説明

流体動圧軸受装置

【課題】小さい構造寸法において気密性に関して高い信頼性を有し、吸収可能な支持力及び剛性を有する流体動圧軸受を提供する。
【解決手段】少なくとも一つの固定部材と一つの回転部材とを備え、これらの部材は、相対向する軸受面の間に、軸受流体が充填される軸受間隙を形成し、この軸受間隙は、少なくとも一方の末端において開口し且つ密封手段により周囲に対して密封されており、空間的に分離された少なくとも二つの軸受面に、流体動圧を発生させるための圧送構造体が設けられており、軸受間隙と連通した少なくとも一つの軸受流体貯蔵収容部が設けられている。本発明は、密封手段が、圧送構造体により構成されており、圧送構造体は、軸受間隙の開口末端において軸受部材の少なくとも一つに配置され、且つ、軸受内部に向いた圧送作用を軸受流体に対して発生させて軸受間隙の開口末端の動的密封を引き起こすように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動圧軸受装置に係り、特に、例えばハードディスク駆動装置内において利用されるスピンドルモータ用の構造寸法の小さい流体動圧軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク駆動装置の小型化の進展によって新たな設計問題が、特に小型駆動モータ及び軸受装置の設計時に生ずる。従来は、転がり軸受が使用されたが、現在では、流体動圧軸受装置が、その構造様式が一層小さく且つ精度が一層高いので、益々普及しつつある。それにも拘わらず、ハードディスク流体動圧軸受及びその製造方法に関する従来の設計解決は応用可能ではなく、又は、困難を伴ってのみ応用可能である。軸受装置が小さくなればなるほど、従来の構造様式では、その支持力及び剛性が一層小さくなる。
【0003】
流体軸受における他の問題は、密封である。特に、軸受の小型化は、相応に適合された密封配置を必要とする。流体貯蔵部から本来の軸受領域へと支障のない到達を軸受流体に可能としなければならない。他方、流体が軸受から漏出することのないように確保しなければならない。これは、高圧が発生する点を考慮すると、特に、複数の密封個所を有する軸受では問題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の課題は、小さい構造寸法において気密性に関して高い信頼性を有し、吸収可能な支持力及び剛性を有する流体動圧軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴によって解決される。
【0006】
本発明の好ましい諸構成及びその他の有利な特徴は、従属請求項に明示されている。
【0007】
技術の現状から出発して、この流体動圧軸受装置は、少なくとも一つの固定部材と一つの回転部材とを備え、これらの部材が、相対向する軸受面の間に、軸受流体が充填される軸受間隙を形成し、この軸受間隙が少なくとも一方の末端において開口し、且つ、密封手段により周囲に対して密封されており、軸受面の少なくとも一つに、流体動圧を発生するための圧送構造体が設けられており、軸受間隙と接続された少なくとも一つの軸受流体貯蔵収容部が設けられている。本発明によれば、密封手段は、圧送構造体により構成されており、圧送構造体は、軸受間隙の開口末端において軸受部材の少なくとも一つに配置され、且つ、軸受内部を向いた圧送作用を軸受流体に対して発生して軸受間隙の開口末端の動的密封を形成するように構成されている。
【0008】
片側を閉鎖された軸受装置の代わりに、本発明の好ましい一構成において軸受間隙は、二つの開口末端を有し、両方の末端が密封手段により密封されている。その際、密封手段は、各開口末端において軸受装置の既存の圧送構造体により、及び/又は、軸受装置の圧送構造体とは独立した圧送構造体により構成しておくことができ、この独立した圧送構造体は、軸受装置の内部方向に独自の圧送作用を発生する。
【0009】
その際、貯蔵収容部は、主に圧送構造体と連関して、付加的密封手段を構成し、二つの開口末端を有する軸受間隙の場合、主にこれらの開口末端のそれぞれが貯蔵収容部に通じている。
【0010】
本発明の好ましい一構成において、特に軸受間隙が二つの開口末端を有する場合、相互に分離された二つの貯蔵収容部内に貯蔵流体がある。二つの流体動圧圧送構造体の正反対の圧送作用により、一方の貯蔵収容部から他方の貯蔵収容部へと軸受流体が圧送され、均衡が生ずることになる。その際、貯蔵収容部の形状は重要ではない。外部に対して十分な静的気密性が存在しなければならないだけである。この配置は、大きな圧力変化も補償することができ、なおかつ、貯蔵流体を用意することができる。
