液体吐出ヘッド及びその製造方法
【課題】本発明の目的は、インクなどの液体に対する耐性に優れ、流路形成部材の基体との密着性が良好であり、信頼性の高い吐出性能を有する液体吐出ヘッドを提供とすることにある。
【解決手段】本発明は、基体と、該基体の上に液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する液体流路とを構成する流路形成部材と、を含む液体吐出ヘッドであって、前記流路形成部材は有機樹脂で形成され、前記基体の上であって前記流路形成部材の内部に無機材料からなる土台部材を有し、該土台部材は前記流路形成部材と接する面に凹凸を有することを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【解決手段】本発明は、基体と、該基体の上に液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する液体流路とを構成する流路形成部材と、を含む液体吐出ヘッドであって、前記流路形成部材は有機樹脂で形成され、前記基体の上であって前記流路形成部材の内部に無機材料からなる土台部材を有し、該土台部材は前記流路形成部材と接する面に凹凸を有することを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出させるための液体吐出ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、微少量のインクを液滴として吐出口から高速で吐出することにより、高精細な画像を高速記録することができるという特徴がある。また、この方式により、インクのみならず、各種の液体を吐出させる技術が開発されている。
【0003】
インクジェット記録方式を実現するためのインクジェット記録ヘッドには種々の吐出方式がある。中でも、インクジェット記録ヘッドの構成としては、インクジェット記録ヘッド用の基板上に、基体の有する発熱部に対応してインクを吐出させるためのノズル(吐出口)を有する流路形成部材を形成した構成が一般的である。インクジェット記録ヘッド用の基体としては、インクを加熱発泡させるための複数の発熱部(ヒーター)およびこれに電気的接続を行う配線等を同一の基体上に作製した構成が一般的である。これらの構成は、半導体製造工程と同様のプロセスを用いて製造することができる。したがって、この構成によれば、半導体製造工程と同様のプロセスを用い、発熱抵抗体および配線等を高密度に多数配置したインクジェットヘッド用基体を容易かつ精度高く製造することができるので、記録の高精細化および高速化を実現できる。
【0004】
図11は、従来のインクジェット記録ヘッドを製造する工程を示す断面工程図である。
【0005】
発熱部1102が形成された基体1101の裏面に形成されたシリコン酸化膜1107上に、インク供給口1110を形成するための耐アルカリ性を有するパターニングマスク1108を形成する。そして、熱作用部が形成された面上に型材1103を形成する。型材1103は、後の工程で溶解して、それが設けられた部分をインク流路とするために形成するものである。すなわち、所望の高さおよび平面パターンのインク流路を形成するために、適切な高さおよび平面パターンに形成する(図11(a))。
【0006】
次に、型材1103を被覆するように、流路形成部材1104の材料をスピンコートなどによって塗布する。そして、フォトリソグラフィー技術によって、所望の形状にパターニングし、流路形成部材1104を形成する。そして、熱作用部と対向する位置にインク吐出口1105をフォトリソグラフィー技術によって開口する。その後、インク吐出口1105が開口された流路形成部材1104の面には、撥水層1106を形成する(図11(b))。
【0007】
次に、インクジェット記録ヘッドの機能素子が形成された面や基体1101の側面にエッチング液が触れないように、樹脂からなる保護材1111でこれらの部分を覆う。その後、予め形成しておいたパターニングマスク1108を用いて、シリコン酸化膜1107をウェットエッチングなどによってパターニングする。そして、基体1101の裏面を露出するエッチング開始開口部1109を形成する(図11(c))。
【0008】
次に、シリコン酸化膜1107をマスクとして異方性エッチングによってインク供給口1110を形成する。その後、パターニングマスク1108と保護材1111を除去する。そして、更に、型材1103を溶解させ、インク吐出口1105、インク供給口1110から溶出させて除去し、乾燥させる(図11(d))。
【0009】
以上の方法は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−290234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
記録される画像の大サイズ化、印刷枚数の増加等の要因により、インクジェット記録装置の更なる高速化が要求されている。そのためには、発熱抵抗体を駆動する駆動周波数を上げ、吐出口を増やす多ノズル化が有効である。しかしながら、多ノズル化するためにチップが大きくなると、チップの変形が起こりやすい。特に、インクを吐出させるための流路形成部材を有機樹脂材料で形成する場合は、有機材料が吸湿・膨潤する場合があるため、チップの変形が起こりやすくなる。また、これまで以上のノズルの高密度化、高密度配線が要求されると、チップ内におけるスペース上の制約が生じる。つまり、今後は流路形成部材と基体との密着面積を必ずしも十分に確保することは期待できない場合が想定され、スペース上の制約を受けることになる。
【0012】
また、今後の更なる高画質化に対し、インクの発色性の向上や各種インクの導入が試みられ、これまで以上にインクに対する耐性が求められる。
【0013】
一方、チップの変形を抑えるために、基体上に無機材料からなるノズル部材を使用することが提案されている。無機材料は温度や湿度変化に対して変形が少ないために、チップが大きくなった場合でも変形が少なく、安定した吐出が可能であると期待される。
【0014】
また、今後の更なる高画質化に対し、インクの発色性の向上や各種インクの導入により、これまで以上にインクに対する耐性が求められる。それに対して、上述したようにノズル部材として無機材料を用いた場合は、各種インクに対する耐性が不十分となる場合がある。また、ノズル部材は数十μm程度の厚さに形成することが求められ、インクに対する耐性を確保しつつ無機材料からなる厚い膜を形成することは技術的な課題が多い。
【0015】
そこで、本発明の目的は、インクなどの液体に対する耐性に優れ、流路形成部材の基体との密着性が良好であり、信頼性の高い吐出性能を有する液体吐出ヘッドを提供とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、
基体と、該基体の上に液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する液体流路とを構成する流路形成部材と、を含む液体吐出ヘッドであって、
前記流路形成部材は有機樹脂で形成され、前記基体の上であって前記流路形成部材の内部に無機材料からなる土台部材を有し、該土台部材は前記流路形成部材と接する面に凹凸を有することを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【0017】
また、本発明は、
液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する液体流路とを構成する流路形成部材と、前記液体流路に前記液体を供給する液体供給口を有する基体と、を含む液体吐出ヘッドの製造方法であって、
(1)前記基体の上に、前記液体流路の型となる溶解可能な流路パターンと、表面に凹凸を有する土台部材と、を形成する工程と、
(2)前記流路パターン及び前記土台部材を覆うように有機樹脂を前記基体の上に塗布し、前記流路形成部材を形成する工程と、
(3)前記流路形成部材に前記吐出口を形成し、前記基体に前記液体供給口を形成する工程と、
(4)前記液体供給口から前記流路パターンを溶出し、前記液体流路を形成する工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
また、本発明によれば、インクなどの液体に対する耐性に優れ、流路形成部材の基体との密着性が良好であり、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0019】
本発明によれば、チップの変形を抑え、多ノズル化や長尺化に対応することが可能な液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の液体吐出ヘッドを示す模式的斜視図である。
【図2】本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドを製造する工程例を説明するための断面工程図である。
【図4】本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図である。
【図5】本実施形態の液体吐出ヘッドを用いて構成したインクジェットカートリッジを示す斜視図である。
【図6】図5に示したインクジェットカートリッジを用いたインクジェットプリント装置の概略構成例を示す模式的斜視図である。
【図7】本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図である。
【図8】本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図である。
【図9】本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図である。
【図10】本発明における土台部材に用いる無機材料を多孔質化する工程を説明するための断面工程図である。
