説明

流動層反応装置および気相法炭素繊維の製造方法

【課題】分散板を用いることが不要となるか、または分散板を加熱領域外の低温部に設置することが可能となり、従来は長期連続運転の妨げとなっていた分散板の目詰まりや劣化をなくすことができる流動層反応装置を提供する。また、安価に大量の気相法炭素繊維を得ることができる気相法炭素繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】粒子がガスとともに流動して接触反応し、固体状生成物を生成する流動部と、実質的に流動しない非流動部とを有し、前記流動部が加熱領域内にあり、前記非流動部の支持部が加熱領域外にある流動層反応装置および該装置を用いた気相法炭素繊維の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応に用いられる流動層反応装置に関し、詳しくは、分散板の目詰まりや劣化による運転停止がなく連続的に運転可能な流動層反応装置に関する。また、本発明は該流動層反応装置を用いた気相法炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に気体と固体、または液体と固体の反応操作、あるいは物理操作を行う装置には、大別して、回分式反応装置、固定層型反応装置、回転炉を含む移動層反応装置、気流層反応装置、流動層反応装置などが挙げられる。これらの反応装置はその反応原料や反応形態によって種々選定される。特に、ガス状の原料から固体状の触媒を用いて生成物を得る場合には、原料と触媒の接触効率が高く、完全混合流れを実現できる流動層反応装置が適している。
【0003】
一般的な流動層反応装置の一例を図3に示す。流動層反応装置30は、反応器31とヒーター32からなる。反応器31の下方には、上昇するガスを分散させる分散板33が設けられている。この分散板33上には触媒粒子及び反応生成物が流動する流動部34が設けられている。
原料のガスは配管35を通じて反応器31の下部から上部へと流れる。流動部34を構成する触媒粒子は、ヒーター32によって形成される加熱領域内に設置された分散板33に保持されながら、原料ガスの流れによって流動状態とされる。加熱領域内での原料ガスと触媒粒子との接触によって固体状の生成物が生成する場合、生成物は触媒粒子と混合状態で流動化するか、ガス流に同伴されて系外へと排出される。系内に滞留した生成物はなんらかの排出手段で、所定時間終了後、あるいは連続的に反応系内から排出される。
【0004】
ここで、一般的に固体(触媒粒子)のガス中での挙動は、ガス線速度、ガスの密度、粘性、固体の密度および粒径などによって決定される。例えば、流動化開始速度をUfm、終端速度をUcとすると、実際のガス線速度(u)がUfm<u<Ucであれば固体はガス中で流動する。u<Ufmでは流動しない。また、u>Ucの時は、固体はガス流に同伴されて系外へ排出される。したがって、流動層反応装置においては、Ufm<u<Ucとなるように、ガス流速や固体粒子径などを調整することになる。
【0005】
このような流動層反応装置としては、古くは、石油気相流動接触分解法や、低オクタン価ナフサを改質する流動層式ハイドロフォーミング法や重質油から軽質油を得る流動コーキング法、ナフサの流動熱分解によるエチレンとプロピレンの製造などの石油化学工業における種々の反応に応用されている。
【0006】
さらに、流動層燃焼ボイラー、廃棄物焼却炉としての流動層焼却炉、流動層を用いた触媒反応炉として、アクリロニトリル、無水マレイン酸、オレフィンの気相重合などに加え、近年では、流動層反応装置を利用したカーボンナノチューブの合成に関する研究例も多い。
【0007】
特許文献1には、有機物質のガス化装置として、装置の一部にテーパー部を設けることにより、触媒成分をそのテーパー部で滞留させながら、固体残渣を底部に滞留させて生成ガスを回収する方法が開示されている。また、特許文献2には、カーボンナノチューブなどの合成に流動層反応装置を用いることが開示されている。
【特許文献1】特開2006−334535号公報
【特許文献2】特開2008−56523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のようにしてガス状の生成物を得る場合には、固体状物質の生成が顕著でないため、分散板の目詰まりなどの問題は顕著ではなかった。生成物が固体の場合には、流動状態を保ちながら生成物を効率よく回収するために様々な工夫がなされてきた。しかしながら、分散板の目詰まりや分散板の劣化の為、長期間の連続運転が困難であり、定期的に反応炉を停止して分散板を交換する必要があり、効率的ではなかった。特に、高温での反応が必要であったり、反応ガスに対する腐食性、反応性などのために、耐久性のある分散板材質の選定が困難であったりといった場合がある。このような場合には、比較的耐久性に優れた分散板を使用しても、定期的交換を余儀なくされていた。