【0011】
本発明に係る動的密封配置は、あらゆる種類の流体動圧軸受装置、特に、純ラジアル軸受配置、純スラスト軸受配置又は円錐状若しくは球状軸受又はそれらの組合せ体に対して利用可能である。
【0012】
本発明の好ましい一構成において軸受装置は、円板状部分、及び、回転軸線に関して同軸のこれに連続する円筒形部分からなる第1部材と、円板状部分から離隔して第1部材の円筒形部分に固着されて両方の部材の間に環状自由空間を形成する第2環状部材と、第1、第2部材に対して相対的に回転軸線の周囲を回転可能に環状自由空間内に収容される第3環状部材と、を備えている。第1、第2、第3部材の相対向する軸受面との間に形成される軸受間隙内に、軸受流体が送り込まれている。軸受流体内部に流体動圧を発生するための圧送構造体は、第1、第2、第3部材の選択された相対向する軸受面上に構造体として構成されている。
【0013】
このような軸受装置の好ましい実施の一形態において、第1、第3部材の相対向する軸受面により形成される第1スラスト軸受と、第2、第3部材の相対向する軸受面により形成される第2スラスト軸受と、第1、第3部材の相対向する軸受面により形成される少なくとも一つのラジアル軸受と、が設けられている。
【0014】
部材諸機能の統合により上記軸受はわずかな数の部材からなる。これらの部材は、従来の製造方法により製造可能である。軸線方向距離の大きいラジアル軸受によってではなく、スラスト軸受によって所要の倒立剛性(Kippsteifigkeit)が達成されるので、所要の構造高さを小さくして実施することができる。これにより軸線方向剛性は、大きい。尚、不可欠な半径方向剛性は、少なくとも一つの比較的「小さい」ラジアル軸受により達成することができる。この構造形状により、作用する諸力に対して有利な位置にラジアル軸受を配置することが可能である。
【0015】
本発明の他の利点は、軸受を両側で(上と下で)、即ち、第1、第2軸受部材に固定する可能性にある。その際、主に第3部材は、軸受の回転部品を構成する。軸受の動作円滑性に対する要求が厳しい用途には、例えばハードディスクモータ内では、このような両側固定が好ましい。しかし、この原理は、片側で固定される軸受にも応用可能である。
【0016】
軸受間隙は、両方のスラスト軸受の領域において、第3部材に設けられる一つ又は複数の再循環通路により相互に接続しておくことができる。これは、軸受内での軸受流体の循環を促進し、軸受内での圧力補償向上に基づいて、動的密封の作用を援助する。
【0017】
軸受装置は、主に、例えばハードディスク駆動装置内において使用されるスピンドルモータの構成要素であり、第3部材は、スピンドルモータのロータの少なくとも一部を構成する。この応用において、軸受装置は、両側で、即ち、第1及び/又は第2部材に固定可能であると有利である。
【0018】
好ましいことにラジアル軸受は、ラジアル軸受の中心を向いた圧送作用を発生する圧送構造体を有する。これに対して、スラスト軸受は、回転軸線方向において半径方向内向きの圧送作用を主として発生する圧送構造体を有する。その際、両方のスラスト軸受の圧送作用は、ラジアル軸受の方向において正反対に、即ち、軸受装置内部の方を向いている。
【0019】
貯蔵収容部の配置については、貯蔵収容部が、第1部材の円板状部分の外径部に配置されていると好ましい。別の貯蔵収容部は、それが存在する限り、第2部材の外径部に対応して配置しておくことができる。第1スラスト軸受の平面における半径方向外側において貯蔵収容部を第1部材に配置しておくこともできる。その場合、第2貯蔵収容部は、第2スラスト軸受の平面における半径方向外側において第2部材に配置しておくことができる。貯蔵収容部は、主に、当該部材の各一つの環状又は円錐状切欠き部により構成されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明に係る軸受の基本構造を示す。この軸受は、特に、その単純な構造様式において際立っている。図1に示す態様では、軸受は、単に三つの部材からなる。第1部材1は、円板状部分2と、回転軸線17に関して同軸のこれに連続する円筒形部分3とを有する。部材をハウジング等に固着するための少なくとも一つのねじ穴4が回転軸線17と同軸に第1部材1に設けられている。円板状部分2から離隔して第2環状部材5が第1部材1の円筒形部分3に固着され、両方の部材1、5の間に環状自由空間が形成されている。部材1の円板状部分2と部材5とは、特に、同一の外径を有する。実質的に環状の第3部材6が自由空間内に部分的に収容され、第1部材1及び第2部材5に対して相対的に回転軸線17の周囲を回転できるように配置されている。
