説明

流体動圧軸受、スピンドルモータ及び磁気ディスク装置

【課題】 モータの回転軸を傾かせる方向の剛性、すなわち、軸倒れ剛性を高くして、軸倒れ加重に対し強固で、信頼性の高い流体動圧軸受、スピンドルモータ及び磁気ディスク装置を提供することにある。
【解決手段】 本願の流体動圧軸受、スピンドルモータ及び磁気ディスク装置に用いられるスピンドルモータの流体動圧軸受は、ラジアル軸受手段とスラスト軸受手段を有する流体動圧軸受であって、前記ラジアル軸受手段は、ヘリングボーン型軸受で構成され、前記スラスト軸受手段は、外周部にスパイラルポンプイン型の軸受が形成され、当該スパイラルポンプイン型の軸受の内周部に平面軸受が形成されるとともに、前記スパイラルポンプイン型軸受と前記平面軸受が同一面上でかつ同心円状に形成されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流体動圧軸受、スピンドルモータ及び磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シャフトとこのシャフトを囲むスリーブ部材とが相対的に回転可能となるように支持するために、両者間に介在された潤滑流体の流体圧力を利用する動圧軸受を用い、この動圧軸受を用いたモータによって記録ディスクを回転駆動するディスク駆動装置が知られている。
【0003】
これらディスク駆動装置は、コンピュータの外部記録装置や画像記録装置として広く用いられ、磁気ディスク装置、光ディスク装置など種々のディスク駆動装置が存在している。
【0004】
ディスク装置として、例えば、磁気ディスク装置は、一般に、矩形箱状の筐体を有している。筐体内には、磁気記録媒体としての磁気ディスク、この磁気ディスクを支持および回転させるスピンドルモータ、磁気ディスクに対して情報の書き込み、読み出しを行なう複数の磁気ヘッド、これらの磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動自在に支持したヘッドアクチュエータ、ヘッドアクチュエータを回動および位置決めするボイスコイルモータ、ヘッドIC等を有する基板ユニット等が収納されている。
【0005】
また、筐体外部には、ディスク装置内の磁気ディスクの回転速度、磁気ヘッドへの記録電流等を制御する制御回路を搭載したプリント回路基板が、筐体に設けられたねじ孔とプリント回路基板に設けられたねじ孔にねじを挿嵌することによって固定される。
【0006】
これに用いられるディスク駆動装置としては、例えば、米国特許第5,504,637号にその構造が開示されており、ラジアル方向の荷重を支持する手段として、シャフトとこのシャフトの外周面との間に微少間隔を有して半径方向に対向するスリーブ部材の内周面間に潤滑流体を充填し、シャフトの外周面及び/又はスリーブ部材の内周面に軸線方向上下部に離間して形成された、例えばヘリングボーン状溝からなる動圧発生用溝によって、ロータハブの回転中、潤滑流体中に動圧を生じさせる一対のラジアル軸受部を有するとともに、アキシャル方向の荷重を支持する手段として、シャフトの端部に固着された円盤状のスラストプレートとこのスラストプレートの上下面との間に微少間隔を有して軸線方向に対向するスリーブ部材に形成された段部の上面あるいはスラストブッシュの下面等との間に潤滑流体を充填し、スラストプレートの上下面及び/又は段部の上面並びにスラストブッシュの下面に形成された例えばヘリングボーン状溝からなる動圧発生用溝によってロータハブの回転中、潤滑流体中に動圧を発生させる一対のするスト軸受部を有する。
【0007】
上述のような記録ディスク駆動装置においては、ロータハブの回転時の軸振れ等の姿勢の保持は、専ら、その保持力が各ラジアル軸受部の軸受剛性と軸受中心部間の間隔、すなわち、上下ラジアル軸受部間に介在する距離によって決定される、一対のラジアル軸受部に依存しており、スラスト軸受部はロータハブを浮かせる程度の機能しか担っていなかった。
【0008】
そこで、ラジアル軸受部に1個または2個のヘリングボーン型の溝を設けスラスト軸受部にスパイラスポンプイン型の溝を設け、小型で高い軸支持力を有するとともに、加工、組立が容易且つ安価で、電気的効率の流体動圧軸受が開発されてきていた。
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,504,637明細書(図1、概要)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した流体動圧軸受は、スラスト軸受が、その全面がスパイラルポンプイン型の軸受のみによって形成されているため、ロータ回転時に最も大きい動圧が発生する、所謂、最大圧力発生位置は、スラスト軸受の最内周部になる。
