液相拡散接合用Agペースト、および、この液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュール用基板の製造方法
【課題】アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を確実に接合することが可能な液相拡散接合用Agペースト、および、この液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュール用基板の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を液相拡散接合する際に使用される液相拡散接合用Agペーストであって、AgおよびCuを含む金属粉末成分と、樹脂と、溶剤と、を含み、前記金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内に設定されていることを特徴とする。
【解決手段】アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を液相拡散接合する際に使用される液相拡散接合用Agペーストであって、AgおよびCuを含む金属粉末成分と、樹脂と、溶剤と、を含み、前記金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内に設定されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を液相拡散接合によって接合する際に用いられる液相拡散接合用Agペースト、および、この液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュール用基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム部材を接合する際に使用される接合剤としては、例えば、特許文献1,2に示すようなAl−Si系のろう材ペーストが広く用いられている。
また、特許文献3に記載されているように、液相拡散焼結法によって金属部材同士を接合する高温はんだペーストが提案されている。
【0003】
ところで、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を接合して構成される製品としては、例えば、セラミックス基板とアルミニウム板とを接合して形成されたパワーモジュール用基板が挙げられる。
パワーモジュール用基板においては、例えばAlN(窒化アルミ)からなるセラミックス基板上にAl(アルミニウム)の金属板が接合された構造とされている。この金属板は回路層とされ、回路層の上には、はんだ材を介してパワー素子としての半導体素子が搭載される。また、セラミックス基板の下面にも放熱のためにAl等の金属板が接合されて金属層とされ、この金属層を介してヒートシンクが接合されたものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−175065号公報
【特許文献2】特開2006−239724号公報
【特許文献3】特表2010−516478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきている。また、電子部品からの発熱量が大きくなる傾向にあり、前述のように、ヒートシンク上にパワーモジュール用基板を配設する必要がある。この場合、パワーモジュール用基板がヒートシンクによって拘束されるために、熱サイクル負荷時に、金属板とセラミックス基板との接合界面に大きなせん断力が作用することになり、従来にも増して、セラミックス基板と金属板との間の接合強度の向上および信頼性の向上が求められている。
【0006】
ここで、特許文献1,2に記載されているように、Al−Si系のろう材ペーストを用いてセラミックス基板と金属板とを接合した場合には、セラミックス基板と金属板との接合強度を十分に向上させることができないといった問題があった。接合強度を向上させるためには、Si量を増加させたり、ろう材量を多くしたり、ろう付け時間を長くしたりして、加熱時に発生する液相領域を増加させる必要がある。しかしながら、このように液相領域を増加させた場合には、余剰の液相が接合界面から滲み出して、いわゆる「ろうこぶ」が発生する。ろうこぶを有するパワーモジュール用基板に冷熱サイクルを負荷した場合には、ろうこぶを起点としてセラミックス基板に割れが発生するおそれがあった。
【0007】
また、特許文献3に記載されているように、液相拡散焼結する高温はんだペーストを用いてセラミックス基板と金属板とを接合した場合には、焼結されたはんだ層がセラミックス基板と金属板との界面に介在することになる。すると、セラミックス基板と金属板との界面に応力が作用した際に、はんだ層に亀裂が生じるおそれがある。
このように、従来の接合方法では、セラミックス基板と金属板との接合強度を十分に向上させることができなかった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を確実に接合することが可能な液相拡散接合用Agペースト、および、この液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の液相拡散接合用Agペーストは、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を液相拡散接合する際に使用される液相拡散接合用Agペーストであって、AgおよびCuを含む金属粉末成分と、樹脂と、溶剤と、を含み、前記金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内に設定されていることを特徴とする。
【0010】
この構成の液相拡散接合用Agペーストによれば、金属粉末成分としてAgおよびCuを含んでいることから、金属部材の接合界面にAgおよびCuとを介在させることが可能となる。ここで、AgおよびCuは、アルミニウムの融点を降下させる元素である。よって、金属部材の接合界面に介在されたAgおよびCuを金属部材内部へと拡散させることによって、金属部材の接合界面近傍の融点を低下させて液相を生成させ、さらに、この液相中のAgおよびCuをさらに金属部材内部へと拡散させることで融点を上昇させ、液相を凝固させて接合することが可能となる。すなわち、金属部材を液相拡散接合によって接合することができるのである。
【0011】
また、Cuは、金属部材の接合界面近傍に拡散して固溶することで金属部材を強化する作用を有しており、金属部材の接合強度を向上させることが可能となる。さらに、Cuは、ろうこぶの発生を抑える作用効果を有する。よって、ろうこぶを起因とした接合性の劣化を未然に防止することができる。
【0012】
液相拡散接合用Agペーストにおいて、金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが1/9より低くなると、Cu量が不足してしまい、接合強度を十分に向上できなくなるおそれがある。また、ろうこぶが発生しやすくなる。また、金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが4/6より高くなると、Cuの酸化物がペースト内に過剰に混入し、接合が阻害されるおそれがある。
そこで、本発明では、金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agを、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内に設定しているのである。
【0013】
なお、金属粉末成分としては、Ag粉とCu粉とを混合したものであってもよいし、Ag−Cu合金粉であってもよい。また、Ag粉をCuでコーティングしたもの、あるいは、Cu粉をAgでコーティングしたものであってもよい。さらに、これらの混合粉末としてもよい。
【0014】
ここで、Cuを還元する還元剤を含有することが好ましい。
この場合、ペースト中に混入したCuの酸化物を還元することができる。よって、Cuの酸化物による接合強度の劣化を抑制することができる。
【0015】
また、前記金属粉末成分の配合量が、40質量%以上90質量%以下とされていることが好ましい。
この場合、前記金属粉末成分の配合量が、40質量%以上とされているので、上述のように液相拡散接合を確実に行うことができる。また、前記金属粉末成分の配合量が、90質量%以下とされているので、ペースト自体の流動性が確保され、金属部材の接合界面にこのペーストを容易に塗布することができる。
【0016】
ここで、前記樹脂を、アクリル系樹脂としてもよい。
アクリル系樹脂は、真空雰囲気や不活性ガス雰囲気であっても、熱分解によって除去されるものである。よって、金属部材の接合界面に塗布した状態で、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気で加熱することで、樹脂を除去する工程と液相拡散接合を実施する工程とを一度に実施することが可能となる。
【0017】
あるいは、前記樹脂を、エチルセルロースとしてもよい。
エチルセルロースは、例えば300〜500℃といった比較的低い温度で燃焼して除去される。よって、大気雰囲気での焼成時にCuが酸化することを抑制することが可能となる。
【0018】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板の接合面および前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に、前述の液相拡散接合用Agペーストを塗布するペースト塗布工程と、前記セラミックス基板と前記金属板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、AgおよびCuを前記金属板に向けて拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、前記溶融金属領域を形成することを特徴としている。
【0019】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、前記セラミックス基板の接合面および前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に、前述の液相拡散接合用Agペーストを塗布するペースト塗布工程を備えているので、前記金属板と前記セラミックス基板の接合界面には、AgおよびCuが介在することになる。ここで、AgおよびCuは、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、比較的低温な条件においても、金属板とセラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成することができる。
よって、比較的低温、短時間の接合条件で接合しても、セラミックス基板と金属板とを強固に接合することが可能となる。
【0020】
また、Cuを有しているので、接合強度を確実に向上させることが可能となる。さらに、ろうこぶの発生を抑制することができる。よって、セラミックス基板と金属板との接合信頼性を大幅に向上させることができる。
さらに、AgおよびCuを用いた液相拡散接合によって、セラミックス基板と金属板とを接合しているので、セラミックス基板と金属板とが直接接合することになる。
【0021】
ここで、液相拡散接合用Agペーストを大気雰囲気で焼成する焼成工程を備えていてもよい。
この場合、液相拡散接合用Agペーストに含まれる樹脂等を大気雰囲気で燃焼させて除去することができ、セラミックス基板と金属板との界面に確実にAgおよびCuを介在させることができる。
【0022】
また、前記液相拡散接合用Agペーストは、樹脂としてアクリル系樹脂を用いた構成とされており、前記加熱工程において、液相拡散接合用Agペーストを焼成する構成としてもよい。
