説明

液圧ブレーキシステム

【課題】動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えた後の運転者の違和感を軽減し、作動音を低減させる。
【解決手段】動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられた時以後に、ブレーキペダルの操作状態がほぼ一定である場合には、マニュアル液圧Pmは、過渡的に、一旦低下した後に増加する。それにより、運転者は違和感を感じる。また、作動音が発せられる。それに対して、減圧リニア制御弁の制御により、ブレーキシリンダ液圧の増加勾配が抑制されるとともにマニュアル液圧の増加勾配が抑制される。それによって、運転者の違和感を軽減し、作動音を低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキを備えた液圧ブレーキシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(a)車両の複数の車輪に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、(b)電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を前記複数の車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、(c)ブレーキ操作部材の操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を、前記複数の車輪のブレーキシリンダに供給するマニュアル液圧系と、(d)前記車両の停止状態において、前記複数のブレーキシリンダに前記動力液圧系によって液圧が供給される動力制御圧供給状態から前記マニュアル液圧系によって液圧が供給されるマニュアル液圧供給状態に切り換える液圧供給状態制御装置とを含むブレーキシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−123889
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、液圧ブレーキシステムの改良を図ることであり、例えば、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態への切換え後の作動音の低減を図ったり、運転者の違和感の軽減を図ったりすることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
本願発明は、液圧ブレーキシステムにおいて、ブレーキシリンダとマニュアル式液圧源とが連通させられた状態において、ブレーキシリンダ液圧の増加勾配を抑制するものである。
例えば、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられる際に、マニュアル液圧がブレーキシリンダ液圧より大きく、かつ、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時以後に、ブレーキ操作部材の操作状態がほぼ一定である場合には、過渡的に、マニュアル液圧が減少した後増加して、ブレーキ操作部材の操作状態で決まる液圧に達した後、ほぼ一定に保たれる。このように、ブレーキ操作部材の操作状態が定常的にほぼ一定である場合において、マニュアル液圧が過渡的に変化すると、運転者は違和感を感じる。また、マニュアル液圧が過渡的に急激に変化することに起因して作動音が発せられることがある。
一方、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時以後に、ブレーキ操作部材の操作状態が変化する場合(例えば、操作力やストローク等が増加傾向にある場合、減少傾向にある場合)には、運転者は違和感を感じ難い。例えば、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時以降に、ブレーキ操作部材に加えられる操作力やストローク等の操作量が減少傾向にある場合には、マニュアル液圧が減少した後に増加することは殆どなく、ブレーキ操作部材の操作量も、マニュアル液圧も減少させられる。そのため、運転者は違和感を感じ難い。また、作動音も発生し難い。
そこで、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられた時以後において、ブレーキ操作部材の操作状態がほぼ一定である場合に、ブレーキシリンダ液圧の増加勾配を設定勾配に制御するとともに、マニュアル液圧の増加勾配を設定勾配に制御する。それにより、マニュアル液圧が設定勾配より大きな勾配で増加することを防止することができ、運転者が違和感を感じ難くすることができる。また、マニュアル液圧の増加勾配を抑制することにより作動音の低減を図ることができる。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明、あるいは、発明の特徴点について説明する。
【0007】
(1)車両の複数の車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を前記複数の車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
ブレーキ操作部材の操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を、前記複数の車輪のブレーキシリンダに供給するマニュアル液圧系と、
前記複数のブレーキシリンダに前記動力液圧系によって液圧が供給される動力制御圧供給状態から前記マニュアル液圧系によって液圧が供給されるマニュアル液圧供給状態に切り換えられた後に、前記ブレーキシリンダ液圧の増加勾配を設定勾配に制御する増圧勾配制御を行う増圧勾配制御装置と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
マニュアル液圧系は、ブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマニュアル式液圧源を含むものとすることができる。マニュアル式液圧源は、ブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマスタシリンダとブレーキ操作部材の操作力を倍力する液圧ブースタとの少なくとも一方を含み、マニュアル式液圧源の液圧は、マスタシリンダの液圧としたり、液圧ブースタの液圧としたりすることができる。マスタシリンダの液圧は、ブレーキ操作部材に加えられる操作力が液圧ブースタやバキュームブースタによって倍力された大きさに対応する液圧である場合や、液圧ブースタやバキュームブースタによって倍力されない大きさに対応する液圧である場合がある。また、液圧ブースタにおいて、ブレーキ操作力が、動力式液圧源装置の液圧を利用して倍力される場合がある。マニュアル液圧系においてブレーキシリンダに供給される液圧、すなわち、マニュアル式液圧源の出力液圧をマニュアル液圧と称する。
動力液圧系は、電力の供給により液圧を発生させる動力式液圧源を含む。動力式液圧源は、ポンプ装置等を含むが、液圧を加圧した状態で蓄えるアキュムレータ等が含まれる場合がある。動力液圧系は、動力式液圧源の液圧を制御する動力液圧制御装置を含む。動力液圧制御装置は、動力式液圧源の出力液圧を制御可能な出力液圧制御弁(電磁制御弁)等を含み、出力液圧制御弁等の制御によりブレーキシリンダに供給される液圧が制御される。また、ポンプ装置等を駆動する電動モータであるポンプモータ等の制御により、ブレーキシリンダに供給される液圧が制御されるようにすることもできる。動力液圧系においてブレーキシリンダに供給される液圧を動力制御圧と称する。
増圧勾配の制御は、マニュアル液圧供給状態において行われるのであり、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた後において行われる。なお、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられた時点から開始される場合もあるが、その場合においても、マニュアル液圧供給状態において増圧勾配制御が行われると考えることができる。