【0021】
部材1、5、6は、第1、第2、第3部材の相対向する軸受面の間に数μm幅の軸受間隙7が形成されるように寸法設計されている。軸受間隙には軸受流体、例えば軸受油が、又は空気が、充填されている。第1部材1の円板状部分2と第3部材6の上面との相対向する軸受面8、10が、第1スラスト軸受を形成する。第2部材5と第3部材6との相対向する軸受面11、13が、第2スラスト軸受を形成する。内向きに作用する(圧送する)大直径のスラスト軸受は、高い軸線方向剛性及び倒立剛性をもたらす。半径方向の諸力は、少なくとも一つのラジアル軸受により吸収され、このラジアル軸受は、第1部材1の円筒形部分3と第3部材6の内径との相対向する軸受面14、16により形成される。密に並べられた複数のラジアル軸受も設けておくことができる。
【0022】
図2は、図1に示す軸受の展開図である。軸受が耐荷性となるように、周知の如くにスラスト軸受領域及びラジアル軸受領域の軸受面に圧送構造体が設けられている。軸受面が相互に相対回転すると、圧送構造体によって軸受流体の内部に流体動圧が発生させられる。この圧送構造体は、第1、第2、第3部材の選択された相対向する軸受面に配置される溝パターンからなる。圧送構造体は、相対向する軸受面の一方又は両方に設けておくことができる。認識されるように、第1部材1の円板状部分2の軸受面8が保持する圧送構造体9は、第3部材6の上側軸受面10と協動し、且つ、第1スラスト軸受を形成する。第2部材5の上側軸受面11が有する圧送構造体12は、第3部材6の下側軸受面13と協動し、且つ、第2スラスト軸受を形成する。ラジアル軸受を形成する圧送構造体15は、第3部材6の内側軸受面14に配置されており、第3部材は、第1部材1の円筒形部分の軸受面16と協動する。
【0023】
圧送構造体の原理及び機能について、図3乃至図5に基づいて説明する。図3及び図4は、単一のラジアル軸受の圧送構造体を示す。図3には、例えば軸20のラジアル軸受領域の一部と対応する圧送構造体21が例示的に示してある。圧送構造体により軸受流体に対して引き起こされる圧送作用の方向及び強さが、相応する矢印により示してある。矢印の長さは、圧送作用の強さ(圧力の大きさ)に比例している。製造公差及びその他の影響により圧送構造体21が不規則となり、それに伴い圧送作用が様々な強さとなることがある。圧送構造体21のこの不均整が軸受内に異なる圧力P、Pを引き起こす。図3から明らかとなるように、これらの圧力差は例えば、それが設計上可能であるなら、いわゆる再循環通路22により補償することができる。再循環通路の利用が、図4に示すように、可能でなければ、圧力差は別の方法により密封又は補償することができる。
【0024】
ここで、本発明が適用される。
【0025】
図5は、軸受内の圧力差を補償するための動的シールを有する、例えば軸30上に圧送構造体24を有する単一のラジアル軸受の概略を示す。これは、両側が開口した軸受である。軸受の外側は、周囲圧力Pに制御されている。部分的に不均整な圧送構造体23、24、25が軸受内に異なる圧力P、Pを発生し、外側圧送構造体23、25の圧送作用は内方を向いている。圧送構造体23、25は、軸受流体26が軸受間隙27から外側に進出するのを防止し、従って、動的シールとして機能する。動的に密封された流体軸受内において運転時に均衡が生じ、圧力差が補償される。軸受間隙の両方の末端に軸受流体用貯蔵収容部28、29が設けられている。軸受流体26は、軸受間隙27内において、帰結する最大圧送作用の方向に、例えば図において右方向に圧送される。その際、一方の貯蔵収容部28が空になり、他方の貯蔵収容部29に軸受流体が充填される。この過程は、シールの圧送構造体23に部分的にもはや流体が充填されていなくなるまで持続する。この構造体23の圧送作用は、付属する軸受間隙領域の充填度に応じて弱まり、軸受内において圧力差が補償されることになる。即ち、流体軸受用動的シールは、一つ又は複数の個別軸受の帰結する圧送作用の方向が未知である場合、二つの貯蔵流体用貯蔵収容部28、29と、二つの対応する圧送構造体23、25とを必要とする。
【0026】
