説明

流量制御装置および流量制御方法

【課題】従来よりも計装コストを低減させる。
【解決手段】ガスが流通する流路11に配置され、発熱抵抗体、上流側測温抵抗素子および下流側測温抵抗素子を有するセンサ12と、発熱抵抗体を発熱させたときの上流側測温抵抗素子および下流側測温抵抗素子の検出温度に基づいてガスの物性値を算出する物性値算出部311と、上記検出温度に基づいてガスの流量を算出する流量算出部312と、ガスの置換時に開閉され、ガスの流量を調節する調節弁40と、算出された物性値または流量に基づいて調節弁40の開度を制御する弁制御部330と、センサ12の出力信号を、物性値算出部311または流量算出部312のいずれか一方への入力に切り替える切替部320と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流量制御装置および流量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流量制御装置を用いてガスを供給する場合には、供給開始前に、配管内や機器内に滞留している流体を、これから供給するガスで置換してからガスの供給を開始する。具体的には、配管内や機器内を真空ポンプ等で真空引きし、配管内や機器内に残留する空気等を十分に抜いてからガスの供給を開始する。これは、流量制御装置で供給するガスに空気等の余分な流体が混じっていると、流量制御装置の流量精度に誤差が生じたり、ガスを供給するプロセスに問題が生じたりするためである。真空引きを行う場合には、対象となる空間の圧力を圧力計で測定し、この圧力計の値が真空状態となる所定の圧力値以下となるように対象空間内の空気を抜いていく。確実にガス置換されたかどうかを確認する場合には、真空引き後に充填したガスの濃度を濃度計で測定し、ガスの濃度が目標濃度に到達するまで、真空引きとガス充填とを繰り返す。下記特許文献1および2には、機器内のガス置換を行うガス置換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−167309号公報
【特許文献2】特開平1−98799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
流量制御装置を用いてガスを供給するシステムでガス置換を行う場合には、上述したように、濃度計や圧力計を設ける必要がある。また、上述した特許文献1および2に記載されたガス置換方法を採用する場合であっても、濃度計や圧力計が必要となる。したがって、流量制御装置を用いてガスを供給するシステムでガス置換を行う場合には、濃度計や圧力計を設けなければならず、計装コストがかさんでしまう。
【0005】
よって本発明は、従来よりも計装コストを低減させることができる流量制御装置および流量制御方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様によれば、流体が流通する流路に配置され、発熱素子および温度検出素子を有するセンサと、前記発熱素子を発熱させたときの前記温度検出素子の温度に基づいて、前記流体の物性値を算出する物性値算出部と、前記発熱素子を発熱させたときの前記温度検出素子の温度に基づいて、前記流路を流れる流体の流量を算出する流量算出部と、前記流路に滞留する流体を置換するためおよび前記流路を流れる流体の流量を調節するために、調節弁の開度を制御する弁制御部と、前記流路に滞留する流体の置換完了を確認するときには前記センサの出力信号を前記物性値算出部への入力に切り替え、前記流路に流体が流れるときには前記センサの出力信号を前記流量算出部への入力に切り替える切替部と、を備える、流量制御装置を提供することができる。
【0007】
また、本発明の態様によれば、流体が流通する流路に配置されたセンサに含まれる発熱素子を発熱させたときの当該センサに含まれる温度検出素子の温度に基づいて、前記流体の物性値を算出する物性値算出工程と、前記発熱素子を発熱させたときの前記温度検出素子の温度に基づいて、前記流路を流れる流体の流量を算出する流量算出工程と、前記流路に滞留する流体を置換するためおよび前記流路を流れる流体の流量を調節するために、調節弁の開度を制御する弁制御工程と、前記流路に滞留する流体の置換完了を確認するときには前記センサの出力信号を前記物性値算出工程への入力に切り替え、前記流路に流体が流れるときには前記センサの出力信号を前記流量算出工程への入力に切り替える切替工程と、を含む、流量制御方法を提供することができる。
