説明

液体吐出手段、および、液体吐出装置

【課題】液体を高速かつ正確な量で液滴として吐出する。
【解決手段】液体201を貯留する貯留室210の一部を形成する第一部材111と、貯留室210内の液体201を吐出する吐出孔117が設けられる第二部材112と、第一部材111と第二部材112との間に配置される弾性部材113と、貯留室210内に液体201を供給する供給孔116と、貯留室210の容積を増減させる作動手段114と、第二部材112と熱的に接続され、第二部材112よりも熱容量の大きな蓄熱体192と、蓄熱体192を昇温する加熱手段121とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、液体を液滴状に吐出する液体吐出装置に関し、特に、固体を分散状態で含有する液体や、高粘度の液体にも適用でき、吐出量を正確に制御できる液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷技術のひとつとして、正確な位置にインクの液滴を吐出させて紙面上に像を印刷するインクジェット技術がある。そして近年、当該インクジェット技術が、各種のデバイス製造過程におけるパターンの形成や均一薄膜の形成等に応用されてきている。
【0003】
さらに、インクジェット技術が、文字や図形などの印刷以外の分野に広く適用されるためには、いろいろな種類の液体を吐出することができるような液体吐出装置が必要となる。例えば、青色の発光ダイオードを光源として白色の光りを照射するためには、発光ダイオードの表面に微細な固形の蛍光体が分散状態で含む光を透過可能な樹脂の層を形成する必要があり、固形物を含有した液体を吐出するための液体吐出装置が必要となる。また、半導体デバイスの製造過程において、高粘度の熱硬化性樹脂を吐出する必要があり、高粘度の液体を正確な量で吐出する液体吐出装置が必要となる。
【0004】
このような種類の液体を吐出することができる装置の一つとして、例えば特許文献1に記載の発明を例示することができる。特許文献1に記載の液体吐出装置は、プランジャにより液体をノズルから押し出すタイプの装置であり、貯留している液体全体の温度を上昇させる加熱手段を備え、液体を加温することで液体の粘度を調整するものとなっている。
【0005】
また、特許文献2に記載の液体吐出装置は、インクジェットタイプの装置であり、インクを吐出するためのヘッド全体を加熱することで、ヘッドに設けられた複数の吐出孔の間隔を安定させ、正確な位置での液体の吐出を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−317371号公報
【特許文献2】国際公開第2006/085561号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、吐出する液体の種類によっては液体を長時間加熱すると硬化し始めるなど吐出対象の液体として必要な特性が変化してしまう場合があるため、貯留している液体全体を加温することはできない場合がある。
【0008】
本願発明は、上記課題に基づきなされたものであり、液体への加温時間を抑制して吐出後の液体に必要な特性などを維持しつつ、液体を吐出するために必要な液体の粘度などの特性を調整して正確な量の液体を安定して高速に吐出することのできる液体吐出装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明にかかる液体吐出手段は、液体を液滴として吐出する吐出手段であって、液体を貯留する貯留室の一部を形成する第一部材と、前記貯留室の他の部分を形成し、前記貯留室内の液体を吐出する吐出孔が設けられる第二部材と、前記第一部材と前記第二部材との間に配置され、前記貯留室の少なくとも一部分を形成する弾性部材と、前記貯留室に連通し、前記貯留室内に液体を供給する供給孔と、前記第一部材と前記第二部材とを相対的に動かし前記貯留室の容積を増減させる作動手段と、前記第二部材と分離可能で、かつ、熱的に接続され、前記第二部材よりも熱容量の大きな蓄熱体と、前記蓄熱体を昇温する加熱手段とを備えることを特徴としている。
【0010】
これによれば、大きな熱容量の蓄熱体と第二部材とを熱的に接触した状態とすることができるので、吐出直前の液体を第二部材の近傍のみで安定して加熱することが可能となる。従って、液体の粘度など吐出に必要な特性を加温により制御して、正確な量の液体を高速に吐出することができる。一方、液体全体を長時間加熱することが無いため吐出後の液体に必要な特性に悪影響を与えることなく液体を吐出することが可能となる。
【0011】
前記蓄熱体は、前記第二部材を内方に収容する容器形状となっており、前記蓄熱体の開口部を覆い、前記蓄熱体とで前記第二部材と前記作動手段とを挟持し、前記蓄熱体よりも熱伝導率が低い保持体を備え、前記加熱手段は、前記蓄熱体の内方に配置されるものであってもよい。
【0012】
これによれば、第二部材が蓄熱体で囲まれることになり、第二部材からの放熱を抑制することが可能となる。従って、第二部材の温度をより安定した状態で調整することが可能となる。また、加熱手段と接触する空気の対流を蓄熱体が抑制して加熱手段の加熱状態を安定させることができ、また、吐出孔から吐出する液体と加熱手段との接触を回避して加熱手段を液体から保護することが可能となる。
【0013】
さらに、前記保持体を基準として、付勢力により前記第二部材を前記蓄熱体に押しつける付勢手段を備えてもかまわない。
【0014】
これによれば、接着剤を用いることなく、また、複雑な構造を採用することなく第二部材と作動手段との接続を実現することができる。従って、第二部材を接着剤が許容しない温度まで上昇させることが可能となり、吐出手段により吐出できる液体の種類の幅を広げることが可能となる。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本願発明にかかる液体吐出装置は、前記吐出手段を備える液体吐出装置であって、前記吐出手段が有する貯留室に供給される液体の圧力が大気圧より大となるように液体に圧力を加える加圧手段と、前記貯留室に加圧された液体を供給するか否かを制御する供給制御手段と、前記作動手段の動作を制御する作動制御部と