この場合、前記液相拡散接合用Agペーストは、樹脂としてアクリル系樹脂を用いた構成とされているので、樹脂を熱分解させることで除去することが可能となる。よって、大気雰囲気での液相拡散接合用Agペーストの焼成を省略することができ、簡単に、パワーモジュール用基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を確実に接合することが可能な液相拡散接合用Agペースト、および、この液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュール用基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第一の実施形態である液相拡散接合用Agペーストの製造方法を示すフロー図である。
【図2】本発明の第一の実施形態である液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図3】本発明の第一の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図4】本発明の第一の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図5】図4における金属板とセラミックス基板との接合界面近傍を示す説明図である。
【図6】本発明の第一の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図7】本発明の第二の実施形態である液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュールの概略説明図である。である。
【図8】本発明の第二の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図9】本発明の第二の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図10】塗布された液相拡散接合用Agペースト中のAg量およびCu量を膜厚換算する方法を示す説明図である。
【図11】ろうこぶ率を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態である液相拡散接合用Agペーストおよびこの液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュール用基板の製造方法について添付した図面を参照して説明する。
【0026】
まず、本実施形態である液相拡散接合用Agペーストについて説明する。なお、本実施形態では、液相拡散接合用Agペーストを「Agペースト」と称して説明する。
このAgペーストは、AgおよびCuを含む金属粉末成分と、樹脂と、溶剤と、分散剤と、可塑剤と、還元剤と、を含有するものであり、金属粉末成分の含有量が、Agペースト全体の40質量%以上90質量%以下とされている。
また、本実施形態では、Agペーストの粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0027】
AgおよびCuを含む金属粉末成分として、本実施形態では、銀粉末と銅粉末との混合粉末を用いている。
そして、銀粉末と銅粉末との混合粉末(金属粉末成分)におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内とされており、本実施形態では、Cu/Ag=3/7に設定されている。
【0028】
銀粉末は、その粒径が0.05μm以上2.0μm以下とされており、本実施形態では、平均粒径0.2μmのものを使用した。
銅粉末は、その粒径が0.05μm以上5.0μm以下とされており、本実施形態では、平均粒径1.0μmのものを使用した。
なお、銀粉末および銅粉末の平均粒径は、例えば、マイクロトラック法を用いることで測定することができる。本実施形態では、d50(メジアン径)を平均粒径とした。
【0029】
樹脂は、Agペーストの粘度を調整するものであり、例えば、アクリル樹脂、アルキッド樹脂等を適用することができる。なお、本実施形態では、エチルセルロースを用いている。
【0030】
溶剤は、例えば、タピネオール系、アセテート系、シトレート系等を用いることができる。より具体的には、α−テルピネオール、テキサノ−ル、トリエチルシトレート等を適用できる。なお、本実施形態では、α−テルピネオールを用いている。
【0031】
分散剤は、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等を適用することができる。なお、本実施形態では、アニオン性界面活性剤を用いている。
可塑剤は、例えば、フタル酸ジブチル、アジピン酸ジブチル等を適用することができる。なお、本実施形態では、フタル酸ブチルを用いている。
還元剤は、例えば、ロジン、アビエチン酸等を適用することができる。なお、本実施形態では、アビエチン酸を用いている。
なお、分散剤、可塑剤、還元剤は、必要に応じて添加すればよく、分散剤、可塑剤、還元剤を添加することなくAgペーストを構成してもよい。
【0032】
次に、本実施形態であるAgペーストの製造方法について、図1に示すフロー図を参照して説明する。
まず、前述した銀粉末と銅粉末とを混合して混合粉末を生成する(混合粉末形成工程S1)。また、溶剤と樹脂とを混合して有機混合物を生成する(有機物混合工程S2)。
そして、混合粉末形成工程S1で得られた混合粉末と、有機物混合工程S2で得られた有機混合物と、分散剤、可塑剤、還元剤等の副添加剤と、をミキサーによって予備混合する(予備混合工程S3)。
次いで、予備混合物を、複数のロールを有するロールミル機を用いて練り込みながら混合する(混錬工程S4)。
混錬工程S4によって得られた混錬物を、ペーストろ過機によってろ過する(ろ過工程S5)。
このようにして、本実施形態であるAgペーストが製出されることになる。
【0033】
次に、本実施形態であるAgペーストを用いて構成されたパワーモジュールについて、図2を用いて説明する。
図2に示すパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク40とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiめっき層(図示なし)が設けられている。
【0034】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図2において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図2において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0035】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に、金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、回路層12と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
そして、セラミックス基板11と回路層12との接合、および、セラミックス基板11と金属層13との接合に、本実施形態であるAgペーストが使用されている。
【0036】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものである。本実施形態におけるヒートシンク40は、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と、この天板部41に対向するように配置された底板部45と、天板部41と底板部45との間に介装されたコルゲートフィン46と、を備えており、天板部41と底板部45とコルゲートフィン46とによって、冷却媒体が流通する流路42が画成されている。
【0037】
ここで、このヒートシンク40は、天板部41とコルゲートフィン46、コルゲートフィン46と底板部45が、それぞれろう付けされることによって構成されている。本実施形態では、図6に示すように、天板部41および底板部45は、基材層41A、45Aと、基材層41A、45Aよりも融点の低い材料からなる接合層41B、45Bが積層された積層アルミ板で構成されており、接合層41B、45Bがコルゲートフィン46側を向くように、天板部41および底板部45が配設されている。なお、本実施形態では、基材層41A、45AがA3003合金で構成されており、接合層41B、45BがA4045合金で構成されている。
【0038】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板10の製造方法およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について、図3から図6を参照して説明する。
【0039】
(Agペースト塗布工程S11)
まず、図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面および他方の面に、スクリーン印刷によって、前述の本実施形態であるAgペーストを塗布し、Agペースト層24a、25aを形成する。なお、Agペースト層24a,25aの厚さは、乾燥後で約0.02〜200μmとされている。
このとき、塗布されたAgペースト中のAg量は、0.1〜10mg/cm2の範囲内とされ、Cu量は、0.01〜4mg/cm2の範囲内とされている。
【0040】
(Agペースト焼成工程S12)
次に、Agペースト層24a、25aを形成したセラミックス基板11を、大気雰囲気で加熱し、樹脂を燃焼させて除去することにより、Ag焼成層24,25を形成する。本実施形態では、樹脂としてエチルセルロースを用いているので、500℃以下の温度で焼成を実施することが可能となる。
なお、このAgペースト焼成工程S12においては、Ag焼成層24、25がセラミックス基板11上に固定されていればよく、セラミックス基板11とAg焼成層24、25とが強固に密着させる必要はない。
【0041】
(積層工程S13)
次に、金属板22をセラミックス基板11の一方の面側に積層し、かつ、金属板23をセラミックス基板11の他方の面側に積層する。
【0042】
(加熱工程S14)
次いで、金属板22、セラミックス基板11、金属板23を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱する。すると、図5に示すように、Ag焼成層24,25のAgおよびCuが金属板22、23に向けて拡散し、金属板22、23とセラミックス基板11との界面に、溶融金属領域27,28が形成される。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0043】
(凝固工程S15)
次に、溶融金属領域27,28が形成された状態で温度を一定に保持しておき、溶融金属領域27,28中のAgおよびCuを、さらに金属板22、23に向けて拡散させる。すると、溶融金属領域27,28であった部分のAg濃度およびCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、セラミックス基板11と金属板22、23とは、いわゆる拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このように凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。なお、凝固工程S15が終了した後では、Ag焼成層24,25のAgおよびCuが十分に拡散されており、セラミックス基板11と金属板22,23との接合界面にAg焼成層24,25が残存することはない。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製出される。
