗浄に要した上水道水の総量は、80リットルであった。
【0036】
比較例1
インゼクターW1を1個使用し、これを洗浄槽1の底面に、且つ、洗浄用籠Bの受噴射籠面B2の略中心の真下にあたる位置に設置したこと以外は、前記実施の形態2と同じ方法並びに条件にて洗浄された鉄系プレス加工品を得た。それの残留油分量は、110μg/cm2)であって、未だ洗浄不足であった。そこで、比較例1での洗浄度を実施の形態2の場合と同程度の洗浄度とするまで続行したところ、150リットル以上の洗浄水を用いても残留油分量は60μg/cm2であって、これ以上清浄度の改善は見られなかった。このことからインゼクターW1を従来の1個より2個使用する方が効果大きいことが明白となった。
【0037】
インゼクターW1の使用個数の相違による実施の形態2と比較例1との洗浄力の明白な相違に関しては、本発明者らはインゼクターW1の個数を増やすことで、被洗浄物とインゼクターとの距離を近づけ、且つ、均一に被洗浄物へ洗浄液を到達させることが可能となり、洗浄液の流速が高い状態で被洗浄物に衝突することで、より表面の油分を分離しやすくなるとの理由に基づくものであり、この理由からインゼクターW1を更に増加させた後記の実施態様における洗浄力の一層の向上の理由でもあると考えている。
【0038】
実施の形態3.
前記実施の形態2で用いた気液混合物に代えて、アルコール系添加剤を0.5質量%溶解した上水道水を用いて得た気液混合物を用いた以外は、前記実施例1と同じ洗浄装置並びに洗浄条件で洗浄された鉄系プレス加工品(残留油分量:25μg/cm2)を2分の洗浄時間つまり40リットルの洗浄液量で得た。この結果、通常の上水道水より、それに添加剤すると一層洗浄効果が向上することが確認された。
【0039】
次に、本発明における洗浄時間を短縮し、洗浄度を向上させることを目的とした実施の形態4および実施の形態5を示す。
【0040】
実施の形態4.
洗浄装置、被洗浄体、および洗浄装置の諸稼動条件は、それぞれ前記の実施の形態2の場合と同じとし、但し、インゼクターW1は4個とし、それらを洗浄用籠Bの受噴射籠面B2を4等分した4方形の各中心の各真下にあたる位置に設置し、また、洗浄用籠Bは3rpmで回転させた。4個のインゼクターW1から噴射された気液混合物の合計量に含まれた洗浄水の1分間あたりの水量を40リットル/分から100リットル/分まで変化させ、且つ、洗浄時間を10秒間、30秒間、および60秒間とした洗浄を行った。その結果を上記洗浄時間をパラメータとして図5に示す。
【0041】
図5のグラフから、洗浄水の1分間あたりの水量が多いほど、また、洗浄時間が長いほど被洗浄体の残留油分量が少なくて洗浄度が向上することが分かる。また、図5から、上記水量を多くするほど残留油分量が少なくなるので、洗浄度の向上の観点では有利な方向となることが判る。しかしながら、大流量の洗浄水を使用するので、これに対応した大型の循環ポンプや洗浄槽Wが必要となり、装置自体の規模が大きくなるという問題が生じる。
【0042】
実施の形態5.
実施の形態4と同じ洗浄装置を用い、但し、各インゼクターW1の噴出口から洗浄用籠Bの受噴射籠面B2までの距離を変化させ、各インゼクターW1からの気液混合物が受噴射籠面B2に衝突した時の流速(mm/秒)との関係を調べた結果を図6に示す。図6のグラフから、気液混合物を受噴射籠面B2に高流速で衝突させるには、各インゼクターW1を上記受噴射籠面B2に近づける方が良いことが分かる。
【0043】
しかしながら、1個のインゼクターW1にて洗浄可能な領域は、噴射された気液混合物が広がり角度を持つことから、受噴射籠面B2までの距離を大きくする方が広い領域を洗浄することが可能となる。上記の関係を数式で表現すると、インゼクターW1の噴出口の開口径をΦ0、当該噴出口における噴出物の流速をV0(mm/秒)、インゼクターW1の噴出口から上記受噴射籠面B2までの距離をH(mm)、受噴射籠面B2への衝突時における気液混合物の流速をV1(mm/秒)とした場合、気液混合物の拡散に伴い気液混合物の流速は減少する。上記気液混合物の広がり角度をθとすると、受噴射籠面B2までの距離と流速との関係は下記式1で表せる。
【0044】
V1=V0(Φ0/2)2/{(Φ0/2)2+Φ0Htanθ+(Htanθ)2} (1)
【0045】
上記流速V1を30mm/秒を一定とし、いま洗浄用籠Bの大きさを幅220mm×奥行き250mmとした時、インゼクターW1の噴出口から受噴射籠面B2までの距離H(mm)とインゼクター個数の関係を図7に、インゼクターW1の噴出口から受噴射籠面B2までの距離H(mm)と総流量の関係を図8に、インゼクター個数と総流量の関係を図9に、それぞれ示す。これらの結果より総流量を少なくする為にはインゼクター個数は4〜10個、インゼクターW1の噴出口から受噴射籠面B2までの距離は60mm〜130mmにすれば良いことが判る。
【0046】
実施の形態6.