を備えることを特徴とする。
【0016】
これによれば、液体を加圧された状態で貯留室に供給することができるため、高粘度の液体であっても貯留室、および、吐出孔に精度に与える悪影響を低減させて高速に充填することが可能となる。さらに、加圧された液体(以下、「加圧供給液」と記す場合がある)を供給制御手段により貯留室に供給するか否かのタイミングを制御するとともに、液体の吐出タイミングを作動制御部により制御することにより、吐出する液体の量を適切に調整することが可能となる。
【0017】
従って、液体の種類に基づく粘度に影響されることなく、高速で液体を貯留室や吐出孔に充填することが可能となり、さらに、加温により粘度などの液体の特性を制御したうえで正確な量の液体を高速に吐出することが可能となる。
【0018】
さらに、前記供給制御手段が液体の供給を開始させる制御と、前記作動制御部が液体を吐出させる制御とを同期させる同期部を備えるものでもよい。
【0019】
これによれば、液体を吐出した直後から液体を加圧供給することができるため、迅速に貯留室、および、流出孔に液体を充填し、次の吐出の準備を整えることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば、広い種類の液体、特に粘度の高い液体に対し、正確な量、かつ、高速に液体を吐出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、液体吐出装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、液体吐出装置の液体の吐出に関わる部分の概略構成を分解状態で示す斜視図である。
【図3】図3は、液体吐出装置の液体の吐出に関わる部分の外観を概略的に示す斜視図である。
【図4】図4は、液体吐出装置の液体の吐出に関わる部分の概略構成を一部断面で示す図である。
【図5】図5は、液体吐出装置の液体の吐出に関わる部分の機能構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、液体の吐出動作の際の吐出手段を模式的に断面で示す図であり(a)は、吐出直前の状態、(b)は吐出直後の状態を示している。
【図7】図7は、液体吐出装置の動作の推移を示すタイミングチャートである。
【図8】図8は、実験結果の一例を示すグラフである。
【図9】図9は、液体吐出装置の動作の推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本願発明に係る液体吐出手段、および、液体吐出装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態は、本願発明に係る液体吐出手段、および、液体吐出装置の一例を示したものに過ぎない。従って本願発明は、以下の実施の形態を参考に請求の範囲の文言によって範囲が画定されるものであり、以下の実施の形態のみに限定されるものではない。
【0023】
図1は、液体吐出装置の概略構成を示す斜視図である。
【0024】
同図に示すように、本実施の形態に係る液体吐出装置100は、被塗布体204上の所望の位置に液体201を吐出して、パターンを形成することができる装置であって、ヘッド221と、被塗布体204を支持するステージ231とを備えている。
【0025】
ヘッド221は、1または複数の吐出手段101(後述)が設けられ、装置基台206に支持されたヘッド移動装置202によって主走査方向(図1に示すX軸方向)に往復移動する。ステージ231は、同じく装置基台206に支持されたステージ移動装置203によって副走査方向(図1に示すY軸方向)に往復移動する。
【0026】
液体吐出装置100は、この構成によって、ヘッド221とステージ231上の被塗布体204とを相対移動させながら、ヘッド221に備えられた吐出手段101から被塗布体204に向かって液体201を吐出し、被塗布体204上に所望のパターンや均一な膜等を形成する。
【0027】
図2は、液体吐出装置の液体の吐出に関わる部分の概略構成を分解状態で示す斜視図である。
【0028】
図3は、液体吐出装置の液体の吐出に関わる部分の外観を概略的に示す斜視図である。
【0029】
図4は、液体吐出装置の液体の吐出に関わる部分の概略構成を一部断面で示す図である。
【0030】
図5は、液体吐出装置の液体の吐出に関わる部分の機能構成を示すブロック図である。
【0031】
これらの図に示すように、液体吐出装置100は、所望の液体201を液滴として所定の量だけ吐出することができる装置であって、吐出手段101と、加圧手段102と、供給制御手段103と、作動制御部104と、供給源210とを備えている。
【0032】
吐出手段101は、吐出手段101の内部に形成される貯留室110に充填された液体201を、貯留室110の容積を短時間で縮小させることにより液滴として吐出ことができるものであり、第一部材111と、第二部材112と、弾性部材113と、作動手段114と、加熱手段121と、蓄熱体192とを備えている。
【0033】
第一部材111は、貯留室110の一部を形成する部材である。本実施の形態の場合、第一部材111は、液体201の供給路115としての機能も果たす管体であり、先端部には、先端面(Z軸上、第二部材112側)に向かって徐々に面積が広がる円錐形状(テーパ形状)の凹部が形成されている。当該凹部は貯留室110の一部(一方の部材)に該当する。また、円錐形状の凹部の頂点に対応する部分には、供給路115と貯留室110とを連通させるオリフィス状の供給孔116が設けられている。第一部材111は、第二部材112とにより弾性部材113を圧縮する部材であり、弾性部材113に対して剛性の高い材質で形成されている。例えば第一部材111は、ステンレス鋼等で形成される。
【0034】