設定勾配は、増圧勾配制御部による制御が行われない場合の増圧勾配より小さい勾配とされる。そのため、増圧勾配制御部によって増圧勾配の制御が行われることにより、増圧勾配制御部による制御が行われない場合の増圧勾配より抑制されることになる。設定勾配は、予め定められた大きさとしても、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられた際のマニュアル液圧と動力制御圧(ブレーキシリンダ液圧)との差圧等で決まる大きさとしてもよい。
(2)前記動力液圧系が、電力の供給により液圧を発生させる動力式液圧源を含み、前記マニュアル液圧系が、運転者のブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマニュアル式液圧源を含み、当該液圧ブレーキシステムが、前記動力制御圧供給状態において、前記複数のブレーキシリンダを前記マニュアル式液圧源から遮断して前記動力式液圧源に連通させ、前記マニュアル液圧供給状態において、前記複数のブレーキシリンダを前記動力式液圧源から遮断して前記マニュアル式液圧源に連通させる液圧供給状態制御装置を含み、前記増圧勾配制御装置が、前記複数のブレーキシリンダに前記マニュアル式液圧源が連通させられた状態で、前記増圧勾配制御を行うものである。
マニュアル式液圧源とブレーキシリンダとの間にマニュアル式液圧源遮断弁が設けられ、動力式液圧源とブレーキシリンダとの間に動力式液圧源遮断弁が設けられる場合には、これらマニュアル式液圧源遮断弁、動力式液圧源遮断弁の制御により、マニュアル液圧供給状態と動力制御圧供給状態との間の切り換えが行われる。なお、上述の出力液圧制御弁が動力式液圧源遮断弁としての機能を有する場合もある。
増圧勾配制御は、複数のブレーキシリンダとマニュアル式液圧源とが連通させられた状態で行われる。
(3)前記マニュアル液圧系が、
(i)前記ブレーキ操作部材に連携させられた加圧ピストンを含み、その加圧ピストンの前方の加圧室に、前記ブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマスタシリンダと、
(ii)前記ブレーキ操作部材に連携させられるとともに前記加圧ピストンに連携させられたパワーピストンを含み、そのパワーピストンの後方に設けられたブースタ室に、前記ブレーキ操作部材の操作力で決まる液圧を供給することにより、前記ブレーキ操作部材の操作力を倍力して前記加圧ピストンに出力する液圧ブースタと、
(iii)前記ブースタ室の液圧を前記複数のブレーキシリンダに供給するブースタ液圧供給部とを含むものとすることができる。
(4)前記マニュアル液圧系が、
(i)ハウジングに摺動可能に嵌合された加圧ピストンを含み、その加圧ピストンの前方の加圧室に、前記ブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマスタシリンダと、
(ii)(a)前記ブレーキ操作部材に連携させられるとともに前記加圧ピストンに連携させられたパワーピストンと、(b)そのパワーピストンの後方に設けられたブースタ室と、(c)前記加圧ピストンに連携させられた可動部材と、(d)その可動部材の移動により、低圧源と前記動力式液圧源とに選択的に連通させられることにより、前記ブレーキ操作部材の操作力で決まる大きさの液圧を発生させるレギュレータ室と、(e)そのレギュレータ室と前記ブースタ室とを連通させる液通路とを含む液圧ブースタと、
(iii)前記ブースタ室の液圧を前記複数のブレーキシリンダに供給するブースタ液圧供給部とを含むものとすることができる。
液圧ブースタ、マスタシリンダにおいて、ブレーキ操作部材が操作されるとパワーピストンが前進させられ、加圧ピストンが前進させられる。それにより、可動部材が移動させられ、レギュレータ室の液圧が、ブレーキ操作部材に加えられる操作力(加圧ピストンに加えられた前進方向の力)に応じた大きさに制御される。レギュレータ室の液圧がブースタ室に供給されることにより、パワーピストンに助勢力が加えられ、ブレーキ操作力が倍力されて加圧ピストンに伝達される。それにより、レギュレータ室の液圧が増加させられ、加圧室の液圧が増加させられる。
動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられた場合に、マニュアル液圧(ブースタ室の液圧)が動力制御圧より大きい場合には、ブースタ室の液圧が複数のブレーキシリンダに供給されるため、ブースタ室の液圧は低下する。しかし、ブレーキ操作部材に加えられる操作力がほぼ一定に保持されている状態においては、その後、ブレーキ操作力で決まる液圧まで増加させられ、一定に保たれる。
一方、ブレーキ操作部材に加えられる操作力がほぼ一定に保持されている状態において、ブースタ室の液圧が変化しても、マスタシリンダや液圧ブースタにおけるヒステリシスにより、加圧ピストンや可動部材(例えば、スプール等)が直ちに動くことはない。また、ブースタ室の液圧が変化して、助勢力が変化すると、それに伴ってレギュレータ室の液圧も加圧室の液圧も変化する。
以上の事情から、ブレーキ操作部材に加えられる操作力がほぼ一定に保持されている状態においては、ブースタ室の液圧が減少した後増加しても、ブレーキ操作部材のストロークはほぼ一定に保持されると考えられる。
しかし、ブレーキ操作部材のストロークがほぼ一定に保持されている状態において、助勢力が低下した後、増加するため、運転者は違和感を感じる。また、ブースタ室の液圧が急激に低下した後に増加することに起因して、作動音が発せられることがある。
それに対して、本項に記載の液圧ブレーキシステムにおいては、助勢力が増加する場合の、その増加勾配が抑制されるため、運転者の違和感を軽減し、作動音の低減を図ることができる。
(5)前記マニュアル液圧系が、(i)(a)前記ブレーキ操作部材に連携させられた加圧ピストンと、(b)その加圧ピストンの前方に設けられ、前記ブレーキ操作部材の操作力に応じた液圧を発生させる加圧室とを備えたマスタシリンダと、(ii)前記加圧室の液圧を前記複数のブレーキシリンダに供給するマスタ液圧供給部とを含む。
動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられた場合には、加圧室の液圧が複数のブレーキシリンダに供給されることにより、加圧室の液圧が低下する。また、ブレーキ操作部材に加えられる操作力がほぼ一定に保持されている場合には、その後、ブレーキ操作力で決まる液圧に達するまで増加して、保持される。
一方、マスタシリンダのヒステリシスにより、加圧室の液圧が低下した後増加しても、加圧ピストンは直ちに移動させられることはないため、ブレーキ操作部材の操作力がほぼ一定に保たれている状態においては、ストロークもほぼ一定に保持されると考えられる。
(6)前記増圧勾配制御装置が、(a)前記動力制御圧供給状態から前記マニュアル液圧供給状態に切り換えられる際に、前記マニュアル式液圧源の液圧が前記ブレーキシリンダの液圧より大きいこと、(b)前記マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時以後に、前記ブレーキ操作部材の操作状態が一定であることとの少なくとも一方が満たされた場合に、前記増圧勾配制御を行う条件成立時増圧勾配制御部を含むものである。
(7)前記条件成立時増圧勾配制御部が、(a)前記動力制御圧供給状態から前記マニュアル液圧供給状態に切り換えられる際に、前記マニュアル式液圧源の液圧が前記ブレーキシリンダの液圧より大きいこと、(b)前記マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時以後に、前記ブレーキ操作部材の操作状態が一定であることとの両方が満たされた場合に、前記増圧勾配制御を行うものとされる。
