説明

液体塗布装置および液体塗布方法

【課題】塗布液を高精度にかつ安定して、ストライプ状に塗布することを可能にする。
【解決手段】インク20をポンプなどによって塗布液供給口10からノズル1に供給し、ノズル1内の塗布液用マニホールド8により塗布方向に対して直交する方向に分配した後、塗布液吐出口2から吐出させる。同時に、圧縮空気などの気体を、コンプレッサーなどによって気体供給口11からノズル1に供給し、ノズル1内の気体用マニホールド9により塗布方向に対して直交する方向に分配した後、気体吐出口3から吐出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクなどの液体を塗布対象物上の所定位置に塗布する液体塗布装置およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、微細なストライプ状のパターン塗布膜を形成する代表的な方法としてフォトリソグラフィー法がある。この方法としては、被塗布材上に感光性材料をウェット方式(液状の感光剤を塗布して乾燥させる方式)、あるいはドライ方式(膜状の感光性フィルムを貼り付ける方式)により膜形成した後、露光・現像・乾燥工程を経て所望のパターン塗布膜を形成するものである。
【0003】
また、フォトグラフィー法によらず、パターンを直接形成する方法として、インクジェット法やスクリーン印刷法、あるいはダイからインクを吐出する方法などが挙げられる。
【0004】
前記方法のうち、フォトグラフィー法では微細なパターンを比較的精度良く形成することが可能であるが、工程数が多く、使用する装置も非常に高価となることや、露光・現像工程により大量の材料を廃棄するため、材料コストが嵩むという問題がある。
【0005】
また、フォトグラフィー法を用いずに直接形成する方法のうち、インクジェット法では、細管のノズルから塗布液を安定して吐出させるためのピエゾ素子による吐出機構の作製が必要となることや、ピエゾ素子を精密に駆動するための複雑な制御系が必要となることなどから、技術的な課題が多くあると共に装置が非常に高価になるという問題がある。
【0006】
また、スクリーン印刷法では、製造装置が比較的安価で工程数も比較的少ないことから量産に適しているが、スクリーン版の変形や経時変化のため、長期間連続して高精度なパターンを得難いという問題がある。
【0007】
そこで、近年、ダイからインクを吐出する方法に期待が高まってきている。
【0008】
次に、従来のダイからインクを吐出する方法における課題について、図8〜図12を参照して詳細に説明する。
【0009】
図8(a)〜(e)はストライプ状の塗布を行う際の従来法のノズルからの塗布液の吐出状態を示す説明図であって、図8の(a)〜(e)において、上図がノズル側方から見た図、下図が吐出口側から見た図である。なお、図8では1つの塗布液吐出口に注目しており、実際にストライプ状塗布を試みる際には、これを複数並べた配置構造とする。
【0010】
図8において、2は塗布液吐出口、4は液溜り、5は被塗布材、13は塗布液、14は塗布された液、21はノズル、23は塗工ギャップ(吐出口を設けた面と被塗布材間の距離)を示している。
【0011】
本従来法において、吐出を開始すると、図8(a)に示すように、塗布液吐出口2から塗布液13が吐出され、やがて図8(b)に示すように、ノズル−被塗布材間に液溜り4が形成される。この液溜り4が形成されると、図8(c)に示すように、ノズル21に対する被塗布材5の相対的な走行により、液溜り4にせん断力が加わる。
【0012】
ここで、塗布液吐出口2がスリット状であり、塗布液吐出口2からベタ塗りで吐出する場合は、塗布方向に直交する方向に液滴が繋がりながら液溜り4を形成するため、液溜り4とノズル21との接触面積が大きく、せん断力に対しても液溜り4が比較的壊れ難い。
【0013】