【図11】従来の液体吐出ヘッドの製造工程を説明するための断面工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、液体吐出ヘッドの実施形態について説明する。また、以下の説明では、本発明の適用例として、インクジェット記録ヘッドを例に挙げて説明する場合があるが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、バイオッチップ作製や電子回路印刷用途の液体吐出ヘッドにも適用できる。液体吐出ヘッドとしては、インクジェット記録ヘッドの他にも、例えばカラーフィルター製造用ヘッド等も挙げられる。
【0022】
(実施形態1)
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、本実施形態の液体吐出ヘッドを示す模式的斜視図である。図1に示す液体吐出ヘッドは、熱作用部102が形成された基体101上に、吐出口105を有する流路形成部材(オリフィスプレート)104が形成されている。熱作用部102と吐出口5の位置が上下に対応するように基体101の上に流路形成部材104が配置される。基体101には、液体流路にインク等の液体を供給するための液体供給口103が形成されている。流路形成部材104には、吐出口105と、吐出口105及び液体供給口103を連通する液体流路とが形成されている。なお、図1では、2列の吐出口105が線対称に配置されているが、2列の吐出口105を互いに半ピッチずらして配置することで、記録の解像度をさらに高めることもできる。
【0025】
また、106は無機材料からなる土台部材であり、該土台部材は、その下面が基体101の上面(表面)と接し、その他の面は流路形成部材104に覆われている。つまり、土台部材106は、基体101の上であって流路形成部材104に覆われるように無機材料を用いて形成されている。また、土台部材106は流路形成部材104と接する面に凹凸を有する。
【0026】
従来、一般的に、密着性を向上させるためには、基板表面をプラズマを用いて改質する方法が試みられていた。しかし、液体吐出ヘッドに用いる基体には、駆動用素子等が基板上に形成されており、プラズマ等でエッチングすることによりダメージが発生する可能性があり、プラズマを用いて表面を改質するには限度があった。
【0027】
そこで、本発明においては、基体上に表面に凹凸を有する土台部材を設けることにより、流路形成部材と基体との密着性を向上させている。土台部材の上に流路形成部材の材料である有機樹脂を被覆する際、有機樹脂が土台部材の表面に存在する凹凸に浸潤し、密着する表面積が増加し、より強固な密着性を有することになる。さらに、土台部材が存在すれば、流路形成部材との密着面積を増加させることができる。したがって、基体と流路形成部材とのより強い密着力を得ることが可能となり、剥がれ等の発生を抑制することができる。
【0028】
また、本発明にかかる液体吐出ヘッドは、液体流路を構成する部材は有機樹脂であるため、インクなどの液体に対する耐性に優れ、信頼性が高い。
【0029】
したがって、従来のような基体に有機樹脂を塗布又は接合して流路形成部材を形成している液体吐出ヘッドに比べて、本発明の液体吐出ヘッドは、湿度変化、温度変化、機械的圧力等の外的要因に対して安定であり、信頼性が高い。
【0030】
また、本発明にかかる液体吐出ヘッドにおいては、土台部材の凹凸に樹脂が浸潤することにより比較的応力の小さい流路形成部材の形成が可能であり、この基体を用いることでチップの変形を抑え、多ノズル化や長尺化に対応した液体吐出ヘッドの提供が可能となる。
【0031】
図2は、本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図を示す。図2に示すように、基体201上に無機材料からなる土台部材206が形成されている。また、流路形成部材208は基体201上であって土台部材206を覆うように形成されており、液体流路213を構成している。つまり、基体201の上であって流路形成部材の内部に土台部材が形成されている。
【0032】
土台部材を構成する無機材料は、無機材料であれば特に制限されるものではないが、金属、金属酸化物、金属窒化物及び金属炭化物から選ばれる少なくとも1種の材料で構成されることが好ましい。具体的には、例えば、Au、Cu、Al若しくはTiなどの金属やそれらの酸化物、窒化物若しくは炭化物又はこれらの混合物で構成されることが好ましい。無機材料としては、例えば、基本成分が金属酸化物で、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体(セラミック材料)が挙げられる。また、無機材料としては、金属の炭化物や窒化物など硬質化合物の粉末を金属の結合材と混合して焼結した複合材料(サーメット材料)が挙げられる。
【0033】
土台部材を無機材料を用いて形成することにより、例えばSi等の無機材料で構成される基板と熱伝導率、熱膨張係数、吸湿係数、機械特性等の物性を近似させることができ、基体と土台部材の密着性を向上することができる。
【0034】
また、本発明における土台部材は流路形成部材と接する面に凹凸を有する。この凹凸に有機樹脂が浸潤し硬化することより、流路形成部材は土台部材に強固に密着することができる。したがって、湿度変化や温度変化、機械的圧力などの外的要因に対して、流路形成部材と基体とは剥離することがない。
【0035】
凹凸を有する土台部材の形成方法としては、上述の無機材料を基体上に直接形成し、その後、表面に凹凸を付与する方法が挙げられる。例えば、無機材料からなる土台部材を基体上に配置した後、硫酸、燐酸、硝酸若しくはフッ酸又はこれらの混合物などの溶液を用いて処理することにより土台部材の表面に凹凸を形成できる。
【0036】
また、土台部材を多孔質ガラスを用いて形成することで、凹凸を有する土台部材を形成することができる。つまり、無機材料としてガラス成分を選択して土台部材を形成し、その後酸処理等を施して多孔質化することにより、凹凸を有する土台部材を形成することができる。より具体的には、例えば、Na2O−B2O3−SiO2系のガラスを基体上に塗布し、例えば300℃で熱処理を行った後酸溶液中に浸漬することにより、SiO2骨格を有する多孔質ガラスを形成することができる。ガラス成分としては、他にもCaO、PbO、Al2O3、L2O等が挙げられる。
【0037】
また、土台部材を多孔質ガラスを用いて形成する場合、気孔率を30%以上とすることが好ましい。気孔率を30%以上とすることにより、土台部材により効率よく凹凸を形成することができる。また、気孔率は70%以下とすることが好ましい。
【0038】
また、他にも、凹凸を有する土台部材の形成方法としては、成膜時にその表面が凹凸を有するように形成する方法も挙げられる。具体的には、例えば、ポリマー微粒子を分散材として含有する複合めっき法や、基体に対して斜め方向から膜を形成する斜め蒸着法、金属とセラミックを混合・溶融させ、コンプレッサーのエアなどを用いて微粒子化させながら吹き付けることにより皮膜を形成する溶射法などが挙げられる。
【0039】
複合めっき法としては、ニッケルめっきの浴中にアクリルポリマー粒子を分散材として添加し、めっきを行った後に熱処理することにより分解・脱離する方法や、溶剤への浸漬処理により溶解除去する方法がある。
【0040】
斜め蒸着法としては、Ti、Al、Cu、Auなどを成膜する際に、基板に対して斜め方向から粒子を飛来・付着させることにより、方向性を有する膜成長を行い、多孔質膜を形成する方法である。
【0041】
土台部材の配置形状は、吐出に影響しない(ヒーター部、流路部などを阻害しない)範囲で配置すればよく、特に限定されるものではないが、強度的には基体との密着性が確保できるように接触面積が大きくなるように配置することが好ましい。
【0042】
また、流路形成部材と土台部材との密着性をより向上させるため、土台部材の厚みを流路形成部材
の厚みの30%以上90%以下とすることが好ましい。30%以上とすることにより、流路形成部材との接触面積を十分に確保することができ、より密着性を向上することができる。90%以下とすることにより、流路形成部材による土台部材の被覆性を上げることができる。また、土台部材の高さは液体流路の高さ以上とすることが好ましい。
【0043】
また、湿度変化や温度変化、機械的圧力等が原因となる剥がれや変形を防止するため、基体と土台部材の接触面積は、基体と流路形成部材との接触面積の30%以上60%以下であることが好ましい。30%以上とすることにより、土台部材をより強固に基体に固定することができる。70%以下とすることにより流路形成部材による土台部材の被覆性を上げることができる。
【0044】
流路形成部材208の材料となる有機樹脂としては、例えば、感光性エポキシ樹脂、感光性アクリル樹脂などを用いることができる。
【0045】
また、有機樹脂を基体の上であって土台部材を覆うように真空中で塗布した後、大気圧に戻すことにより、流路形成部材の材料である有機樹脂を土台部材の凹凸に効率的に浸潤させることができる。
【0046】
(実施形態2)
図3は、図2で説明した液体吐出ヘッドの製造工程を説明するための断面工程図である。以下は、例としてインクジェット記録ヘッドの製造工程について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
まず、熱作用部となる発熱部302が表面側に形成された基体301を用意する。この基体の裏面側に形成されたシリコン酸化膜303上に、インク供給口(液体供給口)311を形成するための耐アルカリ性を有する第1のパターニングマスク304を形成する(図3(a)参照)。
【0048】
第1のパターニングマスク304は例えば以下のように形成することができる。まず、マスク剤をスピンコート法などによって基体301の裏面に塗布し、熱硬化させる。次に、その上にポジ型レジスト(不図示)をスピンコート法などによって塗布し、乾燥させる。次に、ポジ型レジストをフォトリソグラフィー技術を用いてパターニングし、ポジ型レジストをマスクとして、マスク剤の露出部分をドライエッチング法などによって除去する。そして、ポジ型レジストを剥離し、所望のパターン形状を有する第1のパターニングマスク304を得る。
