説明

液体吐出装置および回復動作制御方法

【課題】キャビティ内における気泡の発生の状況に応じてクリーニング動作を動的に行い得るような仕組みを提供すること。
【解決手段】複数の液体供給源から供給される液体を吐出させる吐出ヘッドと、液体の温度を検出する温度検出手段と、吐出ヘッドから吐出される液体の消費量を検出する消費量検出手段と、液体を吐出させる動作を回復させるための回復動作を行う手段であって、その回復動作を行うタイミングを温度と液体の消費量の関係に応じて決定する回復手段と、を備えている液体吐出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置および回復動作制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式プリンタの記録ヘッドは、キャビティ内に貯留したインクに圧電素子などを用いて圧力を加え、そのインクをノズル開口からインク滴として吐出する構造になっている。このため、ノズル開口からキャビティ内に気泡が混入すると、加えられる圧力が気泡に吸収されてしまい、インク滴の吐出が不可能になったり、その飛行速度が低下して印字品質が損なわれるといった不具合が発生する。よって、この種のプリンタは、クリーニング動作や、フラッシング動作、脱気インク添加動作などといったような、気泡をキャビティ内から除去する動作を実行する機能を搭載している。クリーニング動作は、キャップによりノズル開口を封止した上で負圧を与えることにより、気泡を含んだインクをキャビティ内から吸引する動作である。フラッシング動作は、印字信号の供給がない間に圧電素子を駆動させて気泡を含むインクを空吐出させる動作である。脱気インク添加動作は、十分に脱気したインクをキャビティまたはそれに至る流路内に添加することにより、その気泡を溶解吸収させる動作である。
【0003】
特許文献1および特許文献2には、プリンタのキャビティ内の気泡を除去してその吐出環境を良好に保つための仕組みの開示がある。特許文献1に開示されたインクジェット式プリンタは、フラッシング動作によっては解消しない重度の気泡混入が生じている場合にのみ、脱気インク添加を行うようになっている。特許文献2に開示されたインクジェット式プリンタは、ユーザ自らの指示により行われるクリーニング動作の履歴と、タイマ設定された所定時間が経過するたびに行われるクリーニング動作の履歴とをインクカートリッジのメモリに記憶できるようになっている。
【特許文献1】特開平10−44468号
【特許文献2】特開2005−224980号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に開示されているように、この種のプリンタの多くは、所定期間が経過するたびに自動的にクリーニング動作を行う、いわゆるタイマークリーニング機能を搭載しており、ユーザによりクリーニングの指示が下されない限り、このタイマークリーニング機能による所定期間毎のクリーニング動作のみが定期的に実行されるようになっている。
【0005】
しかしながら、キャビティ内に混入した気泡は、その温度や消費量などの諸条件に依存して大きさが成長したり、あるいは、インク内に溶解する。従って、タイマークリーニング機能に従って所定期間毎にクリーニング動作を定期的に繰り返す従来の仕組みによると、キャビティ内にほとんど気泡がないにもかかわらずクリーニング動作が行われたり、多くの気泡があるにもかかわらずクリーニング動作が行われないなどといった不都合が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、キャビティ内における気泡の発生の状況に応じてクリーニング動作を動的に行い得るような仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好適な態様である液体吐出装置は、複数の液体供給源から供給される液体を吐出させる吐出ヘッドと、液体の温度を検出する温度検出手段と、吐出ヘッドから吐出される液体の消費量を検出する消費量検出手段と、液体を吐出させる動作を回復させるための回復動作を行う手段であって、その回復動作を行うタイミングを温度と液体の消費量の関係に応じて決定する回復手段とを備えていることを特徴とする。この発明によると、液体供給源から供給される液体の温度に応じて回復動作を行うタイミングが決定される。よって、キャビティ内にほとんど気泡がないにもかかわらずクリーニング動作が行われたり、多くの気泡があるにもかかわらずクリーニング動作が行われないなどといった不都合の発生を防ぐことができる。
【0008】
また、吐出ヘッドは、液体を貯留するキャビティと、液体を吐出させるノズル開口とを有し、回復手段は、キャビティ内に発生する気泡の成長速度と液体の温度との関係を示す第1の相関データを記憶するとともに、ノズル開口からの液体の吐出速度と当該液体に溶解する気泡の溶解速度との関係を示す第2の相関データを記憶するメモリと、検出した温度に応じた気泡の成長速度をメモリに記憶された第1の相関データを基に特定する成長速度特定手段と、検出した液体の消費量を基に液体の吐出速度を算出し、その吐出速度に応じた気泡の溶解速度をメモリに記憶された第2の相関データを基に特定する溶解速度特定手段と、特定した成長速度と特定した溶解速度の差を求め、求めた差に応じて回復動作を行うタイミングを特定するタイミング特定手段とを有してもよい。これによると、液体の温度から気泡の成長速度を割り出すとともに、その吐出速度から気泡の溶解速度を割り出し、それらの差に応じて回復動作のタイミングが特定される。よって、液体内に混在する気泡の量をより精緻に特定し、適切なタイミングで回復動作を行わせることができる。
【0009】
また、成長速度特定手段は、所定の期間が経過するたびにその期間の間の成長速度を特定し、溶解速度特定手段は、期間が経過するたびにその期間の間の溶解速度を特定し、タイミング特定手段は、成長速度と溶解速度が特定されるたびに、成長速度と溶解速度の差をそれまでに求めた両者の差の総計に加算し、加算後の総計が閾値を上回ったタイミングを回復動作を行うタイミングとして特定するようにしてもよい。これによると、所定の期間が経過するたびに、気泡の成長速度とその溶解速度とが特定され、両者の差の総計に応じて回復動作のタイミングが特定される。よって、必要のないタイミングで回復動作を行うことなく、液体内に混在する気泡を一定量以下に保つことができる。
【0010】
また、溶解速度特定手段は、所定の期間の間に消費量検出手段が検出した消費量をその所定の期間で割ることにより、液体の吐出速度を算出するようにしてもよい。これによると、消費量検出手段の検出値を用いることにより、所定の期間の間の液体の溶解速度を正確に求めることができる。
【0011】
また、回復動作は、ノズル開口をキャップにより封止し、その封止により形成される気密空間に負圧を与えることによりキャビティ内の液体を吸引するクリーニング動作であってもよい。これによると、液体内の気泡の全てを除去し得るようなより強力な回復動作を行う機構を搭載していなくても、良好な吐出特性を保っていくことができる。
【0012】
本発明の別の好適な態様である回復動作制御方法は、液体を貯留するキャビティと液体を吐出させるノズル開口とを有する吐出ヘッドと、液体の温度を検出する温度検出手段と、吐出ヘッドから吐出される液体の消費量を検出する消費量検出手段と、液体を吐出させる動作を回復させるための回復動作を行う手段であって、その回復動作を行うタイミングを温度と液体の消費量の関係に応じて決定する回復手段と、キャビティ内に発生する気泡の成長速度と液体の温度との関係を示す第1の相関データを記憶するとともに、ノズル開口からの液体の吐出速度と当該液体に溶解する気泡の溶解速度との関係を示す第2の相関データを記憶するメモリと、を有する装置に実行される方法であって、温度検出手段が検出した温度に応じた気泡の成長速度をメモリに記憶された第1の相関データを基に特定する成長速度特定行程と、消費量検出手段が検出した液体の消費量を基に液体の吐出速度を算出し、その吐出速度に応じた気泡の溶解速度をメモリに記憶された第2の相関データを基に特定する溶解速度特定行程と、特定した成長速度と特定した溶解速度の差を求め、求めた差に応じて回復手段に回復動作を行わせるタイミングを特定するタイミング特定行程とを有することを特徴とする。この発明によっても、液体の温度から気泡の成長速度を割り出すとともに、その吐出速度から気泡の溶解速度を割り出し、それらの差に応じて回復動作のタイミングが特定される。よって、液体内に混在する気泡の量をより精緻に特定し、適切なタイミングで回復動作を行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(発明の実施の形態)