第二部材112は、貯留室110の他の部分(他方の部材)を形成し、貯留室110内の液体201を吐出する吐出孔117が設けられる部材である。本実施の形態の場合、第二部材112は、吐出孔117から第一部材111側に向かって徐々に面積が広がるテーパ形状の凹部を備えており、第一部材111の凹部と第二部材112の凹部とを対向させた状態で配置することで、貯留室110を形成する。第二部材112は、第一部材111と同様に、弾性部材113を圧縮する部材であり、弾性部材113に対して剛性の高い材質で形成されている。また、第二部材112は、吐出孔117に充填される液体に熱を伝達するために熱伝導性の高い材質、形状で形成されている。例えば第二部材112は、ステンレス鋼等で形成される。
【0035】
弾性部材113は、第一部材111と第二部材112との間に配置され、貯留室110の容積を変化させるための部材である。本実施の形態の場合、弾性部材113は薄い板形状となっており、第一部材111に設けられる凹部と第二部材112に設けられる凹部(第一部材111と第二部材112との間)に挟まれる部分には、前記二つの凹部に対応した形状の孔が厚み方向(Z軸方向)に貫通状態で設けられている。弾性部材113は、作動手段114により第一部材111と第二部材112との距離を縮めることができる柔軟性と、貯留室110を構成する第一部材111と第二部材112との合わせ面の液漏れを防止できるシール性と、貯留室110内の液体201の圧力に抗することのできる強度と、液体201の吐出を複数回行うことができる復元性とを備えた部材であり、例えばフッ素ゴムやシリコンゴム等によって形成される。また、前記機能は、材質ばかりでなく弾性部材113の形状(例えばXY平面視でリング形状)によっても実現されるものであり、例えば、弾性部材113は、厚みが100μm〜300μm、好適には200μm程度の薄い板状の部材の中央に厚み方向に内径が1000μm程度の貫通孔が設けられた環形状の部材とすることで、弾性部材113の材質と相まって前記機能を実現している。
【0036】
なお、貯留室110、供給孔116、吐出孔117の形状や大きさ(容積)は、吐出対象である液体201の種類や吐出される液滴の量により適宜設計される。例えば、吐出される液滴の体積を数nl(例えば3nl)とする場合、吐出孔117の孔径は85μm、孔長は70μm程度となり、貯留室110の弾性部材113近傍は、径が1000μm程度の円筒形状となり、供給孔116の孔径は110μm、孔長は700μm程度となる。また、吐出される液滴の体積を数十nl(例えば20nl)とする場合、吐出孔117の孔径は100μm、孔長は100μm程度となり、貯留室110の弾性部材113近傍は、径が1500μm程度の円筒形状となる。
【0037】
ここで、液体201を供給するオリフィス状の供給孔116、貯留室110、および、吐出孔117は、液体201への抵抗が小さくなるように直線上に配置されている。これにより液体201を貯留室110や吐出孔117への高速充填を容易にしている。
【0038】
また、第一部材111、または、第二部材112の少なくともいずれか一方(本実施の形態では第二部材112)は、弾性部材113の外周面を取り囲むように、弾性部材113がはまり込む凹部を備えている。これによって、弾性部材113が厚さ方向に弾性変形するときに、その弾性部材113が貯留室110の外方に向かって逃げるような変形を規制することができる。これは、弾性部材113が厚さ方向と交差する方向に広がることにより貯留室110内の液体201の圧力が低下することを抑止するものである。
【0039】
作動手段114は、通常の状態(貯留室110へ液体201を供給することが可能な平常時)ではZ軸方向に貯留室110を伸ばして容積を広げ(図7(a)参照)、液体201を吐出する際に第一部材111と第二部材112との距離を相対的に縮めて(図7(b)参照)弾性部材113を圧縮し貯留室110の容積を減少させる力を発生させるアクチュエータである。作動手段114としては、第一部材111と第二部材とをエアーの圧力により作動させるものや電磁的に作動させるものなどが考えられるが、装置の大きさや応答速度を勘案すれば圧電素子が好適である。特に、作動手段114としては積層型圧電体が好適である。本実施の形態の場合、作動手段114は、電圧を供給することにより第一部材111と第二部材112との距離が伸びる方向(Z軸方向)に力が発生するものとなっており、伸縮方向(Z軸方向)の一端(上端)は、第一部材111の外周面に接着剤などにより固定的に強固に接続され、他端(下端)は、第二部材112の一部と弾性部材113を介して接続されている。なお、本実施の形態の場合、作動手段114の他端(下端)は、後述の筐体119に保持された第二部材112の一部と弾性部材113を介して接続されており、接着剤などで固定的に接続されているものではない。
【0040】
なお、作動手段114がZ軸方向に縮む際に、作動手段114の他端(下端)に対して相対的な第二部材112のZ軸方向への追従タイミングがずれるのを防止するため、(液体201の液滴の安定吐出および作動手段114の他端(下端)と第二部材の接触面への液漏れ防止のため)作動手段114の他端(下端)と第二部材112の一部が直接接触する部分は接着剤により固定されてもよい。ただし、これらの形状に制限されることはなく、例えば付勢手段120の弾性力(付勢力)を高めることにより分離可能な機械的な構成により固定されるものであってもかまわない。
【0041】
具体的に作動手段114は、電極118に電圧が印加されることによって、図7(a)に示すように、Z軸方向の長さを伸長させておき、電圧の印加を解除して、図7(b)に示すように、Z軸方向に縮ませることにより液体201を吐出させることができるものとなっている。
【0042】
また、作動手段114としての積層型圧電体は、円筒形状の第一部材111の周囲を取り囲んだ状態で配置されている。すなわち、作動手段114としての積層型圧電体は、隙間を有した状態で第一部材111を挿通することができる貫通孔を備えている。作動手段114をこのような形状とすることで、第一部材111と第二部材112との間に挟まれた弾性部材113をZ軸方向に相対的に均等に伸縮させることができる。
