説明

流量制御弁

【課題】 作動油中の異物が噛み込んでスプール弁が移動しなくなるのを抑制する。
【解決手段】 オイルポンプ10に設けられた弁収容孔17と、該弁収容孔17に移動可能に収容され有底円筒形状の弁体18と、オイルポンプ10の吐出油路に設けられた可変オリフィス14と、該可変オリフィス14の下流側圧力を弁収容孔17の左側に供給する圧力供給孔19と、オリフィス14の上流側圧力を弁収容孔17の右側に供給する圧力供給孔と、弁体18を右側へ付勢するばね20と、弁収容孔17に開口し、弁収容孔17内の高圧の作動油を低圧側へ排出するドレン油路21と、筒状部18aの径方向に内外を連通させる連通孔23とで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流量制御弁に関し、とりわけ作動油の中に混入していたコンタミ等の異物が噛み込んでスプール弁が移動できない状態になるのを抑制し得る流量制御弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載されるパワーステアリング装置やその他の液圧機器は、エンジンを駆動源とするオイルポンプにより作動油が供給される。この場合、車両の運転状況によってエンジンの回転速度は大きく変動するため、オイルポンプによる作動油の供給量も大きく変動する。そのため、オイルポンプと液圧機器との間には、作動油の供給量を一定に制御する流量制御弁が設けられる。
【0003】
従来の流量制御弁としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。これは、オイルポンプと液圧機器との間にオリフィスを設けてオリフィスとオイルポンプとを繋ぐ導入ポートを設ける一方、該導入ポートを弁孔に設けたスプール弁体の一方側に連通させ、他方側にはスプール弁体を押圧するスプリングを設け、スプール弁体の一方側の圧力が上昇しスプリングの付勢力に抗してスプール弁体が他方側へ押し戻された場合に、スプール弁体の一方側の作動油をドレンに戻すドレンポートを弁孔の内周面に開口させたものである。
【0004】
スプール弁体の一方側の圧力が大きくなってオリフィスを通過する作動油の量が多くなると、スプール弁体をスプリングの付勢力に抗して押し戻す力も大きくなり、スプール弁体が押し戻される移動量が大きくなると、これに伴ってドレンポートの開口する面積が増加してドレンに戻る作動油の量も増える。従って、オリフィスを通過して液圧機器へ供給される作動油の量の増加が抑制される。
【特許文献1】特開2003−26014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、作動油の中に混入していたコンタミ等の異物が弁孔とスプール弁との間に噛み込んだ場合には、スプール弁が移動できない状態が生じ、液圧機器へ供給される作動油の量が制御できなくなる。
【0006】
そこで本発明は、上記の課題を解決し、異物の噛み込みを抑制した流量制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、弁収容孔と、該弁収容孔に移動可能に収容され、筒状部と該筒状部の軸方向一方側に設けられた底部とを有する弁体と、前記弁収容孔の他方側へ高圧の作動油を供給する圧力供給部と、前記弁収容孔に開口し、前記弁収容孔内の高圧の作動油を低圧側へ排出するドレン油路と、前記弁体の前記筒状部の径方向内側と外側とを連通させる連通孔とを有することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、従来は弁収容孔と弁体との摺動部分である両者の隙間を通って高圧側から低圧側に排出されていた作動油の一部が、連通孔を通過した後に両者の隙間を通って排出されることになる。その際に、従来は弁体がロックする原因となっていた大きなコンタミは、この連通孔を通過しようとする場合には通過することができず、筒状部の内部に捕獲されることになる。このため、弁収容孔と弁体との間の隙間に大きなコンタミが供給される確率は少なくなリ、弁体のロックが抑制される。
【0009】
