説明

液滴ガイド構造

【課題】物体表面における液滴の移動方向を制御し得る液滴ガイド構造、特に自動車用撥水ガラスや自動車用塗膜に用いると好適な液滴ガイド構造を提供すること。
【解決手段】表面に帯状表面部位Aと該帯状表面部位Aより水換算の接触角が小さい帯状表面部位Bを有し、かかる帯状表面部位Aと帯状表面部位Bとが並設されている液滴ガイド構造。帯状表面部位Aと帯状表面部位Bとが次式(1):θ−θ=10°〜140°(式中のθ及びθは、それぞれ帯状表面部位A及びBの20℃における水換算の接触角を示す。)の関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴ガイド構造に係り、更に詳細には、物体表面における液滴の移動方向を制御し得る液滴ガイド構造、特に自動車用撥水ガラスや自動車用塗膜に好適に用いることができる液滴ガイド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、構造物や自動車、ガラス、衣服、繊維、靴、雨具、調理器具などの表面に撥水膜や撥水コーティング、親水膜や親水コーティングを施し、液滴の付着を制御することが行われている。
【0003】
例えば、フッ素樹脂系の撥水材は衣服にも適用されており、この際、液滴は撥水材の効果により、その濡れが抑えられる。つまり、接触角が大きくなる。
しかしながら、フッ素樹脂の有する極性により、液滴は外力なしでは衣服から剥離し難く、接触角が大きくなれば液滴が付着しなくなるとは限らないことが知られている。
【0004】
また、電子材料の技術分野では、撥水コーティングなどをドット状やマトリクス状、回路形状に形成することが、半導体製造プロセスにおける感光マスクの作製や電子デバイスの作製において行われている。
【0005】
更に、このような撥水膜の作製方法としては、物体表面へのイオン注入によるパターン形成方法(特許文献1参照。)や、親水性を有するシート表面上に光照射によって除去される撥水膜を化学気相法により蒸着させて、それらを光照射によりパターニングする方法(特許文献2及び3参照。)、プラズマ処理などの気体放電により形成する方法(特許文献4参照。)が提案されている。
【0006】
一方で、本出願人は、自動車用ガラスにおける雨滴の移動速度を向上させるための表面処理剤や水滴滑落性基材等を提案している(特許文献5及び6参照。)。
【特許文献1】特開平7−244370号公報
【特許文献2】特開2000−87016号公報
【特許文献3】特開2000−282240号公報
【特許文献4】特開2003−190874号公報
【特許文献5】特開2000−144121号公報
【特許文献6】特開2001−348430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜6に記載された撥水膜などは、平面上における“液滴の濡れ”のみに着目しているものであり、“微視的な液滴の動き”を制御しているに過ぎず、実用上の“巨視的な液滴の移動”については考慮されていないため、実用上の問題があった。
【0008】
即ち、本発明者が“液滴の濡れ”を重視した半導体技術におけるパターニングを自動車用撥水ガラスに適用したところ、要求される液滴の移動速度・距離が格段に厳しいため、雨滴の移動方向を制御できるものではないことが判明した。
【0009】
また、作製方法についても、加工に要する時間が長いことや、大面積への対応が難しいこと、真空設備やクリーンルームなどの設備に投資を要するなどコストが高くなること等の問題点がある。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、物体表面における液滴の移動方向を制御し得る液滴ガイド構造、特に自動車用撥水ガラスや自動車用塗膜に用いると好適な液滴ガイド構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、表面に帯状表面部位Aと該帯状表面部位Aより水換算の接触角が小さい帯状表面部位Bとを並設し、それらの接触角差を所定値にすることなどにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明の液滴ガイド構造は、表面に帯状表面部位Aと該帯状表面部位Aより水換算の接触角が小さい帯状表面部位Bを有し、かかる帯状表面部位Aと帯状表面部位Bとが並設されている。
そして、かかる帯状表面部位Aと帯状表面部位Bとが次式(1)
θ−θ=10°〜140°…(1)
