説明

流体噴射装置

【課題】ユーザメンテナンス作業性を向上させることのできる流体噴射装置を提供する。
【解決手段】流体を噴射する複数のノズル47を有する噴射ヘッド3と、噴射ヘッド3に供給される流体を貯留する流体貯留部52を含む流体供給部材6と、記録ヘッド3に当接するとともにノズル47に対するメンテナンス処理を行うキャッピング装置50と、メンテナンス処理時に吸引動作によりノズル47から流体を排出させる吸引機構P1と、メンテナンス処理時にノズル47から排出された廃流体を一時的に収容する廃流体収容部63と、廃流体収容部63内から廃流体及び雰囲気の少なくとも一方を加圧した加圧流体を流体供給部材63に送り込むことで流体貯留部52を押圧して流体を噴射ヘッド3側に供給させる加圧機構P2と、を備える流体噴射装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体(流体)をターゲットに対して噴射させる液体噴射装置(流体噴射装置)として、インクジェット式プリンタ(以下、「プリンタ」という。)が広く知られている。このようなプリンタにおいて、所謂オフキャリッジタイプのプリンタの場合は、インクカートリッジと記録ヘッド(噴射ヘッド)との間がインク供給チューブで連結され、このチューブを介してインクカートリッジ内のインクが記録ヘッドに供給されるようになっている。そして、インクカートリッジから記録ヘッドに供給されたインクを記録ヘッドに形成されたノズルから噴射することにより、記録媒体に印刷を施すようになっている。
【0003】
このインクジェット式記録装置には、ノズルにおける噴射特性を維持あるいは回復させるためのメンテナンス処理を行うためのキャッピング装置を備えている。キャッピング装置は、記録ヘッドに当接した状態でポンプによる吸引動作によりノズル内からインクを排出させる。ノズルから排出されたインクは廃インクとして廃インクタンク内に回収される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−1259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、インクカートリッジの交換に加え、廃インクタンクを交換する手間が別途生じることから、ユーザメンテナンス作業が煩雑となってしまうといった問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、ユーザメンテナンス作業性を向上させることのできる流体噴射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の流体噴射装置は、流体を噴射する複数のノズルを有する噴射ヘッドと、該噴射ヘッドに供給される前記流体を貯留する流体貯留部を含む流体供給部材と、前記噴射ヘッドに当接するとともに前記ノズルに対するメンテナンス処理を行うキャッピング装置と、前記メンテナンス処理時に吸引動作により前記ノズルから前記流体を排出させる吸引機構と、前記メンテナンス処理時に前記ノズルから排出された廃流体を一時的に収容する廃流体収容部と、該廃流体収容部内から前記廃流体及び雰囲気の少なくとも一方を加圧した加圧流体を前記流体供給部材に送り込むことで前記流体貯留部を押圧して前記流体を前記噴射ヘッド側に供給させる加圧機構と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の流体噴射装置によれば、メンテナンス処理時に噴射ヘッドから排出された廃流体を加圧流体として流体供給部材内に送り込むことにより、噴射ヘッドに流体を供給することが可能となる。これにより、メンテナンス処理時に排出された廃流体は流体供給部材内に収容されるようになる。また、廃流体収容部には廃流体が一時的に収容されるため、廃流体が満たされることで交換する必要が無い。よって、流体供給部材を交換する場合、該流体供給部材とともに廃流体を回収することができるので、ユーザメンテナンスを容易なものとすることができる。また、従来のように、廃流体を回収するための部材を別途設ける必要が無くなり、部品点数を削減することができ、低コスト化を実現できる。
【0008】
また、上記流体噴射装置においては、前記流体供給部材は、前記流体貯留部との間に隙間を生じさせるように当該流体貯留部を収容するケース部材を有し、前記隙間に前記加圧流体を送り込むのが好ましい。
この構成によれば、隙間に送り込んだ加圧流体により流体貯留部を確実に押圧することができ、噴射ヘッドに流体を良好に供給することができる。
【0009】
また、上記流体噴射装置においては、前記廃流体収容部は、内部が大気圧雰囲気とされているのが好ましい。
この構成によれば、流体収容部内から流体貯留部内に加圧流体を送り込む際に、加圧機構に対する負荷を低減することができる。また、非噴射時に加圧機構の動作を中止した場合、流体貯留部への圧力を大気中に逃がすことができる。
