説明

液体吐出ヘッドおよびその製造方法

【課題】円筒形圧電素子のノーマル変形によってインク等液体を加圧するグールドタイプの液体吐出ヘッドのマルチノズル化を促進する。
【解決手段】ノーマル変形によって筒状加圧室2を加圧する圧電素子層7は、筒状加圧室2の上部の半円筒状に湾曲した内壁面3に沿って形成された湾曲部を有し、該湾曲部のノーマル変形によって筒状加圧室2を加圧する。筒状加圧室2の下部は、ベースプレート1の表面による平面部となっているため、ベースプレート1上にフォトリソグラフィー技術によって柱状型を形成し、その上に金属層4や下地層5を積層し、さらに圧電素子層7を真空成膜等によって積層することによって、複数の筒状加圧室2を高密度に一括して製作することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタ等の記録装置において、インク等の液滴を発生するための液体吐出ヘッドおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
なお「記録装置」とは、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の被記録媒体に対し記録を行う、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサ等の装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業用記録装置を含むものである。
【0003】
また、「記録」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を付与することをも意味するものである。
【背景技術】
【0004】
電気信号により作動する圧電性のトランスデューサ(電気−機械変換素子)を有するインクジェットプリンタ等に用いるプリントヘッド、詳しくはドロップ−オン−デマンド(drop−on−demand)型の液体吐出ヘッドは当該分野においてはよく知られている。なかでも典型的なものは、インクチャンバ(加圧室)に機械的に接続されたトランスデューサを有し、このトランスデューサに電気信号が加えられると、インクチャンバ内またはそれに対してトランスデューサの形状または寸法が変化し、それにより、オリフィス(ノズル)からインク(液滴)が吐出される。
【0005】
このような圧電方式の液体吐出ヘッドにはいくつかの種類があるが、特許文献1に開示されているグールドタイプと呼ばれている円筒形圧電素子を用いる液体吐出ヘッドにおいては、インクチャンバ内またはそれに対するトランスデューサの形状または寸法の変化は、圧電素子の円筒壁の圧縮や膨張によるノーマルモードの変形(ノーマル変形)によってなされる。
【0006】
一般にノーマルモードの変形は、剪断によるシェアモードの変形に比べて、電気−機械変換効率が高く、しかも、グールドタイプの液体吐出ヘッドでは、径方向振動モード(d33モード)と周方向振動モード(d31モード)による両方の変形がインクチャンバの形状または寸法の変化に寄与している。
【0007】
このため、グールドタイプの液体吐出ヘッドは極めてエネルギー効率のよいヘッドになっている。
【特許文献1】特開平9−24615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来技術によるグールドタイプの液体吐出ヘッドは、円筒形圧電素子を個別に製作して組み合わせる構成であるため、ノズル数を増やしていくことが非常に困難となっており、マルチノズルで実用化されたヘッドは、せいぜい10ノズル程度までとなっている。
【0009】
また、このような組み合わせによるマルチノズルヘッドは、全体寸法が大きく、その結果、密に充填されたアレイに一体に配置することができない。このため、得られる出力ドットの密度が減少し、これが、例えばプリンタの印字の鮮明度を減らすことになる。
【0010】
さらに、このような組み合わせによるマルチノズルヘッドに関するもう1つの問題点は、デバイス内に多くの部品が存在することによってコストが増え、また、製造が困難になるという点である。
【0011】
本発明は上記従来の技術の有する未解決の課題に鑑みてなされたものであり、エネルギー効率の高いグールドタイプの液体吐出ヘッドであって、しかもマルチノズル化が容易であり、記録装置の小型化、高密度化および低価格化に大きく貢献できる液体吐出ヘッドおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の液体吐出ヘッドは、それぞれ溝を備えた複数の圧電素子と、該複数の圧電素子を支持するベースプレートと、を有し、前記複数の圧電素子の前記溝と前記ベースプレートとによって筒状加圧室が複数形成されており、前記圧電素子の変形によって前記筒状加圧室内の液体を加圧し、前記筒状加圧室に連通する吐出口から液体を吐出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の記録装置は、請求項1記載の液体吐出ヘッドを搭載し、前記液体吐出ヘッドから吐出される液体によって被記録媒体に記録を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
電気−機械変換効率の高いノーマル変形を行う円筒形圧電素子を、フォトリソグラフィー技術を用いてベースプレート上に高密度で一括して形成することができるため、円筒形圧電素子を個別に製作して、マニホルド等に組み付ける場合に比べて、グールドタイプの液体吐出ヘッドのマルチノズル化を低価格で実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に示すように、平板状のベースプレート1上に配列された複数の筒状加圧室2を有し、筒状加圧室2を構成する半円筒状または略円筒状の溝の内壁面3を形成する金属層4上には、下地層5、接地側電極層6、圧電素子層7および駆動側電極層8が積層され、各筒状加圧室2を加圧するための圧電素子が形成されている。圧電素子層7に筒状加圧室2の軸に対して略放射方向の電界を印加し、圧電素子層7の各湾曲部にd31、d33モードのノーマル変形を発生させることで、筒状加圧室2内のインク等液体を加圧し、筒状加圧室2に連通して配設された、図示しない吐出手段であるノズルから液滴を噴射する。
【0016】
筒状加圧室2を筒状形成する壁の一部、多くとも半周以下は、圧電素子層7に電界を印加した時においても変形しないベースプレート1の表面の一部による固定壁であり、ベースプレート1は隣接する筒状加圧室2との共通部材となっている。
【0017】
筒状加圧室2は、ベースプレート1上に柱状の型を形成し、この型上に金属層4、下地層5、圧電素子層7等を成膜することによって形成される。特に圧電素子層7は、真空成膜によって成膜するのが望ましい。
【0018】
(実施例)
