説明

液圧式ブレーキマスタシリンダ

本発明は、有利には電気機械式のブレーキブースタ(7)を備える、車両ブレーキ装置のための液圧式のブレーキマスタシリンダ(1)に関する。本発明は、ブレーキマスタシリンダ(1)を、有利には内外に位置する2つのプッシュロッドピストン(2,3)によって構成し、これらのプッシュロッドピストンの一方が人力により操作され、他方がブレーキブースタ(7)によって操作されることを提案する。さらに、本発明の一実施形態では、エネルギー蓄積器(21)を設け、このエネルギー蓄積器は、マスタブレーキシリンダ(1)が解除された場合にエネルギーを蓄積し、ブレーキマスタシリンダ(1)が操作された場合にエネルギーをブレーキマスタシリンダ(1)に伝達し、これにより、ブレーキマスタシリンダ(1)の操作を支援する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載の特徴を有する車両ブレーキ装置のための液圧式ブレーキマスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
負圧ブレーキブースタを有するブレーキマスタシリンダは既知であり、乗用車の車両ブレーキ装置のために汎用されている。
【0003】
ドイツ国特許出願公開第10327533号明細書は、回転/並進変換ギヤを介して、液圧式ブレーキマスタシリンダのプッシュロッドピストンを付勢する電動モータを有する電気機械式ブレーキブースタを開示している。既知のブレーキブースタの電動モータは中空軸モータであり、中空軸はスピンドル伝動装置のナットとして構成されている。スピンドル伝動装置は、電動モータの回転駆動運動を、プッシュロッドピストンを変位させる並進的な被駆動運動に変換させる回転/並進変換ギヤを形成している。電気機械式のブレーキブースタは、別の構成を有していてもよい。プッシュロッドピストンとして、ここではブレーキマスタシリンダのピストンが示され、このピストンは、ブレーキマスタシリンダを操作するためにブレーキブースタおよび/または車両運転手の人力によりブレーキマスタシリンダ内で変位される。プッシュロッドピストンは、プライマリピストン、または単にピストンまたはブレーキマスタシリンダピストンと呼ばれることもある。人力によるプッシュロッドピストンの変位、すなわち、ブレーキマスタシリンダの人力操作は、一般に(フット)ブレーキペダルを用いて足により行われるか、または(ハンド)ブレーキレバーを用いて手により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ国特許出願公開第10327533号明細書
【発明の概要】
【0005】
請求項1に記載の特徴を有する本発明によるブレーキマスタシリンダは、互いに対して変位可能な2つのプッシュロッドピストンを備える。2つのプッシュロッドピストンの一方は、車両運転手の人力によって変位され、他方のプッシュロッドピストンはブレーキブースタによって変位される。従来技術の場合とは異なり、ブレーキブースタの倍力と車両運転手の人力との連結はブレーキマスタシリンダの外部で機械的に行われるのではなく、ブレーキマスタシリンダの内部で液圧的に行われる。2つのプッシュロッドピストンの独立した変位が可能であり、その結果、ブレーキブースタの移動と車両運転手の人力による移動が独立して可能であるが、両方の移動の独立性は本発明の実施形態および改良形態において限定的なものであってもよい。2つのプッシュロッドピストンのピストン面の比率は、ブレーキブースタの増幅率を決定する。
【0006】
通常の制動のためには、ブレーキブースタは、車両運転手の人力によって変位される一方のプッシュロッドピストンと同期的に他方のプッシュロッドピストンを変位する。2つのプッシュロッドピストンが同期的に変位された場合、上述のように2つのプッシュロッドピストンのピストン面の比率がブレーキブースタの増幅率を決定する。
【0007】