図10は、実施の形態6の概略的な正面図であって、洗浄用籠Bはドーナツ状(あるいは円筒状)を呈し、ドーナツの中孔の中心を通る回転軸M1の回りに回転する。回転軸M1の両端は、洗浄槽Wの側壁に固定された軸受け(図示省略)に回転自在に固定されており、回転軸M1の上記中孔を貫通する個所は、洗浄用籠Bの上記中孔を形成する面から放射状に伸びる複数の支柱B3により洗浄用籠Bに固定されている。洗浄槽Wの底面には複数(図10では3個を図示)のインゼクターW1が設置されている。実施の形態6では、ドーナツ状の洗浄用籠Bの図上での下面が受噴射籠面B2となるので、各インゼクターW1からは図示するように、当該下面に向けて気液混合物が噴射される。
【0047】
いま洗浄用籠Bの幅、即ち受噴射籠面B2の幅がLであってインゼクターの個数がN、各インゼクターからの受噴射籠面B2における噴射幅がPであると、N個のインゼクターW1は、L=NPとなるように等間隔で並列設置するとよい。図10では、噴射幅Pの3個のインゼクターW1が互いに間隔を空けて並列設置された状態を例示する。この場合、受噴射籠面B2はその全面に亙って常に均一に気液混合物を受噴するので、洗浄時間を短縮し得る効果がある。
【0048】
実施の形態7.
図11〜図13は、実施の形態7を説明するものであり、また、前記図10に示す洗浄装置を用いて洗浄した際に、洗浄槽W中の洗浄水の表面に浮上し分離した油分(梨地で示す。)を速やかに回収するオーバーフロー機構について説明するものである。水供給装置W8は、上記表面に水を矢印の方向に流して当該油分を矢印Xの方向(後続の図12〜15において同じ)に移動せしめ、オーバーフロー槽W3(図3参照)内に移す機能をなす。なお、水供給装置W8に供給する水としては、例えば前記図3に示す循環ポンプW4からの循環水が使用される。図11において、洗浄用籠Bの回転によりその1部が図12に示すように洗浄槽W内の水面から上に出る場合、水面上の上記油分が再付着する問題が起きる。かかる場合、図13に示すように洗浄用籠Bの回転径を洗浄槽W中の上記油分層に接触しない寸法とすることで、浮上した油の被洗浄物または洗浄用籠Bへの再付着を防止することができる。
【0049】
実施の形態8.
図14および図15は、実施の形態8を説明するものである。図14は、例えば、前記図13における洗浄中の洗浄槽W内の水面付近における状態を示す説明図であって、被洗浄物より分離した油分が水面付近および水面に上昇した気泡内に包まれ油層を形成している。インゼクターW1からマイクロバブルを発生した状態では、上記油層をオーバーフロー槽W3側へ送り込む流れと、インゼクターW1からのマイクロバブルを含む、太い矢印Yで示す上昇流とが衝突して、分離した油分をオーバーフロー槽W3へ移動させる妨げとなることがある。かかる場合、図15に示すように洗浄時間の後半部分ではインゼクターW1からの噴射を停止する、あるいは細い矢印Zで示すように、上記噴射の流速を弱めるなどして油層の移動をスムースにすることができる。
【0050】
実施の形態9.
図16は、実施の形態9を説明するものである。洗浄槽内の水面上の油層のオーバーフロー槽W3への安定移動に関する前記実施の形態7および実施の形態8における方法以外に、図16に示すように洗浄槽W内の全周からオーバーフローが生じるようにインゼクターW1からの噴射量を調節することにより、効率よく油層を分離することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の洗浄装置は、加工時に使用されたプレス油、機械加工油、あるいは加工粉が付着した銅系のプレス加工品や切削加工品、鉄系のプレス加工品や切削加工品などの洗浄に好適である。
【符号の説明】
【0052】
W:洗浄槽、 W1:インゼクター、 W2:オーバーフロー部、
W3:オーバーフロー槽、 W4:循環ポンプ、 W5:水分岐用マニホールド部、
W6:空気導入部、 W7:空気分岐用マニホールド部、 R:濯ぎ槽、
R1:濯ぎ水噴射装置、 D:乾燥槽、 D1:風噴射装置、 T:移動装置、
B:洗浄用籠、 B1:取っ手板、 B2:受噴射籠面、 B3:支柱、 F:枠体、F1:底面、 F2〜F5:側面、 M:モータ、 M1:回転軸、 M2:ベルト。
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄装置に関し、詳しくは洗浄水と気体との気液混合物をインゼクターから噴射する構造を有し、多数の小型機械部品の洗浄に好適な洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フロン系溶剤、石油系溶剤、低級有機溶剤などの有機系洗浄剤は、油脂の汚れに対して洗浄効果が高いので、従来から工業的洗浄の分野において多用されてきた。しかしその結果、洗浄後のそれら有機系溶剤の自然界への廃棄により、オゾン層の破壊、地下水、河川、海洋などの水系を汚染する環境問題を惹起することが明らかになった。このために環境負荷低減の目的から、これら有機系洗浄剤に換えて、水または水を主体とした洗浄液による洗浄技術の開発が目下の焦眉となっている。
【0003】
例えば洗浄液として油分を溶解するアルカリ洗浄液を使用した洗浄では、安定した洗浄力を得る為には、洗浄槽の下部に設けた超音波振動子による微細振動の定常的な発生と、洗浄液の油分溶解能力の低下にあわせた定期的な液交換を必要とした。特に後者は、被洗浄物に付着した油分をアルカリ洗浄液に溶け込ませるようにして除去するので、洗浄液の油分濃度が上昇するに従い徐々に洗浄力が低下する問題があった。また、アルカリ洗浄液自体が劇物であり、取り扱いの問題や洗浄後の廃液処理の問題があり、環境負荷を増大させることになっていた。
