説明

液体収容容器および分析装置

【課題】 有害なサンプル液についてバイオアッセイを行う際に、安全に作業を行うことができる液体収容容器、ならびにそのような液体収容容器を使用する分析装置を提供する。
【解決手段】 液体Xを収容する内部空間Sの一部を形成する容器本体10と、前記内部空間Sの一部を形成するとともに、液体Xを採取する採取針が貫通可能であり、液密状態を維持しながら内部空間Sの容積を変更可能に容器本体10に対して摺動する摺動部材20とを備えた液体収容容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫化学、生化学等に基づく各種分析において使用する液体収容容器および液体収容容器を装着可能な分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の微細加工技術(MEMS)を応用して製造されたバイオアッセイ用マイクロチップが、生化学、医療等の分野において使用されている。バイオアッセイ用マイクロチップは、その基材中に、例えば、サンプル注入孔・サンプル排出孔・微小な毛細管状の流体流路・この液体流路と接続する反応領域としての反応チャンバ・電気泳動カラム・膜分離機構等の構造が形成されている。このようなバイオアッセイ用マイクロチップは、主にDNA分析デバイス・微小電気泳動デバイス・微小クロマトグラフィーデバイス・微小センサー等のように、生体試料を測定する用途で使用される。
【0003】
近年、ダイオキシン類やダイオキシン様物質であるPCB等の有害物質の分析においてもバイオアッセイ用マイクロチップが用いられている。その一例として、バイオアッセイ用マイクロチップを使用した抗ダイオキシン抗体結合アッセイが挙げられる。抗ダイオキシン抗体結合アッセイは、抗ダイオキシン抗体とダイオキシンとの特異的な結合反応を利用して行われるものである。この結合反応は、細胞内ではなくバイオアッセイ用マイクロチップ内で行われる。これにより、ダイオキシン類の定量的な測定を可能にしている。
【0004】
ここで、ダイオキシンを含む測定試料のバイオアッセイ用マイクロチップへの投入は、従来以下のような手順で行われていた。
(1)予め調整しておいたダイオキシンを含有するサンプル液を容器に入れておき、当該容器から所定量をシリンジで吸引する。
(2)シリンジ先端の針をバイオアッセイ用マイクロチップのサンプル投入口に接続する。
(3)シリンジのピストンを押し込んでサンプル液をバイオアッセイ用マイクロチップに注入する。
【0005】
ここで、従来サンプル液の吸引および注入に使用するシリンジとしては、一般には、シリンダと針とが一体不可分の状態で使用されるものが用いられていた。この他、シリンダに針が着脱可能にされており、継手をシリンジ先端に装着してサンプル液をシリンダ内に導入した後、バイオアッセイ用マイクロチップへの注入時には継手を取り外して新しい針に付け替えるタイプのシリンジが用いられていた(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−81819号公報(第9図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、従来公知のシリンジは、容器からサンプル液を採取するときに、必然的にシリンジ先端の針をサンプル液に接触させることになる。このため、サンプル液を採取した後、シリンジをバイオアッセイ用マイクロチップのサンプル投入口に移動させるときに、針に付着したサンプル液が人体に接触する等、不都合が生じる場合がある。また、サンプル液をシリンダに充填した状態で、誤ってピストンを押し込んでしまうと、中のサンプル液が飛散するおそれもある。
【0008】
一方、特許文献1のシリンジは、サンプル液の採取を、継手を介して行っており、バイオアッセイ用マイクロチップへの注入時には継手を針に付け替えているので、サンプル液の付着した針が作業者に触れることはない。しかし、継手を針に付け替える作業を行う際にはやはり作業者にサンプル液が付着するおそれがある。また、特許文献1のシリンジであっても、誤ってピストンを押し込んだ場合には、中のサンプル液が飛散してしまう。
【0009】
上記の危険性は、サンプル液がダイオキシンやPCB(ポリ塩化ビフェニール)のような有害物質である場合、作業者および作業環境の安全確保の観点から特に問題となる。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、有害なサンプル液についてバイオアッセイを行う際に、安全に作業を行うことができる液体収容容器、ならびにそのような液体収容容器を使用する分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る液体収容容器の特徴構成は、液体を収容する内部空間の一部を形成する容器本体と、前記内部空間の一部を形成するとともに、前記液体を採取する採取針が貫通可能であり、液密状態を維持しながら前記内部空間の容積を変更可能に前記容器本体に対して摺動する摺動部材とを備えた点にある。
