説明

液晶表示装置

【課題】液晶パネルと共に光学補償層を設けた液晶表示装置において、光学補償層の劣化を防止することが可能で、これにより表示特性の長期信頼性に優れた液晶表示装置を提供する。
【解決手段】第1基板10と第2基板20との間に液晶層30を狭持してなる液晶パネル1と、液晶パネル1の少なくとも一方に対向配置された保護基板3と、液晶パネル1と保護基板3との間に狭持された光学補償層5とを備えた。また、保護基板3が設けられた液晶パネル1の両側に配置された偏光板110,110と、そのうちの一方を介して液晶パネル1に光hを照射する照明光学系と、液晶パネル1を通過した光hを投射する投射レンズとをさらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶表示装置に関し、特には液晶パネルをライトバルブに用いた投射型の構成として好適な液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚の基板間に液晶層を狭持してなる液晶パネルは、偏光板とを組み合わせることで、テレビやパソコン用のディスプレイとして用いられ、また投射型の表示装置(液晶プロジェクタ)のライトバルブとしても用いられる。
【0003】
これらの表示装置に重視される性能は透過率(明るさ)とコントラスト(白/黒の照度比)であり、透過率が高ければ明るい画像が得られると同時に、プロジェクタであれば、LEDや蛍光灯、UHPランプ等の光源の消費電力を低減させることが出来る。また、コントラストが高ければ鮮明な画像を得ることができる。
【0004】
ところが、上記液晶パネルを用いた液晶表示装置においては、液晶層での位相差がコントラストを低下させる要因の1つになる。つまり、液晶層では直線偏光で入射した光が直線偏光のまま出射するのが理想的であるが、実際には基板界面に近い液晶分子は電圧を印加しても配向が解けないので出射光は楕円偏光になる。また、極角のついた入射光は液晶分子の光学軸に沿って透過しないので同様に楕円偏光になる。そして、液晶パネルからの出射光が楕円偏光になると、黒表示時に出射側の偏光板を透過する、いわゆる光漏れが発生してコントラストが悪化するのである。
【0005】
そこで、液晶表示装置においては、液晶層において生じる光学的な位相差を補償するための光学補償層を設けることで、光漏れのない黒レベルの表示を実現している。この様な光学補償層は、例えば所定状態に配向させた液晶材料膜からなる。そして、例えば液晶プロジェクタにおける液晶パネル部分においては、光の入射側から順に、入射側偏光板、液晶パネル、1層または2層の光学補償層(光学補償素子)、出射側偏光板を配置している。この状態において、光学補償層は、液晶パネルと密着した状態で配置されても良い(以上、下記特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−14345号公報(29〜30,46段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した構成の液晶表示装置においては、光学補償層が大気中に露出した状態で設けられることになるため、酸素および水分の供給によって光学補償層が劣化し易いと言った問題がある。特に、投射型の液晶表示装置においては、液晶パネルに対して強い光が照射されるため、上述した液晶材料膜等の有機材料からなる光学補償層は、酸素および水分の存在下での劣化が激しく、耐光性が要求されている。
【0008】
そこで本発明は、液晶パネルと共に光学補償層を設けた液晶表示装置において、光学補償層の劣化を防止することが可能で、これにより表示特性の長期信頼性に優れた液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような課題を解決するための本発明の液晶表示装置は、2枚の基板間に液晶層を狭持してなる液晶パネルを備えている。そして、液晶パネルの少なくとも一方側には保護基板が配置され、この保護基板と液晶パネルとの間に光学補償層が狭持されていることを特徴とする。
【0010】
このような構成の液晶表示装置においては、光学補償層を、液晶パネルと保護基板との間に狭持させたことにより、光学補償層が酸素遮断および水分遮断された状態で配置されることになる。このため、光学補償層の劣化が防止され、例えば強い光が照射される環境下であっても光学補償層の光学特性が維持される。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明の液晶表示装置によれば、光学補償層の劣化を防止することが可能であるため、これにより表示特性の長期信頼性の向上を図ることが可能になる。また特に、強い光が照射される環境下であっても光学補償層の光学特性が維持されるため、液晶パネルに強い光が照射される投射型の液晶表示装置であっても、表示特性の長期信頼性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の液晶表示装置の実施形態として、液晶パネルをライトバルブとして用いた投射型の液晶表示装置の構成を説明する。以下においては、液晶表示装置の全体構成、この液晶表示装置に設けられる液晶パネル部分の構成、液晶パネル部分の作製方法の順に説明する。
