説明

流体制御弁

【課題】流体流路に介在する弁部を有し、前記流路を開閉するように前記弁部を制御する流体制御弁において、簡単な構造により弁部の開閉を推定して、弁部を制御する流体制御弁を提供すること。
【解決手段】ヒータ回路に介在する弁体40を有し、ヒータ回路を開閉するように弁体40を制御する流体制御弁であって、弁体40より上流側に第一温度センサ91が備えられると共に、弁体40より下流側に第二温度センサ92が備えられ、第一温度センサ91が検出した第一温度と第二温度センサ92が検出した第二温度とを比較し、弁体40の開閉を推定する推定手段Dを備えて弁体40を制御する流体制御弁100とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体流路に介在する弁部を有し、流路を開閉するように弁部を制御する流体制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、エンジンの冷却水循環をバルブで停止させて、暖機性及び、燃費・エミッションを向上させるエンジン水停止技術システムが知られている。本システムの弁にサーモスタット弁を用いた場合、エンジン冷間時に車室ヒータの作動が要求された場合には、エンジンの冷却水は低温又は昇温中であり、サーモスタット弁が冷却水の温度に基づき全開(自己開弁)しないため、例えば特許文献1に開示されるような冷却水中に配設された感温部を発熱体で強制的に加熱し、感温部を膨張(作動)させ、サーモスタット弁を開弁(全開)し、冷却水を車室ヒータへ流通させる流体制御弁を用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−328753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の流体制御弁のように、サーモスタット弁を開弁するため、発熱体にニクロムヒータ等自己調温作用を持たないヒータを用いた場合、感温部が膨張しサーモスタット弁が全開になった後も加熱され、感温部が過熱して、過度に膨張し、感温部が損傷する恐れがある。これに対して、サーモスタット弁の開閉を開度センサにより検出して、検出した開閉状態に応じて感温部の加熱を制御すること、つまり弁部を制御することが考えられるが、開度センサが必要となり、構造が複雑になる問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、簡単な構造により弁部(サーモスタット弁)の開閉を推定して、弁部を制御する流体制御弁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的課題を解決するために本発明にて講じられた第1の技術的手段は、流体流路に介在する弁部を有し、前記流路を開閉するように前記弁部を制御する流体制御弁であって、前記弁部より上流側に第一流体温度検出手段が備えられると共に、前記弁部より下流側に第二流体温度検出手段が備えられ、前記第一流体温度検出手段が検出した第一温度と前記第二流体温度検出手段が検出した第二温度とを比較し、前記弁部の開閉を推定する推定手段を備えて前記弁部を制御する流体制御弁とした。
【0007】
第2の技術的手段は、請求項1において、前記第一温度と前記第二温度との差を、閾値と比較し、前記弁部が開弁していることを推定することとした。
【0008】
第3の技術的手段は、請求項2において、前記弁部が閉弁のとき、前記差が前記閾値より大きい場合、前記弁部を開弁する制御を行うこととした。
【0009】
第4の技術的手段は、請求項2又は請求項3において、前記差が前記閾値より小さい場合、前記弁部を開弁する制御を停止することとした。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によると、弁部より上流側に設けた第一流体温度検出手段が検出した第一温度と弁部より下流側に設けた第二流体温度検出手段が検出した第二温度とを比較し、弁部の開閉を推定するため、簡単な構造で弁部の開閉を推定することができる。
【0011】
請求項2の発明によると、第一温度と第二温度との差と閾値との比較のみで、弁部が開弁していることを容易に推定することができる。
【0012】