(a)において、マニュアル液圧と動力制御圧(ブレーキシリンダ液圧)との比較は、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられる際に行われる。動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態へ切り換えられた時点に比較されるようにしても、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態への切換え条件が成立した際に比較されるようにしてもよい。
(b)において、ブレーキ操作部材の操作状態が一定であるとは、定常的に、ブレーキ操作部材の操作状態がほぼ一定であるという意味である。具体的には、ブレーキ操作部材に加えられる操作力や操作ストローク等の操作状態を表す操作関連値(操作力と操作ストロークとの少なくとも一方で決まる)の変化勾配の絶対値が設定値より小さい場合、操作関連値の設定時間内における変化量の絶対値の最大値、平均値等が設定値より小さい場合が該当する。これら操作関連値の変化勾配の設定値、操作関連値の変化量の設定値は、運転者が制動力をほぼ一定に保持する意図があると考えられる値とすることができる。
また、ブレーキ操作部材の操作状態が一定であるか否かの判定は、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられた時点の変化勾配に基づいて行われたり、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時点から設定時間が経過するまでの間の操作関連値の変化量の最大値、平均値等に基づいて行われてもよい。設定時間は、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時点から、マニュアル液圧が低下傾向から増加傾向に変わるまでに要する時間以下の時間とすることが望ましい。
(8)前記増圧勾配制御装置が、前記マニュアル液圧供給状態に切り換えられた後の、前記マニュアル液圧が最初に低下した後に、前記増加勾配制御を開始する第1増加勾配制御開始部を含むものとすることができる。
(9)前記増圧勾配制御装置が、前記マニュアル液圧供給状態に切り換えられた後の、前記マニュアル液圧と前記ブレーキシリンダ液圧との両方が増加傾向にある場合に、前記増加勾配制御を開始する第2増加勾配制御開始部を含むものとすることができる。
マニュアル液圧が低下した後、増加する場合の増加勾配が抑制されれば、ペダルショックを軽減することができる。
換言すれば、マニュアル液圧の低下は許容して、その後の増加勾配を抑制することが望ましいのであり、マニュアル液圧が減少傾向から保持傾向に変わった時点、あるいは、増加傾向に変わった時点から開始されることが望ましい。
(10)前記マニュアル液圧系が、前記ブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマニュアル式液圧源を含み、
当該液圧ブレーキシステムが、(i)前記複数のブレーキシリンダが接続されるとともに、前記マニュアル式液圧源が接続された共通通路と、(ii)その共通通路と低圧源との間に設けられ、ソレノイドへの供給電流の制御により、前記共通通路の液圧を減少可能な減圧制御弁とを含み、
前記増加勾配制御装置が、前記減圧制御弁の制御により、前記複数のブレーキシリンダの液圧の増加勾配を制御する減圧制御弁制御部を含む。
共通通路にマニュアル式液圧源が連通させられるとともに複数のブレーキシリンダが連通させられた状態において、減圧制御弁の制御により、ブレーキシリンダの液圧の増加勾配が制御されるとともにマニュアル式液圧源の液圧の増加勾配が制御される。減圧制御弁は、ソレノイドへの供給電流の大きさの連続的な制御により、開度が連続的に制御されるリニア制御弁であっても、ソレノイドへの供給電流のON・OFFにより開閉させられる電磁開閉弁であってもよい。
また、減圧制御弁は、動力液圧系の構成要素である場合があり、その場合には、動力液圧系の構成要素を利用して、ブレーキシリンダ液圧の増加勾配の制御が行われることになる。
なお、アンチロック制御用の減圧弁を利用して、ブレーキシリンダ液圧の増加勾配を抑制して、マニュアル液圧の増加勾配を抑制することができる。
(11)車両の複数の車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を前記複数の車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を、前記複数の車輪のブレーキシリンダに供給するマニュアル液圧系と、
前記複数のブレーキシリンダに前記動力液圧系によって液圧が供給される動力制御圧供給状態から前記マニュアル液圧系によって液圧が供給されるマニュアル液圧供給状態に切り換えられた場合に、前記ブレーキシリンダ液圧の増加勾配を、制御が行われない場合に比較して抑制する増圧勾配抑制装置と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
本項に記載の液圧ブレーキシステムにおいては、ブレーキシリンダ液圧の増加勾配が、当該増加勾配抑制装置による増加勾配抑制制御が行われない場合に比較して、小さくされる。
本項に記載のブレーキシステムには、(1)項ないし(10)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
(12)車両の複数の車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
運転者のブレーキ操作に起因して液圧を発生させるマニュアル式液圧源と、
前記ブレーキシリンダの液圧を制御可能なブレーキシリンダ液圧制御装置と
を含む液圧ブレーキシステムであって、
前記ブレーキシリンダ液圧制御装置が、通常制動状態で、かつ、前記複数のブレーキシリンダが前記マニュアル式液圧源に連通させられた状態で、前記複数のブレーキシリンダの液圧を減圧制御する通常制動時減圧制御部を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
本項に記載のブレーキシステムには、(1)項ないし(11)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
(13)車両の複数の車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
運転者のブレーキ操作に起因して液圧を発生させるマニュアル式液圧源と、
前記ブレーキシリンダの液圧を制御可能なブレーキシリンダ液圧制御装置と
を含む液圧ブレーキシステムであって、
前記ブレーキシリンダ液圧制御装置が、車両の停止状態で、かつ、前記複数のブレーキシリンダが前記マニュアル式液圧源に連通させられた状態で、前記複数のブレーキシリンダの液圧を減圧制御する車両停止時減圧制御部を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
本項に記載のブレーキシステムには、(1)項ないし(12)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
通常制動状態(車輪のスリップ状態が限界状態に達したことに起因してブレーキシリンダ液圧が制御されている状態ではない制動状態をいう。例えば、ブレーキシリンダ液圧がブレーキ操作部材の操作状態に基づいて決まる要求液圧に近づくように制御された状態をいう。)において、複数のブレーキシリンダがマニュアル式液圧源に連通させられた状態で、ブレーキシリンダの液圧が減圧制御される。例えば、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられた後の、運転者の操作フィーリングの低下を抑制したり、作動音の軽減を図ったりすることができる。
同様に、車両の停止状態において、ブレーキシリンダの液圧の減圧制御が行われるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例である液圧ブレーキシステムが搭載された車両全体を示す図である。
【図2】(a)上記液圧ブレーキシステムのブレーキ液圧回路を示す回路図である。(b)上記ブレーキ液圧回路に含まれる液圧ブースタの断面図である。
