説明

液体吐出装置

【課題】ロール紙における異常部分の検出精度を高める。
【解決手段】一方の面が画像の記録層であり、他方の面が粘着層である記録基材と、前記粘着層を覆う剥離基材とを有するロール紙を、繰り出し搬送する搬送部と、繰り出された前記ロール紙を支持する支持部と、前記支持部により支持された前記ロール紙に向けて液体を吐出して前記画像を記録するヘッドと、前記ロール紙における異常部分を検出する異常部分検出センサーと、を備える。前記異常部分検出センサーは、前記ロール紙の紙幅方向の一端側に配された投光部と、該投光部から投じられた光を前記紙幅方向の他端側で受けるように配置された受光部と、を有する。前記投光部と前記受光部とを結ぶ光軸方向は、前記紙幅方向に対して傾いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体吐出装置の一例として、インクジェット式プリンターが知られている。このプリンターは、移動するヘッドから、紙などの媒体に向けてインク等の液体を吐出して画像を印刷する。そして、プリンターの機種によっては、印刷時に、光学センサー等により、プリンター内のプラテン等の各種部位に付着した異物を検出して、ヘッドと異物との干渉を未然に防ぐようにしているものもある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−88612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかるプリンターでは、上記媒体として、ラベル紙(シール紙とも言われる)を使用することがある。ラベル紙は、画像の記録対象面の反対側が粘着層となった記録紙(記録基材)と、この粘着層を覆って設けられたセパレーター(剥離基材)とを有している。そして、通常、このラベル紙は、ロール状に巻かれたロール紙の形態でユーザーに提供され、ユーザーのプリンターの繰り出し部に装着されて、繰り出し搬送されながら画像が記録紙に印刷(記録)される。
【0005】
かかるラベル紙は、その繰り出し下において、セパレーターから記録紙が部分的に剥離してなる剥離部を生じ得る。そして、この剥離部は、上記の部分的剥離に起因してセパレーターと記録紙との間に形成された空間により膨らんでいるため、当該剥離部は、ラベル紙の本来の厚さよりも過厚になっており、印刷時にヘッドと干渉してヘッドを傷める虞がある。
【0006】
そのため、このプリンターには、ロール紙に付着した異物だけでなく剥離部もロール紙の異常部分として検出する異常部分検出センサーが設けられている。この異常部分検出センサーの一例としては、ロール紙の紙幅方向の一端側に配された投光部と、この投光部から投じられた光を紙幅方向の他端側で受けるように配置された受光部とを有した構成が挙げられる。そして、かかるセンサーによれば、異常部分が剥離部の場合に、当該剥離部が、相対的に異常部分検出センサーを横切った際に、剥離部によって投光部からの光が遮られて受光部の受光状態が変化し、この変化に基づいて剥離部の発生を検出する。
【0007】
しかしながら、一般的に剥離部の形状は、ロール紙の紙幅方向に平行な直線形状をなしており(例えば、図8Bを参照)、つまり、紙幅方向に沿って一直線に貫通したトンネル状に形成されることが多い。そのため、投光部と受光部とを結ぶ光軸方向を、紙幅方向と平行に設定した場合には(例えば、図9Aを参照)、当該センサーの位置を剥離部が相対的に横切っても、投光部から投じられた光は、トンネル様の空間を貫通して受光部に到達し易く、つまり、遮光には記録紙の紙厚分しか寄与しないので、受光状態の変化幅は小さく、剥離部を検出し損ねる虞があった。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ロール紙における異常部分の検出精度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
主たる本発明は、
一方の面が画像の記録層であり、他方の面が粘着層である記録基材と、前記粘着層を覆う剥離基材とを有するロール紙を、繰り出し搬送する搬送部と、
繰り出された前記ロール紙を支持する支持部と、
前記支持部により支持された前記ロール紙に向けて液体を吐出して前記画像を記録するヘッドと、
前記ロール紙における異常部分を検出する異常部分検出センサーと、を備え、
前記異常部分検出センサーは、前記ロール紙の紙幅方向の一端側に配された投光部と、該投光部から投じられた光を前記紙幅方向の他端側で受けるように配置された受光部と、を有し、
前記投光部と前記受光部とを結ぶ光軸方向は、前記紙幅方向に対して傾いていることを特徴とする液体吐出装置である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】プリンター1の構成を示す概略図である。
【図2】プリンター1の構成を示すブロック図である。
【図3】図3A及び図3Bは、カール抑え部材28の説明図であり、図3Aにはプラテン29の概略上面図を示し、図3Bには、図3A中のB−B矢視図を示している。
【図4】印刷動作の説明図であって、8パスで印刷するケースにおいて各パスで形成されるラスタラインを示した模式図である。
【図5】印刷動作時のヘッド31の移動を示す模式図である。
【図6】図6A及び図6Bは、ロール紙異常部分検出センサー52の説明図であって、図6Aは、印刷領域Rを移動中のキャリッジ42の拡大平面図であり、図6Bは、図6A中のB−B矢視図である。
【図7】図7Aは、ロール紙2としてのラベル紙の縦断面図であり、図7Bはラベル紙の斜視図である。
【図8】図8A及び図8Bは、それぞれ、ロール紙2における異常部分の一種たる剥離部の斜視図である。
【図9】図9Aは、ロール紙異常部分検出センサー52の光軸方向と紙幅方向とが平行な場合にセンサー52の検出精度が低下する理由の説明図であり、図9Bは、検出精度の低下を解消した本実施形態のセンサー52の説明図である。
【図10】図10A乃至図10Cは、ロール紙異常部分検出センサー52の望ましい配置例としてセンサー52,52を一対配置した場合の説明図であり、図10Aには平面図を示し、図10B及び図10Cには、それぞれ図10A中のB−B矢視図及びC−C矢視図を示している。
【図11】一対のセンサー52,52の光軸同士をクロスさせた場合の平面図である。
【図12】キャリッジ42の左右の両端部42e1,42e2に、それぞれ一対のセンサー52,52を配置した場合の平面図である。
【図13】ロール紙2の異常部分の膨張量の経時変化を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
【0012】
一方の面が画像の記録層であり、他方の面が粘着層である記録基材と、前記粘着層を覆う剥離基材とを有するロール紙を、繰り出し搬送する搬送部と、
繰り出された前記ロール紙を支持する支持部と、
前記支持部により支持された前記ロール紙に向けて液体を吐出して前記画像を記録するヘッドと、