【0049】
次に、発熱部302が形成された基体301の表面側に例えばAlを用いて型材305aを形成する。型材305aは、インク流路を形成するために、適切な高さおよび平面パターンに形成する。次に、型材305a及び基体301の上に無機材料306aを形成する(図3(b))。無機材料としては本実施形態では多孔質ガラスを例として用いる。例えば、Na2O−B2O3−SiO2系のガラスを塗布し、300℃で熱処理を行った後、酸溶液中に浸漬することによりSiO2骨格を有する多孔質ガラスを形成することができる。なお、酸溶液中に浸漬する際には、他の部材に影響しないようにウエハを保護部材で被覆してから処理することが望ましい。型材としては、後工程で溶出可能な材料であればよく、Al等の無機材料以外にも、溶媒に溶解可能な感光性樹脂を用いることもできる。
【0050】
次に、CMP(Chemical and Mechanical Polishing)法により表面研磨を行い、平坦化を行う(図3(c))。
【0051】
次に、型材305a及び無機材料306aの上に第2のパターニングマスク307を形成する(図3(d))。第2のパターニングマスク307は、レジストを用いて、フォトリソグラフィー技術により形成することができる。
【0052】
次に、第2のパターニングマスク307を用いて、型材305aおよび無機材料306aをドライエッチングなどにより除去し、流路パターン305b及び土台部材306bを形成する(図3(e))。
【0053】
土台部材の側面と流路パターンの側面との距離は、例えば10〜20μmとすることが好ましく、2〜10μmとすることが好ましい。
【0054】
次に、第2のパターニングマスク307を除去した後、流路パターン305bおよび土台部材306bを被覆するように、流路形成部材308を形成する(図3f)。流路形成部材308は、スピンコート法などを用いて樹脂材料を塗布し、フォトリソグラフィー技術によって所望の形状にパターニングすることで形成することができる。
【0055】
次に、流路形成部材308の表面にドライフィルムのラミネートなどを用いて撥水層310を形成する。そして、発熱部302と対向する位置にインク吐出口309をフォトリソグラフィー技術によって形成する(図3(g))。
【0056】
流路形成部材308の材料としては、例えば、感光性エポキシ樹脂、感光性アクリル樹脂などを用いることができる。流路形成部材308は、インク流路を構成するものであり、インクジェット記録ヘッド使用時には常にインクと接触することになるので、その材料としては、特に、光反応によるカチオン重合性化合物が適している。また、流路形成部材308の材料としては、使用するインクの種類および特性によって耐久性などが大きく左右されるので、使用するインクによっては上記の材料以外の適当な化合物を選択してもよい。
【0057】
次に、インクジェット記録ヘッドの機能素子が形成された面や基体301の側面にエッチング液が触れないように、樹脂からなる保護材312を用いてスピンコートなどによってこれらの部分を覆う(図3(h))。保護材312の材料としては、異方性エッチングを行う際に使用する強アルカリ溶液に対して十分な耐性を有する材料を用いる。このような保護材312を用いて流路形成部材308を覆うことによって、撥水層310の劣化を防ぐこともできる。
【0058】
次に、第1のパターニングマスク304を用いて、シリコン酸化膜303をウェットエッチングなどによってパターニングし、基体301の裏面が露出するエッチング開始開口部を形成する。そして、シリコン酸化膜303をマスクとして異方性エッチングによってインク供給口311を形成する。異方性エッチングに用いるエッチング液としては、例えば、TMAH(テトラメチルアンモニュウムハイドロオキサイド)の22質量%溶液を用いることができる。また、例えばこの溶液の温度を80℃に保ちながら所定時間(十数時間)エッチングを行うことで、貫通口を形成することができる。その後、第1のパターニングマスク304と保護材312を除去する。そして、更に、流路パターン305bをインク吐出口309、インク供給口311から溶出させて除去して液体流路313を形成し、インクジェット記録ヘッドを作製する(図3(i))。
【0059】
流路パターン305bは、混酸C−6(リン酸−酢酸−硝酸−水の混合液)などを用いて溶出することができる。また、必要に応じて、超音波浸漬を用いて、流路パターン305bを除去することができる。
【0060】
また、図3では、インク供給口をTMAHを用いたウェットエッチングにより形成する例を示しているが、図4に示すようにドライエッチングを用いて垂直形状にインク供給口を形成しても良い。あるいは、レーザーやサンドブラストエッチングによりインク供給口を形成することもできる。
【0061】
以上の工程により作製された液体吐出ヘッドは、以下の特徴を有している。つまり、本発明においては、基体上に表面に凹凸を有する土台部材を設けることにより、流路形成部材と基体との密着性を向上させている。土台部材の上に流路形成部材の材料である有機樹脂を被覆する際、有機樹脂が土台部材の表面に存在する凹凸に浸潤し、密着する表面積が増加し、より強固な密着性を有することになる。さらに、基体上に形成した土台部材の表面全体に凹凸が存在すれば、垂直方向のみならず面方向にも有機樹脂と密着する部分を設けることができ、接触面積を増加させることができるため、より強い密着力を得ることが可能となる。そのため、樹脂に膨潤や熱的変化が生じても、流路形成部材が土台部材により強固に基体に固定されているため、チップの変形を抑えることができる。したがって、従来のような基体に有機樹脂を塗布又は接合して流路形成部材を形成している液体吐出ヘッドに比べて、本発明の液体吐出ヘッドは、湿度変化、温度変化、機械的圧力等の外的要因に対して安定であり、信頼性が高い。
【0062】
また、本発明にかかる液体吐出ヘッドは、液体流路を構成する部材は樹脂であるため、インクなどの液体に対する耐性に優れ、信頼性が高い。さらに、本発明にかかる液体吐出ヘッドは、チップの変形が抑えられるため、多ノズル化や長尺化により有効に対応することができる。
【0063】
また、本発明の液体吐出記録ヘッド用基体は図3(a)〜(i)の製造方法に限定されず、例えば、図3(f)の段階でインク供給口を形成し、その後にインク吐出口を形成するなどの工程とすることも可能である。
【0064】
(実施形態3)
実施形態においては、アルミニウムの陽極酸化反応を用いて基体の上に多孔質化した無機材料を配置する方法について図3及び図10を参照して説明する。
【0065】
まず、図3(a)の示すような基体の上にアルミニウムからなる型材305aをスパッタリング法により形成する。その上に、マスク材1007をパターニングにより形成する(図10(a))。
【0066】
次に、電解液中に設置した基体上のアルミニウムを陽極に、電解液中の対向電極を陰極に接続し、陽極酸化反応を行う。この陽極酸化反応により、マスク材1007で覆われていない部分の型材部分において、アルミニウムの膜厚が例えば40%程度増加し、それに伴い表面が多孔質化する。多孔質化は、例えば、表面が数μmの周期で深さ数十μm程度まで作製することができる。その後、マスク材1007を除去する(図10(b))。
【0067】
なお、陽極酸化反応を行う際には、他の部材に影響しないようにウエハを保護部材で被覆してから処理する(不図示)。
【0068】
これ以降は図3(d)〜(i)の工程と同様に処理することにより、図9の液体吐出ヘッドを得ることができる。本実施例で得られる液体吐出ヘッドは、図9に示すように、土台部材905がアルミニウム部分905と多孔質化したアルミニウム部分906から構成されている。
【0069】
(実施形態4)
本実施形態においては、土台部材を斜め蒸着法を用いて形成する方法について示す。
【0070】
これは、TiやAl、Cu、Au等の金属を基体に対して斜め方向から蒸着させることにより、膜厚方向で柱状の多孔質状態の膜を形成した。
【0071】
これ以降は図3(c)〜(i)の工程と同様にして液体吐出ヘッドを得た。
【0072】
(実施形態5)
次に、インクジェット記録ヘッドをインクタンクと一体化したカートリッジ形態のユニット(図5参照)およびこれを用いたインクジェット記録装置(図6参照)について説明する。
【0073】
図5は、記録装置に装着可能なカートリッジの形態を有するインクジェット記録ヘッドユニット410の構成例を示す図である。インクジェット記録ヘッドユニット410には、インクジェット記録ヘッド415が配置されている。インクジェット記録ヘッド415は、電力を供給するための端子を有するTAB(Tape Automated Bonding)用のテープ部材402に配され、インクタンク404と接合されている。インクジェット記録ヘッド415の配線は、TAB用のテープ部材402の端子403から延在する配線(不図示)と接続されている。
【0074】
図6は図3のインクジェット記録ヘッドユニットを用いて記録を行うインクジェット記録装置の概略構成例を示す図である。
【0075】
インクジェット記録装置では、無端ベルト501に固定されたキャリッジ500は、モータ504の回転駆動に伴いガイドシャフト502に沿って往復方向(図中のA方向)に主走査される。
【0076】
キャリッジ500上には、カートリッジ形態のインクジェット記録ヘッドユニット410が搭載されている。インクジェット記録ヘッドユニット410およびインクタンク404の組は、使用するインク色に対応した個数を設けることができ、図示の例では4色(例えばブラック、イエロー、マゼンタ、シアン)に対応して4組設けられている。
【0077】
記録媒体としての記録紙Pは、キャリッジ500のスキャン方向と直交する矢印B方向に間欠的に搬送される。