請求項2に係る発明は、オイルポンプに設けられた弁収容孔と、該弁収容孔に移動可能に収容され、筒状部と該筒状部の軸方向一方側に設けられた底部とを有する弁体と、オイルポンプの吐出油路に設けられたオリフィスと、該オリフィスの下流側圧力を前記弁収容孔の軸方向他方側に供給する第1圧力供給部と、該オリフィスの上流側圧力を前記弁収容孔の軸方向一方側に供給する第2圧力供給部と、前記弁体を軸方向一方側へ付勢する付勢手段と、前記弁収容孔に開口し、前記弁収容孔内の高圧の作動油を低圧側へ排出するドレン油路と、前記弁体の前記筒状部の径方向内側と外側とを連通させる連通孔と、を有することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、従来は弁収容孔と弁体との摺動部分である両者の隙間を通って高圧側から低圧側に排出されていた作動油の一部が、連通孔を通過した後に両者の隙間を通って排出されることになる。その際に、従来は弁体がロックする原因となっていた大きなコンタミは、この連通孔を通過しようとする場合には通過することができず、筒状部の内部に捕獲されることになる。このため、弁収容孔と弁体との間の隙間に大きなコンタミが供給される確率は少なくなリ、弁体のロックが抑制される。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の流量制御弁において、前記連通孔の直径寸法は、前記弁収容孔と前記弁体との径方向の隙間寸法よりも大きいことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、弁収容孔と弁体との径方向の隙間よりも連通孔の直径寸法を大きくしたので、連通孔を流れて弁収容孔の低圧側へ至る作動油の流量が多くなる一方、隙間のみを流れて低圧側へ至る作動油の流量が少なくなり、その結果として前記弁収容孔と前記弁体との隙間のみを流れて低圧側へ至る作動油の流量が少なくなって、隙間へのコンタミの噛み込みが抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明による流量制御弁の実施の形態を説明する。本実施の形態は、作動油を供給するオイルポンプのハウジングに流量制御弁を一体に組み込んだものである。
【0014】
図3に示すように、フロントハウジング1とリアハウジング2とを結合することにより、ハウジング本体3が形成されている。フロントハウジング1の内部に軸受4,5を介して駆動軸6が回転自在に支持されている。駆動軸6の外端部にはプーリ7が結合され、該プーリ7は図示しないベルトを介してエンジンに連結されている。駆動軸6の内端部にはロータ8が結合されており、該ロータ8を囲繞するようにして筒状部材9が設けられている。該筒状部材9は、内径寸法が円周方向に沿って増減する。前記ロータ8の外周面には放射方向へ移動自在なベーン8aが円周方向に沿って複数設けられている。ベーン8aが筒状部材9の内周面に摺動しながら回転するので、隣り合うベーン8aの間に形成される回転空間の容積が変動する。回転空間の容積が増大する位置では回転空間に作動油が吸入され、減少する位置では作動油が吐出されるので、オイルポンプ10として機能する。
【0015】
図示しない供給ポートから供給された作動油は、図3(a)に示す回転空間の容積が減少する位置で吐出され、吐出油路15aへ流れる。該吐出油路15aは可変オリフィス14を構成するスプール弁13の右端面に臨んで開口している。該スプール弁13を右方へ付勢するスプリング12が設けられている。吐出油路15aは可変オリフィス14を介してその上方の吐出油路15b,15cと連通し、吐出油路15dを介して図示しない吐出ポートに繋がっている。また、前記吐出油路15aは、ロータ8内にベーン8aと対応した数だけ設けられた油路11に連通しており、該油路11の吐出圧によりベーン8aは放射方向外側へ向かって付勢されている。
【0016】
フロントハウジング1には流路制御弁16が埋め込んで設けられている。即ち、以下のように構成されている。フロントハウジング1に、軸方向に沿って長い円形断面の弁収容孔17が形成されている。該弁収容孔17には弁体18が移動可能に収容されている。弁体18は、筒状部18aと該筒状部18aの軸方向一方側である右側に設けられた底部18bとを有する有底円筒形である。前記弁体18を軸方向一方側へ付勢するため、前記弁収容孔17の内部には付勢手段としてのばね20が設けられている。
【0017】
前記のように吐出油路15aと吐出油路15bとの間には可変オリフィス14が設けられている。可変オリフィス14の下流側圧力を前記弁収容孔17の軸方向他方側である左側に供給する第1圧力供給部として圧力供給孔19が設けられ、該圧力供給孔19は吐出油路15dに連通している。一方、可変オリフィス14の上流側圧力を前記弁収容孔17の軸方向一方側である右側に供給する第2圧力供給部として、図示しない圧力供給孔が前記弁収容孔17の右側に開口している。