前記ロール紙における異常部分を検出する異常部分検出センサーと、を備え、
前記異常部分検出センサーは、前記ロール紙の紙幅方向の一端側に配された投光部と、該投光部から投じられた光を前記紙幅方向の他端側で受けるように配置された受光部と、を有し、
前記投光部と前記受光部とを結ぶ光軸方向は、前記紙幅方向に対して傾いていることを特徴とする液体吐出装置。
【0013】
かかる液体吐出装置によれば、異常部分検出センサーの投光部と受光部とを結ぶ光軸方向を、紙幅方向に対して傾けている。よって、異常部分が剥離部であって、しかも当該剥離部の形状が紙幅方向に平行なトンネル状であっても、投光部からの光は、トンネル状空間を通過し難くなり、これにより、当該剥離部に遮られる光量を多くすることができる。つまり、センサーが剥離部の位置を相対的に横切った際の遮光量を多くすることができて、これにより、受光部の受光状態の変化を大きくできる。その結果、剥離部の検出精度を高めることができて、つまり、ロール紙における異常部分の検出精度向上を図れる。
【0014】
かかる液体吐出装置であって、
前記異常部分検出センサーは、前記ロール紙の搬送方向に並んで一対設けられ、
前記一対の異常部分検出センサーは、光の投光方向が互いに逆向きになるように配置されていることとしても良い。
【0015】
かかる液体吐出装置によれば、異常部分が、紙幅方向の任意位置に局所的に生じた場合にも、有効に検出可能となる。すなわち、異常部分の発生位置が、紙幅方向の一端寄り或いは他端寄りになることがあるが、この点につき、上述のように一対の異常部分検出センサーを、互いの光の投光方向が逆向きになるように配置しておけば、これら一対の異常部分検出センサー同士の検出状態は、互いに紙幅方向の中央に関して左右対称になる。よって、異常部分が、紙幅方向の一端寄り或いは他端寄りのどちらに位置しても、高い検出精度で検出可能となる。
【0016】
かかる液体吐出装置であって、
前記搬送部は、前記ロール紙を間欠的に前記搬送方向に繰り出し搬送し、
前記ロール紙の搬送停止中に、前記ヘッドは、前記搬送方向と平行な方向を第1移動方向として移動し、前記紙幅方向を第2移動方向として移動するとともに、前記第1移動方向の移動中に、前記ヘッドは前記ロール紙へ向けて前記液体を吐出し、
前記異常部分検出センサーは、前記ヘッドと連動して前記第1移動方向に移動することとしても良い。
【0017】
かかる液体吐出装置によれば、異常部分検出センサーはヘッドと連動して第1移動方向に移動するので、ロール紙においてヘッドが液体を吐出すべき部分の全域に亘って異常部分の有無を検出可能となる。よって、ヘッドと異常部分との干渉防止処理(例えば、ヘッドの移動停止処理等)を確実に行うことができる。
【0018】
液体吐出装置であって、
前記ヘッドは、前記第1移動方向に往復移動し、前記第1移動方向の往復移動の往路及び復路のそれぞれにおいて、前記ヘッドは前記ロール紙に向けて前記液体を吐出し、
前記異常部分検出センサーは、前記第1移動方向における前記ヘッドの両側にそれぞれ設けられており、前記ヘッドと連動して前記第1移動方向に往復移動することとしても良い。
【0019】
かかる液体吐出装置によれば、第1移動方向におけるヘッドの両側にそれぞれ異常部分検出センサーは設けられているので、第1移動方向の往路及び復路のどちらについても、ヘッドよりも先に、どちらかの異常部分検出センサーが、異常部分の位置に到達して、異常部分を検出可能となる。よって、異常部分が経時的に成長するような場合、例えばロール紙における液体の着弾部位が液体を吸収することによって局所的に膨れるような異常部分の場合であっても、当該異常部分がヘッドと干渉する前の時点で、ヘッドと干渉しそうな膨張状態であることを確実に検出可能となり、その結果、ヘッドと異常部分との干渉防止処理を確実に行うことができる。
【0020】
液体吐出装置であって、
前記支持部に支持された前記ロール紙の部位に向けて送風する送風ユニットを有し、
前記異常部分検出センサーの作動時に、前記送風ユニットは前記ロール紙の部位に向けて送風することとしても良い。
【0021】
かかる液体吐出装置によれば、支持部に支持されたロール紙の部位の周囲の環境状態、例えば周囲の気温分布等の温度環境を、送風機の送風により一定に保つことができる。よって、支持部に支持されたロール紙の部位について、異常部分検出センサーの検出環境を一定に保つことができて、その結果、検出動作の安定化を図れる。
【0022】
===プリンター1について===
液体吐出装置の一例としてのプリンター1について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、プリンター1の概略断面図であり、図2は、プリンター1のブロック図である。
なお、以下の説明において、「上下方向」及び「左右方向」とは、図1に矢印で示した方向を指すものとし、また、「前後方向」とは、図1において紙面に直交する方向を指すものとする。ちなみに、「前後方向」は、プリンター1の印刷対象たるロール紙2の紙幅方向と平行であり、そのため、以下では単に「紙幅方向」とも言う。また、これら上下方向、左右方向、及び前後方向は、互いに直交関係にある。更には、以下の説明では、ロール紙2への画像の記録に係る「記録」という用語を、単に「印刷」とも言う。
【0023】
このプリンター1は、ロール紙2(連続紙)を繰り出して所定の搬送経路に沿って搬送し、当該搬送経路の所定位置に設定された印刷領域Rにおいて画像を印刷し、再度巻き取って、画像が印刷済みのロール紙2にする装置である。
図1及び図2に示すように、プリンター1は、給送ユニット10と、搬送ユニット20と、プラテン29と、巻き取りユニット90と、ヘッドユニット30と、キャリッジユニット40と、送風ユニット80と、を有し、更に、これらユニット10,20,30,40,80,90等を制御してプリンター1としての動作を司るコントローラー60と、検出器群50と、を有している。以下、これらユニット等について説明する。
【0024】
給送ユニット10は、ロール紙2を搬送ユニット20に給送するものである。この給送ユニット10は、巻き取り状態のロール紙2を回転可能に支持する巻軸18と、巻軸18から繰り出されたロール紙2を巻き掛けて搬送ユニット20に導くための中継ローラー19と、を有している。そして、搬送ユニット20の搬送動作に連動して、給送ユニット10はロール紙2を搬送ユニット20に送り出す。
【0025】
搬送ユニット20は、給送ユニット10から送られた繰り出し状態のロール紙2を、予め設定された搬送経路に沿って上流から下流へと搬送するものである。この搬送ユニット20は、図1に示すように、複数の中継ぎローラー21,22と、第一搬送ローラー23と、第二搬送ローラー24と、複数の中継ぎローラー25,26,27と、を有する。中継ぎローラー21,22と第一搬送ローラー23とは、給送ユニット10とプラテン29との間に配置され、他方、第二搬送ローラー24と複数の中継ぎローラー25,26,27とは、プラテン29と巻き取りユニット90との間に配置されている。そして、これらローラー21,22,24,25,26,27に順次ロール紙2が架け渡されて、その搬送経路が形成されている。ちなみに、この搬送ユニット20は、前述の給送ユニット10と協働することで、請求項に係る「搬送部」として機能する。
