説明

浮遊粒子の分析装置

【課題】 大気中に浮遊している粒子状物質の揮発成分の分析を、時系列を考慮して行うことのできる浮遊粒子の分析装置を提供する。
【解決手段】 気体が導入される捕集容器21内に、気体中の粒子Pを帯電させる放電電極23と、その放電電極23に対して電位差が与えられる集塵電極24を配置するとともに、その集塵電極24上に捕集された粒子状物質Pを加熱装置3加熱して当該粒子状物質Pに含まれる揮発成分を分離し、その揮発成分を、捕集容器21に連通するガス分析装置4に導入して分析する構成を採用することにより、粒子状物質Pの捕集〜加熱による揮発成分の分離〜分離した揮発成分のガス分析装置4への導入といった動作を繰り返し行うことで、大気中に浮遊している粒子状物質Pの揮発成分の時系列的に分析することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の浮遊粒子状物質を分析するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中に浮遊している粉じんのうち、粒径が10μm以下のものが浮遊粒子状物質(SPM)と称される。この浮遊粒子状物質は、巻き上げられた土なども含まれるが、ディーゼル車が排出する黒煙や未燃焼燃料、硫黄化合物などが多くを占め(関東地方では35%がディーゼル車からのもの)、有害性もより高いと言われている。このディーゼル車からの排気ガスが原因の粒子状物質は、特にDPEと称される。また、より粒径の小さい2.5μm以下のものは微小粒子状物質(PM2.5)と称され、欧米では調査・研究が盛んになってきている。このPM2.5の場合、その排出原因はディーゼル車である割合がより高くなると言われている。
【0003】
このような大気中の浮遊粒子状物質を捕集する装置として、従来、インパクタを用いる装置が知られている。このインパクタを用いた装置は、流体を捕集板に衝突させてその流れの方向を急変させることによって粒子を流体から分離して捕集する。
【0004】
また、このようなインパクタを用いた装置では、粒径がサブミクロン〜ナノ領域の粒子の捕集ができないことから、本発明者は、容器内に気体を導入するとともに、その容器内に単極イオンを発生する放電電極と、その放電電極に対して電位差が与えられる集塵電極を配置し、容器内に導入された気体中に含まれる粒子状物質を単極イオンで帯電させ、電位差が付与された集塵電極上に捕集し、各種測定や分析に供する方法を提案している(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、本発明者は、以上のような放電電極と集塵電極が収容されて大気が導入される容器の大気導入口に、粒径に基づく移動度の差を利用して電界により選択された粒径範囲の粒子状物質のみを通過させる微分型移動度解析装置(DMA)を配置することにより、大気中の浮遊粒子状物のうち、任意に選択された粒径範囲のもののみを集塵電極上に捕集するようにした装置を提案している(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−215021号公報
【特許文献2】特開2003−337087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、大気中の浮遊粒子状物質の成分、特に揮発成分を分析しようとする場合、まず、粒子状物質を捕集して例えばガスクロマトグラフ等の分析装置を用いた分析を行う必要があるが、粒子状物質の捕集を行うに当たり、従来のインパクタを用いた装置を用いる場合には、前記したようにサブミクロン〜ナノ粒子を捕集することができないほか、大気圧下で捕集できない(減圧下で実施)ため、粒子の揮発成分が損なわれるなどの問題がある。
【0007】
一方、特許文献1,2に開示されている技術を用いると、サブミクロン〜ナノ粒子を捕集することができ、しかも大気圧下で捕集できることから、粒子の揮発成分が捕集時に損なわれることもない。
【0008】
