説明

液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置

【課題】寸法精度および耐薬品性に優れ、長期間にわたって高品位の印字が可能な信頼性の高い液滴吐出ヘッド、および、かかる液滴吐出ヘッドを備えた信頼性の高い液滴吐出装置を提供すること。
【解決手段】インクジェット式記録ヘッド1は、基板20と、ノズル孔11を備えるノズルプレート10と、封止シート30とを有し、基板20とノズルプレート10とが接合膜15を介して接合され、基板20と封止シート30とが接合膜25を介して接合されている。これら接合膜15、25は、それぞれ、ポリエステル変性シリコーン材料を含有する液状材料を乾燥および/または硬化させてなるものである。そして、これらの各接合膜15、25にエネルギーを付与すると、表面が活性化されることに起因して、各接合膜15、25に接着性が発現する。この接着性によって、基板20とノズルプレート10および基板20と封止シート30が接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、インクジェットプリンタのような液滴吐出装置には、液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドが備えられている。このような液滴吐出ヘッドとしては、例えば、インクを液滴として吐出するノズルに連通し、インクを収容するインク室(キャビティ)と、このインク室の壁面を変形させる駆動用の圧電素子とを備えるものが知られている。
このような液滴吐出ヘッドにあっては、駆動用の圧電素子を伸縮させることにより、インク室の一部(振動板)を変位させる。これにより、インク室の容積を変化させて、ノズルからインク液滴が吐出される。
ところで、このような液滴吐出ヘッドは、ノズルが形成されたノズルプレートと、インク室を画成する基板との間を、接着剤で接着することによって組み立てられている。
【0003】
しかしながら、ノズルプレートと基板との間に接着剤を供給する際に、接着剤の供給量を厳密に制御することは極めて困難である。このため、供給する接着剤の量を均一にすることができず、ノズルプレートと基板との距離が不均一になる。これにより、液滴吐出ヘッド内に複数個設けられたインク室のそれぞれの容積が不均一になったり、液滴吐出ヘッド毎でインク室の容積が不均一になってしまう。また、液滴吐出ヘッドと印刷用紙等の印字媒体との間の距離が不均一になる。さらに、接合箇所から接着剤がはみ出してしまうおそれがある。このような問題により、液滴吐出ヘッドの寸法精度が低下し、インクジェットプリンタの印字の品位が低下することとなる。
また、接着剤は、インク室に貯留されたインクに長期間曝される。このように接着剤がインクに曝されると、インク中の有機成分によって、接着剤に変質・劣化が生じる。このため、インク室の液密性が低下したり、接着剤中の成分がインクに溶出したりするおそれがある。
【0004】
一方、液滴吐出ヘッドを構成する各部を、固体接合法によって接合する方法も知られている。
固体接合は、接着剤等の接着層を介在させることなく、部材同士を直接接合する方法であり、例えば、拡散接合法、シリコン直接接合法、陽極接合法等の方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところが、固体接合には、
・接合可能な部材の材質が限られる
・接合プロセスにおいて高温(例えば、700〜800℃程度)での熱処理を伴う
・接合プロセスにおける雰囲気が減圧雰囲気に限られる
・一部の領域を部分的に接合することができない
といった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−62082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、寸法精度および耐薬品性に優れ、長期間にわたって高品位の印字が可能な信頼性の高い液滴吐出ヘッド、および、かかる液滴吐出ヘッドを備えた信頼性の高い液滴吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の液滴吐出ヘッドは、吐出液を貯留する吐出液貯留室が形成された基板と、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の一方の面に設けられ、前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔とを備えるノズルプレートと、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の他方の面に設けられた封止板とを有し、
前記基板と前記ノズルプレートとの間および前記基板と前記封止板との間のうちの少なくとも一方が、接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、分枝部において下記化学式(1)で表わされる単位構造を有し、連結部において下記化学式(2)および下記化学式(3)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有し、末端部において下記化学式(4)および下記化学式(5)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有する分枝状をなすポリオルガノシロキサン骨格を有するシリコーン材料と、トリメチロールプロパンおよびテレフタル酸がエステル化反応することにより得られたポリエステル樹脂とが脱水縮合反応することにより得られたポリエステル変性シリコーン材料を含有する被膜にエネルギーを付与することにより前記被膜に発現した接着性によって、前記基板と前記ノズルプレートとの間および前記基板と前記封止板との間のうちの少なくとも一方を接合していることを特徴とする。
【化1】

[式中、各Rは、それぞれ独立して、メチル基またはフェニル基を表し、Xはシロキサン残基を表す。]
これにより、寸法精度および耐薬品性に優れ、長期間にわたって高品位の印字が可能な信頼性の高い液滴吐出ヘッドが得られる。
【0009】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記接合膜を介して接合される接合領域のうち、あらかじめ、一部領域が接着剤で仮固定されており、
前記接合膜は、前記接合領域の前記一部領域以外の領域を接合していることが好ましい。
これにより、容易に効率よく製造可能な液滴吐出ヘッドが得られる。
【0010】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記接合領域の前記一部領域以外の領域を接合している前記接合膜は、前記仮固定することによって形成された前記吐出液貯留室内に前記液状材料を供給することにより、前記接合領域の外側部分に前記液状材料を浸透させ、前記液状材料の被膜を得た後、該被膜を乾燥および/または硬化させ、その後、該被膜にエネルギーを付与することによって形成されたものであることが好ましい。
【0011】
これにより、前記接合領域の外側部分に前記液状材料が毛細管現象によって自発的に浸透することができるため、前記液状材料の被膜を簡単に形成することができる。その結果、吐出液に接触する部分は、吐出液に対する優れた耐久性を有しつつ、吐出液に接触しない部分は、接着剤で仮固定されているため、容易に効率よく製造可能な液滴吐出ヘッドが得られる。
【0012】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記接合膜の平均厚さは、10〜10000nmであることが好ましい。
これにより、基板、ノズルプレートおよび封止板の各部材を接合した接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合し得る接合膜が得られる。また、これにより、接合膜がある程度弾性に富むものとなることから、部材同士を接合する際に、接合膜が異物を取り込むように作用することによって、接合界面の剥離を防止することができる。
【0013】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記基板、ノズルプレートおよび封止板の少なくとも前記接合膜と接触する部分は、シリコン材料、金属材料またはガラス材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、基板、ノズルプレートおよび封止板の各部材に表面処理を施さなくても、各部材と接合膜との接合強度を高めることができる。
【0014】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記基板、ノズルプレートおよび封止板の前記接合膜と接触する面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されていることが好ましい。
これにより、基板、ノズルプレートおよび封止板の各部材と接合膜との接合強度をより高めることができる。
【0015】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記表面処理は、プラズマ処理または紫外線照射処理であることが好ましい。
これにより、接合膜を形成するために、各部材の表面を特に最適化することができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記エネルギーの付与は、前記接合膜にエネルギー線を照射する方法および前記接合膜にプラズマを接触させる方法のうちの少なくとも一方により行われることが好ましい。
これにより、接合膜に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができる。
【0016】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記エネルギー線は、波長126〜300nmの紫外線であることが好ましい。
これにより、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜中の骨格をなす分子結合が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、接合膜において表面付近の分子結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜に接着性を確実に発現させることができる。
【0017】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記エネルギーの付与は、大気雰囲気中で行われることが好ましい。
これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギーの付与をより簡単に行うことができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、さらに、前記基板と前記ノズルプレートとの間および前記基板と前記封止板との間のうちの少なくとも一方を、前記接合膜を介して接合させた後に、前記接合膜に対して接合強度を高める処理を行う工程を有することが好ましい。
これにより、基板、ノズルプレートおよび封止板の各部材を接合してなる接合体の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
【0018】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記接合強度を高める処理を行う工程は、前記接合膜を加熱する方法および前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われることが好ましい。
これにより、基板、ノズルプレートおよび封止板の各部材を接合してなる接合体の接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0019】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記封止板は、複数の層を積層してなる積層体で構成されており、
前記積層体中の層のうち、隣接する少なくとも1組の層の層間が、前記接合膜と同様の接合膜を介して接合されていることが好ましい。
これにより、積層体の寸法精度が高くなり、ひいては、液滴吐出ヘッドの寸法精度を高めることができる。
【0020】
本発明の液滴吐出ヘッドは、さらに、前記封止板の前記基板と反対側に設けられ、前記封止板を振動させる振動手段を有し、
前記封止板と前記振動手段とが、前記接合膜と同様の接合膜を介して接合されていることが好ましい。
これにより、振動手段による歪みを、封止板の変位、ひいては、吐出液貯留室の容積変化へと確実に変換することができる。
【0021】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記振動手段は、圧電素子で構成されていることが好ましい。
これにより、封止板に発生する撓みの程度を容易に制御することができる。これにより、吐出液の液滴の大きさを容易に制御することができる。
本発明の液滴吐出ヘッドは、さらに、前記封止板の前記基板と反対側に設けられたケースヘッドを有し、
前記封止板と前記ケースヘッドとが、前記接合膜と同様の接合膜を介して接合されていることが好ましい。
これにより、封止板とケースヘッドとの密着性が高くなる。その結果、ケースヘッドによって、封止板を確実に支持し、封止板、基板およびノズルプレートのよじれや反り等を確実に防止することができる。
【0022】
本発明の液滴吐出ヘッドは、前記吐出液として、前記液状材料と同様の液状材料を吐出するのに用いられることが好ましい。
これにより、樹脂材料を変質・劣化させてしまうような溶媒(分散媒)を含む液状材料を吐出する場合であっても、接合部の変質・劣化を伴わないため、長期にわたって優れた耐久性を示す液滴吐出ヘッドが得られる。
【0023】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、当該液滴吐出ヘッドによって吐出される前記液状材料は、トルエンまたはキシレンを含んでいることが好ましい。
トルエンおよびキシレンは、シリコーン材料の溶解性に優れていることから、これらの溶媒(分散媒)を用いることにより、シリコーン材料を均一に溶解した均質な液状材料を得ることができるものの、樹脂材料に対する侵食性が高い。また、トルエンおよびキシレンは、常圧常温での揮発性に優れていることから、乾燥過程において、短時間で簡単に揮発することができる。そして、本発明の液滴吐出ヘッドは、このようなトルエンまたはキシレンを含む液状材料を、安定的に貯留するとともに吐出するのに、好ましく用いることができる。
本発明の液滴吐出装置は、本発明の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い液滴吐出装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第1実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェット式記録ヘッドの断面図である。
【図3】図1に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図5】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図6】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図7】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図8】接合膜の膜構造の一例を示す模式図である