【0013】
≪第1実施形態≫
<液晶表示装置の全体構成>
図1は、本発明が適用される投射型の液晶表示装置100の構成図である。この図に示す投射型の液晶表示装置100は、いわゆる液晶プロジェクタであり、光源101からの光(照明光)hを赤色(R)、青色(B)、緑色(G)の3原色に分離し、それぞれの色に対して液晶パネルをライトバルブとして1枚ずつ用いてカラー画像表示を行う、いわゆる3板方式のプロジェクタである。
【0014】
この液晶表示装置100においては、光源101からの光hの光路上に、フライアイレンズ102,103、PS合成素子104、コンデンサレンズ105がこの順に配置されている。そして、さらにこれらを通過した光hの光路上には、この光hを分割するダイクロックミラー106、および分割された光hの方向を変更するためのミラー107、さらには必要に応じてリレーレンズ108が備えられ、これらのミラー106,107によって光hが3色にそれぞれ分離される構成となっている。また、以上のように分離された各色の光hの光路には、それぞれフィールドレンズ109が配置されている。
【0015】
そして、以上の照明光学系を通過した3つの光hの光路上に、クロスニコルに配置された2枚の偏光板110と、これらの偏光板110間に狭持された液晶パネル部分1aが配置されている。この液晶パネル部分1aは、液晶表示装置100におけるライトバルブとして用いられるもので、以降に説明するように本発明に特徴的な構成となっている。
【0016】
また、これらの偏光板110と液晶パネル部分1aとのセットを通過した各光hの光路が交わる位置には、これら3つの色光を合成する機能を有したダイクロックプリズム111が設置されている。このダイクロックプリズム111の射出側には、ダイクロックプリズム111での合成光を、スクリーンに向けて投射するための投射レンズ112が配置されている。この投射レンズ112には、例えば焦点距離F#1.5〜2.5のものが用いられる。
【0017】
以上のような構成により、上記液晶表示装置100においては、外部より入力された映像信号を、RGBそれぞれの液晶パネル部分1aに入力し、この液晶パネル部分1aにおいて対応する画素の透過光強度を調整することで、任意の映像が投射表示される。
【0018】
<液晶パネル部の構成>
図2には、液晶表示装置に設けた液晶パネル部分1aの要部断面模式図を示す。この図に示すように、液晶パネル部分1aは、上述した投射型の液晶表示装置のライトバルブとして用いられるものであり、クロスニコルに配置された2枚の偏光板110の間に配置される。この液晶パネル部分1aは、液晶パネル1の外側に、保護基板3,4が対向して貼り合わせて設けられている。そして、液晶パネル1の少なくとも一方に対向配置された保護基板3と液晶パネル1との間に光学補償層5を狭持させた構成が、本実施形態に特徴的な構成となっている。以下に、各部材の詳しい構成を説明する。
【0019】
先ず、液晶パネル1は、第1基板10と第2基板20との間に液晶層30を狭持させた通常構成のものであり、例えば以下のように構成されている。
【0020】
先ず、第1基板10は、例えば石英などの光透過性の絶縁基板を用いて構成されている。この第1基板10の液晶層30に向かう面上には、中央の表示領域10aに、TFT11や容量素子(図示省略)がマトリクス状に配列形成されてTFT基板を構成している。また、TFT11が設けられた第1基板10上は層間絶縁膜12で覆われており、この層間絶縁膜12上には、接続孔(図示省略)を介してTFT11に接続された画素電極13が配列形成されている。そして、画素電極13を覆う状態で、配向膜14が設けられた構成となっている。
【0021】
尚、TFT11が設けられる第1基板10として耐熱性の高い石英を用いると、TFT11に高温ポリシリコンを使用できるので微細化が実現できる。しかし、石英は高価なので、多成分系無アルカリガラスやプラスチック基板を第1基板10として用いても良い。この場合、TFT11には低温ポリシリコンやアモルファスシリコンが使用されることになる。
【0022】
一方、第2基板20は、石英、多成分系無アルカリガラスやプラスチック基板などの光透過性の絶縁基板を用いて構成されている。この第2基板20の液晶層30に向かう面上には、対向電極21が一面に配置され、この対向電極21を覆う状態で、配向膜22が設けられている。
【0023】
そして液晶層30は、第1基板10と第2基板20の周縁部間に設けられた封止剤31によって、第1基板10と第2基板20との間に充填封止されている。また、この液晶層30は、膜厚(すなわちセルギャップ)が所定の設計値に調整された状態で封止されていることとする。