これに対して、ストライプ状の塗布を行う場合の液溜り4は、塗布方向に直交する方向の繋がりがなく、ベタ塗り時に比べて非常に小さくなるため、せん断力が加わることに対して非常に壊れやすくなり、図8(d),(e)に示すように、塗布膜が途切れ易くなる。特に、微細で薄いストライプ状の塗布を行う際には、吐出量を少なくする必要があるため、この傾向が顕著となる。また、広い塗工ギャップ23で塗布する際にも、同様に、この傾向が顕著となる。
【0014】
図9(a)〜(e)は図8に示す塗布方法に対して途切れを防止して安定した塗布を行う方法の説明図であり、図8に示す塗布状態から吐出量を増加させた場合におけるノズルからの塗布液の吐出状態を示す図であって、図9の(a)〜(e)において、上図がノズル側方から見た図、下図が吐出口側から見た図である。
【0015】
なお、図9においても図8と同様に1つの塗布液吐出口に注目しており、実際にストライプ状塗布を試みる際には、これを複数並べた配置とする。また、以下の説明において、既に説明した部材に対応する部材には同一符号を付して詳しい説明は省略する。
【0016】
図9に示すように、吐出量を増加させると、図8の方法に比べて大きな液溜り4を形成できるため、図9(b)に示すように、ノズル−被塗布材間に液溜り4を形成した後に、液溜り4にせん断力が加わった場合でも、図9(c),(d)に示すように、液溜り4が壊れ難くなり、図8の方法に比べて塗布膜が途切れ難い、安定した塗布が実現できるようになる。
【0017】
しかし、図9の方法では、図10(図9(d)に示す状態をノズル上面から見た図)に示すように、液溜り4が、大きくなると共に塗布方向に対して直交する方向にも広がり、その結果、太く厚い塗布膜15となってしまうため、微細で薄いストライプ状塗布膜の形成は困難となる。
【0018】
特許文献1には、塗布時に前記塗布液吐出口2の塗布方向上流側から気体を供給することにより、ストライプ状の塗布面を形成するという方法が開示されている。
【0019】
図11(a),(b)は塗布液吐出口に対して塗布方向上流側から気体を供給しながらストライプ状の塗布を行う特許文献1に記載されている方法の説明図であり、図11の(a)はノズル部分を示す側面図、(b)はノズル先端部の拡大図である。
【0020】
図11に示す方法では、従来法のノズル21の先端に山・谷形状のくし型状部を形成し、くし型部分の山部分18に塗布液の吐出口を設け、塗布時に上流側からくし型状部の谷部分19の気体供給口11から気体17を供給することにより、塗布膜16の巾方向の濡れ広がりを規制し、ストライプ状の塗布膜16を形成するようにしている。
【特許文献1】特開2003−80147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、前記従来方法では以下のような課題がある。
【0022】
図12(a),(b)は図11に示す方法によるノズルからの塗布液の吐出状態を示す説明図であって、図12の(a),(b)において、上図がノズル側方から見た図、下図が吐出口側から見た図である。
【0023】
図12(a)に示すように、供給された気体17により、液溜り4を塗布方向(被塗布材走行方向)の下流側へ押し出す力が働き、その結果、図12(b)に示すように、液溜り4が壊れ易く、塗布膜が途切れ易くなるという問題がある。
【0024】
また、この方法では、供給する気体17の圧力によって塗布膜の巾を制御するため、微細なストライプ状塗布膜を得るためには、より高圧で気体を供給する必要があるが、そのような場合、その気体17の強い流れにより、液溜り4を塗布方向(被塗布材走行方向)の下流側へ押し出す力が更に強く働くため、液溜り4が壊れて塗布膜が途切れ易くなるという傾向が顕著となる。
【0025】
また、塗工ギャップ23が広くなるほど、供給された気体のノズル−被塗布材間への流れ込みが多くなるため、同様に、液溜り4を塗布方向(被塗布材走行方向)の下流側へ押し出す力が強く働くようになり、液溜り4が壊れて塗布膜が途切れ易くなるという傾向が顕著となる。
【0026】
また、微細で薄いストライプ状塗布膜を得るために少ない吐出量で塗布する場合や、生産性を高めるために速い塗布速度で塗布する場合ほど、液溜り4を維持する力が弱くなるため、液溜り4を塗布方向(被塗布材走行方向)の下流側へ押し出す力により液溜り4が壊れて、塗布膜が途切れ易くなるという傾向が顕著となる。
