説明

液晶ポリエステルの製造方法

【課題】芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位とを有し、低着色で高分子量の液晶ポリエステルを、操作性良く製造する。
【解決手段】芳香族ヒドロキシカルボン酸類と、芳香族ジカルボン酸類と、芳香族ヒドロキシアミン類又は芳香族ジアミン類とを含む原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物を固相重合させることにより、液晶ポリエステルを製造する際、前記溶融重合における最高温度を250〜290℃とし、前記溶融重合を250〜290℃で1時間以上行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位とを有する液晶ポリエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、耐熱性が高く、誘電損失が低いことから、電気・電子部品の材料として検討されている。中でも、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位とを有する液晶ポリエステルは、溶媒に溶解し易いことから、それを溶媒に溶解し、流延した後、溶媒を除去してなる液晶ポリエステルフィルムや、それを溶媒に溶解し、繊維シートに含浸した後、溶媒を除去してなる液晶ポリエステル含浸繊維シートが、プリント配線板の絶縁層として検討されている。
【0003】
また、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位とを有する液晶ポリエステルを製造する方法として、対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物を固相重合させる方法が検討されている。例えば、特許文献1には、前記溶融重合を320℃まで昇温して行うことが開示されている。また、特許文献2〜5には、前記溶融重合を300℃まで昇温して行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−315678号公報
【特許文献2】特開2006− 1959号公報
【特許文献3】特開2006−335813号公報
【特許文献4】特開2006−199769号公報
【特許文献5】特開2007−146139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶ポリエステルの工業的製法では、生産性向上のために溶融重合後の溶融樹脂を急冷するのがよいが、特許文献1〜5に開示の方法では、溶融重合後に急冷することで得られる液晶ポリエステルの結晶性が低くなり易いため、固相重合が進み難く、高分子量の液晶ポリエステルが得られ難いという問題がある。さらに、固相重合の際、高分子量化がしにくいため液晶ポリエステルが融着し易く、取出し操作に手間がかかるという問題もある。また、特許文献1〜5に開示の方法では、重合温度が高いため液晶ポリエステルが着色し易いという問題もある。そこで、本発明の目的は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位とを有し、低着色で高分子量の液晶ポリエステルを、操作性良く製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(A)と、芳香族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)と、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びそれらの重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(C)とを含む原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物を固相重合させることにより、液晶ポリエステルを製造する方法であって、前記溶融重合における最高温度が250〜290℃であること、及び前記溶融重合を250〜290℃で1時間以上行うことを特徴とする液晶ポリエステルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位とを有し、低着色で高分子量の前記液晶ポリエステルを、操作性良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示すポリエステルであり、本発明では、液晶ポリエステルを製造するための原料モノマーとして、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合(重縮合)可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(A)と、芳香族ジカルボン酸及びその重合(重縮合)可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)と、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びそれらの重合(重縮合)可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(C)とを用いる。これにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位とを有する液晶ポリエステルが得られる。
【0009】
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をエステル化(アルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換)してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロゲン化(ハロホルミル基に変換)してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシル化(アシルオキシカルボニル基に変換)してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化(アシルオキシル基に変換)してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化(アシルアミノ基に変換)してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0010】
化合物(A)としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸、及びそのヒドロキシル基をアシル化してなるものが好ましい。化合物(B)としては、芳香族ジカルボン酸が好ましい。化合物(C)としては、芳香族ヒドロキシアミン、及びそのヒドロキシル基及び/又はアミノ基をアシル化してなるもの、並びに芳香族ジアミン、及びその少なくとも1つのアミノ基をアシル化してなるものが好ましい。
