説明

液晶表示素子

【課題】本発明は、TFT素子などによる段差が存在する領域において光漏れを低減することができる液晶表示素子を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、第1基板、上記第1基板上に形成され、複数のTFT素子および上記TFT素子に接続された画素電極を有するTFT電極層、上記TFT電極層上に形成された反応性液晶用配向膜、および上記反応性液晶用配向膜上に形成され、反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層を有するTFT基板と、第2基板、および上記第2基板上に形成された共通電極とを有する共通電極基板と、上記TFT基板の上記固定化液晶層および上記共通電極基板の上記共通電極の間に形成された駆動液晶層とを有することを特徴とする液晶表示素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタ(TFT)を用いた液晶表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(以下、薄膜トランジスタをTFTと称する場合がある。)等のアクティブ素子を用いたアクティブマトリックス型液晶表示装置は、薄型、軽量、高画質等の特長から、表示装置として広く採用されている。アクティブマトリックス型液晶表示装置では、TFT素子および画素電極が形成された薄膜トランジスタ基板(以下、薄膜トランジスタ基板をTFT基板と称する場合がある。)と、TFT基板に対向して配置される共通電極基板との間に液晶を挟持し、TFT基板の画素電極と共通電極基板の共通電極との間に電圧を印加して液晶を駆動し、入射光を変調、出射することで画像を形成する。
【0003】
TFT基板では、例えば、基板上にゲート線およびゲート線に接続するゲート電極が形成され、ゲート線およびゲート電極を覆うようにゲート絶縁層が形成され、ゲート絶縁層上に半導体層が形成され、ゲート線と交差するようにソース線が形成され、半導体層上にソース線に接続するソース電極およびドレイン電極が形成され、ドレイン電極に接続する画素電極が形成されている。さらに、液晶表示装置に用いられるTFT基板においては、半導体層、ソース電極、ドレイン電極、ドレイン電極等のTFT素子や、画素電極を覆うように配向膜が形成されている。
【0004】
TFT基板には、ゲート線やソース線等の配線、半導体層、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極等のTFT素子、画素電極などにより基板表面に段差が存在し、この段差によって液晶の配向不良が発生し、光漏れ(白抜け)が起こるという問題がある。
【0005】
この問題を解決するために、共通電極基板に遮光部を形成して、液晶の配向不良を隠す方法が提案されている。しかしながら、共通電極基板に遮光部を設けると、開口率が低くなったり、アライメントを要するために製造工程が煩雑になったりするという問題がある。
また、上記段差を平坦化することを目的として、配線、TFT素子、画素電極の上に平坦化層を形成することが提案されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、平坦化層を設けると、駆動電圧が高くなるという問題がある。さらに、上記段差を平坦化するために、配向膜を厚く形成することも考えられるが、上記の場合と同様に、駆動電圧が高くなるという問題がある。
【0006】
ところで、本発明者らは、液晶分子を配向させる配向膜として、反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層を用いることを提案している(例えば特許文献2および特許文献3参照)。この固定化液晶層は、ラビング膜や光配向膜などの一般的な配向膜上に反応性液晶組成物を塗布し、反応性液晶を配向させた後、反応性液晶の配向状態を固定化することにより形成される。反応性液晶はラビング膜や光配向膜などの配向規制力によって配向しており、固定化液晶層では反応性液晶の配向状態が固定化されているため、固定化液晶層は液晶分子を配向させる配向膜として作用するのである。
また、例えば特許文献4および特許文献5においても、液晶分子を配向させる配向膜に、液晶性を示す高分子化合物を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−142870号公報
【特許文献2】特開2005−258428号公報
【特許文献3】特開2006−350322号公報
【特許文献4】特開平1−105912号公報
【特許文献5】特開2003−172935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年では液晶表示装置の高画質性能の一つとして高コントラストが求められており、光漏れ(白抜け)をできるだけ低減することが要求されている。
本発明者らは、上記段差による光漏れ(白抜け)と配向膜の種類や厚みとの関係について鋭意検討した結果、ラビング膜や光配向膜などの一般的な配向膜を単に厚く形成しただけでは、段差による光漏れを十分に改善できないことがわかった。すなわち、段差による光漏れを改善するには、段差を平坦化するだけでは十分ではないことが判明した。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、TFT素子などによる段差が存在する領域において光漏れを低減することができる液晶表示素子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、ラビング膜や光配向膜などの一般的な配向膜の形成過程と、上記の固定化液晶層の形成過程の相違に着目した。固定化液晶層の形成過程は、ラビング膜や光配向膜などの一般的な配向膜の形成過程とは異なり、反応性液晶を配向させる配向工程を経る。この形成過程の相違が、上記段差による液晶の配向不良に影響すると考えたのである。これまで、固定化液晶層は駆動液晶層中の駆動液晶の配向制御に有用であるという知見に基づいた研究は行われていたが、TFT素子などによる段差のような表面凹凸と固定化液晶層との関係についてはほとんど検討されていない。そして、本発明者らは、TFT基板に形成する配向膜として固定化液晶層を適用したところ、TFT素子などの段差による光漏れが顕著に改善されることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、第1基板と、上記第1基板上に形成され、複数のTFT素子および上記TFT素子に接続された画素電極を有するTFT電極層と、上記TFT電極層上に形成された反応性液晶用配向膜と、上記反応性液晶用配向膜上に形成され、反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層とを有するTFT基板と、
第2基板と、上記第2基板上に形成された共通電極とを有する共通電極基板と、
上記TFT基板の上記固定化液晶層および上記共通電極基板の上記共通電極の間に形成された駆動液晶層と
を有することを特徴とする液晶表示素子を提供する。
【0011】
