説明

液体噴出装置及び液体噴出方法

【課題】 電流増幅回路のトランジスタにおいて消費される電力を抑え、発熱を低減する。
【解決手段】 充電、または、放電することにより動作して、液体を噴出する圧電素子と、前記圧電素子に電流を供給するインダクタと、を備え、前記圧電素子を充電する前に、あらかじめインダクタに電流を流すことでエネルギーを蓄えておき、前記圧電素子を充電する際に、エネルギーを蓄えたインダクタから電流を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴出装置及び液体噴出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子に電圧を印加して駆動することにより液体を噴出させ、記録等を行う液体噴出装置が知られている。液体噴出装置としては、例えば、インクジェットプリンターや染色装置等が一般的であるが、このような液体噴出装置においては、複数の圧電素子を駆動させるために十分な量の電流を供給する必要がある。そのため、NPNトランジスタとPNPトランジスタを相補的に接続した増幅回路によりアナログ信号の電流を増幅することで駆動信号を生成する方法が用いられている(例えば特許文献1)。そして、その駆動信号を圧電素子に印加することで、圧電素子を駆動し、記録を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−63040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような増幅回路で電流増幅を行う場合、圧電素子への充放電の際に電流増幅回路で消費される電力は、電源電位と駆動信号との電位差に電流を乗じた量であり、消費電力が非常に大きくなる。そして、該増幅回路で消費される電力による発熱量も大きくなるため、大型の放熱装置が必要となり、プリンター自体が大型化するといった問題が生じる。
本発明は、電流増幅回路のトランジスタにおいて消費される電力を抑え、発熱を低減することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための主たる発明は、充電、または、放電することにより動作して、液体を噴出する圧電素子と、前記圧電素子に電流を供給するインダクタと、を備え、前記圧電素子を充電する前に、あらかじめインダクタに電流を流すことでエネルギーを蓄えておき、前記圧電素子を充電する際に、エネルギーを蓄えたインダクタから電流を供給することを特徴とする液体噴出装置である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】印刷システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】図2Aは、本実施形態のプリンターの構成を説明する図である。図2Bは、本実施形態のプリンターの構成を説明する側面図である。
【図3】ヘッドの構造を説明するための断面図である。
【図4】図4Aは、駆動信号生成回路(アナログ式)80の構成を示すブロック図である。図4Bは、図4Aの変形例を示す図である。
【図5】第1実施形態における駆動信号生成回路(デジタル式)70の構成を示すブロック図である。
【図6】図6Aは、印刷動作1サイクルにおいて、ピエゾ素子PZTに印加される電圧V及び電流Iの波形を示す図である。図6Bは、印刷動作1サイクルにおいて、インダクタ71に流れる電流Iの波形を示す図である。
【図7A】第1実施形態のSTATE1(充電)における電流の流れを表した図である。
【図7B】第1実施形態のSTATE2(放電)における電流の流れを表した図である。
【図7C】第1実施形態のSTATE3(正充電印加)における電流の流れを表した図である。
【図7D】第1実施形態のSTATE4(正放電印加)における電流の流れを表した図である。
【図7E】第1実施形態のSTATE5(逆充電印加)における電流の流れを表した図である。
【図7F】第1実施形態のSTATE6(逆放電印加)における電流の流れを表した図である。
【図7G】第1実施形態のSTATE7(正電流保持)における電流の流れを表した図である。
【図7H】第1実施形態のSTATE8(逆電流保持)における電流の流れを表した図である。
【図7I】第1実施形態のSTATE9(完全放電)における電流の流れを表した図である。
【図8】第1実施形態における制御フロー図である。
【図9】第2実施形態における駆動信号生成回路(デジタル式)70の構成を示すブロック図である。
【図10】図10Aは、印刷動作1サイクルにおいて、ピエゾ素子PZTに印加される電圧Vの波形を示す図である。図10Bは、印刷動作1サイクルにおいて、ピエゾ素子PZTを流れる電流I及びインダクタ71を流れる電流Iの波形を示す図である。
【図11】第2実施形態における動作フロー図である。
【図12A】第2実施形態のStep1(充電前)における電流の流れを表した図である。
【図12B】第2実施形態のStep2(ピエゾ充電)における電流の流れを表した図である。
【図12C】第2実施形態のStep3(電圧保持)における電流の流れを表した図である。
【図12D】第2実施形態のStep4(ピエゾ放電)における電流の流れを表した図である。
【図12E】第2実施形態のStep5(待機)における電流の流れを表した図である。
【図13A】S−O1の条件で印刷動作を行った場合におけるピエゾ電圧V、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を表した図である。
【図13B】S−O2の条件で印刷動作を行った場合におけるピエゾ電圧V、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を表した図である。
【図14A】S−S1の条件で印刷動作を行った場合におけるピエゾ電圧V、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を表した図である。
【図14B】S−S2の条件で印刷動作を行った場合におけるピエゾ電圧V、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を表した図である。
【図15】第3実施形態における駆動信号生成回路(デジタル式)70の構成を示すブロック図である。
【図16】図16Aは、印刷動作1サイクルにおいて、ピエゾ素子PZTに印加される電圧Vの波形を示す図である。図16Bは、印刷動作1サイクルにおいて、ピエゾ素子PZTを流れる電流I及びインダクタ71を流れる電流Iの波形を示す図である。
【図17】第3実施形態における動作フロー図である。
【図18A】第3実施形態のStep0(印刷開始前)における電流の流れを表した図である。
【図18B】第3実施形態のStep1−a(負荷容量計算)における電流の流れを表した図である。
【図18C】第3実施形態のStep1−b(ピエゾ充電前)における電流の流れを表した図である。
【図18D】第3実施形態のStep1−c(ピエゾ充電前)における電流の流れを表した図である。
【図18E】第3実施形態のStep2−a(ピエゾ充電時)における電流の流れを表した図である。
【図18F】第3実施形態のStep2−b(ピエゾ充電時)における電流の流れを表した図である。
【図18G】第3実施形態のStep3(ピエゾ電圧保持)における電流の流れを表した図である。
【図18H】第3実施形態のStep4(ピエゾ放電時)における電流の流れを表した図である。
【図18I】第3実施形態のStep5(待機)における電流の流れを表した図である。
【図19A】S−O3の条件で印刷動作を行った場合におけるピエゾ電圧V、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を表した図である。
【図19B】S−O4の条件で印刷動作を行った場合におけるピエゾ電圧V、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を表した図である。
【図20A】S−M3の条件で印刷動作を行った場合におけるピエゾ電圧V、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を表した図である。
【図20B】S−M4の条件で印刷動作を行った場合におけるピエゾ電圧V、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0008】
充電、または、放電することにより動作して、液体を噴出する圧電素子と、前記圧電素子に電流を供給するインダクタと、を備え、前記圧電素子を充電する前に、あらかじめインダクタに電流を流すことでエネルギーを蓄えておき、前記圧電素子を充電する際に、エネルギーを蓄えたインダクタから電流を供給することを特徴とする液体噴出装置。
このような液体噴出装置によれば、電流増幅回路のトランジスタにおいて消費される電力を抑えることが可能であり、従来のようにアナログ式の駆動信号生成回路のみを用いてピエゾ素子に充放電を行う場合と比較して、発熱を低減することができる。
【0009】
かかる液体噴出装置であって、前記インダクタにエネルギーを蓄えるために電流を流す時間が、液体を噴出するノズル数が多いほど長く、液体を噴出するノズル数が少ないほど短いことが望ましい。
このような液体噴出装置によれば、ある印刷サイクルにおいて、実際に動作するピエゾ素子に充電する分のみのエネルギーをインダクタに蓄えることで、無駄なエネルギー消費を減少させることができる。
【0010】
かかる液体噴出装置であって、前記圧電素子に電流を供給する充電用トランジスタと、前記圧電素子から電流を放出する放電用トランジスタと、を備え、前記圧電素子を充電する際に、前記インダクタから前記圧電素子に電流を供給し、前記インダクタから供給する電流が所要の電流値より小さい場合は、前記充電用トランジスタから差分の電流を供給し、前記インダクタから供給する電流が所要の電流値より大きい場合は、前記放電用トランジスタから差分の電流を放出することが望ましい。
このような液体噴出装置によれば、デジタル式の駆動信号生成回路で駆動波形を生成する際に過不足となる分の電流を、アナログ式の駆動信号生成回路を用いて補償することで、所望の駆動波形を生成することができ、また、大幅なエネルギー・発熱の低減が可能となる。
【0011】
かかる液体噴出装置であって、前記圧電素子を充電する際に、前記充放電用トランジスタに流れる電流の大きさを、電流値、または、電圧値として検出する検出部と、検出した前記電流の大きさを判定して、前記インダクタに流れる電流の大きさを調節する制御部と、を備えることが望ましい。
このような液体噴出装置によれば、インダクタに流れる電流の波形を精度よく制御することができ、ピエゾ素子PZTをより正確に動作させることができる。
【0012】
かかる液体噴出装置であって、前記充電用トランジスタを介して前記圧電素子に充電を行う第1の電源と、前記第1の電源よりも低い電位を有し、前記放電用トランジスタを介して前記圧電素子から放電を行う第2の電源とを備え、前記圧電素子の充電を開始する際に、前記圧電素子に印加する電圧の大きさが、前記第1の電源の電圧よりも前記第2の電源の電圧に近い場合は、前記インダクタに所要の電流値よりも大きな電流を流しておき、前記放電用トランジスタから余剰分の電流を放出し、前記圧電素子に印加する電圧の大きさが、前記第2の電源の電圧よりも前記第1の電源の電圧に近い場合は、前記インダクタに所要の電流値よりも小さな電流を流しておき、前記充電用トランジスタから不足分の電流を供給することが望ましい。
このような液体噴出装置によれば、充電用トランジスタから不足分電流として補充するか、放電用トランジスタから余剰分電流として放出するか、どちらがトランジスタを流れる電流量が少なくなるかを判定、選択することで発熱を低減することができる。
【0013】
かかる液体噴出装置であって、前記インダクタに流す電流の大きさが、常に一定の範囲内であることが望ましい。
このような液体噴出装置によれば、トランジスタを流れる電流がほとんどないため、非常に大きなエネルギー削減効果・発熱低減効果を得ることができ、また、駆動波形も正確に生成可能となる。
【0014】
かかる液体噴出装置であって、前記インダクタを複数備え、それぞれのインダクタが個別に前記圧電素子への充放電を行うことが望ましい。
このような液体噴出装置によれば、より詳細で複雑な駆動信号が生成可能になり、さらに高精度な印刷を実現することができる。
【0015】
また、駆動信号に基づき充放電される圧電素子により液体を噴出させることと、インダクタから前記圧電素子に電流を供給することと、を有し、前記圧電素子を充電する前に、あらかじめインダクタに電流を流すことでエネルギーを蓄えておき、前記圧電素子を充電する際に、エネルギーを蓄えたインダクタから電流を供給することを特徴とする液体噴出方法が明らかとなる。
【0016】
===液体噴出装置の基本的構成===
発明を実施するための液体噴出装置の形態として、インクジェットプリンター(プリンター1)を例に挙げて説明する。
【0017】
<プリンターの構成>
図1は、プリンター1の全体構成を示すブロック図である。
プリンター1は、紙・布・フィルム等の媒体に文字や画像を記録(印刷)する液体噴出装置であり、外部装置であるコンピューター110と通信可能に接続されている。
【0018】