【0024】
尚、第1基板10上には、TFT11と同一層、およびTFT11に接続する配線層と同一層で構成された駆動回路が設けられており、封止剤31で囲まれた表示領域10aの外側に、この駆動回路に接続する配線11aが引き出された状態となっている。そして、この配線11aに対して、映像信号を入力するためのフレキシブルプリント基板2が接続される構成となっている。
【0025】
以上のように構成された液晶パネル1に貼り合わせられる保護基板3,4は、光透過性の絶縁基板を用いて構成され、このような保護基板3,4としては、石英や結晶化ガラスといった高透過率を有する材質が用いられる。またこの他にも、サファイアや水晶といった高熱伝導率を有する材質を用いることにより保護基板3,4による放熱効果が増すので、光学補償層5や液晶層30の耐光および耐熱寿命を向上させることができる。
【0026】
そして、液晶パネル1の第1基板10と保護基板3との間に狭持された光学補償層5は、液晶パネル1を用いて黒表示を行う際に、液晶層30に生じる光学的な位相差を補償するためのものであり、この位相差を補償して良好な黒レベルを表示できるだけの位相差を有している。また、この光学補償層5は、液晶パネル1における第1基板10と保護基板3との間に、はみ出すことなく狭持された状態で設けられていることとする。
【0027】
このような光学補償層5は、所定の複屈折率Δnを備えている。そして、用いられる材料の複屈折率Δnと、光学補償層5に要求される位相差とによって決められた所定の膜厚tを有している。
【0028】
ここで、光学補償層5の膜厚tについて、光学補償層5の膜厚を変化させて黒表示の性能指標となるコントラストの改善率のシミュレーションを行った結果を説明する。シミュレーション条件は、液晶パネル1において、液晶層30の複屈折率Δn(lc)=0.16,セルギャップg=2.4〜2.8μmとした。また、光学補償層5の複屈折率Δn=0.16とした。
【0029】
以上のようなシミュレーション結果を、図3のグラフに示す。このグラフに示すように、上述した構成の液晶パネル1を用いた黒表示において液晶層30に生じる光学的な位相差を補償してコントラストの向上を図るには(コントラスト改善率1以上とするには)、複屈折率Δn=0.16の光学補償層5であれば、その膜厚tは0.25μm〜0.95μmの範囲内が好ましい。また、最もコントラスト改善率の高い、膜厚t=0.6μnm付近では、光学補償層を搭載しない場合と比較して約1.7倍のコントラストが得られることがわかる。尚、上記条件は、それぞれの液晶パネル設計によって異なる。
【0030】
尚、光学補償層5としては、通常その複屈折率がΔn=0.1〜0.25の範囲内のものが用いられる。この場合、光学補償層5に求められる位相差は、20nm以上でかつ80nm以下の範囲内にあることが好ましいことがシミュレーションより求められた。また、光学補償層5の膜厚tが0.5〜0.7μmであれば、位相差30〜40nmであれば好ましい。
【0031】
そしてこのような構成の光学補償層5は、例えば所定方向に配向させた感光性の液晶材料(UV硬化性液晶ポリマー)を用いて構成される。例えば、液晶材料は、主にネマティック液晶やディスコティック液晶を用いられることができる。これら液晶材料は正の複屈折の材料でも良いし、負の複屈折を有しているものを用いても良い。図4に示すように、上記液晶分子mの配向の種類としては、プラナー配向、スプレイ配向、ハイブリッド配向等が例示される。
【0032】
そして、先の図1および図2を参照し、以上のような構成の液晶パネル部分1aは、液晶表示装置100の照明光学系からの光hが、第2基板20側から照射されるように、液晶表示装置100内に配置される。またこの液晶パネル部分1aは、例えば、液晶パネル1におけるTFT11が形成された層が、液晶表示装置の投射レンズ112の焦点(焦点面)に配置されるように、フィールドレンズ109と投射レンズ112(ダイクロックミラー111)との間に配置される構成となっている。
【0033】
尚、このような配置状態において、光学補償層5は液晶層30とほぼ平行な平面に設置されることになる。光学補償層5とTFT11が形成された層とが近すぎると、光学補償層5形成時に生じるムラ、シミ、剥がれ等のユニフォミティー不良や、成膜工程で付着した異物が画面に映りこんでしまうので品質及び歩留まりの低下に繋がる。これを防止するためには、投射レンズ112のデフォーカス位置に、上述した液晶パネルの光学補償層5が配置されていることが重要である。
【0034】
ここで、投射レンズ112のデフォーカス位置とは、図5に示すように、投射レンズ112の焦点(焦点面)Fを含むその前後の焦点深度dの範囲外の位置であり、鮮明な像画が形成される範囲を超えた位置であることとする。そして、このデフォーカス位置に、光学補償層5が配置されるように、第1基板10の板厚が調整されているのである。