【0026】
第一及び第二搬送ローラー23(24)については、それぞれ対をなすローラーから構成されている。そして、第一及び第二搬送ローラー23(24)のどちらも、一方のローラー23a(24a)は不図示のモーターにより駆動回転する駆動ローラーとして構成され、他方のローラー23b(24b)は駆動ローラーに連れ回りする従動ローラーとして構成されている。そして、印刷領域Rに位置するロール紙2の部位に対する画像の印刷が終了すると、第一搬送ローラー23や第二搬送ローラー24等により、画像が印刷されたロール紙2の部位は印刷領域Rから排出され、未だ画像が印刷されていないロール紙2の新たな部位が印刷領域Rに供給されて停止される。そして、このロール紙2の間欠的な搬送停止の間に、印刷領域Rに位置する新たな部位に対して画像が印刷される。つまり、印刷領域Rに位置するロール紙2の部位に対する印刷動作とロール紙2の搬送動作とが繰り返される。この間欠搬送は、コントローラー60が第一搬送ローラー23及び第二搬送ローラー24の駆動回転を制御することで行われる。
なお、ロール紙2の搬送経路のうち、上述の印刷領域Rは、プラテン29の上面に対応して設定されており、また、この印刷領域Rでのロール紙2の搬送方向は、左右方向と平行になっている。よって、この印刷領域Rにおいては、左右方向に代えて単に「搬送方向」と言うこともでき、以下では、そのように表現することもある。
【0027】
ヘッドユニット30は、搬送経路の印刷領域Rに送り込まれたロール紙2の部位に、液体の一例としてのインクを吐出して画像を印刷するものである。ヘッドユニット30は、ヘッド31を有している。ヘッド31は、その下面に、複数のノズルが並んでなるノズル列を有している。この例では、イエロ(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)等の色ごとにそれぞれ複数のノズル♯1〜♯Nからなるノズル列を有している。各ノズル列の各ノズル♯1〜♯Nは、紙幅方向(前後方向)に直線状に整列されており、また、各ノズル列は、ロール紙2の搬送方向(左右方向)に沿って相互に間隔をあけて平行に配置されている。
各ノズル♯1〜♯Nには、インクを吐出するための駆動素子としてピエゾ素子(不図示)が設けられている。そして、コントローラー60が、ピエゾ素子の両端の電圧の印可を制御することにより、各色の各ノズル♯1〜♯Nから滴状のインクが吐出される。
【0028】
キャリッジユニット40は、ロール紙2に二次元の画像を印刷すべく、ヘッド31を搬送方向(左右方向)及び紙幅方向(前後方向)に移動させるものである。このキャリッジユニット40は、搬送方向(左右方向)に延びるキャリッジガイドレール41と、キャリッジガイドレール41に沿って搬送方向(左右方向)へ往復移動可能に支持されたキャリッジ42と、を有する。
【0029】
キャリッジ42は、不図示のモーターの駆動により、ヘッド31を一体に保持しながら搬送方向(左右方向)へ往復移動するように構成されている。また、キャリッジ42には、紙幅方向(前後方向)に延びる不図示のヘッドガイドレールが設けられており、ヘッド31は、不図示のモーターの駆動により、当該ヘッドガイドレールに沿って紙幅方向(前後方向)へ移動するように構成されている。そして、ヘッド31によって印刷をする際には、キャリッジ42は、搬送方向の往復移動を行い、その往路と復路との間のキャリッジ42の停止状態において、ヘッド31が紙幅方向に所定距離dだけ移動し、これらを繰り返すことにより、印刷領域Rのロール紙2の部位には、二次元の画像が印刷される。この印刷動作については後述する。
【0030】
この搬送方向に往復移動するキャリッジ42については、ホームポジションHPが用意されている。ホームポジションHPとは、キャリッジ42(ヘッド31)が印刷動作を行わない時に同キャリッジ42(ヘッド31)が待機する待機位置のことであり、例えば、ロール紙2を搬送する搬送動作の際には、キャリッジ42はこのホームポジションHPへ戻って停止する。このホームポジションHPの位置は、搬送方向(左右方向)に関してプラテン29から外れた位置に設定されており、この例では、ホームポジションHPは、プラテン29よりも搬送方向の上流側(つまり左右方向の左側)の位置に設定されている。
【0031】
プラテン29は、印刷領域Rに位置するロール紙2の部位を支持するものである。このプラテン29は、前述したように、印刷領域Rに位置して設けられ、つまり、第一搬送ローラー23と第二搬送ローラー24との間に配されている。そして、この例では、プラテン29の上面をロール紙2の支持面としている。また、印刷領域Rでのロール紙2の搬送経路が左右に沿った直線ルートであることから、これに対応させてプラテン29の上面は左右方向に沿った平面状に形成されている。
【0032】
また、プラテン29には、印刷領域Rに位置するロール紙2の部位を加熱するヒーター(不図示)が設けられている。このヒーターによってプラテン29の上面は加熱され、これにより、プラテン29上のロール紙2の部位に着弾したインクは即座に乾燥される。ヒーターは、プラテン29の内部に埋設された例えばニクロム線であり、その通電によって発熱量を制御することで、プラテン29上のロール紙2の温度が例えば45℃になるように調節される。
【0033】
更に、プラテン29の上面には、ロール紙2の紙幅方向のカール変形を抑えてロール紙2を平坦にする目的で、カール抑え部材28が配されている。図3A及び図3Bは、このカール抑え部材28の説明図であり、図3Aにはプラテン29の概略上面図を示し、図3Bには、図3A中のB−B矢視図を示している。カール抑え部材28は、ロール紙2の紙幅方向の各端部2e,2eに対応させてそれぞれ設けられた帯状プレート部材28である。そして、各帯状プレート部材28,28は、その紙幅方向(前後方向)の外側部分28aがプラテン29の上面に当接固定され、内側部分28bがプラテン29の上面から接離自在に構成されている。よって、この内側部分28bとプラテン29の上面との間に、ロール紙2の端部2eが差し込まれることにより、ロール紙2のカール変形が抑えられ、その結果、ヘッド31とロール紙2との干渉を抑えながらロール紙2に画像を安定して印刷可能となる。
【0034】
送風ユニット80は、プラテン29上のロール紙2に向けて風を送るものである。この送風ユニット80は、ファン81と、当該ファン81を回転させるモーター(不図示)とを備えている。ファン81は回転することにより、プラテン29上のロール紙2に風を送り、ロール紙2に着弾したインクを乾燥させる。また、この送風には、プラテンの周囲の気温分布を一定に維持する等の周辺環境を一定に維持する効果もある。このようなファン81は、プリンター1の筐体に開閉可能に設けられたカバーに複数設けられている。そして、カバーが閉じた際に、各ファン81はプラテン29の上方に位置して、当該プラテン29に当接支持されたロール紙2の部位と対向するようになっている。
