説明

液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置並びに液滴吐出ヘッドの製造方法

【課題】各ノズルからのインク吐出量の安定化や、ノズル及び吐出室の高密度化、多列化が可能な液滴吐出ヘッドを得る。
【解決手段】液滴を吐出する複数のノズル31が形成されたノズル基板30と、ノズル31のそれぞれに連通し、底壁が振動板22となる複数の吐出室21、振動板22のそれぞれに形成された複数の個別電極24、及び個別電極24のそれぞれの間に形成された絶縁層23を有するキャビティ基板20と、少なくとも振動板22と対向する範囲に振動板22を駆動する共通電極11が形成された電極基板10と、キャビティ基板20と電極基板10との間に設けられ、振動板22と共通電極11との間にギャップを形成するスペーサ層15とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出ヘッド、及びその液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置、並びにその液滴吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。インクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合され、ノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、駆動部により吐出室に圧力を加えることによりインク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用するバブルジェット(登録商標)方式等がある。
【0003】
上記の方式のうち、静電気力を利用したインクジェットヘッドとしては、例えば、吐出室の底壁を振動板とし、この振動板に所定のギャップ(空隙)を介して対向する電極をガラス基板上に形成するものがある。この電極は、所定のギャップ長を確保するために、ガラス基板の表面に形成された凹部(以下、電極用凹部という)の底面にITO(Indium Tin Oxide)等の電極材料を成膜することにより形成されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−118127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、インクジェットヘッドに対して、印字、画質等の高品位化の要求が一段と強まっている。このため、各ノズルから吐出されるインクの吐出量が安定しており、ノズルや吐出室を高密度化、多列化することが可能なインクジェットヘッドが望まれている。
【0006】
このような要望を実現するためには、吐出室に対向配置される電極用凹部を高精度に形成する必要がある。例えば、印刷の高品位化のためには、各ノズルから吐出されるインクの吐出量を安定させる必要がある。インク吐出量は吐出室の底壁(振動板)と電極凹部に形成された電極との距離が影響するため、各ノズルから吐出されるインク量を安定させるためには、各電極用凹部の深さ(振動板と電極とのギャップ長)を高精度に形成する必要がある。また、例えば、吐出室やこの吐出室に対向配置される電極用凹部を高密度化するためには、吐出室と電極用凹部とを高精度に位置合わせする必要がある。このためには、電極凹部の幅寸法等や位置を高精度に形成する必要がある。
【0007】
しかしながら、一般に、電極基板の電極用凹部はフッ酸を用いたエッチングによって形成されるため、電極用凹部を高精度に形成することは容易ではない。このため、電極用凹部の形状精度や位置精度のバラツキが大きくなってしまう。したがって、各ノズルからのインク吐出量の安定化や、ノズル及び吐出室の高密度化、多列化の実現が難しいという課題があった。
【0008】
本発明は上述のような課題を解消するためになされたものであり、各ノズルからのインク吐出量の安定化や、ノズル及び吐出室の高密度化、多列化が可能な液滴吐出ヘッド、及びその液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置、並びにその液滴吐出ヘッドの製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出する複数のノズルが形成されたノズル基板と、ノズルのそれぞれに連通し、底壁が振動板となる複数の吐出室、振動板のそれぞれに形成された複数の個別電極、及び個別電極のそれぞれの間に形成された絶縁層を有するキャビティ基板と、少なくとも振動板と対向する範囲に振動板を駆動する共通電極が形成された電極基板と、キャビティ基板と電極基板との間に設けられ、振動板と共通電極との間にギャップを形成するスペーサ層とを備えるものである。