【0012】
本構成の液体収容容器であれば、液密状態を維持しながら摺動部材が容器本体に対して摺動することにより、容器本体および摺動部材によって形成される内部空間の容積を変更することができる。例えば、摺動部材が容器本体の外部側から内部側に向かって摺動すれば、内部空間の容積は徐々に低減する。従って、内部空間に液体を収容した状態で、摺動部材に採取針を貫通させ、上記のように摺動部材を摺動させれば、その摺動動作に伴って液体を採取針から取り出すことができる。そして、このとき液体は、作業開始時から摺動部材に採取針を貫通させるまで内部空間に収容された状態にあるので、液体収容容器を移動させる途中において、液体が作業者に付着したり、周辺に飛散したりするおそれはない。このように本構成の液体収容容器は、安全性に優れている。
【0013】
本発明の液体収容容器においては、前記摺動部材を、前記容器本体の内壁と摺動可能に構成することも可能である。
【0014】
本構成の液体収容容器であれば、摺動部材が摺動する容器本体の内壁は外部環境に直接曝されることがなく常にクリーンな状態が維持されているので、摺動部材が内壁と摺動する際に、摺動部材の摺動面と内壁面との間に異物等が入り込むおそれがない。このため、内部空間は、液体を収容したまま良好な密封状態を維持することができ、液体が外部に漏洩することを確実に防止できる。
【0015】
本発明の液体収容容器においては、前記容器本体は開口部を有し、当該開口部を封鎖する蓋部を備えることも可能である。
【0016】
本構成の液体収容容器であれば、容器本体の内部空間に収容する液体の入れ替えが容易になり、しかも、蓋部を取り付けることで内部空間を確実に閉鎖状態にすることができる。
【0017】
本発明に係る分析装置の特徴構成は、液体を収容する内部空間を有する容器本体と、前記内部空間を形成する前記容器本体の内壁と液密状態を維持しながら摺動する摺動部材とを有する液体収容容器と、前記液体収容容器が装着可能であり、前記摺動部材を貫通して前記液体を採取する採取針と、前記摺動部材を押圧可能な押圧手段とを有するバイオアッセイ用マイクロチップとを備えた点にある。
【0018】
本構成の分析装置であれば、液体収容容器をバイオアッセイ用マイクロチップに装着し、その装着状態から液体収容容器をバイオアッセイ用マイクロチップに押し付けると、バイオアッセイ用マイクロチップ側に設けた採取針が液体収容容器の摺動部材を貫通し、さらにバイオアッセイ用マイクロチップ側の押圧手段が液体収容容器の摺動部材を押圧し、当該摺動部材は液体収容容器の容器本体に設けた内部空間に対して液密状態を維持しながら摺動する。このような一連の動作によって、内部空間の容積を低減させることができるので、内部空間に収容した液体を採取針から取り出すことができる。そして、このとき液体は、作業開始時から摺動部材に採取針を貫通させるまで内部空間に収容された状態にあるので、液体収容容器を移動させる途中において、液体が作業者に付着したり、周辺に飛散したりするおそれはない。
【0019】
本発明の分析装置においては、前記液体収容容器が前記バイオアッセイ用マイクロチップから離間することを防止する規制手段を備えることも可能である。
【0020】
本構成の分析装置であれば、液体収容容器をバイオアッセイ用マイクロチップに装着すると、規制手段が液体収容容器を規制して、液体収容容器がバイオアッセイ用マイクロチップから離間することを防止できるので、液体収容容器とバイオアッセイ用マイクロチップとの接続部分から液体収容容器中の液体が外部に漏洩するおそれがない。
【0021】
本発明の分析装置においては、前記摺動部材に前記採取針が貫通した状態において、前記摺動部材を押圧可能な第2押圧手段を、前記液体収容容器と前記バイオアッセイ用マイクロチップとの間に設けることも可能である。
【0022】
本構成の分析装置であれば、液体収容容器をバイオアッセイ用マイクロチップに装着し、採取針を摺動部材に貫通させた後、液体収容容器を押し込むことで、採取針を介して液体を採取することができる。ここで、液体の採取量が少ない場合、液体収容容器を押し込んだ状態から第2押圧手段によって摺動部材を押圧すると、液体を追加的に採取することができる。このため、バイオアッセイ用マイクロチップへの液体の注入量の調節が容易になり、最適なバイオアッセイを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、絶縁油中に含まれるPCBについて抗PCB抗体結合アッセイを行う場合を例に説明するが、PCB以外の有害物質(例えば、ダイオキシン類)であっても同様にして本発明を実施することができる。
