説明

液晶セルおよび液晶ディスプレイ装置

【課題】柔軟性に富み、かつ、損傷し難く、耐久性に富み、そして動作不良が起き難い高品質な液晶セルを提供することである。
【解決手段】導電層と導電層との間に液晶層が設けられてなる液晶セルであって、前記導電層の中の少なくとも一方の導電層が絡み合った単層カーボンナノチューブで構成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶セルおよび液晶ディスプレイ装置に関する。より詳しくは、単層カーボンナノチューブからなる導電層を有する液晶セルおよび液晶ディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ装置に代表される薄型表示デバイスの市場拡大に伴い、近年、より薄型の液晶ディスプレイ装置が求められている。そして、現在では、より薄型化する為、ガラス基板では無く、樹脂フィルム基板を用いた液晶ディスプレイ装置が求められている。
【0003】
さて、液晶ディスプレイ装置を動作させる為には、液晶分子に電圧を掛ける為の導電層が必要である。この導電層の材料として、これまでは、インジウム錫酸化物(ITO)に代表されるセラミック材料が用いられて来た。
【0004】
しかしながら、基板材料として樹脂フィルムを用いると、ITOなどのセラミック材料は、柔軟性が乏しいことから、基板の柔軟性に追随できず、損傷し、液晶ディスプレイ装置が動作しない問題点がある。
【特許文献1】特開2004−202948
【特許文献2】特開2005−255985
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明が解決しようとする課題は、柔軟性に富み、かつ、損傷し難く、耐久性に富み、そして動作不良が起き難い高品質な液晶セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題は、
導電層と導電層との間に液晶層が設けられてなる液晶セルであって、
前記導電層の中の少なくとも一方の導電層が絡み合った単層カーボンナノチューブで構成されてなる
ことを特徴とする液晶セルによって解決される。
【0007】
又、上記の液晶セルであって、単層カーボンナノチューブはアーク放電法によるものであることを特徴とする液晶セルによって解決される。
【0008】
又、上記の液晶セルであって、導電層がフラーレンを有することを特徴とする液晶セルによって解決される。
【0009】
又、上記の液晶セルであって、導電層が水酸化フラーレンを有することを特徴とする液晶セルによって解決される。
【0010】
又、上記の液晶セルであって、導電層はバインダ樹脂を用いないで構成されてなることを特徴とする液晶セルによって解決される。
【0011】
又、上記の液晶セルであって、導電層上に保護層が設けられてなることを特徴とする液晶セルによって解決される。
【0012】
又、上記の液晶セルを具備することを特徴とする液晶ディスプレイ装置によって解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、液晶セルの導電層を絡み合った単層カーボンナノチューブで構成させたので、柔軟性に富み、樹脂フィルム製基板に追随して撓むことが出来、損傷が起き難く、耐久性に富む。そして、動作不良が起き難く、しかも動作性に優れた高品質なものである。
【0014】
尚、前記特許文献1には、「透明樹脂からなる基材層と、基材層に積層される導電層とを備え、前記導電層が基板側導電層と対面して配置されて基板側導電層と接触して通電状態になるタッチパネル用シート状樹脂積層体であって、前記導電層が透明なマトリックス樹脂にカーボンナノ線条体が分散された樹脂組成物からなることを特徴とするタッチパネル用シート状樹脂積層体」「透明樹脂からなる基材層と、基材層に積層される導電層とを備えるタッチパネル用シート状樹脂積層体が、前記導電層を基板側導電層に対面させた状態でスペーサを介して基板の上側に所定間隔で配設されているタッチパネルであって、前記タッチパネル用シート状樹脂積層体の導電層が透明なマトリックス樹脂にカーボンナノ線条体が分散された樹脂組成物からなることを特徴とするタッチパネル」が開示されている。特許文献2には、「基材上に塗布されたカーボンナノチューブ含有コーティングフィルムにおいて、前記カーボンナノチューブ含有コーティングフィルムは、カーボンナノチューブが三次元網目構造を有していて、かつ、カーボンナノチューブ含有コーティングフィルムの表面上に露出していることを特徴とするカーボンナノチューブ含有コーティングフィルム」が開示されている。
【0015】
しかしながら、特許文献1,2には、液晶セルに関する開示は皆無である。かつ、液晶セルを想起させる記載も認められない。すなわち、特許文献1はタッチパネルに用いられるものに過ぎない。そして、特許文献2には、カーボンナノチューブ含有コーティングフィルムの用途として、ESD保護、EMI/RFIシールド、低視認性、ポリマーエレクトロニクス(例えば、OLEDディスプレイの透明導電層、ELランプ、プラスチックチップなど)が開示されているに過ぎない。