いわば「跳躍的関数」、すなわち、ブレーキ操作の開始時およびプッシュロッドピストンの変位開始時に幾分増大したブレーキ力増幅が、ブレーキブースタにより変位されるプッシュロッドピストンの変位距離が開始時により大きいことにより達成される。
【0008】
ブレーキマスタシリンダは、通常の制動時のようにブレーキブースタおよび人力によって操作するのではなく、ブレーキブースタのみによって操作することも人力のみによって操作することもできる。ブレーキブースタおよび人力による操作は補助ブレーキであり、ブレーキブースタのみによる操作は外力ブレーキであり、人力のみによる操作は人力ブレーキである。本発明によるブレーキマスタシリンダは、例えばブレーキブースタの故障時に人力ブレーキのみをかけることを可能にし、ブレーキブースタは共に移動されず、人力操作を困難にしたり、または妨害したりすることはない。
【0009】
本発明によるブレーキマスタシリンダは、特に内燃機関および電動モータによる駆動装置を有するハイブリッド車両および純粋な電動車両のために特に適している。このような車両では、車両を制動するための電動式駆動モータを発電機として作動することができ、これにより、ブレーキ力もしくはブレーキ出力の大部分が電動式駆動モータによって加えられ、残りの部分が車両ブレーキ装置によって加えられる。発電機作動時の電動式駆動モータのブレーキ出力の割合は、100%〜0%であってよく、とりわけそれぞれの走行状態に依存して、例えば電動式駆動モータにより車両を駆動するための電流を供給し、発電機作動時に電動式駆動モータにより制動を行う場合に電流を負荷されるアキュムレータの充電状態に依存して変化する。車両の運動エネルギーの回収は、回生とよばれる。
【0010】
ブレーキ力の一部が車両ブレーキ装置によってではなく、発電機作動時に電動式駆動モータによって生成されることに車両運転手ができるだけ気付かないようにすることが望ましい。部分的に発電機作動時に電動式駆動モータによって行われ、残りは車両ブレーキ装置によって行われる制動は「協調(Uberblenden)」と呼ばれる。車両運転手ができるだけ気付かないように協調させることは、電動式駆動モータのブレーキ出力は常に変化し得るので、とりわけ困難である。本発明によるブレーキマスタシリンダは、人力およびブレーキブースタにより2つのプッシュロッドピストンを無関係に変位させる可能性により、できるだけ気付かれることのない協調を容易にする。気付かれることのない協調は、ブレーキブースタおよび人力操作と本発明によるブレーキマスタシリンダとの液圧的な連結により、機械的な連結の場合よりも良好に可能となる。
【0011】
気付かれないように協調させるためには、発電機作動時の電動式駆動モータのブレーキ出力に対応してブレーキブースタの増幅率を著しく低減させる必要があり、これにより、ブレーキマスタシリンダのプッシュロッドピストンに加えられる人力が等しく、有利には人力距離が等しい場合には、車両ブレーキ装置のみによる制動時と同じ総ブレーキ出力が発電機作動時の電動式駆動モータおよび車両ブレーキ装置により得られる。
【0012】
従属請求項は請求項1に記載の発明の有利な実施形態および改良形態を対象としている。
【0013】
本発明の一実施形態では、2つのプッシュロッドピストンを変位方向に弾性的に結合している。弾性的な結合は、一方向または双方向に作用させてもよい。弾性的な結合により、液圧的な連結に加えて機械的な連結が得られる。弾性的な結合は、2つのプッシュロッドピストンのいずれか一方を変位させた場合に他方も同様に、例えわずかであっても変位されるという利点を有する。
【0014】
本発明の一実施形態では、2つのプッシュロッドピストンの互いに対する変位に制限を設け、これにより、2つのプッシュロッドピストンの互いに対する無制限の変位を防止している。
【0015】