【図9】大気圧プラズマ装置の構成を示す概略図である。
【図10】第1実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドの他の構成例を示す断面図である。
【図11】本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第2実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<インクジェット式記録ヘッド>
≪第1実施形態≫
まず、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第1実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第1実施形態を示す分解斜視図、図2は、図1に示すインクジェット式記録ヘッドの断面図、図3は、図1に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、以下の説明では、図1および図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0027】
図1に示すインクジェット式記録ヘッド1(以下、単に「ヘッド1」という。)は、図3に示すようなインクジェットプリンタ(本発明の液滴吐出装置)9に搭載されている。
図3に示すインクジェットプリンタ9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
【0028】
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
【0029】
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
【0030】
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモータ941と、キャリッジモータ941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔11を備えるヘッド1と、ヘッド1にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド1およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
【0031】
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸943と、キャリッジガイド軸943と平行に延在するタイミングベルト944とを有している。
【0032】
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸943に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト944の一部に固定されている。
キャリッジモータ941の作動により、プーリを介してタイミングベルト944を正逆走行させると、キャリッジガイド軸943に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド1から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0033】
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モータ951と、給紙モータ951の作動により回転する給紙ローラ952とを有している。
給紙ローラ952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ952aと駆動ローラ952bとで構成され、駆動ローラ952bは給紙モータ951に連結されている。これにより、給紙ローラ952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
【0034】
制御部96は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、印刷装置94(キャリッジモータ941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モータ951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
【0035】
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサ等が、それぞれ電気的に接続されている。
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
【0036】
以下、ヘッド1について、図1および図2を参照しつつ詳述する。
図1および図2に示すように、ヘッド1は、ノズルプレート10と、吐出液貯留室形成基板(基板)20と、封止シート30と、封止シート30上に設けられた振動板40と、振動板40上に設けられた圧電素子(振動手段)50およびケースヘッド60とを有する。また、本実施形態では、封止シート30と振動板40との積層体により、封止板を構成している。なお、このヘッド1は、ピエゾジェット式ヘッドを構成する。
吐出液貯留室形成基板20(以下、省略して「基板20」と言う。)には、インクを貯留する複数の吐出液貯留室(圧力室)21と、各吐出液貯留室21に連通し、各吐出液貯留室21にインクを供給する吐出液供給室22とが形成されている。
【0037】
図1および図2に示すように、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22は、それぞれ、平面視において、ほぼ長方形状をなし、各吐出液貯留室21の幅(短辺)は、吐出液供給室22の幅(短辺)より細幅となっている。
また、各吐出液貯留室21は、吐出液供給室22に対して、ほぼ垂直をなすように配置されており、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22は、平面視において全体として、櫛状をなしている。
【0038】
なお、吐出液供給室22は、平面視において、本実施形態のように長方形状のものの他、例えば、台形状、三角形状またはカプセル形状のものであってもよい。
基板20を構成する材料としては、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンのようなシリコン材料、ステンレス鋼、チタン、アルミニウムのような金属材料、石英ガラス、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラスのようなガラス材料、アルミナ、ジルコニア、フェライト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのようなセラミックス材料、グラファイトのような炭素材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(PBO)、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0039】
また、上記のような材料に、酸化処理(酸化膜形成)、めっき処理、不働態化処理、窒化処理等の各処理を施した材料でもよい。
これらの中でも、基板20の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、耐薬品性に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、基板20が変質・劣化するのを確実に防止することができる。また、これらの材料は、加工性に優れるため、寸法精度の高い基板20が得られる。このため、吐出液貯留室21や吐出液供給室22の容積の精度が高くなり、高品位の印字が可能なヘッド1が得られる。
【0040】
また、吐出液供給室22は、後述するケースヘッド60に設けられた吐出液供給路61と連通して複数の吐出液貯留室21にインクを供給する共通のインク室として機能するリザーバ70の一部を構成する。
また、吐出液貯留室21と吐出液供給室22との内面に、あらかじめ、親水処理を施しておいてもよい。これにより、吐出液貯留室21および吐出液供給室22に貯留されたインク中に気泡が含まれるのを防止することができる。
【0041】
また、基板20の下面(封止シート30と反対側の面)には、接合膜15を介して、ノズルプレート10が接合(接着)されている。
本発明の液滴吐出ヘッドは、この接合膜15、および、接合膜15を用いて基板20とノズルプレート10とを接合する方法に特徴を有するものである。
この接合膜15は、後述するポリエステル変性シリコーン材料を含有するものである。
【0042】
そして、この接合膜15にエネルギーを付与すると、この接合膜15では、表面(ノズルプレート10に臨む面)付近の分子結合(例えば、Si−CH結合や、Si−Phe)の一部が切断され、表面が活性化されることに起因して、接合膜15に接着性が発現する。この接着性によって、基板20とノズルプレート10とを接合している。
なお、この接合膜15については、後に詳述する。
【0043】
ノズルプレート10には、各吐出液貯留室21に対応するように、それぞれノズル孔11が形成(穿設)されている。このノズル孔11に、吐出液貯留室21に貯留されたインクを押し出させることにより、インクを液滴として吐出することができる。
また、ノズルプレート10は、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の内壁面の下面を構成している。すなわち、ノズルプレート10と、基板20および封止シート30とにより、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22を画成している。
【0044】
このようなノズルプレート10を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、ノズルプレート10の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、耐薬品性に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、ノズルプレート10が変質・劣化するのを確実に防止することができる。また、これらの材料は、加工性に優れるため、寸法精度の高いノズルプレート10が得られる。このため、信頼性の高いヘッド1が得られる。
【0045】
なお、ノズルプレート10の構成材料は、線膨張係数が300℃以下で2.5〜4.5[×10-6/℃]程度であるものが好ましい。
また、ノズルプレート10の厚さは、特に限定されないが、0.01〜1mm程度であるのが好ましい。
また、ノズルプレート10の下面には、必要に応じて、撥液膜(図示せず)が設けられる。これにより、ノズル孔から吐出されるインク滴が意図しない方向に吐出されるのを防止することができる。
【0046】
このような撥液膜の構成材料としては、例えば、撥液性を示す官能基を有するカップリング剤や、撥液性の樹脂材料等が挙げられる。
カップリング剤としては、例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、有機リン酸系カップリング剤、シリルパーオキサイド系カップリング剤等を用いることができる。
撥液性を示す官能基としては、例えば、フルオロアルキル基、アルキル基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基等が挙げられる。
【0047】
一方、撥液性の樹脂材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、パーフルオロエチレン−プロペン共重合体(FEP)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)のようなフッ素系樹脂等が挙げられる。
【0048】
また、基板20の上面には、接合膜25を介して、封止シート30が接合(接着)されている。
また、封止シート30は、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の内壁面の上面を構成している。すなわち、封止シート30と、基板20およびノズルプレート10とにより、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22を画成している。そして、封止シート30が基板20と確実に接合されていることにより、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の液密性を確保している。
【0049】
封止シート30を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、封止シート30の構成材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、アラミド樹脂のような樹脂材料、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、耐薬品性に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、封止シート30が変質・劣化するのを確実に防止することができる。このため、吐出液貯留室21内および吐出液供給室22内に、長期間にわたってインクを貯留することができる。
【0050】
このような封止シート30と基板20とを接合する接合膜25は、前述の接合膜15と同じ接合機能(接着性)を有するものである。
すなわち、接合膜25は、接合膜15と同様に、ポリエステル変性シリコーン材料を含有するものである。
そして、この接合膜25にエネルギーを付与すると、この接合膜25では、表面(封止シート30に臨む面)付近の分子結合(例えば、Si−CH結合や、Si−Phe)の一部が切断され、表面が活性化されることに起因して、接合膜25に接着性が発現する。この接着性によって、基板20と封止シート30とを接合している。
なお、接合膜25については、接合膜15とともに、後に詳述する。
【0051】
封止シート30の上面には、接合膜35を介して、振動板40が接合(接着)されている。
振動板40を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。そして、振動板40が封止シート30と確実に接合されていることにより、圧電素子50に発生した歪みを、封止シート30の変位、すなわち各吐出液貯留室21の容積変化に確実に変換している。
【0052】
これらの中でも、振動板40の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、高速で弾性変形することが可能である。このため、圧電素子50が振動板40を変位させることによって、吐出液貯留室21の容積を高速に変化させることができる。その結果、インクを高精度に吐出することができる。
このような振動板40と封止シート30とを接合する接合膜35は、封止シート30と振動板40とを接合または接着し得るものであれば、いかなる材料で構成されていてもよく、封止シート30や振動板40の各構成材料によって適宜選択されるが、例えば、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤のような接着剤、半田、ろう材等が挙げられる。
【0053】
また、接合膜35は必ずしも設けられていなくてもよく、省略してもよい。この場合、封止シート30と振動板40との間は、融着(溶接)、または、シリコン直接接合、陽極接合のような固体接合等の直接接合法によって接合(接着)することができる。