【0035】
また、ある面に焦点Fを合わせた時にその前後の面がデフォーカスされる度合いは、投射レンズ112の焦点深度dに依存する。焦点深度dは、光hの波長λ、投射レンズ112の開口数NAとした場合、次の式(1)で表される。
【数1】

【0036】
またさらに、液晶表示装置の投射レンズ112の焦点距離F#(1.5〜2.5)は、投射レンズ112の屈折率Nとした場合、次の式(2)で表される。
【数2】

【0037】
以上の式(1)および式(2)から、投射レンズ112の焦点距離F#が小さいほど光を多く取り込めるが、焦点深度dは短くなることがわかる。このため、一般的に焦点深度dが小さいほどデフォーカスされやすい。
【0038】
投射レンズの焦点距離F#とデフォーカス位置となる最短距離(以下デフォーカス距離と称する)との関係を求めるために、顕微鏡で開口数NA(焦点距離F#)の異なる対物レンズをつけてクロスニコル配置の偏光板に挟んだ光学補償層の異物を観察する実験を行った。この実験によって、投射型の液晶表示装置内において投射レンズが液晶表示素子にフォーカスする状態を再現できる。その結果を、図6に示す。理論どおりに開口数NAが大きいレンズほどデフォーカス距離が短くなっており、NAとデフォーカス距離は比例していることがわかる。
【0039】
ここで、上記構成の液晶表示装置100で用いられる投射レンズ112の焦点距離F#は1.5〜2.4である。このため、図6のグラフより、投射レンズ112の焦点距離F#=1.5ではデフォーカス距離0.5mm以上の位置に光学補償層5を配置し、またさらに投射レンズ112の焦点F#=2.4ではデフォーカス距離0.8mm以上の位置に光学補償層5を配置することが好ましい。
【0040】
以上を考慮し、投射レンズ112の焦点(焦点面)Fに位置するTFT11の形成層と、光学補償層5との間の光学距離Lは、0.5mm以上(ただし空気長換算値=実厚/屈折率)であることとする。また、また液晶パネル部分1aが厚板化することによる光損失と装置の大型化の防止、さらには装置コストを抑えることを考慮して、光学距離Lの上限は、5.0mm以下、好ましくは1.0mm以下に設定されることとする。尚、数値で示した光学距離Lは、空気長換算値=実厚/屈折率の値であることとする。
【0041】
また、以上のような設計では、光学補償層5を介して配置される保護基板3の表面は、投射レンズ112におけるデフォーカス位置に配置されることになる。このため、保護基板3の表面に付着する異物は、投射面に結像されることはない。一方、第2基板20側においては、保護基板4の露出表面が投射レンズ112におけるデフォーカス位置となるように、保護基板4の板厚を設定する。これにより、保護基板4の表面に付着する異物が、投射面に結像されることのないような設計とする。尚、第1基板10と保護基板3との間に異物が挟み込まれる懸念がない場合には、第1基板10側においても、保護基板3の表面が、投射レンズ112におけるデフォーカス位置となるように、保護基板3の板厚を設定すれば良い。
【0042】
<液晶パネル部分の作製方法>
次に、以上のように構成された液晶パネル部分1aの作製方法を、図7に基づいて説明する。
【0043】
先ず、図7(1)に示すように、通常と同様にして、所定に設計された液晶パネル1を作製しておく。例えば、液晶層30の複屈折率Δn(lc)=約0.16、セルギャップg=約2.8μmとする。
【0044】
また、保護基板3を用意し、この保護基板3上に、上述した設計の光学補償層5を形成する。
【0045】
この場合、例えば先ず、保護基板3上にポリイミドなどの配向膜材料を塗布する。次に、塗布したポリイミド膜に対してラビング法による配向処理を行い、加熱硬化させて配向膜を形成する。尚、配向膜の形成は、光を照射することで配向性能が得られる材料を用いて行っても良く、この場合、非接触プロセスになり歩留まりが向上する。また、保護基板3自体に配向処理を行ったものであっても良い。
【0046】
次に、上述したように配向処理された面上に、スピンコート法、印刷法、スリットダイコート法等均一塗布が可能な方式で、感光性の液晶材料(UV硬化性液晶ポリマー)を、所定膜厚で塗布する。そして、塗布された液晶材料膜中の液晶分子を配向させる。その後、この液晶材料膜に対してUV光を全面照射して液晶材料膜を硬化させ、これにより所定膜厚の光学補償層5を形成する。尚、上述したように、光学補償層5は、この光学補償層5を構成する液晶材料の複屈折率Δnと、光学補償層5に要求される位相差とによって決められた所定の膜厚で形成されることとする。
【0047】
以上の後、図7(2)に示すように、液晶パネル1における第1基板10(TFT基板)側に、光学補償層5を介して保護基板3を貼り合わせ、また第2基板20側に、保護基板4を貼り合わせ、これにより液晶パネル部分1aを完成させる。
【0048】