【0009】
特許文献2の実施例においては分散板として石英焼結板を使用しているが、長期の使用により石英焼結板も閉塞しやすいことが知られている。また、産業的に利用するためにスケールアップした場合、石英焼結板は大型化が困難なため金属材料を使用せざるを得なくなる。カーボンナノチューブの合成において、分散板に金属材料を用いるとその触媒作用で金属材料表面にカーボンナノチューブが生成し、分散板の目詰まりが顕著となるため、連続運転が困難で未だ実用化には至っていない。
【0010】
本発明は、上記の実情を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、分散板を用いることが不要となるか、または分散板を加熱領域外の低温部に設置することが可能となり、従来は長期連続運転の妨げとなっていた分散板の目詰まりや劣化をなくすことができる流動層反応装置を提供することにある。また、本発明は、該製造装置を気相法炭素繊維の製造に用いることで、安価に大量の気相法炭素繊維を得ることができる気相法炭素繊維の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、反応温度に加熱された加熱領域を、反応時に充填材料が流動状態で存在する領域(流動部)と、充填材料が実質的に流動しない領域(非流動部)とに分け、非流動部の支持部を加熱領域外に設けることで、分散板が不要になるか、または分散板を使用した場合でも従来のような目詰まりや劣化によって反応を停止させる必要がなくなり、長時間の連続反応が可能となることを見出し、本発明に想到した。
【0012】
すなわち、本発明は下記を含む。
[1]粒子がガスとともに流動して接触反応し、固体状生成物を生成する流動部と、実質的に流動しない非流動部とを有し、前記流動部が加熱領域内にあり、前記非流動部の支持部が加熱領域外にある流動層反応装置である。
[2]前記非流動部の支持部が分散板である[1]に記載の流動層反応装置である。
[3]前記非流動部が前記固体状生成物を含む[1]または[2]に記載の流動層反応装置である。
[4]前記加熱領域外から前記加熱領域内に至る温度差でガス線速度が増加することで前記加熱領域内に非流動部と流動部とが形成されてなる[1]〜[3]のいずれかに記載の流動層反応装置である。
[5]前記流動部の反応器の最大断面積が前記加熱領域内の前記非流動部の反応器の最小断面積以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の流動層反応装置である。
[6]前記非流動部の反応器の径が流動部へ向かって連続的に、または断続的に減少する[1]〜[4]のいずれかに記載の流動層反応装置である。
[7]生成物回収機構を有する[1]〜[6]のいずれかに記載の流動層反応装置である。
[8]触媒投入機構を有する[1]〜[7]のいずれかに記載の流動層反応装置である。
【0013】
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の流動層反応装置において、前記粒子と前記ガスとを前記流動部で接触させる気相法炭素繊維の製造方法である。
[10]前記加熱領域の温度が400〜1300℃である[9]に記載の気相法炭素繊維の製造方法である。
[11]前記粒子がFe元素を含有する触媒であり、前記流動部に気相法炭素繊維を含む[9]または[10]に記載の気相法炭素繊維の製造方法である。
[12]前記加熱領域外から前記加熱領域内に至る温度差でガス線速度を増加させ前記加熱領域内に非流動部と流動部とを形成させる[9]〜[11]のいずれかに記載の気相法炭素繊維の製造方法である。
[13]前記流動部の反応器の最大断面積を、前記加熱領域内の前記非流動部の反応器の最小断面積以下とすることで、ガス線速度を変化させ前記非流動部と前記流動部とを形成させる[9]〜[11]のいずれかに記載の気相法炭素繊維の製造方法である。
[14]バッチ反応で所定時間反応させた後、前記流動部から気相法炭素繊維を回収する[9]〜[13]のいずれかに記載の気相法炭素繊維の製造方法である。