【0043】
蓄熱体192は、第二部材112と分離可能、かつ、熱的に接続され、第二部材112よりも熱容量の大きな部材である。また、蓄熱体192は、第一部材111とは熱的に遮断された状態で配置されている。
【0044】
ここで「熱的に接続される」とは、蓄熱体192と第二部材112とが直接、または、間接的に接触し、蓄熱体192の熱を第二部材112に十分に伝達できる程度に接続されている状態である。また、間接的とは、蓄熱体192と第二部材112との間に熱伝導性が高く、弾性、または、可塑性を備えた部材を配置するような場合である。蓄熱体192が剛体であり、第二部材112も剛体であるため、熱的な直接、または、間接的な接続を行うことで両者の接触面積を増加させて熱伝導性を高めることができる。
【0045】
一方、「熱的に遮断された状態」とは、蓄熱体192と第一部材111との間に空間が設けられているような場合や、断熱性の高い部材を介して接続されている場合であり、少なくとも、「熱的に接続されている」場合よりは両者間の熱伝導率が低い状態を示している。
【0046】
より詳細に説明すると、作動手段114の上端部(Z軸方向の上端)側が第一部材111の外周と固定保持されこの固定保持されている上端部側より下の領域の作動手段114の内周と第一部材111とは隙間を有する。この構成により、蓄熱体192に設けられている加熱手段121の熱を蓄熱体192と直接的に熱的に接続する貯留室110の一部の領域を含む第二部材112の吐出孔117に熱を効果的に伝えることができる。
【0047】
このように、加熱手段121を供給孔116より吐出孔117に熱伝導的に近い構成とするため、吐出孔117と供給孔116とで温度差ができ、吐出孔117付近の液体201の粘度が供給孔116付近の液体201の粘度より低下し、吐出能力が向上するのでより好ましい。
【0048】
液体201の吐出のための貯留室110の一部分を構成する第一部材111は、フッ素ゴムやシリコンゴムなどからなる弾性部材113を介して第二部材112と間接的に接触しているため、加熱手段121により加熱される蓄熱体192に熱的に直接接触する第二部材112と上述の第一部材111との間で温度勾配が乗じるため、第二部材112の吐出孔117と貯留室110への液体201の供給経路である供給孔116との間で温度勾配が発生し、より吐出孔117側での温度管理が行いやすくなる。
【0049】
本実施の形態の場合、蓄熱体192は、後述の断熱性を備えた保持体193によって構造的(物理的)に保持(接続)されており、第一部材111や作動手段とは直接接続されることなく熱的に遮断されている。
【0050】
また、蓄熱体192は、一面が開口状態の矩形の箱形状(容器形状)となっており、蓄熱体192の底部には、第二部材112の周縁部と勘合し、第二部材112の吐出孔117を蓄熱体192の外部に露出させる孔部が設けられている。また、蓄熱体192は、熱伝導性が高く蓄熱性を備え、かつ、耐薬品性能を考慮してステンレスなどで形成される。
【0051】
加熱手段121は、蓄熱体192を加熱して恒温状態とすることができるヒータである。本実施の形態の場合、加熱手段121は、箱形状の蓄熱体192の内方に配置されている。また、蓄熱体192をバランスよく加熱するため、蓄熱体192の内方の第二部材112を挟む2箇所に配置されている。また、加熱手段121は、特に種類は限定されるものでは無く、電気抵抗により発熱する電気ヒータやセラミクスヒータなどを例示することができる。
【0052】
保持体193は、蓄熱体192の開口部を覆い、蓄熱体192と当該保持体193との間で第二部材112と作動手段114とを挟持する部材である。また、保持体193は、蓄熱体192よりも熱伝導率が低い材質で形成されている。本実施の形態の場合、保持体193は、ある程度の剛性を備え断熱性能も備える樹脂、例えばpeek樹脂などで形成され、液体吐出装置100のヘッド221に固定的に接続されている。また、保持体193は、蓄熱体192を固定的に保持している。以上により、蓄熱体192は、保持体193に熱的に遮断された状態で保持されており、第二部材112、および、加熱手段121のみと熱的に接続された状態となっている。
【0053】
また、蓄熱体192と保持体193とは、作動手段114と固定的に接続される第一部材111、および、作動手段114と第二部材112とを弾性部材113を挟む位置に配置する構造体としての機能を備えている。また、第一部材111、および、作動手段114と第二部材112とを弾性部材113を挟んだ挟持状態で保持する挟持力は、付勢手段120により付与されている。本実施の形態の場合、付勢手段120は、保持体193と作動手段114との間に挟まれて配置される皿バネである。
【0054】
吐出手段101をこのような構成にすることにより、作動手段114と第二部材112とを接着剤で固定する必要がなくなり、第二部材112を高い温度まで昇温しても接着剤の接着力が低下するなどの化学的な不具合を回避することが可能となる。従って、熱硬化性接着剤(例えば20〜60℃)や低温半田などの例えば150℃以下程度の温度で加熱することでより吐出が安定する液体を吐出手段101で吐出することが可能となる。また、保持体193と蓄熱体192とを分離することで、作動手段114と第二部材112と分離することが可能となり、吐出孔117が目詰まりした場合など第二部材112を簡単に交換し、また、簡単に清掃が行えるなどメンテナンス性を向上させることが可能となる。また、吐出孔117や凹部の形状が異なる第二部材112を準備することにより、液体201の種類に応じて第二部材112を容易に交換することができるようになる。
【0055】
さらに、弾性部材113も分離可能となるため、弾性部材113が劣化した場合など容易に交換することができ、吐出手段101全体としての寿命を向上させることが可能となる。