ただし、本実施形態では、接合膜35が前述の接合膜15と同じ接合機能(接着性)を有するものとする。
【0054】
すなわち、接合膜35は、接合膜15と同様に、ポリエステル変性シリコーン材料を含有するものである。
そして、この接合膜35にエネルギーを付与すると、この接合膜35では、表面(振動板40に臨む面)付近の分子結合の一部が切断され、表面が活性化されることに起因して、接合膜35に接着性が発現する。この接着性によって、封止シート30と振動板40とを接合している。
【0055】
なお、接合膜35については、接合膜15および接合膜25とともに、後に詳述する。
また、本実施形態では、封止シート30と振動板40とを積層してなる積層体により封止板を構成しているが、この封止板は、1層であってもよく、3層以上の層が積層してなる積層体で構成されていてもよい。
なお、3層以上の層が積層してなる積層体によって封止板が構成されている場合、積層体中の層のうち、隣接する少なくとも1組の層間が接合膜35で接合されたものであれば、積層体の寸法精度が高くなり、ひいては、ヘッド1の寸法精度を高めることができる。
【0056】
振動板40の上面の一部(図2では、振動板40の上面の中央部付近)に、接合膜45aを介して、圧電素子(振動手段)50が接合(接着)されている。
圧電素子50は、圧電材料で構成された圧電体層51と、この圧電体層51に電圧を印加する電極膜52との積層体で構成されている。このような圧電素子50では、電極膜52を介して圧電体層51に電圧を印加することにより、圧電体層51に電圧に応じた歪みが発生する(逆圧電効果)。この歪みが振動板40および封止シート30に撓み(振動)をもたらし、吐出液貯留室21の容積を変化させる。このように、圧電素子50が振動板40と確実に接合されていることにより、圧電素子50に発生した歪みを、振動板40および封止シート30の変位、ひいては、各吐出液貯留室21の容積変化へと確実に変換することができる。
【0057】
また、圧電体層51と電極膜52との積層方向は、特に限定されず、振動板40に対して平行な方向であっても、直交する方向であってもよい。なお、圧電体層51と電極膜52との積層方向が、振動板40に対して直交する方向である場合、このように配置された圧電素子50を特にMLP(Multi Layer Piezo)と言う。圧電素子50がMLPであれば、振動板40の変位量を大きくとることができるので、インクの吐出量の調整幅が大きいという利点がある。
【0058】
圧電素子50のうち、接合膜45aに隣接する(接触する)面は、圧電素子50の配置方法によって異なるが、圧電体層が露出した面、電極膜が露出した面、または圧電体層と電極膜の双方が露出した面のいずれかである。
圧電素子50のうち、圧電体層51を構成する材料としては、例えば、チタン酸バリウム、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶等が挙げられる。
【0059】
一方、電極膜52を構成する材料としては、例えば、Fe、Ni、Co、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、Mo、またはこれらを含む合金等の各種金属材料が挙げられる。
このような圧電素子50と振動板40とを接合する接合膜45aは、振動板40と圧電素子50とを接合または接着し得るものであれば、いかなる材料で構成されていてもよく、振動板40や圧電素子50の各構成材料によって適宜選択されるが、例えば、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤のような接着剤、半田、ろう材等が挙げられる。
【0060】
また、接合膜45aは必ずしも設けられていなくてもよく、省略してもよい。この場合、振動板40と圧電素子50との間は、融着(溶接)、または、シリコン直接接合、陽極接合のような固体接合等の直接接合法によって接合(接着)することができる。
ただし、本実施形態では、接合膜45aが前述の接合膜15と同じ接合機能(接着性)を有するものとする。
【0061】
すなわち、接合膜45aは、接合膜15と同様に、ポリエステル変性シリコーン材料を含有するものである。
そして、この接合膜45aにエネルギーを付与すると、この接合膜45aでは、表面(圧電素子50に臨む面)付近の分子結合の一部が切断され、表面が活性化されることに起因して、接合膜45aに接着性が発現する。この接着性によって、振動板40と圧電素子50とを接合している。
【0062】
なお、接合膜45aについては、接合膜15、接合膜25および接合膜35とともに、後に詳述する。
ここで、前述した振動板40は、圧電素子50に対応する位置を取り囲むように環状に形成された凹部53を有している。すなわち、圧電素子50に対応する位置では、振動板40の一部が、この環状の凹部53を隔てて島状に孤立している。
なお、接合膜45aは、環状の凹部53の内側に設けられている。
【0063】
また、圧電素子50の電極膜52は、図示しない駆動ICと電気的に接続されている。これにより、圧電素子50の動作を駆動ICによって制御することができる。
また、振動板40の上面の一部には、接合膜45bを介して、ケースヘッド60が接合(接着)されている。このように、ケースヘッド60が振動板40と確実に接合されていることにより、ノズルプレート10、基板20、封止シート30および振動板40の積層体で構成された、いわゆるキャビティ部分を補強し、キャビティ部分のよじれや反り等を確実に抑制することができる。
【0064】
ケースヘッド60を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、ケースヘッド60の構成材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ザイロンのような変性ポリフェニレンエーテル樹脂(「ザイロン」は登録商標)またはステンレス鋼であるのが好ましい。これらの材料は、十分な剛性を備えていることから、ヘッド1を支持するケースヘッド60の構成材料として好適である。
【0065】
このようなケースヘッド60と振動板40とを接合する接合膜45bは、振動板40とケースヘッド60とを接合または接着し得るものであれば、いかなる材料で構成されていてもよく、振動板40やケースヘッド60の各構成材料によって適宜選択されるが、例えば、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤のような接着剤、半田、ろう材等が挙げられる。
【0066】
また、接合膜45bは必ずしも設けられていなくてもよく、省略してもよい。この場合、振動板40とケースヘッド60との間は、融着(溶接)、または、シリコン直接接合、陽極接合のような固体接合等の直接接合法によって接合(接着)することができる。
ただし、本実施形態では、接合膜45bが前述の接合膜15と同じ接合機能(接着性)を有するものとする。
すなわち、接合膜45bは、接合膜15と同様に、ポリエステル変性シリコーン材料を含有するものである。
【0067】
そして、この接合膜45bにエネルギーを付与すると、この接合膜45bでは、表面(ケースヘッド60に臨む面)付近の分子結合の一部が切断され、表面が活性化されることに起因して、接合膜45bに接着性が発現する。この接着性によって、振動板40とケースヘッド60とを接合している。
なお、接合膜45bについては、接合膜15、接合膜25、接合膜35および接合膜45aとともに、後に詳述する。
【0068】
また、接合膜25、封止シート30、接合膜35、振動板40および接合膜45bは、吐出液供給室22に対応する位置に貫通孔23を有する。この貫通孔23により、ケースヘッド60に設けられた吐出液供給路61と吐出液供給室22とが連通している。なお、吐出液供給路61と吐出液供給室22とにより、複数の吐出液貯留室21にインクを供給する共通のインク室として機能するリザーバ70の一部を構成する。
【0069】
このようなヘッド1では、図示しない外部吐出液供給手段からインクを取り込み、リザーバ70からノズル孔11に至るまで内部をインクで満たした後、駆動ICからの記録信号により、各吐出液貯留室21に対応するそれぞれの圧電素子50を動作させる。これにより、圧電素子50の逆圧電効果によって振動板40および封止シート30に撓み(振動)が生じる。その結果、例えば、各吐出液貯留室21内の容積が収縮すると、各吐出液貯留室21内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔11からインクが液滴として押し出される(吐出される)。
【0070】
このようにして、ヘッド1において、印刷したい位置の圧電素子50に、駆動ICを介して電圧を印加すること、すなわち、吐出信号を順次入力することにより、任意の文字が図形等を印刷することができる。
なお、ヘッド1は、前述したような構成のものに限らず、例えば、振動手段として圧電素子50をヒータで代替した構成(サーマル方式)のヘッドであってもよい。このようなヘッドは、ヒータでインクを加熱して沸騰させ、それによって吐出液貯留室内の圧力を高めることにより、インクをノズル孔11から液滴として吐出するよう構成されているものである。
【0071】
さらに、振動手段のその他の例としては、静電アクチュエータ方式等が挙げられる。
なお、本実施形態のように、振動手段が圧電素子で構成されていることにより、振動板40および封止シート30に発生する撓みの程度を容易に制御することができる。これにより、インク滴の大きさを容易に制御することができる。
なお、各接合膜35、45a、45bは、上記のように、ポリエステル変性シリコーン材料を含有するもので構成されていなくてもよく、例えば、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤等の接着剤による接着や、固体接合による接合で代替されていてもよい。
【0072】
次に、母材20’上に、ポリエステル変性シリコーン材料を含有する液状材料を用いて、前記接合膜15を作製する方法、およびこの方法を含むヘッド1を作製する方法について説明する。
図4ないし図7は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)、図8は、接合膜の膜構造の一例を示す模式図である。なお、以下の説明では、図4ないし図8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0073】
本実施形態にかかるヘッド1の製造方法は、母材20’上に接合膜25を形成し、この接合膜25を介して母材20’と封止シート30とを接合する工程と、封止シート30上に接合膜35を形成し、この接合膜35を介して封止シート30と振動板40とを接合する工程と、接合膜25、封止シート30、接合膜35および振動板40の一部に貫通孔23を形成するとともに、振動板40の一部に凹部53を形成する工程と、振動板40上に接合膜45aを形成し、この接合膜45aを介して振動板40と圧電素子50とを接合する工程と、振動板40上に接合膜45bを形成し、この接合膜45bを介して振動板40とケースヘッド60とを接合する工程と、母材20’に対して加工を施し、基板20を形成する工程と、基板20の封止シート30と反対側の面上に接合膜15を形成し、この接合膜15を介して基板20とノズルプレート10とを接合する工程とを有する。
【0074】
以下、各工程について順次説明する。
[1]まず、基板20を作製するための母材として、母材20’を用意する。母材20’は、後述する工程において加工を施すことにより、基板20になり得るものである。
次に、図4(a)に示すように、母材20’上に、接合膜25を形成する。本実施形態では、この接合膜25の形成方法は、後述する接合膜15の形成方法と同様である。
【0075】
[2]次に、接合膜25に対してエネルギーを付与する。これにより、接合膜25に、封止シート30との接着性が発現する。なお、接合膜25に対するエネルギーの付与は、後述する接合膜15に対するエネルギーの付与方法と同様の方法で行うことができる。
[3]次に、封止シート30を用意する。そして、接着性が発現してなる接合膜25と封止シート30とが密着するように、母材20’と封止シート30とを貼り合わせる。これにより、図4(b)に示すように、母材20’と封止シート30とが、接合膜25を介して接合(接着)される。
【0076】
[4]次に、図4(c)に示すように、封止シート30上に、接合膜35を形成する。本実施形態では、この接合膜35の形成方法は、後述する接合膜15の形成方法と同様である。
[5]次に、接合膜35に対してエネルギーを付与する。これにより、接合膜35に、振動板40との接着性が発現する。なお、接合膜35に対するエネルギーの付与は、後述する接合膜15に対するエネルギーの付与方法と同様の方法で行うことができる。
【0077】
[6]次に、振動板40を用意する。そして、接着性が発現してなる接合膜35と振動板40とが密着するように、封止シート30を備えた母材20’と振動板40とを貼り合わせる。これにより、封止シート30と振動板40とが、接合膜35を介して接合(接着)される。その結果、図4(d)に示すように、母材20’、封止シート30および振動板40が接合される。
【0078】
[7]次に、図4(e)に示すように、接合膜25、封止シート30、接合膜35および振動板40のうち、ヘッド1の吐出液供給室22に対応する位置に、貫通孔23を形成する。
また、振動板40のうち、圧電素子50が組み立てられる位置を取り囲む環状の領域に、凹部53を形成する。
貫通孔23および凹部53の形成は、ドライエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等の物理的エッチング法、ウエットエッチング等の化学的エッチング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いて行うことができる。
【0079】
[8]次に、図4(f)に示すように、振動板40上の圧電素子50が組み立てられる位置に、接合膜45aを形成する。本実施形態では、この接合膜45aの形成方法は、後述する接合膜15の形成方法と同様である。
なお、振動板40上の一部の領域に部分的に接合膜45aを形成する場合、例えば、接合膜45aを形成すべき領域に対応する形状の窓部を有するマスクを介して、接合膜45aを成膜するようにすればよい。
【0080】
[9]次に、接合膜45aに対してエネルギーを付与する。これにより、接合膜45aに、圧電素子50との接着性が発現する。なお、接合膜45aに対するエネルギーの付与は、後述する接合膜15に対するエネルギーの付与方法と同様の方法で行うことができる。
[10]次に、圧電素子50を用意する。そして、接着性が発現してなる接合膜45aと圧電素子50とが密着するように、振動板40と圧電素子50とを貼り合わせる。これにより、振動板40と圧電素子50とが、接合膜45aを介して接合(接着)される。その結果、図5(g)に示すように、母材20’、封止シート30、振動板40および圧電素子50が接合される。
【0081】
[11]次に、図5(h)に示すように、振動板40上のケースヘッド60が組み立てられる位置に、エネルギーを付与する前の状態の接合膜45bを形成する。本実施形態では、この接合膜45bの形成方法は、後述する接合膜15の形成方法と同様である。
なお、振動板40上の一部の領域に部分的に接合膜45bを形成する場合、例えば、接合膜45bを形成すべき領域に対応する形状の窓部を有するマスクを介して、接合膜45bを成膜するようにすればよい。
【0082】
