説明

液体吐出ヘッド及びそれを用いた記録装置

【課題】 インクジェット記録ヘッドを構成する支持プレートとインク供給部材の線膨張率の差に起因して温度変化の際に生じる歪を低減したインクジェット記録ヘッドを提供すること。
【解決手段】 支持プレートに対して、インク供給部材がインクジェット記録ヘッドの長手方向に沿って複数設けられており、複数の各インク供給部材は支持プレートに接着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出する液体吐出ヘッド及びそれを備える記録装置、特に、吐出したインク滴によって記録を行うインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドのうち、例えばインクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドとする)では、液体(インク)を吐出するための液体吐出基板として、複数の発熱抵抗素子等のヒーターが設けられた記録素子基板が用いられる。記録素子基板に設けられる記録素子の数が多く、記録幅が長いほど高速な記録が可能である。
【0003】
さらに高速な記録を実現するために、複数の記録素子基板を記録媒体の幅を有する記録ヘッドに配置した、いわゆるフルラインタイプの記録ヘッドが特許文献1で開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の記録ヘッドは、図12及び図13に示すように、複数の記録素子基板1100a〜1100dがひとつの支持プレ−ト1200の主面に配置されている。そして各記録素子基板は電気配線部材1300と電気的に接続されている。
【0005】
さらにこの支持プレ−ト1200は、記録素子基板にインクを供給するための液室が形成されたインク供給部材1500に接合保持されインクジェット記録ヘッド1000を構成している。
【0006】
また、特許文献2には、フルラインタイプの記録ヘッドにおいて、気泡の除去を容易に行うために、インク供給部材1500に複数の液室が形成された構成が記載されている。
【0007】
一般に記録ヘッドを構成する部材は、部材毎で要求される特性や機能を持たせるために、部材同士で線膨張率が異なる。
【0008】
具体的には、インクを吐出するための吐出口群を有する記録素子基板1100には、線膨張率の小さいSiなどが用いられる。
【0009】
記録素子基板1100を支持して固定する支持部材としては、温度変化の際に記録素子基板1100との線膨張率の差による歪を小さくすること、記録素子基板の変形や破損を防止することが求められる。よって、支持部材の材料としては、記録素子基板1100の線膨張率と近い線膨張率を有し、剛性の高いセラミック材料などが用いられる。
【0010】
支持部材を介して、記録素子基板にインクなどの液体を供給するインク供給部材は、記録素子基板にインクを供給するための流路や液室、また記録ヘッドを記録装置へ固定するための形状を形成するため、形状自由度が高い樹脂の射出成型部品が用いられる。また、支持部材とインク供給部材とは接着剤などにより接合される。
【0011】
以上のような記録ヘッドの構成の場合、樹脂を材料とする液体供給部材の線膨張率は、金属やセラミックを材料とする記録素子基板や支持部材の線膨張率に比べて大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−160834号公報
【特許文献2】特開2007−290245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、記録ヘッドを構成する各部材で線膨張率が異なる場合であっても、長尺ではないシリアルスキャンタイプの記録ヘッドでは、たとえ温度変化の際に線膨張率の差に起因する歪が発生しても記録に影響を与えるほどではなかった。
【0014】
しかしながら、フルラインタイプの記録ヘッドでは、シリアルスキャンタイプの記録ヘッドに比べて記録ヘッドの長手方向が長尺であるため、各部材の線膨張率の差に起因する歪がより大きくなる。そのため、その歪により発生する問題が記録に影響を与える場合がある。
【0015】
上述した歪の発生原因である温度変化が記録ヘッドに生じるのは、記録ヘッドの各部材の組み立てを行う場合や、記録装置の使用時などである。
【0016】
一般に線膨張率の差が大きい部材同士を接合する際には、歪の影響を緩和するため、柔軟性のある接着剤が用いられる。また、柔軟性のある接着剤は常温で接着可能なものが多く、組み立て時の温度変化の問題は問題とならない。
【0017】