【0008】
本発明の態様における流量制御装置および流量制御方法によれば、流路に滞留する流体の置換完了を確認するときには、流路に配置されたセンサの検出値に基づいて流体の物性値を算出し、算出した物性値に基づいて置換が完了したことを確認することができる、一方、流体が供給されているときには、流路に配置されたセンサの検出値に基づいて供給される流体の流量を算出し、算出した流量に基づいて調節弁の開度を制御することができる。これにより、流量制御装置を用いてガスを供給するシステムでガス置換を行う場合の計装設備を簡易な構成とすることが可能となる。
【0009】
上記流量制御装置において、前記物性値算出部は、前記物性値に基づいて前記流体の濃度を算出し、前記物性値算出部によって算出される前記濃度が所定の目標値に到達したときに、前記置換完了に至ったと判定する置換完了判定部をさらに備えることとしてもよい。また、上記弁制御部は、前記流路内が真空引きされているときには前記調節弁を開弁させ、前記流路内が真空引きされていないときには前記調節弁を閉弁させ、前記置換完了判定部は、前記弁制御部によって前記調節弁が閉弁させられているときに、前記置換完了に至ったか否かを判定することとしてもよい。さらに、上記切替部は、前記置換完了判定部によって前記置換完了に至ったと判定された場合に、前記センサの出力信号を前記流量算出部への入力に切り替えることとしてもよい。
【0010】
これにより、確実にガス置換を行うことが可能となる。
【0011】
上記流量制御装置において、前記物性値は、放熱係数であることとしてもよい。これにより、放熱係数に対応する流体の濃度を算出することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来よりも計装コストを低減させることができる流量制御装置および流量制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態における流量制御装置を含むガス供給システムの構成図である。
【図2】図1に示す流量制御装置の側方断面図である。
【図3】図2に示すセンサの斜視図である。
【図4】図3に示すIV−IV線矢視方向断面図である。
【図5】実施形態におけるガスの物性値および流量の算出手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載では、同一または類似の部分を同一または類似の符号で表す。ただし、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明と照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0015】
図1は、本発明の実施形態おける流量制御装置を含むガス供給システムの模式図である。図1に示すように、ガス供給システム1は、ガス(流体)を貯蔵するガスボンベ4と、ガスの供給を遮断または許容する遮断弁5と、ガスの流量およびガスの物性値を計測してガスの流量を制御する流量制御装置2と、ガスが充填されるチャンバ6と、ガスを流通させる配管P内を真空引きするための真空ポンプ7と、を含んで構成される。
【0016】
図2は、図1に示す流量制御装置2の側方断面図である。図2に示すように、流量制御装置2は、ガスを流通させる配管Pの一部に取り付けられる流路保持体10と、計測ユニット30と、調節弁40とを含んで構成される。なお、図2は断面図であるが、計測ユニット30の内部は模式的に示している。実際には計測ユニット30の内部に、例えば、中央演算処理装置(以下、「CPU」という。)と、ROM、EEPROMおよびRAM等の記憶装置と、I/O回路とが含まれている。
【0017】
流路保持体10の内部には、ガスが上流側(図2において左側)から下流側(図2において右側)に流通する流路11が形成されている。計測ユニット30は、後述するように、流路11を流れるガスの流量およびガスの物性値を計測する。
【0018】
流路保持体10には、上流側の端部に注入口13、下流側の端部に排出口14がそれぞれ設けられている。流路11は、注入口13および排出口14のそれぞれに取り付けられる配管Pと連通している。また、流路11の上流側の途中には、流路11の内径を狭める絞り15が設けられている。絞り15における流路11の断面積は、流路11を流れるガスの速度(流速)がセンサ12の速度検出範囲内となるように適宜設定される。