【0010】
また、上記流体噴射装置においては、前記流体供給部材における前記加圧流体の流入部に、前記廃流体の逆流を防止する逆止弁を備えるのが好ましい。
この構成によれば、流体供給部材内に送り込まれた廃流体が逆流するのを確実に防止できる。よって、加圧機構を安定して動作させることができ、噴射ヘッドに流体を安定供給できる。
【0011】
また、上記流体噴射装置においては、前記流体供給部材に送り込まれる前記加圧流体の圧力を検出する圧力検出手段を有し、前記加圧機構は前記圧力検出手段の検出結果に基づいて圧力調整を行うのが好ましい。
この構成によれば、流体供給部内に安定した圧力で加圧流体を送り込むことができるので、噴射ヘッドに流体を安定供給できる。
【0012】
また、上記流体噴射装置においては、前記流体供給部材と前記廃流体収容部との間を接続する搬送経路に、前記流体供給部材内の圧力を機械的に調節可能とする圧力調整機構が設けられるのが好ましい。
この構成によれば、圧力調整機構により流体供給部材内に送り込まれる加圧流体の圧力が機械的に調整されるので、例えば加圧機構を常時駆動状態とすることができる。よって、圧力センサ等の圧力検出手段が不要となり、制御系の構成を簡便化することができる。
【0013】
また、上記流体噴射装置においては、前記流体供給部材を複数有する場合、前記加圧機構により加圧した前記加圧流体を複数に分岐させた後、前記各流体供給部材に送り込むのが好ましい。
この構成によれば、加圧機構及び廃流体収容部をそれぞれ一個備えることで、複数の流体供給部材に流体を供給できるため、装置構成の簡略化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る流体噴射装置の実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態に係る流体噴射装置は、インク等の流体を噴射する装置である。流体噴射装置の一例として、噴射ヘッドの噴射口から記録媒体にインクを噴射して、その記録媒体に対する記録を実行するインクジェット式プリンタを用いて説明する。なお、以下の説明では、そのインクジェット式記録装置の一例として、記録媒体である記録紙にインクの滴を吐出(噴射)して、その記録紙に対する記録を実行するインクジェットプリンタ(以下、プリンタと称す)について説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るプリンタ1の概略構成を示す一部分解図である。
プリンタ1は、プリンタ本体5と、サブタンク(自己封止弁)2及び記録ヘッド(噴射ヘッド)3を搭載したキャリッジ4とを有している。
【0016】
プリンタ本体5には、キャリッジ4を往復移動させるキャリッジ移動機構54と、本実施形態における特徴的構成要素であり記録ヘッド3の各ノズルから増粘したインクLを吸引するクリーニング動作等に用いられるキャッピング装置50と、インク供給チューブ34を介して記録ヘッド3に供給するインクLを貯留したインクカートリッジ(流体供給部材)6とが設けられている。このプリンタ本体5には、記録紙を搬送する不図示の紙送り機構が設けられており、この紙送り機構は紙送りモータやこの紙送りモータによって回転駆動される紙送りローラ(いずれ不図示)等から構成され、記録紙を記録(印字・印刷)動作に連動させてプラテン13の上に順次送り出すようになっている。
【0017】
キャリッジ移動機構54は、プリンタ本体5の幅方向に架設されたガイド軸8と、パルスモータ9と、パルスモータ9の回転軸に接続されてこのパルスモータ9によって回転駆動される駆動プーリー10と、駆動プーリー10とはプリンタ本体5の幅方向の反対側に設けられた遊転プーリー11と、駆動プーリー10と遊転プーリー11との間に掛け渡されてキャリッジ4に接続されたタイミングベルト12を有しており、パルスモータ9を駆動することによってキャリッジ4がガイド軸8に沿って主走査方向に往復移動するようになっている。
【0018】
キャッピング装置50は、プリンタ本体5内のホームポジションに配置されている。このホームポジションは、キャリッジ4の移動範囲内のうち記録領域よりも外側の端部領域であって電源オフ時や長時間に亘って記録(液体噴射処理)が行われなかった場合にキャリッジ4が位置する場所に設定されている。
【0019】
図2は記録ヘッド3の構成を説明する断面図、図3は記録ヘッド3の要部断面図である。
記録ヘッド3は、導入針ユニット17、ヘッドケース18、流路ユニット19及びアクチュエータユニット20を主な構成要素としている。
【0020】
導入針ユニット17の上面にはフィルタ21を介在させた状態で2本のインク導入針22が横並びで取り付けられている。これらのインク導入針22には、サブタンク2がそれぞれ装着される。導入針ユニット17の内部には、各インク導入針22に対応したインク導入路23が形成されている。