以上、実施形態で説明した液晶パネル部分1aを備えた液晶表示装置においては、光学補償層5を、液晶パネル1と保護基板3との間に狭持させたことにより、光学補償層5が酸素遮断および水分遮断された状態で配置されることになる。このため、光学補償層5の劣化が防止され、例えば強い光が照射される環境下であっても光学補償層5の光学特性が維持される。
【0049】
これにより、この液晶パネル部分1aを備えた表示特性の長期信頼性の向上を図ることが可能になる。また特に、強い光が照射される環境下であっても光学補償層の5光学特性が維持されるため、液晶パネル1に強い光が照射される投射型の液晶表示装置であっても、表示特性の長期信頼性の向上を図ることができる。
【0050】
さらに、光学補償層5が液晶パネル1と一体化された構成であるため、この液晶パネル部分1aを備えた液晶表示装置の光学系を小型化することが可能である。
【0051】
また、上述した投射型の液晶表示装置においては、光学補償層5の配置位置を投射レンズのデフォーカス位置としたことにより、光学補償層5を設けたことに起因して画質が劣化することもない。
【0052】
尚、液晶パネル1に対する光学補償層5が形成された保護基板3および保護基板4の貼合せには、接着剤を用いても良い。この場合、図8に示すように、液晶パネル1における第1基板10(TFT基板)側に、接着剤7を介して、光学補償層5が形成された保護基板3を貼り合わせ、また第2基板20側に、接着剤7を介して保護基板4を貼り合わせ、これにより液晶パネル部分1a’を完成させる。
【0053】
≪第2実施形態≫
上述した第1実施形態において説明した液晶表示装置においては、光学補償層5を液晶パネル1の第1基板10側に設けた例を説明した。しかしながら、液晶パネル1に対する光学補償層5の配置状態は、このような例に限定されることはない。
【0054】
例えば、図9に示すように、光学補償層5は、光hの入射側となる第2基板(対向基板)20と保護基板4との間に狭持されていても良い。ただしこのような場合であっても、液晶パネル1に対して配置された光学補償層5が、投射レンズのデフォーカス位置となるように、液晶表示装置内に設けられることが好ましいことは、上述した第1実施形態と同様である。また、液晶パネル1に対する保護膜3および光学補償層5を形成した保護基板4の貼合せに、接着剤を用いて良いことも同様である。
【0055】
≪第3実施形態≫
上述した第1実施形態および第2実施形態において説明した液晶表示装置においては、液晶パネルに対して光学補償層5を1枚のみ設けた例を説明した。しかしながら、本発明の液晶表示装置においては、液晶パネルに対して複数の光学補償層5を設けてもよい。
【0056】
例えば、図10に示すように、光学補償層5は、第1基板(TFT基板)10と保護基板3との間、および第2基板(対向基板)20と保護基板4との間の両方に狭持されても良い。ただしこのような場合であっても、液晶パネル1に対して配置された全て(ここでは2層)の光学補償層5,5が、投射レンズのデフォーカス位置となるように、液晶表示装置内に設けられることが好ましいことは、上述した第1実施形態および第2実施形態と同様である。また、液晶パネル1に対する光学補償層5を形成した保護基板3,4の貼合せには、接着剤を用いて良いことも同様である。
【0057】
この場合、各光学補償層5,5は、それぞれが上述した実施形態で説明した特性(膜厚および位相差など)を有していることとする。そして、各光学補償層5,5は、その遅相軸が例えば87°〜93°の角度で略直交するように配置されることとする。
【0058】
ここで、図1を用いて説明した液晶表示装置100においては、液晶パネル部分1aのパネル面に対して入射角度20°以下で光源101からの光hが入射される。ただし、入射角度20°とは、液晶パネルのパネル面の法線に対する角度(すなわち極角)である。このため、図10に示した液晶パネル部分に設けられる2枚の光学補償層5,5は、液晶パネル1を挟んで積層配置された状態において、これらの光学補償層5,5に対して入射角度20°以下で全方位から入射する光hに対する位相差の合計が30nm以下となるように設定されていることとする。尚、このような光学補償層5の膜厚は、光学補償層5を構成する材料選択によってなされる。
【0059】
図11(1)〜(3)には、選択された材料からなる2枚の光学補償層を積層させた積層体に対して各方位から各入射角度(極角)で光を入射させた場合の、当該積層体の位相差を示す。これらのグラフは、図12に示すように、それぞれが膜厚約0.5μm、位相差約0.48nmの2枚の光学補償層5,5を、互いの遅相軸を直交させた状態で積層させた積層体に対して、左右上下の各方向からそれぞれの極角で光を照射させた場合の位相差である。
【0060】
これら図11(1)〜(3)のグラフに示すように、各光学補償層の積層体は、入射角度(極角)20°以下で全方位(左右上下の方向)から入射する光hに対する位相差が30nm以下に設定されていることとする。また特に、入射角度(極角)0°方向からの入射する光hに対する位相差は、約10nm以下に設定されていることとする。ほぼ同様の膜厚でも、このように値がばらつくのは、他因子の影響も発生するためである。