【0011】
ここで、ロータの回転軸を傾かせる方向(軸倒れ方向)にモーメント加重Mhが加わることを想定すると、この際スラスト軸受部には、この加重に対して軸倒れを戻そうとするような反力が発生する。この反力を発生させるバネ剛性のことを軸倒れ剛性と呼ぶが、この反力の元となるのは、軸受の最大圧力発生位置に作用する動圧である。
【0012】
仮に発生する動圧が一定であるとすれば、動圧の作用する点が傾きの中心から遠くなるほど、より大きなモーメントとして作用することになるため、スラスト軸受の最大圧力発生位置が外周にあるほど、この軸倒れ剛性を高めることが可能となる。
【0013】
そこで、本発明は上記の問題を解決するためになされたもので、モータの回転軸を傾かせる方向の剛性、すなわち、軸倒れ剛性を高くして、軸倒れ加重に対し強固で、信頼性の高い流体動圧軸受、スピンドルモータ及び磁気ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決するために、この発明に係る流体動圧軸受は、ラジアル軸受手段とスラスト軸受手段を有する流体動圧軸受であって、前記ラジアル軸受手段は、ヘリングボーン型軸受で構成され、前記スラスト軸受手段は、外周部にスパイラルポンプイン型の軸受が形成され、当該スパイラルポンプイン型の軸受の内周部に平面軸受が形成されるとともに、前記スパイラルポンプイン型軸受と前記平面軸受が同一面上でかつ同心円状に形成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、上記のような構成をとることにより、モータの回転軸を傾かせる方向の剛性、すなわち、軸倒れ剛性を高くして、軸倒れ加重に対し強固で、信頼性の高い流体動圧軸受、スピンドルモータ及び磁気ディスク装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態に係るディスク装置として、ハードディスクドライブ(以下、HDDと称する)について詳細に説明する。
図1および図2に示すように、HDDは後述する種々の部材が収納されたほぼ矩形箱状の筐体10と、筐体10の外面に重ねて設けられた矩形状のプリント回路基板12と、を備えている。筐体10およびプリント回路基板12は、例えば、長さLが32mm、幅Wが24mmに形成され、筐体およびプリント回路基板を含む厚さTは、収納するディスクの枚数に応じて、例えば、3.3mmあるいは5mm程度に設定されている。
【0017】
図2ないし図5に示すように、筐体10は、互いにほぼ等しい寸法に形成された第1シェル10aおよび第2シェル10bにより構成されている。第1および第2シェル10a、10bは、それぞれ磁性体材料によりほぼ矩形状に形成され、周縁部には側壁が立設されている。第1および第2シェル10a、10bは、その周縁部同士が対向した状態で、互いに向い合わせて配置されている。第1および第2シェル10a、10bの周縁部には帯状のシール材16が巻き付けられ、このシール材により周縁部が互いに接続されているとともに、周縁部間の隙間がシールされている。これにより、矩形箱状の密閉された筐体10が構成されている。
【0018】
第1シェル10aの底面は矩形状の実装面11を形成している。実装面11の角を含む筐体10の4つの角は円弧状に丸めて形成されている。これにより、筐体10の周縁部に巻装されたシール材16が、筐体の角で損傷することを防止しているとともに、シール材の浮きによる気密性の悪化を防止している。
【0019】
筐体10内において、筐体の周縁部には複数の支持ポスト18が設けられている。各支持ポスト18は、第1シェル10aの内面に固定された基端を有し、第1シェルの内面に対してほぼ垂直に立設されている。各支持ポスト18の位置で、実装面11にねじ孔が形成され、支持ポスト内まで延びている。
【0020】
筐体10内には、ディスク状の媒体として機能する例えば、直径0.85インチの磁気ディスク20、この磁気ディスクを支持および回転させるスピンドルモータ22、磁気ディスクに対して情報の書き込み、読み出しを行なう磁気ヘッド24(ヘッド)、磁気ディスク20に対して磁気ヘッドを移動自在に支持したキャリッジ26、キャリッジを回動および位置決めする駆動モータとしてのボイスコイルモータ(以下、VCMと称する)28、磁気ヘッドが磁気ディスクの周縁部に移動した際、磁気ヘッドを磁気ディスクから離間した位置にアンロードして保持拘束するランプロード機構30、キャリッジを退避位置に保持する電磁ラッチ機構32、およびヘッドIC等を有する基板ユニット34等が収納されている。なお、キャリッジ26およびVCM28は、磁気ヘッド24を磁気ディスク20に沿って移動させる本発明のアクチュエータとして機能する。