本発明の一実施形態では、制御可能なブレーキブースタを設けている。「制御可能」とは、ブレーキマスタシリンダに加えられる人力とは無関係にブレーキブースタの増幅率が制御され得るという意味であり、この場合「制御」とは本発明の範囲では「調整」ともいえる。電気機械式のブレーキブースタは構造に基づき制御可能なので、好ましくは、このようなブレーキブースタが設けられている。負圧式ブレーキブースタは、例えば作業室を弁により通期可能に構成することにより制御可能に構成することもできる。弁としては、例えば電磁弁が設けられ、より良好な制御性のためには比例電磁弁が設けられる。本発明は、列挙したブレーキブースタに制限されない。
【0016】
本発明の好ましい一実施形態ではエネルギー蓄積器が設けられており、エネルギー蓄積器は、ブレーキマスタシリンダが解除された場合にエネルギーを蓄積し、ブレーキマスタシリンダが操作された場合に蓄積されたエネルギーをブレーキマスタシリンダに伝達し、これにより、ブレーキマスタシリンダの操作を支援する。エネルギー蓄積器へのエネルギー蓄積は、ブレーキブースタによりブレーキマスタシリンダを能動的に解除した場合に行われ、これは、例えばブレーキブースタ、例えば電気機械式ブレーキブースタまたは一般に操作方向とは反対に向けられた増幅力を加えることができるブレーキブースタにより可能である。操作時にも解除時にもブレーキブースタによってエネルギーを加える必要があるが、ブレーキ操作時に増幅力および増幅力によって加えられたエネルギーはエネルギー蓄積器による支援なしの場合よりも低い。それ故、より小さい出力を有するブレーキブースタが使用可能である。本発明のこのような構成の別の利点は、車両ブレーキ装置の解除時に自由になるエネルギーがエネルギー蓄積器に蓄積されることである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明によるブレーキマスタシリンダの断面図である。
【図2】図1のII-II線に沿った横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示した本発明によるブレーキマスタシリンダ1は2つのプッシュロッドピストン2,3および浮動ピストン4を有するタンデム式ブレーキマスタシリンダである。プッシュロッドピストン2,3には、プライマリピストンまたは入力ピストンという名称、浮動ピストン4にはセカンダリピストンという名称も用いられる。2つのプッシュロッドピストンのうち一方のプッシュロッドピストン2は管状の中空ピストンであり、中空ピストンの内部に他方のプッシュロッドピストン3が軸線方向に変位可能に収容されている。2つのプッシュロッドピストン2,3は相互にシールされており、管状の一方のプッシュロッドピストン2はブレーキマスタシリンダ1の内部でシールされている。管状の一方のプッシュロッドピストン2の操作は、ピストンロッド6を介して(フットブレーキ)ペダル5を用いて人力により機械的に行われ、ピストンロッド6はペダル5およびプッシュロッドピストン2に枢着式に結合されている。人力操作は、例えば手よりハンドブレーキレバーを介して行うこともできる(図示しない)。
【0019】
内側の他方のプッシュロッドピストン3はブレーキブースタ7により操作される。すなわち、ブレーキマスタシリンダ1の内部で変位されるか、または管状の一方のプッシュロッドピストン2の内部で、もしくはプッシュロッドピストン2と共に変位される。本実施例では、ブレーキブースタ7は電気機械式のブレーキブースタ7であるが、これは本発明にとって必須ではない。ブレーキブースタ7は電動モータ8を備え、電動モータ8には減速歯車装置9、例えば遊星歯車装置がフランジ接続されており、遊星歯車装置は、ラック・アンド・ピニオン装置10を介して内側の他方のプッシュロッドピストン3を変位する。ラック・アンド・ピニオン装置10は減速歯車装置9の出力軸に歯車11を備え、歯車11は、内側の他方のプッシュロッドピストン3と堅固に結合されたラック12と噛み合う。
【0020】
管状の一方のプッシュロッドピストン2は、内側に突出したフランジ13を両端に備える。管状の一方のプッシュロッドピストン2の後端に設けられたフランジ13はラック12によって貫通係合される。後端とは、プッシュロッドピストン2におけるペダル5に向いた端部である。ブレーキマスタシリンダ1は1本ではなく、2本のピストンロッド6を備え、これらのピストンロッドは合同であり、ラック12の長手方向溝に並列して配置されている(図2参照)。ピストンロッド6は、管状の一方のプッシュロッドピストン2の後端に設けられたフランジ13に枢着式に取り付けられている。
