説明

液体噴射ヘッド

【課題】効率よく液体噴射ヘッド内の流路を加熱することができる液体噴射ヘッドを提供する。
【解決手段】列状に並んだ複数のノズル23から構成されたノズル列27を形成し、前記ノズルに連通する流路を備えた流路ユニット24と、該流路ユニットの前記流路に液体を供給する共通液体流路29を形成し、前記流路ユニットが接合されたヘッドケース19と、該ヘッドケースの側面に装着され、発熱可能な一連の電熱線46を複数折り返して備えたシート状のヒーター25と、を備えた液体噴射ヘッドであって、前記共通液体流路に対向する箇所の近傍の領域に配設された電熱線が、当該領域以外に配設された電熱線より細い構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルに連通する圧力室に圧力変動を与えて、圧力室内の液体をノズルから噴射させるインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液滴として噴射させる液体噴射ヘッドとしては、例えば、インクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)などの画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)、液晶ディスプレイなどのカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro
Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)などの電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどがある。
【0003】
例えば、上記の記録ヘッドでは、リザーバーから圧力室を経てノズルに至る一連の液体流路が形成された流路ユニットや圧力室の容積を変動可能な圧力発生素子を有するアクチュエーターユニットなどを樹脂製のヘッドケースに取り付けて構成されているものがある。上記流路ユニットには、複数のノズルを開設したノズルプレートが接合されている。
【0004】
このような記録ヘッドから噴射する液体には、例えば、常温でおよそ4mPa・sなどのように、噴射に適した粘度がある。液体の粘度は、温度と相関関係にあり、温度が低いほど粘度が高くなり、温度が高いほど粘度が低くなる傾向がある。また、例えば、紫外線硬化型インク等のように常温で8mPa・s以上の所謂高粘度領域の液体を噴射する用途に記録ヘッドが用いられる場合もある。そのため、環境温度に拘わらず各ノズルから噴射される液体の粘度を噴射に適した値に揃えるために、液体を加熱するためのヒーターを備えた記録ヘッドが知られている。このようなヒーターとしては、電熱線が途中で複数折り返されて波形状に配線された薄手のシート状のものが知られている。また、記録ヘッド内部のインクを均一に加熱するために、記録ヘッドの中央部に配設された電熱線の配線間隔を記録ヘッドの端部に配設された電熱線の配線間隔より広げて発熱量を変化させたヒーターが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−081597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のようなヒーターでは、記録ヘッドの流路以外の領域も均一に温めるため、必要以上にヒーターが発熱し、効率が悪い。特に、記録ヘッドが比較的大型なものは記録ヘッドの流路以外の領域も広くなるため、ヒーターの発熱量が多くなり、ひいては、ヒーターの消費電力が増大する。また、記録ヘッドの側面において、流路と対向する領域のみにヒーターを配置する場合、流路と対向しない領域から記録ヘッドの熱が放熱されるので、保温性が良くない。さらに、複数の流路に対応して複数のヒーターを装着する場合、製造が困難になる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、効率よく記録ヘッド内の流路を加熱することができる液体噴射ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、複数のノズルから構成されたノズル列を形成し、前記ノズルに連通する流路を備えた流路ユニットと、
該流路ユニットの前記流路に液体を供給する共通液体流路を形成し、前記流路ユニットが接合されたヘッドケースと、
該ヘッドケースの側面に装着され、発熱可能な一連の電熱線を複数折り返して備えたシート状のヒーターと、を備えた液体噴射ヘッドであって、