【0021】
このインク導入路23の上端はフィルタ21を介してインク導入針22に連通し、下端はパッキン24を介してヘッドケース18内部に形成されたケース流路25と連通する。
本実施形態では2種類のインクを使用する構成であるためサブタンク2が2つ配置されているが、3種類以上のインクを使用する構成であっても勿論構わない。
【0022】
サブタンク2は、ポリプロピレン等の樹脂製材料によって成型されている。このサブタンク2には、インク室27となる凹部が形成され、この凹部の開口面に透明な弾性シート26を貼設してインク室27が区画されている。
【0023】
サブタンク2の下部にはインク導入針22が挿入される針接続部28が下方に向けて突設されている。サブタンク2におけるインク室27は断面視で擂り鉢形状になっている。
インク室27の側面のうち上下方向中央部よりも少し下の位置には、針接続部28との間を連通する接続流路29の上流側開口が配置されている。この上流側開口には、インクLを濾過するタンク部フィルタ30が取り付けられている。
【0024】
針接続部28の内部空間にはインク導入針22が液密に嵌入されるシール部材31が嵌め込まれている。このサブタンク2には、インク室27に連通する延出部32が形成されており、この延出部32の上面にはインク流入口33が突設されている(図4参照)。
【0025】
インク流入口33には、インクカートリッジ6に貯留されたインクLを供給するインク供給チューブ34が接続されており、インク供給チューブ34を通ってきたインクLが当該インク流入口33から延出部32を通ってインク室27に流入するようになっている。
【0026】
上記の弾性シート26は、インク室27を収縮させる方向及びインク室27膨張させる方向の両方向に変形可能である。弾性シート26の変形によってインクLの圧力変動が吸収され、インクLがサブタンク2内で圧力変動が吸収された状態で記録ヘッド3側に供給されるようになっている。このようにサブタンク2は圧力ダンパとして機能するようになっている。
【0027】
ヘッドケース18は、合成樹脂製の中空箱体状部材である。ヘッドケース18の下端面には流路ユニット19が接合されており、内部に形成された収容空部37内にアクチュエータユニット20が収容され、流路ユニット19側とは反対側の上端面にパッキン24を介在した状態で導入針ユニット17が取り付けられている。ヘッドケース18の内部には、高さ方向を貫通してケース流路25が設けられている。ケース流路25の上端は、パッキン24を介して導入針ユニット17のインク導入路23と連通されている。
【0028】
ケース流路25の下端は、流路ユニット19内の共通インク室44に連通されており、インク導入針22から導入されたインクLがインク導入路23及びケース流路25を通じて共通インク室44側に供給されるようになっている。
【0029】
ヘッドケース18の収容空部37内に収容されるアクチュエータユニット20は、櫛歯状に配列された複数の圧電振動子38と、この圧電振動子38が接合される固定板39と、プリンタ本体側からの駆動信号を圧電振動子38に供給する配線部材としてのフレキシブルケーブル40とから構成される。各圧電振動子38は固定端部側が固定板39上に接合され自由端部側が固定板39の先端面よりも外側に突出しており、所謂片持ち梁の状態で固定板39上に取り付けられている。
【0030】
各圧電振動子38を支持する固定板39は、例えば厚さ1mm程度のステンレス鋼によって構成されている。アクチュエータユニット20は、収容空部37を区画するケース内壁面に固定板39の背面を接着することで収容空部37内に収納・固定されている。
【0031】
流路ユニット19は、振動板(封止板)41、流路基板42及びノズル基板43を有している。これら振動板41、流路基板42及びノズル基板43が積層された状態になっており、不図示の接着剤で接合され一体化されている。振動板41、流路基板42及びノズル基板43は、共通インク室44からインク供給口45及び圧力室46を通りノズル47に至るまでの一連のインク流路(液体流路)を形成する部材である。圧力室46は、ノズル47の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成されている。共通インク室44は、ケース流路25と連通されており、インク導入針22側からのインクLが導入される室である。共通インク室44に導入されたインクLは、インク供給口45を通じて各圧力室46に分配供給されるようになっている。
【0032】