コンピューター110にはプリンタードライバーがインストールされている。プリンタードライバーは、表示装置(不図示)にユーザーインターフェースを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどの記録媒体(コンピューターが読み取り可能な記録媒体)に記録されている。また、プリンタードライバーはインターネットを介してコンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
コンピューター110はプリンター1に画像を印刷させるため、印刷させる画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。
【0019】
プリンター1は、搬送ユニット20と、キャリッジユニット30と、ヘッドユニット40と、検出器群50と、コントローラー60と、駆動信号生成回路(デジタル式)70と、駆動信号生成回路(アナログ式)80とを有する。コントローラー60は、外部装置であるコンピューター110から受信した印刷データに基づいて各ユニットを制御し、媒体に画像を印刷する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は検出器群50から出力された検出結果に基づいて各ユニットを制御する。
【0020】
<搬送ユニット20>
図2は、本実施形態のプリンター1の構成を表した図である。
搬送ユニット20は、媒体(例えば紙Sなど)を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送させるためのものである。ここで、搬送方向はキャリッジの移動方向と交差する方向である。搬送ユニット20は、給紙ローラー21と、搬送モーター22と、搬送ローラー23と、プラテン24と、排紙ローラー25とを有する(図2A及び図2B)。
給紙ローラー21は、紙挿入口に挿入された紙をプリンター内に給紙するためのローラーである。搬送ローラー23は、給紙ローラー21によって給紙された紙Sを印刷可能な領域まで搬送するローラーであり、搬送モーター22によって駆動される。搬送モーター22の動作はプリンター側のコントローラー60により制御される。プラテン24は、印刷中の紙Sを、紙Sの裏側から支持する部材である。排紙ローラー25は、紙Sをプリンターの外部に排出するローラーであり、印刷可能な領域に対して搬送方向下流側に設けられている。
【0021】
<キャリッジユニット30>
キャリッジユニット30は、ヘッドユニット40が取り付けられたキャリッジ31を所定の方向(以下、移動方向という)に移動(「走査」とも呼ばれる)させるためのものである。キャリッジユニット30は、キャリッジ31と、キャリッジモーター32(CRモータとも言う)とを有する(図2A及び図2B)。
キャリッジ31は、移動方向に往復移動可能であり、キャリッジモーター32によって駆動される。キャリッジモーター32の動作はプリンター側のコントローラー60により制御される。また、キャリッジ31は、インクを収容するインクカートリッジを着脱可能に保持している。
【0022】
<ヘッドユニット40>
ヘッドユニット40は、紙Sにインクを噴出するためのものである。ヘッドユニット40は、複数のノズルを有するヘッド41を備える。このヘッド41はキャリッジ31に設けられ、キャリッジ31が移動方向に移動すると、ヘッド41も移動方向に移動する。そして、ヘッド41が移動方向に移動中にインクを断続的に噴出することによって、移動方向に沿ったドットライン(ラスタライン)が紙に形成される。
【0023】
図3は、ヘッド41の構造を示した断面図である。ヘッド41は、ケース411と、流路ユニット412と、ピエゾ素子群PZTとを有する。ケース411はピエゾ素子群PZTを収納し、ケース411の下面に流路ユニット412が接合されている。流路ユニット412は、流路形成板412aと、弾性板412bと、ノズルプレート412cとを有する。流路形成板412aには、圧力室412dとなる溝部、ノズル連通口412eとなる貫通口、共通インク室412fとなる貫通口、インク供給路412gとなる溝部が形成されている。弾性板412bはピエゾ素子PZTの先端が接合されるアイランド部412hを有する。そして、アイランド部412hの周囲には弾性膜412iによる弾性領域が形成されている。インクカートリッジに貯留されたインクが、共通インク室412fを介して、各ノズルNzに対応した圧力室412dに供給される。ノズルプレート412cはノズルNzが形成されたプレートである。ノズル面では、イエローインクを吐出するイエローノズル列Yと、マゼンタインクを吐出するマゼンタノズル列Mと、シアンインクを吐出するシアンノズル列Cと、ブラックインクを吐出するブラックノズル列Kと、が形成されている。各ノズル列では、ノズルNzが搬送方向に所定間隔Dにて並ぶことによって構成されている。
【0024】
ピエゾ素子群PZTは、櫛歯状の複数のピエゾ素子(駆動素子)を有し、ノズルNzに対応する数分だけ設けられている。ヘッド制御部HCなどが実装された配線基板(不図示)によって、ピエゾ素子に駆動信号COMが印加され、駆動信号COMの電位に応じてピエゾ素子は上下方向に伸縮する。ピエゾ素子PZTが伸縮すると、アイランド部412hは圧力室412d側に押されたり、反対方向に引かれたりする。このとき、アイランド部412h周辺の弾性膜412iが変形し、圧力室412d内の圧力が上昇・下降することにより、ノズルからインク滴が吐出される。
【0025】
<検出器群50>
検出器群50は、プリンター1の状況を監視するためのものである。検出器群50には、リニア式エンコーダ51、ロータリー式エンコーダ52、紙検出センサ53、及び光学センサ54等が含まれる(図2A及び図2B)。
リニア式エンコーダ51は、キャリッジ31の移動方向の位置を検出する。ロータリー式エンコーダ52は、搬送ローラー23の回転量を検出する。紙検出センサ53は、給紙中の紙Sの先端の位置を検出する。光学センサ54は、キャリッジ31に取付けられている発光部と受光部により、対向する位置の紙Sの有無を検出し、例えば、移動しながら紙の端部の位置を検出し、紙の幅を検出することができる。また、光学センサ54は、状況に応じて、紙Sの先端(搬送方向下流側の端部であり、上端ともいう)・後端(搬送方向上流側の端部であり、下端ともいう)も検出できる。
【0026】
<コントローラー60>
コントローラー60は、プリンターの制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラー60は、インターフェース部61と、負荷カウンター62と、CPU63と、メモリ64と、ユニット制御回路65と、プリドライバ66とを有する。
【0027】
インターフェース部61は、外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行う。負荷カウンター62は、コンピューター110で作成された画素データから、ある印刷サイクル(ピエゾ素子PZTがインクを1回噴出するために行われる動作サイクル)において、インクを噴出するノズルの数を集計し、CPU63に負荷データとして送信する。ここで、画素データとは、画像を構成する単位要素の印刷データであり、例えば、紙S上に形成されるドットの階調値などである。送信された負荷データは、CPU63で負荷容量として算出され、後述するインダクタへの電流印加時間決定のために用いられる。CPU63は、プリンター1の全体の制御を行うための演算処理装置である。なお、より高速な演算を行う為にCPUの代わりにDSP(Digital Signal Processor)を用いてもよい。メモリ64は、CPU63のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子によって構成される。そして、CPU63は、メモリ64に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路65を介して搬送ユニット20等の各ユニットを制御したり、プリドライバ66を介して、後述する駆動信号生成回路(デジタル式)70の各スイッチ(MOSFET)のON/OFFを制御したりする。
また、CPU63は、駆動信号COMを生成するためのデジタル制御信号を駆動信号生成回路(アナログ式)80に出力する。なお、この制御信号はDAC値と呼ばれ、駆動信号COMの波形を定めるための波形情報に相当する。
【0028】
<駆動信号生成回路(アナログ式)80について>
図4Aは、本実施形態における駆動信号生成回路(アナログ式)80の構成を示すブロック図である。駆動信号生成回路(アナログ式)80は、ピエゾ素子PZTを伸縮させてインクを噴出するための駆動信号COMを生成する。従来はこのような回路により生成された駆動信号のみにより印刷を行うことが一般的であった。図4Aに示すように、駆動信号生成回路(アナログ式)80は、波形生成回路81と、電流増幅回路82と、コンパレーター83と、抵抗84と、差動前段増幅回路86と、を有する。以下、駆動信号生成回路(アナログ式)80のことを単純にアナログ回路80ともいう。
【0029】
波形生成回路81は、CPU63から送られてくるDAC値から駆動信号COMの基となる電圧変化パターンであるアナログ波形信号COM´を生成する。波形生成回路81は、DAC回路811とプリアンプ812とから構成される。DAC回路811は、デジタルデータであるDAC値(波形情報)に対応するアナログ波形信号を出力し、プリアンプ812は、DAC回路811から出力されたアナログ波形信号を調整し、COM´として電流増幅回路82へ入力する。すなわち、波形生成回路81は、ピエゾ素子PZTの動作を定めるアナログ信号を生成するアナログ信号生成部に相当する。
【0030】
電流増幅回路82は、波形生成回路81で生成された電圧波形信号であるCOM´の入力を受けて、その電流を増幅し、駆動信号COMとして出力する。電流増幅回路82は、相補的に接続されたNPN型トランジスタ821と、PNP型トランジスタ822とによって構成される。
【0031】
NPN型トランジスタ821は、電圧波形信号COM´の電圧上昇時に作用し、COM´の電流を増幅して主電源たる第1の電源からピエゾ素子PZTへ充電する。すなわち、NPN型トランジスタ821は、ピエゾ素子PZTの充電時に動作する充電用トランジスタである。NPN型トランジスタ821のエミッタは駆動信号COMの供給線に接続され、ベースは電圧波形信号COM´の供給線に接続され、コレクタは第1の電源に接続される。以下、第1の電源は、便宜上、主電源Vddとする。
【0032】
一方、PNP型トランジスタ822は、電圧波形信号COM´の電圧下降時に作用し、COM´の電流を増幅してピエゾ素子PZTに充電されていた電荷を、第1の電源よりも低い電位を有する第2の電源へと放出する。すなわち、PNP型トランジスタ822は、ピエゾ素子PZTの放電時に動作する放電用トランジスタである。PNP型トランジスタ822のエミッタは駆動信号COMの供給線に接続され、ベースは電圧波形信号COM´の供給線に接続され、コレクタは第2の電源に接続される。以下、第2の電源は、便宜上、グランドとする。
【0033】
なお、本実施形態では、電流増幅回路82と、波形生成回路81との間に、該電流増幅回路82の出力電圧をフィードバックして、波形生成回路81の出力に対して一定の電圧増幅率で追従させるために、差動前段増幅回路86が設けられている。
【0034】
コンパレーター83A、抵抗84A、及び、コンパレーター83B、抵抗84Bは、ピエゾ素子PZTの充放電時に、トランジスタ821、822を流れる電流の大きさを検出し、判定するために設けられる。具体的には、所定のレファレンス電圧をコンパレーターのマイナス側入力に設定しておき、一方、トランジスタに流れる電流が抵抗84A、84Bを通過する際に発生する電位差を、コンパレーターのプラス側端子に入力し、両者を比較することで、トランジスタに流れる電流の大きさが所定の範囲内に入っているか否かを判定する。コンパレーターが作動した場合は、想定していた値よりも大きな電流がトランジスタに流れているということなので、インダクタに電流を流す時間(印加時間)の補正を行うことで、インダクタ電流Iの波形(図6B参照)を調節する。これにより、Iの波形の精度を保ち、正確な駆動波形を生成することによって、ピエゾ素子PZTを正確に動作させることが可能となる。詳細は後で説明する。
【0035】
充電時の電流を検出するために、NPN型トランジスタ821のコレクタ端子にコンパレーター83A、及び、抵抗84Aが接続され、放電時の電流を検出するために、PNP型トランジスタ822のコレクタ端子にコンパレーター83B、及び、抵抗84Bが接続される。なお、該部分における電流を検出する必要がない場合には、必ずしもコンパレーター83、及び、抵抗84を設けなくてもよい。
コンパレーター83A・83Bの代わりに、A/Dコンバーターを設けることにより、該部分にかかる電圧をデジタル値として検出する方法も考えられる。しかし、この方法の場合、A/Dコンバーター自体のコストが高いことや、検出された電圧の大きさに対して、別途の判定手段を設ける必要が生じるため、上述のようにコンパレーターを用いた方が、より簡便であり、コスト面でも有利である。
一方、図4Bに示すように、コンパレーター83、及び、抵抗84に替えて、抵抗84が設けられていた位置に、電流計85を設けてもよい。この方法によれば、トランジスタに流れる電流の変動を直接検出することが可能になるため、インダクタ電流Iの補正をより詳細に行うことができる。
【0036】
<プリンターの印刷動作>
プリンター1の印刷動作について簡単に説明する。コントローラー60は、コンピューター110からインターフェース部61を介して印刷命令を受信し、各ユニットを制御することにより、給紙処理・ドット形成処理・搬送処理等を行う。