前記共通液体流路に対向する箇所の近傍の領域に配設された電熱線が、当該領域以外に配設された電熱線より細いことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、共通液体流路に対向する箇所における電熱線の発熱量を増加させることができ、液体噴射ヘッド内のインクの流路である共通液体流路を積極的に加熱することができる。このため、効率よくインクを加熱することができ、ヒーターの消費電力を抑えることができる。また、共通液体流路に対向しない箇所にも電熱線を配置しているので、流路内のインクが液体噴射ヘッド外へ放熱することを防ぎ、保温性を高めることができる。さらに、電熱線が配設されない領域を減らすことができるため、ヒーターの剛性を高めることができ、ヒーターを液体噴射ヘッドへ装着するときの組み立て性を向上させることができる。加えて、共通液体流路を複数備えた液体噴射ヘッドの場合でも、それぞれの共通液体流路に対応して複数のヒーターを設ける必要が無いため、容易に製造をすることができる。
【0010】
上記構成において、前記ノズル列方向において両端部に配設された電熱線が、同方向の中央部に配設された電熱線より細いことが望ましい。
この構成によれば、ノズル列方向両端部における電熱線の発熱量を増加させることができ、放熱し易い液体噴射ヘッドの両端部を積極的に加熱することができる。このため、液体噴射ヘッド内のインクの温度ムラを抑えることができる。
【0011】
さらに、折り返されて隣り合う電熱線同士の間隔をそれぞれ一定に揃えた構成を採用することが望ましい。
【0012】
また、前記ヒーター面内の前記ノズル列に直交する方向において、前記流路ユニット側の端部に配設された電熱線が、前記流路ユニットとは反対側の端部に配設された電熱線より細いことが望ましい。
この構成によれば、流路ユニット側の端部における電熱線の発熱量を増加させることができ、放熱し易い流路ユニット側のインクを積極的に加熱することができる。このため、効率よくインクを加熱することができる。
【0013】
さらに、前記ヒーターの膜厚方向において、前記電熱線の厚さが異なる構成を採用することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プリンターの斜視図である。
【図2】液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
【図3】液体噴射ヘッドの平面図である。
【図4】図3におけるA−A線断面図である。
【図5】第1の実施形態におけるヒーターの側面図である。
【図6】第2の実施形態におけるヒーターの側面図である。
【図7】第3の実施形態におけるヒーターの側面図である。
【図8】第4の実施形態におけるヒーターの一部欠截斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、液体噴射装置として、図1に示すインクジェット式記録装置1(以下、単にプリンターという)を例示する。
【0016】
プリンター1は、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド2(以下、単に記録ヘッドという)が取り付けられると共に、記録ヘッド2およびインクカートリッジ4が取り付けられるキャリッジ5と、記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン6と、記録ヘッド2が搭載されたキャリッジ5を記録紙7(ノズルから噴射された液体が着弾する着弾対象の一種)の紙幅方向に移動させるキャリッジ移動機構8と、紙幅方向に直交する方向である紙送り方向に記録紙7を搬送する紙送り機構9等を備えて概略構成されている。ここで、紙幅方向とは、主走査方向(記録ヘッド2の往復移動方向)であり、紙送り方向とは、副走査方向(即ち、記録ヘッド2の走査方向に直交する方向)である。
【0017】
キャリッジ5は、主走査方向に架設されたガイドロッド10に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構8の作動により、ガイドロッド10に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ5の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー11によって検出され、検出信号が位置情報として制御部(図示せず)に送信される。これにより、制御部はこのリニアエンコーダー11からの位置情報に基づいてキャリッジ5(記録ヘッド2)の走査位置を認識しながら、記録ヘッド2による記録動作(噴射動作)等を制御することができる。