[12]次に、接合膜45bに対してエネルギーを付与する。これにより、接合膜45bに、ケースヘッド60との接着性が発現する。なお、接合膜45bに対するエネルギーの付与は、後述する接合膜15に対するエネルギーの付与方法と同様の方法で行うことができる。
[13]次に、ケースヘッド60を用意する。そして、接着性が発現してなる接合膜45bとケースヘッド60とが密着するように、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせる。これにより、振動板40とケースヘッド60とが、接合膜45bを介して接合(接着)される。その結果、図5(i)に示すように、母材20’、封止シート30、振動板40、圧電素子50およびケースヘッド60が接合される。
【0083】
[14]次に、封止シート30、振動板40、圧電素子50およびケースヘッド60が接合された母材20’の上下を反転させる。そして、母材20’の封止シート30と反対側の面に対して加工を施し、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22を形成する。これにより、母材20’から基板20を得る(図6(j)参照)。また、吐出液供給室22は、接合膜25、封止シート30、接合膜35および振動板40に形成された貫通孔23、および、ケースヘッド60に設けられた吐出液供給路61と連通し、リザーバ70が形成される。
【0084】
母材20’の加工方法には、例えば、前述したような各種エッチング法を用いることができる。
なお、ここでは、封止シート30、振動板40、圧電素子50およびケースヘッド60が接合された母材20’に対して加工を施すことにより、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22を形成する場合について説明したが、前記工程[1]の時点で、あらかじめ母材20’に各吐出液貯留室21および吐出液供給室22を設けておいてもよい。
【0085】
[15]次に、基板20の封止シート30と反対側の面上に、ノズルプレート10を接合する。以下、基板20とノズルプレート10とを接合する方法について詳述する。
なお、基板20のノズルプレート10を接合する面(接合膜15を形成する面)には、あらかじめ、接合膜15との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、基板20と接合膜15との間の接合強度をより高めることができ、最終的には、基板20とノズルプレート10との接合強度を高めることができる。
【0086】
かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、基板20の接合膜15を成膜する領域を清浄化するとともに、該領域を活性化させることができる。
【0087】
また、これらの各表面処理の中でもプラズマ処理を用いることにより、接合膜15を形成するために、基板20の表面を特に最適化することができる。
なお、表面処理を施す基板20が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
また、基板20の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜15の接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる基板20の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
【0088】
このような材料で構成された基板20は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、比較的活性の高い水酸基が結合している。したがって、このような材料で構成された基板20を用いると、上記のような表面処理を施さなくても、基板20と接合膜15とを強固に密着させることができる。
なお、この場合、基板20の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜15を成膜する領域の表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0089】
さらに、基板20の接合膜15を成膜する領域に、以下の基や物質を有する場合には、上記のような表面処理を施さなくても、基板20と接合膜15との接合強度を十分に高くすることができる。
このような基や物質としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような官能基、ラジカル、開環分子、2重結合、3重結合のような不飽和結合、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基または物質が挙げられる。
【0090】
また、このようなものを有する表面が得られるように、上述したような各種表面処理を適宜選択して行うのが好ましい。
また、表面処理に代えて、基板20の少なくとも接合膜15を成膜する領域には、あらかじめ、中間層を形成しておいてもよい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、接合膜15との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような中間層を介して基板20上に接合膜15を成膜することにより、基板20と接合膜15との接合強度を高め、信頼性の高い接合体、すなわちヘッド1を得ることができる。
【0091】
かかる中間層の構成材料としては、例えば、アルミニウム、チタンのような金属系材料、金属酸化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの各材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、基板20と接合膜15との間の接合強度を特に高めることができる。
【0092】
一方、ノズルプレート10の接合膜15と接触する領域にも、あらかじめ、接合膜15との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、ノズルプレート10と接合膜15との間の接合強度をより高めることができる。
なお、この表面処理には、基板20に対して施す前述したような表面処理と同様の処理を適用することができる。
【0093】
また、表面処理に代えて、ノズルプレート10の接合膜15と接触する領域に、あらかじめ、接合膜15との密着性を高める機能を有する中間層を形成しておくのが好ましい。これにより、ノズルプレート10と接合膜15との間の接合強度をより高めることができる。
かかる中間層の構成材料には、前述の基板20に形成する中間層の構成材料と同様のものを用いることができる。
なお、基板20やノズルプレート10に対する前述の表面処理および中間層の形成は、言うまでもなく、封止シート30、振動板40、圧電素子50およびケースヘッド60に対して行うようにしてもよい。これにより、各部の接合強度をより高めることができる。
【0094】
[15−1]次に、封止シート30、振動板40、圧電素子50およびケースヘッド60が接合された基板20の上面に、ポリエステル変性シリコーン材料を含有する液状材料31を供給し、図6(k)に示すように液状被膜32を形成する。
液状材料31の供給方法としては、例えば、液滴吐出法(インクジェット法)、スピンコート法、スクリーン印刷法等の各種方法を用いることができるが、中でも、液滴吐出を用いるのが好ましい。
【0095】
このうち、液滴吐出法によれば、目的の領域、例えば、基板20の上面の接合膜15を形成すべき面に対して選択的に液状材料31を確実に供給することができる。
ここで、本明細書において、「ポリエステル変性シリコーン材料」とは、液状材料31中に硬化前の状態で含まれ、次工程[15−2]において、この液状材料31を乾燥および/または硬化させることにより形成される接合膜15の主材料となるものであり、分枝部において下記化学式(1)で表わされる単位構造を有し、連結部において下記化学式(2)および下記化学式(3)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有し、末端部において下記化学式(4)および下記化学式(5)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有する分枝状をなすポリオルガノシロキサン骨格を有するシリコーン材料と、トリメチロールプロパンおよびテレフタル酸がエステル化反応することにより得られたポリエステル樹脂とが脱水縮合反応することにより得られた化合物である。
【0096】
【化2】

[式中、各Rは、それぞれ独立して、メチル基またはフェニル基を表し、Xはシロキサン残基を表す。]
【0097】
なお、以下では、液状材料31(液状被膜32)を乾燥および/または硬化させること、すなわち、液状材料31(液状被膜32)中に含まれるポリエステル変性シリコーン材料を硬化させるとともに、液状材料31(液状被膜32)中に溶媒または分散媒が含まれる場合には、脱溶媒または脱分散媒により液状材料31(液状被膜32)を乾燥させることを、単に「液状材料31(液状被膜32)の乾燥・硬化」と言うこともある。
【0098】
また、「シリコーン材料」は、上述のように、分枝部において上記化学式(1)で表わされる単位構造を有し、連結部において上記化学式(2)および上記化学式(3)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有し、末端部において上記化学式(4)および上記化学式(5)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有する分枝状をなすポリオルガノシロキサン骨格を有するものであり、主骨格(主鎖)部分が主としてオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、主鎖の途中から枝分かれする分枝状の構造を有するものである。
【0099】
なお、シロキサン残基とは、酸素原子を介して隣接する構造単位が有するケイ素原子に結合しており、シロキサン結合を形成している置換基のことを表す。具体的には、−O−(Si)構造(Siは隣接する構造単位が有するケイ素原子)となっている。
このようにシリコーン材料すなわちポリオルガノシロキサン骨格が、分枝状をなしていることにより、次工程[15−2]において、液状材料31中に含まれるこの化合物の分枝鎖同士が互いに絡まり合うようにして接合膜15が形成されることから、得られる接合膜15は特に膜強度に優れたものとなる。
【0100】
また、シリコーン材料は、その分子量が、1×10〜1×10程度のものであるのが好ましく、1×10〜1×10程度のものであるのがより好ましい。分子量をかかる範囲内に設定することにより、液状材料31の粘度を後述するような範囲内に比較的容易に設定することができる。
また、シリコーン材料は、その化合物中、すなわち、連結部または末端部において、上記一般式(2)、上記一般式(4)、上記一般式(5)で表わされる単位構造をなすことにより、シラノール基を複数有するものとなる。これにより、シリコーン材料が有する水酸基とポリエステル樹脂が有する水酸基とを確実に結合させることができるため、シリコーン材料とポリエステル樹脂とが脱水縮合反応することにより得られるポリエステル変性シリコーン材料を確実に合成することができる。さらに、次工程[15−2]において、液状材料31(液状被膜32)を乾燥・硬化させて接合膜15を得る際に、ポリエステル変性シリコーン材料中に残存しているシラノール基に含まれる水酸基同士が結合することとなり、得られる接合膜15の膜強度がさらに優れたものとなる。
【0101】
また、基板20として、前述したように、その接合面(表面)から水酸基が露出しているものを用いた場合には、ポリエステル変性シリコーン材料中に残存している水酸基と、基板20が備える水酸基とが結合することから、ポリエステル変性シリコーン材料を物理的な結合ばかりでなく、化学的な結合によっても基板20に結合させることができる。その結果、接合膜15は、基板20の接合面に対して、強固に結合したものとなる。
【0102】
また、シリコーン材料は、その化合物中において、上記一般式(1)、上記一般式(2)および上記一般式(4)で表わされる単位構造が備える、Rのうちの少なくとも1つは、フェニル基であるのが好ましい。これにより、シラノール基の反応性がより向上するため、隣接するシリコーン材料が有する水酸基同士の結合がより円滑に行われるようになる。また、接合膜15中にフェニル基が含まれる構成とすることにより、形成される接合膜15をより膜強度に優れたものとし得るという利点も得られる。
【0103】
さらに、上記一般式(1)、上記一般式(2)および上記一般式(4)で表わされる単位構造が備えるRのうちのフェニル基でないRはメチル基となっている。基Rがメチル基である化合物は、比較的入手が容易で、かつ安価であるとともに、後工程[15−3]において、接合膜15に接合用エネルギーを付与することにより、メチル基が容易に切断されて、その結果として、接合膜15に確実に接着性を発現させることができる。
【0104】
また、前記シリコーン材料は、比較的柔軟性に富む材料である。そのため、後工程[15−4]において、接合膜15を介して基板20にノズルプレート10を接合してヘッド1を得る際に、例えば、基板20とノズルプレート10との各構成材料が互いに異なるものを用いる場合であったとしても、基板20とノズルプレート10との間に生じる熱膨張に伴う応力を確実に緩和することができる。これにより、最終的に得られるヘッド1において、基板20およびノズルプレート10と接合膜15との界面で剥離が生じるのを確実に防止することができる。
【0105】
また、前記シリコーン材料は、耐薬品性に優れているため、薬品類等に長期にわたって曝されるような部材の接合に際して効果的に用いることができる。具体的には、例えば、樹脂材料を浸食し易い有機系インクが用いられる工業用インクジェットプリンタの液滴吐出ヘッドに本発明の液滴吐出ヘッドを適用すれば、その耐久性を確実に向上させることができる。また、前記シリコーン材料は、耐熱性にも優れていることから、高温下に曝されるような部材の接合に際しても効果的に用いることができる。
【0106】
また、本明細書中において、「ポリエステル樹脂」とは、トリメチロールプロパンとテレフタル酸とがエステル化反応することにより得られた化合物をいい、1分子中に少なくとも2つの水酸基を備えるものが好適に用いられる。
このようなポリエステル樹脂を、前述したシリコーン材料と縮合反応させると、ポリエステル樹脂が有する水酸基とシリコーン材料が有するシラノール基(水酸基)とが脱水縮合反応し、これにより、シリコーン材料にポリエステル樹脂が連結されたポリエステル変性シリコーン材料が得られる。
【0107】
なお、テレフタル酸とトリメチロールプロパンとをエステル化反応させる際の、それぞれの含有量は、テレフタル酸が有するカルボキシル基よりもトリメチロールプロパンが有する水酸基よりも多くなるように設定する。これにより、合成されるポリエステル樹脂は、その1分子中において、少なくとも2つの水酸基を備えるものとなる。
以上のことを考慮してテレフタル酸とトリメチロールプロパンとから得られるポリエステル樹脂としては、例えば、下記一般式(6)で表わされる化合物が挙げられる。
【0108】
【化3】

【0109】
このようなポリエステル樹脂は、その分子中に、テレフタル酸に由来するフェニレン基が含まれることとなる。かかる構成のポリエステル樹脂を含有するポリエステル変性シリコーン材料を用いて接合膜15を形成すると、形成される接合膜15は、ポリエステル樹脂中にフェニレン基が含まれることに起因して、特に優れた膜強度を発揮するものとなる。