【0016】
そして、引用文献1,2のものでは、カーボンナノチューブを樹脂中に分散せしめていることから、導電層の導電性が芳しく無い。従って、特許文献1,2のものを液晶セルに用いたとしても、その動作性は良く無い。すなわち、本願発明は特許文献1,2のものでは到底に奏することが出来ない特長を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は液晶セルである。すなわち、導電層と導電層との間に液晶層が設けられてなる液晶セルである。更に具体的に一例を説明すると、透明基板上に少なくとも導電層が設けられた電極基板を、液晶分子からなる層(液晶層)を介して導電層を有する面が互いに向い合うように対向配置された液晶セルである。そして、前記導電層の中の少なくとも一方の導電層が、絡み合った単層カーボンナノチューブで構成される。尚、液晶セルにおける双方の導電層を絡み合った単層カーボンナノチューブで構成させた方が好ましいが、これは、一方のみでも、それなりに、効果を奏する。そして、導電層を構成する単層カーボンナノチューブは絡み合ったものであることから、単層カーボンナノチューブ同士は、複数個所で互いに接触しており、これによって導電性が十分に確保されたものとなっている。尚、単層カーボンナノチューブは、好ましくは、アーク放電法によって得られたものである。前記導電層は、好ましくは、フラーレンを有する。特に、水酸化フラーレンを有する。そして、前記導電層は、好ましくは、バインダ樹脂を用いないで構成されている。これは、単層カーボンナノチューブ同士が絡み合ったものであることから、バインダ樹脂なしでも、導電層を構成できる。又、前記導電層上には、好ましくは、保護層が設けられる。
そして、上記液晶セルを用いて液晶ディスプレイ装置が構成される。
【0018】
以下、更に、詳しく説明する。
液晶セルの基本構造は、少なくとも一方の基板に導電層を設け、かつ、基板上に配向膜を設け、この配向膜が内側にして対抗配置され、その間に液晶分子が封入された構造である。このような液晶表示素子における導電層は、一般に、基板上にストライプ状または格子状などの表示パターンの形で構成されている。そして、配向膜は、この透明電極および露出した(表示パターン以外の)基板の全面に塗布(又は蒸着)により設けられている。この二枚の導電層を含む透明電極基板は、各々、配向膜を内側にして配置され、この間に液晶材料が封入されることによって、液晶セルが構成される。従って、封入された液晶分子は、一般に、配向膜のみに接している。一般に、配向膜は、液晶を或る方向に揃えて配列、即ち、配向させる必要がある為に設けられている。これによって、液晶分子が配向させられる。
【0019】
液晶セルには、TN(Twisted Nematic),VA(Vertical
Alignment),IPS(In-Plane Switching),OCB(optically compensated birefringence)等の各種モードが知られている。
【0020】
液晶分子としては各種のものが用いられる。好ましくは棒状分子化合物が用いられる。例えば、好ましいものとして、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が用いられる。尚、TN,VA,IPS,OCBの液晶化合物としては、特開平11-302653、特開平9-249881、特開2002-193853、特開2003-73670に記載の液晶化合物が挙げられる。
【0021】
本発明に用いる単層カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであれば良い。その製法の如何は問われない。例えば、アーク放電法、化学気相法、レーザー蒸発法などの製法を用いて製造できる。但し、結晶性の観点から、アーク放電法によって得られたものが好ましい。そして、このものは、入手も容易である。
【0022】
本発明に用いる単層カーボンナノチューブは、好ましくは、酸処理を施した単層カーボンナノチューブである。酸処理とは、酸性液体と単層カーボンナノチューブとを接触させることである。例えば、単層カーボンナノチューブを酸性液体中に浸漬する処理である。或いは、単層カーボンナノチューブに酸性液体を噴霧する処理である。用いられる酸性液体には格別な制限は無い。無機酸や有機酸を適宜用いることが出来る。具体的には、例えば硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、及びこれらの混合物が挙げられる。尚、好ましくは、硝酸あるいは硝酸と硫酸の混合液である。そして、酸処理の条件は、温度が80℃〜100℃であることが好ましく、時間が1日〜7日間であることが好ましい。そして、斯かる酸処理によって、単層カーボンナノチューブと炭素微粒子とがアモルファスカーボンを介して物理的に結合している場合、アモルファスカーボンの分解によって、両者が分離する。又、単層カーボンナノチューブ作製時に使用した金属触媒の微粒子が分解する。その結果、導電性が向上する。すなわち、酸処理した場合と、酸処理しなかった場合とを比べると、前者の方が導電性が向上していた。