【0035】
巻き取りユニット90は、搬送ユニット20により送られた印刷済みのロール紙2の部位を巻き取るものである。この巻き取りユニット90は、搬送ユニット20の最下流の中継ぎローラー27から送られたロール紙2が巻き掛けられる中継ぎローラー91と、この中継ぎローラー91から送られるロール紙2を巻き取る巻き取り軸92と、を有している。巻き取り軸92は、不図示のモーターにより、搬送ユニット20の搬送動作に連動して駆動回転し、これにより、搬送ユニット20から送られるロール紙2を速やかに巻き取っていく。
【0036】
コントローラー60は、プリンター1の制御を行なうための制御ユニットである。このコントローラー60は、図2に示すように、インターフェース部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64と、を有している。インターフェース部61は、外部装置であるホストコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行なうためのものである。CPU62は、プリンター1全体の制御を行なうための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムに従ったユニット制御回路64により各ユニット10,20,30,40,80,90などを制御する。
【0037】
検出器群50は、プリンター1内の状況を監視するものであり、例えば、第一及び第二搬送ローラー23,24に取り付けられてロール紙2の搬送動作などの制御に利用されるロータリー式エンコーダー、搬送されるロール紙2の有無を検出する用紙検出センサー、キャリッジ42(又はヘッド31)の搬送方向(左右方向)の位置を検出するためのリニア式エンコーダー、ロール紙2に付着した異物等のロール紙2における異常部分を検出するロール紙異常部分検出センサー52などがある。そして、これら検出器群50からの検出結果は、コントローラー60へと送信され、当該検出結果に基づいてコントローラー60は各ユニット10,20,30,40,80,90などを制御する。
【0038】
===プリンター1の印刷動作について===
上述した通り、プリンター1はヘッド31を有し、ヘッド31には、紙幅方向(前後方向)にノズルが並んだノズル列が設けられている。そして、コントローラー60が、当該ヘッド31を搬送方向(左右方向)に移動させながら、ノズルからインクを吐出させ、搬送方向(左右方向)に沿ったラスタラインを形成することにより、印刷領域R上のロール紙2の部位に画像を印刷する。なお、以下では、説明をし易くする目的で、ヘッド31のノズル列の列数は1列であるものとして説明するが、実際には前述したように、CMYK等の色毎に設けられてなる複数列である。
【0039】
ここで、コントローラー60は、複数パス(例えば6パス、8パス、16パス等)の印刷を実行する。すなわち、紙幅方向(前後方向)における画像の解像度を高くするために、パス毎に紙幅方向におけるヘッド31の位置を少しずつ変えて印刷を行なう。また、印刷方式としては、例えば公知のインターレース(マイクロウィーブ)印刷が実行される。
【0040】
これについて、図4を用いて具体的に説明する。図4は、8パスで印刷するケースにおいて各パスで形成されるラスタラインを示した模式図である。
図4の左側にはヘッド31のノズル列(ノズル)が表されており、当該ヘッド31(ノズル列)が搬送方向(左右方向)に移動しながらノズルからインクが吐出されることにより、ラスタラインが形成される。同図4に表されているヘッド31(ノズル列)の紙幅方向(前後方向)における位置は、1パス目のときの位置であり、かかる位置を維持したままヘッド31(ノズル列)が搬送方向に移動すると、1パス目の印刷が実行され、同図4に表された3つのラスタライン(右端にパス1と書かれているラスタラインL1)が形成される。
【0041】
そして、次にヘッド31(ノズル列)が紙幅方向に移動して、移動後の位置を維持したままヘッド31(ノズル列)が搬送方向に移動すると、2パス目の印刷が実行され、同図4に表された2つのラスタライン(右端にパス2と書かれているラスタラインL2)が形成される。なお、インターレース(マイクロウィーブ)印刷が採用されているため、前記ラスタラインL1に隣接するラスタラインL2は、ラスタラインL1を形成するインクが吐出されたノズルとは異なるノズルから吐出されたインクにより形成されることとなる。そのため、ヘッド31(ノズル列)の紙幅方向への移動距離は、ノズル間距離(例えば、1/180インチ)の1/8分(1/180×1/8=1/1440インチ)ではなく、これより大きな距離(以下では、この距離を距離dとする)となる。
【0042】
そして、以下、同様の動作が行なわれることにより、3〜8パス目の印刷が実行されて、同図4に表された残りのラスタライン(右端にパス3〜8と書かれているラスタラインL3〜L8)が形成される。このように、8パスでラスタラインが形成されることにより、紙幅方向における画像の解像度を8倍(=1440÷180)の解像度とすることが可能となる。
【0043】
なお、本実施の形態においては、所謂双方向印刷が行なわれる。すなわち、1パス、3パス、5パス、7パス目の印刷が行なわれるときのヘッド31(ノズル列)の移動方向と2パス、4パス、6パス、8パス目の印刷が行なわれるときのヘッド31(ノズル列)の移動方向は互いに逆方向となる。
【0044】
図5は、この双方向印刷の説明図であって、ヘッド31の移動の様子を示す模式図である。
始めに、この図5の見方について説明する。同図5には、この双方向印刷の印刷動作に係りヘッド31がどのように移動するかが示されている。ヘッド31は、便宜上、丸印で表され、ヘッド31の移動が矢印で表されている。ここで、同図5中で左右方向を向いた矢印は、搬送方向(第1移動方向に相当)におけるヘッド31の移動を表し、上下方向を向いた矢印は、紙幅方向(第2移動方向に相当)におけるヘッド31の移動を表している。また、各矢印には、S1〜S17の符号が付けられているが、これは、以降の印刷動作の説明で用いられるステップ番号である。
また、パス1乃至パス8が付されているステップ番号があるが、これらのステップ番号はインクが吐出されるステップ、つまり画像の印刷が行われるステップを表している。
【0045】
以下、図4及び図5を参照しつつ、この双方向印刷の印刷動作について説明する。なお、当該印刷動作は、主としてコントローラー60により実現される。特に、本実施形態においては、メモリー63に格納されたプログラムをCPU62が処理することにより実現される。そして、このプログラムは、以下に説明する各種の動作を行なうためのコードから構成されている。
【0046】