【0018】
弁収容孔17内の高圧の作動油を低圧側であるロータ8の図示しない供給ポート側へ排出するために図1に示すようにドレン油路21が形成され、ドレン油路21は前記弁収容孔17の内周面に開口している。
【0019】
次に、前記弁体18の構成について説明する。図2に示すように、前記弁体18における前記筒状部18aの軸方向中間位置に3本の円周溝22が形成されている。該円周溝22のうちの軸方向他方側の左側であって、該円周溝22の底部には、前記筒状部18aの径方向内側と外側とを連通させる連通孔23が形成されている。該連通孔23は、筒状部18aの周方向に沿って略等間隔に、本実施の形態では2つ設けられている。
【0020】
なお、円周溝は3本に限らず、1〜10本またはそれ以上設けてもよい。また、円周溝を設けないようにしてもよい。更に、連通孔23は周方向に沿って不均等に設けてもよい。
【0021】
前記連通孔23の直径寸法Dは、弁収容孔17と弁体18との径方向の隙間寸法Gよりも大きく設定されている。直径寸法Dの大きさは、弁収容孔17と弁体18との径方向の隙間寸法Gの50倍以上に設定されている。本実施の形態では、弁収容孔17と弁体18との径方向の隙間寸法Gは10〜15μm程度なので、連通孔23の直径寸法Dは約0.5〜1.5mmに設定されている。
【0022】
次に、流量制御弁の作用を説明する。
【0023】
図3(b)の流量制御弁16における収容孔17の右側には、オイルポンプ10からの作動油(可変オリフィス14より上流側)が図示しない圧力供給孔を介して開口しており、弁体18を左方向へ押圧する。一方、収容孔17の左側は、圧力供給孔19等を介して吐出油路15b(可変オリフィス14より下流側)に開口しており、弁体18を右方向へ押圧する。可変オリフィス14より上流側の圧力の方が大きいと、ばね20の付勢力に抗して弁体18が左方へ押され、収容孔17の内周面より形成されたドレン油路21が弁体18の移動により開口するため、高圧の作動油がドレンへと流れ、可変オリフィス14より上流側の圧力が下がり、弁体18が図3(b)中の右方へ戻る。
【0024】
逆に、可変オリフィス14より下流側の圧力の方が大きいと、弁収容孔17の左側が高圧となる。このとき、従来は弁収容孔17と弁体18との摺動部分である両者の隙間のみを通って高圧側(左側)から低圧側(右側)に排出されていた作動油の一部が、弁体18の内部から連通孔23を通過した後に両者の隙間を通って排出されることになる。その際に、従来は弁体18がロックする原因となっていた大きなコンタミは、この連通孔23を通過しようとする場合には通過することができず、筒状部18aの内部に捕獲されることになる。このため、弁収容孔17と弁体18との間の隙間に大きなコンタミが供給される確率は少なくなリ、弁体18のロックが抑制される。
【0025】
本発明によれば、弁収容孔17と弁体18との径方向の隙間寸法Gよりも連通孔23の直径寸法Dを大きくしたので、連通孔23を流れて弁収容孔17の右側へ至る作動油の流量が多くなる一方、弁収容孔17と弁体18との隙間のみを流れて右側へ至る作動油の流量が少なくなり、その結果として隙間のみを流れて右側へ至る作動油の流量が少なくなって、隙間へのコンタミの噛み込みが抑制される。
【0026】
本発明によれば、連通孔23の直径寸法Dと、弁収容孔17と弁体18との径方向の隙間寸法Gとの寸法差を50倍以上としたので、弁収容孔17と弁体18との隙間から低圧側へ至る作動油のうち、連通孔23を通過して弁収容孔17の右側へ至る作動油の流量の割合を、より一層増大させることができる。
【0027】
本発明によれば、円周溝22に2つの連通孔23を形成したので、1つの連通孔23にコンタミが詰まった場合においても、作動油は他の連通孔23を通過することができ、コンタミの噛み込み防止効果を維持することができる。そして、2つの連通孔23を周方向に沿って略等間隔に重力方向上下位置に配置したので、例えば重力方向下側に溜まったコンタミが1つの連通孔23を塞いだ場合であっても、作動油は重力方向上側に設けられた他の連通孔23を通過することが可能となる。
【0028】
本発明によれば、連通孔23をドリル加工により形成する場合であっても、加工の際に生じるバリは円周溝22の内部に収まるため、バリが弁収容孔17と弁体18との間に噛み込むのが回避される。つまり、連通孔23の加工後にバリ除去の作業を行なってもよいし行なわなくてもよいことになる。
【0029】
なお、本実施の形態では可変オリフィスを用いたが、可変オリフィスを用いることなく一定大きさのオリフィスを用いても良い。