【0023】
本発明に用いる単層カーボンナノチューブは、濾過されたものであることが好ましい。すなわち、濾過によって、不純物が除去され、純度が向上し、導電性の低下や光透過率の低下が防止できたからである。濾過の方法には格別な制限は無い。例えば、吸引濾過、加圧濾過、クロスフロー濾過などを用いることが出来る。但し、好ましくは、スケールアップの観点から、中空糸膜を用いたクロスフロー濾過である。
【0024】
本発明の単層カーボンナノチューブからなる導電層はフラーレンまたはその類縁体を有することが好ましい。それは、フラーレンまたはその類縁体を含まない導電膜に比べ、耐久性が向上したからである。
【0025】
本発明で用いられるフラーレンは如何なるものでも良い。例えば、C60,C70,C76,C78,C82,C84,C90,C96等が挙げられる。勿論、これ等の複数種のフラーレンの混合物でも良い。尚、分散性能からC60が特に好ましい。更に、C60は入手し易い。又、C60のみでは無く、C60と他の種類のフラーレン(例えば、C70)との混合物でも良い。又、フラーレンの内部に、適宜、金属原子を内包したものでも良い。尚、類縁体としては、水酸基、エポキシ基、エステル基、アミド基、スルホニル基、エーテル基など公知の官能基を含むものや、フェニル−C61−プロピル酸アルキルエステル、フェニル−C61−ブチル酸アルキルエステル、水素化フラーレン等が挙げられる。中でも、OH基(水酸基)を持つものは、特に、好ましい。それは、単層カーボンナノチューブを分散液として塗工する際の分散性が高いからである。尚、水酸基の量が少ないと、単層カーボンナノチューブの分散性向上度が低下する。逆に、多すぎると、合成が困難である。従って、水酸基の量はフラーレン1分子当り5〜30個であることが好ましい。特に、8〜15個であることが好ましい。
【0026】
フラーレンの添加量は、多すぎると、導電性が低下する。逆に、少なすぎると、効果が発生し難い。従って、フラーレン量は、好ましくは、単層カーボンナノチューブ100質量部に対して、10〜1000質量部である。特に、好ましくは、単層カーボンナノチューブ100質量部に対して、20〜100質量部である。
【0027】
本発明において、単層カーボンナノチューブで構成された導電層は、単層カーボンナノチューブ同士が絡み合ったものである。これによって、単層カーボンナノチューブ同士が接触したものとなり、特に、複数の箇所において接触したものとなり、導電性が良好なものになる。尚、単層カーボンナノチューブ同士が絡み合ったものか否かは、走査型電子顕微鏡で導電層表面を観察することで確認できる。
【0028】
本発明にあっては、単層カーボンナノチューブからなる導電層上に更に保護層を設けても良い。この保護層に用いられる材料に格別な制限は無い。例えば、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ビニルアルコール樹脂、ビニル樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂が用いられる。又、光硬化性樹脂や、シリコン系やエポシキ系などの熱硬化性樹脂などを用いることも出来る。尚、保護層の材料は、密着性の観点から、基板と同じ材料であることが好ましい。例えば、基板がポリエステル樹脂の場合は、保護層もポリエステル樹脂であることが好ましい。保護層の膜厚は、厚すぎると、透明導電層の接触抵抗が大きくなる。逆に、薄すぎると、保護層としての機能が奏されない。従って、保護層の厚さは1nm〜1μmであることが好ましい。更に好ましくは10nm〜100nmである。
又、カラーフィルター層を設けることも出来る。
【0029】
電極基板は、好ましくは、シート状またはフィルム状のものである。そして、基板は、好ましくは、全光線透過率が80%〜100%のものである。基板の材質に格別な制約は無い。例えば、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることが出来る。又、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂なども用いることが出来る。更には、前記有機樹脂の他にもガラス等のセラミックを用いることも出来る。但し、柔軟性の観点から、有機樹脂製のものが好ましい。基板の厚さにも格別な制約は無い。用途によって適宜決定される。尚、シート状の場合には、例えば50μm〜10mm程度である。フィルム状の場合には、例えば10μm〜500μm程度である。そして、本発明の液晶セルにおいては、二つの基板の中の何れもがシート状のものであっても良く、又、フィルム状のものであっても良い。又、一方がシート状のもので、他方がフィルム状のものであっても良い。