【0019】
流路11の下流側の途中にある流路11aと流路11bとの間には、流路11を流れるガスの流量を調節する調節弁40が設けられている。調節弁40は、例えばソレノイド弁である。調節弁40は、流路11aから流路11bに流れるガスを中継する流路43および流路44と、流路43および流路44を連通する弁室45と、弁室45を形成する弁座42と、弁室45内に収納されて流路44を開閉する弁体46と、弁体46に連結される磁性体のプランジャ47と、入力電力(電流)に応じて発生する電磁力によってプランジャ47を図2において上下方向に移動させるソレノイドコイル48と、を備える。
【0020】
ソレノイドコイル48に供給される電流に応じた電磁力によってプランジャ47が連続的に移動することによって、プランジャ47に連結された弁体46の開度が連続的に制御される。その結果、流路11a、流路43、流路44および流路11bを通じて排出口14に流出するガスの量を連続的に制御することが可能となる。なお、調節弁40は、ソレノイド弁に限定されず、例えば、電動モータや流体プランジャをアクチュエータとして用いたもの、ボール弁、バタフライ弁を用いたもの等、様々なものを採用することが可能である。
【0021】
流路11の絞り15部分の内面(内壁)には、センサ12が設置されている。センサ12は、流路11を流れるガスの速度または瞬時流量を検出する。センサ12としては、種々の構成を採用することができるが、本実施形態では、高感度のセンサとして、ダイヤフラムを有する熱式センサを用いる。
【0022】
図3は、図2に示すセンサ12の斜視図であり、図4は、図3に示すIV−IV線矢視方向断面図である。図3および図4に示すように、センサ12は、キャビティ26が設けられた基板20と、基板20上にキャビティ26を覆うように配置された絶縁膜25と、絶縁膜25に設けられた発熱素子としての発熱抵抗体21と、発熱抵抗体21より上流側(図3,図4において左側)に設けられた温度検出素子としての上流側測温抵抗素子22と、発熱抵抗体21より下流側(図3,図4において右側)に設けられた温度検出素子としての下流側測温抵抗素子23と、上流側測温抵抗素子22より上流側に設けられたガス温度センサ24と、を有する。
【0023】
絶縁膜25のキャビティ26を覆う部分は、熱容量が小さく、基板20に対して断熱性を有するダイヤフラムを構成する。ガス温度センサ24は、流路11に流入してきたガスの温度を測定する。発熱抵抗体21は、キャビティ26を覆う絶縁膜25の中心に配置されており、駆動回路(不図示)から付与される電力によって発熱する。発熱抵抗体21は、ガス温度センサ24が計測したガスの温度よりも一定温度(例えば10℃)高くなるように加熱される。上流側測温抵抗素子22は、発熱抵抗体21より上流側の温度を検出するために用いられる。下流側測温抵抗素子23は、発熱抵抗体21より下流側の温度を検出するために用いられる。
【0024】
ここで、図2に示した流路11中のガスが静止(停止)している場合に、図3および図4に示す発熱抵抗体21によって加えられた熱は、上流方向と下流方向へ対称的に拡散する。したがって、上流側測温抵抗素子22および下流側測温抵抗素子23の温度は等しくなり、上流側測温抵抗素子22および下流側測温抵抗素子23の電気抵抗は等しくなる。これに対し、流路11中のガスが上流から下流に流れている場合に、発熱抵抗体21によって加えられた熱は、下流方向に運ばれる。したがって、上流側測温抵抗素子22の温度よりも、下流側測温抵抗素子23の温度が高くなる。そのため、上流側測温抵抗素子22の電気抵抗と下流側測温抵抗素子23の電気抵抗との間に差が生じる。
【0025】
下流側測温抵抗素子23の電気抵抗と上流側測温抵抗素子22の電気抵抗との差は、流路11を流れるガスの速度や流量と相関関係がある。それゆえに、下流側測温抵抗素子23の電気抵抗と上流側測温抵抗素子22の電気抵抗との差から、流路11を流れるガスの速度や流量を算出することが可能となる。また、流路11中のガスが下流から上流に流れる場合であっても、同様に、上流側測温抵抗素子22の電気抵抗と下流側測温抵抗素子23の電気抵抗との差から、流路11を流れるガスの速度や流量が算出することが可能となる。
【0026】