【0018】
記録ヘッド2は、キャリッジ5の下部(記録動作時の記録紙7側)に取り付けられている。インク(液体の一種)を貯留したインクカートリッジ4は、キャリッジに5に対して着脱可能に取り付けられている。また、記録ヘッド2は内部に液体の流路を有しており、この流路がインクカートリッジ4の内部と連通することで、インクカートリッジ4内のインクを記録ヘッド2内に導入できるように構成されている。
【0019】
次に記録ヘッド2の構成について詳しく説明する。図2は記録ヘッド2の分解斜視図であり、図3は記録ヘッド2の平面図、図4は図3におけるA−A線断面図である。本実施形態における記録ヘッド2は、圧電振動子群14、固定板15、及び、フレキシブルケーブル16等をユニット化した振動子ユニット17と、この振動子ユニット17を収納可能なヘッドケース19と、リザーバー(共通インク室)21から圧力発生室22を通りノズル23に至る一連のインク流路を形成する流路ユニット24と、ヘッドケース19の側面に装着されたヒーター25と、ヒーター25の側面に装着されたサーミスター26(温度センサーの一種)と、を備えて構成される。なお、本実施形態における記録ヘッド2は、振動子ユニット17を2つ備えている。
【0020】
ヘッドケース19は、例えば、エポキシ系樹脂などの樹脂により作製された中空箱体状の部材であり、その先端面(下面)には流路ユニット24が接合されている。また、ヘッドケース19の内部には収容空部28が形成され、アクチュエーターの一種である前記振動子ユニット17を収容している。本実施形態では、収容空部28は、固定板15が収容される固定板収容空部28aと圧電振動子群14が収容される圧電振動子収容空部28bから構成され、圧電振動子収容空部28b側を対向させて2つ設けられている(図3参照)。また、この2つの収容空部28を挟んだ両側には、共通液体流路29が片側に3本(合計6本)並んで形成されている。本実施形態では、片側の3本の共通液体流路29をノズル列方向における記録ヘッド2の両側端部および中央部に形成している。この共通液体流路29は、インクカートリッジ4側からのインクをリザーバー21に供給するための流路であり、ヘッドケース19の高さ方向を貫通して形成されている。そして、これらの共通液体流路29に対向する側面には、後述するヒーター25及びサーミスター26が備えられている。
【0021】
次に、振動子ユニット17について説明する。圧電振動子群14を構成する圧電振動子30(圧力発生素子の一種)は、基材である圧電振動板31を数十μm程度の極めて細い幅に切り分けることで、縦方向に細長い櫛歯状に形成されている。そして、この圧電振動子30は縦方向に伸縮可能な縦振動型の圧電振動子30として構成されている。各圧電振動子30は、固定端部を固定板15上に接合することにより、自由端部を固定板15の先端縁よりも外側に突出させて所謂片持ち梁の状態で固定されている。そして、各圧電振動子30における自由端部の先端は、後述するように、それぞれ流路ユニット24におけるダイヤフラム部33を構成する島部34に接合される。フレキシブルケーブル16は、固定板15とは反対側となる固定端部の側面で圧電振動子30と電気的に接続されている。このフレキシブルケーブル16の表面には、各圧電振動子30の駆動等を制御するための制御用IC35が実装されている。また、各圧電振動子30を支持する固定板15は、圧電振動子30からの反力を受け止め得る剛性を備えた金属製の板材によって構成されており、本実施形態では、厚さが1mm程度のステンレス鋼板によって作製されている。
【0022】
次に、流路ユニット24について説明する。流路ユニット24は、ノズルプレート37、流路形成基板38、及び振動板39から構成され、ノズルプレート37とは反対側でヘッドケース19に接合している。また流路ユニット24は、ノズルプレート37を流路形成基板38の一方の表面に、振動板39をノズルプレート37とは反対側となる流路形成基板38の他方の表面にそれぞれ配置して積層し、接着等により一体化することで形成される。
【0023】
ノズルプレート37は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル23を列状に開設したステンレス鋼製の薄いプレートである。本実施形態では、例えば、180個のノズル23を列状に開設し、これらのノズル23によってノズル列27を構成している。また、本実施形態では、このノズル列27を横並びに2列設けている。
【0024】