【0061】
複数の光学補償層5,5を積層させた積層体がこのような特性となるように、各光学補償層5,5を設計して表示パネル1に設けたことにより、これらの光学補償層5,5によって、液晶パネル1を構成する液晶層30の位相差を打ち消す効果が高くなる。
【0062】
そして特に、入射角度20°以下で全方位から入射する光hに対する位相差が30nm以下となるように、積層させた光学補償層5,5の特性が設定されていることにより、これらの光学補償層5,5を設けた表示パネル部分を用いた液晶表示装置によって投影される黒輝度が、光学補償層を設けていない構成と比較して十分に低くなる。したがって、このような光学補償層5,5を設けた液晶表装置のコントラストの向上を図ることが可能になる。具体的には、光学補償板のない液晶表示装置のコントラストを1とした場合、製造バラツキを考慮しても1.3倍以上に向上させることができる。
【0063】
一方、入射角度0°方向からの入射する光hに対する位相差が約10nm以下となるように、積層させた光学補償層5,5の特性が設定されていることにより、これらの光学補償層5,5を設けた表示パネル部分を用いた液晶表示装置によって投影される白輝度が、光学補償層を設けていない構成とほとんど同じ値を示し、明るい表示を行うことが可能である。
【0064】
以上のような第3実施形態の変形例−1として、図13に示すように、第1基板(TFT基板)10側に2層の光学補償層5を設けた構成が例示される。この場合、1層目の光学補償層5を第1基板(TFT基板)10と保護基板3との間に狭持させ、2層目の光学補償層5をさらに保護基板3−3間に配置しても良い。
【0065】
このような構成であっても、各光学補償層5は、それぞれが上述した実施形態で説明した特性を有し、その遅相軸が例えば87°〜93°の角度で略直交するように配置されることとする。また、保護基板3を挟んで積層配置された状態において、これらの光学補償層5,5に対して入射角度20°以下で全方位から入射する光hに対する位相差の合計が30nm以下に設定されていることとする。さらに、入射角度0°方向からの入射する光hに対する位相差が約10nm以下となるように、積層させた光学補償層5,5の特性が設定されていることとする。これにより、上述した第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
また、図14に示すように、2層の光学補償層5を、第1基板(TFT基板)10側に設ける変形例−2として、第1基板(TFT基板)10と保護基板3との間に、2層の光学補償層5,5を狭持させても良い。各光学補償層5が、それぞれが上述した実施形態で説明した特性を有し、その遅相軸が直交するように配置されること、さらに2層の光学補償層5,5を積層させた状態において位相差の設定は、上述した第3実施形態と同様であり、同様の効果を得ることができる。この場合、保護基板3上に、2層の光学補償層5,5を下層側から順次形成した後、これらの光学補償層5,5を介して第1基板10と液晶パネル1とを貼り合わせる。
【0067】
また、第3実施形態の変形例−3および変形例−4として、図15,図16に示すように、2層の光学補償層5を、第2基板(対向基板)20側に設けた構成が例示される。このような場合であっても、2層の光学補償層層5,5の構成は、上述した第3実施形態と同様であり、同様の効果を得ることができる。
【0068】
尚、第3実施形態の変形例−5として、図17に示すように、3層以上(図面では4層)の光学補償層を液晶パネルに設けた構成が例示される。この場合、4層の光学補償層5のうちの2層の遅相軸に対して、他の2層の遅相軸が例えば87°〜93°の角度で略直交するように配置されることとする。また、例えば液晶パネル1(さらには保護基板)を介して4層の光学補償層5を積層させた状態においての位相差の設定は、上述した第3実施形態と同様であり、同様の効果を得ることができる。
【0069】
また、上述した第3実施形態の変形例−1〜−5においても、液晶パネル1に対する保護基板3,4や光学補償層5を形成した保護基板3,4の貼合せに、接着剤を用いて良い。例えば、図18に示すように、液晶パネル1における第1基板10(TFT基板)側に、保護基板3と第1基板10との間に接着剤7を狭持させた状態で、光学補償層5が形成された1枚目の保護基板3を貼合せる。そして、光学補償層5が形成された1枚目の保護基板3’を、光学補償層5−5間に接着剤を狭持させた状態で、第1基板10側に貼り合わせる。一方、第2基板20側には、接着剤7を介して保護基板4を貼り合わせた構成とする。
【0070】
≪第4実施形態≫