図3および図4に示す基板20の材料としては、シリコン(Si)などが使用可能である。絶縁膜25の材料としては、酸化ケイ素(SiO2)などが使用可能である。キャビティ26は、異方性エッチングなどにより形成される。また発熱抵抗体21、上流側測温抵抗素子22、下流側測温抵抗素子23およびガス温度センサ24の各材料には白金(Pt)などが使用可能であり、リソグラフィ法などにより形成可能である。
【0027】
図2に示す計測ユニット30は、流路保持体10上に配置されている。計測ユニット30は、センサ12および調節弁40に電気的に接続されたCPU300と、CPU300に電気的に接続された記憶装置400、表示装置500および入力装置600と、を備える。記憶装置400は、例えばDRAMなどの揮発性メモリから構成される。表示装置500は、例えばLEDなどの発光体により表示部が構成され、この表示部に各種情報が表示される。入力装置600は、例えば入力キーにより入力部が構成され、この入力部から各種設定や情報が入力される。
【0028】
CPU300は、ROM(不図示)に予め書き込まれた各種制御プログラムや各種情報などを読み込み、種々の演算処理を実行したり、流量制御装置2の各種電子機器を制御したりする。CPU300は、機能的には、例えば、算出部310と、切替部320と、弁制御部330とを有する。
【0029】
算出部310は、センサ12の出力信号を入力値として、物性値または流量を算出する。すなわち、算出部310は、発熱抵抗体21を発熱させたときの上流側測温抵抗素子22および下流側測温抵抗素子23の温度に基づいて、流路11を流れるガスの物性値を算出する物性値算出部311と、発熱抵抗体21を発熱させたときの上流側測温抵抗素子22および下流側測温抵抗素子23の温度に基づいて、ガスの流量を算出する流量算出部312と、を有する。
【0030】
切替部320は、流路11を流れるガスの置換完了を確認するときには、算出部310を物性値算出部311に切り替え、流路11に流体が流れるときには、算出部310を流量算出部312に切り替える。すなわち、切替部320は、流路11を流れるガスの置換完了を確認するときには、センサ12の出力信号を物性値算出部311への入力に切り替え、流路11に流体が流れるときには、センサ12の出力信号を流量算出部312への入力に切り替える。ここで、ガス置換とは、配管P内および流路11内に滞留する気体を、これから供給するガスで置換することをいう。本実施形態におけるガス供給システム1では、ガス置換を、例えば以下のような手順で行う。
【0031】
最初に、ユーザの操作指示に従って、真空ポンプ7を駆動させ、調節弁40を開弁(全開)し、遮断弁5を閉弁する。調節弁40を開弁して遮断弁5を閉弁することで、配管P、流路11およびチャンバ6からなる閉空間を形成することができ、真空ポンプ7を駆動させることで、この閉空間から所定時間空気を抜き続ける(以下、「真空引き」という。)ことができる。続いて、ユーザの操作指示に従って、真空ポンプ7を停止させ、調節弁40を閉弁(全閉)し、遮断弁5を開弁することで、配管Pおよび流路11内に、これから供給するガスを充填する。
【0032】
続いて、ガスの置換が完了したか否かを確認するために、ユーザの操作指示(例えば、濃度計測開始ボタンを押下)に従って、切替部320が算出部310を物性値算出部311に切替える。続いて、物性値算出部311は、センサー12の出力信号に基づいて配管Pおよび流路11内に充填したガスの濃度を算出する。続いて、充填したガスの濃度が適正範囲内の濃度に到達したか否かをユーザが判定する。この場合に、例えば、CPU300は、算出したガスの濃度を表示部に表示させ、ユーザの操作指示(例えば、“OK”または“NG”ボタンを押下)に従って、充填したガスの濃度が適正範囲内の濃度に到達したか否かを判定する。
【0033】
上記判定において、算出したガスの濃度が適正範囲内の濃度に到達したと判定された場合に、ガス置換を終了する。一方、上記判定において、算出したガスの濃度が適正範囲内の濃度に満たないと判定された場合には、上述した閉空間の形成から真空引きおよびガスの充填までの各手順を、充填したガスの濃度が適正範囲内の濃度に到達するまで繰り返し行う。ガス置換が終了した後は、調節弁40を開弁し、ガスの供給を開始する。
【0034】
なお、調節弁40および遮断弁5の開閉制御や真空ポンプ7の駆動・停止制御は、CPU300が行うこととしてもよいし、CPU300とは別に設けられたガス供給システム1全体を統括制御するCPU(不図示)が行うこととしてもよい。また、調節弁40および遮断弁5の開閉動作や真空ポンプ7の駆動・停止動作を開始するタイミングは、ユーザの操作指示に限定されず、例えば、CPU300が予め設定された各種条件を判定して開始させることとしてもよい。