【0056】
本実施の形態の場合、液体吐出装置100はさらに、供給源210と、加圧手段102と、供給制御手段103と、作動制御部104とを備えている。
【0057】
供給源210は、吐出手段101の貯留室110に供給する液体201を保持するものであり、本実施の形態の場合、供給源210は、図4に示すように、シリンジ211とプランジャ212とを備えている。
【0058】
シリンジ211は、液体201を内方に保持し、プランジャ212を移動させることにより液体201を一定の圧力で貯留室110に供給することができる筒状の容器であり、液体201を保持する保持室213と、プランジャ212に対し保持室213の反対側に密閉状の圧力調整室214とを備えている。
【0059】
プランジャ212は、シリンジ211の内方にシリンジ211に対し摺動自在に配置され、シリンジ211内の液体201を押し出すことができる部材である。本実施の形態の場合、プランジャ212の移動方向における可撓性有する可撓部215がプランジャ212の一部に設けられている。本実施の形態の場合、可撓部215は、プランジャ212の移動方向に貫通状態で設けられた孔の一端を閉塞する膜である。
【0060】
なお、プランジャ212全体が可撓性を備え、プランジャ212全体が可撓部215として機能するものでもかまわない。
【0061】
以上の態様の供給源210は、ポンプなどに比べ脈動が発生しないため好ましい。
【0062】
加圧手段102は、貯留室110に供給される液体201の圧力が大気圧より大となるように液体201に圧力を加える装置である。本実施の形態の場合、供給源210がシリンジ211とプランジャ212とにより構成されるものであるため、加圧手段102は、供給源210の圧力調整室214に加圧されたエアーを導入することのできる装置となっている。以上のように加圧手段102は、圧力調整室214に加圧されたエアーを導入することで、プランジャ212をシリンジ211に対し摺動させ、液体201を加圧するものとなっている。
【0063】
なお、加圧手段102は、加圧エアーを発生させるエアコンプレッサのような装置ばかりでなく、機械的にプランジャ212をシリンジ211に対して移動させる装置でもかまわない。例えば、バネなどの付勢手段で一定の力をプランジャ212に加える装置などである。また、チューブポンプなど液体201を加圧しつつ供給することができるポンプに加圧手段102の機能を担わせるものでもかまわない。また、工場などに備わっている工場エアー源を利用するものでもよい。
【0064】
また、液体201に揮発成分が含まれていないような場合、プランジャを用いずにエア等により直接に液体201を加圧し液体201を吐出手段101の貯留室110に供給するものであってもよい。
【0065】
供給制御手段103は、貯留室110に加圧された液体201を供給するか否かを制御する装置である。本実施の形態の場合、供給制御手段103は、第一弁131と、供給制御部132とを備えている(図4、図5参照)。
【0066】
第一弁131は、加圧手段102(エアコンプレッサ、工場エアー源など)と圧力調整室214とを接続するエアー経路に設けられる弁体であり、圧力調整室214に加圧エアーを導入するか否かを弁の開閉で制御できるものとなっている。
【0067】
本実施の形態の場合、第一弁131は、3ポート弁となっている(図4参照)。つまり、第一弁131を閉の状態とすれば、加圧手段102から圧力調整室214に供給される加圧エアーが遮断されるとともに、圧力調整室214が他の経路と連通するように切り替わる。他の経路は、後述の第二弁181と接続されている。さらに、第二弁181は、第一弁131と同様3ポート弁であり、後述の負圧源107、および、大気と他の経路とを選択的に接続できるものとなっている。なお、他の経路は単に大気圧に開放されているものでもよい。
【0068】
以上の構成により、加圧手段102との連通から負圧源107との連通にエアー経路が切り替えられると、圧力調整室214は、負圧源107と連通する。ここで、第一弁が他の経路に切り替わる際に、第二弁181を圧力調整室214と大気と連通する状態としておき、わずかな時間で加圧手段102により加圧された圧力調整室214の残圧を低減(除去)することが可能となる。このわずかな時間とは10〜20msecである(図7、図9には図示せず)。以上により液体201への加圧、および、貯留室110への液体の供給が停止する。
【0069】
供給制御部132は、液体吐出装置100が備えるコンピュータなどの主制御装置109により実現される処理部であり、第一弁131の開閉を制御する処理部である。
【0070】
なお、加圧手段102がポンプなどの場合、供給制御手段103は、弁の開閉で液体201の供給を制御するのではなく、ポンプの動作と非動作とを制御することで、液体201の供給を制御してもかまわない。
【0071】
作動制御部104は、作動手段114の動作を制御する処理部である。本実施の形態の場合、作動手段114が圧電素子により構成されるものであるため、作動手段114が備える二つの電極118に電圧を印加させるか否かを制御することにより、作動手段114の動作を制御している。なお、作動制御部104は、作動手段114に印加する電圧を変化させることにより作動手段114の動作を制御してもよい。
【0072】
さらに本実施の形態の場合、図4、図5に示すように、液体吐出装置100は、負圧手段180が備えられ、また、吐出手段101には、センサ122が備えられている。また、主制御装置109には同期部191と、温度制御部123とが設けられている。本実施の形態の場合、負圧手段180は、負圧源107と、負圧供給制御手段108とを備えている。
【0073】