【0024】
(分析装置)
図1は、本発明の実施形態による液体収容容器50の断面図である。液体収容容器50は、容器本体10と、摺動部材20とを備えている。
【0025】
容器本体10は、摺動部材20とともに内部空間Sを形成する。内部空間Sには、測定対象試料である液体Xが収容される。液体Xは、例えば、後述する試料調製方法によって調製したPCB含有液とすることができる。また、容器本体10には、内部空間Sと通じる開口部11を形成することができる。この場合、液体収容容器50は、開口部11を封鎖する蓋部12を備えることができる。蓋部12は、例えば、ねじ込み方式、圧入方式等によって容器本体10に固定可能な構成とし、内部空間S内に液体Xを収容した状態で密封することができる。
【0026】
摺動部材20は、内部空間Sの容積を変更可能に、液密状態を維持しながら容器本体10に対して摺動する。例えば、摺動部材20は、図1に示すように、容器本体10の内壁と摺動する。この場合、容器本体10の下端部には、摺動部材20の抜け落ちを防止するストッパ13が形成されている。また、摺動部材20のスムーズな摺動を容易にするべく、摺動部材20の可動領域に対応する内部空間Sの一部は、摺動部材20の輪郭と同じ断面形状を有する円柱状空間部S1として構成されている。また、内部空間Sのうち、上記円柱状空間部S1と通じる残部は、開口部11からの液体Xの導入を容易にするために、開口部11に向かって拡大するテーパー状空間部S2として構成されている。このテーパー状空間部S2により、上方からの攪拌作業を容易にするという効果も得られる。さらに、摺動部材20は、後述する採取針73が貫通可能なように、例えば、ゴム等の弾性部材で構成される。
【0027】
なお。本実施形態では、一例として、摺動部材20が容器本体10の内壁と摺動する構成について説明するが、摺動部材20を、例えば、容器本体10を下方から包囲可能なキャップ形状に構成し、このようなキャップ形状の摺動部材20の内面を容器本体10の外壁に対して摺動させることで内部空間Sの容積を変更可能にすることもできる。すなわち、上記キャップ形状の摺動部材20を容器本体10の外壁に対して、容器本体10の外部側から内部側に向けて摺動させると、内部空間Sの容積が減少するので、摺動部材20を容器本体10の内壁に対して摺動させた場合と同様に、摺動部材20に採取針73を貫通させることで液体Xを安全に採取することができる。
【0028】
図2は、液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に装着する状態を段階的に示した概略図である。なお、上記液体収容容器50とバイオアッセイ用マイクロチップ70とによって、本発明の分析装置100が構成される。
【0029】
図2(a)は、液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に装着する前の状態を示している。バイオアッセイ用マイクロチップ70には、液体収容容器50を受け入れる窪み部71が形成されている。窪み部71の底面72には、液体収容容器50の摺動部材20を貫通可能な採取針73が設置されている。採取針73の周囲は底面72から突起しており、この突起は摺動部材20を押圧可能な押圧手段74として機能する。
【0030】
図2(b)は、液体収容容器50側の摺動部材20がバイオアッセイ用マイクロチップ70側の押圧手段74に当接する位置まで、液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70の窪み部71に挿入した状態を示している。この状態において、採取針73は摺動部材20を貫通し、その先端部が液体収容容器50の内部空間Sにある液体Xの内部に達している。ここで、内部空間Sはその全てが液体Xで満たされることが好ましいが、通常は図2(b)のように一部が液体Xで満たされた状態となることが多い。その場合、液体Xの上方はガス領域となっている。そして、このガス領域が加圧状態であれば、採取針73が摺動部材20を貫通すると同時に液体Xは採取針73を通ってバイオアッセイ用マイクロチップ70に注入される。一方、ガス領域が常圧状態または若干の減圧状態であれば、採取針73が摺動部材20を貫通しても液体Xはバイオアッセイ用マイクロチップ70に殆ど注入されない。
【0031】
図2(c)は、液体収容容器50の最下部が窪み部71の底面72に当接する位置まで、液体収容容器50を図2(b)の状態からさらに押し込んだ状態を示している。図2(c)の状態まで液体収容容器50を押し込むと、摺動部材20は押圧手段74によって押圧力を受け、液体収容容器50の容器本体11の内壁と液密状態を維持しながら摺動する。このとき、内部空間Sにある液体Xは、摺動部材20の摺動量に応じてバイオアッセイ用マイクロチップ70に注入される。ここで、内部空間Sのガス領域が占める割合は、できるだけ少なくしておくことが好ましい。仮に、内部空間Sの全てが液体Xで満たされていた場合は、窪み部71の断面積に摺動量を乗じた分量の液体Xが、そのままバイオアッセイ用マイクロチップ70に注入されることになるが、内部空間Sに大きなガス領域が存在すると、摺動部材20の摺動による容積減少分の一部がガス領域の圧縮に作用し、実質的な液体Xの採取量がガス領域の圧縮分だけ減少するからである。