(式中のθ及びθは、それぞれ帯状表面部位A及びBの20℃における水換算の接触角を示す。)の関係を満足するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面に帯状表面部位Aと該帯状表面部位Aより水換算の接触角が小さい帯状表面部位Bとを並設し、それらの接触角差を所定値にすることなどとしたため、物体表面における液滴の移動方向を制御し得る液滴ガイド構造、特に自動車用撥水ガラスや自動車用塗膜に用いると好適な液滴ガイド構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の液滴ガイド構造について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の液滴ガイド構造は、表面に帯状表面部位Aと該帯状表面部位Aより水換算の接触角が小さい帯状表面部位Bを有し、該帯状表面部位Aと該帯状表面部位Bとが並設されていることを要する。
【0015】
このように、帯状表面部位Aと帯状表面部位Bとが並設された構成とすること、更に詳細には、帯状表面部位Aと帯状表面部位Bとがその帯幅方向で接し、その帯長手方向が揃うように配設された構成とすることにより、液滴の移動方向を制御することができる。
また、並設する際には、帯状表面部位Aと帯状表面部位Bとがその帯幅方向に交互に配設されていることが望ましい。
特に、その帯長手方向を所望する液滴の移動方向に向けることにより、所望の方向に液滴の移動方向を制御することができる。
また、このような液滴ガイド構造を車体表面に適用した場合、雨滴の流れる方向が制御できるため、雨シミなどを防止することが可能となる。
【0016】
また、本発明の液滴ガイド構造は、その帯状表面部位Aと帯状表面部位Bとが次式(1)
θ−θ=10°〜140°…(1)
(式中のθ及びθは、それぞれ帯状表面部位A及びBの20℃における水換算の接触角を示す。)の関係を満足することを要する。
【0017】
例えば、自動車のフロントガラスに本発明の液滴ガイド構造を適用した場合に、接触角差(θ−θ)が10°未満であると、市街地の一般走行時の移動により生じる風力に抗して、付着した液滴が接触角の小さい側に移動することができなくなる。
また、接触角差が140°を超えると、液滴の移動を可能とする表面張力に起因して発生する駆動力の向上は頭打ちとなり、実用上の費用対効果は小さい。
【0018】
本発明の液滴ガイド構造においては、接触角差が30°〜120°であることが好ましい。また、帯状表面部位A内や帯状表面部位B内においても接触角に分布を設けてもよく、例えば液滴の移動方向に移動するに従って接触角を小さくしてもよい。
【0019】
ここで、本発明の液滴ガイド構造における液滴の移動メカニズムについて説明する。
本発明の液滴ガイド構造においては、表面に付着した液滴は、接触角差による表面張力を駆動力として、相対的に水換算の接触角が小さい帯状表面部位Bないしその近傍に集まる。また、液滴は重力や風力などの外力をも駆動力として、表面張力による制限を受けながら、帯長手方向に移動(パターンに沿って移動)する。
なお、本発明においては、上述のごとく表面の物理化学的エネルギ差を利用し得る構造を有していれば、表面が平坦であってもよく、薄膜や凹凸構造を必ずしも設ける必要はない。
【0020】
図1に、本発明の液滴ガイド構造の平面パターンの若干の具体例(a)〜(d)を示す。同図に示すように、液滴ガイド構造1は、表面部位に帯状表面部位A(10A)と帯状表面部位B(10B)を有する。
なお、帯状表面部位Aと帯状表面部位Bとで形成される平面パターンは、上述したように、帯長手方向を所望する液滴の移動方向に一致させて定めてもよく、更に重力や風力などをも考慮して帯長手方向を定めてもよく、本発明の効果を奏する限り、任意のパターンを採ることができる。
【0021】
また、本発明の液滴ガイド構造においては、水換算の接触角が小さい部位、即ち帯状表面部位Bにおける液滴の表面張力の極性基作用成分(γbS)が、20℃での測定で10mN/m以下であることが好ましい。10mN/mを超えると、液滴の移動速度が十分でない場合がある。
【0022】
ここで、液滴の表面張力の極性基作用成分(γbS)の代表的な算出方法について説明する。
まず、任意の固体表面に対して、表面張力(γ)は次式(2)
γ=γaS+γbS+γcS…(2)
(式中、γaSは分散力の作用、γbSは極性基の作用、γcSは水素結合の作用を示す。)のように表すことができる。
【0023】
また、任意の液滴の表面張力(γ)は次式(3)
γ=γaL+γbL+γcL…(3)