[15]前記粒子を連続的または断続的に投入しながら、前記流動部から気相法炭素繊維を連続的または断続的に回収する[9]〜[14]のいずれかに記載の気相法炭素繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の流動層反応装置によれば、分散板を用いることが不要となるか、または分散板を加熱領域外の低温部に設置することが可能となり、従来は長期連続運転の妨げとなっていた分散板の目詰まりや劣化をなくすことができる。また、本発明の気相法炭素繊維の製造方法によれば、安価に大量の気相法炭素繊維を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[流動層反応装置]
図1に本発明の流動層反応装置の好ましい態様の一例を示す。
流動層反応装置10は、反応器11と反応器11の外周部に設けられたヒーター12とからなる。ヒーター12による加熱処理により、反応器11に加熱領域(ヒーター12のような加熱部が設けられている領域)が形成される。反応器11内には、反応時に非流動部13と流動部14とが形成される。非流動部13を構成する充填材料は、配管15を通じて下方から上方へ供給されるガスによっては、実質的には流動しない、すなわち、全く流動しないか振動する程度で固定化されている。また、流動部14は粒子などで構成されており、供給されるガスにより流動し、原料ガスとの接触反応を通して固体状生成物を生成する。
【0016】
図1に示すように、流動部14は加熱領域内にあり、非流動部13の支持部(下端部)は加熱領域外にある。かかる構成によれば、非流動部13の支持部は加熱領域外にあるので、従来のように分散板を加熱領域内に設けるよりも、受ける熱の影響をはるかに小さくすることができる。その結果、従来は長期連続運転の妨げとなっていた分散板の目詰まりや劣化をなくすことができる。
【0017】
非流動部13が供給されるガスにより実質的に流動しないようにするには、充填材料の密度や粒子径などを適宜調整する。充填材料が粒子状物質の場合、当該粒子状物質は固体状生成物(反応生成物)を含むのがコンタミネーション抑制の観点から最も好ましい。また、非流動部の充填材料はその材料間の空隙が小さい方が、ガス流の乱れなどによって、流動部が非流動部に混入しにくいので好ましい。したがって、非流動部の充填材料は流動部の粒子と同程度の大きさであることが好ましく、少なくともその一部が同一であることがさらに好ましい。
なお、該粒子状物質が触媒粒子を含むと、非流動部で反応が進行するため好ましくない。
【0018】
非流動部13は、図1に示すように加熱領域外まで存在している。非流動部13の支持部は一般の流動層反応装置で用いられるようなあらゆる種類の分散板16で保持することが可能である。分散板としては、例えば所定の孔が形成されガスを分散させるガス分散板などが挙げられる。分散板を加熱領域の外側に設置することで、熱による劣化や副反応、反応生成物による閉塞などの弊害を受けることなく、連続運転が可能となる。
【0019】
非流動部13の支持部を保持する方法については、上述の分散板を用いる以外にも、その重量を保持できる構造であれば特に限定されない。単純な底板であってもよく、例えば、テーブルフィーダーやスクリューフィーダーなどの排出装置で保持することも可能である。この場合には、原料ガスなどは反応器11の非流動部13の側面などから、ノズルなどを設置して吹き込むことが好ましい。
【0020】
流動部14が供給されるガスにより流動されるようにするには、流動化されるような密度、粒子径の粒子を充填する。該粒子の少なくとも1種は触媒粒子であることが好ましく、他の1種は固体状生成物からなる粒子であることがさらに好ましく、触媒粒子と固体状生成物からなる粒子のみで構成されるのが最も好ましい。
【0021】
非流動部13と流動部14とを設ける方法については特に限定されない。非流動部13のガス線速度を非流動部13の充填材料の流動化開始速度以下とし、流動部14のガス線速度を流動部14の粒子の流動化開始速度以上、終端速度以下とすればよい。このような非流動部13と流動部14を設ける好ましい例を下記(1)〜(4)に挙げる。
【0022】
(1)第1の例
第1の例は、加熱領域の温度分布を利用する方法である。反応器の下方より導入された原料ガスは、加熱領域を通過することにより温度が上昇し、反応温度に到達する。その際、ガスの体積が膨張するため、ガス流速は温度上昇に伴って増加する。したがって、適切な密度と粒子径の充填材料(例えば、粉粒体)を反応器内に充填しておくと、加熱帯域のある領域から流動化を開始し、流動部と非流動部を形成させることができる。反応温度にあわせて、ガス流速、粉粒体の密度、粒子径を選定することによって、流動部と非流動部を所望の位置に設置することが可能となる。反応に供する原料ガスは予熱することが多いが、この場合はむしろ、予熱などの処理は行なわないで、反応器入り口温度と流動部の温度とでガス温度差が大きいほうが、ガス線速度差が大きくなるので好ましい場合もある。