【0010】
本発明によれば、スペーサ層を成膜により形成することで、振動板(個別電極)と共通電極とのギャップ長を高精度に形成することができる。また、従来の電極用凹部に相当するスペーサ層の開口部を高精度に形成することができる。したがって、各ノズルからのインク吐出量の安定化や、ノズル及び吐出室の高密度化、多列化が可能な液滴吐出ヘッドを得ることができる。また、個別電極の間に絶縁層が設けられているので、各個別電極(振動板)間で電気的な導通が起こらず、液滴吐出ヘッドの誤作動を防止できる。
【0011】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、絶縁層の幅が吐出室間の隔壁の幅よりも大きいものである。本発明によれば、各個別電極(振動板)間での電気的な導通を確実に防止することができ、液滴吐出ヘッドの誤作動をさらに防止できる。
【0012】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、共通電極の表面に、個別電極と共通電極との短絡を防止する共通電極側絶縁層が形成されているものである。本発明によれば、平面状となる共通電極の表面に絶縁層を形成しているので、カバレッジ不良等の心配がなく良好な絶縁性を有する絶縁層を形成することができる。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、電極基板のキャビティ基板との対向面には、電極基板とキャビティ基板とを接合した状態において、個別電極と接続する個別電極リード部が形成されているものである。本発明によれば、電極基板とキャビティ基板とを位置合わせして接合するだけで、個別電極と個別電極リード部とを接続することができる。したがって、個別電極とドライバICとの接続が容易となる。
【0014】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。
本発明によれば、上記の液滴吐出ヘッドを搭載しているので、吐出性能がよく、例えば、画像印刷等の用途の場合、高画質化を図ることができる。
【0015】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記の液滴吐出ヘッドの製造方法であって、キャビティ基板の電極基板との対向面に個別電極を形成する工程と、個別電極の間に絶縁層を形成する工程と、電極基板のキャビティ基板との対向面に共通電極及びスペーサ層を成膜する工程と、キャビティ基板と前記電極基板とを接合する工程とを有するものである。本発明によれば、スペーサ層を成膜して形成することができるので、振動板となる個別電極と共通電極とのギャップ長を高精度に形成することができる。また、電極用凹部に相当するスペーサ層の開口部を高精度に形成することができる。したがって、ノズル及び吐出室の高密度化、多列化が可能な液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの分解斜視図である。図2は、この液滴吐出ヘッドの長手方向縦断面図である。図3は、この液滴吐出ヘッドの短手方向縦断面図である。また、図4は、この液滴ヘッドの上面図である。以下、これら図1〜図4を用いて、本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドについて説明する。
なお、図1〜図4では液滴吐出ヘッドの一部を示している。また、図を見やすくするため、図1〜図4では、各構成部材の大きさの関係が実際のものと異なる場合がある。また、図1の上側を上方向、下側を下方向、ノズル31が並んでいる方向を液滴吐出ヘッドの短手方向、各ノズルへの液体の流路が形成されている方向を液滴吐出ヘッドの長手方向として説明する。
【0017】
本実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドはフェイスイジェクト型の液滴吐出ヘッドであり、電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30の3つの基板が下から順に積層されて構成される。例えば電極基板10とキャビティ基板20とは陽極接合により接合されている。また、例えばキャビティ基板20とノズル基板30とはエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合されている。