【0032】
このように、本実施形態の液体収容容器50においては、内部空間Sに液体Xを収容した状態で、液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に装着し、その装着状態から液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に対して押し付けて摺動部材20に採取針73を貫通させることができる。そして、その貫通状態から液体収容容器50をさらに押し込み、押圧手段74の押圧力によって摺動部材20を、液密状態を維持しながら摺動させることができる。この一連の動作に伴って、内部空間Sの容積が低減し、このときの容積排除作用によって液体Xを採取針73からバイオアッセイ用マイクロチップ70側に取り出すことができる。このとき液体Xは、作業開始時から摺動部材20に採取針73を貫通させるまで内部空間Sに収容された状態にあるので、液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に装着するまでの移動途中において、液体Xが作業者に付着したり、周辺に飛散したりするおそれはない。
【0033】
また、摺動部材20が摺動する容器本体10の内壁は外部環境に直接曝されることがなく常にクリーンな状態が維持されている。つまり、容器本体10の内部空間Sは、液体Xを収容してからバイオアッセイ用マイクロチップに注入するまでの間、外部と隔離された状態に維持され、これにより異物等の侵入が防止されている。従って、摺動部材20が容器本体10の内壁と摺動する際に、摺動部材20の摺動面と内壁面との間に異物等が入り込むおそれがない。このため、液体Xを収容した内部空間Sの密封状態が良好に維持され、液体Xが外部に漏洩することを確実に防止できる。
【0034】
さらに、本実施形態の液体収容容器50のように、容器本体10の内部空間S通じる開口部11を形成し、その開口部11を封鎖する蓋部12を設けると、容器本体10の内部空間Sに収容する液体Xの入れ替えが容易になる。そして、蓋部12は、内部空間Sを確実に閉鎖状態にすることができるので、液体Xが外部に飛散するおそれもない。
【0035】
このように、本実施形態の液体収容容器50および分析装置100は安全性が高く、作業者は安心してバイオアッセイを実施することができる。
【0036】
(規制手段)
本実施形態の分析装置100では、液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に装着するに際し、液体収容容器50がバイオアッセイ用マイクロチップ70から離間することを防止する規制手段80を設けることもできる。規制手段80は、例えば、図3に示すように、液体収容容器50の容器本体10の外周面に設けた段部80aとバイオアッセイ用マイクロチップ70の窪み部71の周りに設けた爪部80bとから構成することができる。
【0037】
図3(a)は、液体収容容器50が規制手段80によって規制される前の状態であり、図3(b)および図3(c)は、液体収容容器50が規制手段80によって規制されている状態である。
【0038】
図3(a)の状態から図3(b)の状態に、液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70の窪み部71に挿入し、液体収容容器50の摺動部材20がバイオアッセイ用マイクロチップ70の押圧手段74に当接すると、段部80aは爪部80bと係合する。この状態では、液体収容容器50の内部空間Sは、採取針73を介して、バイオアッセイ用マイクロチップ70と連通状態となるが、規制手段80が液体収容容器50の上方への移動を規制する。このため、液体収容容器50とバイオアッセイ用マイクロチップ70との接続部分から液体収容容器中50の液体Xが外部に漏洩するおそれがなく、液体XがダイオキシンやPCBのような有害物質であっても、安全性を確保することができる。
【0039】
さらに、図3(b)の状態から図3(c)の状態に、液体収容容器50の最下部が窪み部71の底面72に当接する位置まで、液体収容容器50を図3(b)の状態からさらに押し込んでも、段部80aと爪部80bとの係合が維持されることで規制手段80が液体収容容器50の上方への移動を規制し続けるので、分析装置100の安全性は引き続き確保される。
【0040】