【図3】上記ブレーキ液圧回路に含まれる増圧リニア制御弁、減圧リニア制御弁の断面図である。
【図4】上記液圧ブレーキシステムの作動状態を示す図(動力制御圧供給状態)である。
【図5】上記液圧ブレーキシステムの別の作動状態を示す図(マニュアル液圧供給状態)である。
【図6】上記液圧ブレーキシステムに含まれるブレーキECUの記憶部に記憶された動力制御圧供給状態におけるブレーキシリンダ液圧制御プログラムを表すフローチャートである。
【図7】上記記憶部に記憶されたマニュアル状態切換プログラムを表すフローチャートである。
【図8】(a)上記記憶部に記憶された増圧勾配抑制制御プログラムを表すフローチャートである。(b)上記増圧勾配抑制制御プログラムの一部を表すフローチャートである(S34の増圧勾配抑制制御)。
【図9】上記増圧勾配抑制制御プログラムが実行された場合のブレーキシリンダ液圧とマニュアル液圧との変化を示す図である。
【図10】従来の液圧ブレーキシステムにおけるブレーキシリンダ液圧とマニュアル液圧との変化を示す図である。
【発明の実施形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態である液圧ブレーキシステムについて図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0010】
最初に、本実施例に係る液圧ブレーキシステムが搭載された車両について説明する。
本車両は、駆動装置として電動モータとエンジンとを含むハイブリッド車両である。ハイブリッド車両において、駆動輪としての左右前輪2,4は、電気的駆動装置6と内燃的駆動装置8とを含む駆動装置10によって駆動される。駆動装置10の駆動力はドライブシャフト12,14を介して左右前輪2,4に伝達される。内燃的駆動装置8は、エンジン16,エンジン16の作動状態を制御するエンジンECU18等を含むものであり、電気的駆動装置6は駆動用モータ(電動モータ)20,蓄電装置22,モータジェネレータ24,電力変換装置26,モータECU(駆動用モータECU)28、動力分割機構30等を含む。動力分割機構30には、電動モータ20、モータジェネレータ24、エンジン16が連結され、これらの制御により、出力部材32に電動モータ20の駆動トルクのみが伝達される場合、エンジン16の駆動トルクと電動モータ20の駆動トルクとの両方が伝達される場合、エンジン16の出力がモータジェネレータ24と出力部材32とに出力される場合等に切り換えられる。出力部材32に伝達された駆動力は、減速機、差動装置を介してドライブシャフト12,14に伝達される。
電力変換装置26は、インバータ等を含むものであり、モータECU28によって制御される。インバータの電流制御により、少なくとも、電動モータ20に蓄電装置22から電気エネルギが供給されて回転させられる回転駆動状態と、回生制動により発電器として機能することにより蓄電装置22に電気エネルギを充電する充電状態とに切り換えられる。充電状態においては、左右前輪2,4に回生制動トルクが加えられる。その意味において、電気的駆動装置6は回生ブレーキ装置であると考えることができる。
【0011】
液圧ブレーキシステムは、左右前輪2,4に設けられた液圧ブレーキ40のブレーキシリンダ42,左右後輪46,48(図2等を参照)に設けられた液圧ブレーキ50のブレーキシリンダ52と、これらブレーキシリンダ42,52の液圧を制御可能な液圧制御部54等を含む。液圧制御部54は、コンピュータを主体とするブレーキECU56によって制御される。
また、車両には、ハイブリッドECU58が設けられ、これらハイブリッドECU58,ブレーキECU56,エンジンECU18,モータECU28は、CAN(Car area Network)59を介して接続され、互いに通信可能とされている。これらECUの間では、適宜必要な情報が通信される。
【0012】
なお、本液圧ブレーキシステムが搭載される車両の駆動装置10の構造は図1に記載の構造に限定されない。本液圧ブレーキシステムは、別の構造を有する駆動装置を備えた車両に適用することができる。
また、本液圧ブレーキシステムは、上記車両に限らず、プラグインハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両に搭載することもできる。電気自動車においては、内燃的駆動装置8が不要となる。燃料電磁車両においては、駆動用モータが燃料電池スタック等によって駆動される。
さらに、本液圧ブレーキシステムは、内燃駆動車両に搭載することもできる。電気的駆動装置6が設けられていない車両においては駆動輪2,4に回生制動トルクが加えられることがないため、回生協調制御が行われることはない。
【0013】
液圧ブレーキシステムは、図2(a)に示すブレーキ回路を含む。
以下、ブレーキ回路の説明等において、ブレーキシリンダ、液圧ブレーキ、後述する種々の電磁開閉弁等を、前後左右の車輪の位置に対応して区別する必要がある場合には、車輪位置を表す符号(FL,FR,RL,RR)を付して記載し、代表して、あるいは、区別する必要がない場合には、符号を付さないで記載する。
【0014】
60はブレーキ操作部材としてのブレーキペダルであり、62はブレーキペダル60の操作により液圧を発生させるマニュアル式液圧源である。64はポンプ装置65とアキュムレータ66とを含む動力式液圧源である。マニュアル式液圧源62,動力式液圧源64の液圧がブレーキシリンダ42,52に選択的に供給されて、液圧ブレーキ40,50が作動させられ、車輪2,4,46,48の回転を抑制する。
マニュアル式液圧源62は、液圧ブースタ68と、マスタシリンダ70とを含む。
マスタシリンダ70は、ブレーキペダル60に連携させられた加圧ピストン72を含み、加圧ピストン72の前方の加圧室74に、ブレーキペダル60の操作に起因して液圧を発生させる。
液圧ブースタ68は、図2(b)に示すように、ブレーキペダル60に加えられるブレーキ操作力に対応する液圧より高い液圧を発生させるレギュレータ76(reg)と、ブレーキペダル60に連携させられるとともに加圧ピストン72に連携させられたパワーピストン78aと、パワーピストン78aの後方に設けられたブースタ室78bとを含む。レギュレータ76は、スプール(可動部材)80a、レギュレータ室80b等を含み、レギュレータ室80bには、加圧ピストン72の移動に伴うスプール80aの相対移動に伴って動力液圧源64,リザーバ(マスタリザーバ)82が選択的に連通させられ、レギュレータ室80bの液圧がブレーキ操作力で決まる大きさ(ブレーキ操作力に対応する液圧より大きい液圧)に調整される。このレギュレータ室80bの液圧がブースタ室78bに供給され、それによって、パワーピストン78aに前進方向の力が加えられ、ブレーキ操作力が助勢される。なお、符号84は、リアクションディスクである。
【0015】
ブレーキペダル60が踏み込まれる(液圧ブレーキ40,50の作用作動を指示する向きの操作であり、以下、作用操作と称することがある)と、パワーピストン78aが前進させられ、加圧ピストン72が前進させられる。加圧ピストン72の前進に伴ってスプール80aが前進させられ、レギュレータ室80bの液圧が、ブレーキ操作力で決まる大きさに調整される。レギュレータ室80bの液圧がブースタ室78bに供給され、パワーピストン78aに加えられる。
加圧ピストン72には、ブレーキ操作力と助勢力(ブースタ室78bの液圧に応じた力)とが加えられるのであり、加圧室74には、倍力されたブレーキ操作力に応じた液圧が発生させられる。
本実施例においては、レギュレータ室80bの液圧と加圧室74の液圧とがほぼ同じ大きさとなるようにされている。
【0016】
動力式液圧源64において、ポンプ装置65は、ポンプ100およびポンプモータ102を含み、ポンプ100によりリザーバ82から作動液が汲み上げられて吐出されて、アキュムレータ66に蓄えられる。ポンプモータ102は、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の圧力が予め定められた設定圧力範囲内にあるように制御される。また、リリーフ弁104により、ポンプ100の吐出圧が過大になることが防止される。