【0018】
キャビティ基板20は、例えばNiを主要な材料としている。このキャビティ基板20の上面には、吐出室21となる凹部(底壁が振動板22となっている)、及びリザーバ26となるリザーバ凹部が形成されている。これら吐出室21となる凹部及びリザーバ26となるリザーバ凹部はオリフィス27となる凹部で連通している。また、リザーバ26となるリザーバ凹部には、リザーバ26となるリザーバ凹部と後述の液体供給口17とを連通させる貫通孔28が形成されている。
【0019】
キャビティ基板20の下面(電極基板10と対向する面)には、例えば厚さ0.8μmの個別電極24が形成されている。この個別電極24は、吐出室21となる凹部の底壁となっており、振動板22として機能する。なお、個別電極24は、単結晶シリコンにボロンがドープされたボロンドープ層で形成されており、その端部はキャビティ基板20の側縁部まで延設されている。物理的性質に優れる単結晶シリコンで振動板22を形成することにより、半導体プロセスを用いた高精度な加工が実現でき、良好な吐出特性と優れた駆動耐久性を有する液滴吐出ヘッドを実現できる。
【0020】
また、キャビティ基板20の下面には、個別電極24が形成されていない範囲に、絶縁層23となる例えば厚さ0.8μmのSiO2 膜(例えばTEOS膜)が形成されている。つまり、個別電極24の間に、個別電極24と同厚の絶縁層23が形成されている。また、吐出室21間の隔壁と対向する範囲(個別電極24間)の絶縁層23は、吐出室21間の隔壁の幅よりも大きくなっている。なお、本実施の形態1では絶縁層23をSiO2 膜で形成しているが、例えばAl23(酸化アルミニウム(アルミナ))等を用いてもよい(以下の絶縁膜も同様である)。個別電極24及び絶縁層23の上面には、保護層29が形成されている。これにより、個別電極24及び絶縁層23が液体に浸食されることを防止している。保護層29を形成することにより、液体の選択自由度が向上する。なお、このキャビティ基板20は、電鋳法によって保護層29の上面にNiを析出することにより、吐出室21、リザーバ26及びオリフィス27となる凹部が形成されている。
【0021】
電極基板10は、例えば厚さ1mmのホウ珪酸系の耐熱硬質ガラス基板を主要な材料としている。本実施の形態1ではガラス基板とするが、例えば単結晶シリコンを基板とすることもできる。この電極基板10の上面には、少なくとも振動板22と対向する範囲に、共通電極11が形成されている。この共通電極11は、可視光領域で透明のITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を0.1μmの厚さで成膜することにより形成される。なお、共通電極11の材料はITOに限定するものではなく、クロム等の金属等を材料に用いてもよいが、本実施の形態1では、ギャップ内の観察がしやすい、透明であるので放電したかどうかの確認が行い易い等の理由でITOを用いることとする。
【0022】
共通電極11の上面には、共通電極側絶縁層12となる厚さ0.1μmのSiO2 膜が形成されている。これは、振動板22と共通電極11とを電気的に絶縁して、液滴吐出ヘッドを駆動させた時の絶縁膜破壊及び短絡を防止するためである。この共通電極側絶縁層12は一部が開口しており、下方の共通電極11が露出している。この共通電極11の露出部が共通電極端子13となり、共通電極11はドライバIC40に接続されている。
【0023】
共通電極側絶縁層12の上面には、個別電極24とドライバIC40とを接続するための個別電極リード部14が形成されている。個別電極リード部14は、例えば厚さが0.1μmの金属膜(アルミニウム、銅、金とクロムの積層膜等)で形成されている。この個別電極リード部14は、電極基板10とキャビティ基板20とを接合した状態において、一方の端部が個別電極24と接続されており、他方の端部がキャビティ基板20の外部に突出した状態となる。これにより、個別電極24とドライバIC40との接続が容易となっている。
【0024】