図19には、液晶パネル1の第2基板20側にマイクロレンズアレイ基板4aが貼り合わせられる場合の構成を示す。このマイクロレンズアレイ基板4aを保護基板として用い、マイクロレンズ基板4aと第2基板20との間に光学補償層5を設けても良い。マイクロレンズアレイ基板4aは、画素電極13のそれぞれに対応させてマイクロレンズを2次元に配列させた基板である。このようなマイクロレンズアレイ基板4aを搭載すると透過率を向上させることが出来るが、液晶層30への入射光発散角が大きくなるのでコントラストは低下してしまう。しかし、光学補償層5とマイクロレンズアレイ基板4aを組み合わせると視野角が改善されてコントラストは向上するので、高透過率と高コントラストを両立することができる。
【0071】
この様な構成の場合、先ず、光学補償層5を狭持させる状態で、第2基板20とマイクロレンズアレイ基板4aとを貼り合わせる。その後、光学補償層5とマイクロレンズアレイ基板4aとが貼り合わされた第2基板20と、第1基板10との間に、液晶層30を封止して液晶パネル1を作製する。
【0072】
尚、ここでの図示は省略したが、第1基板10側にもマイクロレンズ基板を貼り合わせてダブルマイクロレンズ構成とする場合には、この第1基板10とマイクロレンズ基板との間に光学補償層を設けても良い。
【0073】
また、第1基板10や第2基板20そのものが、マイクロレンズアレイを備えた基板である場合、これらのマイクロレンズアレイを備えた第1基板10や第2基板20の外側に、光学補償層を介して保護基板を設けても良い。
【0074】
尚、本第4実施形態は、第3実施形態と組み合わせた構成としても良く、複数層の光学補償層5を設けた構成としても良い。この場合、複数層の光学補償層の構成は第3実施形態と同様であり、このような構成とすることにより、第3実施形態の効果も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明が適用される液晶表示装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】第1実施形態の液晶表示装置に設けた液晶パネル部分の要部断面模式図である。
【図3】光学補償層の膜厚と液晶表示装置のコントラストの改善率との関係を示すグラフである。
【図4】光学補償層を構成する液晶材料の配向を示す図である。
【図5】投射レンズの焦点および焦点深度を示す図である。
【図6】投射レンズの焦点とデフォーカス距離との関係を示す図である。
【図7】液晶パネル部分の作製手順を示す図である。
【図8】第1実施形態の液晶パネル部分の作製に接着剤を用いた場合の断面模式図である。
【図9】第2実施形態の液晶パネル部分の断面模式図である。
【図10】第3実施形態の液晶パネル部分の断面模式図である。
【図11】液晶パネル部分に配置される複数層の光学補償層に対する光の入射角度と位相差との関係を示すグラフである。
【図12】図11のグラフにおける光の入射方位を説明する平面図である。
【図13】第3実施形態の液晶パネル部分の変形例−1を示す断面図である。
【図14】第3実施形態の液晶パネル部分の変形例−2を示す断面図である。
【図15】第3実施形態の液晶パネル部分の変形例−3を示す断面図である。
【図16】第3実施形態の液晶パネル部分の変形例−4を示す断面図である。
【図17】第3実施形態の液晶パネル部分の変形例−5を示す断面図である。
【図18】第3実施形態の液晶パネル部分の作製に接着剤を用いた一例を示す断面模式図である。
【図19】第4実施形態の液晶パネル部分の断面模式図である。
【符号の説明】
【0076】
1…液晶パネル、3,4…保護基板、4a…マイクロレンズアレイ基板、5…光学補償層、10…第1基板、11…TFT(薄膜トランジスタ)、13…画素電極、20…第2基板、30…液晶層、41…マイクロレンズ、100…液晶表示装置、110…偏光板、112…投射レンズ、L…光学距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の基板間に液晶層を狭持してなる液晶パネルと、
前記液晶パネルの少なくとも一方に対向配置された保護基板と、
前記液晶パネルと前記保護基板との間に狭持された光学補償層とを備えた
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
請求項1記載の液晶表示装置において、
前記保護基板が設けられた前記液晶パネルの両側に配置された偏光板と、
前記偏光板のうちの一方を介して前記液晶パネルに照明光を照射する照明光学系と、
前記液晶パネルを通過した光を投射する投射レンズとをさらに備えている
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項3】
請求項2記載の液晶表示装置において、
前記光学補償層が、前記投射レンズのデフォーカス位置に配置されている
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項4】
請求項3記載の液晶表示装置において、