【0021】
スピンドルモータ22は、第1シェル10aに取り付けられている。スピンドルモータ22は枢軸(シャフト)36を有し、この枢軸(シャフト)は第1シェル10aの内面に固定され、この内面に対してほぼ垂直に立設されている。枢軸(シャフト)36の延出端は、第2シェル10bの外側からねじ込まれた固定ねじ37により第2シェルにねじ止めされている。これにより、枢軸(シャフト)36は第1および第2シェル10a、10bに両持ち支持されている。
【0022】
枢軸(シャフト)36には、図示しない軸受を介してロータが回転自在に支持されている。ロータの第2シェル10b側の端部は円柱形状のハブ43を構成し、このハブには、磁気ディスク20が同軸的に嵌合されている。ハブ43の端部には、環状のクランプリング44が嵌合されて、磁気ディスク20の周縁部を保持している。これにより、磁気ディスク20はロータに固定され、ロータと一体的に回転可能に支持されている。
【0023】
ロータの第1シェル10a側の端部には図示しない環状の永久磁石が固定され、ロータと同軸的に位置している。スピンドルモータ22は、第1シェル10aに取り付けられたステータコア、およびこのステータコアに巻回された複数のコイルを有し、これらステータコアおよびコイルは、永久磁石の外側に隙間を置いて配置されている。
【0024】
ヘッドアクチュエータを構成するキャリッジ26は、第1シェル10aの内面上に固定された軸受組立体52を備えている。軸受組立体52は、第1シェル10aの内面に対して垂直に立設された枢軸(シャフト)53と、一対の軸受を介して枢軸(シャフト)53に回転自在に支持された円筒形状のハブ54と、を有している。枢軸(シャフト)53の延出端は、第2シェル10bの外側からねじ込まれた固定ねじ56により第2シェルにねじ止めされている。これにより、枢軸(シャフト)53は第1および第2シェル10a、10bに両持ち支持されている。軸受部として機能する軸受組立体52は、スピンドルモータ22に対し、筐体10の長手方向に並んで配設されている。
【0025】
キャリッジ26は、ハブ54から延出したアーム58、アームの先端から延出した細長い板状のサスペンション60、ハブ54からアームと反対方向に延出した支持フレーム62を備えている。サスペンション60の延出端には、図示しないジンバル部を介して磁気ヘッド24が支持されている。磁気ヘッド24はサスペンション60のばね力により磁気ディスク20表面に向かって所定のヘッド荷重が印加されている。支持フレーム62には、VCM28を構成するボイスコイル64(コイル)が一体的に固定されている。
【0026】
キャリッジ26を軸受組立体52の回りで回動させるVCM28は、後に詳述するように、第1シェル10aの内面から離間して対向配置されたトップヨーク63と、トップヨーク63の内面に固定されボイスコイル64に対向した磁石81と、を備えている。本実施の形態では、第1シェル10aが冷間圧延鋼板やSUS430などの磁性体の板を形状加工することにより形成されているため、第1シェル10aがボトムヨークとして機能し、磁石81を有するトップヨーク63との間で磁気回路を構成するようになっている。
【0027】
そして、ボイスコイル64に通電することにより、キャリッジ26は、図3に示す退避位置と磁気ディスク20の表面上に位置する動作位置との間を回動し、磁気ヘッド24は磁気ディスク20の所望のトラック上に位置決めされる。
【0028】
第1シェル10aに固定された電磁ラッチ機構32は、退避位置に移動したキャリッジ26をラッチし、HDDが衝撃等の外力を受けた際、キャリッジ26が退避位置から作動位置へ移動することを防止する。
【0029】
ランプロード機構30は、第1シェル10aの内面に固定され磁気ディスク20の周縁部に対向したランプ部材70と、サスペンション60の先端から延出し係合部材として機能するタブ72と、を備えている。ランプ部材70は樹脂を金型成型することにより製造され、タブ72が係合可能なランプ面73を有している。キャリッジ26が磁気ディスク20の内周部から磁気ディスク外周の退避位置まで回動すると、タブ72は、ランプ部材70のランプ面73に係合し、その後、ランプ面の傾斜によって引き上げられ、磁気ヘッド24のアンロード動作を行なう。キャリッジ26が退避位置まで回動すると、タブ72はランプ部材70のランプ面73上に支持され、磁気ヘッド24は磁気ディスク20の表面から離間した状態に保持される。