請求項3の発明によると、第一温度と第二温度との差と閾値との比較のみで、弁部を開弁する制御を行うため、弁部を開弁する制御を容易に行うことができる。
【0013】
請求項4の発明によると、第一温度と第二温度との差と閾値との比較のみで、弁部を開弁する制御を停止するため、弁部を開弁する制御の停止を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る流体制御弁が適用されるエンジン冷却回路を示す概略図。
【図2】本発明の実施例に係る流体制御弁の閉弁状態を示す概略図。
【図3】本発明の実施例に係る流体制御弁の開弁状態を示す概略図。
【図4】本発明に係る流体制御弁、制御フローによる流体の温度経過を示す状態図。
【図5】本発明に係る流体制御弁の制御フローを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図1乃至図5に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施例の流体制御弁100が搭載されるエンジン冷却回路Cを示す概略図である。図2は、本発明の実施例を示す流体制御弁100の閉弁状態を示す概略図である。図3は、本発明の実施例を示す流体制御弁100の開弁状態を示す概略図である。
【0017】
エンジン冷却回路Cは、エンジン1、ポンプ2、ラジエータ3、サーモスタット4、車室ヒータ5及び流体制御弁100から構成される。冷却水(流体)は、エンジン1により駆動されるポンプ2によりエンジン冷却回路C内を循環する。
【0018】
流体制御弁100及び車室ヒータ5は、エンジン1から実質的にポンプ2に連通するヒータ回路(流体流路)C1中に配設(介在)されている。
【0019】
ラジエータ3及びサーモスタット4は、エンジン1からポンプ2に連通するラジエータ回路C2に配設されている。エンジン1の始動後、冷却水が所定の温度になるとサーモスタット4が開弁し、冷却水がラジエータ3を循環しラジエータ3から放熱し冷却される。
【0020】
流体制御弁100は、一端側に入口11、他端側に出口12が設けられ、入口11と出口12との間に中央に貫通する貫通孔(流路)13aが形成された隔壁13が設けられるハウジング10を有する。冷却水は、入口11から出口12へ貫通孔13aを介して流通する。
【0021】
ハウジング10内には、貫通孔13aを貫通し突出するように延在する円筒状のピストン20が固定されている。ピストン20の先端部22には、通電により発熱する発熱体60が設けられている。発熱体60に通電する電線Eがピストン20内に挿通され、ハウジング10の外部へ導出されている。電線Eは、制御手段Dに連絡されている。ピストン20の先端側には、一端側にピストン20が挿通される略有底円筒状のケース30がピストン20に対し相対移動可能に外挿されている。ケース30の外周には、外径が貫通孔13aの内径より大きくて貫通孔13aを開閉する円環状の弁体40が、ケース30と一体的に移動可能に固定されている。ピストン20の外周にはケース30内に空間Sを規定し液密的に密閉する円板状の仕切り板21が設けられている。空間Sには、熱膨張可能なワックスWが封入されている。ケース30、ワックスW及び仕切り板21により感温部50が構成され、ワックスWが発熱体60により加熱され膨張したとき、ケース30がピストン20から離れる方向に移動することにより感温部50は作動する。
【0022】
ケース30の径方向外側にはケース30の外周との間に隙間をおいてハウジング10に一体的に固定された円筒状のカバー70が配設されている。カバー70のハウジング10側は、格子状の格子71が連続して形成され、ハウジング10に固定されている。格子71は、ハウジング10内の冷却水の流通に対するカバー70の抵抗を低減する。また、格子71は、感温部50がピストン20から離れる方向に移動するとき、つまり感温部50と一体の弁体40が貫通孔13aを開放(開弁)し冷却水の流通を許可するとき、感温部50を冷却水に露出させることができる。カバー70の径方向外側には、一端が弁体40に係合し、他端がハウジング10に係合し、貫通孔13aが閉鎖(閉弁)するように弁体40を隔壁13方向に付勢するコイルスプリング80が設けられている。
【0023】