【0078】
以上のような構成によって、キャリッジ500の移動に伴いインクジェット記録ヘッドユニット410の吐出口の配列幅に対応した幅の記録と用紙Pの搬送とを交互に繰り返しながら、用紙P全体に対する記録が行われる。
【0079】
また、インクジェット記録ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、更には各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、このインクジェット記録ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の記録媒体に記録を行うことができる。
【0080】
尚、本明細書において、「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。
【0081】
(実施例1)
本実施例においては、図3に示した工程により、図3(i)に示した断面形状の土台部材を有する液体吐出ヘッドを作製した。
【0082】
(実施例2)
本実施例においては、図7に示すように、土台部材を短冊状に形成した。この土台部材は、実施例1において第2のパターニングマスクの形状をパターンを分断化した形状とすることにより作製した。本実施例においては、土台部材と基体との接触面積が流路形成部材と基体と接触面積の約40%となるように、土台部材を形成した。また、土台部材をその厚みが流路形成部材の厚みの約50%となるように形成した。このような構成とすることにより、流路形成部材をより強固に基体に固定することが可能となる。
【0083】
(実施例3)
本実施例においては、図8に示すように、土台部材を短冊状に形成し、土台部材をその厚みが流路形成部材の厚みの約85%となるように形成した。この構成は、基体の上に配置する無機材料の厚みを増やすことにより作製した。本実施例においては、土台部材と基体との接触面積が流路形成部材と基体と接触面積の約35%となるように、土台部材を形成した。このような構成とすることにより、流路形成部材をより強固に基体に固定することが可能となる。
【0084】
(実施例4)
本実施例においては、実施形態3に示した工程を用いて土台部材を形成し、その他は実施例1と同様に液体吐出ヘッドを作製した。
【0085】
(実施例5)
本実施例においては、実施形態4に示した工程を用いて土台部材を形成し、その他は実施例1と同様に液体吐出ヘッドを作製した。
無機材料の形成を斜め蒸着法を用いて行った。これは、TiやAl、Cu、Au等の金属を基体に対して斜め方向から蒸着させることにより、膜厚方向で柱状の多孔質状態の膜を形成した。
【0086】
(比較例)
図11で説明した従来の製法により、液体吐出ヘッドを得た。つまり、流路形成部材として感光性エポキシ樹脂をスピンコートによって塗布し、フォトリソグラフィー技術によって、所望の形状にパターニングを行った。
【0087】
<ヘッド特性>
実施例1〜5および比較例で作製したインクジェット記録ヘッドをインクジェット記録装置に取り付けて、吐出を開始する発泡開始電圧Vthの測定および印字耐久試験を行った。この試験は、A4サイズの用紙に、インクジェット記録装置に組み込まれている一般的なテストパターンを記録させることで行った。このとき、駆動周波数15KHz、駆動パルス幅1μsのパルス信号を与え、発泡開始電圧Vthを求めた。実施例1で形成したものは、Vth=18.0Vであった。
【0088】
次に、このVthの1.3倍を駆動電圧Vopとし、1500文字の標準文書の記録を行ったところ、いずれのヘッドにおいても、5000枚以上の記録が可能であることが確認され、かつ記録品位の劣化も見られなかった。
【0089】
次に、インクを入れた状態で記録ヘッドを60℃の環境下に2ヶ月保存した後に、同様にして印字を行った。実施例1〜5のいずれのヘッドにおいても、記録が可能であることが確認され、かつ記録品位の劣化も見られなかった。すなわち、本発明を適用したインクジェット記録ヘッドでは長期にわたり画像が安定しており、耐久特性にも優れていることがわかった。一方、比較例のヘッドにおいては、部分的に流路形成部材が基体から剥離している部分があり、記録画像の品位の劣化が見られた。
【符号の説明】
【0090】
101、201、301 基体
105、209、309 吐出口
213、313 液体流路
104、208、308 流路形成部材
106、206、306b 土台部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出させるための液体吐出ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、微少量のインクを液滴として吐出口から高速で吐出することにより、高精細な画像を高速記録することができるという特徴がある。また、この方式により、インクのみならず、各種の液体を吐出させる技術が開発されている。
【0003】
インクジェット記録方式を実現するためのインクジェット記録ヘッドには種々の吐出方式がある。中でも、インクジェット記録ヘッドの構成としては、インクジェット記録ヘッド用の基板上に、基体の有する発熱部に対応してインクを吐出させるためのノズル(吐出口)を有する流路形成部材を形成した構成が一般的である。インクジェット記録ヘッド用の基体としては、インクを加熱発泡させるための複数の発熱部(ヒーター)およびこれに電気的接続を行う配線等を同一の基体上に作製した構成が一般的である。これらの構成は、半導体製造工程と同様のプロセスを用いて製造することができる。したがって、この構成によれば、半導体製造工程と同様のプロセスを用い、発熱抵抗体および配線等を高密度に多数配置したインクジェットヘッド用基体を容易かつ精度高く製造することができるので、記録の高精細化および高速化を実現できる。
【0004】
図11は、従来のインクジェット記録ヘッドを製造する工程を示す断面工程図である。
【0005】
発熱部1102が形成された基体1101の裏面に形成されたシリコン酸化膜1107上に、インク供給口1110を形成するための耐アルカリ性を有するパターニングマスク1108を形成する。そして、熱作用部が形成された面上に型材1103を形成する。型材1103は、後の工程で溶解して、それが設けられた部分をインク流路とするために形成するものである。すなわち、所望の高さおよび平面パターンのインク流路を形成するために、適切な高さおよび平面パターンに形成する(図11(a))。
【0006】
次に、型材1103を被覆するように、流路形成部材1104の材料をスピンコートなどによって塗布する。そして、フォトリソグラフィー技術によって、所望の形状にパターニングし、流路形成部材1104を形成する。そして、熱作用部と対向する位置にインク吐出口1105をフォトリソグラフィー技術によって開口する。その後、インク吐出口1105が開口された流路形成部材1104の面には、撥水層1106を形成する(図11(b))。
【0007】
次に、インクジェット記録ヘッドの機能素子が形成された面や基体1101の側面にエッチング液が触れないように、樹脂からなる保護材1111でこれらの部分を覆う。その後、予め形成しておいたパターニングマスク1108を用いて、シリコン酸化膜1107をウェットエッチングなどによってパターニングする。そして、基体1101の裏面を露出するエッチング開始開口部1109を形成する(図11(c))。
【0008】
次に、シリコン酸化膜1107をマスクとして異方性エッチングによってインク供給口1110を形成する。その後、パターニングマスク1108と保護材1111を除去する。そして、更に、型材1103を溶解させ、インク吐出口1105、インク供給口1110から溶出させて除去し、乾燥させる(図11(d))。
【0009】
以上の方法は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−290234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
記録される画像の大サイズ化、印刷枚数の増加等の要因により、インクジェット記録装置の更なる高速化が要求されている。そのためには、発熱抵抗体を駆動する駆動周波数を上げ、吐出口を増やす多ノズル化が有効である。しかしながら、多ノズル化するためにチップが大きくなると、チップの変形が起こりやすい。特に、インクを吐出させるための流路形成部材を有機樹脂材料で形成する場合は、有機材料が吸湿・膨潤する場合があるため、チップの変形が起こりやすくなる。また、これまで以上のノズルの高密度化、高密度配線が要求されると、チップ内におけるスペース上の制約が生じる。つまり、今後は流路形成部材と基体との密着面積を必ずしも十分に確保することは期待できない場合が想定され、スペース上の制約を受けることになる。
【0012】
また、今後の更なる高画質化に対し、インクの発色性の向上や各種インクの導入が試みられ、これまで以上にインクに対する耐性が求められる。
【0013】
一方、チップの変形を抑えるために、基体上に無機材料からなるノズル部材を使用することが提案されている。無機材料は温度や湿度変化に対して変形が少ないために、チップが大きくなった場合でも変形が少なく、安定した吐出が可能であると期待される。
【0014】
また、今後の更なる高画質化に対し、インクの発色性の向上や各種インクの導入により、これまで以上にインクに対する耐性が求められる。それに対して、上述したようにノズル部材として無機材料を用いた場合は、各種インクに対する耐性が不十分となる場合がある。また、ノズル部材は数十μm程度の厚さに形成することが求められ、インクに対する耐性を確保しつつ無機材料からなる厚い膜を形成することは技術的な課題が多い。
【0015】
そこで、本発明の目的は、インクなどの液体に対する耐性に優れ、流路形成部材の基体との密着性が良好であり、信頼性の高い吐出性能を有する液体吐出ヘッドを提供とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、