【0023】
(2)第2の例
第2の例は、流動部の反応器(流動部が形成される箇所)の最大断面積が加熱領域内の非流動部の反応器(非流動部が形成される箇所)の最小断面積以下としてガス流速を調整する方法が挙げられる。これにより、流動部の断面積が非流動部の断面積以下となる。そして、ガス流速が流動部で大きくなるため、非流動部では流動化開始速度以下のガス線速度となるように非流動部の径を決定し、流動部14の径は、流動化開始速度以上終端速度以下となるように決定すればよい。したがって、非流動部では反応器径は大きく、加熱領域の流動部から小さくなるような構造とすることが好ましい。
【0024】
上記構造としては、例えば、図1に示すように非流動部の反応器の断面積が流動部へ向かって連続的に減少するような形状(テーパ状)としてもよく、また、反応器の断面積が断続的に減少するような階段形状としてよい。断続的に減少するような階段形状とは、図2に示すように、非流動部23と流動部24との境界に段差がある形状をいう。
前述の第1の例では、ガス流速、粉粒体の選定などの制約が大きくなるので、第2の例のほうがより好ましい。
【0025】
(3)第3の例
第3の例は、非流動部と流動部に充填する粉粒体の密度、粒子径を変えることで、ガス線速度は一定であっても、非流動部の流動化開始速度を流動部の流動化開始速度より大きくすることで、非流動部と流動部を形成するものである。
【0026】
なお、非流動部および流動部へ充填する粉粒体が固体状生成物でない場合には、製品(固体状生成物)へ粉粒体が混入する可能性がある。したがって、固体状生成物を造粒、圧密するなどして、その粒子径や密度を調整して非流動部および流動部のそれぞれに充填する粉粒体として使用するのが好ましい。
【0027】
(4)第4の例
第4の例は、非流動部下部より、非流動部の流動化開始速度以下の線速度で原料ガスあるいは、流動化ガスを導入し、流動部でさらに流動化開始速度以上になるように反応ガスあるいは流動化ガスを、ノズルなどを介して導入するものである。当該例では、ガス導入部付近でガスの流れが乱れ、流動部と非流動部の境界が乱れることがあるが、そのような場合は、流動化ガスの流速を調整したり、ガス導入部の位置や数を調整したりすればよい。
【0028】
本発明の流動層反応装置は、流動部と非流動部を有し、非流動部の支持部が加熱領域外にある構成であれば、一般の流動層反応装置で用いられる様々な要素技術を用いることは当然可能である。そのような技術の一例としては、反応器上部にフリーボード部やサイクロンを設置することで、微粒部分を再循環させたりすることも当然可能である。
また、バッチ反応で所定時間反応させた後、流動部から固体状生成物(気相法炭素繊維など)を回収する生成物回収機構や、反応器内に断続的あるいは連続的に触媒を供給する触媒投入機構を設けてもよい。
【0029】
本発明の流動層反応装置では、図1および図2に示すように、原料ガスは反応装置の下部から上部へ流通させるのが好ましい。上述のように、原料ガスの一部または全部を流動部へ導入することも当然可能である。反応の原料が固体または液体である場合には、あらかじめ、気化させるなどしてガス化させてから、原料ガスとして使用することが好ましい。
【0030】
本発明の流動層反応装置では、上記の原料ガスに加えて、ガス線速度を調整するために流動化ガスを併用することが可能である。流動化ガスとしては、反応に悪影響を与えなければ特に限定されず、あらゆる種類のガスが使用可能である。
【0031】
また、本発明の流動層反応装置は、流動部において流動状態で反応を行うものであれば、いかなる反応にも適用可能である。
但し、生成物がガス状物質の場合など、固体の生成が少ない場合には本発明を用いなくとも分散板の目詰まりなどの問題が発生しにくい。従って、反応生成物が固体であるのが好ましく、気相法炭素繊維の製造に用いることがより好ましい。
【0032】
[気相法炭素繊維の製造方法]
本発明の気相法炭素繊維の製造方法は、既述の本発明の流動層反応装置において、粒子とガスとを流動部で接触させるものである。本発明においても流動層反応装置内の加熱領域外から加熱領域内に至る温度差でガス線速度を増加(変化)させ加熱領域内に非流動部と流動部とが形成させることが好ましい。これら非流動部および流動部の形成方法は、既述の第1〜第4の例を適用することができる。また、粒子とガスとの接触は、加熱領域の温度を400〜1300℃とし、気相法炭素繊維形成条件下で行うことが好ましい。さらに、非流動部の支持部の温度は、支持部に用いる分散板などと原料ガスの反応や劣化が生じなければ特に限定されない。好ましい温度範囲は用いる分散板の材質、形状や、原料ガスの種類濃度などによって異なるため、一概には決められないが、通常は300℃以下で、好ましくは200℃以下、さらに好ましく100℃以下である。