【0027】
これらのことから、この方法においても、広い塗工ギャップ23で微細なストライプ状塗布膜を高速に安定して形成することは困難となる。
【0028】
近年、例えばフラットパネルの分野などでは、デバイスの薄型化・高精細化の急速な進展により、より大面積に微細で薄いストライプパターンを高い生産性で形成することが望まれてきている。これをダイから塗布液であるインクを吐出する方法で実現するには、(1)被塗布材5の大面積化に伴い被塗布材5の扁肉も大きくなるため、ノズルが被塗布材5と接触しないように広い塗工ギャップ23で塗布できること、(2)薄く高精細パターンとするため少量の吐出量で塗布できること、(3)生産性を高めるため高速に塗布できること、などが必要となる。
【0029】
しかしながら、塗工ギャップ23が広く、少量吐出で、かつ高速な塗布において、従来の塗布時に塗布液吐出口2に対して塗布方向上流側から気体を供給する方法では、上記のような液溜り4が壊れ易いという問題がより顕著となるため、その実現は困難であった。
【0030】
本発明は、このような従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、塗布液を高精度にかつ安定して、ストライプ状に塗布することを可能にした液体塗布装置および液体塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、液体を吐出する液体吐出口と、前記液体吐出口の設置面と同一面において前記液体吐出口の中心からずれた位置に気体を吐出する気体吐出口とが設けられたノズルを備え、前記ノズルにより塗布対象物に液体を塗布する液体塗布装置であって、前記ノズルに前記気体吐出口を、前記液体吐出口に対して塗布方向下流側に設置したことを特徴とし、ノズル−被塗布対象物間の液溜りを安定して形成することができる。
【0032】
請求項2に記載の発明は、前記気体吐出口を複数設置し、前記気体吐出口のうち塗布方向に対して直交する方向の両端部における気体吐出口の断面積が、その他の気体吐出口の断面積と比べて大きくなるように設定したことを特徴とし、塗布方向に対して直交する巾方向の両端部まで均一な塗布を実現することができる。
【0033】
請求項3に記載の発明は、前記ノズルの先端面における塗布方向に対して直交する方向の両端部に凸部を設けたことを特徴とし、塗布方向に対して直交する巾方向の両端部まで均一な塗布を実現することができる。
【0034】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の液体塗布装置を用い、塗布する液体の溶媒が気化した成分を含んだ気体を前記気体吐出口から吐出することを特徴とし、塗布液が乾燥することなく、安定した塗布を実現することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、液体吐出口に対して塗布方向下流側に、気体吐出口を設けて気体を吐出することにより、ノズル−被塗布対象物間の液溜りを安定して形成することができるようになり、高精度にかつ安定して、ストライプ状に塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0037】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における液体塗布装置の構成図である。
【0038】
なお、以下の実施の形態の説明では、有機ELの発光層塗布工程を例にして説明する。
【0039】
図1は本液体塗布装置の側面断面図、図2は本液体塗布装置におけるノズルを吐出口方向(図1中の矢印A方向)から見た図、図3は本液体塗布装置におけるノズルを塗布方向(塗布時のノズルと被塗布材との相対的な走行方向)における上流側(図1中:B)から見た図、図4(a)〜(d)は本液体塗布装置における複数の塗布液吐出口の1つに注目し、その塗布液吐出口からの塗布液の吐出状態を示す説明図であって、図4の(a)〜(d)の上図はノズル側方から見た図、下図は吐出口側から見た図であり、図1〜図3では、これらを複数並べた配置構成となっている。