流路ユニット19の底部に配置されるノズル基板43は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル47を列状に開設した金属製の薄い板材である。本実施形態のノズル基板43は、ステンレス鋼の板材によって作製され、例えばノズル47の列(即ち、ノズル列)が、各サブタンク2に対応して合計22列設けられた状態になっている。1つのノズル列は、例えば、180個のノズル47によって構成されている。このノズル47が配列されているノズル基板43の表面が噴射面43aをなす。
【0033】
ノズル基板43と振動板41との間に配置される流路基板42は、インク流路となる流路部、具体的には、共通インク室44、インク供給口45及び圧力室46となる空部が区画形成された板状の部材である。
【0034】
流路基板42は例えば結晶性を有する基材であるシリコンウェハーを異方性エッチング処理することによって作製されている。振動板41は、ステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工した二重構造の複合板材である。この振動板41の圧力室46に対応する部分には、エッチングなどによって支持板を環状に除去することで、圧電振動子38の先端面が接合される島部48が形成されている。この島部48は、ダイヤフラム部として機能する。振動板41は、圧電振動子38の作動に応じて島部48の周囲の弾性フィルムが弾性変形するように構成されており、流路基板42の一方の開口面を封止し、コンプライアンス部49として機能するようにもなっている。このコンプライアンス部49に相当する部分についてはダイヤフラム部と同様にエッチングなどにより支持板が除去され弾性フィルムだけが残った状態になっている。
【0035】
上記の記録ヘッド3において、フレキシブルケーブル40を通じて駆動信号が圧電振動子38に供給されると、この圧電振動子38が素子長手方向に伸縮し、これに伴い島部48が圧力室46に近接する方向或いは離隔する方向に移動するようになっている。島部48の移動によって圧力室46の容積が変化し、圧力室46内のインクLに圧力変動が生じ、この圧力変動によってノズル47からインク滴Dが吐出されるようになっている。
【0036】
図4は、インクの供給経路を説明するための模式図である。図4に示されるように、インク供給チューブ34は、2つのインクカートリッジ6と記録ヘッド3に接続されたサブタンク2とを接続しており、インクカートリッジ6からインク供給チューブ34に供給されたインクLは、サブタンク2に供給される。
【0037】
インクカートリッジ6は、中空箱形状に形成されたケース部材51と、内部にインクLが貯留されるインクパック(流体貯留部)52とから構成されており、ケース部材51内の収容室にインクパック52を収容している。なお、インクパック52はケース部材51との間に隙間Sを生じるように保持されたものとなっている。
【0038】
このインクカートリッジ6は、インク供給チューブ34の一端部と連通し、ケース部材51には上記隙間Sに連通する開口部51aが形成されており、この開口部51aには搬送チューブ64が接続されている。この搬送チューブ64は、後述するようにキャッピング装置50側から圧送される加圧流体を上記隙間Sに流入させるためのものである。このように隙間Sに加圧流体が流入することで、インクパック52を加圧し内部のインクLを記録ヘッド3側に供給するように構成されている。
【0039】
キャッピング装置50は、記録ヘッド3の噴射面43aに当接するキャップ部材61を有している。このキャップ部材61の底面には開口部61aが設けられており、キャッピング装置50には、この開口部61aに接続される吸引チューブ62を介して吸引ポンプ(吸引機構)P1が接続されたものとなっている。
【0040】
また、吸引チューブ62の他端側(吸引ポンプP1の下流側)は、メンテナンス処理時にキャップ部材61内にノズル47から排出された廃インクを一時的に収容するバッファとしての機能する、廃インクタンク(廃流体収容部)63内に挿通されている。なお、廃インクタンク63は、内部に廃インクが満タンとされるといったことがなく、ほぼ恒久的な使用が可能とされる。
【0041】
廃インクタンク63は、上面に設けられた開口部63aにより大気開放状態とされており、内部雰囲気が大気圧雰囲気とされている。また、廃インクタンク63の下部には、上記インクカートリッジ6との間を接続する搬送チューブ64が設けられている。この搬送チューブ64は、ケース部材51に設けられた開口部51aに接続されている。この開口部51aは、ケース部材51とインクパック52との間に生じている隙間Sに連通している。
【0042】