【0030】
基板ユニット34は、フレキシブルプリント回路基板により形成された本体34aを有し、この本体34aは第1シェル10aの内面に固定されている。本体34a上にはヘッドIC、ヘッドアンプ等の電子部品が実装されている。基板ユニット34は本体34aから延出したメインフレキシブルプリント回路基板(以下、メインFPCと称する)34bを有している。メインFPC34bの延出端は、キャリッジ26の軸受組立体52近傍に接続され、更に、アーム58およびサスペンション60上に設けられた図示しないケーブルを介して磁気ヘッド24に電気的に接続されている。基板ユニット34の本体底面にはプリント回路基板12と接続するためのコネクタ34cが実装されている。このコネクタ34cは、第1シェル10aに形成された開孔を介して第1シェルの実装面11に露出している。
【0031】
図2および図4に示すように、プリント回路基板からなるプリント回路基板12は筐体10の実装面11とほぼ等しい長さおよび幅を有した矩形状を有している。筐体10の実装面11には、スピンドルモータ22に対応した円形の凸部70a、および軸受組立体52に対応した円形の凸部70bがそれぞれ形成されている。プリント回路基板12には、これらの凸部70a、70bにそれぞれ対応した円形の開口72a、72bが形成されている。プリント回路基板12の4つの角部は、それぞれ斜めに、例えば、各辺に対して45度の角度で斜めに切欠かれ、それぞれ切欠き部77を形成している。プリント回路基板12の内面上、つまり、筐体10と対向する面上には、複数の電子部品74、およびコネクタ71が実装されている。また、プリント回路基板12にはHDDを外部機器と電気的に接続するためのフレキシブルプリント回路基板76が接続されている。フレキシブルプリント回路基板76はプリント回路基板12の一方の短辺から外方に引き出され、その延出端には複数の接続端子75が形成されている。
【0032】
上記構成のプリント回路基板12は、筐体10の実装面11に重ねて配置され、複数のねじ80により第1シェル10aにねじ止めされている。この際、プリント回路基板12は、4つの辺が実装面11の4辺とそれぞれ整列した状態、つまり、実装面11の4辺と一致した状態で配置されている。実装面11に形成された凸部70a、70bは、それぞれプリント回路基板12の開口72a、72b内に配置されている。プリント回路基板12上に実装されたコネクタ71は、基板ユニット34のコネクタに接続される。
【0033】
プリント回路基板12の4つの角部に形成された切欠き部77は、それぞれ実装面11の4つの角部に位置している。これにより、実装面11の4つの角部はプリント回路基板12によって覆われることなく外部に露出している。実装面11の露出した4つの角部を含む筐体10の角部は、プリント回路基板12に接触することなく筐体を保持するための保持部78をそれぞれ構成している。
【0034】
次に、本実施形態に係るHDDの流体動圧軸受の構造とスピンドルモータの構造について図面を用いて詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図6は本発明の第1の実施形態に係るスピンドルモータの構造を示す断面図である。
枢軸(シャフト)36及びフランジ105と呼ばれる部材が固定側(ステータ側)を形成し、スリーブ104と呼ばれる部材が回転側(ロータ側)を形成している。シャフト36の側面、もしくはそれに非常に狭い隙間を隔てて相対するスリーブ104の表面のいずれかに、へリングボーン型と呼ばれる“く”の字型の溝が複数本成型されている。ロータがステータに対して回転することで、両者の間に充填されているオイルが前述のへリングボーン型溝に沿って流れ、動圧を発生させる。これによりラジアル軸受102が形成されている。
【0035】
一方、フランジ105の上側の表面、もしくはそれに非常に狭い隙間を隔てて相対するスリーブ104の表面のいずれかに、特定のパターンの溝が掘られている。ロータがステータに対して回転することで、両者の間に充填されているオイルが前述の溝に沿って流れ、動圧を発生させる。これによりスラスト軸受101が形成されている。
【0036】