しかし、図6に示すように、結果的に生ずる圧送作用方向が明確である場合、充填レベルの補償には、一つの貯蔵収容部と、動的シールとしての一つの圧送構造体とがあれば十分である。図6に示す軸受装置は、例えば軸受ブッシュの態様の一つの固定部材31と、例えば軸及び加圧板の態様の相互に結合された二つの回転部材32、33とを備えている。この実施の形態において、軸受装置は、片側が閉鎖され、上方においてのみ開口している。一つのラジアル軸受領域34とその下に配置される二つのスラスト軸受領域35、36とが設けられている。軸受間隙38の開口末端の圧送構造体37は動的シールを形成し、軸受流体39が軸受内部の方向に、即ち、軸受の閉鎖末端の方向に加圧されるようにする。回転軸線17の周囲に例えば環状に設けられる貯蔵収容部40は、軸受間隙38内に充填レベル補償をもたらす。周知の如くにスラスト軸受領域35、36にも対応する圧送構造体(図示せず)が設けられている。圧送構造体により軸受流体に対して引き起こされる圧送作用の方向が、相応する矢印により示してある。矢印の長さは、圧送作用の強さ(圧力の大きさ)に比例している。
【0027】
図5、図6の実施の形態に示す貯蔵収容部の形状及び位置は、本発明の原理にとってほとんど重要でない。貯蔵収容部は、十分な貯蔵流体を準備し、それぞれ付属する圧送構造体への流出入を貯蔵流体に可能としなければならないだけである。上記解決は、基本的にあらゆる種類の流体軸受に応用可能である。これは、例えば個々のラジアル軸受又はスラスト軸受、円錐状又は球状軸受にも、それらの組合せにもあてはまる。再循環穴は必ずしも必要ではないが、この原理を援助することができる。
【0028】
図7は、図1及び図2による流体軸受内の動的シールの原理を示しており、二つのスラスト軸受と一つのラジアル軸受とが備えられ、スラスト軸受領域の圧送構造体が同時に動的シール用圧送構造体を形成している。即ち、スラスト軸受の圧送構造体は、二つの貯蔵収容部と共に、製造公差を補償する動的密封装置を構成する。スラスト軸受の圧送構造体は、軸受対偶の一方又は両方に設けておくことができる。その際、図1及び図2に示した形状とは別の形状の圧送構造体も可能である。部材1、5、6の間の軸受間隙7が、この図面では拡大して図示されている。軸受間隙7に軸受流体が充填されているのが認められる。部材1の下面又は部材5の上面に設けられるスラスト軸受領域の圧送構造体9、12と、部材1の円筒形部分3の圧送構造体15’(図1では、圧送構造体15が選択的に部材3に設けられていた)とにより、軸受流体は回転軸線17の方向に圧送される。二つの貯蔵収容部18、19は、例えば環状に形成しておくことができ、軸受間隙の末端に配置されており、軸受間隙7内において充填レベル補償をもたらす。圧送構造体の不均一性に起因して、例えば上側圧送構造体9により、下側圧送構造体12によるよりも強い内向き圧力が発生させられる。そのため、上側圧送構造体9が部分的にもはや流体を充填されていない間に、軸受流体は、上側貯蔵収容部18から軸受間隙7を通じて下側貯蔵収容部19内に圧送され、こうして下側圧送構造体12に関して均衡が生じる。その理由は、軸受の不均整が補償されるまで、この構造体9の圧送作用は、充填度に応じて弱まるからである。この実施の形態において、スラスト軸受の圧送構造体9、12は、同時に、貯蔵収容部18、19の方向において軸受間隙7を動的に密封するための圧送構造体として機能する。圧送構造体により引き起こされる圧力推移が、図1では矢印によってではなく、相応する傾斜波形マークによって示してある。貯蔵収容部は、第1部材1の部分2と第2部材5との外径部に環状切欠き部として形成されている。
【0029】
図8は、図1に対して変更された軸受装置を示しており、図1及び図2に関して同様の部材には同じ符号が付してある。この軸受装置は、いわゆる再循環通路41と、マーク42、43により表され、二つの個別の圧送構造体を備えた動的シールとを備えている。再循環通路41は、例えば第3部材6の内部に穴として形成されており、動的シールの作用を援助し、また、軸受間隙7の外側領域を相互に連通することにより軸受流体が軸受構造体の周囲を流れるのを援助する。動的シールを形成する圧送構造体42、43は、スラスト軸受領域の圧送構造体とは独立して構成され、スラスト軸受領域及び再循環通路41の半径方向外側に配置されている。
【0030】
図8による軸受装置内部での軸受流体の流れ挙動及び圧力推移が、図9から明らかとなる。スラスト軸受構造体の圧送作用に関わりなく、貯蔵収容部18、19内に保持された量の軸受流体により援助されて、圧送構造体42、43は、軸受内部に向く独自の圧送作用を発生する。再循環通路41は、軸受間隙の末端領域の間において迅速な圧力補償をもたらす。
