説明

液体噴射ヘッド及びその製造方法

【課題】メッキ法を採用するにあたり生じ得る配線部の電気的接続不良及び剥離を抑制できる液体噴射ヘッド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】配線部210が、保護基板30に形成された密着層211と、密着層211に形成された金属層213と、少なくとも金属層213に形成されたメッキ層214とを有し、密着層211は、金属層213およびメッキ層214の外縁部よりも大きく形成されているという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に配線部がパターニングされた配線基板を具備するものとしては、例えば、液体噴射ヘッドが挙げられる。下記特許文献1には、液体噴射ヘッドとして、ノズルに連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、この流路形成基板の一方の面側に形成される圧電素子と、流路形成基板の圧電素子側に接合され、その基板上にパターニングされた配線部を介して駆動IC等が実装される保護基板(配線基板)と、を有するものが開示されている。
【0003】
この配線部は、スパッタ法により、基板上に密着層及び金属層を順次全面に成膜し、その後、金属層上にレジストを形成し、このレジストをマスクとしてウェットエッチングすることによってパターニングされている。密着層は、二酸化シリコン(SiO)からなる基板と金(Au)からなる金属層との密着性を確保するためのもので、例えば、卑金属であるニッケルクロム(NiCr)を材料とし、50〜100ナノメートル(nm)程度の厚みで形成される。金属層は、この密着層の上に1000nm程度の厚みで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−251063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スパッタ法は、数百℃の高温雰囲気下で行うため、成膜後、常温に戻ると、上記厚みを有する金属層の熱収縮による膜応力で、基板に反りが生じやすい。また、金属層は、駆動IC等との接続配線として機能するため、比抵抗が小さいことが望ましい。
そこで、本願発明者は、金属層の成膜法として、数十℃の低温雰囲気下で行え、且つ、スパッタ層よりも比抵抗を小さくできるメッキ法を採用することを考えた。
【0006】
しかしながら、メッキ法により形成されたメッキ層は、スパッタ法により形成されたスパッタ層よりも表面が粗く、毛細管力が働き易い。このため、メッキ層が、密着層の幅(外縁部)からはみ出して形成された場合、例えば、所定部材を基板に接着する接着剤が、基板とメッキ層との微小な隙間に沿って流れ出し、この隙間から毛細管力によりメッキ層の表面に乗り上がり、駆動IC等との電気的な接続を不良とさせる、といった事態を生じさせ得る。また、このような場合、密着層から浮いたはみ出し部を起点として、金属層の剥離が生じ易くなる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、メッキ法を採用するにあたり生じ得る配線部の電気的接続不良及び剥離を抑制できる液体噴射ヘッド及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、上記圧力発生室に対向して上記流路形成基板に設けられ、上記圧力発生室内の液体に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、上記圧力発生手段を収容する保持部を有し、上記流路形成基板の上記圧力発生手段が設けられている面に接合される保護基板と、上記保護基板の上記流路基板と接合される面とは反対側の面に設けられた配線部と、を備え、上記配線部は、上記保護基板に形成された密着層と、上記密着層に形成された金属層と、少なくとも上記金属層に形成されたメッキ層とを有し、上記密着層は、上記金属層および上記メッキ層の外縁部よりも大きく形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドを採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、金属層とメッキ層の2層構造が、密着層の外縁部内に収められることから、接着剤が流れ出してもスパッタ法により形成され毛細管力が働き難い密着層で堰き止められるため、メッキ層の表面への接触及び乗り上がりを防止でき、また、密着層からのはみ出し部が形成されないため、メッキ層の剥離が生じ難くなる。
【0009】
また、本発明においては、先に記載の液体噴射ヘッドであって、上記メッキ層は、上記密着層にも延出して設けられているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、メッキ層が金属層からはみ出しても、密着層から浮くことがなくなるため剥離が生じ難くなる。
【0010】
また、本発明においては、先に記載の液体噴射ヘッドであって、上記金属層および上記メッキ層は、金で形成されているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、配線部が金(Au)から形成される金属層及びメッキ層を含むこととなるため、スパッタ法のみで形成するよりも、基板に対する反りを低減でき、また、比抵抗を小さくすることができる。
【0011】