【0035】
また、算出部310を物性値算出部311に切り替える際の切替部320への指示は、ユーザの操作指示に限定されず、CPU300が指示することとしてもよい。また、ガスの濃度が適正範囲内の濃度に到達したか否かを判定するのは、ユーザに限定されず、CPU300が判定することとしてもよい。具体的には、例えば、図2に示すようにCPU300に置換完了判定部313を設け、この置換完了判定部313が、予め設定された設定値に従って、ガスの濃度が適正範囲内の濃度に到達したか否かを判定する。そして、置換完了判定部313が、ガスの濃度が適正範囲内の濃度に到達したと判定した場合に、ガスの置換が完了したと判定する。さらに、算出部310を流量値算出部311に切り替える際の切替部320への指示についても、CPU300が行うこととしてもよい。例えば、置換完了判定部313によってガスの置換が完了したと判定された場合に、CPU300が切替部320に、流量値算出部311への切り替え指示を出力する。
【0036】
物性値算出部311は、流路11を流れるガスの物性値を算出する。ガスの物性値としては、例えば、放熱係数、熱伝導率および発熱量等がある。本実施形態では、ガスの物性値として放熱係数を算出する場合について説明する。
【0037】
物性値算出部311は、下記(1)式に示すように、雰囲気ガスの放熱係数MOを算出する。具体的に、物性値算出部311は、センサ12の発熱抵抗体21の駆動電力PHを、発熱抵抗体21の発熱温度THとガス温度センサ24で測定されたガス温度TOとの差で割ることで、発熱抵抗体21と熱的に平衡な状態にあるときのガスの放熱係数MOを算出する。なお、放熱係数MOの単位は、例えば[W/℃]である。
【0038】
O=PH/(TH−T0) ・・・ (1)
【0039】
ここで、熱的に平衡な状態とは、発熱抵抗体21の発熱と、発熱抵抗体21から雰囲気ガスへの放熱とが釣り合っている状態をいう。発熱抵抗体21の発熱温度THは、発熱抵抗体21と雰囲気ガスとの間が熱的に平衡な状態にあるときに安定する。したがって、上記(1)式は、発熱抵抗体21と雰囲気ガスとの間が熱的に平衡な状態にあることを前提としている。上記(1)式に含まれる発熱抵抗体21の発熱温度THは、下記(2)式〜(4)式を用いて算出することができる。
【0040】
まず、発熱抵抗体21の抵抗値RHは、温度によって変化し、発熱抵抗体21の抵抗値RHと発熱抵抗体21の発熱温度THとの関係は、下記(2)式により与えられる。
【0041】
H=RSTD×{1+α(TH−TSTD)+β(TH−TSTD2} ・・・ (2)
【0042】
上記(2)式のTSTDは標準温度を表し、例えば20℃である。RSTDは標準温度TSTDにおける予め計測された抵抗値を表す。αは1次の抵抗温度係数、βは2次の抵抗温度係数を表す。
【0043】
また、発熱抵抗体21の抵抗値RHは、発熱抵抗体21の駆動電力PHと発熱抵抗体21の通電電流IHとを用いて下記(3)式により与えられる。
【0044】
H=PH/IH2 ・・・ (3)
【0045】
さらに、発熱抵抗体21の抵抗値RHは、発熱抵抗体21にかかる電圧VHと発熱抵抗体21の通電電流IHとを用いて下記(4)式によっても与えられる。
【0046】
H=VH/IH ・・・ (4)
【0047】
なお、上記(1)式に含まれるガス温度TOは、ガス温度センサ24ではなく、発熱抵抗体21を用いて計測することとしてもよい。ガス温度TOに影響しない程度の電力を発熱抵抗体21に供給することにより、発熱抵抗体21でガス温度TOを測定することが可能となる。この場合、発熱抵抗体21は、発熱素子に加え、さらに温度検出素子として用いられることになる。発熱抵抗体21でガス温度TOを測定する場合には、ガス温度センサ24を省略し、センサ12の構造を簡素化してもよい。ただし、発熱抵抗体21とガス温度センサ24を別個に設けた方が、より正確な放熱係数MOを測定することができる。
【0048】
また、センサ12は、熱伝導性の基板20の温度を一定に保つ補助ヒータをさらに備えることとしてもよい。基板20の温度を一定に保つことにより、発熱抵抗体21が発熱する前のセンサ12近傍の雰囲気ガスの温度を、基板20の温度と近似させることができる。そのため、雰囲気ガスの温度の変動を抑制することができ、より高い精度で放熱係数MOを算出することが可能となる。なお、補助ヒータにも電気抵抗素子等を使用することができる。また、ガス温度センサ24を補助ヒータとして兼用することもできる。