本発明によれば、TFT基板においてTFT電極層上に固定化液晶層が形成されていることにより、TFT素子などによる段差が存在する領域において駆動液晶の配向不良が起こるのを抑制し、光漏れ(白抜け)を低減することができる。これは、固定化液晶層は、例えば、反応性液晶用配向膜上に反応性液晶および溶剤を含む反応性液晶組成物を塗布し、反応性液晶組成物中の溶剤を乾燥させ、反応性液晶を配向させた後、反応性液晶を重合させることにより形成されるという、固定化液晶層の形成過程が関係しているものと考えられる。すなわち、反応性液晶が反応性液晶用配向膜上を流動して液晶相を示す状態となるので、段差による駆動液晶の配向不良を少なくすることができると推量される。
【0012】
上記発明においては、上記TFT基板が、上記TFT素子上に形成された遮光部を有することが好ましい。これにより、半導体層に光が照射されることにより、誤動作が起こり、これに起因して表示欠陥が生じるのを防ぐことができる。この場合、共通電極基板に遮光部を設けるのではなく、TFT基板に遮光部を設けることにより、アライメントが不要となり、製造工程を簡略化することができる。さらには、アライメントを要さないので、開口率を高めることができる。また、表面凹凸を生じさせる遮光部を、固定化液晶層を有するTFT基板に設け、この遮光部を覆うように固定化液晶層が形成されていることにより、遮光部による段差が存在する領域において駆動液晶の配向不良が起こるのを抑制し、光漏れ(白抜け)を低減することができる。
【0013】
また本発明においては、上記TFT基板が、上記TFT電極層の非画素領域上に形成されたスペーサを有することが好ましい。共通電極基板にスペーサを設けるのではなく、TFT基板にスペーサを設けることにより、アライメントが不要となり、製造工程を簡略化することができるからである。また、表面凹凸を生じさせるスペーサを、固定化液晶層を有するTFT基板に設け、このスペーサを覆うように固定化液晶層が形成されていることにより、スペーサによる段差が存在する領域において駆動液晶の配向不良が起こるのを抑制し、光漏れ(白抜け)を低減することができる。
【0014】
さらに本発明においては、上記駆動液晶層が強誘電性液晶を含むことが好ましい。強誘電性液晶は、ネマチック液晶に比べて分子の秩序性が高いために配向制御が難しく、TFT素子などによる段差が存在する領域において配向不良が特に生じやすいからである。本発明においては、TFT素子などによる段差が存在する領域において駆動液晶の配向不良を少なくすることができるので、駆動液晶層が強誘電性液晶を含む場合であっても、強誘電性液晶の配向不良を低減することができる。
【0015】
また本発明においては、上記共通電極基板が、上記共通電極上に形成された第2配向膜を有し、上記固定化液晶層および上記第2配向膜の間に上記駆動液晶層が形成されていることが好ましい。固定化液晶層および第2配向膜の間に駆動液晶層が形成されていることにより、駆動液晶の配向を効果的に制御することができるからである。
【0016】
さらに本発明においては、上記反応性液晶が、ネマチック相を発現するものであることが好ましい。ネマチック相は、液晶相の中でも配向制御が比較的容易だからである。
【0017】
また本発明においては、上記反応性液晶が、重合性液晶モノマーを含有することが好ましい。重合性液晶モノマーは、他の重合性液晶材料、すなわち重合性液晶オリゴマーや重合性液晶ポリマーと比較して、より低温で配向が可能であり、かつ配向に際しての感度も高く、容易に配向させることができるからである。
【0018】
さらに本発明の液晶表示素子は、フィールドシーケンシャル方式により駆動させるものであることが好ましい。フィールドシーケンシャル方式では、共通電極基板にカラーフィルタを設ける必要がないため、TFT基板に上記の遮光部およびスペーサが形成されている場合には、開口率を高めることができると共に、アライメントが不要であり製造工程を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、TFT基板のTFT電極層上に固定化液晶層が形成されていることにより、TFT素子などによる段差が存在する領域において光漏れを低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の液晶表示素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の液晶表示素子の他の例を示す概略断面図である。
【図3】液晶分子の挙動を示す模式図である。
【図4】強誘電性液晶の印加電圧に対する透過光量の変化を示したグラフである。
【図5】実施例1および比較例1の液晶表示素子の偏光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の液晶表示素子について、詳細に説明する。
本発明の液晶表示素子は、第1基板と、上記第1基板上に形成され、複数のTFT素子および上記TFT素子に接続された画素電極を有するTFT電極層と、上記TFT電極層上に形成された反応性液晶用配向膜と、上記反応性液晶用配向膜上に形成され、反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層とを有するTFT基板と、
第2基板と、上記第2基板上に形成された共通電極とを有する共通電極基板と、
上記TFT基板の上記固定化液晶層および上記共通電極基板の上記共通電極の間に形成された駆動液晶層と
を有することを特徴とするものである。
【0022】
本発明の液晶表示素子について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の液晶表示素子の一例を示す断面図である。図1に例示するように、液晶表示素子1は、TFT基板11および共有電極基板31の間に駆動液晶層41が形成されたものである。TFT基板11は、第1基板12と、第1基板12上に形成され、複数のTFT素子21およびTFT素子21に接続された画素電極13を有するTFT電極層と、TFT電極層上に形成された反応性液晶用配向膜14と、反応性液晶用配向膜14上に形成された固定化液晶層15とを有している。この固定化液晶層15では、反応性液晶の配向状態が固定化されている。また、TFT素子21は、ゲート電極22と、ゲート電極22上に形成されたゲート絶縁膜23と、ゲート絶縁膜23上に形成された半導体層24と、半導体層24上に所定の間隔をあけて対向するように形成されたソース電極25およびドレイン電極26とを有し、画素電極13はドレイン電極26と接続されている。一方、共通電極基板31は、第2基板32と、第2基板32上に形成された共通電極33と、共通電極33上に形成された第2配向膜34とを有している。
【0023】
一般的な配向膜、例えばラビング膜や光配向膜などの場合、TFT素子などにより膜表面に段差が存在すると、膜にラビング処理、光配向処理等の配向処理を行う場合には、均一な配向処理が行えず、配向処理むらが生じる。その結果、TFT素子などによる段差が存在する領域において駆動液晶の配向不良が起こる。
一方、固定化液晶層は、例えば、反応性液晶用配向膜上に反応性液晶および溶剤を含む反応性液晶組成物を塗布し、反応性液晶組成物中の溶剤を乾燥させ、反応性液晶を配向させた後、反応性液晶を重合させることにより形成される。また、段差によって反応性液晶用配向膜に配向処理むらが生じているとしても、反応性液晶が反応性液晶用配向膜上を流動して液晶相を示す状態となるので、単にラビング膜や光配向膜などが形成されている場合と比較して、段差による駆動液晶の配向不良を少なくすることができる。