また、本発明においては、液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、上記圧力発生室に対向して上記流路形成基板に設けられ上記圧力発生室内の液体に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、上記圧力発生手段を収容する保持部を有し、上記流路形成基板の上記圧力発生手段が設けられている面に接合される保護基板と、上記保護基板の上記流路基板と接合される面とは反対側の面に設けられた配線部と、を備えた液体噴射ヘッドの製造方法であって、上記保護基板上に、スパッタ法により密着層と金属層とを順次形成し、上記密着層と上記金属層とをエッチングすることによりパターニングする第1パターニング工程と、上記第1パターニング工程によりエッチングされた上記金属層を、上記密着層の外縁部よりも小さくなるようにさらにエッチングする第2パターニング工程と、メッキ法により、少なくとも上記第2パターニング工程によりエッチングされた上記金属層に、メッキ層を形成するメッキ層形成工程と、を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、配線部をエッチングによりパターニングした後、さらに金属層を密着層の外縁部よりも小さくする第2のパターニングを行うことにより、金属層とメッキ層の2層構造が、密着層の外縁部内に収められることから、接着剤が流れ出してもスパッタ法により形成され毛細管力が働き難い密着層で堰き止められるため、メッキ層の表面への接触及び乗り上がりを防止でき、また、密着層からのはみ出し部が形成されないため、メッキ層の剥離が生じ難くなる。
【0012】
また、本発明においては、先に記載の液体噴射ヘッドの製造方法であって、上記メッキ層形成工程は、上記メッキ層を上記密着層にも延出して形成するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、メッキ層が金属層からはみ出しても、密着層から浮くことがなくなるため剥離が生じ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態における製造方法によって製造された保護基板を具備するインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態における保護基板上の配線構造を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造方法のうちの第1パターニング工程を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造方法のうちの第2パターニング工程及びメッキ層形成工程を説明するための図である。
【図6】密着層の大きさが、メッキ層の外縁部よりも小さく形成された配線部を示す参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の説明では、インクジェット式記録ヘッドを例示して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態における製造方法によって製造された保護基板(配線基板)を具備するインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。図2は、本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。図3は、本発明の実施形態における保護基板上の配線構造を示す断面図である。
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その両面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0016】
この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁によって区画された複数の圧力発生室12が幅方向に並設されている。各圧力発生室12の外側には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成する連通部13が形成され、各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0017】
また、流路形成基板10の一方の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、あるいはステンレス鋼(SUS)などからなる。
【0018】
流路形成基板10の上記開口面とは反対側には、上述したように二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)等からなる絶縁体膜55が積層形成されている。また、絶縁体膜55上には、圧力発生手段としての、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。
【0019】
一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を圧力発生室12毎にパターニングして構成する。例えば、本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。圧電素子300の個別電極である各上電極膜80の端部近傍には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続され、このリード電極90は、圧電素子300を駆動するための駆動IC(駆動部)220と駆動配線200を介して接続される。
【0020】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、表面に配線部210が設けられた配線基板、本実施形態では、保護基板30が接着層35を介して接合されている。この保護基板30は、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300を保護するための空間である保持部31を有し、圧電素子300はこの圧電素子300内に配置されている。なお、保持部31は、密封されていても密封されていなくてもよい。