【0017】
以上のように、本実施例において、液圧ブレーキシステムに、動力式液圧源64およびマニュアル式液圧源62が設けられ、マニュアル式液圧源62には、液圧ブースタ68とマスタシリンダ70とが含まれる。動力式液圧源64,液圧ブースタ68のブースタ室78b,マスタシリンダ70の加圧室74には、それぞれ、動力制御圧通路90,ブースタ通路92,マスタ通路94が接続され、共通通路110に接続される。共通通路110には、さらに、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FR、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRが、それぞれ、個別通路120FL,FR,RL,RRを介して接続される。
個別通路120FL,FR,RL,RRには、それぞれ、保持弁(SHij:i=F,R、j=L,R)122FL,FR,RL,RRが設けられるとともに、ブレーキシリンダ42FL,42FR,52RL,52RRとリザーバ82との間には、それぞれ、減圧弁(SRij:i=F,R、j=L,R)124FL,FR,RL,RRが設けられる。
本実施例においては、保持弁122が、ソレノイドに電流が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁であり、減圧弁124が、ソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁である。保持弁122,減圧弁124は、アンチロック制御においても用いられる。
また、共通通路110には分離弁128が設けられる。分離弁128により、共通通路110が、左右前輪のブレーキシリンダ42FL,FRが接続される部分と、左右後輪のブレーキシリンダ52FL,FRが接続される部分とに分離される。
【0018】
動力式液圧源64と共通通路110とを接続する動力制御圧通路90には増圧リニア制御弁(SLA)132が設けられ、共通通路110とリザーバ82との間には減圧リニア制御弁(SLR)136が設けられる。
これら増圧リニア制御弁132,減圧リニア制御弁136の制御により、共通通路110の液圧が制御されるのであり、増圧リニア制御弁132,減圧リニア制御弁136により出力液圧制御弁装置138が構成される。
図3に示すように、増圧リニア制御弁132,減圧リニア制御弁136は、いずれもソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉弁であり、ソレノイドへの供給電流の大きさの連続的な制御により、出力液圧の大きさを連続的に制御可能なものである。
また、増圧リニア制御弁132,減圧リニア制御弁136は、各々、弁子140と弁座142とを備えたシーティング弁143と、スプリング144と、ソレノイド146とを含み、スプリング144の付勢力F2が、弁子140を弁座142に接近させる向きに作用し、ソレノイド146に電流が供給されることにより駆動力F1が弁子140を弁座142から離間させる向きに作用する。
増圧リニア制御弁132において、動力式液圧源64と共通通路110との差圧に応じた差圧作用力F3が弁子140を弁座142から離間させる向きに作用し、減圧リニア制御弁136においては、共通通路110とリザーバ82との差圧に応じた差圧作用力F3が作用する(F1+F3:F2)。いずれにしても、ソレノイド146への供給電流の制御により、差圧作用力F3が制御され、共通通路110の液圧が制御される。また、ソレノイド146への供給電流の制御により、弁子140と弁座142との間の開度が制御され、共通通路110の液圧の変化勾配が制御される。
なお、増圧リニア制御弁132,減圧リニア制御弁136の制御により動力制御圧通路90の液圧が制御されると考えることもでき、その意味において、増圧リニア制御弁132,減圧リニア制御弁136の各々が出力液圧制御弁に対応すると考えることもできる。
【0019】
一方、ブースタ通路92にはブースタ遮断弁152が設けられ、マスタ通路94にはマスタ遮断弁154が設けられる。ブースタ遮断弁152,マスタ遮断弁154は、いずれも、ソレノイドに電流が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁である。ブースタ遮断弁152,マスタ遮断弁154は、それぞれが、マニュアル式液圧源遮断弁に対応すると考えたり、ブースタ遮断弁152がマニュアル式液圧源遮断弁であると考えたりすることができる。
また、マスタ通路94の途中には、ストロークシミュレータ160がシミュレータ制御弁162を介して接続される。シミュレータ制御弁162は常閉の電磁開閉弁である。
なお、動力制御圧通路90には増圧リニア制御弁132が設けられるのであり、増圧リニア制御弁132が動力式液圧源遮断弁に対応すると考えることができる。増圧リニア制御弁132は、上述のように常閉弁である。
【0020】
動力式液圧源64(ポンプモータ102),増圧リニア制御弁132,減圧リニア制御弁136,ブースタ遮断弁152,マスタ遮断弁154,保持弁122,減圧弁124等により液圧制御部54が構成される。液圧制御部54はブレーキECU56の指令に基づいて制御される。
ブレーキECU56は、図1に示すように、実行部170,入出力部171,記憶部173等を含むコンピュータを主体とするものであり、入出力部171には、ブレーキスイッチ218,ストロークセンサ220,マニュアル液圧センサ222,アキュムレータ圧センサ224,ブレーキシリンダ液圧センサ226,車輪速度センサ230等が接続されるとともに液圧制御部54等が接続される。
ブレーキスイッチ218は、ブレーキペダル60が操作状態にある場合、すなわち、後退端位置より設定値以上前進側の位置にある場合にON状態にあるスイッチである。
ストロークセンサ220は、ブレーキペダル60の操作ストローク(STK)を検出するものであり、本実施例においては、2つのセンサが設けられ、同様に、ブレーキペダル60の操作ストローク(STK1,SKT2)が検出される。
マニュアル液圧センサ222は、運転者によってブレーキペダル60に加えられた操作力に対応する液圧を検出するものであるが、本実施例においては、液圧ブースタ68の液圧であるブースタ室78bの液圧を検出するものである。マニュアル液圧センサ222は、マスタシリンダ70の加圧室74の液圧を検出するものであってもよい。
アキュムレータ圧センサ224は、アキュムレータ66に蓄えられている作動液の圧力(PACC)を検出するものである。
ブレーキシリンダ液圧センサ226は、ブレーキシリンダ42,52の液圧(PWC)を検出するものであり、本実施例においては、共通通路110に設けられる。保持弁122の開状態において、ブレーキシリンダ42,52と共通通路110とは連通させられるため、共通通路110の液圧をブレーキシリンダ42,52の液圧とすることができる。
車輪速度センサ230は、左右前輪2,4、左右後輪46,48に対応してそれぞれ設けられ、車輪の回転速度を検出する。また、4輪の回転速度に基づいて車両の走行速度が取得される。
さらに、記憶部173には、種々のプログラム、テーブル等が記憶されている。
【0021】
<液圧ブレーキシステムにおける作動>
本液圧ブレーキシステムにおいては、増圧リニア制御弁132,ブースタ遮断弁152,マスタ遮断弁154の制御により、共通通路110に動力式液圧源64が連通させられたり、マスタシリンダ70や液圧ブースタ68のブースタ室78bが連通させられたりするのであり、動力式液圧源64,ブースタ室78b,マスタシリンダ70のうち1つ以上が選択に連通させられる。
本実施例においては、共通通路110(ブレーキシリンダ42,52)からマニュアル式液圧源62が遮断されて、動力式液圧源64の出力液圧が制御されて供給される動力制御圧供給状態と、共通通路110から動力式液圧源64、マスタシリンダ70が遮断されて、液圧ブースタ68の液圧が供給されるマニュアル液圧供給状態との間で切り換えられる。
【0022】
<動力制御圧供給状態>