【0021】
管状の一方のプッシュロッドピストン2における内側に突出したフランジ13,14は、2つのプッシュロッドピストン2,3の変位距離を制限するストッパを形成している。フランジ13,14は、2つのプッシュロッドピストン2,3の相互の変位距離のための相対変位制限部として理解することができる。内側の他方のプッシュロッドピストン3の両端にはばね素子15,16が配置されており、これらのばね素子15,16は管状の一方のプッシュロッドピストン2のフランジ13,14で支持されている。ばね素子15,16は2つのプッシュロッドピストン2,3を変位方向、すなわち軸線方向に弾性的に結合している。本実施例では、ばね素子15は内側の他方のプッシュロッドピストン3におけるペダル5に向いた端部に設けられた圧縮コイルばねである。内側の他方のプッシュロッドピストン3の前端に設けられたばね素子16は、図示の実施例ではドーム型に湾曲した皿ばねであり、このディスクばねのばね距離は極わずかであり、ディスクばねのばね定数は、内側のプッシュロッドピストン3の後端に設けられたばね素子15のばね定数の数倍である。圧縮コイルばねおよびディスクばね以外のばね素子も可能であり、同様に内側のプッシュロッドピストン3の前面における短いばね距離および大きいばね定数は本発明にとって必須ではないが、有利である。
【0022】
管状の一方のプッシュロッドピストン2が人力によって操作され、内側の他方の圧縮プランジャピストン3がブレーキブースタ7によって操作されること、すなわち、ブレーキマスタシリンダ1の内部で変位されることは必須ではない。しかしながら、外側に位置する管状の一方のプッシュロッドピストン2が人力によって操作されることは有利であると考えられる。なぜなら、プッシュロッドピストン2は、短い変位距離後に、ブレーキ液リザーバタンク18をブレーキマスタシリンダ1の加圧室19と連通させる吸込孔17を閉鎖するからである。内外に位置する2つのプッシュロッドピストン2,3の代わりに、互いに並行に配置されているか、互いに角度をなして配置されているか、または互いに傾斜して配置されている2つのプッシュロッドピストンも可能であり、これらのプッシュロッドピストンは、対応して変更されたブレーキマスタシリンダ1の内部に配置されているか、または少なくとも一方のプッシュロッドピストンが固有のシリンダを備えていることも考えられる(図示しない)。2つのプッシュロッドピストンは液圧的に連通している。
【0023】
通常の制動は、人力操作によって、すなわち、ブレーキペダル5が踏み込まれ、ピストンロッド6を介して管状の一方のプッシュロッドピストン2を変位することによって得られる。内側の他方のプッシュロッドピストン3が管状の一方のプッシュロッドピストン2と同期的に変位されるように、図示しない電子制御部がブレーキブースタ7を制御する。ここで「制御」は「調整」としても理解すべきである。ブレーキブースタ7を制御するために、ブレーキマスタシリンダ1は距離センサ20および/または図示しない力センサを備え、これにより、ペダル5のペダル距離および/またはペダル力を測定することができる。ブレーキブースタ7によって変位される内側の他方のプッシュロッドピストン3の変位または位置は、例えばブレーキブースタ7の電動モータ8の電子通信を介して測定することができる。
【0024】
浮動ピストン4は、既知の形式でプッシュロッドピストン2,3を液圧的に加圧することにより操作、すなわち、ブレーキマスタシリンダ1の内部で変位される。
【0025】
いわば「跳躍的関数」、すなわち、ブレーキ操作の開始時に増大したブレーキ力増幅率は、ブレーキブースタ7によって変位される内側の他方のプッシュロッドピストン3が、ペダル5を用いて人力により変位される管状の一方のプッシュロッドピストン2よりもさらに変位開始時に変位されることによって得られる。