【0037】
給紙処理は、印刷すべき紙をプリンター内に供給し、印刷開始位置(頭出し位置とも言う)に紙を位置決めする処理である。コントローラー60は、給紙ローラー21を回転させ、印刷すべき紙を搬送ローラー23まで送る。続いて、搬送ローラー23を回転させ、給紙ローラー21から送られてきた紙を印刷開始位置に位置決めする。
【0038】
ドット形成処理は、移動方向(走査方向)に沿って移動するヘッドからインクを断続的に噴出させ、紙上にドットを形成する処理である。コントローラー60は、キャリッジ31を移動方向に移動させ、キャリッジ31が移動している間に、印刷データに基づいてヘッド41からインクを噴出させる。噴出されたインク滴が紙上に着弾すると、紙上にドットが形成され、紙上には移動方向に沿った複数のドットからなるドットラインが形成される。
【0039】
搬送処理は、紙をヘッドに対して搬送方向に沿って相対的に移動させる処理である。コントローラー60は、搬送ローラー23を回転させて紙を搬送方向に搬送する。この搬送処理により、ヘッド41は、先ほどのドット形成処理によって形成されたドットの位置とは異なる位置に、ドットを形成することが可能になる。
【0040】
コントローラー60は、印刷すべきデータがなくなるまで、ドット形成処理と搬送処理とを交互に繰り返し、ドットラインにより構成される画像を徐々に紙に印刷する。そして、印刷すべきデータがなくなると、排紙ローラーを回転させてその紙を排紙する。なお、排紙を行うか否かの判断は、印刷データに含まれる排紙コマンドに基づいても良い。
次の紙に印刷を行う場合は同処理を繰り返し、行わない場合は、印刷動作を終了する。
【0041】
===第1実施形態===
<駆動信号生成回路(デジタル式)70について>
図5に、第1実施形態における駆動信号生成回路(デジタル式)70の構成を示す。
本実施形態における駆動信号生成回路(デジタル式)70は、ピエゾ素子PZTを駆動するための充放電を、前述のアナログ回路80とは別に、インダクタを用いることによって行う。駆動信号生成回路(デジタル式)70は、インダクタ71と、入力側回路72と、出力側回路73とから構成される。以下、駆動信号生成回路(デジタル式)70のことを単純にデジタル回路70ともいう。
【0042】
<インダクタ71>
インダクタ71は、あらかじめ電流を流すことにより電磁エネルギーとしてエネルギーを蓄え、ピエゾ素子PTZへの充電時には電流源として、また、ピエゾ素子PTZの放電時には放電先として機能する。
インダクタ71の両端はそれぞれ入力側回路72及び出力側回路73に接続される。インダクタ71にエネルギーを蓄える際には入力側回路72を介して主電源Vddからインダクタ71へと電流が流れ、蓄えたエネルギーは出力側回路73を介してピエゾ素子PZTに電流として供給されることで、ピエゾ素子PZTの充電を行う。そして、ピエゾ素子PZTの放電時には、入力側回路72を介してインダクタ71へと電流が流れ、出力側回路73を介してグランドに放電、または主電源Vddに電流が回生される。回路全体の動作の詳細については後で説明する。
【0043】
<入力側回路72>
入力側回路72は、インダクタ71の入力側に、主電源Vddの電圧またはグランド電圧を選択的に印加したり、ピエゾ素子PZTから放電された電流をインダクタ71に印加したりするために用いられる。入力側回路72は、MOSFET(P型)721と、MOSFET(N型)722と、MOSFET(N型)723と、ダイオード724とから構成される。
【0044】
MOSFET(P型)721は、主電源Vddとインダクタ71との間のスイッチ素子であり、ソースは主電源Vddに、ドレインはインダクタ71とMOSFET723との間に接続される。一方、MOSFET(N型)722は、グランドとインダクタ71との間のスイッチ素子であり、ソースはグランドに、ドレインはインダクタ71とMOSFET723との間に接続される。MOSFET(P型)721及びMOSFET(N型)722は、対となって機能するスイッチであり、プリドライバ66を介してCPU63から伝達される信号によりON/OFF制御されることで、インダクタ71の入力側に、主電源Vddの電圧またはグランド電圧を選択的に印加する。したがって、本実施形態においてMOSFET(P型)721及びMOSFET(N型)722が同時にON状態になる場合はない(同時にOFF状態になる場合はある)。これにより、インダクタ71への電流印加や、ピエゾ素子PZTの充放電等をコントロールすることができる。ON/OFF制御の詳細については後で説明する。
【0045】
MOSFET(N型)723は、ピエゾ素子PZTからインダクタ71に放電する際に使用されるスイッチ素子であり、ソースはインダクタ71の入力側に、ドレインはダイオード724を介してピエゾ素子PZTに接続される。スイッチとして使用する際のON/OFF制御はCPU63によって行う。
ダイオード724は、入力側回路72に流れる電流をピエゾ素子PZT及びアナログ回路80側からインダクタ71の方向へと制限し、逆方向の電流が流れないようにするために設けられる。
【0046】
<出力側回路73>
出力側回路73は、インダクタ71の出力側に、主電源Vddの電圧またはグランド電圧を選択的に印加したり、ピエゾ素子PZTを充電するための電流をインダクタ71から印加したりするために用いられる。出力側回路73は、MOSFET(P型)731と、MOSFET(N型)732と、MOSFET(P型)733と、ダイオード734と、ダイオード735とから構成される。
【0047】
MOSFET(P型)731は、主電源Vddとインダクタ71との間のスイッチ素子であり、ソースは主電源Vddに、ドレインはインダクタ71とMOSFET733との間に接続される。一方、MOSFET(N型)732は、グランドとインダクタ71との間のスイッチ素子であり、ソースはグランドに、ドレインはインダクタ71とMOSFET733との間に接続される。MOSFET(P型)731及びMOSFET(N型)732は、前述のMOSFET(P型)721及びMOSFET(N型)722と同様に、対となって機能するスイッチであり、プリドライバ66を介してCPU63から伝達される信号によりON/OFF制御されることで、インダクタ71の出力側に、主電源Vddの電圧またはグランド電圧を選択的に印加する。
MOSFET(P型)733は、インダクタ71からピエゾ素子PZTに充電する際に使用されるスイッチ素子であり、ソースはインダクタ71の出力側に、ドレインはダイオード734を介してピエゾ素子PZTに接続される。スイッチとして使用する際のON/OFF制御はCPU63によって行う。
【0048】
ダイオード734は、出力側回路73の電流をインダクタ71からピエゾ素子PZT及びアナログ回路80の方向へと制限し、逆方向の電流が流れないようにするために設けられる。
ダイオード735は、インダクタ71に蓄えられたエネルギーを完全放電する際(後述のSTATE9)に、主電源Vddへと回生させる方向に電流を流すために設けられる。
【0049】
<駆動信号生成回路(デジタル式)70の動作説明>
まず、印刷動作1サイクル(ピエゾ素子PZTがインクを1回噴出するために行われる動作サイクル)において、インダクタ71に流れる電流の波形について説明する。
【0050】
図6Aに、印刷動作1サイクルにおいて、ピエゾ素子PZTに印加される電圧V及び電流Iの波形の例を示す。Vの波形は駆動波形COMに相当し、セグメント1〜3の3つの部分から構成される。セグメント1は1サイクルのうちある一定の期間における波形部分であり、同様に、セグメント2及びセグメント3も、印刷動作1サイクル中の一定期間における波形部分である。プリンター1は、各セグメントにおける波形(パルス波形)の形状を変化させて組み合わせることで、ピエゾ素子PZTの伸縮の大きさを段階的に変えて、噴出されるインク液滴の大きさを調整することができる。
【0051】
本実施形態では、ピエゾ素子PZTを駆動させる駆動信号COMを、デジタル回路70を用いて生成することを特徴としている。図6Bに、印刷動作1サイクルにおいて、インダクタ71に流れる電流Iの波形を示す。前述のように、本実施形態では、インダクタ71にあらかじめ電流を流すことによってエネルギーを蓄えておき、ピエゾ素子PZTを充電するための電流源としていることから、Iの波形を制御することで、Iの波形も制御することができる。しかし、Iの波形をIに示すような一定の電流値からなる波形(矩形波)にすることは難しく、各セグメントにおけるIの波形は図6Bに示されるような“のこぎり波”となる。これは、短期間に各スイッチのON/OFFを切り替えながらピエゾ素子PZTへの電流印加を繰り返すためであるが、狙いの電流値に対する過不足分の電流をアナログ回路80から補償することにより、“のこぎりの刃”の部分を平滑化することができる。詳細は後述する。
【0052】
の波形は、前述のスイッチ素子であるMOSFET721〜723、731〜733の各個についてON/OFFを随時切り替えることで、デジタル回路70内に9通りの電流の流れを形成する(以後、この各状態をSTATEと呼ぶ)。図6Bの破線で区切られた領域がそれぞれSTATE1〜9を表し、各STATEを組み合わせることで電流波形Iが生成される。表1は、各STATEにおいてONとなるスイッチを○印で表したものである。以下、各STATEについて説明する。
【0053】

【0054】
STATE1(充電)では、入力側のスイッチ素子であるMOSFET721と出力側のスイッチ素子であるMOSFET732がONになるため(表1)、主電源Vddからの電流がMOSFET721を介してインダクタ71へ、そして、MOSFET732を介してグランドへと流れる(図7A)。これにより、電流がインダクタ71を流れ、インダクタ71には電磁エネルギーが蓄えられる。
STATE2(放電)では、グランドから入力側のスイッチ素子であるMOSFET722を介してインダクタ71へ、そして、出力側のスイッチ素子であるMOSFET731を介して主電源Vddへと電流が流れる(図7B)。電流はインダクタ71の入力側から出力側へと流れるが、これは、電位が低い側(グランド)から電位が高い側(主電源Vdd)へと向かう流れとなるため、インダクタ71のエネルギーは徐々に減少(放電)していき、図6Bに示されるように電流Iは弱くなっていく。
【0055】
STATE3(正充電印加)では、主電源Vddから入力側のスイッチ素子であるMOSFET721を介してインダクタ71へ、そして、出力側のスイッチ素子であるMOSFET733及びダイオード734を介してピエゾ素子PZTへと電流が流れる(図7C)。これにより、インダクタ71に蓄えられていた電磁エネルギーが電流としてピエゾ素子PZTに印加される。同時にインダクタ71にもさらにエネルギーが蓄えられ、図6Bに示されるように電流Iは強くなっていく。
STATE4(正放電印加)では、グランドから入力側のスイッチ素子であるMOSFET722を介してインダクタ71へ、そして、出力側のスイッチ素子であるMOSFET733及びダイオード734を介してピエゾ素子PZTへと電流が流れる(図7D)。これにより、インダクタ71に蓄えられていた電磁エネルギーが電流としてピエゾ素子PZTに印加される。一方、電位が低い側(グランド)から高い側(インダクタ71)へ電流を流そうとするため、インダクタ71のエネルギーは徐々に減少していき、電流Iは弱くなっていく。
【0056】
STATE5(逆充電印加)では、ピエゾ素子PZTから入力側のダイオード724及びMOSFET723を介してインダクタ71へ、そして、出力側のスイッチ素子であるMOSFET732を介してグランドへと電流が流れる(図7E)。これにより、ピエゾ素子PZTに蓄えられた電荷は、インダクタ71を通りグランドへ放電される。この際、インダクタ71にも一部エネルギーが蓄えられ、図6Bに示されるように電流Iは強くなっていく。
STATE6(逆放電印加)では、ピエゾ素子PZTから入力側のダイオード724及びMOSFET723を介してインダクタ71へ、そして、出力側のスイッチ素子であるMOSFET731を介して主電源Vddへと電流が流れる(図7F)。これにより、ピエゾ素子PZTに蓄えられた電荷は、インダクタ71を通り主電源へと回生される。この際、電位が低い側(ピエゾ素子PZT)から高い側(主電源Vdd)へ電流を流そうとするため、インダクタ71のエネルギーは徐々に減少していき、電流Iは弱くなっていく。
【0057】
STATE7(正電流保持)では、インダクタ71の両端に、それぞれ、入力側のスイッチ素子であるMOSFET721と、出力側のスイッチ素子であるMOSFET731を介して主電源Vddの電位が等しく印加されるため(図7G)、電流Iはこの間で保持される。
STATE8(逆電流保持)では、インダクタ71の両端に、それぞれ、入力側のスイッチ素子であるMOSFET722と、出力側のスイッチ素子であるMOSFET732を介してグランドの電位が等しく印加されるため(図7H)、電流Iはこの間で保持される。
【0058】
STATE9(完全放電)では、インダクタ71の入力側にスイッチ素子であるMOSFET722を介してグランドの電位が印加され、出力側のダイオード735を介して主電源Vddの電位が印加される。電流Iは電位の低い方から高い方へと流れようとするため(図7I)インダクタ71のエネルギーは減少していき、最終的には完全に放電される。
【0059】
<制御方法について>