なお、前記規制手段80は、前記蓋部12に係合する構成としてもよい。本構成であれば、液体収容容器50の規制とともに、蓋部12が外れることも規制できるので、より安全性の高い液体収容容器50を得ることができる。また、液体収容容器50から液体Xをすべて採取した後は、液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に装着した状態で廃棄する場合があるが、このとき規制手段80は蓋部12が外れることを規制するので、安全に廃棄を行うことができる。
【0041】
(第2押圧手段)
本実施形態の分析装置100では、液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に装着し、摺動部材20に採取針73が貫通した状態において、摺動部材20を押圧可能な第2押圧手段90を、液体収容容器50とバイオアッセイ用マイクロチップ70との間に設けることもできる。第2押圧手段90は、例えば、図4に示すように、液体収容容器50の容器本体10の外側面下部に設けた雄ねじ部90aおよびバイオアッセイ用マイクロチップ70の窪み部71の内周面下部に設けた雌ねじ部90bと、押圧手段74とから構成することができる。図4(a)は液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に装着する前の状態であり、図4(b)は液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に装着した状態であり、図4(c)は雄ねじ部90aと雌ねじ部90bとを完全に係合させた状態である。
【0042】
液体収容容器50を、図4(a)の状態から図4(b)の状態にすると、採取針73が摺動部材20を貫通する。この間、摺動部材20は押圧手段74と接触しないので、摺動部材20に対して摺動を引き起こす力は殆どかからない。そのため、液体収容容器50の内部空間Sの内圧上昇は殆んど起こらない。
【0043】
次に、図4(b)の状態から液体収容容器50を押し込むと、摺動部材20が摺動し、採取針73を介して液体Xを採取することができる。ここで、液体Xの採取量が少ない場合、第2押圧手段90によって摺動部材20を押圧する。これにより、液体Xを追加的に採取することができる。具体的には、液体収容容器50を捻り込むと、雄ねじ部90aと雌ねじ部90bとが係合し、液体収容容器50はバイオアッセイ用マイクロチップ70に近接する方向に変位し、最終的に図4(c)の状態となる。このとき、摺動部材20は、摺動部材20に採取針73が貫通した状態で、押圧手段74から押圧力を受けて液密状態を維持しながら摺動する。従って、内部容積Sが減少し、摺動部材20の摺動量に応じた量の液体Xを正確に採取することができる。このように、第2押圧手段90によれば、バイオアッセイ用マイクロチップ70への液体Xの注入量の調節が容易になり、最適なバイオアッセイを行うことができる。
【0044】
第2押圧手段90は、例えば、図5に示すように、液体収容容器50の容器本体10の外側面下部に設けた段付部91aおよびバイオアッセイ用マイクロチップ70の窪み部71の内周面下部に設けた弾性部材91bと、押圧手段74とから構成したものであってもよい。この構成では、液体Xの採取量が不足している場合に、液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に対して押し込むと、段付部91aと弾性部材91bとが弾性的に係合する。このとき、作業者は、弾性部材91bの高さ方向において摺動部材20が摺動する量を微調節することができるので、内部空間Sに収容されている液体Xを、上記摺動量に応じて採取針73から容易に採取することができる。このように、本構成の第2押圧手段90を有する分析装置100においても、バイオアッセイ用マイクロチップ70への液体Xの注入量の調節が容易になり、最適なバイオアッセイを行うことができる。
【0045】
(バイオアッセイ)
次に、液体収容容器50およびバイオアッセイ用マイクロチップ70を備えた本発明の分析装置100を用いて行うバイオアッセイについて説明する。バイオアッセイでは、前段階として試料調製を行う。例えば、絶縁油に含まれるPCBを分析する場合、PCB含有絶縁油を有機溶媒(例えば、DMSO)と混合し、溶媒抽出法によって絶縁油に含まれるPCBを有機溶媒側に抽出する。この溶媒抽出は、必要に応じて複数回繰り返してもよい。溶媒抽出物を適量のバッファ液と混合し、これを測定サンプル(液体X)とする。なお、本発明の分析装置100を用いるバイオアッセイでは、液体Xを予め液体収容容器50に収容しておき、これをアッセイに直接使用する。
【0046】