【0110】
また、このようなポリエステル樹脂をポリエステル変性シリコーン材料が備えていると、ポリエステル変性シリコーン材料は、通常、螺旋構造をなしているポリオルガノシロキサン骨格から、ポリエステル樹脂が露出するような状態で存在していることとなる。そのため、次工程[15−2]において、液状材料31(液状被膜32)を乾燥・硬化させて接合膜15を得る際に、隣接するポリエステル変性シリコーン材料が備えるポリエステル樹脂同士が互いに接触する機会が増大することとなる。その結果、隣接するポリエステル変性シリコーン材料中において、ポリエステル樹脂同士が絡まり合ったり、これらが備える水酸基同士が脱水縮合して化学的に結合したりするため、得られる接合膜15の膜強度をより確実に向上させることができる。
【0111】
また、基板20として、前述したように、その接合面(表面)から水酸基が露出しているものを用いた場合には、ポリエステル樹脂に残存している水酸基と、基板20が備える水酸基とが脱水縮合反応により結合することから、ポリエステル変性シリコーン材料を物理的な結合ばかりでなく、化学的な結合によっても基板20に結合させることができる。その結果、接合膜15は、基板20の接合面に対して、強固に結合されたものとなる。さらに、ポリエステル樹脂が備えるケトン基と、基板20が備える水酸基との間で水素結合が生じることから、かかる結合によっても、接合膜15は、基板20の接合面に対して、強固に接合されたものとなる。
【0112】
このような液状材料31の粘度(25℃)は、通常、0.5〜200mPa・s程度であるのが好ましく、3〜20mPa・s程度であるのがより好ましい。液状材料の粘度をかかる範囲とすることにより、液状材料31を次工程[15−2]で乾燥・硬化させた際に、接合膜15を形成するのに十分な量のポリエステル変性シリコーン材料を液状材料31中に含有したものとすることができる。
【0113】
また、液状材料31は、ポリエステル変性シリコーン材料を含有するものであるが、ポリエステル変性シリコーン材料単独で、液状をなし目的とする粘度範囲である場合、ポリエステル変性シリコーン材料がそのまま液状材料として用いられる。また、ポリエステル変性シリコーン材料単独で、固形状または高粘度の液状をなす場合には、液状材料31としては、ポリエステル変性シリコーン材料の溶液または分散液が用いられる。
【0114】
ポリエステル変性シリコーン材料を溶解または分散するための溶媒または分散媒としては、例えば、アンモニア、水、過酸化水素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等を用いることができる。
【0115】
このうち、溶媒(分散媒)は、トルエンまたはキシレンを含むのが好ましい。これらの溶媒はシリコーン材料の溶解性に優れていることから、これらの溶媒を用いることにより、シリコーン材料を均一に溶解した均質な液状材料を得ることができる。これにより、液状材料31を塗布してなる液状被膜32は均質なものとなり、これを乾燥・硬化させると、膜厚バラツキの少ない接合膜15を得ることができる。
また、トルエンおよびキシレンは、常圧常温での揮発性に優れていることから、後述する乾燥過程において、短時間で簡単に揮発させることができる。このため、膜厚の厚い接合膜15を形成する場合であっても、効率よく形成することができる。
【0116】
[15−2]次に、基板20上に設けられた液状被膜32を乾燥および/または硬化させる。すなわち、液状被膜32中に溶媒または分散媒が含まれる場合には、液状被膜32を乾燥させるとともに、液状被膜32中に含まれるポリエステル変性シリコーン材料を硬化させる。これにより、基板20の上面に、接合膜15が形成される。
また、このように、液状被膜32中に含まれるポリエステル変性シリコーン材料を硬化させることにより得られる接合膜15は、例えば、図3に示すような膜構造をなしていると考えられる。このようにして得られた液状材料31の硬化物は、エネルギーを付与することにより接着性が発現する接合膜15となる。
【0117】
液状被膜32を乾燥・硬化させる方法としては、特に限定されないが、液状被膜32を加熱する方法が好ましく用いられる。かかる方法によれば、液状被膜32を加熱するという単純な方法で、液状被膜32の乾燥・硬化を容易かつ確実に行うことができる。
すなわち、液状被膜32を加熱するという単純な方法で、液状被膜32中に溶媒または分散媒が含まれる場合には、液状被膜32中から脱溶媒または脱分散媒することにより液状被膜32を乾燥させることができるとともに、ポリエステル変性シリコーン材料中に含まれる水酸基を脱水縮合反応させることにより乾燥した液状被膜32を硬化させることができる。
【0118】
以上のように、液状被膜32を乾燥・硬化させて接合膜15を形成すると、その膜中において、ポリエステル変性シリコーン材料中に含まれる水酸基同士が脱水縮合反応して化学的に連結されることから、接合膜15を優れた膜強度を有するものとすることができる。
さらに、接合膜15と基板20との界面において、ポリエステル変性シリコーン材料中に含まれる水酸基と基板20の表面から露出する水酸基との間で脱水縮合反応による化学的な結合が生じるとともに、ポリエステル変性シリコーン材料中に含まれるケトン基と基板20の表面から露出する水酸基との間で水素結合が生じることから、基板20に対する密着性に優れた接合膜15を形成することができる。
【0119】
液状被膜32を加熱する際の温度は、25℃以上であるのが好ましく、150〜250℃程度であるのがより好ましい。
また、加熱する時間は、0.5〜48時間程度であるのが好ましく、15〜30時間程度であるのがより好ましい。
かかる条件で液状被膜32を乾燥・硬化させることにより、次工程[15−3]において、エネルギーを付与することにより接着性が好適に発現する接合膜15を確実に形成することができる。また、ポリエステル変性シリコーン材料が有する水酸基同士を、さらには、ポリエステル変性シリコーン材料が有する水酸基と基板20が有する水酸基とを、確実に結合させることができるため、形成される接合膜15を膜強度に優れ、かつ基板20に対して強固に結合したものとすることができる。
【0120】
さらに、乾燥・硬化させる際の雰囲気の圧力は、大気圧下であってもよいが、減圧下であるのが好ましい。具体的には、減圧の程度は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。これにより、液状被膜32の乾燥・硬化を促進させるとともに、接合膜15の膜密度が緻密化して、接合膜15をより優れた膜強度を有するものとすることができる。
【0121】
以上のように、接合膜15を形成する際の条件を適宜設定することにより、形成される接合膜15の膜強度等を所望のものとすることができる。
接合膜15の平均厚さは、10〜10000nm程度であるのが好ましく、50〜5000nm程度であるのがより好ましい。供給する液状材料の量を適宜設定して、形成される接合膜15の平均厚さを前記範囲内とすることにより、基板20とノズルプレート10とを接合した接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、より強固に接合することができる。
【0122】
なお、接合膜15の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜15の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
また、接合膜15の平均厚さをかかる範囲とすることにより、接合膜15がある程度弾性に富むものとなることから、後工程において、基板20とノズルプレート10とを接合する際に、接合膜15と接触させるノズルプレート10の接合面にパーティクル等の異物が付着していても、このパーティクルを接合膜15で取り囲むようにして接合膜15とノズルプレート10とが接合することとなる。そのため、このパーティクルが存在することによって、接合膜15とノズルプレート10との界面における接合強度が低下したり、この界面において剥離が生じたりするのを的確に抑制または防止することができる。
また、本発明では、液状材料を供給して接合膜15を形成する構成となっていることから、たとえ基板20の接合面に凹凸が存在している場合であっても、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するようにして接合膜15を形成ことができる。その結果、接合膜15が凹凸を吸収して、その表面がほぼ平坦面で構成されることとなる。
【0123】
[15−3]次に、接合膜15にエネルギーを付与する(図6(L)参照)。
接合膜15にエネルギーを付与すると、この接合膜15では、表面付近の分子結合(例えば、Si−CH結合や、Si−Phe)の一部が切断し、表面が活性化されることに起因して、表面付近にノズルプレート10に対する接着性が発現する。
このような状態の接合膜15は、ノズルプレート10と、化学的結合に基づいて強固に接合可能なものとなる。
【0124】
ここで、本明細書中において、表面が「活性化された」状態とは、上述のように接合膜15の表面の分子結合の一部、具体的には、例えば、シリコーン材料やポリエステル樹脂が備えるメチル基やフェニル基が切断されて、接合膜15中に終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態の他、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、さらに、これらの状態が混在した状態を含めて、接合膜15が「活性化された」状態と言うこととする。
【0125】
接合膜15に付与するエネルギーは、いかなる方法を用いて付与するものであってもよいが、例えば、接合膜15にエネルギー線を照射する方法、接合膜15にプラズマを接触させる(プラズマエネルギーを付与する)方法、接合膜15を加熱する方法、接合膜15に圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、接合膜15をオゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。これにより、接合膜15の表面を効率よく活性化させることができる。また、接合膜15中の分子構造を必要以上に切断しないので、接合膜15の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0126】
上記の方法の中でも、本実施形態では、接合膜15にエネルギーを付与する方法として、特に、I:接合膜15にエネルギー線を照射する方法、および、II:接合膜15にプラズマを接触させる方法を用いるのが好ましい。これらの方法は、接合膜15に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができるので、エネルギーを付与する方法として好適に用いられる。
【0127】
I:接合膜にエネルギー線を照射する方法
前記エネルギー線としては、例えば、紫外線、レーザ光のような光、X線、γ線のような電磁波、電子線、イオンビームのような粒子線等や、またはこれらのエネルギー線を2種以上組み合わせたものが挙げられる。
これらのエネルギー線の中でも、特に、波長126〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい。かかる範囲内の紫外線によれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜15中の骨格をなす分子結合が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、接合膜15において表面付近の分子結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜15の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜15に接着性を確実に発現させることができる。
【0128】
また、紫外線によれば、広い範囲をムラなく短時間に処理することができるので、分子結合の切断を効率よく行うことができる。さらに、紫外線には、例えば、UVランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、126〜200nm程度とされる。
また、UVランプを用いる場合、その出力は、接合膜15の面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプと接合膜15との離間距離は、3〜3000mm程度とするのが好ましく、10〜1000mm程度とするのがより好ましい。
【0129】
また、紫外線を照射する時間は、接合膜15の表面付近の分子結合を切断し得る程度の時間、すなわち、接合膜15の表面付近に存在する分子結合を選択的に切断し得る程度の時間とするのが好ましい。具体的には、紫外線の光量、接合膜15の構成材料等に応じて若干異なるものの、1秒〜30分程度であるのが好ましく、1秒〜10分程度であるのがより好ましい。
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
【0130】
一方、レーザ光としては、例えば、エキシマレーザのようなパルス発振レーザ(パルスレーザ)、炭酸ガスレーザ、半導体レーザのような連続発振レーザ等が挙げられる。中でも、パルスレーザが好ましく用いられる。パルスレーザでは、接合膜15のレーザ光が照射された部分に経時的に熱が蓄積され難いので、蓄積された熱による接合膜15の変質・劣化を確実に防止することができる。すなわち、パルスレーザによれば、接合膜15の内部にまで蓄積された熱の影響がおよぶのを、防止することができる。
【0131】
また、パルスレーザのパルス幅は、熱の影響を考慮した場合、できるだけ短い方が好ましい。具体的には、パルス幅が1ps(ピコ秒)以下であるのが好ましく、500fs(フェムト秒)以下であるのがより好ましい。パルス幅を前記範囲内にすれば、レーザ光照射に伴って接合膜15に生じる熱の影響を、的確に抑制することができる。なお、パルス幅が前記範囲内程度に小さいパルスレーザは、「フェムト秒レーザ」と呼ばれる。
【0132】
また、レーザ光の波長は、特に限定されないが、例えば、200〜1200nm程度であるのが好ましく、400〜1000nm程度であるのがより好ましい。
また、レーザ光のピーク出力は、パルスレーザの場合、パルス幅によって異なるが、0.1〜10W程度であるのが好ましく、1〜5W程度であるのがより好ましい。
さらに、パルスレーザの繰り返し周波数は、0.1〜100kHz程度であるのが好ましく、1〜10kHz程度であるのがより好ましい。パルスレーザの周波数を前記範囲内に設定することにより、表面付近の分子結合を選択的に切断することができる。
【0133】
なお、このようなレーザ光の各種条件は、レーザ光を照射された部分の温度が、好ましくは常温(室温)〜600℃程度、より好ましくは200〜600℃程度、さらに好ましくは300〜400℃程度になるように適宜調整されるのが好ましい。これにより、レーザ光を照射した部分の温度が著しく上昇するのを防止して、表面付近の分子結合を選択的に切断することができる。
【0134】
また、接合膜15に照射するレーザ光は、その焦点を、接合膜15の表面に合わせた状態で、この表面に沿って走査されるようにするのが好ましい。これにより、レーザ光の照射によって発生した熱が、表面付近に局所的に蓄積されることとなる。その結果、接合膜15の表面に存在する分子結合を選択的に脱離させることができる。