したがって本発明においては、TFT基板のTFT電極層上に固定化液晶層が形成され、固定化液晶層に直に接して駆動液晶層が形成されていることにより、TFT素子などによる段差が存在する領域において駆動液晶の配向不良が起こるのを抑制し、光漏れ(白抜け)を効果的に低減することが可能である。
【0024】
また、反応性液晶用配向膜上に固定化液晶層を形成する際には、反応性液晶用配向膜によって反応性液晶を配向させ、例えば紫外線を照射して反応性液晶を重合させることにより反応性液晶の配向状態を固定化することができる。それにより、固定化液晶層に駆動液晶に対する配向規制力を付与することができる。また、反応性液晶は固定化されているため、温度等の影響を受けないという利点を有する。さらに、反応性液晶は、強誘電性液晶と構造が比較的類似しており、駆動液晶との相互作用が強くなるため、駆動液晶の配向を効果的に制御することができる。
【0025】
以下、本発明の液晶表示素子の各構成部材について詳細に説明する。
【0026】
1.TFT基板
本発明に用いられるTFT基板は、第1基板と、上記第1基板上に形成され、複数のTFT素子および上記TFT素子に接続された画素電極を有するTFT電極層と、上記TFT電極層上に形成された反応性液晶用配向膜と、上記反応性液晶用配向膜上に形成され、反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層とを有するものである。
以下、TFT基板の各構成について説明する。
【0027】
(1)固定化液晶層
本発明に用いられる固定化液晶層は、反応性液晶用配向膜上に形成され、反応性液晶を固定化してなるものである。
【0028】
本発明に用いられる反応性液晶としては、ネマチック相を発現するものであることが好ましい。ネマチック相は、液晶相の中でも配向制御が比較的容易だからである。
【0029】
また、反応性液晶は、重合性液晶材料を含有することが好ましい。これにより、反応性液晶の配向状態を固定化することが可能になるからである。重合性液晶材料としては、重合性液晶モノマー、重合性液晶オリゴマー、および重合性液晶ポリマーのいずれかを用いることができるが、中でも、重合性液晶モノマーが好適に用いられる。重合性液晶モノマーは、他の重合性液晶材料、すなわち重合性液晶オリゴマーや重合性液晶ポリマーと比較して、より低温で配向が可能であり、かつ配向に際しての感度も高く、容易に配向させることができるからである。
【0030】
上記重合性液晶モノマーとしては、重合性官能基を有する液晶モノマーであれば特に限定されるものではなく、例えばモノアクリレートモノマー、ジアクリレートモノマー等が挙げられる。また、これらの重合性液晶モノマーは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
モノアクリレートモノマーおよびジアクリレートモノマーとしては、特開2006−350322号公報、特開2006−323214号公報、特開2005−258429号公報、特開2005−258428号公報等に記載のものを用いることができる。
【0032】
重合性液晶モノマーの中でも、ジアクリレートモノマーが好適である。ジアクリレートモノマーは、配向状態を良好に維持したまま容易に重合させることができるからである。
【0033】
上述した重合性液晶モノマーは、それ自体がネマチック相を発現するものでなくてもよい。これらの重合性液晶モノマーは、上述したように2種以上を混合して用いてもよいものであり、これらを混合した組成物すなわち反応性液晶が、ネマチック相を発現するものであればよいからである。
【0034】
本発明においては、必要に応じて、上記反応性液晶に光重合開始剤等を添加してもよい。特開2005−258428号公報に記載されているような光重合開始剤を用いることができる。なお、光重合開始剤の他に増感剤を、本発明の目的が損なわれない範囲で添加することも可能である。光重合開始剤の添加量としては、一般的には0.01質量%〜20質量%、好ましくは0.1質量%〜10質量%、より好ましくは0.5質量%〜5質量%の範囲で上記反応性液晶に添加することができる。
【0035】
固定化液晶層の厚みは、目的とする異方性に応じて適宜調整されるものであり、例えば1nm〜1000nmの範囲内で設定することができ、好ましくは3nm〜100nmの範囲内である。固定化液晶層の厚みが厚すぎると固定化液晶層の光学異方性が表示に影響を与える場合があり、また固定化液晶層の厚みが薄すぎると固定化液晶層が形成されない部分が生じる場合があるからである。
【0036】
固定化液晶層は、反応性液晶用配向膜上に上記反応性液晶および溶媒を含む反応性液晶組成物を塗布し、反応性液晶を配向させた後、反応性液晶を重合させて反応性液晶の配向状態を固定化することにより形成することができる。
【0037】
上記反応性液晶組成物に用いる溶媒としては、上記反応性液晶等を溶解することができ、かつ反応性液晶用配向膜の配向能を阻害しないものであれば特に限定されるものではない。このような溶媒としては、例えば、特開2005−258428号公報に記載されているような溶媒を用いることができる。溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
また、単一種の溶媒を使用しただけでは、上記反応性液晶等の溶解性が不十分であったり、上述したように反応性液晶用配向膜が侵食されたりする場合がある。この場合には、2種以上の溶媒を混合使用することにより、この不都合を回避することができる。上記の溶媒のなかにあって、単独溶媒として好ましいものは、ケトン類であり、混合溶媒として好ましいのは、エーテル類、ケトン類と、グリコール系溶媒との混合系である。中でも2種類または3種類を組み合わせた混合溶媒、特に3種類の混合溶媒が好ましい。
【0039】
反応性液晶組成物の濃度は、反応性液晶の溶解性や、固定化液晶層の厚みに依存するため一概には規定できないが、通常は0.1質量%〜40質量%、好ましくは1質量%〜20質量%の範囲で調整される。反応性液晶組成物の濃度が上記範囲より低いと、反応性液晶が配向しにくくなる場合があり、逆に反応性液晶組成物の濃度が上記範囲より高いと、反応性液晶組成物の粘度が高くなるので均一な塗膜を形成しにくくなる場合があるからである。
【0040】
さらに、上記反応性液晶組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、例えば、特開2005−258428号公報に記載されているような化合物を添加することができる。上記反応性液晶に対するこれら化合物の添加量は、本発明の目的が損なわれない範囲で選択される。これらの化合物の添加により、反応性液晶の硬化性が向上し、得られる固定化液晶層の機械強度が増大し、またその安定性が改善される。
【0041】
このような反応性液晶組成物を塗布する方法としては、例えばスピンコート法、ロールコート法、プリント法、ディップコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、ブレードコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、リバースコート法、押し出しコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0042】