【0033】
非流動部のガス線速度は0.1m/sec以下が好ましく、0.05m/sec以下がより好ましく、0.02m/sec以下がさらに好ましい。また、流動部のガス線速度は0.05m/sec以上が好ましく、0.10m/sec以上がより好ましく、0.15m/sec以上がさらに好ましい。
【0034】
ここで、反応生成物の流動化範囲(流動化開始速度〜終端速度)は、触媒の流動化範囲と少なくともその一部が同一であることが好ましい。反応生成物の終端速度が触媒の終端速度よりも小さいと反応中に生成した生成物が連続的に排出させることができるのでより好ましい場合もあるが、これにより、充分な滞留時間が取れない場合もあるので、この場合には、反応生成物の終端速度は触媒の終端速度と同等であることが好ましい。
【0035】
上記粒子はFe元素を含有する触媒であることが好ましく、また、流動部には気相法炭素繊維を含むことが好ましい。
【0036】
上記触媒としては、気相法炭素繊維の生成を促進するものであれば、特に制約はないが、一般的にはFe,Co,Niなどの遷移金属元素を含むことが好ましく、Fe元素を含有することがより好ましい。さらに、担体に上記金属を担持した担持触媒であることが好ましい。
また、他の遷移金属元素を助触媒として含有していることが好ましい。このような助触媒元素としては、Mo,W,Cr,V,Mn,Tiなどが好ましく、MoとV、MoとCr,WとV、WとCrなど2種以上の組み合わせがさらに好ましい。
【0037】
これらの触媒は、その前駆体粒子や、金属、合金粒子として使用することも可能であるが、担体に担持するのが好ましい。触媒担体としては、公知のあらゆる化合物が使用可能であるが、反応条件下で安定な無機物が好ましい。このような好ましい無機担体としては、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカチタニア、マグネシア、スピネルなどが挙げられる。
【0038】
触媒粒子および担持触媒粒子は反応条件下で、流動状態にあることが望ましいため、その粒子径は1〜1000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましい。触媒粒子および担持触媒粒子の粒子径は、触媒調整条件や触媒調整に使用する触媒前駆体化合物や触媒担体を適切に調整することで、好ましい範囲に調整することも可能であるが、触媒調製後に、粉砕、解砕、分級処理をすることで、所望の粒度範囲に調整するのが特に好ましい。
【0039】
原料としての上記ガスは、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、ベンゼン、トルエンなど気相法炭素繊維の合成に使用することができるあらゆる炭素化合物が使用可能で、これらをキャリアガスなどで希釈したものを反応ガスとして使用することが可能である。
【0040】
非流動部には、充填材料として気相法炭素繊維自身を使用することが好ましい。流動部は担持触媒だけで構成することも可能であるが、気相法炭素繊維の合成においては、合成時の体積膨張が大きいため、流動部にも気相法炭素繊維を含有しているほうが、体積膨張を緩和でき、反応炉の閉塞などを生じにくいので好ましい。
【0041】
担持触媒はあらかじめ、流動部に充填する気相法炭素繊維と同時に反応器内に充填することも可能であるが、反応装置に触媒投入機構を設置し、断続的あるいは連続的に触媒を供給することも可能である。
【0042】
固体状生成物(気相法炭素繊維など)は所定の反応時間経過後に回収することが可能である。この場合には、流動部のみを回収してもいいし、流動部と非流動部を同時に回収することも可能である。反応中のガス流の乱れなどにより、流動部が非流動部に混合される場合もあるので、非流動部の一部も含めて回収するのがより好ましい。
【0043】
また、生成物を反応中に連続的に回収することも可能である。この場合には、反応の進行により体積が膨張するので、反応器内の粉体高さを一定になる様に固体状生成物を連続的に回収するのがより好ましい。
【0044】