(式中、γaLは分散力の作用、γbLは極性基の作用、γcLは水素結合の作用を示す。)のように表すことができる。
このとき、任意の固体表面と液滴の界面では、一般に次式(4)
2×(√γaS×√γaL+√γbS×√γbL+√γcS×√γcL)=(γaL+γbL+γcL)×(1+cosθ)…(4)
(式中、θは接触角を示す。)の関係が成り立つ。
【0024】
まず、γaL成分のみを持つn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、テトラメチルヘキサデカン、trans−デカリン等のアルカン類(A型液体)を用いて、接触角θを測定し、任意の表面のγaS成分を算出する。A型液体の場合には、次式(5)
γbL=γcL=0…(5)
の関係が成り立つ。
【0025】
従って、A型液体の場合には、上記の式(4)は次式(6)
cosθ=−1+2×√γaS×√γaL/γaL…(6)
と変形でき、γaSが算出できる。
【0026】
次に、γaL成分及びγbL成分のみを持つヨウ化メチレン、テトラブロモエタン、α−ブロモナフタレン、トリクレシルホスフェート、テトラクロロエタン、ヘキサクロロブタジエン、ポリジメチルシロキサン等(B型液体)を用いて、接触角θを測定し、接触角θ及び上記要領で算出されたγaSからγbSが算出される。
【0027】
このように算出されるγbSが10mN/m以下である材料としては、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリオキシメチレン又はシリコーン系樹脂、及びこれらの任意の混合物などを挙げることができる。
【0028】
なお、同様にして、γaL成分、γbL成分及びγcL成分を持つ水、グリセリン、ホルムアミド、チオジグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等(C型液体)を用いて、接触角θを測定し、接触角θ、上記要領で算出されたγaS及びγbSからγcSを算出できる。
【0029】
更に、本発明の液滴ガイド構造においては、本発明の効果を奏する限り、その帯状表面部位A及びBの帯幅(パターン幅)は特に限定されるものではなく、その表面に付着する液滴の大きさによって適宜選択することができる。
具体的には、自動車に付着する雨滴の大きさは、例えば500μm〜10mm程度であり、帯幅(パターン幅)が500μmを超えると、表面張力に起因する駆動力が得られず、パターン内に雨滴が溜まってしまい所望するように流れないなど微小な液滴がそのまま残存する場合があり、液滴の移動が十分ではなくなる可能性があるため、その帯状表面部位A及び帯状表面部位Bのいずれか一方又は双方の帯幅(パターン幅)が500μm以下であることが好ましく、雨滴の車体着滴後の広い雨滴径分布を考慮すると200μm以下であることが好ましく、さらに着滴後の雨滴の破砕を考慮すると、50μm以下であることが望ましい。
【0030】
かかる帯幅(パターン幅)は一定である必要はなく、本発明の効果を奏する限り、帯状表面部位A及びBの帯幅(パターン幅)をそれぞれ任意に設定してもよく、帯状表面部位A及びBの帯幅(パターン幅)を、部品表面におけるそれらの位置によってもそれぞれ任意に設定することができる。
具体的には、例えば帯状表面部位Aの帯幅(パターン幅)を液滴の移動方向に向かうに従って大きくする一方で、帯状表面部位Bの帯幅(パターン幅)を小さくしてもよい。
なお、帯状表面部位AやBは、その一部がそれぞれ帯状表面部位BやAに置換されていてもよい。
【0031】
また、本発明の液滴ガイド構造は、例えばその帯状表面部位A及び帯状表面部位Bの一方又は双方を平坦な薄膜により形成させてもよく、その帯状表面部位A及び帯状表面部位Bの一方又は双方を、凹凸構造により形成させてもよい。
表面に微細な凹凸構造を設けることによっても、表面張力による駆動力が得られ、液滴の移動方向を制御することができる。
【0032】
図2に、本発明に係る液滴ガイド構造の薄膜により帯状表面部位を形成させた若干の具体例(a)〜(c)を示す。
同図(a)に示すように、液滴ガイド構造の帯状表面部位A,Bは、例えば帯状表面部位Aを平坦な薄膜11Aにより形成してもよい。また、同図(b)に示すように帯状表面部位A及び帯状表面部位Bの双方を平坦な薄膜12A、12Bにより形成してもよい。更に、同図(c)に示すように帯状表面部位A及び帯状表面部位Aの双方を平坦な薄膜13A、13Bにより形成し、更に薄膜13Bの帯幅(パターン幅)を小さくしてもよい。
なお、同図(a)においては、薄膜を形成しなかった基体20の表面11Bが、帯状表面部位Bに相当する。
【0033】