【0044】
(ヒートシンク積層工程S16)
次に、パワーモジュール用基板10の金属層13の他方の面側に、ヒートシンク40を構成する天板部41、コルゲートフィン46、底板部45を積層する。このとき、金属層13の他方の面に、前述のAgペーストを塗布して焼成し、Ag焼成層26を形成しておく。
また、天板部41の接合層41Bおよび底板部45の接合層45Bがコルゲートフィン46側を向くように、天板部41および底板部45を積層する。
【0045】
(ヒートシンク加熱工程S17)
次に、積層されたパワーモジュール用基板10、天板部41、コルゲートフィン46および底板部45を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で、雰囲気加熱炉内に装入して加熱し、Ag焼成層26のAgを金属板23および天板部41に向けて拡散させ、金属層13とヒートシンク40の天板部41との間に溶融金属領域を形成する。同時に、天板部41とコルゲートフィン46、底板部45とコルゲートフィン46との間にも、接合層41B、45Bを溶融させて溶融金属領域を形成する。
ここで、本実施形態では、雰囲気加熱炉内は、窒素ガス雰囲気とされており、加熱温度は550℃以上630℃以下の範囲内に設定している。
【0046】
(溶融金属凝固工程S18)
その後、冷却して金属層13とヒートシンク40の天板部41との間に形成された溶融金属領域を凝固させることによって、金属層13と天板部41とが接合される。また、天板部41とコルゲートフィン46、底板部45とコルゲートフィン46の間に形成された溶融金属領域を凝固させることによって、天板部41とコルゲートフィン46、底板部45とコルゲートフィン46とが接合される。
【0047】
このようにして、天板部41とコルゲートフィン46と底板部45とがろう付けされてヒートシンク40が形成されるとともに、このヒートシンク40とパワーモジュール用基板10とが接合されてヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0048】
このような構成とされた本実施形態であるAgペーストおよびこのAgペーストを用いたパワーモジュール用基板10の製造方法によれば、金属粉末成分であるAgおよびCuをセラミックス基板11と金属板22,23との界面に介在させることができ、これらAgおよびCuを金属板22,23側へと拡散させることで、溶融金属領域27,28を形成して凝固させることができる。すなわち、液相拡散接合により、セラミックス基板11と金属板22,23とを接合することが可能となる。このように、液相拡散接合を行うことにより、セラミックス基板11と回路層12,金属層13との接合界面には、Agペーストの焼成層が残存しないため、このパワーモジュール用基板10の接合信頼性を向上させることができる。
【0049】
また、金属粉末成分としてCuを含有しているので、このCuが回路層12,金属層13のセラミックス基板11との接合界面近傍に固溶し、強度が向上することになる。よって、冷熱サイクルが作用した場合であっても接合界面における回路層12、金属層13の亀裂の発生を防止することができる。
さらに、Cuは、ろうこぶの発生を抑制する効果を有することから、ろうこぶを起点としたセラミックス基板11の割れを未然に防止することができる。
【0050】
また、本実施形態のAgペーストでは、金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agを、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内とし、より具体的には、Cu/Ag=3/7に設定しているので、Cu量が十分に確保されて上述の作用効果を確実に奏功せしめることができるとともに、Agペースト内へのCu酸化物の混入が抑えられ、接合を良好に行うことができる。
さらに、本実施形態では、AgペーストにCuを還元する還元剤として、アビエチン酸が添加されていることから、ペースト中に混入したCuの酸化物を還元することができ、Cuの酸化物による接合強度の劣化を抑制することができる。
【0051】
また、銀粉末と銅粉末からなる金属粉末成分の配合量が、Agペースト全体の40質量%以上90質量%以下とされているので、液相拡散接合を確実に行うことができるとともに、Agペーストの流動性が確保され、セラミックス基板11にスクリーン印刷等で容易に塗布することができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、樹脂としてエチルセルロースを用いているので、大気雰囲気において300〜500℃といった比較的低い温度で燃焼して除去でき、Ag焼成層24、25を形成できる。よって、Agペースト焼成工程S12において、銅粉末が酸化することを抑制することができる。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
本実施形態であるAgペーストは、AgおよびCuを含む金属粉末成分と、樹脂と、溶剤と、分散剤と、可塑剤と、還元剤と、を含有するものであり、金属粉末成分の含有量が、Agペースト全体の40質量%以上90質量%以下とされている。
また、Agペーストの粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0054】
AgおよびCuを含む金属粉末成分として、本実施形態では、銀粉末に銅をコーティングした粉末を用いている。
そして、金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内とされており、本実施形態では、Cu/Ag=3/7に設定されている。
【0055】
そして、本実施形態では、樹脂として、アクリル樹脂を用いている。また、溶剤として、テキサノールを用いている。
なお、分散剤、可塑剤、還元剤は、第一の実施形態と同様のものを用いている。
【0056】
次に、本実施形態であるAgペーストを用いて構成されたパワーモジュールについて、図7を用いて説明する。
このパワーモジュール101は、回路層112が配設されたパワーモジュール用基板110と、回路層112の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク140とを備えている。
【0057】
パワーモジュール用基板110は、絶縁層を構成するセラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(図7において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(図7において下面)に配設された金属層113とを備えている。
セラミックス基板111は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いSi3N4(窒化珪素)で構成されている。また、セラミックス基板111の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0058】
回路層112は、セラミックス基板111の一方の面に、導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層112は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板111に接合されることにより形成されている。
金属層113は、セラミックス基板111の他方の面に、金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板111に接合されることで形成されている。
そして、セラミックス基板111と回路層112との接合、および、セラミックス基板111と金属層113との接合に、本実施形態であるAgペーストが使用されている。
【0059】
ヒートシンク140は、前述のパワーモジュール用基板110を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板110と接合される天板部141と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路142とを備えている。ヒートシンク140(天板部141)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0060】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板110の製造方法およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について、図8および図9を参照して説明する。
【0061】
(Ag層形成工程S121/Agペースト塗布工程S111)
まず、図9に示すように、セラミックス基板111の一方の面および他方の面に、スクリーン印刷によって、前述の本実施形態であるAgペーストを塗布し、Agペースト層124a、125aを形成する(Agペースト塗布工程S111)。
また、ヒートシンク140の天板部141の一方の面にも、本実施形態であるAgペーストを塗布し、Agペースト層126aを形成する。(Ag層形成工程S121)
なお、Agペースト層124a,125a、126aの厚さは、乾燥後で約0.02〜200μmとされている。
このとき、塗布されたAgペースト中のAg量は、0.1〜10mg/cm2の範囲内とされ、Cu量は、0.01〜4mg/cm2の範囲内とされている。
【0062】
(ヒートシンク積層工程S122/セラミックス基板積層工程S112)
次に、図9に示すように、第一の金属板122をセラミックス基板111の一方の面側に積層する。また、第二の金属板123をセラミックス基板111の他方の面側に積層する(セラミックス基板積層工程S112)。
さらに、第二の金属板123の他方の面側に、ヒートシンク140を積層する(ヒートシンク積層工程S122)。
【0063】
(ヒートシンク加熱工程S123/セラミックス基板加熱工程S113)
次に、第一の金属板122、セラミックス基板111、第二の金属板123、ヒートシンク140を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱する。本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
このとき、Agペースト層124a,125a、126aに含まれるアクリル樹脂が熱分解によって除去されることになり、Agペースト層124a,125a、126aが焼成されてAg焼成層124、125,126が形成される。
【0064】
そして、Ag焼成層124のAgおよびCuを第一の金属板122に向けて拡散させることにより、第一の金属板122とセラミックス基板111との界面に第一溶融金属領域を形成する。また、Ag焼成層125のAgおよびCuを第二の金属板123に向けて拡散させることにより、第二の金属板123とセラミックス基板111との界面に第二溶融金属領域を形成する(セラミックス基板加熱工程S113)。
さらに、Ag焼成層126のAgおよびCuを第二の金属板123およびヒートシンク140に向けて拡散させることにより、第二の金属板123とヒートシンク140との間に溶融金属領域を形成する。(ヒートシンク加熱工程S123)。
【0065】
(溶融金属凝固工程S124/第一溶融金属および第二溶融金属凝固工程S114)
次に、溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておく。