【0011】
また、化合物(A)〜(C)としては、それぞれ、下記式(1)〜(3)で表される化合物が好ましい。
【0012】
式(1):R11−O−Ar1−CO−R12
【0013】
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。R11は、水素原子又はアシル基を表す。R12は、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0014】
式(2):R21−CO−Ar2−CO−R22
【0015】
(Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4a)で表される基を表す。R21及びR22は、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar2で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0016】
式(3):R31−X−Ar3−NH−R32
【0017】
(Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4a)で表される基を表す。Xは、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子又はアシル基を表す。Ar3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0018】
式(4a):−Ar41−Z−Ar42
【0019】
(Ar41及びAr42は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0020】
11、R31又はR32で表されるアシルオキシル基の例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基及びベンゾイル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。R12、R21又はR22で表されるアルコキシル基の例としては、メトキシル基、エトキシル基、n−プロピルオキシル基、イソプロピルオキシル基、n−ブチルオキシル基、イソブチルオキシル基、s−ブチルオキシル基、t−ブチルオキシル基、n−ヘキシルオキシル基、2−エチルヘキシルオキシル基、n−オクチルオキシル基及びn−デシルオキシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。R12、R21又はR22で表されるアリールオキシル基の例としては、フェニルオキシル基、o−トリルオキシル基、m−トリルオキシル基、p−トリルオキシル基、1−ナフチルオキシル基及び2−ナフチルオキシル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。R12、R21又はR22で表されるアシルオキシル基の例としては、ホルミルオキシル基、アセチルオキシル基、プロピオニルオキシル基及びベンゾイルオキシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。R12、R21又はR22で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0021】
Zで表されるアルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0022】
Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子を置換してもよいハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子を置換してもよいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子を置換してもよいアリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0023】
化合物(A)としては、式(1)において、Ar1がp−フェニレン基であるもの、及びAr1が2,6−ナフチレン基であるものが好ましい。また、化合物(A)としては、式(1)において、R11及びR12がそれぞれヒドロキシル基であるもの、及びR11がアシル基であり、R12がヒドロキシル基であるものが好ましい。
【0024】
化合物(B)としては、式(2)において、Ar2がp−フェニレン基であるもの、Ar2がm−フェニレン基であるもの、Ar2が2,6−ナフチレン基であるもの、及びAr2がジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるものが好ましい。また、化合物(B)としては、式(2)において、R21及びR22がそれぞれヒドロキシル基であるものが好ましい。
【0025】
化合物(C)としては、式(3)において、Ar3がp−フェニレン基であるもの、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるものが好ましい。また、化合物(C)としては、式(3)において、Xが酸素原子であるものが好ましい。また、化合物(C)としては、式(3)において、R31及びR32がそれぞれ水素原子であるもの、R31が水素原子であり、R32がアシル基であるもの、R31がアシル基であり、R32が水素原子であるもの、及びR31及びR32がそれぞれアシル基であるものが好ましい。
【0026】
化合物(A)の使用量は、全原料モノマーの合計量に対して、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは30〜60モル%、さらに好ましくは30〜40モル%である。化合物(B)の使用量は、全原料モノマーの合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは20〜35モル%、さらに好ましくは30〜35モル%である。化合物(C)の使用量は、全原料モノマーの合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは20〜35モル%、さらに好ましくは30〜35モル%である。化合物(A)の使用量が多いほど、液晶ポリエステルの耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、液晶ポリエステルの溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0027】
化合物(B)の使用量と化合物(C)の使用量との割合は、[化合物(B)の使用量]/[化合物(C)の使用量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0028】