【0049】
さらに、ガスの物性値として熱伝導率や発熱量を算出する場合に、物性値算出部311は、例えば以下のようにして熱伝導率や発熱量を算出することができる。まず、ガスの放熱係数とガスの熱伝導率は、一般に比例関係にある。したがって、ガスの放熱係数とガスの熱伝導率との対応関係を示す近似式またはテーブルを記憶装置400に予め記憶させておく。これにより、物性値算出部311は、記憶装置400に記憶された近似式またはテーブルを用いることで、先に算出したガスの放熱係数に対応するガスの熱伝導率を算出することができる。
【0050】
また、ガスの発熱量は、ガスの放熱係数を変数とする方程式によって算出することが可能である。したがって、その方程式を記憶装置400に予め記憶させておく。これにより、物性値算出部311は、先に算出したガスの放熱係数を、上記方程式に代入することでガスの発熱量を算出することができる。
【0051】
物性値算出部311は、ガスの放熱係数MOに基づいてガスの濃度(ガスと空気との成分比率)を、例えば以下のように算出する。ガスの放熱係数とガスの濃度とは、一般に比例関係にある。この関係に基づいて、供給するガスの放熱係数とガスの濃度との対応関係を示す近似式またはテーブルを予め作成し、記憶装置400に記憶させておく。物性値算出部311は、記憶装置400に記憶された近似式またはテーブル用いることで、ガスの放熱係数に対応するガスの濃度を算出する。
【0052】
流量算出部312は、下流側測温抵抗素子23の電気抵抗の値と上流側測温抵抗素子22の電気抵抗の値との差に基づいて、流路11を流れるガスの速度(流速)Vを算出する。流量算出部312は、下記(5)式に示すように、速度(流速)Vに絞り15における流路11の垂直断面積Aを乗じて、ガスの瞬時流量Qを算出する。
【0053】
Q=V×A ・・・ (5)
【0054】
ここで、ガスの速度Vの単位は、例えば[m/min]であり、絞り15における流路11の垂直断面積Aの単位は、例えば[m2]である。また、ガスの瞬時流量Qは、正方向に流れるガスの瞬時流量が正の値、負方向に流れるガスの瞬時流量が負の値となる。
【0055】
流量算出部312は、所定の検出間隔ごとにセンサ12を駆動してガスの瞬時流量Qを算出し、算出した瞬時流量Qを記憶装置400に記憶することを継続して繰り返し実行する。流量算出部312は、瞬時流量Qの検出開始時点から現在までの瞬時流量Qを記憶装置400から読み込み、読み込んだ各瞬時流量Qを積算してガスの積算流量を算出する。流量算出部312は、算出した積算流量を、記憶装置400に記憶させるとともに、表示装置500の表示部に表示させる。
【0056】
切替部320は、流路11に滞留するガスの置換完了を確認するときに、算出部310を物性値算出部311に切り替える。具体的に、切替部320は、流路11を滞留するガスの置換完了を確認するときに、算出部310を物性値算出部311に切り替える。切替部320は、流路11に流体が流れるときに、算出部310を流量算出部312に切り替える。なお、上述した置換完了判定部313は、物性値算出部311によって算出されるガスの濃度と所定の目標値とを比較して、置換完了を判定することとすればよい。
【0057】
弁制御部330は、流路11内の真空引きが実行されているときには調節弁40を開弁させ、真空引きが実行されていないときには調節弁40を閉弁させる。
【0058】
弁制御部330は、算出部310が流量算出部312に切り替えられている間、流量算出部312によって算出された瞬時流量に基づいて、調節弁40の開度を制御し、流路11を流れるガスの流量を調整する。弁制御部330は、瞬時流量が設定値よりも多い場合には、調節弁40の開度が小さくなるように制御してガスの流量を減少させる。弁制御部330は、瞬時流量が設定値よりも少ない場合には、調節弁40の開度が大きくなるように制御してガスの流量を増加させる。
【0059】
次に、図5を参照して、本実施形態におけるガス供給システム1の動作について説明する。図5は、ガス供給システムにおけるガスの物性値および流量の算出手順を説明するためのフローチャートである。
【0060】