すると、第二の金属板123とヒートシンク140との界面に形成された溶融金属領域中のAgおよびCuが、さらに第二の金属板123およびヒートシンク140に向けて拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域であった部分のAg濃度およびCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる(溶融金属凝固工程S124)。
【0066】
同様に、第一溶融金属領域中のAgおよびCuが、さらに第一の金属板122に向かって拡散していく。また、第二溶融金属領域中のAgおよびCuが、さらに第二の金属板123に向かって拡散していく。すると、第一溶融金属領域、第二溶融金属領域であった部分のAg濃度およびCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる(第一溶融金属および第二溶融金属凝固工程S114)。
このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0067】
以上のようにして、回路層112となる第一の金属板122とセラミックス基板111とが接合され、金属層113となる第二の金属板123とセラミックス基板111とが接合されて本実施形態であるパワーモジュール用基板110が製造されるとともに、第二の金属板123とヒートシンク140とが接合され、ヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0068】
このような構成とされた本実施形態であるAgペーストおよびこのAgペーストを用いたパワーモジュール用基板110の製造方法によれば、第一の実施形態と同様に、金属粉末成分としてAgおよびCuを含有しているので、セラミックス基板111と回路層112、金属層113とを強固に接合することができ、接合信頼性に優れたパワーモジュール用基板110を製造することができる。
【0069】
そして、本実施形態では、Agペーストの樹脂としてアクリル樹脂を用いているので、真空雰囲気であってもアクリル樹脂を熱分解によって除去することが可能となる。よって、真空雰囲気でのセラミックス基板加熱工程S113において、Agペーストの焼成を実施することができ、大気雰囲気での加熱による焼成工程を省略することができる。
【0070】
また、本実施形態では、セラミックス基板111と第一の金属板122および第二の金属板123との接合と、第二の金属板123とヒートシンク140との接合とを、同時に行う構成としているので、これらの接合に掛かるコストを大幅に削減することができる。また、セラミックス基板111に対して繰り返し加熱、冷却を行わずに済むので、このヒートシンク付パワーモジュール用基板の反りの低減を図ることができ、高品質なヒートシンク付パワーモジュール用基板を製出することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、セラミックス基板とアルミニウムからなる金属板とを接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を接合する際に、本発明の液相拡散接合用Agペーストを用いてもよい。
【0072】
金属粉末成分として、銀粉末と銅粉末の混合粉末、銀粉末に銅をコーティングした粉末を例にあげて説明したが、これに限定されることはなく、Ag−Cu合金粉末等を用いてもよい。
樹脂として、エチルセルロール、アクリル樹脂を例にあげて説明したが、これに限定されることはなく、他の樹脂を用いてもよい。
溶剤として、テキサノール、α―テルピネオールを例にあげて説明したが、これに限定されることはなく、他の溶剤を用いてもよい。
また、分散剤、可塑剤、還元剤についても、本実施形態に例示された以外のものを適用してもよい。
【0073】
さらに、回路層および金属層を構成する金属板を純度99.99%の純アルミニウムの圧延板としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、純度99%のアルミニウム(2Nアルミニウム)であってもよく、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されていればよい。
また、パワーモジュールおよびパワーモジュール用基板の構成は、本実施形態に限定されるものではなく、他の構造のものであってもよい。
【0074】
さらに、本実施形態では、ヒートシンクとパワーモジュール用基板との接合にも、Agペーストを使用するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Al−Si系のろう材を使用してヒートシンクとパワーモジュール用基板とを接合してもよい。
【実施例】
【0075】
本発明の有効性を確認するために行った比較実験について説明する。
表1に示す条件で、液相拡散接合用Agペーストを作成した。なお、金属粉末成分として、銀粉末および銅粉末を用いた。ここで、銀粉末は、三井金属鉱業株式会社及び田中貴金属工業株式会社製を使用した。また、銅粉末は、三井金属鉱業株式会社及び株式会社高純度化学研究所 を使用した。
【0076】
また、分散剤としてアニオン性界面活性剤を、可塑剤としてアジピン酸ジブチルを、還元剤としてアビエチン酸を用いた。
金属粉末成分以外の樹脂、溶剤、分散剤、可塑剤、還元剤の混合比率は、質量比で、樹脂:溶剤:分散剤:可塑剤:還元剤=7:70:3:5:15とした。
【0077】
【表1】
【0078】
この表1に示す液相拡散接合用Agペーストを用いて、セラミックス基板とアルミニウム板とを接合して、パワーモジュール用基板を製作した。なお、アルミニウム板として純度99.99%以上の4Nアルミの圧延板を使用した。
また、ヒートシンクとしてA6063からなるアルミニウム板を、パワーモジュール用基板の金属層側に接合した。
表2に、セラミックス基板、回路層、金属層、ヒートシンクのサイズ、セラミックス基板の材質を示す。
【0079】
【表2】
【0080】
セラミックス基板とアルミニウム板との界面、および、アルミニウム板とヒートシンクとの界面に、表1に示す液相拡散接合用Agペーストを塗布し、焼成した。塗布された液相拡散接合用AgペーストにおけるAgおよびCuの固着量と膜厚換算量、焼成条件を表3に示す。
膜厚換算は、蛍光X線膜厚計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製STF9400)を用いて、塗布した液相拡散接合用Agペーストに対し、図10に示す箇所(9点)を各3回測定した平均値とした。なお、予め膜厚が既知のサンプルを測定して蛍光X線強度と濃度の関係を求めておき、その結果を基準として、各試料において測定された蛍光X線強度から膜厚を決定した。
【0081】
【表3】
【0082】
そして、表4に示す条件でセラミックス基板とアルミニウム板とを接合し、パワーモジュール用基板およびヒートシンク付パワーモジュール用基板を作成した。
なお、接合回数が「1回」のものは、セラミックス基板、アルミニウム板、ヒートシンクを同時に接合したものである。また、接合回数が「2回」のものは、セラミックス基板とアルミニウム板とを接合してパワーモジュール用基板を製作した後にヒートシンクを接合したものである。
ここで、接合は、真空加熱炉を用いて行い、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に設定した。
【0083】
上述のようにして得られたパワーモジュール用基板について、初期ボイド率、ろうこぶ率、冷熱サイクル負荷後の接合率、を評価した。評価結果を表4に示す。
初期ボイド率は、接合直後のパワーモジュール用基板を用いて、以下の式で算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積のこととした。
初期ボイド率 = 初期ボイド面積/初期接合面積
【0084】
ろうこぶ率は、接合直後のパワーモジュール用基板を用いて、以下の式で算出した。なお、図11に示すように、変質部Z1とは、接合面内において変質が確認された部分である。また、ろうこぶZ2は、接合面からはみ出したものである。
ろうこぶ率 = (ろうこぶの面積+変質部の面積)/セラミックス基板の面積
【0085】
冷熱サイクル負荷後の接合率は、冷熱サイクル(−45℃−125℃)を2000回繰り返した後のパワーモジュール用基板を用いて、以下の式で算出した。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0086】
【表4】
【0087】
金属粉末成分としてCuを含有しておらず、かつ、金属粉末成分が80質量%とされた比較例1においては、ろうこぶの発生が顕著であった。また、冷熱サイクル後には、このろうこぶを起点としてセラミックス割れが認められた。
金属粉末成分としてCuを含有しておらず、かつ、金属粉末成分が40質量%とされた比較例2においては、ろうこぶの発生は抑えられているものの、冷熱サイクル後の接合率が65%以下と低くなっている。
【0088】
金属粉末成分におけるCuとAgの質量比Cu/Agが50/50とされた比較例3および質量比Cu/Agが80/20とされた比較例4においては、初期ボイド率が高く、接合の初期段階で十分に接合していないことが確認された。これは、銅の酸化物に起因するものであると推測される
【0089】
これに対して、本発明例1−20においては、初期ボイド率、ろうこぶ率、冷熱サイクル負荷後の接合率のいずれも良好な値を示していることが確認される。
また、樹脂としてアクリル樹脂を用いた本発明例1〜8、13〜16においては、大気雰囲気での焼成を行うことなく、窒素ガス雰囲気でも焼成が行われており、良好に接合することができた。
【符号の説明】
【0090】
1、101 パワーモジュール
2 はんだ層
3 半導体チップ(半導体素子)
10、110 パワーモジュール用基板
12、112 回路層
13、113 金属層
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を液相拡散接合によって接合する際に用いられる液相拡散接合用Agペースト、および、この液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュール用基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム部材を接合する際に使用される接合剤としては、例えば、特許文献1,2に示すようなAl−Si系のろう材ペーストが広く用いられている。
また、特許文献3に記載されているように、液相拡散焼結法によって金属部材同士を接合する高温はんだペーストが提案されている。
【0003】
ところで、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を接合して構成される製品としては、例えば、セラミックス基板とアルミニウム板とを接合して形成されたパワーモジュール用基板が挙げられる。
パワーモジュール用基板においては、例えばAlN(窒化アルミ)からなるセラミックス基板上にAl(アルミニウム)の金属板が接合された構造とされている。この金属板は回路層とされ、回路層の上には、はんだ材を介してパワー素子としての半導体素子が搭載される。また、セラミックス基板の下面にも放熱のためにAl等の金属板が接合されて金属層とされ、この金属層を介してヒートシンクが接合されたものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−175065号公報
【特許文献2】特開2006−239724号公報