【0014】
以下、本発明の第1〜第3の各実施の形態に係る、液体吐出装置としてのプリンタ10について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、下方側とは、プリンタ10が設置される側を指し、上方側とは、設置される側から離間する側を指す。また、キャリッジ31が移動する方向を主走査方向、主走査方向に直交する方向であって印刷対象物Pが搬送される方向を副走査方向とする。また、印刷対象物Pが供給される側を給紙側、印刷対象物Pが排出される側を排紙側として説明する。
【0015】
また、各実施の形態に係る構成は、基本的には共通であるため、最初に各実施の形態に共通の構成に関して説明する。なお、第1の実施の形態に係る構成では、温度検出部84が必要であるのに対して、第2の実施の形態では、温度検出部84が存在しなくてもよい、という点で相違がある。また、第3の実施の形態に係る構成は、インク消費量算出部78が存在しなくてもよい、という点で相違がある。
【0016】
<プリンタの概略構成>
最初に、プリンタ10の構成の概略について説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るプリンタ10の概略構成を示す斜視図であり、紙送りの上流側を手前、紙送りの下流側(排紙側)を奥側に配置している状態を示す図である。また、図2は、プリンタ10の構成を示す概略図である。本実施の形態のプリンタ10は、シャーシ21と、ハウジング22と、キャリッジ機構30と、紙送り機構40と、インク供給機構50と、クリーニング機構60と、制御部70と、を具備している。
【0017】
これらのうち、シャーシ21は、その下面側が設置面に接触する部分であると共に、各種ユニットが搭載される部分である。また、このシャーシ21には、図1において二点鎖線で示されるハウジング22が取り付けられる。
【0018】
また、キャリッジ機構30は、図1および図2に示すように、キャリッジ31と、このキャリッジ31が摺動するキャリッジ軸32と、印刷ヘッド33(請求項の「吐出ヘッド」に対応)と、を具備している。また、キャリッジ機構30は、キャリッジモータ(CRモータ)34と、このCRモータ34に取り付けられている歯車プーリ35と、無端のベルト36と、歯車プーリ35との間にこの無端のベルト36を張設する従動プーリ37と、を具備している。これらのうち、印刷ヘッド33からは、後述するインク供給機構50を介して供給されるインクが、印刷対象物Pに対して吐出される。
【0019】
また、図2に示すように、紙送り機構40は、紙送りモータ(PFモータ)41と、この紙送りモータ41からの駆動力が伝達される給紙ローラ42等を具備している。
【0020】
また、本実施の形態におけるプリンタ10は、インクカートリッジ51(請求項の「液体供給源」に相当)をシャーシ21側に装着する、いわゆるオフキャリッジタイプとなっている。そのため、プリンタ10のインク供給機構50は、図1に示すように、カートリッジホルダ52と、加圧ポンプ53と、板状チューブ54と、可撓性チューブ55と、サブタンク56と、インク供給バルブ57(図6参照)とを備えている。
【0021】
これらのうち、図3に示すカートリッジホルダ52は、図4に示すインクカートリッジ51を搭載する部分であり、シャーシ21に対して固定的に取り付けられている。このカートリッジホルダ52には、インクカートリッジ51を差し込むための差込口52aが設けられている。また、このカートリッジホルダ52は、本実施の形態では、プリンタ10の内部であって主走査方向の端部側に、それぞれ1つずつ(合計2つ)設けられている。また、このカートリッジホルダ52のシャーシ21に対する取り付け位置は、キャリッジ31の移動空間域から外れる部位に設けられている。具体的には、カートリッジホルダ52は、キャリッジ31の往復動の領域よりも、印刷対象物Pの給紙側に取り付けられている。
【0022】
また、一対のカートリッジホルダ52には、差込口52aを介して、それぞれ複数(本実施の形態では3つずつ)のインクカートリッジ51が着脱自在に装着される。このインクカートリッジ51は、図4に示すように、ケーシング51aの内部に空気室51bを具備しており、さらにこの空気室51bの内部にインクを充填するインクパック51cが収容されている。インクパック51cは、例えばアルミパックのような、気密性の高い袋状部材であり、このインクパック51cの内部には、インクが収容されている。
【0023】
このインクパック51c内のインクは、後述するように、流路(本実施の形態では、インクカートリッジ51からインクが供給され印刷ヘッド33から吐出されるまでの間の、インクが流れる/貯留される部分を指す。)の内部に存在する気泡を溶解させて、外部に排出することを可能としている。そのため、かかるインクパック51c内のインクは、例えば予め空気の溶解が抑えられている、脱気インクとなっていて、所定量の気泡の溶解を可能としている。また、インクパック51cは、上述のように、気密性が高いため、気泡(空気)の溶解度が飽和せずに、当該気泡(空気)を溶解可能な状態を、非常に長い期間保つことを可能としている。
【0024】
また、図4に示すように、ケーシング51aには、不図示のインク供給針が差し込まれるインク供給口51dが設けられている。また、図6に示すように、ケーシング51aには、当該ケーシング51aと一体的となる状態で、回路基板51eが取り付けられている。この回路基板51eは、例えばICチップ等であり、インクに関する情報を書き込み可能に保存するメモリ51f(記憶素子)を有している。かかるインクに関する情報としては、例えばインクカートリッジ51に貯留されているインクの色種データ、顔料/染料系のインクの種別データ、初期にインクカートリッジ51に充填されているインクの量を示すインク容量データ、インク残量データ、シリアル番号データ、有効期限データ、インクカートリッジ51を用いることができる対象機種データ等がある。
【0025】
また、図1に示すように、カートリッジホルダ52には、加圧ポンプ53が接続されている。この加圧ポンプ53は、インクカートリッジ51内の空気室51bの内部に空気を送り込む。そして、この空気室51bの圧力を高めることにより、インクパック51cは押し潰されるように変形させられる。そして、この変形により、インクパック51c内に存在するインクは、板状チューブ54のインク流路の内部に押し出され、そのインク流路の内部をインクが流れる。
【0026】
また、図1に示すように、板状チューブ54のうち、インクの流れの下流側の端部には、可撓性チューブ55の一端側が連結されている。この可撓性チューブ55は、エラストマ樹脂等のような、可撓性を有する材質から形成されている。それにより、可撓性チューブ55は、柔軟に可撓し、キャリッジ31の主走査方向における往復動を妨げない状態となっている。また、可撓性チューブ55には、その長手方向を貫く、中空のチューブ管路(図示省略)が存在している。そして、インク流路と、チューブ管路とは連通して、インクを良好に流通させることを可能としている。
【0027】
また、可撓性チューブ55の他端側には、サブタンク56が接続されている。このサブタンク56は、キャリッジ31の上部に、原則としてインクカートリッジ51と同じ個数だけ設けられている。このサブタンク56には、インク流路およびチューブ管路を流通してきたインクが一時的に蓄えられる。なお、このサブタンク56に蓄えられるインクは、キャリッジ31の下面側に印刷ヘッド33のノズル開口33a(図5参照)から吐出される。
【0028】
また、インク供給バルブ57は、例えばインクカートリッジ51からのインクの出口近傍に設けられていて、サブタンク56内の不図示のセンサの出力に基づいて、電気的に開閉可能に設けられている。例えば、センサの出力により、サブタンク56内のインク量が低下していると判断されると、インク供給バルブ57が開弁され、インクがサブタンク56に供給可能となる。
【0029】
また、シャーシ21には、図1および図5に示すようなクリーニング機構60が設けられている。このクリーニング機構60は、キャップ61と、隔壁62と、インク排出チューブ63と、制御弁64と、吸引ポンプ65(図5、図6参照)とを備えている。これらのうち、キャップ61は、印刷ヘッド33のノズル開口33aを外部から封止する部分である。また、隔壁62は、キャップ61の内部の空間を細分化するものであり、それぞれの色のインクを吐出するノズル列のノズル開口33aを、色別に独立して封止可能とする部材である。また、インク排出チューブ63は、本実施の形態では、各色のノズル列毎に設けられている。