本実施形態においては、スラスト軸受101を形成する溝の形に特徴がある。その溝形状の詳細を図7に示す。スラスト軸受101の外周部分は、溝が掘られて窪んだ部分(グルーブ)101dとそうでない部分(リッジ)101cが交互に渦巻状に並んでおり、ロータがステータに対して回転することで、両者の間に充填されているオイルが内周方向に流れるような溝パターンが成型されている。この部分をスパイラルポンプイン軸受101bと呼ぶ。
【0037】
一方で、スラスト軸受101の内周部分には溝(グルーブ)101dが存在せず、全部分の表面高さが、外周部スパイラルポンプイン軸受101bにおけるリッジ部分101cの表面と同じ高さになっている。そのためこの部分では、フランジ105とスリーブ104ともに溝のない平らな表面同士で相対することになる。このことからこの部分を平面軸受101aと呼ぶ。
【0038】
このように、スラスト軸受101は外周部にスパイラルポンプイン型軸受101b、内周部に平面軸受101aという2種類の軸受構造が同心円状に組み合わされた構成になっている。
【0039】
本実施例の従来技術に対する優位性について図8を用いて説明する。従来のスラスト軸受は、全面がスパイラルポンプイン軸受によって形成されている。この軸受において、ロータ回転時に最も大きい動圧が発生する“最大圧力発生位置”は、スラスト軸受の最内周部分になる。一方で、本実施形態のスラスト軸受101では、最大圧力発生位置はちょうど外周部スパイラルポンプイン軸受101bと内周部平面軸受101aの境界線あたりの位置になる。従って、ロータの回転中心軸から最大圧力発生位置までの距離は、本実施形態のスラスト軸受101のほうが長く取れていることになる。
【0040】
ここで、ロータの回転軸を傾かせる方向(軸倒れ方向)にモーメント加重Mhが加わることを想定する。この際スラスト軸受部101には、この加重に対して軸倒れを元に戻そうとするような反力が発生する。この反力を発生させるバネ剛性のことを軸倒れ剛性(図中B方向の力)と呼ぶ。この反力の元となるのは、軸受の最大圧力発生位置に作用する動圧である。仮に発生する動圧が一定であるとすれば、動圧の作用する点が傾きの中心から遠くなるほど、より大きなモーメントとして作用することになる。即ち、スラスト軸受の最大圧力発生位置が外周にあるほど、この軸受の軸倒れ剛性が高いことになる。本実施形態のスラスト軸受101は、従来技術のスラスト軸受より最大動圧発生位置が外周方向にあるため、高い軸倒れ剛性を有し、より軸倒れ加重に対して強い、高信頼性の軸受となっている。
【0041】
但し、最大圧力発生位置をより外周に持っていこうとして、平面軸受101aの幅を極端に大きくしすぎてしまうと、外周部のスパイラルポンプイン軸受101bにおけるオイルをポンピングする力が減ってしまうため、発生する動圧が小さくなり、軸倒れ剛性は却って減ることがわかった。また、平面軸受101aの幅を大きくすることは、スラスト軸受部101で発生する損失トルクの増加にも繋がることがわかった。図9のグラフは、この関係を表したものである。
【0042】
本グラフのX軸は25℃での軸受損失トルクの大きさを表すものである。同グラフのY軸は85℃環境下で軸受にある一定の軸倒れ加重を与えたとき、スラスト軸受101端の隙間がどの程度残るかを表したものであり、隙間が広いほど軸倒れ剛性が高いことを意味する。同グラフ上の曲線は、ある一定の幅を持つスラスト軸受101において、平面軸受101aの半径方向の幅をW1、その外周部に形成されたスパイラルポンプイン型軸受101bの半径方向の幅をW2としたとき、それぞれの半径方向の幅の比率であるW1:W2を徐々に変更しながら、上述の2つのパラメータをシミュレーションによって計算し、その点をプロットしたものである。
【0043】
スパイラルポンプイン軸受101bの幅の比率が極端に大きい場合(W1:W2=0:10の点)においては、極端に軸倒れ剛性が弱くなり、逆に平面軸受(101aが大きすぎる場合(W1:W2=8:2の点)においては、軸倒れ剛性が減り始め、損失トルクが極端に増加していることがわかる。すなわち、このグラフから判断されるW1、W2両者の最適比率は、2:8〜7:3であることを上述のシミュレーション結果から導き出すことができた。
【0044】
なお、上述の第1の実施形態においてはスラスト軸受101のW1:W2の比率が6:4となるように設計されており、図9に示すグラフから判断される最適領域に含まれている。
【0045】
<第2の実施形態>
図10は本発明の第2の実施形態に係るスピンドルモータの構造を示す断面図である。