本実施例においては、回生協調制御が行われる場合に動力制御圧供給状態とされる。また、回生協調制御の終了後であっても、後述するようにマニュアル状態切換条件が成立するまでの間、動力制御圧供給状態が続けられる。
動力制御圧供給状態においては、図4に示すように、ブースタ遮断弁152,マスタ遮断弁154が閉状態とされ、シミュレータ制御弁162が開状態とされ、分離弁128が開状態とされ、かつ、増圧リニア制御弁132,減圧リニア制御弁136のソレノイド146への供給電流が制御されることにより動力制御圧供給状態とされる。動力制御圧供給状態においては、共通通路110に、動力式液圧源64の液圧が出力液圧制御弁装置138により制御された液圧である動力制御圧が供給されるのであり、すべての保持弁122の開状態において、ブレーキシリンダ42,52に共通に供給される。
すべての保持弁122が開状態にある場合には、共通通路110の液圧とブレーキシリンダ42,52の液圧とはほぼ同じであると考えることができるため、本明細書において、共通通路110の液圧が制御されることとブレーキシリンダ42,52の液圧が制御されることとは同じことであるとして扱う。
【0023】
ブレーキペダル60が操作されると、原則として、回生協調制御が行われる。回生協調制御は、駆動輪2,4に加わる回生制動トルクと、駆動輪2,4と従動輪46,48との両方に加わる摩擦制動トルク(液圧制動トルク)との和である総制動トルクが総要求制動トルクとなるように行われる制御である。
回生協調制御において、総要求制動トルクは、ストロークセンサ220,マニュアル液圧センサ222の検出値等に基づいて取得される(運転者が要求する制動トルク)。そして、総要求制動トルク、回生ブレーキ装置6に関する情報等に基づいて要求回生制動トルクが決定され、電動モータ20によって左右前輪2,4に加えられる回生制動トルクが要求回生制動トルクとなるように、電力変換装置26が制御される。一方、実際に加えられた回生制動トルクである実回生制動トルクが検出される。そして、総要求制動トルクから実回生制動トルクを引いた値等に基づいて要求液圧制動トルクが決定され、この要求液圧制動トルクに対応する液圧が動力制御圧の目標値とされる。ブレーキシリンダ液圧が動力制御圧の目標値に近づくように、増圧リニア制御弁132,減圧リニア制御弁136等が制御される。
【0024】
一方、例えば、蓄電装置22に蓄えられる充電量が設定量より大きくなった場合(蓄電装置22がフル状態になった場合)等の回生制動装置6の都合により、回生制動トルクが加えられなくなった場合には、回生協調制御が終了させられる。その場合には、直ちに、マニュアル液圧供給状態に切り換えられるのではなく、動力制御圧供給状態が維持される。そして、マニュアル状態切換条件が成立すると、マニュアル液圧供給状態に切り換えられる。回生協調制御の終了後の動力制御圧供給状態においては、動力制御圧の目標値が総要求制動トルクに基づいて決定され、増圧リニア制御弁132,減圧リニア制御弁136の制御により、ブレーキシリンダ液圧が動力制御圧目標値に近づけられる。ブレーキシリンダ液圧が運転者の意図する大きさに制御されるのである。
なお、回生協調制御が行われない車両であっても、通常制動時に動力制御圧供給状態とされて、ブレーキシリンダ42,52の液圧が運転者の要求する総要求制動トルク(ブレーキペダル60の操作状態で決まる)に応じた大きさに制御される場合がある。
【0025】
動力制御圧供給状態においては、図6のフローチャートで表されるブレーキシリンダ液圧制御プログラムが、予め定められた設定時間毎に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、ストロークセンサ220,マニュアル液圧センサ222の検出値が読み込まれ、S2において、動力制御圧の目標値Ps*が決定される。回生協調制御においては、要求液圧制動トルクに基づいて決定され、回生協調制御終了後、あるいは、回生協調制御が行われない車両においては、総要求制動トルクに基づいて決定される。また、S3において、ブレーキシリンダ42,52の実際の液圧が動力制御圧の目標値Ps*に近づくように、増圧リニア制御弁132,減圧リニア制御弁136のソレノイド146への供給電流が制御される。
【0026】
<マニュアル液圧供給状態>
マニュアル状態切換条件が成立するとマニュアル液圧供給状態に切り換えられる。
増圧リニア制御弁132が閉状態、マスタ遮断弁154が閉状態、ブースタ遮断弁152が開状態とされ、分離弁128が開状態、シミュレータ制御弁162が閉状態とされることにより、図5に示すマニュアル液圧供給状態とされる。マニュアル液圧供給状態においては、共通通路110が、動力式液圧源64,マスタシリンダ70から遮断されるとともに、液圧ブースタ68のブースタ室78bに連通させられるのであり、すべての保持弁122の開状態において、ブレーキシリンダ42,52に、共通に、液圧ブースタ68の液圧が供給される。
【0027】
<動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態への切換え>
予め定められたマニュアル状態切換条件が成立すると、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられる。
本実施例においては、(a)車両が停止状態にあること、すなわち、走行速度vsが停止状態にあるとみなし得る設定速度vsthより小さいこと(vs<vsth)、(b)ブレーキペダル60の、液圧ブレーキ40,50の作用を解除する指示する向きの操作(以下、ブレーキ解除操作と称する)が行われていること、例えば、ストロークセンサ220の検出値Sが減少傾向にあること(dS<0)、(c) マニュアル液圧(本実施例において、液圧ブースタ68のブースタ室78bの液圧をいう。)Pmとブレーキシリンダ液圧Pwcとの差圧ΔPの絶対値が切換許可しきい値ΔPthより小さいこと(|ΔP|<ΔPth)の3つが満たされた場合に、切換条件が成立したとされる。
【0028】
なお、ブレーキペダル60の解除操作が行われたことは、マニュアル液圧Pmに基づいて取得したり(dPm<0)、ブレーキペダル60に加えられる踏力を検出する踏力センサを設け、その踏力センサによる検出値Fに基づいて取得したり(dF<0)すること等もできる。
【0029】
図7のフローチャートで表されるマニュアル状態切換プログラムは、予め定められた設定時間毎(サイクルタイム毎)に実行される。
S11において、回生協調制御終了後の動力制御圧供給状態にあるか否か、回生協調制御が行われない車両において動力制御圧がブレーキシリンダ42,52に供給される状態にあるか否かが判定される。それら動力制御圧供給状態にある場合には、S12において、車両が停止状態にあるか否かが判定され、S13において、ブレーキペダル60の解除操作が行われているか否かが判定され、S14において、マニュアル液圧Pmとブレーキシリンダ液圧Pwcとの差圧ΔPの絶対値が切換許可しきい値ΔPthより小さいか否かが判定される。S12〜14のすべての判定がYESである場合には、S15において、マニュアル液圧供給状態に切り換えられる。S12〜14の少なくとも1つの判定がNOである場合には、マニュアル液圧供給状態に切り換えられることはない。マニュアル液圧供給状態に切り換えられることにより消費電力の低減等を図ることができる。
【0030】
<増圧勾配抑制制御>
上述のように切換条件が成立すると、マニュアル液圧供給状態に切り換えられるのであるが、その際に、マニュアル液圧Pmがブレーキシリンダ液圧より大きい場合には、図10(a)、(b)に示すように、マニュアル液圧が減少するとともにブレーキシリンダ液圧が増加する。
一方、図10(a)に示すように、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時以後において、ブレーキペダル60の操作ストロークが減少傾向にある場合には、ブレーキペダル60の操作ストロークの減少に伴ってマニュアル液圧も減少する。そのため、運転者は違和感を感じ難い。また、作動音も発せられ難い。