【0004】
一方、後記の特許文献1には、水を主体とした洗浄水による洗浄において、微細な気泡を被洗浄物に吹付けて高速気泡の衝突によってキャビテーションを生起させ、洗浄効率を向上させる洗浄方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、水中で超音波を発生させて水中に発生した気泡の振動や気泡の崩壊時に発生する衝撃波により洗浄効率を向上させる方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、エジェクタから少量の有機溶媒を含む洗浄水と気体との気液混合物を噴射する洗浄技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−138796号公報(第2〜3頁、図1−4)
【特許文献2】特開平4−66177号公報(第2〜3頁、第1−3図)
【特許文献3】特開2004−283683号公報(段落番号0013〜0017、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1〜3に開示された技術では、洗浄効果や洗浄安定性を高めるために概して大量の洗浄水を必要とし、この結果、大量の洗浄水を安定供給するための設備や装置が必要となるほか、水と雖も洗浄後の汚物を含む洗浄水の無害化処理が必要となる場合があるので、可及的少量の洗浄水の使用下で、しかも洗浄効果を高めることが大きな課題となっている。
【0009】
本発明は、上記した斯界の要求に応えるために、洗浄効率の向上を図ることにより環境負荷となる洗浄水自体の使用量を低減し、しかも洗浄後の洗浄水の処理に要するコストを低減することを目的とするものである。
【0010】
この目的を達成するため、本発明の発明者らは、水を主体とした洗浄水中に微細な気泡を発生させ、その洗浄効率を改善することによって、従来と比較して少量の洗浄水でありながら酸やアルカリ系の溶剤を用いた洗浄技術に匹敵する洗浄度が得られ、且つ長期間安定した洗浄能力を維持する洗浄技術を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る洗浄装置は、洗浄水が自由に流入出可能な構造を有すると共に複数の被洗浄体を収容する洗浄用籠、上記洗浄用籠を設置する洗浄槽、上記洗浄用籠を回転させる回転装置、上記洗浄用籠内の上記被洗浄体が集合する受噴射籠面に向けて洗浄水と気体との気液混合物を噴射する少なくとも2個の互いに分散設置されたインゼクター、上記洗浄槽の上方から流出する洗浄済み水を回収すると共に重量差を利用して上記洗浄済み水を汚れ成分と洗浄水とに分離する回収分離槽、上記回収分離槽において分離された上記洗浄水を上記各インゼクターに再供給する洗浄水再供給装置を備え、上記各インゼクターは、洗浄時間の後半では噴射を停止、あるいは弱めるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の洗浄装置は、上記した通りの構成により少量の上記気液混合物の使用にて被洗浄物を効果的に洗浄可能であり、しかも上記気液混合物の使用量を少量とすることができるので、その後処理のための装置並びに運転に要する費用も軽減する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1の全体を示す概略図である。
【図2】図1の1部の拡大斜視図である。
【図3】実施の形態1における洗浄水再供給装置の説明図である。
【図4】図1の1部の拡大正面図である。
【図5】実施の形態4における気液混合物の噴射量と残留油分量との関係を示すグラフである。
【図6】実施の形態5における各インゼクターの噴出口から洗浄用籠の受噴射籠面までの距離と受噴射籠面B2に衝突した時の流速との関係を示すグラフである。
【図7】実施の形態5における各インゼクターの噴出口から洗浄用籠の受噴射籠面までの距離とインゼクターの個数との関係を示すグラフである。
【図8】実施の形態5におけるインゼクター噴出口から受噴射籠面までの距離と総流量の関係を示すグラフである。
【図9】実施の形態5におけるインゼクター個数と総流量の関係を示すグラフである。
【図10】実施の形態6における洗浄装置の概略的な正面図である。
【図11】実施の形態7における洗浄装置の概略的な正面図である。
【図12】図11の問題を説明する説明図である。
【図13】実施の形態7における他の洗浄装置の概略的な正面図である。
【図14】実施の形態8における洗浄装置の説明図である。
【図15】実施の形態8における洗浄装置の他の説明図である。
【図16】実施の形態9における洗浄装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1〜図4は本発明の実施の形態1を説明するものであって、図1は実施の形態1の洗浄装置の全体を示す概略図であり、図2は図1の1部の拡大斜視図であり、図3は洗浄水再供給装置の説明図であり、図4は図1の1部の拡大正面図である。
【0015】