また、上記反応性液晶組成物を塗布した後は、溶媒を除去するのであるが、この溶媒の除去は、例えば、減圧除去もしくは加熱除去、さらにはこれらを組み合わせる方法等により行われる。
【0043】
本発明においては、上述したように塗布された反応性液晶を、反応性液晶用配向膜により配向させて液晶規則性を有する状態とする。すなわち、反応性液晶にネマチック相を発現させる。これは、通常はN−I転移点以下で熱処理する方法等の方法により行われる。ここで、N−I転移点とは、液晶相から等方相へ転移する温度を示すものである。
【0044】
反応性液晶の配向状態を固定化するには、重合を活性化する活性放射線を照射する方法が用いられる。ここでいう活性放射線とは、反応性液晶に対して重合を起こさせる能力がある放射線をいい、必要であれば反応性液晶内に光重合開始剤が含まれていてもよい。このような活性放射線としては、反応性液晶を重合させることが可能な放射線であれば特に限定されるものではないが、通常は装置の容易性等の観点から紫外光または可視光線が使用される。なお、活性放射線の照射については、特開2005−258428号公報の記載のものと同様とすることができる。
【0045】
このような活性照射線の照射は、上記反応性液晶が液晶相となる温度条件で行ってもよく、また液晶相となる温度より低い温度で行ってもよい。一旦液晶相となった反応性液晶は、その後温度を低下させても、配向状態が急に乱れることはないからである。
【0046】
なお、反応性液晶の配向状態を固定化する方法としては、上記の活性放射線を照射する方法以外にも、加熱して反応性液晶を重合させる方法も用いることができる。この場合に用いられる反応性液晶としては、N−I転移点以下で熱重合する重合性液晶モノマーが好ましい。
【0047】
(2)反応性液晶用配向膜
本発明に用いられる反応性液晶用配向膜としては、上記反応性液晶を配向させることができ、さらに上記反応性液晶の配向状態を固定化する際に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではない。反応性液晶用配向膜として、例えば、ラビング処理された配向膜、光配向処理された光配向膜、斜方蒸着配向膜等を用いることができる。
【0048】
ラビング処理された配向膜は、比較的高いプレチルト角を実現することができる点で有用である。ラビング処理された配向膜としては、例えば特開2008−129529号公報に記載のものを用いることができる。
【0049】
光配向膜は、光励起反応型材料を塗布した基板に偏光を制御した光を照射し、光励起反応(分解、異性化、二量化)を生じさせて得られた膜に異方性を付与することによりその膜上の液晶分子を配向させるものである。光配向膜は、光配向処理が非接触配向処理であることから静電気や塵の発生がなく、定量的な配向処理の制御ができる点で有用である。光配向膜に用いられる光励起反応型材料としては、光異性化反応を生じることにより膜に異方性を付与する光異性化型材料と、光二量化反応を生じることにより膜に異方性を付与する光二量化型材料と、光分解反応を生じることにより膜に異方性を付与する光分解型材料とを挙げることができる。光配向膜としては、例えば特開2006−350322号公報、特開2006−323214号公報、特開2005−258429号公報、特開2005−258428号公報に記載のものを用いることができる。
【0050】
斜方蒸着配向膜は、斜め蒸着法により形成されるものである。斜方蒸着配向膜は、比較的高いプレチルト角を実現することができる点で有用である。斜方蒸着配向膜としては、例えば国際公開WO2008/075732号パンフレットに記載のものを用いることができる。
【0051】
(3)遮光部
本発明においては、TFT基板がTFT素子上に形成された遮光部を有することが好ましい。例えば図2に示すように、遮光部27が半導体層22上に形成されていることが好ましい。これにより、半導体層に光が照射されることにより、誤動作が起こり、これに起因して表示欠陥が生じるのを防ぐことができる。また、共通電極基板に遮光部を設けるのではなく、TFT基板に遮光部を設けることにより、アライメントが不要となり、製造工程を簡略化することができ、さらには開口率を高めることができる。さらに、TFT基板に遮光部を設け、遮光部を覆うように固定化液晶層が形成されていることにより、遮光部による段差が存在する領域において駆動液晶の配向不良が起こるのを抑制し、光漏れ(白抜け)を低減することができる。
【0052】
遮光部としては、所望の遮光性を有する材料からなるものであれば特に限定されるものではないが、通常、金属材料からなるもの、または、遮光材料および樹脂から構成されるものが用いられる。遮光部が金属材料からなるものである場合、この金属材料としては、所望の遮光性を有する金属であれば特に限定されないが、一般的にはクロム材料が用いられる。一方、遮光部が遮光材料および樹脂から構成されるものである場合、この遮光材料としては、例えば、カーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子等を挙げることができる。また、樹脂としては、一般的に樹脂製遮光部に用いられるものを採用することができる。
【0053】
遮光部の形成位置としては、半導体層上であればよい。遮光部が金属材料からなるものである場合には、遮光部と半導体層との間に絶縁層が形成されていることが好ましい。
【0054】
遮光部の厚みとしては、遮光部が金属材料からなるものである場合には、例えば、200nm〜500nm程度とすることができる。一方、遮光部が遮光材料および樹脂から構成されるものである場合には、遮光部の厚みは、例えば、0.3μm〜2μm程度とすることができる。
【0055】
(4)スペーサ
本発明においては、TFT基板が、TFT電極層の非画素領域上に形成されたスペーサを有することが好ましい。共通電極基板にスペーサを設けるのではなく、TFT基板にスペーサを設けることにより、アライメントが不要となり、製造工程を簡略化することができるからである。この場合、図2に例示するように、第1基板12上にスペーサ16が形成され、スペーサ16を覆うように反応性液晶用配向膜14および固定化液晶層15が形成される。スペーサを覆うように固定化液晶層が形成されていることにより、スペーサによる段差が存在する領域において駆動液晶の配向不良が起こるのを抑制し、光漏れ(白抜け)を低減することができる。
【0056】
スペーサとしては、例えば、隔壁、柱状スペーサを挙げることができ、駆動液晶層に用いられる駆動液晶の種類に応じて適宜選択される。例えば、駆動液晶層にネマチック液晶を用いる場合には柱状スペーサが形成され、駆動液晶層に強誘電性液晶を用いる場合には隔壁が形成される。
【0057】
スペーサの材料は、一般に液晶表示素子のスペーサに用いられる材料を使用することができ、具体的には樹脂を挙げることができ、中でも感光性樹脂が好ましく用いられる。感光性樹脂はパターニングが容易であるからである。
【0058】
また、スペーサの配置としては、非画素領域上であることが好ましい。スペーサ付近では駆動液晶の配向不良が生じやすいので、画像表示に影響のない非画素領域にスペーサが形成されていることが好ましい。例えば、ゲート線およびソース線などの配線上にスペーサを配置することができる。
【0059】