負圧手段180は、貯留室110内の液体201の圧力と大気圧とが均衡するように液体201に負の圧力を加える装置である。たとえば供給源210がシリンジ211とプランジャ212とにより構成される本実施の形態のようなものである場合、負圧源107は、供給源210の圧力調整室214から気体(空気)を導出することのできる装置(たとえば排気ポンプ、真空ポンプ、真空エジェクタ、工場真空、真空タンクなど)である。また、負圧源107は、大気(開放端による大気暴露)であってもかまわない。また、負圧供給制御手段108は、第二弁181と、負圧制御部182とを備えている。以上のように負圧供給制御手段108により第二弁181を負圧制御部182が制御して負圧源107と圧力調整室214とを連通し、圧力調整室214から気体を導出することで、シリンジ211、および、貯留室110の外方の気体の圧力である大気圧と液体201の圧力との均衡を図ることが可能となる。
【0074】
なお、ここでは(図4参照)、第一弁131と第二弁181との両方を介して負圧源107と圧力調整室214とを連通可能としているが、本願発明はこれに限定されるものではない。例えば第一弁131と第二弁181とをそれぞれ圧力調整室214に連通させるものとしてもよい。この場合は、第一弁131や第二弁181は3ポート弁でなくともよい。ただしこの場合は、圧力調整室214に対し加圧手段102と負圧源107とが同時に連通しないなど、圧力調整室214に対して制御が不安定にならないように注意が必要である。
【0075】
これによれば、貯留室110および吐出孔117内の液体の圧力を積極的に一定の値(例えば大気圧やその近傍)にすることができ、吐出孔117内(または吐出孔117の開口端の外側近傍)の液面の状態(界面張力によって細管内の液体の表面が作る凸状または凹状の曲面の状態、いわゆるメニスカス)や液面の位置(高さ)を一定に維持することが可能となる。従って、貯留室110、および、吐出孔117に保持されている液体201の体積を一定にすることができ、吐出される液滴の量(体積)を一定にして、非常に正確な量の吐出を実現することが可能となる。
【0076】
特に、本実施の形態の場合、プランジャ212の一部や全部に可撓部215を設ける場合、圧力調整室214における圧力のわずかな変化を敏感に液体201に伝えることができ、液体201の圧力と大気圧とが均衡するように細やかな調整が可能となる。
【0077】
なお、負圧手段180は、真空ポンプのような排気を伴う負圧源107を備えなくともよい場合がある。例えば、負圧手段180は、供給源210が配置される高さを変更することができる装置であって、供給源210に貯留されている液体201の液面と貯留室110との高さ方向(Z軸方向)の位置関係を調整し、例えば、供給源210に貯留されている液体201の液面を貯留室110の高さより低くして貯留室110に供給源210の液体201の水頭圧が必要以上にかからないようにして貯留室110内の液体201の圧力を大気圧と均衡させる装置であっても良い。
【0078】
同期部191は、吐出手段101の吐出孔117から液体201を吐出させるタイミングと、加圧された液体201を貯留室110に供給するタイミングとを調整する処理部であり、作動制御部104と供給制御部132との間でそれぞれ情報を授受することによりタイミングの調整を図っている。本実施の形態では、同期部191は、負圧制御部182との間とも情報の授受を行い、負圧を加えるタイミングの調整も図っている。
【0079】
温度制御部123は、蓄熱体192の温度を示す情報を蓄熱体192の第二部材112との接触部近傍に配置されるセンサ122から取得し、取得した温度情報に基づき加熱手段121を制御して、蓄熱体192を所定の温度に維持する処理部である。
【0080】
次に、上記構成の液体吐出装置100の動作について説明する。
【0081】
図7は、液体吐出装置の動作の推移を示すタイミングチャートである。
【0082】
まず、作動制御部104は、あらかじめ所定の電圧(例えば20V)を作動手段114に印加することにより、Z軸方向に作動手段114を伸長させ、貯留室110の容積を増加させる(図6(a)の状態)。次に、容積が大となっている貯留室110内、および、吐出孔117に、液体201の供給入り口であり貯留室110内へ入る直前に流路径を一旦狭めている供給孔116を介して液体201を充填する。
【0083】
同時期に、供給孔116、貯留室110、及び、吐出孔117内のそれぞれに液体201が充填された状態で、センサ122からの温度情報に基づき温度制御部123が加熱手段121に印加する電力を制御して蓄熱体192を所定の温度となるまで昇温する。蓄熱体192の温度は、吐出する液体の種類によって異なるが、摂氏30度以上、80度以下の温度範囲から選択されるのが一般的である。30度未満に設定すると、液体吐出装置100が設置される周囲の環境の温度に近くなり、吐出する液体の温度が周囲の環境の温度に影響されて安定させることが困難となる可能性がある。一方、80度よりも高くすると、例えば本実施の形態で用いている作動手段114と第二部材112等を接着接合する接着剤の接着強度の低下による不具合が発生する可能性があるからである。なお、設定する蓄熱体192の温度の上限は、作動手段114の種類や吐出手段101の構造などに依存するものであり、80度よりも高い温度に蓄熱体192を加熱してもかまわない。
【0084】
以上のように、蓄熱体192を所定の温度にすることにより、第二部材112を介して吐出孔117近傍に充填されている液体201を昇温する。吐出する液体201は微量であるため、高速に液体201を吐出しても液体201の温度は安定していると考えられる。従って、第二部材112の温度を所定の温度で安定させることで、液体201の温度を安定させることができ、液体201の粘度やメニスカスの形状を安定させることが可能となる。またこれにより、液体201の吐出量を正確に制御し、また、安定させることが可能となる。
【0085】
次に、作動制御部104は、あらかじめ作動手段114に印加されている電圧をきわめて短い時間(例えば10μsec〜10msec)解除する。このことによって、作動手段114は、瞬間的にZ軸方向に収縮する(図6(b)の状態)。
【0086】