前述した間欠的なロール紙2の搬送が行なわれてロール紙2が停止すると、印刷領域R上のロール紙2の部位に画像を印刷する印刷動作が開始される。
【0047】
先ず、コントローラー60は、ヘッド31をホームポジションHPから往方向(左右方向で言えば、右へ向かう方向であり、搬送方向で言えば、上流側から下流側へ向かう方向)へ移動させる(ステップS1)。そして、ヘッド31が印刷領域Rに入ったら、コントローラー60は、ヘッド31にインクを吐出させて、1パス目の印刷を実行する(ステップS2)。そして、このことにより、図4に示されたラスタラインL1(パス1のラスタライン)が形成される。
ヘッド31が第一折り返し位置へ至ると、コントローラー60は、ヘッド31を紙幅方向の前方へ移動させる(ステップS3)。この例では、前述の距離dだけヘッド31を前方へ移動させる。
その後、コントローラー60は、ヘッド31を復方向(左右方向で言えば、左へ向かう方向であり、搬送方向で言えば、下流側から上流側へ向かう方向)へ移動させながら、ヘッド31にインクを吐出させて、2パス目の印刷を実行する(ステップS4)。これにより、図4に示されたラスタラインL2(パス2のラスタライン)が形成される。
そして、ヘッド31が第二折り返し位置へ至ると、コントローラー60は、ヘッド31を紙幅方向の前方へ移動させる(ステップS5)。この例では、前述の距離dだけヘッド31を前方へ移動させる。
そして、移動が完了すると、コントローラー60は、上述のステップS2乃至ステップS5の処理と同じ処理をさらに二度行なう(ステップS6乃至ステップS9、ステップS10乃至ステップS13)。一度目の処理において、3パス目の印刷(ステップS6)により図4のラスタラインL3(パス3のラスタライン)が、4パス目の印刷(ステップS8)により図4のラスタラインL4(パス4のラスタライン)が、それぞれ形成される。
【0048】
また、二度目の処理により、5パス目の印刷(ステップS10)により図4のラスタラインL5(パス5のラスタライン)が、6パス目の印刷(ステップS12)により図4のラスタラインL6(パス6のラスタライン)が、それぞれ形成される。
【0049】
次に、コントローラー60は、最後の2つのパスの印刷を実行する。すなわち、コントローラー60は、ヘッド31を往方向へ移動させながら、ヘッド31にインクを吐出させて、7パス目の印刷を実行する(ステップS14)。これにより、図4のラスタラインL7(パス7のラスタライン)が形成される。ヘッド31が第一折り返し位置へ至ると、コントローラー60は、ヘッド31を紙幅方向の前方へ移動させる(ステップS15)。この例では、前述の距離dだけヘッド31を前方へ移動させる。その後、コントローラー60は、ヘッド31を復方向へ移動させながら、ヘッド31にインクを吐出させて、8パス目の印刷を実行する(ステップS16)。これにより、図4のラスタラインL8(パス8のラスタライン)が形成される。
【0050】
そして、ヘッド31が第二折り返し位置に至ると、コントローラー60は、ヘッド31の紙幅方向における位置を元に戻す(ステップS17)。すなわち、ステップS3、S5、S7、S9、S11、S13、S15でヘッド31が移動した方向とは逆方向に、つまり紙幅方向の後方に距離7dだけヘッド31を移動させる。
【0051】
そして、コントローラー60は、ヘッド31を第二折り返し位置から搬送方向の下流へ移動することにより、ヘッド31をホームポジションHPへと戻し(ステップS18)、これにより、画像の印刷動作が終了する。
【0052】
ちなみに、上述のヘッド31の搬送方向(左右方向)の往復移動は、同搬送方向にキャリッジ42が往復移動することで実現されている一方、上述のヘッド31の紙幅方向(前後方向)の移動は、キャリッジ42に対してヘッド31が紙幅方向に相対移動することで実現されている。
【0053】
===ロール紙異常部分検出センサー52について===
図6Aは、印刷領域Rを移動中のキャリッジ42の拡大平面図であり、図6Bは、図6A中のB−B矢視図である。
印刷動作時には、印刷領域Rのプラテン29の上方をヘッド31が搬送方向及び紙幅方向に移動する旨を前述したが、このときのプラテン29の上面とヘッド31の下面との間の隙間Gは、図6Bに示すように、約1ミリ〜数ミリといったミリオーダーの狭さである。よって、これから印刷予定のロール紙2に、仮に異物が付着してヘッド31の方に盛り上がっていたり、或いはロール紙2が局所的に破れてヘッド31の方に立ち上がっているような場合には、これらの異物や破れ部分たる異常部分に、印刷動作中のヘッド31が接触や干渉等してヘッド31を傷める虞がある。
【0054】
そのため、このプリンター1には、ロール紙2における異常部分を検出するロール紙異常部分検出センサー52が搭載されている。図6A及び図6Bに示すように、このセンサー52は、キャリッジ42に対して相対移動不能に一体に固定されており、これにより、キャリッジ42と一体となって左右方向たる搬送方向に往復移動するようになっている。つまり、キャリッジ42と連動して搬送方向に往復移動する。そして、基本的にはキャリッジ42が移動している間、つまり印刷動作中の全期間に亘って、当該センサー52は、コントローラー60の制御のもと作動状態にされて、ロール紙2における異常部分を検出する。
【0055】
かかるセンサー52は、光学センサーであり、紙幅方向の一端側(図示例では前側)に配された投光部52aと、投光部52aから投じられた光の一例としてのレーザー光を紙幅方向の他端側(図示例では後側)で受けるように配置された受光部52bと、を有する。そして、レーザー光の光軸の上下方向の位置が、ヘッド31の下面とロール紙2の上面(つまり、ヘッド31と対向する方の面、或いは、プラテン29と対向しない方の面)との間に位置するように調整されている。
【0056】
よって、仮に搬送停止中のロール紙2の上面に異物等の異常部分が有る場合には、キャリッジ42と共に搬送方向(左右方向)に移動するセンサー52が当該異常部分の位置を通過する際に、この異常部分によって投光部52aからのレーザー光が遮られることになり、その結果、受光部52bの受光状態が変化する。つまり、受光部52bの受光量が低下する。よって、この受光量を監視することで異常部分の有無を検出する。例えば、この受光量は、センサー52が具備する適宜な変換器52c等によって電流や電圧等の電気信号に変換されてほぼ常時コントローラー60へ送信されている。そして、コントローラー60では、例えば予め電気信号の値で設定された所定の閾値を電気信号が下回った際に、「異常部分が有った」と判定し、その場合には、キャリッジ42を停止し、しかる後に、キャリッジ42をホームポジションHPへ戻す。これにより、異常部分とヘッド31との接触や干渉は未然に防がれる。
【0057】
ちなみに、ロール紙2が印刷領域Rを搬送される際には、キャリッジ42は、図1(又は図6A)のホームポジションHPで待機しており、そして、当該ホームポジションHPは、印刷領域Rの外に位置している。よって、仮に異常部分が有るロール紙2の部位が印刷領域Rに搬送されたとしても、この搬送時に、異常部分とキャリッジ42のヘッド31とが干渉することはない。