スペーサの形成方法としては、所定の位置にスペーサを形成することが可能な方法であれば特に限定されるものではなく、一般的なパターニング方法を適用することができ、例えば、フォトリソグラフィー法、インクジェット法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0060】
スペーサは複数形成されるものであり、複数のスペーサが所定の位置に規則的に形成されていることが好ましい。中でも、スペーサが隔壁の場合であって塗布方式(滴下方式)により液晶表示素子を作製する場合には、隔壁が略平行に等間隔で形成されていることが好ましい。複数の隔壁の形成位置が無秩序であると、駆動液晶の塗布量を正確に制御することが困難となる場合があるからである。
スペーサのピッチおよび幅は、一般的なものであればよい。また、スペーサの高さは、通常、セルギャップと同程度とされる。
スペーサの数としては、複数であれば特に限定されるものではなく、液晶表示素子の大きさによって適宜選択される。
【0061】
(5)TFT電極層
本発明におけるTFT電極層は、複数のTFT素子および上記TFT素子に接続された画素電極を有するものである。
【0062】
TFT素子は、図1に例示するように、ゲート電極22と、ゲート電極22上に形成されたゲート絶縁膜23と、ゲート絶縁膜23上に形成された半導体層24と、半導体層24上に所定の間隔をあけて対向するように形成されたソース電極25およびドレイン電極26とを有しており、画素電極13はドレイン電極26と接続されている。
TFT素子としては、特に限定されるものではなく、本発明の液晶表示素子の種類に応じて適宜選択され、例えば、a−Si TFT構造を有するものであってよく、p−Si TFT構造を有するものであってもよい。a−Si TFT構造を有するTFT素子の場合、正スタガ型(トップゲート構造)および逆スタガ型(ボトムゲート構造)のいずれであってもよい。また、逆スタガ型の場合、チャネルエッチ型およびチャネルプロテクト型のいずれであってもよい。一方、p−Si TFT構造を有するTFT素子の場合、プレーナ型およびスタガ型のいずれであってもよい。中でも、本発明においてはTFT素子による段差が存在している領域において駆動液晶の配向不良を少なくすることができることから、TFT素子は段差が大きいものであることが好ましい。
【0063】
画素電極は、一般に液晶表示素子の画素電極として用いられているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム錫(IZO)等が好ましく用いられる。
【0064】
(6)第1基板
本発明に用いられる第1基板は、一般に液晶表示素子の基板として用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ガラス板、プラスチック板などが好ましく挙げられる。
【0065】
2.駆動液晶層
本発明における駆動液晶層は、TFT基板の固定化液晶層と共通電極基板の共通電極との間に形成されるものである。
【0066】
駆動液晶層に用いられる駆動液晶としては、水平配向モードの液晶材料であれば特に限定されるものではない。なお、水平配向モードの液晶材料とは、電圧無印加時に基板に対して実質的に水平に配向する液晶材料をいう。このような液晶材料としては、例えば、ネマチック液晶、強誘電性液晶等のスメクチック液晶などを挙げることができる。中でも、本発明においては、駆動液晶層が強誘電性液晶を含むことが好ましい。強誘電性液晶は、ネマチック液晶に比べて分子の秩序性が高いために配向制御が難しく、TFT素子などによる段差が存在する領域において配向不良が特に生じやすいからである。本発明においては、TFT素子などによる段差が存在する領域において駆動液晶の配向不良を少なくすることができるので、駆動液晶層が強誘電性液晶を含む場合であっても、強誘電性液晶の配向不良を低減することができる。
【0067】
本発明に用いられる強誘電性液晶としては、カイラルスメクチックC(SmC)相を発現するものであれば特に限定されるものではない。強誘電性液晶の相系列としては、例えば、降温過程においてネマチック(N)相−コレステリック(Ch)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、ネマチック(N)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、ネマチック(N)相−スメクチックA(SmA)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、ネマチック(N)相−コレステリック(Ch)相−スメクチックA(SmA)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、などを挙げることができる。
【0068】
また、強誘電性液晶としては、双安定性を示すものおよび単安定性を示すもののいずれも用いることができる。中でも、単安定性を示す強誘電性液晶が好ましい。単安定性を示す強誘電性液晶を用いた場合には、電圧変化により液晶のダイレクタ(分子軸の傾き)を連続的に変化させ、透過光度をアナログ変調することで、階調表示が可能となるからである。特に、液晶表示素子をフィールドシーケンシャルカラー方式により駆動させる場合には、単安定性を示す強誘電性液晶を用いることが好ましい。単安定性を示す強誘電性液晶を用いることにより、TFTを用いたアクティブマトリックス方式による駆動が可能になり、また、電圧変調により階調制御が可能になり、高精細で高品位の表示を実現することができるからである。
【0069】
なお、「単安定性を示す」とは、電圧無印加時の強誘電性液晶の状態がひとつの状態で安定化している状態をいう。強誘電性液晶は、図3(a)〜(c)に例示するように、液晶分子42が層法線zから傾いており、層法線zに垂直な底面を有する円錐(コーン)の稜線に沿って回転する。このような円錐(コーン)において、液晶分子42の層法線zに対する傾き角をチルト角θという。このように、液晶分子42は層法線zに対しチルト角±θだけ傾く二つの状態間をコーン上に動作することができる。具体的に説明すると、単安定性を示すとは、電圧無印加時に液晶分子42がコーン上のいずれかひとつの状態で安定化している状態をいう。
【0070】
単安定性を示す強誘電性液晶の中でも、図4(a)、(b)に例示するような、正負いずれかの電圧を印加したときにのみ液晶分子が動作する、ハーフV字型スイッチング特性を示すものであることが好ましい。このようなハーフV字型スイッチング特性を示す強誘電性液晶を用いると、白黒シャッターとしての開口時間を十分に長くとることができ、これにより時間的に切り替えられる各色をより明るく表示することができ、明るいカラー表示の液晶表示素子を実現することができるからである。
【0071】
なお、「ハーフV字型スイッチング特性」とは、印加電圧に対する透過光量が非対称な電気光学特性をいう。具体的には、液晶層に正負の電圧10Vをそれぞれ印加したときの印加電圧に対する透過光量のうち、透過光量が小さい場合の印加電圧の透過光量をA、透過光量が大きい場合の印加電圧の透過光量をBとすると、B/Aが2以上となる特性をいう。
【0072】
このような強誘電性液晶としては、一般に知られる液晶材料の中から要求特性に応じて種々選択することができる。特に、Ch相からSmA相を経由しないでSmC相を発現する強誘電性液晶は、ハーフV字型スイッチング特性を示すものとして好適であり、具体的には、AZエレクトロニックマテリアルズ社製「R2301」が挙げられる。また、SmA相を経由する強誘電性液晶として、具体的には、AZエレクトロニックマテリアルズ社製「FELIXM4851−100」などが挙げられる。