【0040】
図1〜図4において、1はノズル、2は塗布液吐出口、3は気体吐出口、4は液溜り、5は塗布対象物の被塗布材、6はストライプ状塗布膜(微細で薄いストライプ状塗布膜)、8は塗布液用マニホールド、9は気体用マニホールド、10は塗布液供給口、11は気体供給口、12は塗布方向に対して直交する方向におけるノズル1の先端面の両端部に設けられた凸部、20は塗布液であるインク、23は塗工ギャップ(ノズル1における塗布液吐出口2が設けられている面と被塗布材5との間の距離)を示す。
【0041】
本実施の形態において、図8〜図12に示す従来法のノズル21の構成と異なる点は、気体吐出口3が、塗布液吐出口2に対して、塗布時のノズル1と被塗布材5との相対的な走行方向(塗布方向)の下流側に設けてある構成である。
【0042】
本液体塗布装置における塗布方法について説明する。
【0043】
液体であるインク20をポンプ(図示せず)などによって塗布液供給口10からノズル1に供給し、ノズル1内の塗布液用マニホールド8により塗布方向に対して直交する方向に分配した後、塗布液吐出口2から吐出させる。
【0044】
同時に、圧縮空気などの気体を、コンプレッサー(図示せず)などによって気体供給口11からノズル1に供給し、ノズル1内の気体用マニホールド9により塗布方向に対して直交する方向に分配した後、気体吐出口3から吐出させる。
【0045】
吐出されたインク20はノズル−被塗布材間で液溜り4を形成する(図4(a),(b))。そして、駆動機構(図示せず)によるノズル1と被塗布材5との相対的な走行により液溜り4は、せん断力が加えられ(図4(c))、塗布方向へ伸びる。しかし、気体吐出口3から吐出された気体により、液溜り4には、被塗布材5の塗布方向の上流側に押す力と、該塗布方向に対して直交する方向に液溜り4を挟み込む力22が加えられる(図4(d))。
【0046】
これにより、液溜り4が被塗布材5の塗布方向の下流側へ押し出されて壊れることを防止しつつ、かつ液溜り4が塗布方向に対して直交する方向へ濡れ広がることを防止しながら塗布することが可能になる。
【0047】
その結果、従来では液溜り4を維持する力が弱く、せん断力により液溜り4が壊れ易かった少量吐出、あるいは塗工速度が速い塗布においても、液溜り4を維持できるようになり、図5(図4(d)に示す状態をノズル上面から見た図)に示すように、微細で薄いストライプ状塗布膜6を安定して実現できるようになる。
【0048】
また、前記のように、気体吐出口3から吐出された気体により、液溜り4を、塗布方向の上流側に押す力と、塗布方向に対して直交する方向に挟み込む力22が加えられることにより、吐出されたインク20が、ノズル1の表面に濡れ広がることを抑制しつつ被塗布材方向に液溜り4を成長させる効果が得られる。
【0049】
その結果、少ない吐出量においても、従来に比べて広い塗工ギャップ23での液溜り4形成が可能となるため、従来よりも広い塗工ギャップ23での微細で薄いストライプ状塗布膜6の形成を実現できる。
【0050】
ここで、図3に示すように、ノズル1の吐出口を設けた面において、塗布方向に対して直交する方向の両端部に凸部12を設けることで、気体吐出口3から出た気体が塗布方向に対して直交する方向の外側に流れることを防止することができる。これにより、塗布方向に対して直交する方向の端部における液溜り4も、他の液溜り4と同様に、塗布方向の上流側に押す力と、該塗布方向に対して直交する方向に挟み込む力22とを得ることが可能となり、塗布方向に対して直交する方向の中央部から両端部まで均一な塗布が実現する。
【0051】
有機ELの発光層の塗布工程において、被塗布材5はガラス基板に駆動用のTFT(薄膜トランジスタ)などを形成したものであって、その設定条件例としては、塗工ギャップ23が30〜200μmであり、塗布液吐出口2の直径は20μm〜200μmである。また、気体吐出口3の直径は10μm〜300μmである。また、塗布液吐出口2と気体吐出口3との塗布方向に対して直交する方向の距離(図2中のX)は10〜500μmであり、ノズル1に対する被塗布材5の塗布方向の距離(図2中のY)は5〜1000μmである。