図1において、実施の形態1の洗浄装置は、主要部として洗浄槽W、濯ぎ槽R、乾燥槽D、および移動装置Tからなる。上記槽W、槽R、槽D各上蓋は開閉式であって、各槽W、R、Dの各内部には洗浄用籠Bを回転可能の状態で保持する枠体Fが設置されており、各槽の上蓋の上には、洗浄用籠Bを図2および図4に示す矢印Aの方向に回転させるモータMが固定されている。洗浄槽Wの底壁には、図1では簡略に示し、図2〜図4に詳細に示す複数のインゼクターW1が設けられており、濯ぎ槽Rの底壁には簡略に示す洗浄水噴射装置R1が設けられており、乾燥槽Dの底壁には簡略に示す、熱風や温風などの風噴射装置D1が設けられている。また、洗浄槽Wには、図3に示す洗浄水再供給装置が隣接設置されており、当該洗浄水再供給装置は、オーバーフロー部W2、前記回収分離槽の一例としてのオーバーフロー槽W3、循環ポンプW4、水分岐用マニホールド部W5、空気導入部W6、および空気分岐用マニホールドW7から構成されている。
【0016】
洗浄用籠Bは、図2に示すように、その6面の全部は洗浄水および気液混合物が自由に流入出可能なようにステンレス線製網にて形成されており、その天井面の外部には移動装置T(図1参照)による移動のための、長横孔を有する一対の取っ手板B1が固定されていて、取っ手板B1は当該天井面と共に洗浄用籠Bの4側面に対して着脱可能となっている。洗浄用籠Bは、枠体F内に挿脱着が可能な状態で納められる。
なお、図1では、洗浄用籠Bは、移動装置Tによる枠体F内への挿着前は実線で示し、枠体F内への挿着後は点線で示す。
【0017】
枠体Fは、図2および図4に示すように、底面F1と4部材F2〜F5とからなるが、洗浄用籠Bの挿脱着のために天井面は省かれている。上記4部材うちの部材F3およびF5は柱状体であり、部材F2およびF4は細幅の補強ビームを有する構造であって、したがって、枠体Fは洗浄水の通過を容易にする形状を有する。
なお、F2およびF4には、枠体Fの全体を矢印A(図2、図4参照)の方向またはその逆方向に回転させる回転軸M1が固定されており、回転軸M1の各他端は、洗浄槽Wの側壁に固定された軸受け(図示省略)に回転可能に保持されている。また、回転軸M1は、ベルトM2を介してモータMにより矢印Aの方向に枠体Fを内部に洗浄用籠Bを収容した状態で、回転せしめる。図1、図2および図4に示す点線の円は、枠体Fが回転軸M1の回りに回転した時の軌跡を表す。
【0018】
枠体Fは、洗浄用籠Bの挿脱着が容易ではあるが、その内寸法は洗浄用籠Bの挿着後および回転時において洗浄用籠Bのガタつきが実質的に生じない大きさとされており、また部材F2およびF4のいずれもは、洗浄用籠B内への洗浄水および気液混合物の自由流入出を妨害しない材料、例えばステンレス線製網、ステンレス製孔明き板などで形成されている。2部材F3およびF5は、ステンレスの角材で形成されている。
【0019】
濯ぎ槽Rおよび乾燥槽Dは、洗浄槽Wと実質的に同構造であって、それぞれに洗浄用籠Bを回転可能に保持する枠体Fが設置されている。但し、濯ぎ槽Rには洗浄槽Wで洗浄が終了した洗浄用籠Bおよびその内容物(被洗浄体)を濯ぎ洗いするための濯ぎ水噴射装置R1が設けられており、乾燥槽Dには濯ぎ槽Rにおいて濯ぎ洗いされた洗浄用籠Bおよびその内容物を乾燥するための温風あるいは熱風を噴射する風噴射装置D1が設けられている。上記濯ぎ水噴射装置R1および風噴射装置D1は、いずれも従来技術と同じであってよい。
【0020】
次に、実施の形態1の洗浄装置の動作について説明する。先ず、洗浄用籠Bに洗浄対象とされる物品(以下、被洗浄体)を投入する。被洗浄体としては、例えば銅系のプレス加工品や切削加工品、鉄系のプレス加工品や切削加工品などである。それらには、加工時に使用されたプレス油、切削加工油、更には加工時に生じた加工粉が付着しており、本発明はそれら付着物を除去するのに好適である。その際の被洗浄体の洗浄用籠Bへの投入量は特に制限はないが、投入量が過大であると洗浄用籠Bの回転によっても被洗浄体の洗浄用籠B内での移動量が乏しく、洗浄用籠B内の中央辺りに位置する被洗浄体は気液混合物と接触するチャンスが乏しくて洗浄の程度が低下する問題がある。一方、投入量が過小であると、洗浄用籠Bの有効利用率が低下する。よって被洗浄体の投入量は、洗浄用籠Bの総容積の10%〜80%、特に20%〜50%とすることが好ましい。
【0021】
図1において、洗浄用籠Bは、その内部に被洗浄体が投入されると、その天井面が4側面に固定され、取っ手板B1を介して移動装置Tにより洗浄槽Wの上に移動される。次いで、洗浄槽Wの上蓋が開き、洗浄用籠Bは、洗浄槽W内の枠体F内に挿入固定されて洗浄槽の上蓋が所定位置に固定され、次いで、モータMにより矢印Aあるいはその反対方向に枠体Fごと回転せしめられる。
【0022】
洗浄用籠B内の被洗浄体は、洗浄用籠Bの回転により洗浄用籠B内を移動し、洗浄用籠Bが図2や図4に示す状態、即ち洗浄用籠Bの一面が洗浄槽Wの底面と平行状態またはそれに近い状態となった時には、被洗浄体の多くは当該一面上に集合する。また、上記洗浄用籠Bの上記一面(以下、当該一面を受噴射籠面B2と称する。)に向けて気液混合物を噴射するように2個以上のインゼクターW1が分散配置される。例えば、図2では、6個のインゼクターW1が3個、2列の状態で分散配置されている。なお、本発明において、各インゼクターW1からの気液混合物の噴射は、受噴射籠面B2の位置に関係なく連続的であってもよく、間歇的であってもよい。
【0023】
本発明において、上記受噴射籠面B2の形状並びに面積に関しては特に制限はないが、実用上の観点から、当該形状は、正方形、長方形、台形、三角形などであり、当該面積は被洗浄体の大きさおよび一回の洗浄個数にも依存するが、通常のプレス加工品や切削加工品を例に採ると、100cm2〜5000cm2である。その場合におけるの洗浄用籠Bの高さは、10cm〜300cmである。