【0031】
図10は、片側で固定可能な軸受としての本発明に係る軸受の他の構成を示しており、第1部材1と第2部材5とを有し、第3軸受部材44は、ロータベルとして機能する他の部材45を担持している。補償収容部18、19は、やはり第1部材又は第2部材の外周面にあり、軸受間隙7と接続されている。スラスト軸受領域及びラジアル軸受領域の上記圧送構造体の他に、軸受配置を動的に密封するための個別の圧送構造体46、47がやはり設けられている。しかし、図示した事例において、圧送構造体は、スラスト軸受領域の平面にではなく、ロータベル45の内周面に配置され、第1部材1又は第2部材5の周面と協働する。選択的に、動的シール用圧送構造体は、軸受部材1、5の外周面に横方向に配置しておくこともできる。
【0032】
図11は、圧送構造体により軸受間隙7内部に発生させられる圧力推移を示す。ラジアル軸受領域の圧送構造体は、軸受間隙の中心方向に向く正反対の増圧を発生するように構成されている。上側及び下側のスラスト軸受領域がやはり有する圧送構造体は、これら圧送構造体の中心に向く圧力推移を発生するが、軸受間隙の内部方向に向く圧力は、外方に向く圧力よりも多少高い。結局、動的シールの圧送構造体46、47は、軸受内部方向に向く圧力推移をやはり発生し、上側貯蔵収容部18と下側貯蔵収容部19との間で軸受流体のレベル補償を行うことができる。
【0033】
図12及び図13は、図1及び図2の軸受装置と同様の軸受装置の断面図及び展開図である。同様の部材には同じ符号が付してある。図1と比較すると、第3軸受部材6が多少厚く形成されており、スラスト軸受領域は、多少大きな相互距離を有する。第2軸受部材は、貯蔵収容部19の下方に環状切欠き部を有し、この切欠き部により第2部材を環状ハウジングフランジ48内に嵌合させて、そこに固着することができる。部材1、5、6の対応する軸受面の圧送構造体の構成は、図1及び図2による実施の形態と同じである。
【0034】
図14は、本発明に係る構成の軸受装置を実質的に図1と同様に示しており、貯蔵収容部49、50は、スラスト軸受に付設された部材1、5の軸受面と同じ平面に配置されている。動的シールは、ここでもやはりスラスト軸受領域の圧送構造体により実現される。即ち、シール用の個別の圧送構造体は、設けられていない。貯蔵収容部の「水平」配置によって、この構成の軸受装置は、図1に比較して構造高さが小さい。
【0035】
図15に断面図により示すスピンドルモータは、本発明に係る構造様式の流体動圧軸受装置を備えている。軸受装置のこの構成は、図10に示す軸受装置に類似している。このようなスピンドルモータは、例えば記憶ディスク駆動装置を駆動するのに使用することができる。軸受装置は、固定軸51の態様の第1部材を備え、この軸は、円板状部分52と、回転軸線17に関して同軸のこれに連続する円筒形部分53とを有する。第2環状部材54は、円板状部分52から離隔して軸51の円筒形部分53に固着され、両方の部材51、54の間に環状自由空間が形成される。第2部材54は、スピンドルモータのベース板60の穴内に堅固に受容されている。実質的に環状の第3部材55は、自由空間内に一部が収容され、軸51及び第2部材54に対して相対的に回転軸線17の周囲を回転できるように、そこに配置され且つ支持されている。部材51、54、55は、第1、第2、第3部材の相対向する軸受面の間に数μm幅の軸受間隙56が形成されるように、寸法設計されている。軸受間隙に軸受流体、例えば軸受油が、又は空気が、充填されている。軸51の円板状部分52と第3部材55の正面との相対向する面が第1スラスト軸受を形成し、このスラスト軸受は、例えば図1及び図2に示したように相応する圧送構造体(図示せず)を特徴としている。第2部材54と第3部材55との相対向する面は、相応する圧送構造体を備えた第2スラスト軸受を形成する。内方に作用(圧送)する大直径のスラスト軸受は、高い軸線方向剛性及び倒立剛性をもたらす。半径方向諸力は、少なくとも一つのラジアル軸受により吸収され、このラジアル軸受は、軸の円筒形部分53と第3部材55の内径との相対向する面と、相応する圧送構造体63とにより形成される。この軸受間隙領域に、密に並ぶ複数のラジアル軸受を設けておくこともできる。
【0036】