しかしながら、これらの特許文献1,2に開示されている技術で粒子状物質を捕集する場合、一定時間にわたって粒子状物質を集塵電極上に捕集した後、容器を開いて集塵電極を取り出し、分析装置による分析に供する必要があり、長期にわたって粒子状物質の成分の時系列変化を考慮した分析を行う場合、大変な人手が掛かり、実用的には不可能である。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、その主たる課題は、大気中に浮遊している粒子状物質の揮発性成分の分析を、時系列を考慮して行うことのできる浮遊粒子の分析装置を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の課題は、浮遊粒子の揮発性成分を粒径ごとに行うことのできる浮遊粒子の分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した主たる課題を解決するため、本発明の浮遊粒子の分析装置は、気体が導入される捕集容器と、その捕集容器内に配置されて気体中の粒子状物質を帯電させる放電電極と、上記捕集容器内に配置され、帯電した粒子状物質を電位差により捕集する集塵電極と、その集塵電極を加熱して当該集塵電極上に捕集された粒子状物質に含まれる揮発成分を分離する加熱手段と、上記捕集容器と連通し、当該容器内で分離した粒子状物質の揮発成分が導入されるガス分析装置を備えていることによって特徴づけられる(請求項1)。
【0012】
また、前記した他の課題を解決するため、請求項2に係る発明では、上記捕集容器の気体導入口に、当該容器内に導入される気体中の粒子状物質の粒径範囲を選択するための微分型移動度測定装置を設けた構成を採用している。
【0013】
ここで、請求項1または2に係る発明においては、上記加熱手段による加熱温度を走査することで、低沸点の成分から高沸点の成分までの各成分を順次揮発させて上記ガス分析装置に導くように構成すること(請求項3)ができる。
【0014】
また、請求項1または2に係る発明にける加熱手段を、上記捕集容器内を減圧することにより揮発成分をガス化させる減圧手段に代えた構成(請求項4)を採用することもできる。
【0015】
本発明は、浮遊粒子状物質を帯電させて静電的に集塵電極に捕集する手法を採用することにより、サブミクロン〜ナノ粒子の捕集を可能とし、容器内の集塵電極に捕集した粒子状物質を加熱もしくは減圧により容器内で揮発成分を分離し、その分離した揮発成分を容器に連通するガス分析装置に導入することによって、課題を解決しようとするものである。
【0016】
すなわち、粒子状物質を帯電させる放電電極と、その放電電極に対して電位差が付与されて帯電した粒子状物質を捕集する集塵電極を収容した捕集容器に、ガス分析装置を連通させるとともに、集塵電極上に捕集した粒子状物質を加熱、もしくは捕集容器内を減圧する手段を設けて捕集した粒子状物質から揮発成分を分離する機能を持たせることにより、粒子状物質の捕集〜揮発成分の分離〜ガス分析という動作を繰り返し行うことができ、長期にわたって連続的(間欠的)に大気中の浮遊粒子状物質の揮発成分の分析を行うことが可能となる。
【0017】
また、請求項2に係る発明のように、捕集容器の気体導入口に微分型移動度解析装置を配置することにより、捕集容器に導入される気体中の粒子状物質の粒径を選択することができ、粒子状物質の粒径ごとの揮発成分の分析を行うことが可能となる。
【0018】
そして、揮発成分を分離するための手段として加熱手段を設けた場合には、加熱温度を走査することにより、捕集した粒子状物質に含まれる低沸点の成分から高沸点の成分まで、沸点ごとの成分分析が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、大気中に浮遊している粒子状物質を、粒径がサブミクロン〜ナノオーダーのものも含めて、その揮発成分の時系列変化を検出することができる。
【0020】
また、請求項2に係る発明のように、捕集容器の気体導入口に微分型移動度解析装置を設けることにより、浮遊粒子状物質の粒径ごとの揮発成分を個別に分析することが可能となり、特に、浮遊粒子状物質のうちナノ粒子について、粒径ごとの発生源や生成過程、および毒性の違いなど、従来の方法や装置では得られなかった情報を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と電気的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【0022】
装置は、微分型移動度解析装置(DMA)1と、静電集塵式の粒子捕集装置2と、その粒子捕集装置2の捕集容器21内に配置された加熱装置3、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)4、これらを相互に接続する配管系、および装置全体を制御する制御装置5によって構成されている。
【0023】