【0024】
次ぎに、上記受噴射籠面B2の種々の形状に対して複数のインゼクターW1を分散配置する一般的な方法について説明する。理想的には、複数個のインゼクターW1から噴射された気液混合物は、上記受噴射籠面B2の全面に過不足なく均一に衝突することが好ましいのは当然ではあるが、インゼクターW1からの噴射の形状は多くの場合、円錐形状またはそれに近い形状であるので実際にはそれは不可能あるいは困難であって、上記受噴射籠面B2の或る個所は複数個のインゼクターW1からの噴射物が重畳し、他の或る個所は無噴射状態となることもある。
【0025】
しかしながら、本発明では、かかる噴射の不均一があっても洗浄用籠Bの回転により被洗浄体は洗浄用籠B内を自由に移動するので、個々の被洗浄体の受噴射の程度、しかして、洗浄の程度は経時的に実質的に均一化して行く。なお、この実質的均一化の程度は、被洗浄体に要求された洗浄達成度、洗浄用籠B内における被洗浄体の移動度、インゼクターW1からの噴射量、あるいはその他の要因により変化するが、それらの要因が固定されれば、試行錯誤的に実質的均一化の程度を得るための洗浄条件を設定することができる。よって、本発明においては、複数のインゼクターW1は上記受噴射籠面B2に概ね行き渡る程度の分散配置でよい。洗浄用籠Bの回転速度および回転数は、被洗浄体に付着した汚れ成分の洗浄難易度、洗浄用籠B内の被洗浄体の量、インゼクターW1からの気液混合物の噴射量などによって異なるが、一般的には回転速度は3rpm〜6rpmが適当であり、洗浄終了までの総回転数は10回〜20回が適当である。
【0026】
以上の事情を考慮して、例えば、正方形の上記受噴射籠面B2に対して2個のインゼクターW1を分散配置する場合は、正方形の対角線上に等間隔をおいて設置する。インゼクターW1が3個の場合、正方形の中心の周りに等間隔を置いて3角形を描くように設置する。インゼクターW1が6個の場合、図2に示すように3個×3個の2列配置とし、インゼクターW1が7個の場合、図2における2列配置の内のいずれかの列を4個とする。上記受噴射籠面B2が長方形であって、インゼクターW1が3個の場合、長方形の対角線上に等間隔をおいて設置する。上記受噴射籠面B2が長方形であってインゼクターW1が7個の場合、前記正方形の場合と同様に3個列と4個列とを設ける。受噴射籠面B2が正方形や長方形以外の形状の場合も、正方形や長方形の場合と同様の感覚で可及的均一となるように配置してよい。
【0027】
図2の状態における上記受噴射籠面B2と各インゼクターW1の噴出口との間の距離は、一般的には10mm〜150mmであり、好ましくは後記の実施の形態において言及するように60mm〜130mmである。その際、上記受噴射籠面B2に対する各インゼクターW1の噴出口の高さを揃える必要はなく多少の不揃いがあっても良いが、不揃いの程度は5mm以下、特に2mm以下とすることが好ましい。
【0028】
かかる複数個のインゼクターW1のそれぞれから気液混合物が洗浄用籠Bに向けて噴射され、この噴射により洗浄用籠Bの受噴射籠面B2とその上に位置する被洗浄体が上記気液混合物により洗浄される。この洗浄の様子を図4に示す。図4において、白丸は気液混合物に含まれた気泡を示し、それらは受噴射籠面B2に衝突する迄は、通常、無色透明であるが、洗浄用籠B内を通過する間にしだいに着色不透明化していく。その際、洗浄用籠Bが回転することにより被洗浄体が洗浄用籠B内を移動するので、この移動により洗浄用籠B内の全ての被洗浄体が均一に洗浄される。
【0029】
インゼクターW1から洗浄槽W内に噴射された気液混合物は、洗浄槽W内を上昇し、その間に気泡部分は漸次融合し、洗浄槽W内の表面層には、汚染物を多量に含む洗浄水が存在し、それらは図3に示すように、オーバーフロー部W2を経由してオーバーフロー槽W3に移される。そこでは、比重差により汚染物と洗浄水とが分離して、表面には汚染物を一層多量に含む洗浄水層が形成され、その下には汚染物を含まない、あるいは汚染物の含有量が少ない洗浄水が位置し、これは下記のようにして再利用される。
【0030】
図3において、空気導入部W6から取り込まれた空気は、空気分岐用マニホールドW7を経由してインゼクターW1に送られ、一方、オーバーフロー槽W3内で分離された洗浄体水は、循環ポンプW4および水分岐用マニホールド部W5を経由してインゼクターW1に送られ、かくしてインゼクターW1から空気と洗浄水とからなる気液混合物が洗浄槽W内に噴射される。空気は、常に新しいものが導入使用されるが、洗浄水は循環使用される。かかる洗浄水の循環使用により、従来技術において必要であった洗浄水の再生浄化が不要となるか、あるいは一定期間は循環使用し、その後に再生処理を施すとしても、その再生処理の頻度を大幅に軽減できる効果がある。
【0031】
本発明において、上記気液混合物中の気体としては、空気、窒素、酸素、水素、炭酸ガス、アルゴン、あるいはその他の化学的に安定なものであって良い。それらの気体は、オゾンを0.01〜10容量%含有するものであってもよい。洗浄水としては、オーバーフロー槽W3内から上記した方法で回収した分離水のほか、上水道水、雨水、清浄な河川水、蒸留水、イオン交換水などが用いられるが、これらに少量の水溶性有機化合物を含有したものであってもよい。当該水溶性有機化合物を含有することにより、気液混合物中における気泡同士の融合が阻止され易くなって、インゼクターW1からの噴射により微細な気泡粒が良好に分散した気液混合物を形成し易くなる効果がある。上記水溶性有機化合物としては、水溶性であれば特に制限はないが、就中、アルコール類、有機酸類、エステル類、ケトン類が好ましく、またそれらの2種以上の併用であってもよい。