弁体40より入口11側(上流側)には、第一温度センサ(第一流体温度検出手段)91が備えられ、弁体40より出口12側(下流側)には、第二温度センサ(第二流体温度検出手段)92が備えられている。第一温度センサ91及び第二温度センサ92は、制御手段Dに連絡されている。尚、制御手段Dは、第一温度T1と第二温度T2とを比較し、弁体40の開閉を推定する推定手段を兼ねる。弁体40が閉弁の場合は、冷却水が流通しないため、第一温度センサ91により検出される第一温度T1と第二温度センサ92により検出される第二温度T2の温度差(差)が生じる。尚、エンジン1の始動直後は、弁体40が閉弁の場合でも、第一温度T1と第二温度T2は略同一となる。エンジン1の始動後は、弁体40が開弁の場合は、冷却水が流通するため、第一温度T1と第二温度T2は略同一になる。
【0024】
次に、本実施例の作動を図4に基づいて説明する。
【0025】
図4は、本発明に係る流体制御弁、制御フローによる流体の温度経過を示す状態図である。
【0026】
エンジン1は、始動後エンジン1内の冷却水が温められ水温が上昇し対流する。エンジン1と連通するヒータ回路C1において、エンジン1に近い(エンジン1から弁体40までの流路長さが短い)弁体40の上流側に配設された第一温度センサ91の第一水温T1は、昇温され対流する冷却水の温度を検出し上昇する(領域I)。弁体40の下流側に配設された第二温度センサ92の第二水温T2は、ヒータ回路C1途中に車室ヒータ5が介在しエンジン1から離れた(エンジン1から車室ヒータ5が介在し弁体40まで延びる流路長さが長い)位置に配設されるため、エンジン1内の温められた冷却水の対流の影響がほとんどなく、始動時の水温が維持される(領域II)。
【0027】
例えば、エンジン1の始動直後、車室ヒータ5による車室内の暖房が要求された場合、発熱体60は通電され感温部50を加熱する。感温部50は発熱体60の加熱により蓄熱され、固相から液相に相変化し、相変化の後体積が膨張する。体積の膨張に伴い弁体40が除々に開度を大きくし、冷却水が貫通孔13aを流通し、昇温中の冷却水が第二温度センサ92と接触する。昇温中の冷却水により、第二温度センサ92が検出する第二温度T2は上昇する(領域III)。弁体40の開度が大きくなるのに伴い、第一温度センサ91と接触した冷却水は直後に第二温度センサ92と接触するようになり、第二温度T2と第一温度T1の温度差が小さくなった場合、制御手段(推定手段)Dは、弁体40が略全開した、つまり感温部50が略最大限に膨張したと判定する。制御手段Dは、発熱体60への通電の継続による過度の膨張による不具合を防止するため、発熱体60への通電を停止する(領域IV)。通電の停止に伴い、発熱体60の加熱が停止し、感温部50は体積が維持又は縮小される。このとき、弁体40は開弁途中であり、第二温度T2と第一温度T1の差が大きくなるため、弁体40の開度を大きくするように(弁体40を全開するように)、発熱体60へ通電する(領域V)。
【0028】
一方、冷却水は弁体40の自己開弁温度TBに近くなり、弁体40の開度が大きくなるのに伴い、昇温した冷却水が貫通孔13aを流通し、格子71を通して感温部50と接触する。感温部50は、昇温した冷却水から熱を受け、弁体40が自己開弁するようになる。これにより、感温部50の膨張は発熱体60の加熱に依らず冷却水の温度に基づき行われる(領域VI)。感温部50は、発熱体60の加熱による過熱が防止される。尚、自己開弁温度TBとは、発熱体60への通電なしで、弁体40が全開する温度である。
【0029】
また、車室ヒータ5による車室内の暖房の要求がない場合、エンジン1内の温められた冷却水の対流により、第一温度T1及び第二温度T2が成り行きで上昇し、弁体40の自己開弁温度TBに達すると開弁し、ヒータ回路C1に冷却水が流通する。
【0030】
次に、本実施例の制御を図5に基づいて説明する。
【0031】
図5は、本発明に係る流体制御弁の制御フローを示すフロー図である。
【0032】
この制御は、車室ヒータ5による車室内の暖房が要求された場合、車室ヒータ5に冷却水を流通するため速やかに弁体40を全開するように、第一温度T1及び第二温度T2に基づき弁体40の開閉又は開度の大きさを推定し、推定結果に基づいて、感温部50を発熱体60により加熱する(弁体40を開弁する制御を行う)と共に、自己開弁温度TBより低い温度で発熱体60への通電の停止を行い(弁体40を開弁する制御を停止し)、感温部50が冷却水による熱と発熱体60による加熱により過度に膨張し不具合に至ることを防止する。