微分型移動度解析装置1は、外側円筒11の内部に、その軸心に沿って内側円筒を構成する電極12が配置され、これらの間の空間に空気と荷電した粒子Pの流路13が形成されているとともに、外側円筒11にはその内部の空気を排気するための排気口11aが形成された構造を有している。
【0024】
外側円筒11の上端部には円錐形のガイド板14が配置されており、このガイド板14の内側に清浄なシースエアAが流されるとともに、ガイド板14の外側には、浮遊粒子状物質Pを含む気体が帯電装置15を介して送り込まれる。また、外側円筒11の下端部には、細い管からなる流路出口16が開口している。
【0025】
電極12は電圧可変高圧電源17に接続されており、任意の負の高電圧を印加することができるようになっているとともに、外側円筒11は接地電位18に接続されている。このような構成において、帯電装置15により一定の正の電荷が付与された浮遊粒子Pは、ガイド板14の外側を介して外側円筒11内に導入されることにより、この外側円筒11の内壁面に沿って一定の速度で流路13内を図中下方へと移動する。流路13には、電極12と外側円筒11とを結ぶ方向への電界が形成されているため、各粒子Pは電荷の方向に直交して流れることになり、これらの各粒子Pには流路13内において電極12側に移動する向きの力が作用する。荷電粒子の電界中での移動速度は、電荷が同じであればその粒子の大きさに依存し、粒径の小さい粒子ほど速く移動するので、流路13内を流れる粒子Pは、粒径の小さいものについては流路出口16に到達するまでに電極12に付着する一方、粒径の大きいものについては流路出口16を通りすぎてしまい、空気とともに排気口11aから排出されることになる。従って、流路出口16には、粒子Pの速度および電荷数を一定にしたとき、電極12の印加電圧に応じた粒径範囲のもののみ導かれる。
【0026】
以上の微分型移動度解析装置1の流路出口16は、静電集塵式の粒子捕集装置2の捕集容器21に配管61および電動式の開閉弁71を介して接続されている。
【0027】
静電集塵式の粒子捕集装置2は、捕集容器21と、その捕集容器21内に気体を吸引するポンプ22と、捕集容器21内に配置された放電電極23および集塵電極24と、放電電極23に対して正の高電圧を印加する高圧電源25等を主要構成要素とするものであって、集塵電極24は接地電位26に接続されている。
【0028】
以上の構成において、ポンプ22を駆動しつつ放電電極23に高電圧を印加すると、その周囲の空気が電離して生成された単極イオンは、集塵電極24との電位差により集塵電極24側に向けて移動し、その過程で捕集容器21内に吸引された気体中の粒子Pと接触してこれを帯電させる。帯電した粒子Pは、同じく放電電極23と集塵電極24との電位差によって、集塵電極24上に捕集される。
【0029】
この粒子捕集装置2の捕集容器21内には、集塵電極24をその下方から加熱する加熱装置3が配置されており、この加熱装置3の駆動により、集塵電極24上に捕集した粒子Pを加熱して、そこに含まれている揮発成分を揮発分離させることができる。
【0030】
粒子捕集装置2の捕集容器21は、配管62および電動式の開閉弁72を介してガスクロマトグラフ質量分析計4に接続されているとともに、配管63および電動式の開閉弁73を介してキャリアガス源(図示せず)に接続されている。また、この捕集容器21には電動式の開閉弁74を備えた排気管64が設けられている。
【0031】
ガスクロマトグラフ質量分析計4は公知のものであって、その詳細な説明については省略するが、キャリアガスを移動相として導入された試料成分を、分離管中で固定相固体に対する吸着性の差、もしくは固定相液体に対する分配係数の差に従って分離し、その分離した各成分を、質量分析計に直接導入して質量分析を行う。
【0032】
以上の構成における微分型移動度解析装置1の帯電装置15および電圧可変高圧電源17、粒子捕集装置2のポンプ22および高圧電源25、加熱装置3、および配管系に設けられている各電動式の開閉弁71〜74は、制御装置5によって駆動制御され、また、この制御装置5は、ガスクロマトグラフ質量分析計4と相互に接続され、互いの動作に同期がとられる。
【0033】
次に、以上の構成からなる本発明の実施の形態の動作の例について述べる。まず、開閉弁72,73,74を閉じ、開閉弁71のみを開いた状態で、微分型移動度解析装置1を駆動するとともに、ポンプ22を駆動する。これにより、大気中に含まれている浮遊粒子状物質Pのうち、微分型移動度解析装置1の電圧可変高電圧電源17の設定電圧に応じた粒径範囲の粒子のみが捕集容器21内に導入されて集塵電極24上に捕集される。