流路形成基板38は、リザーバー21、インク供給口40、及び圧力発生室22からなる一連のインク流路を形成する板状部材である。具体的には、この流路形成基板38は、各ノズル23に対応して連通する複数の圧力発生室22となる空部を隔壁で区画した状態で複数並べて2列に形成すると共に、各圧力発生室22に対応する複数のインク供給口40およびリザーバー21となる空部をそれぞれ2列に形成した板状の部材である。そして、本実施形態の流路形成基板38は、シリコンウェハーをエッチング処理することで作製されている。上記の圧力発生室22は、ノズル23の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成され、インク供給口40は、圧力発生室22とリザーバー21との間を連通する流路幅の狭い狭窄部として形成されている。また、リザーバー21は、後述する振動板39のインク導入口41およびヘッドケース19の共通液体流路29を介して上部でインクカートリッジ4と連通すると共に、インク供給口40を介して対応する各圧力発生室22に連通している。このため、リザーバー21はインクカートリッジ4に貯留されたインクを各圧力発生室22に供給することができる。つまり、インク導入口41、リザーバー21、インク供給口40および圧力発生室22がノズル23に連通する一連の流路(本発明における流路に相当)を形成する。
【0025】
振動板39は、ステンレス鋼等の金属製の支持板42上にPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂フィルム43をラミネート加工した二重構造の複合板材であり、共通液体流路29に連通するインク導入口41を上下方向に貫通させている。本実施形態では、6本の共通液体流路29に対応して6つのインク導入口41を開口させており、1列のリザーバー21に対して3つのインク導入口41を連通させている。また、振動板39は、圧力発生室22の一方の開口面を封止してこの圧力発生室22の容積を変動させるためのダイヤフラム部33を有すると共に、リザーバー21の一方の開口面を封止するコンプライアンス部44が2列形成されている。そして、ダイヤフラム部33は、圧力発生室22に対応した部分の支持板42にエッチング加工を施し、当該部分を環状に除去して圧電振動子30の自由端部の先端を接合するための島部34を複数形成することで構成されている。この島部34は、圧力発生室22の平面形状と同様に、ノズル23の列設方向と直交する方向に細長いブロック状であり、この島部34の周りの樹脂フィルム43が弾性体膜として機能する。また、コンプライアンス部44として機能する部分、すなわちリザーバー21に対応する部分は、このリザーバー21の開口形状に倣って支持板42がエッチング加工で除去されて樹脂フィルム43のみとなっている。
【0026】
そして、上記の島部34には圧電振動子30の先端面が接合されているので、この圧電振動子30の自由端部を伸縮させることで圧力発生室22の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力発生室22内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル23からインク滴を噴射(吐出)させる。
【0027】
次に、ヒーター25について図5を用いて説明する。本実施形態のヒーター25は、発熱可能な一連の電熱線46(ニッケル合金、ステンレス鋼等)をポリイミド樹脂等で挟み込んだシート状(フィルム状)のヒーター25である。このヒーター25は、ヘッドケース19の共通液体流路29が並設された側の側面(本実施形態では、図3における上側の一側面と、図3における下側の他側面)の全面を覆うように、熱伝導率の高い(例えば、100(W・m−1・K−1)以上の)接着剤等(シリコングリス等)を用いて装着されている。また、電熱線46は、ヒーター25の面内を蛇行して(複数折り返して)配設されると共に、ノズル列方向(図3又は図5における左右方向)においてヒーター25の電熱線46の太さを異ならせて配設されている。そして、共通液体流路29に対向する箇所の近傍の領域に配設された電熱線46が、当該領域以外に配設された電熱線46より細くなっている。なお、図5では、ヒーター25を記録ヘッド2に装着した場合における共通液体流路29の位置を一点鎖線で図示している。
【0028】