しかしながら、接着される部材同士の線膨張率の差が大きくかつ長尺である場合には、常温で接着可能な柔軟性のある接着剤を用いたとしても、記録装置の使用時における記録ヘッドの温度変化に起因する歪を接着剤によって吸収できない場合がある。したがって、接着強度が弱まるおそれや接着部にはがれが生じるおそれがある。
【0018】
また、記録ヘッドの組み立ての際に高温で接着可能な接着剤で記録ヘッドの各部材の組み立てを行った場合は、記録ヘッドが組み立て時の高温から常温に下がる際の温度変化が問題となる。このような場合について、温度変化によって各部材が膨張・収縮した場合の線膨張率の差に起因する歪の一例を、図14を用いて定性的に説明する。
【0019】
図14において、記録ヘッドの長手方向の中心を原点とした場合に、矢印の方向は変位の方向を表し、矢印の大きさは変位の大きさを表すものとする。なお、記録ヘッドの長手方向は支持部材1200の長手方向に沿っている。記録ヘッドの長手方向(支持部材の長手方向)の中心(原点)から離れるほど、すなわち両端部ほど、膨張・収縮の際の変位が大きくなるため、線膨張率の差に起因する歪も大きくなる。例えば、図14に示すように、高温で支持部材1200と液体供給部材1500とを接着した場合(図14(a))、常温になると、液体供給部材1500は、支持部材1200よりもより多く収縮するため、反りが生じる場合がある(図14(b))。または、常温になると、液体供給部材1500と支持部材1200の両端部に発生した歪により、両端部の接合部分にはがれが生じてしまう場合がある(図14(c))。
【0020】
図14(b)のように反りが生じて支持部材が変形した場合には、たとえその変形量が少量であっても、記録素子基板の配置精度が低くなってしまい、記録品位に影響を与えるおそれがある。また、インク供給部材自体も許容できない程度に変形してしまうおそれがある。
【0021】
図14(c)のように両端部の接合部分にはがれが生じる場合には、記録動作に大きな影響を与えてしまう。
【0022】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、記録ヘッドを構成する部材同士の線膨張率の差に起因する歪を低減した液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出するための吐出口群を有する液体吐出基板と、該液体吐出基板を主面に固定して支持する支持部材と、該支持部材を介して前記液体吐出基板に液体を供給するための液体供給部材と、を有し、前記液体供給部材は、前記支持部材の線膨張率と異なる線膨張率を有し、前記支持部材の長手方向に沿って複数設けられており、複数の前記液体供給部材のそれぞれが、前記支持部材の主面の反対側の面に接着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の構成によれば、液体吐出ヘッドの長手方向に複数の液体供給部材が支持部材に接着されていることにより、支持部材と液体供給部材との線膨張率の差に起因する長手方向の歪が小さい液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用可能なインクジェット記録ヘッドの説明図。
【図2】実施例1のインクジェット記録ヘッドの分解斜視図。
【図3】一般的な記録素子基板の説明図。
【図4】実施例1のインクジェット記録ヘッドの断面模式図。
【図5】変形例1のインクジェット記録ヘッドの分解斜視図。
【図6】変形例2のインクジェット記録ヘッドの分解斜視図。
【図7】変形例2のインクジェット記録ヘッドの断面模式図。
【図8】変形例3のインクジェット記録ヘッドの分解斜視図。
【図9】変形例3のインクジェット記録ヘッドの断面模式図。
【図10】実施例2のインクジェット記録ヘッドの断面模式図。
【図11】本発明のインクジェット記録ヘッドを適用可能な記録装置の説明図。
【図12】従来のフルラインタイプのインクジェット記録ヘッドの説明図。
【図13】従来のフルラインタイプのインクジェット記録ヘッドの分解斜視図。
【図14】温度変化により線膨張率の差に起因して生じる歪の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施例で用いられる液体吐出ヘッドについて、一般的なインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を例として簡単に説明する。
【0027】
なお、本明細書において「記録」とは、文字や図形など有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。さらに、広く記録媒体上に画像、模様、パターンなどを形成する場合、または媒体の加工を行う場合をも包含する。