最初に、ガス供給システム1を起動すると、流量制御装置2の切替部320は、算出部310を物性値算出部311に切り替える。(ステップS101)。これと並行して、流量制御装置2のCPU300は、遮断弁5を閉弁し、調節弁40を開弁して真空引きを所定時間実行する(ステップS102)。続いて、CPU300は、調節弁40を閉弁し、遮断弁5を開弁する(ステップS103)。これにより、流量制御装置2の流路11(流路11bを除く)内に、これから供給するガスが充填される。なお、切替部320の切替、遮断弁5および調節弁40の開閉動作は、ユーザの操作指示に従って開始することとしてもよい(以下、同様)。
【0061】
続いて、流量制御装置2の物性値算出部311は、上記(1)式を用いて放熱係数MOを算出する(ステップS104)。なお、放熱係数MOの算出は、ユーザの操作指示に従って開始することとしてもよい。また、上記ステップS101の処理は、ステップS104の直前に実行してもよい。
【0062】
続いて、流量制御装置2の物性値算出部311は、上記ステップS104で算出された放熱係数MOに対応するガスの濃度を算出する(ステップS105)。
【0063】
続いて、流量制御装置2の切替部320は、算出されたガスの濃度が所定の目標値に到達したか否かを判定する(ステップS106)。この判定がNOである場合(ステップS106;NO)には、処理を上記ステップS102に移行する。
【0064】
一方、上記ステップS106の判定でガスの濃度が所定の目標値に到達したと判定された場合(ステップS106;YES)に、流量制御装置2の切替部320は、算出部310を流量算出部312に切り替える(ステップS107)。これと並行して、流量制御装置2の弁制御部330は、調節弁40を所定開度開弁させる(ステップS108)。
【0065】
続いて、流量制御装置2の流量算出部312は、所定の検出間隔ごとにセンサ12を駆動し、上記(5)式を用いてガスの瞬時流量Qを算出する(ステップS109)。
【0066】
続いて、流量制御装置2の弁制御部330は、上記ステップS109で算出された瞬時流量Qに基づいて、調節弁40の開度を制御する(ステップS110)。これにより、ガスの供給量が適正に制御される。
【0067】
上述したように、実施形態における流量制御装置2を含むガス供給システム1によれば、配管Pや流路11に滞留するガスの置換完了を確認するときには、流路11に配置されたセンサ12の検出値に基づいてガスの物性値を算出し、ガスの置換完了を確認することができる。一方、ガスを供給しているときには、流路11に配置されたセンサ12の検出値に基づいてガスの流量を算出し、算出した流量に基づいて調節弁40の開度を制御することができる。
【0068】
これにより、ガスを置換しているときには、流路11内のガスが正常に置換されたことを、算出した物性値に基づいて判定してからガスの供給を開始させることが可能となる。一方、ガスを供給しているときには、算出したガスの流量に基づいてガスの供給量を適正に制御させることが可能となる。
【0069】
また、ガスの物性値である放熱係数に基づいてガスの濃度を算出し、このガスの濃度が所定の目標値に到達した場合に、ガスが正常に置換されたと判定することができるため、濃度計を設けることなく確実にガス置換を行うことができる。さらに、ガスの濃度が所定の目標値に到達しない場合には、ガスの濃度が所定の目標値に到達するまで真空引きを繰り返すことができるため、圧力計を設けることなく確実にガス置換を行うことができる。
【0070】
(その他の実施形態)
本発明を、上述した実施形態によって説明したが、この開示の一部をなす記述および図面は、この発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替の実施形態、実施例および運用技術が明らかになるはずである。
【0071】
例えば、上述した実施形態では、ガス供給システム1を起動したときにガス置換を行っているが、ガス置換を行うタイミングは、これに限定されない。例えば、ガス置換を開始することを示すガス置換開始命令を受信した場合に、ガス置換を行うこととしてもよい。また、例えば、真空ポンプ7の駆動動作、調節弁40の開弁動作および遮断弁5の閉弁動作がユーザの操作指示に従って開始されるときに、ガス置換を行うこととしてもよい。これにより、例えば、濃度や成分等が異なる複数のガスを切り替えることができるガス供給システムにも本発明を適用することができる。例えば、一のガスから他のガスに切り替える際に、ガス置換開始命令を発令する等してガス置換を実行させ、算出部310を流量算出部312から物性値算出部311に切り替えることとしてもよい。