基体と、該基体の上に液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する液体流路とを構成する流路形成部材と、を含む液体吐出ヘッドであって、
前記流路形成部材は有機樹脂で形成され、前記基体の上であって前記流路形成部材の内部に無機材料からなる土台部材を有し、該土台部材は前記流路形成部材と接する面に凹凸を有することを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【0017】
また、本発明は、
液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する液体流路とを構成する流路形成部材と、前記液体流路に前記液体を供給する液体供給口を有する基体と、を含む液体吐出ヘッドの製造方法であって、
(1)前記基体の上に、前記液体流路の型となる溶解可能な流路パターンと、表面に凹凸を有する土台部材と、を形成する工程と、
(2)前記流路パターン及び前記土台部材を覆うように有機樹脂を前記基体の上に塗布し、前記流路形成部材を形成する工程と、
(3)前記流路形成部材に前記吐出口を形成し、前記基体に前記液体供給口を形成する工程と、
(4)前記液体供給口から前記流路パターンを溶出し、前記液体流路を形成する工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
また、本発明によれば、インクなどの液体に対する耐性に優れ、流路形成部材の基体との密着性が良好であり、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0019】
本発明によれば、チップの変形を抑え、多ノズル化や長尺化に対応することが可能な液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の液体吐出ヘッドを示す模式的斜視図である。
【図2】本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドを製造する工程例を説明するための断面工程図である。
【図4】本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図である。
【図5】本実施形態の液体吐出ヘッドを用いて構成したインクジェットカートリッジを示す斜視図である。
【図6】図5に示したインクジェットカートリッジを用いたインクジェットプリント装置の概略構成例を示す模式的斜視図である。
【図7】本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図である。
【図8】本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図である。
【図9】本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図である。
【図10】本発明における土台部材に用いる無機材料を多孔質化する工程を説明するための断面工程図である。
【図11】従来の液体吐出ヘッドの製造工程を説明するための断面工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、液体吐出ヘッドの実施形態について説明する。また、以下の説明では、本発明の適用例として、インクジェット記録ヘッドを例に挙げて説明する場合があるが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、バイオッチップ作製や電子回路印刷用途の液体吐出ヘッドにも適用できる。液体吐出ヘッドとしては、インクジェット記録ヘッドの他にも、例えばカラーフィルター製造用ヘッド等も挙げられる。
【0022】
(実施形態1)
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、本実施形態の液体吐出ヘッドを示す模式的斜視図である。図1に示す液体吐出ヘッドは、熱作用部102が形成された基体101上に、吐出口105を有する流路形成部材(オリフィスプレート)104が形成されている。熱作用部102と吐出口5の位置が上下に対応するように基体101の上に流路形成部材104が配置される。基体101には、液体流路にインク等の液体を供給するための液体供給口103が形成されている。流路形成部材104には、吐出口105と、吐出口105及び液体供給口103を連通する液体流路とが形成されている。なお、図1では、2列の吐出口105が線対称に配置されているが、2列の吐出口105を互いに半ピッチずらして配置することで、記録の解像度をさらに高めることもできる。
【0025】
また、106は無機材料からなる土台部材であり、該土台部材は、その下面が基体101の上面(表面)と接し、その他の面は流路形成部材104に覆われている。つまり、土台部材106は、基体101の上であって流路形成部材104に覆われるように無機材料を用いて形成されている。また、土台部材106は流路形成部材104と接する面に凹凸を有する。
【0026】
従来、一般的に、密着性を向上させるためには、基板表面をプラズマを用いて改質する方法が試みられていた。しかし、液体吐出ヘッドに用いる基体には、駆動用素子等が基板上に形成されており、プラズマ等でエッチングすることによりダメージが発生する可能性があり、プラズマを用いて表面を改質するには限度があった。
【0027】
そこで、本発明においては、基体上に表面に凹凸を有する土台部材を設けることにより、流路形成部材と基体との密着性を向上させている。土台部材の上に流路形成部材の材料である有機樹脂を被覆する際、有機樹脂が土台部材の表面に存在する凹凸に浸潤し、密着する表面積が増加し、より強固な密着性を有することになる。さらに、土台部材が存在すれば、流路形成部材との密着面積を増加させることができる。したがって、基体と流路形成部材とのより強い密着力を得ることが可能となり、剥がれ等の発生を抑制することができる。
【0028】
また、本発明にかかる液体吐出ヘッドは、液体流路を構成する部材は有機樹脂であるため、インクなどの液体に対する耐性に優れ、信頼性が高い。
【0029】
したがって、従来のような基体に有機樹脂を塗布又は接合して流路形成部材を形成している液体吐出ヘッドに比べて、本発明の液体吐出ヘッドは、湿度変化、温度変化、機械的圧力等の外的要因に対して安定であり、信頼性が高い。
【0030】
また、本発明にかかる液体吐出ヘッドにおいては、土台部材の凹凸に樹脂が浸潤することにより比較的応力の小さい流路形成部材の形成が可能であり、この基体を用いることでチップの変形を抑え、多ノズル化や長尺化に対応した液体吐出ヘッドの提供が可能となる。
【0031】
図2は、本実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図を示す。図2に示すように、基体201上に無機材料からなる土台部材206が形成されている。また、流路形成部材208は基体201上であって土台部材206を覆うように形成されており、液体流路213を構成している。つまり、基体201の上であって流路形成部材の内部に土台部材が形成されている。
【0032】
土台部材を構成する無機材料は、無機材料であれば特に制限されるものではないが、金属、金属酸化物、金属窒化物及び金属炭化物から選ばれる少なくとも1種の材料で構成されることが好ましい。具体的には、例えば、Au、Cu、Al若しくはTiなどの金属やそれらの酸化物、窒化物若しくは炭化物又はこれらの混合物で構成されることが好ましい。無機材料としては、例えば、基本成分が金属酸化物で、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体(セラミック材料)が挙げられる。また、無機材料としては、金属の炭化物や窒化物など硬質化合物の粉末を金属の結合材と混合して焼結した複合材料(サーメット材料)が挙げられる。
【0033】
土台部材を無機材料を用いて形成することにより、例えばSi等の無機材料で構成される基板と熱伝導率、熱膨張係数、吸湿係数、機械特性等の物性を近似させることができ、基体と土台部材の密着性を向上することができる。
【0034】
また、本発明における土台部材は流路形成部材と接する面に凹凸を有する。この凹凸に有機樹脂が浸潤し硬化することより、流路形成部材は土台部材に強固に密着することができる。したがって、湿度変化や温度変化、機械的圧力などの外的要因に対して、流路形成部材と基体とは剥離することがない。
【0035】
凹凸を有する土台部材の形成方法としては、上述の無機材料を基体上に直接形成し、その後、表面に凹凸を付与する方法が挙げられる。例えば、無機材料からなる土台部材を基体上に配置した後、硫酸、燐酸、硝酸若しくはフッ酸又はこれらの混合物などの溶液を用いて処理することにより土台部材の表面に凹凸を形成できる。
【0036】
また、土台部材を多孔質ガラスを用いて形成することで、凹凸を有する土台部材を形成することができる。つまり、無機材料としてガラス成分を選択して土台部材を形成し、その後酸処理等を施して多孔質化することにより、凹凸を有する土台部材を形成することができる。より具体的には、例えば、Na2O−B2O3−SiO2系のガラスを基体上に塗布し、例えば300℃で熱処理を行った後酸溶液中に浸漬することにより、SiO2骨格を有する多孔質ガラスを形成することができる。ガラス成分としては、他にもCaO、PbO、Al2O3、L2O等が挙げられる。
【0037】
また、土台部材を多孔質ガラスを用いて形成する場合、気孔率を30%以上とすることが好ましい。気孔率を30%以上とすることにより、土台部材により効率よく凹凸を形成することができる。また、気孔率は70%以下とすることが好ましい。
【0038】