また、図3に、本発明の液滴ガイド構造の凹凸構造により帯状表面部位を形成させた若干の具体例(a)〜(c)を示す。また、同図(d)において凸部の寸法関係を説明する。同図に示すように、多数の凸部Tから成る凹凸構造14Aによっても同様に帯状表面部位Aを形成することができる。また、同図(b)に示すように帯状表面部位A及び帯状表面部位Bの双方を凹凸構造15A、15Bにより形成することができる。更に、同図(c)に示すように帯状表面部位A及び帯状表面部位Bの双方を凹凸構造16A、16Bにより形成し、更に凹凸構造16Aの帯幅(パターン幅)を小さくすることができる。
なお、同図(a)においては、凹凸構造を形成しなかった基体20の表面14Bが帯状表面部位Bに相当する。
【0034】
更に、図4に、本発明の液滴ガイド構造の薄膜及び凹凸構造を適宜組合わせることにより帯状表面部位を形成させた具体例を示す。同図に示すように、帯状表面部位A及び帯状表面部位Bを薄膜17B及び凹凸構造17Aを適宜組合わせて形成させることもできる。
【0035】
かかる凹凸構造のアスペクト比は、0.5〜3とすることが好ましい。
アスペクト比が0.5未満の場合には、凹凸構造による接触角変化の効果が小さくなり、使用できる材料の自由度が小さくなる。
また、アスペクト比が3を超える場合には、凹凸構造による接触角の変化は頭打ちとなり、実用上の費用対効果が小さくなる。
なお、本発明において「アスペクト比」とは、(凹部の深さ若しくは凸部の高さ、又は凹部と凸部が隣接する場合には凹部深さと凸部高さの和)/(凹部又は凸部が表面(基準表面)と接する部位間の長さ)を意味する(図3(d)における、凸部Tの高さ/幅(L/W)に相当する。)。
【0036】
更に、本発明の液滴ガイド構造は、その帯状表面部位A及び帯状表面部位Bの一方又は双方を厚みが400nm以下の平坦な薄膜により設けることが好ましい。
400nmを超える薄膜の場合には、表面での可視光反射・干渉により、透明度が低下したり、着色して見えてしまうことがある。
【0037】
更にまた、本発明の液滴ガイド構造は、その凹凸構造における凹断面形状若しくは凸断面形状又は隣接する凹凸断面形状を規定する周期(凹部又は凸部のピッチ長さ)が400nm以下であることが好ましい。かかる周期が400nmを超える場合にも、表面での可視光反射・干渉により、透明度が低下したり、干渉縞が見えたり、着色して見えてしまうことがある。
【0038】
上述した液滴ガイド構造の表面における凹凸構造は、例えば液滴ガイド構造を自動車用撥水ガラスに代表される部品自体の透明性など見え方が重要なものに適用する場合には、特に重要な要素となる。
また、上述した周期を有する凹凸構造を液滴ガイド構造に設けることによって、液滴の移動方向を制御可能とするだけでなく、副次的な効果として反射防止の機能なども付与することができる。
【0039】
また、本発明の液滴ガイド構造において、帯状表面部位A及び帯状表面部位Bの一方又は双方は、特に限定されるものではなく無機物、有機物又は無機‐有機複合物、及びこれらの混合物を用いることができるが、例えばガラス、金属又は金属酸化物等のセラミックスなどの無機物やプラスチックなどの有機物及びこれらの材料を任意に組合わせて形成することができる。
特に、本発明の液滴ガイド構造を自動車用撥水ガラスに適用する際には、透明なガラスやプラスチックなどを好適に用いることができる。
【0040】
更に、本発明の液滴ガイド構造は、基体自体の表面を加工して帯状表面部位A及び帯状表面部位Bを形成することが可能である。また、基体の表面の全部又は一部に被膜を設けることにより、帯状表面部位A及び帯状表面部位Bを形成することも可能である。更に、基体自体の表面を加工して凹部を設け、凹部に他の材料を充填するいわゆる象嵌により帯状表面部位A及び帯状表面部位Bを形成することも可能である。
【0041】
更にまた、本発明の液滴ガイド構造は、その表面を水平面から5°〜85°傾けて用いることが好ましい。
傾斜角度が5°未満では、液滴の移動速度が十分ではない。また、傾斜角度が85°を超えると、表面へ液滴が付着し難いため液滴の移動までには至らず、剥離することが多い。
【0042】
本発明の液滴ガイド構造は、その製造方法については特に限定されるものではないが、例えば以下に述べる方法で作製することができる。
第1に、基体表面に、又は帯状表面部位A及び帯状表面部位Bの一方若しくは双方に、撥水性表面処理及び親水性表面処理の一方又は双方を適宜施すことによって、本発明の液滴ガイド構造を得ることができる。