【0073】
駆動液晶層が強誘電性液晶を含む場合、駆動液晶層には、上記の強誘電性液晶以外に他の化合物が含有されていてもよい。他の化合物としては、液晶表示素子に求められる機能に応じて任意の機能を備えるものを用いることができる。好適に用いられる他の化合物としては、重合性モノマーの重合物を挙げることができる。駆動液晶層中に重合性モノマーの重合物が含有されることにより、強誘電性液晶の配列がいわゆる「高分子安定化」され、優れた配向安定性が得られるからである。なお、駆動液晶層が強誘電性液晶および重合性モノマーの重合物を含有する場合については、特開2006−323215号公報等に記載のものと同様である。
【0074】
駆動液晶層の厚みとしては、駆動液晶層に用いられる駆動液晶の種類に応じて適宜選択される。例えば、駆動液晶層が強誘電性液晶を含む場合、駆動液晶層の厚みは、1.2μm〜3.0μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.3μm〜2.5μm、さらに好ましくは1.4μm〜2.0μmの範囲内である。駆動液晶層の厚みが薄すぎると液晶表示素子の最大透過率が十分に大きくならない場合があり、また駆動液晶層の厚みが厚すぎると強誘電性液晶が配向しにくくなる可能性があるからである。
【0075】
TFT基板の固定化液晶層と共通電極基板の共通電極との間に駆動液晶を挟持させる方法としては、一般に液晶セルの作製方法として用いられる方法を使用することができ、例えば真空注入方式、塗布方式(滴下方式)等を用いることができる。
真空注入方式では、例えばあらかじめTFT基板および共通電極基板を用いて作製した液晶セルに、加温することによって等方性液体とした駆動液晶を、キャピラリー効果を利用して注入し、接着剤で封鎖することにより、TFT基板および共通電極基板の間に駆動液晶を挟持させることができる。
一方、滴下方式では、例えばTFT基板の固定化液晶層上に、加温した駆動液晶を滴下し、共通電極基板の周縁部にシール剤を塗布し、減圧下でTFT基板および共通電極基板を重ね合わせ、シール剤を介して接着させることにより、TFT基板および共通電極基板の間に駆動液晶を挟持させることができる。中でも、滴下方式の場合、TFT基板の固定化液晶層上に駆動液晶を塗布することが好ましい。固定化液晶層は駆動液晶の配向を効果的に制御することができるため、初期配向を考慮すると、固定化液晶層上に駆動液晶を塗布することが好ましいからである。また、上述したように、TFT基板にスペーサが形成されていることが好ましいからである。
【0076】
TFT基板および共通電極基板の間に駆動液晶を挟持させた後は、駆動液晶を配向させる。この際、液晶セルを常温まで徐冷することにより、封入された駆動液晶を配向させることができる。
中でも、駆動液晶層が強誘電性液晶を含む場合、電界印加処理を行うことなく強誘電性液晶を配向させることが好ましい。共通電極基板に第2配向膜が形成されており、TFT基板の固定化液晶層と共通電極基板の第2配向膜との間に強誘電性液晶が挟持されている場合には、電界印加処理を行うことなく、強誘電性液晶を徐冷することのみで、固定化液晶層および第2配向膜の配向能、および、固定化液晶層および第2配向膜との強誘電性液晶への表面極性相互作用によって、強誘電性液晶を配向させ、自発分極の向きを制御することができるからである。よって、電界印加処理を行うことなく強誘電性液晶を配向させるので、相転移温度以上に昇温してもその配向を維持し、配向欠陥の発生を抑制することが可能である。
【0077】
また、強誘電性液晶を用いる場合であって、強誘電性液晶に重合性モノマーが添加されている場合には、強誘電性液晶を配向させた後、重合性モノマーを重合させる。重合性モノマーの重合方法としては、重合性モノマーの種類に応じて適宜選択され、例えば、重合性モノマーとして紫外線硬化性樹脂モノマーを用いた場合は、紫外線照射により重合性モノマーを重合させることができる。
【0078】
3.共通電極基板
本発明に用いられる共通電極基板は、第2基板と、上記第2基板上に形成された共通電極とを有する共通電極基板とを有するものである。中でも、共通電極基板は、共通電極上に形成された第2配向膜を有することが好ましい。この場合、TFT基板の固定化液晶層と共通電極基板の第2配向膜との間に駆動液晶層が形成される。
【0079】
なお、第2基板および共通電極については、上記TFT基板の第1基板および画素電極とそれぞれ同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。以下、共通電極基板の他の構成について説明する。
【0080】
(1)第2配向膜
本発明に用いられる第2配向膜としては、強誘電性液晶を配向させることができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ラビング処理された配向膜、光配向処理された光配向膜、斜方蒸着配向膜等を用いることができる。なお、ラビング処理された配向膜、光配向処理された光配向膜および斜方蒸着配向膜についてはそれぞれ、上記TFT基板の反応性液晶用配向膜の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0081】
(2)好ましい態様
本発明において、駆動液晶層が強誘電性液晶を含む場合であって、強誘電性液晶が降温過程においてスメクチックA(SmA)相を経由せずにカイラルスメクチックC(SmC)相を発現するものである場合、第2配向膜は、ラビング処理された配向膜、光配向処理された光配向膜、斜方蒸着配向膜であることが好ましい。SmA相を経由せずにSmC相を発現する強誘電性液晶は、層法線方向の異なる二つの領域(ダブルドメインと称する。)が発生しやすく、このようなダブルドメインは駆動時に白黒反転した表示になる。これに対し、固定化液晶層と上記のような第2配向膜との間に強誘電性液晶が挟持されていることにより、ダブルドメインの発生を抑制することができ、モノドメイン配向を得ることができる。これは、次のような理由によると考えられる。すなわち、固定化液晶層と上記のような第2配向膜とでは、強誘電性液晶と固定化液晶層表面および第2配向膜表面との相互作用である、極性表面相互作用が異なると考えられる。そのため、固定化液晶層と第2配向膜とで固定化液晶層の方が相対的に正の極性が強い傾向にあり、第2配向膜側に強誘電性液晶の自発分極の正極性が向く傾向にあることを利用して、液晶分子の自発分極の向きを制御することができる。そして、液晶分子の自発分極の向きを制御することができるので、SmA相を経由せずにSmC相を発現する強誘電性液晶に特有のダブルドメインを生じることなく、強誘電性液晶のモノドメイン配向を得ることができる。
【0082】