【0028】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、布、プラスチックフィルム、金属板、ガラス、セラミック、木材、皮革などのインクを受容可能な物をも含むものである。
【0029】
さらに、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様に広く解釈されるべきであり、記録媒体に付与されることによって、画像、模様、パターンなどの形成または記録媒体の加工あるいはインクの処理に供され得る液体を含む。したがって、記録に関して用いることが可能なあらゆる液体を包含している。
【0030】
図1及び図2は本発明を適用可能な記録ヘッドを説明するための図であり、図1は記録ヘッドを示す模式的斜視図、図2は図1の記録ヘッドH1000の構成を示す分解斜視図である。
【0031】
記録ヘッドは、記録素子基板H1100と、記録素子基板を支持するための支持プレートH1200と、記録素子基板と記録装置との電気的接続をなすための電気配線基板H1300と、支持プレートに接着されるインク供給部材H1500とで構成される(図2)。支持プレートH1200の主面H1200aに、記録素子基板H1100が配置されており、主面H1200aの反対側の面H1200bに液体供給部材としてのインク供給部材H1500が配置されている。支持プレートH1200は、記録ヘッドの長手方向に関して長尺の形状を備えている。
【0032】
液体を吐出するための吐出口群を有する液体吐出基板としての記録素子基板について説明する。図1に示す記録素子基板H1100a〜H1100hは、インクを吐出するためのエネルギーを発生する記録素子としてのヒーターを有する。また記録素子基板H1100a〜H1100hは、各ヒーターに対応して列状に形成、配列された複数の吐出口H1105で構成される吐出口群H1106を有している(図3(a))。
【0033】
図2に示すように記録素子基板H1100の支持部材としての支持プレートH1200は、各記録素子基板H1100にインクを供給するためのインク供給路H1210を有する。また、支持プレートH1200には、各記録素子基板H1100が所定の位置精度で主面H1200aに配置、固定されている。線膨張率の小さい単一の支持プレートに対して、記録素子基板を複数個配置することにより、長尺の記録ヘッドにおいても非常に精度よく吐出口列を連続して配列させることができる。
【0034】
このとき記録素子基板H1100は各記録素子基板に設けられた吐出口群H1106の端に位置する吐出口群の端部H1109(図2)が互いに吐出口配列方向で重複するように配置される。すなわち、記録素子基板H1100を支持プレートH1200に千鳥状に配列することにより、記録ヘッドの長手方向、すなわち支持プレートの長手方向に関して吐出口H1105が連続して配列される。そして上記のように記録素子基板H1100のつなぎ目の吐出口群の端部H1109を重複させて配列することによって配列時の位置ずれ等によって記録時に生じる画像上の影響を補正できるようにしている。
【0035】
支持プレ−トH1200は、強度などの観点から厚さ0.5mm〜10mmのアルミナ(Al)材料で形成されていることが望ましい。なお、支持プレ−トH1200の素材は、セラミック材料のアルミナに限られることなく、低線膨張率で剛性が高いものであれば良い。例として、シリコン(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、ジルコニア(ZrO)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などが挙げられる。
【0036】
図2に示すように、電気配線基板H1300は、記録素子基板H1100の固定位置に対応した開口部H1330が形成されており、記録素子基板H1100がその開口部H1330に収まるように支持プレ−トH1200に接着固定されている。また、電気配線基板H1300は、記録素子基板H1100のヒーターを駆動するための電気信号や電力を供給する。
【0037】
図3(a)は、記録素子基板H1100の構成を説明するための図であり、図3(b)は図3(a)に示すIIIB−IIIB断面図である。
【0038】
図3(a)及び(b)に示すように、記録素子基板H1100は、インクを吐出するための複数の吐出口H1105で構成される吐出口群H1106、吐出口と連通して吐出口にインクを供給するためのインク供給口H1101とを有する。吐出口群H1106は吐出口形成部材H1110に形成され、インク供給口H1101はシリコン基板H1108に形成される。