【0032】
インゼクターW1から洗浄槽W内に噴射される気液混合物において、気体の含有量が過小であると、生成するマイクロバブルの量が少なく、大量な油分が含まれる場合に短時間で油分を分離できなくなる問題があり、含有量が過大であると、油分に含まれる界面活性剤の影響により大量の泡を発生させる問題がある。よって、上記気液混合物中における気体の含有量は、上記洗浄水の容積1に対して上記気体の20℃、1気圧下での容積にして0.2〜2、好ましくは0.4〜1.8、特に0.5〜1.5である。インゼクターW1から噴射された気液混合物が被洗浄体に衝突する際の気泡の大きさが過小であると、気泡の浮力が低下する為、表面に付着させた油分を速やかに水面に上昇させ分離する能力が低下する問題があり、過大であると、被洗浄物表面に凹凸や穴部がある場合に気泡が到達できなくなる問題がある。よって、気泡の上記大きさは、高倍率のカメラ撮影の映像から気泡径を実測する方法で測定した平均値で5μm〜1000μm、好ましくは50μm〜500μmであって、かかる気泡の大きさはインゼクターW1の気液混合部径とインゼクターW1に供給する気液混合物の量を調節することにより試行錯誤的に決定することができる。
【0033】
実施の形態1では、洗浄槽Wの下部に空気と循環使用する洗浄水とを混合して微小気泡を発生させるインゼクターW1を配置したが、一般的には、洗浄槽Wの容量、洗浄槽W内の洗浄液水あるいは気液混合物の量、洗浄槽W内を回転する洗浄用籠Bの容量)、インゼクターW1の噴出口から洗浄用籠Bの受噴射籠面B2までの距離、インゼクターW1の設置個数とその配置ピッチ、インゼクターW1に供給する気液混合物の量、当該気液混合物中における洗浄水と気体との量比などには、それぞれ適正な関係があり、それらを適正関係の範囲内に設定することにより、少ない気液混合物で良好な洗浄状態を得、以下に説明するように、例えば、洗浄前における付着油分量が100μg/cm3〜1000μg/cm3程度の被洗浄体を対象に洗浄を実施し、実施の形態1の洗浄装置にて洗浄することで、10μg/cm3〜50μg/cm3あるいはそれ以下となるまで減少せしめ得ることを確認した。そこで、次に、本発明においてインゼクターW1を少なくとも2個使用することの効果を実施の形態2および比較例により一層詳細に説明する。
【0034】
実施の形態2.
前記した図1〜図4に示す洗浄装置を用いた。但し、洗浄用籠Bは、受噴射籠面B2が220mm×250mmの長方形、高さが200mmの立方体であり、インゼクターW1を2個使用した。2個のインゼクターW1は、洗浄槽Wの底面に、且つ、上記洗浄用籠Bの受噴射籠面B2の対角線を三等分する2点の各真下にあたる位置に設置した。被洗浄体として、40℃における動粘度が約45mm2/秒の鉱油系プレス加工油が付着している鉄系プレス加工品(平均厚さ:約2mm、平均長さ:約5cm:平均全表面積:約17.6cm2、洗浄前の平均油付着量:150μg/cm2)を被洗浄体とした。洗浄前の上記油付着量は、実験室において試薬特級のトルエンを脱油剤として用い、脱油処理して得られた油量と被洗浄体の上記平均全表面積から算出した。以下において、洗浄後においても未だ除去されず被洗浄体に残留する付着油量を被洗浄体の総表面で除した値を残留油分量(μg/cm2)と称する。
【0035】
上記プレス加工品を洗浄用籠Bの内容積の20容量%となる量を投入し、上記2個のインゼクターW1のそれぞれから上水道水を洗浄水とし、上記洗浄水の容積1に対して20℃、1気圧下に換算した空気の容積が1である気液混合物を上記受噴射籠面B2との衝突時の流速が平均30mm/秒となるように噴射した。その際に洗浄用籠Bは、3rpmの回転速度で回転させた。かかる洗浄を4分間継続した後、洗浄用籠Bの回転およびインゼクターW1からの噴射を停止し、洗浄用籠Bを通常の条件で濯ぎ洗いし、乾燥し、かくして清浄化された鉄系プレス加工品(残留油分量:25μg/cm2)を得た。上記の洗浄に要した上水道水の総量は、80リットルであった。
【0036】
比較例1
インゼクターW1を1個使用し、これを洗浄槽1の底面に、且つ、洗浄用籠Bの受噴射籠面B2の略中心の真下にあたる位置に設置したこと以外は、前記実施の形態2と同じ方法並びに条件にて洗浄された鉄系プレス加工品を得た。それの残留油分量は、110μg/cm2)であって、未だ洗浄不足であった。そこで、比較例1での洗浄度を実施の形態2の場合と同程度の洗浄度とするまで続行したところ、150リットル以上の洗浄水を用いても残留油分量は60μg/cm2であって、これ以上清浄度の改善は見られなかった。このことからインゼクターW1を従来の1個より2個使用する方が効果大きいことが明白となった。
【0037】
インゼクターW1の使用個数の相違による実施の形態2と比較例1との洗浄力の明白な相違に関しては、本発明者らはインゼクターW1の個数を増やすことで、被洗浄物とインゼクターとの距離を近づけ、且つ、均一に被洗浄物へ洗浄液を到達させることが可能となり、洗浄液の流速が高い状態で被洗浄物に衝突することで、より表面の油分を分離しやすくなるとの理由に基づくものであり、この理由からインゼクターW1を更に増加させた後記の実施態様における洗浄力の一層の向上の理由でもあると考えている。
【0038】
実施の形態3.