また、搬送チューブ64には廃インクタンク63内における廃インクを加圧するとともに上記インクカートリッジ6側に加圧流体として送り込む加圧ポンプ(加圧機構)P2が設けられている。ところで、この加圧ポンプP2は廃インクタンク63内に廃インクが少ない、或いは廃インクが存在しない場合、廃インクタンク63内の内部雰囲気(空気)を加圧流体としてインクカートリッジ6側に送り込むことが可能となっている。すなわち、加圧ポンプP2としては、気体及び液体のいずれも搬送することができる気液加圧ポンプが用いられる。すなわち、加圧ポンプP2は廃インクタンク63内における空気(雰囲気)及び廃インクの少なくともいずれかを加圧流体として、インクカートリッジ6側に圧送できる構成であればよい。
【0043】
また、上記搬送チューブ64は、開口部51aを介して上記隙間Sに接続されたものとなっている。この構成により、上記加圧ポンプP2によりインクカートリッジ6側に送り込まれた加圧流体は、搬送チューブ64を介して上記隙間Sに流入する。すると、隙間S内の圧力が高まることで上記インクパック52が押圧されて、インク供給チューブ34を介して記録ヘッド3側にインクを供給することが可能となる。
【0044】
また、搬送チューブ64は、加圧ポンプP2における上流側(廃インクタンク63側)と下流側(インクカートリッジ6側)との間における流路を分岐させる分岐部分65を備えている。この分岐部分65には流路の開閉を可能とする開閉バルブ66が設けられている。この開閉バルブ66は加圧ポンプP2の駆動時には閉じられた状態となる。
また、インクカートリッジ6における加圧流体の流入部には、廃インクの逆流を防止する逆止弁68が設けられている。この構成により、インクカートリッジ6内に送り込まれた廃インクが逆流するのを確実に防止し、加圧ポンプP2を安定して動作させることができ、記録ヘッド3にインクを安定供給できるようになっている。
【0045】
また、搬送チューブ64におけるインクカートリッジ6の近傍には、チューブ内を搬送される加圧流体の圧力あるいはインクカートリッジ6内の圧力を検出可能とする圧力センサ(圧力検出手段)67が設けられている。圧力センサ67及び加圧ポンプP2は、後述する制御装置58を介して電気的に接続されており、加圧ポンプP2は圧力センサ67の検出結果に基づいて上記加圧流体の圧力調整を行うようになっている。この構成により、インクカートリッジ6内に安定した圧力で加圧流体を送り込むことができるので、記録ヘッド3にインクを安定供給することが可能となっている。
【0046】
図5はプリンタ1の電気的な構成を示すブロック図であり、図6は吐出パルスの構成を説明する図である。本実施形態におけるプリンタ1は、プリンタ1全体の動作を制御する制御装置(制御手段)58を備えている。この制御装置58には、プリンタ1の動作に関する各種情報を入力する入力装置59と、プリンタ1の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置57と、時間の計測を実行可能な計測装置56とが接続されている。また、制御装置58には、上述した紙送り機構55、キャリッジ移動機構54、及びキャッピング装置50等が接続される。また、制御装置58は、圧力センサ67、吸引ポンプP1、開閉バルブ66、及び加圧ポンプP2にも電気的に接続されている。
また、プリンタ1は、圧電振動子38に入力する駆動信号を発生する駆動信号発生器62を備えている。この駆動信号発生器62は、制御装置58に接続されている。
【0047】
駆動信号発生器62には、記録ヘッド3の圧電振動子38に入力する吐出パルスの電圧値の変化量を示すデータ、及び吐出パルスの電圧を変化させるタイミングを規定するタイミング信号が入力される。駆動信号発生器62は、入力されたデータ及びタイミング信号に基づいて、例えば、図6に示す吐出パルスDPを含む駆動信号を発生する。
【0048】
また、吐出パルスDPは、図6に示されるように、基準電位VMから最高電位VHまで所定の勾配で電位を上昇させる第1充電要素PE1と、最高電位VHを一定時間維持する第1ホールド要素PE2と、最高電位VHから最低電位VLまで所定の勾配で電位を降下させる放電要素PE3と、最低電位VLを短い時間維持する第2ホールド要素PE4と、最低電位VLから基準電位VMまで電位を復帰させる第2充電要素PE5とを含む。ノズル47から噴射されるインクの滴の量が設計値と一致するように、吐出パルスDPのうち、最高電位VHと最低電位VLとの電位差である駆動電圧VDが設定される。なお、図6に示す吐出パルスDPは一例であり、種々の波形のものを用いることができる。
【0049】
駆動信号発生器62より吐出パルスDPが圧電振動子38に入力されると、ノズル47よりインクの滴が吐出される。第1充電要素PE1が供給されると、圧電振動子38が収縮して圧力室46が膨張する。この圧力室46の膨張状態が短時間維持された後、放電要素PE3が供給されて圧電振動子38が急激に伸長する。これに伴って、圧力室46の容積が基準容積(圧電振動子38に基準電位VEを印加したときの圧力室46の容積)以下に収縮し、ノズル47に露出したメニスカスが外側に向けて急激に加圧される。これにより、所定量のインクの滴がノズル47から吐出される。その後、第2ホールド要素PE4、及び第2充電要素PE5が圧電振動子38に順次供給され、インクの滴の吐出に伴うメニスカスの振動を短時間で収束させるように、圧力室46が基準容積に復帰する。