【0030】
前記実施の形態から把握される前記請求項に記載した発明以外の技術的思想について、以下に説明する。
(1)請求項3に記載の流量制御弁において、前記連通孔の直径寸法は、前記弁収容孔と弁体との径方向の隙間寸法の50倍以上であることを特徴とする流量制御弁。
【0031】
この発明によれば、連通孔の直径寸法と、弁収容孔と弁体との径方向の隙間寸法との寸法差を50倍以上としたので、弁収容孔と弁体との隙間から低圧側へ至る作動油のうち、連通孔を通過して低圧側へ至る作動油の流量の割合が、より一層増大する。
(2)請求項1または2に記載の流量制御弁において、前記連通孔は前記筒状部の周方向に沿って複数設けられていることを特徴とする流量制御弁。
【0032】
この発明によれば、1つの連通孔にコンタミが詰まった場合においても、作動油は他の連通孔を通過することができ、コンタミの噛み込み防止効果を維持することができる。
(3)(2)に記載の流量制御弁において、前記連通孔は前記筒状部の周方向に沿って略等間隔に配置されていることを特徴とする流量制御弁。
【0033】
この発明によれば、連通孔を周方向に沿って略等間隔に配置したので、例えば重力方向下側に溜まったコンタミが1つの連通孔を塞いだ場合であっても、作動油は重力方向上側に設けられた他の連通孔を通過することが可能となる。
(4)請求項1または2に記載の流量制御弁において、前記弁体における前記筒状部の軸方向中間位置に円周溝を形成し、該円周溝の底部に前記連通孔を形成したことを特徴とする流量制御弁。
【0034】
この発明によれば、連通孔をドリル加工により形成する場合であっても、加工の際に生じるバリは円周溝の内部に収まるため、バリが弁収容孔と弁体との間に噛み込むのが回避される。つまり、連通孔の加工後にバリ除去の作業を行なってもよいし行なわなくてもよいことになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】流量制御弁の要部を示す断面図(実施の形態)。
【図2】流量制御弁に係り、(a)は弁体を示す断面図、(b)は図2(a)のA−A矢視図(実施の形態)。
【図3】流量制御弁に係り、(a)はフロントハウジングを外して示す左側面図、(b)は正面断面図(実施の形態)。
【符号の説明】
【0036】
10…オイルポンプ
14…可変オリフィス(オリフィス)
15a…吐出油路
17…弁収容孔
18…弁体
18a…筒状部
18b…底部
19…圧力供給孔(第1圧力供給部)
20…ばね(付勢手段)
21…ドレン油路
22…円周溝
23…連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁収容孔と、
該弁収容孔に移動可能に収容され、筒状部と該筒状部の軸方向一方側に設けられた底部とを有する弁体と、
前記弁収容孔の他方側へ高圧の作動油を供給する圧力供給部と、
前記弁収容孔に開口し、前記弁収容孔内の高圧の作動油を低圧側へ排出するドレン油路と、
前記弁体の前記筒状部の径方向内側と外側とを連通させる連通孔と、
を有することを特徴とする流量制御弁。
【請求項2】
オイルポンプに設けられた弁収容孔と、
該弁収容孔に移動可能に収容され、筒状部と該筒状部の軸方向一方側に設けられた底部とを有する弁体と、
オイルポンプの吐出油路に設けられたオリフィスと、
該オリフィスの下流側圧力を前記弁収容孔の軸方向他方側に供給する第1圧力供給部と、
該オリフィスの上流側圧力を前記弁収容孔の軸方向一方側に供給する第2圧力供給部と、
前記弁体を軸方向一方側へ付勢する付勢手段と、
前記弁収容孔に開口し、前記弁収容孔内の高圧の作動油を低圧側へ排出するドレン油路と、
前記弁体の前記筒状部の径方向内側と外側とを連通させる連通孔と、
を有することを特徴とする流量制御弁。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流量制御弁において、前記連通孔の直径寸法は、前記弁収容孔と前記弁体との径方向の隙間寸法よりも大きいことを特徴とする流量制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−38765(P2007−38765A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223551(P2005−223551)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】