【0058】
かかるセンサー52は、キャリッジ42における搬送方向(左右方向)の両端部42e1,42e2のうちの少なくとも一方の端部に設けられる。そして、図6Aの例のように一方の端部にのみ設ける場合には、印刷動作における1パス目、つまりキャリッジ42の最初の左右方向の移動動作の際に、ヘッド31よりも先に異常部分に到達可能な方の端部42e1にセンサー52は設置される。例えば、図6Aの例の場合には、ホームポジションHPが左右方向に関してプラテン29よりも左側(搬送方向で言えば、プラテン29よりも上流側)に位置しているので、キャリッジ42の右端部42e1(搬送方向で言えば、下流側の端部42e1)の方が、ヘッド31よりも先にプラテン29上のロール紙2の部位に到達可能であり、もって、同センサー52はキャリッジ42の右端部42e1(搬送方向の下流側の端部42e1)に設置されている。
【0059】
ところで、本実施形態では、ロール紙2としてラベル紙が使用される。図7Aはラベル紙の縦断面図であり、図7Bはラベル紙の斜視図である。このラベル紙は通称シール紙とも呼ばれるものである。つまり、ラベル紙は、画像の印刷対象面の反対側が粘着層となった印刷紙(記録基材に相当)と、この粘着層を覆って設けられたセパレーター(剥離基材に相当)とを有している。そして、印刷紙とセパレーターとは容易に剥離可能になっており、よって、印刷後のロール紙2の最終ユーザーは、印刷紙からセパレーターを剥がして、印刷紙を所望の対象物に貼り付けて使用する。なお、印刷紙やセパレーターは何等紙に限らず、例えば樹脂フィルム等でも良い。
そして、プリンター1に対してこのラベル紙形態のロール紙2をセットする際には、印刷領域Rにおいて印刷紙の方がヘッド31に対向し、セパレーターの方がプラテン29に対向するようにロール紙2はセットされる。
【0060】
このようなラベル紙形態のロール紙2は、その繰り出し下において、セパレーターから印刷紙が部分的に剥離してなる剥離部を生じ得る。図8A及び図8Bに、それぞれ、剥離部の一般例を斜視図で示す。図8A及び図8Bに示すように、剥離部は、上記の部分的剥離に起因してセパレーターと印刷紙との間に形成された空間により紙厚方向に膨らんでいる。また、剥離部の形状は、図8Aに示すような、搬送方向たる左右方向に平行な直線形状か、或いは、図8Bに示すような、ロール紙2の紙幅方向たる前後方向に平行な直線形状のどちらかであることが多い。つまり、搬送方向及び紙幅方向の両者に対して傾いているケースは、まず無い。
【0061】
そして、どちらの形態の場合にも、剥離部は、その膨らみ分だけラベル紙の本来の厚さよりも過厚になっており、印刷時にヘッド31と接触や干渉などしてヘッド31を傷める虞がある。そのため、前述のロール紙異常部分検出センサー52では、この剥離部も、ロール紙2における異常部分として検出するようにしている。
【0062】
ここで、図8Aに示した前者の形態の剥離部の場合には、搬送方向たる左右方向に移動するセンサー52が、この剥離部の位置を通過する際に、レーザー光は所定の時間に亘って確実に遮られるので、受光量は大きく低下し、これにより剥離部を検出し損ねることは無い。
【0063】
ところが、図8Bに示した後者の形態の剥離部の場合には、センサー52が当該剥離部を検出し損ねる虞があった。それは、この剥離部の形状に起因している。すなわち、図9Aの平面図に示すように、この剥離部は、紙幅方向に平行な一直線に貫通したトンネル状に形成されているが、ここで、同図9Aに示すように、仮に上記センサー52の投光部52aと受光部52bとを結ぶ光軸方向が、紙幅方向と平行に設定されている場合には、当該センサー52が剥離部の位置を横切っても、投光部52aから投じられたレーザー光は、剥離部のトンネル状空間をすり抜けて受光部52bに到達し易く、つまり、剥離部起因の遮光には印刷紙の紙厚分しか寄与せず、十分な遮光状態が得られない。その結果、受光状態の変化幅は小さく、剥離部を検出し損ねる虞があった。
【0064】
そこで、本実施形態では、図9Bに示すように、センサー52の投光部52aと受光部52bとを結ぶ光軸方向を、紙幅方向に対して所定の傾き角度θで傾けている。より詳しくは、搬送方向(左右方向)と紙幅方向(前後方向)との両者で規定される仮想平面に対して、光軸方向が平行な状態を維持しながら、当該光軸方向を紙幅方向から所定の傾き角度θだけ傾けている。そして、このようにすれば、センサー52がこの剥離部の位置を通過する際に生じ得るレーザー光のトンネル状空間のすり抜けは有効に回避されて、つまり、レーザー光は剥離部に確実に遮光され、受光部52bの受光状態は大きく変化する。つまり、受光量は大きく低下するので、剥離部の検出漏れを確実に防止できて、その結果、当該剥離部を含めてなる異常部分の検出精度を全体として高めることができる。
【0065】
ここで、センサー52の傾き角度θは、例えば0°よりも大きく90°よりも小さい範囲の任意値に設定され、好ましくは0°よりも大きく10°よりも小さい範囲の任意値に設定され、より好ましくは1°よりも大きく5°よりも小さい範囲の任意値に設定され、本実施形態では2°である。なお、傾き角度θを大きくすると、レーザー光のすり抜け阻止の確度は高まるが、センサー52の寸法が、搬送方向たる左右方向に大きくなってしまい、プリンター1の大型化を招くので、傾き角度θは極力小さい方が良い。
【0066】
また、場合によっては、下式1で求まる角度値θthを参考にして傾き角θを設定しても良く、その場合には、角度値θthよりも大きくなるように傾き角θを設定することになる。
【0067】
θth=tan−1(L/W) … (1)
ここで、上式1中のWは、ロール紙2の紙幅であり、Lは、剥離部の搬送方向(左右方向)の寸法である。そして、図9Bの幾何学的関係から明らかなように、この角度値θthは、レーザー光が剥離部のトンネル状空間をすり抜け得る最大角度を示している。よって、上式1を参考にして傾き角θを設定すれば、傾き角度θを不必要に大きくせずに、レーザー光の剥離部のすり抜け阻止に必要な大きさの傾き角度θを確保することができて、その結果、上述のプリンター1の大型化の問題を容易に回避可能となる。
また、ロール紙2の紙幅等の種類に応じて、式1の計算を行えば、ロール紙2の種類毎に最適な傾き角度θに設定可能となる。例えば、プリンター1にロール紙2がセットされる度に、セットされたロール紙2の紙幅Wやこのロール紙2に生じると想定される剥離部の寸法Lに基づいて角度値θthを算出し、当該角度値θthに基づいて傾き角度θを設定すれば、任意の種類のロール紙2に対して、剥離部の検出漏れを無くすことができる。
【0068】
図10A乃至図10Cは、かかるロール紙異常部分検出センサー52の望ましい配置例の説明図である。図10Aには平面図を示し、図10B及び図10Cには、それぞれ図10A中のB−B矢視図及びC−C矢視図を示している。