【0050】
次に、上述したプリンタ1の作用について、特に記録ヘッド3にインクを供給する動作を中心に説明する。
プリンタ1は、上述したように廃インクタンク63内から廃インクを含む加圧流体をインクカートリッジ6内に送り込むことでインクパック52を押圧することで記録ヘッド3にインクを供給可能としている。そこで、以下の説明では、インク供給動作に先んじて、廃インクタンク63内に廃インクを貯留させるメンテナンス処理について述べる。
【0051】
プリンタ1は、所定時間印字処理を行った後、ノズル47の噴射特性を維持すべく、メンテナンス処理が行われる。本説明では、メンテナンス処理として上記キャッピング装置50を用いた吸引動作について説明する。
【0052】
吸引動作時においては、制御装置58はキャッピング装置50におけるキャップ部材61を記録ヘッド3の噴射面43aに当接させる。これにより、噴射面43aとキャップ部材61とで形成される空間を密閉することができる。続いて、制御装置58は吸引ポンプP1を駆動し、噴射面43aとキャップ部材61とで形成される空間を減圧する。これにより、ノズル47内からインクを吸引することができる。ノズル47から吸引されたインクは、廃インクとしてキャップ部材61内に収容され、キャップ部材61の底面に設けられた開口部61aから吸引チューブ62を介して廃インクタンク63内に収容される。ノズル47内から吸引された廃インクは気泡を含む。廃インクタンク63の廃インクは、後述するように加圧ポンプP2によりインクカートリッジ6側に圧送される。すなわち、廃インクタンク63は、廃インクを一時的に収容する機能を有する。
【0053】
なお、上記キャッピング装置50は、記録ヘッド3内にインクを初期充填する場合においても用いられる。この場合、ノズル47内から排出されたインクは廃インクタンク63内に収容される。
【0054】
続いて、インクカートリッジ6から記録ヘッド3側にインクを供給する動作について説明する。
インクカートリッジ6から記録ヘッド3へのインク供給は、プリンタ1のインク噴射時に行われる。このとき、上記キャッピング装置50は、記録ヘッド3の動作を妨げないホームポジションに配置され、記録ヘッド3はインク噴射位置(印字処理位置)に配置される。
【0055】
プリンタ1の動作中においては、制御装置58は、圧力センサ67の検出結果に基づき、インクカートリッジ6内の圧力を検出し、所望の圧力(本実施形態では、例えば15KPa)となるように加圧ポンプP2の駆動条件を制御している。なお、プリンタ1の動作中、制御装置58は開閉バルブ66を閉状態に制御している。
【0056】
加圧ポンプP2の駆動により、廃インクタンク63内から廃インク及び気泡等が加圧流体として搬送チューブ64内を圧送されて、インクカートリッジ6の隙間Sに送り込まれる。これにより、隙間S内の圧力が高まり、インクパック52を押圧状態とすることができる。よって、インク供給チューブ34を介してサブタンク2側に搬送されたインクLは、圧電振動子38の動作によりノズル47からインク滴Dを吐出した際に、サブタンク2内に充填される。よって、サブタンク2内から記録ヘッド3にインクを安定供給することが可能となる。
【0057】
また、プリンタ1は、電源OFF時(非動作時)には加圧ポンプP2の動作が休止される。この時、制御装置58は、開閉バルブ66を開状態としておく。ここで、廃インクタンク63内は、大気開放状態とされている。そのため、インクカートリッジ6内の圧力は、搬送チューブ64を介して廃インクタンク63に流入することで大気圧状態となる。このとき、インクカートリッジ6には、逆止弁68が設けられているため、隙間Sに収容されている加圧流体のうち、廃インクの逆流が防止され、上述のように加圧空気のみを搬送チューブ64内に流入させることができる。
【0058】
そして、再び、プリンタ1を動作させる場合には、制御装置58は、開閉バルブ66を閉状態に制御し、インクカートリッジ6の隙間S内を密閉状態とし、上述のように加圧ポンプP2を動作させる。この加圧ポンプP2の動作により、廃インクタンク63内から吸引された廃インクを含む加圧流体が搬送チューブ64内を圧送されて、隙間S内に送り込まれる。これにより、上述のようにインクパック52を押圧状態とすることができる。
【0059】