ここで、撥水性表面処理としては、特に限定されるものではないが、例えばポリテトラフルオロエチレン、ティーアンドケー社製ナノスBや住友3M社製ノベックEGC−1720などの骨格及び/又は官能基にケイ素を含有する高分子材料などを用いて20℃における水換算の接触角を100°以上とするものを挙げることができる。
また、親水性表面処理としては、特に限定されるものではないが、例えばポリアミドや酸化チタンなどを用いて20℃における水換算の接触角を80°以下とするものを挙げることができる。
このように、撥水性表面処理や親水性表面処理は、表面の接触角を所望する角度に設定することができるという利点がある。
【0043】
第2に、帯状表面部位A及び帯状表面部位Bの一方又は双方を、転写法を用いて形成し、本発明の液滴ガイド構造を得ることができる。
ここで、転写法としては、例えばホットエンボス法やUV硬化法などの微細金型を用いたナノインプリントによるものを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
また、ナノインプリントにより形成する場合には、基体自体の表面を加工して帯状表面部位を形成することが可能である。更に、石英などで作製された透明な型にUV硬化樹脂や熱可塑性樹脂を充填し、UV照射又は加熱時に樹脂の固化と基体との一体化を同時に行うことも可能である。
【0044】
第3に、帯状表面部位A及び帯状表面部位Bの一方又は双方を、マイクロコンタクトプリント法を用いて形成し、本発明の液滴ガイド構造を得ることができる。
ここで、マイクロコンタクトプリント法としては、例えばゴム状物質をスタンプとして薄膜を転写するものを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0045】
第4に、帯状表面部位A及び帯状表面部位Bの一方又は双方を、例えば微細な液滴を噴射塗布するインクジェット法を用いて形成し、本発明の液滴ガイド構造を得ることができる。
【0046】
このような方法により液滴ガイド構造を作製すると、大面積を有する部品を成形することが可能であり、また、電子線などのビームや気体放電などによるリソグラフィに比べて成形時間を著しく短縮することができるため、低コスト化を図ることができる。もちろん、上述した製造方法を適宜組合わせて、本発明の液滴ガイド構造を得ることもできる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
ホットエンボス法により、PTFE(接触角104°)の表面にアスペクト比1.0の図3(a)に示すような周期構造を、パターン幅10μm、パターンピッチ10μmで形成して、本例の液滴ガイド構造を得た。
周期構造を形成した部分の接触角を測定したところ123°であり、形成しなかった部分との接触角差は19°であった。
なお、「パターンピッチ」とは、パターン幅中心線間の距離である(図2(a)におけるPに相当する。)。また、「接触角」は、協和界面化学社製のCA−A型計測器により測定した静的接触角である(以下同様である。)。
【0049】
(実施例2)
ホットエンボス法により、PTFE(接触角104°)の表面にアスペクト比2.0の図3(a)に示すような周期構造を、パターン幅10μm、パターンピッチ10μmで形成して、本例の液滴ガイド構造を得た。
周期構造を形成した部分の接触角を測定したところ173°であり、形成しなかった部分との接触角差は69°であった。
【0050】
(実施例3)
ホットエンボス法により、PMMA(接触角74°)の表面にアスペクト比1.0の図3(a)に示すような周期構造を、パターン幅10μm、パターンピッチ10μmで形成して、本例の液滴ガイド構造を得た。
周期構造を形成した部分の接触角を測定したところ52°であり、形成しなかった部分との接触角差は22°であった。
【0051】
(実施例4)
ホットエンボス法により、PMMA(接触角74°)の表面にアスペクト比1.5の図3(a)に示すような周期構造を、パターン幅10μm、パターンピッチ10μmで形成して、本例の液滴ガイド構造を得た。
周期構造を形成した部分の接触角を測定したところ29°であり、形成しなかった部分との接触角差は45°であった。
【0052】
(実施例5)
ホットエンボス法により、ナイロン66(接触角65°)の表面にアスペクト比1.0の図3(a)に示すような周期構造を、パターン幅10μm、パターンピッチ10μmで形成して、本例の液滴ガイド構造を得た。
周期構造を形成した部分の接触角を測定したところ19°であり、形成しなかった部分との接触角差は46°であった。
【0053】
(実施例6)