図1は、一実施例による液体吐出ヘッドの吐出駆動部の断面構成を示すもので、ベースプレート1上に、一般的にインクチャンネルと呼ばれる半円筒状または略円筒状の筒状加圧室2を有し、各筒状加圧室2の、軸方向の一端には、インク等液体を吐出して被記録媒体に記録を行うための図示しない吐出口(ノズル)が形成され、また、筒状加圧室2の軸方向の他端には、図示しないインクタンク等液体供給手段に連通する液体供給室が接続されている。
【0019】
すなわち、ベースプレート1の直上に、筒状加圧室2の湾曲した内壁面3を形成するNiなどによる金属層4が設けられ、その上にMgOからなる下地層5、Ptからなる格子間距離バッファ層を兼ねた接地側電極層6が配設される。これらの層は後述するPZTの結晶性を向上するために設けてある。
【0020】
接地側電極層6上に圧電材であるPZTからなる圧電素子層7が形成され、さらにその上には、Auからなる駆動側電極層8が形成されている。この駆動側電極層8は分離帯9によって各筒状加圧室2ごとに分割され、個別の圧電素子を構成して駆動ドライバに接続されているため、個々のノズルからのインク等液滴の吐出を制御することができ、ドロップ−オン−デマンドの記録を可能としている。
【0021】
図2は、単一の筒状加圧室2に電界を印加した際の、圧電素子層7の機械的な動きを説明するもので、あらかじめ2つの電極層6、8の間に電圧を加え、圧電素子層7に矢印R1 で示す方向にポーリング(径方向分極)を与えておく。
【0022】
インク等液滴の吐出時には、駆動側電極層8に正の電圧を印加すると、圧電素子層7の各湾曲部にはポーリングの向きと平行な径方向の電界が与えられるので、ノーマルモードで振動する。このときポーリングの方向と電界の方向は同一なので、圧電素子層7はd33モードの変形を起こし、矢印R2 で示すように厚み(径方向の寸法)を増し、筒状加圧室2内のインク等液体を加圧する方向に動く。同時にd31モードの変形により、矢印R3 で示す周方向への収縮が発生し、その結果、筒状加圧室2が破線で示すように大きく収縮し、内部のインク等液体を加圧する作用を促進する。
【0023】
このようにd31とd33両モードの変形を有効に加圧作用に変換できるので、エネルギー効率のよい液滴吐出を行うことができる。
【0024】
図3は、上記の液体吐出ヘッドを製造する方法を示すもので、まず、(a)に示すように、各ノズルの共通のベースプレート1上に光感光性レジスト12を塗布する。これに、マスク13を介して筒状加圧室2のパターンを露光する。次にエッチングを行い未露光部分のレジストを除去する。このようにして、図3の(b)に示すように、各ノズルの共通のベースプレート1上に筒状加圧室2の形状を有する型である柱状型14をフォトリソグラフィー技術を用いて形成する。前記のエッチングは、柱状型14が図示したようななだらかな形状になるように、オーバーエッチングを行う。
【0025】
次いで、図3の(c)に示すように、柱状型14上にNiをメッキして筒状加圧室2の内壁面3を構成する金属層4を形成し、柱状型14を溶出することによって、筒状加圧室2を形成する。
【0026】
次に、図3の(d)に示すように、金属層4上にMgOの下地層5、Ptからなる格子間距離バッファ層を兼ねる接地側電極層6、PZT材からなる圧電素子層7を真空成膜法により順次形成する。
【0027】
さらに圧電素子層7上には、図3の(e)に示すように、Auからなる駆動側電極層8を真空成膜法により形成する。形成された駆動側電極層8には、レーザアブレーションLにより、図3の(f)に示すように、分離帯9が形成され、各筒状加圧室2ごとに分割され、それぞれ、図示しない圧電素子の駆動ドライバに接続させる。
【0028】
上述した圧電材料のポーリング方向または電圧極性は逆であってもかまわない。また、筒状加圧室および圧電素子層の材料、形状、寸法等は、目的とするトランスデューサの動作を達成するために任意に変更自在である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】一実施例による液体吐出ヘッドの構成を説明するものである。
【図2】単一の筒状加圧室に電界を印加した際の、圧電素子の動作を示す図である。
【図3】液体吐出ヘッドの製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ベースプレート
2 筒状加圧室
3 内壁面
4 金属層
5 下地層
6 接地側電極層
7 圧電素子層
8 駆動側電極層
14 柱状型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ溝を備えた複数の圧電素子と、該複数の圧電素子を支持するベースプレートと、を有し、前記複数の圧電素子の前記溝と前記ベースプレートとによって筒状加圧室が複数形成されており、前記圧電素子の変形によって前記筒状加圧室内の液体を加圧し、前記筒状加圧室に連通する吐出口から液体を吐出することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記筒状加圧室の径方向および周方向に関する前記圧電素子の寸法変化によって前記筒状加圧室の液体を加圧し、前記吐出口から液体を吐出する請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記圧電素子は、前記筒状加圧室の径方向に分極していることを特徴とする請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
圧電素子の変形によって筒状加圧室内の液体を加圧し、前記筒状加圧室に連通する吐出口から液体を吐出する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
ベースプレート上に前記筒状加圧室の形状を有する型を形成する工程と、
前記型の上に圧電材を積層することにより、溝を有する前記圧電素子を形成する工程と、
前記型を除去することにより、前記ベースプレートと前記溝とによって形成される前記筒状加圧室を形成する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記圧電材を積層する工程において、真空成膜によって前記圧電材を積層することを特徴とする請求項4記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の液体吐出ヘッドを搭載し、前記液体吐出ヘッドから吐出される液体によって被記録媒体に記録を行うことを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−159591(P2006−159591A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353682(P2004−353682)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】