次に、駆動波形生成のための制御方法について説明する。図8は印刷動作1サイクルにおける波形I生成のためにコントローラー60が行う制御フローである。
【0060】
負荷容量計算(S101)は、次に説明する予備充電期間を算出するために、印刷開始直後に行われる処理である。ここで、負荷容量とは、印刷動作1サイクルにおける使用ノズル数にノズルあたりの容量を乗じた数で表される。具体的には、まず、各印刷サイクルの開始時に、負荷カウンター62がコンピューター110で作成された画素データから、その印刷サイクルにおいて使用されるノズル数(インクを噴出するノズル数)を集計して負荷データを作成する。そして、CPU63によって、該負荷データとノズルあたり容量を乗じることで算出される。
なお、本実施形態では、負荷カウンター62を、コントローラー60内にハードウェアとして備えているが、印刷時のノズル負荷を集計できる機能を有するものであれば、別途装置を設けずにソフトウェアーとしてメモリ64に記憶させておき、CPU63で全て処理する方法でも良い。
【0061】
予備充電期間計算(S102)は、図6Bの各セグメント開始の際に、STATE1の充電(またはSTATE2の放電)を開始するタイミング及び充電(放電)期間を決定するための処理である。
予備充電期間は、遷移時間tとスイッチング時間tswとの和から算出される。遷移時間tとは、各STATEの持続時間であり、図6Bにおいては破線で区切られた各STATEの幅で表される。遷移時間tを算出するための式を数式(1)に示す。
【数1】

【0062】
ここで、数式(1)中のkは数式(2)によって定まる係数である。
【数2】

【0063】
数式(1)及び(2)で、Rは充放電時における回路全体でのエネルギー損失と等価となる抵抗値を、Lはインダクタ71の自己インダクタンスを表す。Vgapはインダクタの両端の電位差を表し、印刷開始時であれば主電源電圧Vddとなる。Vslopeはピエゾ素子に印加される電圧Vcの勾配を表す。ILTはインダクタに流すべき所要の電流値(狙い値)であり、前述の負荷容量に電圧勾配Vslopeの絶対値を乗じた値によって定まる。Iは現在インダクタを流れる電流の値である。
【0064】
これらのパラメータからtを算出することで、各セグメントにおいて、インダクタに電流を流す予備充電時間を適当に決定することができる。これによって、ピエゾ素子PZTに充電するためのエネルギーを、過不足なくインダクタに蓄えることができるようになり、無駄なエネルギー消費や、プリンターの発熱を防止するという課題の解決に資する。
【0065】
また、数式(1)より、インダクタの狙いの電流値ILTが大きければ、遷移時間tの値も大きくなり、逆に、ILTが小さければ、tの値も小さくなる。上述の通り、ILTは負荷容量に電圧勾配の絶対値を乗じた数で表されることから、遷移時間tは負荷容量の大きさに影響されることになる。すなわち、インダクタにエネルギーを蓄えるために電流を流す時間は、その印刷サイクルにおける負荷容量が大きいほど長く、負荷容量が小さいほど短くなる。ここで、負荷容量は、ある印刷サイクル中に液体を噴出するノズル数にノズルあたりの容量を乗じた値であることから、遷移時間tは、液体を噴出するノズル数が多いほど長く、液体を噴出するノズル数が少ないほど短くなるとも言うことができる。このように、実際に液体を噴出するノズルの数(駆動するピエゾ素子の数)を考慮することで、インダクタに電流を流す時間をさらに正確に制御することができる。
【0066】
スイッチング時間tswはMOSFETをON/OFF制御する際の損失時間である。例えば、セグメント1の予備充電時間(STATE1の幅)は、遷移時間が約100ns、スイッチング時間が約50ns、合計で150ns(ナノ秒)程度であり、スイッチングによる損失時間も無視できない程度の大きさを有する。
【0067】
予備充電期間計算(S102)では、駆動波形COMを生成するために、アナログ回路80とデジタル回路70を組み合わせて使用するか、それともアナログ回路80のみを使用してデジタル回路70を使用しないかの判断も行う。つまり、ピエゾ素子PZTを駆動するためにインダクタ71を使用するか否かの判断を行う。詳細は後述する。
【0068】
印加極性判定(S104A〜C)は、ピエゾ素子PZTに充放電する際に、正充電印加(STATE3)をするか、若しくは正放電印加(STATE4)をするかを判定する処理である。また、逆充電印加(STATE5)か、逆放電印加(STATE6)かの判定も行う。
【0069】
具体的な判定方法を説明する。まず、各セグメントにおける電圧Vの勾配(図6A)の正負を判定し、正ならSTATE3またはSTATE4、負ならSTATE5またはSTATE6を選択する。例えば、セグメント1では、Vの電圧勾配が正であるため(図6A)、ピエゾ素子PZTへの充放電はSTATE3またはSTATE4を選択する(図6B)。
【0070】
次に、ピエゾ電圧Vが主電源Vdd(第1の電源)とグランド(第2の電源)のいずれかの電圧に近いかを判定し、次の状態がSTATE3(STATE5)になるか、またはSTATE4(STATE6)になるかを決定する。すなわち、本実施形態においては、主電源電圧であるVdd(V)とグランド電圧である0(V)との中間電圧であるVdd/2(V)と、ピエゾ電圧Vとの大きさを比較することで、電流の印加方法を決定している。
【0071】
ピエゾ電圧Vの大きさを判断基準としているのは、図6Bの各セグメントにおいて“のこぎり波”となる部分を平滑にするためにアナログ回路80から過不足分の電流を補償する際に(この電流補償についての詳細は後述する)、電流増幅回路82の充電用トランジスタ821または放電用トランジスタ822を流れる電流を極力少なくするためである。トランジスタにおける消費エネルギーは、トランジスタを流れる電流及び電圧を乗じた値であることから、同じ大きさの電流を流す場合、電位差が小さいほうが、消費エネルギーも小さくなる。つまり、ピエゾ素子PZTに流れる電流の過不足分を、充電用トランジスタ821を介して不足分電流として主電源Vddから充電する場合と、同じ量の電流を放電用トランジスタ822を介して余剰分電流としてグランドに放出する場合とで、どちらの消費エネルギーが少なくなるかを判断するのである。
【0072】
各セグメント開始時における判定方法について、具体例を用いて説明する。
本実施形態において、主電源Vdd=42Vであるとき、セグメント1の開始時の電圧VCO1は12Vであり(図6A)、VCO1(=12V)<Vdd/2(=21V)となる。狙いの電流値ILT1に対して、アナログ回路80の充放電用トランジスタを介して過不足分の電流を補償しようとする場合、電流値をZとすると、充電用トランジスタ821を介して主電源Vddから不足分電流として充電するならば、(Vdd−VCO1)Z=(42−12)Z=30Zのエネルギーを消費する。一方、放電用トランジスタ822を介してグランドへ余剰分電流として放電するならば、(VCO1−0)Z=(12−0)Z=12Zのエネルギーを消費する。
つまり、充電時においてV<Vdd/2の場合は、所定の電流値ILTよりも大きめのインダクタ電流Iを流しておき、放電用トランジスタ822からグランドに放電したほうが、トランジスタで消費されるエネルギーが少なくなり、発熱を低減することができる。したがって、セグメント1の開始時(充電時)においては、所要の電流値ILT1より大きめの電流ILO1を最初に流しておき、STATE4の正放電印加を行ってインダクタ電流Iを減少させつつ、余剰分の電流をトランジスタ822から放出している(図6B)。
【0073】
次に、セグメント2の開始時について考えると、ピエゾ電圧VCO2=40Vであるから、Vdd/2(=21V)<VCO2(=40V)となる。上述と同様に、補償電流値をZとすると、充電用トランジスタ821を介して不足分電流として主電源Vddから充電するならば、(Vdd−VCO2)Z=(42−40)Z=2Zのエネルギー消費となる。一方、放電用トランジスタ822を介してグランドへ余剰分電流として放電するならば、(VCO1−0)Z=(40−0)Z=40Zのエネルギーを消費する。
つまり、放電時においてVdd/2<Vの場合は、所定の電流値ILTよりも大きめのインダクタ電流Iを流しておき、充電用トランジスタ821から不足分の電流を供給したほうが、トランジスタで消費されるエネルギーが少なくなり、発熱を低減することができる。したがって、この場合(放電時)は、所要の電流値ILT2より大きめの電流ILO2を最初に流しておき、STATE6の逆放電印加を行ってインダクタ電流Iを減少させつつ、トランジスタ821からピエゾ素子に充電している(図6B)。
【0074】
印加時間計算(S105)は、各STATEにおける電流印加時間を算出する処理である。ここで、印加時間は各STATEの遷移時間に等しい。本実施形態において、印加時間は、充放電により電流Iが増減していく間に、Iと狙いの電流値ILTとの差が、最小誤差として設定した値に達するまでの時間を予測計算した値である。
例えば、図6Bにおいて、セグメント1で狙いの電流値ILT1に対して、最小誤差1Aとすると、Iの値がILT1±1Aとなる範囲でSTATE3とSTATE4を切り替える時間が印加時間となる。つまり、狙いの電流値ILTを基準として電流値Iの増減によってフィードバック制御をするのではなく、あらかじめ予測計算した時間を基準として制御を行う(予測制御)。これにより、各STATEの切り替えごとにフィードバック制御をする場合よりもCPU(DSP)63にかかる負荷が軽くなり、高速の印刷にも対応可能となる。
【0075】
一方、このような予測制御だけでは、Iが想定の値から大きくずれていった場合に、ずれを修正することができない。上述の予測計算により算出された印加時間が、実際に電流を印加すべき時間よりもずれていた場合には、最小誤差である1A以上の電流が印加されることになり、インダクタ電流Iは狙いの電流値ILTから徐々にずれていってしまうことになる。これに対して、電流値I自体にはフィードバックをかけることができないからである。なお、この印加時間の計算のずれは、各機器の印刷開始時における温度(熱)の影響や、プリンターごとの個体差により生じることが考えられる。
【0076】
しかし、Iに想定よりも大きなずれが生じた場合には、ずれた分の電流をアナログ回路80側から補償するために、充放電用トランジスタ821、822にも、より大きな電流が流れることになる。したがって、トランジスタ821、822の電流検出機構として設けられたコンパレーター83により、トランジスタを流れる電流の大きさを監視することで、Iのずれを検出することができる。トランジスタに流れる電流値が想定値を超えると、コンパレーター83の出力電圧が最大値に切り替わるので、この出力値が切り替わるタイミングを計測しておく。そして、数式1の等価抵抗Rを補正することにより、適正な印加時間を算出しなおして、次回以降の電流印加を正常な状態に修正する。コントローラー60により、このようなキャリブレーションを行うことで、本実施形態においては、Iを適正な波形に保つことができる。
【0077】
その後、決定された印加時間にしたがって電流が印加され(S106)、印加極性判定(S104)と印加時間計算(S105)及び電流印加(S106)を繰り返すことで、1セグメントが構成される。1セグメントが終了すると、次のセグメント開始のための予備充電期間計算(S102)に移行する。本実施形態では、この動作を3セグメント繰り返すことで、1サイクルの印刷動作を完了する。
【0078】
<本実施形態の効果>
本実施形態による効果を説明するために、まず、比較例としてアナログ回路80のみにより、駆動信号COMを生成する場合について考える。前述の通り、アナログ回路80では、駆動波形生成回路81により生成されたアナログ信号を充放電用のトランジスタで増幅することによって駆動信号COMを生成する。この場合、電流増幅時にトランジスタを流れる電流は、エネルギーとして消費され、発熱の原因となっていた。
【0079】
これに対して、本実施形態では、まず、デジタル回路70のインダクタ71において、大まかな電流波形Iを生成する。しかし、インダクタ電流Iは、前述の通り、所定の電流値ILTに対してILT±n(nは最小誤差)の範囲で増減するように制御されるため、Iの波形は図6AのIのような“矩形波”にはならず、図6Bに表されるような“のこぎり”波となる。そのため、インダクタ電流Iだけでは図6AのVで表されるような台形波である駆動信号COMを生成することが難しく、ピエゾ素子PZTを正確に駆動させることができないという問題がある。
【0080】
そこで、本実施形態では、要求される電流値ILTに対する過不足分をアナログ回路80を用いて補うという方法をとっている。例えば、図6Bの斜線部分αに示されるように、インダクタ電流Iが所要の電流値ILTよりも大きい場合には、その余剰分をアナログ回路80の放電用トランジスタ822を介してグランドに放出することで、所要の電流値ILTを得ている。逆に、図6Bの縦線部分βに示されるように、インダクタ電流IがILTよりも小さい場合には、その不足分をアナログ回路80の充電用トランジスタ821を介して主電源Vddから補充することで、所要の電流値ILTを得る。
すなわち、インダクタ電流Iの波形の“のこぎりの刃”に該当する部分と、電流の狙い値ILTとの差分を、アナログ回路80を用いて補償することで、平滑化している。
【0081】