【0033】
先ず、エンジン1の始動(スタート)後、車室ヒータ5による車室内の暖房が要求の有無を判定する(ステップ1:S1)。要求の有の場合、所定時間をおいた前後でそれぞれの第一温度T1と第二温度T2を検出し、それぞれの第一温度T1と第二温度T2の温度差TS1、TS2を計算し(ステップ2:S2、ステップ3:S3)、所定時間前後の温度差TS1、TS2の大小を比較する(ステップ4:S4)。温度差TS1に対し温度差TS2が大きい場合、つまり時間が経過するに従い温度差が拡大する場合、弁体40の開度が小さい状態であるため、開弁信号(発熱体60への電流)をONにする(ステップ6:S6)。温度差TS1に対し温度差TS2が小さい場合、つまり時間が経過するに従い温度差が縮小する場合、次に第一温度T1と第二温度T2の温度差と閾値TAとの大小を比較する(ステップ5:S5)。閾値TAは、弁体40が略全開しているときの第一温度T1と第二温度T2との温度差である。温度差が閾値TAより大きい場合、弁体40の開度が小さい状態であり、開度を大きくするため、発熱体60を加熱するよう、開弁信号をONにする(ステップ6:S6)。温度差が閾値TA以下の場合、感温部50が略最大限に膨張し弁体40が略全開の状態であるため、発熱体60による加熱により過度に膨張し不具合に至ることを防止するため、開弁信号をOFFにする(ステップ7:S7)。次に、第一温度T1と自己開弁温度TBとの大小を比較する(ステップ8:S8)。第一温度T1が自己開弁温度TB以上の場合は、感温部50の膨張は発熱体60の加熱に依らず冷却水の温度に基づき行われるため、開弁信号OFFの状態で制御を終了する(エンド)。尚、ステップ8において、第一温度T1に代えて、第二温度T2が自己開弁温度TBと大小を比較されるようにしても良い。
【0034】
車室ヒータ5による車室内の暖房の要求が無くなった場合、暖房の要求の有無が判定され(ステップ1:S1)、開弁信号がOFFにされ制御を終了する(エンド)。
【0035】
尚、冷却水がエンジン1の始動時の水温から弁体40の自己開弁温度TBに至る間における第一温度T1と第二温度T2に基づく制御手段(推定手段)Dの判定状況、開弁信号(発熱体60への通電)の状況及び弁体(バルブ)40の開閉状況について図4に示す。
【符号の説明】
【0036】
40・・・弁体(弁部)
91・・・第一温度センサ(第一流体温度検出手段)
92・・・第二温度センサ(第二流体温度検出手段)
100・・・流体制御弁
C1・・・ヒータ回路(流体流路)
D・・・制御手段(推定手段)
T1・・・第一温度
T2・・・第二温度
TA・・・閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流路に介在する弁部を有し、前記流路を開閉するように前記弁部を制御する流体制御弁であって、
前記弁部より上流側に第一流体温度検出手段が備えられると共に、前記弁部より下流側に第二流体温度検出手段が備えられ、
前記第一流体温度検出手段が検出した第一温度と前記第二流体温度検出手段が検出した第二温度とを比較し、前記弁部の開閉を推定する推定手段を備えて前記弁部を制御する流体制御弁。
【請求項2】
請求項1において、
前記第一温度と前記第二温度との差を、閾値と比較し、前記弁部が開弁していることを推定する流体制御弁。
【請求項3】
請求項2において、
前記弁部が閉弁のとき、前記差が前記閾値より大きい場合、前記弁部を開弁する制御を行う流体制御弁。
【請求項4】
請求項2又は請求項3において、
前記差が前記閾値より小さい場合、前記弁部を開弁する制御を停止する流体制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−112142(P2011−112142A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268647(P2009−268647)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】