【0069】
図10Aに示すように、この配置例では、二つのロール紙異常部分検出センサー52,52が、搬送方向の左右に隣接して並んで配されているとともに、これら一対のセンサー52,52同士の投光方向が互いに逆向きに設定されている。そして、このようになっていれば、異常部分が紙幅方向の任意位置に局所的に生じた場合にも、有効に検出可能となる。すなわち、異常部分が異物の付着による場合や図8Aの形態の剥離部の場合には、当該異常部分の発生位置が、図10Bに示すように紙幅方向の後方寄り或いは前方寄りとなることがあるが、このような場合にも有効に検出可能である。以下、これについて詳しく説明する。
このセンサー52は、図10Bに示すように、紙幅方向において投光部52a寄りの位置の方が、受光部52b寄りの位置よりも検出精度が高いという性質を有する。この理由は、次のように考えられる。前述したように、ロール紙2に着弾したインクの乾燥目的で、プラテン29は約45℃に加熱されている。そのため、プラテン29やロール紙2の上方の空間には、気温分布が生じている。例えば、プラテン29近傍の気温は45℃と高く、プラテン29から上方に離れるにつれて気温が約25℃まで低下している。すると、この気温分布によって当該空間の光の屈折率が変化を来たし、結果、図10Bに示すようにレーザー光が上方に屈折してしまう。そして、この状況下で、仮に、紙幅方向における受光部52b寄りの位置に異常部分が有る場合には、当該異常部分はレーザー光を十分な大きさで遮光できず、その結果、受光量があまり低下せずにセンサー52は検出漏れを起こしてしまう。
【0070】
そこで、図10Aの例では、これを防ぐべく、ロール紙異常部分検出センサー52,52を一対で設け、しかも、これらセンサー52,52同士の投光方向を互いに逆向きにすることで、図10B及び図10Cに示すように、一方のセンサー52の検出精度が低くなる同センサー52の受光部52b寄りの領域を、他方のセンサー52の検出精度が高くなる同センサー52の投光部52a寄りの領域で補うとともに、他方のセンサー52の検出精度が低くなる同センサー52の受光部52b寄りの領域を、一方のセンサー52の検出精度が高くなる同センサー52の投光部52a寄りの領域で補うようにしている。
【0071】
具体的に説明すると、一方のセンサー52については、その投光部52aを紙幅方向の前方に設置し、受光部52bを同方向の後方に設置しており、他方のセンサー52については、その投光部52aを紙幅方向の後方に設置し、受光部52bを同方向の前方に設置している。よって、紙幅方向の前方範囲については、前者のセンサー52によって検出し、紙幅方向の後方範囲については、後者のセンサー52によって検出するようにすれば、前述のレーザー光の屈折に一切左右されずに、紙幅方向の任意の位置の異常部分を確実に検出可能となる。ちなみに、このようにするためには、コントローラー60の方では、二つのセンサー52,52から出力される各電気信号のうちの少なくとも一方が、所定の閾値を下回った時に、「異常部分が有った」と判定するような制御フローを用いることになる。
【0072】
なお、このような一対のセンサー52,52同士の相対配置関係にあっては、例えば、図10Aに示すように、互いの光軸同士を平行にしても良いし、図11の平面図のように互いの光軸同士をクロスさせても良い。但し、クロスさせる場合には、レーザー光同士が交錯・干渉して検出精度の悪化を招く虞があるので、好ましくは、前者のように光軸同士を平行にする方が良い。但し、完全に平行でなくても良く、つまり、ロール紙2上において光軸同士がクロスしていなければ、検出精度に及ぼす影響は小さい。
【0073】
また、望ましくは、このような一対のセンサー52,52(図10A)、若しくは一つのセンサー52(図6A)を、キャリッジ42のうちで左右方向(搬送方向)の一方の端部だけでなく、両方の端部にそれぞれ設けると良い。図12の例では、キャリッジ42の両方の端部42e1,42e2に対してそれぞれ一対のセンサー52,52を設けている。
そして、このようにすれば、印刷中にロール紙2の異常部分が徐々に大きく成長してヘッド31の方へ盛り上がるような場合にも、当該異常部分を、ヘッド31に当たる前に検出し易くなる。
この成長する異常部分の一例としては、例えば、印刷中にロール紙2に着弾したインクの液分等に起因して、印刷紙が局所的に膨張するケースが挙げられる。図13のグラフは、この異常部分の膨張量の経時変化を示すイメージ図であり、縦軸には膨張量を取り、横軸には、印刷動作の開始時点からの経過時間を取っている。また、同グラフ中に示す限界値とは、ヘッド31に異常部分が干渉する限界の膨張量である。
【0074】
ここで、例えば、前述したようにキャリッジ42の右端部42e1にだけセンサー52が設けられている場合には(図6A)、キャリッジ42の往路パス(例えば5パス目)の後では、最短でも、その後の復路パス(6パス目)でないと異常部分の検出チャンスは無い。しかも、この復路パス(6パス目)では、ヘッド31が異常部分を通過した後にセンサー52が異常部分を通過することになる。そのため、場合によっては、図13に示すように、復路パス(6パス目)の最中に、限界値を超えた膨張量の異常部分にヘッド31が干渉してしまうことがあり得る。
【0075】
これに対して、図12の例のようにキャリッジ42の左右の両端部42e1,42e2に対してそれぞれセンサー52,52を設けていれば、キャリッジ42の往路パス(例えば5パス目)の右端部42e1のセンサー52が未検出でも、次にヘッド31が異常部分を通過する時点よりも前に、左端部42e2のセンサー52は異常部分を二度通過する。すなわち、前述の往路パス(5パス目)においてヘッド31が通過した直後に、同じ往路パス(5パス目)において左端部42e2のセンサー52は異常部分を通過し、また、その後の復路パス(6パス目)においては、同左端部42e2のセンサー52は、ヘッド31よりも先に異常部分を通過する。従って、左端部42e2のセンサー52にあっては、これら二度の検出チャンスがあるので、経時変化する膨張量をより逐次的且つ精細に監視可能となり、その結果、当該成長する異常部分とヘッド31との干渉をより確実に防ぐことができる。ちなみに、上述では、往路パスから復路パスへ移行する場合について説明したが、同様のことが復路パスから往路パスへ移行する場合についても言えるのは言うまでもない。
【0076】
また、望ましくは、ロール紙異常部分検出センサー52の作動時、つまり、投光部52aから受光部52bへとレーザー光が投光されている時には、プラテン29に支持されているロール紙2の部位に向けて送風ユニット80が送風するように、同ユニット80をコントローラー60が制御すると良い。そして、このように制御されれば、送風ユニット80の送風によって、プラテン29上のロール紙2の部位の周囲空間の気温分布を一定に保つことができて、結果、レーザー光の屈折状態の安定化を通してセンサー52の検出動作も安定化される。また、送風によって気温分布の温度差も縮小されるので、レーザー光の屈折レベルも小さくなって、このこともセンサー52の検出動作の安定化に寄与する。