その結果、Iはピエゾ素子PZTに印加される時点では矩形波となり、所望の駆動波形Vを生成することができ、良好な印刷が可能となる。そして、充放電用トランジスタ821及び822を流れる電流は、上述の差分だけとなることから、比較例のようにアナログ回路80のみによって駆動信号を生成する場合よりも大幅にエネルギー消費量が少なくなる。したがって、課題となっていたトランジスタでの発熱を抑えることが可能になり、大規模な冷却装置によるプリンターの大型化といった問題も解消される。
【0082】
また、一つのインダクタ71で、ピエゾ素子PZTの充放電を行うのではなく、複数のインダクタによってピエゾ素子の充放電を行ってもよい。
例えば、ピエゾ素子PZTに対して、デジタル回路70を並列に並べる構成とすれば、一方のデジタル回路のインダクタからピエゾ素子PZTに充電している間に、他方のデジタル回路のインダクタに主電源Vddからエネルギーを蓄えるといった制御も可能となる。これにより、より詳細で複雑な駆動信号が生成可能になるため、ノズルから液体を噴出する量などを細かく設定することで、さらに高精度の印刷を実現し得る。
【0083】
ただし、常にアナログ回路80とデジタル回路70を組み合わせてピエゾ駆動信号を生成し、印刷を行うわけではない。上述の場合、インダクタ71の電流不足分をアナログ回路80で補償するのであるが、その補償分及び各STATE切り替え時のスイッチングロス分が、アナログ回路80単独で駆動信号を生成する場合の電流よりも大きくなる場合がある。例えば、印刷時にノズルを1つしか使用しないような低負荷運転の場合、スイッチング制御をすると、かえってエネルギー損失が大きくなることが考えられる。また、Vの電圧勾配が非常に緩やかな場合等も同様である。そこで、前述の負荷容量計算で算出された値を参照することによって、デジタル回路70は用いず、アナログ回路80のみを用いて印刷を行うことも考慮することで、より効率の良い印刷が可能となる。
【0084】
逆に、アナログ回路80による電流補償を行わずに、デジタル回路70のみにより駆動信号を生成して印刷を行うことも可能である。ピエゾ素子PZTの駆動を正確に制御する必要がない場合、例えば媒体の全面にわたって濃淡のない単色の印刷を行う場合などには、デジタル回路70のみを使用することで、電流増幅回路82を流れる電流はゼロとなるため、トランジスタでの発熱の問題は生じない。
【0085】
<第1実施形態のまとめ>
本実施形態では、ピエゾ素子PZTに充放電を行い、動作させることで液体を噴出させる。ピエゾ素子へ充電を開始する前に、インダクタ71に電流を流しておき、あらかじめ電磁エネルギーを蓄えておき、インダクタに蓄えたエネルギーを電流源としてピエゾ素子に充電することで、印刷を行う。
これにより、従来のようにアナログ式駆動信号生成回路のみを用いて、トランジスタで電流を増幅しながらピエゾ素子に充電を行う場合よりも、大幅に発熱を低減することができる。
【0086】
また、インダクタにエネルギーを蓄えるために電流を流す時間は、インダクタ電流Iや、所要の電流値ILT、自己インダクタンスL等のパラメータを用いて算出される。
これにより、インダクタに過剰な電流を流したり、または、電流が不足したりすることにより、ピエゾ素子への充電が不十分になる等の問題は生じない。さらに、印刷サイクルの各セグメントにおける負荷容量の大きさも考慮されているため、印刷に使用するノズル(液体を噴出するノズル)数が多ければ、インダクタに電流を流す時間が長くなり、逆にノズル数が少なければ、インダクタに電流を流す時間が短くなる。
これにより、実際に動作するピエゾ素子に充電する分のみのエネルギーを正確にインダクタに蓄えることになり、消費エネルギーのさらなる低減を図ることができる。
【0087】
また、インダクタ71からピエゾ素子PZTへ充電を行う際には、インダクタ電流Iが所要の電流値ILTよりも小さい場合には、充電用トランジスタ821を介して主電源Vddから不足分を充電し、Iが所要の電流値ILTよりも大きい場合には、放電用トランジスタ822を介してグランドに余剰分を放出する。
これにより、トランジスタを流れる電流は、インダクタ電流Iの過不足を補償した分だけとなり、発熱を低減しつつ、ピエゾ素子PZTを正確に動作させることができる。
【0088】
また、トランジスタを介して過不足の電流を補償する際に、トランジスタに流れる電流の大きさを検出し、該電流の大きさが所要の値よりも大きい場合には、インダクタからピエゾ素子PZTに電流を印加する時間を補正することで、Iを適正な値に調節する。
これにより、インダクタ電流Iの波形を精度よく制御することができ、ピエゾ素子PZTをより正確に動作させることができる。
【0089】
また、ピエゾ素子PZTの充電を開始する際に、ピエゾ素子PZTに印加する電圧が主電源Vdd(第1の電源)の電圧に近い場合には、インダクタに所要の電流値ILTよりも大き目の電流を流しておき、放電用トランジスタ822から余剰分の電流を放出する。逆に、ピエゾ素子PZTに印加する電圧がグランド(第2の電源)の電圧に近い場合には、インダクタに所要の電流値ILTよりも小さ目の電流を流しておき、充電用トランジスタ821から不足分の電流を供給する。
これにより、ピエゾ素子への充放電開始時に、電流が過剰に流れたり、または不足したりすることによるトランジスタにおける無駄なエネルギー消費・発熱を防止することができる。
【0090】
また、本実施形態において、インダクタ71を複数設け、それぞれが個別にピエゾ素子への充放電を行う構成とすることもできる。これにより、より詳細で複雑な駆動信号が生成可能になり、さらに高精度な印刷を実現し得る。
【0091】
===第2実施形態===
第2実施形態では、第1実施形態とは構成が異なる駆動信号生成回路(デジタル式)70を用いて印刷を行う。デジタル回路70以外のプリンターの基本構成やアナログ回路80の構成については第1実施形態と基本的に同様である(ただし、コンパレーター83等は省略して説明する)。
第2実施形態でも第1実施形態と同様に、インダクタ71を有するデジタル回路70と、アナログ回路80とを組み合わせてピエゾ素子PZTを駆動させることで、印刷時の消費電力低減を図っている。
【0092】
<駆動信号生成回路(デジタル式)70について>
駆動信号生成回路(デジタル式)70は、ピエゾ素子PZTを駆動するための充放電を、インダクタを用いることによって行う。
図9に、第2実施形態における駆動信号生成回路(デジタル式)70の構成を示す。本実施形態のデジタル回路70は、インダクタ71と、MOSFET74と、MOSFET75と、ダイオード76と、ダイオード77とから構成される。
【0093】
<インダクタ71>
インダクタ71は、第1実施形態と同様に、あらかじめ電流を流すことにより電磁エネルギーとしてエネルギーを蓄え、ピエゾ素子PTZへの充電時には電流源として、また、ピエゾ素子PTZの放電時には放電先として機能する。図9に示すように、インダクタ71は一端(入力側とする)がMOSFET74を介して主電源Vddに、他端(出力側とする)がMOSFET75を介してピエゾ素子PZTに接続され、主電源Vddとピエゾ素子PZTとの間で、アナログ回路80の充電用トランジスタ821と並列となるように配置される。
【0094】
インダクタ71にエネルギーを蓄える際には、主電源VddからMOSFET74を介してインダクタ71の入力側に電流が流れる。そして、ピエゾ素子PZTの充電時は、インダクタ71に蓄えられたエネルギーを、インダクタ71の出力側からMOSFET75を介してピエゾ素子PZTに電流として供給する。ピエゾ素子PZTの放電時は、ピエゾ素子PZTからダイオード76を介してインダクタ71の入力側へと電流が流れ、インダクタ71の出力側からダイオード77を介して主電源Vddに電流が回生される。インダクタ71を流れる電流Iは、プリンターの印刷動作を通して常に一定方向(入力側から出力側へ)の流れとなる。回路全体の動作の詳細については後で説明する。
【0095】
<MOSFET74及びMOSFET75>
MOSFET(P型)74は、主電源Vddとインダクタ71との間のスイッチ素子であり、ソースは主電源Vddに、ドレインはインダクタ71の入力側に接続される。そして、プリドライバ66を介してCPU63から伝達される信号によりON/OFF制御されることで、インダクタ71の入力側に主電源Vddからの電流を流す。以後、MOSFET(P型)74のことを、スイッチ74とも言う。
【0096】
MOSFET(P型)75は、インダクタ71とピエゾ素子PZTとの間のスイッチ素子であり、ソースはインダクタ71の出力側に、ドレインはピエゾ素子PZTに接続される。そして、プリドライバ66を介してCPU63から伝達される信号によりON/OFF制御されることで、インダクタ71からの電流をピエゾ素子PZTや放電用トランジスタ822に流す。また、ピエゾ素子PZTの電圧保持時には、インダクタ71及びダイオード76とともにループ回路を構成する。以後、MOSFET(P型)75のことを、スイッチ75とも言う。
【0097】
<ダイオード76及びダイオード77>
ダイオード76は、ピエゾ素子PZTの電圧保持時や放電時に、インダクタ71に流れる電流を、入力側から出力側に向かって流すために設けられる。ダイオード76のアノードはスイッチ75とピエゾ素子PZTとの間に接続され、カソードはスイッチ74とインダクタ71との間に接続される。
ダイオード77は、ピエゾ素子PZTの放電時や待機時に、インダクタ71に流れる電流を、入力側から出力側に向かって流すために設けられる。ダイオード77のアノードはインダクタ71とスイッチ75との間に接続され、カソードは主電源Vddと充電用トランジスタ821のエミッタとの間に接続される。
【0098】
<本実施形態の回路動作について>
印刷動作1サイクル(ピエゾ素子PZTがインクを1回噴出するために行われる動作サイクル)において、インダクタ71に流れる電流の波形について説明する。
【0099】
図10Aに、印刷動作1サイクルにおいて、ピエゾ素子PZTに印加される電圧Vの波形の例を示す。Vの波形は駆動波形COMに相当し、破線で区切られた5つのStepから構成される。図10Aは、動作説明のためにStep1(充電前)からStep5(待機)までを順番に並べた最も基本的な波形の例である。実際には、波形Vを構成する各Stepの順番、回数、及び波形(パルス波形)の形状を変化させて組み合わせることで、様々な駆動波形を形成し、該駆動波形によりピエゾ素子PZTの伸縮の大きさを段階的に変えて、噴出されるインク液滴の大きさを調整することができる(例えば、図13
参照)。各Stepの詳細は後で説明する。
【0100】
図10Bに、印刷動作1サイクルにおいて、ピエゾ素子PZTを流れる電流I及びインダクタ71を流れる電流Iの波形の例を示す。Iは、ピエゾ素子の駆動波形となるVに対応する電流の波形であり、Iは、インダクタ71を実際に流れる電流の波形である。図10BでIとIとの間の斜線部分(Step2及びStep4)は、インダクタ71からのピエゾ素子PZTに電流を印加する際の電流の不足分を表す。したがって、この差分の電流をアナログ回路80の充電用トランジスタ821及び放電用トランジスタ822から補償することで、駆動波形Vを生成する。
【0101】
図11に、本実施形態において、図10Aで示した電圧波形Vを生成するための動作フローを示す。印刷動作1サイクルは、印刷開始直後の負荷容量計算、及び、Step1から順にStep5までを実行することで構成され、このサイクルを繰り返すことで画像を印刷する。各Stepでは、スイッチ74、スイッチ75、トランジスタ821、及びトランジスタ822のON/OFFを切り替えることで、次のStepに移行する。表2は、各StepにおいてONとなるスイッチ及びトランジスタを○印で表したものである。ただし、トランジスタ821、822はCPU63の指令に基づく電圧波形Vを実現するために適切なオン抵抗でON/OFF制御されるため、たとえ表2が空欄であってもONになったり、逆に表2が○印であってもOFFになる場合がある。以下、各フローについて説明する。
【0102】

【0103】
負荷容量計算は、印刷サイクルの開始に際して、Step1でインダクタ71に電流を流す期間(時間)を決定するために行われる。本実施形態では1つのインダクタで複数のノズル(ピエゾ素子)を駆動することから、駆動ノズル数が多い場合にはインダクタの負荷が高くなり、より大きな電流が要求されることになる。したがって、インダクタに十分なエネルギーを蓄えるため、スイッチをONにする(電流を流し始める)タイミングは、駆動ノズルの数に応じて早くする必要がある。すなわち、インクを噴出するノズル数が多いほど、インダクタに電流を流す時間が長くなり、逆に、インクを噴出するノズル数が少ないほど、インダクタに電流を流す時間は短くなる。このように、印刷サイクルごとの負荷容量に応じて電流を印加する時間を決めることで、その印刷サイクルにおいて使用されるノズル分のみのエネルギーを効率的にインダクタに蓄えることができ、無駄な消費エネルギーを低減することが可能となる。
なお、負荷容量は、第1実施形態と同様の方法で、負荷カウンター62を用いてCPU63により算出される。
【0104】
Step1は、ピエゾ充電前の回路動作であり、ピエゾ素子PZTを充電するための電流源としてインダクタ71にエネルギーを蓄える。Step1における回路の状態及び電流の流れの様子を図12Aに示す。Step1では、スイッチ74、スイッチ75及びトランジスタ822がONになる。
電流Iは主電源Vddからスイッチ74を介してインダクタ71の入力側へ、そして、インダクタ71の出力側からスイッチ75を介してトランジスタ822へと流れる(図12A)。電流がインダクタ71を流れることにより、インダクタ71には電磁エネルギーが蓄えられる。