【0021】
また、保護基板30には、連通部13に対向する領域に、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通部であるリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、上述したように、流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。なお、保護基板30は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることが好ましく、例えば、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成している。
【0022】
保護基板30上には、リザーバ部32に対向する領域に、例えば、PPSフィルム等の可撓性を有する材料からなる封止膜41及び、金属材料等の硬質材料からなる固定板42とで構成されるコンプライアンス基板40が接合されている。固定板42のリザーバ部32に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ部32の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0023】
また、この保護基板30上には、各圧電素子300をそれぞれ選択的に駆動するための駆動IC220が実装されている。保護基板30上には、所定形状にパターニングされた配線部210が設けられており、駆動IC220は、この配線部210上に実装されている。配線部210には、例えば、FPC等の外部配線(図示なし)が電気的に接続され、この外部配線からの駆動信号及び駆動電圧が、配線部210を介して各駆動IC220に供給されるようになっている。
【0024】
図3に示すように、配線部210は、保護基板30上に、スパッタ法により設けられた密着層211を介して金属層213及びメッキ層214が設けられて構成されている。メッキ層214の表面は、密着層211、金属層213の表面よりも粗く、また、本実施形態では密着層211の上にも延出して設けられている。金属層213及びメッキ層214の大きさは、密着層211の外縁部よりも小さく形成されている。換言すると、図3に示す断面視では、密着層211の幅は、金属層213及びメッキ層214の幅以上に形成されている。
【0025】
金属層213及びメッキ層214の材料は、比較的導電性の高い材料であれば特に限定されないが、例えば、金(Au)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等を用いることができる。本実施形態では、配線部210の所定の電気特性を確保するため、比抵抗の小さい金(Au)を用い、金属層213を200nm程度の厚さで形成し、メッキ層214を1200nm程度の厚さで形成した。
【0026】
密着層211は、金属層213と保護基板30(SiO)との密着性を確保するための役割を果たすものであり、その材料は金属層213の材料に応じて適宜決定されればよいが、例えば、タングステン(W)、ニッケル(Ni)又はクロム(Cr)、若しくはこれらの化合物等が好適に用いられる。本実施形態では、金属層213が金(Au)からなるため、密着層211の材料としてニッケルクロム(NiCr)を用いている。なお、本実施形態では、密着層211を100nm程度の厚さで形成した。
【0027】
上記構成のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、配線部210と電気的に接続された駆動IC220からの駆動信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に駆動電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力を高め、ノズル21からインク滴を吐出させることが可能となっている。
【0028】
以下、上記構成のインクジェット式記録ヘッドの製造方法、特に、保護基板30上に配線部210を形成する工程について説明する。
なお、配線部210を形成する前の保護基板30には、予め保持部31及びリザーバ部32が形成されており、それらは例えば、保護基板30となるシリコン基板の表面に形成した二酸化シリコン膜をマスクとしてウェットエッチングすることによって形成されている。
【0029】
図4は、本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造方法のうちの第1パターニング工程を説明するための図である。図5は、本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造方法のうちの第2パターニング工程及びメッキ層形成工程を説明するための図である。
【0030】
先ず、図4(a)に示すように、保護基板30となる表面が二酸化シリコン膜で覆われたシリコン基板上に、順次、密着層211と金属層213とをスパッタ法によって全面に亘って成膜する。密着層211は、100nm程度の厚さで形成され、金属層213は、200nm程度の厚さで形成される。
次に、金属層213上にレジストを塗布等することによりレジストパターン160を形成する。具体的には、例えば、ネガレジストをスピンコート法等により金属層213上に塗布し、その後、所定形状のマスクを用いて露光・現像等を行うことによって所定パターンのレジストを形成する。勿論、ネガレジストの代わりにポジレジストを用いてもよい。