スリーブ204がステータを形成し、シャフト36及びハブ206と呼ばれる部材がロータを形成している。シャフト36の側面、もしくはそれに非常に狭い隙間を隔てて相対するスリーブ204の表面のいずれかに、へリングボーン型の溝が複数本成型されている。ロータがステータに対して回転することで、両者の間に充填されているオイルが溝に沿って流れ、動圧を発生させる。これによりラジアル軸受202が形成されている。
【0046】
一方、スリーブ204の上側の表面、もしくはそれに非常に狭い隙間を隔てて相対するハブ206の裏面のいずれかに、特定のパターンの溝が掘られている。ロータがステータに対して回転することで、両者の間に充填されているオイルが溝に沿って流れ、動圧を発生させる。これによりスラスト軸受201が形成されている。他の部分は前述の第1の実施形態と同様である。
【0047】
<第3の実施形態>
図11は本発明の第3の実施形態に係るスピンドルモータの構造を示す断面図である。
スリーブ304及びカウンタプレート310と呼ばれる部材がステータを形成し、シャフト36及びハブ306がロータを形成している。シャフト36の側面、もしくはそれに非常に狭い隙間を隔てて相対するスリーブ304の表面のいずれかに、へリングボーン型の溝が複数本成型されている。ロータがステータに対して回転することで、両者の間に充填されているオイルが溝に沿って流れ、動圧を発生させる。これによりラジアル軸受302が形成されている。
【0048】
一方、シャフト36の底面、もしくはそれに非常に狭い隙間を隔てて相対するカウンタプレート310の表面のいずれかに、特定のパターンの溝が掘られている。ロータがステータに対して回転することで、両者の間に充填されているオイルが溝に沿って流れ、動圧を発生させる。これによりスラスト軸受301が形成されている。他の部分は前述の第1の実施形態と同様である。
【0049】
<第4の実施形態>
図12は本発明の第4の実施形態に係るスピンドルモータの構造を示す断面図である。
スリーブ404及びカウンタプレート420と呼ばれる部材がステータを形成し、シャフト36及びハブ406、フランジ405がロータを形成している。シャフト36の側面、もしくはそれに非常に狭い隙間を隔てて相対するスリーブ404の表面のいずれかに、へリングボーン型の溝が複数本成型されている。ロータがステータに対して回転することで、両者の間に充填されているオイルが溝に沿って流れ、動圧を発生させる。これによりラジアル軸受402が形成されている。
【0050】
一方、フランジ405の底面、もしくはそれに非常に狭い隙間を隔てて相対するカウンタプレート410の表面のいずれかに、特定のパターンの溝が掘られている。ロータがステータに対して回転することで、両者の間に充填されているオイルが溝に沿って流れ、動圧を発生させる。これによりスラスト軸受401が形成されている。他の部分は前述の第1の実施形態と同様である。
【0051】
ここで、上述の第1の実施形態乃至第4の実施形態におけるラジアル軸受102、202、302、402は、全てただ1個のへリングボーン溝を有するラジアル軸受で構成されている例で説明した。しかし、これを図13の右側の図に示すような2個のへリングボーン溝で置き換えても構わない。
【0052】
2個のへリングボーン溝で構成されるラジアル軸受102a、202a、302a、402aは、溝によって発生するオイル動圧が最大となる点が2点存在することになるため、回転軸を倒すような外力に対して強く、即ち軸倒れ剛性が高く維持することが可能となる。
【0053】
<第5の実施形態>
図14は本発明の第5の実施形態に係るスピンドルモータ及びHDDの構造を示す断面図である。
本実施形態に係るHDDは、データを記録する磁気ディスク20を回転させるためのスピンドルモータ22に、上述の第1の実施形態の流体動圧軸受を使用している。もちろん、この代わりに他の実施形態である第2の実施形態〜第4の実施形態に係る流体動圧軸受を利用しても構わない。
【0054】
本実施形態に係るHDDは、具体的には、その筐体10の外界寸法が、縦32mm、横24mm、厚さ5mmのサイズを有しており、搭載された磁気ディスク20の直径が0.85インチとなっている。もちろん、本発明は、磁気ディスクの直径が2.5インチであるHDDや、他のディメンジョンのHDDに対しても適用可能である。このHDDには、磁気ディスク20上のデータを読み書きするためのヘッド素子24が2個搭載されている。
【0055】