【0039】
シリコン基板H1108は、厚さ0.5mm〜1.0mmを有しており、異方性エッチングによりインク供給口H1101が形成されている。また、シリコン基板H1108にはヒーターH1102と、ヒーターを駆動するための駆動回路が作り込まれており、駆動回路に供給される電気信号や電力を送信するための電気接続端子H1103が設けられている。さらに吐出口形成部材H1110には、ヒーターH1102と吐出口H1105とが対応するように、フォトリソグラフィー技術を用いて、インク流路H1104及び吐出口H1105が形成されている。
【0040】
図1に示すように、電気接続端子H1103と電気配線基板H1300の表面に形成された接続端子H1320(図2)とが互いにワイヤ−ボンデイング等の電気接続手段により接続されている。なお、この電気接続部は、インクによる腐食及び外力による損傷を防止するため封止材H1304(図1)により封止されている。さらに電気配線基板H1300の一部である、外部との電気信号の授受のためのコネクター部H1305が、記録装置との接続が容易に行えるよう折り曲げられインク供給部材H1500に固定されている。
【0041】
またインク供給部材H1500は、流路となるインク供給室H1510が形成されており、樹脂材料を用いて形状自由度が高い射出成型等により形成されている。
【0042】
以上説明したように、本発明を適用可能な記録ヘッドは、低線膨張率で剛性が高い金属又はセラミックで支持プレートH1200が構成されている。この低線膨張率の支持プレートH1200に、一般的に線膨張率の高い樹脂材料で構成されるインク供給部材H1500が接着される構成となっている。
【0043】
次に本発明の特徴部分であるインク供給部材H1500の構成について図2、図4〜図10を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0044】
本実施例では、記録ヘッドの支持プレートH1200の長さが5インチ程度(4インチ(記録幅)+1インチ(電気配線基板の領域))の長さを有する記録ヘッドを例として説明する。
【0045】
図2及び図4に示すように、支持プレートの長手方向について長さ5インチの支持プレートH1200の約半分の長さを有する2つインク供給部材H1500AとH1500Bを、支持プレートH1200の反対側の面H1200bに接着固定する構成とした。
【0046】
本実施例ではインク供給部材H1500の長尺方向についての長さが、従来のインク供給部材1500(図12)の長さに比べて、半分程度となっている。
【0047】
したがって、図14で説明したような線膨張率の差に起因して温度変化によって生じる歪を、図12の場合の半分とすることができるため、支持プレ−トH1200とインク供給部材H1500の反りを低減することができる。また、各インク供給部材H1500の両端部における支持プレ−トH1200とのはがれが生じるおそれも少なくすることができる。
【0048】
なお、支持プレートH1200とインク供給部材H1500との接着には、高温で硬化する弾性率の高い接着剤H1700(図4)を用いた。
【0049】
線膨張率の差が大きい部材同士の接着は、一般的に接着層が柔軟性のある接着剤を用いることが望ましいとされている。これは、柔軟性のある接着層において各部材の線膨張率の差による歪を吸収して緩和することが可能であるからである。
【0050】
しかしながら本発明の構成によれば、支持プレートの長手方向に関する線膨張率の差によって生じる歪が小さいため、接着剤H1700の種類としては、接着層が低弾性率の接着剤及び高弾性率の接着剤のいずれも用いることができる。
【0051】
接着層の接合強度、インクに対する化学的耐性などを考慮した場合には、接着層が高弾性率の接着剤を用いることが望ましい。また、接着層が高弾性率の接着剤は、高温で接着層を硬化させる場合が多いため組み立て時の温度変化が大きいと言える。このように温度変化が大きい場合でも本発明の構成を適用することで、線膨張率の差に起因する歪の影響を小さくすることが可能となる。
【0052】
また、インク供給部材が温度上昇により膨張した場合に、インク供給部材同士が接触する位置に配置されていたとすると、支持プレートとインク供給部材とを接着している接着層に応力がかかるおそれが生じる。そのため、支持プレートH1200に接着された各インク供給部材は、常温で接触しない位置に配置されていることが望ましく、さらに記録ヘッドの使用時に温度上昇が生じた際にも接触しない位置に配置されていることが望ましい。つまり、支持プレートH1200に対して接着される各インク供給部材は、温度変化によって膨張、収縮した場合においても、部材同士の相互作用が小さい構成であれば本発明の効果を奏する。したがって、本実施例の構成のように必ずしも各インク供給部材が別個の部材として独立している必要はない。