【0052】
塗布終端部付近における塗布動作については、ノズル1が塗布終端位置に到達する前にポンプ(図示せず)などによる塗布液供給を停止させるとよい。これにより、ノズル内部のインク20に加わる残圧の影響により余分にインク20が吐出されることで、塗布終端部で塗布ムラ(例えば、膜厚増加あるいは塗布巾増加など)が発生することを防止することができる。
【0053】
また、ノズル1が塗布終端位置に到達する前に、塗工ギャップ23を大きくすることにより、ノズル内部のインク20に加わる残圧や、塗布終端部でノズル1の先端部分と被塗布材5との間における液溜り4が不必要に濡れ広がることによって発生する塗布ムラ(例えば、膜厚増加あるいは塗布巾増加など)を防止することができる。
【0054】
また、ポンプ(図示せず)などによりインク供給を停止させると同時に、気体吐出口3からの気体の吐出を停止させてもよいが、インク供給が停止した一定時間後に気体吐出を停止させるようにしてもよい。このように気体の吐出停止を遅らせることにより、ノズル1と被塗布材5に存在する液溜り4を速やかに切り離す効果が得られ、塗布終端位置の高精度な制御が可能となり、塗布方向に対して直交する方向での塗布終端位置バラツキを小さくすることができる効果が得られる。
【0055】
有機ELの発光層の塗布工程で使用されるインク20において、溶質としては、ポリフルオレン系,ポリアリーレン系,ポリアリーレンビニレン系,アルコキシベンゼン,アルキルベンゼンなどの高分子材料が挙げられ、溶媒としては、トルエン,キシレン,アセトン,アニソール,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,シクロヘキシルベンゼンなどの単独または混合溶媒が挙げられる。ノズル1と被塗布材5の相対的な走行速度は50〜500mm/sである。
【0056】
(実施の形態2)
また、図6,図7に示すように、ノズル1の吐出口を設けた面における塗布方向に対して直交する方向の両端部に凸部12を設けるのではなく、塗布方向に対して直交する方向の両端部分の気体吐出口3の断面積を、他の気体吐出口3に比べて大きくすることで、塗布方向に対して直交する方向の端部に設けられた気体吐出口3から吐出される気体の流量を増加させることができる。
【0057】
その結果、塗布方向に対して直交する方向の外側に気体が流出しながらも、同方向の端部の液溜り4も、他の液溜り4と同様に、塗布方向の上流側に押す力と、該塗布方向に対して直交する方向に挟み込む力とを得ることが可能となり、塗布方向に対して直交する方向の中央部から両端部まで均一な塗布を実現することができる。
【0058】
(実施の形態3)
また、気体吐出口3から、インク20の溶媒が気化した成分を含んだ気体を吐出することによって、インク20の乾燥を防止することができる。これにより、ノズル1の目づまりの発生やノズル1の先端(吐出口を設けた面)に汚れが発生して、それらが被塗布材5上に落下することで生じる異物不良の発生を防止することができ、安定した塗布を実現することができる。
【0059】
なお、本実施の形態1〜3では、塗布液吐出口2および気体吐出口3の断面形状を円形として説明したが、液体であるインク(塗布液)および気体が安定して吐出することができる形状であれば円形に限らない。また、この場合、実施の形態1で説明した吐出口2,3の直径は、相当直径(4×断面積/周囲長さ)と捉えて考えるとよい。
【0060】
また、本実施の形態1〜3では、液体の吐出と気体の吐出を同時に開始するとして説明したが、両者の開始のタイミングに差をつけてもよい。
【0061】
例えば、塗布始端部において液溜り4を形成してからノズル1と被塗布材5との相対的な走行を開始させて、塗布を行う際に、低粘度液体の塗布においてノズル先端での濡れ広がりが速い場合には、先に気体を吐出させてから液体を吐出させることにより、始端部の塗布巾が不必要に広くなることを防止することができる。