図6は、液体Xが収容された液体収容容器50とバイオアッセイ用マイクロチップ70とを備えた本発明の分析装置100の全体図である。液体収容容器50およびバイオアッセイ用マイクロチップ70は、例えば、アクリル樹脂やPDMSで構成される。バイオアッセイ用マイクロチップ70には流路110が設けられており、当該流路110は、反応部120、および廃液タンク130と連通可能にされている。ここで、反応部120には、例えば、蛍光標識を標識した抗PCB抗体が予め仕込まれている。この抗PCB抗体は、反応部120の内壁に固定してもよいし、あるいは反応部120に入れた樹脂ビーズやガラスビーズ等の表面に固定してもよい。また、流路110には、バッファ液を送り込むためのシリンジポンプ140が接続されている。バイオアッセイは、以下の手順で行う。
【0047】
(1)バイオアッセイ用マイクロチップ70に液体収容容器50を装着する。このとき、液体収容容器50は、摺動部材20が押圧手段74に当接した状態にされる(例えば、図2(b)の状態)。
(2)シリンジポンプ140を作動させ、流路110にバッファ液を送り出す。このとき、余分なバッファ液は、廃液タンク130に排出される。また、バッファ液の圧力と液体収容容器50の内部空間Sの圧力とは略均衡を保つことができるので、バッファ液が液体収容容器50内に流入することは殆んどない。ただし、必要に応じて、液体収容容器50に通じる流路110にバルブを設けることも可能である。
(3)流路110にバッファ液が満たされたら、シリンジポンプ140を停止し、液体収容容器50をバイオアッセイ用マイクロチップ70に押し込む(例えば、図2(c)の状態)。このとき、液体収容容器50に収容されている液体Xは採取針73から流路110に注入され、反応部120の方に進行する。
(4)再びシリンジポンプ140を作動させ、液体Xを完全に反応部120に進行させる。反応部120では、液体Xに含まれるPCBと標識した抗PCB抗体とが反応して結合体が生成される。
【0048】
このようにして得られた結合体を、分光光度計等で分析することで、PCBの存在を定性的または定量的に確認することができる。このように、本発明の分析装置100を使用してバイオアッセイを実施すれば、従来の装置から特に大きな変更を施すことなく、低コストで安全にPCB等の有害物質の分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の液体収容容器の断面図
【図2】液体収容容器をバイオアッセイ用マイクロチップに装着する状態を段階的に示した概略図
【図3】規制手段を設けた本発明の分析装置の概略図
【図4】第2押圧手段を設けた本発明の分析装置の概略図
【図5】別実施形態による第2押圧手段を設けた本発明の分析装置の概略図
【図6】液体収容容器とバイオアッセイ用マイクロチップとを備えた本発明の分析装置の全体図
【符号の説明】
【0050】
10 容器本体
20 摺動部材
50 液体収容容器
70 バイオアッセイ用マイクロチップ
73 採取針
74 押圧手段
80 規制手段
90 第2押圧手段
100 分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する内部空間の一部を形成する容器本体と、
前記内部空間の一部を形成するとともに、前記液体を採取する採取針が貫通可能であり、液密状態を維持しながら前記内部空間の容積を変更可能に前記容器本体に対して摺動する摺動部材とを備えた液体収容容器。
【請求項2】
前記摺動部材を、前記容器本体の内壁と摺動可能に構成してある請求項1に記載の液体収容容器。
【請求項3】
前記容器本体は開口部を有し、当該開口部を封鎖する蓋部を備えた請求項1または2に記載の液体収容容器。
【請求項4】
液体を収容する内部空間を有する容器本体と、前記内部空間を形成する前記容器本体の内壁と液密状態を維持しながら摺動する摺動部材とを有する液体収容容器と、
前記液体収容容器が装着可能であり、前記摺動部材を貫通して前記液体を採取する採取針と、前記摺動部材を押圧可能な押圧手段とを有するバイオアッセイ用マイクロチップとを備えた分析装置。
【請求項5】
前記液体収容容器が前記バイオアッセイ用マイクロチップから離間することを防止する規制手段を備えた請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記摺動部材に前記採取針が貫通した状態において、前記摺動部材を押圧可能な第2押圧手段を、前記液体収容容器と前記バイオアッセイ用マイクロチップとの間に設けてある請求項4または5に記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−329764(P2006−329764A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152480(P2005−152480)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】