【0030】
本発明において、一方の透明基板上に設けられる導電層のみが本発明で言う単層カーボンナノチューブで構成させたものでも良い。すなわち、他方の電極基板上に設けられる導電層を、例えばITOで構成させても良い。勿論、双方の導電層を単層カーボンナノチューブで構成させた方が好ましい。
【0031】
上記基板上に導電層を積層した段階の電極基板の全光線透過率は、好ましくは、60%〜100%のものである。そして、表面抵抗値が1Ω/□〜1000Ω/□のものである。それは、全光線透過率が低すぎると、視認性が低下したからである。尚、単層カーボンナノチューブを用いた導電層は、全光線透過率と表面抵抗値との間にはトレードオフの関係がある。従って、表面抵抗値は、液晶セルが動作する限り、低いほうが好ましい。尚、ここで、全光線透過率は、単層カーボンナノチューブを含む導電層のみならず、基材を含めた全光線透過率である。尚、更に好ましくは、全光線透過率が70%以上で、かつ、表面抵抗値が10Ω/□〜100Ω/□のものである。特に、全光線透過率が80%以上で、かつ、表面抵抗値が10Ω/□〜50Ω/□のものである。
【0032】
本発明の液晶セルは以下の工程にて作製できる。
工程1:粗カーボンナノチューブを得る工程
工程2:粗カーボンナノチューブを酸処理する酸処理工程
工程3:工程2で得られた単層カーボンナノチューブを濾過する濾過工程
工程4:単層カーボンナノチューブと溶媒とを混合し、超音波照射による分散工程
工程5:工程4で得られた単層カーボンナノチューブ分散液を基板上に塗布する塗布工程
工程6:工程5で得られた電極基板上に配向膜を形成する工程
工程7:工程6で得られた電極基板を、スペーサを介して、対向させ、間隙に液晶分子を充填する工程
尚、上記工程1〜7はこの順番で行うことが好ましい。
【0033】
以下、各々の工程について更に詳しく説明する。
[工程1]
粗カーボンナノチューブを得る手法には格別な制約は無い。アーク放電法、化学気相法、レーザー蒸発法など何れの製法も利用できる。但し、結晶性の観点から、アーク放電法を利用することが好ましい。そして、このものは、入手も容易である。
【0034】
[工程2]
粗カーボンナノチューブを酸処理する工程は、酸性液体中で、単層カーボンナノチューブを加熱する工程である。酸性液体には格別な制限は無い。例えば、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸及びこれらの混合物を用いることが出来る。尚、硝酸、或いは硝酸と硫酸との混酸を用いるのが好ましい。加熱温度は、好ましくは、80℃〜100℃である。加熱時間は、好ましくは、1日〜7日間である。
【0035】
[工程3]
本工程は、工程2で得られた単層カーボンナノチューブを濾過する工程である。これによって、炭素粒子などの不純物が除去される。すなわち、酸処理を行ったカーボンナノチューブの反応液は、例えば直径20nm程度の不純物の粒子とカーボンナノチューブのバンドルとが分離された状態で溶液中に分散(或いは沈殿)している。この為、不純物よりも大きく、かつ、カーボンナノチューブのバンドルよりも小さい孔径のフィルターを用いて濾過することで、不純物を取り除くことが出来る。濾過方法としては各種の手法を採用できる。例えば、吸引濾過、加圧濾過、クロスフロー濾過などを用いることが出来る。中でも、スケールアップの観点から、中空糸膜を用いたクロスフロー濾過が好ましい。
【0036】
[工程4]
単層カーボンナノチューブと溶媒とを混合し、超音波を照射する工程は、単層カーボンナノチューブの分散液を作製する工程である。この工程ではフラーレンが添加される。単層カーボンナノチューブとフラーレンとの割合には格別な制限は無い。但し、単層カーボンナノチューブ100質量部に対して、フラーレンが10〜1000質量部であることが好ましい。そして、フラーレン濃度は1〜100000ppmであることが好ましい。尚、フラーレンは官能基を有するフラーレンが好ましい。特に、OH基を有するフラーレン(水酸化フラーレン)が好ましい。超音波を照射する方法には各種の手法を採用できる。例えば、バス型超音波照射機やチップ型超音波照射機を用いることが出来る。より短時間で処理する観点からは、チップ型超音波照射機を用いることが好ましい。本発明で用いられる溶媒には格別な制限は無い。但し、沸点が200℃以下(好ましい下限値は25℃、更には30℃)の溶媒が好ましい。低沸点溶剤が好ましいのは、塗工後の乾燥が容易であるからによる。具体的には、水や、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノールなどのアルコール化合物(特に、炭素数が7以下のアルコール、中でも脂肪族アルコール)、或いはこれ等の混合物が好ましい。