ホットエンボス法により、ポリエチレンテレフタレート(接触角71°)の表面にアスペクト比1.0の図3(a)に示すような周期構造を、パターン幅10μm、パターンピッチ10μmで形成して、本例の液滴ガイド構造を得た。
周期構造を形成した部分の接触角を測定したところ43°であり、形成しなかった部分との接触角差は28°であった。
【0054】
(実施例7)
ホットエンボス法により、ポリエチレンテレフタレート(接触角71°)の表面にアスペクト比1.0の図3(a)に示すような周期構造を、パターン幅10μm、パターンピッチ10μmで形成し、次いで、周期構造を形成した部分に撥水コーティング(フロロテクノロジー社製、FS−1010、接触角118°)を施して、本例の液滴ガイド構造を得た。
周期構造を形成した部分の接触角を測定したところ165°であり、形成しなかった部分との接触角差は94°であった。
【0055】
(実施例8)
フルオロアルキルシラン(CF(CFCHCHSi(OCH)1gとイソプロピルアルコール48gと60%硝酸1gをビーカーに入れ室温で十分に撹拌した。これを帯状にパターニングしたポリジメチルシロキサン製スタンプに塗布し、希フッ酸にて20秒程度洗浄処理したシリコンウエハ上に圧着して、パターン幅50μm、パターンピッチ50μmの図2(a)に示すような帯状パターンを転写した後、250℃のオーブン中で30分間焼成して、本例の液滴ガイド構造を得た。
フルオロアルキルシラン部分の接触角を測定したところ112°であり、プリントを行わなかったシリコンウエハ部分の接触角は7°であり、その接触角差は105°であった。
【0056】
(実施例9)
フルオロアルキルシラン(CF(CFCHCHSi(OCH)1gとイソプロピルアルコール48gと60%硝酸1gをビーカーに入れ室温で十分に撹拌した。これをインクジェット装置を用いて、希フッ酸にて20秒程度洗浄処理したシリコンウエハ上に、パターン幅200μm、パターンピッチ200μmの図2(a)に示すような帯状パターンを塗布した後、250℃のオーブン中で30分間焼成して、本例の液滴ガイド構造を得た。
フルオロアルキルシラン部分の接触角を測定したところ112°であり、プリントを行わなかったシリコンウエハ部分の接触角は7°であり、その接触角差は105°であった。
【0057】
(比較例1)
ホットエンボス法により、PTFE(接触角104°)の表面にアスペクト比0.5の図3(a)に示すような周期構造を、パターン幅10μm、パターンピッチ10μmで形成して、本例の液滴ガイド構造を得た。
周期構造を形成した部分の接触角を測定したところ110°であり、形成しなかった部分との接触角差は6°であった。
【0058】
(比較例2)
ホットエンボス法により、PMMA(接触角74°)の表面にアスペクト比0.5の図3(a)に示すような周期構造を、パターン幅10μm、パターンピッチ10μmで形成して、本例の液滴ガイド構造を得た。
周期構造を形成した部分の接触角を測定したところ67°であり、形成しなかった部分との接触角差は7°であった。
【0059】
上記各例の接触角差と接触角が小さい側における液滴の表面張力の極性基作用成分(γbS)を表1に示す。表1中のγbSは、先に詳しく説明した方法により測定した。
【0060】
【表1】

【0061】
[性能評価]
(液滴転落試験)
試料表面(パターニング方向:斜め45°(図1(d)参照。))に10μLの水滴を滴下し、試料を載せた基台部を一定の割合で傾斜させ、水滴が移動し始める試料角度を測定すると共に、液滴の移動方向を観察した。
【0062】
得られた結果を表1に併記する。なお表1中の「液滴の移動方向」において、「○」は45°のパターンに沿って転落したこと、「△」は45°のパターンには沿わないが、垂直に転落しなかったこと、「×」は重力に沿って垂直に転落したことを示す。
【0063】
表1より、本発明の範囲に属する実施例1〜9は、液滴の移動方向を制御することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の液滴ガイド構造の平面パターンの具体例を示す模式的説明図である。
【図2】薄膜により帯状表面部位を形成した本発明の液滴ガイド構造の具体例を示す模式的説明図である。
【図3】凹凸構造により帯状表面部位を形成した本発明の液滴ガイド構造の具体例を示す模式的説明図である。
【図4】薄膜及び凹凸構造により帯状表面部位を形成した本発明の液滴ガイド構造の具体例を示す模式的説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1 液滴ガイド構造