前記2枚の基板の一方には、画素電極とこれに接続された薄膜トランジスタとが設けられ、
前記光学補償層は、前記薄膜トランジスタが形成された層との間の光学距離が0.5mm〜5.0mmの位置に配置されている
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項5】
請求項1記載の液晶表示装置において、
前記光学補償層は、膜厚が0.25μm〜0.95μmの範囲である
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項6】
請求項1記載の液晶表示装置において、
前記光学補償層は、遅相軸を異なる方向に向けて複数層設けられている
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項7】
請求項1記載の液晶表示装置において、
前記光学補償層は、1層の位相差が20nm〜80nmの範囲である
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項8】
請求項1記載の液晶表示装置において、
前記液晶パネルを構成する少なくとも一方の基板が、前記画素電極に対向してマイクロレンズを備えている
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項9】
2枚の基板間に液晶層を狭持してなる液晶パネルと、
前記液晶パネルの少なくとも一方に対向配置された保護基板と、
前記液晶パネルと前記保護基板との間に狭持された複数の光学補償層とを備え、
前記複数の光学補償層は、遅相軸を異なる方向に向けて設けられていると共に、当該複数の光学補償層に入射角度20°以下で全方位から入射する光に対する位相差が30nm以下となるように設定されている、または、法線方向で位相差が10nm以下となる
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項10】
請求項9記載の液晶表示装置において、
前記複数の光学補償層は、互いの遅相軸が略直行するように設けられている
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項11】
請求項9記載の液晶表示装置において、
前記保護基板が設けられた前記液晶パネルの両側に配置された偏光板と、
前記偏光板のうちの一方を介して前記液晶パネルに照明光を照射する照明光学系と、
前記液晶パネルを通過した光を投射する投射レンズとをさらに備えている
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項12】
請求項11記載の液晶表示装置において、
前記光学補償層が、前記投射レンズのデフォーカス位置に配置されている
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項13】
請求項12記載の液晶表示装置において、
前記2枚の基板の一方には、画素電極とこれに接続された薄膜トランジスタとが設けられ、
前記光学補償層は、前記薄膜トランジスタが形成された層との間の光学距離が0.5mm〜5.0mmの位置に配置されている
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項14】
請求項9記載の液晶表示装置において、
前記光学補償層は、1層の膜厚が0.25μm〜0.95μmの範囲である
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項15】
請求項9記載の液晶表示装置において、
前記光学補償層は、1層の位相差が20nm〜80nmの範囲である
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項16】
請求項9記載の液晶表示装置において、
前記液晶パネルを構成する少なくとも一方の基板が、前記画素電極に対向してマイクロレンズを備えている
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項17】
請求項9記載の液晶表示装置において、
前記液晶パネルを構成する少なくとも一方の基板の外側に、前記画素電極に対向してマイクロレンズを備えたマイクロレンズアレイ基板が設けられ、
前記マイクロレンズアレイ基板を前記保護基板として、前記液晶パネルと当該マイクロレンズアレイ基板との間に前記光学補償層が設けられている
ことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−184872(P2006−184872A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315654(P2005−315654)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】