それは、水酸基含有フラーレンの溶解性が高く、より高濃度の単層カーボンナノチューブ分散液が得られるからである。他にも、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチル等のエステル系化合物、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジオキサン等のエーテル系化合物、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族化合物、塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン系炭化水素、及びこれらの混合物を用いることも出来る。
【0037】
[工程5]
工程4で得られた単層カーボンナノチューブ分散液を基板上に塗布する工程である。すなわち、透明基板上に導電層を形成する工程である。具体的には、分散液を、基板上に、例えばスプレーコート、バーコート、ロールコート、インクジェット法、スクリーンコート、ダイコート等の塗布方法を用いて製膜する工程である。更に、必要に応じて、上記塗布工程後、塗膜中に含まれる溶媒を除去する為、乾燥が行なわれる。用いられる乾燥装置としては、例えば通常乾燥に使用される加熱炉、遠赤外炉、超遠赤外炉などを用いることが出来る。更に、基板を洗浄することも可能である。
【0038】
[工程6]
工程5で得られた電極基板上に配向膜を形成する工程である。本工程では液晶分子を配向させる為に必要な配向膜が形成される。通常、配向処理は、ガラス等の基板上にポリイミド等の高分子の膜を設け、これを一方向に布等で摩擦すると言った方法(ラビング)が用いられる。これにより、基板に接する液晶分子はその長軸(ダイレクタ)がラビングの方向に平行になるように配列する。又、光配向法などラビングを行わない液晶配向膜作製技術を用いても良い。具体的には、光の吸収能が偏光の電気ベクトルの方向によって異なる基(以下、光配向性基と略す)を有する化合物に光を照射して、光配向性基を一定の方向に配列させ、液晶配向能を発現させる。尚、光配向性基としては、例えばアゾベンゼン等の光異性化反応を生じる基、シンナモイル基、クマリン基、カルコン基等の光二量化反応を生じる基、ベンゾフェノン基等の光架橋反応を生じる基、或いはポリイミド、シラン化合物等が知られている。
【0039】
[工程7]
本工程は、通常、先ず、一方の基板の表面周縁部にシール材を塗布する。その際、シール材の一部に液晶の注入口を形成しておく。次に、シール材の内側にスペーサを設け、シール材を介して他方の基板を貼り合わせる。これにより、一対の基板とシール材とによって囲まれた領域に液晶セルが形成される。次に、真空中で液晶セル内を脱気し、液晶注入口を液晶槽内に浸漬した状態で、全体を大気圧下に戻す。すると、液晶セルと外部との圧力差および表面張力によって、液晶セル内に液晶が充填される。或いは、インクジェット等の液滴吐出装置を用いて基板上に液晶を塗布する滴下組立法を用いても良い。具体的には、先ず、一方の基板の表面周縁部に、熱硬化性樹脂等からなるシール材を塗布する。次に、そのシール材の内側に、液滴吐出装置により所定量の液晶を滴下する。最後に、シール材を介して他方の基板を貼り合わせることにより、液晶セルが得られる。
そして、上記のようにして得られた液晶セルに偏光フィルタや位相差膜等を組み合わせることによって、液晶ディスプレイ装置が得られる。
【0040】
以下、具体的実施例を挙げて本発明を説明する。
[実施例1]
[電極基板の作製]
アーク放電法によって作製された単層カーボンナノチューブを63%硝酸にて85℃で2日間反応させた。この後、濾過によって単層カーボンナノチューブを精製、回収した。
【0041】
このようにして得られた単層カーボンナノチューブ10mgと、水酸基含有フラーレン(商品名 ナノムスペクトラ D−100 フロンティアカーボン社製)10mgと、水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製)1mgと、水5mlと、2−プロパノール5mlとを混合後、1分間に亘って超音波照射(装置名ULTRASONIC HOMOGENIZER MODEL UH−600SR、エスエムテー社製)を行ない、単層カーボンナノチューブ分散液を得た。
【0042】
この単層カーボンナノチューブ分散液を、樹脂製基板上に、表面抵抗が30Ω/□(装置名 ロレスタ−FP、ダイアインスツルメンツ社製)になるようスプレーコートした。そして、80℃で3分間乾燥させ、透明導電層を形成した。尚、全光線透過率は63%であった(装置名 直読ヘーズコンピュータ、スガ試験機社製)。そして、塗工面をメタノールで洗浄した。この後、アクリル樹脂(商品名 ウォーターゾール S−707−IM)を固形分濃度が1質量%になるように2−プロパノールで希釈した溶液中に、透明導電層を浸漬した。そして、ウェット膜厚で10nmの保護層を形成し、電極基板を得た。尚、80℃のオーブンで10日間放置した後の表面抵抗を測定した処、31Ω/□であった。すなわち、抵抗値に変化が殆ど見られず、耐久性に優れていることが判る。