詳しくは、図5に示すように、電熱線46は、ヒーター25の上辺(インクカートリッジ4側の辺)において、一側端部に陽極側端部46a、他側端部に陰極側端部46bを有しており、陽極側端部46a又は陰極側端部46bから上辺に対して垂直方向(図5における上下方向)に沿って延伸し、下辺端部でヒーター25の上辺側に向けてU字状に折り返されると、再び垂直方向に沿って延伸し、上辺端部でヒーター25の下辺側に向けてU字状に折り返されている。このような延伸および折り返しを複数回繰り返すことで、電熱線46は波形に蛇行して配線される。このため、垂直方向に沿って延伸された電熱線46の各直線部分46cは、お互いが平行に、ノズル列方向に沿って並んでいる。本実施形態の電熱線46は、10本の直線部分46cから構成されている(図5参照)。そして、記録ヘッド2の両側端部および中央部に形成された共通液体流路29に対応して、ヒーター面内における両側端部および中央部に配設された電熱線46の直線部分46cを残りの領域(当該両側端部および中央部以外の領域)に配設された電熱線46の直線部分46cより細くしている。加えて、ヒーター面内の両側端部に配設された直線部分46cをヒーター面内の中央部に配設された直線部分46cより細くしている。本実施形態では、直線部分46cが10本並列しており、ノズル列方向において、中央部に配設された3本の直線部分46cを、両側端部に配設された5本(図5において左側端部2本、右側端部3本)の直線部分46cより幅広に形成している。また、これらの中央部および両側端部の間にそれぞれ配設された直線部分46cは、最も幅広に形成されており、本実施形態では、この直線部分46cを、中央部と左側端部および右側端部との間に1本ずつ配設している(例えば、ノズル列方向において、中央部に配設された3本の直線部分46cの線幅が0.5mm、両側端部に配設された5本の直線部分46cの線幅が0.3mm、残りの直線部分46cの線幅が2mm)。このように、共通液体流路29に対向した箇所と直線部分46cを平面上で重ねて配設しており、電熱線46による熱が効率よく共通液体流路29に伝わるように構成してある。なお、本実施形態の電熱線46は、ヒーター25の膜厚方向における厚さをヒーター面内で一様にしている(例えば、電熱線46の厚さが0.03mm)。また、電熱線46の陽極側端部46aおよび陰極側端部46bは、リード線等で温度制御部(図示せず)に電気的に接続されており、温度制御部によって陽極側端部46aから陰極側端部46bに向けて電流を流すことができる。そして、この温度制御部からの電流量を調整することによってヒーター25の発熱量が調整されている。
【0029】
サーミスター26は、ヒーター25の温度を測定する温度センサーであり、ヒーター25のヘッドケース19に対する装着面とは反対側の表面に装着されている。本実施形態におけるサーミスター26は、ヒーター25の中央部に装着されている(図3、4参照)。詳しくは、サーミスター26は、ヒーター25と対抗する面に温度を計測するセンサー部を有しており、本実施形態では、直方体状のサーミスター26の底面にセンサー部を形成している。そして、サーミスター26は、熱伝導率の高い接着剤等を用いて底部(サーミスター26のセンサー部)がヒーター25に対向するように接着されている。なお、サーミスター26のセンサー部以外の箇所には、リード線等(図示せず)が接続されており、このリード線等を介して温度制御部(図示せず)がサーミスター26の温度情報を読み取っている。この温度情報に基づいて、温度制御部がヒーター25(電熱線46)の発熱量を調整し、ヒーター25の発熱によって記録ヘッド2内のインクを所定の温度に温めることができる。
【0030】
このように、本実施形態におけるヒーター25は、共通液体流路29に対向する箇所の近傍の領域に配設された電熱線46が、当該領域以外に配設された電熱線46より細くしたので、共通液体流路29に対向する箇所における電熱線46の発熱量を増加させることができ、記録ヘッド2内のインクの流路である共通液体流路29を積極的に加熱することができる。このため、効率よくインクを加熱することができ、ヒーター25の消費電力を抑えることができる。また、共通液体流路29に対向しない箇所にも電熱線46を配置しているので、流路内のインクが記録ヘッド2外へ放熱することを防ぎ、保温性を高めることができる。さらに、電熱線46が配設されない領域を減らすことができるため、ヒーター25の剛性を高めることができ、ヒーター25を記録ヘッド2へ装着するときの組み立て性を向上させることができる。加えて、共通液体流路29を複数備えた記録ヘッド2の場合でも、それぞれの共通液体流路29に対応して複数のヒーター25を設ける必要が無いため、容易に製造をすることができる。また、本実施形態では、ノズル列方向において両端部に配設された電熱線46が、同方向の中央部に配設された電熱線46より細い構成にしたので、ノズル列方向両端部における電熱線46の発熱量を増加させることができ、放熱し易い記録ヘッド2の両端部を積極的に加熱することができる。このため、記録ヘッド2内のインクの温度ムラを抑えることができる。