第一部材111に上部側が固定的に接続され、付勢手段120により第二部材112側に押しつけられている作動手段114の収縮によって、第一部材111と第二部材112とは相対的に近づくにように変位するため、第一部材111と第二部材112とに挟まれる弾性部材113が収縮変形し、貯留室110のZ軸方向の空間が相対的に縮むことにより、貯留室110内の液体201に対して圧力が印加される。
【0087】
以上によって、液体201が貯留室110の液体201の供給口である供給孔116より背圧抵抗(吐出孔117側の吐出抵抗)が少ない吐出孔117から吐出され、被塗布体204に向かって液滴として吐出される。液滴は被塗布体204の上面にドット状に付着する。
【0088】
次に、貯留室110内へ液体201を供給するため作動制御部104が作動手段114へ電圧を印加した情報を同期部191が供給制御部132に送信することで、供給制御部132は、第一弁131を開放する。
【0089】
これにより、加圧状態の液体201が供給源210から第一部材111の供給路115を通り、この供給路115より径が小さく、かつ、貯留室110の径に比較して小さい孔径の供給孔116を介して貯留室110内に高速に補充される。なお、この時点において、貯留室110は、作動手段114への電圧印加により作動手段114がZ軸方向に伸長し第一部材111を移動させることにより貯留室110内のZ軸方向の空間が広がり元の容積に戻った状態となっている。また、第二部材112を介して液体201は加熱され昇温している。
【0090】
供給制御部132は、液体201を貯留室110へ加圧供給する正圧弁である第一弁131を開状態に維持する時間を正確に制御している。例えば、吐出する液体201の液滴の体積が数nlの場合、第一弁131を開状態に維持する時間は50msec程度である。
【0091】
ここで、加圧手段102が液体に加える圧力は、安定領域内から選定される圧力であることが好ましい。安定領域は、吐出する液体201の量や、貯留室110、吐出孔117の大きさや形状によって異なるが、例えば、吐出する液体201の液滴の体積が数nlの場合、加圧手段102が圧力調整室214に導入するエアーの圧力は、10kPa以上、30kPa以下の範囲が安定領域して存在する。
【0092】
また、液体吐出装置100の固有の安定領域を決定するには、次の様な実験により求めることができる。すなわち、図8に示すように、加圧手段102による液体201の供給圧力を複数段階に変化させ、供給圧力の各段階において液体201を吐出させ、吐出した液体201の液滴の所定区間での平均速度(液滴の飛翔速度)や液滴の量を測定する。その結果、貯留室110へ液体を供給する供給圧力を変化させても、液滴の速度や液滴の量が大きく変化しない領域を見いだすことができる。当該領域を安定領域として決定すればよい。
【0093】
ここで、安定領域とは、次の状態を実現できる領域である。つまり、加圧供給液を供給する時間が一定、かつ、液体を吐出させるために貯留室110の容積を減少させる条件が一定の条件の下、加圧供給液の圧力を変化させた場合に、吐出した液滴の飛翔速度(「液滴速度」と称す場合もある)(厳密には、液滴は空気抵抗と、液柱切断時(液体が吐出し液滴になるときの吐出する液体の液柱が切れる時)の引き戻しの力とにより減速するため、飛翔速度とは所定区間の平均速度を示す)が一定となる供給液圧の範囲が安定領域である。また、液滴の飛翔速度が一定の場合、液体吐出装置が吐出する液滴の量はほぼ一定である。さらに、供給液圧が安定領域内に設定されている場合、供給制御手段の制御タイミングや作動制御部の制御タイミングに多少の誤差が発生した場合でも液滴の飛翔速度は一定であり、かつ、液体が不本意に流出孔から漏れ出すことはない。
【0094】
なお同様にして、貯留室110、および、吐出孔117に液体201を供給する時間について、本実施の形態の場合、供給制御部132が第一弁131を開状態に維持する時間も、あらかじめ定めることができる。例えば、供給時間を複数段階に変化させ、液体201の供給時間の各段階において液体201を吐出させ、吐出した液滴の所定区間での平均速度や液滴の量を測定する。その結果、供給時間を変化させても、液滴の速度や液滴の量が大きく変化しない領域を見いだすことができる。当該領域も、供給時間における安定領域として決定すればよい。従って、液体201の吐出サイクルを早めたい場合は、安定領域の中から短い方の時間を選定すればよい。
【0095】
次に、供給制御部132が第一弁131の開状態を解除した(第一弁131を閉状態とした)情報を同期部191が負圧制御部182に送信することで、負圧制御部182は、第二弁181を開放する。これにより、貯留室110や吐出孔117に充填された液体201が負圧により引かれて安定状態となる。つまり、吐出孔117において液体201の界面張力によって細管(吐出孔117)内の液体201の表面が作る面であるメニスカスの状態が安定する。これにより、吐出孔117から液体201が漏れ出すことが抑制される。
【0096】
再び、作動制御部104が、作動手段114を構成する圧電素子への電圧の印加を解除して作動手段114を収縮させることにより、先に吐出した液滴の量とほぼ同じ量の液滴を吐出することが可能となる。
【0097】
ここで、ほぼ同じ量とは、吐出する液滴の量が数nlの場合、1%未満の誤差しか発生しない状態を言う。現在のところ、液滴の量の誤差は、測定限界以下であり、誤差はおおよそ0.01%以下と予想される。ちなみに、従来の装置における液滴の量の誤差は3%程度である。
【0098】
なお、図7において、第二弁181を開状態で維持する時間を50msecとしているがこの時間は特に限定されるわけではなく、吐出サイクルを短くしたい場合は、時間を短くすることは可能である。
【0099】
以上のように、液体201を吐出後、安定領域内の圧力の液体201を貯留室110、および、吐出孔117に供給することで、きわめて短時間(msecのオーダー以下)で液体201を充填することが可能となる。また、安定領域は、大気圧に比べて十分に高い圧力であるため、大気圧が変動しても、同一量の液体201を再現性よく充填することが可能となる。
