説明

浸漬ノズル及びこれを用いた鋼の連続鋳造方法

【課題】浸漬ノズルに吹き込まれたアルゴンガスによるスリバーの発生を抑制することができる浸漬ノズル及びこれを用いた鋼の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】メニスカスよりも上方位置にアルゴンガスの供給部5を備え、ノズルの断面形状がモールドの長手方向に長辺が位置する扁平形状であり、長辺方向のノズル内径幅Wが100mm以上である浸漬ノズルを用いる。これを連続鋳造設備のモールド6内に浸漬し、ノズルの内部空間7にアルゴンガスを供給するとともに、吐出孔10の近傍に電磁ブレーキを強く作用させながら溶鋼を供給し、連続鋳造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的小型の鋳片の製造に適した浸漬ノズル及びこれを用いた鋼の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造は、タンディッシュ内の溶鋼を浸漬ノズルを介して連続鋳造設備のモールド内に供給しながら行われる。溶鋼は浸漬ノズルの下端部に形成された吐出孔からモールド内に吐出される。特許文献1に示されるように、この浸漬ノズルの内部には従来からアルゴンガスが供給されている。なお特許文献1に示されるように、浸漬ノズルは通常は円筒形である。
【0003】
浸漬ノズルへのアルゴンガスの供給は、アルミナクラスター等によるノズル閉塞の防止、モールド湯面への熱供給、モールド内介在物の浮上分離等の目的で行われる。しかしこれらの効果の増大のためにアルゴンガスの吹き込み量が多くなると、溶鋼とともにアルゴン気泡が大量にモールド内に流出して浮上する。そしてその一部が凝固シェルに巻き込まれたまま凝固すると、鋳片にスリバーと呼ばれる表面欠陥が発生することとなる。特に凝固シェルに巻き込まれたアルゴンガスの気泡径が1mmを超えると、スリバーの原因となり易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−334638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、浸漬ノズルに吹き込まれたアルゴンガスによるスリバーの発生を抑制することができる浸漬ノズル及びこれを用いた鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明の浸漬ノズルは、連続鋳造設備のモールド内に溶鋼を供給する浸漬ノズルであって、メニスカスよりも上方位置にアルゴンガスの供給部を備え、ノズルの断面形状がモールドの長手方向に長辺が位置する扁平形状であり、長辺方向のノズル内径幅が100mm以上であることを特徴とするものである。
【0007】
なお、長辺方向のノズル内径幅が120mm以上であることが好ましく、長辺方向のノズル内径幅が300mm以下であることが好ましい。
【0008】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の鋼の連続鋳造方法は、メニスカスよりも上方位置にアルゴンガスの供給部を備え、ノズルの断面形状がモールドの長手方向に長辺が位置する扁平形状であり、長辺方向のノズル内径幅が100mm以上である浸漬ノズルを連続鋳造設備のモールド内に浸漬し、前記供給部からノズルの内部空間にアルゴンガスを供給するとともに、ノズルの吐出孔の近傍に電磁ブレーキを作用させながら溶鋼を供給することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の浸漬ノズルは、モールドの長手方向に長辺が位置し、長辺方向のノズル内径幅が100mm以上である扁平な断面形状を持つものであり、吐出孔は長手方向の両端に形成されている。このため従来の断面円形の浸漬ノズルとは異なり、溶鋼がノズルの中央から長手方向の両端に形成された吐出孔に達するまでにある程度の時間を要する。しかも本発明ではノズルの吐出孔の近傍に電磁ブレーキを作用させ、吐出流とは反対方向のMHD対向流を生じさせて吐出流にブレーキを掛け、吐出流の流速を抑制する。
【0010】
このため後述する実施例に示すように、扁平な浸漬ノズルの内部を移動する間に溶鋼中のアルゴン気泡を十分に浮上させ、吐出孔からモールド内に流出するアルゴン気泡量を減少させることができる。この結果、浸漬ノズルに吹き込まれたアルゴンガスによるスリバーの発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の浸漬ノズルの実施形態を示す縦断面図と水平断面図である。
【図2】本発明の浸漬ノズルの実施形態を示す側面方向の断面図である。
【図3】本発明の浸漬ノズルの使用状態を示す断面図である。
【図4】本発明の浸漬ノズルの使用状態を示す平面図である。
【図5】吐出孔部分の拡大断面図である。
【図6】ノズル内径幅とモールド内に出て行く気泡比率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1と図2は本発明の浸漬ノズルの断面図である。この浸漬ノズル1は全体が耐火物製であり、円筒状の首部2と、扁平で断面形状が長方形に近い本体部3とからなるものである。比較的浸食され易いメニスカス(溶湯液面)近傍の本体部3の外周面には、高耐食層4が形成されている。またメニスカスよりも上方位置には、アルゴンガスの供給部5が形成されている。
【0013】
このアルゴンガスの供給部5は多孔質層を首部2の内周面に形成したもので、外部側方から供給されるアルゴンガスを首部2内のメニスカスよりも上部空間7に供給するためのものである。上部空間7に供給されたアルゴンガスは落下する溶鋼流に巻き込まれて溶鋼中に入り、アルゴン気泡となって介在物の浮上分離等の機能を発揮する。また浸漬ノズル1内への空気の進入を阻止してアルミナクラスター等の生成を防止し、ノズル閉塞を防止する。
【0014】