【特許文献3】特表2010−516478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきている。また、電子部品からの発熱量が大きくなる傾向にあり、前述のように、ヒートシンク上にパワーモジュール用基板を配設する必要がある。この場合、パワーモジュール用基板がヒートシンクによって拘束されるために、熱サイクル負荷時に、金属板とセラミックス基板との接合界面に大きなせん断力が作用することになり、従来にも増して、セラミックス基板と金属板との間の接合強度の向上および信頼性の向上が求められている。
【0006】
ここで、特許文献1,2に記載されているように、Al−Si系のろう材ペーストを用いてセラミックス基板と金属板とを接合した場合には、セラミックス基板と金属板との接合強度を十分に向上させることができないといった問題があった。接合強度を向上させるためには、Si量を増加させたり、ろう材量を多くしたり、ろう付け時間を長くしたりして、加熱時に発生する液相領域を増加させる必要がある。しかしながら、このように液相領域を増加させた場合には、余剰の液相が接合界面から滲み出して、いわゆる「ろうこぶ」が発生する。ろうこぶを有するパワーモジュール用基板に冷熱サイクルを負荷した場合には、ろうこぶを起点としてセラミックス基板に割れが発生するおそれがあった。
【0007】
また、特許文献3に記載されているように、液相拡散焼結する高温はんだペーストを用いてセラミックス基板と金属板とを接合した場合には、焼結されたはんだ層がセラミックス基板と金属板との界面に介在することになる。すると、セラミックス基板と金属板との界面に応力が作用した際に、はんだ層に亀裂が生じるおそれがある。
このように、従来の接合方法では、セラミックス基板と金属板との接合強度を十分に向上させることができなかった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を確実に接合することが可能な液相拡散接合用Agペースト、および、この液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の液相拡散接合用Agペーストは、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を液相拡散接合する際に使用される液相拡散接合用Agペーストであって、AgおよびCuを含む金属粉末成分と、樹脂と、溶剤と、を含み、前記金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内に設定されていることを特徴とする。
【0010】
この構成の液相拡散接合用Agペーストによれば、金属粉末成分としてAgおよびCuを含んでいることから、金属部材の接合界面にAgおよびCuとを介在させることが可能となる。ここで、AgおよびCuは、アルミニウムの融点を降下させる元素である。よって、金属部材の接合界面に介在されたAgおよびCuを金属部材内部へと拡散させることによって、金属部材の接合界面近傍の融点を低下させて液相を生成させ、さらに、この液相中のAgおよびCuをさらに金属部材内部へと拡散させることで融点を上昇させ、液相を凝固させて接合することが可能となる。すなわち、金属部材を液相拡散接合によって接合することができるのである。
【0011】
また、Cuは、金属部材の接合界面近傍に拡散して固溶することで金属部材を強化する作用を有しており、金属部材の接合強度を向上させることが可能となる。さらに、Cuは、ろうこぶの発生を抑える作用効果を有する。よって、ろうこぶを起因とした接合性の劣化を未然に防止することができる。
【0012】
液相拡散接合用Agペーストにおいて、金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが1/9より低くなると、Cu量が不足してしまい、接合強度を十分に向上できなくなるおそれがある。また、ろうこぶが発生しやすくなる。また、金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが4/6より高くなると、Cuの酸化物がペースト内に過剰に混入し、接合が阻害されるおそれがある。
そこで、本発明では、金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agを、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内に設定しているのである。
【0013】
なお、金属粉末成分としては、Ag粉とCu粉とを混合したものであってもよいし、Ag−Cu合金粉であってもよい。また、Ag粉をCuでコーティングしたもの、あるいは、Cu粉をAgでコーティングしたものであってもよい。さらに、これらの混合粉末としてもよい。
【0014】
ここで、Cuを還元する還元剤を含有することが好ましい。
この場合、ペースト中に混入したCuの酸化物を還元することができる。よって、Cuの酸化物による接合強度の劣化を抑制することができる。
【0015】
また、前記金属粉末成分の配合量が、40質量%以上90質量%以下とされていることが好ましい。
この場合、前記金属粉末成分の配合量が、40質量%以上とされているので、上述のように液相拡散接合を確実に行うことができる。また、前記金属粉末成分の配合量が、90質量%以下とされているので、ペースト自体の流動性が確保され、金属部材の接合界面にこのペーストを容易に塗布することができる。
【0016】
ここで、前記樹脂を、アクリル系樹脂としてもよい。
アクリル系樹脂は、真空雰囲気や不活性ガス雰囲気であっても、熱分解によって除去されるものである。よって、金属部材の接合界面に塗布した状態で、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気で加熱することで、樹脂を除去する工程と液相拡散接合を実施する工程とを一度に実施することが可能となる。
【0017】
あるいは、前記樹脂を、エチルセルロースとしてもよい。
エチルセルロースは、例えば300〜500℃といった比較的低い温度で燃焼して除去される。よって、大気雰囲気での焼成時にCuが酸化することを抑制することが可能となる。
【0018】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板の接合面および前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に、前述の液相拡散接合用Agペーストを塗布するペースト塗布工程と、前記セラミックス基板と前記金属板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、AgおよびCuを前記金属板に向けて拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、前記溶融金属領域を形成することを特徴としている。
【0019】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、前記セラミックス基板の接合面および前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に、前述の液相拡散接合用Agペーストを塗布するペースト塗布工程を備えているので、前記金属板と前記セラミックス基板の接合界面には、AgおよびCuが介在することになる。ここで、AgおよびCuは、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、比較的低温な条件においても、金属板とセラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成することができる。
よって、比較的低温、短時間の接合条件で接合しても、セラミックス基板と金属板とを強固に接合することが可能となる。
【0020】
また、Cuを有しているので、接合強度を確実に向上させることが可能となる。さらに、ろうこぶの発生を抑制することができる。よって、セラミックス基板と金属板との接合信頼性を大幅に向上させることができる。
さらに、AgおよびCuを用いた液相拡散接合によって、セラミックス基板と金属板とを接合しているので、セラミックス基板と金属板とが直接接合することになる。
【0021】
ここで、液相拡散接合用Agペーストを大気雰囲気で焼成する焼成工程を備えていてもよい。
この場合、液相拡散接合用Agペーストに含まれる樹脂等を大気雰囲気で燃焼させて除去することができ、セラミックス基板と金属板との界面に確実にAgおよびCuを介在させることができる。
【0022】
また、前記液相拡散接合用Agペーストは、樹脂としてアクリル系樹脂を用いた構成とされており、前記加熱工程において、液相拡散接合用Agペーストを焼成する構成としてもよい。
この場合、前記液相拡散接合用Agペーストは、樹脂としてアクリル系樹脂を用いた構成とされているので、樹脂を熱分解させることで除去することが可能となる。よって、大気雰囲気での液相拡散接合用Agペーストの焼成を省略することができ、簡単に、パワーモジュール用基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を確実に接合することが可能な液相拡散接合用Agペースト、および、この液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュール用基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第一の実施形態である液相拡散接合用Agペーストの製造方法を示すフロー図である。
【図2】本発明の第一の実施形態である液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図3】本発明の第一の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図4】本発明の第一の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図5】図4における金属板とセラミックス基板との接合界面近傍を示す説明図である。
【図6】本発明の第一の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図7】本発明の第二の実施形態である液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュールの概略説明図である。である。
【図8】本発明の第二の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図9】本発明の第二の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図10】塗布された液相拡散接合用Agペースト中のAg量およびCu量を膜厚換算する方法を示す説明図である。
【図11】ろうこぶ率を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態である液相拡散接合用Agペーストおよびこの液相拡散接合用Agペーストを用いたパワーモジュール用基板の製造方法について添付した図面を参照して説明する。
【0026】
まず、本実施形態である液相拡散接合用Agペーストについて説明する。なお、本実施形態では、液相拡散接合用Agペーストを「Agペースト」と称して説明する。
このAgペーストは、AgおよびCuを含む金属粉末成分と、樹脂と、溶剤と、分散剤と、可塑剤と、還元剤と、を含有するものであり、金属粉末成分の含有量が、Agペースト全体の40質量%以上90質量%以下とされている。
また、本実施形態では、Agペーストの粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0027】
AgおよびCuを含む金属粉末成分として、本実施形態では、銀粉末と銅粉末との混合粉末を用いている。
そして、銀粉末と銅粉末との混合粉末(金属粉末成分)におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内とされており、本実施形態では、Cu/Ag=3/7に設定されている。