【0034】
次に、開閉弁71を閉じ、ポンプ22を停止するとともに、開閉弁73および74を開いて捕集容器21内の空気をキャリアガスで置換した後、開閉弁74を閉じ、加熱装置3を駆動して集塵電極24上に捕集された粒子Pを加熱して揮発成分をガス化させ、開閉弁72を開いてその揮発成分をキャリアガスとともにガスクロマトグラフ質量分析計4に導入する。これにより、集塵電極24上に捕集された粒子Pに含まれる揮発成分を分析することができる。なお、このとき、加熱装置3の加熱温度を低温側から順次走査し、各温度で分析を行えば、沸点の異なる各成分の分析を行うことができる。
【0035】
分析を終了した後、粒子Pの揮発成分がなくなるまで加熱装置3を駆動しつつ開閉弁74を開いた状態を保ち、揮発成分がなくなった後に同様の手順を繰り返すことにより、浮遊粒子状物質Pの揮発成分の時系列的な情報を得ることができる。
【0036】
また、微分型移動度解析装置1の高圧可変電源17の電圧を変更して同様の動作を実行することにより、浮遊粒子状物質Pの粒径ごとに含まれるガス成分の違いを検出することができる。
【0037】
ここで、以上の実施の形態においては、捕集した粒子Pを加熱装置3により加熱することによって揮発成分をガス化した例を示したが、加熱装置3に代えて、捕集容器21内を減圧する減圧装置を設け、減圧により粒子Pをガス化する構成を採用することもできる。
【0038】
また、以上の実施の形態においては、ガス分析装置としてガスクロマトグラフ質量分析計を用いた例を示したが、例えばガスクロマトグラフをはじめとする他のガス分析装置を用いてもよいことは勿論である。
【0039】
更に、本発明においては、粒子捕集装置21前段に微分型移動度解析装置1を設けない構成を採用することもでき、この場合、粒径ごとの揮発成分の分析はできないが、大気中に浮遊している全ての粒子状物質Pの揮発成分を時系列的に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と電気的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 微分型移動度解析装置
11 外側円筒
12 電極
13 流路
15 帯電装置
16 流路出口
17 電圧可変電源
2 粒子捕集装置
21 捕集容器
22 ポンプ
23 放電電極
24 集塵電極
25 高圧電源
3 加熱装置
4 ガスクロマトグラフ質量分析計
5 制御装置
71,72,73,74 開閉弁
P 浮遊粒子状物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中に浮遊している粒子状物質の成分を分析するための装置であって、
気体が導入される捕集容器と、その捕集容器内に配置されて気体中の粒子状物質を帯電させる放電電極と、上記捕集容器内に配置され、帯電した粒子状物質を電位差により捕集する集塵電極と、その集塵電極を加熱して当該集塵電極上に捕集された粒子状物質に含まれる揮発成分を分離する加熱手段と、上記捕集容器と連通し、当該容器内で分離した粒子状物質の揮発成分が導入されるガス分析装置を備えていることを特徴とする浮遊粒子の分析装置。
【請求項2】
上記捕集容器の気体導入口に、当該容器内に導入される気体中の粒子状物質の粒径範囲を選択するための微分型移動度解析装置が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の浮遊粒子の分析装置。
【請求項3】
上記加熱手段による加熱温度を走査することで、低沸点の成分から高沸点の成分までの各成分を順次揮発させて上記ガス分析装置に導くように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の浮遊粒子の分析装置。
【請求項4】
請求項1または2の浮遊粒子の分析装置における加熱手段に代えて、上記捕集容器内を減圧することにより揮発成分をガス化させる減圧手段を備えていることを特徴とする浮遊粒子の分析装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−112929(P2006−112929A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300915(P2004−300915)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】