【0100】
従って、液体201を吐出する間隔である吐出サイクルを短くすることができ、短時間に液体201を液滴として多数個吐出することが可能となる。また、吐出孔117まで充填される液体201の量が安定しているため、吐出する液体201の量が一定となり、正確な量の液体201を被塗布体204に塗布することが可能となる。
【0101】
さらに、この液体201の加圧供給により貯留室110、および、吐出孔117に高速に液体201を供給することができるため、貯留室110、及び、吐出孔117の容量を大きくすることが可能となり、吐出孔117におけるメニスカスの状態が安定するように加圧供給の制御をして液体201を供給し、作動手段114によりこの加圧された液体201を吐出するためより大量の液体を正確に吐出することが可能となる。
【0102】
また、吐出手段101は、液体201が通過する部分に剛体が摺動したり、当接したりする部分が無いため、固体が液中に分散されている液体201であっても、安定して吐出することが可能となる。
【0103】
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本願発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本願発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本願発明に含まれる。
【0104】
例えば、図9に示すように、供給制御部132が第一弁131を開き、貯留室110、及び、吐出孔117に液体201を供給している間に、作動制御部104は、作動手段114を1回、または、複数回作動させて、液体201を吐出させてもかまわない。
【0105】
この場合でも、液体201の吐出の間隔を一定とすれば、ほぼ正確な量の液体201を吐出することが可能となる。これは、被塗布体204の一箇所に複数個の液滴を吐出する場合に有効であり、液体201の液滴の量以上に一箇所に液体201を塗布することが可能となる。
【0106】
また、加圧手段102に圧力(正圧)を調整する調圧手段(レギュレータなど)を設けてもよく、負圧手段180に圧力(負圧)を調整する調圧手段(レギュレータなど)を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本願発明は、液体の種類によらず、正確な量の液滴を高速に吐出することができるため、例えば液晶パネルや回路基板、LED素子等の各種デバイスの製造のために、種々のパターンや均一薄膜を形成する工程に適用することができる。また、LED素子などの蛍光体塗布工程において固形の蛍光体が分散した液体を吐出して、単色の発光体から白色光を発光させる膜を形成する工程に適用することができる。
【符号の説明】
【0108】
100 液体吐出装置
101 吐出手段
102 加圧手段
103 供給制御手段
104 作動制御部
107 負圧源
108 負圧供給制御手段
109 主制御装置
110 貯留室
111 第一部材
112 第二部材
113 弾性部材
114 作動手段
115 供給路
116 供給孔
117 吐出孔
118 電極
120 付勢手段
121 加熱手段
122 センサ
123 温度制御部
131 第一弁
132 供給制御部
180 負圧手段
181 第二弁
182 負圧制御部
191 同期部
192 蓄熱体
193 保持体
201 液体
202 ヘッド移動装置
203 ステージ移動装置
204 被塗布体
206 装置基台
210 供給源
211 シリンジ
212 プランジャ
213 保持室
214 圧力調整室
215 可撓部
221 ヘッド
231 ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を液滴として吐出する吐出手段であって、
液体を貯留する貯留室の一部を形成する第一部材と、
前記貯留室の他の部分を形成し、前記貯留室内の液体を吐出する吐出孔が設けられる第二部材と、
前記第一部材と前記第二部材との間に配置され、前記貯留室の少なくとも一部分を形成する弾性部材と、
前記貯留室に連通し、前記貯留室内に液体を供給する供給孔と、
前記第一部材と前記第二部材とを相対的に動かし前記貯留室の容積を増減させる作動手段と、
前記第二部材と分離可能で、かつ、熱的に接続され、前記第二部材よりも熱容量の大きな蓄熱体と、
前記蓄熱体を昇温する加熱手段と
を備える液体吐出手段。
【請求項2】
前記蓄熱体は、前記第二部材を内方に収容する容器形状となっており、
前記蓄熱体の開口部を覆い、前記蓄熱体とで前記第二部材と前記作動手段とを挟持し、前記蓄熱体よりも熱伝導率が低い保持体を備え、
前記加熱手段は、前記蓄熱体の内方に配置される
請求項1に記載の液体吐出手段。
【請求項3】
さらに、
前記保持体を基準として、付勢力により前記第二部材を前記蓄熱体に押しつける付勢手段
を備える請求項2に記載の液体吐出手段。
【請求項4】
液体を液滴として吐出する請求項1に記載の吐出手段を備える液体吐出装置であって、
前記吐出手段が有する貯留室に供給される液体の圧力が大気圧より大となるように液体に圧力を加える加圧手段と、
前記貯留室に加圧された液体を供給するか否かを制御する供給制御手段と、
前記作動手段の動作を制御する作動制御部と
を備える液体吐出装置。
【請求項5】
さらに、
前記供給制御手段が液体の供給を開始させる制御と、前記作動制御部が液体を吐出させる制御とを同期させる同期部を備える
請求項4に記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−166160(P2012−166160A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30235(P2011−30235)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】