また、接合膜15に対するエネルギー線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、中でも、大気雰囲気(特に、露点が低い雰囲気下)中で行うのが好ましい。これにより、接合膜15の表面付近にオゾンガスが生じて、表面の活性化がより円滑に行われることとなる。さらに、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギー線の照射をより簡単に行うことができる。
【0135】
このように、エネルギー線を照射する方法によれば、接合膜15に対して選択的にエネルギーを付与することが容易に行えるため、例えば、エネルギーの付与による基板20の変質・劣化を防止することができる。
また、エネルギー線を照射する方法によれば、付与するエネルギーの大きさを、精度よく簡単に調整することができる。このため、接合膜15で切断される分子結合の量を調整することが可能となる。このように切断される分子結合の量を調整することにより、基板20とノズルプレート10との間の接合強度を容易に制御することができる。
【0136】
すなわち、表面付近で切断される分子結合の量を多くすることにより、接合膜15の表面付近に、より多くの活性手が生じるため、接合膜15に発現する接着性をより高めることができる。一方、表面付近で切断される分子結合の量を少なくすることにより、接合膜15の表面付近に生じる活性手を少なくし、接合膜15に発現する接着性を抑えることができる。
なお、付与するエネルギーの大きさを調整するためには、例えば、エネルギー線の種類、エネルギー線の出力、エネルギー線の照射時間等の条件を調整すればよい。
さらに、エネルギー線を照射する方法によれば、短時間で大きなエネルギーを付与することができるので、エネルギーの付与をより効率よく行うことができる。
【0137】
II:接合膜にプラズマを接触させる方法
接合膜15に対するプラズマの接触は、減圧下で行うようにしてもよいが、大気圧下において好適に行われる。すなわち、接合膜15を大気圧プラズマで処理するのが好ましい。大気圧プラズマ処理によれば、接合膜15の周囲が減圧状態とならないので、プラズマの作用により、例えば、ポリエステル変性シリコーン材料のポリジメチルシロキサン骨格が備えるメチル基を切断、除去する際(接合膜15の活性化の際)に、この切断が不要に進行するのを防止することができる。
かかる大気圧下におけるプラズマ処理は、例えば、図9に示す大気圧プラズマ処理装置を用いて行うことができる。
【0138】
図9は、大気圧プラズマ装置の構成を示す概略図である。
図9に示す大気圧プラズマ装置1000は、接合膜15が形成された基板20(以下、単に「被処理基板W」と言う。)を搬送する搬送装置1002と、搬送装置1002の上方に設置されたヘッド1010とを備えている。
この大気圧プラズマ装置1000では、ヘッド1010が備える印加電極1015と対向電極1019との間に、プラズマが発生するプラズマ発生領域pが形成される。
【0139】
以下、各部の構成について説明する。
搬送装置1002は、被処理基板Wを積載可能な移動ステージ1020を有している。この移動ステージ1020は、搬送装置1002が有する移動手段(図示せず)の作動により、x軸方向に移動することができる。
なお、移動ステージ1020は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属材料で構成されている。
【0140】
ヘッド1010は、ヘッド本体1101と、印加電極1015と、対向電極1019とを有している。
ヘッド1010には、移動ステージ1020(搬送装置1002)の上面とヘッド1010の下面1103との間隙1102に、プラズマ化された処理ガスGを供給するガス供給流路1018が設けられている。
【0141】
ガス供給流路1018は、ヘッド1010の下面1103に形成された開口部1181で開口している。また、図9に示すように、下面1103の左側には、段差が形成されている。これにより、ヘッド本体1101の左側部分と移動ステージ1020との間隙1104が、間隙1102よりも小さく(狭く)なっている。このため、プラズマ化された処理ガスGが間隙1104に入り込むのを抑制または防止されて、x軸正方向に優先的に流れるようになっている。
【0142】
なお、ヘッド本体1101は、例えば、アルミナ、石英等の誘電体材料で構成されている。
ヘッド本体1101には、ガス供給流路1018を挟むように、印加電極1015と対向電極1019とが対抗して設置され、これにより一対の平行平板型電極が構成されている。これらのうち、印加電極1015は高周波電源1017に電気的に接続され、対向電極1019は接地されている。
【0143】
これら印加電極1015および対向電極1019は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属材料で構成されている。
このような大気圧プラズマ装置1000を用いて、被処理基板Wをプラズマ処理する場合、まず、印加電極1015と対向電極1019との間に電圧を印加して、電界Eを発生させる。この状態で、ガス供給流路1018に、処理ガスGを流入させる。このとき、ガス供給流路1018に流入した処理ガスGは、電界Eの作用により放電してプラズマ化される。このプラズマ化された処理ガスGは、下面1103側の開口部1181から、間隙1102内に供給される。これにより、プラズマ化された処理ガスGが被処理基板Wに設けられた接合膜15の表面に接触して、プラズマ処理が施される。
【0144】
かかる大気圧プラズマ装置1000を用いることにより、容易かつ確実に、接合膜15にプラズマを接触させ、接合膜15を活性化させることができる。
ここで、印加電極1015と移動ステージ1020(被処理基板W)と間の距離、すなわち、間隙1102高さ(図9中、h1で示す長さ)は、高周波電源1017の出力や、被処理基板Wに施すプラズマ処理の種類等を考慮して適宜決定されるが、0.5〜10mm程度であるのが好ましく、0.5〜2mm程度であるのがより好ましい。これにより、接合膜15にプラズマを接触させて、接合膜15をより確実に活性化させることができる。
【0145】
また、印加電極1015と対向電極1019との間に印加する電圧は、1.0〜3.0kVp−p程度であるのが好ましく、1.0〜1.5kVp−p程度であるのがより好ましい。これにより、印加電極1015と移動ステージ1020と間に電界Eをより確実に発生させることができ、ガス供給流路1018に供給された処理ガスGを確実にプラズマ化させることができる。
【0146】
高周波電源1017の周波数(印加する電圧の周波数)は、特に限定されないが、10〜50MHz程度であるのが好ましく、10〜40MHz程度であるのがより好ましい。
処理ガスGの種類としては、特に限定されないが、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガスのような希ガス、酸素ガス等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、処理ガスGには、希ガスを主成分とするガスを用いるのが好ましく、特にヘリウムガスを主成分とするガスを用いるのが好ましい。
【0147】
すなわち、処理に用いるプラズマは、ヘリウムガスを主成分とするガスをプラズマ化したものであるのが好ましい。ヘリウムガスを主成分とするガス(処理ガスG)は、プラズマ化の際にオゾンを発生させ難く、このため、接合膜15の表面のオゾンによる変質(酸化)を防止することができる。その結果、接合膜15の活性化の程度が低下するのを抑制すること、すなわち、接合膜15を確実に活性化させることができる。さらに、接合膜15の活性化を短時間でかつ確実に行うことができる。
【0148】
この場合、ヘリウムガスを主成分とするガスのガス供給流路1018への供給速度は、1〜20SLM程度であるのが好ましく、5〜15SLM程度であるのがより好ましい。これにより、接合膜15の活性化の程度を制御し易くなる。
また、このガス(処理ガスG)中のヘリウムガスの含有量は、85vol%以上が好ましく、90vol%以上(100%も含む)がより好ましい。これにより、前述した効果をさらに顕著に発揮させることができる。
【0149】
また、移動ステージ1020の移動速度は、特に限定されないが、1〜20mm/秒程度であるのが好ましく、3〜6mm/秒程度であるのがより好ましい。このような速度でプラズマを接合膜15に接触させることにより、短時間であるにもかかわらず、接合膜15を十分かつ確実に活性化させることができる。
このような接合膜にプラズマを接触させる方法によっても、エネルギー線を照射する方法で挙げたのと同様の効果が得られる。
【0150】
[15−4]次に、ノズルプレート10を用意する。そして、図7(m)に示すように、接合膜15とノズルプレート10とが密着するように、基板20とノズルプレート10とを貼り合わせる。これにより、前記工程[15−3]において、接合膜15の表面にノズルプレート10に対する接着性が発現していることから、接合膜15とノズルプレート10とが化学的に結合する。その結果、基板20とノズルプレート10とが接合膜15を介して接合され、図7(n)に示すようなヘッド1が得られる。
【0151】
ここで、上記のようにして接合される基板20とノズルプレート10の各熱膨張率は、ほぼ等しいのが好ましい。基板20とノズルプレート10の熱膨張率がほぼ等しければ、これらを貼り合せた際に、その接合界面に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られるヘッド1において、剥離等の不具合が発生するのを確実に防止することができる。
【0152】
また、基板20とノズルプレート10の各熱膨張率が互いに異なる場合でも、基板20とノズルプレート10とを貼り合わせる際の条件を以下のように最適化することにより、基板20とノズルプレート10とを高い寸法精度で強固に接合することができる。
すなわち、基板20とノズルプレート10の熱膨張率が互いに異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
【0153】
具体的には、基板20とノズルプレート10との熱膨張率差にもよるが、基板20とノズルプレート10の温度が25〜50℃程度である状態下で、基板20とノズルプレート10とを貼り合わせるのが好ましく、25〜40℃程度である状態下で貼り合わせるのがより好ましい。このような温度範囲であれば、基板20とノズルプレート10の熱膨張率差がある程度大きくても、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、ヘッド1における反りや剥離等の発生を確実に防止することができる。
【0154】
また、この場合、基板20とノズルプレート10との間の熱膨張係数の差が、5×10−5/K以上あるような場合には、上記のようにして、できるだけ低温下で接合を行うことが特に推奨される。なお、接合膜15を用いることにより、上述したような低温下でも、基板20とノズルプレート10とを強固に接合することができる。
また、基板20とノズルプレート10は、互いに剛性が異なっているのが好ましい。これにより、基板20とノズルプレート10とをより強固に接合することができる。
【0155】
なお、本実施形態では、前記工程[15−3]および本工程[15−4]で示したように、接合膜15にエネルギーを付与して、接合膜15の接合面(表面)付近に接着性を発現させた後、接合膜15を介して基板20とノズルプレート10とを接触させることによりヘッド1を得るようにしたが、これに限らず、接合膜15を介して基板20とノズルプレート10とを接触させた後、接合膜15にエネルギーを付与することによりヘッド1を得るようにしてもよい。すなわち、前記工程[15−3]と本工程[15−4]との順序を逆にしてヘッド1を得るようにしてもよい。このような順序で各工程を施してヘッド1を得る場合においても前述したのと同様の効果が得られる。
【0156】
ここで、本工程において、接合膜15を備える基板20とノズルプレート10とが接合されるメカニズムについて説明する。
例えば、ノズルプレート10の基板20との接合に供される領域に、水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、接合膜15とノズルプレート10とが接触するように、基板20とノズルプレート10とを貼り合わせたとき、接合膜15の表面に存在する水酸基と、ノズルプレート10の前記領域に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、接合膜15を備える基板20とノズルプレート10とが接合されると推察される。
【0157】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、接合膜15とノズルプレート10との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、接合膜15を介して基板20とノズルプレート10とがより強固に接合されると推察される。
また、基板20の接合膜15の表面や内部、および、ノズルプレート10の下面や内部に、それぞれ終端化されていない結合手すなわち未結合手(ダングリングボンド)が存在している場合、基板20とノズルプレート10とを貼り合わせた時、これらの未結合手同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成されることとなる。これにより、接合膜15とノズルプレート10とが特に強固に接合される。
【0158】
なお、前記工程[15−3]で活性化された接合膜15の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[15−3]の終了後、できるだけ早く本工程[15−4]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[15−3]の終了後、60分以内に本工程[15−4]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜15の表面が十分な活性状態を維持しているので、本工程で接合膜15を備える基板20とノズルプレート10とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
【0159】
換言すれば、活性化させる前の接合膜15は、ポリエステル変性シリコーン材料を乾燥・硬化させて得られた接合膜であるため、化学的に比較的安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の接合膜15は、長期にわたる保存に適したものとなる。したがって、そのような接合膜15を備えた基板20を多量に製造または購入して保存しておき、本工程の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[15−3]に記載したエネルギーの付与を行うようにすれば、ヘッド1の製造効率の観点から有効である。
このようにして接合された基板20とノズルプレート10との間は、その接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度であれば、接合界面の剥離を十分に防止し得るものとなる。そして、信頼性の高いヘッド1が得られる。
【0160】
以上のような工程を経て、ヘッド1が製造される。