第3軸受部材55は、スピンドルモータのハブ57を担持し、このハブは、第3部材55の外径部に、例えばプレス嵌合により固着されている。ハブ57の内径部の段差は、第3部材55用係止として機能する。ハブ57は、その外径部に永久磁石58を担持しており、永久磁石は、スピンドルモータの電磁駆動装置の一部である。ベース板60に固着されたステータ装置59は、ハブ57の永久磁石58の周囲に円形に離間配置され、スピンドルモータの駆動装置の別の一部を形成する。ステータ装置59が発生する交番電磁界は磁石58に作用し、ハブ57とこれに結合されて回転する軸受部材55とを回転させる。
【0037】
回転するハブ57の内径部と固定軸51の円板状部分52の外径部又は第2部材54の外径部との間に各一つの自由空間61又は62が設けられている。これらの自由空間61、62は、軸受間隙56に隣接し、これと連通している。自由空間61、62は、その横断面が軸受間隙56の方向において先細となるように形成されており、軸受間隙56を密封するための毛細管シールとしても、軸受流体用補償兼貯蔵収容部としても機能する。軸受の負荷に応じて自由空間61、62の一方又は両方が少なくとも部分的に軸受流体を充填されている。自由空間61、62の円錐状横断面は、軸51又は第2部材54の回転軸線17に対して斜めに延びる相応する外側幾何学形状により得られる。この「傾斜化」は、当然にハブ57の相応する内側幾何学形状によっても達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】内方に作用する二つのスラスト軸受と一つの対称なラジアル軸受とを備えた本発明に係る軸受装置の断面図である。
【図2】図1に略示した軸受の展開図である。
【図3】再循環通路を備えた単一のラジアル軸受の従来例を示す。
【図4】再循環通路のない単一のラジアル軸受の従来例を示す。
【図5】動的シールを備えた単一のラジアル軸受の原理を示す。
【図6】二つのスラスト軸受と一つのラジアル軸受と一つの流体貯蔵収容部とを備えた流体軸受内の動的シールの原理を示す。
【図7】図1による流体軸受内の動的シールの原理を示しており、シールの圧送構造体が同時に軸受構造体である。
【図8】再循環通路と二つの個別の圧送構造体を有する動的シールとを備えた本発明に係る軸受装置を図1と同様に示す断面図である。
【図9】図8による流体軸受内の動的シールの原理を示す。
【図10】個別のロータと、動的密封用に横方向圧送構造体を有する片側で固定される軸受とを備えた本発明に係る軸受装置の他の構成の断面図である。
【図11】二つのスラスト軸受と一つのラジアル軸受と個別の圧送構造体とを備えた図10による流体軸受内の動的シールの原理を示す。
【図12】図1に比較してわずかに変更された構成の、ハウジングフランジに固着される軸受装置の断面図である。
【図13】図12に略示した軸受の展開図である。
【図14】図1に比較してわずかに変更された構成の、貯蔵収容部を水平に配置した軸受装置の断面図である。
【図15】本発明に係る軸受装置を備えたスピンドルモータの断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 (第1)部材
2 円板状部分
3 円筒形部分
4 ねじ穴
5 (第2)部材
6 (第3)部材
7 軸受間隙
8 軸受面(部材1)
9 圧送構造体
10 軸受面(部材3)
11 軸受面(部材2)
12 圧送構造体
13 軸受面(部材3)
14 軸受面(部材3)
15、15’ 圧送構造体
16 軸受面(部材1)
17 回転軸線
18 貯蔵収容部
19 貯蔵収容部
20 軸
21 圧送構造体
22 再循環通路
23 圧送構造体
24 圧送構造体
25 圧送構造体
26 軸受流体
27 軸受間隙
28 貯蔵収容部
29 貯蔵収容部
30 軸
31 (固定)部材
32 (回転)部材
33 (回転)部材
34 ラジアル軸受領域
35 スラスト軸受領域
36 スラスト軸受領域
37 圧送構造体
38 軸受間隙
39 軸受流体
40 貯蔵収容部
41 再循環通路
42 圧送構造体(シール)
43 圧送構造体(シール)
44 (第3)部材
45 ロータベル
46 圧送構造体(シール)
47 圧送構造体(シール)
48 ハウジングフランジ
49 貯蔵収容部
50 貯蔵収容部
51 軸(第1部材)
52 円板状部分
53 円筒形部分
54 (第2)部材
55 (第3)部材
56 軸受間隙
57 ハブ
58 永久磁石
59 ステータ装置
60 ベース板
61 自由空間
62 自由空間