【0053】
以上説明したように、実施例1では支持プレートH1200に対して、支持プレートの長手方向に沿ってインク供給部材を複数設け、各インク供給部材H1500を接着する構成を用いた。このような構成によれば、支持プレートの長手方向に関する支持プレートとインク供給部材との歪を低減することができる。よって記録品位の低下が小さく、安定した高品位の記録を行うことが可能な記録ヘッドを提供することができる。
【0054】
(変形例1)
上記説明では、図2及び図4で示すようにインク供給部材をH1500A、B2つの部材を配置した構成を説明した。しかしながら、図5に示すように支持プレートの長手方向に2個、長手方向に交差する方向に2個の計4個のインク供給室H1510A〜H1510Dがそれぞれ形成されたインク供給部材H1500A〜H1500Dを配置する構成でも良い。
【0055】
(変形例2)
実施例1の他の変形例として、記録幅がさらに長い8インチや12インチそれ以上の記録ヘッドの場合には図6及び図7に示すように支持プレートの長手方向に4個のインク供給部材H1500A〜H1500Dを配置する構成とすることもできる。
【0056】
(変形例3)
また、図8及び図9に示すようにそれぞれの記録素子基板H1100に対応したインク供給部材H1500A〜H1500Hを用いる構成により、支持プレートの長手方向の線膨張率の差に起因して発生する歪をさらに小さくすることができる。また、図8に示すように例えばインク供給部材H1500AとH1500Bとは、支持プレートH1200の長手方向に交差する方向に関して複数設けられている。よって、長手方向に交差する方向に関してもインク供給部材の線膨張率の差に起因して発生する歪を小さくすることができる。
【0057】
以上、説明した変形例1〜3では、支持プレートの長手方向及び長手方向に交差する方向について、実施例1に比べてインク供給部材の長さを短くしているため、さらに線膨張率の差に起因する歪を低減することができる。
【0058】
ところで、記録幅が長い記録ヘッドの場合、インク供給部材H1500が長くかつ大きくなるため、支持プレートH1200とインク供給部材H1500の線膨張率の差に起因する歪の問題だけではなく次のような問題がある。すなわちインク供給部材が大きいと、記録素子基板にインクを均一に安定して供給したり、インク供給室から記録素子基板の吐出口までの気泡等を除去するための回復動作が難しくなる。ここで回復動作とは、インクをインク供給部材内のインク供給室から記録素子基板内へ強制的に流す動作を意味する。
【0059】
このような問題に対しても、実施例1及び変形例1〜変形例3のように記録幅が長い記録ヘッドにおいて、できるだけ短く小さなインク供給部材を用いることによって、回復動作を容易に行うことができ、上記問題を解決することができる。
【0060】
また、記録幅が長い記録ヘッドで、記録素子が発熱抵抗素子などのヒーターで構成される場合には、記録素子基板の温度変化による記録品位の影響を考えなければならない。一般的に記録素子基板の温度変化に対応してインクの吐出量が変化し、記録濃度が変化する。
【0061】
したがって、実施例1及び変形例1〜変形例3で示したような複数の記録素子基板を並べて配置し記録を行う記録ヘッドにおいては、複数の記録素子基板間の温度差を小さくするように記録を行うことが必要である。
【0062】
特に記録ヘッドの外部からインク供給部材にインクを供給する構成で、記録素子基板間に温度差が生じないように記録を行う場合にも、本発明の記録ヘッドは適した構成であると言える。
【0063】
実施例1及び変形例1〜変形例3の構成では1つの記録ヘッドに対して複数のインク供給部材を備えている。したがって、これらの構成は1つの記録ヘッドに対して1つのインク供給部材を備える構成に比べて、インク供給室H1510に新しいインクが供給されることによりインク供給室H1510内のインクの温度が一定に保たれる。よって、支持プレートH1200を介して記録素子基板H1100の温度の均一化を図ることができる。
【0064】
なお、実施例1及び変形例1〜変形例3においてはインク供給部材H1500のインク供給室H1510に不図示の液体供給源としてのインクタンクからインクを供給する構成として説明した。しかしながら、インク供給部材がインクを貯留するタンク機能を備えた構成であってもよいし、またインク供給室内部に負圧を発生させるための部材や機構が配置されていてもよい。