【0028】
銀粉末は、その粒径が0.05μm以上2.0μm以下とされており、本実施形態では、平均粒径0.2μmのものを使用した。
銅粉末は、その粒径が0.05μm以上5.0μm以下とされており、本実施形態では、平均粒径1.0μmのものを使用した。
なお、銀粉末および銅粉末の平均粒径は、例えば、マイクロトラック法を用いることで測定することができる。本実施形態では、d50(メジアン径)を平均粒径とした。
【0029】
樹脂は、Agペーストの粘度を調整するものであり、例えば、アクリル樹脂、アルキッド樹脂等を適用することができる。なお、本実施形態では、エチルセルロースを用いている。
【0030】
溶剤は、例えば、タピネオール系、アセテート系、シトレート系等を用いることができる。より具体的には、α−テルピネオール、テキサノ−ル、トリエチルシトレート等を適用できる。なお、本実施形態では、α−テルピネオールを用いている。
【0031】
分散剤は、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等を適用することができる。なお、本実施形態では、アニオン性界面活性剤を用いている。
可塑剤は、例えば、フタル酸ジブチル、アジピン酸ジブチル等を適用することができる。なお、本実施形態では、フタル酸ブチルを用いている。
還元剤は、例えば、ロジン、アビエチン酸等を適用することができる。なお、本実施形態では、アビエチン酸を用いている。
なお、分散剤、可塑剤、還元剤は、必要に応じて添加すればよく、分散剤、可塑剤、還元剤を添加することなくAgペーストを構成してもよい。
【0032】
次に、本実施形態であるAgペーストの製造方法について、図1に示すフロー図を参照して説明する。
まず、前述した銀粉末と銅粉末とを混合して混合粉末を生成する(混合粉末形成工程S1)。また、溶剤と樹脂とを混合して有機混合物を生成する(有機物混合工程S2)。
そして、混合粉末形成工程S1で得られた混合粉末と、有機物混合工程S2で得られた有機混合物と、分散剤、可塑剤、還元剤等の副添加剤と、をミキサーによって予備混合する(予備混合工程S3)。
次いで、予備混合物を、複数のロールを有するロールミル機を用いて練り込みながら混合する(混錬工程S4)。
混錬工程S4によって得られた混錬物を、ペーストろ過機によってろ過する(ろ過工程S5)。
このようにして、本実施形態であるAgペーストが製出されることになる。
【0033】
次に、本実施形態であるAgペーストを用いて構成されたパワーモジュールについて、図2を用いて説明する。
図2に示すパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク40とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiめっき層(図示なし)が設けられている。
【0034】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図2において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図2において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0035】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に、金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、回路層12と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
そして、セラミックス基板11と回路層12との接合、および、セラミックス基板11と金属層13との接合に、本実施形態であるAgペーストが使用されている。
【0036】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものである。本実施形態におけるヒートシンク40は、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と、この天板部41に対向するように配置された底板部45と、天板部41と底板部45との間に介装されたコルゲートフィン46と、を備えており、天板部41と底板部45とコルゲートフィン46とによって、冷却媒体が流通する流路42が画成されている。
【0037】
ここで、このヒートシンク40は、天板部41とコルゲートフィン46、コルゲートフィン46と底板部45が、それぞれろう付けされることによって構成されている。本実施形態では、図6に示すように、天板部41および底板部45は、基材層41A、45Aと、基材層41A、45Aよりも融点の低い材料からなる接合層41B、45Bが積層された積層アルミ板で構成されており、接合層41B、45Bがコルゲートフィン46側を向くように、天板部41および底板部45が配設されている。なお、本実施形態では、基材層41A、45AがA3003合金で構成されており、接合層41B、45BがA4045合金で構成されている。
【0038】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板10の製造方法およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について、図3から図6を参照して説明する。
【0039】
(Agペースト塗布工程S11)
まず、図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面および他方の面に、スクリーン印刷によって、前述の本実施形態であるAgペーストを塗布し、Agペースト層24a、25aを形成する。なお、Agペースト層24a,25aの厚さは、乾燥後で約0.02〜200μmとされている。
このとき、塗布されたAgペースト中のAg量は、0.1〜10mg/cm2の範囲内とされ、Cu量は、0.01〜4mg/cm2の範囲内とされている。
【0040】
(Agペースト焼成工程S12)
次に、Agペースト層24a、25aを形成したセラミックス基板11を、大気雰囲気で加熱し、樹脂を燃焼させて除去することにより、Ag焼成層24,25を形成する。本実施形態では、樹脂としてエチルセルロースを用いているので、500℃以下の温度で焼成を実施することが可能となる。
なお、このAgペースト焼成工程S12においては、Ag焼成層24、25がセラミックス基板11上に固定されていればよく、セラミックス基板11とAg焼成層24、25とが強固に密着させる必要はない。
【0041】
(積層工程S13)
次に、金属板22をセラミックス基板11の一方の面側に積層し、かつ、金属板23をセラミックス基板11の他方の面側に積層する。
【0042】
(加熱工程S14)
次いで、金属板22、セラミックス基板11、金属板23を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱する。すると、図5に示すように、Ag焼成層24,25のAgおよびCuが金属板22、23に向けて拡散し、金属板22、23とセラミックス基板11との界面に、溶融金属領域27,28が形成される。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0043】
(凝固工程S15)
次に、溶融金属領域27,28が形成された状態で温度を一定に保持しておき、溶融金属領域27,28中のAgおよびCuを、さらに金属板22、23に向けて拡散させる。すると、溶融金属領域27,28であった部分のAg濃度およびCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、セラミックス基板11と金属板22、23とは、いわゆる拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このように凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。なお、凝固工程S15が終了した後では、Ag焼成層24,25のAgおよびCuが十分に拡散されており、セラミックス基板11と金属板22,23との接合界面にAg焼成層24,25が残存することはない。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製出される。
【0044】
(ヒートシンク積層工程S16)
次に、パワーモジュール用基板10の金属層13の他方の面側に、ヒートシンク40を構成する天板部41、コルゲートフィン46、底板部45を積層する。このとき、金属層13の他方の面に、前述のAgペーストを塗布して焼成し、Ag焼成層26を形成しておく。
また、天板部41の接合層41Bおよび底板部45の接合層45Bがコルゲートフィン46側を向くように、天板部41および底板部45を積層する。
【0045】
(ヒートシンク加熱工程S17)
次に、積層されたパワーモジュール用基板10、天板部41、コルゲートフィン46および底板部45を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で、雰囲気加熱炉内に装入して加熱し、Ag焼成層26のAgを金属板23および天板部41に向けて拡散させ、金属層13とヒートシンク40の天板部41との間に溶融金属領域を形成する。同時に、天板部41とコルゲートフィン46、底板部45とコルゲートフィン46との間にも、接合層41B、45Bを溶融させて溶融金属領域を形成する。
ここで、本実施形態では、雰囲気加熱炉内は、窒素ガス雰囲気とされており、加熱温度は550℃以上630℃以下の範囲内に設定している。
【0046】
(溶融金属凝固工程S18)
その後、冷却して金属層13とヒートシンク40の天板部41との間に形成された溶融金属領域を凝固させることによって、金属層13と天板部41とが接合される。また、天板部41とコルゲートフィン46、底板部45とコルゲートフィン46の間に形成された溶融金属領域を凝固させることによって、天板部41とコルゲートフィン46、底板部45とコルゲートフィン46とが接合される。
【0047】
このようにして、天板部41とコルゲートフィン46と底板部45とがろう付けされてヒートシンク40が形成されるとともに、このヒートシンク40とパワーモジュール用基板10とが接合されてヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0048】
このような構成とされた本実施形態であるAgペーストおよびこのAgペーストを用いたパワーモジュール用基板10の製造方法によれば、金属粉末成分であるAgおよびCuをセラミックス基板11と金属板22,23との界面に介在させることができ、これらAgおよびCuを金属板22,23側へと拡散させることで、溶融金属領域27,28を形成して凝固させることができる。すなわち、液相拡散接合により、セラミックス基板11と金属板22,23とを接合することが可能となる。このように、液相拡散接合を行うことにより、セラミックス基板11と回路層12,金属層13との接合界面には、Agペーストの焼成層が残存しないため、このパワーモジュール用基板10の接合信頼性を向上させることができる。
【0049】
また、金属粉末成分としてCuを含有しているので、このCuが回路層12,金属層13のセラミックス基板11との接合界面近傍に固溶し、強度が向上することになる。よって、冷熱サイクルが作用した場合であっても接合界面における回路層12、金属層13の亀裂の発生を防止することができる。
さらに、Cuは、ろうこぶの発生を抑制する効果を有することから、ろうこぶを起点としたセラミックス基板11の割れを未然に防止することができる。