63 圧送構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの固定部材(1;5)と一つの回転部材(6)とを備え、これらの部材は、相対向する軸受面の間に、軸受流体が充填される軸受間隙(7)を形成し、前記軸受間隙は、少なくとも一方の末端において開口し且つ密封手段により周囲に対して密封されており、空間的に分離された少なくとも二つの軸受面に、流体動圧を発生させるための圧送構造体が設けられており、前記軸受間隙と連通した少なくとも一つの軸受流体貯蔵収容部(18;19)が設けられている、流体動圧軸受装置であって、
前記密封手段は、前記圧送構造体(9、12;42、43)により構成されており、前記圧送構造体は、前記軸受間隙(7)の開口末端において前記軸受部材(1;5;6)の少なくとも一つに配置され、且つ、軸受内部に向いた圧送作用を前記軸受流体に対して発生させて前記軸受間隙の開口末端の動的密封を引き起こすように構成されていることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
前記軸受間隙は、二つの開口末端を有し、両方の末端が前記密封手段により密封されていることを特徴とする請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
前記密封手段は、軸受装置の前記圧送構造体(9、12)により構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
前記密封手段は、軸受装置の前記圧送構造体とは独立した圧送構造体(42、43)により構成されており、この独立した前記圧送構造体は、軸受装置の内部方向に圧送作用を発生させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
前記軸受間隙全体に前記軸受流体が充填されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項6】
前記貯蔵収容部(18;19)は、付加的密封手段を構成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項7】
前記軸受間隙の各開口末端は、前記貯蔵収容部(18;19)に連通していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項8】
少なくとも一つの前記圧送構造体に前記軸受流体が部分的に充填されているだけであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項9】
円板状部分(2)、及び、回転軸線(17)に関して同軸の前記円板状部分(2)に連続する円筒形部分(3)からなる第1部材(1)と、
前記円板状部分(2)から離隔して前記第1部材の前記円筒形部分に固着されて両方の部材(1;5)の間に環状自由空間を形成する第2環状部材(5)と、
前記第1、第2部材に対して相対的に回転軸線の周囲を回転可能に環状自由空間内に収容される第3環状部材(6)と、
前記第1、第2、第3部材(1;5;6)の相対向する軸受面(8、10;11、13;14、16)との間に形成される軸受間隙(7)内に送り込まれる軸受流体と、
前記第1、第2、第3部材の選択された相対向する軸受面上に形成されて軸受流体内部に流体動圧を発生させる圧送構造体(9;12;15)と、
を備えていることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項10】
密封手段が前記圧送構造体(9、12;42、43)により構成されて設けられており、前記圧送構造体は、前記軸受間隙(7)の開口末端において前記軸受部材(1;5;6)の少なくとも一つに配置され、且つ、軸受内部に向いた圧送作用を前記軸受流体に対して発生させて前記軸受間隙の開口末端の動的密封を引き起こすように構成されていることを特徴とする請求項9に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項11】
前記軸受装置は、前記第1、第3部材(1;6)の相対向する前記軸受面(8;10)により形成される第1スラスト軸受を備えていることを特徴とする請求項9又は10に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項12】
前記第1スラスト軸受の平面において、半径方向外側に貯蔵収容部(49)が前記第1部材(1)に配置されていることを特徴とする請求項11に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項13】