本発明の製造方法により得られる気相法炭素繊維は、粒子(例えば、触媒)とガス(例えば、原料ガス)の接触が効率よく行われるため、単位触媒あたりの気相法炭素繊維(例えば、カーボンナノチューブ)の生成量が多い。さらに、気相法炭素繊維を流動部および非流動部に充填する粉粒体として使用することで、コンタミネーションが抑制されるため、高純度の気相法炭素繊維が得られやすいという特徴を有する。本発明において得られる気相法炭素繊維中の金属不純物量は、通常10重量%以下で、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下、最も好ましくは1.5重量%以下である。
【実施例】
【0045】
以下に本発明について代表的な例を示し、さらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
【0046】
(担持触媒の調製)
硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬製特級試薬)1.8質量部をメタノール1.5質量部に溶解した。次いで、メタバナジン酸アンモニウム(関東化学製特級試薬)0.05質量部、七モリブデン酸アンモニウム(和光純薬工業製特級試薬)0.075質量部を溶解し触媒調製液を得た。市販のガンマアルミナ(住友化学製AKP−G015)1質量部に触媒調製液を滴下混練し、ペースト状の混合物を得た。ペースト状の混合物は100℃の真空乾燥機で4時間乾燥させた後、乳鉢で粉砕後45μm〜250μmに分級し触媒を調製した。
【0047】
(比較例1)
図4に示した流動層反応装置を用い、下記のようにして気相法炭素繊維を製造した。
まず、反応器41としては30mmφの石英製反応管(長さ110cm)を用い、分散板43としてステンレス製の325メッシュの網を、ヒーター42としての電気炉(高さ40cm)の中心部に位置するように反応管内に設置した。反応管のうち電気炉の加熱部で覆われた箇所が加熱により加熱領域を形成する(実施例1も同様)。分散板43上には気相法炭素繊維10gと触媒0.5gを充填し流動部44を設けた。
【0048】
この状態で、マスフローコントローラ45aで1500ml/minに調整した窒素ガスを流しながら、電気炉を690℃まで昇温させた。その後、窒素ガスの供給を止めて、マスフローコントローラ45bおよび45cで、それぞれ900ml/minに調整したエチレンガスおよび水素ガスを流通させて60分間反応を行った。反応中は良好な流動状態を示した。その時の流動部高さは20cmであった。反応終了後、反応ガスを窒素ガス1500ml/minに切り替え、反応炉を冷却し、気相法炭素繊維を回収した。気相法炭素繊維の回収量は22gであった。
回収した気相法炭素繊維の金属不純物量を下記のようにして測定したところ、1.8質量%であった。また、反応後の分散板上には気相法炭素繊維が大量に付着していた。分散板を取り出し、手でたわませたところ、簡単に破損したことから、比較例1は長期連続運転には向かないことがわかった。
【0049】
なお、上記不純物量は、CCD多元素同時型ICP発光分光分析装置(VARIAN社製:VISTA−PRO)を用い、高周波出力1200W、測定時間5秒間で行った。詳細には、気相法炭素繊維0.1gを石英製ビーカーに精秤し、硫硝酸分解を行った。冷却後50mlに定容した。この溶液を適宜希釈し、ICP−AES(Atomic Emission Spectrometer)にて各元素の定量を行った。
【0050】
(実施例1)
図2に示した流動層反応装置を用い、下記のようにして気相法炭素繊維を製造した。
まず、反応器21として直径30mmφの石英反応管(長さ40cm)と直径50mmφの石英製反応管(長さ70cm)とを接合したものを用いた。直径50mmφの石英製反応管側を非流動部23とし、直径30mmφの石英反応管側を流動部24とし、非流動部と流動部の境界をヒーター22(高さ40cm)の中心部分に設置し、ヒーター22の下端から15cmの部分に分散板26として、ステンレス製の325メッシュの網を設置した。非流動部には、比較例1で作製した気相法炭素繊維100gを充填し、流動部には同気相法炭素繊維2.5gと担持触媒0.5gを充填した。
【0051】
この状態で、マスフローコントローラ25aで1500ml/minに調整した窒素ガスを流しながら、電気炉を690℃まで昇温させた。その後、窒素ガスの供給を止めて、マスフローコントローラ25bおよび25cで、それぞれ900ml/minに調整したエチレンガスおよび水素ガスを流通させて、反応を行った。なお、分散板26部分の温度は約45℃であった。
【0052】