【0062】
また、膜厚を薄く塗布する場合には、吐出量が少なくなるため、未だ液溜り4が形成されていない状態(図4(a)の状態)で、吐出された液体が気体により不必要に塗布方向の上流側へ押し流されてしまいやすい。そこで、先に液体を吐出させて液溜り4を形成してから気体を吐出することにより、塗布始端部の未塗布部発生などを防止することができる。
【0063】
また、液体の吐出と気体の吐出を同時に開始しつつ、気体供給圧力を変動させながら塗布する(例えば、塗布始端部では定常塗布時よりも高い圧力で気体を吐出させ、ノズル1と被塗布材5の相対的な走行が始まると定常塗布時の所定の圧力に変化させる。あるいは塗布始端部で液体の吐出開始から液溜り4が形成されるまでは、定常塗布時よりも低い圧力で気体を吐出させ、ノズル1と被塗布材5の相対的な走行が始まると定常塗布時の所定の圧力に変化させる。)ことにより、上記のような両者の開始タイミングに差をつける効果と同様の効果を得ることも可能である。
【0064】
以下、実施例にて更に詳細に説明する。
【0065】
(実施例1)
前記実施の形態1を実施した実施例について説明する。
【0066】
図1に示したノズル1において、塗布液吐出口2と気体吐出口3は円形であり、塗布液吐出口2の直径は20〜300μm、気体吐出口3の直径は10〜300μm、塗布液吐出口2と気体吐出口3との塗布方向に対して直交する方向の距離(図2中のX)は10〜500μm、塗布液吐出口2が1000個、気体吐出口3は1001個、塗布液吐出口2と気体吐出口3との塗布方向の距離(図2中のY)は5〜1000μm、塗工ギャップ23は30〜200μmとした。
【0067】
さらに、気体は空気として気体供給口11への気体供給圧力は0.5〜100kPa、ノズル1の吐出口2,3を設けた面における塗布方向に対して直交する方向の両端における端部の凸部12の長さ(図3中のZ)は20〜190μm、その巾は2mm〜15mmとし、インク20の溶質にポリフルオレン系、溶媒にシクロヘキシルベンゼンを使用し、インク20は、粘度が5cps〜500cps、温度20℃、吐出量0.2〜100nL/sとした。
【0068】
また、ノズル1と被塗布材5の相対的走行速度50〜500mm/s、塗布始端部で気体の吐出を開始してから20msec後にインク20の吐出を開始させ、塗布終端位置から13mm手前の位置でポンプによる塗布液供給を停止し、塗布終端位置から10mm手前の位置から塗工ギャップ23を200μm増加させるという条件で、高さ1〜100μm、巾10〜80μmのバンクを20〜200μmピッチで設けた被塗布材5上のバンク間に塗布するテストを実施した。
【0069】
その結果、いずれの条件においても途切れやはみ出しが発生することなく、安定的にインクを塗布することができた。
【0070】
(実施例2)
前記実施の形態2を使用した実施例について説明する。
【0071】
図1に示す凸部12を設けていない図6〜7に示したノズル1において、塗布液吐出口2と気体吐出口3は円形であり、塗布液吐出口2の直径は20〜300μm、塗布方向に対して直交する両端部以外の気体吐出口3の直径は10〜300μm、塗布方向に対して直交する方向の両端部の気体吐出口3の断面積を、塗布方向に対して直交する方向の両端部以外の気体吐出口3の断面積の1.1〜2倍として、塗布液吐出口2と気体吐出口3との塗布方向に対して直交する方向の距離(図2中のX)は10〜500μm、塗布液吐出口2が1000個、気体吐出口3は1001個、塗布液吐出口2と気体吐出口3との塗布方向の距離(図2中のY)は5〜1000μm、塗工ギャップ23は30〜200μmとした。
【0072】
気体は空気として、気体供給口11への気体供給圧力は0.5〜100kPaとし、インク20の溶質にポリフルオレン系、溶媒にシクロヘキシルベンゼンを使用し、インク20は、粘度が5cps〜500cps、温度20℃、吐出量0.2〜100nL/sとした。
【0073】