前記軸受装置は、前記第2、第3部材(5;6)の相対向する前記軸受面(11;13)により形成される第2スラスト軸受を備えていることを特徴とする請求項11又は12に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項14】
前記第2スラスト軸受の平面において、半径方向外側に貯蔵収容部(50)が前記第2部材(5)に配置されていることを特徴とする請求項13に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項15】
前記軸受間隙(7)は、両方の前記スラスト軸受の領域において、前記第3部材に設けられる一つ又は複数の再循環通路(41)により相互に連通されていることを特徴とする請求項13又は14に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項16】
前記スラスト軸受は、回転軸線方向において半径方向内向きの圧送作用を主として発生させる前記圧送構造体(9;12)を有することを特徴とする請求項11乃至15のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項17】
前記軸受装置は、前記第1、第3部材(1;6)の相対向する前記軸受面(14;16)により形成される少なくとも一つのラジアル軸受を備えていることを特徴とする請求項9乃至16のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項18】
前記ラジアル軸受は、前記ラジアル軸受の中心に向いた圧送作用を発生させる前記圧送構造体を有することを特徴とする請求項17に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項19】
両方の前記スラスト軸受の圧送作用は、前記ラジアル軸受の方向において正反対を向いていることを特徴とする請求項13乃至16に従属する請求項17、又は、請求項13乃至16に従属する請求項17に従属する請求項18のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項20】
前記軸受装置は、スピンドルモータの構成要素であり、前記第3部材(44)は、前記スピンドルモータのロータ(45)の少なくとも一部を構成することを特徴とする請求項9乃至19のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項21】
前記軸受装置は、支持体の前記第1及び/又は第2部材に固定可能であることを特徴とする請求項9乃至20のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項22】
貯蔵収容部(18)が、前記第1部材(1)の円板状部分(2)の外径部に配置されていることを特徴とする請求項9乃至21のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項23】
貯蔵収容部(19)が、前記第2部材(5)の外径部に配置されていることを特徴とする請求項9乃至21のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項24】
前記貯蔵収容部(18;19;49;50)は、当該部材の環状又は円錐状切欠き部により形成されていることを特徴とする請求項12,22又は23のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項25】
請求項1乃至24のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置を備えていることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項26】
請求項25に記載のスピンドルモータを備えていることを特徴とする記憶ディスク駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−97894(P2006−97894A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273819(P2005−273819)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】