【実施例2】
【0065】
実施例2について、図10を用いて説明する。
【0066】
図10は、実施例2の記録ヘッドにおける、支持プレートH1200の長手方向に関する断面図である。
【0067】
実施例1と同様の構成については対応箇所に同一符号を付してその説明を省略する。
【0068】
本実施例では、記録ヘッドに対してインクを貯留するインクタンクH1600A〜H1600Hが着脱可能となるように、インク供給部材がインクタンクを着脱可能に保持する機能を備えたタンクホルダー形状とした。
【0069】
図10に示すように、インク供給部材H1501A〜H1501Hは実施例1と同様に個々に支持プレ−トH1200に接着固定されている。したがって、タンクホルダー形状を有したインク供給部材H1501A〜H1501Hは線膨張率の差に起因する歪が、従来の構成(図13)に比べて小さい記録ヘッドとなっている。
【0070】
本実施例のようにインクタンクH1600を着脱することが可能な構成とすることで、記録ヘッド外部のインク供給源からのインク供給経路が不要となる。したがって、本実施例の記録ヘッドを用いることで、シンプルな構造で低コストのインクジェット記録装置を提供することが可能となる。
本発明においては支持プレートとインク供給部材との線膨張率の差に起因する、支持プレートの長手方向に関する歪を抑制することは重要である。一方、一般的に支持プレートの長手方向に交差する方向の寸法は、1/5〜1/10程度と長手方向の寸法に対してかなり小さい。よって、支持プレートの長手方向に交差する方向に関する線膨張率差に起因する歪は小さい。したがって、長手方向に交差する方向に関しては、上述してきたような線膨張率差による種々の問題が発生する可能性が極めて低いため、長手方向に交差する方向の歪を抑制することは必ずしも必要ではない。
【0071】
よって、これまで説明してきた本発明の実施例1、2及び変形例1〜3の構成(図2,図5,図6、図8)において、支持プレ−トH1200に配置された複数のインク供給部材H1500は長手方向に交差する方向においては互いの部材同士が接する構成でも良い。
【0072】
次に実施例1、2及び変形例1〜3で説明した本発明の記録ヘッドを搭載可能なインクジェット記録装置について説明する。
【0073】
図11は本発明の記録ヘッドを用いたインクジェット記録装置の概略図である。
【0074】
図11に示すインクジェット記録装置M4000では、記録装置本体に記録ヘッドが固定されており、記録媒体を矢印45の方向に搬送することで記録を行う方式が用いられる。
【0075】
インクジェット記録装置M4000は、例えば、ブラックインク用の記録ヘッドH1000Bk、シアンインク用の記録ヘッドH1000C、マゼンタインク用の記録ヘッドH1000M、イエローインク用の記録ヘッドH1000Yを備えている。これらの記録ヘッドH1000Bk〜H1000Yは、インクジェット記録装置M4000に載置されているヘッドホルダ42によって固定されている。
【0076】
46は普通紙などの記録媒体47が収納され装置本体に着脱自在に装着される給紙カセット、48は最上面の記録媒体47を1枚だけ送り出して給送するピックアップローラである。
【0077】
49はピックアップローラ48より送り出された記録媒体47を搬送路50へ搬送する搬送ローラであり、51は搬送路50の出口側に配設された搬送ローラである。
【0078】
次に、記録装置の動作について簡単に説明する。
【0079】
記録開始の操作が行われると、指定されたサイズの記録媒体47がピックアップローラ48によって給紙カセット46から送り出される。送り出された記録媒体47は、搬送ローラ49および51によって、搬送ベルト44に乗せられる。
【0080】
記録媒体47の先端部が記録ヘッドH1000Bk〜H1000Yの各々の下部に到着するのに連動して、各記録ヘッドの発熱抵抗素子が記録データに応じて駆動される。
【0081】
発熱抵抗素子が駆動されることにより、画像情報に応じたインク液滴が吐出口から飛翔して記録媒体47の表面に着弾し、記録が行われる。
【0082】
以上のように、それぞれシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのインクに対応した記録ヘッドにそれぞれのヘッドに応じた記録信号を与えることによりカラー画像が形成される。
【0083】
なお、本発明のインクジェット記録ヘッドは、図11で説明したようなフルラインタイプの記録装置だけでなく、いわゆるシリアル方式の記録装置で長尺な記録ヘッドを用いる記録装置に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