【0050】
また、本実施形態のAgペーストでは、金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agを、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内とし、より具体的には、Cu/Ag=3/7に設定しているので、Cu量が十分に確保されて上述の作用効果を確実に奏功せしめることができるとともに、Agペースト内へのCu酸化物の混入が抑えられ、接合を良好に行うことができる。
さらに、本実施形態では、AgペーストにCuを還元する還元剤として、アビエチン酸が添加されていることから、ペースト中に混入したCuの酸化物を還元することができ、Cuの酸化物による接合強度の劣化を抑制することができる。
【0051】
また、銀粉末と銅粉末からなる金属粉末成分の配合量が、Agペースト全体の40質量%以上90質量%以下とされているので、液相拡散接合を確実に行うことができるとともに、Agペーストの流動性が確保され、セラミックス基板11にスクリーン印刷等で容易に塗布することができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、樹脂としてエチルセルロースを用いているので、大気雰囲気において300〜500℃といった比較的低い温度で燃焼して除去でき、Ag焼成層24、25を形成できる。よって、Agペースト焼成工程S12において、銅粉末が酸化することを抑制することができる。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
本実施形態であるAgペーストは、AgおよびCuを含む金属粉末成分と、樹脂と、溶剤と、分散剤と、可塑剤と、還元剤と、を含有するものであり、金属粉末成分の含有量が、Agペースト全体の40質量%以上90質量%以下とされている。
また、Agペーストの粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0054】
AgおよびCuを含む金属粉末成分として、本実施形態では、銀粉末に銅をコーティングした粉末を用いている。
そして、金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内とされており、本実施形態では、Cu/Ag=3/7に設定されている。
【0055】
そして、本実施形態では、樹脂として、アクリル樹脂を用いている。また、溶剤として、テキサノールを用いている。
なお、分散剤、可塑剤、還元剤は、第一の実施形態と同様のものを用いている。
【0056】
次に、本実施形態であるAgペーストを用いて構成されたパワーモジュールについて、図7を用いて説明する。
このパワーモジュール101は、回路層112が配設されたパワーモジュール用基板110と、回路層112の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク140とを備えている。
【0057】
パワーモジュール用基板110は、絶縁層を構成するセラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(図7において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(図7において下面)に配設された金属層113とを備えている。
セラミックス基板111は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いSi3N4(窒化珪素)で構成されている。また、セラミックス基板111の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0058】
回路層112は、セラミックス基板111の一方の面に、導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層112は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板111に接合されることにより形成されている。
金属層113は、セラミックス基板111の他方の面に、金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板111に接合されることで形成されている。
そして、セラミックス基板111と回路層112との接合、および、セラミックス基板111と金属層113との接合に、本実施形態であるAgペーストが使用されている。
【0059】
ヒートシンク140は、前述のパワーモジュール用基板110を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板110と接合される天板部141と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路142とを備えている。ヒートシンク140(天板部141)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0060】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板110の製造方法およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について、図8および図9を参照して説明する。
【0061】
(Ag層形成工程S121/Agペースト塗布工程S111)
まず、図9に示すように、セラミックス基板111の一方の面および他方の面に、スクリーン印刷によって、前述の本実施形態であるAgペーストを塗布し、Agペースト層124a、125aを形成する(Agペースト塗布工程S111)。
また、ヒートシンク140の天板部141の一方の面にも、本実施形態であるAgペーストを塗布し、Agペースト層126aを形成する。(Ag層形成工程S121)
なお、Agペースト層124a,125a、126aの厚さは、乾燥後で約0.02〜200μmとされている。
このとき、塗布されたAgペースト中のAg量は、0.1〜10mg/cm2の範囲内とされ、Cu量は、0.01〜4mg/cm2の範囲内とされている。
【0062】
(ヒートシンク積層工程S122/セラミックス基板積層工程S112)
次に、図9に示すように、第一の金属板122をセラミックス基板111の一方の面側に積層する。また、第二の金属板123をセラミックス基板111の他方の面側に積層する(セラミックス基板積層工程S112)。
さらに、第二の金属板123の他方の面側に、ヒートシンク140を積層する(ヒートシンク積層工程S122)。
【0063】
(ヒートシンク加熱工程S123/セラミックス基板加熱工程S113)
次に、第一の金属板122、セラミックス基板111、第二の金属板123、ヒートシンク140を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱する。本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
このとき、Agペースト層124a,125a、126aに含まれるアクリル樹脂が熱分解によって除去されることになり、Agペースト層124a,125a、126aが焼成されてAg焼成層124、125,126が形成される。
【0064】
そして、Ag焼成層124のAgおよびCuを第一の金属板122に向けて拡散させることにより、第一の金属板122とセラミックス基板111との界面に第一溶融金属領域を形成する。また、Ag焼成層125のAgおよびCuを第二の金属板123に向けて拡散させることにより、第二の金属板123とセラミックス基板111との界面に第二溶融金属領域を形成する(セラミックス基板加熱工程S113)。
さらに、Ag焼成層126のAgおよびCuを第二の金属板123およびヒートシンク140に向けて拡散させることにより、第二の金属板123とヒートシンク140との間に溶融金属領域を形成する。(ヒートシンク加熱工程S123)。
【0065】
(溶融金属凝固工程S124/第一溶融金属および第二溶融金属凝固工程S114)
次に、溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておく。
すると、第二の金属板123とヒートシンク140との界面に形成された溶融金属領域中のAgおよびCuが、さらに第二の金属板123およびヒートシンク140に向けて拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域であった部分のAg濃度およびCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる(溶融金属凝固工程S124)。
【0066】
同様に、第一溶融金属領域中のAgおよびCuが、さらに第一の金属板122に向かって拡散していく。また、第二溶融金属領域中のAgおよびCuが、さらに第二の金属板123に向かって拡散していく。すると、第一溶融金属領域、第二溶融金属領域であった部分のAg濃度およびCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる(第一溶融金属および第二溶融金属凝固工程S114)。
このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0067】
以上のようにして、回路層112となる第一の金属板122とセラミックス基板111とが接合され、金属層113となる第二の金属板123とセラミックス基板111とが接合されて本実施形態であるパワーモジュール用基板110が製造されるとともに、第二の金属板123とヒートシンク140とが接合され、ヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0068】
このような構成とされた本実施形態であるAgペーストおよびこのAgペーストを用いたパワーモジュール用基板110の製造方法によれば、第一の実施形態と同様に、金属粉末成分としてAgおよびCuを含有しているので、セラミックス基板111と回路層112、金属層113とを強固に接合することができ、接合信頼性に優れたパワーモジュール用基板110を製造することができる。
【0069】
そして、本実施形態では、Agペーストの樹脂としてアクリル樹脂を用いているので、真空雰囲気であってもアクリル樹脂を熱分解によって除去することが可能となる。よって、真空雰囲気でのセラミックス基板加熱工程S113において、Agペーストの焼成を実施することができ、大気雰囲気での加熱による焼成工程を省略することができる。
【0070】
また、本実施形態では、セラミックス基板111と第一の金属板122および第二の金属板123との接合と、第二の金属板123とヒートシンク140との接合とを、同時に行う構成としているので、これらの接合に掛かるコストを大幅に削減することができる。また、セラミックス基板111に対して繰り返し加熱、冷却を行わずに済むので、このヒートシンク付パワーモジュール用基板の反りの低減を図ることができ、高品質なヒートシンク付パワーモジュール用基板を製出することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、セラミックス基板とアルミニウムからなる金属板とを接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を接合する際に、本発明の液相拡散接合用Agペーストを用いてもよい。
【0072】
金属粉末成分として、銀粉末と銅粉末の混合粉末、銀粉末に銅をコーティングした粉末を例にあげて説明したが、これに限定されることはなく、Ag−Cu合金粉末等を用いてもよい。
樹脂として、エチルセルロール、アクリル樹脂を例にあげて説明したが、これに限定されることはなく、他の樹脂を用いてもよい。