【0030】
また、制御弁64は、インク排出チューブ63の中途部分に設けられている、電気的な制御が可能な弁であり、開弁状態ではインク排出チューブ63におけるインクの流通が可能となると共に、閉弁状態ではインク排出チューブ63におけるインクの流通が不能となる。また、吸引ポンプ65(回復手段の一部に相当)は、インク排出チューブ63に負圧を発生させることが可能に設けられていて、この吸引ポンプ65が作動すると、インク排出チューブ63を介して、インクが不図示の廃液タンクに排出される。また、このインクの吸引動作により、板状チューブ54、可撓性チューブ55、または印刷ヘッド33等の流路に混入している気泡を、強制的に排出する、いわゆるクリーニング動作を実行可能となっている。
【0031】
<制御部の構成>
また、図2および図6に示すように、プリンタ10には、制御部70が設けられている。この制御部70は、不図示のCPU、メモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリ等)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、バス、タイマ、インターフェース85等を有している。
【0032】
この制御部70には、各種センサからの信号が入力されると共に、このセンサからの信号に基づいて、制御部70は、CRモータ34、PFモータ41、加圧ポンプ53、吸引ポンプ65、および印刷ヘッド33等の駆動を司る。
【0033】
また、上述のメモリの中のデータ、およびプログラムがCPUで実行され、制御部70の各構成が協働することにより、機能的には、図6のブロック図に示すような構成が実現される。この図6に示すように、制御部70は、主制御部71、メモリ72、ヘッド制御部73、ポンプ制御部74、CRモータ制御部75、バルブ制御部76、CLタイマ77、インク消費量算出部78(請求項の「消費量検出手段」に相当)、カートリッジメモリ制御部79、ヘッド駆動回路80、ポンプ駆動回路81、CRモータ駆動回路82、バルブ駆動回路83を具備している。
【0034】
これらのうち、主制御部71は、メモリ72と共に、請求項の回復手段の一部、成長速度特定手段、溶解速度特定手段、およびタイミング特定手段の主要部分に対応し、プリンタ10の全体の制御を司る部分であり、図2に示すコンピュータ90側からの指令、CLタイマ77からの計時出力、インク消費量算出部78からの出力が入力される。また、主制御部71には、後述する温度検出部84からの検出信号が供給される。
【0035】
ここで、CLタイマ77は、前回の吸引を伴うクリーニングからの時間を計測するタイマである。また、CLタイマ77は、前回のクリーニングによって気泡を排出したときを基準として、時間を計測し、その時間計測により気泡の成長を予測するために用いられる。そのため、CLタイマ77は、吸引を伴うクリーニングを行うとリセットされるが、吸引を伴わないフラッシング動作ではリセットされず、時間の計測が継続される。
【0036】
また、本実施の形態におけるメモリ72には、第1の相関データと第2の相関データとが記憶される。第1の相関データは、印刷ヘッド33の不図示のキャビティ内に発生する気泡の成長速度とインクの温度の関係を示すデータである。この第1の相関データをなす、成長速度を示す値とインクの温度を示す値の各対は、設計者らの実験結果、または計算結果等に基づいて求められる。第2の相関データは、ノズル開口33aからのインクの吐出速度とインク内にある気泡の溶解速度との関係を示すデータである。この第2の相関データをなす、吐出速度を示す値と溶解速度を示す値の各対も、設計者らの実験結果、または計算結果等に基づいて求められる。
【0037】
また、ヘッド制御部73は、主制御部71からの指令に基づいて、ヘッド駆動回路80を介して印刷ヘッド33を駆動させ、インク滴を吐出させる。ここで、ヘッド制御部73が主制御部71から受信する指令には、印刷データに基づく印字動作の指令と、メンテナンス動作の一種である、フラッシング動作の指令とが存在する。
【0038】
また、ポンプ制御部74は、回復手段の一部に相当し、主制御部71からの指令に基づいて、印刷ヘッド33がキャップ61で封止されている状態において、ポンプ駆動回路81を介して吸引ポンプ65を制御駆動させ、所定のクリーニングを実行する。また、CRモータ制御部75は、主制御部71からの指令に基づいて、CRモータ駆動回路82を介してCRモータ34を駆動させる。なお、CRモータ制御部75は、印字を行う場合には、印刷ヘッド33の動作に連動させてCRモータ34を駆動させる。また、CRモータ制御部75は、フラッシング動作を行う場合には、印刷ヘッド33のフラッシング動作に先立ってCRモータ34を駆動させ、キャリッジ31をキャップ61側に移動させる。
【0039】
バルブ制御部76は、主制御部71からの指令に基づいて、バルブ駆動回路83を介してインク供給バルブ57および制御弁64のうち少なくとも一方を制御駆動させ、インクの流通を制御する。
【0040】
また、インク消費量算出部78は、大、中または小のインク滴を吐出する動作をカウントすることにより、インクの消費量を算出する部分である。このインク消費量算出部78では、ドットの形成状態を示すラスタデータを含む印刷データを参照することにより、インクの消費量を算出可能であり、CPUやASIC等に実現される構成となっている。しかしながら、インク消費量算出部78は、インクカートリッジ51のインク残量が検出センサ(光学センサ等)で検出可能な場合には、そのインク残量に基づいて、インクの消費量を算出するようにしてもよい。なお、本実施の形態では、インク消費量算出部78は、インクの消費量をノズル列毎に個別に算出している。
【0041】
カートリッジメモリ制御部79は、主制御部71からの指令に基づいて、インクカートリッジ51に存在するメモリ51fへのアクセスを制御するための部分である。このカートリッジメモリ制御部79は、メモリ51fにアクセスして、上述のようなインクに関する各情報を読み出す。また、カートリッジメモリ制御部79は、インク消費量算出部78で算出されるインク消費量に基づいて、メモリ51fのインク残量データを更新する。
【0042】
また、ヘッド駆動回路80は、ヘッド制御部73からの指令に応じて所定の電圧を生成し、その電圧を印刷ヘッド33内のピエゾ素子に印加する。また、ポンプ駆動回路81は、ポンプ制御部74からの指令に応じて所定の電圧を生成し、その電圧を吸引ポンプ65に印加する。また、CRモータ駆動回路82は、CRモータ制御部75からの指令に応じて所定の電圧を生成し、その電圧をCRモータ34に印加する。また、バルブ駆動回路83は、バルブ制御部76からの指令に応じて所定の電圧を生成し、その電圧をインク供給バルブ57および制御弁64のうち少なくとも一方に印加する。
【0043】
また、温度検出部84(請求項の「温度検出手段」に相当)は、例えば所定の時間(例えば、1時間等)が経過するたびに、印刷ヘッド33の温度を検出し、検出した温度に関する信号を、主制御部71へ供給する。
【0044】
なお、この制御部70は、インターフェース85を介して、コンピュータ90に接続されていて、印刷データ等の各種のデータを送受信可能としている。また、このコンピュータ90が、上述の制御部70と同等の機能を備えるように構成してもよい。
【0045】
<第1の実施の形態に係る動作>
図7は、クリーニング動作のタイミングの特定の手順を示すフローチャートである。主制御部71は、温度検出部84から供給される信号が示す温度の値とインク消費量算出部78から供給される信号とを、その供給時刻と対応付けて自らのメモリ72等に順次記憶し、それらの値を用いて図7に示す一連の処理を実行する。
【0046】
図7に示す一連の処理は、ユーザの指令によるクリーニング、およびタイマークリーニングのいずれかが行われたことをトリガーとして繰り返し実行されるものである。いずれかのクリーニング動作を行なった場合(S100:Yes)、主制御部71は、CLタイマ77の値を0にリセットするが、このときメモリ72に読み出されるCLタイマ77の値も0となる(S110)。なお、ステップS100の判断結果がNoのとき、つまり、クリーニング動作が行われないときは、ステップS110を実行することなく、次のステップS120へ進む。
【0047】
CLタイマ77の値を0にしてから1日(24時間)が経過したとき(S120:Yes)、主制御部71は、その1日の間の温度の平均TAVを算出する(S130)。さらに、主制御部71は、ステップS120で求めた温度の平均TAVを基にメモリ72の第1の相関データを参照することにより、1日あたりの気泡の成長速度VSを特定する(S140)。上述したように、第1の相関データは、印刷ヘッド33のキャビティ内に発生する気泡の成長速度VSとインクの温度の関係を示すデータである。