【0043】
又、PETフィルム(商品名:コスモシャイン A4100 東洋紡社製)に上記単層カーボンナノチューブ分散液をスプレーコートして出来た電極基板を棒に巻き付け、一定荷重で引っ張りながら表面抵抗を2端子法にて測定した。そして、表面抵抗値が急激に上昇した半径(限界曲率半径)を調べた処、限界曲率半径は2mm以下であった。これに対して、導電層をITOで構成したITO付PETフィルムの限界曲率半径を測定した処、10mmであった。このことは、本発明になる導電層が柔軟性に富むことを示している。
【0044】
[液晶セルの作製]
電極基板を25mm角に切断し、導電層同士が向い合うように配置し、50μmのスペーサを介して常温硬化型エポキシ樹脂(商品名 クイック5 コニシ株式会社製)で固定した。エポキシ樹脂が硬化した後、スペーサを外し、液晶分子(4−シアノ−4‘−ペンチルビフェニル 東京化成工業社製)を注入した。そして、注入口を常温硬化型エポキシ樹脂で封止し、液晶セルを作製した(図1,2参照)。
【0045】
この後、液晶セルの両面に偏光板を貼り合わせた(図3参照)。尚、貼り合わされた偏光板は互いに直交状態となっている。
【0046】
そして、偏光板を貼り合わせた液晶セルに電圧(500Hz,10v)を掛けた前後の透過率を分光光度計にて測定した。この結果を図4に記す。
【0047】
この図4から、電圧印加前に比べ印加後の方が光透過率は低下しており、液晶セルとして動作することが判る。
【0048】
[実施例2]
実施例1において、単層カーボンナノチューブ分散液作製時に水酸基含有フラーレンを用いなかった以外は同様に行なった。
本実施例で得られたものについて、実施例1と同様にして調べた処、液晶セルとして動作することが分かった。ただし実施例1と異なり、80℃で10日間保持した後の電極で作製した液晶セルでは動作しなかった。
このことから、導電層がフラーレンを有する方が耐久性に富むことが判った。
【0049】
[実施例3]
実施例1において、単層カーボンナノチューブ分散液作製時に、バインダ樹脂としてポリビニルピロリドンを0.1mg用いた以外は同様に行なった。
本実施例で得られたものについて、実施例1と同様にして調べた処、液晶セルとして動作することが分かった。ただし電圧は30V必要であった。
このことから、バインダ樹脂を用いないで導電層を構成した方が好ましいことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】液晶セルの構成図(上面図)
【図2】液晶セルの構成図(断面図)
【図3】偏光板付液晶セルの構成図(断面図)
【図4】液晶セルの透過率の測定結果
【符号の説明】
【0051】
1 液晶分子
2 エポキシ樹脂
3,4 電極基板
5 偏光板


特許出願人 株式会社クラレ
代 理 人 宇 高 克 己


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層と導電層との間に液晶層が設けられてなる液晶セルであって、
前記導電層の中の少なくとも一方の導電層が絡み合った単層カーボンナノチューブで構成されてなる
ことを特徴とする液晶セル。
【請求項2】
単層カーボンナノチューブはアーク放電法によるものである
ことを特徴とする請求項1の液晶セル。
【請求項3】
導電層がフラーレンを有する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2の液晶セル。
【請求項4】
導電層が水酸化フラーレンを有する
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかの液晶セル。
【請求項5】
導電層はバインダ樹脂を用いないで構成されてなる
ことを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかの液晶セル。
【請求項6】
導電層上に保護層が設けられてなる
ことを特徴とする請求項1〜請求項5いずれかの液晶セル。
【請求項7】
請求項1〜請求項6いずれかの液晶セルを具備する
ことを特徴とする液晶ディスプレイ装置。


【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−251360(P2009−251360A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100372(P2008−100372)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】