【0031】
ところで、ヒーター面内の発熱量を変える構成は、上記した第1の実施形態に限定されない。例えば、他の実施形態として、図6〜8に第2〜4の実施形態を示す。なお、図7では、ヒーター25を記録ヘッド2に装着した場合における共通液体流路29の位置を一点鎖線で図示している。また、図6、8についても、図示していないが、図5、7と同様の位置に共通液体流路29が形成されている。
【0032】
図6に示す第2の実施形態では、折り返されて隣り合う電熱線46同士の間隔、即ち、電熱線同士の間の電熱線46が形成されない部分のノズル列方向の幅をそれぞれ一定に揃えた点で、上記第1の実施形態と異なる。詳しくは、第1の実施形態と同様に、電熱線46は、共通液体流路29に対応して、ヒーター面内における両側端部および中央部に配設された直線部分46cを残りの領域(当該両側端部および中央部以外の領域)に配設された直線部分46cより細くしている。また、ヒーター面内の両側端部に配設された直線部分46cをヒーター面内の中央部に配設された直線部分46cより細くしている。これに加えて、各直線部分46cのうち、隣り合う直線部分46c同士の間隔d1は、一定に揃えられている(例えば、0.5mm間隔)。なお、その他の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0033】
このように、折り返されて隣り合う電熱線46同士の間隔をそれぞれ一定に揃えたので、電熱線46の間隔が密になることを防ぎ、ヒーター25を容易に製造することができる。例えば、電熱線46のパターンをウェットエッチングにより形成する場合、電熱線46の直線部分46cの間隔が狭すぎると、エッチング液が染み込み難くなり、電熱線46の線幅が狙い通りに形成されない虞があったが、本実施形態ではこのような心配がない。また、共通液体流路29に対向する箇所の近傍の領域に配設された電熱線46が、当該領域以外に配設された電熱線46より細くしたので、共通液体流路29に対向する箇所における電熱線46の発熱量を増加させることができ、記録ヘッド2内のインクの流路である共通液体流路29を積極的に加熱することができる。このため、効率よくインクを加熱することができ、ヒーター25の消費電力を抑えることができる。また、共通液体流路29に対向しない箇所にも電熱線46を配置しているので、流路内のインクが記録ヘッド2外へ放熱することを防ぎ、保温性を高めることができる。さらに、電熱線46が配設されない領域を減らすことができるため、ヒーター25の剛性を高めることができ、ヒーター25を記録ヘッド2へ装着するときの組み立て性を向上させることができる。加えて、共通液体流路29を複数備えた記録ヘッド2の場合でも、それぞれの共通液体流路29に対応して複数のヒーター25を設ける必要が無いため、容易に製造をすることができる。また、ノズル列方向において両端部に配設された電熱線46が、同方向の中央部に配設された電熱線46より細い構成にしたので、ノズル列方向両端部における電熱線46の発熱量を増加させることができ、放熱し易い記録ヘッド2の両端部を積極的に加熱することができる。このため、記録ヘッド2内のインクの温度ムラを抑えることができる。
【0034】
図7に示す第3の実施形態では、ヒーター面内において、ノズル列方向だけでなく、ノズル列27に直交する方向にも、電熱線46の線幅を変更している。つまり、ヒーター面内のノズル列27に直交する方向において、流路ユニット24側の端部に配設された電熱線46が、流路ユニット24とは反対側の端部に配設された電熱線46より細くなっている。詳しくは、電熱線46の直線部分46cは、流路ユニット24側(図7における下側)の端部から、流路ユニット24とは反対側(図7における上側)の端部に向けて、線幅が徐々に広がる扇状に形成されている。このため、流路ユニット24側の端部で線幅が最小になり、流路ユニット24とは反対側の端部で線幅が最大になる。本実施形態では、ヒーター25の両側端の直線部分46c(陽極側端部46aおよび陰極側端部46bから垂直に延伸した直線部分46c)以外の直線部分46cの線幅がノズル列27に直交する方向に異なる構成を採用している。加えて、電熱線46は、共通液体流路29に対応して、ヒーター面内における両側端部および中央部に配設された直線部分46cを残りの領域(当該両側端部および中央部以外の領域)に配設された直線部分46cより細くしている。また、ヒーター面内の両側端部に配設された直線部分46cをヒーター面内の中央部に配設された直線部分46cより細くしている。