【0048】
図8は、気泡の成長速度とインクの温度の相関を示すグラフである。このグラフに示すように、1日あたりの気泡の成長速度は、インクの温度が10℃を超えるあたりまではごく僅かなため0.005立法ミリメートルで一定であるが、10℃を越えると徐々に上昇することが明らかになっている。本実施の形態では、このグラフに示す特性になるような、温度を示す値と気泡成長速度を示す値の各対を、第1の相関データとして準備しておき、この第1の相関データを参照することにより、温度に応じた気泡の成長速度を特定する。
【0049】
なお、メモリ72には、この図8のグラフを示すデータが、例えば1度毎等、所定の温度毎に段階的な値として記憶されていてもよい。また、メモリ72には、この図8のグラフを示す関数の形で記憶されていてもよい。
【0050】
CLタイマ77の値を0にしてから1日が経過したとき(ステップS120:Yes)、主制御部71は、インク消費量算出部78における、電源オンの時点からのインクの消費量の算出結果に基づいて、その1日の間のインクの消費量を算出する(S150)。1日あたりのインクの消費量を求めた主制御部71は、その1日の間のノズル開口33aからのインクの吐出速度を特定する(S160)。1日あたりのノズル開口33aからのインクの吐出速度は、その間のインクの消費量を時間(1日)で割った値(消費量/日)である。インクの吐出速度を求めた主制御部71は、その吐出速度を基にメモリ72の第2の相関データを参照することにより、1日あたりのインクの溶解速度VYを特定する(S170)。上述したように、第2の相関データは、ノズル開口33aからのインクの吐出速度とインク内にある気泡の溶解速度との関係を示すデータである。
【0051】
ここで、本実施の形態に関する計測結果は、以下の通りである。すなわち、吐出速度が0.1(グラム/hour)以上1(グラム/hour)以下であったときの気泡の溶解速度は1(立方ミリメートル/hour)であり、吐出速度が1(グラム/hour)超10(グラム/hour)以下であったときの気泡の溶解速度は0.5(立方ミリメートル/hour)であった。また、吐出速度が10(グラム/hour)超であったときの気泡の溶解速度は0.2(立方ミリメートル/hour)であった。このことから、インクへの気泡の溶解速度とインクの吐出速度との間には相関があり、吐出速度が遅いほど溶解速度は速く、吐出速度が速いほど溶解速度は遅いとの着想を得た。なお、吐出速度を0.1(グラム/hour)未満にして同様の計測を試みたところ、溶解速度は0(立方ミリメートル/hour)であった。ただし、これは、吐出をほとんど行わない環境下においては、インクへの気泡の溶解が飽和してしまい、さらなる溶解の余地がなくなったことに起因するものと考えられる。そのため、吐出速度が0.1(グラム/hour)以下の結果によって上述の着想が覆されるものではないと考えられる。本実施形態においては、上述した計測結果に基づく外挿補間によって割り出した、吐出速度を示す値と溶解速度を示す値の各対を、第2の相関データとして準備しておき、このデータを参照することにより、吐出速度に応じた溶解速度を特定する。
【0052】
なお、上述の第1の相関データが、例えば1度毎のように、所定の温度毎に段階的な値を取る場合、この第1の相関データと、上述の第2の相関データ(上述の例では4段階あるが、4段階には限られない。)とを、マトリクス状のテーブルとして、メモリ72に記憶させるようにしてもよい。
【0053】
成長速度VSと溶解速度VYを求めた主制御部71は、両者の差をそれまでに求めた差の総計に加算し、加算後の総計が気泡マージンの閾値を上回ったか否かを判断する。そして、加算後の総計が閾値を上回っているときは(S180:Yes)、クリーニング動作を行う(S190)。そして、ステップS100に戻り、続くステップS110にてCLタイマ77の値をリセットした後、以降の処理を繰り返す。一方、加算後の総計が閾値を上回っていないときは(S180:No)、ステップS190を実行することなく、ステップS100に戻る。
【0054】
なお、計測結果の一例を示す、図9に関して詳述する。図9には、印刷ヘッド33の圧力損失を示す線と、所定のクリーニング動作時の吐出速度を示す線(直線状のもの)と、吐出速度と気泡体積の相関を示す線(略反比例の線)とが示されている。上述したように、クリーニング動作を行った直後であっても、キャビティ内には、所定の体積(例えば20立方メートル程度)の気泡は残留しており、その所定の体積の気泡は、吐出速度に依存して成長する。一方、このグラフに示すように、ノズル開口33aからのインクの吐出速度はインク内における気泡の体積の大きさに依存して低下し、気泡の体積が、一定の値(例えば32立方メートル)を超えると、圧力損失が無限大に向かい急激に増大する(これが、印刷ヘッド33の圧力損失を示す線の立ち上がり部分に対応)。このことから、本実施形態にかかるプリンタ10は、クリーニング動作を行った直後の気泡の体積(図9では20立方メートル)と、圧力損失が急激に増大する境界(図9では、32立方メートル)の差(図9では、12立方メートル)を気泡マージンの閾値として設定し、気泡成長速度から求まる1日あたりの気泡成長体積と、気泡溶解速度から求まる1日あたりの気泡溶解体積の差の積算値がこの閾値を超えるたびにクリーニング動作を行うこととしている。
【0055】
ここで、ステップS180における判断を数式化すると、以下の算出式(1)となる。この算出式(1)におけるNは、ステップS110からステップS180に至るループの繰り返しの回数である。
【数1】

【0056】
なお、この算出式(1)では、気泡マージンの閾値が12の場合を示しており、この状態は図9に対応している。しかしながら、算出式(1)における気泡マージンの閾値である12は、あくまでも一例であり、プリンタ10の周囲の環境下において、種々の値に設定可能である。
【0057】
<第1の実施の形態に係る発明を適用した場合における効果>
以上説明したように、本実施の形態(第1の実施の形態)では、印刷ヘッド33から吐出されたインクの消費量とその温度を基に気泡の成長速度と溶解速度をそれぞれ特定し、それらの両者の差の総計が気泡マージンの閾値を越えるたびにクリーニング動作を行うようになっている。つまり、インクの消費量と温度とを基にクリーニング動作の実行が動的に制御される。よって、キャビティ内にほとんど気泡がないにもかかわらずクリーニング動作が行われたり、多くの気泡があるにもかかわらずクリーニング動作が行われないなどといった不都合の発生を防ぐことができる。
【0058】
<第2の実施の形態に特有の構成>
以下、本発明の第2の実施の形態に関して説明する。本実施の形態では、メモリ72には、図10に示すような、メンテナンスに関するテーブル(以下、メンテナンステーブルとする。)が記憶されている。ここで、図10に示すメンテナンステーブルは、横軸のクリーニングタイマ(CLタイマT1)と、縦軸のインク消費量Mとに基づいて、実行すべきメンテナンス動作とその処理ランクが、マトリクス形式で記述されている。なお、本実施の形態では、インクは後述するように脱気インクとなっている。
【0059】
ここで、図10の横軸においては、左から右に向かうに従って、CLタイマT1の時間が増大する。また、図10の縦軸においては、上から下に向かうに従って、インク消費量Mが増大する。この図10から分かるように、本実施の形態においては、(1)インクの消費量Mが多くなればなる程、気泡が溶解する方向にあるので、ランクの低い(インク消費量の少ない)メンテナンス動作が為されるようにする、(2)CLタイマ77における計時が増大するにつれて、気泡が溜まる方向にあるので、ランクの高い(よりインク消費量の多い)メンテナンス動作が為されるようにする、との思想に基づいて、設計されている。
【0060】
一方、従来のメンテナンステーブルを、図11に示す。この図11に示すメンテナンステーブルでは、CLタイマ77における計時に関しては同様であるものの、累積印字時間が経過するにつれて、ランクの高いメンテナンス動作を実行するように、設計されている。このため、脱気インクを用いても、当該脱気インクを有効活用できない状態となっている。
【0061】
<第2の実施の形態に係る動作について>
(1)電源オン時の動作フロー
以下、プリンタ10のクリーニングに関する動作のうち、電源オン時の動作フローにつき、図12に示すフローチャートに基づいて説明する。プリンタ10に電源が投入されると、イニシャライズ動作が実行される(S200)。このイニシャライズ動作では、例えばインク流路にインクが初期充填されているか等の判定、各色のインクカートリッジ51が装着状態にあるか等の判定を、主制御部71が行う。