スイッチ74及びスイッチ75のON/OFFは第1実施形態と同様に、プリドライバ66を介してCPU63の指令に基づいて行われ、トランジスタ821及びトランジスタ822のON/OFFはアナログ回路80内に設けられた別途の制御回路(不図示)によって行われる。
Step1では、スイッチ74、スイッチ75とインダクタ71とが直列の配置となるため、R−Lの過渡現象により、図10Bに示されるように、電流Iは時間と共に対数関数的な増加をしていく。
【0105】
Step2は、ピエゾ充電時の回路動作であり、インダクタ71に蓄えられていた電磁エネルギーを電流としてピエゾ素子PZTに印加する。Step2における回路の状態及び電流の流れの様子を図12Bに示す。Step2では、スイッチ74及びスイッチ75はStep1と同じくONの状態であるが、放電用トランジスタ822がOFFになり、充電用トランジスタ821がONになる(表2)。
Step1においてインダクタ71から放電用トランジスタ822に流れていた電流(図12A)は、トランジスタ71からピエゾ素子PZTへと流れるようになり(図12BのI)、トランジスタ71に蓄えられたエネルギーがピエゾ素子PZTに充電される。この間、インダクタ電流Iは、主電源Vddからの電流供給を受け続けるため、Step1からStep2を通して上がり続ける(図10B)。
Step2において、インダクタ電流Iがピエゾ電流Iより小さい場合、駆動波形となるVを生成するためには図10Bの斜線部で示される領域分の電流が不足することになる。そこで、該不足分の電流を主電源Vddから、アナログ回路80の充電用トランジスタ821を介して直接ピエゾ素子PZTに充電する(図12BのII)。その結果、充電用トランジスタ821を流れる電流はIとIの差分だけとなり、アナログ回路80のみにより駆動波形COMを生成する場合(Iの電流が全てトランジスタ821を通ってピエゾ素子PZTに供給される場合)と比較して大幅なエネルギー削減が可能となり、トランジスタでの発熱を防止できる。特に電圧波形Vの傾き(図10AにおけるVの傾き)が大きくなる場合には、さらに大きな電流Iが要求されることから、本実施形態のようにデジタル回路70とアナログ回路80を組み合わせて印刷を行うことで、大きなエネルギー削減効果を期待できる。
【0106】
Step3は、ピエゾ電圧保持時の回路動作であり、ピエゾ素子PZTに充電された電荷を保持するために、主電源Vdd及びインダクタ71からピエゾ素子PZTに電流が流れないようにする。Step3における回路の状態及び電流の流れの様子を図12Cに示す。Step3では、スイッチ75のみをONとして、スイッチ74、トランジスタ821及びトランジスタ822はOFFにする(表2)。
インダクタ71の出力側から出た電流Iは、スイッチ75及びダイオード76を通って再びインダクタ71の入力側に戻ることになり、電流Iはインダクタ71の入力側から出力側へと流れ続ける(図12C)。実際の回路では、スイッチ75による抵抗等の影響でIは徐々に減衰していき、図10BのStep3に示されるような波形となる。
【0107】
Step4は、ピエゾ放電時の回路動作であり、ピエゾ素子PZTに充電されていた電荷をインダクタ71に向けて放電する。Step4における回路の状態及び電流の流れの様子を図12Dに示す。Step4では、放電用ストランジスタ822のみをONにする(表2)。
インダクタ電流Iは一定方向(入力側から出力側)に流れ続けるため、ピエゾ素子PZTから放電された電流は、ダイオード76を介してインダクタ71の入力側へと流れ、インダクタ71の出力側からダイオード77を介して主電源Vddへと回生される(図12DのI)。このとき、電位が低い方(インダクタ71)から高い方(主電源Vdd)へと電流Iを流そうとするため、電流は徐々に弱くなっていく(図10B)。
Step4において、ピエゾ電流Iがインダクタ電流Iより大きい場合、駆動波形となるVを生成するためには図10Bの斜線部で示される領域分の電流を余計に放電する必要がある。そこで、その差分の電流をピエゾ素子PZTから、アナログ回路80のトランジスタ822を介してグランドに放電する(図12DのII)。その結果、トランジスタ822を通る分の電流は発熱の原因となるが、消費される電流はIとIとの差分だけであるため、アナログ回路80のみにより駆動波形COMを生成する場合よりも大幅なエネルギー削減が可能となる。
【0108】
Step5は、印刷待機時の回路動作である。すなわち、インダクタ71にエネルギーが残っている場合には完全放電させて、次のサイクルに移行するための待機状態である。Step5における回路の状態及び電流の流れの様子を図12Eに示す。待機中はインダクタ電流I=0の定常状態となる(表2)。ただし、エネルギー完全放電の間は、充電用トランジスタ821がONに制御される。インダクタ電流Iは、インダクタ71の出力側からダイオード77、トランジスタ821、ダイオード76と流れ、インダクタ71の入力側に戻る。このとき、トランジスタ821の抵抗により電流は減少し、最終的には完全に放電する。インダクタ電流Iは、Step4の放電時に主電源Vddに回生されるはずであるが、インダクタにわずかにエネルギーが残存していた場合でも、本Stepにより完全に放電させることで(図10BのStep5)、スムーズに次のサイクルへと移行することができる。
【0109】
<本実施形態の効果>
本実施形態の効果について説明するため、比較例として、図4Aに示されるアナログ回路80のみで印刷を行う場合のエネルギー消費シミュレーションの例を用いて説明する。
【0110】
図13Aに、比較例1として、アナログ回路80のみにより印刷を行った場合の、印刷動作1サイクルにおけるピエゾ電圧V、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を示す(この条件をS−O1とする)。なお、Vの波形は実際のピエゾ駆動に合わせるため、図10で例示したものよりも複雑な形状をしている。
【0111】
アナログ回路80のみで駆動波形COMを生成する場合、エネルギー消費の主な要因として考えられるものは、充電時に充電用トランジスタ821を流れる電流Iによるエネルギー損失Eと、放電時に放電用トランジスタ822を流れる電流Iによるエネルギー損失Eである。ここで、図13Aに示されるように、放電時において、ピエゾ素子PZTに充電されていたエネルギーEが、放電用トランジスタ822に電流Iが流れることによりトランジスタ822のエネルギー損失Eとなる。結果として、アナログ回路80のみにより印刷を行った場合、1サイクルにおける累積消費エネルギーEは382μJとなる。
【0112】
図13Bに、比較例2として、ピエゾ素子PZTの放電時における電圧Vの勾配(図13Bで時間変化に対するVの傾き)を比較例1よりも緩くして、電流Iを直近の電流Iと同じ値に設定した場合の累積消費エネルギーEの時間変化の様子を示す(この条件をS−O2とする)。その他の条件は比較例1の場合と同様である。比較例2でも、PZTに充電されていたエネルギーEがトランジスタ822にて損失する量Eは比較例1の場合と同じであるため、累積消費エネルギーEも比較例1の場合と同じく382μJとなる。
【0113】
これに対して、本実施形態において、アナログ回路80とデジタル回路70を組み合わせて印刷を行った場合のエネルギー消費について説明する。
【0114】
図14Aに、本実施形態の回路で、ピエゾ素子PZTに比較例1の条件(S−O1)と同じ電圧Vを印加したときのV、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーEの時間変化の様子を示す(S−S1)。同様に、図14Bに、本実施形態の回路で、ピエゾ素子PZTに比較例2の条件(S−O2)と同じ電圧Vを印加したときのピエゾ電流I及び累積消費エネルギーEの時間変化の様子を示す(S−S2)。
【0115】

【0116】
表3は、両者を数値的に比較した結果である。
S−S1では、1サイクルあたりの累積消費エネルギーが251μJとなり、S−O1の場合の66%(約2/3)となっている。デジタル回路70とアナログ回路80を組み合わせて印刷を行うことで、アナログ回路80のみを用いて印刷を行う場合よりもエネルギー消費率が低減されることが分かる。エネルギー消費が低減される要因は、充電用トランジスタ821におけるエネルギー消費E及び放電用トランジスタ822におけるエネルギー消費Eが、S−O1の場合よりも低くなっていることにある(図14A)。本実施形態では、あらかじめエネルギーを蓄えたインダクタ71からインダクタ電流Iとしてピエゾ電流Iを供給している。そして、Iに対するIの過不足分電流をアナログ回路80の各トランジスタを通して補償するという方法をとっている。したがって、充電用トランジスタ821を通る電流I及び放電用トランジスタ822を通る電流Iは、アナログ回路80のみを用いる場合よりも少なくなるため(図10Bの斜線部分)、消費エネルギーE及びEも少なくなる。したがって、累積消費エネルギーEは小さくなる。
【0117】
S−S2においては、1サイクルあたりの累積消費エネルギーが195μJとなり、S−O2の場合の51%と、約半分まで低減されている。S−S1に対してエネルギー消費が低減される要因は、ピエゾ素子からの放電電流Iを直近の充電電流Iと同じ値に設定したことにより、電流Iがインダクタ電流Iに近づき、トランジスタ822でのエネルギー損失が軽減されたことによる。
【0118】
<第2実施形態のまとめ>
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、ピエゾ素子PZTに充放電を行い、動作させることで液体を噴出させる。ピエゾ素子への充電の際には、まずインダクタ71に電流を流すことで電磁エネルギーを蓄えておき、該エネルギーを利用して、インダクタからピエゾ素子への充電を行う。
これにより、従来のようにアナログ式駆動信号生成回路のみを用いて、トランジスタで電流を増幅しながらピエゾ素子に充電を行う場合よりも、大幅に発熱を低減することができる。
【0119】
また、本実施形態においても、ピエゾ素子充電のためにインダクタに電流を流す時間は、その印刷サイクルにおける負荷容量の大きさに影響される。すなわち、インクを噴出するノズル数が多いほどインダクタに電流を流す時間が長くなり、ノズル数が少ないほどインダクタに電流を流す時間が短くなる。
これにより、実際に動作するピエゾ素子に充電する分のみのエネルギーを正確にインダクタに蓄えることになり、消費エネルギーのさらなる低減を図ることができる。
【0120】
また、ピエゾ素子PZTへの充電時において、インダクタ電流Iが所要の電流値ILTよりも小さい場合には、充電用トランジスタ821を介して主電源Vddから不足分を充電し、Iが所要の電流値ILTよりも大きい場合には、放電用トランジスタ822を介してグランドに余剰分を放出する。
これにより、トランジスタを流れる電流は、インダクタ電流Iの過不足を補償した分だけとなり、発熱を低減しつつ、ピエゾ素子PZTを安定的に動作させることができる。
【0121】
また、一回の印刷サイクルでインダクタ71とピエゾ素子PZT間でのエネルギーの転換を完結でき、第1実施形態の回路よりも部品数の少ない単純な回路で高効率化を実現できる。したがって、少しでも発熱を抑えたい小型の汎用プリンター等において特に効果的な方法であるといえる。
【0122】
===第3実施形態===
第3実施形態は、駆動信号生成回路(デジタル式)70の構成の一部が、第2実施形態とは異なる。本実施形態では、ピエゾ素子と並列にダミーコンデンサを複数設け、印刷サイクルごとに使用するコンデンサを適宜選択することでコンデンサ全体の容量を調整することができようにしている。これにより、インダクタに流れる電流値を常に一定に保つことを特徴としている。インダクタ電流を一定に保ちながらピエゾ素子を駆動することで、さらなる消費エネルギー低減が図れる。
プリンターの基本構成や、アナログ回路80の構成は第1実施形態及び第2実施形態と同様である。
【0123】
<駆動信号生成回路(デジタル式)70について>
図15に、本実施形態における駆動信号生成回路(デジタル式)70の構成を示す。本実施形態では、第2実施形態のデジタル回路70に加えて、インダクタ電流検出装置78、及び、それぞれ容量の異なる複数のダミーコンデンサ79A、79B、79C、…、79N(ダミーコンデンサの個数はピエゾ素子の静電容量による)を備える。
【0124】
<インダクタ電流検出装置78>
インダクタ電流検出装置78は、印刷サイクル中におけるインダクタ電流Iの大きさを検出し、I値を常に一定に保つために設けられる。電流検出装置78は、インダクタ71の入力側または出力側にインダクタ71と直列に接続される。
【0125】
<ダミーコンデンサ79A、79B,79C……>
ダミーコンデンサ群は、印刷サイクルごとに、充放電に使用するダミーコンデンサを選択することで、ピエゾ素子とダミーコンデンサの合計容量の値を一定に調節し、インダクタを流れる電流を一定に保つために設けられる。そのため、該ダミーコンデンサ群はピエゾ素子PZTと並列に接続され(図15)、ダミーコンデンサの静電容量が、段々に半減していくように配置される。つまり、本液体噴出装置に備えられる全てのピエゾ素子の合計の静電容量がCである場合、ダミーコンデンサ79Aの静電容量はC/2、79Bの静電容量はC/4、79Cの静電容量はC/8となる。
【0126】
各々のダミーコンデンサにはON/OFFのスイッチが設けられ、印刷サイクルごとにピエゾ素子PZTの負荷に応じて、使用するダミーコンデンサが決定される。スイッチはCPU63により印刷サイクルごとにON/OFFの制御ができるものであればよく、例えばスイッチ74及びスイッチ75のようなMOSFETが利用できる。