【0031】
次に、図4(b)に示すように、このレジストパターン160をマスクとして、金属層213をウェットエッチングして所定形状にパターニングする。すなわち、密着層211が露出するまで金属層213をウェットエッチングする。
次いで、図4(c)に示すように、レジストパターン160をマスクとして密着層211をウェットエッチングして所定形状にパターニングする。すなわち、保護基板30の表面が露出するまで密着層211をウェットエッチングする。このとき、密着層211は、深さ方向にエッチングされると共に面内方向にもエッチング(サイドエッチング)され、金属層213の下側の一部まで除去されてしまう。なお、この一因としては、金属層213と密着層211との間で生じる電食反応が考えられる。
【0032】
次に、図5(a)に示すように、レジストパターン160を除去することなく、金属層213をさらにエッチング(サイドエッチング)することにより、金属層213の大きさを、密着層211の外縁部よりも小さくする。換言すると、金属層213の幅を、密着層211の幅未満にする。この第2パターニング工程では、後の工程で形成するメッキ層214の厚みに応じて、例えばエッチング時間等を管理することで、金属層213のエッチング量を調整する。本実施形態のように、配線部210の所定の電気特性を確保するために、メッキ層214の厚みを、例えば、上述のように1200nm程度と設定した場合には、金属層213の幅方向のエッチング量(図3において符号aで示す)を、当該メッキ層214の厚みと同等か、それ以上に大きくするように調整する。
【0033】
次いで、図5(b)に示すように、レジストパターン160を除去する。
そして、メッキ層形成工程として、図5(c)に示すように、メッキ法により、少なくとも金属層213の上にメッキ層214を形成すると共に、メッキ層214の幅を、密着層211の幅以下に調整する。このメッキ法としては、例えば無電解メッキ法を用いることができ、保護基板30を50℃程度のメッキ液に浸漬させ、金属層213を自己触媒としてメッキ液中の金(Au)を化学的に析出させることにより、所定厚のメッキ層214を形成する。
【0034】
メッキ法では、厚み方向と略同じ分だけ幅方向にもメッキ層214が形成されることから、前の第2パターニング工程において、メッキ層214の厚みに応じて、金属層213の幅方向のエッチング量を調整することで、配線部210の所定の電気特性を確保できる厚みを維持しつつ、メッキ層214の密着層211からのはみ出しを防止することができる。以上により、保護基板30上に、図3に示すような、密着層211の大きさが、金属層213及びメッキ層214の外縁部よりも大きく形成された配線部210を設けることができる。
【0035】
なお、このように形成された保護基板30を、圧電素子300が形成された流路形成基板10と接合し、接合した側と逆側の流路形成基板10を研磨及びフッ硝酸によるエッチングにより所定の厚さとした後、窒化シリコンからなるマスクを形成し、このマスクを介して異方性エッチングすることで、圧力発生室12や連通部13等を形成し、さらに、連通部13とリザーバ部32とを連通させてリザーバ100を形成する。その後、配線部210上に駆動IC220を実装すると共に、駆動IC220とリード電極90とを駆動配線200を介して接続する。さらに、流路形成基板10に、ノズルプレート20を接合すると共に、保護基板30に、コンプライアンス基板40を接合することによって、図1及び図2に示す構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0036】
続いて、上記のように形成された配線部210の作用効果について、図6に示す配線部310と比較して説明する。
図6は、密着層311の大きさが、メッキ層314の外縁部よりも小さく形成された配線部310を示す参考図である。
【0037】
図3及び図6に示すように、メッキ法により形成されたメッキ層214,314は、スパッタ法により形成された金属層213,313よりも表面が粗く、毛細管力が働き易い。この一因としては、スパッタの付着作用によるものと、メッキの析出作用によるものとの成膜法の違いが考えられる。図6に示すように、密着層311の大きさが、メッキ層314の外縁部よりも小さく形成され、メッキ層314が密着層311からはみ出した場合、保護基板30とメッキ層314との間に微小な隙間(具体的には、密着層311の厚み分である100nm程度以下の隙間)が形成される。
【0038】
このような隙間が形成されると、保護基板30に所定部材(例えば、コンプライアンス基板40)を接着する際に用いた接着剤が、当該隙間に沿って流れ出し易くなる。また、当該隙間に沿って流れ出した接着剤が、メッキ層314の表面の毛細管力により、メッキ層314の表面に乗り上がり、絶縁膜を形成し、その上に実装される駆動IC220との電気的な接続を不良とさせる場合がある。また、このような場合、メッキ層314の密着層311から浮いたはみ出し部を起点として、金属層313及びメッキ層314の剥離が生じやすくなる。
【0039】
一方、本実施形態の配線部210によれば、上述の電気的接続不良及び剥離を抑制できる。すなわち、本実施形態の配線部210によれば、図3に示すように、密着層211の大きさが、金属層213及びメッキ層214の外縁部よりも大きく形成されているため、図6に示すような微小な隙間が形成されなくなり、接着剤が配線部210に沿って流れ出し難くなる。また、接着剤が、密着層211に沿って微量で流れ出したとしても、密着層211は、スパッタ法により形成され毛細管力が働き難い表面を有することから、接着剤は、当該密着層211によって堰き止められ、結果、メッキ層214の表面への接着剤の接触及び乗り上がりを防止できる。