また、他にも、凹凸を有する土台部材の形成方法としては、成膜時にその表面が凹凸を有するように形成する方法も挙げられる。具体的には、例えば、ポリマー微粒子を分散材として含有する複合めっき法や、基体に対して斜め方向から膜を形成する斜め蒸着法、金属とセラミックを混合・溶融させ、コンプレッサーのエアなどを用いて微粒子化させながら吹き付けることにより皮膜を形成する溶射法などが挙げられる。
【0039】
複合めっき法としては、ニッケルめっきの浴中にアクリルポリマー粒子を分散材として添加し、めっきを行った後に熱処理することにより分解・脱離する方法や、溶剤への浸漬処理により溶解除去する方法がある。
【0040】
斜め蒸着法としては、Ti、Al、Cu、Auなどを成膜する際に、基板に対して斜め方向から粒子を飛来・付着させることにより、方向性を有する膜成長を行い、多孔質膜を形成する方法である。
【0041】
土台部材の配置形状は、吐出に影響しない(ヒーター部、流路部などを阻害しない)範囲で配置すればよく、特に限定されるものではないが、強度的には基体との密着性が確保できるように接触面積が大きくなるように配置することが好ましい。
【0042】
また、流路形成部材と土台部材との密着性をより向上させるため、土台部材の厚みを流路形成部材
の厚みの30%以上90%以下とすることが好ましい。30%以上とすることにより、流路形成部材との接触面積を十分に確保することができ、より密着性を向上することができる。90%以下とすることにより、流路形成部材による土台部材の被覆性を上げることができる。また、土台部材の高さは液体流路の高さ以上とすることが好ましい。
【0043】
また、湿度変化や温度変化、機械的圧力等が原因となる剥がれや変形を防止するため、基体と土台部材の接触面積は、基体と流路形成部材との接触面積の30%以上60%以下であることが好ましい。30%以上とすることにより、土台部材をより強固に基体に固定することができる。70%以下とすることにより流路形成部材による土台部材の被覆性を上げることができる。
【0044】
流路形成部材208の材料となる有機樹脂としては、例えば、感光性エポキシ樹脂、感光性アクリル樹脂などを用いることができる。
【0045】
また、有機樹脂を基体の上であって土台部材を覆うように真空中で塗布した後、大気圧に戻すことにより、流路形成部材の材料である有機樹脂を土台部材の凹凸に効率的に浸潤させることができる。
【0046】
(実施形態2)
図3は、図2で説明した液体吐出ヘッドの製造工程を説明するための断面工程図である。以下は、例としてインクジェット記録ヘッドの製造工程について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
まず、熱作用部となる発熱部302が表面側に形成された基体301を用意する。この基体の裏面側に形成されたシリコン酸化膜303上に、インク供給口(液体供給口)311を形成するための耐アルカリ性を有する第1のパターニングマスク304を形成する(図3(a)参照)。
【0048】
第1のパターニングマスク304は例えば以下のように形成することができる。まず、マスク剤をスピンコート法などによって基体301の裏面に塗布し、熱硬化させる。次に、その上にポジ型レジスト(不図示)をスピンコート法などによって塗布し、乾燥させる。次に、ポジ型レジストをフォトリソグラフィー技術を用いてパターニングし、ポジ型レジストをマスクとして、マスク剤の露出部分をドライエッチング法などによって除去する。そして、ポジ型レジストを剥離し、所望のパターン形状を有する第1のパターニングマスク304を得る。
【0049】
次に、発熱部302が形成された基体301の表面側に例えばAlを用いて型材305aを形成する。型材305aは、インク流路を形成するために、適切な高さおよび平面パターンに形成する。次に、型材305a及び基体301の上に無機材料306aを形成する(図3(b))。無機材料としては本実施形態では多孔質ガラスを例として用いる。例えば、Na2O−B2O3−SiO2系のガラスを塗布し、300℃で熱処理を行った後、酸溶液中に浸漬することによりSiO2骨格を有する多孔質ガラスを形成することができる。なお、酸溶液中に浸漬する際には、他の部材に影響しないようにウエハを保護部材で被覆してから処理することが望ましい。型材としては、後工程で溶出可能な材料であればよく、Al等の無機材料以外にも、溶媒に溶解可能な感光性樹脂を用いることもできる。
【0050】
次に、CMP(Chemical and Mechanical Polishing)法により表面研磨を行い、平坦化を行う(図3(c))。
【0051】
次に、型材305a及び無機材料306aの上に第2のパターニングマスク307を形成する(図3(d))。第2のパターニングマスク307は、レジストを用いて、フォトリソグラフィー技術により形成することができる。
【0052】
次に、第2のパターニングマスク307を用いて、型材305aおよび無機材料306aをドライエッチングなどにより除去し、流路パターン305b及び土台部材306bを形成する(図3(e))。
【0053】
土台部材の側面と流路パターンの側面との距離は、例えば10〜20μmとすることが好ましく、2〜10μmとすることが好ましい。
【0054】
次に、第2のパターニングマスク307を除去した後、流路パターン305bおよび土台部材306bを被覆するように、流路形成部材308を形成する(図3f)。流路形成部材308は、スピンコート法などを用いて樹脂材料を塗布し、フォトリソグラフィー技術によって所望の形状にパターニングすることで形成することができる。
【0055】
次に、流路形成部材308の表面にドライフィルムのラミネートなどを用いて撥水層310を形成する。そして、発熱部302と対向する位置にインク吐出口309をフォトリソグラフィー技術によって形成する(図3(g))。
【0056】
流路形成部材308の材料としては、例えば、感光性エポキシ樹脂、感光性アクリル樹脂などを用いることができる。流路形成部材308は、インク流路を構成するものであり、インクジェット記録ヘッド使用時には常にインクと接触することになるので、その材料としては、特に、光反応によるカチオン重合性化合物が適している。また、流路形成部材308の材料としては、使用するインクの種類および特性によって耐久性などが大きく左右されるので、使用するインクによっては上記の材料以外の適当な化合物を選択してもよい。
【0057】
次に、インクジェット記録ヘッドの機能素子が形成された面や基体301の側面にエッチング液が触れないように、樹脂からなる保護材312を用いてスピンコートなどによってこれらの部分を覆う(図3(h))。保護材312の材料としては、異方性エッチングを行う際に使用する強アルカリ溶液に対して十分な耐性を有する材料を用いる。このような保護材312を用いて流路形成部材308を覆うことによって、撥水層310の劣化を防ぐこともできる。
【0058】
次に、第1のパターニングマスク304を用いて、シリコン酸化膜303をウェットエッチングなどによってパターニングし、基体301の裏面が露出するエッチング開始開口部を形成する。そして、シリコン酸化膜303をマスクとして異方性エッチングによってインク供給口311を形成する。異方性エッチングに用いるエッチング液としては、例えば、TMAH(テトラメチルアンモニュウムハイドロオキサイド)の22質量%溶液を用いることができる。また、例えばこの溶液の温度を80℃に保ちながら所定時間(十数時間)エッチングを行うことで、貫通口を形成することができる。その後、第1のパターニングマスク304と保護材312を除去する。そして、更に、流路パターン305bをインク吐出口309、インク供給口311から溶出させて除去して液体流路313を形成し、インクジェット記録ヘッドを作製する(図3(i))。
【0059】
流路パターン305bは、混酸C−6(リン酸−酢酸−硝酸−水の混合液)などを用いて溶出することができる。また、必要に応じて、超音波浸漬を用いて、流路パターン305bを除去することができる。
【0060】
また、図3では、インク供給口をTMAHを用いたウェットエッチングにより形成する例を示しているが、図4に示すようにドライエッチングを用いて垂直形状にインク供給口を形成しても良い。あるいは、レーザーやサンドブラストエッチングによりインク供給口を形成することもできる。
【0061】
以上の工程により作製された液体吐出ヘッドは、以下の特徴を有している。つまり、本発明においては、基体上に表面に凹凸を有する土台部材を設けることにより、流路形成部材と基体との密着性を向上させている。土台部材の上に流路形成部材の材料である有機樹脂を被覆する際、有機樹脂が土台部材の表面に存在する凹凸に浸潤し、密着する表面積が増加し、より強固な密着性を有することになる。さらに、基体上に形成した土台部材の表面全体に凹凸が存在すれば、垂直方向のみならず面方向にも有機樹脂と密着する部分を設けることができ、接触面積を増加させることができるため、より強い密着力を得ることが可能となる。そのため、樹脂に膨潤や熱的変化が生じても、流路形成部材が土台部材により強固に基体に固定されているため、チップの変形を抑えることができる。したがって、従来のような基体に有機樹脂を塗布又は接合して流路形成部材を形成している液体吐出ヘッドに比べて、本発明の液体吐出ヘッドは、湿度変化、温度変化、機械的圧力等の外的要因に対して安定であり、信頼性が高い。
【0062】
また、本発明にかかる液体吐出ヘッドは、液体流路を構成する部材は樹脂であるため、インクなどの液体に対する耐性に優れ、信頼性が高い。さらに、本発明にかかる液体吐出ヘッドは、チップの変形が抑えられるため、多ノズル化や長尺化により有効に対応することができる。
【0063】
また、本発明の液体吐出記録ヘッド用基体は図3(a)〜(i)の製造方法に限定されず、例えば、図3(f)の段階でインク供給口を形成し、その後にインク吐出口を形成するなどの工程とすることも可能である。
【0064】
(実施形態3)
実施形態においては、アルミニウムの陽極酸化反応を用いて基体の上に多孔質化した無機材料を配置する方法について図3及び図10を参照して説明する。