溶剤として、テキサノール、α―テルピネオールを例にあげて説明したが、これに限定されることはなく、他の溶剤を用いてもよい。
また、分散剤、可塑剤、還元剤についても、本実施形態に例示された以外のものを適用してもよい。
【0073】
さらに、回路層および金属層を構成する金属板を純度99.99%の純アルミニウムの圧延板としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、純度99%のアルミニウム(2Nアルミニウム)であってもよく、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されていればよい。
また、パワーモジュールおよびパワーモジュール用基板の構成は、本実施形態に限定されるものではなく、他の構造のものであってもよい。
【0074】
さらに、本実施形態では、ヒートシンクとパワーモジュール用基板との接合にも、Agペーストを使用するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Al−Si系のろう材を使用してヒートシンクとパワーモジュール用基板とを接合してもよい。
【実施例】
【0075】
本発明の有効性を確認するために行った比較実験について説明する。
表1に示す条件で、液相拡散接合用Agペーストを作成した。なお、金属粉末成分として、銀粉末および銅粉末を用いた。ここで、銀粉末は、三井金属鉱業株式会社及び田中貴金属工業株式会社製を使用した。また、銅粉末は、三井金属鉱業株式会社及び株式会社高純度化学研究所 を使用した。
【0076】
また、分散剤としてアニオン性界面活性剤を、可塑剤としてアジピン酸ジブチルを、還元剤としてアビエチン酸を用いた。
金属粉末成分以外の樹脂、溶剤、分散剤、可塑剤、還元剤の混合比率は、質量比で、樹脂:溶剤:分散剤:可塑剤:還元剤=7:70:3:5:15とした。
【0077】
【表1】
【0078】
この表1に示す液相拡散接合用Agペーストを用いて、セラミックス基板とアルミニウム板とを接合して、パワーモジュール用基板を製作した。なお、アルミニウム板として純度99.99%以上の4Nアルミの圧延板を使用した。
また、ヒートシンクとしてA6063からなるアルミニウム板を、パワーモジュール用基板の金属層側に接合した。
表2に、セラミックス基板、回路層、金属層、ヒートシンクのサイズ、セラミックス基板の材質を示す。
【0079】
【表2】
【0080】
セラミックス基板とアルミニウム板との界面、および、アルミニウム板とヒートシンクとの界面に、表1に示す液相拡散接合用Agペーストを塗布し、焼成した。塗布された液相拡散接合用AgペーストにおけるAgおよびCuの固着量と膜厚換算量、焼成条件を表3に示す。
膜厚換算は、蛍光X線膜厚計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製STF9400)を用いて、塗布した液相拡散接合用Agペーストに対し、図10に示す箇所(9点)を各3回測定した平均値とした。なお、予め膜厚が既知のサンプルを測定して蛍光X線強度と濃度の関係を求めておき、その結果を基準として、各試料において測定された蛍光X線強度から膜厚を決定した。
【0081】
【表3】
【0082】
そして、表4に示す条件でセラミックス基板とアルミニウム板とを接合し、パワーモジュール用基板およびヒートシンク付パワーモジュール用基板を作成した。
なお、接合回数が「1回」のものは、セラミックス基板、アルミニウム板、ヒートシンクを同時に接合したものである。また、接合回数が「2回」のものは、セラミックス基板とアルミニウム板とを接合してパワーモジュール用基板を製作した後にヒートシンクを接合したものである。
ここで、接合は、真空加熱炉を用いて行い、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に設定した。
【0083】
上述のようにして得られたパワーモジュール用基板について、初期ボイド率、ろうこぶ率、冷熱サイクル負荷後の接合率、を評価した。評価結果を表4に示す。
初期ボイド率は、接合直後のパワーモジュール用基板を用いて、以下の式で算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積のこととした。
初期ボイド率 = 初期ボイド面積/初期接合面積
【0084】
ろうこぶ率は、接合直後のパワーモジュール用基板を用いて、以下の式で算出した。なお、図11に示すように、変質部Z1とは、接合面内において変質が確認された部分である。また、ろうこぶZ2は、接合面からはみ出したものである。
ろうこぶ率 = (ろうこぶの面積+変質部の面積)/セラミックス基板の面積
【0085】
冷熱サイクル負荷後の接合率は、冷熱サイクル(−45℃−125℃)を2000回繰り返した後のパワーモジュール用基板を用いて、以下の式で算出した。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0086】
【表4】
【0087】
金属粉末成分としてCuを含有しておらず、かつ、金属粉末成分が80質量%とされた比較例1においては、ろうこぶの発生が顕著であった。また、冷熱サイクル後には、このろうこぶを起点としてセラミックス割れが認められた。
金属粉末成分としてCuを含有しておらず、かつ、金属粉末成分が40質量%とされた比較例2においては、ろうこぶの発生は抑えられているものの、冷熱サイクル後の接合率が65%以下と低くなっている。
【0088】
金属粉末成分におけるCuとAgの質量比Cu/Agが50/50とされた比較例3および質量比Cu/Agが80/20とされた比較例4においては、初期ボイド率が高く、接合の初期段階で十分に接合していないことが確認された。これは、銅の酸化物に起因するものであると推測される
【0089】
これに対して、本発明例1−20においては、初期ボイド率、ろうこぶ率、冷熱サイクル負荷後の接合率のいずれも良好な値を示していることが確認される。
また、樹脂としてアクリル樹脂を用いた本発明例1〜8、13〜16においては、大気雰囲気での焼成を行うことなく、窒素ガス雰囲気でも焼成が行われており、良好に接合することができた。
【符号の説明】
【0090】
1、101 パワーモジュール
2 はんだ層
3 半導体チップ(半導体素子)
10、110 パワーモジュール用基板
12、112 回路層
13、113 金属層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を液相拡散接合する際に使用される液相拡散接合用Agペーストであって、
AgおよびCuを含む金属粉末成分と、樹脂と、溶剤と、を含み、
前記金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内に設定されていることを特徴とする液相拡散接合用Agペースト。
【請求項2】
Cuを還元する還元剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の液相拡散接合用Agペースト。
【請求項3】
前記金属粉末成分の配合量が、40質量%以上90質量%以下とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液相拡散接合用Agペースト。
【請求項4】
前記樹脂が、アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液相拡散接合用Agペースト。
【請求項5】
前記樹脂が、エチルセルロースであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液相拡散接合用Agペースト。
【請求項6】
セラミックス基板の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面および前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の液相拡散接合用Agペーストを塗布するペースト塗布工程と、
前記セラミックス基板と前記金属板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、AgおよびCuを前記金属板に向けて拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、前記溶融金属領域を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
液相拡散接合用Agペーストを大気雰囲気で焼成する焼成工程を備えていることを特徴とする請求項6に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程において、液相拡散接合用Agペーストを焼成することを特徴とする請求項6に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材を液相拡散接合する際に使用される液相拡散接合用Agペーストであって、
AgおよびCuを含む金属粉末成分と、樹脂と、溶剤と、を含み、
前記金属粉末成分におけるAgおよびCuの質量比Cu/Agが、1/9≦Cu/Ag≦4/6の範囲内に設定されていることを特徴とする液相拡散接合用Agペースト。
【請求項2】
Cuを還元する還元剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の液相拡散接合用Agペースト。
【請求項3】
前記金属粉末成分の配合量が、40質量%以上90質量%以下とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液相拡散接合用Agペースト。
【請求項4】
前記樹脂が、アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液相拡散接合用Agペースト。
【請求項5】
前記樹脂が、エチルセルロースであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液相拡散接合用Agペースト。
【請求項6】
セラミックス基板の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面および前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の液相拡散接合用Agペーストを塗布するペースト塗布工程と、
前記セラミックス基板と前記金属板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、AgおよびCuを前記金属板に向けて拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、前記溶融金属領域を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
液相拡散接合用Agペーストを大気雰囲気で焼成する焼成工程を備えていることを特徴とする請求項6に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程において、液相拡散接合用Agペーストを焼成することを特徴とする請求項6に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−161818(P2012−161818A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24823(P2011−24823)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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