なお、ヘッド1を得る際、または、ヘッド1を得た後に、このヘッド1に対して、必要に応じ、以下の2つの工程([16A]および[16B])のうちの少なくとも1つの工程(ヘッド1の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、ヘッド1の接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0161】
[16A]得られたヘッド1を、ノズルプレート10と基板20とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、ノズルプレート10の表面および基板20の表面に、それぞれ接合膜15の表面がより近接し、ヘッド1における接合強度をより高めることができる。
また、ヘッド1を加圧することにより、ヘッド1中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、ヘッド1における接合強度をさらに高めることができる。
【0162】
なお、この圧力は、基板20およびノズルプレート10の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、基板20およびノズルプレート10の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、ヘッド1の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、基板20およびノズルプレート10の各構成材料によっては、基板20やノズルプレート10に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、ヘッド1を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
【0163】
[16B]得られたヘッド1を加熱する。
これにより、ヘッド1における接合強度をより高めることができる。
このとき、ヘッド1を加熱する際の温度は、室温より高く、ヘッド1の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、ヘッド1が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
【0164】
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、前記工程[16A]、[16B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、ヘッド1を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、ヘッド1の接合強度を特に高めることができる。
【0165】
以上のような工程を行うことにより、ヘッド1における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
なお、上記では、基板20上に成膜された接合膜15とノズルプレート10とが密着するように、基板20とノズルプレート10とを貼り合わせる場合について説明しているが、ノズルプレート10の下面に成膜された接合膜15と基板20とが密着するように、基板20とノズルプレート10とを貼り合わせるようにしてもよい。
【0166】
また、接合膜15は、図10に示すように、基板20とノズルプレート10の双方に成膜されていてもよい。
図10は、本実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドの他の構成例を示す断面図である。なお、以下の説明では、図10中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図10に示すヘッド1では、基板20の下面に成膜された接合膜15と、ノズルプレート10の上面に成膜された接合膜15とが密着するように、基板20とノズルプレート10とを貼り合わせることにより、これらが接合(接着)されている。
【0167】
また、これと同様に、図10に示すヘッド1では、基板20の上面に成膜された接合膜25と、封止シート30の下面に成膜された接合膜25とが密着するように、基板20と封止シート30とを貼り合わせることにより、これらが接合(接着)されている。
さらに、封止シート30の上面に成膜された接合膜35と、振動板40の下面に成膜された接合膜35とが密着するように、封止シート30と振動板40とを貼り合わせることにより、これらが接合(接着)されている。
【0168】
また、振動板40の上面に成膜された接合膜45aと、圧電素子50の下面に成膜された接合膜45aとが密着するように、振動板40と圧電素子50とを貼り合わせることにより、これらが接合(接着)されている。
さらに、振動板40の上面に成膜された接合膜45bと、ケースヘッド60の下面に成膜された接合膜45bとが密着するように、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせることにより、これらが接合(接着)されている。
【0169】
このような構成のヘッド1によれば、各部の界面を特に強固に接合することができる。また、このようなヘッド1では、被着体(例えば、基板、ノズルプレート、封止シート、振動板、圧電素子、ケースヘッド等)の材質が接合強度に影響を及ぼし難いため、被着体の材質によらず、各部が強固に接合された信頼性の高いヘッド1が得られる。
なお、この場合、例えば、接合膜15に対するエネルギーの付与は、基板20の下面に成膜された接合膜15と、ノズルプレート10の上面に成膜された接合膜15のそれぞれに対して行うようにすればよい。
【0170】
また、このようなヘッド1は、本発明に用いる液状材料31を吐出するのに好適に用いられるものである。
ここで、液状材料31は、前述したように、ポリエステル変性シリコーン材料と、このポリエステル変性シリコーン材料を溶解または分散するための溶媒(分散媒)を含んでいるものである。このような溶媒は、樹脂材料を変質・劣化させてしまうおそれがあり、このため、液状材料31に接触する接着剤は、長期にわたって接着性を維持することができない。このため、液状材料31をインクジェット法で吐出した場合、従来では、ヘッドに用いられた接着剤が変質・劣化してしまい、ヘッドの耐久性に問題があった。
【0171】
これに対し、液状材料31を吐出するヘッドとして、本発明の液滴吐出ヘッドを用いることにより、上述したような接着剤の変質・劣化を伴わないため、長期にわたって優れた耐久性を示すヘッド1が得られる。すなわち、ヘッド1は、液状材料31を吐出するのに、特に好適に用いられるものである。
なお、液状材料31としては、前述したように、ポリエステル変性シリコーン材料と、これを溶解する溶媒としてトルエンまたはキシレンとを含む材料が好ましく用いられる。しかしながら、これらの好ましい溶媒は、樹脂材料に対する浸食性に富んでいるため、ヘッドの耐久性を損なうおそれがある。
これに対し、本発明の液滴吐出ヘッドは、トルエンやキシレンといった樹脂材料に対する浸食性の高い溶媒を含む液状材料をも、安定的に貯留するとともに吐出することができる。かかる観点からも、本発明の液滴吐出ヘッドは、液状材料31を吐出するのに、特に好適に用いることができる。
【0172】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第2実施形態について説明する。
図11は、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第2実施形態を示す断面図である。なお、以下の説明では、図11中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0173】
以下、液滴吐出ヘッドの第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態にかかる液滴吐出ヘッドとの相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる液滴吐出ヘッドは、各部材間の接合部の構成が異なること以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0174】
すなわち、図11に示すインクジェット式記録ヘッド1は、前記第1実施形態と同様、ノズルプレート10、基板20、封止シート30、振動板40、圧電素子50およびケースヘッド60を備える。
ここで、ノズルプレート10と基板20との間の接合領域のうち、吐出液貯留室21に臨む側の領域は、接合膜15と同様の構成の接合膜151を介して接合されている。一方、ノズルプレート10と基板20との間の接合領域のうち、吐出液貯留室21に臨む側と反対側の領域は、接着剤152を介して接着されている。
【0175】
また、基板20と封止シート30との間の接合領域のうち、吐出液貯留室21に臨む側の領域は、接合膜25と同様の構成の接合膜251を介して接合されている。一方、基板20と封止シート30との間の接合領域のうち、吐出液貯留室21に臨む側と反対側の領域は、接着剤252を介して接着されている。
また、封止シート30と振動板40との間の接合領域のうち、吐出液貯留室21に臨む側の領域は、接合膜35と同様の構成の接合膜351を介して接合されている。一方、封止シート30と振動板40との間の接合領域のうち、リザーバ70に臨む側と反対側の領域は、接着剤352を介して接着されている。
【0176】
また、振動板40と圧電素子50との間は、接着剤45a2を介して接着されている。
また、振動板40とケースヘッド60との間の接合領域のうち、リザーバ70に臨む側の領域は、接合膜45bと同様の構成の接合膜45b1を介して接合されている。一方、振動板40とケースヘッド60との間の接合領域のうち、リザーバ70に臨む側と反対側の領域は、接着剤45b2を介して接着されている。
【0177】
このような構成のヘッド1では、各部の接合領域のうち、インクが貯留される吐出液貯留室21やリザーバ70に臨む側の領域が、前記第1実施形態にかかる各接合膜15、25、35、45bと同様の接合膜を介して接合されている。このため、各接合領域が、インクに対して優れた耐久性を示す等、前記第1実施形態にかかるヘッド1と同様の作用・効果が得られる。
【0178】
また、本実施形態では、各部の接合領域のうち、吐出液貯留室21やリザーバ70に臨む側と反対側の領域が、接着剤を介して接着されている。接着剤は、硬化前の粘性が高く、取り扱いが容易であるという利点を有する反面、インクに対する耐久性に劣る。しかしながら、本実施形態にかかるヘッド1では、接着剤がインクに曝されることがないため、前述した接着剤の欠点が露呈することが防止される。そして、接着剤の粘性が高いことによって、ヘッド1を構成する各部の仮固定を行うことができる。
【0179】
すなわち、本実施形態にかかるヘッド1では、接着剤を用いて、ノズルプレート10、基板20、封止シート30、振動板40、圧電素子50およびケースヘッド60の各部の接合領域のうち、一部の領域をあらかじめ仮固定した後、残る領域を、前記第1実施形態と同様の構成の接合膜を介して接合している。このような方法によれば、ヘッド1の製造を容易に効率よく行うことができる。
【0180】
以下、本実施形態にかかるヘッド1の製造方法について説明する。
[1]まず、ノズルプレート10、基板20、封止シート30、振動板40、圧電素子50およびケースヘッド60を用意する。そして、これらの各部の接合領域のうち、吐出液貯留室21やリザーバ70に臨む側と反対側の領域、すなわち、インクに曝されない領域を、接着剤で仮固定する。これにより、前述した接着剤152、252、352、45a2、45b2を得る。なお、各部の接合領域のうち、接着剤152、252、352、45a2、45b2で仮固定されていない領域には、接着剤の厚さ分に相当する距離の隙間が生じる。
接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の各種接着剤を用いることができる。
【0181】
[2]次に、仮固定されてなるヘッド1のリザーバ70および吐出液貯留室21に、液状材料31を供給し、充填する。これにより、各部の接合領域に生じた隙間に、液状材料31が浸透し、隙間を充填する。なお、この浸透現象は、毛細管現象を利用して行われるため、リザーバ70および吐出液貯留室21に液状材料31を単に貯留するだけで、隙間を液状材料31によって簡単かつ確実に充填することができる。また、毛細管現象の駆動力は、隙間の距離が小さいほど大きくなるので、接着剤152、252、352、45a2、45b2の厚さは、できるだけ薄い方が好ましい。
【0182】
[3]次に、前記第1実施形態と同様にして、隙間に浸透した液状材料31を乾燥・硬化させる。これにより、前述した接合膜151、251、351、45b1を得る。
[4]次に、各接合膜151、251、351、45b1にエネルギーを付与する。これにより、各接合膜151、251、351、45b1に接着性が発現し、ヘッド1の各部が接合される。
【0183】
以上のようにしてヘッド1が得られる。
このように、本実施形態にかかるヘッド1では、インクに対する優れた耐久性を維持しつつ、複数の接合膜151、251、351、45b1を一括して形成することができるため、製造工程を大幅に簡略化することができる。
また、ヘッド1の駆動中には、各部の接合領域に常時液状材料31が隣接しているため、仮に接合領域に剥離や亀裂等が生じたとしても、その剥離部分や亀裂に液状材料31が速やかに浸透することができる。したがって、そのようなヘッド1に対して、定期的に前記工程[3]、[4]を行うことにより、ヘッド1の修復を容易に行うことができるという利点もある。
なお、接着剤152、252、352、45a2、45b2のうち、少なくとも1つは、接着剤以外の種々の接合膜で代替されていてもよい。このような種々の接合膜としては、例えば、プラズマ重合膜、CVD膜、PVD膜等が挙げられる。
【0184】
以上、本発明の液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の液滴吐出ヘッドを製造する方法では、前記実施形態の構成に限定されず、工程の順序が前後してもよい。また、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよく、不要な工程を削除してもよい。
【実施例】
【0185】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.インクジェット式記録ヘッドの製造
(実施例1)
<1>まず、ステンレス鋼製のノズルプレート、単結晶シリコン製の板状の母材、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)製の封止シート、ステンレス鋼製の振動板、ジルコン酸鉛の焼結体で構成された圧電体層とAgペーストを焼成した電極膜との積層体からなる圧電素子と、PPS製のケースヘッドとを用意した。
【0186】
次いで、母材に、酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、前記シリコーン材料と前記ポリエステル樹脂とが脱水縮合反応することにより得られたポリエステル変性シリコーン材料(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアル・ジャパン合同会社製、「XR32−A1612」)を用意し、インクジェット法により母材上に供給した。これにより、母材上に液状被膜を形成した。
【0187】
次に、この液状被膜を、200℃、1時間の条件で加熱して、乾燥・硬化させることにより、母材上に、平均厚さ10μmの接合膜を形成した。
次に、得られた接合膜に、図9に示す大気圧プラズマ装置を用いて、以下に示す条件でプラズマを接触させた。これにより、接合膜を活性化させて、その表面に接着性を発現させた。