磁気ディスク20にデータを読み書きするために、ヘッド24が磁気ディスク20上にロードした際のHDDの断面図を図14に示す。ヘッド24が磁気ディスク20上を浮上する際には、ヘッド24から磁気ディスク20に対してある一定の加重Fhが作用している。これをヘッド加重と呼ぶ。本実施形態において、磁気ディスク20の上面に対向するヘッド24の加重をFh1、磁気ディスク20の下面に対向するヘッド24の加重をFh2で表している。
【0056】
本実施形態において、HDDに搭載されているヘッド24が偶数個である場合、ヘッド24は図14に示すように1枚のディスク20の表裏に向かい合って設置されるのが一般的である。このため、2つのヘッド24のヘッド加重Fh1とFh2が互い相殺され、スピンドルモータ22に対して軸倒れモーメントが作用することはほとんどない。図14ではこの軸倒れモーメントCを破線で示しているが、これは0になっている。
【0057】
<第6の実施形態>
図15は本発明の第6の実施形態に係るスピンドルモータ及びHDDの構造を示す断面図である。
HDDの概要は図14に示す第5の実施例と同じであるが、搭載されているヘッド24がディスク20の上面に対向しているただ1個だけであるという点が異なっている。また、このHDDは、具体的に縦32mm、横24mm、厚さ3.3mmのサイズを有している。図15に示すように、ヘッド24が奇数個しか搭載されていない場合、ヘッド加重Fhが相殺されないため、ヘッド加重Fhはそのまま軸倒れモーメント加重Mhとして作用することになる。よって、スピンドルモータ22内の流体動圧軸受は、この軸倒れ荷重Mhに耐えられるだけの十分な軸倒れ剛性を有している必要がある。
【0058】
従来はこの軸倒れ剛性を確保するために、ラジアル軸受のへリングボーン溝を2個設けるのが一般的であった。しかし、上述の第1乃至第4の実施形態における構造の流体動圧軸受においては、十分な軸倒れ剛性を有しているため、ラジアル軸受にへリングボーン溝を2個設けることなく奇数個のヘッドを搭載するHDDが実現可能となる。
【0059】
本実施形態において、特に、図15に示したようにヘッド24をただ1本だけ搭載するようにすれば、ヘッド24を2本搭載した場合と比べてヘッド1本分の組み込みスペースが不要になり、より装置厚さの薄いHDDを構築することが可能となる。本実施形態のHDDでは、この効果に加えてラジアル軸受のへリングボーン溝を1個しか設けないことによる相乗効果で、僅か3.3mmという極めて薄いHDDの装置厚みを実現することが可能となる。
【0060】
なお、本実施形態のHDDにおいては、現存する磁気ディスクのうちで最も小さい半径の0.85インチサイズの磁気ディスクが搭載している。これには、装置の小型化を実現すると共に、ヘッド24がディスク上にロードした際のヘッド加重モーメントFhを軽減するという目的もある。
【0061】
以上述べたように、流体動圧軸受のスラスト軸受を、外周部にスパイラルポンプイン型軸受、内周部に平面軸受という2種類の軸受構造を、それぞれ最適な幅で同心円状に組み合わせて構成することで、流体動圧軸受の回転軸を傾ける方向の剛性(軸倒れ剛性)を高くすることが可能となる。この流体動圧軸受をHDDのスピンドルモータに組み込むことにより、軸倒れ加重に対する耐性の強い、高信頼性の磁気ディスク装置を提供することが可能となる。
【0062】
また、本実施形態のようなスラスト軸受を用いて軸倒れ剛性を増強すれば、その分ラジアル軸受部分を小型化することが可能となり、これにより装置高さの低い、薄型の磁気ディスク装置を提供することが可能となる。
【0063】
更に、本実施形態のようなスラスト軸受を用いて軸倒れ剛性を増強すれば、ヘッドを奇数個搭載したときに働くヘッド起因の軸倒れ加重にも耐える構造を実現することが可能となり、これにより磁気ディスクに搭載するヘッドの個数を1個に減らすことができ、より装置高さの低い、薄型の磁気ディスク装置を提供することが可能となる。
【0064】
以上のように構成された流体動圧軸受によれば、モータの回転軸を傾かせる方向の剛性、すなわち、軸倒れ剛性を高くして、軸倒れ加重に対し強固で、信頼性の高い流体動圧軸受、スピンドルモータ及び磁気ディスク装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係るHDDの斜視図
【図2】図1のHDDの分解斜視図。
【図3】図1のHDDの筐体及び内部構造を示す平面図。
【図4】図1のHDDのプリント回路基板側を示す斜視図。
【図5】図1の線A−Aに沿ったHDDの断面図。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るスピンドルモータの断面図。