なお、化合物(A)〜(C)は、それぞれ独立に、2種以上用いられてもよい。また、原料モノマーとして、化合物(A)〜(C)以外の化合物を用いてもよいが、その使用量は、全原料モノマー合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0029】
本発明では、化合物(A)〜(C)を含む原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(以下「プレポリマー」ということがある。)を固相重合させることにより、液晶ポリエステルを製造する。
【0030】
溶融重合は、その最高温度を250〜290℃、好ましくは270〜290℃とする。この温度が高すぎると、結晶が融解し易いため、得られるプレポリマーの結晶化が不十分となり、続く固相重合で、融着し易かったり、重合が進み難かったりする。液晶ポリエステルが着色し易くなる。一方、この温度が低すぎると、重合が進み難く、続く固相重合で、融着し易かったり、重合が進み難かったりする。
【0031】
また、溶融重合は、250〜290℃、好ましくは270〜290℃で、1時間以上、好ましくは2時間以上行う。この時間が短すぎると、得られるプレポリマーの結晶化が不十分となり、続く固相重合で、融着し易かったり、重合が進み難かったりする。なお、この時間は、長すぎると、重合が進み過ぎ、プレポリマーが溶融重合容器内で固化してしまい、取り出し難くなるので、通常10時間以内、好ましくは5時間以内である。
【0032】
溶融重合は、原料モノマーを250〜290℃まで0.1〜50℃/分の速度で昇温し、次いで250〜290℃で1時間以上保持することにより行うことが好ましい。
【0033】
溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0034】
こうして得られるプレポリマーは、その流動開始温度が好ましくは220℃以上、より好ましくは220〜250℃、さらに好ましくは220〜245℃である。流動開始温度があまり低いと、続く固相重合で、融着し易かったり、重合が進み難かったりする。
【0035】
流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0036】
また、こうして得られるプレポリマーは、5℃/分の速度で昇温しながら示差走査熱量測定を行ったとき、発熱ピークが観測されないか、観測されてもその熱量が1J/g以下であることが好ましい。なお、該測定で見られる発熱ピークとは、結晶化に伴う熱量変化であり、結晶化の度合いが低いプレポリマーにのみ観測されるものである。前記測定により発熱ピークが観測されないか、観測されてもその熱量が1J/g以下である場合、すなわち、結晶化の度合いが高いと、固相重合時のハンドリング性を維持しつつ、固相重合により目的とする液晶ポリエステルを得ることができる。一方、発熱ピークの熱量が1J/gより大きい場合、すなわち、結晶化の度合いが低いと、続く固相重合で、融着し易かったり、重合が進み難かったりする。
【0037】
固相重合は、プレポリマーを冷却して固化させ、必要により粉砕した後、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下、180〜280℃で5分〜30時間行うことが好ましい。固相重合温度は、より好ましくは180〜240℃、さらに好ましくは200〜240℃である。固相重合温度があまり低いと、重合が進み難く、あまり高いと、液晶ポリエステルが着色し易くなる。
【0038】
こうして得られる液晶ポリエステルは、その流動開始温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃〜350℃、さらに好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0039】
なお、化合物(A)として、式(1)で表される化合物を用い、化合物(B)として、式(2)で表される化合物を用い、化合物(C)として、式(3)で表される化合物を用いることにより、下記式(1a)で表される繰返し単位と、下記式(2a)で表される繰返し単位と、下記式(3a)で表される繰返し単位とを有する液晶ポリエステルが得られる。
【0040】
式(1a):−O−Ar1−CO−
式(2a):−CO−Ar2−CO−
式(3a):−X−Ar3−NH−
【0041】
(Ar1、Ar2、Ar3及びXは、前記と同義である。)
【0042】
こうして得られる液晶ポリエステルは、高耐熱性や低誘電損失等の液晶ポリエステル本来の特性を有しつつ、低着色で高分子量であることから、電気・電子部品の材料として好適に用いられる。また、溶媒に溶解し易いことから、それを溶媒に溶解し、流延した後、溶媒を除去して、液晶ポリエステルフィルムとしたり、それを溶媒に溶解し、繊維シートに含浸した後、溶媒を除去して、液晶ポリエステル含浸繊維シートとしたりすることが容易で、この液晶ポリエステルフィルムや液晶ポリエステル含浸繊維シートは、プリント配線板の絶縁層として好適に用いられる。
【実施例】
【0043】
〔流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、試料約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、試料を溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0044】
〔分子量の測定〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、次の条件でポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定した。
装置:東ソー(株)の「LC−8020」
カラム:東ソー(株)の「α−M」と「α−3000」を連結
カラム温度:40℃
移動相:濃度50mmol/Lの臭化リチウムのN−メチルピロリドン溶液
移動相流量:0.7mL/分
試料溶液:濃度2g/LのN−メチルピロリドン溶液
検出器:UV検出器
【0045】
〔示差走査熱量(DSC)の測定〕
示差走査熱量分析装置(セイコーインスツルメンツ(株)の「DSC6200」)を用いて、試料約10mgを5℃/分の速度で400℃まで昇温し、発熱ピークのトップ温度を結晶化温度とし、そのピークの熱量(J/g)を求めた。
【0046】
〔色調の測定〕
試料を粉砕した後、60メッシュの篩(孔径246μm)の篩い分けし、得られた粉末について、測色色差計(日本電色工業(株)の「ZE−2000」)を用いて、JIS Z8722に規定される0°−d方式により、物体色として明度(L*)、赤色度(a*)及び黄色度(b*)を測定した。
【0047】
実施例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸658.6g(3.5モル)、イソフタル酸539.9g(3.25モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド491.3g(3.25モル)、及び無水酢酸791.2g(7.75モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で3時間還流させることにより、アシル化を行った。