前記実施の形態2で用いた気液混合物に代えて、アルコール系添加剤を0.5質量%溶解した上水道水を用いて得た気液混合物を用いた以外は、前記実施例1と同じ洗浄装置並びに洗浄条件で洗浄された鉄系プレス加工品(残留油分量:25μg/cm2)を2分の洗浄時間つまり40リットルの洗浄液量で得た。この結果、通常の上水道水より、それに添加剤すると一層洗浄効果が向上することが確認された。
【0039】
次に、本発明における洗浄時間を短縮し、洗浄度を向上させることを目的とした実施の形態4および実施の形態5を示す。
【0040】
実施の形態4.
洗浄装置、被洗浄体、および洗浄装置の諸稼動条件は、それぞれ前記の実施の形態2の場合と同じとし、但し、インゼクターW1は4個とし、それらを洗浄用籠Bの受噴射籠面B2を4等分した4方形の各中心の各真下にあたる位置に設置し、また、洗浄用籠Bは3rpmで回転させた。4個のインゼクターW1から噴射された気液混合物の合計量に含まれた洗浄水の1分間あたりの水量を40リットル/分から100リットル/分まで変化させ、且つ、洗浄時間を10秒間、30秒間、および60秒間とした洗浄を行った。その結果を上記洗浄時間をパラメータとして図5に示す。
【0041】
図5のグラフから、洗浄水の1分間あたりの水量が多いほど、また、洗浄時間が長いほど被洗浄体の残留油分量が少なくて洗浄度が向上することが分かる。また、図5から、上記水量を多くするほど残留油分量が少なくなるので、洗浄度の向上の観点では有利な方向となることが判る。しかしながら、大流量の洗浄水を使用するので、これに対応した大型の循環ポンプや洗浄槽Wが必要となり、装置自体の規模が大きくなるという問題が生じる。
【0042】
実施の形態5.
実施の形態4と同じ洗浄装置を用い、但し、各インゼクターW1の噴出口から洗浄用籠Bの受噴射籠面B2までの距離を変化させ、各インゼクターW1からの気液混合物が受噴射籠面B2に衝突した時の流速(mm/秒)との関係を調べた結果を図6に示す。図6のグラフから、気液混合物を受噴射籠面B2に高流速で衝突させるには、各インゼクターW1を上記受噴射籠面B2に近づける方が良いことが分かる。
【0043】
しかしながら、1個のインゼクターW1にて洗浄可能な領域は、噴射された気液混合物が広がり角度を持つことから、受噴射籠面B2までの距離を大きくする方が広い領域を洗浄することが可能となる。上記の関係を数式で表現すると、インゼクターW1の噴出口の開口径をΦ0、当該噴出口における噴出物の流速をV0(mm/秒)、インゼクターW1の噴出口から上記受噴射籠面B2までの距離をH(mm)、受噴射籠面B2への衝突時における気液混合物の流速をV1(mm/秒)とした場合、気液混合物の拡散に伴い気液混合物の流速は減少する。上記気液混合物の広がり角度をθとすると、受噴射籠面B2までの距離と流速との関係は下記式1で表せる。
【0044】
V1=V0(Φ0/2)2/{(Φ0/2)2+Φ0Htanθ+(Htanθ)2} (1)
【0045】
上記流速V1を30mm/秒を一定とし、いま洗浄用籠Bの大きさを幅220mm×奥行き250mmとした時、インゼクターW1の噴出口から受噴射籠面B2までの距離H(mm)とインゼクター個数の関係を図7に、インゼクターW1の噴出口から受噴射籠面B2までの距離H(mm)と総流量の関係を図8に、インゼクター個数と総流量の関係を図9に、それぞれ示す。これらの結果より総流量を少なくする為にはインゼクター個数は4〜10個、インゼクターW1の噴出口から受噴射籠面B2までの距離は60mm〜130mmにすれば良いことが判る。
【0046】
実施の形態6.
図10は、実施の形態6の概略的な正面図であって、洗浄用籠Bはドーナツ状(あるいは円筒状)を呈し、ドーナツの中孔の中心を通る回転軸M1の回りに回転する。回転軸M1の両端は、洗浄槽Wの側壁に固定された軸受け(図示省略)に回転自在に固定されており、回転軸M1の上記中孔を貫通する個所は、洗浄用籠Bの上記中孔を形成する面から放射状に伸びる複数の支柱B3により洗浄用籠Bに固定されている。洗浄槽Wの底面には複数(図10では3個を図示)のインゼクターW1が設置されている。実施の形態6では、ドーナツ状の洗浄用籠Bの図上での下面が受噴射籠面B2となるので、各インゼクターW1からは図示するように、当該下面に向けて気液混合物が噴射される。
【0047】
いま洗浄用籠Bの幅、即ち受噴射籠面B2の幅がLであってインゼクターの個数がN、各インゼクターからの受噴射籠面B2における噴射幅がPであると、N個のインゼクターW1は、L=NPとなるように等間隔で並列設置するとよい。図10では、噴射幅Pの3個のインゼクターW1が互いに間隔を空けて並列設置された状態を例示する。この場合、受噴射籠面B2はその全面に亙って常に均一に気液混合物を受噴するので、洗浄時間を短縮し得る効果がある。
【0048】
実施の形態7.