ノズル1と被塗布材5の相対的走行速度50〜500mm/s、塗布始端部で気体の吐出を開始してから20msec後にインク20の吐出を開始させ、塗布終端位置から13mm手前の位置でポンプによるインク供給を停止し、塗布終端位置から10mm手前の位置から塗工ギャップ23を200μm増加させるという条件で、高さ1〜100μm、巾10〜80μmのバンクを20〜200μmピッチで設けた被塗布材5上のバンク間に塗布するテストを実施した。
【0074】
その結果、実施例1の凸部12を設けた場合と同様に、いずれの条件においても途切れやはみ出しが発生することなく、安定的にインクを塗布することができた。
【0075】
(実施例3)
前記実施の形態3を使用した実施例について説明する。
【0076】
気体吐出口3から吐出する気体を、シクロヘキシルベンゼンが0.1〜0.5vol%混合させた気体とし、図1に示したノズル1において、塗布液吐出口2と気体吐出口3は円形であり、塗布液吐出口2の直径は20〜300μm、気体吐出口3の直径は10〜300μm、塗布液吐出口2と気体吐出口3との塗布方向に対して直交する方向の距離(図2中のX)は10〜500μm、塗布液吐出口2が1000個、気体吐出口3は1001個、塗布液吐出口2と気体吐出口3との塗布方向の距離(図2中のY)は5〜1000μm、塗工ギャップ23は30〜200μm、気体供給口11への気体供給圧力は0.5〜100kPa、ノズル1の吐出口を設けた面の塗布方向に対して直交する方向の両端部における凸部12の長さ(図3中のZ)は20〜190μm、巾は2mm〜15mmとした。
【0077】
インク20の溶質にポリフルオレン系、溶媒にシクロヘキシルベンゼンを使用し、インク20は、粘度が5cps〜500cps、温度20℃、吐出量0.2〜100nL/sとした。
【0078】
ノズル1と被塗布材5の相対的走行速度50〜500mm/s、塗布始端部で気体の吐出を開始してから20msec後に液体の吐出を開始させ、塗布終端位置から13mm手前の位置でポンプによるインク供給を停止し、塗布終端位置から10mm手前の位置から塗工ギャップ23を200μm増加させるという条件で、高さ1〜100μm、巾10〜80μmのバンクを20〜200μmピッチで設けた被塗布材5上のバンク間に塗布するテスト(被塗布材5を1000枚分、連続塗布する)を実施した。
【0079】
また、比較例として、気体吐出口3から吐出する気体を空気とした場合についても同様のテスト(被塗布材5を1000枚分、連続塗布する)を実施した。
【0080】
その結果、シクロヘキシルベンゼンが未混合の空気を吐出させた場合は、1000枚中で0.5%の異物不良やノズルつまりによる塗布欠陥が発生したが、シクロヘキシルベンゼンを混合させた場合は、1000枚中で異物不良やノズルつまりによる塗布欠陥は発生せず、安定して塗布することができることを確認することができた。
【0081】
(実施例4)
実施の形態1を使用した他の実施例について説明する。
【0082】
図1に示したノズル1において、気体吐出口3を相当直径が10〜300μmで塗布巾方向長さ:塗布方向長さ=1:3の四角形として、塗布液吐出口2は円形であり、塗布液吐出口2の直径は20〜300μm、塗布液吐出口2と気体吐出口3との塗布方向に対して直交する方向の距離(図2中:X)は10〜500μm、塗布液吐出口2が1000個、気体吐出口3は1001個、塗布液吐出口2と気体吐出口3との塗布方向の距離(図2中のY)は5〜1000μm、塗工ギャップ23は30〜200μmとした。
【0083】
気体は空気として、気体供給口11への気体供給圧力は0.5〜100kPaとした。また、ノズル1の吐出口を設けた面において塗布方向に対して直交する方向の両端部における凸部12の長さ(図3中のZ)は20〜190μm、巾は2mm〜15mmとした。
【0084】
インク20の溶質にポリフルオレン系、溶媒にシクロヘキシルベンゼンを使用し、インク20は、粘度が5cps〜500cps、温度20℃、吐出量0.2〜100nL/sとした。
【0085】