それに対して、図10(b)に示すように、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時以後において、ブレーキペダル60の操作力がほぼ一定に保持されている場合には、マニュアル液圧は一旦低下した後、そのブレーキペダル60の操作力で決まる液圧に達するまで増加して、その後、一定に保持される。この場合において、ブースタ室78bの液圧の低下に伴ってレギュレータ室80aの液圧も、加圧室74の液圧も低下する。また、マスタシリンダ70,液圧ブースタ68のヒステリシスにより、ブースタ室78bの液圧が変化しても、加圧ピストン72、スプール80aが直ちに移動させられることがない。そのため、ブレーキペダル60に加えられる操作力がほぼ一定に保持される場合に、ブースタ室78bの液圧が低下した後増加してもストロークはほぼ一定に保持される。しかし、運転者によるブレーキペダル60の操作状態が定常的にほぼ一定に保たれている場合に、マニュアル液圧が過渡的に減少した後に増加すると、運転者は違和感を感じる(これをペダルショックと称することがある)。また、ブースタ室78bの液圧の低下、増加に起因して作動音が発せされる。
【0031】
そこで、本実施例においては、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた後に、運転者が違和感を感じると予測された場合に、増圧勾配抑制制御(増圧勾配制御と称することもできる)が行われるのであり、減圧リニア制御弁136の制御により、共通通路110の液圧の増加勾配が設定勾配に制御される。設定勾配は、当該増圧勾配抑制制御が行われない場合の増圧勾配より小さい値に設定されており、増圧勾配が設定勾配に制御されることにより、当該増圧勾配抑制制御が行われない場合に比較して、増圧勾配が抑制される。
マニュアル液圧供給状態において、ブレーキシリンダ42,52と液圧ブースタ68とは、レギュレータ通路92,共通通路110,個別通路120を介して連通状態にあるため、共通通路110の液圧の増加勾配が抑制されれば、ブレーキシリンダ液圧の増加勾配が抑制されるとともにマニュアル液圧の増加勾配が抑制される。
【0032】
図8(a)のフローチャートで表される増圧勾配抑制制御プログラムは、予め定められた設定時間毎に実行される。
S31において、増圧勾配抑制制御中であるか否かが判定される。動力制御圧供給状態にある場合、あるいは、マニュアル液圧供給状態において減圧リニア制御弁136の制御が行われていない場合等には判定がNOとなる。
増圧勾配抑制制御中でない場合には、S32において、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられたか否かが判定される。切り換えられた場合には、S33において、開始条件が満たされたか否かが判定される。開始条件が満たされない場合には、増圧勾配抑制制御が開始されることはない。
本実施例においては、
(a)動力制御圧状態からマニュアル液圧状態に切り換えられた時点におけるマニュアル液圧Pm(マスタシリンダ液圧センサ222の検出値)がブレーキシリンダ液圧Pwc(ブレーキシリンダ液圧センサ226の検出値)より大きいこと(Pm>Pwc)、
(b)マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時点から設定時間が経過するまでの間のブレーキペダル60のストロークの変化量の絶対値の最大値ΔSmax(振幅)が保持判定しきい値ΔSmaxthより小さいこと(ΔSmax<ΔSmaxth)、
(c)マニュアル液圧Pm、ブレーキシリンダ液圧Pwcがいずれも増加傾向にあること(dPm>0、かつ、dPwc>0)、すなわち、マニュアル液圧Pmが低下傾向から増加傾向に変わったこと
のうちの(a)、(b)の2つが満たされた場合、あるいは、(a)、(b)、(c)の3つが満たされた場合に、開始条件が成立したとされる。
開始条件が成立した場合には、運転者が違和感を感じる可能性が高いと予測されるため、増圧勾配抑制制御が開始される。この意味において、開始条件は、ペダルショック発生予測条件と称することができる。
【0033】
(b)において、ストロークがほぼ一定に保持されていることが検出された場合には、操作力もほぼ一定に保持されていると考えることができるのであり、操作力センサがなくても、操作力がほぼ一定に保持されていることを検出することができる。設定時間は、例えば、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時におけるマスタシリンダ液圧とブレーキシリンダ液圧との差圧が標準的な大きさである場合を想定し、その場合に、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時からマスタシリンダ液圧が減少傾向から保持あるいは増加傾向に転じた時までの間の時間以下の長さとすることができる。
なお、(b)において、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時点におけるストロークの変化勾配dS/dtやマニュアル液圧Pmの変化勾配dPm/dtに基づいて、切換時以後の操作状態がほぼ一定であるか否かが判定されるようにすることもできる。
また、(b)において、ブレーキペダル60に加えられる踏力を検出する踏力センサを設け、踏力センサの検出値(踏力F)の変化に基づいて、ブレーキペダル60の操作状態が保持状態にあるか否かが判定されるようにしたり、踏力FとストロークSとの両方に基づいて保持状態にあるか否かが判定されるようにしたりすることができる。
さらに、(a)、(b)の2つの条件が満たされた場合より、(a)、(b)、(c)の3つの条件が満たされた場合の方が、運転者が違和感を感じる可能性が高いと考えることができる。
【0034】
開始条件が満たされた場合には、S34において、増加勾配抑制制御が行われる。図8(b)のルーチンに示すように、S41において、ブレーキシリンダ液圧Pwcが検出され、増加勾配dPwc/dtが取得される。S42において、実際の増加勾配dPwc/dtと目標勾配dPwc*/dtとの偏差が取得され、偏差が0に近づくように、減圧リニア制御弁136への供給電流が決定される。そして、S43において、減圧リニア制御弁136が制御される。本実施例においては、実際の増加勾配が目標勾配に近づくように、フィードバック制御が行われるのである。
例えば、実際の増加勾配dPwc/dtと目標勾配dPwc*/dtとの偏差が大きい場合には、減圧リニア制御弁136への供給電流Iも大きくなり、減圧リニア制御弁136の開度が大きくなる。
【0035】
増圧勾配抑制制御中である場合には、S31の判定がYESとなり、S35において、増圧勾配抑制制御の終了条件が成立するか否かが判定される。終了条件が成立しない場合には、S34において、増圧勾配抑制制御が継続して行われるが、終了条件が成立した場合には、S36において、増圧勾配抑制制御が終了させられるのであり、減圧リニア制御弁136の制御が終了させられ、供給電流Iが0とされる。
本実施例においては、(x)増圧勾配抑制制御が予め定められた設定時間以上継続して行われた場合、(y)ストロークの変化量の絶対値ΔSが操作判定しきい値ΔSethより大きくなったこと(ΔS>ΔSeth)、(z)減圧リニア制御弁136への供給電流が0であることのうちの少なくとも1つが満たされた場合に終了条件が成立したとされる。
(x)増圧勾配抑制制御が設定時間以上継続して行われた場合には、違和感を感じ難い状態になったと考えられるからである。
(y)操作判定しきいΔSethは、上述の保持判定しきい値ΔSmaxthより大きい値とされており(ΔSeth>ΔSmaxth)、ストロークの変化量の絶対値ΔSが、操作判定しきい値ΔSethより大きい場合(ΔS>ΔSeth)には、運転者がブレーキシリンダ液圧を変化させる意図がある(保持する意図がない)と考えられるため、増圧勾配抑制制御を終了させることが望ましい。
(z)実際の増加勾配が目標勾配に近づくように減圧リニア制御弁136への供給電流の制御が行われる場合において、供給電流Iが0であるということは、減圧リニア制御弁136が閉状態にあっても、目標勾配が実現されるということであり、それ以上、増圧勾配抑制制御を継続して行う必要性は低いと考えられる。