【0040】
また、金属層213及びメッキ層214は、密着層211の外縁部よりも小さく形成されるため、メッキ層214の密着層211からのはみ出し部が形成されず、当該はみ出し部を起点とする金属層213及びメッキ層214の剥離が生じ難くなる。また、本実施形態のメッキ層214は、金属層213の上から、密着層211の上にも延出して設けられている。このため、メッキ層214が金属層213からはみ出しても、密着層211からの浮きが生じることがなく、より剥離が生じ難くなる。
【0041】
また、金属層213及びメッキ層214は、金(Au)から形成され、メッキ層214が、数十℃程度の低温雰囲気下で成膜できて熱収縮による膜応力が小さく、且つ、比抵抗が小さいメッキの層であるため、金属層213のみの場合よりも、保護基板30に対する反りを低減でき、また、比抵抗を小さくすることができる。
下の表1は、配線部210を、密着層211と金属層213で形成した従来例と、図3に示すように密着層211と金属層213とメッキ層214とで形成した実施例の、比抵抗及び反りの比較を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
このように、上述した本実施形態によれば、配線部210が、保護基板30に形成された密着層211と、密着層211に形成された金属層213と、少なくとも金属層213に形成されたメッキ層214とを有し、密着層211は、金属層213およびメッキ層214の外縁部よりも大きく形成されているという構成を採用することによって、メッキ法を採用するにあたり生じ得る配線部210の電気的接続不良及び剥離を抑制でき、且つ、低抵抗で、保護基板30の反りを低減することができる。
【0044】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0045】
例えば、上述した実施形態では、配線基板として保護基板30を例示して説明したが、同様に配線パターンが形成される基板、例えば、流路形成基板10に本発明を適用してもよい。
【0046】
さらに、上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0047】
勿論、本発明は、このような液体噴射ヘッドだけでなく、基板上に配線パターンを有するあらゆる配線基板及びその製造に適用可能なものである。
【符号の説明】
【0048】
10…流路形成基板(第1の基板)、12…圧力発生室、21…ノズル、30…保護基板(配線基板、第2の基板)、160…レジストパターン、210…配線部、211…密着層、213…金属層、214…メッキ層、220…駆動IC(駆動部)、300…圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、
前記圧力発生室に対向して前記流路形成基板に設けられ、前記圧力発生室内の液体に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、
前記圧力発生手段を収容する保持部を有し、前記流路形成基板の前記圧力発生手段が設けられている面に接合される保護基板と、
前記保護基板の前記流路基板と接合される面とは反対側の面に設けられた配線部と、
を備え、
前記配線部は、前記保護基板に形成された密着層と、前記密着層に形成された金属層と、少なくとも前記金属層に形成されたメッキ層とを有し、
前記密着層は、前記金属層および前記メッキ層の外縁部よりも大きく形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記メッキ層は、前記密着層にも延出して設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記金属層および前記メッキ層は、金で形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、前記圧力発生室に対向して前記流路形成基板に設けられ前記圧力発生室内の液体に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、前記圧力発生手段を収容する保持部を有し、前記流路形成基板の前記圧力発生手段が設けられている面に接合される保護基板と、前記保護基板の前記流路基板と接合される面とは反対側の面に設けられた配線部と、を備えた液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記保護基板上に、スパッタ法により密着層と金属層とを順次形成し、前記密着層と前記金属層とをエッチングすることによりパターニングする第1パターニング工程と、
前記第1パターニング工程によりエッチングされた前記金属層を、前記密着層の外縁部よりも小さくなるようにさらにエッチングする第2パターニング工程と、
メッキ法により、少なくとも前記第2パターニング工程によりエッチングされた前記金属層に、メッキ層を形成するメッキ層形成工程と、
を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記メッキ層形成工程は、前記メッキ層を前記密着層にも延出して形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−206386(P2012−206386A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73923(P2011−73923)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】