ところで、上述したように、プリンタ1はノズル47における印字品位を回復或いは維持すべく、定期的なメンテナンス処理(吸引動作)が行われる。上記キャッピング装置50を用いて吸引動作を行った際には、上述のように廃インクタンク63内に廃インクが回収される。また、上記メンテナンス処理としては、噴射面43aをワイピング部材で払拭するワイピング動作、或いはノズル47内からインクをキャップ部材61内に噴射するフラッシング動作が含まれる。なお、上述の吸引動作時によりノズル47から排出されたインクとともに、上述のフラッシング動作によりキャップ部材61内に排出されているインクを廃インクタンク63内に回収するようにしてもよい。
【0060】
なお、廃インクタンク63内に廃インクが存在しない場合(例えば、長期連続駆動によりタンク内のインクが空となった場合)、加圧ポンプP2は廃インクタンク63内の大気を吸引するとともに加圧する。このとき、廃インクタンク63内は、大気開放状態とされているので、加圧ポンプP2はタンク内から空気を良好に吸引することができる。加圧ポンプP2は、圧力センサ67の検出結果に基づき、タンク内の空気を所望の値まで加圧するとともに搬送チューブ64を介してインクカートリッジ6内に送り込むことができる。よって、加圧空気(加圧流体)によりインクパック52を押圧することができ、インク供給チューブ34を介してサブタンク2にインクLを送り込むことができる。よって、サブタンク2内から記録ヘッド3にインクを安定供給することが可能となる。
【0061】
以上のように、本実施形態に係るプリンタ1によれば、メンテナンス処理時に記録ヘッド3から排出された廃インクを含む加圧流体をインクカートリッジ6内に圧送することにより、記録ヘッド3へのインク供給が可能とされる。これにより、メンテナンス時に排出された廃インクをインクカートリッジ6内に回収することができる。また、廃インクタンク63には、廃インクが一時的に収容されるため、廃インクが充填されることで交換する必要が無い。よって、インクパック52内のインクLが空になってインクカートリッジ6を交換する場合、廃インクを同時に回収できる。よって、従来のプリンタにおいては、カートリッジ交換に加えて必要とされていた廃インクを収容した容器の回収、及び交換といった手間を無くすことができる。よって、ユーザメンテナンスを容易なものとすることができる。また、廃インクを回収するための容器(部材)を別途設ける必要がなくなるので、部品点数を削減することができ、低コスト化を図ることができる。
【0062】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態に係るプリンタにおけるインクの供給経路を説明するための模式図であり、上記実施形態における図4に対応するものである。本実施形態におけるプリンタは、上記実施形態に係るプリンタ1に対し、廃インクタンク63とインクカートリッジ6との間における加熱流体の搬送構造が異なっており、それ以外の構成は同一となっている。したがって、本説明では上記実施形態と同じの部材及び構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明については省略若しくは簡略化する。
【0063】
図7に示されるように、搬送チューブ64は、加圧ポンプP2における上流側(廃インクタンク63側)と下流側(インクカートリッジ6側)との間における流路を分岐させる分岐部分65を備えており、この分岐部分65には流路の開閉を可能とする開閉バルブ66が設けられている。この開閉バルブ66は加圧ポンプP2の駆動時には閉じられた状態となる。また、本実施形態においては、上記分岐部分65は、開閉バルブ66と並列に設けられた圧力調整弁(圧力調整機構)69を含む。この圧力調整弁69は、上記インクカートリッジ6内の圧力を後述するように機械的に調整可能とするものである。
【0064】
圧力調整弁69は加圧ポンプP2により加圧された加圧流体の圧力が所定値(例えば、15KPa)を超えた場合に、圧力を逃がすことでインクカートリッジ6の隙間S内に所定の加圧流体を流入させることを可能としている。
【0065】
すなわち、本実施形態に係るプリンタによれば、上述した実施形態と異なり、搬送チューブ64の途中に圧力センサ67を設ける必要が無くなる。また、上述したように圧力調整弁69を備えることで、加圧流体の圧力が調整可能となるので、上記加圧ポンプP2を常時駆動状態とすることができる。よって、制御装置58は加圧ポンプP2の駆動制御を行う必要がなくなるので、プリンタにおける制御系の構成を簡便化することができる。
【0066】
なお、上記実施形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形が可能である。
【0067】
例えば、上記実施形態においては、2つのインクカートリッジ6内の隙間Sに廃インクを含む加圧流体を送り込むことでインクパック52を押圧することで、記録ヘッド3側にインク供給を行う場合について説明したが、本発明これに限定されない。