ちなみに、この例では、センサー52は、印刷動作時に作動状態となるようにコントローラー60に制御されている旨を前述したが、印刷動作時以外に作動状態になるように制御されても良い。例えば、プリンター1のロール紙2の交換時に行われるロール紙2の紙幅検出動作の際にも、ロール紙異常部分検出センサー52が作動状態になっていても良い。
詳しく説明すると、ロール紙2の交換時には、巻き取りユニット90に新たにセットしたロール紙2を繰り出してプリンター1内に通す通紙動作が行われるが、通常はこれに伴って、ロール紙2の紙幅検出動作も行われる。そして、この紙幅検出動作は、次のような手順でなされる。先ず、少なくともロール紙2がプラテン29上に支持された状態になるまでロール紙2を繰り出し、次に、ホームポジションHPで待機中のキャリッジ42が、搬送方向に沿って印刷領域Rまで移動する。そして、最後に、ヘッド31が紙幅方向に移動しながら、ヘッド31に搭載された不図示の紙幅検出センサーによってロール紙2の紙幅方向の両端部2e,2eを検出し、これにより紙幅検出動作が終了する。そして、この紙幅検出動作中において、ロール紙異常部分検出センサー52を作動状態にしていても良く、その場合には、前述のキャリッジ42が搬送方向に沿って移動する際に、ロール紙異常部分検出センサー52による異常部分の検出動作も同時並行的に行われる。そして、このときには、上述の送風ユニット52の送風も実行されており、当該送風により同センサー52の異常部分の検出動作は安定化される。
【0077】
===その他の実施の形態===
上記の実施の形態は、主として液体吐出装置について記載されているが、液体吐出方法等の開示も含まれている。また、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0078】
上記実施の形態においては、液体吐出装置をインクジェット式プリンターに具体化したが、インク以外の他の液体を吐出や噴射する液体吐出装置を採用してもよく、微小量の液滴を吐出させる液体吐出ヘッド等を備える各種の液体吐出装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体吐出装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体吐出装置が吐出や噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。
【符号の説明】
【0079】
1 プリンター、2 ロール紙、2e 端部、
10 給送ユニット、18 巻軸、29 プラテン、19 中継ぎローラー、
20 搬送ユニット、21 中継ぎローラー、22、中継ぎローラー、
23 第一搬送ローラー、23a 駆動ローラー、23b 従動ローラー、
24 第二搬送ローラー、24a 駆動ローラー、24b 従動ローラー、
25 中継ぎローラー、26 中継ぎローラー、27 中継ぎローラー
28 カール抑え部材、28a 外側部分、28b 内側部分、
29 プラテン、
30 ヘッドユニット、31 ヘッド、
40 キャリッジユニット、41 キャリッジガイドレール、
42 キャリッジ、42e1 右端部、42e2 左端部、
50 検出器群、
52 ロール紙異常部分検出センサー、52a 投光部、52b 受光部、
52c 変換器、
60 コントローラー、61 インターフェース部、62 CPU、63 メモリー、
80 送風ユニット、81 ファン、
90 巻き取りユニット、91 中継ぎローラー、92 巻き取り軸、
110 ホストコンピューター、
HP ホームポジション、R 印刷領域、G 隙間、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面が画像の記録層であり、他方の面が粘着層である記録基材と、前記粘着層を覆う剥離基材とを有するロール紙を、繰り出し搬送する搬送部と、
繰り出された前記ロール紙を支持する支持部と、
前記支持部により支持された前記ロール紙に向けて液体を吐出して前記画像を記録するヘッドと、
前記ロール紙における異常部分を検出する異常部分検出センサーと、を備え、
前記異常部分検出センサーは、前記ロール紙の紙幅方向の一端側に配された投光部と、該投光部から投じられた光を前記紙幅方向の他端側で受けるように配置された受光部と、を有し、
前記投光部と前記受光部とを結ぶ光軸方向は、前記紙幅方向に対して傾いていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記異常部分検出センサーは、前記ロール紙の搬送方向に並んで一対設けられ、
前記一対の異常部分検出センサーは、光の投光方向が互いに逆向きになるように配置されていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体吐出装置であって、
前記搬送部は、前記ロール紙を間欠的に前記搬送方向に繰り出し搬送し、
前記ロール紙の搬送停止中に、前記ヘッドは、前記搬送方向と平行な方向を第1移動方向として移動し、前記紙幅方向を第2移動方向として移動するとともに、前記第1移動方向の移動中に、前記ヘッドは前記ロール紙へ向けて前記液体を吐出し、
前記異常部分検出センサーは、前記ヘッドと連動して前記第1移動方向に移動することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体吐出装置であって、
前記ヘッドは、前記第1移動方向に往復移動し、前記第1移動方向の往復移動の往路及び復路のそれぞれにおいて、前記ヘッドは前記ロール紙に向けて前記液体を吐出し、
前記異常部分検出センサーは、前記第1移動方向における前記ヘッドの両側にそれぞれ設けられており、前記ヘッドと連動して前記第1移動方向に往復移動することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の液体吐出装置であって、
前記支持部に支持された前記ロール紙の部位に向けて送風する送風ユニットを有し、
前記異常部分検出センサーの作動時に、前記送風ユニットは前記ロール紙の部位に向けて送風することを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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【図6】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−35184(P2013−35184A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172046(P2011−172046)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】