【0127】
本実施形態では、インダクタ71に常に一定の電流を流すため、実際の印刷時に使用されるノズル数(駆動するピエゾ素子の数)に関わらず、ピエゾ素子とダミーコンデンサの合計容量も常に一定にしておく必要がある。そして、ピエゾ素子には、その印刷サイクルにおいて使用されるノズル数分の電流を流し、余剰分の電流はダミーコンデンサに流すことになる。すなわち、その印刷で使用するノズル(駆動するピエゾ素子)数量分の静電容量がXであるとき、ダミーコンデンサの合計の静電容量が(C−X)となるよう、必要な容量分に相当するダミーコンデンサをONにすることで、回路全体の静電容量が常にCになるよう調整される。
【0128】
ダミーコンデンサ群のON/OFF制御の例として、全てのピエゾ素子の合計の静電容量がノズル64個分に相当する場合について説明する。
例えば、ある印刷サイクルで64個のノズルを使用する場合(Case1)には、全てのダミーコンデンサがOFFになり、インダクタ電流Iは全てピエゾ素子に流れることになる。これにより、64個のノズルからインクを噴出できる。
次に、ある印刷サイクルで使用ノズル数(ピエゾ素子数)が16である場合(Case2)、ノズル16個分を駆動するためのピエゾ素子の静電容量はCase1の場合の1/4となる。このとき、ダミーコンデンサ群のうち、C/2とC/4をONにすると、回路全体の静電容量は(C/4+C/2+C/4)=Cとなる。結果として、Case1の場合と同じ大きさの電流Iを流しながら、ピエゾ素子PZTにはIの1/4の大きさの電流のみを流すことが可能になり、ノズル16個分の印刷に対応することができる。
同様に、使用ノズル数が12個である場合(Case3)、ノズル12個分を駆動するためのピエゾ素子PZTの静電容量はCase1の場合の3/16であることから、ダミーコンデンサ群のうち、C/2とC/4と1/16をONにする。このとき、回路全体の静電容量は(3C/16+C/2+C/4+C/16)=Cとなり、Case1の場合と同じ大きさの電流Iを流しながら、ピエゾ素子PZTにはIの3/16の大きさの電流を流すことが可能になる。
このような方法により、印刷サイクルごとに負荷容量が変化しても、一定のインダクタ電流Iを用いて常にピエゾ素子充電時の電圧傾きを一定の値に保つことができる。
【0129】
<本実施形態の回路動作について>
印刷動作1サイクルにおいて、インダクタ71を流れる電流波形について説明する。
図16Aは、印刷動作1サイクルにおいて、ピエゾ素子PZTに印加される電圧Vの波形の例である。第2実施形態で説明したものと同様、Vの波形は駆動波形COMに相当し、破線で区切られた5つのStepから構成される。また、Vの波形は、本実施形態において大きな効果が表れるよう、Vの勾配(立ち上がり及び立ち下がり時の傾きの絶対値)を一定としている。
【0130】
図16Bは、印刷動作1サイクルにおいて、ピエゾ素子PZTを流れる電流I及びインダクタ71を流れる電流Iの波形の例である。本実施形態では、第2実施形態の場合と異なり、Iが一定値となっている点に特徴がある。図16Bに示されるように、I=Iとなるような電流を流し続けることができれば、アナログ回路80の充放電用トランジスタから過不足分の電流を補償する必要がなくなるため、トランジスタにおいて全くエネルギーを消費することなく駆動波形V(図16A)を生成することが可能になる。
【0131】
図17に、本実施形態において、図16Aで示した電圧波形Vを生成するための動作フローを示す。印刷動作1サイクルは、まず、印刷開始前にインダクタ電流Iが狙いの電流値の範囲(ILmin<I<ILmax)に入るようにエネルギーを蓄え(Step0)、印刷開始直後の負荷容量計算により使用するダミーコンデンサを決定する(Step1−a)。次に、インダクタ電流Iの値によってStep1−b(I<ILminの時)、またはStep1−c(ILmin<Iの時)に移行し、その後ピエゾ素子PZTに電流が印加される(Step2−a、b)。その後の基本的な流れは第2実施形態の場合と同様である。そして、このサイクルを繰り返すことで画像を印刷する。
【0132】
各Stepでは、スイッチ74、スイッチ75、充電用トランジスタ821、及び放電用トランジスタ822のON/OFFを切り替えることで、次のStepに移行するが、このスイッチング制御も第2実施形態の場合と同様である。本実施形態でも、トランジスタ821、822はCPU63の指令に基づく電圧波形Vを実現するために適切なオン抵抗でON/OFF制御されるため、たとえ表4が空欄であってもONになったり、逆に表4が○印であってもOFFになる場合がある。以下、各フローについて説明する。
【0133】

【0134】
Step0は、印刷開始に先立ち、まず、インダクタ71に電流を流すことで、インダクタにエネルギーを蓄える動作である。Step0における回路の状態及び電流の流れの様子を図18Aに示す。
電流Iは主電源Vddからスイッチ74を介してインダクタ71の入力側へ、そして、インダクタ71の出力側からスイッチ75を介して放電用トランジスタ822へと流れる。電流がインダクタ71を流れることにより、インダクタ71には電磁エネルギーが蓄えられる。
【0135】
Step1−aは、負荷容量計算であり、そのサイクルにおいて使用されるノズル数から負荷容量を算出し、ダミーコンデンサ各個についてのON/OFFを決定する。前述のように、回路全体として負荷容量を一定にすることで、一定のインダクタ電流Iを用いて、常にピエゾ素子充電時の電圧の傾きを一定にすることができる。負荷容量は、第1及び第2実施形態と同様に負荷カウンター62を用いてCPU63により算出される。
Step1−aにおける回路の状態及び電流の流れの様子を図18Bに示す。Step1−aでは、スイッチ75のみがONとなる。Iはインダクタ71の出力側から、スイッチ75、ダイオード76、電流検出装置78を経てインダクタ71の入力側へと流れる。CPU63が負荷容量を計算している間、インダクタに新たな電流を流す必要はないため、電流Iは図18Bに示されるようなルートを流れることで、インダクタのエネルギーを保持する。以後、このルートを保持ルートとも呼ぶ。実際にはスイッチ75や、電流検出装置78内の抵抗により、Iは徐々に減衰していくが、次のStepで調整されるため、印刷サイクルを通してIの値は一定に保たれる。
【0136】
Step1−b及びStep1−cは、ピエゾ充電前の回路動作であり、インダクタ電流Iの値に応じていずれかの状態に移行し、ピエゾ素子PZTへの充電を待つ。具体的には、Step1−aの負荷容量計算が終了した段階で、電流検出装置78により、インダクタ電流Iの大きさを計測し、I<ILminであればStep1−bへ、ILmin<IであればStep1−cへと移行する。
Step1−bにおける回路の状態及び電流の流れの様子を図18Cに示す。Step1−bでは、Iの値が所定の大きさに足りていないため(I<ILmin)、インダクタ71に電流を流し、エネルギーを蓄える。電流は、Step0の場合と同様に、主電源Vddからスイッチ74、インダクタ71、スイッチ75、そして放電用トランジスタ822へと流れる。
Step1−cにおける回路の状態及び電流の流れの様子を図18Dに示す。Step1−cでは、Iの値が所定の大きさを超えているため(ILmin<I)、上述の保持ルートに電流を流すことでインダクタ電流Iを保持する。
【0137】
Step2は、ピエゾ充電時の回路動作であり、インダクタ電流値がI<ILmaxの場合はStep2−aに移行し、エネルギーを蓄えたインダクタ71を電流源としてピエゾ素子PZT(及びダミーコンデンサ)に充電を行う。
Step2−aにおける回路の状態及び電流の流れの様子を図18Eに示す。Step2−aでは、Step0においてインダクタ71から放電用トランジスタ822に流れていた電流(図18A)が、ピエゾ素子PZT(及びダミーコンデンサ)へと流れるようになり(図18EのI)、インダクタ71に蓄えられたエネルギーがピエゾ素子PZTに充電される。この間、インダクタ電流Iは常に一定に保たれている。
【0138】
一方、駆動波形となるVを生成するために、Iだけでは電流が不足する場合には、該不足分の電流を主電源Vddから、充電用トランジスタ821を介して直接ピエゾ素子PZTに充電する(図18EのII)。ここで、Iだけでは電流が不足する場合とは、後述する図20Aのように、電圧値Vの勾配が異なる波形を生成する場合である。このような場合、電流値Iが一定では、一定の勾配の電圧波形(例えば図16AのVのような波形)しか生成できないため、別途、電流を補う必要がある。不足分電流を補うために充電用トランジスタ821を流れる電流は発熱の原因となるが、回路全体として見れば、エネルギー消費率を低減することが可能になる。エネルギー消費シミュレーションの詳細については後述する。
【0139】
次に、Step2−bにおける回路の状態及び電流の流れの様子を図18Fに示す。Step2においてインダクタ電流値がILmax<Iの場合はStep2−bに移行し、充電用トランジスタ821を通してピエゾ素子PZTとダミーコンデンサを充電する(図18FのII)。この時インダクタ電流Iは、保持ルートにて保持されながらスイッチ75等の抵抗により減衰させることで調整される(図18FのI)。
【0140】
Step3は、ピエゾ電圧保持時の回路動作であり、ピエゾ素子PZTに充電された電荷を保持するために、主電源Vdd及びインダクタ71からピエゾ素子PZTに電流が流れないようにする。Step3における回路の状態及び電流の流れの様子を図18Gに示す。電流は、Step2−bと同様の保持ルートを流れる。
【0141】
Step4は、ピエゾ放電時の回路動作であり、ピエゾ素子PZTに充電されていた電荷をインダクタ71に向けて放電する。Step4における回路の状態及び電流の流れの様子を図18Hに示す。
インダクタ電流Iは一定方向(入力側から出力側)に流れ続けるため、ピエゾ素子PZTから放電された電流は、ダイオード76を介してインダクタ71の入力側へと流れ、インダクタ71の出力側からダイオード77を介して主電源Vddへと回生される(図18HのI)。
【0142】
一方、Step2−aと同様の理由により、駆動波形Vを生成するために、一定の電流値Iよりも大きな電流を余計に放電しなくてはならない場合がある。その場合には、該余剰分の電流を、ONとなったトランジスタ822を介して、ピエゾ素子PZTからグランドに放電する(図18HのII)。
【0143】
Step5は、印刷待機時の回路動作である。Step5における回路の状態及び電流の流れの様子を図18Iに示す。インダクタ電流Iは、スイッチ75や、電流検出装置78内の抵抗により減少し、最終的には完全に放電する。
【0144】
<本実施形態の効果>
本実施形態の効果について説明するため、比較例として、アナログ回路80のみ(図4A)で印刷を行う場合のエネルギー消費シミュレーションの例を用いて説明する。
【0145】
図19Aに、比較例1として、第2実施形態で使用したS−O1の条件(図13A)で500μsの期間(13サイクル相当分の周期)印刷動作を行った場合のピエゾ電圧V、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を示す(この条件をS−O3とする)。印刷サイクルの回数を増やしたのは、本実施形態ではサイクルごとにインダクタ電流Iが微妙に変化するため、1サイクルだけのエネルギー消費量よりも、複数サイクル分のエネルギー消費量を比較したほうが、精度が高くなるからである。
S−O3は、S−O1を単純に13回分繰り返していることから、累積消費エネルギーEもS−O1の場合(382μJ)の約13倍である4965μJとなる。
図19Bに、比較例2として、ピエゾ素子PZTの充放電時における電圧Vの勾配(時間変化に対する電圧Vの傾き)を一定にした場合の累積消費エネルギーEの時間変化の様子を示す(この条件をS−O4とする)。その他の条件はS−O3の場合と同様である。
【0146】
比較例2では、エネルギー消費の主な原因となる充電用トランジスタ821でのエネルギー消費Eが比較例1の場合と同じであるため、累積消費エネルギーEも比較例1の場合とほぼ等しい5041μJとなる。S−O3とS−O4でわずかにエネルギー消費量が異なるのは、S−O4ではVの勾配を変更したことにより印刷サイクルの周期が若干変化し、500μs内で実行されるサイクル数が異なったためである。
【0147】
次に、本実施形態において、アナログ回路80とデジタル回路70を組み合わせて印刷を行った場合のエネルギー消費について説明する。
【0148】
図20Aに、本実施形態の回路で、ピエゾ素子PZTに比較例1の条件(S−O3)と同じ電圧Vを印加したときのV、ピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を示す(S−M3)。同様に、図20Bに、本実施形態の回路で、ピエゾ素子PZTに比較例2の条件(S−O4)と同じ電圧Vを印加したときのピエゾ電流I及び累積消費エネルギーE等の時間変化の様子を示す(S−M4)。
【0149】

【0150】
表5は、両者を数値的に比較した結果である。
S−M3では、13サイクルあたりの累積消費エネルギーが3499μJとなり、S−O3の場合の70%となっている。デジタル回路70とアナログ回路80を組み合わせて印刷を行うことで、アナログ回路80のみを用いて印刷を行う場合よりもエネルギー消費率が低減されることが分かる。