予め使用されるインク容量に応じてインクパックの大きさが大きい場合(例えば、黒インクのカートリッジが他の色のカートリッジに比べて大きい場合等)には、大型インクカートリッジ内のみに廃インクを供給するとともに、他のインクカートリッジには従来同様に他の加圧機構(加圧ポンプ等)によりインクパックに加圧力を付与する構成とすることもできる。
【0068】
また、上記実施形態では、流体噴射装置として、インクジェット式プリンタ(記録装置)に具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の流体(機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルのような流状体)を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に具体化することもできる。
例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置であってもよい。
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】プリンタの概略構成を示す一部分解図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する断面図である。
【図3】記録ヘッドの要部断面図である。
【図4】インクの供給経路を説明するための模式図である。
【図5】プリンタの電気的な構成を示すブロック図である。
【図6】吐出パルスの構成を説明する図である。
【図7】第2の実施形態に係るインクの供給経路を説明する図である。
【符号の説明】
【0070】
1…プリンタ(流体噴射装置)、3…記録ヘッド(噴射ヘッド)、6…インクパック(流体供給部材)、14…キャッピング装置、47…ノズル、51…ケース部材、52…インクパック(流体貯留部)、63…廃インクタンク(廃流体収容部)、68…逆止弁、69…圧力調整弁(圧力調整機構)、P1…吸引ポンプ(吸引機構)、P2…加圧ポンプ(加圧機構)、S…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射する複数のノズルを有する噴射ヘッドと、
該噴射ヘッドに供給される前記流体を貯留する流体貯留部を含む流体供給部材と、
前記噴射ヘッドに当接するとともに前記ノズルに対するメンテナンス処理を行うキャッピング装置と、
前記メンテナンス処理時に吸引動作により前記ノズルから前記流体を排出させる吸引機構と、
前記メンテナンス処理時に前記ノズルから排出された廃流体を一時的に収容する廃流体収容部と、
該廃流体収容部内から前記廃流体及び雰囲気の少なくとも一方を加圧した加圧流体を前記流体供給部材に送り込むことで前記流体貯留部を押圧して前記流体を前記噴射ヘッド側に供給させる加圧機構と、
を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記流体供給部材は、前記流体貯留部との間に隙間を生じさせるように当該流体貯留部を収容するケース部材を有し、前記隙間に前記加圧流体を送り込むことを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記廃流体収容部は、内部が大気圧雰囲気とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記流体供給部材における前記加圧流体の流入部に、前記廃流体の逆流を防止する逆止弁を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記流体供給部材に送り込まれる前記加圧流体の圧力を検出する圧力検出手段を有し、前記加圧機構は前記圧力検出手段の検出結果に基づいて圧力調整を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記流体供給部材と前記廃流体収容部との間を接続する搬送経路に、前記流体供給部材内の圧力を機械的に調節可能とする圧力調整機構が設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項7】
前記流体供給部材を複数有する場合、前記加圧機構により加圧した前記加圧流体を複数に分岐させた後、前記各流体供給部材に送り込むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−226721(P2009−226721A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74420(P2008−74420)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】