非流動部では粉体の流動は確認されなかったが、流動部では気相法炭素繊維と触媒が激しく流動していた。そのまま60分間反応を行なったところ、流動部の高さは約20cmで、非流動部との境目から激しく流動していた。反応後、反応ガスを窒素ガス1500ml/minに切り替え反応炉を冷却し、気相法炭素繊維を回収した。回収された気相法炭素繊維は120gであった。回収した気相法炭素繊維の金属不純物量を比較例1と同様にして測定し、初期に導入した気相法炭素繊維中の不純物量から本反応で生成した気相法炭素繊維の金属不純物量を算出したところ合計1.2質量%であった。
反応後の分散板上に気相法炭素繊維の付着はなく、手でたわませても破損することはなく、長期連続運転が可能であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の流動層反応装置の一態様を示す概略構成図である。
【図2】本発明の流動層反応装置の一態様を示す概略構成図である。
【図3】従来の流動層反応装置の一態様を示す概略構成図である。
【図4】比較例で用いた流動層反応装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0054】
10,20・・・流動層反応装置
11,21・・・反応器
12,22・・・ヒーター
13,23・・・非流動部
14,24・・・流動部
15,25・・・配管
16,26・・・支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子がガスとともに流動して接触反応し、固体状生成物を生成する流動部と、実質的に流動しない非流動部とを有し、
前記流動部が加熱領域内にあり、前記非流動部の支持部が加熱領域外にある流動層反応装置。
【請求項2】
前記非流動部の支持部が分散板である請求項1に記載の流動層反応装置。
【請求項3】
前記非流動部が前記固体状生成物を含む請求項1または2に記載の流動層反応装置。
【請求項4】
前記加熱領域外から前記加熱領域内に至る温度差でガス線速度が増加することで前記加熱領域内に非流動部と流動部とが形成されてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の流動層反応装置。
【請求項5】
前記流動部の反応器の最大断面積が前記加熱領域内の前記非流動部の反応器の最小断面積以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の流動層反応装置。
【請求項6】
前記非流動部の反応器の径が流動部へ向かって連続的に、または断続的に減少する請求項1〜4のいずれか1項に記載の流動層反応装置。
【請求項7】
生成物回収機構を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の流動層反応装置。
【請求項8】
触媒投入機構を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の流動層反応装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の流動層反応装置中で、前記粒子と前記ガスとを前記流動部で接触させる気相法炭素繊維の製造方法。
【請求項10】
前記加熱領域の温度が400〜1300℃である請求項9に記載の気相法炭素繊維の製造方法。
【請求項11】
前記粒子がFe元素を含有する触媒であり、前記流動部に気相法炭素繊維を含む請求項9または10に記載の気相法炭素繊維の製造方法。
【請求項12】
前記加熱領域外から前記加熱領域内に至る温度差でガス線速度を増加させ前記加熱領域内に非流動部と流動部とを形成させる請求項9〜11のいずれか1項に記載の気相法炭素繊維の製造方法。
【請求項13】
前記流動部の反応器の最大断面積を、前記加熱領域内の前記非流動部の反応器の最小断面積以下とすることで、ガス線速度を変化させ前記非流動部と前記流動部とを形成させる請求項9〜11のいずれか1項に記載の気相法炭素繊維の製造方法。
【請求項14】
バッチ反応で所定時間反応させた後、前記流動部から気相法炭素繊維を回収する請求項9〜13のいずれか1項に記載の気相法炭素繊維の製造方法。
【請求項15】
前記粒子を連続的または断続的に投入しながら、前記流動部から気相法炭素繊維を連続的または断続的に回収する請求項9〜14のいずれか1項に記載の気相法炭素繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−12422(P2010−12422A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175316(P2008−175316)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】