また、駆動液晶層が強誘電性液晶を含む場合であって、強誘電性液晶が降温過程においてスメクチックA(SmA)相を経由せずにカイラルスメクチックC(SmC)相を発現するものである場合、共通電極が駆動液晶層に直に接していることも好ましい。この場合、TFT基板の固定化液晶層と共通電極基板の共通電極との間に強誘電性液晶が挟持されていることにより、ダブルドメインの発生を抑制することができ、モノドメイン配向を得ることができる。固定化液晶層と共通電極とでは、強誘電性液晶と固定化液晶層表面および共通電極表面との相互作用である、極性表面相互作用が異なると考えられる。そのため、固定化液晶層と共通電極とで固定化液晶層の方が相対的に正の極性が強い傾向にあり、共通電極側に強誘電性液晶の自発分極の正極性が向く傾向にあることを利用して、液晶分子の自発分極の向きを制御することができる。そして、液晶分子の自発分極の向きを制御することができるので、SmA相を経由せずにSmC相を発現する強誘電性液晶に特有のダブルドメインを生じることなく、強誘電性液晶のモノドメイン配向を得ることができる。
【0083】
さらに、駆動液晶層が強誘電性液晶を含む場合であって、強誘電性液晶が降温過程においてスメクチックA(SmA)相を経由せずにカイラルスメクチックC(SmC)相を発現するものである場合、共通電極基板は、第2基板と、上記第2基板上に形成された共通電極と、上記共通電極上に形成され、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有し、配向処理が施されてない未配向処理層とを有することも好ましい。この場合、TFT基板の固定化液晶層と共通電極基板の未配向処理層との間に強誘電性液晶が挟持されていることにより、ダブルドメインの発生を抑制することができ、モノドメイン配向を得ることができる。固定化液晶層と未配向処理層とでは、強誘電性液晶と固定化液晶層表面および未配向処理層表面との相互作用である、極性表面相互作用が異なると考えられる。そのため、固定化液晶層と未配向処理層とで固定化液晶層の方が相対的に正の極性が強い傾向にあり、未配向処理層側に強誘電性液晶の自発分極の正極性が向く傾向にあることを利用して、液晶分子の自発分極の向きを制御することができる。そして、液晶分子の自発分極の向きを制御することができるので、SmA相を経由せずにSmC相を発現する強誘電性液晶に特有のダブルドメインを生じることなく、強誘電性液晶のモノドメイン配向を得ることができる。
【0084】
なお、未配向処理層が配向処理が施されていないものであることは、未配向処理層の偏光紫外・可視吸収スペクトルを測定することにより確認することができる。すなわち、紫外可視分光光度計(V7100:日本分光株式会社製)を用いて、未配向処理層に対して偏光紫外線を照射し、紫外線の偏光方向と平行および垂直方向の偏光紫外・可視吸収スペクトルを測定する。垂直方向と水平方向のスペクトルの吸収ピークの比が1.2以下であれば、配向処理が施されていないものであるとする。
【0085】
上記の垂直方向と水平方向のスペクトルの吸収ピークの比は、1.2以下であることが好ましく、より好ましくは1.1以下である。なお、未配向処理層を形成する際の上記材料の塗布方法等によっては未配向処理層が若干の異方性を有するものとなる場合もあることから、上記の垂直方向と水平方向のスペクトルの吸収ピークの比の下限は特に限定されるものではない。
【0086】
なお、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物としては、例えば特開2006−350322号公報、特開2006−323214号公報、特開2005−258429号公報、特開2005−258428号公報に記載のものを用いることができる。
【0087】
未配向処理層の厚みは、1nm〜1000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは3nm〜100nmの範囲内である。未配向処理層の厚みが上記範囲より薄いと未配向処理層が部分的に形成されない場合があり、逆に未配向処理層の厚みが上記範囲より厚いと透過率が低下するからである。
【0088】
なお、分子内にアゾベンゼン骨格を有する光異性化反応性化合物を含有し、光配向処理が施されていない未配向処理層の形成方法については、例えば特開2006−350322号公報、特開2006−323214号公報、特開2005−258429号公報、特開2005−258428号公報に記載の光配向膜の形成方法において、偏光を制御した光を照射しない以外は同様である。
【0089】
4.偏光板
本発明の液晶表示素子は、TFT基板および共通電極基板の外側にそれぞれ偏光板を有していてもよい。偏光板としては、光の波動のうち特定方向のみを透過させるものであれば特に限定されるものではなく、一般に液晶表示素子の偏光板として用いられているものを使用することができる。
【0090】
5.液晶表示素子の駆動方法
本発明の液晶表示素子の駆動方法としては、フィールドシーケンシャル方式が好適である。共通電極基板に、カラーフィルタを設ける必要がなく、アライメントが不要であり、また開口率を高めることができるからである。中でも、駆動液晶層が強誘電性液晶を含む場合には、強誘電性液晶の高速応答性を利用することができるので、1画素を時間分割し、良好な動画表示特性を得るために高速応答性を特に必要とするフィールドシーケンシャル方式が適している。
【0091】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0092】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例1]
(TFT基板の作製)
TFT電極層(厚さ0.75μmのTFT素子、厚さ0.25μmのゲート線、厚さ0.2mのソース線、厚さ0.55μmの補助容量、画素電極など)が形成された基板を準備した。画素サイズは、80μm×80μmとした。
この基板をよく洗浄し、この基板上に樹脂ブラックマトリクスレジスト(商品名:MCK−013−11S 三菱化学社製)をスピンコートして、減圧乾燥し、100℃で3分間プリベークを行った。次いで、100mJ/cmの紫外線でマスク露光し、無機アルカリ溶液で現像を行い、230℃で30分間ポストベークを行った。これにより、TFT素子上に高さ0.4μmの遮光部を形成した。
次に、基板の洗浄後、遮光部が形成された基板上に、透明レジスト(商品名NN780 JSR社製)をスピンコートした。次いで、100mJ/cmの紫外線でマスク露光し、無機アルカリ溶液で現像を行い、230℃で30分間ポストベークを行った。これにより、ゲート線上に高さ1.45μmの隔壁をストライプ状に形成した。この際、隔壁が12画素毎にゲート線上に位置するように、ストライプ状の隔壁を形成した。
次に、この基板を洗浄し、乾燥後、ラビング配向膜材料(商品名:PIA−5770−01A チッソ社製)のNBG−776で50%に希釈した溶液(チッソ社製)をスピンコート(1000rpm、20秒)し、100℃で15分間プリベークを行い、230℃で60分間ポストベークを行った。TFT基板を室温へと冷却後、ラビング配向処理を行い、ラビング膜を形成した。
次いで、ラビング膜上に、重合性液晶材料(商品名:ROF3604 ROLIC社製)のシクロペンタノン2.5質量%溶液をスピンコート(1000rpm、20秒)し、60℃で5分間乾燥を行い、窒素雰囲気下で1000mJ/cmの紫外線を照射し重合させ、固定化液晶層を形成した。
【0093】
(共通電極基板の作製)
ITO電極が形成されたガラス基板をよく洗浄し、このガラス基板上に光異性化反応型の光配向膜材料(商品名:LIA−03 DIC社製)のN−メチル−2−ピロリドンで50%に希釈した溶液をスピンコート(1000rpm、20秒)し、100℃で4分間乾燥した後、直線偏光紫外線を約100mJ/cm照射し、配向処理を行い、光配向膜を形成した。