また、共通電極側絶縁層12の上面には、個別電極リード部14が形成されていない範囲に、スペーサ層15となる例えば厚さ0.1μmのSiO2 膜が形成されている。また、このスペーサ層15には、吐出室21となる凹部と対向する範囲に開口部16が形成されている。電極基板10とキャビティ基板20とを接合した状態においては、このスペーサ層15の開口部16が振動板22と共通電極11との間にギャップを形成する。つまり、スペーサ層15の厚みがギャップ長となる。また、スペーサ層15の開口部16が、従来の液滴吐出ヘッドの電極用凹部となる。このギャップ長は吐出特性に大きく影響する。なお、本実施の形態1ではスペーサ層15を電極基板10側に形成したが、スペーサ層15をキャビティ基板20の下面に形成してもよい。スペーサ層15をキャビティ基板20の下面に形成することにより、電極基板10とキャビティ基板20とを接合する際の位置合わせが容易となる。また、電極基板10には、外部のタンク(図示せず)から供給された液体をリザーバ26に供給するための液体供給口17が形成されている。
【0025】
ノズル基板30は、例えば厚さ180μmのシリコン基板であり、下面がキャビティ基板20と接合している。このノズル基板30には、吐出室21と連通するノズル31が形成されている。各ノズル31は、振動板22の変位により加圧された液体を液滴として外部に吐出する。本実施の形態1では、吐出した液滴の直進性向上を図るため、ノズル31の孔を複数段で形成している。ここではノズル31を有するノズル基板30を上面とし、電極基板10を下面として説明するが、実際に用いられる場合には、ノズル基板30の方が電極基板10よりも下面になることが多い。
【0026】
(動作説明)
次に、本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの動作について説明する。
外部のタンク(図示せず)から供給された液体は、液体供給口17、貫通孔28、リザーバ26及びオリフィス27を介して吐出室21に貯留される。吐出室21の底壁である個別電極24(振動板22)に電圧を印加することにより、個別電極24(振動板22)が撓む。この個別電極24(振動板22)の撓みによって吐出室21内の圧力を高め、ノズル31から液滴を吐出させる。
【0027】
この個別電極24への電圧の印加はドライバIC40によって制御される。例えば24kHzで発振し、個別電極24に0Vと30Vのパルス電位を印加して電荷供給を行う。個別電極24(振動板22)に電荷を供給して正に帯電させると、共通電極11は相対的に負に帯電し、個別電極24(振動板22)は静電気力により共通電極11に引き寄せられて撓む。これにより吐出室21の容積は広がる。そして共通電極11への電荷供給を止めると個別電極24(振動板22)は元に戻るが、そのときの吐出室21の容積も元に戻るから、その圧力により差分の液滴が吐出し、例えば記録対象となる記録紙に着弾することによって記録が行われる。なお、このような方法は引き打ちと呼ばれるものであるが、バネ等を用いて液滴を吐出する押し打ちと呼ばれる方法もある。なお、ノズル基板30には、個別電極24(振動板22)が撓むことでリザーバ26方向に加わる圧力を緩衝するために、ダイヤフラムを設けてもよい。
【0028】
(製造方法)
本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの製造方法について図5〜図9を参照して説明する。ここでは、電極基板10に単結晶シリコン基板200を接合した後にキャビティ基板20を製造する方法を示す。実際にはシリコンウェハ等から複数個分の液滴吐出ヘッドの部材を同時形成するが、図5〜図9ではその一部分だけを示している。
【0029】
最初に、図5及び図6を用いて、電極基板10の製造方法について説明する。
厚さ1mmの両面鏡面のホウ珪酸系の耐熱硬質ガラス100を用意し、上面に、共通電極11となる厚さ0.1μmのITO膜をスパッタリング法により形成する(図5(a))。共通電極11をスパッタリング法で形成することにより、共通電極11の材料の選択自由度が向上する。その後、共通電極側絶縁層12となる厚さ0.1μmのSiO2 膜をCVD法(Chemical Vapor Deposition)により形成する(図5(b))。共通電極側絶縁層12をCVD法で形成することにより、高密度で絶縁耐圧の高い、良質な絶縁層を形成することができる。
【0030】
次に、個別電極リード部14となる厚さ0.1μmの金属膜101をスパッタリング法により形成する(図5(c))。その後、フォトリソグラフィ法によって、金属膜101に個別電極リード部14の形状をパターニングする。そして、ウェットエッチング等を行い、個別電極リード部14を形成する(図5(d))。次に、CVD法によって、スペーサ層15となる厚さ0.1μmのSiO2 膜102を形成する(図5(e))。その後、フォトリソグラフィ法によって、SiO2 膜102にスペーサ層15の形状をパターニングする。そして、ウェットエッチング等を行い、スペーサ層15を形成する(図6(f))。これにより、開口部16が形成される。