【0026】
力増幅、すなわち、ブレーキブースタ7による人力の増幅、すなわち、ブレーキブースタ7の増幅率は、2つのプッシュロッドピストン2,3が同期的に変位された場合にはピストン面の比率によって決定される。管状の一方のプッシュロッドピストン2のピストン面は円形リング面である。より大きい力増幅のためには、ブレーキブースタ7によって変位される内側の一方のプッシュロッドピストン2が、人力操作される管状の一方のプッシュロッドピストン2よりもさらに変位され、より小さい力増幅においてはこれと反対になる。2つのプッシュロッドピストン2,3は、ブレーキ液によって負荷されたブレーキマスタシリンダ1の加圧室19の内部でブレーキ液を介して液圧的に連結されており、さらにばね素子15,16によって機械的および弾性的に連結されている。2つのプッシュロッドピストン2,3が不均等に変位された場合、ばね素子15、16は、より多く変位されたプッシュロッドピストン2,3の力をより少なく変位されたプッシュロッドピストン2,3に伝達する。
【0027】
人力操作なしの自律的な制動は、ブレーキブースタ7を有する内側の他方のプッシュロッドピストン3によって行うことができる。内側の他方のプッシュロッドピストン3の前面に設けられたばね素子16を介して、管状の一方のプッシュロッドピストン2は弾性的に、緩衝されて連行される。
【0028】
電気機械式のブレーキブースタ7が故障した場合、ブレーキペダル5を用いた人力のみによる操作が可能である。人力操作される管状の一方のプッシュロッドピストン2は、小さい円形リング状のピストン面によって大きい液圧変換率を有しており、このことは、ブレーキブースタ7が故障し、ブレーキマスタシリンダ1が人力のみにより操作される場合に有利である。内側の他方のプッシュロッドピストン3の後端に設けられたばね素子15は、管状の一方のプッシュロッドピストン2の力を内側の他方のプッシュロッドピストン3に伝達し、ブレーキマスタシリンダ1が人力操作された場合に、内側の他方のプッシュロッドピストン3もブレーキマスタシリンダ1の内部で変位されるが、この場合、内側の他方のプッシュロッドピストン3の変位距離は管状の一方のプッシュロッドピストン2の変位距離よりも短い。管状の一方のプッシュロッドピストン2の液圧変換率は、内側の他方のプッシュロッドピストン3の連行によって低減される。内側の他方のプッシュロッドピストン3の後端16に設けられたばね素子15のばね定数は、プッシュロッドピストン3の前端のばね素子16よりも小さく選択され、これにより、内側の他方のプッシュロッドピストン3は、ブレーキマスタシリンダ1が人力のみにより操作された場合により穏やかに連行される。内側の他方のプッシュロッドピストン3の後端に設けられたばね素子15が「停止した(auf Block geht)」場合、内側の他方のプッシュロッドピストン3は管状の一方のプッシュロッドピストン2と同期的に変位する。
【0029】
本発明によるブレーキマスタシリンダ1はエネルギー蓄積器21を備える。エネルギー蓄積器21は、図1では図平面の前方に位置し、したがって、図2でしか見ることができない。エネルギー蓄積器21は、ブレーキマスタシリンダ1が解除された場合、すなわち、プッシュロッドピストン2,3がシリンダ1から外方に変位された場合にエネルギーを蓄積し、ブレーキマスタシリンダ1が操作された場合、すなわち、プッシュロッドピストン2,3がブレーキマスタシリンダ1の内部に変位された場合にこのエネルギーを再び放出し、これにより、ブレーキマスタシリンダ1の操作を支援する。本実施例では、エネルギー蓄積器21はばねエネルギー蓄積器であるが、これは本発明にとって必須ではない。エネルギー蓄積器21は、スピンドル23およびナット24を有するスピンドル伝動装置22を備える。スピンドル伝動装置22は自動ロック式ではない。ばね素子25は、エネルギー蓄積器21のハウジングで支持され、軸線方向にナット24を押圧する。圧縮コイルばねが図示されているが、他のばね、特に皿ばねセット(図示しない)も考慮される。