具体的には、直線部分46cが10本並列しており、ノズル列方向において、中央部に配設された3本の直線部分46cを、両側端部に配設された線幅を変更しない直線部分46cを除いた3本(図7において左側端部1本、右側端部2本)の直線部分46cより幅広に形成している。また、これらの中央部および両側端部の間にそれぞれ配設された直線部分46cは、最も幅広に形成されており、本実施形態では、この直線部分46cを、中央部と左側端部および右側端部との間に1本ずつ配設している(例えば、ノズル列方向において、両側端に配設された線幅を変更しない直線部分46cの線幅が0.3mm、中央部に配設された3本の直線部分46cの最大線幅が0.7mm、最小線幅が0.5mm、両側端部に配設された線幅を変更しない直線部分46cを除いた3本の直線部分46cの最大線幅が0.5mm、最小線幅が0.3mm、中央部と左側端部および右側端部との間に配設された直線部分46cの最大線幅が2.0mm、最小線幅が1.5mm)なお、その他の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0035】
このように、ヒーター面内のノズル列27に直交する方向において、流路ユニット24側の端部に配設された電熱線46が、流路ユニット24とは反対側の端部に配設された電熱線46より細いので、流路ユニット24側の端部側の電熱線46の発熱量を増加させることができ、放熱し易い流路ユニット24側のインクを積極的に加熱することができる。このため、効率よくインクを加熱することができる。また、共通液体流路29に対向する箇所の近傍の領域に配設された電熱線46が、当該領域以外に配設された電熱線46より細くしたので、共通液体流路29に対向する箇所における電熱線46の発熱量を増加させることができ、記録ヘッド2内のインクの流路である共通液体流路29を積極的に加熱することができる。このため、効率よくインクを加熱することができ、ヒーター25の消費電力を抑えることができる。また、共通液体流路29に対向しない箇所にも電熱線46を配置しているので、流路内のインクが記録ヘッド2外へ放熱することを防ぎ、保温性を高めることができる。さらに、電熱線46が配設されない領域を減らすことができるため、ヒーター25の剛性を高めることができ、ヒーター25を記録ヘッド2へ装着するときの組み立て性を向上させることができる。加えて、共通液体流路29を複数備えた記録ヘッド2の場合でも、それぞれの共通液体流路29に対応して複数のヒーター25を設ける必要が無いため、容易に製造をすることができる。また、ノズル列方向において両端部に配設された電熱線46が、同方向の中央部に配設された電熱線46より細い構成にしたので、ノズル列方向両端部における電熱線46の発熱量を増加させることができ、放熱し易い記録ヘッド2の両端部を積極的に加熱することができる。このため、記録ヘッド2内のインクの温度ムラを抑えることができる。
【0036】
また、上記した各実施形態では、電熱線46の線幅を変えてヒーター面内の発熱量を調整したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図8に示す第4の実施形態では、ヒーター25の膜厚方向において、電熱線46の厚さを異ならせることで、ヒーター面内の発熱量を調整している。
【0037】
第4の実施形態では、電熱線46の直線部分46cが10本並列しており、ノズル列方向において、中央部(中央部に形成された共通液体流路29に対向する箇所の近傍の領域)に配設された2本の直線部分46cを、両側端部(両側端部に形成された共通液体流路29に対向する箇所の近傍の領域)に配設された4本(図7において左側端部2本、右側端部2本)の直線部分46cより厚膜に形成している。また、これらの中央部および両側端部の間にそれぞれ配設された4本の直線部分46cは、最も厚膜に形成されており、本実施形態では、この直線部分46cを、中央部と左側端部および右側端部との間に2本ずつ配設している(例えば、ノズル列方向において、中央部に配設された2本の直線部分46cの膜厚が0.04mm、両側端部に配設された4本の直線部分46cの膜厚が0.03mm、残りの直線部分46cの膜厚が0.08mm)。なお、電熱線46の線幅は一定に揃えられており、並列する直線部分46cのピッチも一定に揃えられている。また、その他の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0038】