図11〜図13は、実施の形態7を説明するものであり、また、前記図10に示す洗浄装置を用いて洗浄した際に、洗浄槽W中の洗浄水の表面に浮上し分離した油分(梨地で示す。)を速やかに回収するオーバーフロー機構について説明するものである。水供給装置W8は、上記表面に水を矢印の方向に流して当該油分を矢印Xの方向(後続の図12〜15において同じ)に移動せしめ、オーバーフロー槽W3(図3参照)内に移す機能をなす。なお、水供給装置W8に供給する水としては、例えば前記図3に示す循環ポンプW4からの循環水が使用される。図11において、洗浄用籠Bの回転によりその1部が図12に示すように洗浄槽W内の水面から上に出る場合、水面上の上記油分が再付着する問題が起きる。かかる場合、図13に示すように洗浄用籠Bの回転径を洗浄槽W中の上記油分層に接触しない寸法とすることで、浮上した油の被洗浄物または洗浄用籠Bへの再付着を防止することができる。
【0049】
実施の形態8.
図14および図15は、実施の形態8を説明するものである。図14は、例えば、前記図13における洗浄中の洗浄槽W内の水面付近における状態を示す説明図であって、被洗浄物より分離した油分が水面付近および水面に上昇した気泡内に包まれ油層を形成している。インゼクターW1からマイクロバブルを発生した状態では、上記油層をオーバーフロー槽W3側へ送り込む流れと、インゼクターW1からのマイクロバブルを含む、太い矢印Yで示す上昇流とが衝突して、分離した油分をオーバーフロー槽W3へ移動させる妨げとなることがある。かかる場合、図15に示すように洗浄時間の後半部分ではインゼクターW1からの噴射を停止する、あるいは細い矢印Zで示すように、上記噴射の流速を弱めるなどして油層の移動をスムースにすることができる。
【0050】
実施の形態9.
図16は、実施の形態9を説明するものである。洗浄槽内の水面上の油層のオーバーフロー槽W3への安定移動に関する前記実施の形態7および実施の形態8における方法以外に、図16に示すように洗浄槽W内の全周からオーバーフローが生じるようにインゼクターW1からの噴射量を調節することにより、効率よく油層を分離することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の洗浄装置は、加工時に使用されたプレス油、機械加工油、あるいは加工粉が付着した銅系のプレス加工品や切削加工品、鉄系のプレス加工品や切削加工品などの洗浄に好適である。
【符号の説明】
【0052】
W:洗浄槽、 W1:インゼクター、 W2:オーバーフロー部、
W3:オーバーフロー槽、 W4:循環ポンプ、 W5:水分岐用マニホールド部、
W6:空気導入部、 W7:空気分岐用マニホールド部、 R:濯ぎ槽、
R1:濯ぎ水噴射装置、 D:乾燥槽、 D1:風噴射装置、 T:移動装置、
B:洗浄用籠、 B1:取っ手板、 B2:受噴射籠面、 B3:支柱、 F:枠体、F1:底面、 F2〜F5:側面、 M:モータ、 M1:回転軸、 M2:ベルト。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水が自由に流入出可能な構造を有すると共に複数の被洗浄体を収容する洗浄用籠、上記洗浄用籠を設置する洗浄槽、上記洗浄用籠を回転させる回転装置、上記洗浄用籠内の上記被洗浄体が集合する受噴射籠面に向けて洗浄水と気体との気液混合物を噴射する少なくとも2個の互いに分散設置されたインゼクター、上記洗浄槽の上方から流出する洗浄済み水を回収すると共に重量差を利用して上記洗浄済み水を汚れ成分と洗浄水とに分離する回収分離槽、上記回収分離槽において分離された上記洗浄水を上記各インゼクターに再供給する洗浄水再供給装置を備え、上記各インゼクターは、洗浄時間の後半では噴射を停止、あるいは弱めるようにしたことを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
上記洗浄槽の上方に設置され、洗浄水の表面に水を流して表面に浮上した汚れ成分を上記洗浄槽から流出させる水供給装置を備えた請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項1】
洗浄水が自由に流入出可能な構造を有すると共に複数の被洗浄体を収容する洗浄用籠、上記洗浄用籠を設置する洗浄槽、上記洗浄用籠を回転させる回転装置、上記洗浄用籠内の上記被洗浄体が集合する受噴射籠面に向けて洗浄水と気体との気液混合物を噴射する少なくとも2個の互いに分散設置されたインゼクター、上記洗浄槽の上方から流出する洗浄済み水を回収すると共に重量差を利用して上記洗浄済み水を汚れ成分と洗浄水とに分離する回収分離槽、上記回収分離槽において分離された上記洗浄水を上記各インゼクターに再供給する洗浄水再供給装置を備え、上記各インゼクターは、洗浄時間の後半では噴射を停止、あるいは弱めるようにしたことを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
上記洗浄槽の上方に設置され、洗浄水の表面に水を流して表面に浮上した汚れ成分を上記洗浄槽から流出させる水供給装置を備えた請求項1に記載の洗浄装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−13893(P2013−13893A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181492(P2012−181492)
【出願日】平成24年8月20日(2012.8.20)
【分割の表示】特願2007−324778(P2007−324778)の分割
【原出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月20日(2012.8.20)
【分割の表示】特願2007−324778(P2007−324778)の分割
【原出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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