【図7】本発明の実施形態に係る流体動圧軸受のスラスト軸受の溝形状を示す図。
【図8】本発明の第1の実施形態に係るスピンドルモータの最大圧力発生位置と軸倒れモーメントの発生状態を説明する図。
【図9】本発明の実施形態に係る流体動圧軸受のスラスト軸受のスパイラルポンプイン軸受−平面軸受の幅比率と軸受損失トルクの関係を示した図。
【図10】本発明の第2の実施形態に係るスピンドルモータの断面図。
【図11】本発明の第3の実施形態に係るスピンドルモータの断面図。
【図12】本発明の第4の実施形態に係るスピンドルモータの断面図。
【図13】本発明の実施形態に係る流体動圧軸受のラジアル軸受の溝形状を示す図。
【図14】本発明の第5の実施形態に係るスピンドルモータ及びHDDの断面図。
【図15】本発明の第6の実施形態に係るスピンドルモータ及びHDDの断面図。
【符号の説明】
【0066】
10……筐体
10a……第1シェル
10b……第2シェル
12……プリント回路基板
12a……切り欠き部
16……シールド部材
20……磁気ディスク
22……SPM
26……キャリッジ
28……VCM
30……ランプロード機構
44……クランパ
63……トップヨーク
101、201、301、401……スラスト軸受部
101a……平面軸受部
101b……スパイラルポンプイン軸受部
101c……リッジ部分
101d……グルーブ部分
102、202、302、402……ラジアル軸受部
102a、202a、302a、402a……ラジアル軸受部
104、204、304、404……スリーブ
105、405、505、605……フランジ
106、206、306、406、506、606……ハブ
107、207、307、407、507、607……ロータマグネット
108、208、308、408、508、608……ステータコイル
109、209、309、409、509、609……ステータコア
310、410……カウンタプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジアル軸受手段とスラスト軸受手段を有する流体動圧軸受であって、
前記ラジアル軸受手段は、ヘリングボーン型軸受で構成され、
前記スラスト軸受手段は、外周部にスパイラルポンプイン型の軸受が形成され、当該スパイラルポンプイン型の軸受の内周部に平面軸受が形成されるとともに、前記スパイラルポンプイン型軸受と前記平面軸受が同一面上でかつ同心円状に形成される
ことを特徴とする流体動圧軸受。
【請求項2】
前記スラスト軸受手段は、前記内周部に形成された平面軸受の半径方向の幅をW1とし、その外周部に形成されたスパイラルポンプイン型軸受の半径方向の幅をW2としたとき、それぞれの半径方向の幅の比率であるW1:W2が、3:7乃至7:3の間の比率で構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の流体動圧軸受。
【請求項3】
前記ラジアル軸受手段は、1個のヘリングボーン型軸受のみにより構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の流体動圧軸受。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載する流体動圧軸受と、
情報を記録可能なディスクを搭載可能とし、前記流体動圧軸受によって回転自在に支持されるハブと、
前記ハブと一体に回転するよう固定されたロータマグネットと、
前記ロータマグネットを回転駆動するステータと
を有するスピンドルモータ。
【請求項5】
互いにほぼ等しい寸法に形成された第1シェルと第2シェルで構成された筐体と、
前記筐体に固定された請求項4に記載のスピンドルモータと、
前記ハブに固定され、情報を記録可能な磁気ディスクと、
前記磁気ディスクの所望の位置に対して情報の書き込みまたは読み出しをおこなう磁気ヘッドと、
を備えたことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項6】
前記磁気ヘッドが奇数本搭載される
ことを特徴とする請求項5に記載の磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−84009(P2006−84009A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272211(P2004−272211)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】