ノズル1と被塗布材5の相対的走行速度50〜500mm/s、塗布始端部で気体の吐出を開始してから20msec後に液体の吐出を開始させ、塗布終端位置から13mm手前の位置でポンプによる塗布液供給を停止し、塗布終端位置から10mm手前の位置から塗工ギャップ23を200μm増加させるという条件で、高さ1〜100μm、巾10〜80μmのバンクを20〜200μmピッチで設けた被塗布材5上のバンク間に塗布するテストを実施した。
【0086】
その結果、実施例1の気体吐出口が円形の場合と同様に、いずれの条件においても途切れやはみ出しが発生することなく、安定的にインクを塗布することができた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、製造コストが低く、かつ高精度な塗布が可能であるため、有機EL(Electro Luminescence)やPDP(Plasma Display Panel)などのラインデバイス構造を持つ高精細表示装置などの印刷製造工程に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施の形態1である液体塗布装置の側面断面図
【図2】実施の形態1の液体塗布装置におけるノズルを吐出口方向から見た図
【図3】実施の形態1の液体塗布装置におけるノズルを塗布方向上流側から見た図
【図4】(a)〜(d)は実施の形態1の液体塗布装置における1つの塗布液吐出口からの塗布液吐出状態を示す説明図
【図5】実施の形態1の液体塗布装置におけるノズルの平面図
【図6】本発明の実施の形態2における液体塗布装置の吐出口方向からノズルを見た図
【図7】実施の形態2の液体塗布装置におけるノズルを走行方向上流側から見た図
【図8】(a)〜(e)は従来のノズルからの塗布液の吐出状態を塗布方向に対するノズル側方および吐出口側から見た説明図
【図9】(a)〜(d)は従来のノズルからの塗布液の吐出状態をノズル側方および吐出口側から見た説明図
【図10】従来の液体塗布装置におけるノズルの平面図
【図11】(a),(b)は従来の液体塗布装置におけるノズルにより気体を供給しながらストライプ状の塗布を行う構成を示す図
【図12】(a),(b)は図11のノズルによりストライプ状の塗布を行う際の問題点の説明図
【符号の説明】
【0089】
1 ノズル
2 塗布液吐出口
3 気体吐出口
4 液溜り
5 被塗布材
6 ストライプ状塗布膜
7 断面積の大きな気体吐出口
8 塗布液用マニホールド
9 気体用マニホールド
10 塗布液供給口
11 気体供給口
12 凸部
20 インク
22 液溜りを挟み込む力
23 塗工ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出口と、前記液体吐出口の設置面と同一面において前記液体吐出口の中心からずれた位置に気体を吐出する気体吐出口とが設けられたノズルを備え、前記ノズルにより塗布対象物に液体を塗布する液体塗布装置であって、
前記ノズルに前記気体吐出口を、前記液体吐出口に対して塗布方向下流側に設置したことを特徴とする液体塗布装置。
【請求項2】
前記気体吐出口を複数設置し、前記気体吐出口のうち塗布方向に対して直交する方向の両端部における気体吐出口の断面積が、その他の気体吐出口の断面積と比べて大きくなるように設定したことを特徴とする請求項1に記載の液体塗布装置。
【請求項3】
前記ノズルの先端面における塗布方向に対して直交する方向の両端部に凸部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の液体塗布装置。
【請求項4】
請求項1に記載の液体塗布装置を用い、塗布する液体の溶媒が気化した成分を含んだ気体を前記気体吐出口から吐出することを特徴とする液体塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−179195(P2010−179195A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22513(P2009−22513)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】