【0065】
まず、図3(a)の示すような基体の上にアルミニウムからなる型材305aをスパッタリング法により形成する。その上に、マスク材1007をパターニングにより形成する(図10(a))。
【0066】
次に、電解液中に設置した基体上のアルミニウムを陽極に、電解液中の対向電極を陰極に接続し、陽極酸化反応を行う。この陽極酸化反応により、マスク材1007で覆われていない部分の型材部分において、アルミニウムの膜厚が例えば40%程度増加し、それに伴い表面が多孔質化する。多孔質化は、例えば、表面が数μmの周期で深さ数十μm程度まで作製することができる。その後、マスク材1007を除去する(図10(b))。
【0067】
なお、陽極酸化反応を行う際には、他の部材に影響しないようにウエハを保護部材で被覆してから処理する(不図示)。
【0068】
これ以降は図3(d)〜(i)の工程と同様に処理することにより、図9の液体吐出ヘッドを得ることができる。本実施例で得られる液体吐出ヘッドは、図9に示すように、土台部材905がアルミニウム部分905と多孔質化したアルミニウム部分906から構成されている。
【0069】
(実施形態4)
本実施形態においては、土台部材を斜め蒸着法を用いて形成する方法について示す。
【0070】
これは、TiやAl、Cu、Au等の金属を基体に対して斜め方向から蒸着させることにより、膜厚方向で柱状の多孔質状態の膜を形成した。
【0071】
これ以降は図3(c)〜(i)の工程と同様にして液体吐出ヘッドを得た。
【0072】
(実施形態5)
次に、インクジェット記録ヘッドをインクタンクと一体化したカートリッジ形態のユニット(図5参照)およびこれを用いたインクジェット記録装置(図6参照)について説明する。
【0073】
図5は、記録装置に装着可能なカートリッジの形態を有するインクジェット記録ヘッドユニット410の構成例を示す図である。インクジェット記録ヘッドユニット410には、インクジェット記録ヘッド415が配置されている。インクジェット記録ヘッド415は、電力を供給するための端子を有するTAB(Tape Automated Bonding)用のテープ部材402に配され、インクタンク404と接合されている。インクジェット記録ヘッド415の配線は、TAB用のテープ部材402の端子403から延在する配線(不図示)と接続されている。
【0074】
図6は図3のインクジェット記録ヘッドユニットを用いて記録を行うインクジェット記録装置の概略構成例を示す図である。
【0075】
インクジェット記録装置では、無端ベルト501に固定されたキャリッジ500は、モータ504の回転駆動に伴いガイドシャフト502に沿って往復方向(図中のA方向)に主走査される。
【0076】
キャリッジ500上には、カートリッジ形態のインクジェット記録ヘッドユニット410が搭載されている。インクジェット記録ヘッドユニット410およびインクタンク404の組は、使用するインク色に対応した個数を設けることができ、図示の例では4色(例えばブラック、イエロー、マゼンタ、シアン)に対応して4組設けられている。
【0077】
記録媒体としての記録紙Pは、キャリッジ500のスキャン方向と直交する矢印B方向に間欠的に搬送される。
【0078】
以上のような構成によって、キャリッジ500の移動に伴いインクジェット記録ヘッドユニット410の吐出口の配列幅に対応した幅の記録と用紙Pの搬送とを交互に繰り返しながら、用紙P全体に対する記録が行われる。
【0079】
また、インクジェット記録ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、更には各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、このインクジェット記録ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の記録媒体に記録を行うことができる。
【0080】
尚、本明細書において、「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。
【0081】
(実施例1)
本実施例においては、図3に示した工程により、図3(i)に示した断面形状の土台部材を有する液体吐出ヘッドを作製した。
【0082】
(実施例2)
本実施例においては、図7に示すように、土台部材を短冊状に形成した。この土台部材は、実施例1において第2のパターニングマスクの形状をパターンを分断化した形状とすることにより作製した。本実施例においては、土台部材と基体との接触面積が流路形成部材と基体と接触面積の約40%となるように、土台部材を形成した。また、土台部材をその厚みが流路形成部材の厚みの約50%となるように形成した。このような構成とすることにより、流路形成部材をより強固に基体に固定することが可能となる。
【0083】
(実施例3)
本実施例においては、図8に示すように、土台部材を短冊状に形成し、土台部材をその厚みが流路形成部材の厚みの約85%となるように形成した。この構成は、基体の上に配置する無機材料の厚みを増やすことにより作製した。本実施例においては、土台部材と基体との接触面積が流路形成部材と基体と接触面積の約35%となるように、土台部材を形成した。このような構成とすることにより、流路形成部材をより強固に基体に固定することが可能となる。
【0084】
(実施例4)
本実施例においては、実施形態3に示した工程を用いて土台部材を形成し、その他は実施例1と同様に液体吐出ヘッドを作製した。
【0085】
(実施例5)
本実施例においては、実施形態4に示した工程を用いて土台部材を形成し、その他は実施例1と同様に液体吐出ヘッドを作製した。
無機材料の形成を斜め蒸着法を用いて行った。これは、TiやAl、Cu、Au等の金属を基体に対して斜め方向から蒸着させることにより、膜厚方向で柱状の多孔質状態の膜を形成した。
【0086】
(比較例)
図11で説明した従来の製法により、液体吐出ヘッドを得た。つまり、流路形成部材として感光性エポキシ樹脂をスピンコートによって塗布し、フォトリソグラフィー技術によって、所望の形状にパターニングを行った。
【0087】
<ヘッド特性>
実施例1〜5および比較例で作製したインクジェット記録ヘッドをインクジェット記録装置に取り付けて、吐出を開始する発泡開始電圧Vthの測定および印字耐久試験を行った。この試験は、A4サイズの用紙に、インクジェット記録装置に組み込まれている一般的なテストパターンを記録させることで行った。このとき、駆動周波数15KHz、駆動パルス幅1μsのパルス信号を与え、発泡開始電圧Vthを求めた。実施例1で形成したものは、Vth=18.0Vであった。
【0088】
次に、このVthの1.3倍を駆動電圧Vopとし、1500文字の標準文書の記録を行ったところ、いずれのヘッドにおいても、5000枚以上の記録が可能であることが確認され、かつ記録品位の劣化も見られなかった。
【0089】
次に、インクを入れた状態で記録ヘッドを60℃の環境下に2ヶ月保存した後に、同様にして印字を行った。実施例1〜5のいずれのヘッドにおいても、記録が可能であることが確認され、かつ記録品位の劣化も見られなかった。すなわち、本発明を適用したインクジェット記録ヘッドでは長期にわたり画像が安定しており、耐久特性にも優れていることがわかった。一方、比較例のヘッドにおいては、部分的に流路形成部材が基体から剥離している部分があり、記録画像の品位の劣化が見られた。
【符号の説明】
【0090】
101、201、301 基体
105、209、309 吐出口
213、313 液体流路
104、208、308 流路形成部材
106、206、306b 土台部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体の上に液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する液体流路とを構成する流路形成部材と、を含む液体吐出ヘッドであって、
前記流路形成部材は有機樹脂で形成され、
前記基体の上であって前記流路形成部材の内部に無機材料からなる土台部材を有し、該土台部材は前記流路形成部材と接する面に凹凸を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記土台部材は、金属、金属酸化物、金属窒化物及び金属炭化物から選ばれる少なくとも1種の材料で構成される請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記土台部材は、Au、Cu、Al及びTiから選ばれる少なくとも1種の材料で構成される請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記土台部材は、硫酸、燐酸、硝酸若しくはフッ酸又はこれらの混合物からなる溶液で表面を処理された請求項2又は3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記土台部材は、多孔質ガラスからなる請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記多孔質ガラスは、Na2O−B2O3−SiO2系のガラス成分を前記基体上に塗布し、熱処理した後に酸溶液中に浸漬させることにより形成された請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記多孔質ガラスの気孔率は30%以上である請求項5又は6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記土台部材は、アルミニウムからなり、前記流路形成部材と接する面側が陽極酸化反応により多孔質化されて形成された請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記土台部材は、ポリマー微粒子を含有する前記無機材料からなり、複合めっき法により形成された請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記土台部材の厚みは、前記流路形成部材の厚みの30%以上である請求項1乃至9のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記土台部材の厚みは、前記液体流路の高さ以上である請求項1乃至10のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記基体と前記土台部材の接触面積は、前記基体と前記流路形成部材との接触面積の30%以上である請求項1乃至11のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する液体流路とを構成する流路形成部材と、前記液体流路に前記液体を供給する液体供給口を有する基体と、を含む液体吐出ヘッドの製造方法であって、