【0072】
この様に、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含する。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0073】
1…ガス供給システム、2…流量制御装置、4…ガスボンベ、5…遮断弁、6…チャンバ、7…真空ポンプ、10…流路保持体、11…流路、12…センサ、13…注入口、14…排出口、20…基板、21…発熱抵抗体、22…上流側測温抵抗素子、23…下流側測温抵抗素子、24…ガス温度センサ、25…絶縁膜、26…キャビティ、30…計測ユニット、40…調節弁、42…弁座、43、44…流路、45…弁室、46…弁体、47…プランジャ、48…ソレノイドコイル、300…CPU、310…算出部、311…物性値算出部、312…流量算出部、313…置換完了判定部、320…切替部、330…弁制御部、400…記憶装置、500…表示装置、600…入力装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通する流路に配置され、発熱素子および温度検出素子を有するセンサと、
前記発熱素子を発熱させたときの前記温度検出素子の温度に基づいて、前記流体の物性値を算出する物性値算出部と、
前記発熱素子を発熱させたときの前記温度検出素子の温度に基づいて、前記流路を流れる流体の流量を算出する流量算出部と、
前記流路に滞留する流体を置換するためおよび前記流路を流れる流体の流量を調節するために、調節弁の開度を制御する弁制御部と、
前記流路に滞留する流体の置換完了を確認するときには前記センサの出力信号を前記物性値算出部への入力に切り替え、前記流路に流体が流れるときには前記センサの出力信号を前記流量算出部への入力に切り替える切替部と、を備える、
流量制御装置。
【請求項2】
前記物性値算出部は、前記物性値に基づいて前記流体の濃度を算出し、
前記物性値算出部によって算出される前記濃度が所定の目標値に到達したときに、前記置換完了に至ったと判定する置換完了判定部をさらに備える、
請求項1記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記弁制御部は、前記流路内が真空引きされているときには前記調節弁を開弁させ、前記流路内が真空引きされていないときには前記調節弁を閉弁させ、
前記置換完了判定部は、前記弁制御部によって前記調節弁が閉弁させられているときに、前記置換完了に至ったか否かを判定する、
請求項2記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記切替部は、前記置換完了判定部によって前記置換完了に至ったと判定された場合に、前記センサの出力信号を前記流量算出部への入力に切り替える、
請求項3記載の流量制御装置。
【請求項5】
前記物性値は、放熱係数である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の流量制御装置。
【請求項6】
流体が流通する流路に配置されたセンサに含まれる発熱素子を発熱させたときの当該センサに含まれる温度検出素子の温度に基づいて、前記流体の物性値を算出する物性値算出工程と、
前記発熱素子を発熱させたときの前記温度検出素子の温度に基づいて、前記流路を流れる流体の流量を算出する流量算出工程と、
前記流路に滞留する流体を置換するためおよび前記流路を流れる流体の流量を調節するために、調節弁の開度を制御する弁制御工程と、
前記流路に滞留する流体の置換完了を確認するときには前記センサの出力信号を前記物性値算出工程への入力に切り替え、前記流路に流体が流れるときには前記センサの出力信号を前記流量算出工程への入力に切り替える切替工程と、を含む、
流量制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−180910(P2011−180910A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45674(P2010−45674)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】