スピンドル23は歯車26を備え、歯車26はラック12と噛み合い、ラック12は内側の他方のプッシュロッドピストン3と堅固に結合されており、このプッシュロッドピストン3のピストンロッドを形成している。エネルギー蓄積器21の歯車26は、ブレーキブースタ7の歯車11と同様に、ラック12の向かい合った側に係合する。ラック12はこのために互いに向かい合った2つの歯列を備える。2つの歯車11,26は、歯車11,26によりラック12を駆動する場合に作用する横方向力または横方向力成分に対してラック12を交互に支持する。これにより、横方向負荷に対するラック12の独立した支持は不要となり、内側の他方のプッシュロッドピストン3は横方向軸線を中心としたモーメントによる負荷を受けない。
【0030】
ブレーキマスタシリンダ1が解除された場合、内側の他方のプッシュロッドピストン3はシリンダ1から外方に変位され、ピストンロッドを形成しているラック12をペダル5の方向に変位する。この場合、ラック12は歯車26を変位し、歯車26と共にエネルギー蓄積器21のスピンドル23を回動させる。ナット24は軸線方向に変位され、ばね素子25を締め付け、これにより、エネルギーはエネルギー蓄積器21に蓄積される。
【0031】
エネルギー蓄積器21のばね素子25を締め付けることができるように、ラック12はブレーキブースタ7によって駆動される必要がある。すなわち、ブレーキマスタシリンダ1はブレーキブースタ7によって能動的に解除される必要がある。エネルギー蓄積器21のスピンドル伝動装置22は自動ロック式ではなく、ばね素子25の軸線方向力を、ラック12をブレーキマスタシリンダ1の方向に負荷するモーメントに変換し、これにより、ブレーキマスタシリンダ1の操作を支援する。ブレーキブースタ7がブレーキマスタシリンダ1を操作するために加える必要のある力およびエネルギーは、エネルギー蓄積器21の作用によって適宜減衰される。操作力はブレーキブースタ7とエネルギー蓄積器21とに分配されているので、ブレーキブースタ7のラック・アンド・ピニオン装置10の機械的負荷は対応して減衰される。ラック・アンド・ピニオン装置は適宜に弱く寸法決めしてもよい。
【0032】
ブレーキブースタ7およびエネルギー蓄積器21の歯車11,26からラック12の向かい合った2つの歯列に加えられる力は、歯車11,26におけるラック12の歯列と噛み合った歯の互いに隣接する歯側面に対して垂直方向に作用する。すなわち、図1に力矢印27,28によって示すように、力はラック12の長手方向に作用し、幾分斜めに内方に向けられている。したがって、力27,28はラック12に対して横方向に内方に向けられた力成分を有し、これらの横方向力成分は、歯列に作用する力が等しい大きさである場合には補償され、またブレーキブースタ7およびエネルギー蓄積器21の歯車11,26が軸線方向にずらして配置されている場合にも補償される。
【0033】
ブレーキマスタシリンダ1が解除された場合に、図1に矢印29で示すようにブレーキブースタ7の歯車11がラック12に加える力は反転し、ブレーキマスタシリンダ1から離れて、変わらずに斜め内方に向けられ、エネルギー蓄積器21の歯車26がラック12に加える力は変わらずにブレーキマスタシリンダ1の方向に、斜め内方に向けられている。これにより、図1で時計回りに作用するモーメントがラック12に作用する。このモーメントは、ラック12の向かい合った歯列の間隔30に伴い増大し、ブレーキブースタ7およびエネルギー蓄積器21の歯車11,26の軸線方向のずれ31に伴い減少する。このため、エネルギー蓄積器21の歯車26は、ブレーキブースタ7の歯車11よりもブレーキマスタシリンダ1との間隔がより大きく、2つの歯車11,6はずれ31を有している。
【0034】