このように、共通液体流路29に対向する箇所の近傍の領域に配設された電熱線46が、当該領域以外に配設された電熱線46より薄膜に構成されているので、共通液体流路29に対向する箇所における電熱線46の発熱量を増加させることができ、記録ヘッド2内のインクの流路である共通液体流路29を積極的に加熱することができる。このため、効率よくインクを加熱することができ、ヒーター25の消費電力を抑えることができる。また、共通液体流路29に対向しない箇所にも電熱線46を配置しているので、流路内のインクが記録ヘッド2外へ放熱することを防ぎ、保温性を高めることができる。さらに、電熱線46が配設されない領域を減らすことができるため、ヒーター25の剛性を高めることができ、ヒーター25を記録ヘッド2へ装着するときの組み立て性を向上させることができる。加えて、共通液体流路29を複数備えた記録ヘッド2の場合でも、それぞれの共通液体流路29に対応して複数のヒーター25を設ける必要が無いため、容易に製造をすることができる。また、ノズル列方向において両端部に配設された電熱線46が、同方向の中央部に配設された電熱線46より薄膜に構成にしたので、ノズル列方向両端部における電熱線46の発熱量を増加させることができ、放熱し易い記録ヘッド2の両端部を積極的に加熱することができる。このため、記録ヘッド2内のインクの温度ムラを抑えることができる。
【0039】
さらに、本発明は、上記第1〜第4実施形態の電熱線46に限らず、各実施形態の全てもしくは一部の特徴を組み合わせた電熱線46としてもよい。例えば、電熱線46の線幅だけでなく厚さも同時に変更する構成でも良く、またヒーター面内のノズル列27に直交する方向において、流路ユニット24側の端部に配設された電熱線46を、流路ユニット24とは反対側の端部に配設された電熱線46より薄膜に構成しても良い。要は、共通液体流路29に対向する箇所の近傍の領域に配設された電熱線46の線幅および厚さを変更することで電熱線46の発熱量を増加し、共通液体流路29を積極的に加熱できればよい。
【0040】
また、上記実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動モードの圧電振動子を例示したが、これには限られない。例えば、所謂撓み振動モードの圧電振動子や発熱素子を用いる場合にも本発明を適用することが可能である。さらに、上記実施形態では、サーミスターを例示したが、これには限られない。例えば、熱電対等の温度センサーを用いても良い。
【0041】
そして、本発明は、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…プリンター,2…記録ヘッド,4…インクカートリッジ,17…振動子ユニット,19…ヘッドケース,24…流路ユニット,25…ヒーター,26…サーミスター,29…共通液体流路,46…電熱線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルから構成されたノズル列を形成し、前記ノズルに連通する流路を備えた流路ユニットと、
該流路ユニットの前記流路に液体を供給する共通液体流路を形成し、前記流路ユニットが接合されたヘッドケースと、
該ヘッドケースの側面に装着され、発熱可能な一連の電熱線を複数折り返して備えたシート状のヒーターと、を備えた液体噴射ヘッドであって、
前記共通液体流路に対向する箇所の近傍の領域に配設された電熱線が、当該領域以外に配設された電熱線より細いことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ノズル列方向において両端部に配設された電熱線が、同方向の中央部に配設された電熱線より細いことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
折り返されて隣り合う電熱線同士の間隔をそれぞれ一定に揃えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記ヒーター面内の前記ノズル列に直交する方向において、前記流路ユニット側の端部に配設された電熱線が、前記流路ユニットとは反対側の端部に配設された電熱線より細いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記ヒーターの膜厚方向において、前記電熱線の厚さが異なることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−71440(P2012−71440A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216566(P2010−216566)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】