H1000 インクジェット記録ヘッド
H1100 記録素子基板
H1105 吐出口
H1106 吐出口群
H1200 支持プレート
H1200a 支持プレートの主面
H1200b 支持プレートの主面の反対側の面
H1500、H1501 インク供給部材
H1600 インクタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための液体吐出基板と、該液体吐出基板を主面に固定して支持する支持部材と、該支持部材を介して前記液体吐出基板に液体を供給するための液体供給部材と、を有する液体吐出ヘッドであって、
前記液体供給部材は、前記支持部材の線膨張率と異なる線膨張率を有し、前記支持部材の長手方向に沿って複数設けられており、
複数の前記液体供給部材のそれぞれが、前記支持部材の主面の反対側の面に接着されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
複数の前記液体供給部材が、部材として互いに独立していることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記液体供給部材が、前記長手方向に交差する方向に沿って複数設けられており、
複数の前記液体供給部材のそれぞれが、前記支持部材の前記主面の反対側の面に接着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記長手方向に沿って設けられた複数の前記液体供給部材は、前記長手方向に関して常温で互いに接触しないように配置されている請求項1乃至3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記長手方向に沿って設けられた複数の前記液体供給部材が、前記液体吐出ヘッドの使用時の温度で、前記長手方向に関して互いに接触しないように配置されている請求項1乃至4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記液体吐出基板は、複数の吐出口で構成される吐出口群を有しており、
複数の前記液体吐出基板が、前記長手方向に沿って配置されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
複数の前記吐出口群は前記長手方向に関して連続していることを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記複数の前記液体吐出基板は千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
1つの前記液体吐出基板に対して、前記液体供給部材が1つ配置されている請求項1乃至8のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記支持部材が単一の部材で構成されている請求項1乃至9のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記支持部材がセラミック材料で構成されている請求項1乃至10のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記液体供給部材が樹脂材料で構成されている請求項1乃至11のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
液体を貯留するタンクから、前記液体供給部材に液体が供給される請求項1乃至12のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記タンクが前記液体吐出ヘッドに対して着脱可能であり、
前記液体供給部材が、前記タンクを着脱可能に保持する機能を備えた請求項13に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記液体供給部材が、液体を貯留するタンク機能を備えた請求項1乃至14のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを備えており、
前記液体吐出ヘッドを用いて記録媒体に記録を行う記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−23486(P2010−23486A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111125(P2009−111125)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】