【0031】
次に、フォトリソグラフィ法によって、共通電極側絶縁層12に共通電極端子13の形状をパターニングする。そして、ウェットエッチング等を行い、共通電極端子13を開口する(図6(g))。その後、ドリル等によって耐熱硬質ガラス100を削り、液体供給口17を形成して、電極基板10が完成する(図6(h))。
【0032】
続いて、図7〜図9を用いて、キャビティ基板20及び液滴吐出ヘッドの製造方法について説明する。
被加工基板として、単結晶シリコン基板200を用意する(図7(a))。その後、この単結晶シリコン基板200の下面に、振動板22となる厚さ0.8μmの高濃度ボロンドープ層201を熱拡散法により形成する(図7(b))。次に、ボロンドープ層201の下面にレジストを塗布し、フォトリソグラフィ法によって、個別電極24の形状をパターニングする。そして、ウェットエッチング等を行い、個別電極24の形状をしたレジストマスク202を形成する(図7(c))。その後、ウェットエッチング等を行い、個別電極24を形成する(図7(d))。ここで、単結晶シリコン基板200を電極基板10に接合するまでの間、単結晶シリコン基板200は、個別電極24等を形成する際のサポート基板として機能する。
【0033】
次に、CVD法によって、単結晶シリコン基板200及びレジストマスク202の下面に厚さ0.8μmのSiO2 膜203を形成する(図7(e))。そして、レジストマスク202及びこのレジストマスク202の下面に形成されたSiO2 膜203を剥離して、個別電極24の間に絶縁層23を形成する(図8(f))。絶縁層23は、成膜により形成されているので、個別電極24と同厚に形成することができる。なお、絶縁層23と個別電極24との凹凸が大きい場合は、ケミカルポリッシュ等の研磨を行ってもよい。
【0034】
次に、単結晶シリコン基板200と電極基板10とを、陽極接合により接合する(図8(g))。その後、単結晶シリコン基板200の上面から研削加工及び研磨加工を施し、個別電極24及び絶縁層23が露出するまで薄板化する(図8(h))。なお、単結晶シリコン基板200を薄板化した後は、電極基板10がサポート基板として機能する。次に、個別電極24及び絶縁層23以外の範囲をマスキングし、個別電極24及び絶縁層23の上面に、保護層29となる厚さ0.1μmのTa23(酸化タンタル)膜を形成する(図8(i))。その後、保護層29の上面に、電鋳法によって所望の厚さのNiを析出させ、吐出室21等の隔壁を形成する。これにより、吐出室21、リザーバ26及びオリフィス27となる凹部が形成される(図9(j))。最後に、ピン等により貫通孔28を形成し、単結晶シリコン基板200の上面にノズル基板30を接着剤で接合することにより、液滴吐出ヘッドが完成する(図9(k))。
【0035】
このように構成された液滴吐出ヘッドにおいては、スペーサ層15を成膜により形成することで、振動板22(個別電極24)と共通電極11とのギャップ長を高精度に形成することができる。また、従来の液滴吐出ヘッドの電極用凹部に相当するスペーサ層15の開口部を高精度に形成することができる。また、個別電極24の間に絶縁層23が設けられているので、各個別電極24(振動板22)間で電気的な導通が起こらず、液滴吐出ヘッドの誤作動を防止できる。
【0036】
また、個別電極24間に形成された絶縁層23は吐出室21間の隔壁の幅よりも大きくなっているので、各個別電極24(振動板22)間での電気的な導通をより防止することができ、液滴吐出ヘッドの誤作動をさらに防止できる。
【0037】
また、平面状となる共通電極11の表面に共通電極側絶縁層12を形成しているので、カバレッジ不良等の心配がなく良好な絶縁性を有する共通電極側絶縁層12を形成することができる。
【0038】
また、個別電極24とドライバIC40とを接続する個別電極リード部14が電極基板10に形成されている。このため、電極基板10とキャビティ基板20(単結晶シリコン基板200)とを位置合わせして接合するだけで、個別電極24と個別電極リード部14を接続することができる。したがって、個別電極24とドライバIC40との接続が容易となる。
【0039】
実施の形態2.