エネルギー蓄積器21はジョイント32によって旋回可能に支承されており、歯車26はラック12との係合を解除するように旋回することができる。係合を解除する旋回に対して、支持部33はエネルギー蓄積器21を支持し、エネルギー蓄積器21は、電磁石35によって解除可能なロック34を備える。ロック34の解除により支持部33の支持作用がなくなり、エネルギー蓄積器21の歯車26はラック12との係合を解除するように旋回される。ばね素子36は、支持部33は解除された場合に確実に係合を解除する旋回を確保する。エネルギー蓄積器21の歯車26とラック12との係合を解除する旋回は、エネルギー蓄積器12の遮断時またはその他の欠陥発生時またはブレーキブースタ7の故障時に行われる。ジョイント32およびエネルギー蓄積器21の解除可能な支持部33は分離装置を形成しており、この分離装置によって、エネルギー蓄積器をブレーキマスタシリンダ1の動作から分離すること、すなわち、上述のようにラック12との係合を解除することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキブースタ(7)と、人力および/またはブレーキブースタ(7)によって車両ブレーキ装置を操作するためにブレーキマスタシリンダ(1)の内部で変位可能なプッシュロッドピストンとを備える、車両ブレーキ装置のための液圧式ブレーキマスタシリンダにおいて、
ブレーキマスタシリンダ(1)が2つのプッシュロッドピストン(2,3)を備え、該プッシュロッドピストン(2,3)が互いに変位可能であり、一方のプッシュロッドピストン(2)が人力によって、かつ他方のプッシュロッドピストン(3)が前記ブレーキブースタ(7)によって、ブレーキマスタシリンダ(1)の内部で変位可能であることを特徴とする、液圧式ブレーキマスタシリンダ。
【請求項2】
前記2つのプッシュロッドピストン(2,3)が、1つ以上のばね素子(15,16)によって変位方向に弾性的に結合されている、請求項1に記載のブレーキマスタシリンダ。
【請求項3】
前記2つのプッシュロッドピストン(2,3)が、該2つのプッシュロッドピストン(2,3)の相互の変位距離を制限する相対変位制限部(13,14)を備える、請求項1に記載のブレーキマスタシリンダ。
【請求項4】
前記ブレーキマスタシリンダ(1)が、制御可能なブレーキブースタ(7)を備える、請求項1に記載のブレーキマスタシリンダ。
【請求項5】
前記ブレーキマスタシリンダ(1)が、電気機械式のブレーキブースタ(7)を備える、請求項4に記載のブレーキマスタシリンダ。
【請求項6】
前記ブレーキマスタシリンダ(1)がエネルギー蓄積器(21)を備え、該エネルギー蓄積器(21)が、前記ブレーキマスタシリンダ(1)が解除された場合にエネルギーを蓄積し、前記ブレーキマスタシリンダ(1)が操作された場合に、蓄積されたエネルギーを前記ブレーキマスタシリンダ(1)に伝達し、これにより、前記ブレーキマスタシリンダ(1)の操作を支援する、請求項1に記載のブレーキマスタシリンダ。
【請求項7】
前記ブレーキマスタシリンダ(1)が、ばねエネルギー蓄積器(21)を備える、請求項6に記載のブレーキマスタシリンダ。
【請求項8】
前記ブレーキブースタ(7)が、前記他方のプッシュロッドピストン(3)のピストンロッド(12)の一方側に係合し、前記エネルギー蓄積器(21)が向かい側で前記他方のプッシュロッドピストン(3)のピストンロッド(12)に係合する、請求項6に記載のブレーキマスタシリンダ。
【請求項9】
前記エネルギー蓄積器(21)が分離装置を備え、該分離装置によって、前記エネルギー蓄積器が前記ブレーキマスタシリンダ(1)の動作から分離可能である、請求項6に記載のブレーキブースタ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−500193(P2013−500193A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522048(P2012−522048)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057290
【国際公開番号】WO2011/012345
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】