【0048】
次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から290℃まで0.66℃/分の速度で昇温し、290℃で160分間保持することにより、溶融重合を行った(250〜290℃での時間は221分間)。その後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却し、得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度、分子量及びDSCの測定結果を表1に示す。DSCの測定で発熱ピークは観測されなかった。
【0049】
得られたプレポリマーを、窒素ガス雰囲気下、215℃で5時間保持することにより、固相重合を行った。その後、冷却して、液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度、分子量及び色調の測定結果を表1に示す。この液晶ポリエステルは、粒子間の融着が弱く、容易に粉末状にほぐすことができた。
【0050】
実施例2
溶融重合の際、285℃まで昇温し、285℃で140分間保持した(250〜290℃での時間は193分間)こと以外は、実施例1と同様の操作を行った。測定結果を表1に示す。プレポリマーのDSCの測定で発熱ピークは観測されなかった。また、得られた液晶ポリエステルは、粒子間の融着が弱く、容易に粉末状にほぐすことができた。
【0051】
実施例3
溶融重合の際、280℃まで昇温し、280℃で140分間保持した(250〜290℃での時間は185分間)こと以外は、実施例1と同様の操作を行った。測定結果を表1に示す。なお、プレポリマーのDSCの測定で発熱ピークは観測されなかった。また、得られた液晶ポリエステルは、粒子間の融着が弱く、容易に粉末状にほぐすことができた。
【0052】
実施例4
溶融重合の際、270℃まで昇温し、270℃で160分間保持した(250〜290℃での時間は190分間)こと以外は、実施例1と同様の操作を行った。測定結果を表1に示す。なお、プレポリマーのDSCの測定で発熱ピークは観測されなかった。また、得られた液晶ポリエステルは、粒子間の融着が弱く、容易に粉末状にほぐすことができた。
【0053】
比較例1
溶融重合の際、300℃まで昇温し、300℃で180分間保持した(250〜290℃での時間は61分間)こと以外は、実施例1と同様の操作を行った。測定結果を表1に示す。なお、プレポリマーの結晶化温度は217℃であった。また、得られた液晶ポリエステルは、固相重合中に融着により粉末状から固形状に変化しており、粉末状にするには粉砕を要した。
【0054】
比較例1
溶融重合の際、310℃まで昇温し、310℃で180分間保持した(250〜290℃での時間は61分間)こと以外は、実施例1と同様の操作を行った。測定結果を表1に示す。なお、プレポリマーの結晶化温度は230℃であった。また、得られた液晶ポリエステルは、固相重合中に融着により粉末状から固形状に変化しており、粉末状にするには粉砕を要した。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(A)と、芳香族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)と、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びそれらの重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(C)とを含む原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物を固相重合させることにより、液晶ポリエステルを製造する方法であって、前記溶融重合における最高温度が250〜290℃であること、及び前記溶融重合を250〜290℃で1時間以上行うことを特徴とする液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記化合物(A)が下記式(1)で表される化合物であり、前記化合物(B)が下記式(2)で表される化合物であり、前記化合物(C)が下記式(3)で表される化合物である請求項1に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
式(1):R11−O−Ar1−CO−R12
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。R11は、水素原子又はアシル基を表す。R12は、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
式(2):R21−CO−Ar2−CO−R22
(Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4a)で表される基を表す。R21及びR22は、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
式(3):R31−X−Ar3−NH−R32
(Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4a)で表される基を表す。Xは、酸素原子又はイミノ基を表す。R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子又はアシル基を表す。Ar3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
式(4a):−Ar41−Z−Ar42
(Ar41及びAr42は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項3】
前記原料モノマーに対し、前記化合物(A)の使用量が30〜80モル%であり、前記化合物(B)の使用量が10〜35モル%であり、前記化合物(C)の使用量が10〜35モル%である請求項2に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記重合物の流動開始温度が220℃以上である請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記液晶ポリエステルの流動開始温度が250℃以上である請求項1〜4のいずれかに記載の液晶ポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2012−211288(P2012−211288A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78751(P2011−78751)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】