この浸漬ノズル1は図3、図4に示されるように、比較的小型の鋳片を連続鋳造するための、横長のモールド6の内部に浸漬されるものである。モールド6の内径寸法は、例えば250mm×1630mmであり、この実施形態ではIF鋼用の比較的小型の鋳片を連続鋳造するものである。本発明の浸漬ノズル1はこのようなモールド6の中心に浸漬されるものであるから、その本体部3のノズルの断面形状は、モールド6の長手方向に長辺8が位置する扁平形状となっている。また短辺9の外径サイズは150mm前後としてモールド6内に浸漬できるようにしてある。なお本体部3の短辺方向の内径サイズは50mm程度である。吐出孔10は浸漬ノズル1の下端部の短辺9にそれぞれ形成されている。
【0015】
本発明の浸漬ノズル1は、その長辺方向のノズル内径幅Wを100mm以上と大きくしてある。このように長辺方向のノズル内径幅Wを100mm以上とすることにより、溶鋼がノズルの中央から長手方向の両端に形成された吐出孔10に達するまでに要する時間が従来よりも長くなり、その間にアルゴン気泡を浮上させることができる。このためには長辺方向のノズル内径幅Wは大きいほうが好ましく、120mm以上とすることがより好ましい。しかしノズル内径幅Wを余りに大きくすると浸漬ノズル1の現場での取り回しが困難となるうえ、余りに大きくすると、吐出流がモールド短辺へ衝突する影響が大きくなり、凝固シェル厚みの健全な形成を阻害することから、300mm以下とすることが好ましい。
【0016】
本発明の浸漬ノズル1を使用して連続鋳造を行う際には、図3に示すようにアルゴンガスの供給部5から上部空間7にアルゴンガスを供給するとともに、吐出孔10の近傍に電磁コイル11を配置して電磁ブレーキを作用させながら、連続鋳造を行う。これにより図5に示すように、吐出流とは反対方向のMHD対向流を生じさせて吐出流にブレーキを掛け、吐出流の流速を抑制する。
【0017】
この結果、浸漬ノズル1の吐出孔10から吐出流とともにモールド6内に流出しようとするアルゴン気泡を十分に浮上させ、吐出孔10からモールド6内に流出するアルゴン気泡量を減少させることができる。従って本発明によれば、アルゴンガスによるノズル閉塞の防止や介在物の浮上分離などの効果を維持しつつ、スリバーの発生を抑制することが可能となる。またアルゴンガスの消費量も削減することができる。なお、供給部5からのアルゴンガスの供給流量は、溶鋼中への消費量とノズル内への浮上・回収量バランスを考慮し、ノズル7内を正圧に確保する流量とする。
【0018】
上記した本発明の効果を得るために必要な条件は、浸漬ノズル1のノズル内径幅Wを100mm以上とすることと、吐出流に電磁ブレーキを加えることである。図6はノズル内径幅Wとモールド6内に出て行く気泡比率との関係を示すグラフである。上記サイズのモールド6に溶鋼を供給するために用いる従来の浸漬ノズルは水平断面が円形でノズル内径幅Wは70mmであるから、この従来型の浸漬ノズルを用いた場合に直径が1mmのアルゴン気泡がモールド6内に出て行く量を100%とし、ノズル内径幅Wを変化させた場合の値を求めた。なお、この測定を実機により行うことは不可能であるから、図6のグラフの値は市販の熱・流体解析ソフトであるフルーエントを用いた計算により求めた結果である。この場合、鋳造速度Vcは1.6m/minとした。
【0019】
このグラフに示されるように、従来は70mmであったノズル内径幅Wを100mmとするとモールド6内に出て行く気泡比率は80%に減少し、120mmとすると70%に減少する。さらに170mmとすれば50%にまで減少する。本発明者はノズル内径幅Wが170mmの扁平ノズルを試作して実機による鋳造試験を行ったところ、スリバー欠陥の発生数が従来の50%以下にまで減少することを確認済みである。
【0020】
なお、電磁ブレーキの強度は通常の場合よりもやや強く設定することは好ましく、例えば0.3〜0.5T(テスラ)とすることが好ましい。
【0021】
以上に説明したように、本発明によれば溶鋼中のアルゴン気泡を浸漬ノズルの内部において十分に浮上させ、吐出孔からモールド内に流出するアルゴン気泡量を減少させることにより、スリバー欠陥を抑制することが可能となる。
【0022】
なお、吐出孔10のサイズはモールド6内に供給すべき溶鋼量によって決定されるものであるから、従来と変わるものではない。また短辺方向のノズル内径幅は本発明においては特に重要なものではなく、モールドサイズから決定される値とすれば差支えない。
【0023】
上記した実施形態では浸漬ノズル1の本体部3の水平断面は略長方形であるが、長楕円形としても差支えない。また本発明はIF鋼以外にも表面欠陥の発生を嫌う鋳片の製造に広く適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0024】
1 浸漬ノズル
2 首部
3 本体部
4 高耐食層
5 アルゴンガスの供給部
6 モールド
7 上部空間
8 長辺
9 短辺
10 吐出孔
11 電磁コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造設備のモールド内に溶鋼を供給する浸漬ノズルであって、メニスカスよりも上方位置にアルゴンガスの供給部を備え、ノズルの断面形状がモールドの長手方向に長辺が位置する扁平形状であり、長辺方向のノズル内径幅が100mm以上であることを特徴とする浸漬ノズル。
【請求項2】
長辺方向のノズル内径幅が120mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の浸漬ノズル。
【請求項3】
長辺方向のノズル内径幅が300mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の浸漬ノズル。
【請求項4】
メニスカスよりも上方位置にアルゴンガスの供給部を備え、ノズルの断面形状がモールドの長手方向に長辺が位置する扁平形状であり、長辺方向のノズル内径幅が100mm以上である浸漬ノズルを連続鋳造設備のモールド内に浸漬し、前記供給部からノズルの内部空間にアルゴンガスを供給するとともに、ノズルの吐出孔の近傍に電磁ブレーキを作用させながら溶鋼を供給することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−39590(P2013−39590A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177407(P2011−177407)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】