【0036】
このように、本実施例においては、動力制御圧供給状態からマニュアル液圧供給状態に切り換えられた後に増圧勾配抑制制御が行われる。図9に、(a)、(b)、(c)の3つの条件が満たされた場合に増圧勾配抑制制御(S34)が開始された場合のブレーキシリンダ液圧、マニュアル液圧の変化の状態を示す。図9に示すように、マニュアル液圧供給状態に切り換えられた後、マニュアル液圧が低下した後、増加させられる場合の増加勾配が抑制される。それにより、マニュアル液圧の過渡的な変化を抑制することができ、運転者の違和感を軽減することができ、作動音を抑制することができる。
【0037】
本実施例においては、動力液圧源64、出力液圧制御弁装置138,液通路90,110,120等により動力液圧系が構成され、液圧ブースタ68,液通路92,110,12等によりマニュアル液圧系が構成される。また、そのうちの液通路92,110,112等によりマニュアル圧供給部が構成される。
一方、ブレーキECU56の増圧勾配制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により増加勾配制御装置、増圧勾配抑制装置が構成される。増加勾配制御装置、増圧勾配抑制装置は、条件成立時増圧勾配制御部でもある。また、増加勾配制御装置のうちのS33の判定がYESとなり、S34を実行する部分等により増加勾配制御開始部が構成され、S34を記憶する部分、実行する部分等により減圧制御弁制御部が構成される。
【0038】
なお、上記実施例においては、マニュアル液圧供給状態において、ブースタ室78bが共通通路110に連通させられ、マスタシリンダ70の加圧室74が遮断される場合について説明したが、ブースタ室78bが遮断され、加圧室74が連通させられるようにすることもできる。
その場合には、加圧室74の液圧が低下した後に増加するが、マスタシリンダ70のヒステリシスにより加圧ピストン72は直ちに移動させられることはなく、ブレーキ操作力がほぼ一定である場合には、ブレーキペダル60のストロークもほぼ一定に保持される。この場合には、ブレーキペダル60に加えられる反力が変化し、運転者は違和感を感じる。また、加圧室74の液圧が低下した後に増加するため、それに起因して、作動音が発せられる。
それに対して、増加勾配抑制制御により、加圧室74の液圧の増加勾配が抑制される場合には、運転者の違和感を軽減し、作動音を低減することができる。
【0039】
その他、液圧ブレーキ回路の構造は問わない等、本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0040】
40,50:液圧ブレーキ 42,52:ブレーキシリンダ 54:液圧制御部 56:ブレーキECU 60:ブレーキペダル 64:動力式液圧源 66:アキュムレータ 68:液圧ブースタ 70:マスタシリンダ 72:加圧ピストン 78a:パワーピストン 78b:ブースタ室 90:動力制御圧通路 92:ブースタ通路 136:減圧リニア制御弁 152:ブースタ遮断弁 154:マスタ遮断弁 220:ストロークセンサ 222:マスタシリンダ液圧センサ 226:ブレーキシリンダ液圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の複数の車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を前記複数の車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
ブレーキ操作部材の運転者の操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を、前記複数の車輪のブレーキシリンダに供給するマニュアル液圧系と、
前記複数のブレーキシリンダに前記動力液圧系によって液圧が供給される動力制御圧供給状態から前記マニュアル液圧系によって液圧が供給されるマニュアル液圧供給状態に切り換えられた後に、前記ブレーキシリンダの液圧の増加勾配を設定勾配に制御する増圧勾配制御を行う増圧勾配制御装置と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記増圧勾配制御装置が、(a)前記動力制御圧供給状態から前記マニュアル液圧供給状態に切り換えられる際に、前記マニュアル式液圧源の液圧が前記ブレーキシリンダの液圧より大きいこと、(b)前記マニュアル液圧供給状態に切り換えられた時以後に、前記ブレーキ操作部材の操作状態が一定であることとの両方が成立した場合に、前記増圧勾配制御を行う条件成立時増圧勾配制御部を含む請求項1に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項3】
前記増圧勾配制御装置が、前記マニュアル液圧供給状態において、前記マニュアル液圧が増加傾向にあり、かつ、前記ブレーキシリンダの液圧が増加傾向にある場合に、前記増加勾配制御を開始する増加勾配制御開始部を含む請求項1または2に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項4】
前記マニュアル液圧系が、前記ブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマニュアル式液圧源を含み、
当該液圧ブレーキシステムが、(i)前記複数のブレーキシリンダが接続されるとともに、前記マニュアル式液圧源が接続された共通通路と、(ii)その共通通路と低圧源との間に設けられ、ソレノイドへの供給電流の制御により、前記共通通路の液圧を減少可能な減圧制御弁とを含み、
前記増加勾配制御装置が、前記減圧制御弁の制御により、前記複数のブレーキシリンダの液圧の増加勾配を制御する減圧制御弁制御部を含む請求項1ないし3のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項5】
前記マニュアル液圧系が、
(i)前記ブレーキ操作部材に連携させられた加圧ピストンを含み、その加圧ピストンの前方の加圧室に、前記ブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマスタシリンダと、
(ii)前記ブレーキ操作部材に連携させられるとともに前記加圧ピストンに連携させられたパワーピストンを含み、そのパワーピストンの後方に設けられたブースタ室に、前記ブレーキ操作部材の操作力で決まる液圧を供給することにより、前記ブレーキ操作部材の操作力を倍力して前記加圧ピストンに出力する液圧ブースタと、
(iii)前記ブースタ室の液圧を前記複数のブレーキシリンダに供給するブースタ液圧供給部とを含む請求項1ないし4のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項6】
車両の複数の車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を前記複数の車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
ブレーキ操作部材の運転者の操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を、前記複数の車輪のブレーキシリンダに供給するマニュアル液圧系と、
前記複数のブレーキシリンダに前記動力液圧系によって液圧が供給される動力制御圧供給状態から前記マニュアル液圧系によって液圧が供給されるマニュアル液圧供給状態に切り換えられた後に、前記ブレーキシリンダの液圧の増加勾配を、制御が行われない場合に比較して抑制する増圧勾配抑制装置と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−140027(P2012−140027A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291825(P2010−291825)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】