【0151】
本実施形態においては、インダクタ電流Iが一定である。ここで、図16Aに示されるように、電圧Vの勾配が一定であれば、電流Iの大きさも一定となるため、一定のインダクタ電流Iのみで駆動波形Vを生成できるはずである。この場合、前述の通り、充放電用トランジスタを流れる電流はゼロになるため、トランジスタにおける消費エネルギーE及びEもゼロになる。
【0152】
しかし、S−O3のようにVの勾配が一定ではない場合、一定の電流IだけでVを生成することはできない。例えば、図20Aにおいて、Vの波形中のb及びcの部分の傾きはaの部分の傾きよりも大きいため、その分Iよりも大きな電流が必要となる。過不足分の電流は充放電用トランジスタを通してI及びIとして補償されることになり、トランジスタにおける消費エネルギーE及びEが増加する。S−M3では、この補償分の電流によるエネルギーE及びEが累積消費エネルギーEの大部分を占めることになる。
【0153】
したがって、本実施形態では、一定のインダクタ電流Iと、トランジスタを介して補償される電流I及びIとの差が大きいほど消費エネルギーEが大きくなり、差が小さいほどEも小さくなる。つまり、Vの勾配が異なるほど消費エネルギーEは大きくなり、Vの勾配が一定に近いほど消費エネルギーEが小さくなる。このことは、本実施形態の効率がV波形の形状によって左右されやすく、Vの勾配によっては、十分な効果を発揮できない場合もあることを表している。例えばS−O3における波形Vに対してならば、前述の第2実施形態を用いた方が効率の良い(66%)印刷を行える。
【0154】
これに対して、S−M4では、13サイクルあたりの累積消費エネルギーが972μJとなり、S−O4の場合の19%(約1/5)まで消費エネルギーを低減することができる。S−M4は、充放電時におけるピエゾ電圧Vの傾きを一定にした場合であるが、前述のように、電圧Vの傾きが一定ということは電流Iが一定ということなので、理想的にはインダクタ電流IのみでVを生成することが可能であり、トランジスタを介して電流I及びIを補償する必要がない。実際には、図20Bに示されるように、わずかながらトランジスタを介して電流が流れ、また、回路内のスイッチ抵抗の影響によるエネルギー消費等もあるが、全体としてのエネルギー消費量はアナログ回路80のみにより印刷を行う場合と比較して非常に小さいものである。このように、本実施形態では、駆動波形Vの傾きが一定の時に、最大のエネルギー削減効果を示す。
【0155】
また、本実施形態においては、インダクタ電流Iが一定であるため、dI/dt=0となり、インダクタ71の自己インダクタンスLの値に関わらずインダクタ71には誘導起電力が発生しない。したがって、第2実施形態の場合よりも、Lの値を大きくとることができる。Lが大きければそれだけインダクタが蓄えられるエネルギーも大きくなることから、回路全体の負荷容量(ピエゾ素子PZTとダミーコンデンサ群との合計容量)が大きな場合でも対応が可能になる。
【0156】
<第3実施形態のまとめ>
第3実施形態においても、第1、第2実施形態と同様に、ピエゾ素子PZTに充放電を行い、動作させることで液体を噴出させる。ピエゾ素子への充電の際には、まずインダクタ71に電流を流すことで電磁エネルギーを蓄えておき、該エネルギーを利用して、インダクタからピエゾ素子への充電を行う。これにより、トランジスタを流れる電流が減少するため、該トランジスタ部における発熱が低減されることで、発明の課題を解決することができる。
さらに、本実施形態においては、インダクタ電流Iを一定に保つことで、第2実施形態の場合と同様に、アナログ回路80に設けられた充放電用トランジスタ821及び822を流れる電流を少なくすることができる。これにより、該トランジスタ部における発熱が低減されることで、発明の課題を解決することができる。
特に、ピエゾ駆動波形の勾配が一定の場合には、大幅にエネルギー効率を改善することが可能である。
また、第2実施形態の場合と比較してインダクタの自己インダクタンスLを大きくとることができるため、多数のピエゾ素子を駆動する等、印刷負荷が大きい場合の印刷にも対応可能である。したがって、本実施形態を用いた液体噴出装置は、ノズル数の多いLFP(Large Format Printer)や、省エネをコンセプトとした大型プリンター等に応用できる。
【0157】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのプリンター等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0158】
<液体噴出装置について>
前述の各実施形態では、発熱を低減した液体噴出装置の一例としてプリンターが説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造型機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の液体噴出装置に、本実施形態と同様の技術を適用してもよい。
【0159】
<電流増幅用トランジスタについて>
前述の各実施形態では、電流増幅回路82が有する充電用トランジスタとしてNPN型トランジスタ821を例示し、放電用トランジスタとしてPNP型トランジスタ822を例示した。しかし、電圧波形信号COM´(アナログ信号)について電流の増幅を行えるものであれば、他の種類のトランジスタを用いてもよい。
【0160】
<MOSFETについて>
前述の各実施形態では、スイッチ素子としてMOSFETを例示して説明したが、これに限られるものではない。コントローラー60により、ON/OFFの制御が自在であり、応答性に問題がなければリレー等他のスイッチ素子を用いてもよい。
【0161】
<ピエゾ素子について>
前述の各実施形態では、液体を噴出させるための動作を行う素子としてピエゾ素子PZTを例示したが、他の素子であってもよい。例えば、発熱素子や静電アクチュエーターを用いてもよい。
【0162】
<他の装置について>
前述の各実施形態では、ヘッド41をキャリッジとともに移動させるタイプのプリンター1を例に挙げて説明したが、プリンターはヘッドが固定された、いわゆるラインプリンターでもよい。
【符号の説明】
【0163】
1 プリンター、20 搬送ユニット、21 給紙ローラー、
22 搬送モーター、23 搬送ローラー、24 プラテン、25 排紙ローラー、
30 キャリッジユニット、31 キャリッジ、32 キャリッジモーター、
40 ヘッドユニット、41 ヘッド、411 ケース、412 流路ユニット、
412a 流路形成板、412b 弾性板、412c ノズルプレート、
412d 圧力室、412e ノズル連通口、412f 共通インク室、
412g インク供給路、412h アイランド部、412i 弾性膜、
50 検出器群、51 リニア式エンコーダ、52 ロータリー式エンコーダ、
53 紙検出センサ、54 光学センサ、60 コントローラー、
61 インターフェース部、62 負荷カウンター、63 CPU、
64 メモリ、65 ユニット制御回路、66 プリドライバ、
70 駆動信号生成回路(デジタル式)、71 インダクタ、
72 入力側回路、721 MOSFET(P型)、
722 MOSFET(N型)、723 MOSFET(N型)、
724 ダイオード、73 出力側回路、731 MOSFET(P型)、
732 MOSFET(N型)、733 MOSFET(P型)、
734 ダイオード、735 ダイオード、74 MOSFET(P型)、
75 MOSFET(P型)、76 ダイオード、77 ダイオード、
78 インダクタ電流検出装置、79 ダミーコンデンサ群、
80 駆動信号生成回路(アナログ式)、81 波形生成回路、
811 DAC回路、812 プリアンプ、82 電流増幅回路、
821 NPN型トランジスタ、822 PNP型トランジスタ、
83A コンパレーター、83B コンパレーター、84A 抵抗、
84B 抵抗、85A 電流計、85B 電流計、86 差動前段増幅回路、
110 コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電、または、放電することにより動作して、液体を噴出する圧電素子と、
前記圧電素子に電流を供給するインダクタと、を備え、
前記圧電素子を充電する前に、あらかじめインダクタに電流を流すことでエネルギーを蓄えておき、
前記圧電素子を充電する際に、エネルギーを蓄えたインダクタから電流を供給することを特徴とする液体噴出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴出装置であって、
前記インダクタにエネルギーを蓄えるために電流を流す時間が、液体を噴出するノズル数が多いほど長く、液体を噴出するノズル数が少ないほど短いことを特徴とする液体噴出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液体噴出装置であって、
前記圧電素子に電流を供給する充電用トランジスタと、前記圧電素子から電流を放出する放電用トランジスタと、を備え、
前記圧電素子を充電する際に、前記インダクタから前記圧電素子に電流を供給し、
前記インダクタから供給する電流が所要の電流値より小さい場合は、前記充電用トランジスタから差分の電流を供給し、
前記インダクタから供給する電流が所要の電流値より大きい場合は、前記放電用トランジスタから差分の電流を放出することを特徴とする液体噴出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体噴出装置であって、
前記圧電素子を充電する際に、前記充放電用トランジスタに流れる電流の大きさを、電流値、または、電圧値として検出する検出部と、
検出した前記電流の大きさを判定して、前記インダクタに流れる電流の大きさを調節する制御部と、
を備える液体噴出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の液体噴出装置であって、
前記充電用トランジスタを介して前記圧電素子に充電を行う第1の電源と、前記第1の電源よりも低い電位を有し、前記放電用トランジスタを介して前記圧電素子から放電を行う第2の電源とを備え、
前記圧電素子の充電を開始する際に、
前記圧電素子に印加する電圧の大きさが、前記第1の電源の電圧よりも前記第2の電源の電圧に近い場合は、前記インダクタに所要の電流値よりも大きな電流を流しておき、前記放電用トランジスタから余剰分の電流を放出し、
前記圧電素子に印加する電圧の大きさが、前記第2の電源の電圧よりも前記第1の電源の電圧に近い場合は、前記インダクタに所要の電流値よりも小さな電流を流しておき、前記充電用トランジスタから不足分の電流を供給することを特徴とする液体噴出装置。
【請求項6】
請求項1に記載の液体噴出装置であって、
前記インダクタに流す電流の大きさが、常に一定の範囲内であることを特徴とする液体噴出装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の液体噴出装置であって、
前記インダクタを複数備え、それぞれのインダクタが個別に前記圧電素子への充放電を行うことを特徴とする液体噴出装置。
【請求項8】
駆動信号に基づき充放電される圧電素子により液体を噴出させることと、
インダクタから前記圧電素子に電流を供給することと、を有し、
前記圧電素子を充電する前に、あらかじめインダクタに電流を流すことでエネルギーを蓄えておき、前記圧電素子を充電する際に、エネルギーを蓄えたインダクタから電流を供給することを特徴とする液体噴出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図7G】
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【図7H】
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【図7I】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図18D】
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【図18E】
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【図18F】
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【図18G】
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【図18H】
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【図18I】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20A】
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【図20B】
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【公開番号】特開2011−47295(P2011−47295A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194754(P2009−194754)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】