【0062】
続いて、電源投入時に実行されるメンテナンス動作の種類が選定される(S210)。この選定では、主制御部71は、CLタイマ77での計時時間のデータと、インク消費量算出部78でのインク消費量のデータに基づいて行う。また、この選定を行う際、主制御部71は、メモリ72に記憶されているメンテナンステーブルを読み込み、このメンテナンステーブルを参照して、上述の計時時間とインク消費量とから、どのメンテナンス動作に該当するかを判断する。
【0063】
ここで、本実施の形態では、供給されるインクとして、脱気インクが用いられている。そして、脱気インクは、気泡を溶解させるため、インク消費量が多くなるほど、脱気インクが多く供給され、流路中の気泡を溶解させ、気泡を消失させる方向へ向かうと考えられる。そのため、CLタイマ77での計時時間が同じであれば、インク消費量が大きいほど気泡は溶解されているので大きなメンテナンス動作は不要で、インク消費量が少ないほど、大きなメンテナンス動作が必要となっている。すなわち、電源オンの時点では、若干大きめのメンテナンス動作を行うように設定されている。
【0064】
続いて、ステップS210において選定されたメンテナンス動作を実行する(S220)。ここで、本実施の形態では、各色毎に独立してノズル列を封止可能となっているため、主制御部71は、このメンテナンス動作を、各色毎に独立して実行するように制御する。また、選定されたメンテナンス動作が、フラッシング動作である場合には、インク滴を規定のショット数だけ吐出させる(空吐出させる)動作を行う。例えば、図10において、Fl小(フラッシング動作のうち、ショット数が少ないもの)が選定され、このFl小が1000ショットであると仮定すると、1000ショットだけインク滴が吐出され、Fl大(フラッシング動作のうち、ショット数が多いもの)が選定され、このFl大が10000ショットであると仮定すると、10000ショットだけインク滴が吐出される。
【0065】
また、選定されたメンテナンス動作が、TCL2〜TCL4のいずれかである場合、当該選定されたランクのクリーニング動作を行う。なお、TCL2〜TCL4におけるインク排出量は、TCL2<TCL3<TCL4となっている。また、気泡の排出量も、TCL2<TCL3<TCL4となっている。
【0066】
ここで、図13に、各ランクのクリーニングの流速と、気泡体積、圧力損失の関係を示す。この図13は、上述の第1の実施の形態における図9を詳細に説明したものであり、脱気インクではない、飽和状態にあるインクを用いた実験結果である。この図13における直線(直線1、直線2、直線3)のうち、直線1は、印刷デューティ(印刷ヘッド33が駆動されている時間の割合)が100%の場合における流速(流速線;フラッシング動作も含まれる。)を示し、直線2は、TCL2の場合における流速を示し、直線3は、TCL3の場合における流速を示している。また、図13における略反比例の線(曲線1、曲線2)は、各流速でインクを吸引し、クリーニングを行った場合において残存する気泡体積を示している(流速−気泡体積線)。また、図13において、中途部分から急激に立ち上がる線(立上線1、立上線2)は、気泡体積と圧力損失との関係を示している(気泡−圧力損失線)。なお、曲線1と立上線1は、特定のタイプ(第1タイプ)の印刷ヘッド33に関する特性を示しており、曲線2と立上線2は、第1タイプとは別のタイプ(第2タイプ)の印刷ヘッド33に関する特性を示している。また、この図13においては、直線2,3と、曲線1,2との交点のときの気泡体積が、各クリーニングを行っても残存してしまう(排出することができない)気泡体積となっている。
【0067】
また、立上線1,2の立上がり部分にまで気泡体積が増加すると、圧力損失が無限大に向かい急激に増大する。そのため、この立上がり部分以上に気泡体積が増加すると、インク滴の吐出のために圧力を付与しても、もはやインク滴を吐出することが困難となる。また、この図13においては、立上線1,2の立上がり部分における気泡体積と、現在残存している気泡体積との差の分だけ、気泡体積は増加可能となっている(以下、これを気泡マージンとする。)。
【0068】
以上のように、図13においてTCL2,TCL3のいずれかのクリーニングを行うと、そのランクに応じたクリーニングにより、流路内に残存している気泡を減少可能となっている。これを別な観点から言えば、非常に強力なチョーク吸引を除く、所定のランクのクリーニングを行っても、所定の量だけ、気泡が残存してしまうことを示している。
【0069】
しかしながら、本実施の形態においては、印刷が開始され、脱気インクが供給されるにつれて、気泡を溶解していく。そのため、各ランクのクリーニング、またはフラッシングを行った後に、流路に存在している気泡は、脱気インクの消費量が多くなるにつれて、減少していくと考えられ、気泡マージンは増大すると考えられる。
【0070】
図12に示すステップS220で、メンテナンス動作が実行される場合、CLタイマ77をリセットする(S230)。しかしながら、電源オンの間、インク消費量はリセットせずに、そのままとしておく。なお、CLタイマ77のリセットに伴って、インク消費量もリセットする(カウントをゼロクリアとする)ようにしてもよい。
【0071】
(2)印刷時の動作フロー
続いて、プリンタ10のクリーニングに関する動作のうち、印刷開始時の動作フローにつき、図14に示すフローチャートに基づいて説明する。この動作フローにおいては、印字の開始が指示されると(S201)、その際に実行されるメンテナンス動作の種類が選定される(S211)。この選定は、上述のメンテナンステーブルを参照して行う。また、その他の処理は、上述の図12におけるものと同様となっているので、その説明を省略する。
【0072】
<第2の実施の形態に係る発明を適用した場合における効果>
上述のプリンタ10によれば、インク消費量算出部78で算出される液体の消費量に基づいて、印刷ヘッド33または吸引ポンプ65等で実行されるメンテナンス動作が制御される。ここで、本実施の形態におけるインクは、脱気状態にある脱気インクであるため、流路に存在する気泡を溶解可能となる。従って、かかる脱気インクの消費量に基づいて、メンテナンス動作を制御すれば、適切に流路内に存在する気泡を減少させて、気泡マージンを増加させることが可能となり、脱気インクの気体溶存性を有効活用することが可能となる。
【0073】
特に、本実施の形態では、CLタイマT1が同じであれば、脱気インクの消費量が多くなるにつれて、メンテナンス動作における液体の消費量を減少させるように制御している。このため、脱気インクの気体溶存性を有効活用すると共に、メンテナンス動作の際に無駄に排出されるインクの量を減少させることが可能となる。
【0074】
また、メンテナンス動作の前において消費される脱気インクの量が同じであれば、CLタイマT1が経過するにつれて、脱気インクの気体溶存性が低下すると考えられる(気体の溶解度が飽和していて、もはや気泡が溶けずに気泡が多く残存していると考えられる)。ここで、本実施の形態では、メンテナンス前のインク消費量Mが同じであれば、CLタイマT1が経過するにつれて、メンテナンス動作で消費される脱気インクの量を増加させているので、脱気インクと共に排出される気泡の量を増やすことが可能となる。すなわち、気泡溶存性の高い脱気インクが、時間経過に伴って多く供給されることにより、流路内に残存している気泡を、より多く溶解させることが可能となる。
【0075】
さらに、本実施の形態では、印刷ヘッド33または吸引ポンプ65等で実行されるメンテナンス動作が段階的に変化する、マトリクス状のテーブルに基づいて制御するので、データ量を小さくすることが可能となると共に、計算を単純化させることが可能となる。
【0076】
また、本実施の形態では、メンテナンス動作の実行に際して、印刷ヘッド33を空吐出させるか、または吸引ポンプ65を作動させて、より多くの脱気インクを排出させている。ここで、印刷ヘッド33の空吐出では、少量の液体を排出可能となると共に、吸引ポンプ65の作動では、より多量の脱気インクを排出可能となり、より多彩なメンテナンス動作を実行可能となる。
【0077】
さらに、キャップ61は、それぞれの種類に応じたノズル列を、他のノズル列とは分離して封止すると共に、その封止状態においてノズル列を個別に吸引する。また、インク消費量算出部78は、脱気インクの消費量をノズル列毎に個別に算出すると共に、主制御部71は、ノズル列毎に個別に算出される液体の消費量に基づいて、メンテナンス動作を選定している。このため、それぞれのノズル列に対応する脱気インクの気泡溶存性を勘案して、最適なメンテナンス動作を実行可能となる。また、ノズル列を個別に吸引可能となるため、脱気インクを無駄に吸引せずに済み、ユーザにとって経済的となる。