図10は、上述の実施の形態1で製造した液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置(プリンタ400)の外観図である。また、図11は、液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。図10及び図11の液滴吐出装置は液滴吐出方式(インクジェット方式)による印刷を目的とする。また、いわゆるシリアル型の装置である。図11において、被印刷物であるプリント紙410が支持されるドラム401と、プリント紙410にインクを吐出し、記録を行う液滴吐出ヘッド402とで主に構成される。また、図示していないが、液滴吐出ヘッド402にインクを供給するためのインク供給手段がある。プリント紙410は、ドラム401の軸方向に平行に設けられた紙圧着ローラ403により、ドラム401に圧着して保持される。そして、送りネジ404がドラム401の軸方向に平行に設けられ、液滴吐出ヘッド402が保持されている。送りネジ404が回転することによって液滴吐出ヘッド402がドラム401の軸方向に移動するようになっている。
【0040】
一方、ドラム401は、ベルト405等を介してモータ406により回転駆動される。また、プリント制御手段407は、印画データ及び制御信号に基づいて送りネジ404、モータ406を駆動させる。また、ここでは図示していないが、実施の形態1で説明したようにドライバIC40から個別電極24電圧を印加し、各振動板22を振動させ、液体(インク)を吐出しながらプリント紙410に印刷を行う。
【0041】
ここでは液体をインクとしてプリント紙410に吐出するようにしているが、液滴吐出ヘッドから吐出する液体はインクに限定されない。例えば、カラーフィルタとなる基板に吐出させる用途においては、カラーフィルタ用の顔料を含む液体、有機化合物等の電界発光素子を用いた表示パネル(OLED等)の基板に吐出させる用途においては、発光素子となる化合物を含む液体、基板上に配線する用途においては、例えば導電性金属を含む液体を、それぞれの装置において設けられた液滴吐出ヘッドから吐出させるようにしてもよい。また、液滴吐出ヘッドをディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids:デオキシリボ核酸)、他の核酸(例えば、Ribo Nucleic Acid:リボ核酸、Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸等)タンパク質等のプローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。その他、布等の染料の吐出等にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの長手方向縦断面図である。
【図3】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの短手方向縦断面図である。
【図4】実施の形態1に係る液滴ヘッドの上面図である。
【図5】実施の形態1に係る電極基板の製造工程を示す断面図である。
【図6】図5に続く製造工程を示す断面図である。
【図7】実施の形態1に係るキャビティ基板及び液滴吐出ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図8】図7に続く製造工程を示す断面図である。
【図9】図8に続く製造工程を示す断面図である。
【図10】液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置の外観図である。
【図11】液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0043】
10 電極基板、11 共通電極、12 共通電極側絶縁層、13 共通電極端子、14 個別電極リード部、15 スペーサ層、16 開口部、17 液体供給口、20 キャビティ基板、21 吐出室、22 振動板、23 絶縁層、24 個別電極、26 リザーバ、27 オリフィス、28 貫通孔、29 保護層、30 ノズル基板、31 ノズル、40 ドライバIC、100 耐熱硬質ガラス、101 金属膜、102 SiO2 膜、200 単結晶シリコン基板、201 ボロンドープ層、202 レジストマスク、203 SiO2 膜、400 プリンタ、401 ドラム、402 液滴吐出ヘッド、403 紙圧着ローラ、404 送りネジ、405 ベルト、406 モータ、407 プリント制御手段、410 プリント紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズルが形成されたノズル基板と、
前記ノズルのそれぞれに連通し、底壁が振動板となる複数の吐出室、前記振動板のそれぞれに形成された複数の個別電極、及び前記個別電極のそれぞれの間に形成された絶縁層を有するキャビティ基板と、
少なくとも前記振動板と対向する範囲に前記振動板を駆動する共通電極が形成された電極基板と、
前記キャビティ基板と前記電極基板との間に設けられ、前記振動板と前記共通電極との間にギャップを形成するスペーサ層と、
を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記絶縁層の幅は、前記吐出室の隔壁の幅よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記共通電極の表面に、前記個別電極と前記共通電極との短絡を防止する共通電極側絶縁層が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記電極基板の前記キャビティ基板との対向面には、
前記電極基板と前記キャビティ基板とを接合した状態において、前記個別電極と接続する個別電極リード部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記キャビティ基板の前記電極基板との対向面に前記個別電極を形成する工程と、
前記個別電極の間に前記絶縁層を形成する工程と、
前記電極基板の前記キャビティ基板との対向面に前記共通電極及び前記スペーサ層を成膜する工程と、
前記キャビティ基板と前記電極基板とを接合する工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−36466(P2010−36466A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202303(P2008−202303)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】