10A 帯状表面部位A
10B 帯状表面部位B
11A,12A,13A 薄膜(帯状表面部位A)
12B,13B,17B 薄膜(帯状方面部位B)
14A,15A,16A,17A 凹凸構造(帯状表面部位A)
15B,16B 凹凸構造(帯状表面部位B)
20 基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に帯状表面部位Aと該帯状表面部位Aより水換算の接触角が小さい帯状表面部位Bを有する液滴ガイド構造であって、
上記帯状表面部位Aと上記帯状表面部位Bとが並設され、且つ次式(1)
θ−θ=10°〜140°…(1)
(式中のθ及びθは、それぞれ帯状表面部位A及びBの20℃における水換算の接触角を示す。)の関係を満足することを特徴とする液滴ガイド構造。
【請求項2】
上記帯状表面部位A及び/又は上記帯状表面部位Bは、その帯幅が500μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の液滴ガイド構造。
【請求項3】
上記帯状表面部位A及び/又は上記帯状表面部位Bが、凹凸構造により形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液滴ガイド構造。
【請求項4】
上記凹凸構造のアスペクト比が0.5〜3であることを特徴とする請求項3に記載の液滴ガイド構造。
【請求項5】
上記凹凸構造における凹断面形状若しくは凸断面形状又は隣接する凹凸断面形状を規定する周期が400nm以下であることを特徴とする請求項3又は4に記載の液滴ガイド構造。
【請求項6】
上記帯状表面部位A及び/又は上記帯状表面部位Bが、薄膜により形成され、該薄膜の厚みが400nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の液滴ガイド構造。
【請求項7】
上記帯状表面部位A及び/又は上記帯状表面部位Bが無機物、有機物及び無機‐有機複合物から成る群より選ばれた少なくとも1種の材料から成ることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の液滴ガイド構造。
【請求項8】
上記帯状表面部位A及び/又は上記帯状表面部位Bがガラス、プラスチック、金属及びセラミックスから成る群より選ばれた少なくとも1種の材料から成ることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の液滴ガイド構造。
【請求項9】
基体の表面の全部又は一部に被膜を設けることにより、上記帯状表面部位Aと上記帯状表面部位Bが形成されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の液滴ガイド構造。
【請求項10】
表面が水平面から5°〜85°傾けて用いられることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つの項に記載の液滴ガイド構造。
【請求項11】
上記帯状表面部位A及び/又は上記帯状表面部位Bが、撥水性表面処理及び/又は親水性表面処理を施されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つの項に記載の液滴ガイド構造。
【請求項12】
上記帯状表面部位A及び/又は上記帯状表面部位Bが、転写法により形成されたことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つの項に記載の液滴ガイド構造。
【請求項13】
上記帯状表面部位A及び/又は上記帯状表面部位Bが、マイクロコンタクトプリント法により形成されたことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つの項に記載の液滴ガイド構造。
【請求項14】
上記帯状表面部位A及び/又は上記帯状表面部位Bが、インクジェット法により形成されたことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1つの項に記載の液滴ガイド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−257249(P2006−257249A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76210(P2005−76210)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】