【0078】
<第3の実施の形態に特有の構成>
以下、本発明の第3の実施の形態に関して説明する。本実施の形態では、第1および第2の実施形態とは異なる、特有のクリーニング機構60を有している。シャーシ21には、図1、図15等に示すようなクリーニング機構60が設けられている。このクリーニング機構60は、キャップ61と、隔壁62と、インク排出チューブ63と、制御弁64と、吸引ポンプ65とを備えている。
【0079】
これらのうち、キャップ61は、印刷ヘッド33のノズル開口33aを外部から封止する部分である。また、隔壁62は、キャップ61の内部の空間を2つに分割するものである。ここで、第1および第2の実施の形態と異なり、キャップ61内の空間は、隔壁62によって2つに分割された状態で、それぞれが独立して封止される状態となる。以下の説明では、2つの内部空間のうち、第1のカートリッジ群51Aのインクカートリッジ51から供給されるインクを吸引するためのものを、内部空間61Aとすると共に、第2のカートリッジ群51Bのインクカートリッジ51から供給されるインクを吸引するためのものを、内部空間61Bとする。また、インク排出チューブ63は、本実施の形態では、内部空間61Aと内部空間61Bの個数分だけ設けられている。
【0080】
また、制御弁64は、インク排出チューブ63の中途部分に設けられている、電気的な制御が可能な弁であり、開弁状態ではインク排出チューブ63におけるインクの流通が可能となると共に、閉弁状態ではインク排出チューブ63におけるインクの流通が不能となる。また、吸引ポンプ65は、インク排出チューブ63に負圧を発生させることが可能に設けられていて、この吸引ポンプ65が作動すると、インク排出チューブ63を介して、インクが不図示の廃液タンクに排出される。また、このインクの吸引動作により、板状チューブ54、可撓性チューブ55、または印刷ヘッド33等の流路に混入している気泡を、強制的に排出する、いわゆるクリーニング動作を実行可能となっている。
【0081】
また、本実施の形態における制御部70Aを、図16に示す。この制御部70Aは、上述の第1の実施の形態における制御部70と、インク消費量算出部78の有無が相違している。
【0082】
また、本実施の形態では、メモリ72に記憶されているテーブルが、上述の第2の実施の形態のものとは異なっている。すなわち、本実施の形態では、図17に示すような、メンテナンスに関するテーブル(以下、メンテナンステーブルとする。)が記憶されている。ここで、図17に示すメンテナンステーブルでは、横軸はクリーニングタイマ(CLタイマT1)となっていて、縦軸は淡色系のインクであるか否かを示すと共に、印刷モードがいずれであるかを示している。そして、メンテナンステーブルは、これらに基づいて、実行すべきメンテナンス動作とその処理ランクが、マトリクス形式で記述されている。
【0083】
ここで、図17の横軸においては、左から右に向かうに従って、CLタイマT1の時間が増大する。また、図17の縦軸のうち、高品質印刷モードでは、淡色系のインクの方が、濃色系のインクよりも、ランクの低い(よりインク消費量の少ない)メンテナンス動作が為されるように、設計されている。また、図17の縦軸のうち、高速印刷モードでは、高品質印刷モードとは逆に、濃色系のインクの方が、淡色系のインクよりも、ランクの低い(よりインク消費量の少ない)メンテナンス動作が為されるように、設計されている。
【0084】
ここで、高品質印刷モードでは、淡色系のインクの消費量が多くなり、その反面、濃色系のインクの消費量が淡色系のインクの消費量と比較して、相対的に少なくなる。また、本実施の形態では、インクは脱気インクであり、当該脱気インクの消費量が多くなるほど、気泡が減少する方向に向かう。そのため、高品質印刷モードでは、淡色系のインクを流通させる流路の方が、濃色系のインクを流通させる流路と比較して、気泡が減少していると考えられ、当該淡色系のインクを流通させる流路の方がランクの低い(より軽い)メンテナンス動作で済むように設計されている。
【0085】
また、高速印刷モードでは、淡色系のインクは消費されないか、または消費されるとしても相対的に少ない状態となっている。そのため、高速印刷モードでは、濃色系のインクの方が、淡色系のインクと比較して気泡が減少していると考えられ、当該濃色系のインクの方がランクの低い(より軽い)メンテナンス動作で済むように設計されている。
【0086】
なお、参考としての従来のメンテナンステーブルは、図11に示されるものであり、上述のように、図11に示すメンテナンステーブルでは、CLタイマ77における計時に関しては同様であるものの、累積印字時間が経過するにつれて、ランクの高いメンテナンス動作を実行するように、設計されている。このため、脱気インクを用いても、当該脱気インクを有効活用できない状態となっている。
【0087】
<第3の実施の形態に係る動作について>
(1)電源オン時の動作フロー
以下、プリンタ10のクリーニングに関する動作のうち、電源オン時の動作フローにつき、説明する。なお、本実施の形態における動作は、基本的には上述の第2の実施の形態におけるものと同様であるため、図12に基づく動作フローが為される。そのため、以下の動作フローは、概略的に説明する。
【0088】
まず、プリンタ10の電源時に実行されるイニシャライズ動作(S200)では、例えばインク流路にインクが初期充填されているか等の判定、各色のインクカートリッジ51が装着状態にあるか等の判定を、主制御部71が行う。
【0089】
続くステップS210において、主制御部71は、メンテナンス動作の種類の選定を、CLタイマ77での計時時間のデータとコンピュータ90から送信される指令中で指定されている現在の印刷モードとに基づいて行う。また、この選定を行う際、主制御部71は、メモリ72に記憶されているメンテナンステーブル(図17参照)を読み込み、このメンテナンステーブルを参照して、上述の計時時間と現在の印刷モードとから、どのメンテナンス動作に該当するかを判断する。
【0090】
ここで、本実施の形態では、供給されるインクとして、脱気インクが用いられている。そして、脱気インクは、気泡を溶解させるため、インク消費量が多くなるほど、脱気インクが多く供給され、流路中の気泡を溶解させ、気泡を消失させる方向へ向かうと考えられる。そのため、CLタイマ77での計時時間が同じであれば、インク消費量が大きいほど気泡は溶解されているので大きなメンテナンス動作は不要で、インク消費量が少ないほど、大きなメンテナンス動作が必要となっている。すなわち、電源オンの時点では、若干大きめのメンテナンス動作を行うように設定されている。
【0091】
続いての、メンテナンス動作の実行(S220)では、選定されたメンテナンス動作が、フラッシング動作である場合には、インク滴を規定のショット数だけ吐出させる(空吐出させる)動作を行う。その後、ステップS230に進んで、CLタイマ77をリセットする。例えば、図17において、Fl小(フラッシング動作のうち、ショット数が少ないもの)が選定され、このFl小が1000ショットであると仮定すると、1000ショットだけインク滴が吐出され、Fl大(フラッシング動作のうち、ショット数が多いもの)が選定され、このFl大が10000ショットであると仮定すると、10000ショットだけインク滴が吐出される。なお、このフラッシング動作においては、インク滴の吐出は、ノズル列ごとに行うことが可能であるため、次に述べるTCL2〜TCL4のクリーニング動作とは異なり、内部空間61Aと内部空間61Bとを互いに独立した状態で封止させる必要はなくなっている。
【0092】
また、選定されたメンテナンス動作が、吸引ポンプ65の作動を伴うクリーニング動作である場合(TCL2〜TCL4のいずれかである場合)には、キャップ61を印刷ヘッド33に密着させる。このとき、第1のカートリッジ群51Aに対応する内部空間61Aと第2のカートリッジ群51Bに対応する内部空間61Bとが独立して封止可能となっている。そして、主制御部71は、このメンテナンス動作を、内部空間61Aと内部空間61Bとで、独立して実行するように制御する。
【0093】
また、このクリーニング動作においては、選定されたランク(TCL2〜TCL4のいずれか)のクリーニング動作を行う。なお、TCL2〜TCL4におけるインク排出量は、TCL2<TCL3<TCL4となっている。また、気泡の排出量も、TCL2<TCL3<TCL4となっている。