【0188】
<プラズマ処理条件>
・処理ガス :ヘリウムガスと酸素ガスとの混合ガス
・ガス供給速度:10SLM
・電極間距離 :1mm
・印加電圧 :1kVp−p
・電圧周波数 :40MHz
・移動速度 :1mm/秒
一方、封止シートの片面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、接合膜のプラズマを接触させた面と、封止シートの表面処理を施した面とが接触するように、母材と封止シートとを貼り合わせた。これにより、母材と封止シートとの接合体を得た。
【0189】
<2>次に、母材と封止シートとの接合体の封止シート上に、前記工程<1>と同様にして、接合膜を形成した。
次に、得られた接合膜に、前記工程<1>と同様にして、プラズマを接触させた。一方、振動板の片面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、接合膜のプラズマを接触させた面と、振動板の表面処理を施した面とが接触するように、接合体と振動板とを貼り合わせた。これにより、母材、封止シートおよび振動板の接合体を得た。
<3>次に、封止シート、振動板およびこれらに隣接する重合膜のうち、ヘッドの吐出液供給室を形成すべき位置に貫通孔を形成した。また、振動板のうち、圧電素子が組み立てられる位置を取り囲む環状の領域に、貫通孔を形成した。なお、これらの貫通孔は、それぞれエッチング法により形成した。
【0190】
<4>次に、母材、封止シートおよび振動板が接合された接合体の振動板上のうち、圧電素子が組み立てられる位置(環状の貫通孔の内側の領域)に、前記工程<1>と同様にして、接合膜を形成した。
次に、得られた接合膜に、前記工程<1>と同様にして、プラズマを接触させた。一方、圧電素子の片面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、接合膜のプラズマを接触させた面と、圧電素子の表面処理を施した面とが接触するように、接合体と圧電素子とを貼り合わせた。これにより、母材、封止シート、振動板および圧電素子の接合体を得た。
【0191】
<5>次に、母材、封止シート、振動板および圧電素子が接合された接合体のうち、ケースヘッドが組み立てられる位置に、前記工程<1>と同様にして、接合膜を成膜した。
次に、得られた接合膜に、前記工程<1>と同様にして、プラズマを接触させた。一方、ケースヘッドの接合面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、接合膜のプラズマを接触させた面と、ケースヘッドの表面処理を施した面とが接触するように、接合体とケースヘッドとを貼り合わせた。これにより、母材、封止シート、振動板、圧電素子およびケースヘッドの接合体を得た。
<6>次に、得られた接合体の上下を反転させ、母材の封止シートが接合された面と反対側の面に対して、エッチング法により加工を施した。そして、母材に、吐出液貯留室と吐出液供給室とを形成し、これにより吐出液貯留室形成基板を得た。
【0192】
<7>次に、吐出液貯留室形成基板上に、前記工程<1>と同様にして、接合膜を成膜した。
次に、得られた接合膜に、前記工程<1>と同様にして、プラズマを接触させた。一方、ノズルプレートの接合面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、接合膜のプラズマを接触させた面と、ノズルプレートの表面処理を施した面とが接触するように、吐出液貯留室形成基板とノズルプレートとを貼り合わせた。これにより、ノズルプレート、母材、封止シート、振動板、圧電素子およびケースヘッドの接合体、すなわちインクジェット式記録ヘッドを得た。
<8>次に、得られたインクジェット式記録ヘッドを、3MPaで圧縮しつつ、80℃で加熱し、15分間維持した。これにより、インクジェット式記録ヘッドの接合強度の向上を図った。
【0193】
(実施例2)
以下のようにして、接合膜を接合界面の両側に成膜し、各接合膜同士を貼り合わせるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット式記録ヘッドを製造した。
具体的には、まず、前記実施例1と同様にして、母材上に接合膜を成膜した。
また、同様に、封止シート上にも接合膜を成膜した。
次に、母材上の接合膜と、封止シート上の接合膜とに、それぞれプラズマを接触させた。
【0194】
次に、各接合膜同士が密着するように、母材と封止シートとを貼り合わせた。これにより、母材と封止シートとを接合した。
また、これと同様にして、封止シートと振動板との間、振動板と圧電素子との間、振動板とケースヘッドとの間、吐出液貯留室形成基板とノズルプレートとの間を、それぞれ接合した。
【0195】
(実施例3)
図11に示すインクジェット式記録ヘッドを製造した。
なお、図11に示す接合膜151、251、351、45b1の形成にあたっては、実施例1と同様にして行った。
また、図11に示す接着剤152、252、352、45a2、45b2として、エポキシ系接着剤を用いた。
(比較例)
全ての接合部、すなわち、ノズルプレートと吐出液貯留室形成基板との間、母材と封止シートとの間、封止シートと振動板との間、振動板と圧電素子との間、振動板とケースヘッドとの間の各接合部を、それぞれエポキシ接着剤で接合するようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット式記録ヘッドを製造した。
【0196】
2.インクジェット式記録ヘッドの評価
2.1 寸法精度の評価
各実施例および比較例で得られたインクジェット式記録ヘッドについて、それぞれ寸法精度を測定した。
その結果、各実施例で得られたインクジェット式記録ヘッドでは、いずれも、比較例で得られたインクジェット式記録ヘッドに比べて寸法精度が高かった。
また、各インクジェット式記録ヘッドをインクジェットプリンタに組み込み、印刷用紙に印字したところ、各実施例で得られたヘッドを組み込んだプリンタでは、比較例で得られたヘッドを組み込んだプリンタに比べ、印字品位が優れていることが認められた。
【0197】
2.2 耐薬品性の評価
各実施例および比較例で得られたインクジェット式記録ヘッドに、前記シリコーン材料と前記ポリエステル樹脂とが脱水縮合反応することにより得られたポリエステル変性シリコーン材料(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアル・ジャパン合同会社製、「XR32−A1612」)を充填し、3週間保持した。その後、インクジェット式記録ヘッドの状態を評価した。
その結果、各実施例で得られたインクジェット式記録ヘッドでは、接合部への液状材料の浸入がほとんど認められなかった。これに対し、比較例で得られたインクジェット式記録ヘッドでは、接合部への液状材料の浸入が認められた。
【符号の説明】
【0198】
1……インクジェット式記録ヘッド 10……ノズルプレート 11……ノズル孔 15、25、35、45a、45b、151、251、351、45b1……接合膜 152、252、352、45a2、45b2……接着剤 20……吐出液貯留室形成基板 20’……母材 21……吐出液貯留室 22……吐出液供給室 23……貫通孔 30……封止シート 31……液状材料 32……液状被膜 40……振動板 50……圧電素子 51……圧電体層 52……電極膜 53……凹部 60……ケースヘッド 61……吐出液供給路 70……リザーバ 9……インクジェットプリンタ 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモータ 942……往復動機構 943……キャリッジガイド軸 944……タイミングベルト 95……給紙装置 951……給紙モータ 952……給紙ローラ 952a……従動ローラ 952b……駆動ローラ 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙 1000……大気圧プラズマ装置 1002……搬送装置 1010……ヘッド 1101……ヘッド本体 1102、1104……間隙 1103……下面 1015……印加電極 1017……高周波電源 1018……ガス供給流路 1019……対向電極 1181……開口部 1020……移動ステージ E……電界 G……処理ガス p……プラズマ発生領域 W……被処理基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出液を貯留する吐出液貯留室が形成された基板と、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の一方の面に設けられ、前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔とを備えるノズルプレートと、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の他方の面に設けられた封止板とを有し、
前記基板と前記ノズルプレートとの間および前記基板と前記封止板との間のうちの少なくとも一方が、接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、分枝部において下記化学式(1)で表わされる単位構造を有し、連結部において下記化学式(2)および下記化学式(3)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有し、末端部において下記化学式(4)および下記化学式(5)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有する分枝状をなすポリオルガノシロキサン骨格を有するシリコーン材料と、トリメチロールプロパンおよびテレフタル酸がエステル化反応することにより得られたポリエステル樹脂とが脱水縮合反応することにより得られたポリエステル変性シリコーン材料を含有する被膜にエネルギーを付与することにより前記被膜に発現した接着性によって、前記基板と前記ノズルプレートとの間および前記基板と前記封止板との間のうちの少なくとも一方を接合していることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【化1】

[式中、各Rは、それぞれ独立して、メチル基またはフェニル基を表し、Xはシロキサン残基を表す。]
【請求項2】
前記接合膜を介して接合される接合領域のうち、あらかじめ、一部領域が接着剤で仮固定されており、
前記接合膜は、前記接合領域の前記一部領域以外の領域を接合している請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記接合領域の前記一部領域以外の領域を接合している前記接合膜は、前記仮固定することによって形成された前記吐出液貯留室内に前記液状材料を供給することにより、前記接合領域の外側部分に前記液状材料を浸透させ、前記液状材料の被膜を得た後、該被膜を乾燥および/または硬化させ、その後、該被膜にエネルギーを付与することによって形成されたものである請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記接合膜の平均厚さは、10〜10000nmである請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記基板、ノズルプレートおよび封止板の少なくとも前記接合膜と接触する部分は、シリコン材料、金属材料またはガラス材料を主材料として構成されている請求項1ないし4のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記基板、ノズルプレートおよび封止板の前記接合膜と接触する面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されている請求項1ないし5のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記表面処理は、プラズマ処理または紫外線照射処理である請求項6に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記エネルギーの付与は、前記接合膜にエネルギー線を照射する方法および前記接合膜にプラズマを接触させる方法のうちの少なくとも一方により行われる請求項1ないし7のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記エネルギー線は、波長126〜300nmの紫外線である請求項8に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
前記エネルギーの付与は、大気雰囲気中で行われる請求項1ないし9のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項11】
さらに、前記基板と前記ノズルプレートとの間および前記基板と前記封止板との間のうちの少なくとも一方を、前記接合膜を介して接合させた後に、前記接合膜に対して接合強度を高める処理を行う工程を有する請求項1ないし10のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項12】
前記接合強度を高める処理を行う工程は、前記接合膜を加熱する方法および前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われる請求項11に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項13】
前記封止板は、複数の層を積層してなる積層体で構成されており、
前記積層体中の層のうち、隣接する少なくとも1組の層の層間が、前記接合膜と同様の接合膜を介して接合されている請求項1ないし12のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項14】
当該液滴吐出ヘッドは、さらに、前記封止板の前記基板と反対側に設けられ、前記封止板を振動させる振動手段を有し、
前記封止板と前記振動手段とが、前記接合膜と同様の接合膜を介して接合されている請求項1ないし13のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項15】
前記振動手段は、圧電素子で構成されている請求項14に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項16】
当該液滴吐出ヘッドは、さらに、前記封止板の前記基板と反対側に設けられたケースヘッドを有し、
前記封止板と前記ケースヘッドとが、前記接合膜と同様の接合膜を介して接合されている請求項1ないし15のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項17】
当該液滴吐出ヘッドは、前記吐出液として、前記液状材料と同様の液状材料を吐出するのに用いられる請求項1ないし16のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項18】
当該液滴吐出ヘッドによって吐出される前記液状材料は、トルエンまたはキシレンを含んでいる請求項17に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−274523(P2010−274523A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129179(P2009−129179)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】