(1)前記基体の上に、前記液体流路の型となる溶解可能な流路パターンと、表面に凹凸を有する土台部材と、を形成する工程と、
(2)前記流路パターン及び前記土台部材を覆うように有機樹脂を前記基体の上に塗布し、前記流路形成部材を形成する工程と、
(3)前記流路形成部材に前記吐出口を形成し、前記基体に前記液体供給口を形成する工程と、
(4)前記液体供給口から前記流路パターンを溶出し、前記液体流路を形成する工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記工程(1)において、前記凹凸を有する土台部材は、Au、Cu、Al及びTiから選ばれる少なくとも1種の材料を前記基体の上に配置する工程と、前記材料の表面を硫酸、燐酸、硝酸若しくはフッ酸又はこれらの混合物からなる溶液で処理する工程と、を含む工程により形成される請求項13に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記工程(1)において、前記凹凸を有する土台部材は、Na2O−B2O3−SiO2系のガラス成分を前記基体の上に塗布する工程と、前記ガラス成分を熱処理した後に酸溶液中に浸漬させて多孔質ガラスとする工程と、を含む工程により形成される請求項13に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記工程(1)は、前記基体の上に前記流路パターンの材料を形成する工程と、該流路パターンの材料の上に前記多孔質ガラスを形成する工程と、前記流路パターンの材料が露出するまで前記多孔質ガラスを平坦化する工程と、前記流路パターンの材料及び前記多孔質ガラスの上にパターニングマスクを形成してエッチングすることにより、前記流路パターン及び前記土台部材を形成する工程と、を含む請求項15に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記工程(1)において、前記凹凸を有する土台部材は、アルミニウムを前記基体の上に配置する工程と、前記アルミニウムの表面を陽極酸化反応により多孔質化する工程と、を含む工程により形成された請求項13に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項18】
前記工程(1)は、前記基体の上にアルミニウムを形成する工程と、前記土台部材を形成する部分を前記陽極酸化反応により多孔質化させる工程と、前記アルミニウムの上にパターニングマスクを形成してエッチングすることにより、前記アルミニウムからなる前記流路パターンと前記多孔質化したアルミニウムを含む土台部材とを形成する工程と、を含む請求項17に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項1】
基体と、該基体の上に液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する液体流路とを構成する流路形成部材と、を含む液体吐出ヘッドであって、
前記流路形成部材は有機樹脂で形成され、
前記基体の上であって前記流路形成部材の内部に無機材料からなる土台部材を有し、該土台部材は前記流路形成部材と接する面に凹凸を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記土台部材は、金属、金属酸化物、金属窒化物及び金属炭化物から選ばれる少なくとも1種の材料で構成される請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記土台部材は、Au、Cu、Al及びTiから選ばれる少なくとも1種の材料で構成される請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記土台部材は、硫酸、燐酸、硝酸若しくはフッ酸又はこれらの混合物からなる溶液で表面を処理された請求項2又は3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記土台部材は、多孔質ガラスからなる請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記多孔質ガラスは、Na2O−B2O3−SiO2系のガラス成分を前記基体上に塗布し、熱処理した後に酸溶液中に浸漬させることにより形成された請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記多孔質ガラスの気孔率は30%以上である請求項5又は6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記土台部材は、アルミニウムからなり、前記流路形成部材と接する面側が陽極酸化反応により多孔質化されて形成された請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記土台部材は、ポリマー微粒子を含有する前記無機材料からなり、複合めっき法により形成された請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記土台部材の厚みは、前記流路形成部材の厚みの30%以上である請求項1乃至9のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記土台部材の厚みは、前記液体流路の高さ以上である請求項1乃至10のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記基体と前記土台部材の接触面積は、前記基体と前記流路形成部材との接触面積の30%以上である請求項1乃至11のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する液体流路とを構成する流路形成部材と、前記液体流路に前記液体を供給する液体供給口を有する基体と、を含む液体吐出ヘッドの製造方法であって、
(1)前記基体の上に、前記液体流路の型となる溶解可能な流路パターンと、表面に凹凸を有する土台部材と、を形成する工程と、
(2)前記流路パターン及び前記土台部材を覆うように有機樹脂を前記基体の上に塗布し、前記流路形成部材を形成する工程と、
(3)前記流路形成部材に前記吐出口を形成し、前記基体に前記液体供給口を形成する工程と、
(4)前記液体供給口から前記流路パターンを溶出し、前記液体流路を形成する工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記工程(1)において、前記凹凸を有する土台部材は、Au、Cu、Al及びTiから選ばれる少なくとも1種の材料を前記基体の上に配置する工程と、前記材料の表面を硫酸、燐酸、硝酸若しくはフッ酸又はこれらの混合物からなる溶液で処理する工程と、を含む工程により形成される請求項13に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記工程(1)において、前記凹凸を有する土台部材は、Na2O−B2O3−SiO2系のガラス成分を前記基体の上に塗布する工程と、前記ガラス成分を熱処理した後に酸溶液中に浸漬させて多孔質ガラスとする工程と、を含む工程により形成される請求項13に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記工程(1)は、前記基体の上に前記流路パターンの材料を形成する工程と、該流路パターンの材料の上に前記多孔質ガラスを形成する工程と、前記流路パターンの材料が露出するまで前記多孔質ガラスを平坦化する工程と、前記流路パターンの材料及び前記多孔質ガラスの上にパターニングマスクを形成してエッチングすることにより、前記流路パターン及び前記土台部材を形成する工程と、を含む請求項15に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記工程(1)において、前記凹凸を有する土台部材は、アルミニウムを前記基体の上に配置する工程と、前記アルミニウムの表面を陽極酸化反応により多孔質化する工程と、を含む工程により形成された請求項13に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項18】
前記工程(1)は、前記基体の上にアルミニウムを形成する工程と、前記土台部材を形成する部分を前記陽極酸化反応により多孔質化させる工程と、前記アルミニウムの上にパターニングマスクを形成してエッチングすることにより、前記アルミニウムからなる前記流路パターンと前記多孔質化したアルミニウムを含む土台部材とを形成する工程と、を含む請求項17に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【公開番号】特開2011−212944(P2011−212944A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82375(P2010−82375)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]