【0094】
ここで、図13のような、TCL2,TCL3のいずれかのクリーニングを行うと、そのランクに応じたクリーニングにより、流路内に残存している気泡を減少可能となっている。これを別な観点から言えば、非常に強力なチョーク吸引を除く、所定のランクのクリーニングを行っても、所定の量だけ、気泡が残存してしまうことを示している。
【0095】
しかしながら、本実施の形態においては、印刷が開始され、脱気インクが供給されるにつれて、気泡を溶解していく。そのため、各ランクのクリーニング、またはフラッシングを行った後に、流路に存在している気泡は、脱気インクの消費量が多くなるにつれて、減少していくと考えられ、気泡マージンは増大すると考えられる。
【0096】
(2)印刷時の動作フロー
続いて、プリンタ10のクリーニングに関する動作のうち、印刷開始時の動作フローにつき、説明する。この動作フローにおいては、基本的な動作は、上述の第2の実施の形態における図14と同様となっている。すなわち、印字の開始が指示されると(S201)、その際に実行される、本実施の形態に特有のメンテナンス動作の種類が選定される(S211)。この選定は、上述の図17に示すのと同様のメンテナンステーブルを参照して行う。また、その他の処理は、上述の図14(図12)におけるものと同様となっているので、その説明を省略する。
【0097】
<第3の実施の形態に係る発明を適用した場合における効果>
上述のプリンタ10によれば、印刷モードに応じて、印刷ヘッド33または吸引ポンプ65等で実行されるメンテナンス動作が制御される。そのため、この印刷モードに応じた、適切なメンテナンス動作を実行させれば、印刷ヘッド33からのインクの吐出状態を良好に保つことが可能となる。また、印刷モードに応じたメンテナンス動作を実行させることにより、無駄に排出されるインクの量を低減させることが可能となる。
【0098】
また、本実施の形態では、インクとして、脱気状態を維持可能な脱気インクが用いられている。かかる脱気インクを用いることにより、インクカートリッジ51から印刷ヘッド33までの間の流路に存在する気泡を溶解可能となる。従って、印刷モードに応じて、適切なメンテナンス動作を実行するように制御すれば、流路内に存在する気泡を減少させて、気泡マージンを増加させることが可能となり、脱気インクの気体溶存性を有効活用することが可能となる。また、脱気に関して、特別な構成を用いずに済むため、コストの上昇を抑えることが可能となる。
【0099】
さらに、本実施の形態では、高品質印刷モードでは、淡色系のインク(脱気インク)の供給量が相対的に多くなっている。それ故、高品質印刷モードでは、淡色系のインクの流路内において気泡が減少する。そのため、淡色系のインクの吐出量または排出量が濃色系のインクの吐出量または排出量よりも少なくなるようにメンテナンス動作を制御することにより、淡色系のインクが無駄に捨てられるのを防止することが可能となる。また、高品質モードにおける印刷では、濃色系のインクの供給量が相対的に少なくなる。このため、濃色系のインクの吐出量または排出量が淡色系のインクの吐出量または排出量よりも多くなるようにメンテナンス動作を制御することにより、濃色系のインクの流路内において気泡を減少させることが可能となる。
【0100】
また、高速印刷モードでは、淡色系のインク(脱気インク)は消費されないか、または消費されるとしても相対的に少ない状態となっている。このため、淡色系のインクの吐出量または排出量が濃色系のインクの吐出量または排出量よりも多くなるようにメンテナンス動作を制御することにより、淡色系のインクの流路内において気泡を減少させることが可能となる。また、高速印刷モードでは、濃色系のインク(脱気インク)の供給量が相対的に多くなっている。それ故、高速印刷モードでは、濃色系のインクの流路内において気泡が減少する。そのため、濃色系のインクの吐出量または排出量が淡色系のインクの吐出量または排出量よりも少なくなるようにメンテナンス動作を制御することにより、濃色系のインクが無駄に捨てられるのを防止することが可能となる。
【0101】
すなわち、本実施の形態では、図17に示すCLタイマT1が同じであれば、淡色系のインクと濃色系のインクのうち、脱気インクの消費量が多い方が、メンテナンス動作における液体の消費量を減少させるように制御している。このため、脱気インクの気体溶存性を有効活用すると共に、メンテナンス動作の際に無駄に排出されるインクの量を減少させることが可能となる。
【0102】
また、本実施の形態では、メンテナンス動作の実行に際して、印刷ヘッド33を空吐出させるか、または吸引ポンプ65を作動させて、より多くの脱気インクを排出させている。ここで、印刷ヘッド33の空吐出では、少量の液体を排出可能となると共に、吸引ポンプ65の作動では、より多量の脱気インクを排出可能となり、より多彩なメンテナンス動作を実行可能となる。
【0103】
また、本実施の形態では、キャップ61には隔壁62が設けられていて、このキャップ61の内部が、第1のカートリッジ群51Aに対応する内部空間61Aと、第2のカートリッジ群51Bに対応する内部空間61Bとに仕切られている。そして、これら内部空間61Aと内部空間61Bとが、独立して封止可能となっている。このため、それぞれのカートリッジ群51A,51Bのノズル列に対応させて、最適なメンテナンス動作(クリーニング動作)を実行可能となる。また、それぞれのカートリッジ群51A,51Bに対応する内部空間61A,61Bを独立して吸引可能となるため、インクを無駄に吸引せずに済み、ユーザにとって経済的となる。
【0104】
また、CLタイマT1が経過するにつれて、メンテナンス動作で消費される脱気インクの量を増加させているので、脱気インクと共に排出される気泡の量を増やすことが可能となる。すなわち、気泡溶存性の高い脱気インクが、時間経過に伴って多く供給されることにより、流路内に残存している気泡を、より多く溶解させることが可能となる。
【0105】
さらに、本実施の形態では、印刷ヘッド33または吸引ポンプ65等で実行されるメンテナンス動作が段階的に変化するテーブルに基づいて制御するので、データ量を小さくすることが可能となると共に、計算を単純化させることが可能となる。
【0106】
<本発明の変形例>
以上、本発明の第1〜第3の各実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。以下、それについて述べる。
【0107】
上述の第1の実施形態に係るインクジェット式のプリンタ10では、印刷ヘッド33の温度を検出する温度検出部84を搭載し、この温度検出部84により検出された温度をインクの温度とみなしてその後の各種処理に用いている。これに対し、温度検出部84を、インクカートリッジ51から印刷ヘッド33へ至る流路上のインクに接触する位置に備え付け、その温度検出部84により検出したインクそのものの温度をその後の各処理に用いてもよい。
【0108】
上述の第1の実施の形態では、主制御部71は、クリーニング動作が行われるとCLタイマ77の値を0にリセットし、その時から1日(24時間)が経過するたびに、図7の一連の処理を通じて次回のクリーニング動作の実行のタイミングを特定するようになっている。これに対し、そのクリーニング動作の実行のタイミングを特定する一連の処理を実行する時間間隔は1日ごとである必要はなく、適宜の日時に設定可能である。
【0109】
上述の第1の実施の形態では、印刷ヘッド33のキャビティ内におけるインクの貯留環境を回復する動作の1つであるクリーニング動作を実行するための仕組みを搭載しており、このクリーニング動作を実行するタイミングが、インクの消費量と温度の関係から特定されるようになっている。これに対し、フラッシング動作や脱気インク添加動作などといったような、インクの貯留環境を回復するための動作を実行するための仕組みを搭載し、その動作を実行するタイミングを、インクの消費量と温度の関係から特定するようにしてもよい。
【0110】
また、上述の第2または第3の実施の形態では、メンテナンステーブルとして、図10、図17に示すような、段階的なマトリクス状のものを用いている。しかしながら、メンテナンステーブルは、マトリクス状ではなく、図18のグラフで示されるように、直線(曲線でもよい)の間に存在する領域の間にいずれかのメンテナンス動作が存在するように設計してもよい。
【0111】
また、上述の各実施の形態においては、プリンタ10は、インクカートリッジ51をシャーシ21側に搭載する、いわゆるオフキャリッジタイプのプリンタ10について説明している。しかしながら、プリンタ10は、オフキャリッジタイプには限られず、インクカートリッジ51をキャリッジ31に搭載する、いわゆるオンキャリッジタイプであってもよい。