【0094】
(液晶表示素子の作製)
次に、作製したTFT基板に、100℃に加熱したインクジェットヘッドを用いて、強誘電性液晶(R2301 AZエレクトロニックマテリアルズ社製)を塗布した。次に、作製した共通電極基板を115℃に加熱した吸着プレートで吸着した。次いで、共通電極基板との配向処理方向が平行になるように、向かい合わせの110℃に加熱した吸着プレートにTFT基板を吸着した。そして、真空チャンバー内が100Paになるように排気を行った状態で、両基板を密着させ、一定の圧力をかけた後、真空チャンバー内を常圧に戻した。その後、強誘電性液晶を室温まで徐冷することにより配向させ、液晶表示素子を作製した。
【0095】
(評価)
作製した液晶表示素子について偏光顕微鏡で強誘電性液晶の配向状態を観察したところ、表示領域全体で均一な配向が得られた。また、ゲート線、ソース線部分でも配向乱れによる光漏れはほとんど見られなかった。図5(b)に実施例1の液晶表示素子の偏光顕微鏡写真を示す。
【0096】
[実施例2]
TFT基板の作製において、重合性液晶材料の溶液濃度を1.0質量%にした以外は、実施例1と同様の方法で液晶表示素子を作製した。すなわち、実施例2の固定化液晶層の厚みを、実施例1の固定化液晶層の厚みよりも薄くした。
作製した液晶表示素子について偏光顕微鏡で強誘電性液晶の配向状態を観察したところ、表示領域全体で均一な配向が得られた。また、ゲート線、ソース線部分でも配向乱れによる光漏れはほとんど見られなかった。
【0097】
[実施例3]
TFT基板の作製において、重合性液晶材料として商品名:ROF5101(ROLIC社製)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で液晶表示素子を作製した。
作製した液晶表示素子について偏光顕微鏡で強誘電性液晶の配向状態を観察したところ、ところどころにジグザグ欠陥は観察されたが、ゲート線、ソース線部分でも配向乱れによる光漏れはほとんど見られなかった。
【0098】
[比較例1]
(TFT基板の作製)
実施例1と同様に、遮光部およびストライプ状の隔壁を形成した。遮光部および隔壁が形成された基板を洗浄し、この基板上に光異性化型の光配向膜材料(商品名:LIA−03 DIC社製)のN−メチル−2−ピロリドンで50%に希釈した溶液をスピンコート(1000rpm、20秒)し、100℃で4分間乾燥した後、直線偏光紫外線を約100mJ/cm照射し、配向処理を行い、光配向膜を形成した。
(共通電極基板の作製)
ITO電極が形成されたガラス基板をよく洗浄し、このガラス基板上にラビング配向膜材料(商品名:PIA−5770−01A チッソ社製)のNBG−776で50%に希釈した溶液(チッソ社製)をスピンコート(1000rpm、20秒)し、100℃で15分間プリベークを行い、230℃で60分間ポストベークを行った。基板を室温へと冷却後、ラビング配向処理を行い、ラビング膜を形成した。次いで、ラビング膜上に、重合性液晶材料(商品名:ROF3604 ROLIC社製)のシクロペンタノン2.5質量%溶液をスピンコート(1000rpm、20秒)し、60℃で5分間乾燥を行い、窒素雰囲気下で1000mJ/cmの紫外線を照射し重合させ、固定化液晶層を形成した。
(液晶表示素子の作製)
次に、実施例1と同様の方法で、TFT基板と共通電極基板を貼り合せ液晶表示素子を作製した。
(評価)
作製した液晶表示素子について偏光顕微鏡で強誘電性液晶の配向状態を観察したところ、表示領域全体では均一な配向が得られたが、ゲート線、ソース線部分に沿って、配向乱れによる光漏れが見られた。図5(a)に比較例1の液晶表示素子の偏光顕微鏡写真を示す。
【0099】
[比較例2]
TFT基板の作製において、光配向膜材料(商品名:LIA−03 DIC社製)を希釈せずにそのまま用いたこと以外は、比較例1と同様の方法で液晶表示素子を作製した。すなわち、比較例2の光配向膜の厚みを、比較例1の光配向膜の厚みよりも厚くした。
作製した液晶表示素子について偏光顕微鏡で強誘電性液晶の配向状態を観察したところ、表示領域全体では均一な配向が得られたが、ゲート線、ソース線部分に沿って、配向乱れによる光漏れが見られた。
【符号の説明】
【0100】
1 … 液晶表示素子
11 … TFT基板
12 … 第1基板
13 … 画素電極
14 … 反応性液晶用配向膜
15 … 固定化液晶層
16 … スペーサ
21 … TFT素子
22 … ゲート電極
23 … ゲート絶縁膜
24 … 半導体層
25 … ソース電極
26 … ドレイン電極
27 … 遮光部
31 … 共通電極基板
32 … 第2基板
33 … 共通電極
34 … 第2配向膜
41 … 駆動液晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、前記第1基板上に形成され、複数のTFT素子および前記TFT素子に接続された画素電極を有するTFT電極層と、前記TFT電極層上に形成された反応性液晶用配向膜と、前記反応性液晶用配向膜上に形成され、反応性液晶を固定化してなる固定化液晶層とを有するTFT基板と、
第2基板と、前記第2基板上に形成された共通電極とを有する共通電極基板と、
前記TFT基板の前記固定化液晶層および前記共通電極基板の前記共通電極の間に形成された駆動液晶層と
を有することを特徴とする液晶表示素子。
【請求項2】
前記TFT基板が、前記TFT素子上に形成された遮光部を有することを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記TFT基板が、前記TFT電極層の非画素領域上に形成されたスペーサを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記駆動液晶層が強誘電性液晶を含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記共通電極基板が、前記共通電極上に形成された第2配向膜を有し、前記固定化液晶層および前記第2配向膜の間に前記駆動液晶層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の液晶表示素子。
【請求項6】
前記反応性液晶が、ネマチック相を発現するものであることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の液晶表示素子。
【請求項7】
前記反応性液晶が、重合性液晶モノマーを含有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかに記載の液晶表示素子。
【請求項8】
フィールドシーケンシャル方式により駆動させるものであることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の液晶表示素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−271475(P2010−271475A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122163(P2009−122163)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】