【0112】
また、上述の第2、第3の実施の形態では、メンテナンステーブルは、Fl小、Fl大、タイマCL2、タイマCL3、タイマCL4の、5段階のメンテナンス動作を有するものについて説明している。しかしながら、メンテナンス動作は、5段階には限られず、2段階以上であれば、何段階存在していてもよい。また、チョーククリーニングをメンテナンス動作に含めてもよく、また含めなくてもよい。
【0113】
また、上述の各実施の形態の構成に加えて、加圧ポンプ53において、流路内の脱気インクを所定だけ加圧するようにして、脱気インクに対する気泡の溶解を早めるようにしてもよい。その他、溶解を早める構成としては、流路の内部に、超音波を印加する手段(超音波発生装置)を具備する構成を採用したり、温度を制御する手段(ペルチエ素子等)を具備する構成を採用してもよい。これらの構成を採用して、各手段を作動させると、気泡の溶解速度を一層早める(加速させる)ことが可能となる。
【0114】
また、上述の各実施の形態におけるプリンタ10は、プリンタ機能以外の機能(スキャナ機能、コピー機能等)を備える構成のような、複合的な機器の一部であってもよい。また、液体吐出装置は、プリンタ10には限られない。プリンタ10以外の液体吐出装置としては、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等の製造に用いられる、液体を噴射する装置等がある。また、液体は、インク以外の液体であってもよく、たとえば液晶ディスプレイ、ELディスプレイに用いられる液体を噴射する装置においては、色材、電極材が液体となる。また、液体は、脱気インクには限られず、気泡が所定だけ溶解しているインク(飽和しているインク等)を用いてもよい。なお、飽和しているインクを用いる場合、加圧または冷却等の別途の作業が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るプリンタの概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1のプリンタの概略構成を示す図である。
【図3】図1のプリンタにおけるカートリッジホルダの構成を示す斜視図である。
【図4】図1のプリンタにおけるインクカートリッジの構成を示す斜視図である。
【図5】図1のプリンタにおけるクリーニング機構の概略構成を示す図である。
【図6】図1のプリンタの制御部を中心とした概略構成を示す図である。
【図7】クリーニング動作の手順を示すフローチャートである。
【図8】気泡の成長速度とインクの温度の相関を示すグラフである。
【図9】気泡の体積、インクの流速、圧力損失の関係を示すグラフである。
【図10】第2の実施の形態に係るメンテナンステーブルを示す図である。
【図11】従来のメンテナンステーブルを示す図である。
【図12】電源オン時のメンテナンス動作に関するフローを示す図である。
【図13】クリーニングの流速、気泡体積、圧力損失の関係を示す図である。
【図14】印刷開始時のメンテナンス動作に関するフローを示す図である。
【図15】第3の実施の形態に係るクリーニング機構の概略構成を示す図である。
【図16】第3の実施の形態に係る制御部を中心とした概略構成を示す図である。
【図17】第3の実施の形態に係るメンテナンステーブルを示す図である。
【図18】メンテナンステーブルの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0116】
10…プリンタ、30…キャリッジ機構、31…キャリッジ、33…印刷ヘッド(吐出ヘッドに対応)、50…インク供給機構、51…インクカートリッジ、60…クリーニング機構、61…キャップ、62…隔壁、64…制御弁、65…吸引ポンプ(回復手段の一部に相当)、70…制御部(回復手段の一部、成長速度特定手段、溶解速度特定手段、消費量検出手段およびタイミング特定手段に相当)、72…メモリ、73…ヘッド制御部、74…ポンプ制御部(回復手段の一部に相当)、75…CRモータ制御部、76…バルブ制御部、77…CLタイマ、78…インク消費量算出部(消費量検出手段に相当)、79…カートリッジメモリ制御部、84…温度検出部(温度検出手段に相当)、90…コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の液体供給源から供給される液体を吐出させる吐出ヘッドと、
上記液体の温度を検出する温度検出手段と、
上記吐出ヘッドから吐出される液体の消費量を検出する消費量検出手段と、
上記液体を吐出させる動作を回復させるための回復動作を行う手段であって、その回復動作を行うタイミングを上記温度と上記液体の消費量の関係に応じて決定する回復手段と、
を備えていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記吐出ヘッドは、
前記液体を貯留するキャビティと、前記液体を吐出させるノズル開口とを有し、
前記回復手段は、
前記キャビティ内に発生する気泡の成長速度と前記液体の温度との関係を示す第1の相関データを記憶するとともに、前記ノズル開口からの前記液体の吐出速度と当該液体に溶解する気泡の溶解速度との関係を示す第2の相関データを記憶するメモリと、
前記検出した温度に応じた気泡の成長速度を上記メモリに記憶された第1の相関データを基に特定する成長速度特定手段と、
前記検出した前記液体の消費量を基に前記液体の吐出速度を算出し、その吐出速度に応じた気泡の溶解速度を上記メモリに記憶された第2の相関データを基に特定する溶解速度特定手段と、
上記特定した成長速度と上記特定した溶解速度の差を求め、求めた差に応じて前記回復動作を行うタイミングを特定するタイミング特定手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記成長速度特定手段は、所定の期間が経過するたびにその期間の間の前記成長速度を特定し、
前記溶解速度特定手段は、上記期間が経過するたびにその期間の間の前記溶解速度を特定し、
前記タイミング特定手段は、前記成長速度と前記溶解速度が特定されるたびに、成長速度と溶解速度の差をそれまでに求めた両者の差の総計に加算し、加算後の総計が閾値を上回ったタイミングを前記回復動作を行うタイミングとして特定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記溶解速度特定手段は、
前記所定の期間の間に前記消費量検出手段が検出した消費量をその所定の期間で割ることにより、前記液体の吐出速度を算出する、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記回復動作は、
前記ノズル開口をキャップにより封止し、その封止により形成される気密空間に負圧を与えることによりキャビティ内の液体を吸引するクリーニング動作であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
液体を貯留するキャビティと液体を吐出させるノズル開口とを有する吐出ヘッドと、上記液体の温度を検出する温度検出手段と、上記吐出ヘッドから吐出される液体の消費量を検出する消費量検出手段と、上記液体を吐出させる動作を回復させるための回復動作を行う手段であって、その回復動作を行うタイミングを上記温度と上記液体の消費量の関係に応じて決定する回復手段と、前記キャビティ内に発生する気泡の成長速度と前記液体の温度との関係を示す第1の相関データを記憶するとともに、前記ノズル開口からの前記液体の吐出速度と当該液体に溶解する気泡の溶解速度との関係を示す第2の相関データを記憶するメモリと、を有する装置に実行される方法であって、
前記温度検出手段が検出した温度に応じた気泡の成長速度を上記メモリに記憶された第1の相関データを基に特定する成長速度特定行程と、
前記消費量検出手段が検出した前記液体の消費量を基に前記液体の吐出速度を算出し、その吐出速度に応じた気泡の溶解速度を上記メモリに記憶された第2の相関データを基に特定する溶解速度特定行程と、
上記特定した成長速度と上記特定した溶解速度の差を求め、求めた差に応じて前記回復手段に回復動作を行わせるタイミングを特定するタイミング特定行程と、
を有する回復動作制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−246844(P2008−246844A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90964(P2007−90964)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】